弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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平成16年(わ)第2号 殺人未遂,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件
主文
被告人を懲役8年に処する。
未決勾留日数中80日をその刑に算入する。
押収してある果物ナイフ1丁(平成16年押第4号の1)を没収する。
理由
(犯行に至る経緯)
被告人は,前刑の受刑中に知り合ったAに貸したブレスレットとサングラスを返し
てもらえず,そのうちAとの連絡も取れなくなり,同人を腹立たしく思っていたところ,
平成15年12月15日午前中,公衆電話からAの携帯電話に連絡をしたが,つなが
らなかったことから,同人がわざと自分からの電話に出ないようにしているなどと考
えて,イライラ,ムシャクシャした気持ちになったものの,このような気持ちを抑えつ
つ,病院で腰痛の治療を受け,昼食後,缶ビールを飲むなどして帰宅しようとする
間,再びAのことを思い出して同人に対する怒りがこみ上げ,だれかを殺せばうっ憤
が晴らせると考えた。そこで,被告人は,具体的に殺害方法を考え,凶器として自宅
裏の倉庫に置いてあった果物ナイフを用いること,相手は,同ナイフで簡単に殺す
ことができ,また,抵抗する力が弱い小学校低学年くらいの子供をねらうこととし,
犯行場所は,自宅から歩いて行ける距離にあり,夕方そのような子供たちだけで遊
んでいるのを見掛けたことのあるB公園にすることを決めた。
被告人は,上記果物ナイフをチョッキのポケットに入れ,同日午後4時過ぎには
同公園に着いたが,小学校低学年くらいの子供が六,七人程遊んでおり,近くに大
人もいたため,同公園内のベンチに座ったり,中を歩いたりして子供が少なくなり,
大人がいなくなるのを待った。しばらくして,同公園内には,その中央付近にあるコ
ンクリート製の築山で遊んでいる女児2人だけになり,築山の上にYしかいなくなっ
たのを見た被告人は,同女を殺そうと決意し,気づかれないようにその背後から築
山の上に登った。
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1 平成15年12月15日午後4時30分ころ,富山市〈以下略〉B公園において,
築山の上でしゃがんでいたY(当時8歳)に対し,殺意をもって,その背後から
左手で逆手に持った果物ナイフ(刃体の長さ約9センチメートル。平成16年押
第4号の1)を同女の背中に振り下ろしたものの,同女の着用していたパーカ
ーの帽子部分が背中に掛かっていたため,その背中を刺すことはできず,更
に肩を掴み上記ナイフを振り下ろして同女の後頸部を突き刺したが,同女に加
療約1週間を要する左耳上部,左耳介部,左耳介後部及び左耳下部の裂挫創
の傷害を負わせたにとどまり,殺害の目的を遂げず,
第2 業務その他正当な理由による場合でないのに,上記日時場所において,上記
果物ナイフ1丁を携帯し
たものである。
(事実認定の補足説明)
 弁護人は,判示第1の犯行につき,殺意を争い,被告人は傷害の故意で犯行に
及んだ旨主張するので,被告人の殺意の有無につき検討する。
 関係証拠によれば,凶器である果物ナイフは,刃体の長さ約9センチメートルで,
刃の先端は丸く,刃の一部が欠けているが,十分な殺傷能力がある刃物であって,
被告人は,利き手である左手で刃の部分を下に向けて逆手に持ち,被害者の背中
と後頸部に向けて2回振り下ろしていること,被害者は,左耳介後部等に長さ約9セ
ンチメートルにわたる裂挫創を負っていることに加え,被告人も捜査段階から一貫し
て殺意を認めているのであるから,被告人が確定的な殺意を有していたことは明ら
かである。
これに対し,弁護人は,健常者であれば,本件の動機が殺意を抱く程のものでは
なく,被害者が死んだと思うはずもないのに,被告人は精神状態が未発達であるた
め,捜査当局から,殺意をもって犯行に及んだのでないかと繰り返し問われること
によって,真実は傷害の故意しかないのに,自ら殺意をもっていたものと思い込ん
で供述している旨指摘する。しかし,被告人は,被告人質問において,弁護人の質
問に対しても,捜査官の誘導により殺意を自白したことを明確に否定している。のみ
ならず,被告人は,犯行直後自宅でひげをそったことを一貫して否定するなどして
いるのであって,捜査機関に迎合した供述をしているとも認められない。
 よって,殺意に関する弁護人の主張は採用できない。
(弁護人の主張に対する判断)
 弁護人は,被告人は精神遅滞者で,その知能程度は小学校高学年程度であった
から,本件犯行当時,心神耗弱の状態であった,と主張するので,被告人の責任能
力の程度について検討する。
 第2回公判調書中の証人Cの供述部分及び同人作成の簡易精神鑑定書〈証拠
略〉によれば,被告人の本件犯行当時及び現在の精神状態につき,C医師は,軽
度精神遅滞(全検査知能指数63)及び人格障害と診断しており,犯行当時の記憶
の欠損はなく,脳波等の異常も認められていない(同医師による診断の信用性を疑
わせる事情は認められない。)。しかも,本件犯行の動機については,一応了解が
可能であり,判示のような犯行の準備状況や態様等を見ると,被告人の行動には
合目的性が認められ,また,本件犯行後には,発覚を恐れて現場から離れているこ
と等も認められるのであるから,被告人は本件犯行時及びその前後を通じ,被告人
なりの判断に基づき,合理的に行動していたものということができる。なお,被告人
は,本件犯行の約1時間30分前に缶ビール合計2本を飲んでおり,本件犯行時は
飲酒酩酊状態にあったと認められるが,飲酒量自体が多いとはいえないこと,被告
人は元来酒に対しては強い方であり,本件犯行時はそれほど酔ってはいなかったと
自認していることなどに照らし,単純酩酊にとどまるものというべきである。
 そうすると,本件犯行当時,被告人の是非弁識能力及び行動制御能力はいずれ
も著しく減退してはおらず,完全責任能力を有していたと認められるから,弁護人の
主張は採用できない。
(累犯前科)
被告人は,平成10年3月12日富山地方裁判所で住居侵入,現住建造物等放
火,非現住建造物等放火罪により懲役5年に処せられ,平成15年5月25日その刑
の執行を受け終わったものであって,この事実は検察事務官作成の前科調書によ
って認める。
(法令の適用)
被告人の判示第1の所為は刑法203条,199条に,判示第2の所為は銃砲刀
剣類所持等取締法32条4号,22条にそれぞれ該当するところ,各所定刑中判示
第1の罪については有期懲役刑を,判示第2の罪については懲役刑をそれぞれ選
択し,被告人には上記の前科があるので刑法56条1項,57条により(判示第1の
罪については同法14条の制限内で)それぞれ再犯の加重をし,以上は同法45条
前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により重い判示第1の罪の刑に
同法14条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役8年に処し,
同法21条を適用して未決勾留日数中80日をその刑に算入し,押収してある果物
ナイフ1丁(平成16年押第4号の1)は,判示第1の殺人未遂の用に供した物で被
告人以外の者に属しないから,同法19条1項2号,2項本文を適用してこれを没収
し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させない
こととする。
(量刑の理由)
 本件は,被告人が,知人との物の貸借をめぐるトラブルによるうっ憤を晴らすため
公園で女児を殺害しようと企て,偶然遊んでいた被害者を果物ナイフで刺し殺そうと
したが,その目的を遂げなかった,という殺人未遂及びその際の果物ナイフの不法
携帯の事案である。
本件犯行の動機は,自己のうっ憤晴らしのため無関係の第三者を攻撃するとい
う極めて身勝手かつ卑劣なものであって,酌量の余地は全くない。その上,抵抗力
の弱い子供を殺害対象に選び,凶器を準備して公園に赴き,子供だけになるのを
待って犯行に及ぶなど計画的な犯行である。その態様も,刃体の長さ約9センチメ
ートルの果物ナイフを利き手で逆手に持ち,しゃがんでいた被害者の背中を目掛け
て振り下ろして失敗するや,更に着衣に覆われていない後頸部をねらって同ナイフ
を振り下ろすという執拗なものであり,殺意の強固さもうかがわれることからしても,
悪質といわざるを得ない(刺突位置がわずかでもずれていれば,その付近にある頸
動脈を切断するなどして被害者を死亡させる危険が高かった。)。
しかも,被害者のけがの程度は,約30針もの縫合を要するものであって,耳介
の軟骨が削がれ,傷跡や耳の変形が残る可能性が高いだけでなく,幼い被害者
は,本件犯行により強烈な精神的衝撃を受けており,今後の成長過程でどのような
影響を及ぼすかも懸念される。このような状況に鑑みれば,被害者やその両親の
被告人に対する処罰感情が厳しいのは当然であるにもかかわらず,被告人は,損
害賠償ができず,将来もその見込みはない。加えて,児童をねらった通り魔的な本
件犯行が被害者と同じ年頃の子供を持つ親や学校関係者に与えた衝撃は誠に大
きく,地域社会に与えた不安も深刻であって,その社会的影響の大きさも見過ごせ
ない。
さらに,被告人は上記累犯前科を有し,5年間近く服役したにもかかわらず,出所
後半年余りで本件に及んでいることからすると,被告人は更生の意欲に欠けるばか
りか,重大犯罪を繰り返すという反社会的性格すら明らかになっている。
これらに照らすと,被告人の刑事責任は相当重い。
他方,殺人の点は幸い未遂に終わり,抜糸までの入院加療期間は約1週間であ
ったこと,被告人は警察への任意同行後一貫して本件犯行を認め,被害者に詫び
状を書くなど,反省の態度が認められること,被告人には軽度の精神遅滞があり,
弁識能力及び制御能力が不十分であることなど,被告人のために酌むべき事情も
認められる。
 そこで,以上のような諸情状を総合考慮し,主文の刑に処するのが相当であると
判断した。
(求刑 懲役10年,果物ナイフの没収)
平成16年5月25日
富山地方裁判所刑事部
裁判長裁判官   手  崎   政   人
   裁判官   大 多 和   泰   治
   裁判官   五 十 嵐   浩   介

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