弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 弁護人田中廉吾の控訴趣意は同人提出の控訴趣意書に記載するとおりであるか
ら、ここにこれを引用する。
 控訴趣意第一点について
 昭和二十三年法律第百七号による改正後の関税法第八十三条第三項によれば同条
第一項又は第二項によつて没収すべき物を没収することができないときは、その物
が貨物の場合はその原価に相当する金額を犯罪の用に供した船舶である場合にはそ
の価格に相当する金額を犯人から追徴する旨を規定し、同条第四項には前項の追徴
をなす場合にはその貨物の関税は犯罪当時の貨物の所有者より徴収する旨を規定し
ているのである。更に右改正前の関税法第八十三条をみるにその第一項には本法に
よつて没収すべき貨物を没収することができないときはその価格から関税及び消費
税に相当する金額を控除した金額を犯則者から追徴する旨を第三項には右の追徴を
なす場合にはその貨物の関税の犯則当時の貨物の所有者より徴収すべき旨を規定し
ている。これによれば犯則貨物については右改正前には価格を追徴の基準としたの
を改正後においては原価をその基準とすることに<要旨>なつたのであつて、しかも
その原価の意義について特に規定するところはないのであるが、改正後の規定に
う原価はもとより輸出又は輸入に係る貨物の原価であるから、輸出又は輸
入までの原価、すなわち製造原価に製造者の販売間接費を加算した所謂総原価を指
称し、しかもその貨物の関税はこれに加算しないものと解するのが相当である。と
ころで原判決は本件密輸出貨物についてはその買入価格の二割引の金額を以て原価
と認め、密輸入貨物中所論の黒糖については一斤十三円三十一銭を原価と認めたの
であるが、訴訟記録によれば右密輸出貨物の買入価格は被告人の原審第四回公判に
おける供述によつてこれを認定したもので、その買入価格の二割引の金額を以て原
価を認定したことが前叙説明の意義における原価として不当に高価なものと認むべ
き何等の資料もない。又密輸入貨物中の所論の黒糖の原価は税関官吏作成の鑑定書
に基いてこれを認定したもので、これ又原価として不当に高価なものと認むべき何
の資料もない。それ故この点に関する論旨は理由がない。
 同第二点について
 前示改正後の関税法第八十三条中その第一項の規定は、その後更に昭和二十五年
法律第百十七号によつて改正されたことは明であつて、右第一項についての改正は
ないという所論は誤りである。それ故右法律第百十七号の改正による同条第一項を
適用した原判決は正当であつて論旨は理由がない。
 同第三点について
 被告人の所論の所為が原判決の適用した輸出貿易管理令第一条第三号の外に同条
第一号及び同令別表第一の三十一の5・6に違反するとしても、かような主張は被
告人の不利益を主張するに過ぎず被告人のための控訴においては適法の控訴理由と
認められないから論旨は理由がない。
 同第四点について
 所論は昭和二十一年勅令第三百十一号違反について、本件起訴状に記載する訴因
中には該犯行が被告人とA外二十二名及びB等との共謀による旨の記載がないにか
かわらず、これ等の者と共謀してなしたものと認定したのは違法であるというので
ある。しかし訴訟記録を精査するに原審検察官は原審第三回公判において右共犯関
係について裁判官の許可を得て起訴状の訴因を原判決認定のとおり変更し、被告人
及び原審弁護人もその変更に同意したことが明であるから論旨は理由がない。
 同第五点について
 訴訟記録を精査し、本件犯行の動機態様その他諸般の犯情を考慮するに、原判決
の刑の量定は必ずしも不当に重いとは認められないから論旨は理由がない。
 よつて刑事訴訟法第三百九十六条に則つて主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 谷本寛 判事 竹下利之右衛門 判事 二階信一)

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