弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人両名をそれぞれ無期懲役に処する。
未決勾留日数中,被告人Aに対しては930日を,被告人Bに対しては1000日を,それぞれその刑に算入
する。
理由
(犯罪事実)
第1 被告人Aは,C及び五代目D組三代目E組F会若頭代行Gと共同して,平成10年12月24日午前9
時30分ころ,大阪府堺市甲町a丁b番c号にあるホテル「H」4階402号室において,Gから借入れをしたIの
保証人であるJ(当時20歳)がIとともに取立てから逃げ回っていることに立腹し,Jに対し,Cが,Jの胸倉を
つかんでその身体を床に転倒させた上,同人の顔面,頭部などを手拳で数回殴打し,その背部などを数
回足蹴にし,熱したライターの金属部分を同人の手の甲に押し当て,Gが,Jの顔面を各1回ずつ手拳で殴
打あるいは足蹴にし,被告人が,Jの頭部を手拳で数回殴打するなどの暴行を加え,もって,3人共同して
暴行を加えた。(被告人Aに対する平成12年8月4日付け起訴状記載の公訴事実)
第2 被告人両名は,共謀の上,平成12年3月1日午前1時30分ころ,神戸市乙区丙町d丁目e番f号K駐
車場において,同所に駐車中のLが所有する普通乗用自動車(軽四)のナンバープレート2枚を取り外して
窃取した。(被告人Aに対する平成12年6月28日付け起訴状記載の公訴事実第1,被告人Bに対する同
年3月24日付け起訴状記載の公訴事実)
第3 被告人両名は,Mと共謀の上,
1 同月2日午前3時30分ころ,同市同区丁町g丁目h番i号にあるN駐車場において,同所に駐車中のO
が管理する普通乗用自動車のナンバープレート2枚を取り外して窃取した。(被告人両名に対する平成12
年6月28日付け起訴状記載の公訴事実第2の1)
2 同日午前5時5分ころ,同市戊区己通j番k号ないしl号(不動産登記簿上の所在地の表示・同市同区己
通j番地m)にあるテレホンクラブ「a神戸駅前店」(管理者有限会社P)において,同店に火炎びんを用いて
放火しようと決意するとともに,同店内にいる店員及び客を死亡させることがあるかもしれないことを認識し
ながら,あえて,被告人Bが,清酒一升びんにガソリンを入れ,その口部分にタオルようの布を取り付けて点
火装置を施した火炎びん1本に携帯していたライターで点火した上,これを営業中の同店内受付カウンタ
ー付近に投げつけて発火,炎上させ,同店の床面,板壁,可燃性備品,天井等に燃え移らせて放火し,よ
って,Qが所有し,同店店員R(当時37歳)及び同S(当時21歳)並びに同店客T(当時26歳),同U(当時
24歳)及び氏名不詳の男性5名が現にいる木造ガード下2階建て建物の1階部分(床面積約152.95平
方メートル)のうち約15平方メートルを焼失させ,もって,現に人がいる建造物を焼損し,かつ,火炎びんを
使用して人の生命,身体及び財産に危険を生じさせ,同人らを殺害しようとしたが,Sに対して約9日間の
加療を必要とする顔面・右手2度熱傷の傷害を負わせたにとどまり,同人らを殺害するに至らなかった。(平
成13年9月6日付け訴因及び罰条変更請求書による訴因変更後の被告人両名に対する平成12年6月2
8日付け起訴状記載の公訴事実第2の2)
3 同日午前5時15分ころ,同市同区申通n丁目o番p号(不動産登記簿上の所在地の表示・同市同区申
通n丁目o番地q)Vビル2階及び3階部分にあるテレホンクラブ「a元町店」(管理者有限会社P)において,
同店に火炎びんを用いて放火しようと決意するとともに,同店内にいる店員及び客を死亡させることがある
かもしれないことを認識しながら,あえて,被告人Bが,清酒一升びんにガソリンを入れ,その口部分にタオ
ルようの布を取り付けて点火装置を施した火炎びん1本に携帯していたライターで点火して営業中の同店
内の2階入り口付近に投げつけ,続いて,被告人Aが前同様の火炎びん1本に点火して1階から同店2階
に通じる階段中ほど付近に投げつけ,被告人Bが投げた火炎びんは割れなかったものの,被告人Aの投
げた2本目の火炎びんが発火,炎上したことに驚いた同店店員Wが被告人Bが投げ込んだ火炎びんを投
げ返したことを介して,結局,いずれの火炎びんも発火,炎上させ,同店の床面,階段,板壁,可燃性備
品,天井等に燃え移らせて放火し,よって,有限会社X(代表取締役Y)が所有し,同店店長Z(当時27
歳),同店店員W(当時31歳),同店客α(当時31歳),同β(当時30歳),同γ(当時23歳),同δ(当時
29歳)及び同ε(当時22歳)が現にいる鉄骨造陸屋根地下1階付3階建て建物(延べ床面積約182.2平
方メートル)の2階及び3階部分(床面積合計約102平方メートル)を焼失させ,もって,現に人がいる建造
物を焼損し,かつ,火炎びんを使用して人の生命,身体及び財産に危険を生じさせ,そのころ,α,β,γ
及びδを一酸化炭素中毒により死亡させて殺害し,εに対して約40日間の加療を必要とする顔,両上肢
等熱傷(2度ないし3度)の傷害を,Wに対して約7日間の加療を必要とする右手掌熱傷(2度)の傷害を,Z
に対して約3日間の加療を必要とする右手指挫創等の傷害をそれぞれ負わせたにとどまり,同人らを殺害
するに至らなかった。(平成13年9月6日付け訴因及び罰条変更請求書による訴因変更後の被告人両名
に対する平成12年6月6日付け起訴状記載の公訴事実)
(証拠の標目)
 省略
(判示第3の2及び3の各事実に関する事実認定の補足説明)
1 弁護人の主張の要旨
被告人両名の弁護人は,要するに,①a元町店(以下「元町店」という。)襲撃に際し,被告人Aは火炎びん
を投てきしていない,②元町店襲撃に際し,被告人Bが投てきした火炎びんが発火,炎上したことについ
て,同店店員Wが火炎びんを投げ返した行為が介在しているため,被告人Bの火炎びん投てき行為と結
果との間には因果関係がなく,未遂にとどまる,③被告人両名には,a神戸駅前店(以下「神戸駅前店」とい
う。)及び元町店双方について,放火の確定的故意がないことはもちろん,未必的故意もない,④仮に放
火の故意が認められるとしても,殺人の故意はない,⑤仮に放火罪が成立するとしても,神戸駅前店に対
する放火は,いまだ「焼損」の程度に至っていないから未遂である旨主張し,各被告人もこれらに沿う供述
をする。
そこで,以下,各主張について順次検討を加える。
2 元町店襲撃に際して,被告人Aが火炎びんを投てきしたかどうかについて(弁護人の主張①について)
(1) 元町店の火災現場から発見された火炎びんの種類及び本数について
ア 当裁判所の検証結果
当裁判所は,公判期日外(平成14年5月21日)に,兵庫県警察本部刑事部科学捜査研究所技術吏員ζ
及び同ηを検証補助者として,元町店の火災現場の1階出入口から2階フロアに至るまでの階段部分から
押収した燃焼残渣物から選別した緑色ガラス片等(平成13年押第39号の34の1ないし34の8,51の1な
いし51の3,52の1ないし52の7,55)を用い,これらを組み立て,復元する方法により検証を実施した。そ
の結果,一升びんようのものの先端口全部分及びその下部の円環状のふくらみのある部分が,ほぼ全周
的に復元されたのに加え,別途,口先よりやや下部にある円環状のふくらみ部分を中心として,全周のほ
ぼ2分の1程度が部分的に復元された(当裁判所の検証調書)。
イ 緑色ガラス片等の鑑定
兵庫県警察本部刑事部科学捜査研究所技術吏員ζ作成の鑑定書(検察官請求証拠番号152。以下同
じ。)によれば,上記ガラス片等はガラスびんの破片であり,びんの口部の大きさ,差し込み蓋であるという
形状,びんの口外径及び口内径の寸法から考えて,一升びんが破損したものである可能性が高く,押収し
たガラス片の総重量が製品規格上の一升びん2本分の重量(約1900グラム)に約290グラム不足する(一
升びん約1.7本分に相当する)ものであること,また,同研究所技術吏員θ作成の鑑定書(158)によれ
ば,元町店から押収された緑色ガラス片等の中に見られるラベルようのものが,ι酒造の製品である「お祝
酒」の清酒一升びんに貼付されているラベルの一部と符合することが,それぞれ認められる。
上記検証結果に加え,上記両鑑定を総合すると,元町店の火災現場から押収された緑色ガラス片は,一
升びんようのガラスびんで2本分であることが認められる。
ウ 弁護人の主張について
被告人両名の弁護人は,上記の当裁判所の検証及び鑑定受託者による各鑑定に用いられた検証・鑑定
資料となった緑色ガラス片等の採集手続は,極めて混乱した状況下でなされたもので,検証・鑑定の正確
性を担保することができないものであるなどと主張する。しかし,上記緑色ガラス片等の採集手続に関与し
た警察官である証人κ及び同λの各公判供述によれば,消火活動終了後,直ちに現場保存をして,燃焼
残渣物を発見場所ごとに採集した上,W及びZの各供述に基づいて火炎びんが使用されたことが合理的
に推測されたことから,火炎びんの組成物となるびん類を念頭に置いて燃焼残渣物を選別し,燃えた木材
や透明に近い板状ガラス片を除外した結果,本件検証・鑑定資料となった緑色ガラス片が採集されたとい
う経緯が認められ,このような検証・鑑定資料の採集手続は,火炎びんに用いられたびんの形状,本数を
検証・鑑定するための資料を採集する手続としては,合理的かつ妥当なものであり,中立的な立会人の立
会いの下に行われるなどしてその正確性も十分担保されていると認められる。したがって,被告人両名の
弁護人の上記主張は採用することができない。
また,被告人両名の弁護人は,上記ζによる鑑定は,鑑定受託者であるζの見た目だけで「ほぼ一致し
た」という結論を導いたものであり,びんの口より下の部分について2本と判断することができないことなどか
ら信用することができないなどと主張するが,上記鑑定結果は物理鑑定の専門家が,経験則に従った合理
的推論に基づいて導き出したものであって,その判断過程に何ら不合理な点はうかがわれず,高い信用
性が認められるのであって,このような弁護人の主張は理由がない。
さらに,被告人両名の弁護人は,元町店からは清酒一升びんのラベルが1本分しか回収されていないこと
をもって,投てきされた火炎びんは2本ではないと主張するが,不燃物であるガラス片と異なり,一升びん
表面に貼付されていたラベルの素材は紙であり,本件犯行によって生じた火災によって焼失し,あるいは,
その後の消火活動によって流失する可能性も十分考えられ,さらには,最初からはがれていたこともありう
るのであって,このような被告人両名の弁護人の主張は採用することができない。
なお,被告人Bの弁護人は,当裁判所が検証を実施するに先立って,事前に捜査官が証拠物を追加,ね
つ造するなどの変更を加えた疑いがあるなどと主張するが,検証資料として用いた証拠物は裁判所が押
収,保管していたものであって,捜査官がこのような作為を加える余地はなく,このような弁護人の主張は,
到底採用することができない。
(2) Wの公判供述(以下「W供述」という。)について
ア W供述の概要
本件当時,元町店店員であったWは,概要以下のとおり供述する。
Wは,本件当日である平成12年3月2日午前4時ころから,元町店の2階にある受付カウンターで前日分
の売上金を集計していたところ,同日午前5時過ぎころ,止め方の緩い階段の金具がカチャカチャと鳴り,
階段を人が走ってくるような音がした。その音から一人だけではないと感じた。
そのとき,木枠でガラスがはめ込まれた自動ドアは開いていたが,Wが出入口付近まで向かったところ,2
階のフロア上にいる男が元町店内に何かを投げ込む格好で,びんの口のところに火が付いた火炎びんを
両手で頭上にあげて迫ってきた。
そこで,Wは,とりあえずドアを閉めようとしたが,真ん中くらいまで閉めたところで,ドアのすき間から火炎び
んを投げ込まれ,水槽に当たり,水槽が割れたが,火炎びん自体は割れずに転がった。その火炎びんは
一升びんくらいの大きさで,びんの口の辺りに差し込まれた布部分に火が付いていた。
Wは,店内が火事になると困ると思い,右手で火炎びんの真ん中辺りの腹部分を持って外に持ち出そうと
した。火炎びんは片手で持つことができたが,びんの中に液体が入っていたので重かった。
Wが2階フロア上に立って階段の下の方を見た時,男が階段の曲がり角辺りを下の方に向かって逃げる最
中だったが,後ろ姿だけで男の顔は見えなかった。その男と火炎びんを投げ込んだ男は同一だと思った。
そうしたところ,下から何か割れる音がして,階段の曲がり角辺りから炎が上がったので,Wは,びっくりして
手に持っていた火炎びんを下に投げ返した。このとき,余計火が大きくなると考える余裕はなかった。
イ W供述の信用性
このW供述の信用性について検討すると,1本目の火炎びんが投げ込まれてから,それを手に取って下に
投げ返した際の状況と心情等に関するW供述の内容は非常に具体的で,実際に体験した者でなければ
供述しえないほど迫真性に富んでいること,(1)で検討したとおり使用された火炎びんが2本であったという
客観的事実と符合すること,元町店店長Zの公判供述とも整合的であることなどの事情に照らすと,W供述
は高く信用することができる。
これに対して,被告人Aの弁護人は,Wは,自己が火炎びんを投げ返したことについて弁解するために,
火炎びんを投げ返した時には,階段で炎が燃え上がっていた旨虚偽の供述をしていると主張し,被告人B
の弁護人は,W供述は,Wが犯人に反撃するために火炎びんを投げ返したと供述することで同被告人の
火炎びん投てきという実行行為と発火,炎上との因果関係が切断されることを避けるため,捜査段階から綿
密に打合せがされた上で作出された供述であり,W自身の投げ返し行為により4名の死者が出たことに関
する法的責任を回避するために,既に炎が上がっていたという不合理な供述をしていると主張する。
しかし,W供述が殊更責任を被告人らに転嫁したり,自己の弁解を意図したものでないことは,自己にも責
任の一端があることを認めるその供述内容や態度等に照らしても明らかである上,Wが捜査段階で警察や
事件関係者と打合せをしたことをうかがわせる形跡は皆無であるから,各弁護人の上記主張はいずれも採
用することができない。
ウ 検討
上記イで検討したW供述を含む関係各証拠によれば,Wが,被告人Bによって投げ込まれたが割れず,発
火しなかった火炎びん1本を手に同店の2階フロアに向かった時,何者かが1階から2階に向かう階段の直
角に曲がる辺りに火炎びんを投てきし,割れて発火,炎上したことが認められる。
(3) 被告人Bの供述について
被告人Bは,捜査段階から公判段階に至るまで,元町店襲撃の際,同被告人が火炎びん1本を元町店店
内に投てきし,すぐにとって返して車に戻った,そのとき,Mが運転席にいたが被告人Aはいなかった,そ
の後,後部座席のドアを開けて同被告人を待っていたところ,同被告人が戻ってきたが,そのとき同被告人
の足には火が付いていたなどと一貫して供述しているところ,その供述の信用性を疑うべき事情はない。
(4) 小括
上記(1)ないし(3)でそれぞれ検討した結果を総合すると,被告人Bが火炎びん1本を元町店2階店内に投
てきした直後,何者かが,もう1本の火炎びんを同店の1階出入口から2階フロアに通じる階段の中ほどに
投てきし,発火,炎上させた事実が認められ,その者は,被告人B及び共犯者Mに同行し,被告人Bを本
件犯行に引き込んだ張本人である被告人A以外には全く想定できないことから,同被告人が,被告人Bが
火炎びん1本を投てきして逃走を開始し,元町店から出た直後,同店の1階出入口から2階フロアに通じる
階段の中ほどに火炎びん1本を投てきし,発火,炎上させたものと認められる。
(5) 被告人Aの弁解について
被告人Aは,元町店襲撃の際,火炎びんは1本も投てきしておらず,被告人Bが火炎びんを持って元町店
に向かった直後,車から下りて,元町店の階段の下辺りに同店を背にして立って見張りをしていただけで,
元町店の建物内には一切立ち入っていない,同店の前に立っていた時から同店の前に駐車していた車に
戻るまで同被告人の姿は見ていない,店員が追いかけてこないように店に火炎びんを投げ込んだこともな
いなどと捜査段階から一貫して弁解する。
しかしながら,このような被告人Aの弁解供述は,上記(1)ないし(4)での検討結果と対比すると明らかに不
合理である上,自身が元町店襲撃の際に下半身に重傷の火傷を負ったことの説明としても具体性に乏しく
不自然なものであること,同被告人の知人で同被告人にとって殊更不利益な虚偽供述をするおそれがなく
信用することができるμの供述(同人の警察官に対する供述調書・409)によれば,同被告人は,本件犯行
後の平成12年5月13日,自分を見舞いに入院先を訪問してきたμに対し,「俺は,火炎びんをころがした
んや。その後,俺が階段を降りて下まで着いた時に投げよったんや。それで,俺の足が燃えたんや。」など
と述べていたというのであるから,その主要部分について大きく変遷していることなどに照らすと,到底信用
することができない。
(6) まとめ
以上のとおりであって,被告人Aが,元町店襲撃に際して,元町店の1階出入口から2階フロアに通じる階
段の中ほどに,清酒一升びんを用いて製造した火炎びん1本を投てきし,発火,炎上させた事実が認めら
れる。
3 元町店襲撃における被告人Bの火炎びん投てきの実行行為と火災発生の結果との因果関係の存否に
ついて(弁護人の主張②について)
(1) 被告人両名の弁護人は,Wが被告人Bにより投げ入れられたものの割れなかった火炎びん1本を階下
に向けて投げ返した行為は,被告人両名の予想だにしえない行動であって,被告人Bの火炎びん投てき
行為とは連続性のない別次元の行動であるから,同被告人の火炎びん投てきと火災との間には法的因果
関係がないと主張する。
(2) しかしながら,Wが火炎びんをとっさに階下に向けて投げ返した行為は,火炎びんが既に点火されて
いたことや,店内にはほかの店員や複数の客がいた上,もう1本の火炎びんが階段で炎上し始めていたな
どといった当該状況下においては何ら不自然なものではないのみならず,その結果もまさしく被告人Bの
行った火炎びんの投てき行為が持つ危険性が顕在化したものにほかならないから,同被告人の実行行為
と元町店での火災発生の結果との間に因果関係が存することは明らかであり,弁護人の上記主張は理由
がない。
4 故意・共謀の存否について(弁護人の主張③及び④について)
(1) ガソリンの燃焼特性と被告人両名の認識
ガソリンは,引火点(可燃性液体や固体から発生する可燃性蒸気が,小火炎を近づけたとき瞬間的に発火
するようになる最低温度)がマイナス40度以下で,火を付けると瞬間的に全体に火が回り,引火しやすいと
いう燃焼特性を有し,いったん火が付くと消火も困難であり,ガソリンを燃焼させたときに発生する煙は非常
に急速に広がり,すす,二酸化炭素,一酸化炭素を主成分としてその他数多くの熱変成物質が含まれ,炎
それ自体高温で危険であるばかりか,大量に発生する煙にも有毒ガスが含まれているなど非常に危険な
易燃性液体である(証人νの公判供述)。
そして,ガソリンの燃焼特性につき,上記の詳細までは知りえなくても,一般の通常人であれば,その発火
の容易さや発火した場合の危険性については当然常識として認識しているものであって,被告人両名に
おいても,自動車を日ごろから運転しており,本件犯行の前日にガソリンを用いて火炎びんの実験をしてい
ることからも,このことは十分認識していたと認められる。
(2) 各被害店舗の構造等
ア 神戸駅前店
神戸駅前店は,JR元町駅と同神戸駅間の高架下商店街内の1階部分にあり,同店への出入口は同店南
西角付近の歩道に面した外開きガラス扉だけで,これ以外に外部と通ずる非常出口等はなかった。そし
て,同店舗内には,通路が「E」字型に通っており,その通路幅は65センチメートルから83センチメートルと
非常に狭いものであった。受付カウンターは同店入り口付近にあり,その前辺りにビデオテープの陳列棚
やげた箱が設置されていた(検証調書・193)。
本件犯行当時,神戸駅前店内には,入り口付近の受付カウンターに店員R及び同Sの2名,客室内に氏名
不詳の男性5名,T,Uの客7名の合計9名がいた。
イ 元町店
元町店は,地上3階地下1階の雑居ビルの2階及び3階部分を使用しており,ビル南西面西端の開口部か
ら北向きの階段を上り,途中6段目と7段目で右側(東側)に直角に曲がり,15段目が2階フロアとなってい
て,その右側(南側)に同店出入口があり,これ以外に同店への出入口はなかった。この出入口には木製
引き戸の自動ドアがあったが,本件当時は電源が切られ半開きの状態であった。なお,同店に通じる階段
の幅は,80センチメートルであった。同店の受付カウンターはこの出入口正面にあり,受付カウンターの北
側に3階に通じる階段が,またその付近にはビデオテープの陳列棚やげた箱が設置されていた。そして,
同店内の通路は,53センチメートルから58センチメートルと非常に狭いものであった(検証調書・18)。
本件犯行当時,元町店内には,2階の出入口正面の受付カウンターに店長Z,店員Wの2名,3階客室内
にα,β,γ,δ,εの客5名の合計7名がいた。
(3) 本件各犯行前の火炎びんの投てき実験や下見状況等
被告人Bの捜査段階における供述を含む関係各証拠によれば,本件犯行に至る経緯等について,おお
むね以下の事実関係が認められ,被告人Aもこれらの事実を争わない。
すなわち,被告人Aは,平成12年2月29日午前3時ころ,被告人Bの当時の住居を訪れ,同被告人に対
し,「二,三日体空いているか。運転手してくれ。」などと依頼したところ,同被告人は承諾した。
被告人両名は,いったん別れた後,再度落ち合って神戸に向けて出発し,同年3月1日午前零時ころ,名
神高速道路桂川パーキングエリア南側農道で,ジュースの空きびんを使って火炎びんを2本製造し,投て
きした。このとき,1本は実際に割れて炎上したが,もう1本は割れなかった。
被告人両名は,この実験結果から,より割れやすく,かつ,更に火力を増すために,実際の襲撃に当たっ
ては一升びんを使った火炎びんを製造することとした。
その後,神戸のテレホンクラブに向かう途中,もう一人の共犯者が当日参加できないことになったため,被
告人Aは被告人Bに実行役をしてくれるよう依頼し,同被告人は,少なくとも30万円の報酬を得ることがで
きるということなどから引き受けた。
神戸到着後,被告人両名は,襲撃する店舗の下見をするため,神戸駅前店,a花隈店(以下「花隈店」とい
う。),元町店の前の道路を通り過ぎるようにして,店内の様子を順次確認したところ,神戸駅前店の店内に
は電気がついていて,手前に水槽が,その後にカウンターが見え,ビデオテープの棚が見えた。元町店
は,他の2店舗と異なり,内部の状況が外部から確認できなかったため,被告人Bは店内に入ってその状
況を確認し,被告人Aに店内の様子を報告した。
被告人両名は,火炎びんを6本製造するなどして襲撃の機会をうかがったが,警戒されているように感じて
逡巡するうち,午前5時ころになったため,結局,襲撃を断念した。
被告人Aは,被告人Bに対して,当日の夜にまた襲撃することを告げて別れ,被告人両名は再び落ち合っ
てから,神戸の三宮にあるホテルに向かい,同月2日午前2時ころ,そこでMと落ち合った。
そして,被告人両名及びMは,同日午前5時前ころ,火炎びん6本を製造するなどして襲撃の準備を整
え,襲撃の際の役割分担について話し合い,被告人Bが実行役を買って出た。
その後,被告人両名及びMは,再度3店舗の様子をうかがい,営業中であることを確認した上,判示第3の
2の神戸駅前店襲撃の犯行を行った。
被告人Bは,待機していた車の後部座席に乗り込み,被告人Aに対し,「大丈夫やと思いますわ。」と言う
と,同被告人は,運転席のMに「次へ行け。」と指示し,花隈店前に到着したが,店の前に人が乗っている
1台の普通乗用車が停車していたため,同被告人は,「2軒目はあかんわ。次行け。」とMに指示し,判示
第3の3の元町店襲撃の犯行に及んだ。
(4) 検討
ア 現住建造物等放火罪の故意の存否について
上記(1)ないし(3)に述べた事実関係を総合して,被告人Bによる神戸駅前店及び元町店に対する各火炎
びん投てき行為並びに被告人Aによる元町店に対する火炎びん投てき行為についてみると,営業中の店
舗に一升びんを用いて製造した火炎びんに火を付けて投てきする行為は,びんが割れて内部のガソリン
に引火して急激に燃え広がることはだれもが容易に理解できることであって,被告人両名もこれを十分認
識していたものと認められるから,上記のような火炎びん投てき行為に及んだこと自体から,各被告人にお
いて現住建造物等放火罪の故意を確定的に有していたことは明らかである。
被告人両名の弁護人は,襲撃計画がずさんであったこと,被告人両名において火炎びんの製造,使用に
関する知識,経験がないこと,店舗の焼損を目的としていたのではなく業務の妨害が目的であったこと,被
告人Bは元町店襲撃の際,あえて店員ではなく水槽の方に投てきしたことなどから,被告人両名には確定
的にも未必的にも現住建造物等放火罪の故意は存在しなかったなどと主張する。
しかしながら,上記のように被告人両名は,火炎びんの投てき実験まで行った上,実際の襲撃に際しては
実験で用いた火炎びんより更に危険性の高い火炎びんを使っているのであって,未必的にすら放火の故
意がなかったという主張は,全く不自然というほかない。弁護人が襲撃計画がずさんであったとする点は,
放火の故意の存否と結びつくものではなく,火炎びん使用に関する知識,経験がないとする点も,被告人
両名が火炎びんの危険性を認識している以上,放火の故意を左右するものではない。さらに,被告人両名
の目的が業務を妨害することにあっても,これと放火の故意とは何ら矛盾するものではない。なお,被告人
Bがあえて水槽の方に火炎びんを投てきしたという事実は証拠上認められない。被告人両名の弁護人の
主張はいずれも理由がない。
イ 殺意の存否について
上記(1)ないし(3)に述べた事実関係に加え,約1.8リットルもの多量のガソリンが充てんされた火炎びんが
割れて発火,炎上し,店内で火災が発生した場合には,当然その店内にいる人の生命,身体に重大な危
険が発生することは明らかである。
そして,実際に,関係各証拠によれば,以下の状況が認められる。神戸駅前店においては,火炎びんが投
げられた直後に火柱が上がって炎の壁のような状態となり,店員のRは死をも覚悟した。同人は,炎の中を
突っ切っていったん店外に出たものの,客を救出するため,再度,店内に入ったところ,真っ黒な煙が充満
し,息ができない状態であり,辛うじて店舗の西側北端にある便所の窓から呼吸しながら客の救出と消火活
動を行った。客のTは,Rの呼び掛けを聞くとともに,ドアのすき間から白い煙が入ってくるのを認め,あわ
てて個室を出たところ,目の前が全く見えないくらい通路に煙が充満していたが,店員の声が聞こえる方へ
歩いていき,まだ点々と炎が上がっていたカウンター前を通り過ぎて,ようやく店外に脱出した。客のUは,
爆発音を聞いた後すぐに,黒い煙がドアのすき間から入り込んできたのを認め,あわててドアを開けて廊下
に出たところ,店内に煙が充満し,フロントの前の3か所くらいの場所で炎が天井まで上がっているのを見
たが,店員の声に促され,火を飛び越えるようにして店外に逃げ出した。元町店においては,店員のWが
火炎びんを投げ返した後,階段から炎が迫ってきたことから,Wと店長のZは,3階の客を避難させようと階
段を上ろうとしたところ,照明が消え,暗やみの中で客に避難を呼び掛けたが,そのころには,3階に煙が
充満し,立った姿勢では呼吸が困難な状態であった。ZとWは,3階の客室ドアをたたくなどして回ったが,
応答がなく,ようやく一人の客の手を取って誘導した。客のεは,3階12号室で仮眠していたところ,階下
から騒がしい物音が聞こえ,そのうちエアコンのダクトから黒い煙が吹き出し,部屋の扉を開けると,電気が
消えて真っ暗な中で煙が充満しており,手探りで逃げ道を捜していたところ,従業員に手を引っ張られ,シ
ャワー室の方に誘導された。Z,W,εは,シャワー室手前の窓から隣のビルの屋上に飛び降りて脱出した
が,既に,窓一杯に煙が出ていた。元町店の客5名のうち,εを除く4名は,その場で,一酸化炭素中毒に
より死亡した。
被告人両名は,下見をすることによって各店舗内部の状況の概要や各店舗とも本件当時営業中であり内
部に少なくとも店員がいることを認識し,加えて,営業中の店舗であるから内部に店員のほか客もいる可能
性があることも予想しうる状況において,いずれも店舗から外部に通じる通路,出入口付近に火炎びんを
投てきし,発火,炎上させている。そうすると,被告人両名は,店内にいる店員等の脱出が困難となり,火災
等により店員等の生命,身体に上記認定のような危険が及ぶことは容易に認識しえたというべきであり,火
炎びんが何らかの理由により絶対に発火しないとか,店舗内に確実な消火設備があると誤信するなど,そ
の認識を妨げるような事情は全くうかがうことができない。これらの事情を総合すると,被告人両名におい
て,店内に現在する店員,客等の人間が死亡する蓋然性が高いことを認識しながら,その結果を認容し,
あえて本件各実行行為に及んだと推認することができ,被告人両名が,少なくとも未必的な殺意を有して
いたことは明らかである。
被告人両名の弁護人は,被告人Bが店員の目の前の床面に火炎びんを投げ,店員に向かっては投げて
いないこと,神戸駅前店においては,当初の予測どおり店員により消火されていること,元町店において,
火炎びんが店員に投げ返されることを全く想定していなかったこと,元町店の構造が全く窓も換気装置も
避難用具もなく,ホテルのように宿泊目的で就寝中の利用客がいることも知らなかった事実に照らすと,被
告人両名に殺意はなかったなどと主張する。
しかしながら,被告人B自身も元町店襲撃の際に店員の目の前の床面をねらって火炎びんを投てきしたと
は供述しておらず,証拠上弁護人が主張するように店員の目の前の床面をねらって投てきしたとは認めら
れない。そして,神戸駅前店に投てきされた火炎びんの発火,炎上によって発生した火災は,店員や客に
よる懸命の消火活動によりようやく鎮火されたものであって,当然に消火が予測されるようなものではなかっ
たから,この点にかかる弁護人の主張は不自然というほかなく,また,元町店において,店員が火炎びんを
投げ返したとはいえ,被告人両名がもともと火炎びんの発火,炎上を認識していた以上,これも殺意の判
断を左右するものではない。加えて,元町店の構造が弁護人の主張するとおりであることが,4名もの人命
が失われたという結果発生に相当程度寄与したことは否定できないものの,被告人両名はそもそも内部に
いる店員等の人間の生命,身体の安全に何ら顧慮することなく,本件犯行に及んでいるのであるから,被
告人両名において,元町店の構造や就寝中の利用客の存在を確実に認識していなかったからといって,
殺意がなかったとは到底いえない。弁護人の主張はいずれも理由がない。
ウ 被告人両名及びM間の共謀について
これまでに検討した犯行に至る経緯,犯行態様等,ことに被告人両名及びMが本件各犯行当時,終始行
動を共にし,上記3名の間においてそれぞれ実行役,運転手役を分担し,各自本件各犯行を遂行するに
当たって必要かつ重要な役割を担ったことなどの事情を総合すると,遅くとも神戸駅前店襲撃に先だって
火炎びんを製造するなどした後になされた下見の段階に至って,被告人両名及びMとの間に判示第3の2
及び3の各犯行に関する共謀が成立したことは明らかである。
この点,被告人両名は,公判廷において,本件各犯行を共謀した事実はないなどと弁解するが,このような
弁解供述は,客観的事実関係から合理的に推認できる上記認定と異なり,不自然,不合理であって信用
することができない。
5 神戸駅前店における現住建造物等放火罪の既遂・未遂の別について(弁護人の主張⑤について)
検証調書(193)及び火災調査報告書写し(609)を含む関係各証拠によれば,被告人Bが,神戸駅前店に
対して火炎びん1本を投てきし,その火炎びんが割れて発火,炎上した出火場所であると認められる受付
カウンター近くの同店20号室南西角付近(西廊下と南廊下の分岐点付近)の床面のピー・タイルは黒く変
色し,表面が焼失し,ひび割れた状態となっており,特に,割れた火炎びんの破片が発見された場所付近
の床化粧材は完全に焼失し,出火場所の南側に位置する受付カウンター前床面の北側廊下の角付近か
らカウンター付近までの床化粧材はひび割れし,表面が黒く炭化しているほか,個々の床化粧材が熱によ
り縮小して接合部の目地が明らかになるなど特に強焼していることなどの客観的事実が認められる。
このような神戸駅前店の店舗内の客観的な焼き状況に照らすと,同店舗に対する火炎びん投てき行為に
より,火炎びんが割れ,流出したガソリンに引火して生じた火勢は,放火の媒介物であるガソリンを離れて,
目的物である同店舗の床面ピー・タイル等に燃え移り,独立して燃焼作用を継続しうる状態に達したものと
認められ,神戸駅前店に対する放火行為は既遂に達したものと認められる。そして,これと異なる弁護人の
主張は採用することができない。
6 結論
以上のとおりであるから,判示第3の2及び3(神戸駅前店及び元町店に対する現住建造物等放火,殺人
及び殺人未遂等)の各事実は,これらを優に認めることができる。
(累犯前科)
被告人Aは,平成7年6月30日大阪地方裁判所で火炎びんの使用等の処罰に関する法律違反の罪によ
り懲役1年6月に処せられ,平成9年6月25日その刑の執行を受け終わったものであって,この事実は検察
事務官作成の前科調書(検察官請求証拠番号489)によって認める。
(法令の適用)
被告人Aの判示第1の所為は暴力行為等処罰に関する法律1条(刑法208条)に,被告人両名の判示第2
及び第3の1の各所為はいずれも同法60条,235条に,判示第3の2の所為のうち火炎びんを使用した点
はいずれも同法60条,火炎びんの使用等の処罰に関する法律2条1項に,現住建造物等放火の点はい
ずれも刑法60条,108条に,被害者R,同S,同T,同U及び氏名不詳者5名に対する各殺人未遂の点は
いずれも同法60条,203条,199条に,判示第3の3の所為のうち火炎びんを使用した点はいずれも同法
60条,火炎びんの使用等の処罰に関する法律2条1項に,現住建造物等放火の点はいずれも刑法60
条,108条に,被害者α,同β,同γ及び同δに対する各殺人の点はいずれも同法60条,199条に,被
害者ε,同W,同Zに対する各殺人未遂の点はいずれも同法60条,203条,199条にそれぞれ該当する
ところ,判示第3の2は1個の行為が11個の罪名に,判示第3の3は1個の行為が9個の罪名にそれぞれ触
れる場合であるから,いずれも同法54条1項前段,10条により,いずれも1罪として最も重い現住建造物等
放火罪の刑で処断し,各所定刑中,被告人Aの判示第1の罪については懲役刑を,被告人両名の判示第
3の2の罪については有期懲役刑を,判示第3の3の罪については無期懲役刑をそれぞれ選択し,被告人
Aには前記の前科があるので同法56条1項,57条により判示第1,第2,第3の1及び第3の2の各罪の刑
についてそれぞれ再犯の加重(判示第3の2の罪の刑については,同法14条の制限に従う。)をし,以上
は同法45条前段の併合罪であるが,判示第3の3の罪についてそれぞれ無期懲役刑を選択したので,同
法46条2項本文により他の刑を科さず,被告人両名をそれぞれ無期懲役に処し,同法21条を適用して,
未決勾留日数中,被告人Aに対しては930日を,被告人Bに対しては1000日をそれぞれその刑に算入
し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人両名に負担させないこととする。
(量刑の理由)
1 事案の概要
本件は,被告人Aが,共犯者2名と共同して,債権取立てに絡んで保証人である被害者に暴行を加えたと
いう暴力行為等処罰に関する法律違反(共同暴行)の事実(判示第1),被告人両名又は被告人両名及び
共犯者1名が共謀して,ナンバープレートを窃取した窃盗の事実(判示第2及び第3の1)並びに被告人両
名が,共犯者1名と共謀して,神戸市内にあるテレホンクラブ「a神戸駅前店」及び「a元町店」の2店舗を,
火炎びんを使用して襲撃し,火災を発生させ,その結果,死者4名,負傷者合計4名を出したという現住建
造物等放火,殺人,殺人未遂,火炎びんの使用等の処罰に関する法律違反の事実(判示第3の2及び3)
からなる事案である。
2 本件に至る経緯等
(1) 被告人Aの生い立ち等
被告人Aは,7歳の時に両親が離婚したこともあり,福井県敦賀市内にある施設で不遇の少年期を過ごし
た。
その後,昭和51年に中学校を卒業してから,寿司店や洋食喫茶店等で働くものの,いずれも長続きせず,
運送のアルバイトなどをするうち,暴力団関係者と知り合い,18歳ころから27歳ころまでの間,断続的に暴
力団構成員として活動した。同被告人は,平成7年3月婚姻し,2子をもうけたが,本件後の平成12年3月
27日離婚した。
被告人Aは,昭和55年から本件に至るまで,窃盗,恐喝罪等による前科6犯を数え,そのうち累犯前科とし
て掲記した平成7年の前科は,総会屋グループ構成員から報酬を得る約束の下に,共犯者2名を引き込
んで,うち1名が,炭酸飲料のびんにベンジンを入れ,布きれを取り付けて点火装置を施した火炎びん2本
に点火して,総会屋を排除した企業への報復として,百貨店の役員宅玄関先に投てきしたという火炎びん
の使用等の処罰に関する法律違反の事案により,懲役1年6月に処せられたというものであり,同被告人
は,上記の前科により服役し,平成9年6月25日にその刑の執行を終了した。
(2) 被告人Bの生い立ち等
被告人Bは,平成3年に中学校を卒業した後,自動販売機関係の会社に就職したが,平成10年に窃盗,
窃盗未遂の罪(自動販売機荒らし)で逮捕され,懲役1年執行猶予3年の有罪判決を受けたことをきっかけ
に解雇され,その後,運送会社でアルバイトとして稼働したが,平成11年秋に覚せい剤取締法違反の容
疑で逮捕されたことから失職し,以後,本件に至るまで無為徒食の生活を送っていた。
(3) 被告人両名の関係
被告人両名は,平成10年6月ころ,被告人Aが京都府伏見警察署に留置されていた際に知り合ったξな
る男を介して,同人が京都拘置所内で知り合った被告人Bの紹介を受け,同被告人がξの伝言を被告人
Aに伝えたことから知り合った。
その後,被告人Aは,被告人Bと一緒に食事をしたり,同被告人に有償で運転手を依頼したりするなどして
つき合いを続けていたが,本件直前ころは,被告人両名間の音信が途絶えていた。
(4) 判示第3の2及び3の神戸駅前店及び元町店襲撃の各犯行(以下「本件各犯行」という。)に至る経緯

① 平成12年2月29日から同年3月1日(犯行前日)の被告人両名の行動等
被告人Aは,平成12年2月29日午前3時ころ,被告人Bの当時の住居を訪れ,同被告人に対し,運転手
役をしてくれるよう依頼したところ,当時金銭に困っていた同被告人は,それまでにも被告人Aの依頼で運
転手をしたことがあったことから,この依頼を承諾した。被告人Aは,被告人Bに対し,二,三日営業をでき
ないようにしたい店があり,そのためにガソリンを抜いて火炎びんを作るため,給油ポンプと歯磨粉を買って
おくように指示した。被告人Bは,被告人Aの指示のとおり,給油ポンプ及び歯磨粉等を用意した上,京都
市山科区内の駐車場で被告人Aと落ち合い,同日午後10時ころ,被告人Bの軽四輪自動車からガソリン
を抜いてポリタンクに移した後,同車にポリタンクや給油ポンプ,変装用の服等を積み込んで,出発した。
被告人両名は,同年3月1日午前零時ころ,京都市伏見区内の農道で,上記ガソリンとジュースの空きび
ん,ぼろ布で作った火炎びん2本を投てきする実験をした後,神戸に向かった。その途中,被告人Aは携
帯電話でだれかと話をした後,被告人Bに対し,実行役をしてくれるよう依頼したところ,同被告人は,少な
くとも30万円の報酬を得ることができるということから,これを引き受けることとした。
被告人両名は,犯行を隠匿するために,ナンバープレートを付け替えることとし,判示第2のナンバープレ
ート窃盗の犯行を行った。
その後,被告人両名は,襲撃するテレホンクラブの下見をした上,一升びんやウィスキーのびんを用いて
火炎びんを製造し,襲撃の機会をうかがったが,警戒されているように感じて逡巡するうち,午前5時ころに
なったため,襲撃を断念し京都に戻った。
② 同月1日から同月2日(本件各犯行まで)の被告人両名の行動等
同月1日午後11時30分ころ,被告人両名は,再び上記の駐車場で落ち合って,被告人Aが使用していた
車で神戸に向かい,同年3月2日午前2時ころ,神戸市中央区の三宮にあるホテル付近でMと落ち合っ
た。
そして,被告人両名及びMは,同日午前2時半ころ,判示第3の1のナンバープレート窃盗を行うとともに,
付近の車からガソリン約10リットルを抜き取り,盗んだナンバープレートを車に取り付け,酒屋の前に置い
てあった清酒一升びんを用いて火炎びん6本を製造した。
そして,再度神戸駅前店,花隈店,元町店がいずれも営業中であることを確認した上で,神戸駅前店への
襲撃を実行に移すこととしたが,被告人Aが実行役を渋ったことから,被告人Bは一人で火炎びんを投げ
込んで神戸駅前店を襲撃することにして,判示第3の2の神戸駅前店襲撃の犯行に及んだ。
その後,被告人Aの指示により花隈店前に赴いたが,同店の前に人が乗っている普通乗用車が1台停車
していたため,襲撃を断念して,元町店に向かい,被告人両名において判示第3の3の元町店襲撃の犯行
に及んだ。
③ 本件各犯行後の状況等
判示第3の3の元町店襲撃の犯行後,被告人Bは,急いで階段を駆け下りて車に戻り,後部座席に駆け込
んだところ,その数秒後に後部座席に被告人Aが戻ってきたが,同被告人の足には火が付いていた。
被告人両名及びMは逃走を開始したが,被告人Aの足の火が消えないので,少し走ったところで停車し
て,車外で同被告人のズボン,下着等を脱がせるとともに,火炎びん製造の際に使用した石油ポンプ等を
投棄して,逃走した。
その後,被告人両名及びMは,犯行に使用した残りの火炎びん等を海中に投棄するなどした上,被告人
Aが,知人と連絡を取り合いながら,広島市内の病院に入院する手はずを整え,被告人両名は,Mと別れ
て広島方面へ逃走した。
被告人Aは,村口文男の偽名を用いて広島市内の病院に入院し,入院先の病院で,被告人Bに対し,現
金45万円を交付するとともに,別に妻や内妻へ合計190万円の振込入金を依頼した。
このころ,被告人Bは,犯行時に着用したトレーナー等の衣類等の証拠物を山中に投棄するなどの罪証隠
滅工作を行った。
3 量刑上考慮した事情
(1) 不利な事情
ア 本件各犯行の動機及び計画性
本件各犯行に至る経緯等については,上記2に述べたところに加え,上記(判示第3の2及び3の各事実に
関する事実認定の補足説明)の項中の関係箇所において述べたとおりであるが,被告人両名及びMが本
件各犯行に及んだ動機,目的については被告人Aが詳細な供述を拒んでおり,Mが現時点においても逃
走中であることから判然としないものの,本件には被告人両名にMを含めた複数の共犯者が関与している
こと,本件各犯行前にMと被告人Aの間で事前の打合せが行われていたことが推認できることなどから,本
件は,何らかの組織的な背景のもとに,aに対して制裁ないし嫌がらせを加える動機,目的で敢行されたも
のであったことが強くうかがわれ,このような動機,目的は極めて理不尽であるのみならず,反社会的要素
が強いものであって,酌むべきものは全くない。
また,被告人両名は,本件各犯行の前日から本件各犯行の直前に至るまで,幾度となく,被害店舗が営業
しているかどうかや店員が不審者を警戒しているかどうかといった各店舗の状況を入念にうかがい,各店舗
を襲撃するに際し,被告人Bが火炎びんを投てきし,Mが運転手役をするといった役割分担を決めた上で
本件各犯行を敢行したものであって,本件各犯行が事前の計画に基づいて行われたことは明らかである。
イ 本件各犯行の態様
そして,本件各犯行の態様は,神戸駅前店襲撃の犯行にあってはJR線の鉄道ガード下,元町店襲撃の犯
行にあっては昭和40年建築の鉄骨造3階建て雑居ビルの2階及び3階部分にある,いずれもかなり狭い
通路しかない構造であり,消火,排煙設備等が不十分であった営業中のテレホンクラブ店舗に対して,未
明の午前5時過ぎころ,危険な引火性液体であるガソリンを一升びんにほぼ満タンまで充てんするなどして
準備した火炎びんに着火した上で,各店舗とも外部と通じるほぼ唯一の通路である出入口付近に投てきし
て発火,炎上させた結果,火災を発生させたものであり,その実行行為それ自体,店舗内の店員,客の生
命,身体の安全を脅かす極めて危険性の高いものであって,悪質極まりない。
特に,元町店襲撃に際しては,被告人両名においてそれぞれ火炎びん1本ずつ,合計2本の火炎びんを
投てきしており,現実に4名の死者を出していることから,この実行行為の危険性は神戸駅前店襲撃の際
のそれと比して,一層危険かつ悪質である。
ウ 結果の重大性
(ア) さらに,被告人両名は,元町店襲撃により,本件当時,たまたま元町店を利用していた何ら落ち度の
ない男性客4名の尊い人命を無惨に奪ったものである。
(イ) 被害者αは,空調設備会社に勤める当時31歳の会社員であり,妻と男児1名(当時10か月)ととも
に,新築分譲マンションを購入してその完成を心待ちにして暮らしており,平成12年3月1日午後11時半
過ぎころ,妻に電話で,子供の様子を尋ねるなど,非常に家族思いであった。そして,同日は,仕事の関
係で帰宅が遅れたため,元町店をホテル代わりに利用したところ,本件被害にあった。
(ウ) 被害者βは,当時30歳の会社員であり,繊維製造等の業務に従事し,妻との間に二人の子供(当時
3歳の長女と当時10か月の長男)に恵まれて暮らしていたものであり,高圧ガス取扱責任者の資格を取得
するために勉学に励み,3月1日から3日間の予定で試験のための講習を受けていたところ,同日夜,三宮
で同僚と飲食を共にするなどした後,元町店を利用していたところ,本件被害にあった。
(エ) 被害者γは,当時23歳の青年であり,兵庫県美方郡浜坂町内で成長し,造園関係の専門学校を卒
業後,平成11年9月ころまで造園会社数社に勤務するなどしていたもので,本件被害当時ころの生活状
況等は不明であるが,母には3年後には郷里に帰ると言っていたところ,本件被害にあった。
(オ) 被害者δは,当時29歳の青年であり,自宅療養を続ける祖母の介護をしながら,介護の資格を取り,
その方面の職に就きたいと考えていたところ,本件被害にあった。
(カ) これら元町店内で死亡した被害者α,β,γ及びδの4名は,いずれも比較的若い男性であり,元町
店の個室内で仮眠を取るなどしていたところ,本件被害にあい,火災による停電のため一寸先も見えない
暗やみの中,いずれの死亡被害者も必死に脱出口を求めて,狭隘な通路にひしめき合い,一酸化炭素等
の有毒ガスを含んだ高温の煙に巻かれ,何らかの行動をとるいとまもなく,重なり合うようにしてその場に倒
れ,力尽きたものと思われ,いずれの死亡被害者も広範囲に火傷を負い,身体の露出部はすすまみれに
なったばかりか,表皮もはく離し,その着衣も高温のため表面が焼けただれた状態になった見るも無惨な
姿で,前途ある生涯を終えざるを得なかったものであり,その苦痛は計り知れない。また,このとき,死亡被
害者が,自らの帰宅を待つ妻子や親などの家族に対して抱いた想い,そして,家族や友人,仕事を残し
て,無惨な死を遂げざるを得なくなったことの無念さは,誠に不びんで,察するに余りある。
そして,いずれの死亡被害者も,被告人両名やaとの利害関係は一切なく,単に元町店に利用客として居
合わせたにすぎず,全く落ち度はない。
(キ) さらに,死亡被害者の遺族らは,皆一様に,何の落ち度もないのに突然無惨な死を遂げざるを得なく
なった死亡被害者らの無念を思うと胸が張り裂けんばかりである,家族の楽しい生活を返してほしいなど
と,被告人両名に対するやり場のない激しい怒り,憤り,憎しみをあらわにしている。
ことに,被害者γの母親は,当公判廷において,息子が本件で死亡して3年がたとうとするが,いつもその
姿が思い出されることや裁判所まで片道4時間かけて五,六回を除く全公判を傍聴した動機などについ
て,被害者γへの母としての思いを切々と述べ,平成15年2月上旬に,被告人両名の弁護人から送付さ
れた100万円在中の現金書留を公判廷で弁護人にそのまま突き返すなど,その遺族感情は誠に峻烈で
ある。
(ク) 加えて,元町店で辛うじて難を逃れ,九死に一生を得た店員Zは約3日間の加療を必要とする右手指
挫創等の傷害を,店員Wは約7日間の加療を必要とする右手掌熱傷の傷害を負い,特に客のεは顔,両
上肢に約40日間もの加療を必要とする重い熱傷を負い,火傷の程度がひどかった左手の小指の皮膚が
突っ張って,以前のように動かなくなり,握力も低下し,調理師としての仕事に不自由を感じるなどの影響
が生じているばかりか,事件時の恐怖感がぬぐえないなどの精神的な後遺症も残っている。また,神戸駅
前店の店員Sも約9日間の加療を必要とする顔面・右手の熱傷を負うなど,生き残った被害者も,心身両面
でかなりの痛手を負っており,その被害感情にも相当厳しいものがある。
(ケ) その上,本件各犯行により,神戸駅前店ではレジスター,電話機,ビデオラック,ビデオテープなどが
焼けただれ,合計275万7398円の損害を被り,2日間の休業を余儀なくされ,元町店にあっては店舗その
ものがほぼ全焼し,合計1436万7346円に上る損害を負い,営業の継続を断念せざるを得ない状況に陥
るなど,本件各犯行による経済的な損害も到底軽視することはできない。
(コ) (ア)ないし(ケ)の各事情を総合すると,本件各犯行の結果は極めて重大である。
エ 本件各犯行の社会的影響
加えて,本件各犯行は,系列テレホンクラブ2店舗に,未明に連続して火炎びんが投てきされ,その結果,
4名の利用客が死亡した誠に衝撃的な凶悪,重大事案であり,その理不尽さ,事案の特殊性ゆえ,本件各
犯行直後,大々的に報道されるなど,本件各犯行が一般社会に与えた影響,動揺にはかなり大きいもの
がある。
オ 各被告人個別の事情
(ア) 被告人Aについて
被告人Aは,本件の一連の犯行において,知人の被告人Bをa襲撃の各犯行に引き込んだばかりか,火炎
びんを用いるという各店舗の襲撃方法を発案し,火炎びんの投てき実験や本件各店舗の下見等を重ね,
元町店襲撃に際しては,自らも火炎びん1本を投てきするなど,終始主導的立場にあって各犯行に関与し
たものである。
そして,被告人Aは,本件各犯行後,元妻と内妻に合計190万円を送金したばかりか,共犯者のMから入
院先の病院で100万円を受け取ったというのであって,本件各犯行の動機は利欲的なものであって,結果
的に,現実に利得していることが推察され,その犯情は非常に悪質である。
さらに,被告人Aは,知人の暴力団員の債権回収に絡み,判示第1の暴力行為等処罰に関する法律違反
の罪にも関与し,その動機に全く酌むべきものがないことはもとより,犯行態様も一人の被害者に対して,3
人でよってたかって執拗に暴行を加えたものであって,悪質である。
また,被告人Aは,前科前歴多数を有し,ことに累犯前科として掲げた前刑は,総会屋にき然とした対応を
した会社重役宅に,総会屋と共謀して火炎びんを投てきするという本件と酷似した事案であり,同被告人の
規範意識は欠如しているというほかない。
加えて,被告人Aは,当公判廷において,判示第1,第2及び第3の1の各犯行については事実関係を認
め,判示第3の2及び3の各犯行についても一応の反省の言を述べるものの,逮捕直後から公判の最終段
階に至るまで,本件の背景事情や自己の利得状況等の重要な部分に関する具体的な供述を拒んでいた
のであって,そのことが本件事案の全ぼう解明に大きな妨げとなったことは否定できない。
(イ) 被告人Bについて
被告人Bは,本件各犯行において,神戸駅前店及び元町店の両店舗に,火炎びん1本ずつ合計2本を投
てきし,火炎びん投てきの実行行為を担ったもので,その役割は非常に大きいものがある。
また,被告人Bは,被告人Aに誘われるまま,たかだか約30万円の報酬を目当てに,極めて安易に本件の
ような重大犯罪に関与し,自ら進んで火炎びん投てきの実行行為に及んだもので,その犯意は強固で,利
欲的なものであり,経緯,動機に酌むべき要素は何ら存しない。
また,被告人Bは,本件各犯行後,逃走先の被告人Aの入院先で,同被告人から現金45万円を受領し
て,現実に利得したものであって,その犯情は悪い。
加えて,被告人Bは,平成10年に窃盗,窃盗未遂(自動販売機荒らし)の各罪により,懲役1年,3年間執
行猶予の有罪判決を受け,その生活態度等を強く戒めなければならなかったにもかかわらず,その執行猶
予期間中に本件各犯罪事実を犯したものであって,その犯罪性向は以前より深化したものというほかな
い。
(2) 有利な事情
一方,本件各犯行,ことに元町店襲撃の犯行においては,本件各店舗の非常に狭隘な構造が,人的物的
被害の拡大に相当程度寄与したことは否定できないし,被告人両名で,死亡被害者β及び同δの各遺族
にそれぞれ50万円の弔慰金を支払い,100万円の贖罪寄付をするなど,被害弁償の姿勢は見られる。
また,被告人Aの生い立ちは不遇であり,同被告人の人格形成過程に同情の余地がないではなく,入所し
ていた施設職員から嘆願書が提出されていること,同被告人は,a襲撃の事実以外の犯罪事実については
おおむね認め,相応の反省の情を示した上で,元町店襲撃の犯行により死亡した被害者らの冥福を拘置
所内で祈っていること,献体を申し出て今後の社会への貢献の意思表示をしていることなど,同被告人の
ためにしん酌すべき事情もわずかながら認められる。
そして,被告人Bは,本件各犯行を含む犯罪事実全体について,捜査段階当初からおおむね客観的事実
関係を認め,当公判廷でも反省,謝罪の情を示していること,同被告人は,現在28歳と比較的若く,その
犯罪性向が以前より深化しているとはいえ,その規範意識が全く欠如しているとまではいえない。
4 小括
上記2で認定した本件各犯行に至る経緯等に加え,上記3でみた諸事情を総合して考慮すると,被告人A
の刑事責任は極めて重大であり,被告人Bの刑事責任も,被告人Aのそれに次ぐものとはいえ,同様に極
めて重大であるというべきであり,特に本件各犯行遂行に当たって終始主導的立場にあった被告人Aに対
しては,当然,死刑の選択も考慮されなければならない事案であるといわなければならない。
5 被告人Aに対する死刑選択の当否
(1) そこで,さらに進んで,被告人Aに対する死刑選択の当否を検討することとする。
(2) そもそも死刑は,尊厳な人間存在の根元である生命そのものを国家の手によって永遠に奪い去る,ま
さにあらゆる刑罰のうちで最も冷厳な刑罰であるから,犯行の罪質,動機,態様ことに殺害手段,方法の執
拗性・残虐性,結果の重大性ことに殺害された被害者の数,遺族の被害感情,社会的影響,犯人の年齢,
前科,犯行後の情状等各般の情状を併せ考察したとき,その罪責が誠に重大であって,罪刑の均衡の見
地からも一般予防の見地からも極刑がやむを得ないと認められる場合には,死刑の選択も許されると解さ
れる(最高裁昭和58年7月8日判決・刑集37巻6号609頁参照)。
(3) そこで,これを本件についてみると,被告人Aの本件各犯行は,前記のとおり,その罪質,動機,態
様,ことに殺害手段,方法の執拗性・残虐性,結果の重大性ことに殺害された被害者の数,遺族の被害感
情,社会的影響,犯人の年齢,前科,犯行後の情状等の事情を総合考慮すると,犯情は極めて悪質で,
同被告人の刑事責任は極めて重大であるというべきことは先に述べたとおりであり,共犯者である被告人B
に比して,より重い責任を負うべき面があることは否めない。
しかしながら,関係各証拠を総合すると,被告人Aが,本件各店舗を襲撃するに当たっては,数日間各店
舗の営業をできないようにすることに主たる目的があったと認められるのであって,認定した未必的な殺意
自体は否定しえないとはいえ,同被告人自身,本件で実際に発生した凄惨ともいえる多数の死傷者の発
生を意欲して行動したものではなく,むしろ,その結果は同被告人の意図したもの以上であったということ
ができ,この点は,大きな量刑要素として,考慮に値する。さらに,被告人Bも本件各犯行の実行行為の中
核部分である火炎びん投てきを行い,被告人Aとほぼ同様に本件各犯行に荷担しているのであり,また,
上記した同被告人のためにしん酌すべき事情がなお存するのであるから,これらの事情を加えて,量刑上
考慮した諸事情を再度,総合的に検討し,本件各犯行遂行における各被告人の役割,地位等の事情を加
味すると,被告人Aについて,被告人Bとの間に,死刑と無期懲役刑という全く次元の異なる刑をもって臨
まなければならないほどの差異があるとはいい難い。
もとより,被告人Bに比して,より重い責任を負うべき被告人Aに対し,被告人Bと同じ無期懲役刑に処する
ことについては,共犯者間の刑の均衡という点から疑問の余地があるとしても,刑期が一義的に明示される
有期懲役刑と異なり,無期懲役刑は,懲役刑の中では最も重く,かつ,無期懲役刑に処せられるべきもの
に包含される事案は相当範囲が広くならざるを得ないという,無期懲役刑の特殊性にかんがみると,被告
人両名に同じ刑をもって臨むことは不合理とはいえない。
(4) そうすると,本件において,被告人Aについては,その罪責が誠に重大であって,罪刑の均衡の見地
からも一般予防の見地からも極刑がやむを得ないと認められる場合に該当するとまではいい難く,同被告
人に対しては無期懲役刑をもって臨むのが相当である。
6 結論
以上のとおりであるから,被告人両名に,その生涯をかけて各被害者の冥福を祈らせるとともに贖罪の日
々を送らせ,その期間を通じ,本件についての反省,悔悟を深めさせるため,被告人両名をそれぞれ無期
懲役に処することとする。
(求刑・被告人Aについて死刑,被告人Bについて無期懲役)
平成15年11月27日
神戸地方裁判所第4刑事部
 
 
裁判長裁判官   笹野明義
 
 
裁判官   浦島高広
 
 
裁判官   谷口吉伸

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