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平成26年11月7日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成25年(ワ)第2728号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日平成26年9月10日
判決
当事者別紙当事者目録記載のとおり
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求の趣旨
1被告らは,原告に対し,連帯して,3285万円及びこれに対する平成22
年10月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2訴訟費用は,被告らの負担とする。
3仮執行宣言
第2事案の概要
1前提となる事実(証拠を掲げていない事実は当事者間に争いがない。)
(1)当事者
ア原告は,建築設計を主たる業とする株式会社である。
イ被告有限会社A(以下「被告会社A」という。),同A,同B(以下
「被告B」という。),同C(以下「被告C」という。),同D(以下
「被告D」という。),同E(以下「被告E」という。),同F(以下
「被告F」という。),同G(以下「被告G」という。),同H(以下
「被告H」という。),同I(以下「被告I」という。)及び同J(以
下,被告会社A,被告A,被告B,被告C,被告D,被告E,被告F,
被告G,被告H,被告I,被告Jを併せて,「被告Aら」という。)は,
東京都渋谷区<以下略>の宅地(以下「本件土地」という。)のもと共
有者であり,同土地上にかつて存在した「メゾンA」と称するマンショ
ン(以下「メゾンA」という。)の区分所有者であった。
ウ被告日神不動産株式会社(以下「被告日神」という。)は,ビル,マン
ション等を企画,開発,販売することを主たる業とする株式会社である。
エ被告株式会社飛鳥設計(以下「被告飛鳥設計」という。)は,建築設計
等を業とする株式会社であり,被告K(以下「被告K」という。)はそ
の代表者である。
(2)メゾンAの建替えの経緯
ア平成18年4月頃において,本件土地上には,昭和49年5月頃に建
築されたメゾンAが存した。同マンションは,5階建て,総戸数16戸
であった。
イ平成18年4月頃に,被告AらはメゾンAの建替えを計画し,これを等
価交換事業として行うこととした。同計画には,当初,共同事業者として
株式会社東急コミュニティーが参加を予定していたが,その後有楽土地株
式会社(以下「有楽土地」という。)が参加を検討することとなった。
(3)原告による図面の作成及び被告Aらへの提示
ア原告は,有楽土地から,メゾンAの建替え計画に関して図面の作成を依
頼されたため,原告代表者であるL(以下「L」という。)において,平
成21年6月9日付け「メゾンA建替え計画」と題する図面(甲6。以下
「原告図面」という。)を制作し,これを,同日,有楽土地を通じ,被告
Aらに提示した。
イ原告図面は,表紙及び「2009/6/8面積表」と題する面積計算部
分のほか,「1,2階平面図」,「3,4階平面図」,「5,6階平面
図」,「7~9階平面図」及び「断面図」という5枚の図面から構成され
ている。〔甲6〕
(4)被告らによる設計図面の作成及び新マンション建築の経緯等
アしかし,被告Aらは,平成22年に至り,メゾンAの建替えを被告日神
に依頼することとした。
イそして,被告飛鳥設計は,被告日神からメゾンAの建替えのための新マ
ンションの設計図面の制作を依頼され,被告Aらとの協議を踏まえた上,
同社の代表者である被告Kにおいて,その頃,工事名称を「日神パレス
テージ初台オペラ通り新築工事」と題する設計図面(乙8。以下「被告
図面」という。)を制作した。
被告図面は,「1階平面図」ないし「7階平面図」とする各階平面図の
ほか,「8・9階平面図」,「R階平面図」,「南西立面図」,「北西側
立面図」,「北東側立面図」,「南東側立面図」,「A-A断面図」,
「B-B断面図」という少なくとも15枚の図面から構成されている。
ウ被告日神は,同年,建築主として上記新マンションについての建築確認
申請を行い,平成22年10月6日建築確認済証の交付を受けたが,その
建築確認申請に際しては,被告図面が添付されていた。被告日神は,同年
11月,被告Aらの本件土地持分を交換により取得したうえで上記新マン
ションの建築を開始し,同建物は平成23年11月25日完成した(以下
「本件建物」という。)。
本件建物は被告図面に基づき建築された区分所有建物であり,専有部分
の建物は,1階部分の店舗を含め30戸である。
被告日神は,本件建物に「日神パレステージ初台オペラ通り」の名称を
付し,同年12月,被告Aらに対し,区分所有建物部分を交換に基づき譲
渡するとともに,他の区分所有建物部分を一般に販売した。〔乙8〕
2本件は,原告が,メゾンAの区分所有者であった被告Aらが,同マンション
の建替えに際し,被告日神,被告飛鳥設計及びその代表者である被告Kと共
同して,原告が作成した原告図面に依拠して本件建物の設計図である被告図
面を制作し,もって原告が有する原告図面の著作権(複製権ないし翻案権)
を侵害したと主張して,(1)被告Kに対しては,著作権侵害の不法行為の実行
行為者として民法709条に基づき,(2)被告飛鳥設計に対しては,被告Kの
著作権侵害の不法行為について会社法350条に基づき,(3)被告Aら及び被
告日神に対しては,被告Kの著作権侵害行為の共同不法行為者として民法7
19条に基づき,連帯して,上記共同不法行為と相当因果関係のある設計料
相当額である損害金3285万円及びこれに対する共同不法行為の後の日で
あるとする平成22年10月6日(被告日神が建築確認済証の交付を受けた
日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求
めた事案である。
3争点
(1)被告図面は原告図面に依拠して制作された複製物ないし翻案物か
(2)原告図面につき,有楽土地に著作権譲渡がされており,原告は被告らに
対し著作権に基づく権利行使ができないか
(3)被告らの責任原因及び原告の損害額
第3争点に関する当事者の主張
1争点(1)(被告図面は原告図面に依拠して制作された複製物ないし翻案物か)
について
〔原告の主張〕
(1)原告図面には,以下の点において独自性と創作性があり,著作物である。
ア建物の高さと位置
高さ制限,容積率,建ぺい率,日影規制等の制限内で,建築費用を抑制
しつつ,住戸面積の最大化を図るべく,建物を9階建てとし,全体を建物
北東側に存する区道9号線(以下「オペラ通り」という。)側に寄せた。
イ柱の位置
建築費用を低減するために,新規の柱の位置を旧建物の既存杭を撤去す
る必要がない場所に設けた。その結果,オペラ通り側の北東部角の柱は建
物外部に設けることになり,この柱と建物を梁で連結する構造をデザイン
化し,これが原告図面の特徴的なデザインとなった。
ウ住戸の配置
住戸の居住性と資産価値を高めるため日照と眺望を最大限考慮し,内部
廊下を挟んで南西面と北東面に住戸を配置し,かつ,南西面に住戸を多く
配置した。
エバルコニー
住戸の居住性を高めるためバルコニーを可能な限り広くし,出寸法を延
床面積に算入される基準(2000ミリメートル超)の限度に近い190
0ミリメートルとした。
オエレベーター及び階段
住戸の配置を最重要視し,かつ,住戸に与える騒音を最小化するために,
エレベーターを建物の北東部に配置し,階段は屋外階段としエレベーター
と隣接するオペラ通り側北東部に配置した。
カ店舗及び診療所
顧客の利便性を考慮し,診療所も1階に設け,顧客の動線,場所的価値
等を考慮して店舗をオペラ通り側に面する南東隣地と接する場所に,診療
所をサブエントランス側の北西隣地と接する場所に配置した。
キエントランス及びサブエントランス
店舗及び診療所の配置と同様,居住者の動線,場所的価値の考慮に基づ
き,エントランスをオペラ通り側の店舗とエレベーターの間の空間に,サ
ブエントランスを反対側の私道から入りやすい場所に設けた。
ク駐車場
建物全体をオペラ通り側に寄せ,私道と建物の間のサブエントランスの
最寄りの位置に身体障害者用駐車場を,これとサブエントランス用の空間
を挟み,私道と建物の間に一般用駐車場を配置した。
(2)被告図面は,以下のとおり,原告図面の複製物ないし翻案物である。
ア1階平面図
(ア)建物形状
被告図面の建物形状は原告図面の複製である。原告図面において,建
物は,北東面が区道側の道路境界線に寄り,南西面が商業地域内に収ま
り,南東面及び北西面はそれぞれ隣地境界線間際に沿う形状となってい
る。
被告図面の建物形状も原告図面とほぼ同一である。被告図面の原告図
面との若干の異同は,原告図面に創作的な修正を加えたものと評価する
ことはできない。
よって,被告図面の建物形状は原告図面の複製である。
(イ)建物配置
被告図面の建物配置は原告図面の複製である。
原告図面と被告図面における境界点及び境界線から目安となるY通り,
X通り(原告図面にはX,Y等の記号は付されていない。被告図面には
図面縦方向に引かれた線に左からX1ないしX3,同横方向に下からY
1ないしY4の記号が付され,これらの間の柱間寸法が記載されている。
原告図面における被告図面と対応する位置をいうものとして対比す
る。),及び建物外壁等までの距離(寸法)は,以下のとおりである。
①オペラ通りと隣地境界線の交わる東側境界ポイントからY1通りまで
の距離
原告図面:660ミリメートル,被告図面:640ミリメートル
②私道と隣地境界線の交わる南側境界ポイントからY1通りまでの距離
原告図面:660ミリメートル,被告図面:640ミリメートル
③原告図面,被告図面共に,南東側隣地境界線とY1通りとは平行であ
る。すなわち,被告図面も原告図面と同様に南東側隣地境界線に平行
に建物を配置している。
④隣地境界線北側境界ポイントからX2通りまでの距離
原告図面:630ミリメートル,被告図面:530ミリメートル
⑤東側境界ポイントからオペラ通り側建物外壁面までの距離
被告図面:917ミリメートル,原告図面:1000ミリメートル
⑥私道の道路境界線から私道側建物外壁面までの最短距離
被告図面:3800ミリメートル,原告図面:3600ミリメートル
被告図面は敷地に対して南東側隣地境界線に平行に建物を配置している
点が原告図面と同一である。被告図面の建物配置寸法は,上記のとおり,
X,Y軸ともに類似寸法の差であり,特にY軸方向は僅か20ミリメー
トルの差しかない。被告図面のかかる変更に独自の工夫はない。
よって,被告図面の建物配置は原告図面の複製である。
(ウ)柱配置
a被告図面の柱配置,柱本数,及び柱間寸法は原告図面の複製である。
原告図面において,柱の本数は11本,X方向の柱間寸法はX1X2
間8000ミリメートル,X1X3間7800ミリメートル,Y方向の
柱間寸法はY1Y2間5900ミリメートル,Y2Y3間5900ミリ
メートル,Y3Y4間7000ミリメートルである。
b被告図面において柱本数及び柱間寸法は全て原告図面と同一である
(被告図面の柱間寸法の採寸方法は,X2Y1柱,X2Y2柱,及びX
3Y2柱についてのみ原告図面と若干異なるが,設計図面上は誤差の範
囲といえる。)。
c原告図面は,X2Y2柱の左側面の延長線がX2Y4柱の右側面に一
致し,同延長線がその中間にあるX2Y3柱の中心を通るように設計し
てある。隣地境界線からの距離を考えると,X2Y4柱の位置を移動す
ることはできない。しかし,仮にX2Y4柱の右側面にX2Y3以下の
X2通りの柱の右側面を一致させた場合,2階以上の居住階の内部廊下
に柱が突出し,廊下の有効幅が確保できなくなり,さらに,その有効幅
を確保しようとした場合には南西側住戸面積を小さくしなければならな
い。したがって,南西側住戸面積を広く確保し居住性を高めるためには,
上記のような柱位置の工夫を施すことが必要であった。このような考慮
の結果,原告図面はX2通りの柱の位置を上記の設計とした。それと同
時に原告図面はX2通りの梁についてもY1-Y3間の梁の位置をY3
-Y4間の梁よりもX2Y3柱において右へ移動する工夫を施した。被
告図面のX2通りの柱の位置関係は原告図面と全く同一である。
d原告図面における柱の配置,本数,及び柱間寸法は,既存杭を避ける,
住戸の使い勝手,工事費用の抑制等の考慮を重ねて決定されたものであ
る。被告図面においては柱間寸法の採寸方法に前記bのとおり若干の差
異があるが,その差異は作成者の独自の工夫によるものではない。
よって,被告図面のX2通りを含む柱配置,柱本数,及び柱間寸法は
原告図面の複製である。
(エ)施設配置
a被告図面のエントランス(風除室を含む。),サブエントランス,エ
ントランスホール,店舗(喫茶店),診療所,エレベーター,屋外階段,
ゴミ保管場所,駐輪場,駐車場及び身障者駐車場の配置は,原告図面の
複製である。
被告図面の1階は,エントランス(風除室を含む。),サブエントラ
ンス,エントランスホール,店舗(喫茶店),診療所,郵便受け(メー
ルコーナー),エレベーター,屋外階段,管理室,ゴミ保管場所,駐輪
場,駐車場及び身障者駐車場から成るところ,原告図面の1階も同様で
ある。
b被告図面において,上記各施設の配置は次のとおりである。
①店舗オペラ通り側境界線及び南東側隣地境界線に接する。
②診療所北側隣地の北西方向境界線及び南西方向境界線に接した建物
の北西部角で身障者駐車場に隣接している。
③エントランスオペラ通り側で店舗とエレベーターとの間に配置され
ている。
④サブエントランス私道側で診療所とゴミ保管場所の間に配置されて
いる。
⑤サブエントランスへの私道からのアプローチ私道からサブエントラ
ンスまで,身障者用駐車場と駐車場の間を,駐車場などを迂回するこ
とがないように直線で結んでいる。
⑥エレベーター北側隣地の北西方向境界線に面した北東側に配置され
ている。
⑦エレベーター乗り場位置南西側
⑧階段階段は屋外にあり,その位置はオペラ通り側の北東部角である。
階段の昇降口はオペラ通り側である。
⑨身障者駐車場私道と診療所の間に配置されている。
⑩駐車場駐輪場及びゴミ保管場所の外壁に接している。
⑪駐輪場とゴミ保管場所店舗及びエントランスホール南西部の壁面と
駐車場側壁面の間に配置されている。
c被告図面において,管理室はエレベーターに隣接してオペラ通り側に
あり,郵便受けは店舗と駐輪場の壁の間でエントランスホールに面して
いる。原告図面においては,管理室と郵便受けは被告図面と全く逆の位
置にある。すなわち,管理室は店舗と駐輪場の壁の間にあり,郵便受け
はエレベーターに隣接し,エントランスを入った右側のオペラ通り側壁
との間にある。被告図面がこれらの施設を原告図面と逆の位置に置いて
いることについて,作成者の工夫は何ら認められない。
d駐輪場とゴミ保管場所について,建物南東-北西方向で見たとき,被
告図面は両者を原告図面とは逆の位置に配している。原告図面の場合,
利用者はゴミ保管場所まで駐輪場内を通るが,被告図面の場合は直接サ
ブエントランス側のアプローチから出入りすることになる。しかし,被
告図面のかかる変更については何ら創作性はない。
e被告図面は,エントランス(風除室を含む。),サブエントランス,
エントランスホール,店舗(喫茶店),診療所,郵便受け(メールコー
ナー),エレベーター,屋外階段,管理室,ゴミ保管場所,駐輪場,駐
車場及び身障者駐車場から成る1階のうち,前記のとおり,郵便受けと
管理室の配置を除き,これらの施設の配置は全て原告図面と同一である。
よって,被告図面の上記配置は原告図面の複製である。
(オ)店舗形状及び寸法
a被告図面の店舗の寸法及び形状は原告図面の複製である。
原告図面と被告図面の店舗の寸法は以下のとおりである。
①オペラ通り側境界線に面する部分のY1Y2間の寸法
原告図面:6300ミリメートル,被告図面:5900ミリメート

②南東側隣地境界線に接する部分の寸法
原告図面:12050ミリメートル,被告図面:約12600ミリ
メートル
③エントランスホールとの境界部分の寸法
原告図面:8400ミリメートル,被告図面:約7550ミリメー
トル
b被告図面の上記各寸法は,それぞれ原告図面の対応する部分の93.6
5%,104.56%,89.88%であり,近似している。
c被告図面の店舗は,その駐輪場及びエントランスホールに接する部分の
一角を凹状にしてメールコーナーとしているので,同部分を凹状に管理
室としている原告図面と形状がほぼ同一である。上記のとおりの被告図
面の店舗寸法の原告図面との近似は,店舗形状の類似性を強調している。
d以上のとおり被告図面の店舗の寸法及び形状は原告図面の複製である。
(カ)診療所(鍼灸院)形状及び寸法
a被告図面の診療所の寸法及び形状は原告図面の複製である。
原告図面と被告図面の診療所の寸法は以下のとおりである。
①北側隣地の北西境界線に接する部分の寸法
原告図面:9900ミリメートル,被告図面:約8300ミリメート

②北東境界線に接する部分の寸法
原告図面:5500ミリメートル,被告図面:約5400ミリメート

③身障者用駐車場の外壁に面する部分の寸法
原告図面:3500ミリメートル,被告図面:約3350ミリメート

④内部通路部分に接する部分の寸法
原告図面:6900ミリメートル,被告図面:約6500ミリメート

b被告図面の診療所は南西側角を凹状に後退させ同所に入口を設けており,
形状が原告図面に酷似している。原告図面が診療所の入口を同所に置い
たのは診療所が鍼灸院であり身体の不自由な者が患者として来訪するこ
とがあるのでこれを身障者駐車場に近接させるという考慮による。
c被告図面の寸法及び形状の原告図面との若干の異同は被告図面作成者
の創意工夫を示すものではない。
よって,被告図面の診療所の寸法及び形状は原告図面の複製である。
(キ)駐輪場の形状及び寸法
a被告図面の駐輪場の形状及び寸法は,原告図面の複製である。
被告図面の駐輪場はエントランスホールと駐車場側壁の間に位置し,形
状はY方向が長い長方形である。
b原告図面の駐輪場のX方向は5050ミリメートル,Y方向は7800
ミリメートルである。被告図面の駐輪場のX方向は4400ミリメート
ル,Y方向は7800ミリメートルである。被告図面のY方向は原告図
面と同一である。被告図面のX方向は原告図面よりも650ミリメート
ル狭いが,これは原告図面の87%に相当する。被告図面には原告図面
と異なりバイク置場が駐輪場内に存在しない。被告図面は原告図面のバ
イク置場分の幅相当を縮小して駐輪場を設計したものである。Y方向寸
法が全く同一であり,X方向寸法も13%の差しかなくその理由がバイ
ク置場を他の場所に移動したことにあることからすれば,被告図面の駐
輪場の寸法は原告図面のそれの複製であるというべきである。
c以上のとおり被告図面の駐輪場の形状及び寸法は原告図面の複製である。
(ク)エレベーター寸法
a原告図面のエレベーター寸法はX方向が2600ミリメートル,Y方向
は2500ミリメートルである。被告図面はX方向が2100ミリメー
トル,Y方向は1750ミリメートルである。X方向の差異は,原告図
面においては救急用のストレッチャーを搬入することができるトランク
がエレベーター内に存在しその奥行きが500ミリメートルであること
による。Y方向について,原告図面の寸法は梁幅700ミリメートルを
含むので,梁幅を除いた寸法である被告図面の1750ミリメートルと
原告図面の2500ミリメートルとの間に実質的な差はない。
b被告図面のエレベーターは9人乗りである。原告図面には表示がないが,
原告図面のトランク付きエレベーターも9人乗りである。エレベーター
の設置場所もさることながら,その寸法については本件建物程度の規模
であってもエレベーターの規模,種類には選択肢がある。そのような中
であえて上記のとおり実質的に同一寸法のエレベーターを配置した被告
図面は,原告図面の複製である。
イ2ないし9階平面図
(ア)柱配置
上記ア(ウ)と同じ
(イ)バルコニーの形状及び寸法
a被告図面のバルコニー形状は,はね出し型であり原告図面と全く同一
である。原告図面がはね出し型としたのは居室内に凹状に入り込むイ
ンナー型よりも開放感があり居住性が向上するからである。
b被告図面のX1と南西バルコニー壁間寸法及びX3と北東バルコニー
壁間寸法はそれぞれ1900ミリメートルであり,原告図面と全く同
一である。原告図面がかかる寸法を採用したのは,延床面積に算入さ
れる基準(2000ミリメートル超)の限度まで奥行きを延伸するこ
とで開放感と居住性を高める考慮による。
c以上のとおり被告図面のバルコニー形状及び寸法は原告図面の複製で
ある。
(ウ)エレベーター及び階段の位置
a被告図面におけるこれらの位置は以下のとおりである。
①エレベーター北側隣地の北西方向境界線に面した北東側に配置さ
れている。
②エレベーター乗り場位置南西側
③階段階段は屋外にあり,その位置はオペラ通り側の北東部角でエ
レベーターに隣接している。
b被告図面の上記配置は原告図面と同一である。
よって,被告図面の上記配置は原告図面の複製である。
(エ)柱と梁の外部露出形状
被告図面はオペラ通り側のX3Y3の柱を梁で建物本体と連結し,梁
と柱を外部に露出する形状としている。これは,同様に,オペラ通り側
のX3Y3の柱を梁で建物本体と連結し,梁と柱を外部に露出する形状
としている原告図面と全く同一である。原告図面の意図はかかる形状を
建物正面の意匠とすることにある。被告図面の上記設計は原告図面の設
計意図をそのまま模倣し,原告図面と同一の柱と梁の外部露出形状とし
たものである。
よって,被告図面の柱を外部に露出し建物本体と梁で連結する図面は
原告図面の複製である。
(オ)住戸配置
a原告図面(2ないし4,7ないし9階)においては南西向きに3住戸,
北東向きに1住戸が配置されている。被告図面においては,南西向きに
2住戸,北東向きに1住戸が(2階),南西向きに3住戸,北東向きに
1住戸が(3,4,7ないし9階),それぞれ配置されている。5階に
ついては,原告図面,被告図面共に南西向きに2住戸,南西と北東向き
に1住戸が配置されている。6階は,原告図面においては南西向きに2
住戸,南西-北東向きに1住戸が配置されており,被告図面においては,
南西向きに1住戸,北東向きに1住戸が配置されている。
b原告図面の上記配置は日照の良い南西向きに可能な限り多くの住戸を
配置し,居住性を高めるという設計思想による。被告図面はかかる設計
思想をそのまま採用し,原告図面と同様の住戸配置としたものであり,
戸数,間取りに変更が加わっているものの,そのこと自体に創作性はな
い。よって,被告図面の住戸配置は原告図面の複製であり,仮にそうで
ないとしても上記設計思想に若干の表現変更を加えた翻案である。
(カ)住戸用廊下形式及び形状
a原告図面においては住戸用廊下は外部ではなく内部に設計され,X方
向に南西向き住戸と北東向き住戸の間に設けられている。被告図面にお
いても全く同様であり,その形状も南東面の一部が廊下ではなく住戸と
なっていることを除けばほぼ同一である。
bよって,被告図面の住戸用廊下が内部形式であること及びその形状は
原告図面の複製である。仮にそうでないとしても,被告図面は,居住性,
利便性及び資産性を考慮して内部廊下とする設計思想に基づき若干の表
現変更を行った翻案である。
(キ)住戸用メーターボックスの配置
被告図面の住戸用メーターボックス(MB)は3箇所にあり,その位
置は原告図面とほぼ同一である。よって,被告図面の住戸用メーターボ
ックスの配置は原告図面の複製である。
(ク)屋外階段とオペラ通りとの間の吹き抜けの位置及び寸法(3階ないし
9階に関し)
原告図面の上記吹き抜けの位置は屋外階段に接しそれと同一幅でX3
方向梁との間に位置している。被告図面においても全く同一である。
そのX方向寸法は原告図面2300ミリメートル,被告図面2800
ミリメートル,Y方向寸法は原告図面3500ミリメートル,被告図面
3300ミリメートルであり,共に近似している。
被告図面が原告図面の吹き抜けの寸法を変更したことについては何ら
創作性はない。被告図面の吹き抜けは原告図面の吹き抜けの本質的特徴
の同一性を維持している。よって,被告図面は原告図面の複製である。
仮にそうでないとしても,被告図面は原告図面の翻案である。
(ケ)住戸用廊下形式及び形状(4階ないし9階に関し)
原告図面においては住戸用廊下は外部ではなく内部に設計され,X方
向に南西向き住戸と北東向き住戸の間に設けられている。被告図面にお
いても全く同様であり,その形状も一部が廊下ではなく住戸となってい
ることを除けばほぼ同一である。
よって,被告図面の住戸用廊下が内部形式であること及びその形状は,
原告図面の複製である。仮にそうでないとしても,被告図面は,居住性,
利便性及び資産性を考慮して内部廊下とする設計思想に基づき若干の表
現変更を行った翻案である。
ウ断面図(原告図面の断面図と被告図面のうちのB-B断面図との対比)
(ア)以下のaないしdの点につき,被告図面は原告図面と同一である(ただ
し,cの一部であるバルコニー寸法を除く。)。原告図面を変更した部
分に被告図面作成者の独自性はない。被告図面は原告図面の複製である。
a階数9階
bX方向の柱間寸法
X方向柱間寸法は,X1X2間8000ミリメートル,X2X3間78
00ミリメートルである。
cバルコニーの出寸法(奥行き)
X1とバルコニー壁間1900ミリメートル(ただし7階以上は原告図
面・1600ミリメートル,被告図面・1700ミリメートル)
X3とバルコニー壁間1900ミリメートル(ただし7階以上は原告図
面・1900ミリメートル,被告図面・1600ミリメートル)
d1階の各施設の並び
(イ)以下のeないしgの点について,被告図面は原告図面と実質的に同一と
いえるほど類似し,原告図面を変更した部分に被告図面作成者の独自性
はない。
よって,被告図面は原告図面の複製である。
e2ないし9階の住戸部分とバルコニー部分の構成
2階から9階について,原告図面の内部廊下部分を除き,被告図面は各
階ともバルコニー,住宅,その並びが原告図面と同一である。
f各階の階高寸法
各階の階高寸法は以下のとおりである。
1階原告図面:3510ミリメートル被告図面:3500ミリメー
トル(差10ミリメートル)
2階原告図面:3010ミリメートル被告図面:3110ミリメー
トル(差100ミリメートル)
3ないし6階原告図面:3010ミリメートル被告図面:3060
ミリメートル(差50ミリメートル)
7ないし9階原告図面:3510ミリメートル被告図面:3060
ミリメートル(差450ミリメートル)
g道路境界線からバルコニー外面までの最短距離
オペラ通り側原告図面:1000ミリメートル被告図面:910ミ
リメートル(差90ミリメートル)
私道側原告図面:3600ミリメートル被告図面:3800ミリ
メートル(差200ミリメートル)
(3)被告図面は,原告図面に依拠して制作されたものである。
原告は,平成24年10月,たまたま本件建物の外観が自らが設計した原
告図面に酷似していることを知り,調査を行った。その結果,原告は,被告
Kが原告図面を剽窃して本件建物の実施設計図である被告図面を制作したこ
とを知ったものである。
前記(2)のとおり,被告図面は,各階平面図において,柱の数,X方向の
柱間寸法及びY方向の柱間寸法は原告図面と同一であり,住戸のバルコニー
出寸法も原告図面と同一である。エレベーター及び屋外避難階段の位置,3
階以上の階段横の吹き抜け構造も全く同一である。さらに,1階平面図にお
いては,店舗,駐輪場あるいはゴミ保管庫,診療所,エントランス,サブエ
ントランス,身体障害者用駐車場及び一般用駐車場も,寸法に異同はあるが,
その配置は同一である。
被告図面が原告図面に依拠して制作されたことは明らかである。
(4)外観意匠
前記(2)イ(ウ)のとおり屋外階段を配置した結果,X3Y3の柱は階段と接
することとなった。この場合,オペラ通り側に壁を設けて階段を道路側から
見えないようにする設計が一般的には考えられる。しかし,Lはこの配置を
いわば逆手にとって意匠化することを考え,柱(X3Y3)を外部に露出さ
せ各階の梁も空中のフレームとして同様に露出する形状とし,その奥に吹抜
けを介して屋外階段を設けた。この結果,この部分は陳腐な壁とは違い建物
の特徴的な意匠部分となった。同時に,壁を施工する場合の工事費も節減す
ることが可能となった。
本件訴訟の契機となったのは,Lが本件建物前を通行中に本件建物正面の
柱と梁の空中フレームデザインが自ら作成した原告図面とそっくりであるこ
とに気付いたからである。それほど原告図面の梁と柱の意匠は特徴的な外観
であるということである。
〔被告らの主張〕
(1)原告図面は,誰が制作しても同様の表現となるようなありふれた表現であ
り,創作性を欠くから,著作物とは認められない。
ア建物の高さと位置について
原告は,高さ制限,容積率,建ぺい率,日影規制等の制限内で,住戸面
積の最大化を図るべく,建物を9階建てとし,建物の全体をオペラ通り
側に寄せたと主張している。しかし,本件土地は,それぞれに容積率等
の異なる二つの商業地域及び第一種住居地域の三種類の地域に跨ってい
た。第一種住居地域には,20メートル程度の建物までしか建築するこ
とができないため,本件土地のうち高層階を建築することができる商業
地域の敷地に建物の位置を配置せざるを得なかった。したがって,建物
の全体をオペラ通り側に寄せることは,上記法令上の規制の範囲内にお
いて本件土地上に建物を建築する以上,当然の措置であり,そこに何ら
創作性が認められるものではない。なお,建物を9階建てとすることは,
被告Aらの要望によるものであり,当然,原告図面も同要望に基づき9
階建てとされていたものである。
イ柱の位置について
原告は,建築費用を低減するために,新規の柱の位置を旧建物の既存杭
を撤去する必要がない場所に設けたと主張するが,これも被告Aらの要
望に基づくものである。本件土地には合計17本もの既存の杭が埋設さ
れていたため,建築費等の低減を考慮し,既存の杭を撤去する必要がな
い場所に新規の杭を配置し,その上に柱を設置することとなった。その
ために,南面に3スパン,北面に2スパン,西面に2スパンの合計11
本の柱を設置せざるを得なかった。その結果,被告図面記載の通りに柱
の位置が設定されたものである。
したがって,新規の柱の位置を旧建物の既存杭を撤去する必要がない場
所に設けるべく新設の杭及び柱を配置することは当然の措置であり,そ
こに何ら創作性が認められるものではない。
なお,原告は,いずれの図面においても,X方向の柱間寸法は,X1‐
X2間が8000ミリメートル,X2‐X3間が7800ミリメートル
であり同一である旨を主張するが,被告図面を詳細に見れば明らかであ
るが,原告図面の中央部の柱の位置は,当該柱の左側面寄りを基準とし
て採寸しているものであるのに対し,被告図面の中央部の柱の位置は,
当該柱の芯寄りを基準として採寸しているものであることから,両者の
間には150ミリメートルの相違が存在するものであって,柱間寸法が
同一とはいえない。
また,原告は,いずれの図面においても,Y方向の柱間寸法は,Y1‐
Y2間が5900ミリメートル,Y2‐Y3間が5900ミリメートル,
Y3‐Y4間が7000ミリメートルであり同一である旨を主張するが,
これも被告図面を詳細に見れば,①原告図面の下から2番目の柱の位置
は,当該柱の芯を基準として採寸しているものであるのに対し,②被告
図面の下から2番目の柱の位置は,当該柱の上側面寄りを基準として採
寸しているものであることから,両者の間には375ミリメートルの相
違が存在するものであって,柱間寸法が同一とはいえない。
ウ住戸の配置について
原告は,住戸の居住性と資産価値を高めるため日照と眺望を最大限考慮
し,内部廊下を挟んで南西面と北東面に住戸を配置し,かつ,南西面に
住戸を多く配置したと主張する。
しかし,メゾンAの建替えを行うにあたっては,建替事業が共同事業で
あったことから,被告Aら全員にとって公平な建替えがなされることは
不可欠であった。そのため,被告Aらから,建替え後のマンションにお
いても,従前の所有権者の階・配列については既存のものを踏襲するこ
と,という条件が付加されていたものである(乙4)。
原告図面,被告図面共に,その条件に従って図面が作成されたものであ
り,その住戸配置に何ら創作性が認められるものではない。
エバルコニーについて
原告は,住戸の居住性を高めるためバルコニーを可能な限り広くし,出
寸法を延床面積に算入される基準(2000ミリメートル超)の限度に
近い1900ミリメートルとしたと主張するが,住宅として使用する建
物の設計を行うにあたってバルコニーが出来る限り広いのが望ましいの
は当然のことである。そして,バルコニーの出寸法を延床面積に算入さ
れる限度に近い1900ミリメートルとすることは,実務上一般的に行
われている手法であり,そこ何ら創作性が認められるものではない。
オエレベーター及び階段について
原告は,住戸の配置を最重要視し,かつ,住戸に与える騒音を最小化す
るために,エレベーターを建物の北東部に配置し,階段は屋外階段とし
エレベーターと隣接するオペラ通り側北東部に配置したと主張する。
しかし,そもそもメゾンAの建替えを行うにあたっては,店舗及び住戸
部分の日当たりを確保すべく,被告Aらから,エレベーター及び階段は
北側に設置すること,という条件が付加されていた(乙4)。
また,法令上,屋外避難階段の設置が要求されているところ(建築基準
法施行令121条1項6号イかっこ書,123条各号),当該階段部分
の周長の2分の1以上は開放しなければならず(建設省住指発第115
号,昭和61年4月30日),かつ,当該階段の1階出入り口は,道路
に面する必要があった(東京都建築安全条例17条)。
以上のとおり,被告Aらから,エレベーター及び階段は北側に設置する
こと,という条件を付加され,かつ,法令上の制限の範囲内において本
件土地上に建物を建築する必要があったため,エレベーター及び階段を
被告図面の位置に配置することは合理的な措置であり,そこに何ら創作
性が認められるものではない。
以上のように建物の位置が定まり,杭及び柱の位置が定まって,エレ
ベーター及び階段の位置が指定され,住戸の配置も指定された以上,合
理的な考慮を踏まえれば,被告図面記載のとおりの配置にならざるを得
ないものである。
カ店舗及び診療所について
原告は,顧客の利便性も考慮し,診療所も1階に設け,顧客の動線,場
所的価値等を考慮して店舗をオペラ通り側に面する南東隣地と接する場
所に,診療所をサブエントランス側の北西隣地と接する場所に配置した
と主張する。
しかし,そもそもメゾンAの建替を行うにあたっては,メゾンAにおい
ても設置されていた2店舗(飲食店及び診療所)を維持すべく,被告A
らから,店舗を二つ設置すること,という条件を付加されていた。加え
て,建替後のマンションにおいても,従前の所有権者の階・配列につい
ては既存のものを踏襲すること,という条件も付加されていた。上記各
条件の範囲内において本件土地上に建物を建築する以上,店舗(飲食店)
及び診療所(接骨院)を1階に配置することは当然の措置であり,そこ
に何ら創作性が認められるものではない。
そして,店舗(飲食店)及び診療所の両方をオペラ通り側に配置するこ
とは設計上困難であったことから,店舗(飲食店)を人通りの多いオペ
ラ通り側に面する南東隣地と接する場所に配置し,主に近隣住民を対象
とする診療所(接骨院)を北西隣地と接する場所に配置することは,当
然の措置であり,そこに何ら創作性が認められるものではない。
キエントランス及びサブエントランスについて
原告は,居住者の動線,場所的価値の考慮に基づき,エントランスをオ
ペラ通り側の店舗とエレベーターの間の空間に,サブエントランスを反
対側の私道から入りやすい場所に設けたと主張する。
しかし,メゾンAの顔に当たるエントランスを人通りがもっとも多いオ
ペラ通り側に配置することは当然の措置である。そして,エントランス
をオペラ通り側に配置した結果,サブエントランスを反対側に配置する
ことになることも当然の措置であり,そこに何ら創作性が認められるも
のではない。
ク駐車場について
原告は,建物全体をオペラ通り側に寄せ,南西側道路と建物の間のサブ
エントランスの最寄りの位置に身体障害者用駐車場を,これとサブエン
トランス用の空間を挟み,南西側道路と建物の間に一般駐車場を配置し
たと主張する。
しかし,前記のとおり,法令上の高さ制限の為,建物を商業地域の敷地
に配置した結果,駐車場を第一種住居地域部分に配置することは当然の
措置であり,そこに何ら創作性が認められるものではない。
また,身体障害者のための駐車施設として,幅3.5メートル以上,奥
行き6メートル以上の駐車場を設置する義務があった(東京都駐車場条
例17条の5第2項)。そのため,身体障害者用駐車場を,最も場所を
広く取ることが可能な南西側道路と建物の間のサブエントランスの最寄
りの位置に配置したものである。その結果,一般駐車場については,サ
ブエントランス用の空間を挟む私道と建物の間に配置することとなった
ものである。
ケ小括
以上の通り,そもそも,本件建物については,被告Aらにより付加され
た各条件の範囲内において設計を行う必要があった。また,それに加え
て,各種法令の規制の範囲内において,建築費用を低減させつつ,住戸
の居住性と資産価値を高めるべく設計を行う必要があった。
そのため建替事業の設計図は,誰が設計してもほぼ同様の内容とならざ
るを得なかった。実際,被告Aらは,有楽土地及び被告日神のほか,数
社のディベロッパーからもメゾンA建替事業についての設計図の提示を
受けていたが,いずれも有楽土地及び被告日神が設計したものと似たり
寄ったりの内容のものであった。
このように,原告図面は誰によっても同様の表現となるようなありふれ
た表現であるから,著作物とは認められない。
(2)被告図面は,原告図面の複製ないし翻案ではない。
被告図面と原告図面との間には,多くの相違部分があり,同一性は認め
られないし,被告図面と原告図面との間に多少の類似点があるとしても,
本件における設計の与条件や敷地の形状等を基に,一般的な設計者が,ご
く普通に建物の資産性,経済性,居住性,利便性及び意匠を考慮すれば,
原告図面や被告図面のようにならざるを得ないのであって,類似部分があ
るとしてもそこには創作性を欠くものであるから,複製ないし翻案である
ということはできない。
(3)被告図面は,原告図面に依拠して制作されたものではない。
被告飛鳥設計は,平成21年11月頃,訴外野村不動産アーバンネット株
式会社(以下「野村不動産」という。)から,メゾンA建替え事業の紹介を
受けた。被告飛鳥設計は,建物図面を制作するに先立ち,被告Aらとの協議
を行い,本件土地の面積や,メゾンAの配置等を確認するとともに,被告A
らの要望を確認する作業を行った。
被告Aらは,既に平成18年頃から,株式会社東急コミュニティや有楽土
地,その他多数のディベロッパーとの間で何度も協議を重ね,マンションの
設計条件を固める作業を行っていた。そのため,被告飛鳥設計が被告Aらと
協議を開始した段階においては,既に被告Aらの設計条件は概ね固まってお
り,被告飛鳥設計は,同条件の範囲内において被告図面の作成をしなければ
ならなかった。
被告飛鳥設計は,被告Aらとの協議において,マンション設計の条件につ
いては示されていたが,原告図面を提示された事実はない。
被告Aらのマンション設計の条件は前記(1)の該当箇所にも記載したとお
り,以下の内容のものである。
①メゾンAの現状配置を維持すること
②エレベーター及び階段は北側に設置すること
③1階に2店舗(飲食店及び診療所)を設置すること
④建物の高さを9階建てとすること
⑤敷地を最大限有効活用すること
平成22年4月頃,野村不動産が,建替事業の共同事業主として被告日神
を選定した。以降,基本設計を行うにあたっては,被告Aらとの協議を踏ま
え,被告日神との協議を中心に進めていくこととなった。基本設計において
は,前記設計条件に加え,敷地形状の特異性(L字型の敷地),法令上の規
制,構造的な安全性,構造の合理化,既存建物の杭の配置,及び,隣地境界
線からの空き寸法等を検討することが建築実務上一般的であり,被告飛鳥設
計も,被告日神との協議の中で検討を重ねた。
被告飛鳥設計の代表者である被告Kは,設計条件及び法令上の規制の範囲
内において合理的な考慮に基づき基本設計及び実施設計を行い被告図面を制
作したものであり,原告図面に依拠した事実はない。
(4)外観意匠の主張に対する反論
梁と屋外階段を外部に露出させる施工例は,多数存在するものであり(
甲33参照),全く特徴的なデザインではない。原告は,建物正面に柱と
梁を露出させたことを以て特徴的であると主張するが,そのような物件で
あっても,相当数存在している。被告飛鳥設計の事務所から半径5キロメ
ートル程度の範囲を,僅か数時間探索しただけでも,本件建物と類似の外
観の物件を8つ確認することができた(乙17の1~8)。ここからだけ
でも,原告図面の外観意匠なるものが認められないことが明白である。
そもそも,どこに梁と屋外階段を配置するかは,設計の与条件及び敷地
の形状により決定されるものであるから,本件においても,被告Aらの日
照のためできる限り住戸は南側に配置し,階段は北側に設置するという条
件や法令上の制限,敷地の形状等を考慮すれば,誰が図面を制作しても階
段はその位置に配置せざるを得ないのであって,決して原告がその感覚と
技術を駆使して独自に制作したものではなく,巷に溢れるデザインである

2争点(2)(原告図面につき,有楽土地に著作権譲渡がされており,原告は被
告らに対し著作権に基づく権利行使ができないか)について
〔原告の主張〕
原告図面は原告代表者であるLが職務上著作したものであり,その著作権者
は原告であるところ,原告は有楽土地に原告図面の著作権を譲渡した事実はな
いから,原告図面の著作権は原告に帰属している。
〔被告らの主張〕
被告らは,原告図面が著作物に当たることを争うものであるが,仮に著作物
に当たるとした場合でも,原告は,有楽土地から委託を受ける形で原告図面を
作成し,それを有楽土地に提供したにすぎず,建替事業の主体ではないから,
原告図面の著作権は,有楽土地に帰属するものであり,原告には帰属しない。
本件建物の建替事業は等価交換事業であったため,ディベロッパーが被告A
らと共に共同事業者となって行うものであり,原告は,ディベロッパーから設
計監理の委託を受ける形で原告図面を作成し,それをディベロッパーに提供す
るにすぎない。そのため,原告が作成した図面の著作権は,いずれも建替事業
の共同事業者であるディベロッパーの有楽土地に帰属するものであり,原告に
は帰属しない。
したがって,原告は,被告らに対し,著作権に基づく権利行使ができない。
3争点(3)(被告らの責任原因及び原告の損害額)について
〔原告の主張〕
(1)被告AらはメゾンAの再開発を行うディベロッパーとして被告日神を選定
した。被告日神は,本件建物の建築に際し,被告飛鳥設計に対し本件建物の
設計を依頼した。被告飛鳥設計において設計を行った者は,一級建築士であ
る被告Kである。原告が原告図面を交付したのは,被告Aらのみであり,被
告日神,被告飛鳥設計及び被告Kが原告図面に接し,あるいはこれを入手す
ることができるのは,被告Aらを介するほかはない。
被告Aらは,被告日神及び被告飛鳥設計に対し原告図面を開示し,被告
日神及び被告飛鳥設計はこれを利用して,被告飛鳥設計において,原告図面
に依拠して,被告図面を制作した。
被告らは,原告図面が原告が制作したものであることを知っていた。
被告Aら及び被告日神は,被告飛鳥設計の作成する被告図面が原告図面に
基づくものであることを知っていた。
よって,被告Kは著作権侵害の実行行為者として民法709条に基づき,
被告飛鳥設計は被告Kの著作権侵害の不法行為について会社法350条に基
づき,被告Aら及び被告日神は被告Kの著作権侵害の不法行為の共同不法行
為者として民法719条に基づき,それぞれ,原告が上記著作権侵害に基づ
き被った損害について連帯して賠償する義務を負う。
(2)原告は,被告らによる著作権侵害の不法行為により,以下のとおり設計料
相当額の損害を被った。
本件建物は,平成21年国土交通省告示(以下「告示」という。)第15
号第六号第2類の分譲共同住宅に該当するところ(甲38),本件建物の延
床面積は2089.87平方メートルである(原告図面)から,これを20
00平方メートルとし,告示による算定方法のうちの「分譲共同住宅」(甲
38,7頁,「六共同住宅」の第2類)の2000平方メートルの欄に基
づき,設計業務に係る人,時間数を計算すると,「総合」+「構造」+「設
備」の「小計」欄に記載された5260(単位は「人・時間」)となる。こ
の時間数を日数に換算すると,一日は8時間計算であるから,5260人・
時間÷8時間/日=657.5,すなわち657人工となる。原告は一級建
築士事務所であり,一級建築士の報酬日額は,5万円/人工である(甲38,
12頁)。
したがって,本件の設計業務報酬は657人工×5万円/人工=3285
万円(消費税別途)となる。原告が著作権の行使につき受けるべき金銭の額
に相当する額は上記3285万円であり,これが原告の損害である。
よって,原告は,被告Kに対しては民法709条に基づき,被告飛鳥設計
に対しては会社法350条に基づき,被告Aら及び被告日神に対しては民法
719条に基づき,連帯して,損害金3285万円及びこれに対する共同不
法行為の後であることが明らかな被告日神が建築確認済証の交付を受けた平
成22年10月6日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損
害金の支払を求める。
〔被告らの主張〕
否認ないし争う。
第4当裁判所の判断
1争点(1)(被告図面は原告図面に依拠して制作された複製物ないし翻案物
か)について
(1)原告は,被告図面は原告図面に依拠して制作された複製物ないし翻案物
であると主張するので,以下この点につき検討する。
前記第2,1の前提となる事実並びに証拠(甲2,6,乙1,4,8,
12)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,同認定を覆す
に足りる的確な証拠はない(なお,認定事実の末尾に証拠を摘示した。)。
ア原告図面の概要
原告図面は,等価交換事業として行われる既存のメゾンA建替えのため
作成された,平成21年6月9日付け「メゾンA建替え計画」と題する
ものであり,「1,2階平面図」,「3,4階平面図」,「5,6階平
面図」,「7~9階平面図」,「断面図」という5枚の図面から成る。
原告図面の各平面図には,柱の位置が黒の正方形で表現されているが,
その大きさは表示されておらず,各柱間の寸法が記載されている。各階
平面図においては,建物の全長,前記柱間寸法のほか,診療所,店舗及
び各住戸のスペースがバルコニーと共にいずれも外枠線のみで記載され,
バルコニーの出幅寸法,各室面積のみが示されている。また,メーター
ボックス(MB)の位置が四角で示され,屋外避難階段,内部廊下,エ
レベーターが図示されているが,これらの寸法関係は一切記載されてい
ない。「1,2階平面図」のうちの1階平面図には,エントランスホー
ル,2段式駐輪,ゴミ保管庫等が図示されている。「断面図」は,縦横
線のみで,「住宅」,「内部廊下」,「バルコニー」,「店舗」,「駐
輪場」,「駐車場」,「ピット」が柱間寸法と共に記されている。〔甲
6〕
イ原告図面の作成日付けと同日である,平成21年6月9日付け原告代
表者L作成の「メゾンA地権者の皆様」と題する文書には,「今回提出
案の前提条件は東急案と同様に・エレベーター,階段は北側の条件の悪
い位置に設置。・エレベーターは住戸に接しない。・9階建てでおさめ
る。・地権者様住戸位置,階数は既存マンションの状態を踏襲する。
(若干の変更はあり)以上の条件を守りながら,エレベーター,階段
位置を変更した案を作成しました。」等と記載されている。〔乙4〕
ウ本件建物の敷地である本件土地は,都市計画法9条9項にいう商業地
域のうち,建物高度が40メートルに制限された地域(以下「商業地域
1」という。防火地域であり,容積率400%,建ぺい率80%であ
る。),同項の商業地域のうち,建物高度が50メートルに制限された
地域(以下「商業地域2」という。防火地域であり,容積率500%,
建ぺい率80%である。),同条5項にいう第一種住居地域(準防火地
域であり,容積率300%,建ぺい率60%で,第三種高度地区として
20m高度地区となっている。)の,3種類の規制地域に跨る,敷地総
面積437.75平方メートルの土地である。本件土地のうち,商業地
域1に該当する部分の面積が47.73平方メートル,商業地域2に該
当する部分の面積が292.22平方メートル,第一種住居地域に該当
する部分の面積が97.80平方メートルである。〔甲6,乙8〕
本件土地の境界,形状についてみると,本件土地の北東側の境界が道
路幅員約18.4メートルのオペラ通り,南西側の境界が幅員約2.5
メートルの私道であり,北西側,南東側は隣地と境界を接しており,う
ち北西側隣地との境界は直線ではなく,オペラ通りに接する方向が階段
状に凹んでおり,全体として長辺の長さの異なる長方形を二つ接して並
べたようなL字形の形状となっている。北西側隣地には,境界ぎりぎり
まで店舗を含む建物が建てられており,南東側隣地にもビルが建ってい
る。〔甲2,6,乙8〕
本件土地のうち,第一種住居地域に当たる部分には,6階建てに相当
する20m程度の建物しか建築することができないため,それ以上の高
層建築とするためには,オペラ通り側である商業地域1,2に当たる部
分に建物を建築する必要がある。〔弁論の全趣旨〕
メゾンAにおいては,1階,5階を除き南西面に3戸,北東面1戸の
住戸が配置され,1階は南西面に2戸,北東面に1戸が,5階は1戸の
みが配置され,いずれも内部廊下が設置されていた。メゾンAの各住戸
と所有者の対応関係は,以下のとおりであり,その建て替えに当たって
は,現状配置及び各室専有面積を基本とすることが必要であった(10
0番台が1階,200番台が2階等となっている。)。各室配置は,1
01号室:被告会社A,102号室:被告会社A(診療所),105号
室:被告会社A(飲食店),201号室・202号室・203号室・3
05号室・403号室・501号室:被告会社A,205号室:被告B,
301号室:被告C,302号室:被告F,303号室:被告D,40
1号室:被告E,402号室:被告G,405号室:被告Hである。
〔乙1,4〕
また,メゾンAにおいては,合計17本の杭が配置されており,建築
費用を低減するため,既存杭の場所を考慮する必要があった。〔乙1
2〕
エ被告図面の概要
被告図面は,工事名称を「日神パレステージ初台オペラ通り新築工
事」とし,「1階平面図」ないし「7階平面図」とする各階平面図のほ
か,「8・9階平面図」,「R階平面図」,「南西立面図」,「北西側
立面図」,「北東側立面図」,「南東側立面図」,「A-A断面図」,
「B-B断面図」という少なくとも15枚の図面から成る。被告図面は,
本件建物の建築確認申請の際に添付されたものであり,各室内部の洗面,
収納の状況や室内寸法,建物の外観も図示された詳細なものとなってい
る。〔乙8〕
(2)上記認定事実を基に検討する。
ア本件において,原告は,原告図面における,①建物形状,②建物配置,
③柱配置,④施設配置,⑤店舗形状及び寸法,⑥1階診療所(鍼灸院)
形状及び寸法,⑦駐輪場の形状及び寸法,⑧エレベーター寸法,⑨バル
コニーの形状及び寸法(2階~9階平面図),⑩エレベーター及び階段
の位置(2階~9階平面図),⑪柱と梁の外部露出形状(2階~9階平
面図),⑫住戸配置(2階~9階平面図),⑬住戸用メーターボックス
の設置(2階~9階平面図),⑭屋外階段とオペラ通りとの間の吹き抜
けの位置及び寸法(3階~9階平面図),⑮住戸用廊下形式及び形状
(4階~9階平面図),⑯断面図に示された階数,柱間寸法,バルコ
ニーの出寸法等につき,これらが被告図面に複製ないし翻案されたとし
て著作権侵害を主張するものであるから,上記①ないし⑯につき,原告
図面における具体的な表現において,まず,著作物性が認められること
が必要となる。
ところで,著作権法は,著作権の対象である著作物の意義について,
「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又
は音楽の範囲に属するものをいう」(著作権法2条1項1号)と規定し
ており,当該作品等に思想又は感情が創作的に表現されている場合には,
当該作品等は著作物に該当するものとして同法による保護の対象となる
一方,思想,感情若しくはアイデアなど表現それ自体ではないもの又は
表現上の創作性がないものについては,著作物に該当せず,同法による
保護の対象とはならないと解される。
また,当該作品等が創作的に表現されたものであるというためには,
厳密な意味での作成者の独創性が表現として表れていることまでを要す
るものではないが,作成者の何らかの個性が表現として表れていること
を要するものであって,表現が平凡かつありふれたものである場合には,
作成者の個性が表現されたものとはいえず,創作的な表現ということは
できないというべきである。
そして,原告図面は,本件建物の設計図面であるから,著作権法10
条1項に例示される著作物中の「地図又は学術的な性質を有する図面,
図表,模型その他の図形の著作物」(著作権法10条1項6号)にいう
「学術的な性質を有する図面」に該当するものと解されるところ,「学
術的な性質を有する図面」としての設計図の創作性は,作図の対象であ
る物品や建築物を設計するための設計思想の創作性をいうものではなく,
作図上の表現としての工夫に作成者の個性が表現されている場合に認め
られると解すべきであって,設計思想そのものは,アイデアなど表現そ
れ自体ではないものとして著作権法の保護の対象とはならないというべ
きである。
イこれを本件についてみると,前記第3,1〔原告の主張〕(1)及び(2)
において,原告が原告図面の創作性として主張する点は,いずれも原告
図面の作図の対象である本件建物に具現化された原告の設計思想にすぎ
ないというべきである。
また,原告図面のような建築設計図面は,一般に,建物の建築を施工
する工務店等が設計者の意図したとおり施工できるように建物の具体的
な構造を通常の製図法によって表現したものであって,建築に関する基
本的な知識を有する施工担当者であれば誰でも理解できる共通のルール
に従って表現されているのが通常であり,作図の対象である建築物の設
計思想を忠実に建築設計図面として表現しようとすれば,対象物の寸法,
構造,形状が同一の設計図面を作成することになる以上,図面の表記も
同一とならざるを得ないのであるから,作図上の表現の選択の幅はほと
んどないといわざるを得ない。そして,原告図面に係るマンションは,
通常の住居・店舗混合マンションであり,しかも旧マンションであるメ
ゾンAを等価交換事業として本件土地上に建て替えることを予定したも
のであるところ,このようなマンションは,敷地の面積,形状,予定建
築階数や戸数,道路,近隣等との位置関係,建ぺい率,容積率,高さ,
日影等に関する法令上の各種の制約が存在するほか,住居スペースの広
さや配置等は旧マンションにおける住居面積,配置,住民の希望や,建
築後建物の日照条件等に依ることもあり,建物形状や配置,柱や施設の
配置を含む構造,寸法等に関する作図上の表現において設計者による独
自の工夫の入る余地はほとんどなく,本件におけるメゾンA建替え後の
マンションである本件建物も,本件土地の特殊な形状や法令上の規制,
メゾンAの原状や被告Aらの要望等に基づいて,自ずとその建物形状等
や配置,構造のみならず,その寸法関係の大枠も定まるものであるから,
原告図面は,そのような制約の下,ごく普通の表記法に従って作成され
た設計図にすぎないと認められる。
したがって,原告が主張する創作性は,いずれも原告図面の作図上の
工夫ということはできないし,原告図面を精査しても,他に表現の創作
性といえるような作図上の工夫があると認めることはできない。
さらに,原告が原告図面と被告図面との共通点であると主張する前記
①ないし⑯の点は,いずれも,設計思想の特徴というアイデアが共通で
あるにすぎず,前記(1)ア記載のとおりの原告図面の内容にも照らせば,
前記①ないし⑯の点につき,原告図面における作図上の工夫や図面によ
る表現それ自体の創作性に係るものがあるものとは認められないから,
著作物性があるとはいえないというべきである。
ウなお,原告は,原告図面の対象物である本件建物そのものの創作性若
しくは本件建物の設計思想上の工夫を主張していることから,原告は本
件建物そのものの著作物性を問題としている余地があるので,念のため
検討するに,仮に,作図の対象となる建築物に「建築の著作物」若しく
は「美術の著作物」等として著作物性が認められる場合に,その図面に
その対象物の創作性が再生されていれば,作図上の工夫のない図面でも
著作物性が認められる余地があるとしても,本件においては,前記のと
おり,原告図面は設計図面とはいっても極めて概略的な図面であり,特
に原告図面の断面図は,建物断面図を縦横線と各住居等の場所を寸法等
で示したものにすぎず,各階の平面図についても,同様に部屋の位置や
バルコニー,屋外避難階段の存在が示されるのみであって,およそ完成
後のマンションを観念することが不可能な図面にすぎず,原告図面のみ
に基づいては本件建物を完成させることはできないから,そもそも,原
告図面には完成後の建築物が表現されているものということはできない
というべきである。
したがって,本件建物の創作性を前提として原告図面の著作物性を認
めることもできないというほかない。
2結論
以上によれば,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,
いずれも理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
東海林保
裁判官
今井弘晃
裁判官
実本滋
(別紙)
当事者目録
東京都豊島区<以下略>
原告株式会社茜設計
原告訴訟代理人弁護士吉田淳一
東京都墨田区<以下略>
被告株式会社飛鳥設計
東京都墨田区<以下略>
被告K
東京都新宿区<以下略>
被告日神不動産株式会社
東京都渋谷区<以下略>
被告有限会社A
東京都渋谷区<以下略>
被告A
東京都渋谷区<以下略>
被告B
東京都渋谷区<以下略>
被告C
東京都品川区<以下略>
被告D
東京都葛飾区<以下略>
被告E
東京都渋谷区<以下略>
被告F
東京都渋谷区<以下略>
被告G
東京都渋谷区<以下略>
被告H
東京都渋谷区<以下略>
被告I
東京都渋谷区<以下略>
被告J
被告ら訴訟代理人弁護士荒井清壽
同池田豊
被告ら訴訟復代理人弁護士小路敏宗
同日比野大

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