弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人千葉憲雄,同安藤武久,同森田憲右の上告受理申立て理由第4につい

1本件は,中小企業を対象とした災害補償共済事業等を行う上告人の会員であ
る被上告人が,上告人に対し,上告人の災害補償に関する規約に基づき,被共済者
がもちをのどに詰まらせて窒息し,低酸素脳症による後遺障害が残ったことについ
て,補償費の支払を請求する事案である。
2原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1)上告人は,中小企業を対象とした災害補償共済事業等を行う財団法人であ
る。
被上告人は,平成10年6月2日,被共済者を被上告人代表者Cの夫であるA
(大正11年生まれ。以下「A」という。)と定めて,上告人(当時の名称はB)
の会員となった。
(2)上告人のY規約(以下「本件規約」という。)には,災害補償について,
次のような定めがあった。
ア(共済金受取人)
上告人は,会員の定めた被共済者に災害が発生したときは,本件規約に基づき,
会員に補償費を支払う。
イ(災害の定義)
本件規約の災害とは,急激かつ偶然の外来の事故で身体に傷害を受けたものをい
う。
ウ(補償の免責)
上告人は,被共済者の疾病,脳疾患,心神喪失,泥酔,犯罪行為,闘争行為,自
殺行為又は重大な過失によって生じた傷害については,補償費を支払わない。
(3)Aは,平成15年8月,医師からパーキンソン病と診断された。パーキン
ソン病の患者にはえん下機能障害の症状が出ることがあるが,Aについては飲食に
支障はなく,医師から食事に関する指導等はされていなかった。
(4)Aは,平成17年2月3日,昼食のもちをのどに詰まらせて窒息し(以下
「本件事故」という。),直ちに病院でそ生処置を受けたが,低酸素脳症による意
識障害が残り,常に介護を要する状態になった。
3上告人は,本件事故はAの疾病を原因として生じたものであるから,Aは外
来の事故で傷害を受けたものであるとはいえないなどと主張している。
4原審は,次のとおり判断して,被上告人の請求を認容すべきものとした。
(1)本件規約に基づき補償費を請求する者(以下「請求者」という。)は,被
共済者が外来の事故で身体に傷害を受けたことを主張,立証すべき責任を負うが,
疾病など内部的な原因がなかったことまで主張,立証しなければならないものでは
ない。
(2)本件事故は,Aがその身体の外にあったもちをのどに詰まらせて窒息した
というものであるから,Aは急激かつ偶然の外来の事故に該当する本件事故により
傷害を受けたと認められる。そして,本件事故がAの疾病によって生じたことを認
めるに足りる証拠はない。
5前記事実関係等によれば,本件規約は,補償費の支払事由を被共済者が急激
かつ偶然の外来の事故で身体に傷害を受けたことと定めているが,ここにいう外来
の事故とは,その文言上,被共済者の身体の外部からの作用(以下,単に「外部か
らの作用」という。)による事故をいうものであると解される。そして,本件規約
は,この規定とは別に,補償の免責規定として,被共済者の疾病によって生じた傷
害については補償費を支払わない旨の規定を置いている。
このような本件規約の文言や構造に照らせば,請求者は,外部からの作用による
事故と被共済者の傷害との間に相当因果関係があることを主張,立証すれば足り,
被共済者の傷害が被共済者の疾病を原因として生じたものではないことまで主張,
立証すべき責任を負うものではないというべきである。
これを本件についてみるに,前記事実関係によれば,本件事故がAの身体の外部
からの作用による事故に当たること及び本件事故と傷害との間に相当因果関係があ
ることは明らかであるから,Aは外来の事故により傷害を受けたというべきであ
る。
6以上によれば,これと同旨の見解に立ち本件事故が急激かつ偶然の外来の事
故に該当するとした原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用
することができない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官古田佑紀裁判官津野修裁判官今井功裁判官
中川了滋)

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