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平成27年12月22日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成26年(ワ)第26819号違約金等請求事件
口頭弁論の終結の日平成27年10月22日
判決
原告株式会社ゴーゴーカレーグループ
同訴訟代理人弁護士橋岡宏成
同タム・ピーター
同替地俊二
同萱野唯
被告A
(以下「被告A」という。)
被告B
(以下「被告B」という。)
被告C
(以下「被告C」という。)
被告ら訴訟代理人弁護士宗村森信
同古屋芳樹
主文
1被告Aは,原告に対し,被告B及び被告Cと連帯し
て,1037万5584円及びこれに対する平成26
年11月5日から支払済みまで年1割2分5厘の割
合による金員を支払え。
2被告Bは,原告に対し,1037万5584円及び
これに対する平成26年11月1日から支払済みま
で年1割2分5厘の割合による金員を(1037万5
584円及びこれに対する同月3日から支払済みま
で年1割2分5厘の割合による金員の限度で被告C
と連帯して,また,1037万5584円及びこれに
対する同月5日から支払済みまで年1割2分5厘の
割合による金員の限度で被告Aと連帯して)支払え。
3被告Cは,原告に対し,1037万5584円及び
これに対する平成26年11月3日から支払済みま
で年1割2分5厘の割合による金員を(全額について
被告Bと連帯して,また,1037万5584円及び
これに対する同月5日から支払済みまで年1割2分
5厘の割合による金員の限度で被告Aと連帯して)支
払え。
4訴訟費用はこれを2分し,その1を原告の負担とし,
その余を被告らの負担とする。
5この判決は,第1項ないし第3項に限り,仮に執行
することができる。
事実及び理由
第1請求
被告らは,原告に対し,連帯して2008万6024円及びこれに対する訴
状送達の日の翌日(被告Aについて平成26年11月5日,被告Bについて同
月1日,被告Cについて同月3日)から支払済みまで年1割2分5厘の割合に
よる金員を支払え。
第2事案の概要
1事案の要旨
原告は,別紙商標目録1ないし4記載の各登録商標(以下,これらを併せて
「本件各商標」といい,本件各商標に係る各商標権を「本件各商標権」という。)
の商標権者から本件各商標の独占的通常使用権の許諾を受けて使用している
ところ,被告Aとの間において平成23年12月27日付けライセンス契約
(以下「本件契約」という。)を,また,被告B及び同Cとの間において同日
付け連帯保証契約(以下「本件各連帯保証契約」という。)を,それぞれ締結
した。被告Aは,本件契約に基づき,ゴーゴーカレー大宮東口スタジアム(以
下「本件店舗」という。)において,本件各商標を使用してカレー店の営業を
行っていた。
本件は,原告が,被告Aにおいて本件契約が定めるロイヤリティの支払を複
数回にわたり懈怠したため,被告Aの債務不履行を理由に本件契約を解除した
にもかかわらず,被告Aにおいて本件契約の解除後も本件各商標の使用及び本
件店舗におけるカレー店の営業を継続したことが,本件契約の定める競業避止
義務及び商標等取扱義務に違反し,また,商標権侵害(不法行為)及び不正競
争(不正競争防止法2条1条1号)に当たると主張して,被告らに対し,次の
とおりの連帯支払を求める事案である。
(1)被告Aに対し,①本件契約が定める競業避止義務に違反したことに基づ
く違約金として518万7792円,②本件契約が定める本件各商標等の取
扱義務に違反したことに基づく違約金として518万7792円,③商標権
侵害の不法行為(民法709条,商標法38条2項)ないしは不正競争(不
正競争防止法4条,2条1項1号)に基づく損害賠償金として971万04
40円,以上の合計額である2008万6024円及びこれに対する訴状送
達の日の翌日から支払済みまで約定利率である年1割2分5厘の割合によ
る遅延損害金の支払を求める。
(2)被告B及び同Cに対し,本件各連帯保証契約に基づき,上記(1)と同額の
各支払を求める。
2前提事実(当事者間に争いのない事実並びに各項末尾掲記の証拠及び弁論の
全趣旨により認められる事実)
(1)当事者
原告は,飲食店業,カレーの製造・加工販売,飲食店のフランチャイズ本
部の運営等を目的とする株式会社(平成15年12月設立,資本金5500
万円)である。原告は,本件各商標権を有している有限会社みやぢ(代表者
は原告代表者と同一である。)から本件各商標の独占的通常使用権の許諾を受
けている。本件各商標は,原告の営業表示として消費者の間で広く認識され
ている。
被告Aは,被告のフランチャイジーとして,平成24年2月から本件店舗
で本件各商標を使用してカレー店の営業をしていた者であり,被告B及び被
告Cは,いずれも,被告Aが原告に対して負担する債務につき,原告に対し,
連帯保証した者である。
(甲1,弁論の全趣旨)
(2)本件契約等の締結及び営業の開始
ア原告は,平成23年12月27日,被告Aとの間において本件契約を
締結し,これによって,被告Aが本件店舗(住所は省略)において,原
告のライセンシーとして,カレー店の営業を行うことを許諾した。なお,
本件契約には,次の内容の条項が定められている。
(ア)原告は,被告Aに対し,被告Aが原告の指定する商品を販売するた
めに,本件店舗において,原告の商標・サービスマーク・その他の標章
を使用することができる。(3条1項)
(イ)被告Aは,原告に対し,本件店舗の総売上に5.5%を乗じた金額
に,消費税を加算した金額をロイヤリティとして支払う。ロイヤリティ
の算定期間は,暦月の1日から末日までの総売上を基礎に算出し,被告
Aは,翌月20日までに原告指定の口座に振り込む方法により支払う。
ただし,金融機関が休日の場合は,翌営業日までに入金するものとする。
(5条1項,2項,別紙1)
(ウ)被告Aは,原告に対し,業務連絡,通達及び管理業務(売上管理,
発注仕入管理,勤怠管理)に用いるシステムの使用料として,月額1万
5750円(消費税込み)を支払う。システムの使用料は暦月の1日か
ら末日までの分を,翌月20日までに原告指定の口座に振り込む方法に
より支払う。(6条)
(エ)原告は,被告Aに対し,原告指定の商品を継続的に販売し,被告A
はこれを購入する。被告Aは,暦月の1日から末日までに原告が納品し
た商品の代金を,翌月20日までに原告指定の口座に振り込む方法によ
り支払う。(7条1項,2項)
(オ)被告Aは,本件契約終了後に原告の商標等を使用してはならない。
(19条4項)
(カ)「乙(判決注:被告A)が本条(判決注:19条)の定めに反した
場合は,乙は,通常のロイヤリティとは別に少なくても違約金として違
反が発生した直近月のロイヤリティの24ヶ月分を甲(判決注:原告)
に対して支払うものとする。当該違約金は,甲から乙への損害賠償及び
本条以外に定められた違約金の請求を妨げるものではない。」(19条5
項。以下「本件違約金条項1」という。)
(キ)「乙(判決注:被告A)(中略)は,本契約中並びに本契約終了後
5年間は,甲(判決注:原告)の書面による承諾がない限り,甲と競合
する事業に,経営,出資,従事等により関与してはならない。なお,乙
が本条の定めに反した場合は,乙は,違約金として少なくてもロイヤリ
ティの24ヶ月相当額を甲に対して支払うものとする。当該違約金は,
これを上回る甲から乙への損害賠償及び本条以外に定められた違約金
の請求を妨げるものではない。」(20条。以下,上記第2文及び第3文
の定めを「本件違約金条項2」といい,本件違約金条項1と併せて「本
件各違約金条項」という。)
(ク)被告Aが次の各号の一つに該当するときには,原告は催告を要せず
直ちに本件契約を解除することができる。(27条1項)
⑻号本件契約に基づく金員の支払を怠ったときその他本件契約及び
これに付随する契約の各条項に違反したとき
(ケ)被告Aは,本件契約及びこれに付随する契約により負担する債務の
支払を期日までに履行しなかったときには,その遅延分につき年利12.
5%の割合の遅延損害金を原告に支払うものとする。(30条)
イ原告は,平成23年12月27日,被告B及び同Cとの間で,本件契約
から生ずる被告Aの一切の債務について,被告B及び同Cがそれぞれ連帯
して保証する旨の本件各連帯保証契約を締結した。
ウ被告Aは,本件契約に基づき,平成24年2月15日から本件店舗にお
いて「ゴーゴーカレー」の店舗として本件各商標を使用してカレー店の営
業を開始し,原告は,本件契約に基づき,被告Aに対し,システムの提供,
指定商品の販売及び販促活動等を行った。
(甲4)
(4)未払ロイヤリティ等
被告Aは,本件契約に基づく平成26年1月分以降のロイヤリティ,商品
代金及びシステム使用料等につき,次のとおり,その全部又は一部を支払っ
ていない。
ア平成26年1月分163万0764円
イ同年2月分152万1892円
ウ同年3月分126万8716円
エ被告Aは,同年3月31日,原告に対し,同年1月分及び2月分のロイ
ヤリティ等の一部である33万0764円を支払い,同年4月21日,原
告に対し,同年1月分ないし3月分のロイヤリティ等の一部である50万
円を支払った。
(5)本件契約の解除
原告は,平成26年4月23日,被告らに対して,同年1月分から3月分
までのロイヤリティ,商品代金及びシステム使用料等合計409万0608
円の不払を理由に本件契約を解除するとともに(本件契約27条1項8号に
よる解除。以下「本件解除」という。),同額の支払を求める書面を送付し,
同書面は,同月24日,被告A及び同Bに到達した。
(6)本件解除後における営業等の継続等
被告Aは,本件契約の解除後も,平成26年8月26日まで,本件店舗の
内外に本件各商標と同一の標章を多数表示し,本件店舗において「ゴーゴー
カレー」の店舗としてカレー店の営業を継続した。
原告は,同年7月17日,東京地方裁判所に対し,商標法及び不正競争防
止法に基づき,被告Aによる本件各商標と同一の標章の使用差止等を求める
仮処分を申し立て,同裁判所は,同年8月14日,被告に対し,カレー店を
営むに当たって本件各商標と同一の標章を付した店舗の看板等の使用を差し
止めることなどを内容とする仮処分決定をした。原告は,さいたま地方裁判
所執行官に対し,同仮処分決定に基づく保全執行を申し立て,同月27日,
同保全執行が実施された。
(甲15,16,20~22。枝番のあるものは枝番を含む。以下同じ。)
3争点
被告らは,①本件解除が無効であるから,被告Aによる本件各商標の使用等
は本件契約に基づき原告から許諾されたものであるとして,本件契約上の義務
違反(競業避止義務違反,商標等取扱義務違反),商標権侵害及び不正競争の各
成立を争うとともに,②原告の損害額及び③本件各違約金条項の法的性質をそ
れぞれ争い,さらに,④被告Aの原告に対する不法行為に基づく損害賠償債権
を自働債権とする相殺を主張する。
したがって,本件の争点は次の(1)ないし(4)である。
(1)本件解除の有効性(争点1)
(2)原告の損害額(争点2)
(3)本件各違約金条項の法的性質(争点3)
(4)相殺の成否(争点4)
4争点に関する当事者の主張
(1)争点1(本件解除の有効性)について
[原告の主張]
被告Aは,自己の資金繰りが悪化したため,原告による再三の催告にもか
かわらず,平成26年1月分ないし3月分のロイヤリティ等の支払をしなか
ったのであるから,本件契約27条1項⑻号に該当し,本件契約の解除事由
となる。なお,フランチャイザーとフランチャイジーはいずれも独立の事業
者であるから,本件解除の有効性を判断するに際して,契約当事者間の信頼
関係が契約解除を正当ならしめるほど破壊されたかどうか,という基準によ
ることは妥当ではない。
仮に,被告らの主張するとおり,本件契約の解除に契約当事者間の信頼関
係を破壊するに足る事情が必要であるとしても,ロイヤリティ等の支払義務
が本件契約における根幹をなす重要な義務であること,原告は被告Aに対し
解除前に再三催告をしていることに鑑みれば,原告と被告Aの間の信頼関係
が破壊されていることは明らかであって,本件解除は有効である。
しかるに,被告Aは,本件契約の解除後も本件各商標の使用及び本件店舗
におけるカレー店の営業を継続したから,本件契約上の義務違反(競業避止
義務違反,商標等取扱義務違反),商標権侵害及び不正競争(本件各商標の周
知性には争いがなく,混同のおそれも存在する。)がそれぞれ成立する。
[被告らの主張]
本件契約は継続的契約であり,契約当事者間の信頼関係にその基礎をおい
ているから,契約当事者間の信頼関係が契約解除を正当ならしめるほど破壊
されたかどうかという観点から契約解除の有効性が判断されるべきであると
ころ,次のような事情に照らせば,被告Aによるロイヤリティ等の不払が,
被告Aと原告間の契約解除を正当ならしめるほど両者間の信頼関係を破壊し
たとまではいえず,本件解除は無効である。したがって,被告Aによる本件
各商標の使用等は本件契約に基づき原告から許諾されたものであるから,被
告Aには,本件契約上の義務違反(競業避止義務違反,商標等取扱義務違反),
商標権侵害及び不正競争のいずれも成立しない。
ア本件店舗は,開店当初から売上げが見込みを大きく下回り,そのことに
ついて被告Aが原告のサポートを要請しているにもかかわらず,原告はそ
れに対して何も対応しないばかりか本部に関する情報をシャットアウトす
るなど,営業妨害に近い行為すら行った。また,原告は,原告に対して提
起された別件訴訟における和解条項(乙8の第4項)を遵守しなかった。
被告Aが原告に対して平成26年1月分以降のロイヤリティ等を支払わな
かったのは上記のような原告の対応を理由とするものであって,正当な目
的による不払である。
イ原告が被告Aの要請に対応しない以上,他に対抗手段を持たない被告A
としては,もはやロイヤリティ等の不払で原告の対応を引き出そうとする
しか方法がない。被告Aは,開店から平成25年12月までの約1年10
か月間はロイヤリティ等をきちんと支払ったのであり,支払わなかったロ
イヤリティ等の額及び期間は,原告がそれ以前に支払った額と期間に比し
て過大なものではなく,不払が原告の対応に対抗する手段として不相当で
あるとはいえない。
(2)争点2(原告の損害額)について
[原告の主張]
本件店舗における平成26年3月の売上は393万0152円である一方,
同月の原材料費はカレールーの代金とサテライトからの出荷食材代金を合計
した143万0987円に当時の消費税(5%)を乗じた150万2536
円であるから,1か月当たりの利益は上記売上から上記原材料費(税込)を
控除した242万7616円であり,1日当たりの利益は7万8310円と
なる。
そして,被告Aの故意又は過失による商標権侵害行為又は不正競争行為が
なければ,原告は,自らが営業するカレー店において利益を得ることができ
たのであるから,被告Aの商標権侵害行為又は不正競争行為による原告の損
害額は,本件解除の翌日である平成26年4月25日から同年8月26日ま
での124日間に,1日当たり7万8310円を乗じた額である合計971
万0440円となる。
[被告らの主張]
争う。
(3)争点3(本件各違約金条項の法的性質)について
[原告の主張]
ア本件違約金条項1の目的は,商標等取扱義務違反の制裁を定めることに
よって,商標等の適正な取扱いを確保して商標等が無断で使用され自他商
品識別機能が害されることを防ぐことにあり,違約金とともに損害賠償の
請求ができることも明示的に規定されている。また,本件違約金条項2の
目的は,競業避止義務違反の制裁を定めることによって,競業避止義務の
履行を確保し,営業秘密の保護を含むフランチャイザーとしての正当な利
益を保護する点にあり,違約金以外に損害賠償請求ができることも明示的
に規定されている。したがって,本件各違約金条項は,いずれも違約罰の
定めであると解すべきである。
なお,本件違約金条項1においては,違約金の額につき「少なくても(中
略)24ヶ月分」という定め方がされているが,違反の程度や行為の悪質
性によって請求額を変動させることも考えられるのであり,定額又は固定
された算定方法でないという一事をもって違約罰でないと解することはで
きない。
イ原告が,訴状において,原告及び被告Aが本件契約を締結したこと,及
び本件各違約金条項の定める違約金の性質が違約罰であることを明示的に
主張したのに対し,被告らは,平成27年1月15日の本件弁論準備期日
において「認める。」と認否している。ある性質の条項を含む契約を締結し
たことを認める陳述は,あくまで合意の事実についての自白であるから,
自白の成立は妨げられないし,被告らによる自白の撤回は認められないか
ら,裁判所は,違約罰の合意が存在したという事実に拘束される。
ウ本件各違約金条項による各違約金額は,それぞれ,違反が発生した直近
月である平成26年3月分のロイヤリティ額21万6158円の24ケ月
分である518万7792円となるから,違約金の合計額は1037万5
584円となる。
[被告らの主張]
争う。本件各違約金条項の定める違約金の性質は,違約罰ではなく,損害
賠償の予定を定めたものと解すべきである。但し,平成26年3月分のロイ
ヤリティ額が21万6158円であることは認める。
なお,原告は,本件各違約金条項がいずれも違約罰の定めであることを被
告らが自白したと主張するが,被告らはあくまで本件各違約金条項の存在を
認めたにすぎず,その解釈まで認めたものでないから,自白は成立していな
い。仮に自白が成立したとしても,錯誤に基づき真実に反してされたもので
あるから撤回する。
(4)争点4(相殺の成否)について
[被告らの主張]
被告Aは,次のア,イのとおり,原告に対し,原告による「ぎまん的顧客
誘引」又は「情報開示・提供義務違反」を原因とする不法行為に基づく損害
賠償債権を有しているところ,後記ウのとおり,同債権を自働債権として,
原告が本件訴訟において訴求する債権と対当額で相殺したから,原告に対す
る債務は消滅した。また,被告B及び同Cについても,保証債務の附従性に
より,原告に対する保証債務は存在しない。
ア原告の被告Aに対する不法行為
(ア)本件契約の実質はフランチャイズ契約であるところ,フランチャイ
ズ契約においては,本部が,加盟者を勧誘するに際して,信義則上,フ
ランチャイズ・システムの内容,契約上の権利義務関係,当該フランチ
ャイズが対象とする商品・役務の市況動向の見通し等について,客観的
かつ的確な情報を開示・提供すべき義務を負う。それにもかかわらず,
原告は,被告Aに対し,売上や収益の予測を提示するに際し,被告Aが
実際にそのような売上・収益を上げられるのかを検討せず,根拠ある事
実や合理的な算定方法等に基づかない合理性の乏しい売上や収益の予測
に関する情報を提供した。具体的には,原告は,当初,初期投資額は多
くても2000万円と伝えながら,本件契約締結後,しかも本件店舗の
賃貸借契約も済ませた後になって,当該金額を大幅に上回る3200万
円以上という投資額を伝えているのであり,明らかな虚偽発言をしてい
る。また,原告従業員は,被告Aが本件店舗の賃貸借契約を締結した後,
被告Aに対し「この立地であれば月の売上は600万円は確実だ」と告
げたが,売上は月額400万円程度が精いっぱいであった。
また,本件店舗の売上が原告従業員の述べた水準を大きく下回り,そ
のことについて被告Aが原告のサポートを要請しているにもかかわらず,
原告は,ほとんど何もしようとしなかったばかりか,被告Aらを「ライ
センスオーナー会」から一方的に締め出し,本部に関する情報をシャッ
トアウトするなど,営業妨害に近い行為すら行っている。
(イ)以上のとおり,原告が被告Aを勧誘した手法は,ぎまん的顧客誘引
に該当し,また,原告には被告Aに対する情報開示・提供義務違反が認
められるのであって,いずれの違法性も極めて大きいから,被告Aに対
する不法行為が成立する。
イ被告Aの損害額
被告Aは,原告が本件店舗の売上・収益予測をしっかりと行った上,そ
の結果を開示・提供していたならば,本件店舗を開店することは決してな
かった。したがって,原告による上記アのぎまん的顧客誘引ないし情報開
示・提供義務違反と被告Aによる本件店舗の開店との間には相当因果関係
があり,本件店舗を開店するために支出した費用(後記(ア))が被告Aに
とっての損害に当たる。また,被告Aは,本件店舗を開店していなければ
他の職について収入を得ていたはずであるから,当該逸失利益(後記(イ))
も,原告のぎまん的顧客誘引ないし情報開示・提供義務違反と相当因果関
係を有する損害である。したがって,これらを合算した4535万024
8円が,被告Aの損害額である。
(ア)本件店舗を開店するために支出した費用
下記①ないし⑱の合計額であり,2889万0248円である。

①加盟申込金52万5000円
②加盟金315万円
③本件店舗の保証金のうち償却費相当額52万5000円
計算式は,保証金500万円×5.25%(年間償却率)×2年間
(賃借期間)
④本件店舗の賃料のうち当初の1か月分65万円
⑤本件店舗の賃借に係る礼金65万円
⑥本件店舗の賃借に係る不動産仲介手数料68万2500円
⑦開店のための工事費用1260万円
⑧設計管理業務委託料52万5000円
⑨什器備品及び券売機のリース料733万9500円
計算式は,12万2325円(リース料月額)×12か月×5年(リ
ース期間)
⑩卓上用品・厨房用品等購入費85万4646円
⑪支援費用・移動交通費17万9871円
⑫チラシ・トッピングチケット購入費28万3000円
⑬現場人件費・業務関係費20万1437円
⑭厨房備品一式購入費19万8924円
⑮ゴーゴーTシャツ,ゴーゴー帽子等購入費17万8500円
⑯PC・FAXプリンター・ウイルスソフト購入費14万6470円
⑰害虫駆除費12万6000円
⑱のぼり等購入費7万4400円
(イ)逸失利益
被告Aは,本件契約を締結してから本件店舗を閉店するまでの32か
月間(平成24年1月から平成26年8月まで),他の職に就くことがで
きなかった。被告Aは,本件契約締結時において37歳であったから,
この32か月間の逸失利益は,1646万円(平成23年賃金センサス
大学・大学院卒35~39歳の617万2500円に32か月/12か
月を乗じた金額)となる。
ウ相殺の意思表示
被告Aは,平成27年1月15日の本件弁論準備期日において,原告に
対する上記ア,イに係る不法行為による損害賠償債権と,本件訴えにおい
て原告が訴求する被告Aに対する債権とを対当額で相殺する意思表示をし
た。
エ相殺禁止に当たらないこと
原告の本件訴訟における請求債権は,①競業避止義務違反に基づく違約
金債権,②商標等取扱義務違反に基づく違約金債権,③商標の不正使用(商
標権侵害,不正競争)に基づく損害賠償債権である。少なくとも上記①及
び②は不法行為によって生じた債権ではないから,被告Aによる相殺のう
ちこれらを受働債権とするものについては,民法509条によって相殺を
禁止されることはない。
[原告の主張]
ア原告の被告Aに対する不法行為が成立しないこと
(ア)ぎまん的顧客誘引に当たらないこと
原告は,被告Aに本件契約の内容を説明し,被告Aはその内容を承
諾して本件契約に係る契約書に署名押印しているのであって,原告が,
被告Aに対し,事実に反する説明をし,又は不確定な事実を確定的に
説明したことはない。また,被告Aは,本件契約と同日付けで,不動
産の選定,店舗イメージ業務(総投資額を含む。),店舗の経営及び運
営についての決定を自ら行い責任を負う旨の承諾書3通を作成し,原
告に提出している。
したがって,原告の被告Aに対する勧誘等の行為がぎまん的顧客誘
引に当たらないことは明らかである。
(イ)情報提供義務違反がないこと
公正取引委員会のガイドライン(「フランチャイズ・システムに関す
る独占禁止法上の考え方について」)によれば,「加盟者募集に際して,
予想売上げ又は予想収益を提示する本部もあるが,これらの額を提示
する場合には,類似した環境にある既存店舗の実績等根拠ある事実,
合理的な算定方法等に基づくことが必要であり,また,本部は,加盟
希望者に,これらの根拠となる事実,算定方法等を示す必要がある。」
とされており,フランチャイザーに対する予想売上又は予想収益に関
する情報提供義務は規定されていない。したがって,原告は,被告A
に対し,売上・収益に関する情報提供義務を負っていない。
イ被告Aの損害の有無及び額
(ア)[被告らの主張]イ(ア)記載の費用のうち,被告Aが,原告に対し,
①加盟申込金及び②加盟金を支払ったことは認めるが,その余は不知。
被告ら提出に係る見積書(乙11,14~22)は,いずれも実際の
支出を示すものではないし,乙11の宛名は被告Aではなく株式会社
コンツとなっている。
(イ)[被告らの主張]イ(イ)記載の逸失利益について,被告Aは,これ
まで行ってきた事業と本件店舗の営業を兼業して行うと述べていたか
ら,本件店舗の営業を行っていたことによる損害は生じていない。仮
に逸失利益が生じるとしても,被告Aは確定申告をしているから,確
定申告書類を基準とし,営業開始直前の収入と本件店舗営業期間中の
収入との差額を逸失利益算定の基礎とすべきである。
ウ相殺禁止に当たること
仮に被告ら主張に係る自働債権が存在するとしても,本件訴訟で原告が
請求する被告Aに対する債権(受働債権)には,不法行為に基づく損害賠
償債権が含まれるから,少なくともこの部分については,民法509条に
より相殺が許されない。
第3当裁判所の判断
1認定事実
前記前提事実に証拠(甲23,24,27,28,乙30,31,被告A本
人,被告B本人)及び弁論の全趣旨を併せれば,以下の事実が認められる。
(1)本件説明会
被告Aは,原告を取り上げたテレビ番組を見て原告に興味を持ち,平成
23年9月15日,原告が原告の運営するフランチャイズシステムへの加
盟希望者向けに実施した説明会(以下「本件説明会」という。)に被告Bと
共に参加した。同説明会では,原告の関係者3名が説明を行ったが,フラ
ンチャイズシステムに関する説明は,このうち,原告から説明業務を委託
された会社の従業員であるD(以下「D」という。)が担当した。
本件説明会において,原告は,参加者に対し,乙1と同一又はほぼ同一
の資料を配布し,これをスライドに投影しながら,原告のフランチャイズ
システムや店舗経営における売上や経費等についての説明を行った。本件
説明会の終了後,被告AはDに対し,加盟から開店までの期間や開業資金
の調達方法等について質問するなどした。
(2)本件説明会後から本件契約締結までのやり取り
被告Aは,平成23年10月ころ,原告に対し,原告の運営するフランチ
ャイズシステムに加盟する意思を伝えた。
被告Aが,これ以降,本件契約を締結するまでの間にDに送信した電子メ
ールには次のとおりの記載がある。
ア平成23年10月27日
「お電話でアドバイスいただいたように,予算的に厳しい部分があるの
で,関内石川町は,断ることになりそうですが,Dさんに相談させていた
だき」,「できれば横浜から出店したいのですが,よい物件に縁がなかった
場合は大宮を最初の1店舗にしたいなと強く考えています。」
イ同年11月29日
「昨日は面接をセッティングしていただきまして,ありがとうございま
す。」,「とても大変だったり苦しい時期もあるということを最悪のケースを
踏まえて,きちんとご説明いただけたのかな,と思い,心にとめておきた
いと思いました。」
ウ同月30日
「既存のものを使えば,改装費を抑えて開業できるのかな?(かかって
も2,500万円程度,うまくすれば2,000万円程度)と感じました。」,
「別の仲介業者さまに,川口徒歩3分の物件も内覧させてもらいました。」
エ同年12月20日
「投資計画表ですが,融資をうけるための見積りだと思うのですが,実際
の金額はもう少し抑えることは可能でしょうか?(できれば3,000万
円以下)」
(3)本件契約の締結及び営業の開始
ア原告は,平成23年12月27日,被告Aとの間において本件契約を締
結し,これによって,被告Aが本件店舗(住所は省略)において,原告の
ライセンシーとして,本件各商標を使用してカレー店の営業を行うことを
許諾した。なお,本件契約には,前記前提事実(第2,2(2)ア)で認定し
たとおりの内容の条項が定められている。
イ被告Aは,本件契約に基づき,平成24年2月15日から本件店舗にお
いて「ゴーゴーカレー」の店舗としてカレー店の営業を開始し,原告は,
本件契約に基づき,被告Aに対し,システムの提供,指定商品の販売及び
販促活動等を行った。
(4)未払ロイヤリティ等
被告Aは,本件契約に基づく平成26年1月分以降のロイヤリティ,商品
代金及びシステム使用料等につき,次のとおり,その全部又は一部を支払っ
ていない。
ア平成26年1月分163万0764円
原告は,平成26年2月10日ころ,同月20日を支払期限として上記
金額を支払うよう求めた。しかし,被告Aは,同月20日,原告に対し「大
雪の影響で予想を大きく下回る売り上げとなってしまいましたので,用意
できませんでした」,「今月末日までにはお支払できる予定ですので,もう
しばらくお待ちください」と連絡し,同日に支払をしなかった。原告は,
「貴社の入金の遅れにつきましては当社の資金繰りにも影響を与える結果
となっております。取り急ぎ支払い可能分をご入金願います。残額につき
ましては入金後に金額,時期についてお知らせ願います」と回答して支払
を催促したものの,被告Aは,同月末日を経過しても支払をしなかった。
イ平成26年2月分152万1892円
原告は,平成26年3月8日ころ,同月20日を支払期限として,同年
2月分のロイヤリティ等152万1892円に未払の上記アを加えた金額
を支払うよう求めた。さらに,原告は,セキュリティサービス料金の減額
やセキュリティサービスの解約等についても案内し,再度,上記金額の支
払を求めたが,被告Aは,同月20日を経過しても支払をしなかった。
ウ平成26年3月分126万8716円
原告は,平成26年4月10日ころ,同月20日を支払期限として3月
分のロイヤリティ等176万8716円に未払の上記ア,イを加えた金額
を支払うよう求め,また,同月11日付内容証明郵便を送付して,再度,
その支払を求め,同書面は,同月13日に被告Aに,同月19日に被告B
に,それぞれ到達した。しかし,被告Aは,同月20日を経過しても支払
をしなかった。
エ被告Aは,平成26年3月31日,原告に対し,同年1月分及び2月分
のロイヤリティ等の一部である33万0764円を支払った。
原告は,被告らに対して,同年4月2日付け内容証明郵便を送付して,
再度,同年1月分ないし3月分のロイヤリティ等の未払分を同年4月10
日までに支払うよう催告し,同書面は,同月3日,被告A及び同Bに到達
した。被告Aは,同月21日,原告に対し,同年1月分ないし3月分のロ
イヤリティ等の一部である50万円を支払った。
(5)本件契約の解除
原告は,平成26年4月23日,被告らに対して,同年1月分から3月分
までのロイヤリティ,商品代金及びシステム使用料等合計409万0608
円の不払を理由に本件契約を解除する旨の書面を送付し,同書面は,同月2
4日,被告A及び同Bに到達した(本件解除)。
2争点1(本件解除の有効性)について
被告は,本件契約が継続的契約であることから,その解除には契約関係の継
続を困難ならしめる事由が必要であると主張するが,被告の主張を前提として
も,ロイヤリティ等の支払義務が本件契約における重要な義務であること,被
告Aの不払(一部不払も含む。)が3か月間にわたり,不払額の総額も400
万円超(ただし,保証金充当前の金額)と多額であること,被告Aが原告の再
三の支払催告に応じなかったばかりか,本件解除前には具体的な資金繰りの見
込みを示すことさえしなかったこと(被告A本人)に照らせば,被告Aによる
ロイヤリティ等の不払が,本件契約の継続を困難ならしめる事情に当たること
は明らかである。
なお,被告らは,被告Aのロイヤリティ等の不払の理由について,原告側の
対応に問題があったため,その改善を促す目的でやむなく支払を停止したなど
と主張するが,被告Aが,本件解除に至るまでの間,原告に対し,そうした主
張を一切していなかったばかりか,かえって「本日,2013年12月分のゴ
ーゴーシステム様宛の支払いの期限かと思うのですが,こちらの都合でもうし
わけありませんが,資金の調達などの関係で,2014年1月25日までに振
込みさせてもらいます。こちらの都合で申し訳ありませんが,よろしくお願い
いたします。」「オープン時より,売上げのあがる努力や今年にはいって本格的
に経費削減を進めておりますが,そろそろより本格的に対策しなければ今後も
支払いが若干遅れる可能性が大きくなってきました。」(甲5),「本日中にお支
払できる予定だったのですが,大雪の影響で予想を大きく下回る売り上げとな
ってしまいましたので,用意できませんでした。申し訳ありません。」「今月末
日までにはお支払できる予定ですので,もうしばらくお待ちください。」(甲7
の1)などと,資金繰りが付かないことを理由に,再三にわたってロイヤリテ
ィ等の支払の延期を求めていたことに照らせば,上記主張は到底採用すること
ができない。
したがって,本件解除は有効である。それにもかかわらず,被告Aは,本件
契約の解除後も,本件各商標の使用及び本件店舗におけるカレー店の営業を,
仮処分決定に基づく保全執行が実施されるまで4か月間以上も継続したもの
であるから(前記前提事実),被告Aには,本件契約上の義務違反(競業避止
義務違反,商標等取扱義務違反),本件各商標権の侵害及び不正競争防止法2
条1項1号所定の不正競争の成立(本件各商標の周知性には争いがない。また,
被告Aが本件各商標を本件店舗において使用したことにより,原告の営業との
混同のおそれも認められる。)がそれぞれ認められる。
3争点2(原告の損害額)について
原告は,本件店舗における1か月当たりの利益について,393万0152
円(平成26年3月の売上)から150万2536円(同月の原材料費(税込))
を控除した242万7616円であると主張するところ,証拠(甲12の1)
によれば,原告の上記主張に沿う事実が認められる一方,本件店舗における利
益額がこれを上回る,又は下回ると認めるに足りる証拠はない。したがって,
本件店舗における利益の額は原告の主張どおりと認めるのが相当である。
そして,被告Aは,本件契約の解除後に本件各商標と同一の商標を使用して
本件店舗の営業を継続したことによって,本件解除の翌日である平成26年4
月25日から同年8月26日までの124日間,上記利益を受けているから,
これが原告(本件各商標の独占的通常使用権者)の損害額と推定されるところ
(商標法38条2項類推,不正競争防止法5条2項),同推定を覆す事情を認
めるに足る証拠は見当たらないから,原告の損害額は合計971万0463円
(計算式は242万7616円÷31日×124日)と認めるのが相当である。
4争点3(本件各違約金条項の法的性質)について
(1)原告は,本件各違約金条項がいずれも違約罰の定めであるとして,本件
各違約金条項が定める各違約金に加え,これとは別に,損害賠償の支払を求
める。
そこで検討するに,違約金は損害賠償額の予定と推定されるところ(民法
420条3項),本件各違約金条項について,同推定を覆すに足る事情は見当
たらない。かえって,本件各違約金条項が,いずれも違約金の額を「少なく
ても」ロイヤリティの24か月分とし,これを超える額の違約金が発生する
場合があり得ることを前提としていることに照らせば,本件各違約金条項は
損害の有無にかかわらず直近のロイヤリティの24か月分を損害賠償額と定
めた損害賠償額の予定(ただし,これを上回る損害が生じた場合にはその額
を基準として損害賠償の請求をすることができる。)を定める旨の条項と理解
するのが自然であり,本件違約金条項2が,違約金「を上回る」損害賠償の
請求を妨げない旨を定めていることも同解釈を裏付ける事情といえる。
これに対し,原告は,本件各違約金条項がいずれも違約罰の定めである旨
主張するが,原告の主張によれば,違約金は確定額となるべきところ,本件
各違約金条項において,違約金が確定額とされていないことは前記のとおり
であること等に鑑みると,原告の主張は採用することができない。
以上のとおり,本件各違約金条項は,いずれも損害の有無及び額と関係な
くロイヤリティの24か月分を請求することができる(ただし,同額を上回
る損害が生じた場合には同額の損害賠償請求が可能である。)ことを内容とす
る損害賠償額の予定であると認めるのが相当である。そして,本件解除がさ
れた日の直近月である平成26年3月分のロイヤリティ額は21万6158
円であるから(当事者間に争いがない。),本件各違約金条項の定める各違約
金の最低額はその24か月分である518万7792円となり(本件違約金
条項2も本件違約金条項1と同額であると解すべきである。),各違約金の最
低額を合計すると1037万5584円となって,上記3で認定した原告の
実際の損害額の合計である971万0463円を上回るから,原告は被告ら
に対し,1037万5584円を請求できることとなる。
(2)なお,原告は,被告らが,平成27年1月15日の本件弁論準備期日に
おいて本件各違約金条項に係る各違約金の性質が違約罰であることを認め
たから,自白が成立し,その撤回も許されない旨主張する。
しかしながら,違約金条項の性質に関する主張は法的評価に関するもので
あって,具体的事実に関するものではないから,上記陳述をもって直ちに自
白が成立するとはいえないし,この点を措くとしても,本件各違約金条項が,
違約罰の定めであると認めることができないことは上記(1)のとおりである
から,上記陳述は,真実に反するものと認められ,そうである以上,錯誤に
よるものと推定されるから(なお,同推定を覆す事情を認めるに足る証拠は
ない。),仮に自白が成立するとしてもその撤回が許される。したがって,原
告の主張は採用できない。
5争点4(相殺の成否)について
(1)被告らは,Dが,本件説明会において,被告Aに対し,「初期費用が20
00万円を超えることはない」と述べ,また,原告従業員が,本件契約締結
後,被告Aに対し,「この立地であれば月の売上は600万円は確実だ」と
告げるなど,根拠のない不合理な初期費用・売上予測・予想収益を断定的に
提示したとして,これが,原告の被告Aに対する欺まん的顧客誘引又は情報
開示・提供義務違反に当たり,原告の被告Aに対する不法行為が成立するか
ら,被告Aは原告に対し,不法行為に基づく損害賠償請求債権を有している
として,同債権を自働債権として,原告が本件訴訟で求める債権と対当額で
相殺する旨主張する。
(2)そこで検討するに,本件で提出された全証拠を精査しても,原告につい
て被告らの主張する不法行為が成立すると認めることはできない。かえって,
①原告作成に係る本件説明会において配布されたものと同一又はほぼ同一
の資料(乙1)に「キャッシュフローシミュレーション都内駅前型(15
坪15席)」と記載され,あくまで試算であることが明らかにされた上で,
同資料の「初期費用合計」欄に「\21,953,000」と記載され,さらに,これ
以外に当初5年間のリース費用として合計678万円を要する旨の記載も
あるなど,初期費用が2000万円を超えることが具体的に示されているこ
と,②被告Aは,上記1(2)ア,ウ及びエのとおり,Dに対し,本件契約の
締結前に初期費用が2000万円を上回る可能性があることを前提とした
メールを送信しており(なお,上記アのメールは,横浜のエリアでは200
0万円の範囲内でやるのは難しいのではないかとのDからの助言を受けた
ものである[乙30]。),特に上記1(2)エのメールは,本件契約の締結に先
立ってDから送信された,初期費用が3235万2150円であるとの見積
りを示すメール(甲29,30)に対する返信として送られたものであり,
「投資計画表ですが,融資をうけるための見積りだと思うのですが,実際の
金額はもう少し抑えることは可能でしょうか?(できれば3,000万円以
下)」と記載して,実際の初期費用をできれば3000万円以下に抑えられ
ないかと尋ねる内容であること,③上記1(2)イのとおり,被告Aが,Dに
対し,リスクについても具体的に説明を受けたことを認める内容のメールを
送信していること,④被告Aが,本人尋問において,「プラス思考の方向で
考えて,1か月当たり500万円程度の売上があげられると想定したが,実
際には約422万円にとどまった」旨供述していること(被告A本人),⑤
本件説明会やその後のDとの面談に同席した被告Bは,被告Aに対し,もっ
と慎重になるようにと忠告したものの,被告Aが高揚感に包まれて聞く耳を
持たなかった旨供述していること(乙31,被告B本人)などに照らせば,
原告において,被告らが主張するような不合理な初期費用・売上予測・予想
収益を断定的に提示して勧誘した事実はなかったものと認めるのが相当で
ある。
(3)したがって,被告らの上記主張は到底採用することができない。なお,
被告らが主張するその余の事情(原告が被告Aのサポート要請に対応せず,
原告に関する情報を渡さないなどの営業妨害に近い行為を行ったことなど)
についてもこれを認めるに足る証拠はない。
6結論
以上によれば,原告の請求は,主文第1項ないし第3項の限度で理由がある
から認容し,その余の請求はいずれも理由がないから棄却することとして,主
文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官沖中康人
裁判官矢口俊哉
裁判官廣瀬達人
商標目録1
【登録番号】第4912303号
【商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務】
広告、トレーディングスタンプの発行、経営の診断又は経営に関する助言、
市場調査、商品の販売に関する情報の提供、ホテルの事業の管理、職業の
あっせん、競売の運営、輸出入に関する事務の代理又は代行、新聞の予約
購読の取次ぎ、速記、筆耕、書類の複製、文書又は磁気テープのファイリ
ング、電子計算機・タイプライター・テレックス又はこれらに準ずる事務
用機器の操作、建築物における来訪者の受付及び案内、広告用具の貸与、
タイプライター・複写機及びワードプロセッサの貸与、求人情報の提供、
自動販売機の貸与
【商品の区分】35
商標目録2
【登録番号】第4963204号
【標準文字商標】ゴーゴーカレー
【商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務】
カレーを主とする飲食物の提供
【商品の区分】43
商標目録3
【登録番号】第5534932号
【商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務】
カレーのもと、カレー風味のシチューまたはスープのもと、即席カレー、
レトルトカレー、カレー用の乳製品、カレー用の冷凍野菜、カレー用の肉
製品、カレー用の野菜の漬物及びその他のカレー用の加工野菜、カレー用
の加工果実
調理済みカレーライス、持ち帰り用調理済みカレーべんとう、カレー粉、
カレー用の米、カレー味の洋菓子、カレー味の菓子、カレー味のパン、カ
レーを使用したパン、カレー味の調味料、カレー味の香辛料
フランチャイズチェーン加盟店に対する経営の指導および助言、広告、販
売促進のための企画及び実行の代理、経営の診断又は経営に関する助言、
市場調査、商品の販売に関する情報の提供
カレーを主とする飲食物の提供
【商品の区分】29、30、35、43
商標目録4
【登録番号】第5658947号
【標準文字商標】GOGOCURRY
【商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務】
複数の原材料を配合してなるカレー風味のスープのもと、即席カレー、レ
トルトカレー、カレー用の乳製品、カレー用の冷凍野菜、カレー用の肉製
品、カレー用の野菜の漬物及びその他のカレー用の加工野菜、カレー用の
加工果実
調理済みカレーライス、持ち帰り用調理済みカレーべんとう、カレー粉、
複数の原材料を配合してなるカレー風味の香辛料、複数の原材料を配合し
てなるカレー風味のシチュー用調味料、カレー用の米、カレー味の洋菓子、
カレー味の菓子、カレー味のパン、カレーを使用したパン、カレー味の調
味料、カレー味の香辛料
フランチャイズチェーン加盟店に対する経営の指導および助言、広告、販
売促進のための企画及び実行の代理、経営の診断又は経営に関する助言、
市場調査、商品の販売に関する情報の提供
カレーを主とする飲食物の提供
【商品の区分】29、30、35、43

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