弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告理由は末尾に添えた別紙記載のとおりである。
 一、上告理由第一点について。
 (一)論旨(イ)について。原判決中論旨が引用する一節を含む前後の部分は、
要するに、大字aが明治四〇年二月一〇日その所有の奈良県吉野郡b村大字ac番
地山林五畝歩の内東南方三畝一五歩の地域に、Dのため地上権を設定する積りで、
本件係争地域(原判決主文にかゝげた地域)に右地上権を設定した事実を認定した
ものに外ならない。
 そして右事実は、原判決の援用する各証拠を綜合すれば認定し得られないではな
いから、原判決が虚無の証拠により事実を認定したとの非難は當らない。
 (二)論旨(ロ)について。山林においては或る具体的の場所の地番が果して何
番であるかは近隣の人達にもよくわからなくなつてしまつて居る場合がよくあるの
であるから、論旨にいう様にそう簡單に論ずることは出来ない。原審は、その認定
の一連の事実関係に照し、Dの本件地域に対する地上権の行使及びその地上立木の
占有は、いずれも善意且無過失に始められたものと判定したのであつて、其判定に
実験則違背若しくは法令違反ありとすることは出来ない、したがつて、論旨は、採
用に値しない。
 (三)論旨(ハ)について、Dの本件地域に対する地上権の時効取得につきその
旨の登記を欠く事実は、上告人が原審において主張しなかつたところであるばかり
でなく、原判決の認定するところによれば、上告人の前々主事隠居Eは実体上の権
利を持たぬ架空の地上権者で、したがつて、同人からFを経てその地上権を譲受け
た上告人は架空の権利を有するものに過ぎないのであるから、実体上の権利を取得
した被上告人に対しては、その登記の欠缺を主張し得ないものである。よつて、本
論旨も理由がない。
 (四)なお、上告人は、原判決が本件地域の地番がd番地かc番地かの判断をし
なかつた点をしきりに攻撃するけれども、判文自体で明なように、原判決は、本件
地域がd番地又はc番地のいずれであるにしても、同地上に生立する係争立木は結
局被上告人の所有に属することを認定したもので、その認定に誤がない限り本訴請
求の當否の判断としては十分であるから、原判決が本件地域の地番がd番地かc番
地かを確定しなかつたこと自体は、あえて違法とはいえない。よつて、この点の論
旨も理由がない。
 二、上告理由第二点について。
 本件地域の地番がd番地かc番地かを確定することが本件各証拠の取捨選択につ
き前提要件をなすとはいえないし、また、原判決が右の点を確定しなかつたからと
いつて、証拠の取拾選択が予断を以てなされたとか経験則に反するとかいえないこ
とはもちろんであるから、論旨は採用に値しない。
 三、上告理由第三点について。
 上告人が昭和二三年三月二六日の口頭弁論期日に、論旨前段に引用するような主
張をした事実は認められるが、原判決は、その援用の各証拠によつて、上告人主張
の地上権が架空の権利である事実を認定したのであつて、右認定と牴觸する上告人
の右主張事実は証拠上これを認定し得ないとしたものであることは判文上明である
から、原判決は、この点において何ら判断を遺脱したものということはできない。
また、原審証人Gがその証言中に「地開け」というな言葉を用いたことは、同人の
訊問調書の記載(記録四一〇丁裏)によりうかゞわれないことはないが、原審が右
の言葉を論旨のいうような意味に解したかどうかは、判文その他に徴しても明でな
いばかりでなく、原判決及びその援用の各証拠を仔細に検討しても、原審が右の言
葉を論旨のいうような意味に解した結果としてHの地上権が消滅したものと認定し
たとは到底認められない。原審は、その援用の各証拠を綜合して、右地上権消滅の
事実を認定したものであつて、その認定には何ら違法の点は認められないから、論
旨は結局獨断によるいわれなき非難というの外はない。
 よつて民事訴訟法第四〇一条、第九五条及び第八九条の規定に従い、主文のとお
り判決する。
  この判決は裁判官全員一致の意見である。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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