弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
   被告が原告に対し、平成16年4月28日付海大第1-1-2号文書による
法人文書不開示決定通知書による公文書非公開の処分を取り消す。
第2 事案の概要
   本件は、原告が、訴外文部科学大臣に対し、行政機関の保有する情報の公開
に関する法律3条、4条1項に基づき文書(原告の亡父に関する①血液製剤管理簿
(輸血部所管)②処方箋(薬剤部所管))の開示を求めたところ、同法12条の2
により被告に対し事件が移送され、被告において、独立行政法人等の保有する情報
の公開に関する法律(以下「法」という。)8条(法人文書の存否に関する情報)
により当該文書の存否について応答を拒否する決定をしたため、原告がこれを不服
として、同決定の取消しを求めた事案である。
 1 関係法令の定め
  (1) 法5条1号本文
    法5条は、独立行政法人等が保有する法人文書の開示義務を定めるととも
に、同条1号本文で、不開示情報として、個人に関する情報(事業を営む個人の当
該事業に関する情報を除く。)であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その
他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合するこ
とにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定
の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を
害するおそれのあるものを規定している。
  (2) 法5条1号ただし書きロ
    上記のとおり、法5条1号本文でいわゆる個人情報を不開示情報と規定し
ているが、同号イないしハで、その例外として開示義務のある場合を規定し、その
うち同号ロは、人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必
要であると認められる情報について開示義務がある旨規定している。
  (3) 法8条
    開示請求に対し、当該開示請求に係る法人文書が存在しているか否か答え
るだけで、不開示情報を開示することとなるときは、独立行政法人等は、当該法人
文書の存否を明らかにしないで、当該開示請求を拒否することができる旨規定して
いる。
 2 前提事実(証拠を掲記しない事実は当事者間に争いがない。)
  (1) 原告は、平成16年3月30日付で、訴外文部科学大臣に対し、「北海道
大学病院が所持する平成10年9月14日から同11年2月28日までの以下2書
類・患者氏名A(大正○年○月○日生、平成○年○月○日死去)分に限る①血液製
剤管理簿②処方箋(以下「本件法人文書」という。)」の開示請求をした(甲
1)。
  (2) 訴外文部科学大臣は、平成16年4月15日、原告に対し、行政機関の保
有する情報の公開に関する法律第12条の2の規定により被告宛に事件を移送した
旨通知した(甲2)。
  (3) 被告は、同年4月28日付で法8条に基づき本件法人文書の存否について
応答を拒否し、不開示とする旨の決定(海大第1-1-2号文書による法人文書不
開示決定、以下「本件処分」という。)をした(甲3)。原告は、同年5月8日、
同決定通知を受領した(甲5)。
    なお、同通知書には、「特定の個人に係る診療等の内容を記録したもので
あり、当該法人文書が存在しているか否かを答えることは、個人の病歴等の有無を
答えることと同様の結果を生じることになり、法第8条に該当するので、不開示
(存否応答拒否)とする。」旨記載されている。
  (4) 原告は、同年7月27日、本件処分を不服として本件訴訟を提起した。
  (5) なお、原告は、被告に対して異議申立ても行っていたところ、被告は法に
基づき、内閣府情報公開審査会に諮問し、同審査会は同年11月19日本件処分は
妥当である旨の答申をしている(乙4の1及び2)。
 3 争点
  (1) 本件法人文書の法8条該当性
  (2) 本件処分についての理由付記の違法性の存否
 4 当事者の主張
  (1) 争点(1)について
   (原告の主張)
   ア 本件法人文書は、原告の亡父Aないしその相続承継人である原告にとっ
ての個人情報であるが、同時に公共的な医療機関である被告の医療行為が適正に実
施されたかどうかを検証する重要かつ基本的な情報を含むものであり、法5条1号
ロの「人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要である
と認められる情報」に該当するから、本件法人文書には不開示情報は含まれず、法
8条には該当しない。
   イ 行政の公開性の確保は、国民が自らの情報を知り得ることから始まり、
自己情報に関する開示請求権を情報公開制度においても認めるべきであるから、本
件のような個人情報に関しては、本人、あるいは相続承継人からの開示請求を認め
るべきである。したがって、法8条の不開示情報には該当しない。
   (被告の反論)
   ア 原告が開示を求めている本件法人文書は、特定個人に関する①血液製剤
管理簿、②処方箋であるが、これらはいずれも特定個人の診療等の内容を記録する
診療録等に記載されて、特定個人の病歴等を示すこととなる文書であるから、この
種の文書が存在しているか否かを答えることは、特定個人の病歴等の有無を答えた
ことと同じ結果を生じ、不開示情報を開示したこととなるのであるから、法8条を
理由にした本件処分は適法である。
   イ 法においては、開示、不開示の判断に当たって、いわゆる自己情報の開
示請求である場合も含めて、開示請求者が誰であるかは何ら考慮されていない。こ
のことは、個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができる情報
(以下「個人識別情報」という。)については、同法5条1号ただし書きイないし
ハのいずれかに該当するものを除き、これを全て不開示情報としており、開示請求
者本人ないしその法定相続人からの開示請求であった場合についても特段の規定を
設けていないことからも明らかである。
     しかも、死者の情報開示が遺族のプライバシー侵害になり得ること、複
数の法定相続人が存在する場合は、相続人間でも同様の問題が生じ得ることを考慮
すると、死者の診療情報は死者の個人識別情報として不開示情報に該当すると解す
るのが相当である。
     したがって、個人識別情報は、本人ないしその法定相続人からの開示請
求であっても、同法5条1号所定の不開示情報に該当する。
  (2) 争点(2)について
   (原告の主張)
    本件処分は、単なる法令の該当規定のみを記載しただけで、理由記載とし
ては不十分であり、違法である。
   (被告の反論)
    本件処分の理由として、本件法人文書が「特定の個人に係る診療等の内容
を記録したものであり、当該法人文書が存在しているか否かを答えることは、個人
の病歴等の有無を答えることと同様の結果が生じることになり、法第8条に該当す
るので、不開示(存否応答拒否)とする。」としたもので、理由付記の程度は必要
かつ十分である。
第3 当裁判所の判断 
 1 争点(1)について
  (1) 本件法人文書は、特定個人に係る血液製剤管理簿(輸血部所管)及び処方
箋(薬剤部所管)であるところ、仮に被告がこの種の法人文書が存在しているか否
かを回答すると、そのことのみで当該個人が当該病院に通院ないし入院して治療を
受けていたか否かという事実が明らかになるほか、投薬の内容から、当該個人が一
定の病歴を有していることが推測可能になるのであるから、当該情報は、法5条1
号の個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができるものと認めら
れる(なお、弁論終結後に原告から提出された「原告準備書面1の補充」と題する
書面には、本件法人文書はカルテとは無関係の文書で医局と別に保管されている文
書であるから、それ自体からは病歴を特定することができないとの主張が記載され
ているが、通常本件
法人文書である血液製剤管理簿及び処方箋の記載そのものから、当該個人の病歴を
推測することが可能であり、あるいは、少なくとも他の情報と照合することにより
特定の個人を識別することが可能であり、当該対象個人が当該病院で治療を受けた
事実が判明することが認められるから、法5条1号の個人識別情報に当たることは
明らかである。)。
  (2) 原告は、当該情報は、公共的な医療機関である被告の医療行為が適正に実
施されたかどうかを検証する重要かつ基本的な情報を含むものであり、法5条1号
ただし書きロの「人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが
必要であると認められる情報」に該当する旨主張する。
    しかしながら、同号ロは、個人のプライバシーに関わる情報であっても、
国民の生命、健康、財産を保護するために公開することが必要なときに、不開示と
することにより保護される利益と開示されることによる利益とを比較衡量し、後者
が前者に優越する場合をいうと解されるところ、本件では、前者の当該個人の病歴
ないし当該病院に通院ないし入院して治療を受けていたか否かという事実は当該個
人のプライバシー保護の必要性が高い情報であって、前者の利益保護の必要性は高
いものというべきところ(なお、当該個人情報が死者に関する個人情報であって
も、死者の名誉、プライバシーに関する我が国の国民感情や、死者の情報開示が遺
族のプライバシー侵害になりうることを考慮すると、法は、死者の診療情報は死者
の個人識別情報として
保護の対象としていると解するのが相当であるから、当該個人が死亡したことによ
って利益保護の必要性がなくなったとか、必要性が低下したというのは相当ではな
い。)、後者が前者に優越すると認めるに足りる証拠はないから、原告の主張は採
用できない(なおこのような結論によっても、後者の原告の主張する公的医療機関
の治療が適正であるかを検証するという公の利益については、その検証方法には本
件情報開示請求以外にも多様な方法があり得るところである)。
  (3) また、原告は、本件のような個人識別情報に関して、本人、あるいは相続
承継人からの開示請求が認められるべきである旨主張するが、法の定めた開示請求
制度は、何人に対しても、請求の目的いかんを問わず、開示請求を認める制度であ
る(同法3条)ことから、開示、不開示の判断に当たっては、開示請求者が誰であ
るかは考慮されないものである。このことは、同法が、個人に関する情報であって
も、特定の個人を識別することができる情報については、同法5条1号ただし書き
イないしハまでに該当するものを除き、これを不開示情報とするのみで、本人から
の開示請求であった場合について、特段の規定を設けていないことからも明らかで
ある。
    なお、兵庫県の公文書の公開等に関する条例に関する最高裁判所第3小法
廷平成13年12月18日判決(民集55巻7号1603頁)の判断は、同条例と
は別個の法律に関する事案である本件には適用されないものと解される。
したがって、原告の上記主張には理由がない。
  (4) 以上のことからすれば、本件法人文書について、その存否を答えるだけで
開示することになる情報は、法5条1号の不開示情報に該当し、同号イないしハに
は該当しないから、同法8条に該当するとして、本件法人文書の存否を明らかにし
ないで不開示とした本件処分は適法であると認められる。
 2 争点(2)について
   原告は、本件処分通知書には、単なる法令の該当規定のみを記載しただけ
で、理由記載としては不十分であり、違法である旨主張するので以下検討する。
   法8条の存否応答拒否決定については、行政手続法8条1項本文に基づく理
由提示義務があるが、同法が規定する理由提示義務は、行政庁の拒否事由の有無の
判断についての判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制するとともに、拒
否の理由を申請者に明らかにすることによって、その不服申立てに便宜を与える趣
旨のものであるところ、このような理由付記制度の趣旨にかんがみれば、公文書の
非開示決定通知書に付記すべき理由としては、開示請求者において、非開示事由の
どれに該当するかをその根拠とともに了知しうるものでなければならず、単に非開
示の根拠規定を示すだけでは、当該公文書の種類、性質等とあいまって開示請求者
がそれらを当然知り得る場合は別として、理由付記としては十分ではないと解され
る(最高裁第1小法
廷平成4年12月10日判決、判例時報1453号116頁参照)。これを本件に
ついてみるに、本件処分通知書には、「特定の個人に係る診療等の内容を記録した
ものであり、当該法人文書が存在しているか否かを答えることは、個人の病歴等の
有無を答えることと同様の結果を生じることになり、法8条に該当するので、不開
示(存否応答拒否)とする。」旨記載されており、本件処分の非開示事由である法
8条に該当する根拠が、本件行政文書の性質に当てはめて具体的に記載されてお
り、理由の記載は必要かつ十分であると認められるから、原告の主張には理由がな
い。
第4 結論
   以上によれば、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の
負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり
判決する。
東京地方裁判所民事第3部
       裁判長裁判官    鶴岡稔彦
           
          裁判官金子直史
           
          裁判官潮海二郎

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