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平成18年11月29日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成18年(行ウ)第17号砂防指定地内行為許可取消請求事件
口頭弁論終結日平成18年10月18日
主文
1本件訴えを却下する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告が,有限会社Aに対し,平成18年3月27日付けで行った砂防指定地
内行為の許可処分を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告(選定当事者)及び選定者らが,被告が,砂防法等に基づいて
行った砂防指定地内行為の許可処分が違法であると主張して,その取消しを求
めた事案である。
1前提となる事実(争いがないか弁論の全趣旨により容易に認められる)
(1)原告及び選定者ら(以下「原告等」という)は,いずれも各肩書住所地に
居住する中津川市民である。
(2)本件許可処分
有限会社A(以下「訴外会社」という)は,被告に対し,平成18年1月
16日,砂防法4条1項,砂防法施行規程3条,岐阜県砂防指定地の管理及
び砂防設備占用料等の徴収に関する条例3条1項に基づいて,砂防指定地内
行為の許可申請(以下「本件申請」という)を行ったのに対し,岐阜県恵那
建設事務所長は,同年3月27日,次のような内容の許可処分(以下「本件
許可処分」という)を行った(なお,岐阜県恵那建設事務所長は,平成18
年4月1日以降組織再編により岐阜県恵那土木事務所長となった)。
ア行為を行う河川渓流名中津川(明治43年4月7日内告第61号)
イ行為を行う場所及びその面積(以下「本件許可区域」という)
岐阜県中津川市中津川字恵下2564番地の486他70筆
7万4356平方メートル
ウ行為の目的山成畑工,農地造成工事
エ行為の期間平成18年3月27日から同年5月31日
オ行為の内容及び施行方法調整池工事,山成畑工による農地造成工事
(3)本件許可処分に関連する砂防法その他の法令の規定は,次のとおりである。
ア砂防法
(ア)2条
砂防設備ヲ要スル土地又ハ此ノ法律ニ依リ治水上砂防ノ為一定ノ行為
ヲ禁止若ハ制限スヘキ土地ハ国土交通大臣之ヲ指定ス
(イ)4条1項
第2条ニ依リ国土交通大臣ノ指定シタル土地ニ於テハ都道府県知事ハ
治水上砂防ノ為一定ノ行為ヲ禁止若ハ制限スルコトヲ得
イ砂防法施行規程3条
砂防法第4条ニ依リ禁止若ハ制限スヘキ行為ハ同条第一項ノ場合ニ於テ
ハ都道府県ノ条例ヲ以テ(中略)之ヲ定ム
ウ岐阜県砂防指定地の管理及び砂防設備占用料等の徴収に関する条例3条
1項
砂防指定地内において次に掲げる行為をしようとする者は,知事の許可
を受けなければならない。ただし,耕うん及び知事が砂防上影響が少ない
と認めて指定した行為については,この限りでない。
一砂防設備を使用すること。
二工作物を新築し,改築し,又は除却すること。
三竹木を伐採(中略)し,又は滑下若しくは地引きにより運搬すること。
四土石,砂れき,竹木,じんあいその他の物件をたい積し,又は投棄す
ること(以下略)。
五土地の掘さく,盛土,開墾その他土地の形状を変更すること。
六土石若しくは砂れきを採取(中略)し,又は鉱物を採掘すること。
2争点
(1)本案前の争点
ア原告適格の有無
イ訴えの利益の有無
(2)本案の争点
本件許可処分の違法性
3争点に対する当事者の主張
(1)争点(1)ア(原告適格の有無)について
ア原告の主張
本件許可区域を発生原因地とする自然災害によって中津川市が被災すれ
ば,復旧工事が必要となり,国の補助金と合わせて中津川市の財政は多大
な支出を余儀なくされ,ひいては原告等を含む住民の福祉のレベルが低下
してしまうおそれがある。また,当該自然災害が原告等に及ぶことも,十
分に予想されるところである。
したがって,原告等には本件取消訴訟の原告適格がある。
イ被告の主張
砂防法は,河川の上流水源地の荒廃を防止し,土砂の流出による河床の
上昇を防ぎ,洪水の原因を除去するという治水面の観点から行われる砂防
を目的としており,公益保護を目的としているものである。そして,砂防
指定地内行為の許可処分について,第三者の保護に関係する手続規定も,
周辺土地との関係で水害防止等の具体的な技術的細目を定めた規定もない。
よって,砂防法が,上記公益目的のみならず,さらにその公益に吸収され
ないものとして,不特定多数の者の具体的利益までもそれが帰属する個々
人の個別的利益としても保護しようとしていると解することはできない。
仮に,砂防法が個々人の個別的利益をも保護する趣旨を含むと解される
としても,①原告等の居住地は,いずれも本件許可処分の対象地から約2
キロメートル以上離れており,本件許可区域を含む砂防指定地のうち原告
等の居住地に最も近い箇所からも約1キロメートル離れており,②過去本
件許可区域及びその近隣で土砂災害が生じ,土石流が発生した史実は確認
できておらず,昭和7年に土石流発生の史実がある川は本件許可区域のあ
る尾根の東側の川であり本件許可区域の流域となる川ではなく,③本件許
可処分に係る砂防指定地内行為は,大規模な形質変更行為ではないから,
土砂災害,水害が生じる危険は具体的に予見されず,仮にこれらが生じた
場合であっても,原告等の生命,身体,財産に直接的かつ重大な被害を与
える危険が距離的に判断して具体的に予想されるものではない。
したがって,原告等には本件取消訴訟の原告適格はない。
(2)争点(1)イ(訴えの利益の有無)について
ア原告の主張
本件許可処分が取り消されれば,本件許可区域において既になされた行
為は許可のない行為となり,訴外会社は,許可前の状態に戻さなければな
らなくなるか,又は本件許可処分の上に立つ事業を続行することはできな
くなる。被告は,砂防指定地の管理義務を負う者として,本件許可処分が
取り消されたことを前提に処分をなすことになる。
したがって,本件許可処分に係る訴外会社の制限行為が完了した後も,
なお訴えの利益はある。
イ被告の主張
訴外会社は,平成18年8月29日,本件許可処分に係る砂防指定地内
の制限行為の施工を完了した。
したがって,本件許可処分の取消しを求める訴えの利益は消滅した。
(3)争点(2)(本件許可処分の違法性)について
ア原告の主張
本件許可区域は,中津川市の中心市街地を眼下に見下ろす丘陵台地で,
市中心街に位置するJR中津川駅から約4キロメートルの至近距離にある
こと,本件許可区域の地質はおおむね恵那山の古花崗岩が風化し,崩れ落
ち堆積したもので,軟弱であり,地滑り,土石流等を引き起こしやすい状
況にあることから,大豪雨があると,地下浸透水から地滑り,周囲急傾斜
池の崩壊などの災害が発生し,地表に発生する大規模な土石流は,川を氾
濫させて流下し,中津川市中心市街地に甚大な災害が発生することが想定
できる。被告は,本件砂防指定地内行為による自然災害惹起を想定し,過
去何十年間かの気象条件統計に基づき,排水路の設置,土石流出防護柵設
置,相当する規模の調整池の設置などを条件としているが,近年の異常気
象状況の下では,従来の統計に立って考慮することはできなくなっている。
また,休耕田の年々の拡大など農地余りのこの時代に,重要な砂防指定
地の自然隣地を開墾して新たな農地造成工事を行うことは許可されるべき
ではない。
よって,本件許可処分は違法である。
イ被告の主張
地滑りや土石流の発生は,地形,地質,植生など,その土地が持つ要因
によるほか,降雨や,地下水,地震等,その土地に作用する誘因が相互に
関連して決まるものであるところ,本件許可区域の地質は,表層3メート
ルまで粘土を含んだ砂質土,その下は礫混じり砂,転石混じり砂で,硬い
層となっており,また地形勾配はおおむね7度程度と緩く,土石流発生危
険区域の基準である15度以下であり,土石流発生の原因をもたらす地形
ではなく,本件許可区域における地下水はほとんど認められないとされて
いるのであるから,浸透水による地下水の上昇によって地滑りを発生させ
る可能性は低い。さらに,本件で許可された砂防指定地内行為自体は山成
畑工であり,工事は現場の不陸整正を行う程度で,大規模な形質の変更を
行わないものである。これらの事情からすると,本件砂防指定地内行為に
よって,地表に大規模な土石流が発生する根拠もないことから,中津川市
中心街に甚大な被害を与えると想定することはできない。
砂防指定地における一定の行為の禁止又は制限は,私人の土地所有権等
の財産権について,その自由な使用,収益を制限するものであるから,禁
止又は制限の範囲は,治水上砂防のためという公益上必要な限度にとどめ,
禁止制限の必要のないときは当然許可すべきであり,治水上砂防以外の他
の理由によって拒否することはできないとされているのであるから,処分
庁としては,本件許可処分によって,傾斜地の大規模な地滑り,崩落,又
は土石流が発生する具体的危険性を指摘しもってその土砂災害発生により
不特定多数者の生命,身体,財産が直接的かつ重大な被害を受ける結果ま
での相当因果関係を想定し証明できなければ,許可すべきこととなる。そ
して,原告らが主張している将来の抽象的な土砂災害発生の危惧程度では,
不許可処分とすることは許されないし,また,農地余りといった農地の必
要性から不許可処分とすることは許されないのである。
よって,本件許可処分は適法である。
第3当裁判所の判断
1争点(1)イ(訴えの利益の有無)について
(1)証拠(乙3の1,3の2,4)によれば,訴外会社は,平成18年8月2
9日,本件許可処分に係る砂防指定地内の制限行為の施工を完了したことが
認められる。
(2)そこで,上記事実を前提に,本件取消訴訟の訴えの利益がなお存するか否
かについて検討する。
ア砂防法4条1項の規定によれば,本件許可処分は,同法2条により砂防
指定地内において一般的に禁止又は制限されている行為につき,特定の場
合に禁止・制限を解除し,当該行為をなすことを許容する処分であると解
されるから,許可された行為が完了した場合には,本件許可処分の有する
法的効果は,消滅するものというべきである。
イそこで,このような場合,なお,処分の取消しによって回復すべき法律
上の利益(行政事件訴訟法9条1項)があるかについて検討するに,取消
訴訟(同法3条2項)は,違法な行政処分がなされ,そのために個人の権
利・利益が侵害されている場合に,処分の取消しによってその侵害状態を
解消し,個人の権利・利益を回復しようとするものであるから,処分の法
的効果が消滅した場合であっても,当該処分から生ずる個人の権利・利益
の侵害状態がなお存続し,その違法状態を解消するために必要がある場合
に限り,処分の取消しを求める法律上の利益があるものと解される。
ウところが,本件許可処分は,上記のとおり,禁止又は制限されている行
為をなすことを許容するものにすぎず,その処分を前提として,その後の
手続ないし処分等が積み重ねられていくという性質のものとはいえないか
ら,本件許可処分が取り消されることにより,他の手続や処分等の法的効
果が影響を受けるという関係にはない。
また,砂防法29条は,知事等において必要と認めた場合には,許可の
取消・効力停止,条件の変更,設備の変更,原状の回復,予防設備の設置
等を命じることができる旨規定しているが,許可の取消・効力停止や条件
の変更は工事完了前になされるものと考えられ,それ以外の原状回復等の
命令の発令に当たっては,既になされた許可の取消しは要件となっていな
いから,許可を取り消さないまま原状回復等の命令を発令することは可能
であると解されるし,同法は,許可が取り消された場合に原状回復等の義
務が生じる旨を規定していないから,許可が取り消されたからといって,
当然に原状回復等の命令の発令が義務づけられるものとは解されない。
エしたがって,許可された行為が完了し,本件許可処分の法的効果が消滅
した後においては,原告等には,同処分から生ずる権利・利益の侵害状態
がなお存続しているものとはいえないから,本件許可処分の取消しによっ
て回復すべき法律上の利益があるとは認められない。
2よって,本件訴えは,その余の点について判断するまでもなく,訴えの利益
を欠き不適法であるから,これを却下することとして,主文のとおり判決する。
岐阜地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官西尾進
裁判官日比野幹
裁判官田中一美

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