弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人松田道夫、同松田節子の上告理由第一点について。
 不法行為による損害賠償についても、民法四一六条が類推適用され、特別の事情
によつて生じた損害については、加害者において、右事情を予見しまたは予見する
ことを得べかりしときにかぎり、これを賠償する責を負うものと解すべきであるこ
とは、判例の趣旨とするところであり(大審院大正一二年(オ)第三九八号・第五
二一号同一五年五月二二日判決・民集五巻三八六頁、最高裁昭和二八年(オ)第八
四九号同三二年一月三一日第一小法廷判決・民集一一巻一号一七〇頁、同昭和三七
年(オ)第四四四号同三九年六月二三日第三小法廷判決・民集一八巻五号八四二頁
参照)、いまただちにこれを変更する要をみない。本件において、上告人の主張す
る財産上および精神上の損害は、すべて、被上告人の本件仮処分の執行によつて通
常生ずべき損害にあたらず、特別の事情によつて生じたものと解すべきであり、そ
して、被上告人において、本件仮処分の申請およびその執行の当時、右事情の存在
を予見しまたは予見することを得べかりし状況にあつたものとは認められないとし
た原審の認定判断は、原判決(その引用する第一審判決を含む。)挙示の証拠関係
に照らして、正当として肯認することができる。したがつて、原審の認定判断に所
論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 同第二点について。
 本件仮処分の被保全権利の不存在が、本案訴訟において確定されていないとして
も、原審における上告人主張のように、被上告人が起訴命令を受けながら本案訴訟
を提起せず、かえつてみずから仮処分の執行取消申請をしたという事実があるとす
れば、本件仮処分は被保全権利を欠く違法なものであつたと推認するのが相当であ
る。しかし、上告人主張の損害が被上告人において予見せずかつ予見することので
きない特別の事情によつて生じたものであつて、被上告人がその賠償の責に任じな
いものであるとした原審の判断を是認することができることは、前述のとおりであ
るから、被保全権利の存否に関する原審の認定判断の当否は、上告人の請求を棄却
すべきものとした結論に影響を及ぼすものではない。したがつて、論旨は採用する
ことができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官大隅健一郎の反対意見
があるほか裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 裁判官大隅健一郎の反対意見は、次のとおりである。
 (一) 多数意見は、不法行為による損害賠償についても民法四一六条が類推適用
され、特別の事情によつて生じた損害については、加害者において、右事情を予見
しまたは予見することをうべかりしときにかぎり、これを賠償すべき責を負うべき
ものと解し、かような立場から、本件において上告人の主張する財産上および精神
上の損害は、すべて、被上告人の本件仮処分の執行によつて通常生ずべき損害にあ
たらず、特別の事情によつて生じたものと解すべきであり、かつ、被上告人におい
て右事情の存在を予見しまたは予見しうべかりし状況にあつたものとは認められな
い、として上告人の請求を排斥した原判決を是認しているが、私は、不法行為によ
る損害賠償につき民法四一六条が類推適用されるとする見解そのものに賛成するこ
とができなく、したがつて、かかる見解に立つて原判決を支持する多数意見には同
調することができないのである。
 (二) わが民法は、債務不履行による損害賠償の範囲については同法四一六条の
規定を設けているが、不法行為による損害賠償の範囲についてはなんらの規定もお
いていない。そこで、右の四一六条の規定を不法行為の場合にも類推適用すべきも
のと解するのが、従来の判例および学説における通説であり、本判決における多数
意見もこれに従うものにほかならない。
  民法四一六条によると、債務者がその債務の本旨に従つた履行をしない場合に
おいて債権者が請求することをうべき損害賠償の範囲は、原則としてその債務不履
行によつて通常生ずべき損害に限られるが、特別の事情により生じた損害であつて
も、当事者がその事情を予見しまたは予見することをうべかりしときは、これにも
及ぶものとされている。そして、従来の多数の見解は、債務不履行による損害賠償
の範囲はいわゆる相当因果関係によつて定められるべきであり、右の民法四一六条
の規定はあたかもその相当因果関係の内容を定めたものであるとするのである。し
かし、この規定がある以上、解釈上は、債務不履行による損害賠償の範囲はもつぱ
ら同条によつて定まるのであるから、この場合、同条のほかに相当因果関係の概念
をもち込むことは、右の規定の合理性を説明する手段としてならばとにかく、解釈
上は必要のないことといわなければならない。
 (三) 債務不履行に関する右の民法四一六条の規定を不法行為による損害賠償に
つき類推適用すべきものとする見解には、種々の点で疑問があるのを免れない。
  債務不履行の場合には、当事者は合理的な計算に基づいて締結された契約によ
りはじめから債権債務の関係において結合されているのであるから、債務者がその
債務の履行を怠つた場合に債権者に生ずる損害について予見可能性を問題とするこ
とには、それなりに意味があるのみならず、もし債権者が債務不履行の場合に通常
生ずべき損害の賠償を受けるだけでは満足できないならば、特別の事情を予見する
債権者は、債務不履行の発生に先立つてあらかじめこれを債務者に通知して、将来
にそなえる途もあるわけである。これに反して、多くの場合全く無関係な者の間で
突発する不法行為にあつては、故意による場合はとにかく、過失による場合には、
予見可能性ということはほとんど問題となりえない。たとえば、自動車の運転者が
運転を誤つて人をひき倒した場合に、被害者の収入や家庭の状況などを予見しまた
は予見しうべきであつたというがごときことは、実際上ありうるはずがないのであ
る。その結果、民法四一六条を不法行為による損害賠償の場合に類推適用するとき
は、立証上の困難のため、被害者が特別の事情によつて生じた損害の賠償を求める
ことは至難とならざるをえない。そこで、この不都合を回避しようとすれば、公平
の見地からみて加害者において賠償するのが相当と認められる損害については、特
別の事情によつて生じた損害を通常生ずべき損害と擬制し、あるいは予見しまたは
予見しうべきでなかつたものを予見可能であつたと擬制することとならざるをえな
いのである。そうであるとするならば、むしろ、不法行為の場合においては、各場
合の具体的事情に応じて実損害を探求し、損害賠償制度の基本理念である公平の観
念に照らして加害者に賠償させるのが相当と認められる損害については、通常生ず
べきものであると特別の事情によつて生じたものであると、また予見可能なもので
あると否とを問わず、すべて賠償責任を認めるのが妥当であるといわなければなら
ない。不法行為の場合には、無関係な者に損害が加えられるものであることからい
つて、債務不履行の場合よりも広く被害者に損害の回復を認める理由があるともい
えるのである。このように考えると、民法が債務不履行について四一六条の規定を
設けながら、これを不法行為の場合に準用していないのは、それだけの理由があつ
てのことといわざるをえないのであつて、この規定を不法行為について類推適用す
ることもまた否定されなければならないのである。
 (四)上のように、不法行為による損害賠償については、民法四一六条は類推適用
されないものと考える。ところで、不法行為による損害賠償責任が認められるため
には、行為と損害との間に、その行為がなかつたならば当該損害は生じなかつたで
あろうという関係が存しなければならないが、かような事実的な因果の連鎖は際限
のないものであるから、法律上の問題としては、右のような事実的因果関係の存在
を前提としながら、そのうちどの範囲の損害を行為者に賠償させるのが妥当かとい
う考慮が必要とされる。これがいわゆる法律上の因果関係の問題であるが、従来法
律上の因果関係の問題として論じられていたものの中には、過失の問題、賠償額の
算定(いかなる価格によるべきか、その価格の算定は何時を基準とすべきか)の問
題など、本来因果関係の範疇の外にある問題が混入していることを注意しなければ
ならない。また、行為との間に事実的因果関係のある損害につきどこまで行為者に
賠償させるのが妥当かということは、いうまでもなく価値判断の問題であつて、事
実として確定されるものではない。それは、各個の事件ごとに、その事実関係の中
から、不法行為制度の基本理念である公平の観念に照らして導かれるべきものであ
つて、不法行為における損害賠償責任の正しい限界づけは、個々の判例の中から類
型的に帰納されえても、一般的な公式によつて定められるべきものではないのであ
る。
 右のような見解に対しては、当然、不法行為による損害賠償の範囲の認定につき
裁判官の恣意が入り込むのを許すことになり、法的安定を害するとの批判が予想さ
れる。しかしながら、不法行為による損害賠償につき民法四一六条の規定を類推適
用しても、ある損害が通常生ずべき損害であるか、特別の事情によつて生じた損害
であるかの限界は必ずしも明らかでなく、これを区別することは実際上困難な場合
が少なくなく、そのことは予見可能性の存否についても同様であつて、結局は、公
平の観念に照らして行為者にその損害を賠償させるのが妥当かどうかの判断が先行
し、それを前提として民法四一六条の規定の解釈上の操作がなされることになるの
である。それゆえ、民法四一六条を類推適用したからといつて、必ずしも、不法行
為による損害賠償の範囲が明確になり、法的安定が確保されるとはいいがたく、む
しろ、現在のような複雑な社会において生起する不法行為による損害賠償請求事件
においては、右の規定を類推適用するときは、被害者の救済を困難ならしめるおそ
れのあることの方が留意されなければならないと思う。
  なお、以上述べたところは財産的損害の賠償についてであつて、慰籍料につい
ては、裁判所が、諸般の事情を斟酌して、自由裁量により決することをうるものと
考える。
 (五) 以上述べたところによれば、不法行為による損害賠償についても民法四一
六条を類推適用すべきものとし、上告人の主張する損害はすべて特別の事情によつ
て生じた損害と解すべきであり、かつ、被上告人には右の事情につき予見可能性が
なかつたものとして上告人の請求を排斥した原判決には、法律の解釈適用を誤つた
違法があり、破棄を免れないとともに、前述のような見地から上告人の請求につき
あらためて認定判断する必要があるので、本件を原審裁判所に差し戻すべきものと
考える。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸       盛   一
            裁判官    岸   上   康   夫

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