弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     被告人Aに対する原判決を破棄する。
     同被告人を罰金五千円に処する。
     右罰金を完納しないときは金二百五十円を一日に換算した期間労役場に
留置する。
     原審訴訟費用中証人Bに昭和二十六年四月十四日の出頭に支給した分、
証人C、同B1、同B2に各同年五月十五日の出頭に支給した分、証人B3に同年
五月二十二日同年七月二十一日の出頭に支給した分、証人Dに同年六月十九日の出
頭に支給した分、証人B4に同年七月二十一日の出頭に支給した分、証人E、F、
G、H、I、J、K、L、M、N、O、P、Q、R、S、T、U、V、W、Xに各
支給した分は、いずれも被告人Aをして被告人A1並にA2と連帯して負担せしめ
る。
     被告人Aに対する本件公訴事実中脅迫の点は無罪。
     被告人A1、同A2の控訴はいずれもこれを棄却する。
         理    由
 被告人三名の弁護人渡部信男の論旨は同弁護人提出の控訴趣意書に記載する通り
であるからこれを引用する。
 一、 傷害の点の無罪を主張する論旨について。
 しかし原判決拳示の証拠を綜合すれば、原判示日時被告人A方に行われたY会の
新年宴会の席上、参会者のB5を迎え取りに来た其の兄B3が、先に右Y会から除
名中の者であつたところから、些細な口論が発端となり、右B6兄弟と被告人ら多
数派の会員との間に、原判示争闘が展開せられるに至つたものであり、その争闘が
何れの側の攻撃から開始せられたものであつたにせよ、被告人らは他の会員の味方
と意思相通じ相手側と互に攻撃及防禦の方法を応酬してB3に対し原判示暴行によ
る判示傷害を加えた事実を認定するに足るから、被告人らの右所為は弁護人所論の
如く正当防衛をもつて目すべき余地のないものと云わなければならない。所論は採
用することが出来ない。
 二、 被告人Aに対する脅迫罪認定の事実誤認を主張する論旨について。
 原判決はその事実理由第二として被告人Aは右口論争闘の際B5が十能を以て前
記囲炉裡内の炭火を数回すくい上げて同家「オエ」の間に撒き散らし同所に敷いて
あつた茣蓙及び藁莚数枚の各一部を焼損し又右B3が同間にあつた被告人A管理に
かかる一升瓶などを損壊し被告人A1に対し左肘等に傷害を加うるなどの乱暴をな
し他の者に取り押えられてその後退士したことを痛く憤激しZダム問題で予てから
意見を異にする同会会員B2、同B1、同B7及び同会会員で且つZ1中学校Z2
教場勤務の教員Bを同会から強いて退会処分にしようと決意し同日午後十一時過頃
同人らがB3、B5の前記犯行に荷担したこともなく又荷担したと疑われるような
こともないのに同会会計係B4をして前掲同会の集会決議録中「昭和二十六年度、
一月一日決議、兼て除名中のB3の件、本日新年会を催し中に不法侵入して器物破
損し又火沙汰まで起した、此に行動を友にしたB5を前記B3と共同行位であると
会員総意により右B5を本会より退会を命じたる事決議す」と記載してある次に
「前記二名の行動に事前からもつて協力した者と見なし総意により本会より退会を
命ず、右氏名、前金長B、前会計B7、B2、B1右決議す」と記載させた上即
時、同所において右B2、B1、B7の面前にて自らこれを読上げ右三名及びBは
B3、B5等と共謀し計画的に前記のような炭火撒布、器物損壊等の犯行に及んだ
ものとして右四名に対し同会より退会を命ずることを提議し同席上の同会会員十数
名と共に該四名の意思に又してこれを決議し右B2、B1、B7に通告し、次いで
同所に呼び寄せた前記同会会員Bに対し他の同席者をして前同様通告させた上自己
も亦これを告知し以てそれぞれ同人らの名誉を毀損すべきことを以て脅迫した旨判
示したものである。
 <要旨>よつて原審の取調べた諸証拠に当審の直接認識した諸般の資料を綜合して
考察すると、Y会はaに臨む山間僻地の山村b村字c部落の男子青年層の間
に数十年以前から組織せられて来た団体で、その目的は会則によれば、一、敬神崇
仏をもつて精神の修養を為し、一、種々の事業を図り基本金及び財産を蓄積し基礎
を鞏固にして益々発展を期し、一、学問技芸を奨励し知識を練磨することなどをも
つて部落の発展に寄与することにあるとし事実上部落に成人し又は居住する一定年
限の青年の全部が原則上入会することが慣習とせられており、右慣習に従い入会す
ることを肯ぜず又は入会の申出を拒まれた事例は古来皆無に等しい事実であるけれ
ども、他面会則によれば会の名誉を汚辱し又は秩序を乱すなどの非行のある者その
他会員としての不適格者を除名することが出来る趣旨の秩序罰を規定する統制規律
が設けられているから会員多数の意思をもつて右規定に基き会則に定める除名事由
に該当する者と認めた者に対して行う除名の処分自体は他にこれに附帯して被除名
者との公私の交際を絶止するなどの申合せを行うとか又は同処分の効果として当然
右同様の社会的不利益を被除名者の生活利益に及ぼす部落慣行が存在し且つ除名の
処分を行う者において同慣行による不利益を被除名者に被らしめようとする意図又
は認識をもつて行動することの場合でない限りはたとい同処分において除名理由と
して指摘せられた事実が真実に反することを処分者において認識していたと仮定し
ても脅迫罪を成立せしめるに足らないものと云わなければならない。その名誉毀損
罪の成立する場合のあることはこれ自ら別個の問題である。
 然るに原判決は右の点に関する考察としてその事実理由の冒頭において、「曾つ
て非行のあつた者又は同会員にふさわしくないと認めた者を除名し時には部落民か
ら絶交する措置を講じたこともあり、同会から除名又は退会の処分を受けた者は部
落民から冷視され、精神上少からぬ痛苦打撃を蒙る環境に置かれると云う状況」を
認定しているけれども右認定の中前半は過去に於て被除名者に対し部落民が絶交の
措置を執つた事例があることを示すのみで現にかかる措置を執り又はそのような慣
行の存在することを判示したものでないことは明かであるから右は後半の「除名又
は退会の処分を受けた者は部落民から冷視され、精神上少からぬ痛苦打撃を蒙る環
境に置かれると云う状況」を表す為めに用いた一個の修飾法と認めなければならな
いが、しかし本件に現われた諸般の資料をあさつて見ても右判示前半の如くに被除
名者に対し部落民が絶交の処置を執つた古い過去の前例を認めうるのみで現にかか
る措置を執り又はそのような慣行の存在することを示す証拠の存しないことはもち
ろん、被除名者が現に部落民から其の他の如何なる「冷視を受け精神上の痛苦打撃
を蒙る環境」に立だされるかについて具体的事実の内容を確認する資料がないので
あるから原審の右判示は過去に存在した事例の推理をもつて現在を推し計る飛躍的
論理に立つたものと云わなければならない。
 しかも本件除名処分に発展した事件発生の原由を顧みると当局のZダム建設計画
に対し父祖伝来の地を陥没せしめるか否かの重大な岐路に立つた部落民の賛否両論
の対立が、そのまま本件Y会を構成する青年層に反映し多数派に属する被告人らと
少数派の原判示被除名者らとの軋轢を生ぜしめ、相互の反感が、原判示新年宴会の
席上における些細な口論を緒口に爆発し原判示の暴力沙汰に進展したものであつ
て、被告人ら多数派と少数派の前記B3及びB5兄弟との争斗に際し少数派に属す
る判示被除名者ら四名の態度が、少くとも多数派の被告人らに協力的でなかつたこ
とは明かであり、かかる同人らの立場と現場における態度が争闘の余憤と亢奮の渦
中にある被告人らをして判示除名理由に示された如き判断の下に判示の除名決議の
断行に奔らしめた主要な動因であつて、右処分は多数派の激情にかられた狂信的な
所為として公平と平静を失したものとのそしりを免れないかも知れないが、原判示
のように、Zダム問題で予ねてから意見を異にする四名の者を強いて退会処分に付
する目的で同人らが、B6兄弟に加担し又加担したと疑われるような事由もないの
に、故意に無根の事実を言いこしらえた悪質な措置の如く断定することは前後並に
周囲の状況に照らし行き過ぎた判断と云わなければならない。
 以上説示の理由により結局被除名者に対する公私の交際の絶止その他の生活利益
の侵害を何らかの形で企図し又は認識したことについて証拠の十分でないことに帰
着する本件処分により脅迫罪の成立する証明はないものと云うべく、されば被告人
Aに対しても本件脅迫罪の訴因につき無罪を言い渡すべきであるのに有罪を認定し
た原判決は違法であり破棄を免れない。
 三、 被告人A1、A2に対する量刑の不当を主張する論旨について。
 本件諸般の犯情を酌量しても同被告人らに対する原審罰金五千円の量定は必ずし
過重とは認められない。所論は採用出来ない。
 四、 そこで被告人A1、同A2の各控訴は理由がないので刑事訴訟法第三百九
十六条によりこれを棄却すべきである。
 五、 被告人Aの控訴は前記二の点で理由があるので刑事訴訟法第三百九十七条
第四百条但書を適用して同被告人に対する原判決を破棄し当裁判所において被告事
件につき次の通り審理判決する。
 原判決が拳示の証拠により判示第一の傷害罪の訴因について認めた事実に法律を
適用すると被告人の所為は刑法第二百四条第六十条罰金等臨時措置法第二条第三条
に該当するから所定刑中罰金刑を選択して所定罰金額の範囲内で主文の刑を量定し
同罰金不完納の場合は刑法第十八条により主文の割合をもつて同被告人を労役場に
留置し、原審訴訟費用中主文記載の分は刑事訴訟法第百八十一条第百八十二条によ
り同被告人と他の両名の被告人との連帯負担とする。
 本件公訴事実中被告人Aに対する原判決掲記の脅迫罪に関する訴因は本訴因につ
いてもその予備的訴因についても前記共通の理由によつて犯罪の証明がないので刑
事訴訟法第三百三十六条により無罪の言渡をなすべきである。
 そこで主文の通り判決する。
 (裁判長判事 吉村国作 判事 小山市次 判事 沢田哲夫)

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