弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴はこれを棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は弁護人河上丈太郎、同美村貞夫作成名義の別紙控訴趣意書と題
する書面記載の通りであるから、これを本判決書末尾に添附し、その摘録に代え、
これに対し次の通り判断する。
 論旨第三点について。
 昭和二十二年勅令第九号(以下勅令第九号という)は昭和二十年勅令第五百四十
二号「ポツダム宣言ノ受諾ニ伴ヒ発スル命令ニ関スル件」(以下勅令第五百四十二
号という)に基いて制定されたものであり、右勅令第五百四十二号は昭和二十七年
法律第八十一号ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件の廃止に関する法
律(以下法律第八十一号という)第一項に依り廃止され、同法第二項は勅令第五百
四十二号に基く命令は別に法律で廃止又は存続に関する措置がなされない場合にお
いては、この法律施行の日から起算して百八十日間に限り法律としての効力を有す
るものとすると規定していること、右勅令第九号は昭和二十七年法律第百三十七号
ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基く法務府関係諸命令の措置に
関する法律(以下法律第百三十七号という)第一条第二号に依り法律として効力を
有するものと規定されていることいづれも所論の通りである。しかし右勅令第五百
四十二号は旧憲法第八条に基いて発せられた緊急勅令であつて、我が国がポツダム
宣言を受諾して同宣言の定める諸条項を誠実に履行すべき義務を負い、且つ降伏文
書に調印して同文書の定める降伏条項を実施するため適当と認める措置をとる連合
国最高司令官の発する命令を履行するに必要な緊急措置として制定されたものであ
る。この勅令が命令に委任した範囲は広汎であるが、降伏条項の実施が広汎に亘
り、その実施に関する連合国最高司令官の要求はその時期と内容を予測することが
できず、しかもその要求があれば迅速且つ誠実にこれを履行することを要するので
あるから、右勅令が委任立法の範囲を「ボツダム宣言ノ受諾ニ伴ヒ連合国最高司令
官ノ為ス要求ニ係ル事項ヲ実施スル為必要アル場合」と定めたことは已むを得ない
ところであつて、旧憲法第八条の要件を逸脱したものではなく、その後右勅令は議
会に提出されて昭和二十年十二月八日貴族院において、同月十八日衆議院において
それぞれ承諾されたので爾後旧憲法上法律と同一の効力を有することとなつたので
ある。そして旧憲法上の法律はその内容が新憲法の条規に反しない限り新憲法の下
においても法律としての効力を有するものであり、降伏条項の誠実な実施は我が国
の義務であるから、勅令第五百四十二号は新憲法の条規に反するものと認められ
ず、従つて新旧いづれの憲法の下においても有効であるといわなければならない。
かくして勅令第五百四十二号による立法の委任は、旧憲法下において有効であると
共に新憲法下においても同一であるから、日本における公娼廃止に関する千九百四
十六年一月二十二日附連合国軍最高司令官覚書による指令を履行するため必要な措
置として勅令第五百四十二号の委任に依つて制定された勅令第九号も亦有効のもの
であり、又新憲法第七十三条第六号によれば、政令は法律の委任があれば罰則を設
けることができるのであつて、勅令第九号は罰則を設けることを委任した緊急勅令
である勅令五百四十二号に基いて制定されたものであるから、勅令第九号に刑罰を
規定したことは、新憲法の下においても有効である。ところが勅令第五百四十二号
は右のように新憲法の条規に違反するものではないが、その立法理由がもともと連
合国最高司令官の為す要求に係る事項を実施するため特に必要ある場合において命
令を以て所要の定をするにあるのであつて、我が国との平和条約発効後はその立法
理由の存在の基礎を失うに至るので、法律第八十一号はその第一項において勅令第
五百四十二号が日本国の平和条約の最初の効力発生の日から廃止されることを規定
すると共に、その第二項において平和条約の発効を契機として勅令第五百四十二号
に基く命令の効力に及びその適用の可否について予想された各種の問題を解決し法
律的混乱を防止するため、各命令につき具体的な改廃の措置が執られるまでの経過
措置として一応各命令の効力を失なわしめないで維持することとして、平和条約の
最初の効力発生の日から一律に百八十日間法律としての効力を有することを規定し
たものであり、このように、或事由が発生してもなお爾後存続すべき刑罰法令はも
とより、或事由の発生により全面的に失効する刑罰法令であつても、国会が特別の
事情ある場合別段の立法により、当該刑罰法令が依然存続することを明らかにし、
又は当該刑罰法令の失効することを防ぐため一定期間依然その効力を存続させてお
くことは、当然可能な立法上の措置といわねばならないのであるから、法律第八十
一号第二項の規定は所論のように違憲無効のものではない。しこうして右法律第八
十一号第二項所定の期間内である昭和二十七年五月七日右規定にいわゆる廃止又は
存続に関する措置をとるための法律の一つとして法律第百三十七号が制定公布さ
れ、同法第一条第二号に依り勅令第九号は法律として効力を有するものと規定され
たのであるが、そもそも委任命令は法律の委任に基いて制定されたものではあるけ
れども、その命令が一旦正当な権限に基いて発せられ命令として効力を生じた後
は、国家の法規としての効力を有し、その存続は当然法律に基くものと解すること
はできない。すなわち委任命令はその規定事項の性質上、その委任を与えた法律の
存立を前提としているものであるときは、その法律の消滅と共に当然失効すること
は勿論であるが、委任命令がその委任を与えた法律を離れても実質上存在の目的を
失なわないときは、その法律の廃止に伴い当然失効するものでないと解するを相当
とするのである。勅令第九号は新憲法の下においても法律としての効力を有する勅
令第五百四十二号に基き発せられた委任命令であつて、その制定が前記のように連
合国最高司令官の日本における公娼廃止の覚書に依る指令にかかる事項を実施する
ための必要措置としてなされたものであるけれども、その内容は(イ)暴行又は脅
迫によらないで婦女を困惑させて売淫させた者、(ロ)婦女に売淫をさせることを
内容とする契約をした者に対する処罰規定であつて、かかる行為を禁止し、その違
反者に対する刑罰法令を定めることは、連合国又は連合国占領軍のためのみの便宜
規定を定めたものではなく、日本における公娼の存続が民主主義の理想に違背し、
個人の自由の発達に反するものであるから、右(イ)、(ロ)の行為者に制裁を加
えることにより、民主主義の実現と個人の人格の尊厳の自覚を高め、自由を伸長さ
せようとするものであり、まさに新憲法の理念とするところに適合するものといわ
ねばならない。従つて勅令第九号は何等新憲法の条規に違反するものではなく、委
任を与えた勅令第五百四十二号を離れても実質上存在の目的を失なわないものであ
るから、勅令第五百四十二号が平和条約の最初の効力発生の日から廃止されてもな
お勅令第九号は存続するものとしなければならないのであ<要旨>り、国会が別段の
立法に依り命令の規定している事項について、これを法律としての効力を有するも
のと規定することも亦、立法上可能な措置であつてこれを不可能とすべき理
由はないのであるから、勅令第九号を法律としての効力を有するものと規定してい
る法律第百三十七号第一条第二号の規定は有効であり、所論のように違憲無効のも
のではない。しからば、法律第百三十七号第一条第二号が違憲無効であるとして結
局勅令第九号が現在失効しているものと主張する論旨は理由がない。
 (その他の判決理由は省略する。)
 仍て被告人の本件控訴は理由がないから、刑事訴訟法第三百九十六条に依りこれ
を棄却することとし、主文の通り判決する。
 (裁判長判事 近藤隆蔵 判事 吉田作穂 判事 山岸薫一)

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