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平成12年(ワ)第6322号 特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成14年3月4日
判決
原告   日本繊食有限会社
原告   A
原告両名訴訟代理人弁護士   小林淳郎
被告   ハタノヤ株式会社
訴訟代理人弁護士   五藤昭雄
補佐人弁理士   小林正治
主文
1 被告は、別紙目皿目録記載の製品の生産、使用、譲渡、貸渡し、若しくは輸
入又はその譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。
2 被告は、別紙目皿目録記載の製品及びその半製品(別紙目皿目録記載の製品
の構造を具備しているが、未だ製品として完成していないもの)を廃棄せよ。
3 被告は、原告日本繊食有限会社に対し、金16万3100円及びこれに対す
る平成12年6月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告は、原告Aに対し、金27万5750円及びこれに対する平成12年6
月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用は、これを2分し、その1を被告の負担とし、その余を原告らの負
担とする。
7 この判決の第1ないし第4項は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 主文第1項同旨。
2 主文第2項同旨。
3 被告は、原告日本繊食有限会社に対し、金100万円及びこれに対する平成
12年6月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告は、原告Aに対し、金100万円及びこれに対する平成12年6月27
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、「筋組織状こんにゃくの製造方法及びそれに用いる製造装置」の特
許発明の特許権者及びその専用実施権者である原告らが被告に対し、被告の販売す
るこんにゃく製造用目皿は、①主位的に同特許発明の技術的範囲に属することを理
由とし、②予備的に同特許発明の実施にのみ用いられるものであることを理由とし
て、同目皿の生産等の差止め等と、同特許権及び仮保護の権利の侵害に基づく損害
賠償を請求した事案である。
1 争いのない事実等
(1) 原告Aは、次の特許権(以下「本件特許権」といい、特許請求の範囲請求
項2の特許発明を「本件発明」、本件特許権に係る明細書を「本件明細書」とい
う。)を有しているところ、平成8年3月6日に原告日本繊食有限会社(以下「原
告日本繊食」という。)に対し専用実施権を設定し、同年4月22日にその旨の登
録を経由した。なお、本件発明については、Bにより特許出願されたものである
が、原告Aが特許を受ける権利を承継し、平成6年2月25日に特許庁長官に届出
をして、出願人名義が原告Aに変更された。
ア 発明の名称 筋組織状こんにゃくの製造方法及びそれに用いる製造装置
イ 特許番号 第1912343号
ウ 出願日 昭和61年3月1日(特願昭61-44489号)
エ 公開日 昭和62年9月5日(特開昭62-201555号)
オ 公告日 平成6年5月18日(特公平6-36727号)
カ 登録日 平成7年3月9日
キ 特許請求の範囲は、別紙特許公報(甲1)該当欄記載のとおりである。
ク 本件発明の構成要件は、次のとおり分説するのが相当である。
【請求項2】
A ホッパー中に投入されたこんにゃくのりを多孔のノズルから押出す押
出装置において、
B 前記ノズルを平行ノズルとしてその押出し孔間隙(a)を3㎜以下に小、
又はノズル押出し直後の糸状こんにゃくのり間のすき間(c)が3㎜以下の小さい傾斜
ノズルとし、
C 押出し後の圧力開放により糸状こんにゃくのりが膨張して糸状こんに
ゃくのり同志がゲル化前の短時間のうちに外力を加えることなく接して一体化する
ようにしてなることを
D 特徴とする筋組織状こんにゃくの製造装置。
(2) 被告は、少なくとも平成7年3月以降、別紙目皿目録記載の目皿(以下
「被告目皿」という。)を製造、販売している。
 被告目皿は、こんにゃく製造業者において、ホッパー中に投入されたこん
にゃくのりを連通孔のノズルから押し出すこんにゃく押出し装置に装着され、この
装置は帯状の薄肉こんにゃくを製造する製造装置として使用される(この装置で製
造されるこんにゃくが本件発明にいう「筋組織状こんにゃく」に当たるかどうかは
争いがある。)。
 被告目皿は、構成要件Aのうちノズルが「多孔」であるとの要件を除くそ
の余の構成要件、及び構成要件Bを充足する。
2 争点
(1)ア 「こんにゃくの製造装置」(構成要件D)とは、目皿のみを意味するの
か、製造装置全体を意味するのか。
イ 仮に「筋組織状こんにゃくの製造装置」(構成要件D)が製造装置全体
を意味するとした場合、被告目皿はこんにゃくの製造装置の生産にのみ使用される
ものか。
(2) 被告目皿により製造されるこんにゃくは、「筋組織状こんにゃく」(構成
要件D)との構成を備えているか。
(3) 被告目皿は、「多孔のノズル」(構成要件A)を備え、「押出し後の圧力
開放により糸状こんにゃくのりが膨張して糸状こんにゃくのり同志がゲル化前の短
時間のうちに外力を加えることなく接して一体化するようにしてなる」(構成要件
C)との構成を備えているか。
(4) 仮に被告目皿が上記構成を文言上備えていない場合に、均等として被告目
皿は本件発明の技術的範囲に属するか。
(5) 損害の発生及び額
第3 争点に関する当事者の主張
1(1) 争点(1)ア(構成要件Dの「こんにゃくの製造装置」の充足性)について
〔原告らの主張〕
 構成要件Dの「こんにゃくの製造装置」とは、目皿のみを意味すると解す
べきであるから、被告目皿は、同構成を備えている。
〔被告の主張〕
 構成要件Dの「こんにゃくの製造装置」とは、製造装置全体を意味すると
解すべきであるから、被告目皿は製造装置ではない。
(2) 争点(1)イ(間接侵害の成否)について
〔原告らの主張〕
 被告目皿は、こんにゃく押出装置のみに装着されるものであり、社会通念
上、それ以外には用途がない。被告目皿を装着したこんにゃく押出装置は、構成要
件Dの「こんにゃくの製造装置」に該当する。
〔被告の主張〕
 被告目皿がこんにゃく押出装置に装着されるものであることは認めるが、
原告らのその余の主張は争う。
2 争点(2)(構成要件Dの「筋組織状こんにゃく」の充足性)について
〔原告らの主張〕
 構成要件Dの「筋組織状こんにゃく」とは、本件発明を実施して製造され
るこんにゃくの断面形状まで特定したものではない。主孔がジグザグ状に配置され
た被告目皿によって製造される帯状こんにゃくも、「筋組織状こんにゃく」との構
成を備えているというべきである。
 被告は、「筋組織状こんにゃく」とは束状又は多層のこんにゃくを意味す
ると解すべきである旨主張するが、本件明細書中にはそのように限定する旨の記載
はない。
 また、被告は、上記のように解釈すべき理由として、「表面筋状薄肉こん
にゃく」の考案に係る実用新案登録出願(実願昭63-124955号)(以下
「別件実用新案」という。)の出願手続において原告Aが提出した意見書の記載部
分を挙げるが、同記載部分は、本件明細書中に「束状、中空状とは異なる表面筋状
薄肉こんにゃく」の具体的記載がないとの事実を述べたにすぎないし、別件実用新
案権は本件明細書には記載のない、味、食感、外見に関する作用や効果も評価され
て登録されたものである。別件実用新案権の出願経緯に基づき本件明細書の特許請
求の範囲の記載を限定して解釈しなければならないいわれはなく、被告の主張は特
許法70条を無視したもので失当である。
〔被告の主張〕
 構成要件Dの「筋組織状こんにゃく」とは、「筋組織状」との文言及び本
件明細書の実施例の記載からも明らかなように、多孔(孔の形態は問わない。)の
ノズルから吐出される糸状こんにゃくのりを束状に収束一体化したもの、あるい
は、多層のスリット状のノズルからこんにゃくのりを吐出させた多層構造のものを
意味すると解すべきであり、帯状の筋状薄肉こんにゃくは含まれない。
 原告Aは、同原告を出願人とする別件実用新案の登録出願手続において、
本件特許出願に係る公開特許公報を引用例とする拒絶理由通知を受け、平成6年7
月12日付意見書(乙2添附資料6)において、別件実用新案の技術は「薄くて扁
平な帯状(リボン状)又は筒状(マカロニ状)のこんにゃく」であり、本件発明の
技術は「束状のこんにゃく」であるから明らかに異なる旨を指摘して、別件実用新
案につき登録を得た経緯があり、この経緯からも、「筋組織状こんにゃく」が「束
状」又は「多層」からなるこんにゃくを意味するものと解すべきことは明らかであ
る。
 被告目皿は、専ら、帯状の薄肉こんにゃくの成型を目的とする連通孔付目
皿であって、本件発明にいう「筋組織状こんにゃく」の製造に用いられるものでは
ない。
3 争点(3)(構成要件Aの「多孔のノズル」及び構成要件Cの充足性)について
〔原告らの主張〕
(1) 被告目皿は、多数の主孔を有しており、構成要件Aの「多孔のノズル」と
の構成を備えている。被告目皿の主孔の間に設けられた連通孔は、本件発明の付加
的構成にすぎない。
 また、被告目皿は、主孔部分と連通孔部分とから成る連通孔付目皿である
が、被告目皿を用いてこんにゃくのりを押し出した場合、こんにゃくのりは、連通
孔部分からほとんど吐出されず、主孔から吐出されたこんにゃくのりが膨張して糸
状こんにゃくのり同志がゲル化前の短時間のうちに外力を加えることなく接して一
体化するものであり、被告目皿には、主孔に連通孔を付加することによって生ずる
新たな作用効果は全くないから、被告目皿は構成要件Cを備えている。
(2) 被告の主張に対し、次のとおり反論する。
ア 被告は、本件発明において、押出し孔から吐出された多数本の糸状こん
にゃくのり同士が接するのは、押出後の圧力開放により糸状こんにゃくのり同士が
膨張して接するのではなく、圧力開放された糸状こんにゃくのり同士の「揺動」に
よるものであると主張するが、本件発明の構成に含まれない別の構成を持ち出して
技術的範囲の属否を判断すべきではないから、被告の主張は理由がない。
イ 被告は、連通孔付目皿ではバラス効果により糸状こんにゃくのりの直径
が25%膨張し、単独孔目皿では糸状こんにゃくのりの直径は、吐出後、糸状こん
にゃくのり自体の自重による引張力のため、バラス効果による膨張よりも6%程度
細くなると主張するが、連通孔付目皿と単独孔目皿との間にそのような差異が生じ
ることの理論的根拠が不明であり、また同所見のもととなった実験(検乙1)の実
験条件が明らかではない。
ウ 被告は、水面から0.5㎝の高さあるいは水中でこんにゃくのりを吐出さ
せた場合のこんにゃくのりの挙動の違いを主張するが、そのような条件下でこんに
ゃくのりを吐出させることは現実に行われるものでもないし、本件発明の構成に記
載される条件でもないから、被告の主張は理由がない。
エ 被告は、連通孔付目皿から吐出されたこんにゃくのりは線接合している
のに対し、単独孔目皿から吐出されたものは点接合していると主張しているが、単
独孔目皿においてもこんにゃくのりは点で接合するものではない。
〔被告の主張〕
(1) 本件発明の基本的特徴部分は、①ノズル押出直後の多数本の糸状こんにゃ
くのり同士が押出圧力開放により膨張しゲル化前の短時間のうちに外力を加えるこ
となく接する点、②そのため押出し孔の間隙を3㎜以下とした点にある。しかしな
がら、押出し孔の間隙を3㎜以下とする単独孔目皿の押出し孔から吐出された多数
本の糸状こんにゃくのり同士が接するのは、押出後の圧力開放により糸状こんにゃ
くのり同士が膨張し、短時間のうちに外力を加えることなく接するためではなく、
圧力開放された糸状こんにゃくのり同士の「揺動」によるものである。
 これに対し、被告目皿は、孔の間に切込みがある連通孔付目皿であって、
連通孔から吐出されるこんにゃくのりは、主孔部分と連通孔部分から一体となって
吐出されるから、押出直後の圧力開放においても、糸状こんにゃくのりが膨張によ
り接合する現象自体が存在しない。
(2) 原告は、被告目皿の連通孔は本件発明の付加的構成にすぎないと主張す
る。しかし、単独孔目皿と被告目皿(連通孔付目皿)との両目皿の吐出口における
押出開放後のこんにゃくのりの流動挙動には、上記(1)のほか次のとおり歴然とした
差異がある。
ア 被告目皿から吐出される糸状こんにゃくのりの直径は、バラス効果(こ
んにゃくのりのような粘弾性流体が、流路管出口から大気中に放出されると、管の
径より流体の径の方が大きくなる現象)により、約25%増加するのに対し、単独
孔目皿による糸状こんにゃくのりの直径は、吐出後、糸状こんにゃくのり自体の自
重による引張力のため、バラス効果による膨張よりも6%程度細くなる。
イ 水面から0.5㎝の高さあるいは水中でこんにゃくのりを吐出させた場
合、単独孔目皿では、こんにゃくのりの表面に被膜が形成されて粘着性が低下する
ため、糸状こんにゃくのり同士が接合する現象は見られない。これに対し、連通孔
付目皿の場合は、上記条件の下でも、こんにゃくのりが帯状に吐出される。
 上記事実は、連通孔部分からも帯状こんにゃくのりの形成に必要な量の
こんにゃくのりが吐出されていること、連通孔付目皿を用いた場合に帯状こんにゃ
くのりが形成されるのは、圧力開放による開放直後の膨張に起因して糸状こんにゃ
くのりが一体化するものではなく、こんにゃくのりが主孔と連通孔から連結一体化
して押し出されるためであることを示している。連通孔部分からこんにゃくのりが
ほとんど吐出されないとの原告らの主張は、独断にすぎない。
ウ 目皿から吐出されるこんにゃくのりの横断面の幾何学的接合状態は、被
告目皿では線接合であるのに対し、単独孔目皿では点接合である。
 成形品の断面を見ると、被告目皿の場合は、連通孔部分から吐出される
こんにゃくのりのため接合部分が幅広であるのに対し、単独孔目皿の場合は、ビー
ズをジグザグに連ねたようになっている。
(3) したがって、被告目皿は、主孔と連通孔が連続していて独立孔とはいえな
いから「多孔のノズル」(構成要件A)を備えていないし、「押出し後の圧力開放
により糸状こんにゃくのりが膨張して糸状こんにゃくのり同志がゲル化前の短時間
のうちに外力を加えることなく接して一体化するようにしてなる」(構成要件C)
との構成を備えていない。
4 争点(4)(均等の成否)について
〔原告らの主張〕
 仮に被告目皿が連通孔を有することから、文言上「多孔のノズル」(構成要
件A)を備えていないとしても、被告目皿は、次のとおり、本件発明の構成と均等
であり、その技術的範囲に属するものというべきである。
(1) 非本質的部分について
 本件発明の特徴的部分は、①ノズル押出直後の多数本の糸状こんにゃくの
り同士が押出圧力の開放により膨張しゲル化前の短時間のうちに外力を加えること
なく接する点、②そのために押出し孔の間隙を3㎜以下とした点にある。
 被告目皿は、隣接する主孔と主孔の間に連通孔部分があるが、塑性流動体
の特性上、細い連通孔部分からは、粘性のあるこんにゃくのりはほとんど流出しな
いし、主孔から押し出されたこんにゃくのりは流速が速いから、連通孔部分のそれ
より大きく膨張して拡がる。そして、被告目皿の主孔の間隙は1㎜以下であって、
主孔から押し出されたこんにゃくのりは、吐出膨張のみによって接触一体化する。
 したがって、被告目皿は、上記の本件発明の特徴的部分を有しており、被
告目皿に連通孔部分があることは、筋組織状こんにゃくを製造するためには意味の
ないものである。両者において異なる部分である目皿の連通孔の有無は、本件発明
の本質的部分ではない。
(2) 置換可能性について
 上記のとおり、単独孔目皿を連通孔付目皿に置き換えても、同一の作用効
果を奏するものであり、置換可能性がある。
(3) 置換容易性について
 被告が被告目皿の製造販売を開始した時点以前の、昭和62年に本件発明
は公開されていた。被告は平成3年ころから平成6年6月ころまで単独孔目皿を製
造していたが、本件特許権に抵触するおそれがあると考えて、単独孔目皿の製造を
中止し、時期を置かずして平成6年6月ころから連通孔の被告目皿の製造販売を早
速開始した。
 被告は、平成7年3月7日に「多条蒟蒻」の実用新案登録を出願し(実願
平7-2628号)、同年6月28日に登録となったが、特許庁審査官は同考案に
対して「進歩性を欠如されるものと判断されるおそれがある」と技術評価してい
る。
 以上の事情からすると、目皿の主孔の間に連通孔を設けることは、被告が
連通孔付目皿の製造販売を開始した時点において、当業者が容易に想到することが
できたといえる。
(4) 公知技術との関係について
 連通孔付目皿は、本件発明の特許出願がなされた昭和61年当時における
公知技術と同一ということもできないし、当業者が右出願時に公知技術から容易に
推考することができたものであるということもできない。
(5) 禁反言の法理について
 本件において、連通孔付目皿が、本件特許出願手続において、特許請求の
範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情はない。
 被告は、原告Aが別件実用新案の登録出願手続において、拒絶理由通知の
引用文献である実願昭54-57349号(実開昭55-157896号)のマイ
クロフィルム(乙2添付資料9)に記載の「蒟蒻成形用簀板」の考案(以下「乙2
資料9考案」という。)と別件実用新案公報の技術との製造工程の違いを強調した
経緯について主張するが、同引用文献の技術と連通孔付目皿とは形態・機能が全く
異なるものであるから、被告の主張は理由がない。
〔被告の主張〕
(1)ア 争点(3)に関する〔被告の主張〕の(2)イ記載のとおり、連通孔付目皿の
場合は、連通孔部分から、帯状こんにゃくのりの形成に必要な量のこんにゃくのり
が吐出され、これによって一体化した帯状こんにゃくのりが形成されるのである。
 本件発明は、①単独孔から糸状こんにゃくのりを圧力吐出させ、②圧力
吐出させた糸状こんにゃくのりのバラス効果によって隣同士を接合一体化して、帯
状こんにゃくのりを形成しようとするものであるが、連通孔付目皿の場合は、主孔
の間の連通孔部分からこんにゃくのりを吐出させて、初めから帯状こんにゃくのり
を一体となって形成しようとする技術思想であって、糸状こんにゃくのりは存在し
ないし、バラス効果によって糸状こんにゃくのり同士が接合一体化するという工程
は存在しない。
 連通孔付目皿から吐出されたこんにゃくのりの断面形状は別紙「こんに
ゃくのりの断面形状図」記載の参考図1のとおりであり、それが膨張した場合には
同別紙の参考図2の断面形状になるのに対し、単独孔目皿から吐出されたこんにゃ
くのりは同別紙の参考図3の断面形状になるのであるから、その差異は明白であ
る。
 こうした連通孔付目皿の技術思想は、目皿に任意形成の成形孔を開孔し
て所望のこんにゃくのりを形成しようとする乙2添付資料9考案に記載の「蒟蒻成
形用簀板」の考案の技術思想に近似するものである。
イ 争点(3)に関する〔被告の主張〕の(2)イ記載のとおり、本件発明の単独
孔目皿においては、目皿と水面との間に一定の間隔を設けなければ帯状こんにゃく
のりの形成は不可能であるのに対し、連通孔付目皿においては、そのような条件が
なくとも帯状こんにゃくのりを形成することができるという作用効果の差異があ
る。
 また、帯状のこんにゃくのりは長さが均一であることが望ましいが、こ
の長さを均一にするためには、目皿の位置を湯中に設定してこんにゃくのりを吐出
させ、吐出と同時に切断し、あるいは、少なくとも目皿を湯面から0.5㎝の高さに
設定してこんにゃくのりを吐出させて湯中に落とし、落とすと同時に切断すること
が必要であるところ、単独孔目皿においては、上記方法では帯状こんにゃくは形成
されず、こうした場面においては、両者の技術思想の本質的違いが顕著に表れる。
ウ したがって、本件発明の単独孔目皿と被告目皿の連通孔付目皿との差
異、すなわち主孔間の連通孔の有無は、本件発明の本質的な部分の違いである。
(2) 本件明細書の製造装置の実施例として、円盤板に孔間隙の最小値を0.5
㎜、孔径を1.5㎜とする円孔を多数開孔し(第2図)又は正四角板に孔間隙を0.
5㎜、孔径を1.5㎜とする正四角孔を多数開孔し(第3図)あるいは円盤板の直径
とその左右対称にスリットを設けたもの(第4図)が掲載され、その製造装置で形
成される製品は、複数条の糸状こんにゃくが束状に収束されたこんにゃく(第7図
の製品12)あるいは多層からなる帯状こんにゃく(第8図製品14)が記載され
ている。
 しかし、被告目皿によって形成されるこんにゃくは、一層からなる帯状の
筋状こんにゃくであるから、被告が注文を受けて被告目皿を製造販売した平成7年
3月当時、被告目皿の製造販売行為が、本件特許権の侵害になることなどは予想し
ていないし、予想可能性もない。このことは、当業者間においても同様である。
(3) 原告Aは、別件実用新案の登録出願手続において、乙2資料9考案を引用
例とする拒絶通知に対して平成5年1月14日付意見書(乙2添附資料11)を提
出したが、同意見書において、別件実用新案公報に記載の単独孔ノズルによる技術
と、同引用例に記載の初めから1本のリボン状に押し出す技術とが、製造工程が異
なるものであることを強調し、別件実用新案の登録に至った経緯がある。
 この出願手続に照らせば、原告Aは、本件発明のノズルは個々に独立した
ノズルからなる単独孔目皿を意味し、この単独孔目皿には連通孔付目皿は含まれな
いものと宣言していたものに他ならず、原告らが、被告目皿が、本件発明の構成と
均等なものとしてその技術的範囲に属すると主張することは、禁反言の原則に照ら
し許されない。
5 争点(5)(損害の発生及び額)について
〔原告らの主張〕
(1) 原告日本繊食の損害(合計281万円)
ア 被告は、平成8年4月22日から平成13年11月21日までの5年7
か月間に、1個5万円の被告目皿を1年当たり65個販売したから、その販売額は
約1810万円となる。
 本件発明の実施料は販売額の10%が相当であるから、特許法102条
3項により、原告日本繊食が被告に請求できる損害額は181万円である。
イ 弁護士費用 100万円
(2) 原告Aの損害(合計162万円)
ア 被告は、平成6年5月18日から平成8年4月21日までの1年11か
月間に、1個5万円の被告目皿を1年当たり65個販売したから、その販売額は約
620万円となる。
 本件発明の実施料は販売額の10%が相当であるから、特許法102条
3項により、原告Aが被告に請求できる損害額は62万円である。
イ 弁護士費用 100万円
(3) 原告らは、それぞれ上記各損害のうち100万円ずつを本訴において請求
する。
〔被告の主張〕
(1) 原告らの主張事実は否認する。
 被告が製造販売した被告目皿の数量及び販売金額は、平成7年3月から平
成8年4月21日までの期間が58枚(販売金額:251万5000円)、平成8
年4月22日以降は7枚(販売金額:26万2000円)である。
(2) 原告らは本件発明の実施料率を10%として損害を計算するが、その数値
は実施料率として相当なものではない。
第4 争点に対する判断
1(1) 争点(1)ア(構成要件Dの「こんにゃくの製造装置」の充足性)について
 本件発明は、特許請求の範囲の記載によれば、構成要件Aの構成を備えた
「こんにゃくのりをノズルから押出す押出装置」において、ノズルを構成要件Bの
構成のものとし、構成要件Cに規定するような機構で糸状こんにゃくのりを一体化
することを特徴とする「筋組織状こんにゃくの製造装置」(構成要件D)の発明で
あるから、本件発明の対象が「こんにゃくの製造装置」全体であることは明らかで
あり、ノズルは本件発明の構成の一部をなすものということができる。そして、本
件明細書及び図面(甲1)の記載と弁論の全趣旨によれば、本件において侵害差止
めの対象とされている「目皿」は、こんにゃくの製造装置における押出装置の先端
に設置され、そこからこんにゃくのりが押し出されるものであるから、本件発明
(構成要件A、B)にいう「ノズル」に相当するものというべきである。
 原告らは、「製造装置」は目皿のみを意味すると解すべきと主張するが、
本件明細書中に、そのような解釈を根拠付ける記載はない。
(2) 争点(1)イ(間接侵害の成否)について
 被告目皿がこんにゃくの製造装置に使用されるものであることは当事者間
に争いがなく、こんにゃく製造装置においては、目皿を押出装置に装着することに
よって、こんにゃくを製造することが可能になるものである。しかるところ、被告
目皿がこんにゃくの製造装置以外の他の実用的な用途に用いられることを認めるに
足りる証拠はないから、被告目皿はこんにゃく製造装置の生産にのみ使用されるも
のと認められる。
 そうすると、被告目皿をこんにゃくのりの押出装置に装着したこんにゃく
製造装置が本件発明の技術的範囲に属すると判断されれば、被告目皿の製造、販売
行為は、間接侵害(特許法102条1号)に該当することになるというべきである
(以下、被告目皿を装着したこんにゃくの製造装置を「被告製造装置」とい
う。)。
2 争点(2)(構成要件Dの「筋組織状こんにゃく」の充足性)について
(1) 被告は、「筋組織状こんにゃく」は、束状又は多層のスリット状のこんに
ゃくを意味し、被告目皿によって製造される帯状こんにゃくを含むものではないと
主張する。
 しかし、「筋組織状こんにゃく」との文言は、特許請求の範囲の記載から
は、それが意味する形状が必ずしも明らかではないものの、文言上、被告が主張す
るような束状又は多層のスリット状のこんにゃくのみを意味するものとはいえな
い。
 次に、本件明細書の【発明の詳細な説明】の記載を検討する(甲1)。
 〈産業上の利用分野〉の項には、「本発明はこんにゃく粉を原料として得
られる食品、詳しくは筋組織状こんにゃくの新規な製造方法及びそのための装置を
提供するものである。」(2欄7行~9行)と記載されている。
 〈従来の技術〉の項には、「こんにゃくは今日まで、板こんにゃく、糸こ
んにゃく等として長年に亘って食されてきた。…こんにゃくは我国独特の食品であ
り、低カロリー食品として注目を集めているものの、その食感に難があり、普及が
停滞しているようである。」(2欄11行~3欄2行)、「これに対しこれまでに、こ
んにゃく食品業界において種々の改良が行われてきた。…こんにゃくの風味、歯切
れ等を改良する試みは更になされ、糸状こんにゃくを集束することにより、従来得
られなかった製品を得る方法が提案されている」(3欄3行~14行)と記載されてい
る。
 〈発明が解決しようとする課題〉の項では、「糸状こんにゃくを集束する
ことにより従来にないこんにゃく製品を得る試みは…集束された多数本の糸状こん
にゃくの全てが部分的に結着されているものとか、端部又は中間部のみが結着され
ているものなどである。また、…多数本の糸状こんにゃくで被覆して集束一体化し
たものも提案されている。このような糸状こんにゃくの集束一体化のうちでも、各
糸状こんにゃくを接触する部分でのみ接着させて一体化させたもの及びその製法
は、…歯切れ等を良くする一手段として次第に評価されつつある」(3欄18行~
29行)、「しかし前記例示した従来技術はいずれも製法及びそのための装置が複雑
であった」(3欄30行~31行)、「(従来技術の一例では)ノズルの一般的な構造
は孔径1~3㎜φ、孔間隔10㎜程度である」(3欄39行~40行)と記載されてい
る。
 〈課題を解決するための手段〉の項には、「本発明者は、従来の糸状こん
にゃくの集束化が加熱ゲル化後に行われることにより…複雑な工程及び装置となっ
ており、このような複雑な工程及び装置によらずとも糸状こんにゃくを一体化可能
な方法及び装置について検討し、ここに本発明の完成をみたのである。その特徴と
する点は、ノズル押出し直後の多数本の糸状こんにゃくのり同志が押出し圧力の開
放により膨張しゲル化前の短時間のうちに外力を加えることなく接するように、ノ
ズルの押出し孔間隙を小、又はノズル押出し直後の成形体間のすき間を小さくした
ことにある。ノズルが平行ノズルの場合は押出し孔の間隙は3㎜以下がよく、又、
傾斜ノズルの場合にはノズル押出し直後の成形体間のすき間が3㎜以下となるよう
に出口押出し孔間隙(a)を設けるとよい」(3欄47行~4欄11行)と記載されてい
る。
 〈作用〉の項には、「本発明の方法及び装置によると、多数本の糸状こん
にゃくのり同志がノズル加圧押出し直後の圧力開放により膨張しゲル化前の短時間
のうちに接して、何ら外力を加えなくとも互いに接着する作用をし、これを加熱処
理するとゲル化し、一体化強度が大な筋組織状こんにゃく製品が得られる。また、
従来のように糸状こんにゃく表面の水を取る工程も必要としないので、工程及び装
置の簡略化が可能となる」(4欄17行~24行)と記載されている。
 〈発明の効果〉の項には、「本発明の筋組織状こんにゃくの製造方法及び
それに用いる製造装置は以上の通りであるから、従来の複雑な工程及び装置を一挙
に簡略化でき、低コストでこんにゃく製品の多様化を達成できた。このことによ
り、製品からのスライスにも分離する等の難点のない、しかも、歯切れのよい製品
が提供できることとなった」(7欄17行~8欄4行)と記載されている。
 上記記載からすれば、本件発明は、多数本の糸状こんにゃくを各糸状こん
にゃくが接触する部分でのみ接着させて集束一体化することにより、風味、歯切れ
等が改良された筋組織状こんにゃくを得る製造装置につき、従来技術では装置が複
雑であったのを改良して簡略化することを課題とし、従来の加熱ゲル化後に糸状こ
んにゃくを押圧して一体化する装置では、ノズルの孔間隔が10㎜程度であったの
を、平行ノズルの押出し孔間隙又は傾斜ノズルの押出し直後の成形体間のすき間を
3㎜以下と小さくする構成を採用したことにより、多数本の糸状こんにゃくのり同
士がノズル加圧押出し直後の圧力開放により膨張し、ゲル化前の短時間のうちに接
して何ら外力を加えなくとも互いに接着するようにし、その後の加熱処理によりゲ
ル化させるという簡略な装置によって、一体化強度が大きい筋組織状こんにゃく製
品が得られるとの作用効果を奏するものであることが認められる。
 そして、本件明細書の発明の詳細な説明の記載と、前記認定の本件発明の
作用効果に鑑みれば、構成要件Dにいう「筋組織状こんにゃく」とは、多数本の糸
状こんにゃくを接触する部分で接着させて集束一体化した構造のこんにゃくをいう
ものと解するのが相当である。
 なお、本件明細書の【発明の詳細な説明】の実施例の項には、本件発明の
押出装置を用いて得られた製品として、多孔のノズルから吐出される糸状こんにゃ
くのりが束状に収束一体化されたもの(別紙公報第7図)、あるいは、多層のスリ
ット状のノズルからこんにゃくのりを吐出させたテープ状ないし帯状の多層構造の
もの(同第8図)が示されているが、これらの形状に限定するような記載は本件明
細書中に窺われないから、本件発明の「筋組織状こんにゃく」が上記の実施例のよ
うな形状のものに限定されると解することはできない。
(2) 被告は、別件実用新案の登録出願手続において原告Aが提出した意見書の
記載によれば、本件発明の構成要件Dにいう「筋組織状こんにゃく」は、束状又は
多層のスリット状のこんにゃくに限定され、被告目皿により製造されるような帯状
又は筒状のこんにゃくを含まないと解すべきであると主張する。
 乙1添付資料8ないし10によれば、原告Aは、別件実用新案の登録出願
手続において、別件実用新案に係る考案は本件特許出願に係る公開特許公報記載の
考案に基づき当業者がきわめて容易に考案をすることができたとする拒絶理由通知
を受けて、平成6年7月12日付で意見書を提出し、同意見書中には、「引例(本
件特許出願に係る公開特許公報)には、たしかに、多孔のノズルから押出されたこ
んにゃくを一体化させることが記載されていますが、これは主に本願(別件実用新
案)第4図に示すような束状になったこんにゃくであり、薄くて扁平な帯状(リボ
ン状)又は筒状(マカロニ状)のこんにゃくは記載されていません。また、この表
面筋状薄肉こんにゃくは単なる帯状、束状あるいは中空状とは明確に異なる特別な
作用効果を有しているのでありますが、その示唆もありません。」との記載がある
ことが認められる。
 しかし、同意見書が本件発明とは別の別件実用新案登録出願手続におい
て、その出願人である原告Aの意見を述べたものであることを措くとしても、甲1
2、乙2添付資料1ないし5によれば、別件実用新案は、特定の形状ないし構造か
らなる「表面筋状薄肉こんにゃく」の考案であることが認められるのに対し、本件
発明は多数本の糸状こんにゃくのり同士を従来と異なる方法で一体化する装置に関
するものであって、別件実用新案のようにこんにゃくの特定形状を問題とするもの
ではない。上記意見書のこんにゃくの形状に関する記載内容は、別件実用新案の考
案に係る「表面筋状薄肉こんにゃく」の形状ないし構造が本件特許出願に係る公開
特許公報に示されたこんにゃくの形状ないし構造とちがうことをいうにすぎず、本
件発明において製造されるこんにゃくの形状について、帯状(リボン状)のものを
積極的に除外することを意図したものとは認められない。
(3) したがって、被告目皿により製造される帯状こんにゃくも構成要件Dにい
う「筋組織状こんにゃく」に該当し、被告製造装置は、「筋組織状こんにゃく」の
製造装置(構成要件D)との構成を備えているというべきである。
3 争点(3)(構成要件Aの「多孔のノズル」及び構成要件Cの充足性)について
(1) 構成要件A及びCの意義について
 構成要件Aでは「多孔のノズル」とされ、構成要件Cでは「糸状こんにゃ
くのりが膨張して糸状こんにゃくのり同士が…一体化する」とされている。これら
の文言に加え、前記2で認定した本件明細書の【発明の詳細な説明】の記載を考慮
すると、「多孔のノズル」とは、それぞれの孔から糸状こんにゃくのりが吐出され
るような独立した多数の孔を有するノズルを意味し、「糸状こんにゃくのりが膨張
して糸状こんにゃくのり同士が…一体化する」とは、当初は分離した状態でノズル
から吐出された糸状こんにゃくのりが、吐出後に膨張して互いに接触する部分で接
着することにより糸状こんにゃくのり同士が一体化することを意味するものと解さ
れる。
(2) 単独孔目皿と連通孔付目皿から吐出されるこんにゃくのりの挙動について
検討する。
ア 原告らが提出した証拠により認められる事実は次のとおりである。
(ア) 甲33~57によれば、次の事実が認められる(以下「原告実験
①」という。)。
a 実験結果
 直径1.2㎜の主孔の中心間の距離を1.72㎜及び1.81㎜、連通
孔幅を0.3㎜及び0.5㎜に設定した6個の単独孔目皿と連通孔付目皿を用いて、
こんにゃくのりを吐出させ、それぞれ吐出後のこんにゃくのりの平均径を求めた結
果は、下記表1のとおりである。
    (表1:主孔の直径はいずれも1.2㎜)
│目皿│主孔中心間│連通孔幅│吐出のりの│吐出膨張率│重複
幅│
││の距離││平均径││

││a(㎜)│b(㎜)│c(㎜)│c/1.2│
c-a(㎜)│
│①単独孔│1.72│-│1.99│1.66│0.27

│ 連通孔付│1.72│0.3│1.76│1.47│0.04

│②単独孔│1.81│-│2.13│1.77│0.32

│ 連通孔付│1.81│0.5│1.93│1.61│0.12

│③単独孔│1.72│-│2.43│2.03│0.71

│ 連通孔付│1.72│0.5│1.78│1.48│0.06

b これによれば、単独孔目皿の方が吐出膨張率が大きいものの、単独
孔目皿及び連通孔付目皿のいずれの目皿においても、主孔部分から吐出されたこん
にゃくのりは、隣接する主孔部分から吐出されたこんにゃくのりと接する程度に膨
張することが認められる。
(イ) また、甲26添付の技術検討書2によれば、次の事実が認められる
(以下「原告実験②」という。)。
a 直径1.2㎜の主孔を、その中心間の距離を1.8㎜~2.5㎜まで
0.1㎜刻みに設定した8種類(それぞれ9個の主孔をジグザグではなく横一列に並
べたもの)の単独孔ノズル部分を有する目皿を用いて、こんにゃくを製造したとこ
ろ、主孔中心間の距離が2.2㎜以下であれば隣接する糸状こんにゃくのりが接して
一体化し帯状となり、同距離が2.3㎜以上であれば、隣接する部分によっては糸状
こんにゃくのりが離れたままとなり、ばらけて一体化が不完全となった。
b これによれば、直径1.2㎜の単独孔目皿から吐出されるこんにゃく
のりは、糸状こんにゃくのりが完全に一体化する主孔中心間の最大間隔2.2㎜(主
孔間隙1㎜)まで膨張するということができる。
イ 一方、被告側が提出した証拠により認められる事実は次のとおりであ
る。
 こんにゃく製造工程に関する事実実験公正証書(乙4)によれば、平成
12年10月27日、被告は、公証人に検分を嘱託した上、下記表2記載の目皿を
用い、目皿の位置を水温65℃の温水の水面上5㎝、同0.5㎝、同温水中の3通り
に設定してこんにゃくのりを吐出させ、そのこんにゃくのりの形状、挙動を観察す
る実験を施行し、次の結果を得たことが認められる(以下「被告公正証書実験」と
いう。)。
                         (表2)
│目皿│主孔の直径│主孔中心間│連通孔幅│孔の数と並び方│
││(㎜)│の距離(㎜)│(㎜)││
│①連通孔付│1.2│1.72│0.5│12個(ジグザグ)│
│②単独孔│1.2│1.72│-│12個(ジグザグ)│
│③連通孔付│1.2│1.745│0.5│6個(一列)│
│④単独孔│1.2│1.745│-│6個(一列)│
a 連通孔付目皿(①、③)の場合
 目皿と水面のいずれの位置関係においても、こんにゃくのりは、6
筋の帯状となって、目皿から吐出された。
b 単独孔目皿(②、④)の場合
(a) 目皿の位置が水面上5㎝に設定された場合には、こんにゃくのり
が6筋の帯状で目皿から吐出された。
(b) 目皿の位置が水面上0.5㎝に設定された場合には、こんにゃく
のりが6筋の帯状で目皿から吐出されたものの、水中でばらばらの糸状となった。
(c) 目皿の位置が温水中に設定された場合には、こんにゃくのりは目
皿から糸状となって吐出された。
ウ 以上をもとに、単独孔目皿から吐出されるこんにゃくのりの挙動につい
て検討する。
(ア) 原告実験①、原告実験②及び被告公正証書実験において用いられた
単独孔目皿は、いずれも、本件発明の「ノズルを平行ノズルとしてその押出し孔間
隙(a)を3㎜以下に小…とし」との構成を充足するものである。
a 原告実験①によれば、主孔中心間の距離が1.72㎜及び1.81㎜
の単独孔目皿から吐出されたこんにゃくのりは、隣接する糸状こんにゃくのり同士
が接するほど膨張することを示している。また、原告実験②によれば、主張中心間
の距離が2.2㎜以下の単独孔目皿であれば、隣接する糸状こんにゃくのり同士が膨
張して接することを示している。
b 一方、被告公正証書実験の単独孔目皿を用いた実験結果によれば、
目皿の位置を温水の水面上0.5㎝に設定した場合及び温水中に設定した場合には、
吐出された糸状こんにゃくのり同士が、一体化する暇なく温水に浸漬したことによ
り一体化が妨げられたのに対して、目皿の位置を温水の水面上5㎝に設定した場合
においては、こんにゃくのりが目皿から吐出された後5㎝落下して温水に浸漬する
までの間に、糸状こんにゃくのり同士が接合して一体化し、温水に浸漬しても糸状
に戻らなかったものである。
 この実験結果は、単独孔目皿を使用したときには、こんにゃくのり
は、短時間のうちに(長くとも吐出後5㎝落下するまでの間に)、外力を加えるこ
となく糸状こんにゃくのり同士が接合して一体化すること、単独孔目皿から0.5㎝
程度の位置で温水に浸漬した場合には上記一体化が妨げられることを示している。
c 以上の実験結果からすれば、主孔中心間の距離が2.2㎜(主孔の直
径1.2㎜、孔間隙1㎜)程度の位置関係にある場合には、単独孔目皿から吐出され
た糸状こんにゃくのりは、目皿から0.5㎝程度の位置で温水に浸漬する等の条件下
でなければ、外力を加えることなく隣接する糸状こんにゃくのり同士が接合して一
体化しており、その要因としては、各孔から押し出された糸状こんにゃくのりが、
押出し直後の圧力開放により直ちに膨張したことによるものと推認するのが自然で
ある。
(イ) なお、乙3(工学院大学非常勤講師C作成の「連通孔付目皿(A)
及び単独穴目皿(B)を流れるこんにゃくのりのVTRによる流動挙動に関する所
見」と題する書面)には、「単独穴目皿(B)ではバラス効果によるこんにゃくの
りの膨張(同写真で見る限り)はそれほど顕著なものではなく、吐出口においてこ
んにゃくはそれぞれ独立して流出していて、膨張による接合挙動は認められない。
単独目皿によるこんにゃくが接合するのは吐出した後、管壁とこんにゃくのりとの
間の摩擦によるせん断力の不均一分布が原因で発生する前後左右の揺動、すなわ
ち、こんにゃく自体の揺らぎに基づく衝突によるものであると推定されます」(3
頁18行目~23行目)との記載がある。
 しかしながら、同「所見」が考察の対象とするこんにゃくのりの吐出
に係る前提条件が、被告公正証書実験におけるそれと同視し得るものと認めるに足
りる証拠はない。
 また、同「所見」には、「連通孔付目皿(A)からのこんにゃくのり
の流動挙動は明らかなバラス効果による膨張が見られ…直径が約25%バラス効果
によって膨張した事になります」(同頁10行目~15行目)との記載があるが、
連通孔付目皿から吐出されたこんにゃくのりにバラス効果による膨張があるのに、
単独孔目皿から吐出されたこんにゃくのりにそれがないことの理由が明らかではな
い。この点につき、被告は、こんにゃくのりの自重による引張力のため、バラス効
果による膨張よりもその径が細くなると主張するが、そうであれば、連通孔付目皿
から吐出されたこんにゃくのりについても同様の挙動を示すはずであり、単独孔目
皿から吐出されたこんにゃくのりのみにバラス効果による膨張がないことの根拠に
はなり得ない。
 上記乙3の所見には、以上のような疑問が存する上、上記原告実験
①、原告実験②及び被告公正証書実験における、単独孔目皿においても帯状のこん
にゃくのりが吐出されるとの実験結果を説明することができないものであるから、
同所見は、単独孔目皿から吐出された糸状こんにゃくのり同士が接合し一体化する
のが、吐出直後の圧力開放により直ちに膨張することによるものであるとの上記推
認を覆すに足りない。
 被告は、本件発明を実施した場合、押出後の圧力開放により糸状こん
にゃくのり同士が膨張して接するのではなく、圧力開放された糸状こんにゃくのり
同士の「揺動」によって接合すると主張するが、上記各証拠によっても同主張を認
めるには足りず、他にこれを認めるに足りる証拠もない。
(3) 被告目皿から吐出されるこんにゃくのりの挙動について検討する。
ア 被告公正証書実験において、目皿の位置を水面上0.5㎝に設定した場合
及び上記温水中に設定した場合には、単独孔目皿から吐出された場合には水中でば
らばらの糸状となったこんにゃくのりが、連通孔付目皿から吐出された場合には、
水中でもばらばらの糸状とならず、帯状となって、一体化されていたのであるか
ら、連通孔付目皿の切込み部分からも、主孔部分から吐出される糸状こんにゃくの
りを幅方向で結ぶ薄肉こんにゃくを形成する程度のこんにゃくのりが吐出されるも
のと推認される。
イ 原告らは、塑性流動体の特性上、0.5㎜幅の細いスリットからは、粘性
のあるこんにゃくのりはごくわずかしか押し出されず、スリットから押し出される
薄肉こんにゃくは形成されないと主張する。
(ア) この点について、甲17添付の技術検討書によれば、こんにゃくの
りを非ビンガム塑性流動体(準塑性流動体)の流動特性を有するとして、直径1.2
㎜の主孔部分と、①0.5㎜×0.6㎜の連通孔部分ないし②0.5㎜×0.5㎜の連
通孔部分のこんにゃくのりの流量比を計算したところ、こんにゃくのりの全体の流
量のうち主孔部分を流れる割合は、①の場合は94%、②の場合は96%となった
との検討結果が示されている。
(イ) しかし、この検討結果は、前記数値の算出過程に照らすと、こんに
ゃくのりがそれぞれ独立して設けられた主孔部分と連通部分とを流れるとの前提に
立った計算であり、主孔部分と連通部分がつながった連通孔付目皿における実際の
流動現象を定量的に示すものではないとも考えられるから、同検討結果は、上記ア
記載のとおり、連通孔付目皿の切込み部分からも、主孔部分から吐出される糸状こ
んにゃくのりを幅方向で結ぶ薄肉こんにゃくを形成する程度のこんにゃくのりが吐
出されるとの推認を覆すものではない。
ウ しかしながら、原告実験①によれば、直径1.2㎜の主孔中心間の距離が
1.72㎜及び1.81㎜の連通孔付目皿においては、いずれも隣接する主孔部分か
ら吐出されたこんにゃくのり同士が接する程度に膨張することが示されており、ま
た、原告実験②によっても、直径1.2㎜の単独孔目皿から吐出されるこんにゃくの
りは、被告目皿のように主孔間隙が1㎜以内であれば、吐出後の膨張により隣接す
る糸状こんにゃくのり同士が外力を加えることなく接して一体化することが示され
ており、これによれば、目皿から0.5㎝程度の位置で温水に浸漬するような場合を
別とすれば、被告目皿を使用した場合においても、押出し直後の圧力開放により、
主孔部分から吐出されたこんにゃくのりが直ちに膨張することによって、短時間の
うちに外力を加えることなく接合するという一体化の機構を有しているということ
ができる。
エ 結局、被告製造装置は、主孔部分から吐出されたこんにゃくのりが、連
通孔部分から吐出されたスリット状のこんにゃくのりによってつながった状態で吐
出されるものの、押出し直後の圧力開放により主孔部分から吐出されたこんにゃく
のりが膨張して、主孔部分から吐出されたこんにゃくのり同士がゲル化前の短時間
のうちに外力を加えることなく接して一体化するものということができる。
(4) 以上に基づき、構成要件Aの「多孔のノズル」及び構成要件Cの充足性に
ついて検討する。
 被告目皿は、主孔部分と連通孔部分とから成る連通孔付目皿であり、前記
実験によれば、主孔と連通孔のそれぞれから一体化したこんにゃくのりが吐出され
るのであるから、独立した多数の孔を有するものではない。したがって、被告製造
装置は、文言上、「多孔のノズル」(構成要件A)との構成を備えているとはいえ
ない。また、被告目皿を用いたこんにゃく製造装置のノズルから吐出された糸状こ
んにゃくのりは当初から分離しているものではなく、吐出時において、主孔部分か
ら吐出される糸状こんにゃくのりを幅方向で結ぶ薄肉こんにゃくを形成する程度の
こんにゃくのりは連通孔部分からも吐出されることが認められるから、被告目皿を
備えた被告製造装置は、「押出し後の圧力開放により糸状こんにゃくのりが膨張し
て糸状こんにゃくのり同志がゲル化前の短時間のうちに外力を加えることなく接し
て一体化するようにしてなる」(構成要件C)との構成を備えているとはいえな
い。
4 争点(4)(均等の成否)について
(1) 特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場
合であっても、①同部分が特許発明の本質的部分ではなく、②同部分を対象製品等
におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効
果を奏するものであって、③上記のように置き換えることに、当該発明の属する技
術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が、対象製品等の製造等の時点
において容易に想到することができたものであり、④対象製品等が、特許発明の特
許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから同出願時に容易に推考でき
たものではなく、かつ、⑤対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求
の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、同対
象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技
術的範囲に属するものと解するのが相当である(最高裁判所平成10年2月24日
第三小法廷判決・民集52巻1号113頁参照)。以下、上記要件に従って、順に
検討する。
(2) 非本質的部分(均等要件①)について
ア 均等が成立するためには、特許請求の範囲に記載された構成中の対象製
品と異なる部分が特許発明の本質的部分ではないことを要するが、ここにいう特許
発明の本質的部分とは、特許請求の範囲に記載された特許発明の構成のうちで、当
該特許発明特有の課題解決手段を基礎付け、特有の作用効果を生じさせる特徴的な
部分、言い換えれば、その部分が他の構成に置き換えられるならば、全体として当
該特許発明の技術的思想とは別個のものと評価されるような部分をいうものと解す
るのが相当である。
イ 本件発明は、上記2記載のとおり、多数本の糸状こんにゃくをそれぞれ
が互いに接触する部分でのみ接着させて集束一体化することにより、風味、歯切れ
等が改良された筋組織状こんにゃくを得る製造装置につき、本件発明の構成を採る
ことにより、簡略な装置によってその製造を実現したものであり、本件発明の本質
的部分は、目皿から吐出された糸状こんにゃくのりが、圧力開放により膨張して、
糸状こんにゃくのり同志が外力を加えることなく接して一体化するようにするため
に、こんにゃくのりの押出し孔間隙を3㎜以下の、又は押出し直後の糸状こんにゃ
くのり間のすき間を3㎜以下の小さい傾斜ノズルとした多孔のノズルを押出装置に
設けたことにあるというべきである(ただし、前記3(2)ウで認定したように、本件
証拠として提出された実験結果からすると、押出し孔(主孔)の直径が1.2㎜で、
押出し孔(主孔)間隙が1㎜を超える場合には、糸状こんにゃくのりの一体化が不
完全にしか生じないから、押出し孔の直径が1.2㎜程度の場合において、本件発明
特有の課題解決手段を基礎付け、特有の作用効果を生じさせるというためには、押
出し孔間隙を1㎜以下に限定してとらえる必要がある。)。
ウ そうすると、前記3(3)記載のとおり、被告製造装置においては、押出し
孔(主孔)間隙を1㎜以下とし、押出直後の圧力開放により主孔部分から吐出され
たこんにゃくのりが直ちに膨張することによって、短時間のうちに外力を加えるこ
となく接合するという一体化の機構を有しているのであるから、本件発明の上記本
質的部分を備えているというべきであり、本件発明と被告製造装置との間で異なる
構成部分、すなわち、構成要件Aが「多孔のノズル」と規定するのに対し、被告目
皿は、主孔部分と連通孔部分とから成る連通孔付目皿であること、構成要件Cが
「(当初は分離した状態の)糸状こんにゃく同士が…外力を加えることなく接して
一体化する」と規定するのに対し、被告製造装置は、連通孔部分から吐出されたス
リット状のこんにゃくのりによってつながった状態で吐出されるとの差異部分は、
本件発明の本質的部分には当たらないものというべきである。
エ なお、被告は、連通孔付目皿と単独孔目皿によって製造されるこんにゃ
くの断面形状の違いを指摘する。
 しかし、甲19~24(単独孔目皿と連通孔付目皿によって製造された
こんにゃくの断面形状の写真)によれば、連通孔付目皿によって製造されたものの
方が、単独孔目皿によって製造されたものより、多少筋状こんにゃく間の接合部分
が太いことが認められるものの、それほど顕著な違いがあるものではなく、こんに
ゃくの歯切れ等の食感、外観において差異が生ずる程度のものということはできな
いから、被告の主張は理由がない。
オ また、被告は、水中ないし水面上0.5㎝の位置に目皿を設置した場合
に、連通孔付目皿では一体化した帯状こんにゃくの製造が可能であるのに、単独孔
目皿ではそれができないこと、帯状こんにゃくのりの長さを均一にするためには上
記条件下でこんにゃくのりを吐出させ湯中に落とすと同時に切断する必要があると
主張する。
 帯状こんにゃくのりの長さを均一にする技術について、乙5によれば、
被告は実用新案登録番号第2518861号の実用新案権(出願日:平成4年12
月29日)を有しており、同考案は、均一の長さの帯状こんにゃくを製造するた
め、連通孔付目皿から吐出されたこんにゃくのりを水や湯と共に細長楕円孔に落と
し込み、こんにゃくのりが水や湯によって包まれるようにした状態で、回転する糸
で切断する技術に関するものであることが認められ、同技術は、吐出直後にこんに
ゃくのりを水や湯に浸漬するものであることからすると、単独孔目皿から吐出され
た場合は、こんにゃくのりがバラバラになってしまい帯状こんにゃくが製造できな
いことになる。しかしながら、同考案の技術は、均一の長さの帯状こんにゃくを製
造するために、あえて、吐出直後にこんにゃくのりを水や湯に浸漬するという特殊
な条件を採用したものということができる。
 さらに、弁論の全趣旨によれば、通常のこんにゃく製造装置において、
水中で目皿からこんにゃくのりを押し出す構成や、目皿から押し出されたこんにゃ
くのりがわずか0.5㎝程度落下して温水に浸漬するような構成は採用されていない
ことが認められる。
 そうすると、被告の主張は通常採用されない条件下における単独孔目皿
と連通孔付目皿との間の作用効果の差異を主張するものにすぎないが、そのような
通常採用されない条件下における作用効果の差異をもって、単独孔目皿と連通孔付
目皿の各構成の上記差異部分が本件発明の本質的部分であるとすることはできない
というべきである。
(3) 置換可能性(均等要件②)について
 上記3(3)記載のとおり、被告製造装置は、主孔部分から吐出されたこんに
ゃくのりは、連通孔部分から吐出されたスリット状のこんにゃくのりによってつな
がった状態で吐出されるものの、押出し直後の圧力開放により主孔部分から吐出さ
れたこんにゃくのりが膨張して、主孔部分から吐出されたこんにゃくのり同士がゲ
ル化前の短時間のうちに外力を加えることなく接して一体化するものであり、「孔
間を0.2~0.5㎜幅のスリットで連結した多孔のノズル」の構成は特段の作用効
果を奏するものではなく、特段の技術的意義を見い出すことができない。
 そうであれば、本件発明の「(連通孔のない)多孔のノズル」を、被告製
造装置の上記構成に置換したとしても、本件発明の目的を達することができ、同一
の作用効果を奏することは明らかである。
(4) 容易想到性(均等要件③)について
 本件発明の各構成は、本件特許出願に係る特開昭62-201555号公
開特許公報(公開日:昭和62年9月5日、乙1添附資料9)に掲載されたもので
ある。なお、本件発明に対応する同公開特許公報の特許請求の範囲第3ないし5項
においては、構成要件Cにおける「圧力開放により糸状こんにゃくのりが膨張し
て」との構成はなく、構成要件Cにおける「外力を加えることなく接して一体化す
る」との構成は「接する」と記載されていたものであるが、上記構成は、同公開特
許公報の〈問題点を解決するための手段〉の項(2頁左下欄18~20行)、〈作用〉
の項(2頁右下欄12~15行)に記載されていた。
 さらに、被告代表者の陳述書(甲60)によれば、被告は、平成4年5月
ころから平成7年2月ころまで連通孔のない単独孔目皿の製造販売をしていたこと
が認められること、上記のとおり、被告製造装置の「主孔間を0.2~0.5㎜幅の
スリットで連結した多孔のノズル」の構成が特段の作用効果を奏するものではない
ことを併せ考えれば、被告が被告目皿の製造販売を開始した平成6年6月ないし平
成7年2月当時、被告目皿を使用して、本件発明の「(孔間にスリットのない)多
孔のノズル」を、被告製造装置の上記構成に置換することは、当業者が容易に想到
することのできたものというべきである。
 被告は、本件明細書には実施例として束状又は多層のこんにゃくの記載は
あるが、一層から成る帯状こんにゃくの記載はないと主張するが、前記2(1)記載の
とおり、本件発明の作用効果は、多数本の糸状こんにゃくを各糸こんにゃくが接触
する部分でのみ接着させて集束一体化することにより、風味、歯切れ等が改良され
た筋組織状こんにゃくを得るための簡略な製造装置を実現したことにあるのである
から、従前、一層から成る帯状こんにゃくを製造する単独孔目皿を製造販売してい
た被告を含む当業者にとって、本件明細書の実施例に一層から成る帯状こんにゃく
の記載がないとしても、本件発明の上記作用効果を取り入れた連通孔付目皿を備え
た被告製造装置に置換することが容易であったことに変わりはない。
(5) 容易推考性(均等要件④)について
 被告製造装置が、本件発明の特許出願時である昭和61年3月1日当時に
おける公知技術と同一又は当業者がこれから上記出願時に容易に想到することがで
きたものであると認めるに足りる証拠はない。
(6) 意識的除外(均等要件⑤)について
ア 被告製造装置における「孔間を0.2~0.5㎜幅のスリットで連結した
多孔のノズル」との構成が、本件発明に係る特許出願手続において特許請求の範囲
から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情の存在を認めるに足りる証
拠はない。
イ この点につき、被告は、原告Aが、別件実用新案の登録出願手続におい
て、乙2資料9考案を理由とする拒絶通知書に対して提出した意見書の内容を考慮
すれば、原告らが本件訴訟において、連通孔付目皿を備えた製造装置を本件発明と
均等なものとして主張することは許されないと主張する。
 乙2添付資料11によれば、同意見書に「本願のものは一旦個々の独立
したノズルから太さ3㎜以下の糸状こんにゃくとして押出し、温水に接触する前に
即軽く接触合一したものであるのに対し、引例のもの(乙2資料9考案)は初めか
ら一本のリボン状に押出したものであります。」とされており、別件実用新案の技
術が初めから1本のリボン状に押し出したものと製造工程が異なるものであること
を強調した記載があることが認められる。
 しかし、別件実用新案と本件特許権とは別個の出願手続を経たものであ
るから、別件実用新案の登録出願中の上記意見書の記載から、直ちに本件発明の技
術的範囲から「初めから1本のリボン状に」こんにゃくのりを押し出す技術を意識
的に除外したものと解することはできない。
 また、乙2資料9考案に示される目皿の形状は「簀板(目皿)の表裏方
向に亘って適数本の突条部を任意間隔毎に設けて成る」ものであり、間隔を置いて
設けられた主孔を連通孔により連通した連通孔付目皿とは形状を異にするものであ
り、乙2資料9考案に示された簀板(目皿)の技術について述べたことが、連通孔
付目皿についても同じように当てはまる趣旨で述べたものであるとすることもでき
ない。
 したがって、同出願経過を理由とする被告の主張は理由がない。
(7) したがって、被告製造装置は、本件発明の構成と均等なものであって、そ
の技術的範囲に属するものというべきであるから、原告らの請求第1及び第2項の
請求は理由がある。
5 争点(5)(損害の発生及び額)について
(1) 以上によれば、被告による被告目皿の製造販売行為は、本件特許権(仮保
護の権利を含む。)及び専用実施権の間接侵害(特許法101条1項)に該当する
ところ、被告は侵害行為について過失があったものと推定される(同法103条)
から、被告は、原告らが同侵害行為により被った損害を賠償すべき責任を負う。
(2) 乙7の1~41、8の1~7によれば、被告が製造販売した被告目皿の販売数
量及び金額は、平成7年3月9日(本件特許権の設定登録日)以降平成8年4月2
1日(原告日本繊食が専用実施権の設定登録を受けた日の前日)までの期間は、5
8枚(販売金額:251万5000円)、平成8年4月22日以降平成13年11
月21日までの期間は、7枚(販売金額:26万2000円)であることが認めら
れる。
 原告らは、被告が製造販売した被告目皿の販売金額が、平成6年5月18
日から平成8年4月21日までの間は620万円、同月22日から平成13年11
月21日までの間は1810万円であると主張するが、同期間内において、上記認
定の販売事実以外に、被告が被告目皿を製造販売した事実を認めるに足りる証拠は
ない。
 本件発明の実施に対し受けるべき実施料の率は、本件発明の内容、発明品
の種類、用途等を考慮すると、5%が相当である。
(3) そうすると、被告目皿の製造販売行為によって原告らが被った損害は、原
告Aについて12万5750円、原告日本繊食について1万3100円であると推
定される。また、本件事案の内容、訴訟の経過、損害賠償請求の認容額、差止請求
が認容されていること等を勘案すると、被告の負担に帰すべき弁護士費用は、原告
Aについて15万円、原告日本繊食について15万円を相当とする。
(4) 原告らが被告に対して損害賠償を求める請求については、原告Aが被告に
対し27万5750円及びこれに対する不法行為の後で本件訴状送達の日の翌日で
ある平成12年6月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損
害金、原告日本繊食が被告に対し16万3100円及びこれに対する同じく平成1
2年6月27日から支払済みまで同年5分の割合による遅延損害金の支払を求める
限度で理由がある。
6 よって、主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官   小松一雄
裁判官   阿多麻子
裁判官   前田郁勝
(別紙)
目皿目録こんにゃくのりの断面形状図

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