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平成13年(行ケ)第591号 審決取消請求事件(平成15年7月16日口頭弁
論終結)
          判           決
       原      告   株式会社イシダ
       訴訟代理人弁護士   赤尾直人
       被      告   A
       訴訟代理人弁理士   浅村 皓
       同          浅村 肇
       同          小池恒明
       同          岩井秀生
       同          森 徹
          主           文
      原告の請求を棄却する。
      訴訟費用は原告の負担とする。
          事実及び理由
第1 請求
   特許庁が無効2000-35375号事件について平成13年11月28日
にした審決を取り消す。
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   被告は,名称を「絞りおよびシール組立体」とする特許第1925870号
発明(パリ条約による優先権主張日1984年〔昭和59年〕6月20日・オース
トラリア連邦,昭和60年6月20日出願,平成7年4月25日設定登録,以下
「本件発明」といい,その特許を「本件特許」という。)の特許権者である。
 原告は,平成12年7月10日,本件特許を無効にすることについて審判の
請求をし,無効2000-35375号事件として特許庁に係属したところ,被告
は,平成13年2月9日付け訂正請求書により,願書に添付した明細書を訂正する
旨の訂正請求(以下,訂正後の明細書と願書に添付した図面を併せて,「本件明細
書」という。)をした。
 特許庁は,上記特許無効審判事件について審理した上,同年11月28日に
「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本
は,同年12月10日,原告に送達された。
 2 本件明細書の特許請求の範囲の記載
【請求項1】包装装置用の絞りおよびシール組立体であって,該包装装置は製
品の送りヘッドと,該送りヘッドを通してチューブ状袋材(12)を送って該送り
ヘッドから送られる製品が該チューブ状袋材(12)内に位置されるようにする駆
動組立体とを含み,前記絞りおよびシール組立体は,前記包装装置を通る前記チュ
ーブ状袋材(12)の運動方向に対して前記送りヘッドの下流の位置において前記
チューブ状袋材(12)の対向する両側に配置された一対の対向するシールおよび
絞り装置(10,14)であって,前記チューブ状袋材(12)の部分を密封し且
つそれを絞るように協働する,該一対の対向するシールおよび絞り装置(10,1
4)と,該シールおよび絞り装置(10,14)の一方を支持する第1のアーム装
置(15)と,該シールおよび絞り装置(10,14)の他方を支持する第2のア
ーム装置(15)とを含む,絞りおよびシール組立体において,前記第1のアーム
装置(15)及び前記第2のアーム装置(15)は,前記チューブ状袋材(12)
の運動方向をほぼ横切って延びる隔置された平行の軸心のまわりに反対方向に同期
して完全に回転駆動されて,前記チューブ状袋材(12)を密封する前に,前記シ
ール及び絞り装置(10,14)が前記チューブ状袋材(12)に沿って移動され
て該チューブ状袋材(12)を絞るようになっていることを特徴とする絞りおよび
シール組立体。
【請求項2】特許請求の範囲第1項に記載の組立体において,前記軸心が2個
の回転被動シャフト(16)によって画成され,前記第1のアーム装置(15)が
第1の前記シャフト(16)から半径方向に延び,前記第2のアーム装置(15)
が他方の前記シャフト(16)から半径方向に延び,これら前記シャフト(16)
は反対方向に回転駆動されるようになっており,絞りバー(22)がそれぞれのア
ーム装置(15)に装架されていて,アーム装置(15)に対して角度の調節がで
きるようになっていることを特徴とする絞りおよびシール組立体。
【請求項3】特許請求の範囲第2項に記載の組立体において,前記チューブ状
袋材(12)の部分を密封閉鎖し,その密封された部分を前記袋材(12)から切
断することによって前記製品を入れた断続した袋を形成するシール部材と切断部材
(27)を前記各々のシールおよび絞り装置(10,14)が含み,各シールおよ
び絞り装置(10,14)の前記シール部材および切断部材(27)が,関連した
アーム装置(15)の半径方向最端に位置していることを特徴とする絞りおよびシ
ール組立体。
【請求項4】特許請求の範囲第3項に記載の組立体において,シールおよび絞
り装置(40,41,42)が一対の協働する絞りバー(49,50)を含み,一
方の前記シールおよび絞り装置(40,41,42)が一方の絞りバー(49)を
含み,他方のシールおよび絞り装置(40,41,42)が他方の絞りバー(5
0)を含み,前記シールおよび絞り装置(40,41,42)はさらに前記第1の
アーム装置(45)に装着した閉鎖バー(51)と,前記第2アーム装置(45)
に装着した他方の閉鎖バー(52)とを含み,これら閉鎖バー(51,52)は前
記絞りバー(49,50)に対して上流の位置において前記チューブ状袋材(1
2)を閉じるように協働し,また,前記シールおよび絞り装置(40,41,4
2)は各該アーム装置(45)から延びるサポート装置(53,54,55,5
6)を含み,これらサポート装置(53,54,55,56)は,前記チューブ状
袋材(12)が閉鎖され且つ絞られる間前記閉鎖バー(51,52)及び前記絞り
バー(49,50)の間を分離する相対的な運動を提供するように前記閉鎖バー
(51,52)及び前記絞りバー(49,50)を可動的に支持しており,少なく
とも前記絞りバー(49,50)は前記チューブ状袋材(12)と接触している
間,該チューブ状袋材よりも大なる速度を有するとともに,前記閉鎖バー(51,
52)の速度よりも大なる速度を有していることを特徴とする絞りおよびシール組
立体。
【請求項5】特許請求の範囲第4項に記載の組立体において,各前記サポート
装置(53,54,55,56)が関連のシャフト(43,44)に固定された一
対のサポート部材(47,48)と,該サポート部材(47,48)に関連の絞り
バー(49,50)および閉鎖バー(51,52)を枢着している4個のサポート
アーム(53,54,55,56)とを含み,かつさらに各サポートアーム(5
3,54,55,56)を関連のサポート部材(47,48)に対する所定位置へ
弾圧する装置を含むことを特徴とする絞りおよびシール組立体。
【請求項6】特許請求の範囲第5項に記載の組立体において,前記サポートア
ーム((53,54,55,56)がそれらのサポート部材(47,48)に枢着
され,かつ前記シャフト(43,44)に平行の軸心の回りで回転可能であって,
前記サポートアームの軸心は関連のシャフト(43,44)に対して角度方向なら
びに半径方向に相互に対して隔置されていることを特徴とする絞りおよびシール組
立体。
【請求項7】特許請求の範囲第3項に記載の組立体において,各々のシールお
よび絞り装置(10,14)がシールおよび絞りヘッド(14)を含み,各ヘッド
(14)はチューブ状袋材(12)に対して全体的に横方向に延びる閉鎖バー(2
1)と絞りバー(22)とを有することを特徴とする絞りおよびシール組立体。
【請求項8】特許請求の範囲第7項に記載の組立体において,前記第1のアー
ム装置(15)の半径方向最端に枢着され,前記閉鎖バー(21)の一方と絞りバ
ー(22)の一方とを相互に対して固定隔置関係に支持する第1の装着装置と,他
方のアーム装置(15)の半径方向最端に枢着され,他方の閉鎖バー(21)と他
方の絞りバー(22)とを相互に対して固定関係に支持する第2の装着装置とをさ
らに含むことを特徴とする絞りおよびシール組立体。
【請求項9】特許請求の範囲第8項に記載の組立体において,各装着装置は,
閉鎖バー(21)が最初にチューブ状袋材(12)と係合する所定作動関係に弾力
的に押圧されることを特徴とする絞りおよびシール組立体。
【請求項10】特許請求の範囲第9項に記載の組立体において,前記チューブ
状袋材(12)を密封する前に,前記シールおよび絞りヘッド(14)の速度が係
合した前記チューブ状袋材(12)の速度より速くなるよう前記アーム(15)が
回転駆動されることを特徴とする絞りおよびシール組立体。
【請求項11】特許請求の範囲第8項に記載の組立体において,前記シールお
よび絞りヘッド(14)をその作動の間案内する軌道装置(24)をさらに含むこ
とを特徴とする絞りおよびシール組立体。
【請求項12】特許請求の範囲第11項に記載の組立体において,各装着装置
が関連のサポートアーム(15)に対して半径方向に運動可能であることを特徴と
する絞りおよびシール組立体。
(以下【請求項1】に係る発明を「本件発明1」という。)
 3 審決の理由
   審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,請求人(注,原告)の主張する無
効理由,すなわち,①本件明細書の記載は,特許法36条3項及び4項に違反し,
同法123条1項3号の無効理由があり,②本件発明1は,1960年(昭和35
年)8月30日頒布の米国特許第2950588号明細書(本訴甲3,審判甲2,
以下「引用例1」という。)記載の発明であり,又は引用例1及び1966年(昭
和41年)7月26日頒布の米国特許第3262244号明細書(本訴甲4,審判
甲3,以下「引用例2」という。)記載の発明に基づいて,当業者が容易に発明を
することができたものであるから,同法29条1項3号又は2項の規定に該当し,
同法123条1項1号の無効理由があるとの主張に対し,①本件明細書の記載に
は,同法36条3項及び4項の違反はなく,②本件発明1は,引用例1記載の発明
と同一であると認めることはできず,また,引用例1,2記載の発明に基づいて,
当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないので,請求人の
主張する無効理由及び証拠方法によっては本件特許を無効とすることはできないと
した。
第3 原告主張の審決取消事由
   審決は,無効理由②に関し,本件発明1と引用例1記載の発明とを同一の発
明とすることはできないと誤って認定し(取消事由1),また,本件発明1の進歩
性の判断を誤った(取消事由2)ものであるから,違法として取り消されるべきで
ある。なお,無効理由①については争わない。
 1 取消事由1(本件発明1と引用例1記載の発明との同一性の認定の誤り)
(1)本件発明1は次のように分節することができる。
 A 包装装置用の絞りおよびシール組立体であって,
 B① 該包装装置は製品の送りヘッドと,該送りヘッドを通してチューブ状
袋材(12)を送って該送りヘッドから送られる製品が該チューブ状袋材(12)
内に位置されるようにする駆動組立体とを含み,
  ② 前記絞りおよびシール組立体は,前記包装装置を通る前記チューブ状
袋材(12)の運動方向に対して前記送りヘッドの下流の位置において前記チュー
ブ状袋材(12)の対向する両側に配置された一対の対向するシールおよび絞り装
置(10,14)であって,前記チューブ状袋材(12)の部分を密封し且つそれ
を絞るように協働する,該一対の対向するシールおよび絞り装置(10,14)
と,該シールおよび絞り装置(10,14)の一方を支持する第1のアーム装置
(15)と,該シールおよび絞り装置(10,14)の他方を支持する第2のアー
ム装置(15)とを含む,絞りおよびシール組立体において,
 C① 前記第1のアーム装置(15)及び前記第2のアーム装置(15)
は,前記チューブ状袋材(12)の運動方向をほぼ横切って延びる隔置された平行
の軸心のまわりに反対方向に同期して完全に回転駆動されて,
  ② 前記チューブ状袋材(12)を密封する前に,前記シール及び絞り装
置(10,14)が前記チューブ状袋材(12)に沿って移動されて該チューブ状
袋材(12)を絞るようになっている
 D ことを特徴とする絞りおよびシール組立体。
(2)本件明細書(甲2〔平成13年2月9日付け訂正請求書による訂正後のも
のとして引用する。以下同じ。〕)は,「絞り」について,「チューブ状袋材の中
で製品が占める容積を詰める(注,「積める」とあるのは誤記と認める。以下同
じ。)こと」(3頁5欄(発明の作用および効果))と定義しているから,「絞
り」とは,「チューブ状袋材の中で製品同士の隙間を小さくし,製品が占める容積
を減少させること」ということができる。本件発明1の構成要件C①,②はシール
及び絞り装置(10,14)が「絞り」について具体的にどのような運動をするの
かを明りょうに規定していない。C②では,シール及び絞り装置(10,14)が
チューブ状袋材12に沿って移動することを要件とするが,シールを行うアームは
純然たる回転運動をするのであるから,「チューブ状袋材12に沿って移動」とは
必然的に回転運動をも包摂している。この点について,本件明細書の「一旦袋13
が形成され,組立体10から落下しうるようになると,アーム15はB位置まで回
転する。その後ヘッド14が袋材12と係合するようにされ,袋材12を絞り,か
つシールする。2個のヘッド14は相互に向かって運動し,材料12の速度より速
い速度で該材料12の運動方向に運動する。したがって,ヘッド14は袋材12を
絞り,製品11の占める容積を減少させる」(3頁6欄第2段落)との説明によれ
ば,「ヘッドが相互に向かって運動する」というヘッドの回転運動の段階で,既に
袋材を「絞る」動作が発生していることになるから,「絞る」動作にはヘッドの直
線運動だけでなく,回転運動の段階も含まれるのである。したがって,本件発明1
においては,絞りヘッド14がチューブ状袋材に回転運動をしながら接近し,直線
運動に至る過程で,チューブ状袋材12の肩部を順次狭め,かつ製品同士の隙間を
小さくし,製品が占める容積を減少させており,「絞り」を行っているから,シー
ルおよび絞り装置(10,14)が回転運動を行っている段階は,チューブ状袋材
の肩部を狭小化し,これによって製品の隙間を小さくし,容積を減少させることに
よる「絞り」を必然的に包摂している。これに対し,引用例1(甲3)は,Fig.4の
状態に関して,「押し型が取り得る動きは,Fig.5の組立体が移動する間において
は,前記押し型面が,Fig.7の破線で示す上部位置で互いにぶつかり,その時,両押
し型面は,その間に一つの袋底とそれより下の袋口とが形成されるフィルム材を挟
み込み,それから噛合った押し型面は,Fig.7の破線位置から実線位置を通ってその
下側へと垂直に下降する動きをなす」(訳文5頁第2段落)と記載し,押し型胴部
45及び押し型面46が,フィルム材による袋62をFig.4に示すように「挟み込
み」,その占める容積を減少させる状態を開示している。この状態は,本件明細書
の第1図B以降の状態と何ら変わるところはなく,この状態で製品が占めている容
積を減少させる「絞り」が実現していることも同じであるところ,引用例1の袋材
の挟み込み工程は,本件発明1の「絞り」に相当するものであるから,引用例1
は,本件発明1のすべての構成要件を備えているものである。
(3)本件明細書(甲2)は,第1図のBより後のヘッド14の運動につき,
「2個のヘッド14は相互に向かって運動し,材料12の速度より速い速度で該材
料12の運動方向に運動する」(3頁6欄第2段落)という具体的な動作を記載し
ているが,上記動作は,(a)2個のヘッド14が相互に向かって運動する工程,
(b)2個のヘッド14が袋材12の速度より速い速度で,該材料12の運動方向
に運動する工程,に分離することができる。審決は,本件発明1における「絞り」
の趣旨につき,アーム装置の完全な回転運動において,アーム装置に支持された絞
り装置(例えば,第2図の絞りバー22,第4図の絞りバー49,50)をチュー
ブ状袋材を密封する前に,チューブ状袋材に沿って移動させてチューブ状袋材の中
で製品が占める容積を詰めることである(審決謄本12頁第5段落)として,専ら
上記(b)によって製品が占める容積を詰める場合を指している旨の認定を行った
上で,引用例1のエンドシール押し型機構は,上記(b)の構成が開示されていな
いとした。しかし,審決の上記認定の趣旨に従えば,本件発明1の構成要件C②に
おいては,「チューブ状袋材(12)に沿って移動」することを原因として,「チ
ューブ状袋材(12)を絞る」という結果が実現されている以上,「チューブ状袋
材(12)に沿って移動」する動作は,必然的に上記(b)の動作に限定されてい
なければならず,シール及び絞り装置(10,14)が「チューブ状袋材(12)
に沿って移動」する速度は,必然的にチューブ状袋材(12)の速度よりも大きい
速度でチューブ材の運動方向に運動していることを前提としていなければならない
こととなる。しかし,本件発明1に係る請求項1の従属項である請求項10は,シ
ール及び絞りヘッド(14)の速度が,チューブ状袋材(12)を密封する前に,
チューブ状袋材(12)の速度より速くなるように,回転アームが回転駆動される
ことを要件としている。請求項1によって,既に「シール及び絞り装置(10,1
4)が「チューブ状袋材(12)」の速度よりも速い速度で移動していることを規
定しているのであれば,請求項10の上記要件は,本来不要となってしまい,請求
項間に矛盾が生じてしまう。また,同じく従属項である請求項3は,「シール部材
と切断部材(27)が,シールおよび絞り装置(10,14)に含まれ,かつ,ア
ーム装置(15)の半径方向最端に位置していること」を要件としているが,シー
ル及び絞り装置(10,14)が,「チューブ状袋材(12)に沿って移動」する
場合には,シール装置(10)も,絞り装置(14)と共に,上記(b)のように
チューブ状袋材(12)の移動方向に移動していなければならないから,請求項3
のように,単なる回転運動を行っているアーム装置(15)の半径方向最端に位置
している「シール部材と切断部材(27)」は,上記(b)のように,チューブ状
袋材(12)の運動方向に沿って運動することは不可能であり,請求項3は,請求
項1に従属することができないという明らかに矛盾した帰結に至らざるを得ない。
したがって,「絞り」が上記(b)によって実現されるとした審決の上記認定は誤
りであり,本件発明1のシール及び絞り装置(10,14)が,「チューブ状袋材
(12)に沿って移動する」ことには,上記(b)の移動に限定されずに,上記
(a)のように2個のヘッド14が相互に向かって運動する工程,すなわち,アー
ムの回転運動を反映した工程を含むと理解すべきである。特開平5-65144号
公報(甲6)においては,図8のパッド28,図12の弾性部材18が回転するこ
とによって袋のエアーを抜く工程について,「絞り込む」(段落【0021】)と
記載し,特開昭48-73295号公報(甲7)及び1963年(昭和38年)1
月1日頒布の米国特許第3070931号明細書(甲8)にも,上記(a)のよう
な回転運動により「絞り」が実現されることが記載されている。
(4)以上のとおり,引用例1は,本件発明1の要件をすべて開示しているか
ら,本件発明1は,引用例1記載の発明と同一であると認めることはできないとし
た審決の認定は誤りである。
2 取消事由2(本件発明1の進歩性の判断の誤り)
 引用例2(甲4)のストリッパ26は,Fig.4,Fig.5,Fig.6の過程からも明
らかなように,静止した状態のバッグ46(チューブ状袋材)を挟んだ状態で下降
しており,バッグ46は上記下降に伴って順次容積が縮小し,かつ,挟まれた部位
から空気が上方に抜けていることを考慮するならば,明らかに「絞り」作用を行
い,熱封止ジョー24は,Fig.4,Fig.5,Fig.6に示すように,ストリッパ26(絞
り器26)の上側に位置し,かつ,「絞り」が行われる段階では,バッグ46(チ
ューブ状袋材)から離れた状態を維持しており,シールの段階でバッグ46(チュ
ーブ状袋材)を両側から挟んだ状態とし,かつシール作用を行っている(訳文4頁
最終段落~5頁第1段落)。また,引用例2は,「キャリッジ可動タイプ或いは可
動チューブを備えたキャリッジ固定タイプのいずれであるにせよ,形成及び充填機
械の詳細は,それ自体いずれのタイプにも適用できる本発明の部分ではない」(訳
文3頁下から第3段落)とし,チューブ状袋材が,「可動チューブ」である場合に
も当然適用できることを明らかにし,「開閉する封止ジョー及びジョーとパッケー
ジングする材料との間の相対運動が存在する限りは,これらのどのような組み合わ
せにおいても使用することができる」(訳文5頁下から第2段落)とし,引用例1
のようにチューブ状袋材が移動している場合には,相対的に封止ジョー24をバッ
グ46(チューブ状袋材)よりも大きな速度で下降させるべきことを明らかにして
いるから,引用例2においては,Fig.4からFig.5に移行する工程でチューブ状袋材
(チューブ18)が下降している場合には,熱封止ジョー24及びストリッパ26
は当該下降速度よりも早い速度で下降していることを開示している。そして,引用
例2のストリッパ26の下降を,引用例1のような回転アーム(クランク52)に
よるいわゆるDモーション(押し型面46が両外側における回転運動と相互に最も
近い状態となった位置における直線状の下降運動とを総合した運動)によって実現
することは,引用例1の押し型面に代えて,引用例2のストリッパ26を置換する
ことによって,当然可能であり,甲8のFig.1,Fig.3,Fig.4からも明らかなよう
に,ストリッパ148(絞り器148)は,部分的な回転運動と直線下降運動を行
っており,このような公知技術を参照すれば,引用例2のストリッパ26の運動と
して,上記引用例1によるDモーションの採用は,当業者にとっては任意の選択事
項というべきである。したがって,上記Dモーションにおいて,引用例2を参照し
て,下降速度をチューブ18よりも大きくすることは,単なる当業者の設計事項に
すぎず(引用例1のDモーションを採用した場合には,引用例1の
Fig.2,Fig.3,Fig.10に示すようなギア54,55の比率を設計変更することによ
って,クランク52の回転速度を大きく設計することによって十分実現可能であ
る。),引用例2のストリッパ26に,引用例1によるDモーションを採用するこ
とは,当業者が容易に想到し得るところであるから,本件発明1は,引用例1,2
記載の発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとすることは
できないとした審決の判断は,誤りである。
第4 被告の反論
  審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
 1 取消事由1(本件発明1と引用例1記載の発明との同一性の認定の誤り)に
ついて
(1)本件明細書(甲2)が,「絞り」について,「チューブ状袋材の中で製品
が占める容積を詰めること」(3頁5欄(発明の作用および効果))と定義し,
「絞り」とは,「チューブ状袋材の中で製品同士の隙間を小さくし,製品が占める
容積を減少させること」であることは認めるが,引用例1(甲3)は,本件発明1
の「絞り」に関する構成要件A,B②,C,Dを具備しないから,本件発明1と同
一ということはできない。本件発明1は,「前記チューブ状袋材(12)を密封す
る前に,前記シール及び絞り装置(10,14)が前記チューブ状袋材(12)に
沿って移動されて該チューブ状袋材(12)を絞るようになっている」(構成要件
C②)という構成要件を有するから,シール及び絞り装置10,14が,シールを
行う部分と絞りを行う部分とを有することは当然であり,かつ,シールを行う部分
と絞りを行う部分が同じ動きをしなければならない必然性は全くない。また,「チ
ューブ状袋材(12)に沿って移動されて」当該チューブ状袋材(12)を「絞
る」のであるから,「チューブ状袋材(12)に沿って移動されて」の移動方向
は,チューブ状袋材(12)の運動方向である。原告主張の「(a)2個のヘッド
14が相互に向かって運動する工程」は,2個のヘッド14がチューブ状袋材に沿
って移動しているわけではないし,また,そのようなヘッドの運動で「絞り」を行
うことができるものでもなく,「絞り」機能は,ヘッドがカム軌道23の直線部分
25に沿って,第2図の点線で示されている部分から実線で示されている部分まで
直線状に袋材より速い速度で移動することにより生ずる。これに対し,引用例1で
は,クランク50は,押し型面46(シール装置)を支持するものであって,本件
発明1のような絞り装置(絞りバー22,絞りバー49,50)を支持しておら
ず,引用例1のエンドシール押し型機構は,本件発明1のような「絞り」を行う機
能を備えたものでない。すなわち,引用例1は,シールを行う部分を有するだけ
で,絞りを行う部分を備えていないのであるから,絞りを行わないことは当然であ
る。また,フイルム材に対する押し型面46の運動は,「絞り」を行なうことがで
きるものになっていない。押し型面46は,フイルム材に沿って移動することはな
く,それに伴う「絞り」を行うことはない。このような「押し型面46」が袋材に
沿って移動すれば,袋材が損傷されてしまうことは明らかである。
引用例1(甲3)は,横シールジョーがウェブを間欠的に引きずり下ろすように動
作する公知機械(訳文1頁第2段落)を改良し,フイルム送りローラを連続的に常
に一定速度で駆動することを主たる特徴とするものであり(訳文1頁下から第3段
落,5頁下から第2段落,6頁第1段落),「絞り」とは全く関係がない。
(2)本件発明の請求項10は,請求項1~3及び7~9に従属する請求項であ
り,相互に固定関係に支持された閉鎖バー21と絞りバー22とを有するヘッド1
4の速度がチューブ状袋材12の速度より速くなることを規定したものである。請
求項1は,閉鎖バー21と絞りバー22との相対的な移動関係等を具体的に記載し
ているわけではない。また,本件明細書(甲2)に「絞り作用を提供するために,
少なくとも2個のバー49と50は,・・・袋材の速度より速い速度となる。4個
のバー49から52までの全ては速度が袋材より速いことが好ましい」(4頁8欄
第2段落)と記載されているように,第4,5図の実施例では,第2,3図の実施
例における絞りバー22に相当する2個のバー49と50と,閉鎖バー21に相当
する2個のバー51と52とは,相互に対して固定関係に支持されているわけでは
なく,2個のバー49と50は袋材の速度より速い速度となるが,2個のバー51
と52は必ずしも袋材の速度より速くならなくてもよいものである。このように,
請求項1は,閉鎖バーと絞りバーとの移動関係等を具体的に規定するものではない
のに対し,請求項10は,相互に対して固定関係に支持された閉鎖バーと絞りバー
とを備えたシール及び絞りヘッド14の移動について規定するものであるから,両
請求項の関係に不合理な点はなく,請求項10は不要な請求項ではない。また,請
求項3についても,構成要件C②におけるシール及び絞り装置10,14のチュー
ブ状袋材12に沿う移動は,チューブ状袋材12を絞る機能を果たすために行うも
のであり,シール及び絞り装置10,14におけるシールを行う部分(シール装
置)は,そのような移動をする必要がないのであるから,請求項1と請求項3とは
矛盾しない。食品の包装装置で「絞り」を行うこと自体は,周知の技術であるが,
本件発明1における「絞り」は,シール及び絞り装置10,14が「チューブ状袋
材12に沿って移動」することが必要であり,必然的に原告主張の上記(b)の運
動が必要となり,上記(a)の動きは,本件発明1の「絞り」とは関係がない。
 2 取消事由2(本件発明1の進歩性の判断の誤り)について
 引用例2(甲4)には,「ジョー24及びストリッパ26を作動するための
具体的な装置構成については記載されておらず・・・ジョー24及びストリッパ2
6を含むシール及び絞り装置を適宜な機構によって上下(図1と図7の間の位置)
に移動させることによって,チューブ18を密封する前にジョー24及びストリッ
パ26をチューブ18に沿って移動させてストリッパ26によりチューブ18を絞
るように構成することが理解できるにとどまるものであって,本件特許発明(注,
本件発明1)のようにアーム装置がシール及び絞り装置を支持し,アーム装置を完
全に回転駆動させることによって,チューブ状袋材を密封する前に,シール及び絞
り装置をチューブ状袋材に沿って移動させて絞り装置によりチューブ状袋材を絞る
ようにする構成を想到させるための事項については記載されていない」(審決謄本
11頁下から第2段落)のであり,また,引用例1(甲3)に記載されているもの
は,「絞り」を行わない装置,換言すれば,絞りを必要としない製品に対して使用
される装置であるから,「絞り」を行うための部材を備えていない。したがって,
引用例1のシールを行うための押し型面46を,引用例2の絞りを行うためのスト
リッパ26と置換して,シールを行わずに絞りを行う装置にすることは無意味であ
り,また,そのような置換の可能性については,引用例1,引用例2にも記載がな
い。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(本件発明1と引用例1記載の発明との同一性の認定の誤り)に
ついて
(1)本件明細書(甲2)が,「絞り」について,「チューブ状袋材の中で製品
が占める容積を詰めること」(3頁5欄(発明の作用および効果))と定義し,
「絞り」とは,「チューブ状袋材の中で製品同士の隙間を小さくし,製品が占める
容積を減少させること」であることは,当事者間に争いがない。次に,「絞り」
が,上記の意味であるとして,本件発明1において,これがどのような機械的動作
によって実現されるかについて検討する。
  本件明細書(甲2)には,「絞り」に関する機械的動作について,「組立
体10の作動順序は以下の通りである。まず,チユーブ状袋材12が製品送りヘツ
ドを通過して送られ,そのため製品11が該チユーブ状袋材12の内側へ送られ
る。ヘツド14が前記材料と係合し特定位置で袋材12を密封閉鎖する。例えばA
位置においては,ヘツド14は材料12と係合し,袋13を袋材から切断してい
る。一旦袋13が形成され,組立体10から落下しうるようになると,アーム15
はB位置まで回転する。その後ヘツド14が袋材12と係合するようにされ,袋材
12を絞り,かつシールする。2個のヘツド14は相互に向かつて運動し,材料1
2の速度より速い速度で該材料12の運動方向に運動する。したがつて,ヘツド1
4は袋材12を絞り,製品11の占める容積を減少させる。ヘツド14が所定位置
に達すると,袋材12はシールされ,そのため新しい袋が形成され,残りの材料1
2から切断される」(3頁6欄第2段落),「作動時,ヘツド14は袋材12と係
合している間カム軌道23の直線部分によつて画成される全体的に直線の軌道を追
従する。その後,ヘツド14は袋材12との接触関係から離れ,カム軌道23の曲
形部分24を追従する。曲形部分24の端に到達すると,ヘツド14は第2図に示
すC位置まで運動する。一旦この位置に来ると,閉鎖バー21は絞りバー22より
先に袋材12と接触する。袋材12と係合すると,ヘツド14は袋材より速い速度
で駆動され,そのため袋材12が絞られる。ヘツド14が第2図に示すD位置に達
するにつれて,袋材12がシールされ,新しく形成された袋13が袋材12から切
断される」(3頁6欄最終段落~4頁7欄第1段落),「アーム45が回転し,絞
りバーとチユーブ閉鎖バー49と52が相互に近接するにつれて,各対の絞りバー
49と50,およびチユーブ閉鎖バー51と52が相互に隣接位置し2対の絞りバ
ーの間へ製品が何ら来ないよう阻止する。一旦絞りバーが係合すると,アーム45
がさらに運動することによつて2対の絞りバーおよびチユーブ閉鎖バー51,52
および49,50が袋材の長手方向に離れるようにし,そのため製品の入つていな
い空間を袋材につくり,その空間は次いで組立体46と係合する。このため,個々
の袋がシールされ,チユーブ材から外されると,シールおよび分離作業を邪魔する
製品が確実に介在しないようにする。絞り作用を提供するために,少なくとも2個
のバー49と50は,チユーブ状袋材と接触している間該袋材の速度より速い速度
となる。4個のバー49から52までの全ては速度が袋材より速いことが好まし
い」(4頁8欄第1,第2段落)と記載されている。
  これらの記載及び第1~第3図の実施例によれば,本件発明1における
「絞り及びシールの組立体」の機械的動作は,①互いに水平方向に離隔した2本の
シャフト16にアーム15が取り付けられ,それぞれ同一角速度で反対方向に回転
し,②上記各アーム15の先端部にはアームの軸方向にばねで伸縮自在に支持され
たヘッド14が取り付けられ,当該ヘッド14はアーム15の回転に伴って,カム
軌道23に案内されて回転し,当該ヘッド14には絞りバー22と閉鎖バー21が
取り付けられ,③上記ヘッド14はC位置でカム軌道23の拘束を離れ,更に回転
してB位置で袋材13との係合を開始し,その際,閉鎖バー21が最初に袋材と係
合して製品の落下を防ぎ,続いて絞りバー22が袋材と係合し,この間,ヘッド1
4はカム軌道23の直線部分25を,袋材13の速度よりも高速で移動して袋材内
部の製品を「絞り」,④D位置に至って,左右のアーム15の先端の加熱シール部
が袋材をシールし,ナイフ27が袋材13を切断するものであることが認められ
る。また,本件明細書の第4,第5図の実施例では,この機械的動作は,上記第1
~第3図の実施例とは異なり,ヘッド14に替えて,絞りバー49,50と閉鎖バ
ー51,52がそれぞれアーム53~56及び枢着組立体57によって支持され,
第4図の点線位置で絞りバー49,50及び閉鎖バー51,52が袋材13と係合
した後,その実線位置でアーム45の先端が袋材をシールし切断し,第4図の点線
位置から実線位置にかけて,絞りバー49,50と閉鎖バー51,52は袋材と係
合して製品の落下を防ぎ,その間,絞りバー49,50は袋材の移動速度より高速
に移動して袋内の製品を「絞る」ものであることが認められる。
  以上のとおり,第1~第3図の実施例及び第4,第5図の実施例のいずれ
においても,袋の密封・切断位置(第2図ではD位置,第4図では実線の位置)に
至る以前に,閉鎖バー(第2図では21,第4図では51,52)及び絞りバー
(第2図では22,第4図では49,50)が,袋材を付勢状態で挟み込んでお
り,さらに,閉鎖バー及び絞りバーが袋材に沿って移動(袋材の送り速度よりも速
い速度で袋材表面上を進行)することによって,袋材内の製品を「絞り」,製品を
袋の下方に押し込める動作を行っていることが理解される。したがって,本件発明
1において,「絞り」,すなわち「チューブ状袋材の中で製品同士の隙間を小さく
し,製品が占める容積を減少させること」は,具体的には,アーム装置に一体に取
り付けられたシール及び絞り装置のうち,特に「絞り」に関与する部位がチューブ
状袋材を閉止しながら当該袋材よりも高速に進行して,袋材内の製品の容積を減少
させる運動,すなわち,例えば,練り歯磨きのチューブを指先で挟んで絞り出すよ
うな機械的動作によって実現されるものであると認めることができる。
(2)審決は,本件発明1と引用例1(甲3)とを対比し,「本件特許発明
(注,本件発明1)では,第1のアーム装置と第2のアーム装置は,シール及び絞
り装置を支持するものであり,該アーム装置の完全な回転駆動によりチューブ状袋
材を密封する前に,シール及び絞り装置がチューブ状袋材を絞るように構成されて
いるものであるのに対して,甲第2号証(注,引用例1)に記載された発明では,
クランク50は,押し型面46(シール装置)を支持するものであって,本件特許
発明のような絞り装置(絞りバー22或いは絞りバー49,50)を支持しておら
ず,チューブ状袋材を密封する前にチューブ状袋材を絞るようには構成されていな
い点」(審決謄本11頁第2段落)を相違点として認定し,引用例1は,「チュー
ブ状袋材を密封する前にチューブ状袋材を絞るようには構成されていない」とし
た。この点について,原告は,本件発明1のアームは完全な回転運動をしており,
「絞り及びシールヘッド」が回転運動をしながらチューブ状袋材に接近していく過
程においても,ヘッドは製品を押しのけ,容積を減少させる運動をしているから,
「絞る」という用語の定義に含まれる動作はヘッドの直線運動時にしか生じないと
いうものではなく,回転運動の過程でも生じ,引用例1の押し型面46は回転しな
がら相互に接近する過程で「絞る」動作を行っているから,「チューブ状袋材を密
封する前にチューブ状袋材を絞る」動作をしており,本件発明と変わるところはな
く,この点を相違点とした審決の認定は誤りであると主張する。
  しかしながら,引用例1(甲3)には,「クランク52の一方の外端部分
は,シャフト28に固着され,そのシャフトから動力が得られるようになってい
る。その回転シャフト28に固定され,それによって駆動されるものは,ギヤ53
で,それは,仲間のギヤ54と噛合い,そのギヤ54は,ギヤ55と噛合い,その
ギヤ55は,ギヤ56と噛合う。ギヤ56は,シャフト57上に固定され,そのシ
ャフトは,一方のクランク52(Fig.5参照)と結合されてそれを駆動する。こうし
た駆動の結果,それぞれのクランク52を介して,制御シャフト28から動力を得
て,Fig.5の組立体は,上下の軌道を通るように駆動され,同時に,押し型胴部と押
し型面とは,スライドバー50の細長い切り欠き51に案内されて水平な経路を互
いに近接離反する。前記押し型が取り得る動きは,Fig.5の組立体が移動する間にお
いては,前記押し型面が,Fig.7の破線で示す上部位置で互いにぶつかり,その時,
両押し型面は,その間に一つの袋底とそれより下の袋口とが形成されるフィルム材
を挟み込み,それから噛合った押し型面は,Fig.7の破線位置から実線位置を通って
その下側へと垂直に下降する動きをなす。この間,スプリングが負荷された押し型
面は,ナイフ48を飛び出させてそれらと噛合ったフィルム材を貫通してそれを切
断するように作用し,これによって,すぐ上の袋から下の袋が切り離される。その
押し型面46は,周知のように電気的に加熱され,周知のサーモスタットで制御さ
れる。電気は,適当な電源に接続されたケーブル58を介して押し型面内のヒータ
ー(図示せず)に導かれる。それ故に,モータ24が動作すると,前述の駆動機構
を介してフィルム送りローラ44が常に一定速度で駆動されて,フィルム材20’
を成形チューブ16に沿って前記エンドシール押し型機構へと下降させることが理
解できるであろう」(訳文5頁第2,第3段落),「押し型面46がFig.7に示すよ
うに接触している間は,それらの垂直な動作速度は,紙状のフィルム送りローラ4
4の周速度と同じである」(訳文6頁第1段落)と記載されている。これらの記載
によれば,引用例1における押し型面46の垂直方向の下降運動(Fig.7)は,チュ
ーブ材料の送り速度と同速度で行われていることが明らかである。そうすると,本
件発明1における「絞り」の機械的動作は,絞りバーがチューブ材を挟持した状態
でチューブ材の進行速度より高速に動いて袋材内部の製品を詰めるものであること
は上記のとおりであるから,引用例1の押し型面46の機械的動作は,本件発明1
の「絞り」とは異なるものである。
  原告は,「絞り」とは「チューブ状袋材の中で製品同士の隙間を小さく
し,製品が占める容積を減少させること」であるから,引用例1の押し型面46の
運動でも,チューブ材との接触の開始段階では,対向して接近する押し型面によっ
て製品が詰められる「絞り」が行われていると主張するが,「絞り」という語が一
般的に意味する内容として原告が主張するような動作過程で製品が詰められる態様
が含まれるとしても,本件発明1における「絞り」は,ヘッドがチューブ材よりも
高速で動く機械的動作により実現されるものであるから,そのような動作を含まな
い引用例1記載の発明は,本件発明1と同一であるとする原告の主張は,採用する
ことができない。
(3)原告は,本件発明1に係る請求項1の従属項である請求項10は,シール
及び絞りヘッド(14)の速度が,チューブ状袋材(12)を密封する前に,チュ
ーブ状袋材(12)の速度より速くなるように,回転アームが回転駆動されること
を要件としているところ,請求項1によって,既に「シール及び絞り装置(10,
14)が「チューブ状袋材(12)」の速度よりも速い速度で移動していることを
規定しているのであれば,請求項10の上記要件は,本来不要となってしまい,請
求項間に矛盾が生じてしまうと主張する。しかしながら,請求項10は,絞りバー
49,50と閉鎖バー51,52が独立して支持され,絞りバー49,50がチュ
ーブ材よりも速く動くことを要件とする第4,第5図の実施例とは異なり,第1~
第3図の実施例に特化した請求項7~9に従属する請求項であって,絞りバー22
と閉鎖バー21がヘッド14に組み付けられ,一体に回転する場合を規定しようと
するものであると解されるのであって,このように解すれば,請求項10は,従属
項として,請求項1との関係にも矛盾はない。
(4)また,原告は,本件発明1のヘッド14の動作は,(a)2個のヘッド1
4が相互に向かって運動する工程,(b)2個のヘッド14が袋材12の速度より
速い速度で,該材料12の運動方向に運動する工程,に分離することができるとし
た上,同じく従属項である請求項3は,「シール部材と切断部材(27)が,シー
ルおよび絞り装置(10,14)に含まれ,かつ,アーム装置(15)の半径方向
最端に位置していること」を要件としているが,シール及び絞り装置(10,1
4)が,「チューブ状袋材(12)に沿って移動」する場合には,シール装置(1
0)も,絞り装置(14)と共に,上記(b)のように,チューブ状袋材(12)
の移動方向に移動していなければならないから,請求項3のように,単なる回転運
動を行っているアーム装置(15)の半径方向最端に位置している「シール部材と
切断部材(27)」は,上記(b)のように,チューブ状袋材(12)の運動方向
に沿って運動することは不可能であり,請求項3は,請求項1に従属することがで
きないという明らかに矛盾した帰結に至らざるを得ないとも主張する。
  確かに,本件発明1では,シール部と切断部はアーム15の先端に固定的
に取り付けられ,カム軌道23の拘束を受けることなく単純な円運動をしているか
ら,この部分がチューブ状袋材に沿って直線運動をすることはない。第2図の実施
例の場合,直線運動をするのは,絞りバーと閉鎖バーを搭載し,ばね18で付勢さ
れながらカム軌道に拘束されて運動するヘッド部14であるから,シール部もチュ
ーブ材に沿って直線運動をするかのように読める請求項1の文言は,いささか適切
を欠くともいい得る。しかしながら,請求項1は,態様の異なる第1~第3図の実
施例及び第4,第5図実施例双方を包含するものであって,「絞り及びシール組立
体」や「シール及び絞り装置」との構成要件は,絞りバー,閉鎖バー,シール装
置,切断装置等を包括的に呼称しようとしているものであることは当業者に明らか
であり,そのような各機能部分が全体としては円運動をしながら「チューブ材を密
封する前にチューブ材を絞る」という作用を行っていることを表現しているものと
認められる。このように,請求項3は,上記各作用部分を総称的に包含するシール
及び絞り装置において,シール及び切断部はアーム15の先端に固定的に配置され
ていることを特定したものであると解すれば,請求項1と請求項3の関係に矛盾は
生じない。請求項の記載にいささか適切を欠く点はあるにしても,このことを理由
に,「絞り」が上記(b)によって実現されるとした審決の認定が誤りであるとい
うことはできない。
(5)さらに,原告は,特開平5-65144号公報(甲6)において,図8の
パッド28,図12の弾性部材18が回転することによって袋のエアーを抜く工程
について,「絞り込む」(段落【0021】)と記載し,特開昭48-73295
号公報(甲7)及び1963年(昭和38年)1月1日頒布の米国特許第3070
931号明細書(甲8)にも,上記(a)のような回転運動により「絞り」が実現
されることが記載されていると主張する。しかしながら,甲6,7においては,ア
ーム装置に一体に取り付けられたシール及び絞り装置のうち「絞り」に関与する部
位がチューブ状袋材を閉止しながら当該袋材よりも高速に進行して,袋材内の製品
の容積を減少させる機械的動作は行われていないから,本件発明1と同一視するこ
とはできない。また,甲8においては,ジョー110の回動に伴い,ストリッパ1
48(絞り部材)が回転してチューブ材を挟持するが,ジョー110が更に回転し
てFig.4の状態に至るまでに,ストリッパ148は一定距離直進運動を行い,その過
程で軸152がシリンダ154内に潜り込むように運動しているから,「絞り」
は,ジョー110の往復回転運動に基づいて実現されており,アームの完全な回転
によって行われる本件発明1とは異なる構成を採るものである。
(6)以上検討したとおり,原告の取消事由1の主張は,採用することができな
い。
 2 取消事由2(本件発明1の進歩性の判断の誤り)について
 原告は,引用例2(甲4)が開示する「絞り」「シール」「切断」の一連の
工程は,基本的に本件発明1と同じであり,この動作を引用例1(甲3)の押し型
面46のいわゆるDモーション(押し型面46が両外側における回転運動と相互に
最も近い状態となった位置における直線状の下降運動とを総合した運動)によって
実現することは,容易に想到し得るものであると主張する。
 確かに,引用例2は,チューブ状袋材にストリッパプレート26及び小片ス
トッパ30が当接した状態で下方へ移動してチューブ内の製品を絞り,その後,熱
封止ジョー24が接近して袋を封止した後,チューブを切断するものであるから,
その目的及び作動工程は本件発明1と同じであり,引用例2は,上記工程を装置の
上下への間欠駆動によって行うことを前提にしているが,この運動の代わりに引用
例1のいわゆるDモーションを採用することは可能であり,また,引用例1は袋材
をシール及び切断することを目的とするものであるから,押し型面46の下方への
直線移動の速度はチューブ材の速度と同一であることが前提となっているが,「絞
り」を行うために,移動速度をチューブ材の速度より速くすることも可能であると
認められる。
 しかしながら,シールと切断のみを行うことを目的とした引用例1において
は,引用例2におけるストリッパプレート26及び小片ストッパ30(本件発明1
のシール及び絞り装置(10,14)に相当)は存在せず,また,チューブ材を適
切に「絞った」後に袋材をシールし,切断する機構も不明である。そして,引用例
1には,いわゆるDモーションという回転運動を基礎とする動作の中で,一連の工
程を実現するためにどのような対応が必要であるかについて開示するところはな
く,また,装置の垂直移動を前提とした引用例2からも示唆されるところはない。
原告が引用する甲8におけるジョー110は,左右への間欠的な開閉運動に基づく
ものであるから,これをどのようにいわゆるDモーションに適用すべきであるのか
は不明である。したがって,引用例2の一連の工程が,引用例1のような回転運動
の過程で実現できることは観念的には想定できるものの,その実現に当たっての機
器の具体的な構成等については,引用例1,2には,何ら開示も示唆もなく,引用
例2のストリッパ26に,引用例1によるDモーションを採用することは,当業者
が容易に想到し得るということはできない。そうすると,本件発明1は,引用例
1,2記載の発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはい
えないとした審決の判断を誤りということはできず,原告の取消事由2の主張も理
由がない。
3 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り
消すべき瑕疵は見当たらない。
   よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとお
り判決する。
     東京高等裁判所第13民事部
         裁判長裁判官 篠  原  勝  美
    裁判官 岡  本     岳
    裁判官 早  田  尚  貴

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