弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
 原判決中被上告人の所有権を確認した部分(主文第二項)を破毀し右部分に関す
る被上告人の請求を棄却する。
 爾余の部分に対する上告を棄却する。
 訴訟の総費用はこれを十分しその九部を上告人の負担としその一部を被上告人の
負担とする。
         理    由
 上告代理人勅使河原直三郎の上告理由第一点及び第二点上告代理人富田順一の上
告理由第一点について。
 しかし原判決挙示の証拠により昭和二〇年九月二五日上告人等がDから被上告会
社の株式百株の譲渡を受け適法に取締役に選任されたことが認められる。そして右
譲渡は当時上告人等に被上告会社の役員たる資格を与えるためのいわゆる資格株の
讓渡であつて後日返還することを約したものであるからといつて、その讓渡を仮装
であるということはできない。また株式の譲渡は意思表示だけでその効力を生ずる
のであるから当時右讓渡について株券の交付、名義書換の手続が行われなかつたと
しても上告人の取締役選任の効力には何等影響するところはない。また上告人が株
券供託の規定に違反したかどうかの点は原審で問題になつていないのみならず、仮
りに上告人が株券を被上告会社の監査役に供託しなかつたとしてもこれによつて取
締役選任の効力がないとはいえないのであるから原判決には所論のような違法なく
論旨はいずれも理由がない。
 勅使河原上告代理人の上告理由第三点について。
 しかし原判決挙示の証拠により昭和二〇年九月二五日被上告会社の株主総会が開
かれたが登記申請の都合上日時を遅らせて議事録を作成しこれに基いて登記をした
ことが認められるからこの点に関する原審の判断には何等所論のような違法はない。
論旨は理由がない。
 同第四点について。
 しかし被上告会社において新に追加した目的は木工品の製作及びこれに附帯する
事業である。そして附帯事業というのは主たる目的事業に関連のある各種の事業を
いうのであつて木工品の製作を主たる目的とする事業の附帯事業のうちにはその資
材原料たる立木伐木等の買入をする事業をも包含するものと解するのが正当である。
従つて論旨は理由がない。
 同第五点第一一点及び第一二点、富田上告代理人の上告理由第二点について。
 しかし木材統制法により木工業者は農林大臣の割当証明によつて木工品を製作し
得るに過ぎなかつたとしても右制限は木材の生産消費を規正したもので立木伐木等
の買入自体を禁止したものでないから右制限があることから直に立木伐木等の買入
が木工品製作の附帯事業の範囲にはいらないと論断することはできない。また木材
業又は製材業が許可を要する事業であつて当時被上告会社がまだその許可を得てい
なかつたとしてもそのために本件取引が附帯事業の範囲に属すると判断する妨げと
ならない。論旨はいずれも理由がない。
 勅使河原上告代理人の上告理由第六点第七点及び第一三点、富田上告代理人の上
告理由第四点について。
 しかし原判決の挙示する証拠を綜合すれば原判示のような事実認定をすることが
できる。即ち被上告会社側としては上告人が果して会社のために本件取引をしたの
か自己のためにしたのかが判明しなかつたのであるが昭和二一年一一月三日に至り
被上告会社の監査役Eが上告人において全く自己のために本件立木等を買入れたこ
とを知つた事実を認定したのであつて右事実認定には所論のような違法はない。所
論は原審の専権に属する証拠判断及び事実認定の非難に歸着し上告適法の理由とな
らない。
 勅使河原上告代理人の上告理由第八点及び第九点、富田上告代理人の上告理由第
三点について。
 原判決は本件介入権行使の結果本件取引によつて上告人に歸属した一切の権利義
務は上告人と被上告会社との間において悉く被上告会社に移轉したのであつて本件
取引により上告人の取得した本件立木及び伐木は被上告会社の所有に歸したのであ
ると判定し右立木及び伐木が被上告会社の所有であることの確認の請求を許容した
のである。しかし商法第二六四条第二項によればいわゆる介入権の行使は取締役が
同条第一項の規定に違反して自己のためになした取引を会社の為になしたものと看
做することができるのである即ち介入権行使の効果は取締役はその取引によつて取
得した金銭その他の物はこれを会社に引渡し、権利はこれを会社に移轉することを
要するのであつて取締役がその取引によつて取得した所有権その他の物権が介入権
の行使により当然に会社に移轉するいわゆる物権的効力を有するものではないと解
するのが相当である。然らば原判決が本件介入権の行使により上告人の本件取引に
より取得した立木及び伐木の引渡を求むる請求を許容したことは正当であるが所有
権確認の請求を許容した部分は失当であるからその部分に関する論旨は理由があり
原料決は破毀を免れない。次に上告人が本件取引により取得した物件を現に占有中
であることは原審において弁論の全趣旨から上告人において争わないものと認めて
確定された事実であるから原審がその引渡の請求を容れたのは正当であつてこの点
に関する論旨は採るを得ない、次に本件介入権の行使の効果として上告人は被上告
会社に本件立木等を引渡す義務があるがまた被上告会社には上告人に対して本件立
木等の価格に相当する補償をする義務があることは言うまでもないところである。
そしてこの二の義務の間に同時履行の抗弁権があるか否やは一の問題であるが仮り
にそれがあるとしても上告人は原審においてその抗弁権を行使しなかつたのである。
従つて原審がその補償の点について審究しなかつたのは当然であつて毫も所論のよ
うな違法があるとはいえない。それ故右の点に関する論旨は理由がない。
 勅使河原上告代理人の上告理由第一〇点について。
 被上告会社の本店の所在地が本店の移轉により所論のように変更されたことは登
記簿抄本により明かであるがそれは更正決定により更正し得べきことであるから原
判決を破毀する理由とならない。論旨は上告適法の理由とならないのである。
 以上説明の理由により原判決中被上告人の所有権確認の請求を認容した部分を破
毀した請求はこれを棄却すべく爾余の上告はその理由がないから民事訴訟法第四〇
八条第一号、第三九六条第三八四条第一項、第九六条、第九二条、第九五条第八九
条により主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官全員一致の意見である。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重

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