弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人伊藤嘉信の上告理由第一点について。
 所論は、原判決が本件土地を四日市市有地であると認定したことを非難し事実誤
認を主張するにほかならないので、採用することができない。
 同第二点について。
 論旨は、法律行為の錯誤の決定については、表意者の意思のほか取引の安全をも
考え、社会通念上要素と認むべき合理的理由の存在する場合に限り錯誤ありとすべ
きであり、原判決はこの点において民法九五条の解釈適用を誤つたものであると主
張し、大審院の判例を引用する。しかしながら原判決は、契約当事者間において第
三者たる市の道路敷地に建物所有を目的とする賃借権を設定する契約を結ぶことは、
予め市の認可を受けおく等の特別の事情のない限り、その目的を達すること社会一
般の観念上至難のことと見るべきであると説明し、次いで本件につき主観的には表
意者たる被告人Bにおいて賃貸借契約の目的たる土地が市道であることを知つてい
たならば本件賃貸借契約を結ぶ意思表示をしなかつたであろうと考えられるし、且
つ客観的には社会一般の観念から見ても表意者が市道であることを知つていたなら
ばかかる意思表示をしなかつたものと考えられるから、被上告人Bが市道を私有地
と信じて賃貸借契約を結んだのは、その意思表示の内容の重要な部分に錯誤があり、
右意思表示は無効と認むべきであると判示しているのであつて、所論の点に関する
原判決の判断は首肯するに足う、民法九五条の解釈適用を誤つたものとは認められ
ない。そして原判決の判示するところは、むしろ論旨引用の大審院判例の趣旨に副
うものであつて、これと相反する判断をしたものではない。
 同第三点について。
 原判決は、論旨摘録の事実を認定した上、被上告人Bには重大な過失のなかつた
ことを判示したのであつて、原判決の右判断は相当と認められるので、論旨は理由
がない。
 同第四点について。
 原判決は、本件賃貸借契約が要素の錯誤により無効であるとの被上告人の主張を
認容したのであるから、右主張の許容されない場合を慮り予備的に主張したものと
認められる所論合意解除の点について判断を要しないことは当然である。それ故、
諭旨は理由がない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎
            裁判官    垂   水   克   己

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