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平成20年9月18日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成19年(ワ)第7222号原状回復等請求事件
口頭弁論終結日平成20年6月26日
判決
原告株式会社エクセル
同代表者代表取締役A
同訴訟代理人弁護士柴原多
同訴訟復代理人弁護士舞田靖子
同信夫大輔
被告株式会社ゼンテック・
テクノロジー・ジャパン
同代表者代表取締役B
同訴訟代理人弁護士城山康文
同元芳哲郎
同池田孝宏
主文
1被告は,原告に対し,1億0500万円及びこれに対する平成19年4月7
日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2訴訟費用は被告の負担とする。
3この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2事案の概要
本件は,原告が,(1)主位的に,原告と被告との間で,被告の開発したデジ
タルテレビ用ソフトウェアを組み込んだデジタルテレビ用モジュール及びその
関連電子機器の日本を含むアジア地域における独占的販売権を原告が取得する
旨の契約を締結したにもかかわらず,被告が,上記契約に違反して,①原告以
外の第三者に対して,被告の開発したソフトウェアのライセンスを付与し,製
品を販売させたほか,被告自らも製品を顧客に直接販売したこと,②原告に対
して,製品の販売を一切委託しないこと,を理由に上記契約を解除したと主張
し,債務不履行解除に基づく原状回復請求又は損害賠償請求として,(2)予備
的に,被告は,当初より実際には原告に製品を供給する意思がなかったにもか
かわらず,決算対策(株価対策)のために1億円を取得する目的で原告に上記
契約を締結させたなどと主張し,不法行為に基づく損害賠償請求として,被告
に対し,1億0500万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成1
9年4月7日から商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める
事案である。
1前提事実(証拠原因により認定した事実については,括弧書きで当該証拠原
因を掲記する。その余の事実は当事者間に争いがない)。
(1)当事者等
ア原告は,集積回路,半導体素子,表示デバイス,その他の電子部品及び
電子機器の卸売販売等を営む株式会社である。原告は,いわゆる商社であ
り,シャープ株式会社(以下「シャープ」という)の販売代理店として。
シャープ製デバイスの販売等も行っている(甲2。)
,,,,被告はコンピュータコンピュータ相互間の情報搬送機器通信機器
それらの周辺機器ハードウェア及びソフトウェアの研究,開発,設計,製
,。,造販売並びに輸出入等を営む株式会社である被告とその連結子会社は
電子部品販売事業を主に行っており,被告においては,主要半導体メーカ
ー等と積極的にライセンス交渉も行っている(乙37ないし乙42。)
イ原告の役員ないし従業員
Aは,平成12年12月から原告の代表取締役を務めている(甲31,
乙36。)
Cは,平成13年9月に原告に入社して海外半導体販売推進部課長を,
平成16年6月から平成17年3月31日まで同部部長を務めた後,同年
(,。4月1日に原告の新規事業推進本部副本部長に就任した甲32乙35
現在は,原告の取締役に就任するとともに,新規事業推進本部長と海外電
子部品販売推進部長を兼任している。なお,原告の新規事業推進本部。)
は,平成17年4月1日に新設された(乙43。)
ウ被告の役員ないし従業員
Bは,平成12年2月に被告を設立し,それ以来,被告の代表取締役を
務めている(乙25。)
Dは,平成14年10月から被告の営業部長ないし営業本部長として,
主として営業に関する業務に従事している(乙22。)
(2)デジタルテレビ用モジュール等
アデジタルテレビ用モジュール
デジタルテレビ用モジュール(以下「モジュール」という)は,一種。
のマザーボードであり,このモジュールをデジタルセットトップボックス
等に組み合わせることで,デジタルテレビの基幹部分を完成させ,アナロ
グテレビでデジタル放送を受信することを可能にすることができるものを
いう(甲2。)
イソフトウェアの標準規格
モジュールには,各国におけるデジタルテレビ放送標準規格に対応した
ソフトウェアを組み込む必要があり,日本向けの標準規格としてはARI
B規格などが,北米向けの標準規格としてはATSC規格などがある(甲
3,甲5。ARIB規格は,北米や欧州向けの標準規格に比べて複雑か)
つ高度の規格であるばかりでなく,技術的難易度も高く,製品化には多大
なノウハウを要するとされている(甲5。また,米国向けのケーブルテ)
レビ用ソフトウェアの規格としてはCableCardが,欧州・アジア
向けの地上波,衛星放送,ケーブルテレビ用ソフトウェアの規格としては
DVBがある(甲18。)
ウ被告のモジュール製品
被告が開発したモジュールの製品名は,ATSC規格のものには「Ka
tana「Glaive」など,ARIB規格のものには「Kabu」,
to「KabutoLite「Kodachi」などがある(甲」,」,
46の1,2。)
(3)本件契約の締結
原告と被告は,平成17年3月30日,被告の開発したデジタルテレビ用
ソフトウェアを組み込んだモジュール及びその関連電子機器につき,原告が
販売することを認める内容の「製品取引に関する合意書」と題する書面(甲
1。以下「本件合意書」といい,本件合意書によって原告と被告との間で締
結された契約を「本件契約」という)を作成した。本件合意書には,次の。
内容の条項が含まれている。
ア前文
被告と原告は,以下に定めるところに従い,契約有効日を平成17年3
月1日として,以下に定義する被告のソフトウェアを組み込んだ製品を原
告が販売することに合意した。
イ製品の範囲(第1条)
本件合意書第1条は本件合意書による契約の対象となる製品以下本,(「
件製品」という)の範囲について,被告の開発したデジタルテレビ用ソ。
フトウェアを組み込み生産するデジタルテレビ用モジュール及びその関連
電子機器とする,と定めている(以下,同条にいう「被告の開発したデジ
タルテレビ用ソフトウェア」を「本件ソフトウェア」という。。)
ウ販売地域及び販売期間(第2条)
本件合意書第2条(1)は,被告は,原告に日本を含むアジア地域(詳細
は別紙1に記載)を販売地域として,平成17年3月1日から平成20年
2月28日までの3か年の間,本件製品に組み込まれた本件ソフトウェア
のソフトウェア・ライセンスの再使用許諾の権利及び本件製品の販売を行
う代理権を付与すること,販売期間は期間終了の3か月前までに,被告・
原告いずれかから文書での解約の申し出が無い限り,自動的に1か年延長
されるものとし,以後もその例によることを定め,また,同条(2)は,被
告は,原告の承諾なしに販売期間の間は(1)に記載の地域での本件製品の
販売を第三者に代理させまたは委託することはできないものとする,と定
めている。
なお,本件合意書に添付の別紙1によれば,本件合意書第2条(1)にい
う「販売地域(以下「本件販売地域」という)とは,日本,台湾,韓」。
国,中国,シンガポール,インドネシア,マレーシア,ベトナム,タイ,
インド,その他個別販売代理契約で定める地域である。
エソフトウェア・ライセンスの再使用許諾権料(第3条)
本件合意書3条は,ソフトウェア・ライセンスの再使用許諾権料につい
て,本件合意に基づく,本件製品に組み込まれた本件ソフトウェアのソフ
トウェア・ライセンスの再使用許諾権料として,双方合意した別紙2記載
の金額を原告は被告に支払うこと,この原告が被告に支払う金員は,いか
なる場合も,返金されないことを定めている(以下,同条にいう「ソフト
ウェア・ライセンスの再使用許諾権料」を「本件許諾権料」という。。)
本件合意書に添付の別紙2によれば,本件許諾権料の金額は1億円であ
り,支払期限は平成17年3月31日である。
オその他(第4条)
本件合意書第4条は,本件合意書に定めのない販売契約の詳細について
は後日,被告・原告が協議することを定めている。
(4)本件許諾権料の支払
原告は,被告に対し,平成17年3月31日,本件合意書に基づき,1億
0500万円(消費税相当額を含む)を支払った。。
(5)原告による本件契約の解除
原告は,被告に対し,本件の訴状送達の日である平成19年4月6日,本
件契約を解除する旨の意思表示をした。
(6)被告による別件訴訟の提起
被告は,平成19年5月31日付けで,自らが原告となり,原告及び日本
ダイナミックシステム株式会社(以下「NDS」という)を被告として,。
被告との間の秘密保持契約違反及び不正競争行為に基づいて3億円の損害賠
償を請求する訴訟(当庁平成19年(ワ)13697号事件であり,以下「別
件訴訟」という)を当庁に提起し,現在も当庁に係属中である。別件訴訟。
における被告の主張は,原告が,被告から提供された営業情報を上記秘密保
持契約に定められた目的以外に使用し,またNDSが被告から開示されたモ
ジュール製品の回路情報について秘密保持義務を負っていることを認識した
上で,NDSから上記回路情報の開示を受け,NDSと共同でモジュールの
,(,,開発及び製造を行いかつ販売したなどというものである甲23甲25
甲48の1ないし14,乙3の1ないし乙10,乙21。)
2原告の主張
()(1)被告の債務不履行を理由とする原状回復又は損害賠償請求主位的請求
ア本件合意書第2条(2)は,被告が本件製品を直接第三者に販売すること
(以下「直販」という)や原告以外の第三者に対して本件ソフトウェア。
のライセンスを付与することを禁止していること
(ア)原告と被告との交渉は,平成17年1月20日の会議において,D
から,原告が希望するのであれば,原告を代理店としてモジュールの販
売を実施する余地がある旨の提案がなされたことを皮切りに急速に話が
進み,その後頻繁に打合せが行われた。その中で,被告が他社と提携し
てモジュール及びこれに関連する製品の販売を行った場合には,原告の
製品と競合して原告の売上高が大幅に減少する危険があったことから,
被告は,原告に商品の販売を一元的に委託すること,すなわち,原告に
独占的販売権を与えることを了承した。一方,被告からは,経常利益を
予想値に近付けるために1億円の本件許諾権料を本件契約締結時に一括
して支払うよう原告に求める提案がされ,原告はこれを了承した。そし
て,同年3月中に是が非でも契約の締結が必要であるとの被告側の決算
対策上の強い要求があったことから,同月30日に本件契約が締結され
た。
(イ)本件合意書第2条(2)は,被告による本件製品の直販等を無制限に
許せば,分配すべき原告の販売利益が消失し,原告が被告に支払った本
件許諾権料1億円の回収も困難になるので,これを回避する趣旨で設け
られたものである。
現に,本件契約の締結前後において,原告と被告との間で交わされた
会議資料等には,原告が総代理店であることを示す記載がある。なお,
原告は,被告に対し,同月10日の会議において「ZENTEKデジ,
タルTVソリューションビジネスプラン」と題する会議資料(乙1)を
交付したが同資料の2枚目及び3枚目の図に手書きで描かれた矢印被,(
告の直販を示すかのような矢印である)は,原告に無断で,Bが書き。
込んだものにすぎない。
(ウ)商慣習上,単なる販売代理店の地位を取得するために高額の対価を
支払うことは考えられない。原告が,被告に対し,1億円もの本件許諾
権料を支払ったのは,原告に対して独占的販売権が付与されることを前
提としているからである。
,,,(エ)以上のような事情を考慮すれば本件合意書第2条(2)は被告が
原告に対し,原告の承諾なく,第三者に本件製品の販売を代理させまた
は委託することのみならず,被告が直販をすることや原告以外の第三者
に対して本件ソフトウェアのライセンス(使用許諾)を付与し,当該ラ
イセンスに基づいて製作された製品を被告と共同で販売することも禁じ
るという意味の独占的販売権を原告に付与する条項であると解すべきで
ある。
イ被告が本件合意書第2条(2)に違反していること
(ア)被告は,韓国,台湾,日本及び中国において本件製品を直販してい
ることを認めているほか,台湾のインベンテック・マルチメディア&テ
レコム社(以下「インポーテック社」という)及び韓国のデジタル・。
ワールド社に対して被告が開発した本件ソフトウェアのライセンスを付
与し,インポーテック社及びデジタル・ワールド社が被告のソフトウェ
アを搭載したモジュールを販売していることを認めているが,上記のと
おり,被告が本件製品を直販することや原告以外の第三者に対して本件
ソフトウェアのライセンスを付与することは,本件合意書第2条(2)に
違反する行為である。
(イ)被告は,インポーテック社が販売しているモジュールは,被告がイ
ンポーテック社に対しライセンスしたソフトウェアを同社が組み込んで
,。独自に開発製造したものであり被告は何ら関与していないと主張する
しかしながら,同社が販売しているARIB規格製品は被告の開発した
ARIB規格製品と型番まで含めて同一であるから,インポーテック社
と被告が共通して販売している製品の基板は被告が開発したものである
と考えられ,そうすると,インポーテック社が販売している製品は,被
告が開発してインポーテック社に製造を認めている被告の製品というこ
とができるから,事実上被告の開発した製品をインポーテック社に販売
させている被告の行為が本件製品の販売を第三者に代理させ又は委託す
。ることを禁止した本件合意書第2条(2)に違反することは明らかである
ウ被告が原告に本件製品を一切供給していないこと
被告が原告に本件製品を供給して初めて原告による販売代理が成り立つ
ものである以上,本件合意書により被告が本件製品を原告に対して供給す
る義務を負担していることは,本件契約の当然の前提になっている。とこ
ろが,被告は,本件製品を本件販売地域において,自ら又は第三者を通じ
,。て販売しているにもかかわらず原告には本件製品を一切供給していない
被告が何ら合理的な理由がないのに本件製品を原告に供給しないことは,
それ自体が明らかに本件契約に違反する行為である。
エ原告による本件契約の解除
,「」()原告は被告に対する平成18年11月20日付け通知書甲10
において,本件契約に違反する状態の是正を求め,同年12月7日付け回
答書(甲11)において,原告が既に被告に支払っていた1億0500万
円の支払に関する解決方法の提示を求めたが,被告からは,これに対する
何らの解決方法も提示されなかった。
このため,原告は,被告に対し,本件訴状の送達をもって本件契約を解
除する旨の意思表示をした。
(2)被告の不法行為を理由とする損害賠償請求(予備的請求)
被告は,当初より実際には原告に本件製品を供給する意思がなかったにも
かかわらず,決算対策(株価対策)のために1億円を取得する目的で原告に
本件契約を締結させたものであるから,被告はまさに原告から1億円を詐取
,。したものと評価でき被告の行為が不法行為に該当することは明らかである
仮に,本件合意書締結時の被告に原告を騙す意図が無かったとしても,被
告は本件製品の直販又は第三者へのライセンスの付与を行って本件合意書の
趣旨を潜脱し,かつ,本件製品を原告に一切供給せず,原告が本件合意書で
想定していた事業から利益を得ることを阻害したものであるところ,これら
の行為は,本件合意書によって原告に認められた権利及び利益を侵害するも
のであるから,原告に対する不法行為を構成する。
(3)原告の請求金額
,,原告は平成17年3月31日に被告に1億0500万円を支払ったほか
本件契約の履行に付随する業務に相当数の人員を従事させたことにより,7
000万円程度の諸経費を負担し,さらに被告の債務不履行及び不法行為が
なければ得られたはずの逸失利益相当額の損害を被っている。そこで,原告
は,被告に対し,主位的には債務不履行に基づく原状回復請求又は損害賠償
請求として,予備的には不法行為に基づく損害賠償請求として,上記各損害
のうち1億0500万円の支払を求める。
3被告の主張
(1)本件合意書は被告による本件製品の直販又はライセンス付与を禁止する
ものではないこと
ア本件合意書は被告による本件製品の直販を禁止するものではないこと
本件合意書が被告による本件製品の直販を禁止していないことは,本件
合意書第2条(2)が,被告が原告の承諾を得ずに本件製品の「販売を第三
者に代理させまたは委託する」ことのみを禁止していることのほか,以下
のような事情からも明らかである。
(ア)被告が,平成17年3月10日の会議において被告が本件製品を直
販することを原告に説明していること
本件契約は,原告から被告に生産協力会社としてケイテック株式会社
(以下「ケイテック社」という)を紹介し,ケイテック社が被告のソ。
フトウェアを組み込んだモジュールの開発及び生産を担当し,そこで生
産された製品を被告が供給元となって,被告が直販する方法,原告を経
由して販売する方法,並びに原告及び株式会社リョーサン(以下「リョ
ーサン」という)を経由して販売する方法の3つの販売方法で販売す。
るビジネスモデルを前提にしている。現に,被告は,原告に対し,同日
の会議において,被告が本件製品を直販することを説明した。そのうえ
で,Bは,原告側出席者の面前で,原告から交付された「ZENTEK
」()デジタルTVソリューションビジネスプランと題する会議資料乙1
2枚目及び3枚目の図に被告が直販することを示す矢印を手書きで書き
込んで原告側に示している。
(イ)原告に本件製品についての独占的販売権が与えられたのであれば,
本件許諾権料は廉価に過ぎること
本件契約において,原告に本件製品についての独占的販売権が与えら
れたのであれば,本件製品からの収益は総代理店である原告の販売力に
依存することになるが,被告が本件モジュールの開発に6億円近くをか
けてきたにもかかわらず,本件合意書には原告に本件製品の最低販売量
や最低販売額を約束(コミット)させる条項がないため,被告は,被告
が開発したモジュールから,3年間全く売上げ及び収益を得られない可
能性がある。そうすると,被告が本件製品の直販を行うことができない
ことが前提になっていたのであれば,本件許諾権料1億円は廉価にすぎ
る。
(ウ)被告には決算対策のために本件契約の締結を急ぐ必要が無かったこ

,,,被告は本件契約締結当時平成17年度3月期末の利益については
予想利益と同程度の当期純利益を確保しており,決算対策のために本件
契約の締結を急ぐ必要はなかった。仮に被告にとって予想経常利益の達
成が必要であったとしても,その不足額は2000万円足らずであり,
「1億円程度」の利益が必要ということはなく,平成17年3月下旬の
会食の際に,Bが1億円程度の利益が欲しいと発言した事実は存在しな
い。
(エ)原告が平成17年9月末ころから本件製品の独占的販売権に関する
独自の主張を行うようになったこと
原告と被告は,本件契約締結までの間,半年以上にわたって交渉を行
ってきたが,原告は,それまで本件製品の独占的販売権付与を要請して
こなかったにもかかわらず,平成17年9月末ころから本件製品の独占
的販売権に関する独自の主張を行うようになった(甲9。しかしなが)
ら,上記の時点においても,原告からは被告による本件製品の直販は許
されない旨の申立てはなされておらず,平成18年3月17日の会談の
際にも,原告は,原告以外の代理店を明確にすることを被告に求め,原
告が本件製品の独占的代理店でないことを認めていた。なお,被告は,
原告に対し,平成16年11月に開催された組込み総合技術展に被告が
出展したモジュール製品は,インポーテック社と被告が共同で開発した
製品であることを説明しており,その上で,原告と被告は,品質基準の
厳しい日本のメーカーに本件製品を売り込むための生産委託先を探して
いたのであるから,本件契約が締結された当時,原告は,インポーテッ
ク社が被告のライセンスに基づいて製造した製品をインポーテック社が
原告を介さずに販売することを容認していた。
イ本件合意書は被告による本件製品のライセンス付与を禁止するものでは
ないこと
本件合意書第2条(2)によって禁止されているのは,本件製品の「販売
を第三者に代理させまたは委託すること」のみであり,同項はソフトウェ
アのライセンスの付与に何ら言及していないから,被告が第三者にソフト
,。ウェアのライセンスを付与することは本件契約に違反するものではない
(2)本件ソフトウェアが組み込まれたモジュール及びその関連電子機器のす
べてが本件合意書第1条にいう本件製品に含まれるわけではないこと
ア本件契約の前提となったビジネスモデルにおいては,原告と被告が協力
して,本件ソフトウェアを組み込んだモジュール製品を,原告が紹介した
ケイテック社において開発及び生産し,その製品を,被告が供給元となっ
て,被告から直接に又は原告を経由して販売する,という三者の協力関係
が根底にあった。原告が生産管理に携わることが本件契約の前提になって
いたことは,原告作成の「デジタルTVソリューションビジネス当社事業
戦略」と題する社内資料(甲19)に「生産管理」と明記されていること
や,本件製品の範囲を定めた本件合意書第1条には「組み込み」だけで,
も意味が通じる用語にあえて「生産する」との文言が加えられていること
からも明らかである。
本件合意書第3条の文言が「暖簾代」から「再使用許諾権料」に変更,
されたのも,原告が生産管理を担当することから,ソフトウェアのライセ
ンスが必須であることを踏まえたものである。そして,被告は,原告と被
告が協力して生産するモジュール製品以外についてまで原告に独占的販売
代理権を付与する意思はなかったことから「暖簾代」という文言の削除,
を要求したところ,原告もこれに同意し「暖簾代」を「ソフトウェア・,
ライセンスの再使用許諾権料」と修正し,本件合意書が締結されたもので
ある。
したがって,本件合意書第1条にいう本件製品は,本件ソフトウェアを
組み込み,原告と被告が協力して生産するモジュール及びその関連電子機
器に限定される。
イ本件合意書第1条にいう「関連電子機器」からは,モジュールを組み込
んだ最終製品が除外される。関連電子機器は,具体的には,B−CASカ
()ードリーダーモデム平成19年7月13日付け被告準備書面13頁参照
等を想定したものであり,最終製品であるデジタルセットトップボックス
はこれに該当しない。
(3)被告が行っている行為が本件合意書に違反しないこと
ア被告がデジタルワールド社及びインポーテック社と行っている取引は,
以下の3類型である。
(ア)デジタルワールド社が同社独自のソフトウェアを使用して製作した
デジタルセットトップボックスの被告による販売
(イ)被告のインポーテック社に対するARIB規格のモジュール基板
(ソフトウェアを搭載する前のハードウェア)の製造委託
(ウ)被告のデジタルワールド社及びインポーテック社に対するソフトウ
ェアのライセンスの付与
しかしながら,(ア)については被告のソフトウェアは用いられていない
上,デジタルセットトップボックスの販売は本件合意書により禁止されて
いない。また,(イ)のとおり,被告は,インポーテック社が製造したモジ
ュール基板に被告のソフトウェアを搭載したモジュール製品の直接販売を
行っているが,被告によるモジュール製品の直接販売は,本件合意書によ
り禁止されていない。さらに,(ウ)の被告のソフトウェアのライセンスの
付与は本件合意書により禁止されていない。
以上のとおり,被告が行っている取引は,いずれも本件合意書に違反し
ない。
なお,インポーテック社は,同社が開発したモジュール基板に被告のソ
フトウェアを搭載した製品の販売を行っており,その製品には,当時被告
が開発中であった製品と同様の型番が用いられているが,インポーテック
社が販売している製品と被告が開発した製品とは異なる製品であり,イン
ポーテック社は,被告製品の販売には関与していないから,インポーテッ
ク社による上記製品の販売は,本件製品の販売を第三者に代理させ又は委
託することを禁止した本件合意書第2条(2)に違反しない。
イ本件合意書によるビジネスモデルが頓挫した原因は,原告が適切な製造
委託先を被告に紹介せず,また,受注に結びつくような顧客を被告に紹介
しなかったことにあるから,被告が本件製品を原告に供給しなかったこと
は,本件合意書に違反するものではない。
(4)不法行為に基づく損害賠償請求について
被告は,原告の生産管理能力及び販売力を利用したモジュール製品ビジネ
スを計画し,本件合意書に規定された製品の開発,生産,販売の実現に向け
てできる限りの努力をなし,多大な金銭的及び人的投資を行い,また,無形
の技術・営業情報を提供した。被告から原告に対する商品供給が実現せず,
かつ,被告が平成18年5月にインポーテック社と業務提携について合意し
たのは,原告から適切な生産委託先の紹介もなく,受注に結びつくような顧
客の紹介もなかったためである。このような事実に照らせば,被告に当初か
ら製品供給の意思がなかった旨をいう原告の主張に理由がないことは明らか
である。
(5)本件不返還条項について
本件合意書第3条は「いかなる場合も」本件許諾権料が返金されること,
はないと定めており,この条項(以下「本件不返還条項」という)には不。
返還の効果に制限を加える文言は存在しないから,本件不返還条項は,本件
契約が有効に存在しなくなった場合にも,その効力が残存すると解すべきで
ある。この不返還条項は,本件合意書の目的達成に向けて両当事者が真摯な
努力を行ったとしても,結果として両者に平等に利益が発生しなかった場合
であっても,ビジネスリスクの問題として返還を否定する趣旨の条項である
ところ,被告は,本件合意書に規定された製品の開発,生産,販売の実現に
向けてできる限りの努力をなし,多大な金銭的及び人的投資を行い,また,
無形の技術・営業情報を提供したのであるから,本件において,本件不返還
条項が失効するとの解釈を行う理由は何もない。
4被告の主張に対する原告の反論
(1)原告が平成17年9月末ころから本件製品の独占的販売権に関する独自
の主張を行うようになった,との被告の主張について
原告は本件契約により本件製品の独占的販売権を付与されたが,平成17
年9月ころまでに,被告が原告の承諾なく原告以外の第三者と本件製品の販
売その他の提携を実施しているとの情報を入手したため,被告に対し,再三
。,,にわたり事情の説明を求めたそして平成18年3月7日の会議において
被告が直販を行っていることを認めたため,Aは同年10月のトップ会談に
おいて,被告による直販は許されない旨抗議した。原告側が同年3月7日の
会議の際に被告に原告以外の代理店を明確にするよう求めたのは被告の契約
違反の内容の全貌について説明することを求めたものであり,原告が独占的
代理店でないことを認める趣旨では決してなく,原告側は,同日の会議にお
いて契約違反状態の解消を被告に強く求めた。
なお,原告は,被告から,本件契約締結前に,インポーテック社に本件製
,,品のうちATSC仕様の製品の製造を委託することは聞いていたが原告は
あくまで被告が原告に対して本件製品を納入し,これを原告を経由して販売
することが本件合意書の前提となるビジネスモデルであると考えていたもの
であり,インポーテック社が原告を介さずに本件製品を販売することは想定
していなかった。
(2)本件許諾権料が廉価に過ぎる,との被告の主張について
原告及び被告の計画によると,平成17年度の予想売上高は10億円,平
成18年度の予想売上高は50億円であった。一方,平成17年3月10日
付けの「ZENTEKデジタルTVソリューションビジネスプラン」と題す
る会議資料(乙1)3枚目において被告の利益分として想定されていた利益
率は顧客に対する売上げの約15パーセントである。そうすると,予想通り
の売上げが実現した場合には,被告はわずか2年間で少なくとも合計約9億
円の利益を取得できることになり,原告に対して本件製品の独占的販売権を
付与しても,十分に利益を確保することができる状況にあった。
本件契約において被告による直販やライセンスの付与による潜脱行為が禁
止されていないのであれば,被告は,さじ加減一つで契約上の義務を免れる
ことができることになり,そのような不安定なものに原告が1億円を支払う
経済的合理性は存在しない。
(3)本件製品の範囲について
ア本件合意書には,原告による本件製品の開発義務又はそれに類似する義
務の記載は一切なく平成17年5月11日付けの共同プレスリリース甲,(
2)にも,原告の共同開発義務については何ら触れられなかった。また,
原告は,商社であるから,部品の調達や,完成製品の納期管理に関与する
ことはあっても,被告と共同してモジュールの開発を行うことは予定され
ていなかった。したがって,本件製品は,原告と被告が協力して生産する
モジュール及びその関連電子機器に限定されない。
イ本件合意書第1条にいう「関連電子機器」とは,モジュールに関連する
電子機器一切であり,デジタルセットトップボックスも当然に含まれる。
関連電子機器からモジュールを組み込んだ最終製品を除外すると,被告は
モジュールから最終製品までを一貫して生産委託することにより,原告に
独占的販売権を与えた本件契約の趣旨を容易に潜脱することが可能となる
ので,そのような解釈は不合理である。
(4)本件不返還条項について
本件不返還条項は,本件契約が有効に存続する場合の規定であり,本件契
約が解除によって有効に存続しなくなった場合における本件許諾権料の返還
請求を否定する趣旨ではない。本件不返還条項は,平成17年3月期末に売
上高として計上した本件許諾権料について,変更に伴う減額がなされて業績
の下方修正を行わなくてはならなくなるリスクを回避するため,被告が設け
たものである。
第3当裁判所の判断
1事実経過
前記前提事実に証拠(甲2ないし甲21,甲26,甲28ないし甲32,甲
36の1ないし甲47の2,乙1,乙2,乙9,乙11,乙12,乙14の1
ないし乙15,乙17の1ないし乙20,乙22ないし乙23の3,乙25,
,,,,,,乙26乙28の1ないし乙30乙32の3証人C証人D原告代表者
被告代表者(ただし,乙22,乙25,証人D,被告代表者については,後記
の採用しない部分を除く)及び弁論の全趣旨を併せると,以下の事実が認。)
められ,この認定を覆すに足りる証拠はない。
(1)原告と被告間の交渉の開始
ア相互秘密保持契約の締結
Aと被告の取締役であるEとの間で,両社の会社紹介及び東南アジア地
域における営業状況についての意見交換が行われたことを契機として,原
告は,モジュールの開発を行っていた被告と,平成16年9月ころ,両社
の事業における協力関係の構築に関して交渉を開始した。特に,被告は,
シャープの販売代理店である原告を通じて,被告とシャープとの間におい
て新たなビジネスが展開されることを期待していた(甲17,弁論の全趣
旨。原告と被告は,その後である同月16日,相互秘密保持契約を締結)
して本格的な交渉過程に入った(乙9。)
イ被告による組込み総合技術展への出展
被告は,平成16年11月ころ,横浜において開催された組込み総合技
術展(EmbeddedTechnology2004)に,インポ
ーテック社と協同で開発した北米向けモジュール(ATSC規格)を出展
し,同展示には,原告の担当者も訪れていた。被告は,このころ,北米向
けモジュールの開発を先行して行っており,その開発は一定の成果を挙げ
ていた(甲32,証人C1頁。)
ウ原告,被告及びシャープの平成17年1月14日の会議
原告と被告は,平成17年1月14日,シャープ本社において,シャー
プを交えて会議を行い,三者間で開発の方向性についての意見を交換した
(甲17。)
(2)本件契約の締結に至る原告と被告間の交渉の具体的経緯
ア平成17年1月20日の会議
原告と被告は,平成17年1月20日,被告本社において,被告の行っ
ているビジネスに対する原告の関与を主たる議題とする会議を行った。同
会議において,原告側は,被告に対し,ボード生産及び販売に関して役割
分担を明確にしてより係わっていきたいとの申入れをしたが,Dは,ボー
ド生産についてはBに確認しないと回答できないと述べるにとどまった。
また,Dは,原告側に対し,被告のモジュールの販売については,住友商
事株式会社(以下「住友商事」という)及び伊藤忠商事株式会社から代。
理店としてのビジネスの申し入れがあるものの,原告が被告の代理店とし
てビジネスを望むのであれば何ら反対する理由はないと述べたが,一方,
代理店契約書を取り交わすと,相互に責任が発生してしまうことから,具
体的な商談ベースから始めることを提案し,また,ボードの生産を原告が
取り扱う件に関しては,全体的な大きな枠組みの話となるため,BとAと
の間で直接話し合ってほしい,と述べた(甲17,甲32,乙22,証人
C2頁。)
原告と被告は,その後,週に1回程度の頻度で打合せや共同での営業活
動を行いながら,さらに交渉を継続した。
イ「ゼンテックのDTVソリューション」と題する書面
被告は,平成17年2月ころ「ゼンテックのDTVソリューション」,
と題する書面(甲16)を作成し,これを原告に交付した。同書面の37
頁には「サポート/保守/ロジスティクス」との表題の下に「ワンスト,,
」,「()ップ・ソリューションを実現基本的にはひとつ窓口singlewindow
で対応」と記載されていた。同頁に併せて示されたビジネススキームの図
では「ZentekTechnologyGroup「EXCE,」,
L」及び「EndCustomers」との関係について,①「Zen
tekTechnologyGroup」と「EXCEL」との間と
②「EXCEL」と「EndCustomers」との間がそれぞれ矢
印で結ばれているが,他方で③「ZentekTechnology
Group」及び他の企業と「EndCustomers」との間を結
ぶ矢印は記載されていないので,原告は,被告による直販等は想定されて
いないと理解していた(証人C6頁,証人D10頁,原告代表者7頁。)
ウ平成17年3月10日の会議
原告と被告は,平成17年3月10日,被告本社において,会議を行っ
た。同会議には,主に,原告側からAとCが,被告側からBとDが出席し
た。同会議において,原告側は,被告側の各出席者に対し「ZENTE,
KデジタルTVソリューションビジネスプラン」と題する書面(乙1)を
配布した。上記書面2枚目及び3枚目の図には,ケイテック社が被告のソ
フトウェアを組み込んだモジュールの開発及び生産を担当し,そこで生産
された製品を被告が供給元となって,原告を経由して販売する方法と原告
からリョーサンを経由して販売する方法とを想定したビジネスモデルが図
示され,上記書面3枚目の図では,原告は「総代理店」と表示され,ま,
た同図によれば本件製品の売上高のうち被告には15パーセント平,,,(
成19年7月20日付け原告補足説明書参照)が分配されることが示され
ていた。
エ平成17年3月22日の会食
AとBは,平成17年3月22日,シャープを交えた会議を行った後,
大阪市阿倍野区内に所在の「F」において,会食をした。同会食では,B
から被告の平成17年3月期末の決算が厳しく「1億円程度の利益が欲,
しい」との話が出た。そこで,Aが,Bに対し,被告のモジュールについ
て独占的販売権を得られるならば原告が被告に1億円を支払っても構わな
,。,い旨を伝えたところBはこれを了承した同会食でのやり取りを受けて
Aは,Cに対し,合意書案の起案を指示した(甲31,甲37,乙32の
3,原告代表者2頁ないし4頁,18頁。)
オ平成17年3月28日の会議
原告と被告は,平成17年3月28日にもシャープを交えて会議を行っ
た。同会議において,被告は,同日付けの「デジタルTVSOLUT【
ION】展開に向けたご提案」と題する書面(甲20)をシャープのG専
務に交付した。同書面は,原告,被告及びシャープとの間におけるデジタ
ルテレビソリューションの開発,生産及び販売に関するビジネスを推進す
る目的で作成されたものであるが,同書面の「アライアンス・フォーメー
ション」と表題の付いた図には,原告が「販売総括」として記載されてい
るほか「開発担当会社」及び「生産担当会社」が被告のソフトウェアを,
組み込んだモジュールの開発及び生産を担当し,そこで生産された製品を
,「」,被告が供給元となって販売総括である原告を経由して販売する方法
原告からリョーサンを経由して販売する方法,原告からシャープを経由し
て販売する方法,並びに原告から他の「代理店」を経由して販売する方法
とを想定したビジネスモデルが図示されているが,被告による直販及びラ
イセンス付与は想定されていなかった(甲20,原告代表者7頁。)
カ原告から被告への合意書案の送付
Cは,Dに対し,平成17年3月28日,原告において作成した「商品
取引に関する合意書」と題する書面(乙11。以下「原告合意書案」とい
う)を「合意書送付の件」と題するメール文書(乙12)に添付して。,
送信した。同メール文書は,原告合意書案に署名押印のうえ原告に送付す
ることを求めるほか「3月末までにあまり時間がございませんので,貴,
社に書類を受領のために訪問しても構いません」などの内容を含んでいた
(乙12,証人C21頁。)
原告合意書案には,次の内容の条項が含まれていた(乙11。)
(ア)前文
原告と被告は,以下に定めるところに従い,被告の製品を原告が販売
することに合意した。
(イ)製品の範囲(第1条)
被告の生産するデジタルテレビ用モデュール及びその関連電子機器と
する。
(ウ)販売地域(第2条)
被告は,原告に日本を含むアジア地域を販売地域として,被告の製品
の販売を行う代理権を付与する。
被告は,原告の承諾なしに上記の地域での被告の製品の販売を第三者
に代理させまたは委託することはできないものとする。
なお,原告合意書案に本件販売地域の具体的な定めはない。
(エ)暖簾(第3条)
本件合意にもとづく,被告の暖簾代として,双方合意した別紙記載の
金額を原告は被告に支払う。
なお,原告合意書案に添付の別紙によれば,本件許諾権料の金額は1
億円であり,支払期限の定めはない。
(オ)その他(第4条)
本合意書に定めのない販売契約の詳細については,後日,被告・原告
協議の上これを定める。
キ被告から原告に対する合意書案の送付
被告は,上記の原告合意書案について,平成17年3月29日に1度,
同月30日に2度にわたり加筆・修正を行い,その上で,DがCに対し,
加筆・修正後の草案(以下,被告が29日に修正した草案を「3月29日
合意書案,30日に修正した草案をそれぞれ「3月30日合意書案①,」」
「3月30日合意書案②」という)を,それぞれメール文書に添付して。
送信した(乙17の1ないし乙19の3。)
3月29日合意書案においては,上記カ(イ)の合意書案の対象となる製
品の範囲に関する第1条に,被告の開発したデジタルTV用ソフトウェア
を組み込み生産するモジュール及びその関連電子機器とする旨を加筆し,
上記カ(ウ)の販売地域に関する第2条に新たに販売期間の定めを設けて,
販売期間を平成17年3月1日より平成20年2月28日までの3か年と
定めたほか,上記カ(エ)の第3条の表題を「ソフトウェア・ライセンスの
再使用許諾権料」とし,同条の内容を,本件合意に基づく,ソフトウェア
のソフトウェア・ライセンスの再使用許諾権料として,双方合意した別紙
2記載の金額を原告は被告に支払うこととし,この原告が被告に支払う金
員は,いかなる場合も,返金されないことを加筆した。そして,同合意書
,,案添付の別紙2において本件許諾権料の金額が1億円であることのほか
支払期限を平成17年3月31日とすることが明記された(乙17の2,
3。)
3月30日合意書案①では,第2条の販売期間について,販売期間終了
の3か月前までに,被告・原告いずれかから文書での解約の申し出がない
限り,自動的に1か年延長されるものとし,以後もその例による,との定
めが加筆されるなどの変更が加えられ(乙18の2,3,3月30日合)
意書案②では,前文に「契約有効日を平成17年3月1日として」との,
文言が加筆された(乙19の2,3。)
ク原告の取締役会決議の開催
,,,原告は平成17年3月30日午前9時30分から原告本社において
取締役会を開催した。同取締役会においては,第1号議案として「被告と
の商品取引に関する合意書取交しならびに暖簾代1億円支払の件」が付議
され,承認可決された(甲42,原告代表者8頁。)
ケ本件許諾権料の売上計上
被告は,平成17年3月31日に原告から本件許諾権料1億円を受け取
り,これを平成17年3月期末の決算において売上げとして計上した(乙
22,証人D14頁。)
コ平成17年5月10日の連結業績予想の修正等
被告は,平成17年1月31日に平成17年3月期末の連結業績予想を
公表していたが,同年5月10日に「平成17年3月期連結業績予想の,
修正に関するお知らせ」と題する書面(甲14)により,被告の平成17
年3月期末の連結業績予想を下記のとおり上方修正した。そして,同月1
8日には,被告の平成17年3月期末の連結損益計算書が下記のとおりに
確定している(甲38。)

売上高経常利益当期純利益
平成17年1月31日に44億円2億0100万円1億0300万円
おける予想(A)
修正予想(B)56億4600万円2億8200万円2億4700万円
増減額(B−A)12億4600万円8100万円1億4400万円
サ被告の株価と転換社債の残高
被告の株価は,平成16年4月に46万円台の高値をつけた後,平成1
7年3月においては21万円台に下落したが,上記のとおり業績を上方修
正した後においては,同年7月には再度40万円台まで持ち直した(甲3
9の1,2,乙30。また,被告は,本件契約締結当時,転換社債(転)
換価格は24万6800円である)を発行していたところ,上記のとお。
り株価が上昇に転じた結果,転換社債の転換状況についても,同年6月末
における残高が6億3000万円だったにもかかわらず,同年7月31日
における残高は2億7000万円に減少した(甲40の1ないし甲41の
1。)
(3)本件契約締結後の経緯
ア被告とケイテック社間の製造許諾契約
高水準の品質管理が可能な生産会社に日本向けのARIBモジュールの
,。生産を委託したいと考えていた被告は原告に生産会社の紹介を依頼した
そこで,原告は,平成17年3月ころ,ケイテック社を被告に紹介した。
そして,被告は,ケイテック社との間で,同年4月1日,被告の開発した
製品をケイテック社が製造することを許諾する契約(以下「本件製造許諾
契約」という)を締結した(証人C8頁,11頁,証人D2頁,3頁,。
原告代表者16頁。被告とケイテック社との間で作成された製造許諾契)
(),「」約書乙20の別紙1には被告がケイテック社に許諾する製造業務
が「(1)下記のDTVボード(Moduleのハードウェア)の製造①
ARIB−日本向け,②ATSC/EIA708B及びCableCAR
,,,D−北米向け③DVB−T及びMPH又はMHEG−欧州アジア向け
(2)前号に付帯関連する業務」であることなどが定められている。
イ被告のハイセンス社に対する本件製品の販売の承諾
Dは,本件契約が締結されたころ,原告に対し,中国の青島を拠点とす
るハイセンス社に対するモジュール製品の販売について,住友商事を代理
店とすることの承諾を求めた。原告は,従前から被告が住友商事を介して
ハイセンス社との交渉を行ってきた経緯に関する被告の説明を了承し,本
件契約の特例として,被告のハイセンス社に対するモジュール製品の販売
に限定して住友商事が販売代理店となることを承諾した(甲31。)
ウモダン社社長との会食
Bは,平成17年4月12日に,当時被告が製造・開発するデジタル放
送受信用チューナーモジュールを販売しようとしていたインドネシアのモ
ダン社の社長とAを交えて会食を行い,モダン社の社長をAに引き合わせ
た。その際,Bは,Aを商談の引継先として紹介した(甲31,甲32,
証人C7頁。)
エ原告第46期上期事業所長会議における講演
原告と被告は,平成17年4月28日,原告の第46期上期事業所長会
議において「デジタルテレビの市場動向及びゼンテックのデジタルテレ,
ビソリューション」と題する講演を共同して行い,同講演においては,原
告が同日付けで作成した「デジタルTVソリューションビジネス当社事業
戦略」と題する書面が配布された(甲19,甲26。同書面の10頁に)
は「ビジネススキーム」との表題の下に,原告と被告の間におけるビジ,
ネススキームが図示されている。この図には,生産協力会社として「ケイ
テック「インベンテック「A社「B社」が挙げられており,被告」,」,」,
がこれらの生産協力会社に本件製品の開発及び生産を委託し,生産された
本件製品を原告に販売し,原告が顧客に販売するか若しくは原告からリョ
ーサンを通して顧客に販売するというビジネススキームが示されている
が,被告による直販等を想定した図示はなかった。原告は,被告に対し,
講演開催に先立ち,同書面を交付していたが,被告から同書面の内容につ
いてのクレームはなかった(証人C7頁。)
オ平成17年5月11日のプレスリリース
原告と被告は,平成17年5月11日,両社が連名してのプレスリリー
スにおいて「ゼンテック製のデジタルTV受信用ソフトウェア(北米・,
欧州・アジア・日本地域向け規格,商品名MediaStack-ATSTM
C/CableCARD/ARIB/DVB)を組み込んだデジタルTV
ハードウェア・モジュールを,エクセルの販売チャネルを通じ,日本及び
。,北米・欧州・東南アジアの各市場で販売する事で業務提携致しました又
両者は販売強化のため販売力ならびに技術力を有する大手代理店をパート
ナーとして加える事も検討しております「エクセルはゼンテック製モ。」,
ジュールの部材調達から販売,テクニカルサポート迄を総合的に担当」す
るなどという発表をした(甲2。)
また,原告は,同日「業務提携のお知らせ」と題するプレスリリース,
において,次のように発表した(甲18。)
(ア)業務提携の理由及び内容
原告と被告は,北米,欧州及び東アジアの各地域において,被告が開
発した北米・日本・欧州・中国向け規格(ATSC/CableCar
d,ARIB,DVBなど)に対応したデジタルテレビ分野におけるソ
フトウェアを含むハードモジュール販売を業務提携して行う。
(イ)原告と被告との役割分担
被告において,製品戦略立案,市場調査,ソフトウェアやモジュール
,,の開発・設計生産委託先に対する技術・品質面の支援と管理を担当し
原告においては,生産委託先に対する主要部材の調達と生産管理,受注
販売,顧客に対するテクニカルサポートを担当する。
(ウ)事業計画
上記業務提携においては,平成17年度において10億円,平成18
年度において50億円の売上げを計画している。
カ平成17年6月9日の西湖電子に対するプレゼンテーション
,,,原告と被告は平成17年6月9日中国にそれぞれの担当者を派遣し
中国の西湖電子集団有限公司(以下「西湖電子」という)に対して,共。
同で,被告のデジタルテレビソリューション製品に関するプレゼンテーシ
ョンを行った。上記プレゼンテーションにおいては,西湖電子から,製品
を欲しい時にすぐ出荷してもらえるか,中国向けにより低い価格提示がで
きるか,中国向けの仕様(DVB−C)に対応した製品を生産できるかな
どの質問があった。また,デジタルテレビソリューションに関してデモン
ストレーションを実施したところ,西湖電子からは,画像はきれいだが,
一見して製品が高額そうな印象を受けたので,MPEG2などの機能を追
加して,高機能のハイエンドモデルとして製造,販売したらどうかという
提案もなされた(甲21。)
キ平成17年6月27日のメール文書
原告は,被告に対し,平成17年6月27日「ビジネスを進める上で,
の懸案事項や,ビジネスに対する考え方等の面で多少のズレが発生してい
るようにも最近感じており,一度添付の議題で話し合いを持ちたいと考え
ております」などという内容のメール文書を送信したが,原告のいう懸。
案事項とは,被告との台湾・中国における販売戦略を確認することや資料
(,,関係の共有化を図ることなどを内容とするものであった甲36の12
乙22。)
ク原告によるNEC−PPの紹介
ケイテック社は,被告に対し,平成17年6月ころ,モジュールのハー
ド部分を製造する技術力を欠くことを理由として,本件製造許諾契約を解
消する旨を表明した。そこで,原告は,同年8月ころ,被告に対し,ケイ
テック社にかわる生産協力会社として,NECパーソナルプロダクツ株式
会社(以下「NEC−PP」という)を紹介し,NEC−PPは,被告。
に対し,製造委託契約締結のための申入れをしたが,被告はこれに応じな
かった(甲31,乙2,証人C25頁,証人D6頁,16頁,17頁。)
ケ平成17年8月15日の東傑電気に対するプレゼンテーション
原告は,平成17年8月15日,中国の東傑電気有限公司(以下「東傑
電気」という)の担当者に被告のデジタルテレビソリューションのデモ。
ボードを示したところ,被告の資料は分かりにくく,またデモンストレー
ションもATSC規格に対応する機能をすべて備えていることを確認でき
る内容のものではなかったため,東傑電気側の反応は,ビジネスのレベル
の話は難しい,というものであった。そして,本件製品を中国企業に販売
する商談は具体化しなかった(甲43,弁論の全趣旨。)
コ平成17年9月30日のメール文書等
その後,被告から連絡のない状態が続き,他方,インポーテック社が北
米市場向け(ATSC規格)の被告のモジュール製品の販売を行っている
との情報や住友商事がハイセンス社以外の者に被告製品を販売していると
の情報を得たことから,原告は,平成17年9月30日,Bに宛てて,本
件契約が想定しているビジネスルートは「INT→ZENTEK→EXC
EL→下記販売地域の顧客」であったところ,被告がこれ以外のビジネス
ルートを考えているのであればその内容及び方針を教えて頂きたい旨を記
したメール文書を送信した。また,原告は,同年11月13日,同年12
月1日,同月28日及び平成18年2月3日にも,被告が今後原告とどの
ような枠組み・関係でビジネス展開することを考えているのかをただす内
容のメール文書を送信した。しかしながら,被告は,これに対して明確な
回答をしなかった(甲9,甲45の1ないし3,甲31,甲32,乙28
の1ないし3。)
サ原告の被告に対する部品の提供
原告は,平成17年9月から平成18年2月までの間,被告の日本向け
モジュール(ARIB規格)開発のための部品を被告に提供したが,その
中には無償で提供したものも含まれていた。また,原告は,被告の要請に
応じて被告の製造委託先向けの部品の手配を行った。一方,原告は,平成
17年9月ころ,被告に対し,モジュール製品のデモンストレーション用
のサンプル提供を求め,同年12月1日にも,重ねてメール文書でサンプ
ルの提供を求めたが,被告はこれに応じなかった(甲31,甲32,甲4
4,甲45の1,乙23の1ないし3。)
シ平成18年2月20日プレスリリース等
被告は,平成18年2月20日付プレスリリースにおいて「デジタル,
(,,「」)ワールド社本社:韓国京畿道果川市代表取締役社長:H以下DW
と欧州,アジア,中東向けデジタルSTBの開発・販売について提携し,
今年度2月より本格出荷を開始したことを発表いたします。既に10万台
以上の受注を獲得しており受注金額は6億円以上になる見込みです,。」
「,,,,ゼンテックはDWとの今次提携を皮切りに今後も欧州アジア中東
オーストラリアを含むオセアニア地域向けに対し,新商品開発をDWと共
同で行ってまいります」などという発表を行い(甲3,これを受けて,。)
同月21日に,ウェブ上に,上記のプレスリリースを一部引用した内容の
「ゼンテック韓国デジタルワールドとSTBで提携」と題する記事が掲
載された(甲4。)
ス平成18年3月7日の会議等
平成18年3月7日に,被告本社において,原告と被告の担当者を集め
た会議が開催された。同会議において,原告側は,被告に対し,本件契約
の主旨に立ち返り,販売ルートを元に戻すように求めた。これに対し,D
は,被告側は,インポーテック社と加賀電子が製造した製品を,被告が直
販することも,被告を介して原告のみならず加賀電子,インポーテック社
が販売することも許容されると考えていると述べ,その旨をホワイトボー
ドに図示した。そこで,原告側は,被告側に対し,同月末までにAとBと
の会談を実現させること,同年4月1日からお互いの顧客リストを出し合
って営業活動を行うことを要請した。しかしながら,被告がBの日程の調
整がつかないことを理由にトップ会談の開催に応じなかったため,同年3
月末までにはトップ会談は実現しなかった(甲28,甲29,甲30,甲
32,乙14の1,2,証人C9頁,10頁,証人D7頁,8頁,弁論の
全趣旨。)
セ平成18年5月25日プレスリリース等
被告は,平成18年5月25日付プレスリリースにおいて「台湾にお,
いて,現地の最有力企業InventecGroupのInvente
cMultimedia&TelecomCorporatio
n(以下「Importek)と,商品開発,販売,サポートおよび,」
生産を含む総合的戦略パートナー契約を正式調印したことを発表いたしま
す「今回の両者の提携により,台湾のデジタルTVセットメーカーに。」,
対し,品質テストも含む総合的なARIB規格デジタルTV受信ソリュー
ションの提供が可能になりました。Importekは台湾市場でゼンテ
ック・IMTソリューションの積極的販売活動を展開しており,既に数社
と契約交渉を進めております」などという発表を行い(甲5,これを。)
受けて,同日,ウェブ上に,上記のプレスリリースを一部引用した内容の
ゼンテック台湾インポーテックと提携と題する記事が掲載された甲「」(
6。)
ソ平成18年9月12日の新聞記事
平成18年9月12日には,日本経済新聞朝刊の誌上において「デジ,
タルTV用半製品ゼンテック,台湾社と開発」と題して,被告が「パソ
コンメーカーのASUS(華碩電脳)子会社で半導体生産のアスメディア
と電子部品メーカー,インポテックと組む。アスメディアがモジュールの
チップを提供し,動作するためのソフトウェアはゼンテックが開発する。
インポテックは開発した製品を生産する。販売は三社共同で行う」など。
という内容の記事が掲載された(甲7。)
タ平成18年10月のトップ会談
原告と被告は,平成18年10月16日及び同月26日に,東京パレス
ホテルにおいて会談を行った。同月16日の会談には,原告からはAとC
が,被告からはBが出席し,同月26日の会談には,原告からはAが,被
告からはBとEが出席した。これら会談において,Aは,本件製品の販売
をすべて原告を介して行うことが本件契約の想定する販売ルートであるか
ら,本件契約の主旨に立ち返り,販売ルートを元に戻し,これに応じられ
なければ1億円を返還するようにBに求めた。Bは,代替案として,被告
が開発を進めている新規事業で提携することを原告に提案したが,原告が
,,既にシャープとの間で同種の新規事業の提携を進めていたことからAは
Bの提案を断った(甲31,乙25,乙26,証人C11頁,原告代表者
9,10頁,被告代表者7,8頁。)
チ平成18年11月24日の会議等
原告は,被告に対し,平成18年11月20日付けで「通知書」と題す
る書面を送付し,本件合意書に違反して原告の承諾なく被告が第三者に本
件製品の販売を代理させ,本件製品の販売を委託している状態を是正する
よう求めた(甲10。そして,同月24日に,原告訴訟代理人らと被告)
訴訟代理人との会議が行われたが,その際,被告訴訟代理人は,原告訴訟
代理人に対し,①被告は直販を行っているにすぎず,本件合意書には違反
しないのではないか,②原告がNDSから本件製品と類似の製品を購入し
ているのではないか,③被告が販売教育を行ったCなどが上記の類似製品
の販売に携わっていることは信義則に違反するのではないか,④原告が被
告に対して顧客を紹介した事実がないのではないかなどと問いただした。
そこで,原告は,被告に対し,同年12月7日付けでこれらの質問に答え
る「回答書」と題する書面を送付し,原告側の見解を明らかにした上,原
告が被告に1億0500万円及び関連費用を支払った問題についての解決
を迫った(甲11。これに対し,被告は,原告に対し,同月18日付け)
の「照会書」と題する書面を送付し,原告が被告から入手した技術情報を
NDS及び株式会社ビー・エイチ・エーに開示してモジュールの開発,生
産等を行っているのではないかという点について改めて書面による回答を
求めた(甲15。)
ツ平成19年1月15日回答書による原告からの和解の提案
原告は,被告に対し,平成19年1月15日付けの「回答書」と題する
書面(以下「1月15日回答書」という)により,原告が被告側から提。
示を受けた技術情報を第三者に開示した事実は存在しないことなどを回答
した上,被告との間の紛争の早期解決を図るため,被告が所定の期日まで
に原告に1億0500万円を支払うことなどを内容とする和解条項案を提
示するとともに,任意の解決が見込めない場合には法的手段により解決を
図ることも検討せざるを得ないことを表明した(甲12。そして,原告)
は被告に対し同年2月20日付けの通知書と題する書面以下2,,「」(「
月20日通知書」という)を送付し,改めて原告が1月15日回答書に。
おいて提案した和解条項案の受諾の可否を再考するよう被告に求めた(甲
13。なお,2月20日通知書には,被告訴訟代理人から,被告が和解)
金2000万円を原告に支払い,本件の紛争を解決することを内容とする
ものであれば受諾の余地がある旨の話があったこと,平成18年11月2
4日の会議の際に,被告側から,インポーテック社との間に予定されてい
る業務提携については,被告においても本件契約に違反しているとの認識
を有しているとの発言があったことが記載されている。
テ被告の平成19年3月2日付け通知書
被告は,原告に対し,平成19年3月2日付け通知書において,本件合
意書第1条が,本件製品の範囲を「被告の開発したデジタルTV用ソフ,
トウェアを組み込み生産するデジタルテレビ用モジュール及びその関連電
子機器とする」と定めているのは,その対象を原告と被告とが協力して。
生産するものに限定する趣旨であり,それ以外の機器の販売を被告が第三
者に代理させまたは委託することは妨げられないから,被告は,本件合意
書に一切違反していない旨を通知した(甲8。)
ト本件訴訟の提起
原告は,平成19年3月23日に本件訴訟を提起した。
(4)以上の認定につき,被告の関係者は,①平成17年3月28日の会食の
際に平成17年3月期末の被告の決算が厳しいと述べたことや,1億円の利
益が欲しいと述べたことはない(乙22,乙25,②Bが同年4月12日)
にモダン社の社長をAに引き合わせたのは原告の部品の納入先として紹介し
たものであり,モダン社と被告との商談の引き継ぎ先として紹介したもので
はない(乙25,被告代表者6頁)旨を供述及び証言するけれども,これら
の供述及び証言は,これに反する原告の関係者の供述及び証言(①について
は甲31,原告代表者3頁,②については,甲31,甲32,証人C7頁)
に照らし,たやすく採用し難い。
2被告による直販又はライセンス付与が本件契約に違反するか否かについて
(1)前記前提事実及び認定事実等に基づいて,まず,被告による本件製品の
直販が本件契約に違反するか否かについて検討する。
ア本件合意書においては本件製品の販売をすべて原告を介して行うことが
前提となっていたと見られること
前記第2の1(3)のとおり,本件合意書第2条(1)は,被告が,原告に対
し,本件製品に組み込まれた本件ソフトウェアのソフトウェア・ライセン
スの再使用許諾の権利及び本件製品の販売を行う代理権を付与する旨,同
条(2)は,被告が,所定の期間中,本件販売地域において,原告の承諾な
しに本件製品の販売を第三者に代理させまたは委託することはできないも
のとする,と定めている。このような条項が存在する場合には,被告が原
告の承諾なしに本件製品を直接第三者に販売できないことがその前提にな
っており,被告の直販を認める場合にはその旨の条項が別途設けられるの
が通常であると考えられるところ,本件合意書中には,本件製品を被告が
直接第三者に販売することを前提とした条項は存在しない。
本件合意書が作成された後の平成17年4月28日に作成された「デジ
タルTVソリューションビジネス当社事業戦略」と題する文書(甲19)
10頁の「ビジネススキーム」という表題の図によれば,このビジネスス
キームは,ケイテック社のみならず,インポーテック社及びその他不特定
の会社からなる各生産協力会社において本件製品の開発及び生産をし,被
告が本件製品の供給元となって本件製品を一元的に原告に販売し,原告が
本件製品を顧客に販売するか若しくは原告からリョーサンを通して顧客に
販売するというものであったことが認められる(上記1(3)エ。また,)
本件契約締結の前後に作成された会議資料等(甲16,甲20)にも,同
,,「」,「」様の趣旨が図示されているほか原告について総代理店販売統括
などの表示がされている(上記1(2)イ,オ。また,Bは,同月12日)
に,被告が製造・開発するデジタル放送受信用チューナーモジュールを販
売しようとしていたインドネシアのモダン社社長をAに引き合わせ,その
際,Aを商談の引継先として紹介している(上記1(3)ウ。)
これらの事実によれば,本件契約を締結した原告と被告が予定していた
ビジネススキームは,被告が生産協力会社に委託して生産させた本件製品
を一元的に原告を通じて販売することにより,原告と被告との間で販売利
益を配分するというもので,被告による直販は予定されていなかったこと
が推認される。
イ原告が被告に支払った1億円は,被告から原告に付与された本件製品の
販売に関する権利の対価であると見られること
,(,,,上記1(2)カキ及び証拠甲14甲38ないし甲41の2乙12
乙29の1ないし乙30)を併せると,原告と被告は,平成17年3月末
日までに本件契約を締結するために急いで本件合意書の条項を詰める作業
を行ったこと,3月29日合意書案において,被告から原告に対し,①原
告が被告に支払う費用の名目を暖簾代からソフトウェア・ライセンスの再
使用許諾権料に改めること,②原告が被告に1億円を支払う期日を同月3
1日とすること,③本件不返還条項を盛り込むことを提案し,原告がこれ
を了承したことが認められ,これらの事実に,暖簾代には会計上全額を受
領した日の売上げとして計上することができない(契約期間が数年にわた
る場合,分割して期間計上しなければならない)という問題があることを
併せ考えると,被告が,同日までに原告から1億円の本件許諾権料を受け
取り,これを平成17年度の売上げとして計上することを強く望んでいた
ことが推認される。
また,上記1(2)ケ,コ,サのとおり,被告は,本件契約締結当時,転
換社債(転換価格は24万6800円である)を発行していたところ,。
被告の株価は,平成17年3月においては21万円台であって上記転換価
格に達していなかった。ところが,本件契約が締結された後,被告の平成
17年3月期末の連結業績における経常利益は2億8200万円,当期純
,,利益は2億4700万円となり同年1月31日の時点での予想に比べて
経常利益が8100万円,純利益が1億4400万円それぞれ増加した。
そして,本件契約が締結された後,被告の株価は上昇して同年7月には約
40万円に達し,これに伴って,被告の転換社債の残高は,同年6月末に
おける残高6億3000万円から,同年7月31日における2億7000
万円に減少した。
これらの事実を併せ考えると,被告が,決算対策上の理由から,平成1
7年3月期末までに原告から1億円の本件許諾権料を受け取り,これを売
上げとして計上しようとしていたことが推認される。
この点について,被告は,被告が上場している大証ヘラクレス市場にお
いては,売上高について10パーセント,経常利益又は純利益について3
0パーセント以上の変動がなければ適時開示は不要であるとの開示基準が
定められており(乙29の1,2,本件許諾権料が売上げに計上されな)
かったとしても,開示基準に該当しないような業績の変動は大きな問題で
はなく,予想経常利益等の未達成を補うために被告が利益を欲していたと
いう事実はないと主張する。しかしながら,適時開示を要しない変動であ
,,ったとしても企業の期末の業績が予想経常利益等に到達しない場合には
市場及び投資家に対して少なからぬ影響を及ぼし,当該企業の株価が低迷
する可能性が高いことに照らせば,やはり被告の上記主張は採用し難い。
以上検討したところによれば,原告が被告に支払った1億円は,被告か
ら原告に付与された本件製品の販売に関して特別の地位に付くことの対価
としての実質を有するものと認められる。
ウ本件製品の独占的販売権に関する原告の主張を被告が否定しなかったこ

原告が,被告に対し,平成17年9月30日に,本件製品の販売をすべ
て原告を介して行うことが本件契約の前提になっていることを指摘し,被
告がこれ以外のビジネスルートを考えているのであればその内容及び方針
を教えて頂きたい旨を記したメールを送信し,同年12月1日,同月28
日及び平成18年2月3日にも,被告の考え方をただす内容のメールを送
信したのに対し,被告は,明確な回答をしなかった(上記1(3)コ。ま)
た,同年10月のトップ会談において,Aが本件製品の販売をすべて原告
を介して行うことが本件契約の想定する販売ルートであると述べた際に
も,被告側はAの考えを否定する反論をしていない(上記1(3)タ参照。)
これらの事実は,本件製品の販売をすべて原告を介して行うことが本件契
約の前提になっていたことを被告が認めていたことをうかがわせる。
エまとめ
これらの点を考慮すれば,本件契約においては,原告のみが本件製品を
販売することが予定されていたと認められるから,被告が原告の承諾を得
ずに本件製品を第三者に直接販売することは,本件契約に違反するという
べきである。
(2)これに対し,被告は,①平成17年3月10日の会議において,被告が
本件製品を直販することを説明したうえで,Bが,原告側出席者の面前で,
「」原告が交付したZENTEKデジタルTVソリューションビジネスプラン
と題する会議資料(乙1)2枚目及び3枚目の図に被告が直販することを示
す矢印を手書きで書き加えて原告側に示したこと,②原告に本件製品の独占
的販売権を与えることに対する対価としては,1億円は廉価に過ぎること,
③原告が同年9月末ころから本件製品の独占的販売権に関する独自の主張を
行うようになったことなどを挙げ,被告による本件製品の直販が本件契約に
違反しない旨主張するので,以下,これらの主張について検討する。
ア平成17年3月10日の会議における本件製品の直販に関する被告の説
明について
被告は,平成17年3月10日の会議において,被告が本件製品を直販
することを説明し,Bが,原告側出席者の面前で,原告が交付した「ZE
NTEKデジタルTVソリューションビジネスプラン」と題する会議資料
(乙1)2枚目及び3枚目の図に被告が直販することを示す矢印を手書き
で書き加えて原告側に示した旨主張し,証人Dと被告代表者がこれに沿う
供述をしている。
しかしながら,原告は,同日の会議において「ZENTEKデジタルT
Vソリューションビジネスプラン」と題する資料(乙1)を手持ち資料と
して被告側の各出席者に配布したのものであるところ,そのうちの一部に
被告の主張に沿った矢印による書き込みがされているものが現存するとし
ても,そのことから,その書き込みの内容を原告側が了承したことを推認
することは困難というほかない。そして,証人C及び原告代表者は,D及
び被告代表者とは異なり,原告が交付した「ZENTEKデジタルTVソ
リューションビジネスプラン」と題する会議資料(乙1)2枚目及び3枚
目には当初手書きの書き込みは一切なく,同会議の最中にも,Bが同書面
2枚目の「ZENTEK」と「日本・中国・台湾・アジア市場」との間を
結ぶ矢印や同書面3枚目の「ZENTEK」と「顧客」との間を結ぶ矢印
を書き込んで,これを原告に示し,被告が直販することを説明したなどと
いう経緯はなかったと供述している(証人C3頁,原告代表者6頁,21
頁。また,本件契約締結後である同年4月28日に作成された「デジタ)
ルTVソリューションビジネス当社事業戦略」と題する文書(甲19)に
も,被告による直販等を想定した記載がない。
これらの点を考慮すれば,被告の上記主張は,たやすく採用し難い。
イ本件許諾権料が廉価に過ぎるとの被告の主張について
被告は,本件許諾権料が廉価に過ぎる旨主張するけれども,上記1(2)
ウ,(3)オ,証拠(甲18,乙1)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,
本件契約に基づく事業から,平成17年度において10億円,平成18年
度において50億円の売上げを予想し,本件製品の売上高のうち,15パ
ーセントを被告に分配する予定であったことが認められ,この予想が実現
すれば,3年間にわたって原告に本件製品の独占的販売権を付与したとし
ても,被告が開発費を回収することも不可能ではなかったと考えられる。
一方,原告が被告の要請に応じて平成17年3月31日に1億円を支払っ
ていることからすれば,本件契約を締結するに当たっては,原告側も相応
のメリットがあると考えていたはずであるから,本件契約の締結により本
件製品の独占的販売権が原告に付与されると解しても不合理ではない。ま
た,証拠(甲32)によれば,本件製品の独占的販売権を長期にわたって
原告に与えると契約内容が原告に有利になり過ぎるとの判断から,3月2
9日合意書案において,被告の提案により契約期間が3年間に限定された
ことが認められる。
これらの事情を考慮すれば,1億円という金額が被告が原告に本件製品
の独占的販売権を付与する対価として廉価にすぎると断定することはでき
ない。
ウ原告が平成17年9月末ころから本件製品の独占的販売権に関する独自
の主張を行うようになった,との被告の主張について
被告は,原告が,平成17年9月末ころから本件製品の独占的販売権に
関する独自の主張を行うようになった,などと主張するけれども,上記1
(3)の各事実によれば,被告は,本件契約が締結された当時は,原告に本
件製品の販売をゆだねる態度を取っていたこと,原告は,同年の夏ころ,
被告が原告の承諾を得ずに原告以外の者に本件製品を販売したり,第三者
に本件製品を販売させているとの情報を得たことから,メールを送信して
被告に事情の説明を求めたこと,平成18年3月7日の会議において,本
件製品の販売をすべて原告を介して行うことが本件契約の前提になってい
る旨主張して,被告に対し,契約違反の状態の是正を求め,同年10月の
トップ会談においてもAは同様の主張をしていることが認められるのであ
るから,本件契約が前提としているビジネススキームに関する原告の主張
に変化があったとは認められない。
(3)次に,被告が第三者にライセンスを付与することが本件契約に違反する
か否かについて検討する。
被告は,本件合意書第2条(2)によって禁止されているのは,本件製品の
「販売を第三者に代理させまたは委託すること」のみであり,同項はソフト
ウェアのライセンスの付与に何ら言及していないから,被告が第三者にソフ
トウェアのライセンスを付与することは,本件契約に違反するものではない
旨主張している。
しかしながら,本件合意書第2条(1)において,被告は,原告に本件ソフ
トウェアのソフトウェア・ライセンスの再使用許諾の権利を付与しているこ
と,本件契約においては,本件ソフトウェアを組み込んで生産されるモジュ
ール及びその関連電子機器の販売をすべて原告を介して行うことが前提とな
っていたと見られる(上記2(1)ア)ところ,仮に被告が上記ソフトウェア
のライセンスを原告以外の第三者に自由に付与することができるとすれば,
前記の前提が崩れ,原告が本件契約を締結した目的を達せられなくなること
は容易に想像できるから,本件契約においては被告が原告の承諾なしに本件
ソフトウェアのライセンスを第三者に付与する行為も禁止されていると解す
べきであり,被告の主張は採用できない。
(4)以上によれば,本件契約において,原告と被告との間で,原告が本件製
品を本件販売地域内で独占的に販売することを被告が認める旨の合意が成立
したものと認められる。
3本件契約によって被告が直販を禁止されている商品の範囲について
(1)被告は,原告が生産管理に携わることが本件契約の前提になっていたと
して,本件合意書第1条にいう本件製品の範囲は,本件ソフトウェアを組み
込み,原告と被告が協力して生産するモジュール及びその関連電子機器に限
定される旨主張するが,原告は,本件製品は,本件ソフトウェアを組み込ん
だモジュール及び関連する電子機器一切であり,原告と被告が協力して生産
したものに限定されないと主張している。
そして,証拠(甲17,甲19)によれば,原告が平成17年1月20日
の会議において,被告に対し,ボードの生産及び販売により係わっていきた
いとの申入れをしたこと(甲17,同年4月28日に作成された「デジタ)
ルTVソリューションビジネス当社事業戦略」と題する文書(甲19)10
頁の「ビジネススキーム」という表題の図中に原告が「生産管理」をするこ
とが記載されていることが認められる。
しかしながら,本件合意書には,原告が本件製品の生産に協力する義務を
負っていることを定めた条項は盛り込まれていない。また,証拠(証人C2
,),,,4頁原告代表者23頁及び弁論の全趣旨によれば原告は商社であり
本件製品の開発及び製造を行うために必要な技術力,製品製造のノウハウや
製造設備を有していなかったことが認められる。さらに,証拠(乙20)に
よれば,被告が同月1日にケイテック社との間で締結した本件製造許諾契約
(上記1(3)ア)では,被告からケイテック社に直接,機器,部品,設計資
料,データ,コンピュータプログラム等が貸与されることになっており,原
告が製品の製造に関与することは予定されていないことが認められるが,こ
の事実は,本件ビジネススキームにおいては,被告が生産会社に対して直接
開発や生産の委託をすることになっており,原告は被告から販売を受ける立
場にあったことを示唆するものである。
これらの事実によれば,原告と被告との間で,本件合意書第1条にいう本
件製品の範囲を,本件ソフトウェアを組み込み,原告と被告が協力して生産
するモジュール及びその関連電子機器に限定する旨の合意が成立したとは認
め難く,上記「デジタルTVソリューションビジネス当社事業戦略」と題す
る文書中の「生産管理」とは,原告において部品の供給と完成品の納品のス
ケジュール管理を行うという程度の意味であると解するのが合理的である。
以上のとおりであるから,被告の上記主張は採用できない。
(2)被告は,本件合意書第1条にいう「関連電子機器」は,具体的には,B
−CASカードリーダーモデム等を想定したものであり,最終製品であるデ
ジタルセットトップボックスはこれに該当しない旨主張する。
しかしながら,本件合意書には,関連電子機器の範囲から最終製品を除外
する趣旨の文言ないし条項は存在しないこと,モジュールを組み込んだ最終
製品が上記関連電子機器から除外されるならば,被告はモジュールから最終
製品までの生産をすべて第三者に委託することにより,原告に独占的販売権
を付与した本件契約の趣旨を容易に潜脱することができることになり,その
ような解釈は不合理であることからすれば,本件合意書の対象となる上記関
連電子機器とは,モジュールに関連する電子機器一切を意味し,B−CAS
カードリーダーモデム等に限定されないと解すべきであるから,被告の上記
主張は採用できない。
4被告の債務不履行を理由とする本件契約の解除について
(1)証拠(D26頁,29頁,被告代表者21頁ないし23頁)及び弁論の
全趣旨によれば,被告が,インポーテック社にARIB規格のモジュール基
板の製造を委託し,これに被告のソフトウェアを搭載したモジュール製品の
直販を行っていること,被告が,デジタルワールド社及びインポーテック社
に対して本件モジュールに組み込まれるソフトウェアのライセンスの付与を
行っていることが認められる。
そして,上記2で検討したところからすれば,被告がモジュール製品を直
販すること及び被告のソフトウェアのライセンスを第三者に付与すること
は,いずれも本件合意書に違反する行為であると認められる。
(2)また,証拠(甲46の1ないし47の2,乙15,16,証人D,被告
代表者)によれば,被告のモジュール(ARIB規格)である「Kabut
o」の製品番号は「ML997「KabutoLite」の製品番号」,
は「ML991」であり「Kodachi」の製品番号は「ML191」,
であるのに対して,インポーテック社においても製品番号「ML191,」
「ML991」及び「ML997」のモジュールを製造,販売していること
が認められる。被告は,インポーテック社が販売している製品には,被告の
ソフトウェアが搭載されているものの,モジュール基板はインポーテック社
が開発したもので,インポーテック社が販売している製品と被告が開発した
製品とは異なる製品である旨主張し,乙第16号証(インポーテック社の上
席副社長であるI作成の陳述書)中にも,この主張に沿う記載があるけれど
も,インポーテック社が販売している製品と被告が開発した製品との型番が
同一であること,被告が,インポーテック社にARIB規格のモジュール基
板の製造を委託していることからすれば,インポーテック社が販売している
製品の基板が被告からの技術情報の提供と無関係に製造されたものとは考え
難い。
そうすると,インポーテック社が販売している上記製品は,被告が開発し
た製品と同視することができ,上記製品は,本件製品に当たると解されるか
ら,インポーテック社が上記製品を製造,販売することを被告が容認してい
たことは,本件製品の販売を第三者に代理させ又は委託することを禁止した
本件合意書第2条(2)に違反するというべきである。
(3)そして,原告が被告に対して書面で是正を求めたにもかかわらず,被告
がこれに応じなかったため,原告が本件訴訟を提起し,訴状の送達をもって
本件契約を解除する旨の意思表示をしたことは,前記第2の1(5),上記第
3の1(3)ツないしトのとおりであるから,結局,本件契約自体が被告の債
務不履行によって解除されたと認められる。
5本件不返還条項について
(1)被告は,原告による本件契約の債務不履行解除が上記のとおり認められ
るとしても,前記第2の3(5)のとおり,本件許諾権料がイニシャル・ライ
センス・フィーであることを示すために本件不返還条項が規定されているの
で,被告は,原告に対し,本件許諾権料の返還義務を負わないと主張する。
しかしながら,本件不返還条項は,本件契約の一内容をなすものであると
ころ,本件契約自体が被告の債務不履行によって解除されたと認められる以
上,被告は,本件不返還条項を根拠に,原告に対する本件許諾権料の返還を
免れることができないというべきである。
(2)また,被告は,本件合意書に規定された製品の開発,生産,販売の実現
,,,に向けてできる限りの努力をなし多大な金銭的及び人的投資を行いまた
無形の技術・営業情報を提供したのであるから,本件において,不返還条項
が失効するとの解釈を行う理由はない旨主張する。
被告の上記主張の趣旨は,必ずしも判然としないが,契約法の一般原則で
ある信義誠実の原則を根拠とするものと解されるところ,上記1の(3)カ,
ケで認定した事実によれば,中国での被告製品のプレゼンテーションが商談
に結びつかなかった責任の一端は被告の側にあったと認められる。また,上
記1(3)コ,サ,スで認定した事実によれば,被告が原告に無断で原告以外
の者と本件製品の販売その他の提携を行っているとの情報を得た後も,原告
が平成18年2月まで被告の要請に基づく部品の供給を続けていたにもかか
わらす,被告は,原告からの製品サンプルの提供の要請を拒み,原告からの
再三にわたる事情説明の要求やトップ会談の開催要求にも容易に応じないな
ど,原告の被告に対する信頼に誠意をもって応える行動をとっていなかった
ことが認められる。これらの事情のほか,本件不返還条項が,上記2(1)イ
のとおり,平成17年3月31日までに原告から1億円の本件許諾権料を受
け取り,これを平成17年度の売上げとして計上することを強く望んでいた
被告の提案に基づいて盛り込まれたことを考慮すると,信義誠実の原則に照
らしても,被告の上記主張は採用できないといわざるを得ない。
6結論
以上のとおり,原告の主位的請求には理由があるからこれを認容することと
し,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第14部
孝橋宏裁判長裁判官
関根規夫裁判官
飯田佳織裁判官

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〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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71期修習生 72期修習生 求人
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職種 事務職
時給 当社規定による
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シフトは週40時間以上
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