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平成21年8月25日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成20年(行ケ)第10306号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成21年6月16日
判決
原告株式会社佐武
同訴訟代理人弁護士・弁理士
浅井正
同訴訟代理人弁護士斎藤利幸
被告プレイリーホームズ株式会社
同訴訟代理人弁理士長屋直樹
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2007−800231号事件について平成20年6月24日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,原告の本件特許に対する被告
の特許無効審判の請求について,特許庁が,本件訂正を認め,本件特許に係る発明
の要旨を下記2のとおりと認定した上で,本件特許を無効とした別紙審決書(写
し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4のとおりの取消
事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯
(1)本件特許(甲9)
発明の名称:「断熱ユニット及び断熱ユニット体」
出願日:平成16年12月7日(特願2004−353547号)
優先権主張日:平成16年9月7日(日本)
設定登録日:平成19年5月25日
特許番号:特許第3962057号
(2)審判手続等
審判請求日:平成19年10月19日(無効2007−800231号)
訂正請求日:平成20年1月7日(甲33。以下「本件訂正」という。)
審決日:平成20年6月24日
本件審決の結論:「特許第3962057号の請求項1ないし10に係る発明に
ついての特許を無効とする。」
審決謄本送達日:平成20年7月17日
2本件発明の要旨
本件訂正後の本件特許出願に係る明細書(甲5)の特許請求の範囲の請求項1な
いし10の記載は次のとおりである。以下,請求項の番号に従って,「本件発明
1」などといい,これらをまとめて「本件発明」という。なお,文中の「/」は,
原文の改行部分を示す。
【請求項1】/平面状の第1の部材に形成された赤外線反射層と,/前記赤外線反
射層との間に空気層を形成すると共に該空気層内の対流速度が所定値以下となるよ
うに配置された平面状の第2の部材とを有し,/前記第2の部材は前記赤外線反射
層に対して熱源側に位置し,/前記空気層の厚さは,前記第2の部材の熱が前記赤
外線反射層に直接伝わる長さ以上であり,/前記空気層は密閉されていることを特
徴とする断熱ユニット。
【請求項2】/前記空気層の厚さは,30mm以下である請求項1記載の断熱ユニッ
ト。
【請求項3】/前記空気層の厚さが,前記対流速度が0となる長さ以下である請求
項1又は請求項2記載の断熱ユニット。
【請求項4】/前記空気層の厚さは,24mm以下であることを特徴とする請求項1
乃至請求項3の何れか1項に記載の断熱ユニット。
【請求項5】/前記空気層の厚さは,15mm以上である請求項1乃至請求項4の何
れか1項に記載の断熱ユニット。
【請求項6】/前記空気層の厚さは,18mm以上である請求項1乃至請求項5の何
れか1項に記載の断熱ユニット。
【請求項7】/平面状の第1の部材に形成された赤外線反射層と,/前記赤外線反
射層との間に,静止状態の空気層を形成する平面状の第2の部材とを有し,/前記
第2の部材は前記赤外線反射層に対して熱源側に位置し,/前記空気層の厚さは,
30mm以下でかつ15mm以上あり,/前記空気層は密閉されていることを特徴とす
る断熱ユニット。
【請求項8】/前記赤外線反射層は,アルミニウム層である請求項1乃至請求項7
の何れか1項に記載の断熱ユニット。
【請求項9】/請求項1乃至請求項8の何れか1項に記載の断熱ユニットを複数備
えて構成される断熱ユニット体。
【請求項10】/前記複数の断熱ユニットを一対の柱の間に備えた請求項9記載の
断熱ユニット体。
3本件審決の理由の要旨
(1)本件審決の理由は,要するに,本件発明は,下記ア及びイの引用例1及び
2に記載された発明(以下「引用発明1」及び「引用発明2」という。)並びに周
知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,
本件発明についての特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,
同特許は無効とすべきである,というものである。
ア引用例1:米国で平成13年(2001年)に発行された"ReflectixInsu®
lationSolutionsfortheContractor"と題するカタログ(甲1)
イ引用例2:特開平7−150647号公報(甲4)
(2)なお,本件審決が上記判断に当たって認定した本件発明1と引用発明1と
の一致点及び相違点は,次のとおりである。ただし,原告は,下記4(1)の取消事
由として,本件審決による引用発明1の認定の誤りを主張し,その趣旨で,引用発
明1の認定を前提とする次の一致点及び相違点の認定についても争っている。
一致点:平面状の第1の部材に形成された赤外線反射層と,前記赤外線反射層と
の間に空気層を形成するように配置された平面状の第2の部材とを有し,前記第2
の部材は前記赤外線反射層に対して熱源側に位置した断熱構造体
相違点1:第2の部材が赤外線反射層との間に空気層を形成して配置される点に
関して,本件発明1では,空気層内の対流速度が所定値以下となるように第2の部
材を配置するものであり,空気層の厚さが第2の部材の熱が赤外線反射層に直接伝
わる長さ以上であるのに対し,甲1発明では,空気層の厚さが19mmであるもの
の,空気層内の対流速度が所定値以下となるように第2の部材が配置されているか
不明であり,空気層の厚さが第2の部材の熱が赤外線反射層に直接伝わる長さ以上
であるか不明である点
相違点2:本件発明1では,空気層は密閉されているのに対し,引用発明1で
は,空気層が密閉されているか不明である点
相違点3:断熱構造体が,本件発明1は断熱ユニットであるのに対し,引用発明
1はユニットとして構成されたものか否か不明な点
4取消事由
(1)引用発明1の認定の誤り(取消事由1)
(2)相違点についての判断の誤り(取消事由2)
第3当事者の主張
1取消事由1(引用発明1の認定の誤り)について
〔原告の主張〕
本件審決は,引用例1には,引用発明1として,「両外側にアルミホイル層が形
成された平面状の7層からなる反射絶縁材と、前記アルミホイル層との間に空気層
を形成するように配置された平面状の外側壁材および内側壁材とを有し、空気層の
厚さは19mmである断熱壁」の発明が記載されていると認定した。
しかしながら,引用例1に記載されているのは,
ア12.7mmの外壁材
イ外壁材を支える38mm×89mmのたて枠
ウイの厚さ89mm空間を満たすグラスファイバー絶縁体
エオの反射絶縁材を固定するための19mm×38mmの下地材
オ8mmの反射絶縁材
カオの反射絶縁材を固定するための19mm×38mmの下地材
キ12.7mmの内壁材
という構成物であるところ,本件審決のように,以上のうちのア,エ及びオのみを
抽出して引用発明1を認定することはできない。
また,引用例1の「外側壁材」が絶縁材としてのグラスファイバー(厚さ89m
m)の入れ物として配置されているにもかかわらず,本件審決は,「前記アルミホ
イル層との間に空気層を形成するように配置された平面状の外側壁材および内側壁
材とを有し、」と認定しているが,この点も誤りである。
そして,本件審決は,「空気層の厚さは19mmである断熱壁」を認定するが,
そもそも,引用例1に記載された反射絶縁材において,対流熱及び伝導熱を遮断す
るための空気層は不要であるばかりでなく,外側壁材と反射絶縁材との距離はたて
枠89mmと下地材19mmを加えた108mmであるから,本件審決の認定は,
いずれの点においても誤りである。
以上のとおり,本件審決は,引用発明1の認定を誤り,その誤った引用発明1と
本件発明とを対比して進歩性について判断しているから,その前提を誤ったものと
して,取り消されるべきである。
〔被告の主張〕
原告は,本件審決の引用発明1の認定が誤りであると主張するが,以下のとお
り,失当である。すなわち,
まず,本件審決は,「12.7mmの外壁」と「グラスファイバー断熱材」によ
って構成された部材を「外側部材」としたものである。そして,平面状のグラスフ
ァイバー断熱材の内側には,下地材が水平方向に設けられ,下地材の内側に平面状
の反射絶縁材が設けられているのであるから,平面状のグラスファイバー断熱材と
平面状の反射絶縁材との間に空気層が形成されていることは明らかであり,その厚
みは下地材の厚みである19mmである。
以上のとおり,原告の主張はいずれも誤りであり,本件審決による引用発明1の
認定に誤りはないから,取消事由1は理由がない。
2取消事由2(相違点についての判断の誤り)について
〔原告の主張〕
(1)本件審決は,相違点1は実質的な相違点ではないとし,相違点2及び同3
に係る構成とすることは,いずれも当業者が容易になし得ることであるとして,本
件発明の進歩性を否定したが,以下のとおり,本件審決の判断はいずれも誤りであ
る。
(2)相違点1は空気層の存在を前提とするところ,引用例1に記載された反射
絶縁材において対流熱及び伝導熱を遮断するための空気層は不要であることは上記
1の〔原告の主張〕のとおりであって,引用例1の反射絶縁材は空気層を備えない
ものであるから,本件審決は前提を誤っている。
(3)相違点2についても,空気層が存在することを前提として,これが密閉さ
れているかどうかを問題とするものであり,上記(2)と同様に前提を誤ったもので
ある。
(4)相違点3については,断熱ユニットであるかどうかが問題とされている。
本件発明の構成では,第1の部材と第2の部材の間には密閉空気層が形成され,
これによって赤外線反射層の弱点である対流熱及び伝導熱を遮断することにより,
赤外線反射層自体に対する熱影響を遮断することを目的としているのであり,単一
ユニットを重ねることにより,赤外線反射層に対してより効果的に対流熱及び伝導
熱の遮断を行うものである。
これに対して,引用例1では,グラスファイバー絶縁体断熱材によって熱伝導を
遮断することが予定されているから,そもそも絶縁反射体に対する対流熱及び伝導
熱の遮断を視野に入れていないものであって,ユニットの内容自体が異なるという
べきである。さらに,引用例1に記載されたものは,その断熱材の厚みからしてユ
ニット化することを予定していないものと考えられる。
(5)以上のとおり,本件審決による相違点についての判断はいずれも誤りであ
るから,本件審決は取り消されるべきである。
〔被告の主張〕
(1)原告の主張は,以下のとおり,いずれも誤りである。
(2)引用発明1において空気層が存在することは上記1の〔被告の主張〕のと
おりであり,相違点1についての原告の主張は失当である。
(3)相違点2についての原告の主張についても,上記(2)と同様である。
(4)相違点3については,断熱構造体を断熱ユニットとすることは周知の技術
事項であり,引用発明2において,空気層とその両側の赤外線反射層を1つのユニ
ットとすると,これが複数設けられているから,断熱ユニットを複数設ける構成は
開示されているということができる。
(5)以上のとおり,引用発明1と引用発明2とを組み合わせることにより,相
違点3に係る構成とすることは容易であって,本件審決の判断に誤りはない。
第4当裁判所の判断
1取消事由1(引用発明1の認定の誤り)について
原告は,本件審決の引用発明1の認定それ自体が誤りであると主張するので,以
下,この点について検討する。
(1)引用例1の記載
引用例1には,下記アないしキの各項目について,それぞれ以下のとおり記載さ
れ,また,下記カ及びクの項目中にそれぞれ下記キ及びケのとおりの図面が掲載さ
れている。
アリフレクティックスとは(超薄型高遮熱材)何ですか?(訳文1頁3行及び
16∼24行)
リフレクティックスは厚さ5/16インチ,7層からなる反射絶縁材で,様々な
幅や長さのものがありロール状に巻かれています。リフレクティックスは,特殊建
築と一般建築の両方で広範囲に使用されています。両外側のアルミホイル層は放射
熱を97%反射させます。それらのアルミホイル層は強度を保つために頑丈なポリ
エチレン層と接着されています。2層の遮断バブルパックは熱伝導する太陽の熱線
を遮断し,中心にあるポリエチレン層はリフレクティックスに高い信頼性と強度を
与えています。リフレクティックスには1層,2層のバブルが用意され,幅面が普
通の切りっぱなしか,ホッチキス止めの耳付きの製品を提供することができ,新築
やリフォームなどにも最適です。
イどのような働きをしますか?(訳文1頁27行及び38∼44行)
熱の流れの源である放射熱は,赤外線の形をしたエネルギーです。それは真空の
中でさえ光速で進みます。また接触した物質の表面によりそれぞれ通過,吸収,反
射します。例えば空気,水,ガラスなどは様々な程度で目に見える光を通します。
雪のような白い表面では反射し,黒い表面では吸収されます。リフレクティックス
はその表面に照射される放射エネルギーを97%反射させることができます。
下記イラスト:リフレクティックスは暑い夏には太陽光線を反射させ,また冬に
は室内の温度を保ち,氷雪被害が起こらないようにします。
ウR値(熱抵抗)について(訳文2頁2行及び12∼17行)
ほとんどの断熱材の会社では,断熱値を示すR値をもつ製品以外はテストしませ
ん。反射絶縁材を最も効果的にするためには,空気層を持つことです。断熱システ
ムにおける断熱値は空気層の大きさと熱が流れる方向によって変わります。ですか
ら私たちは,一つの基本的な製品でいくつかの異なるR値を達成させることができ
ます。この結果によりあなたが作ろうとしているシステムの正確なR値(熱抵抗
値)を得ることができます。あなたは何の迷いもなく自信をもって次の仕事にリフ
レクティックスが指定できるでしょう。
エホッチキス止めの耳付きの製品が使用しやすい(訳文4頁)
ホッチキス止めの耳がないバブルフォイルの遮熱材は,正確に必要な3/4イン
チ(19mm)の空気層を確保するように折り曲げることは簡単ではありません。
オ横壁への応用(訳文5頁3行及び10∼13行)
横壁にはR値19.56の優れたシステムを提供する板状断熱材とリフレクティ
ックスの両方を使用します。この方法ではリフレクティックスと板状断熱材と堅い
ボードで施工することになります。この3つ合わさった工法は建築基準に適合する
ように開発され,また骨組みのコストダウンにもなります。
カ横壁への施工(訳文5頁15行及び29∼39行)
1)通常の2×4インチの壁にはR−12(2.1RSI)圧着がファイバー
グラスバットと外側の1/2インチの堅いボードに適していてお薦めです。1×2
インチの下地板を16インチごとの枠と交差して釘打ちして下さい。
2)5/16インチのホッチキスを使用してリフレクティックスを下地板にホッ
チキス止めして下さい。全ての継ぎ目にはリフレクティックスフォイルテープを使
用して下さい。
3)♯10の木ねじを使って最初の下地板の上に直接1×2インチの2枚目の下
地板を釘打ちして下さい。
4)石膏ボード用のねじを使って下地板に石膏ボードを取り付けて下さい。
5)この応用ではリフレクティックス断熱材とともに蒸気を阻止する働きをして
います。
6)ヒント:厚みの薄い電機スイッチ箱を使って最後の下地板を取り付けましょ
う。そうすると蒸気を阻止することができるでしょう。
キ上記カの項目中の"Reflectix2"x4"InsulatedWallSystem"と題する図面®
なお,上記図面中の用語の意味は,以下のとおりである(訳文6頁28∼7頁9
行)。
Reflectix2"x4"InsulatedWallSystem:2×4インチのリフレクティックス®
を使って断熱する横壁
12.7mmGypsumBoard:12.7mmの石膏板
38mmx89mmStudFrame:38×89mmのStud枠
R-12(RSI2.1)GlassFibreInsulation:R−12(RST2.1)グラスフ
ァイバー断熱材
12.7mmWallSheathing:12.7mmの外壁
19mmx38mmFurringStrips:19×38mmの下地板
ReflectixLowEmissivitySheetMaterial,8mm(Foil,Bubble,Foil):リフレク®
ティックス低放射シート8mm(フォイル,バブル,フォイル)
クリフレクティックスStapleTabを使用した横壁への別の施工(訳文5頁末行
及び同6頁5∼8行)
多くのアメリカの建設業者は施工コストとfurringstripを使用する手間を省く
ために,2×6インチの横壁の空洞にリフレクティックスのホッチキス用耳付きロ
ールを使用します。ロール幅は通常中心部が16インチと24インチですが,48
インチのロール幅も利用できます。
ケ上記クの項目中の図面
なお,上記図面中の用語の意味は,以下のとおりである(訳文6頁10∼26
行)。
CrossSectionofaSideWall:横壁の断面
2"x6"ClearSelectPine:2×6インチのよく選別された松材
1/2"Plywood:1/2インチの合板
31/2"R-11BattInsulation:3.5インチのR−11板状の断熱材
3/4"Airspace:3/4インチ(19mm)の幅の空気層
ReflectixStapleTabInsulation:リフレクティックスのホッチキス用耳付き®
絶縁体
InterriorWallCrossSection:内壁の断面
5/16"Staples:5/16インチ(7.9mm)のホッチキス
(2)引用例1に記載された発明
ア上記(1)のとおりの引用例1の記載によると,引用例1には,以下の技術事
項が記載されているということができる。
(ア)リフレクティックスは,両外側のアルミホイル層がポリエチレン層と接着
され,その内側に中心となるポリエチレン層を挟んだ2層の遮断バブルパックが形
成された7層の平面状の反射絶縁材であり(上記(1)ア),リフレクティックスの
両外側のアルミホイル層は放射熱(エネルギー)の97%を反射させるものである
こと(同ア及びイ)。
(イ)リフレクティックスを横壁に施工する場合の応用例として,リフレクティ
ックスと板状断熱材と堅いボードの3つを合わせる工法がある(同オ)が,反射絶
縁体を効果的に使用するためには空気層が必要であり,断熱値は空気層の大きさと
熱が流れる方向によって変わるものであるところ(同ウ),リフレクティックスを
施工する場合の空気層として3/4インチ,すなわち19mmの空気層を確保する
ことが必要となる場合があること(同エ,キ,ケ)。
(ウ)上記(イ)のような横壁の施工例として,堅いボードとしての石膏板にグラ
スファイバー断熱材を圧着したものを利用し,16インチごとにある枠に交差する
ように1インチ(25.4mm)の厚みの下地板を釘打ちし,その下地板にリフレ
クティックスをホッチキス止めした上,継ぎ目にテープを貼り,上記下地板の反対
側に同様に下地板を釘打ちし,その下地板の部分に更に石膏ボードをねじ止めす
る,というものが紹介されていること(同カ)。
(エ)上記ウの横壁の施工例と類似するが,下地板の厚みが19mm(3/4イ
ンチ)のものが紹介されている(同キ)ほか,更に別の施工例として,外壁と内壁
の間の空洞を横断するようにリフレクティックスを配置し,リフレクティックスと
外壁及び内壁との間にそれぞれ3/4インチ(19mm)の空気層を設けたものが
紹介されていること(同ケ)。
イ上記アで認定した引用例1記載の技術事項によると,引用例1には両外側に
アルミホイル層が形成された平面状の7層からなる反射絶縁材が記載されているほ
か,外側壁材と内側壁材の間にこれらの各壁材との間に空気層を形成するように上
記反射絶縁材を配置した断熱壁が記載されているということができる。ここで,壁
材とは壁となる材料のことであるが,反射絶縁材の外側に位置する壁材としては,
単に「横壁」とされるものの外側に合板を貼り合わせたもののほかに,石膏板にグ
ラスファイバー断熱材を圧着したものであって,16インチごとの枠を備えるもの
が紹介され,同内側に位置する壁材としては,単に「内壁」とされるもののほか
に,石膏板が紹介されている。そして,反射絶縁材とこれら壁材との間に形成する
ことが必要な空気層の厚さについては,1インチ,すなわち25.4mmのものと
3/4インチ,すなわち19mmのものとが開示されている。
以上によると,引用例1には,その発明として,両外側にアルミホイル層が形成
された平面状の7層からなる反射絶縁材と,前記アルミホイル層との間に空気層を
形成するように配置された平面状の外側壁材及び内側壁材とを有し,空気層の厚さ
は19mmである断熱壁が記載されているということができる。なお,上記ア(ウ)
のとおり,引用例1には,下地板の厚みが25.4mmであることにより空気層の
厚みが25.4mmとなる場合についても開示されているから,引用例1には,両
外側にアルミホイル層が形成された平面状の7層からなる反射絶縁材と,前記アル
ミホイル層との間に空気層を形成するように配置された平面状の外側壁材及び内側
壁材とを有し,空気層の厚さは25.4mmである断熱壁についても開示されてい
るということができるが,引用例1には,このほかに「必要な3/4インチ(19
mm)の空気層を確保するように」との記載(上記(1)エ)や「3/4インチの幅
の空気層」についての図示(同ケ)がある。
これに対し,本件審決は,19mmの下地板が記載された図面に着目して引用発
明1を認定しているところ,引用例1に記載された発明は以上のとおりに認定され
るべきものであるから,これと本件審決の認定とに異なるところはないというべき
である。
(3)原告の主張の当否
もっとも,原告は,本件審決の認定を非難するに当たって,引用例1に記載され
た反射絶縁材においては,空気層は不要であるとし,引用例1から空気層を備えた
断熱壁を認定することが誤りであると主張するが,上記(2)に説示したところに照
らすと,反射絶縁材としてリフレクティックスがその効果を発揮するために,空気
層が重要な役割を果たすとされていることは明らかであり,施工例においても空気
層が確保されることとなっているのであるから,原告の主張を採用することはでき
ない。
また,原告は,引用発明1の「外側壁材」につき,これを上記(1)キの「12.
7mmの外壁」に限定し,その外壁の内側のたて枠の間に埋め込まれたグラスファ
イバーが外側壁材に含まれないことを前提に,本件審決の認定を非難するが,本件
審決は,反射絶縁材の外側に配置される部材,すなわち,外壁及びたて枠と外壁に
圧着されたグラスファイバーを一体として「外側壁材」と認定したものと理解され
るのであって,原告の主張は本件審決を正解しないでその認定を非難するものにす
ぎない。なお,引用例1には,上記(2)のとおり,壁材として,単に「横壁」とさ
れるものの外側に合板を貼り合わせたもののほか,石膏板にグラスファイバー断熱
材を圧着したものであって,16インチごとの枠を備えるものが紹介されていると
ころ,これらはいずれも一体として反射絶縁材の外側に位置する壁となる部材,す
なわち,「外側壁材」を構成するものと認められるのであるから,本件審決が外壁
及びたて枠とグラスファイバーを一体として「外側壁材」と認定したことに誤りは
ない。
(4)以上によると,本件審決の引用発明1の認定に何ら誤りはなく,取消事由
1は理由がないといわざるを得ない。
2取消事由2(相違点についての判断の誤り)について
(1)相違点1について
原告は,本件審決の相違点1についての判断は,引用発明1において空気層が存
在するとの認定を前提とするものであるから,誤りであると主張するが,上記1に
おいて説示したとおり,引用発明1において下地材の厚さに相当する空気層が存在
することそれ自体は否定し得ないところであるから,その存在を前提とした本件審
決の判断に誤りはなく,原告の主張は失当である。
(2)相違点2について
原告は,さらに,本件審決の相違点2についての判断は,引用発明1に空気層が
存在するとしても,これが密閉されているかどうかを問題にするものであるから,
相違点1と同様の理由により,誤りであると主張するが,空気層の存否を前提にす
る限り,原告の主張を採用することができないことは上記(1)と同様である。
もっとも,原告は,引用例1には,上記1(1)ウのとおり,「断熱システムにお
ける断熱値は空気層の大きさと熱が流れる方向によって変わります。」と記載され
ているのに対して,本件発明では,空気層を密閉するため,そもそも熱が流れるこ
とはあり得ず,上記1(1)ウの「R値」は常に一定になるから,引用発明1は本件
発明のような密閉空気層を全く予定していないとも主張しているところ,この主張
は,引用発明2に係る空気層を引用発明1に適用することに阻害要因があるとの主
張と善解し得ないものではないが,引用例1に,断熱値について空気層を確保する
必要があることの説明として,上記のような記載があるとしても,引用発明2など
から周知の技術事項である密閉空気層の構成を適用して,引用発明1の断熱性をよ
り向上させることを想到することに何ら問題はないといえるから,原告の主張は,
以上のように善解したとしても,失当といわなければならない。
なお,原告は,引用発明2に開示された技術思想についても,本件発明における
それを対比して,両者が異なる理由についても主張する。しかし,本件審決は,引
用発明1と本件発明との一致点及び相違点を認定し,相違点について判断している
ものであって,引用発明2に開示された技術的事項を引用発明1に適用して本件発
明の構成とすることが当業者にとって容易であったかどうかを検討するに当たって
は,引用発明1と引用発明2とを組み合わせることの可否などが問題となるところ
である。したがって,仮に本件発明と引用発明2の技術思想とが異なるものであっ
たとしても,そのことから引用発明1と引用発明2とを組み合わせることを阻害す
る要因とならないことは明らかであるから,原告の主張はこの点においても採用の
限りでない。
(3)相違点3について
原告は,引用発明1は,グラスファイバー絶縁体によって熱伝導を遮断すること
が予定されているとして,絶縁反射材に対する熱伝導の遮断を視野に入れていない
ものであるとして,本件審決の相違点3についての判断を非難するが,上記1で認
定したところによると,引用例1には,空気層を確保して,その大きさや熱が流れ
る方向を調製することによって断熱値を向上させるという技術思想が開示されてい
るところ,引用発明1は,上記(1)のとおり,空気層の存在を前提にしている発明
である以上,引用例1に開示されている技術思想を踏まえて,当該空気層を確保し
ているものと認められるのであって,同発明を構成するグラスファイバー絶縁体が
原告の主張のように熱伝導を遮断することを予定しているとしても,現に存在する
空気層が以上のような技術思想とは関係なく確保されているにすぎないというのは
困難であるから,結局のところ,原告の主張は失当というほかない。
また,原告は,引用発明は,その断熱材の厚みからして本件発明のようにユニッ
ト化することは予定されていないと主張するところ,これは引用発明1に引用例2
の記載からも読み取ることができる「断熱材のユニット化」という周知技術を適用
することで相違点3に係る構成とすることには阻害要因があるとの主張と解するこ
とができる。
しかしながら,引用例1から抽出された技術思想としての引用発明1について,
引用例1に具体的に開示された特定の断熱材の厚みを前提として理解すべき理由は
ないのであり,上記1(2)のとおり,引用例1には,反射絶縁材の両側に空気層が
形成されるように外側壁材と内側壁材とを構成するという断熱構造が開示されてい
るところ,そのような断熱構造における外側壁材ないし内側壁材に採用され得る部
材には多様なものがあると解されることからすると,引用発明1には,その厚みが
ユニット化に適したものも含まれ得ることは明らかであり,このような引用発明1
に「断熱材のユニット化」という周知技術を適用することに阻害要因があるとは認
められない。
したがって,この点に関する原告の主張も採用することはできない。
(4)原告のその他の主張の当否
原告は,以上のほかにも,るる主張するが,いずれも本件審決が相違点として認
定した点について本件発明の意義を強調して述べるにすぎないものなどであって,
本件審決の結論に影響を及ぼす違法があることを具体的に主張するものではないか
ら,失当であるというほかない。
3結論
以上の次第であるから,取消事由はいずれも理由がなく,原告の請求は棄却され
るべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官滝澤孝臣
裁判官高部眞規子
裁判官杜下弘記

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