弁護士法人ITJ法律事務所

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       主   文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
       事実及び理由
第一 請求
一 被告は、原告に対し、金三〇〇万円及びこれに対する平成二年七月三〇日から
支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、愛知県教育委員会委員長名及び愛知県立佐屋高等学校長名をもって、
後記陳謝文を縦横それぞれ一メートルの白紙に墨書して、愛知県庁西庁ロビー内掲
示板及び愛知県立佐屋高等学校玄関壁面に一か月掲示せよ。
三 訴訟費用は被告の負担とする。
四 第一項につき仮執行宣言
 記
陳謝文
 当職は、貴職員団体に対し、一九八九年四月以来長期にわたって貴職員団体の交
渉要求を拒否してきたことをここに深く陳謝するとともに、今後かかる違法行為を
行わないことを誓約します。
 年 月 日
 愛知県教育委員会委員長
 愛知県立佐屋高等学校
 学校長 a
 がっこうコミュニティユニオンあいち 御中
第二 事案の概要
 本件は、原告が愛知県教育委員会(以下「県教委」という。)及び愛知県立佐屋
高等学校(以下「佐屋高校」という。)の校長に対し、同高校における勤務条件に
ついて、地方公務員法(以下「地公法」という。)五五条に基づく交渉を申し入れ
たところ、県教委及び同校長のいずれもこれに応じなかったとして、被告に対し、
国家賠償法に基づき、慰謝料の支払と陳謝文の掲示を求めている事案である。
一 当事者間に争いのない前提事実
1 原告及びbについて
(一) 原告は、愛知県内の公立学校の教職員を構成員として、昭和六三年三月二
七日結成された職員団体であり、地公法五二条ないし五四条の要件を満たす登録団
体である。
(二) b(以下「b」という。)は、昭和五七年四月一日県教委から愛知県公立
学校教員に任命され、同日付けで愛知県立名古屋西高等学校教論に補せられた後、
平成元年四月一日付けで佐屋高校教論に補せられ、現在に至っている。
 bは、原告結成と同時にその構成員(以下「組合員」という。)となり、昭和六
三年度から平成元年度は書記次長、平成二年度は副委員長の地位にあった。
2 県教委及びa校長について
(一) 県教委は、県公立学校教員の任命権者であり、原告所属組合員らの給与、
勤務時間その他の勤務条件に関し、及びこれに附帯して、社交的又は厚生的活動を
含む適法な活動に係る事項に関し、適法な交渉の申入れがあった場合においては、
その申入れに応ずべき地位に立つものである。
(二) 県立学校長は、学校管理者として勤務時間の割り振り、休暇の承認、執務
環境の整備などに関する権限を与えられているから、原告所属組合員の勤務条件等
に関し、適法な交渉の申入れがあった場合においては、その申入れに応ずべき地位
に立つものである。
 a(以下「a校長」という。)は、昭和六三年四月から平成三年三月三一日まで
佐屋高校の校長の地位にあった。
3 a校長に対する交渉申入れについて
(一) 予備交渉に至るまでの経緯
(1) 平成元年四月五日付け申入れ(以下、年は特に断らない限り平成元年を指
す。)
 四月五日、bは、左記七項目(以下「四・五申入事項」という。)を交渉事項と
する原告の交渉申入書を持参してa校長に交渉を申し入れた
① 原告の執行委員会にbが出席することについて
② 組合掲示板の設置について
③ 職員更衣室について
④ 職員休養室について
⑤ アスベストについて
⑥ 指定休の取扱いについて
⑦ 指導部交通指導における勤務時間等について
(2) 四月八日付け申入れ
 四月八日、bは、四・五申入事項①について急ぎ交渉を実施して欲しい旨、文書
によりa校長に申し入れた。
(3) 四月一二日付け申入れ
 四月一三日、原告は、四・五申入れ事項①について緊急に交渉に応じられたい旨
の同月一二日付け交渉申入書をa校長宛に郵送したが、a校長はこれに対して特に
回答をしなかった。
(4) 四月一五日訪問
 四月一五日、原告執行委員長c(以下「c」という。)ほか四名の執行委員は、
佐屋高校に赴き、a校長に四・五申入事項の説明をした。
(5) 五月九日付け、同月一八日付け申入れ
 原告は、五月九日付け、続いて同月一八日付け交渉申入書をそれぞれa校長宛に
郵送して、交渉日程の設定を要求したが、a校長はこれらに対し何ら回答をしなか
った。
(二) 予備交渉の実施
(1) 六月一九日から二一日にかけて、a校長と原告執行委員d(以下「d」と
いう。)との間で、電話による予備交渉が行われ、同月二七日に本交渉を行うこと
を双方で確認した。
(2)同月二二日、原告は、左記二二項目(以下「六・二二申入事項」という。)
を交渉事項とする交渉事項申入書をa校長に提出した。
① 原告の執行委員会にbが出席することについて
② 組合掲示板の設置について(職員室内に設置することを要求する。)
③ 指導部交通指導における勤務時間等について(その違法性を認めること)
④ アスベストについて(本校の状況を報告し、除去計画などの公開を求める。)
⑤ 育児時間について(九月から育児時間を要求する。)
⑥ 措置要求に対する管理職の妨害について
⑦ ビラまきなど正当な組合活動に対する管理職の妨害行為(不当労働行為)につ
いて
⑧ bに対する特別的取扱い(行事から外すなど)について
(⑥、⑦、⑧に関しては、謝罪し、改めることを要求する。)
⑨ 職員更衣室について
⑩ 職員休養室及び休憩コーナーについて
(措置要求に関して)
⑪ 学習合宿について
⑫ 下校当番における勤務時間等について
⑬ 通常の勤務時間の割り振りについて
⑭ 措置要求の際の職専免について
⑮ 本校における校則・体罰等生徒に対する人権侵害について
⑯ 職員会議等のあり方について
⑰ 本校における禁煙・分煙対策と喫煙室・喫煙コーナーの設置について
⑱ 管理職による授業内容への不当な介入及び授業監視について
⑲ 職員写真について
⑳ 指定休の取扱いについて
● 新任教員に対する超過勤務の押しつけについて
● 校内の各種予算について(図書、生徒会、県費、P費など)
(三) 本交渉の実施
 六月二七日午後四時から約一時間、原告と学校当局との間で本交渉が行われた
(以下「六・二七本交渉」という。)。当日交渉がなされのは、六・二二申入事項
①ないし⑧の八項目のみであった。
(四) 九月一一日付け申入れ
 原告は、九月一一日付け交渉申入書をa校長宛に郵送して、左記二項目(以下
「九・一一申入事項」という。)を交渉事項とする交渉を申し入れ、同月二一日ま
でに交渉日時を回答するように要求した。
①bの組合活動に関わる不当労働行為について
②年休取得等の勤務条件の確認について
(五) 二月三日付け申入れ
 平成二年二月三日、bは、左記四項目(以下「二・三申入事項」という。)を交
渉事項とする原告の交渉申入書を持参してa校長に交渉を申し入れた。
①年休処理簿の改訂とそれに伴う年休処理の運用の変更について
②勤務時間の割り振り及びその変更について
③原告組合活動に対する不当労働行為について
④六・二七本交渉での未解決部分と積み残しの項目について
(六) 二月二〇日訪問
 同年二月二〇日、cほか六名の執行委員は、佐屋高校に赴き、a校長に交渉の応
諾を要求した。
4 県教委に対する交渉申入れ
(一) 本交渉に至るまでの経緯
 原告は、平成元年七月七日付け文書及び一〇月三日付け文書により、a校長の不
当労働行為をやめさせること等を交渉項目として、県教委に交渉を申し入れた。
 同月六日、原告と県教委との間で、交渉を開催すること、交渉項目の一つとして
佐屋高校の問題を取り上げることが決まったが、原告は、一一月一七日付け文書に
より、佐屋高校における管理職による原告に対する不当労働行為について、重ねて
県教委に交渉を申し入れた。
 同月二二日、原告と県教委との間で、同月三〇日に本交渉を行うこと、インフル
エンザ接種及び人事異動の問題とともに、佐屋高校における不当労働行為の問題を
交渉項目の一つとすることが確認された。
(二) 本交渉の実施
 一一月三〇日、原告と県教委の間で本交渉が行われた(以下「一一・三〇本交
渉」という。)。同日の交渉は、まずインフルエンザ接種について、次に人事異動
について、順次進められたが、県教委は、交渉開始後約一時間が経過した時点で、
時間切れを理由として一方的に交渉を打ち切った。原告は、佐屋高校における不当
労働行為の問題についても交渉をするため、そのまま交渉を継続するか、打ち切る
のであれば次回の日程をその場で決定するよう要求したが、県教委はこれに応じな
かった。
二 争点及び争点に関する当事者の主張
1 原告
(一) a校長の交渉拒否の違法性
 次のとおり、a校長が原告からの適法な交渉の申入れに対して交渉を拒否してい
ることは明らかである。これは、地公法に明記された交渉に応ずべき義務の不履行
であり、同法で保障された原告の交渉を求めることのできる地位を否認するもので
あって、違法である。
(1) 本交渉日設定が遅れたこと
 a校長は、原告の四月五日付け、八日付け、一二日付けの交渉申入れを無視し何
の回答もせず、同月一五日、四月中に交渉日程を決定する旨約束したにもかかわら
ず、右約束を破り五月に入っても交渉日程を決定せず、五月九日付け、一八日付け
の交渉日程決定要求にも応じないなど、原告の交渉申入れを無視し続け、その態度
は六月一八日まで二か月半の長期に及んだ。
(2) 六・二七本交渉が形式だけの見せかけのものであったこと
 六月二七日に本交渉が実施されたとはいえ、⑨以下の交渉事項は積み残しとな
り、交渉することのできた①から⑧についても、a校長は予め用意した回答に固執
するなど不誠実な態度に終始したのであって、六・二七本交渉は、形式だけの見せ
かけの交渉というべきである。
(3) 六・二七本交渉後の交渉を拒否したこと
 a校長は、六・二七本交渉の際積み残しとなった⑨以下の交渉事項について、八
月中(夏期休業中)に交渉に応ずる旨約束したにもかかわらず、右約束を破り、そ
の後も、九月一一日付けの回答期限付き申入れに対して右期限までに回答せず、平
成二年二月三日付けの申入れにも応じず、同月二〇日、交渉日程の予定を立てる旨
約束したにもかかわらず、右約束を破り、今日まで交渉を拒否し続けている。
(二) 県教委の交渉拒否の違法性
次のとおり、県教委が原告からの適法な交渉の申入れに対して交渉を拒否している
ことは明らかである。
(1) 県教委は、一一・三〇本交渉の際、次回の交渉日程を決めず交渉の席から
立ち去った。
(2) 県教委は、その後も原告からの再三の交渉再開要求を拒否し続け今日に至
っている。
 ところで、県教委は、地方教育行政の組織及び運営に関する法律三四条により、
県立学校長に対し任命権者として服務監督権限を有し、県立学校長が違法行為をな
したときは、それを是正するため指導助言若しくは指揮命令できる立場にある。
 したがって、県教委の右交渉拒否は、①地公法に明記された交渉に応ずべき義務
の不履行であり、同法で保障された原告の交渉を求めることのできる地位を否認す
るものであること、②任命権者としてa校長に交渉拒否をやめさせることができる
立場にありながらこれを不当に怠っていることの二点において違法である。
(三)原告の損害
 a校長及び県教委の違法な交渉拒否は、原告の登録団体たる存在を否認する行為
であり、原告の職員団体としての社会的評価ないし存在価値を著しく低下させるも
ので、原告の名誉を毀損し、また、原告の職員団体としての諸活動に大きな支障を
生じさせた。
 これを金銭に見積れば、慰謝料として少なくとも三〇〇万円を支払わせるのが相
当である。
 また、原告の職員団体としての社会的評価ないし存在価値の低下と名誉の毀損
は、右慰謝料の支払では回復できないものであるので、右回復のため、第一の二記
載の陳謝文を墨書して所定の期間、所定の場所に掲示させることが相当である。
2 被告
(a校長関係)
(一) 事実経過
(1) 四月五日付け、八日付け申入れについて
 原告は、a校長が四月五日付け、八日付けの交渉申入れを無視し何の回答もしな
かった旨主張するが、事実に反する。当時a校長は、日常業務に加え、年度初めの
諸会議出席で多忙を極めていたため、右申入れに対しては、bが交渉申入書を持参
する都度、同人に対し、時間ができるまで待って欲しいという意味で「当分交渉を
受ける暇がない。」旨伝えていた。また、四・五申入事項①(bの原告執行委員会
への出席の件)については、bに対し、年次有給休暇を取って出るよう回答してい
た。
(2) 四月一五日訪問について
 cら原告組合員は、事務室も通すことなく突然校長室に押しかけ、接客中であっ
たa校長に交渉に応じるよう要求し、具体的な事項について同校長の回答を迫っ
た。
(3) 六月二二日申入れについて
 六・二七本交渉における交渉時間については、六月二一日の予備交渉で午後四時
から一時間と決定していたにもかかわらず、原告が翌二二日に提示した交渉事項
(六・二二申入事項)は二二項目にも及ぶものであった。これらは、原告ないしb
が愛知県人事委員会に対して申し立てた措置要求の対象事項とほとんど重なってい
るうえ、①②③⑥⑦⑧⑪⑮⑯⑱⑲●は勤務条件に該当せず、⑤についてはa校長は
適法な当局に該当しないものであるから、原告の要求するところの交渉というもの
は、とても真摯な交渉の申入れとは考えられないものである。
 また、原告が従前提示していた四・五申入事項が七項目であったことに照らせ
ば、二二項目の提示は、初めから交渉時間内の交渉終了を不可能にし交渉すること
自体ないしは交渉を継続させること自体を目的とする、いわばためにするものであ
るとさえ推測される。
(4) 六・二七本交渉の実施について
 a校長は、原告から提示のあった二二項目に及ぶ交渉事項について一時間の交渉
時間内でスムーズに交渉を進行させるため、二二項目全部について予め回答を用意
して六・二七本交渉に臨み、交渉の初め一括回答の提案をしたのに、原告はこれを
拒否し、円滑な交渉に協力しようとしなかった。当日の交渉において⑨以下の交渉
事項が積み残しとなったのは、専ら、このような原告の非協力的な対応に起因する
ものである。
 また、a校長は、①から⑧について回答した後、原告側の質疑に対して誠実に対
応している。然るに、原告側は、同校長の回答が自分たちの意にそぐわないと、納
得する回答がなされるまで威圧的に迫るなど、その態度は、交渉に名を借りた強迫
ともいうべきものであり、地公法五五条の予期している平穏で秩序正しい話し合い
とはほど遠いものであった。
(5) 学習合宿反対のビラ配付と組合掲示板の強行設置
 佐屋高校では、中退者を減らす目的で、平成元年度の行事計画の一環として学習
合宿を企画していたところ、bは、これに反対する「学習合宿をやめさせよう」と
題する原告名義のビラを、七月五日には佐屋高校の全職員に配布し、同月一二日に
はこれを下校中の生徒に配付し、同高校の教育現場において深い混乱を生ぜしめ
た。
 また、bは、同月一一日、原告の組合掲示板を無許可で設置し(撤去を命じたが
従わないため、翌一二日、管理職が撤去した。)、九月七日にも、同様の挙に出た
(これも撤去を命じたが従わないため、管理職が撤去し、同月三〇日、原告に返却
した)。
(6) 九月一一日付け申入れについて
 a校長は、九月一一日付けの交渉申入れに対し、交渉に応じることができない旨
回答したが、それは、以上の経緯に照らし、佐屋高校の教育現場において発生した
混乱が収まるまでの間、一時交渉の応諾を留保する旨の意思を示したものにすぎ
ず、原告との交渉の一切を拒否したものではない。
(7) その後の原告の対応
 原告は、a校長から組合掲示板の返却がなされた平成元年九月三〇日以降、平成
二年二月三日付け交渉申入れまでの間、同校長に対して交渉続行の申入れを全くし
なかった。
(8) 二月二〇日訪問について
 a校長は、平成二年二月三日付け申入れの後、dから電話で、交渉日として、平
成二年二月一三日、一四日、二〇日、二一日の打診を受けたが、一三、一四両日は
終日出張で不在であり、二〇、二一日両日は推薦入学とその処理で時間がない旨伝
えていた。それにもかかわらず、dら原告組合員は、同年二月二〇日、いきなり集
団で佐屋高校に押しかけ、a校長に面会を強要し、交渉応諾を要求した。しかし、
a校長はこの時期、学年末の卒業認定、就職、進学、新入生の入試、選抜業務等に
よる多忙のため、予定が立たず、交渉を持つことができなかった。
(二) 地公法五五条の定める職員団体交渉制度と交渉応諾留保の正当理由
 ところで、地公法五五条の定める職員団体交渉権は、労働組合法で認められてい
る団体交渉権とは異なり、団体としてその代表者を通じて、苦情、意見、希望、不
満を表明し、かつ、これについて十分な話し合いを行い、証拠を提出することがで
きるという意味において、地方公共団体の当局と交渉する自由というに等しいもの
であって、実質は懇談ともいうべき交渉をするについての権利である。
 このような職員団体交渉権の法的性格に照らせば、職員団体からの交渉申入れの
際には、その交渉の必要、時期について、交渉が公務(学校運営)に与える影響、
交渉をするに際しての職員団体の対応の仕方、代替手段が取られているかどうか等
を総合的に考慮して決すべく、公務の繁忙時には、交渉事項との関係において合理
的と認められる範囲で、繁忙時を外し、公務に支障なきときに交渉に応ずれば足り
るものと解すべきであり、また、その交渉に応ずることによって、公務に支障が生
ずることが予想されたり、地公法五五条の本来の目的を達成し得ない恐れがあると
判断されるときは、当局は、当該交渉の申入れに対し、その支障や恐れが解消した
と認められるときまで、その応諾を留保できるものと解すべきである。
(三) a校長の対応に違法性がないこと
(1) 本交渉日を六月二七日に設定したことについて
 a校長が一回目の本交渉日を六月二七日に設定したことは、年度初めの多忙さの
ため、交渉のための日程が取れなかったことに起因しており、不当に交渉応諾を拒
否したものではない。
(2) 六・二七本交渉の実質について
 a校長が一括回答の提案をしたのは、一括回答後、質疑応答の時間をできるだけ
多く確保しようとしたものであり、交渉を形式化する意図は全くなかった。また、
この提案は、交渉時間が一時間と決定された後に提出された二二項目の内容につい
て整理し、交渉をできるだけスムーズに進行させるための提案として、極めて常識
的かつ合理的なものであり、交渉事項のできるだけ多数について予め当局の見解を
明らかにすることは原告にとっても利益となる提案であった。
 しかし、原告はこれを拒否し、実際には、①から⑧までの八項目についてのみ一
括回答をなし得たにとどまるが、その後、a校長は、①から⑧について、原告の質
疑に誠実に対応し説明している。
 したがって、六・二七本交渉が形式だけの見せかけの交渉でないことは明らかで
ある。
(3) 六・二七本交渉後の交渉応諾を留保したことについて
 a校長が二回目以降の交渉応諾を留保したのは、(一)記載の事実経過のとお
り、①原告が、六・二七本交渉の場においても、a校長の一括回答の提案を拒否
し、地公法五五条の趣旨に則り時間内に円滑に対処しようとする同校長に協力しよ
うとしないばかりでなく、②原告には、四月一五日の突然の訪問や、六・二二申入
事項の内容、六・二七本交渉の際の態度等から窺えるように、基本的に、平穏かつ
自由な雰囲気の中で交渉しようとする真摯な姿勢、態度に欠け、原告の見解と異な
る見解が示されると威圧的にこれを追及して一方的見解を押しつけるなどの言動が
随所に見られ、地公法五五条の予期する自由な言論と健全な交渉が保障されない恐
れがあり、③学習合宿反対のビラ配付や組合掲示板の強行設置に見られるように、
交渉を求めた事項についても、原告の信ずるところを強行的に実現させようとする
姿勢も随所に見られ、それによって現実に校務が阻害されるまでに至ったことか
ら、以上のような状況が改善されない限り、原告との間で交渉を持ったとしても、
それによって地公法五五条の予期する目的は達成できないと感じたためである。
 以上に加え、原告が申し入れた交渉項目が原告ないしはbから申し立てられた措
置要求の対象事項とほとんど重なっており、その審査手続の過程で、原告と学校当
局の意見がそれぞれ相手方に開陳され、地公法五五条の予期する本来の目的が実質
的には達成されていること、原告の申入れにかかる個々の事項については、a校長
及び県教委がその申入れ時に誠実に対処していることをも考え合わせ、これらをも
とに、(二)記載の交渉応諾留保の正当理由の有無を検討すると、a校長が第一回
の本交渉日を六月二七日に設定し、その前後における原告の対応を考慮して二回目
以降の交渉応諾を留保したことは、いずれも正当の理由があるというべきである。
 仮に、a校長の態度には正当な理由が認められないとしても、校長が、交渉の応
諾を留保できると信じたことには相当の理由があり、違法性の意識がなく、かつ、
そのことについての落ち度も存しない。
 したがって、いずれにしても、a校長の対応は、損害賠償の対象となり得べき行
為とはいえない。
(県教委関係)
(一) 事実経過
 県教委が一一・三〇本交渉を約一時間で打ち切ったのは、予め、原告との間で、
交渉時間が一時間と決定されていたためである。
 その後、県教委は、平成二年三月六日に原告との間で人事異動の問題について話
し合いを持とうとしたが、その際、原告がテープレコーダーによる記録を主張した
ため、話し合いに入ることができなかった。なお、右話し合い決裂後、原告所属組
合員一〇数名が県庁九階教育長室前に座り込み、ハンドマイクを使ってアジ演説を
行った。
 また、県教委は、同月一五日付け文書により、四月中旬に交渉を持ちたい旨原告
に伝え、同年四月一一日、県庁において、県教委の担当者とb、dとの間で、交渉
を持つ方向で準備を進めることを確認し、同年五月二日を交渉日と予定して、交渉
時間、司会進行役、記録・確認の方法について話し合いを行ったが、折り合いがつ
かなかった。
 その後も、県教委は、同年六月一二日を交渉日と予定して、原告と再度折衝した
が、右と同じ点で折り合いがつかず、本交渉に入ることができなかった。
(二) 県教委の対応に違法性がないこと
(一) 記載のとおり、県教委は、本校渉予定日を平成二年五月二日及び同年六月
一二日の二回にわたって想定し、さらに面談による予備交渉を実施すべく努力して
いたところ、原告が予備交渉の段階に進んで本交渉の実現に向けて努力することを
放棄ないしは拒絶したものにほかならず、本交渉に至らなかった責任はすべて原告
にある。
第三 争点に対する判断
(a校長関係)
一 証拠(甲第一ないし第九、第二七、第二八、第三〇号証、乙第一号証、第二号
証の一、二、第一一ないし第一三号証、第一八号証の一ないし一二、第一九号証の
一ないし八、第二〇号証の一ないし五、第二一号証の一ないし三、第二二号証の一
ないし七、第二三号証、検証(第二回)の結果、証人a(第一、二回)、同b、同
d(第一回)の各証言)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
1 六・二七本交渉に至るまでの経緯
 四月一日付けで佐屋高校に配転されることになったbは、三月二八日、佐屋高校
を訪れ、a校長に、毎週金曜日は原告の執行委員会に出席するため午後学校を出な
ければならないが、執行委員会出席に当たっては年休扱いにしないで欲しい旨要望
したが、a校長はこれを認めず、年休を取って出席するよう伝えた。四月四日にも
bはa校長に、右の件につき、組合休暇が取れれば組合休暇で出席させて欲しい旨
希望を述べたが、a校長は、組合休暇の取得要件が定かでなかったため、県教委と
連絡を取って返事する旨答え、即答を避けた。
 四月五日、bの執行委員会出席の件について、原告執行委員長cからa校長に電
話があり、毎週金曜日は年休を取らずに出席できるよう、学校としては黙認して欲
しい旨依頼があったが、a校長は、勤務を解くには年休等正当な根拠がなければ認
められない旨答えた。
 同日午後、bは、同人の執行委員会出席の件等前提事実(一)(1)①ないし⑦
記載の七項目(四・五申入事項)を交渉事項とする原告の交渉申入書を持参してa
校長に交渉を申し入れた。これに対してa校長は、「年度初めで学校内外ともに会
議が多いので、当分交渉を受ける暇がない。」旨答えた。実際、a校長の年度初め
のスケジュールは、四月五日入学式、六日始業式に始まり、四月には、愛知県立高
等学校長会の家庭部会及び農水部会において定例会のほか全県単位の会議と地区合
同の会議があるうえ、四月から七月にかけて、愛知県高等学校体育連盟の理事会が
二回、サッカー部会が数回予定されていたほか、日本教育会も二、三回予定されて
おり、これらに加えて、毎週月曜日には学校連絡委員会、木曜日には職員会議が行
われるなど日程が詰まっていた。
 また、a校長は、四・五申入事項のうち、原告が緊急を要する旨指摘した事項
(①及び⑦)については、次のとおり個別に対応していた。すなわち、四・五申入
事項①(原告の執行委員会にbが出席することについて)は、右のとおり、三月二
八日、四月四日とbがa校長に要望していた件と同じであり、bが毎週金曜日午後
原告の執行委員会に出席するにつき、年休扱いしないでできれば組合休暇にして欲
しいというものであったが、a校長は、県教委教職員課に問い合わせた結果、教職
員組合には組合休暇が認められていないことを知り、四月五日その旨bに回答し
た。また、四・五申入事項⑦(指導部交通指導における勤務時間等について)は、
佐屋高校指導部の担当で四月七日から一三日までの六日間実施が予定されていた学
校周辺の通学路における交通指導に伴う時間外勤務を問題とするもので、指導時間
が午前八時から八時三〇分までと、午後三時四〇分から四時一〇分までであるとこ
ろ、佐屋高校の勤務時間の午前の開始時刻が八時三〇分であったことから、交通指
導を担当すると三〇分の時間外勤務となること、ところが、交通指導は給特法及び
給特条例に定められた時間外勤務を命じることのできる場合に当たらないこと、こ
れら二つの問題点を指摘して、交通指導の中止を求めるものであった。この点につ
いてa校長は、県教委の指導を受け、四月一一日、交通指導を担当する者について
は、午前の勤務時間の開始時刻を八時とし、翌日の勤務時間を三〇分短縮するとい
う形で勤務時間の割り振り変更を実施した。
 四月八日、a校長はbから、四・五申入事項①について緊急に交渉に応じられた
い旨の申入れを受け、四月五日同様、「年度初めで学校内外ともに会議が多いの
で、当分交渉を受ける暇がない。」旨答えたが、四月一三日にも、四・五申入事項
①につき緊急に交渉に応じられたい旨の交渉申入書(四月一二日付け)が原告から
a校長宛に郵送された。
 四月一五日、cほか四名の執行委員が事前の約束も連絡もなしに佐屋高校を訪
れ、事務室も経由せず、こもごも「校長交渉を求める。」、「アスクを馬鹿にする
な。」などと言いながら校長室に入ってきて、a校長に交渉に応じるよう要求し、
「事前に交渉もしていないので応じられない。」として帰るよう求めるa校長との
間で、「帰れ。」、「帰らない、交渉に応じろ。」といったやりとりがなされた。
その中で原告側から「警察を呼びたければ呼べ。」というような発言も出た。原告
側が訪れた際、a校長は、校長室で職員と懇談中であったが、a校長と懇談してい
た職員らは、右やりとりのうちに校長室から出て行き、事態を聞きつけた教頭二人
が校長室に駆けつけるといった有様であった。
 事態を収拾するため、a校長が「今日は交渉日ではないから私は答えないが、話
は聞こう。」と言って、原告側を応接セットに座るよう勧めたところ、原告側は、
①bの金曜日の午後の授業を午前に時間割変更すること、②金曜日の午後、bが原
告の執行委員会に出席することを黙認すること、③火曜日第六限からbが原告の高
校部会に出席することを黙認すること、④勤務時間外に及ぶ交通当番・下校当番を
直ちに中止すること、⑤正式の校長交渉を四月中に実施することを要求し、a校長
に回答を求めた。
 a校長は、①②③については、いずれも認められない旨(②③については、年休
を取って出席されたい旨も)、④については、勤務時間の割り振りが遅れたことに
ついて今後気を付ける旨、それぞれ答えた。⑤について、a校長は、「四月当初は
年度初めで、校務並びに校外における校長の仕事が多忙なのでなかなか日程が取れ
ない。いつやれるかの見通しを四月中に返事する。」と回答したが、結局日程が取
れなかったため、四月二八日、「公務のため、当分交渉に応じられない。」旨bに
伝えた。
 原告は、五月九日付け、続いて同月一八日付け交渉申入書をa校長宛に郵送し、
交渉事項として、bの勤務時間の取扱い(四・五申入事項①及び⑦を指す。)に、
新たに休養室等厚生面に関する問題加えたうえ、交渉日程の設定を要求したが、a
校長はこれには特に回答をしなかった。
 六月一九日から、a校長と原告執行委員dとの間で、電話による予備交渉が行わ
れ、同月二七日に本交渉を行うことを双方で確認し、交渉時間は午後四時から一時
間とすること、交渉人数は、原告側が高校の役員三名、佐屋高校側が校長及び教頭
二名計三名とすること、カメラ・録音テープ等を持ち込まないことが決まり、交渉
事項については、原告側から改めて事前に文書で示すことがa校長から提案され
た。
 六月二二日、原告は、a校長の右提案を受けて交渉事項申入書をa校長に提出し
たが、それは、前提事実(二)(2)記載のとおり、①原告の執行委員会にbが出
席することについて、②組合掲示板の設置について(職員室内に設置することを要
求する。)、③指導部交通指導における勤務時間等について(その違法性を認める
こと)等二二項目(六・二二申入事項)からなるものであり、これらのうち⑤⑥⑦
⑧⑪⑭⑮⑯⑰⑱⑲●●は、四月以降の原告の交渉申入事項の中にはなかったもので
あった。
2 六・二七本交渉の実施
 六月二七日午後四時から約一時間、原告と学校当局との間で本交渉が行われた。
出席者は、原告側三名、佐屋高校側がa校長と教頭二名計三名であった。
 a校長は、同月二二日に原告から申入れのあった前記二二項目全部について予め
回答を用意して交渉に臨み、交渉の初め、二二項目を一括回答したい旨述べたが、
原告側がこれに反対し、①から⑧に限って一括回答することで双方折り合いがつい
た。そして、①から⑧までについてa校長が一括回答した後、右回答をめぐって順
次質疑応答がなされ、⑧が終わった時点で交渉時間とされた一時間が経過し、⑨か
ら●は積み残しとなった。
 当日の交渉は概ね平穏に行われたが、交渉事項②の組合掲示板の設置について、
a校長が、「これは勤務条件の問題ではないし、愛高教(愛知県高等学校教職員組
合)にも認めていない。」旨回答したのに対し、原告側から、「(a校長が認めな
くても)実力行使で作る。撤去したら法的にどういうことになるかわかっている
か、校長は首を洗って待っていて下さいよ。」といった趣旨の発言が出た。
 交渉終了に当たって、積み残しとなった項目について原告側が交渉継続を要求し
たところ、a校長は、「平常の日ではなかなか時間が取れないが、夏休み期間中で
あれば時間は十分に取れるので交渉に応じる。」旨答えた。しかし、この後九月ま
で、原告からa校長に対する交渉申入れはなかった。
3 学習合宿反対のビラ配付と組合掲示板の設置
 佐屋高校では、中退者を減らす目的で、平成元年度の行事計画の一環として、成
績不振者等問題のあった生徒を対象として、夏休み期間中の一定の時期を選んで合
宿させて学習させる、いわゆる学習合宿の実施を計画していたところ、bは、これ
に反対する「学習合宿をやめさせよう」と題する原告名義のビラを、七月五日佐屋
高校の全職員に配布し、同月一二日にはこれを下校中の生徒に配付した。
 これにより、学習合宿の対象となった生徒のうち一名が参加を拒否し、参加した
生徒の中にも動揺を来した者が出、マスコミから生徒に対するインタビューの申込
みも多数あった。保護者の間にも動揺が広がり、PTA役員宅に問い合わせや苦
情、不信感を表明する電話が夜遅くまである一方、直接bに苦情を言いに行った保
護者もあり、九月のPTA役員会では、学校の方針に反対のビラを校門の外で配っ
たbに対し、苦情、苦言が相次いだ。
 また、bは、七月一一日、原告の組合掲示板をa校長に無許可で職員室に設置
し、a校長が撤去を命じたが従わないため、翌一二日、学校側で撤去したというこ
とがあったが、bは、九月七日にも同様の挙に出て、a校長が撤去を命じたがこれ
にも従わないため、学校側で撤去した。
4 九月交渉拒否
 原告は、九月一一日付け交渉申入書をa校長宛に郵送し、交渉事項として、①b
の組合活動に関わる不当労働行為及び②年休取得等の勤務条件の確認の二点(九・
一一申入事項)を掲げて交渉を申し入れ、九月二一日までに交渉日時を回答するこ
とを要求した。これに対しa校長は、九月三〇日、bに口頭で、交渉に応じること
ができない旨回答した。a校長がこのように答えたのは、原告が七月五日、一二日
両日に行った学習合宿反対のビラ配付後、生徒に動揺が広がり、保護者からの苦情
が相次ぐなど、学校運営上支障を来したことから、このような事態を招いた原告に
対する憤りが冷めやらず、原告との交渉に応じるだけの心の余裕を失っていたため
であった。
5 二月交渉拒否
 九月一一日以後約五か月間、原告からa校長に対する交渉申入れはなかったとこ
ろ、平成二年二月三日、bは、年休処理簿の改訂とそれに伴う年休処理の運用の変
更について等前提事実(五)①ないし④記載の四項目(二・三申入事項)を交渉事
項とする原告の交渉申入書を持参してa校長に交渉を申し入れた。
 同日午後、a校長は、dから電話で、交渉日として、二月一三日、一四日、二〇
日、二一日の打診を受けたが、一三、一四両日は終日出張で不在であり、二〇、二
一両日は推薦入学とその処理で時間がない旨答えた。
 同年二月二〇日昼頃、a校長は、dから電話で、当日午後四時以降の面談を求め
られたが、当日佐屋高校では、午前中に推薦入学の面接が行われ、午後は、同月二
二日の合格発表に備えて、a校長を交えた合否判定会議の開催が予定されていたた
め、dにその旨伝えて、当日は面談することができない旨返答した。
 ところが、同日午後四時前頃、当日病気を理由に欠勤していたbを初め、c、d
ら原告執行委員七名が佐屋高校を訪れ、応対に出た事務長にa校長との面談を要求
した。その際、原告側は、はちまきをし、腕章を付けるなどしたうえ、「校長は交
渉に応じろ」と記載のある横断幕様のものを持ち、dは小型テープレコーダーを持
っていた。事務長と原告側が廊下で、「本日は選抜業務があるので面談に応じられ
ない。」、「選抜業務が終わるまで待つ。」といった押し問答をしているのを聞い
たa校長は、廊下に出て、選抜業務中であるから帰るように原告側に言ったが、原
告側はこれに応じず、交渉日の決定を要求した。a校長は、学校が選抜業務で多忙
を極めている時期に、しかも、予め当日の日程を説明して面談できない旨伝えてあ
ったにもかかわらず、集団で面談を求めに来た原告側の態度はあまりにも非常識な
ものであると感じ、「生徒にビラを配り、校務を混乱させるような団体とはまじめ
な交渉ができないおそれがあると既に答えてある。」旨述べた。
6 その後の経緯
 平成二年三月二日、a校長は、dから電話で交渉日の打診を受けたが、三月一〇
日までは成績会議や選抜委員会があり、その後は二次募集の可能性があって予定が
立たないため、その旨dに答えるということがあったが、それ以降同年七月一八日
に本件訴えが提起されるまでの間、原告からa校長に対する交渉申入れ等はなかっ
た。
 その後、a校長は原告から、同年一一月頃、「原告の執行委員会にbが出席する
ことを黙認しろ。黙認しなければ交渉には応じない。」旨言われたことがあった。
 また、a校長は、同年一二月、原告との間で予備交渉を持ち、同月二八日を交渉
日として提案したが、原告からは回答期日に回答はなく、その後になって期日に回
答するのを忘れていた旨の電話があるといったことがあったり、平成三年二月に
は、原告から交渉申入れを受け、同年三月一五日を交渉日として提案したが、原告
がこれを拒否するというようなこともあった。
二 ところで、地公法五五条一項は、「地方公共団体の当局は、登録を受けた職員
団体から、職員の給与、勤務時間その他の勤務条件に関し、及びこれに付帯して、
社交的又は厚生的活動を含む適法な活動に係る事項に関し、適法な交渉の申入れが
あった場合においては、その申入れに応ずべき地位に立つものとする。」と規定す
るが、一方で、地公法は、労働組合法の適用を全面的に排除し(五八条一項)、職
員の争議行為を禁止している(三七条一項)。
 これは、①地方公務員は、地方公共団体の住民全体の奉仕者として、実質的には
これに対して労務提供義務を負うという特殊な地位を有し、かつ、その労務の内容
は、公務の遂行すなわち直接公共の利益のための活動の一環をなすという公共的性
質を有するものであって、地方公務員が争議行為に及ぶことは、右のようなその地
位の特殊性及び職務の公共性と相容れず、また、そのために公務の停廃を生じ、地
方住民全体ないしは国民全体の共同利益に重大な影響を及ぼすか、又はそのおそれ
があること、②地方公務員の給与、勤務時間その他の勤務条件が法律及び地方公共
団体の議会の制定する条例によって定められ(地公法二条、二四条六項)、また、
その給与が地方公共団体の税収等の財源によってまかなわれるところから、専ら当
該地方公共団体における政治的、財政的、社会的その他諸般の合理的な配慮によっ
て決定されるべきものであることによるものであって、このような場合には、私企
業における労働者の場合のように団体交渉による労働条件の決定という方式が当然
には妥当せず、争議権も団体交渉の裏付けとして本来の機能を発揮する余地に乏し
いという理由に基くものである(最高裁判所昭和五一年五月二一日大法廷判決・刑
集三〇巻五号一一八七頁)。
 それ故、憲法二八条の定める労働基本権の保障は地方公務員にも及ぶとはいえ、
それは地方公務員を含む地方住民全体ないしは国民全体の共同利益のためにこれと
調和するように制限されることもやむを得ないというべきであって、その結果とし
て、地公法五五条の定める職員団体と地方公共団体の当局との交渉には団体協約を
締結する権利を含まないものとされ(同法五五条二項)、右交渉拒否に対する不当
労働行為制度による担保も存在しないものとされているのである(同法五八条一
項)。したがって、地公法五五条の定める交渉は、労働組合法六条にいう団体交渉
権に基づく団体交渉とは実質的に異なるものといわなければならない。
 もっとも、地公法五五条の定める交渉も、理念的には憲法二八条に由来するもの
というべきであるから、登録を受けた職員団体は、勤務条件の維持改善を図るた
め、地方公共団体の当局と対等の立場で折衝することができ、当局も、正当な理由
がある場合を除いて、交渉の申入れに対して誠実に応ずべきことが期待され、単
に、職員団体が当局に対し、勤務条件に関し、苦情、意見、希望、不満を表明する
ことができるにとどまるものということはできず、当局が職員団体との交渉に応ず
ることを不当に拒否した場合には、同法五五条に反する違法なものとなる余地があ
ると解すべきである。
 そして、右違法性の有無は、交渉事項の内容、交渉の必要性の程度、交渉申入れ
の経緯、交渉申入れに対する当局の対応等諸般の事情に照らし、当局において、職
員団体が当局に対し交渉を求める地位を尊重しなければならないという公序に違反
したものと評価されるか否かによって判断するのが相当である。
三 以上を踏まえて、本件についてa校長の対応に違法性があるか否か検討する。
1 本交渉日の設定が遅れたことについて
 原告は、a校長が原告の四月当初からの再三の交渉申入れを無視し続け、その態
度が六月一八日まで二か月半の長期に及んだとして、これが違法である旨主張す
る。
 しかし、前認定のとおり、a校長は、bを通じて交渉申入れを受けた都度、b
に、「年度初めは学内外で会議が多く、当分交渉を受ける暇がない。」旨述べてい
るのであって、原告の交渉申入れを無視したものではないうえ、実際、a校長の年
度初めのスケジュールは各種会議への出席等で詰まっていたこと、そして、四月当
初から原告が緊急交渉を求めていたbの執行委員会への出席の件(四・五申入事項
①)については、それが適法な交渉事項に当たるか否かはさておき、県教委にも照
会したうえ、四月五日の時点ではa校長の最終的な回答を伝えていたこと、指導部
交通指導における勤務時間の問題(四・五申入事項⑦)についても、指導期間の途
中からとはいえ、勤務時間の割り振り変更を実施し、それなりの対応をしているこ
と、六・二二申入事項③(四・五申入事項⑦と同じ)⑤⑥⑨(四・五申入れ事項③
と同じ)⑩(四・五申入事項④と同じ)については、原告ないしbから申し立てら
れた措置要求事項と重なり、その審査手続の過程で、原告と学校当局の意見がそれ
ぞれ相手方に示されている結果、それぞれ相手方の意見を確認することができてい
ること、a校長は、六月一九日以降、原告との間で予備交渉を重ね、六月二七日に
は本交渉を実施していることに照らせば、a校長が不当に本交渉日の設定を遅らせ
たということはできない。
2 六・二七本交渉におけるa校長の対応について
 原告は、六月二七日に本交渉が実施されたとはいえ、それは形式だけの見せかけ
の交渉であり、a校長は不誠実な態度に終始したとして、これが違法である旨主張
する。
 しかし、a校長は、予備交渉段階で交渉時間が一時間と決まった後において、原
告が交渉事項を七項目(四・五申入事項)から一挙に二二項目(六・二二申入事
項)に増やして提示し、しかも、この中には必ずしも勤務条件に該当しないものが
多数含まれていたにもかかわらず、原告の提示どおり二二項目全部を交渉事項とす
ることに同意し、予め二二項目全部について回答を用意し、本交渉当日も、右二二
項目のうち①から⑧までの八項目を一括回答した後、予定時間まで原告からの質疑
に応答し、積み残しとなった⑨以下についても、夏休み期間中であれば交渉に応じ
る旨答えるなど、それなりの誠意を持って本交渉に臨んでいるものと認められるの
であって、これをもって違法であるということもできない。
3 六・二七本交渉後の交渉拒否について
 原告は、六・二七本交渉後a校長が交渉を拒否し続けているのは違法である旨主
張する。
 しかし、九・一一申入事項①(二・三申入事項③)、二・三申入事項④すなわち
六・二二申入事項⑨以下のうち⑪⑮⑯⑱⑲●は、いずれも勤務条件に該当するとは
認め難いこと、九月三〇日、a校長がbに交渉に応じることはできない旨述べたの
は、原告が七月五日、一二日両日に行った学習合宿反対のビラ配付後、生徒に動揺
が広がり保護者からの苦情が相次ぐなど学校運営上支障を来したことや、組合掲示
板の問題が六・二七本交渉の交渉事項となり、その際a校長が組合掲示板の設置を
認めなかったのにもかかわらず、七月一一日、九月七日の二回にわたり原告がこれ
を強行設置したことに起因しており、これらの事情は、それ自体では交渉拒否の正
当な理由となるものではないとはいえ、また、学習合宿の実施や組合掲示板の設置
を認めないことの当否はさておき、右のような一連の原告の行動によってa校長が
原告に対し不信感を抱き、原告との交渉を行なうのを厭う気持ちになったのも理解
できなくもないこと、また、確かに、a校長は二月二〇日の原告の交渉応諾要求に
対しても、交渉に応じることができない旨述べた事実はあるが、それは、当日午前
には推薦入学の面接、午後には合否判定会議が行われており、その旨予め原告に説
明して面談要求には応じられない旨伝えてあったにもかかわらず、原告の執行委員
が交渉応諾を要求する横断幕様のものを持つなどして集団で押しかけるという、社
会一般の常識から見て穏当を欠く行為に出たからであること、実際、a校長は当
時、高校入試の諸事務で多忙を極めていたこと、右九月一一日の交渉申入れから平
成二年二月三日の交渉申入れまでの間、原告からa校長に交渉申入れはなされてお
らず、その後も同年三月二日から同年七月一八日の本件訴え提起まで原告からa校
長に交渉申入れ等接触はなかったこと、以上の事実に加え、前認定の六・二七本交
渉に至る経緯及び平成二年三月以降の経緯に照らすと、a校長の右対応をもって、
原告との交渉を不当に拒否したものと認めることはできない。
四 したがって、その余の点について判断するまでもなく、a校長の対応について
不法行為の成立を認めることはできない。
(県教委関係)
一 まず、原告は、県教委が一一・三〇本交渉の際、次回の交渉日程を決めず交渉
の席から立ち去ったことをもって、県教委が原告との交渉を不当に拒否している旨
主張するので、この点について判断する。
 地公法五五条七項、五項後段によれば、交渉に当たる当局は、予め取り決めた交
渉時間の終期が到来したときは、終期の到来とともに交渉を打ち切ることができる
のであり、この理は、予め取り決めた交渉の議題のすべてについて交渉が終わって
いなくても、また、意見の一致が見られないときでも、同様である。
 そうすると、本件では、前提事実及び前記認定事実のとおり、予備交渉におい
て、本交渉における交渉時間が一時間と決まったこと、一一・三〇本交渉は、予備
交渉で決まった交渉事項に沿って、すなわち、インフルエンザ接種及び人事異動の
問題について順次進められ、県教委が交渉の席を立ったのは、交渉開始後一時間が
経過した時点であり、時間切れを理由とするものであったことは明らかであるか
ら、本件は、地公法五五条七項、五項後段により、県教委において交渉を打ち切る
ことができる場合に当たるというべきである。
 したがって、原告の右主張には理由がない。
二 次に、原告は、県教委が一一・三〇本交渉後原告からの再三の交渉再開要求を
拒否し続け今日に至っている旨主張するので、この点について判断する。
1 証拠(甲第一〇ないし第一五号証、乙第一四ないし第一七号証、証人e、同
f、同dの各証言)及び弁論の全趣旨によれば、一一・三〇本交渉後の経緯は次の
とおりであったことが認められる。
 原告は、平成二年二月一九日付け文書により、一一・三〇本交渉の際に積み残し
た問題について、県教委に早急に交渉の場につくことを要求した。
 これを受けて、同年三月六日、県教委教職員課人事第一係管理主事二名が原告側
と面談したが、面談時のテープ録音を要求する原告側との間で話し合いが決裂し、
その後、原告側は、県庁の教職員課の前付近に座り込み、ハンドマイクを使ってア
ジ演説を行うというようなことがあった。
 同月一五日、県教委は、同日付け文書により、原告に対し、話し合いの期日とし
て、三月中は日程の調整がつかないが、四月中旬に機会を持ちたい旨、及び実施期
日、会の持ち方等について四月上旬に連絡を取りたい旨回答した。
 同年四月一一日頃、県教委と原告との間で予備交渉が行われ、同年五月二日に本
交渉を行うことが双方で確認されたが、交渉時間、司会、確認方法等については、
折り合いがつかなかった。すなわち、原告側は、交渉時間については九〇分ないし
一二〇分を、司会については、交渉の機会毎或いは一交渉の前半後半で原告側と県
教委側が交代することを、交渉結果の確認方法としては、交渉の都度、交渉結果を
文書で確認することをそれぞれ要求したが、県教委側は、交渉時間は一時間とし、
司会は県教委側から出すことを主張し、文書確認の方法を取ることについてはこれ
を拒否した。
 そのため、予備交渉の続行期日として、同月二五日が予定日とされたが、原告側
の都合で翌二六日に変更され、同日もまた、原告側の都合で廷期された。
 同月二六日、原告から県教委宛に「交渉に関する確認書」と題する書面が提出さ
れ、同月二八日、県教委教職員課人事第一係f管理主事とdとの間で予備交渉を持
てないことについて電話でやりとりがなされた後、五月二日の本交渉予定日に原告
から県教委宛に「交渉に関する確認並びに要求」と題する書面が提出されるまで、
双方の間で何ら接触はなかった。
 同年五月二日、同月三〇日、f管理主事は、再度交渉日を設定するためdに電話
をかけ、同年六月一二日に本交渉を行うことが双方で確認され、同月五日から八日
にかけて、f管理主事はdに電話で予備交渉に向けて催促をしたが、同月八日、d
から電話で、原告執行委員会の結論として、予備交渉を持つことはできない旨の回
答を得た。
2 以上の事実によれば、県教委が一一・三〇本交渉後原告からの再三の交渉再開
要求を拒否し続けているという事実は認められず、むしろ、原告との交渉を実施す
べく予備交渉の段取りを進んで調整しているのを原告側で拒否した事実が認めら
れ、これに、交渉時間、司会、交渉結果の確認方法についての県教委の提案があな
がち不合理なものとはいえないことも加味すれば、県教委が原告との交渉を不当に
拒否したものとは到底いえないというべきである。
三 したがって、その余の点について判断するまでもなく、県教委の対応について
不法行為の成立を認めることはできない。
第四 結論
 以上によれば、原告の本訴請求は、いずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟
費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 熊田士朗 山本剛史 西理香)

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