弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決及び第一審判決を破棄する。
     本件を鳥取地方裁判所に差戻す。
         理    由
 被告人の上告趣意、弁護人佐藤哲郎、同小野孝徳の上告趣意、同寺坂銀之輔の上
告趣意は、末尾添附の同人らの「上告趣意」と各題する書面記載のとおりである。
 被告人の上告趣意は事実誤認、量刑不当の主張であり、弁護人佐藤哲郎、同小野
孝徳の上告趣意第一点は判例違反をいうけれども、原審において主張せられず、そ
の判断を経ない第一審の訴訟法違反を主張するに帰し、その余は憲法違反をいう点
もあるが、実質は事実誤認、単なる訴訟法違反の主張であつて刑訴四〇五条の上告
理由に当らない。
 また、弁護人寺坂銀之輔の上告趣意第一点は判例違反を主張するにあるところ、
原判決は被告人の性格が婦女に対して異常であることを窺わせるような事跡を掲げ、
これにより本件強姦致死の刑責が被告人にあることを推断する一資料としているの
であるから、(かような証拠の証明力の程度の問題はとにかく)論旨引用の判例が、
犯人の性行経歴が犯罪行為と交渉を有する場合には、その交渉する限度においてこ
れを当該犯罪事実認定の資料とすることを妨げないとするところと、なんら抵触す
るところはない。同第二点は刑訴三二一条、三二四条は憲法三七条二項に違反する
と主張するけれども、原審において主張せられず、その判断を経ないところであり
(刑訴三二一条の合憲性については昭和二六年(あ)第二三五七号、同二七年四月
九日大法廷判決、集六巻四号五八四頁参照)、同第三点(但し、撤回部分を除く)
は事実誤認の主張であつて、いずれも刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
 職権により調査すると、第一審判決は罪となるべき事実として「被告人は最初の
妻に小供を置いて死なれ、その後二度も妻を娶つたがいずれも生別し、数年来鰥暮
をしているものであるが、第一、かねて米子市ab番地未亡人AことB(当時数へ
年三五才)と情を通じたいとの野心を持つていたところ、昭和二三年五月一日午後
七時三〇分頃鳥取県西伯郡c町から自宅への帰途、米子市d寺地内e堤防道路上に
おいて右Bに出会うや同女を姦淫すべく決意し、同女を道路下の畑や田等のある所
に連れ込み同所のC所有の田地(米子市d寺字fg番地)において何かの拍子で倒
れた(或は格闘の結果倒れたかも知れない)同女の頸部を手で扼して強いて同女を
姦淫しようとして右頸部扼圧の結果同女を間もなくその場で窒息死亡させ(強姦既
遂の点についてはその証明が十分でない)」たとの強姦致死の事実を認定し、その
証拠として幾多の証拠の標目を挙示しこれを綜合して右事実を認める旨判示してい
る。そして第二審判決は右第一審判決を支持する理由を詳細に説示しているのであ
るが、「(二)被告人が原判示、日時、場所において、原判示の如く、Bを殺害し
たとの点」について、「1Bが殺害された当日、被告人がc町に赴いたことは、諸
般の証拠によつて明らかである。さて、被告人が、いずれの列車でc町から米子市
に帰つたとしても、前叙の如くBが帰途に就きe堤防道路上に差蒐つた際、偶被告
人もBの前方を同一方向に向つて歩行していたことは、原審証人D、E、F、Gの
各証言、原裁判所が昭和二七年二月二五日行つた検証の結果、米子鉄道管理局長名
義の列車発着時刻に関する回答及び原審裁判官の証人Fに対する尋問調書によつて
認められる諸般の事実を通じて容易に窺われる。」と説示している。しかるところ
第一審証人Hの証言並びに第一審裁判所が昭和二七年三月一日行つた検証の結果に
よると、Bがh温泉からの帰途、Hとi橋附近で別れ、そこから一人で同市d寺地
内e堤防道路上を、d寺部落、a部落方面に向つて歩行しはじめたのは昭和二三年
五月一日午後七時頃であり、同所から徒歩で本件現場附近の道路上にいたる所要時
間は約二七分であるから、Bが現場附近に達した時刻は同七時二七分頃となる。一
方、被告人が当日午後j駅から乗車しk駅で下車したとして、米子鉄道管理局長名
義の列車発着時刻に関する回答によれば、右k駅着時刻は午後五時三五分頃若しく
は同七時九分頃であり、且つ昭和二八年五月一日原審が行つた現場検証の結果によ
ればk駅から本件現場附近の道路上までの徒歩所要時間は約五〇分であるから、被
告人が午後七時九分着の列車でk駅に到着したとすれば、被告人が現場附近に達す
る時刻は同八時一分頃となる。従つて、被告人が午後七時九分着の列車でk駅に到
着したとすれば、右現場附近においてBと出会することは不可能である。されば、
原判示のように、被告人がいずれの列車でc町から米子市に帰つたとしても、Bが
帰途につきe堤防道路上に差蒐つた際、偶被告人もBの前方を同一方向に向つて歩
行していたことが認められるとすることはできない。しかも第一審証人Fの公判廷
の供述並びに第一審裁判官の同証人に対する尋問調書中の供述記載によつては、同
証人がe堤防上で出会つた男が被告人Fによく似ていたと思うというにとどまり、
その男が被告人であつたことは同人の確認しないところというのほかなく、その他
原判決挙示の証拠をもつては未だ右事実を確認するに足りない。さらに、原判決が
理由中(二)の2(イ)ないし(チ)において認定した各事実並びに3、4、5、
において認定した各事実がすべて真実であるとしても、かような事実をもつては未
だ、Bがe堤防上に差蒐つた際、被告人も同人の前方を同一方向に向つて歩行して
いたとの認定事実を肯認するに足りない。
 次に、鑑定人J作成の鑑定書によれば、Bの「死後の経過時間は死後強直発現程
度、体温等よりして十時間以上経過せるものと推定さる」とあり、解剖に着手した
昭和二三年五月二日午後一一時三〇分より逆算して十時間以上とは二日午後一時三
〇分より以前ということであり、また、同鑑定人の第一審公判廷における証言によ
れば、「被害者が死の転帰を取つたのは二日に入つてからと思いますか」との問に
対し「私の頭に残つているのは二日の前日の遅くではないかと思う程度ではなかつ
たかと思います」とあつて、二日の前日の遅くではないかと思うとは、即ち五月一
日午後一〇時以後を指すものと解するのが相当である。されば、他により確実な証
拠の存しない限り、Bの死亡時は少くとも五月一日午後一〇時以後と推認するを相
当とせざるをえない。従つて、第一審判決認定の死亡時間との間に数時間の齟齬あ
るものというべきである。
 さらに、第一審判決は、被告人は「かねてBと情を通じたいとの野心を持つてい
た」ことを本件犯行の動機として掲げ、その証拠として証人Kの証言を対応させて
いることは明らかである。そして原判決は、同証言は「Bが、同女に対する被告人
の野心にもとずく異常な言動に対し、嫌悪の感情を有する旨告白した事実に関する
ものであり、これを目して伝聞証拠であるとするのは当らない」と説示するけれど
も、同証言が右要証事実(犯行自体の間接事実たる動機の認定)との関係において
伝聞証拠であることは明らかである。従つて右供述に証拠能力を認めるためには刑
訴三二四条二項、三二一条一項三号に則り、その必要性並びに信用性の情況保障に
ついて調査するを要する。殊に本件にあつては、証人KはBの死の前日まで情交関
係があり且つ本件犯罪の被疑者として取調べを受けた事実あるにかんがみ、右供述
の信用性については慎重な調査を期すべきもので、これを伝聞証拠でないとして当
然証拠能力を認める原判決は伝聞証拠法則を誤り、引いて事実認定に影響を及ぼす
ものといわなければならない。
 以上要するに、第一審判決が、被告人に本件強姦致死の犯行を認めたことが正当
であるかどうかは疑問であり、第一審判決にはその判決に影響を及ぼすべき重大な
事実の誤認を疑うに足る顕著な事由があつて、同判決及びこれを維持した原判決を
破棄しなければ著しく正義に反するものといわなければならない。よつて刑訴四一
一条三号、四一三条に則り原判決及び第一審判決を破棄し、本件を第一審裁判所で
ある鳥取地方裁判所に差戻すべきものとし、主文のとおり判決する。
 この判決は全裁判官全員一致の意見である。
 検察官大津民蔵出席
  昭和三〇年一二月九日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    谷   村   唯 一 郎
            裁判官    池   田       克

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