弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
○ 事実
控訴人代理人は、「原判決を取消す。被控訴人が控訴人に対し昭和四五年三月六日
付でした、不動産取得税を六六二、三一〇円(ただし、昭和四九年九月一七日付で
一部取消された後の金額)とする賦課決定処分を取消す。訴訟費用は第一、二審と
も被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人代理人は主文同旨の判決を
求めた。
当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加するほか、原判決事実摘示のとおりで
あるから、これを引用する。
(控訴人代理人の主張)
一、本件賦課決定処分は、現行の税務行政自身が非課税扱としているものを敢えて
国民に不利益に変更するものであつて、地方税法七三条の二第一項の解釈を誤つた
ものである。すなわち、現在の自治省は離婚による財産分与に伴う取得財産に関す
る不動産取得税の取扱について昭和四二年自治大税務別科質疑回答(甲第一七号
証)によつて非課税扱をしており、現に本件の場合でも原判決目録一7、8の不動
産の取得について兵庫県灘財務事務所、同目録9の不動産の取得について三重県上
野県事務所から、それぞれ一旦課税決定を受けたが後日控訴人の事情の説明によつ
てこれを取消している。
二、形式的に不動産の所有権の移転さえあればその原因の如何を問わず、特に法定
の非課税とされる場合(地方税法七三条の三ないし七)を除き不動産取得税を賦課
すべきであるとした最高裁昭和四八年一一月一六日判決(民集二七巻一〇号一三三
三頁)は、譲渡担保に関するものであつて、共有物分割あるいは財産分与に関する
ものではない。不動産の譲渡担保の場合は対内的には担保権の性格を持つとしても
対外的には完全に所有権が移転するものであることは学説、判例とも争いのないと
ころであり、これに課税するのは当然であつて、本件にこれをあてはめるのは妥当
ではない。
次に、行政裁判所昭和七年二月五日判決は、不動産の共有持分の取得も不動産取得
税の課税要件としての「不動産の取得」に当るとしているが、右は当然のことをい
つたものに過ぎず、控訴人は全ての共有持分の取得が不動産取得税の課税要件とし
ての「不動産の取得」に該当しないと主張しているわけではない。控訴人の主張し
ているのは共有物の持分の移転のうちでも、本件のように、慰藉料あるいは将来の
扶養としてのものではなく婚姻中の財産の清算としての財産分与、しかも実質的に
は控訴人とその夫との共有物の分割のためになされたものの場合には非課税扱にさ
れるべきである、というにあり、現に自治省の扱いもそうなつているのである。
地方税法は右のような形式的な不動産の移転に担税力を見出しているのではなく、
実質的な不動産の取得あるいは増加に対して担税力を見出しているのである。ちな
みに、東京地裁昭和四五年九月二二日判決(判例時報六〇六号二八頁)は、「不動
産の取得が婚姻中の財産関係を清算する趣旨で財産分与による場合には、それが夫
婦の共有に属するものと推定される財産(民法七六二条二項)についてなされたも
のである限り、形式的に財産権の移転が行われることはあつても、当然の所有権の
帰属を確認するに過ぎず、これによつて実質的に財産権の移転が生じるものではな
いと解するのが相当であるから地方税法七三条の二第一項の課税原因には該らない
というべきである。」として現行の行政解釈を是認しているのである。
(被控訴人代理人の主張)
一、控訴人の右主張第一項のうち、自治省が離婚による財産分与により得た不動産
の取得にかかる不動産取得税の課税について非課税扱いとする場合のあることの通
達をしていることに争わないが、その余は争う。右通達に離婚に際し夫婦共同生活
中に夫婦の協力によつて取得した夫婦共有に属すると推定される夫婦共通の財産の
清算としての財産分与について非課税扱をする旨通達しているのみで、本件の場合
はこれに該当しない。
すなわち、「離婚に伴う財産分与」の性質、内容としては、(1)夫婦共同生活中
に夫婦の協力によつて取得した共通の財産の清算、(2)離婚有責配偶者の相手方
への損害賠償、(3)離婚後の扶養料の三つを含むと解されるところ、夫婦共同生
活中に夫婦の協力によつて取得した夫婦の共有に属するものと推定される財産につ
いて(1)の性質、内容の財産分与として不動産の移転が行われた場合において
は、形式的には財産権の移転が行われても実質的には他の配偶者に属する潜在的所
有権を確認するに過ぎないものとして非課税扱がなされることを上記自治省の通達
は示したものに過ぎず、右(2)、(3)の性質、内容をもつ財産分与として不動
産の所有権の移転が存する場合には実質的に不動産所有権の移転が生じたものとし
て課税の対象となることを否定するものではない。
二、控訴人の右主張第二項のうち、控訴人に対する本件各不動産の訴外Aの共有持
分の移転原因は夫婦共通財産の清算としての財産分与であり、実質的には共有物の
分割である、との主張は否認する。そもそも本件各不動産は、控訴人と訴外A夫婦
が訴外亡B、同亡Cの各相続人として各相続によつて取得したものであり、右夫婦
が夫婦共同生活中に夫婦の協力によつて取得した夫婦共有に属すると推定される財
産には該当しない。右持分の移転は、実質的には、代物弁済又は売買若しくは交換
と解するのか相当であり、不動産取得税の課税原因たる不動産の取得があることは
明白であつて、不動産取得税の非課税の場合に該当せず、被控訴人の本件賦課決定
に何らの違法の点はない。
(証拠関係)(省略)
○ 理由
一、当裁判所も控訴人の本訴請求は理由なきものと認める。その理由は、次のとお
り付加、訂正するほか、原判決理由に記載のとおりであるから、ここにこれを引用
する。
(一) 原判決六枚目裏一〇行目の「形式的に、」から同一一行目の「原始取得」
までを、「所有権移転の形式による不動産の取得」と訂正する。
(二) 原判決七枚目裏二行目の次に、「自治省が離婚による財産分与を原因とす
る不動産の取得にかかる不動産取得税の課税について非課税扱とする場合のある旨
の通達を発していることは当事者間に争いがないが、成立に争いのない甲第一七号
証によれば、右通達は、夫婦の一方の名義となつている財産が実は夫婦共同生活中
に夫婦の協力によつて取得した夫婦共通の財産であり、したがつて他の配偶者の所
有権が潜在している場合であつて、財産分与が夫婦共通の財産の清算としてその配
偶者の潜在的所有権を確認する場合に関するものであることが認められ、財産分与
であれば全て非課税扱とすべきことを通達したものとは認められない。
ところで、原判決目録一の1ないし4、6の各物件は、もと控訴人の父亡Bの所有
であつたところ、同人が昭和三六年一二月二八日死亡したため控訴人、Bの妻C及
びBとCとの養子であつたAの三名が相続し、Cが昭和三七年五月一七日死亡した
のでCの右相続分を控訴人とAとが相続して各二分の一の持分となつたことは前記
認定(原判決引用部分)のとおりである。したがつて、右財産はいずれも控訴人と
Aとが婚姻中にその協力によつて取得したものではなく、婚姻生活外の事由である
相続によつて取得した財産である。しかも、実質的には夫婦共通の財産であるにも
拘らず夫婦の一方の名義としたが故に他の配偶者が潜在的な持分を有していると目
すべきものではない。それ故、右財産に関する本件財産分与は、夫婦共通の財産の
清算という性質、内容を有するものではなく、共有持分の交換としての実質を有す
る共有物分割に該当するものであり、控訴人主張の通達の如く非課税扱をすべき財
産分与には該当しない。すなわち、右物件についての持分の移転は、潜在的所有権
の確認ではなく、まさに地方税法七三条の二第一項の『不動産の取得』に該当す
る、と解するのが相当である。
を加える。
二、よつて、控訴人の本訴請求は理由がなく、これを棄却した原判決は相当であつ
て、本件控訴は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟
法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 北浦憲二 弓削 孟 篠田省二)

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