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裁判例


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         主    文
     原判決を取消す。
     被控訴人の請求を棄却する。
     訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決竝に当審に
おける請求の拡張として原判決主文第二項を、控訴人は被控訴人に対し金九十七万
四千二百九十九円及び昭和四十二年八月十一日以降毎月二十日限り一箇月金三万五
千四百十四円の割合による金員を支払え、と訂正する旨の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の主張竝に証拠の提出、援用、認否は次の点を付加するほか
原判決事実摘示と同一であるからここに右記載を引用する。
 (控訴人の主張)
 一、 地方労働委員会の斡旋で控訴会社と組合との間で成立した和解協定は、組
合において労使関係の健全化を目的として懲戒処分の撤回を会社に受諾させると共
に、解決金の交付を受けて被控訴人の退職することを認めたものであり、このこと
は組合として同人を組合から排除することが労使の健全化を図る所以であると受け
とめたものと解することができる。そうだとすれば組合の統制権が労働者の雇用契
約上の権利に及ばないことは組織強制の原則として肯定できるとしても、労使関係
の健全化ないし復旧化の観点から被控訴人の退職を認め、被控訴人がこれに応じな
いときは同人を組合から排除する意思決定をしたものと解することは可能である。
そして右和解協定案は組合大会の承認を得たものであることは争いのないところで
あるから被控訴人の組合からの排除は大会においても承認されたものと解するを相
当とする。
 なお、組合が労使関係の健全化という観点から合目的考慮の下に会社をして多数
の組合員に対する懲戒処分を全面的に撤回せしめるが、被控訴人の退職すなわち組
合からの排除を認めようとすることは、組合規約第七十五条第五号(その他組合員
として不適当な行為があつたとき)にも該当するであろうし、組合の団結強化のた
め行つたものとして正当な理由があるものと解すべきである。
 二、 更に、ユニオンショップ制について附言する。労使間の労働協約は組合の
昭和二十九年八月四日付の破棄通告により九十日後に失効したものとみられるが、
同年十一月一日労使間に覚書が締結きれ、それによれば「新労働協約締結に至るま
での暫定措置として成文化され、又は成文化されていない労使諸慣行を尊重するこ
とを相互に確認する」こととなり、「概ね一箇月毎にその経過を観察し、改めて確
認の意思表示を行うこと」とされている。組合としても「ショップ制は昭和三十九
年十一月二日以前の状態と同一である」ことを確認しているので協約前文第五条の
ユニオンショップ制は現在において有効であることは疑いを容れないところであ
る。現に会社では毎年入社する者は本工になると同時に組合に無条件で全員加入し
組合員となり総従業員約三百三十名中組合員数三百名に及んでいる。
 前記のとおり現にショップ協定が有効に存続しておる以上これにより「除名され
た者を解雇する」と定められてあることは、除名の事実があれば会社として解雇義
務を負うべきものであり組合からの解雇の要求の有無を問うべきものではない。特
に本件においては前示和解協定の内容から組合が退職を認めた者換言すれば組合が
組合から排除する意思決定をした者につき離籍ないし除名の通知があつた場合会社
としてはショップ協定に基づきこれを解雇するのは当然であり、これを解雇権の濫
用というのは失当である。
 三、 後記被控訴人主張事実中、被控訴人が昭和四十年八月二十五日以降賃金の
支払を受けていないこと(但し、仮処分決定により控訴会社は被控訴人に対し昭和
四十一年四月から昭和四十二年七月まで合計金三十一万三千百六十八円を支給して
いる)、控訴会社従業員の基本給の上昇が会社組合間の協定によりその額が決定さ
れていること、被控訴人の昭和三十八年七月解雇前三箇月の平均残業時間が一箇月
二十二時間半であること、そして一時金、慰安行事費がその主張のとおりであるこ
とはいずれも認めるが、その余の事実は争う。
 (被控訴人の主張)
 一、 当審における請求の趣旨拡張申立に対する請求原因として、次のとおり補
充する。被控訴人は昭和四十年八月二十五日以降賃金の支払を受けていないもので
あるが、同日から同四十二年八月十日までの被控訴人が支給を受くべき賃金(一時
金、慰安行事費を含む)の合計は九十七万四千二百九十九円でその内訳は別紙計算
書記載のとおりである。
 二、 控訴人は労働協約破棄後も本工採用と同時に組合に加入している事実を把
えてショップ協定が現に有効に存続しているものの如く主張する。しかし、組合は
その規約において組合員の範囲を会社の従業員にして本工である者と限定し、その
加盟に際しては加入届を出すと共に加入金を払うこととなつているものであつて、
ショップ協定が破棄された以後もこの事実に変化があつたことは知らない。控訴人
主張の事実があつたことは、それは前規組合規約との関係で任意に加入しているも
のであつて、別にショップ協定に強制されたことによるものではないから、ショッ
プ制がなくなつたからといつて従来の本工採用と同時に組合加入という事実がすぐ
なくならねばならぬという問題でもなく、それがあるからといつてショップ制がな
お効力を持続しているとの根拠にはならない。
 (証拠関係)
 控訴代理人は新たに乙第五号証の三を提出し、当審における証人a、同bの各証
言、及び当審における控訴会社代表者尋問の結果を援用し、乙第四号証は控訴会社
書記cの作成に係るものであると述べ、被控訴代理人は右乙号各証の成立は不知と
述べた。
         理    由
 被控訴人は本訴において先ず雇傭契約の存在の確認を求めているが、元来契約の
存否は事実であつて、雇傭契約の存在確認という用語の真意を意識しないで、その
文字のみの表現に従つて解するときは、民事訴訟法第二百二十五条の場合を除い
て、事実の確認を許さず、現在の権利又は法律関係(複合的権利関係とも云えよ
う)のみを以て確認訴訟の対象とする同法の下においては、被控訴人の右請求は不
適法として却下を免れないであろう。しかしながら被控訴人の雇傭契約の存在の確
認を求める真意は、被控訴人が現に雇傭契約に因る従業員(労務者)たる権利を控
訴人に対し有することの確認を求める(但し労務者たる義務もあるわけであるが、
被控訴人としては義務の確認を求める利益はない)にあるものと云うべく、控訴人
が懲戒解雇の撤回を事由として本件確認の訴訟物を欠くに至つたとの主張の如き
は、本件確認の対象を把握できなかつたためか、又は誤解によるためか何れにして
も、被控訴人が控訴人の従業員たる権利を現在もつていないものとして本訴を争つ
ていることの明白な本件では、本件確認請求を却下すべきものとする控訴人の主張
の理由のないことは云うまでもない。
 被控訴人は昭和三十六年一月右会社に入社し、同年九月従業員百八十名を以て組
織する化学産業労働組合同盟日本食塩支部(以下組合と称す)の組合員となり、翌
三十七年六月執行委員となつたこと、組合は会社との間に「会社は組合を脱退し、
または除名された者を解雇する。但し、会社がその解雇を会社運営上重大な障害が
あると認めた場合及び解雇が適当でないと認めた場合は、会社と組合は協議決定す
る。」(第五条)とのユニオン、ショップ条項を含む包括的労働協約を結んでいた
こと右労働協約は昭和三十九年八月四日付で組合から解約の予告がなされたこと、
従つて少くとも同年十一月二日までは右協約の効力が存続していたこと、組合は昭
和四十年八月二十一日被控訴人に対し、同人を組合から離籍した旨通告をなし、同
日会社に対してもその旨の通告をしたこと、そこで会社は同月二十四日前示労働協
約前文第五条第一項の規定によつて被控訴人を解雇する旨意思表示をしたことはい
ずれも当事者間に争いがない。
 そこで先ずユニオンショップ条項を含む労働協約が前示組合からの破棄通告後も
なお効力を持続していたかどうかについて考察するに、成立に争いがない乙第一号
証、第二十四号証、第二十五号証、甲第二十八号証原審における証人d、同eの各
証言、当審における控訴会社代表者本人尋問の結果を総合するに、右協約破棄後無
協約状態になることを懸念した労使双方は昭和三十九年十一月十一日協議の結果、
会社と組合との間、新労働協約締結に至るまでの暫定措置として、成文化され、又
成文化されていない労使諸慣行を尊重し、概ね一箇月毎にその経過を観察して改め
て確認の意思表示をすることとしその後これが覚書に基づき、旧協約の内容を引継
ぎ毎月一回書記長、労務担当課長間で確認してきたこと、そして労働協約改訂の作
業が進められその交渉経過を整理する段階に達した昭和四十一年八月四日会社は組
合に対し旧労働協約の各条項を組合が如何に理解し、運用面で考慮しているかの見
解の表明を求めたのに対し、同日組合はショップ条項については昭和三十九年十一
月二日以前の状態と同一の関係にあると考える旨、その他の条項(苦情処理機関の
運用を除く)についても右とほぼ同様の趣旨の回答を会社に対しなしていること、
そして毎年会社に入社する者は本工となると同時に組合に無条件で全員加入し組合
員となつていることが認められ、右認定に反する原審における被控訴人本人の供述
部分は採用し難い。
 以上の事実によれば、従来の労働協約は組合から破棄されたが、労使間の合意に
よつて新協約が成立するまで旧協約の効力を持続せしめることにしたものと解する
を相当とする。
 ところで控訴会社は、組合から被控訴人を離籍した旨通知を受けるや、これを除
名と取扱い協約五条に基づき解雇したことはさきに示したとおりであり、被控訴人
は、右離籍は除名処分とは異なる旨主張するので、組合が被控訴人を離籍するに至
つた経緯についてみるに、会社と組合との間に所謂R、H、Cという新機械の導入
に関し事前協議をめぐり昭和三十八年一月中旬頃から意見の対立をみていたが、そ
の間被控訴人が一部職場の女子従業員に対し職場離脱をなさしめたほか、無届集会
をしたこと、及び同年の夏季一時金要求に伴う闘争に関し会社専務取締役fの入門
を阻止した等の事実が会社の職場規律を害するものとして同年七月二十九日会社は
被控訴人を懲戒解雇に処したほか、組合委員長d外六名の組合員を夫々三日ないし
七日の出勤停止処分となし、十七名の組合員に対し減給、三十七名の組合員に対し
譴責処分をしたこと、それに対し組合は同年十月三十日神奈川県地方労働委員会に
不当労働行為救済を申立てたこと、しかるに同四十年八月二日に至り同委員会の斡
旋により和解が成立したこと、その和解の内容は、被控訴人に対する懲戒解雇及び
委員長以下の前記処分はいずれも撤回(尤も減給ないし譴責処分は当時既に撤回)
し、これ等処分撤回に伴う復原金を支払い、賃金カットを取消したほか、被控訴人
は和解成立の日をもつて退職すること等にあつたこと、以上の事実は当事者間に争
いいがなく、成立に争いのない甲第二十九号証、乙第七号証、原審証人d、同eの
各証言、当審における証人a、同bの各証言、及び当審における控訴会社代表者尋
問の結果を綜合すると、当時被控訴人は退職する意思はなく、前示懲戒処分を無効
として提起していた本件訴訟で会社と争訟していく旨言明していたこと、他方組合
は昭和四十年六月三十日執行委員会において、更に職場大会において前示和解案を
受諾することを決定していたこと、和解案に被控訴人のみの退職を承認したのは、
同人が前示闘争において行き過ぎの行動があつたことによるものであること、そし
て受諾の趣旨はこれにより会社と組合との闘争を終止せしめ、労使間の秩序の改善
を意図したものであること、しかし被控訴人が退職に応じないときは組合は同人を
組合から離脱せしめることも止むを得ないと考えていたことが認められ、右認定に
反する前示証人の供述部分は採用しない。
 以上のような経緯によつてなした前示被控訴人に対する離籍処分は組合が被控訴
人の意に反して組合員たる資格を剥奪し、組合から排除する処分であるからその名
称の如何を問わず、実質的に除名処分とみることができる。甲第二十三号証の記載
は前記認定の事実関係からみて、単に表面上の口実としか解せられないし、仮に組
合において主観的に右記載の如き趣旨に解していたとしてもこれによつて右認定を
妨げるものではない。
 更に被控訴人は、会社の離籍処分が除名処分と解せられるとしても右除名は正当
の理由がなく、また手続上にも瑕疵があるので無効であり、従つて解雇も無効であ
ると主張する。
 <要旨>しかし控訴会社は前示のとおり現に有効に存続している労働協約第五条の
ユニオンショップ協定により組合員たる資格を喪失した者を解雇すべき義務
を負うているところからその義務の履行として、組合を除名された被控訴人を解雇
したもので除名の有効無効は、解雇自体の効力とは本質的に何等の関係がないとみ
るべきであつて被控訴人主張の如く解雇のときに遡つて無効とする法理上の根拠を
見出し難い。
 元来使用者は解雇制限(労働基準法第十九条参照)ないしは労働協約に規制され
ている場合を除き解雇の自由を持つているものである。そして他方、ショップ制は
組合の統制力強化にその目的が存するのであるから組合の自主性を尊重して、除名
の有効、無効は本来使用者の調査すべき事項ではなく、手続的に正当な除名通知が
あれば使用者は解雇すれば足り、これによつて生することあるべき危険負担(解雇
された者の蒙る損害)は組合との間に決せらるべきもの(除名無効の訴ないしは損
害賠償の訴等)と考えるのが相当である。
 以上のように解するとき、仮に被控訴人主張の如き事由により除名が無効である
とするも、これにより当然本件解雇を無効となすを得ない。
 もとより組合から除名された者を解雇する場合ショップ制の存することの故を以
て労働組合法第七条各号に違反するものでないと速断するを得ないことも当然であ
る。そして被控訴人を解雇するに至つた経緯は前示認定のとおりであるが、これ等
の事情の下にあつて解雇した会社の真意は被控訴人が積極的組合活動家であること
や、その思想、信条を嫌悪し、被控訴人を企業外に放逐して会社の意に副う組合を
作らんとする意図に基づくものであるとの被控訴人の主張事実を認めるに足る証拠
はない。従つて本件解雇を以て不当労働行為となすを得ないからこの点の被控訴人
の主張も採用するを得ない。
 以上のとおりであるから被控訴人の本訴請求はすべて理由がないから、これを棄
却すべく右と決論を異にする原判決は不当であるので民事訴訟法第三百八十六条に
よりこれを取消すこととし、訴訟費用の負担につき同法第九十六条第八十九条を適
用して主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 毛利野富治郎 裁判官 加藤隆司 裁判官 矢ケ崎武勝)

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