弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件控訴をいずれも棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2A競艇施行組合からの要望(平成11年8月19日付け宮艇業第166号)
にある広島場外場の設置についての広島市とA競艇施行組合との間の協定書締
結について,被控訴人が,平成15年3月24日A競艇施行組合に対して行っ
た,これに同意しない旨の回答が無効であることを確認する。
3被控訴人は,控訴人に対し,A競艇施行組合がモーターボート競走の施行者
として広島市α13番8号に場外発売場を設置するために国土交通大臣に対し
て確認申請を行う際に求められる同意書(別紙「場外舟券売場の設置に関する
同意書」と同一内容の記載のある文書)を交付せよ。
第2事案の概要
原判決「事実及び理由」の「第2事案の概要」のとおりであるから,これ
を引用する。
なお,当審において当事者は特に以下の主張をする。
(控訴人の主張)
最高裁判所第2小法廷平成17年7月15日判決(以下「平成17年最高裁
判決」という。)は,医療法(平成9年法律第125号による改正前のもの。
以下同じ。)7条1項に基づく病院開設許可の申請に対して,県知事が同法3
0条の7に基づいて行った病院の開設を中止するようにという勧告について,
医療法上は,この勧告に従わなくてもそのことを理由に病院開設の不許可等の
不利益処分がなされることはないが,厚生省通知(昭和62年9月21日付け
保発第69号厚生省保険局長通知)において,「医療法30条の7の規定に基
づき,都道府県知事が医療計画達成の推進のため特に必要があるものとして勧
告を行ったにもかかわらず,病院開設が行われ,当該病院から保険医療機関の
指定申請があった場合については,健康保険法43条の3第2項に規定する
『著シク不適当ト認ムルモノナルトキ』に該当するものとして,地方社会保険
医療協議会に対し,指定拒否の諮問を行うこと」とされていたのであり,上記
医療法及び健康保険法の規定の内容やその運用の実情に照らすと,当該勧告を
受けた者に対し,これに従わない場合には,相当程度の確実さをもって,病院
を開設しても保険医療機関の指定を受けることができなくなるという結果をも
たらすものということができ,保険医療機関の指定を受けることができない場
合には,実際上病院の開設自体を断念せざるを得ないことになるので,病院の
開設を中止するようにとの勧告は行政事件訴訟法3条2項に定める「行政庁の
処分その他公権力の行使に当たる行為」に該当すると解するのが相当である,
と判断した。
平成17年最高裁判決は,上記勧告について,その運用の実情から,相当程
度確実に保険医療機関に指定されないという不利益が生じ,その結果として,
病院の開設を断念せざるを得なくなるという事実上の不利益が生じる場合には,
勧告自体には何らの法的効果がなくとも,公権力の行使に当たると判断したも
のである。
本件の場合も,場外発売場の設置確認についての所轄庁である国土交通省が,
市長の同意がなければ場外発売場の設置確認は不適法な申請として受理されな
いこととなると解して差し支えないと回答しているのであるから,運用の実情
として,市長の同意がなければ相当程度確実に場外発売場の設置確認は受理さ
れないこととなり,場外発売場の設置を断念せざるを得なくなる。本件におけ
る市長の同意には,このような実際上,事実上の効果があるのであるから,平
成17年最高裁判決に照らし,公権力の行使に当たると解すべきである。
被控訴人は,病院開設の場合,保険医療機関の指定を受ける以前に多額の費
用がかかるのに対し,場外発売場の場合には制度上事前に多大な費用はかから
ないと主張するが,控訴人は,広島市及びA競艇施行組合から,施設会社にな
ることを懇願され,広島市からの指導・指示に基づいて手続を進め,既に総額
30億2400万円の資金を現実に拠出しているのであって,回復しがたい重
大な損害・不利益を被っていることは明白である。被控訴人・広島市が,今に
なってこれらの指導・指示と背馳する態度を取ることは,禁反言ないし信頼保
護の法理に著しく反するものである。
(被控訴人の反論)
平成17年最高裁判決は,本来当然には関連しない別個の法律(医療法,健
康保険法)に基づく制度が関連づけられて運用されていること(勧告に従わな
いと,保険医療機関の指定を拒否するという趣旨が内在している。),病院開
設には保険医療機関の指定を受ける以前に多額の費用がかかること(保険医療
機関の指定を受けるためには,医療法7条に基づく病院開設許可を得た後,同
法27条に定めるところにより,都道府県知事から使用許可証の交付を受けて
いなければならず,さらに,その使用許可を得るためには,同法21条の規定
及び所定の省令の定めるところにより,病院の建物等を建築し,医療設備を整
え,医師や看護師を雇うなどして,必要な人員及び施設を確保しておかなけれ
ばならない。)等の事情を考慮し,後続処分(保険医療機関の指定拒否)を阻
止するためには勧告段階で争わせる訴訟形態が適当であると判断したのであり,
単に行政庁の行為が及ぼす効果等から,当該行為の処分性を認めたものではな
い。
すなわち,平成17年最高裁判決は,医療法,健康保険法という2つの法律
を組み合わせた制度の運用上における当該勧告の位置づけ,性格を検討した上
で,事後的に争ったのでは回復しがたい重大な損害を被るおそれがあること,
かつ,争点は勧告の段階で全て明らかで紛争の成熟性にも欠けないことを理由
に,医療法30条の7に基づく都道府県知事の勧告に処分性を認めたものであ
る。
ところが,平成17年最高裁判決で示された病院開設にかかる都道府県知事
の勧告と保険医療機関の指定との関係を,本件における場外発売場設置にかか
る市長の同意と国土交通大臣による設置確認との関係と比較すると,保険医療
機関の指定に当たっては,病院開設の許可を得て,病院の建設等を完了してい
なければならず,必然的に事前に多大な費用がかかるため,制度上,保険医療
機関の指定拒否処分を受けてからその処分を争ったのでは回復しがたい重大な
損害を被るおそれがあるのに対し,国土交通大臣の確認の際には場外発売場の
建設を完了しておく必要はなく,事前に多額の費用はかからないため,国土交
通大臣に確認申請を却下されてからこれを争っても,回復しがたい重大な損害
を被るおそれがないこと,病院開設にかかる勧告には法律の根拠があるのに対
し,場外発売場設置にかかる市長の同意には法律の根拠がないことなどの相違
があるから,本件における市長の同意に平成17年最高裁判決の法理は適用さ
れないと解すべきである。
第3当裁判所の判断
当裁判所も,本件訴えはいずれも不適法であって,却下すべきであると判断
する。その理由は,以下のとおり付加訂正するほかは,原判決の「第3当裁
判所の判断」記載のとおりであるから,これを引用する。
113頁4行目の「したがって」から8行目末尾までを以下のとおり訂正する。
「本件不同意がなされたからといって,そのことを理由として法律上当然に
国土交通大臣に対する本件設置確認申請が受理されなかったり,却下処分が
行われるわけではない。施設予定地の市長の同意が得られなければ前記通達
等があることにより申請が却下される可能性が高いというに過ぎない。この
ように,本件不同意は,法律規則上,明文をもってその要件効果が定められ
ているわけではなく,また,法律規則の解釈上にその根拠を有するものでは
ない。そして,市長の同意が得られなかったからといって当然に控訴人の権
利義務の内容に影響するものではないから,抗告訴訟の対象となる行政処分
には当たらないというべきである。
また,控訴人が本訴において求めている同意書の交付請求は抗告訴訟の一
類型としての義務付けの訴えと認められるところ,本件不同意が抗告訴訟の
対象となる処分に該当しないことは前述したとおりであるから,このような
義務付けの訴えもまた不適法といわざるを得ない。」
213頁15行目の「あり」を「あるが」に訂正し,同じ行の「「市長の」か
ら16行目の「正当な解釈といえるが,」までを削除する。
313頁21ないし23行目を以下のとおり訂正する。
「2控訴人は,県知事が,医療法30条の7の規定に基づき都道府県知事
が病院を開設しようとする者に対して行う病院開設中止の勧告が行政処
分に当たると判断した平成17年最高裁判決を引用し,本件の場合も,
場外発売場の設置確認の所轄庁である国土交通省が,市長の同意がなけ
れば場外発売場の設置確認は不適法な申請として受理されないこととな
ると解して差し支えないと回答している以上,市長の同意がなければ,
場外発売場の設置確認を得ることができず,場外発売場の設置を断念せ
ざるを得なくなるのであるから,市長の同意は公権力の行使に当たると
解すべきであると主張する。
(1)しかしながら,平成17年最高裁判決の事例については次の点を指
摘することができる。
知事による病院開設中止の勧告は行政指導ではあるけれども法律上
の根拠を持っており,保険医療機関の指定に関する健康保険法の定め
(平成17年最高裁判決の事例では健康保険法の定め及び行政庁内部
の取扱準則)は,事実上ではあるが知事による勧告の実効性を担保す
るような構造となっている。
そして,知事による勧告は「医療計画の達成の推進のため特に必要
がある場合」にされるのに対し,保険医療機関の指定拒否は「保険医
療機関等として著しく不適当である」場合などに行われるもので,両
制度の趣旨目的は一部重なるものの同一というわけではなく,知事に
よる勧告には独自の行政目的があることからすると,保険医療機関の
指定拒否処分を争う理由として知事による勧告の不当性を持ち出すこ
とは相当ではなく,知事による勧告に瑕疵があるかどうかはそれ自体
を争訟の対象とするのが相当である。
また,健康保険法及び関係政省令の定めによれば,保険医療機関の
指定申請は,病院の開設許可を知事から得た後,病院の建物や医療設
備を整え,医師看護師等のスタッフを確保した後でなければ行うこと
ができない。したがって,知事による中止の勧告を直ちに争うことが
できないとすると,勧告を受けた者は病床の全部又は一部が保険医療
機関の指定から除外される(平成17年最高裁判決の事例では保険医
療機関の指定を受けることができない)蓋然性が高度であるにもかか
わらず,多額の投資をしなければならないことになり,著しく不安定
な立場に置かれる結果になる。
(2)これに対して,本件における市長の同意は,法律規則に根拠がある
ものではなく,モーターボート競争法施行規則8条1項の要件具備の
有無を国土交通大臣が判定するための資料として使用することが行政
庁内部における通達によって定められているに過ぎない。したがって,
医療法における知事の病院開設中止勧告のようにそれ自体としての行
政目的を有する行政行為ではない。
また,場外発売場を設置しようとする者が国土交通大臣に確認申請
をするに当たっては,施設建物について建築主事の確認を得る必要は
あるけれどもその限度で足り,国土交通大臣の確認を得た後に建築に
着手すればよい(乙2,4)。したがって,控訴人が本件同意の効力
を争うことができず,国土交通大臣の確認拒否処分を待ってこれに対
する取消訴訟を提起しなければならないとしても,そのことのために,
市長の不同意が明らかになった時点において場外発売場の設置を事実
上断念しなければならなくなるような経済的負担を控訴人に対して負
わせるものとまではいい得ない。
(3)控訴人は,平成17年最高裁判決は行政機関の行う行為につき,そ
の性質や法的拘束力ではなく事実上の効果に着目して行政処分性を肯
定したものであると主張するが,以上検討したところによれば,その
ように一般化することはできない。
また,控訴人は,場外発売場建設のために広島市等からの指導・指
示に基づいて既に多額の資金を拠出している旨主張するが,平成17
年最高裁判決の事例とは次元を異にする問題である。
(4)したがって,控訴人が平成17年最高裁判決を引用して行う主張を
採用することはできない。」
第4結論
以上の次第で,その余の控訴人の主張について判断するまでもなく,控訴人
の訴えはいずれも不適法であるから却下を免れない。よって,本件控訴は理由
がないので棄却する。
広島高等裁判所第2部
裁判長裁判官加藤誠
裁判官金村敏彦
裁判官太田敬司

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