弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破毀する。
     本件を仙台高等裁判所に差戻す。
         理    由
 上告理由第五点について。
 原判決は本件a番及びb番の宅地上にはいずれも、当時右土地の所有者であつた
Dが建物を所有し、これを他に賃貸していたのであるが、右建物は、昭和二〇年七
月一〇日の空襲により罹災滅失した。被上告人B1は昭和二〇年一〇月一五日から
右a番宅地を、被上告人B2は同二一年五月二五日からb番宅地を所有者から賃借
したのであるが、右罹災後被上告人等が右宅地を賃借するまでの二ヶ月以上の期間
右建物の居住者であつた借家人等は、その借家所在地の使用を始めた事実はないの
であるから被上告人等は、いずれも旧戦時罹災土地物件令第四条第四項の規定する
「土地所有者から土地を使用せしめられている他人」に当るものである、しかして
被上告人B1は、同二一年二月中に右a番地上に一応の建築を完成し、これに居住
してその使用を開始し、被上告人B2は同年六月上旬中にb番地上に建築用の壁土
を運搬して、その使用を始めつゞいて同二二年三月右地上に建物の建築に着手した
のであるから、被上告人等は、いずれも、罹災都市借地借家臨時処理法第二九条第
三項、第三二条第一項第二条第一項により、土地の所有者に対し、建物所有の目的
で賃借の申出をすることができるのであるが被上告人等は、同二三年四月一九日午
前九時の本件口頭弁論期日に、Dから右宅地の所有権を譲受けて現在右土地の所有
者である上告人に対し、夫々右土地の賃借の申出をしたといふ事実を認定して、こ
れによつて同法第二条第二項第三項の適法なる賃貸拒絶のない限り、被上告人等は
同法所定の賃借権者となつたものと判断し、被上告人等は、適法に、上告人に対し
て賃借権にもとずいて本件宅地を占有使用する権限を有するものと判示したのであ
る。しかしながら同法第二九条第三項、第三二条第一項、第二条第一項によつて、
土地所有者に対し、建物所有の目的で土地の賃借を申出る權利を有するものが、右
申出をした場合において、土地所有者が右申出を受けた日から三週間以内に拒絶の
意思表示をしないときは、その期間満了のときに、その申出を承諾したものとみな
されることは、同法第二条第二項の明定するところである。であるから右申出があ
つても、敷地使用者と土地所有者との間において、右申出によつて、直ちに賃貸借
が成立するものでなく、土地所有者が右申出を承諾するか、または同条同項によつ
て、これを承諾したものとみなされるときに、初めて両者の間に賃貸借が成立する
ものであることは同条の法意に照し疑を容れないところである。もつとも同条第三
項は土地所有者は正当な事由のある場合でなければ、右申出を拒絶することができ
ないことを規定しているけれども、たとい、正当な事由のない場合であつも、土地
所有者は、右申出を受けると同時に、直ちに、これを承諾したものとみなされるの
ではなくやはり、右申出を受けた後、三週間の期間満了のときにこれを承諾したも
のとみなされるのである。しかるに、原審は、上告人が右申出を承諾した事実を確
定することなく、しかも右申出後、三週間の期間経過を待たないで右申出の即日、
口頭弁論を終結して、その判決において、「右申出によつて、同法第二条第二項第
三項の適法なる賃貸拒絶のない限り、被上告人等は同法所定の賃借権者となつたも
のと認められる」と説示し被上告人等は本件宅地の賃借権者として、これを占有使
用する権限あるものとして、上告人敗訴の判決を言渡したのは畢竟、同法第二条第
二、三項の解釋を誤つたものというの外なく、この点に関する論旨は理由あり、原
判決は破毀を免れないものである。
 よつて他の上告理由に対する判断を省略し、民事訴訟法第四〇七条に従つて、主
文のごとく判決する。
 右は裁判官一致の意見である。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎

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