弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄し、第一審判決中上告人らに関する部分を取り消す。
     被上告人の請求を棄却する。
     訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人楠木計夫の上告理由一について。
 原判示によれば、本件不動産はもと第一審相被告Dの所有であつたが、昭和三二
年四月二四日、右DおよびEとFとの間に売買予約が締結され、即日内金を支払い、
残金の支払、明渡ならびに所有権移転登記手続は予約完結のとき行なう約が成立し、
右予約に基づき同日横浜地方法務局受付第一八八三〇号をもつて本件不動産につい
てFのため売買予約による所有権移転請求権保全の仮登記がされ、その後Fは、昭
和三四年一二月一五日付内容証明郵便をもつて前記Dに対し売買予約完結の意思表
示をし、これにより本件不動産の完全な所有権を取得し、さらに、被上告人は、昭
和三六年六月七日Fとの間に本件不動産について、売買代金を二〇〇万円、同日内
金五〇万円を支払い、同時にFは本件不動産の所有権を被上告人に移転し、かつ仮
登記により保全された売買予約の権利を被上告人に譲渡し仮登記の附記登記手続を
すること、,残金は本件不動産に対する滞納処分による大蔵省差押登記の抹消と同
時に被上告人よりFに支払うこととする契約を成立させ、即日金五〇万円を支払つ
て本件不動産の所有権を取得し、同月八日横浜地方法務局受付第三四三六七号をも
つて譲渡を原因とし被上告人名義に前示所有権移転請求権保全の仮登記に基づく所
有権移転請求権移転の附記登記を経由したというのであり、そうすると、Dは、被
上告人に対し本件不動産について右所有権移転請求権移転の仮登記の附記登記に基
づく所有権移転の本登記手続をする義務がある。ところで、本件不動産については、
上告人A1がDより横浜地方法務局昭和三三年一二月一九日受付第六四七七七号を
もつて同年六月五日代物弁済を原因とする所有権取得登記を受け、ついで上告人A
2が上告人A1より同法務局昭和三四牛一月一三日受付第一一四六号をもつて同三
三年一二月二五日売買を原因とする所有権取得登記を受け、右それぞれの登記の原
因である各権利移転行為がされたものであるが、右上告人らの各所有権取得登記は
Fのためにされた前示所有権移転請求権保全の仮登記後にされたものであるから、
仮登記権利者であるFが本件不動産の所有権を取得し本登記手続をするに必要な要
件を具備するに至つた以上、上告人らは、それぞれFに対し右本登記の目的たる権
利と相容れないその権利取得およびその登記の効力を主張しえないものであつて、
Fより右仮登記によつて保全された所有権移転請求権移転の附記登記を受けた被上
告人に対しても右の各効力を主張しえず、Dが被上告人に対してすべき所有権移転
の本登記手続に同意する義務がある、というにある。
 しかしながら、右の原判示によれば、被上告人がFから譲渡を受けたのは本件不
動産所有権であり、FのDに対する仮登記により保全された売買予約の権利は、F
がDに対して予約完結の意思表示をしたことによりすでに消滅したものであるから、
被上告人が本件不動産所有権の取得と併せてFから右の売買予約の権利の譲渡を受
けたものとすることはできない。従つて、本件不動産についてFより被上告人にさ
れた前示所有権移転請求権保全の仮登記に基づく所有権移転請求権移転の附記登記
は、そもそも権利の実体に符合しない登記であるといわざるをえない。もとより、
所有権移転請求権保全の仮登記は、本登記の順位保全を目的としてされるものであ
つて、仮登記の原因である権利関係自体の公示にその目的があるのではないから、
たとえば停止条件付代物弁済契約をしたのに誤つて売買予約による所有権移転請求
権保全の仮登記がされた場合のように、仮登記された権利関係と実体上の権利関係
との間に差異があつても、その仮登記に基づく本登記手続が適法とされる場合がな
いわけではない。しかし、本件の場合は右と異なり、本件附記登記によれば、Fの
Dに対する所有権移転請求権が被上告人に移転されたというのであるから、被上告
人がDに対する売買予約上の権利に基づき直接Dに対し本件不動産の所有権移転を
請求することができることとなり、仮登記によつて表示される権利変動の過程が実
体上の権利変動の過程と異なることとなるのであり、このような仮登記に基づく本
登記手続は、物権変動の過程をそのまま登記簿に反映させようとする不動産登記法
の建前に照らし許されないものと解するを相当とする。もし、このような登記の効
力を認めるときは、実質的にはいわゆる中間省略登記である所有権移転登記が、仮
登記の制度を利用することにより、所有名義人および中間者の同意なくしてこれを
行なうことができる結果となり、中間省略登記手続を請求できるのは登記名義人お
よび中間者の同意のある場合にかぎられるとする法理に反することともなる。被上
告人としては、F名義に所有権取得登記がされたうえであらためてFより所有権移
転登記を受けるほかはないものというべく、本件仮登記の附記登記に基づきDに対
し本件不動産所有権移転登記手続を求めることは許されず、利害関係ある第三者た
る上告人らもこれに同意すべき義務を負うものではない。しかるに、これと異なる
見解のもとに、被上告人の上告人らに対する本訴請求を認容した原判決は不動産登
記法の解釈、適用を誤るものであり、この点に関する論旨は理由がある。
 従つて、その余の論旨について判断するまでもなく原判決を破棄し、第一審判決
中上告人らに関する部分を取り消し、被上告人の上告人らに対する本訴請求を棄却
する。
 よつて、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、九六条、八九条に従い、裁判官
全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    松   本   正   雄

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