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主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1新宿税務署長が平成17年7月4日付けでした原告P1の平成15年分の所
得税に係る更正処分のうち,総所得金額430万6762円,分離課税の長期
譲渡所得の金額0円,納付すべき税額25万5300円を超える部分及び過少
申告加算税賦課決定処分を取り消す。
2新宿税務署長が平成17年7月4日付けでした原告P2の平成15年分の所
得税に係る更正処分のうち,総所得金額15万0197円,分離課税の長期譲
渡所得の金額0円,納付すべき税額0円を超える部分及び過少申告加算税賦課
決定処分を取り消す。
3新宿税務署長が平成17年7月4日付けでしたP3の平成15年分の所得税
に係る更正処分のうち,総所得金額67万5825円,分離課税の長期譲渡所
得の金額0円,納付すべき税額2万0400円を超える部分及び過少申告加算
税賦課決定処分を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告ら及びP3が所有していた資産が収用され,補償金の支払を受
けた原告ら及びP3が,当該補償金につき租税特別措置法(平成16年法律第
14号による改正前のもの。以下「措置法」という。)33条の4第1項に基
づく収用交換等の場合の譲渡所得等の特別控除の適用があることを前提とする
所得税の確定申告をしたところ,処分行政庁である税務署長が,当該資産の譲
渡は最初に買取り等の申出のあった日から6か月が経過した後に行われたもの
であるから,当該補償金については同特別控除の適用がないとして更正処分等
を行ったため,収用委員会の裁決がされたことにより同特別控除の適用がある
と主張する原告らが,当該更正処分のうち従前の申告に基づき納付すべき税額
を超える部分についての取消しを求めるとともに,同所得税に係る過少申告加
算税賦課決定の取消しを求める事案である。なお,P3は,平成▲年▲月▲日
に死亡し,P3の子である原告らがその地位を承継している。
1関係法令の定め
(1)措置法33条の4第1項は,個人の有する資産が収用交換等により譲渡さ
れた場合で,その譲渡した資産について措置法33条又は33条の2の適用
を受けないときは,収用交換等がされた資産の譲渡所得の金額の計算上,特
別控除として5000万円を控除する旨規定する。
(2)措置法33条の4第3項1号及び租税特別措置法施行令(以下「措置法施
行令」という。)22条の4第2項は,収用交換等の場合の譲渡所得等の特
別控除は,当該資産等の買取り等の申出をする者(以下「公共事業施行者」
という。)から当該資産につき最初に当該申出があった日から6か月を経過
した日(次のイ又はロに掲げる場合に該当するときは,同日からイ又はロに
定める期間を経過した日)までに譲渡がされなかった場合には,適用しない
旨規定している。
イ土地収用法15条の7第1項の規定による仲裁の申請に基づき同法15
条の11第1項に規定する仲裁判断があった場合当該申請をした日から
当該譲渡の日までの期間
ロ土地収用法46条の2第1項の規定による補償金の支払の請求があった
場合当該請求をした日から当該譲渡の日までの期間
(3)措置法33条の4第4項は,同条第1項の規定は,確定申告書に,公共事
業施行者から交付を受けた買取り等の申出があったことを証する書類その他
の財務省令で定める書類の添付がある場合に限り,適用する旨規定している。
これを受けて,租税特別措置法施行規則(平成16年財務省令第31号に
よる改正前のもの)15条2項は,上記の書類について,公共事業施行者の
買取り等の最初の申出年月日及び当該申出に係る資産の明細を記載した買取
り等の申出があったことを証する書類等(公共事業用資産の買取り等の申出
証明書,公共事業用資産の買取り等の証明書及び収用証明書)である旨規定
し,さらに,措置法施行令22条の4第2項各号のいずれかに該当する場合
(前記(2)のイ又はロの場合)には,その旨を証する書類が必要である旨規定
している。
2前提事実
本件の前提となる事実は,以下のとおりである。いずれも当事者間に争いの
ない事実並びに証拠(甲1から9まで)及び弁論の全趣旨等により容易に認め
ることのできる事実である。
(1)原告ら及びP3が有していた資産
原告ら及びP3は,以下の資産を有していた(以下,これらの資産を総称
して「本件不動産」という。)。
ア建物
(ア)所在新宿区α×××番地2
家屋番号×××番12
共有者原告P1,原告P2,P4及びP5(持分割合各6分の
1)並びにP3(持分割合6分の2)
(イ)所在新宿区α×××番地2
家屋番号×××番2の15
所有者原告P1
イ借地権
対象地新宿区α×××番10及び11(いずれも同所×××番2から
分筆されたもの)
設定者P6
権利者原告P1,原告P2,P4及びP5(持分割合各6分の1)並
びにP3(持分割合6分の2)
(2)本件不動産に対する収用手続
ア東京都が事業施行者である東京都市計画道路事業幹線街路環状第6号線
及び補助線街路第54号線のための事業(以下「本件事業」という。)に
つき,平成3年3月8日に都市計画事業の認可の告示がされ,同12年4
月7日に収用手続開始の告示がされた。
イ本件不動産は,本件事業の対象地とされ,東京都の代理人であるP7公
団(現在のP8株式会社。以下「公団」という。)は,原告ら及びP3に
対し,本件不動産に対する補償金の額を明らかにした「損失補償協議書」
と題する文書(以下「本件損失補償協議書」という。)を郵便により送付
し,これらの文書はいずれも平成13年4月6日に配達された。
ウ東京都は,平成13年4月9日,東京都収用委員会に対し,本件不動産
について,土地収用法39条1項に基づく収用の裁決の申請及び同法47
条の2第3項に基づく明渡裁決の申立てを行った。
これに対して,東京都収用委員会は,同14年10月31日付けで,本
件不動産について,次のとおり,収用裁決(権利取得裁決及び明渡裁決。
以下「本件各収用裁決」という。)を行った。
(ア)原告P1について
a借地権消滅(土地に対する損失の補償)1344万1375円
b建物補償2780万2527円
c工作物補償16万3506円
d立竹木補償1万2889円
e動産補償1万7448円
f家賃減収補償90万8701円
g移転雑費補償253万0317円
(イ)原告P2について
a借地権消滅(土地に対する損失の補償)1344万1375円
b建物補償390万2022円
c工作物補償12万8856円
d立竹木補償1万2889円
e動産補償1万7448円
f家賃減収補償4万3567円
g移転雑費補償68万2388円
(ウ)P3について
a借地権消滅(土地に対する損失の補償)2688万2749円
b建物補償780万4044円
c工作物補償25万7713円
d立竹木補償2万5778円
e動産補償24万1220円
f家賃減収補償8万7133円
g移転雑費補償140万9313円
エ本件各収用裁決では,権利取得裁決に係る権利取得の時期は平成15年
1月6日とされ,明渡裁決に係る明渡しの期限は新宿区α×××番10所
在の土地については同年4月14日,同所×××番11所在の土地につい
ては同年5月9日とされた。
(3)課税処分の経緯
ア(ア)原告P1は,平成15年分の所得税について,確定申告書に総所得
金額を430万6762円(内訳:不動産所得の金額327万6167
円,雑所得の金額268円,一時所得の金額103万0327円),分
離課税の長期譲渡所得の金額を零円,納付すべき金額を25万5300
円と記載し,上記収用裁決に係る裁決書を添付して,法定申告期限まで
に申告した。
(イ)原告P2は,平成15年分の所得税について,確定申告書に総所得
金額を15万0197円(内訳:不動産所得の金額4万3567円,雑
所得の金額268円,一時所得の金額10万6362円),分離課税の
長期譲渡所得の金額を零円,納付すべき金額を零円と記載し,上記収用
裁決に係る裁決書を添付して,法定申告期限までに申告した。
(ウ)P3は,平成15年分の所得税について,確定申告書に総所得金額
を67万5825円(内訳:不動産所得の金額8万7133円,雑所得
の金額537円,一時所得の金額58万8155円),分離課税の長期
譲渡所得の金額を零円,納付すべき金額を2万0400円と記載し,上
記収用裁決に係る裁決書を添付して,法定申告期限までに申告した。
イ(ア)新宿税務署長は,原告P1に対し,平成17年7月4日付けで,本
件不動産の譲渡には措置法33条の4第1項の適用がないとして,総
所得金額を430万6762円,分離課税の長期譲渡所得の金額を38
33万7039円,納付すべき税額を709万7900円とする更正処
分及び過少申告加算税の額を100万1000円とする賦課決定処分を
した。
(イ)新宿税務署長は,原告P2に対し,平成17年7月4日付けで,本
件不動産の譲渡には措置法33条の4第1項の適用がないとして,総所
得金額を15万0197円,分離課税の長期譲渡所得の金額を1559
万8642円,納付すべき税額を218万5100円とする更正処分及
び過少申告加算税の額を30万2000円とする賦課決定処分をした。
(ウ)新宿税務署長は,P3に対し,平成17年7月4日付けで,本件不
動産の譲渡には措置法33条の4第1項の適用がないとして,総所得金
額を67万5825円,分離課税の長期譲渡所得の金額を3219万7
282円,納付すべき税額を493万7900円とする更正処分及び過
少申告加算税の額を71万1500円とする賦課決定処分をした。
ウ原告ら及びP3は,上記各更正処分(以下「本件各更正処分」とい
う。)及び上記各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)
を不服として,平成17年7月14日にそれぞれ異議申立てをしたが,新
宿税務署長は,同年10月13日付けで上記異議申立てをいずれも棄却す
る旨の決定をした。
エ原告ら及びP3は,異議決定を経た後の本件各更正処分及び本件各賦課
決定処分を不服として,平成17年10月28日にそれぞれ審査請求をし
たが,国税不服審判所長は,同18年3月1日付けで上記審査請求をいず
れも棄却する旨の裁決をした。
オ原告らは,平成18年7月25日,本件訴えを提起した。なお,上記の
各課税処分の経緯の詳細は,別表1−1ないし1−3のとおりである。
3被告が主張する原告ら及びP3の所得税額
被告が本件訴訟において主張する原告ら及びP3の平成15年分の所得税の
算出過程及び算出根拠は,次のとおりである。
本件の争点は,本件各収用裁決に基づく補償金について収用交換等の場合の
譲渡所得等の特別控除の適用があるか否かであり,原告らは,その余の被告主
張の課税根拠及び計算関係については争っていない。
(1)原告P1について
ア総所得金額(別表1−1各欄①の金額)
430万6762円
上記金額は,原告P1が平成16年3月11日に新宿税務署長に提出し
た平成15年分の所得税の確定申告書(以下「P1確定申告書」とい
う。)に総所得金額として記載されている金額と同額である。
イ分離長期譲渡所得の金額(別表1−1「更正処分等」欄②の金額)
3833万7039円
上記金額は,次の(ア)の金額から(イ)及び(ウ)の金額を控除した金額で
ある。
(ア)譲渡収入金額(別表2−1「更正処分額」の「合計」欄①の金額)
4140万7408円
上記金額は,原告P1が,本件不動産を東京都に収用されたことによ
り受領した自己の持分に係る収入金額であり,P1確定申告書に添付さ
れていた「譲渡所得の内訳書(計算明細書【土地・建物用】)」(以下
「譲渡所得計算明細書」という。)に,収入金額として記載されている
金額と同額である。
(イ)必要経費(別表2−1「更正処分額」の「合計」欄④の金額)
207万0369円
上記金額は,措置法31条の4に規定する長期譲渡所得の金額の計算
上収入金額から控除する取得費である上記(ア)の総収入金額4140万
7408円の100分の5に相当する金額(ただし,土地等に係る収入
金額と土地等以外の部分に係る収入金額ごとに100分の5を乗じた金
額の合計額である。別表2−1「更正処分額」各欄②)に,譲渡費用0
円(同③)を加算した必要経費の額(同④)であり,P1確定申告書に
添付されていた譲渡所得計算明細書に,本件不動産のうち原告P1の持
分に相当する部分の必要経費として記載されている金額と同額である。
なお,原告P2及びP3の分離長期譲渡所得に係る譲渡収入金額の内
訳並びに必要経費の根拠及び計算過程は,上記の原告P1と同様である。
(ウ)特別控除額(別表2−1「更正処分額」の「合計」欄⑥の金額)
100万円
上記金額は,措置法31条4項に規定する長期譲渡所得の特別控除額
である。
ウ所得控除額の合計額(別表1−1各欄③の金額)
111万3922円
上記金額は,P1確定申告書に所得控除額の合計額として記載されてい
る金額と同額である。
エ納付すべき税額(別表1−1「更正処分等」欄⑬の金額)
709万7900円
上記金額は,次の(ア)の金額と(イ)の金額の合計額から(ウ)の金額を控
除した金額(ただし,国税通則法(以下「通則法」という。)119条1
項の規定により100円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。
(ア)課税総所得金額に対する税額(別表1−1各欄⑦の金額)
31万9200円
上記金額は,原告P1の総所得金額に対する税額であり,上記アの金
額からウの金額を控除した残額(ただし,通則法118条1項の規定に
より,1000円未満の端数を切り捨てた後のもの)に,所得税法89
条に規定する税率(本件の場合は100分の10)を乗じて求めた金額
で,P1確定申告書に総所得金額に対する税額として記載された金額と
同額である。
(イ)課税分離長期譲渡所得の金額に対する税額(別表1−1「更正処分
等」欄⑧の金額)
702万8750円
上記金額は,原告P1の分離長期譲渡所得に対する税額であり,次の
aの金額とbの金額の合計額である。
a土地等に係る分離長期譲渡所得金額に対する税額(別表2−1「更
正処分額」の「土地等」欄⑧の金額)
191万5350円
上記金額は,措置法31条の2第1項の規定による所得税の額であ
り,上記イの原告P1の分離長期譲渡所得金額のうち土地等に係る部
分の金額1276万9000円(別表2−1「更正処分額」の「土地
等」欄⑦の金額。ただし,通則法118条1項の規定に準じて,10
00円未満の端数を切り捨てた後のもの)の100分の15に相当す
る金額である。
b土地等以外の部分に係る分離長期譲渡所得金額に対する税額(別表
2−1「更正処分額」の「土地等以外」欄⑧の金額)
511万3400円
上記金額は,措置法31条1項の規定による所得税の額であり,上
記イの原告P1の分離長期譲渡所得金額のうち土地等以外に係る部分
の金額2556万7000円(別表2−1「更正処分額」の「土地等
以外」欄⑦の金額。ただし,通則法118条1項の規定に準じて,1
000円未満の端数を切り捨てた後のもの)の100分の20に相当
する金額である。
なお,原告P2及びP3に係る課税分離長期譲渡所得の金額に対す
る税額の計算過程は,上記の原告P1と同様である。
(ウ)定率減税額(別表1−1「更正処分等」欄⑨の金額)
25万円
上記金額は,経済社会の変化等に対応して早急に構ずべき所得税及び
法人税の負担軽減措置に関する法律(平成11年法律第8号)6条によ
る控除税額であり,原告P2及びP3において同様である。
(2)原告P2について
ア総所得金額(別表1−2各欄①の金額)
15万0197円
上記金額は,原告P2が平成16年3月11日に新宿税務署長に提出し
た平成15年分の所得税の確定申告書(以下「P2確定申告書」とい
う。)に総所得金額として記載されている金額と同額である。
イ分離長期譲渡所得の金額(別表1−2「更正処分等」欄②の金額)
1559万8642円
上記金額は,次の(ア)の金額から(イ)及び(ウ)の金額を控除した金額であ
る。
(ア)譲渡収入金額(別表2−2「更正処分額」の「合計」欄①の金額)
1747万2253円
上記金額は,P2確定申告書に添付されていた譲渡所得計算明細書に,
収入金額として記載されている金額と同額である。
(イ)必要経費(別表2−2「更正処分額」の「合計」欄④の金額)
87万3611円
上記金額は,P2確定申告書に添付されていた譲渡所得計算明細書に,
本件不動産のうち原告P2の持分に相当する部分の必要経費として記載
されている金額と同額である。
(ウ)特別控除額(別表2−2「更正処分額」の「合計」欄⑥の金額)
100万円
上記金額は,措置法31条4項に規定する長期譲渡所得の特別控除額
である。
ウ所得控除額の合計額(別表1−2各欄③の金額)
38万円
上記金額は,P2確定申告書に所得控除額の合計額として記載されてい
る金額と同額である。
エ納付すべき税額(別表1−2「更正処分等」欄⑬の金額)
218万5100円
上記金額は,次の(ア)の金額と(イ)の金額の合計額から(ウ)の金額を控
除した金額(ただし,通則法119条1項の規定により100円未満の端
数を切り捨てた後のもの)である。
(ア)課税総所得金額に対する税額(別表1−2各欄⑦の金額)
0円
上記アのとおり,原告P2の総所得金額は15万0197円であると
ころ,当該金額からウの所得控除額を控除すると,原告P2の課税総所
得金額は0円となり(なお,所得控除額のうち,同所得金額から控除し
きれない金額は22万9803円となる。),これに対する税額は算出
されない。
(イ)課税分離長期譲渡所得の金額に対する税額(別表1−2「更正処分
等」欄⑧の金額)
243万5150円
上記金額は,原告P2の分離長期譲渡所得に対する税額であり,次の
aの金額とbの金額の合計額である。
a土地等に係る分離長期譲渡所得金額に対する税額(別表2−2「更
正処分額」の「土地等」欄⑧の金額)
191万5350円
上記金額は,上記イの原告P2の分離長期譲渡所得金額のうち土地
等に係る部分の金額1276万9000円(別表2−2「更正処分
額」の「土地等」欄⑦の金額。ただし,通則法118条1項の規定に
準じて,1000円未満の端数を切り捨てた後のもの)の100分の
15に相当する金額である。
b土地等以外の部分に係る分離長期譲渡所得金額に対する税額(別表
2−2「更正処分額」の「土地等以外」欄⑧の金額)
51万9800円
上記金額は,上記イの原告P2の分離長期譲渡所得金額のうち土地
等以外に係る部分の金額282万9335円(別表2−2「更正処分
額」の「土地等以外」欄⑦の金額)から,上記(ア)で述べた,なお控
除しきれない所得控除額22万9803円を控除した残額259万9
000円(ただし,通則法118条1項の規定に準じて,1000円
未満の端数を切り捨てた後のもの)の100分の20に相当する金額
である。
(ウ)定率減税額
25万円
(3)P3について
ア総所得金額(別表1−3各欄①の金額)
67万5825円
上記金額は,P3が平成16年3月11日に新宿税務署長に提出した平
成15年分の所得税の確定申告書(以下「P3確定申告書」という。)に
総所得金額として記載されている金額と同額である。
イ分離長期譲渡所得の金額(別表1−3「更正処分等」欄②の金額)
3219万7282円
上記金額は,次の(ア)の金額から(イ)及び(ウ)の金額を控除した金額で
ある。
(ア)譲渡収入金額(別表2−3「更正処分額」の「合計」欄①の金額)
3494万4506円
上記金額は,P3確定申告書に添付されていた譲渡所得計算明細書に,
収入金額として記載されている金額と同額である。
(イ)必要経費(別表2−3「更正処分額」の「合計」欄④の金額)
174万7224円
上記金額は,P3確定申告書に添付されていた譲渡所得計算明細書に,
本件不動産のうちP3の持分に相当する部分の必要経費として記載され
ている金額と同額である。
(ウ)特別控除額(別表2−3「更正処分額」の「合計」欄⑥の金額)
100万円
上記金額は,措置法31条4項に規定する長期譲渡所得の特別控除の
金額である。
ウ所得控除額の合計額(別表1−3各欄③の金額)
41万9209円
上記金額は,P3確定申告書に所得控除額の合計額として記載されてい
る金額と同額である。
エ納付すべき税額(別表1−3「更正処分等」欄⑬の金額)
493万7900円
上記金額は,次の(ア)の金額と(イ)の金額の合計額から(ウ)の金額を控
除した金額である。
(ア)課税総所得金額に対する税額(別表1−3各欄⑦の金額)
2万5600円
上記金額は,P3の総所得金額に対する税額であり,上記アの総所得
金額からウの所得控除額を控除した残額(ただし,通則法118条1項
の規定により,1000円未満の端数を切り捨てた後のもの)に,所得
税法89条に規定する税率(本件の場合は100分の10)を乗じて求
めた金額で,P3確定申告書に総所得金額に対する税額として記載され
た金額と同額である。
(イ)課税分離長期譲渡所得の金額に対する税額(別表1−3「更正処分
等」欄⑧の金額)
516万2300円
上記金額は,P3の分離長期譲渡所得に対する税額であり,次のaの
金額とbの金額の合計額である。
a土地等に係る分離長期譲渡所得金額に対する税額(別表2−3「更
正処分額」の「土地等」欄⑧の金額)
383万0700円
上記金額は,上記イのP3の分離長期譲渡所得金額のうち土地等に
係る部分の金額2553万8000円(別表2−3「更正処分額」の
「土地等」欄⑦の金額。ただし,通則法118条1項の規定に準じて,
1000円未満の端数を切り捨てた後のもの)の100分の15に相
当する金額である。
b土地等以外の部分に係る分離長期譲渡所得金額に対する税額(別表
2−3「更正処分額」の「土地等以外」欄⑧の金額)
133万1600円
上記金額は,上記イのP3の分離長期譲渡所得金額のうち土地等以
外に係る部分の金額665万8000円(別表2−3「更正処分額」
の「土地等以外」欄⑦の金額。ただし,通則法118条1項の規定に
準じて,1000円未満の端数を切り捨てた後のもの)の100分の
20に相当する金額である。
(ウ)定率減税額
25万円
4争点
本件の争点は,本件各収用裁決に基づく補償金について,収用交換等の場合
の譲渡所得等の特別控除の適用があるか否かである。
5当事者の主張の要旨
(被告の主張)
被告が本訴において主張する原告ら及びP3の平成15年分の所得税に係る
納付すべき税額は,前記3のとおり,①原告P1709万7900円,②原告
P2218万5100円,③P3493万7900円であるところ,当該各金
額は本件各更正処分における各人の納付すべき税額と同額であるから,本件各
更正処分は適法である。
このように,本件各更正処分は適法であるところ,原告ら及びP3は,平成
15年分の所得税に係る課税標準及び納付すべき税額を過少に申告していたも
のであるから,同人らに課されるべき過少申告加算税の額は,通則法65条1
項及び2項の規定に基づき,それぞれ本件各更正処分により新たに納付すべき
こととなった税額「A」(ただし,通則法118条3項の規定により1万円未
満の端数を切り捨てた後のもの)に100分の10を乗じて算出した金額と,
Aのうち,各人の確定申告における納付すべき税額(別表1−1ないし1−3
「確定申告」欄⑬の各金額)と50万円のいずれか多い方の金額を超える部分
に相当する金額(ただし,同項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後
のもの)に100分の5を乗じて算出した金額を合計した金額となる。上記に
より算出した原告ら及びP3に課されるべき過少申告加算税の額は,①原告P
1100万1000円,②原告P230万2000円,③P371万1500
円となるところ,これと同額を課した本件各賦課決定処分は適法である。
(原告らの主張)
平成14年10月31日に本件各収用裁決に係る裁決書の送付を受けた原告
ら及びP3は,当時の新宿税務署長の指導に従い,平成15年分の確定申告書
に所要の記載をした上で,これに上記裁決書を添付して,本件各収用裁決から
6か月が経過する前である同15年3月15日までに確定申告の手続を執った
ものであるから,本件各収用裁決に基づく補償金については,収用交換等の場
合の譲渡所得等の特別控除の適用があり,これを適用しなかった本件各更正処
分及び本件各賦課決定処分はいずれも違法である。
第3争点に対する判断
1(1)前記のとおり,措置法33条の4第1項は,個人の有する資産が収用交換
等により譲渡された場合には,収用交換等がされた資産の譲渡所得の金額の
計算上,特別控除として5000万円を控除する旨規定し,さらに,同条3
項1号は,原則として,公共事業施行者から当該資産につき最初に買取り等
の申出があった日から6か月を経過した日までに当該譲渡がされなかった場
合には,上記特別控除は適用しない旨規定している。
(2)措置法33条の4第3項1号が,最初に買取り等の申出があった日から6
か月を経過した日までに譲渡がされなかった場合につき上記特別控除を適用
しないとしたのは,公共事業施行者の事業遂行を円滑かつ容易にするため,
その申出に応じて資産の早期譲渡に協力した者についてのみ,その補償金等
に対する所得税につき特別の優遇措置を講じ,もって公共事業用地の取得の
円滑化を図る趣旨からと解される。
このような措置法33条の4第3項1号の趣旨に照らすと,同号の「最初
に買取り等の申出があった日」とは,公共事業施行者が,資産の所有者に対
し,買取り資産を特定し,その対価を明示して,買取り等の意思表示を初め
てした日をいうものと解するのが相当であり,公共事業施行者が示した対価
の額が客観的な価額に比して低額であったとしても,その後6か月の期間に
おいて公共事業施行者と資産の所有者の間で対価の額について交渉する余地
が残されていることを考慮に入れると,最終的に確定した買収価額が明示さ
れた日をいうものではないと解すべきである。
また,措置法33条の4第3項1号の規定する収用交換等による譲渡のあ
った日とは,被収用者は,土地又は土地に関する所有権以外の権利に対する
補償金については裁決で定められた権利取得の時期に,その他の補償金につ
いては裁決で定められた明渡し期限に,それぞれ法律上その権利を行使する
ことができることになること(土地収用法95条,97条,101条,10
2条)を考慮すると,裁決において定められた権利取得の時期又は明渡しの
期限と定められた日と解するのが相当である。
(3)なお,措置法33条の4第3項1号括弧書きは,上記特別控除の適用要件
の例外を規定しているが,これは,公共事業施行者からの最初の買取り等の
申出に応じて,同申出から6か月が経過する日までに,土地収用法15条の
7第1項による仲裁の申請又は同法46条の2第1項による補償金の支払の
請求が行われているときには,資産の所有者がその対償について争い,ある
いは補償金の支払を求めているとしても,資産の買取り等については受諾し
ているものと認められ,6か月の期限を適用してその譲渡を誘引することは
必ずしも要しないと考えられるため,上記要件を緩和する措置が講じられた
ものと解される。
2(1)そこで,これを本件についてみると,前記前提事実のとおり,公団は,本
件損失補償協議書により,資産の所有者である原告ら及びP3に対し,買取
り資産を特定し,その対価を明示して,買取り等の意思表示をしているから,
本件における「最初に買取り等の申出があった日」は,本件損失補償協議書
が原告ら及びP3に到達した平成13年4月6日であると認められる。そし
て,本件各収用裁決では,権利取得裁決に係る権利取得の時期は平成15年
1月6日とされ,明渡裁決に係る明渡しの期限は同年4月14日又は同年5
月9日とされているから,本件における「収用交換等による譲渡のあった
日」は,これらの日であると認めるのが相当である。
そうすると,原告ら及びP3は,事業施行者から本件不動産についての
「最初に買取り等の申出があった日」から6か月を経過した日までに本件不
動産の譲渡をしていないことが明らかであり,また,本件不動産について土
地収用法15条の7第1項による仲裁の申請又は同法46条の2第1項によ
る補償金の支払の請求が行われた事実は認められないから,本件各収用裁決
に基づく補償金については,収用交換等の場合の譲渡所得等の特別控除の適
用はないというべきである。
(2)原告らは,本件各収用裁決に基づく補償金について,本件各収用裁決があ
ったこと及び裁決書の確定申告書への添付により,収用交換等の場合の譲渡
所得等の特別控除の適用が認められるべきである旨主張するが,前述したと
ころに照らし,独自の見解であることが明らかであって,採用することがで
きない。
(3)以上によれば,本件各更正処分及び本件各賦課決定処分は,いずれも適法
なものというべきである。
第4結論
よって,原告らの請求はいずれも理由がないから,これらを棄却することと
し,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民訴法61条,65条1項
本文を適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第38部
杉原則彦裁判長裁判官
市原義孝裁判官
島村典男裁判官

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