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平成21年8月25日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成21年(行ケ)第10046号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成21年6月18日
判決
原告株式会社ディスコ
同訴訟代理人弁護士中村智廣
三原研自
同弁理士佐々木功
川村恭子
久保健
被告本間工業株式会社
同訴訟代理人弁護士伊原友己
加古尊温
同弁理士中越貴宣
楠本高義
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2007―800278号事件について平成21年1月27日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,下記1のとおりの手続において下記2の本件発明についての特
許を無効とした別紙審決書(写し)記載の本件審決(その理由の要旨は下記3のと
おり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1本件訴訟に至る手続の経緯
(1)原告は,発明の名称を「切削方法」とする特許第3887614号(平成
9年7月2日原出願,平成15年7月8日特許出願(原出願の分割。以下「本件出
願」という。),平成18年12月1日設定登録。請求項の数は,後記訂正の前後
を通じ,全3項である。)に係る特許権を有する者である(以下,請求項3に係る
特許を「本件特許」という。)。
(2)被告は,平成19年12月26日,本件特許について,特許無効審判を請
求し,無効2007−800278号事件として係属した。
(3)特許庁は,平成20年6月24日,「本件特許を無効とする。」との審決
(以下「前審決」という。)をした。
被告は,平成20年7月31日,知的財産高等裁判所に対し,前審決の取消しを
求める訴え(平成20年(行ケ)第10294号)を提起した。
原告は,同年9月17日,特許請求の範囲の減縮等を目的とする訂正審判請求を
したため,知的財産高等裁判所は,同月29日,特許法181条2項により,前審
決を取り消す旨の決定をした。
(4)特許庁は,無効2007−800278号事件を審理し,同手続中で原告
は,平成20年10月17日,改めて訂正請求をしたため(以下「本件訂正」とい
う。本件訂正後の発明を「本件発明」といい,その訂正明細書を「本件明細書」と
いう。),これにより,上記訂正審判請求は取り下げられたものとみなされた。
(5)特許庁は,平成21年1月27日,本件訂正を認めた上,「特許第388
7614号の請求項3に記載された発明についての特許を無効とする。」旨の本件
審決をし,同年2月6日,その謄本を原告に送達した。
2本件発明の要旨
本件審決が対象とした本件訂正後の請求項3に記載の発明,すなわち,本件発明
は,本件審決が分説の便宜上付した符号によると,次のAないしD’,X,Eない
しG’の構成要件からなるものである。以下,その符号を付した構成要件をそれぞ
れ「構成要件A−1」などという。
A−1一方のモーターの駆動により回転する一方のネジと,他方のモーターの
駆動により回転する他方のネジとが基台のY軸方向に配設され,
A−2’該一方のネジには,該一方のネジの回転によりY軸方向に個別に移動
する第一のスピンドル支持部材が係合し,該他方のネジには,該他方のネジの回転
によりY軸方向に個別に移動する第二のスピンドル支持部材が係合し,
A−3該第一のスピンドル支持部材の下部には第一のスピンドルが配設され,
該第二のスピンドル支持部材の下部には第二のスピンドルが配設され,
B該第一のスピンドルの先端には第一のブレードが装着され,該第二のスピン
ドルには第二のブレードが装着され,
C該第一のスピンドルと該第二のスピンドルとは,該第一のブレードと該第二
のブレードとが対峙するよう該Y軸方向に略一直線上に配設され,
D’半導体ウェーハを吸引保持するチャックテーブルが,X軸方向に移動可能
に配設され,半導体ウェーハの表面を撮像する撮像手段と,該半導体ウェーハの表
面に形成された切削すべきストリートを検出するアライメント手段とを備えた精密
切削装置を用いて正方形または長方形の半導体ウェーハを切削する切削方法であっ
て,
X半導体ウェーハが該アライメント手段の直下に位置付けされ,該アライメン
ト手段によって該半導体ウェーハの表面に形成された切削すべきストリートが検出
され,
E該第一のブレードがチャックテーブルに保持された正方形または長方形の被
加工物の端部に位置付けられ,該第二のブレードが該被加工物の中央部に位置付け
られ,
F’該第一のスピンドル及び該第二のスピンドルを下降させると共に,該チャ
ックテーブルをX軸方向に移動させ,該被加工物の端部及び中央部に形成され該ア
ライメント手段によって検出されたストリートをX軸方向に2本同時に切削し,
G’該第一のスピンドルと該第二のスピンドルとの間隔を維持したまま,該第
一のスピンドル及び該第二のスピンドルをもう片方の端部の方向に個別に割り出し
送りし,該チャックテーブルをX軸方向に移動させて該アライメント手段によって
検出されたストリートを2本ずつ切削する切削方法。
3本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,要するに,本件発明は,下記(1)及び(2)の引用例1及び2に
記載された各発明(以下「引用発明1」及び「引用発明2」という。)並びに下記
(3)ないし(16)の周知例1ないし14に記載された周知の事項に基づいて,当業者
が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許は,特許法29条2項
の規定に違反してされたものであり,同法123条1項2号の規定により無効にす
べきものである,というものである。
(1)引用例1:実願昭58−49304号(実開昭59−156753号)の
マイクロフイルム(甲1)
(2)引用例2:実願平1−76555号(実開平3−16343号)のマイク
ロフイルム(甲2)
(3)周知例1:特公平2−42604号公報(甲3)
(4)周知例2:特開平7−186007号公報(甲4)
(5)周知例3:特開昭59−224250号公報(甲5)
(6)周知例4:特開昭61−65754号公報(甲6)
(7)周知例5:特開平4−122501号公報(甲7)
(8)周知例6:特開平4−372302号公報(甲8)
(9)周知例7:特開平4−69107号公報(甲9)
(10)周知例8:実願平1−85083号(実開平3−26414号)のマイク
ロフイルム(甲10)
(11)周知例9:特開昭62−162406号公報(甲11)
(12)周知例10:徳丸芳男ほか「機械工作2改訂版」(実教出版株式会社平成
元年2月25日発行。甲12)
(13)周知例11:小林輝夫「機械技術入門シリーズ研削作業の実技」(理工
学社平成8年11月15日発行。甲13)
(14)周知例12:日本規格協会「JISハンドブック工作機械」(財団法人
日本規格協会平成8年4月20日発行。甲14)
(15)周知例13:特開平7−335593号公報(甲23)
(16)周知例14:特開平8−97271号公報(甲24)
4取消事由
(1)本件発明の認定誤り及び手続上の瑕疵(取消事由1)
(2)相違点の看過及び相違点についての判断の遺脱(取消事由2)
第3当事者の主張
1取消事由1(本件発明の認定誤り及び手続上の瑕疵)について
〔原告の主張〕
本件審決は,本件発明の技術内容を誤認すると共に,その誤認に係る部分につい
て原告に弁明の機会を与えずにされたものであるから,違法として取消しを免れな
い。
(1)本件発明の誤認
ア本件審決は,「しかし,「すべての」ストリートを検出することは,請求項
3にも,特許明細書にも記載されていないから,根拠がない。」と認定した(21
頁29∼30行)。
イしかし,本件発明の特許請求の範囲の文言からは,切削対象のすべてのスト
リートを検出することが明らかである。すなわち,
(ア)構成要件Xの「該アライメント手段によって該半導体ウェーハの表面に形
成された切削すべきストリートが検出され,」は,切削すべきストリートをアライ
メント手段によって検出することを示している。
(イ)構成要件F’の「該被加工物の端部及び中央部に形成され該アライメント
手段によって検出されたストリートをX軸方向に2本同時に切削し,」は,端部及
び中央部に形成されたストリートが切削される前提として,その端部及び中央部に
形成されたストリートがアライメント手段によって事前に検出されたものであるこ
とを示している。
(ウ)構成要件G’の「該アライメント手段によって検出されたストリートを2
本ずつ切削する」は,構成要件F’で切削した2本のストリートに続いて割り出し
送りをしながら順次ストリートを2本ずつ切削していく前提として,順次切削して
いく2本のストリートがアライメント手段によって事前に検出されたものであるこ
とを示している。
(エ)このように,本件発明の特許請求の範囲では,切削すべきストリートがす
べて予め検出されることが明確となっており,本件審決の上記認定は,本件発明の
内容の明らかな誤認に基づくものである。
ウまた,本件明細書におけるストリートとは,添付図面【図2】における符号
15で図示された部分であり,符号15は不特定かつ複数のストリートを指してい
るのであるから,ストリート15が切削すべきすべてのストリートを指すことは明
らかである。
エしたがって,特許請求の範囲のみならず,本件明細書にもすべてのストリー
トを検出することが記載されていることは明らかである。
(2)手続上の瑕疵
本件審決は,「しかし,「すべての」ストリートを検出することは,請求項3に
も,特許明細書にも記載されていないから,根拠がない。」と認定している一方で
(21頁29∼30行),「仮に,本件発明3が,「すべての」ストリートを検出
するものであるとしても,この点は,被請求人も認めるとおり,少なくとも甲第2
4号証に記載されている(調書2「被請求人3」)から,審決の結論を左右する
ものではない。」と判断している(21頁31∼34行)。
しかし,甲24は,公知例として扱われ,被告が平成20年11月14日に弁駁
書と共に遅れて提出したものである。公知例を遅れて提出することは,請求の理由
の要旨を変更することにほかならないから,かかる公知例を理由に進歩性を否定す
るのであれば,その証拠は職権で採用されたものとしての扱いとなり,特許法15
3条2項に基づき,職権による無効理由が通知されて然るべきである。それにもか
かわらず,実際には,無効理由が通知されることなく審決がなされた。しかも,口
頭審理においても,審判官から,甲24を公知例として引用する可能性についての
言及はなかった。
原告は,職権無効理由通知があれば,更なる訂正請求をして無効理由を解消する
用意もしていたのであり,甲24の記載内容を根拠に本件発明の進歩性を否定して
審決をすることは,原告にとってまさに不意打ちというよりほかない。
(3)まとめ
以上のように,本件審決においては,本件発明の認定には誤りがあり,その誤り
に係る部分について原告に本来与えられるべき弁明の機会も与えられなかった。そ
して,弁明の機会が与えられれば,訂正請求により無効理由を解消することができ
たのであるから,本件審決は違法であって,取り消されるべきである。
〔被告の主張〕
(1)「すべての」というクレームの限定解釈は,リパーゼ事件について最高裁
判決が示した発明の要旨解釈の手法に反するものである。
(2)また,「すべて」であろうがなかろうが,所望のストリートを切削するこ
とは,甲24等にみられるごく当たり前の周知技術である。また,こういった議論
は,平成21年1月22日に開催された第2回口頭審理調書に明確に記載されてい
るとおり,口頭審理でも双方で陳述された事柄であり,不意打ちとか審理不尽とか
指摘されるようなことでもない。
(3)よって,本件審決の発明の要旨の認定及び審理には,何らの違法もなく,
取消事由1は,理由がない。
2取消事由2(相違点の看過及び相違点についての判断の遺脱)について
〔原告の主張〕
本件審決は,本件発明と引用発明1との相違点を看過しており,その相違点につ
いての判断がなされておらず,違法であって,取り消されるべきである。
(1)相違点の看過
本件発明は,被加工物の端部及び中央部に形成されたストリートを検出し,その
検出したストリートを2本同時に切削することを前提としており(構成要件F’),
複数ある被加工物の各被加工物ごとに当該2本のストリートを検出する。本件発明
の文言上,被加工物が同種のものであるという限定はないから,検出した2本のス
トリートの間隔が常に同じであるわけではなく,被加工物の種類によってストリー
ト間隔が異なったり,同じ種類の被加工物であっても製造誤差によって切削すべき
2本のストリートの間隔が異なったりすることも当然ある。これは,最初の切削時
におけるブレードの位置やブレード間隔も,被加工物ごとにまちまちとなることが
あることを意味する。つまり,本件発明の構成要件F’には,文言上の明示はなく
とも,被加工物ごとに,検出結果に応じて各ブレードの位置,ひいてはブレード間
隔が変化し得るという技術事項が当然に包含されている。
一方,引用例1には,スピンドルの位置関係については複数の例が記載されてい
るが,2つのブレードが対面した状態において,その対面した状態のまま2つのブ
レードが動くことや,切削すべき位置の検出結果に応じてブレード間隔が変化する
点は記載されていない。
したがって,本件発明は,引用発明1との間に,検出結果に応じてブレードの位
置やブレード間隔が変化するという相違点も有しているのであり,本件審決では,
かかる相違点が看過されている。
(2)相違点についての判断の遺脱
本件審決では,上記相違点が看過されているから,その相違点についての判断も
なされていない。そして,かかる相違点については,他の文献にも記載されていな
い。したがって,すべての文献の記載事項を組み合わせても,本件発明には想到し
ない。
そもそも,引用発明2は,ブレード間隔が固定されているものであり,1つのブ
レードの位置が決まれば自動的にもう1つのブレードの位置も決まるのであるから,
これを適用した上で周知検出手段を適用して2箇所の切削すべき位置を検出したと
しても,ブレード間隔が変わらないことはいうまでもない。また,検出した位置に
1つのブレードを位置決めすれば,自動的にもう1つのブレードの位置も決まって
しまうのであるから,2本のストリートを検出する意味はなく,仮に2箇所を検出
したとしても,結果的に片方の検出結果は活かされないままである。したがって,
引用発明1に,引用発明2及び周知移動機構を適用したものに,更に周知検出手段
を適用する意味はなく,当業者がそのような適用を考えることはあり得ない。
また,引用発明2には最初に設定されたブレード間隔が固定され維持されるとい
う技術思想しかないから,その状態から検出結果に応じてブレードの位置や間隔が
変化する技術思想は到底読み取れないのである。周知移動機構を採用した引用発明
1に引用発明2を適用し,更に周知検出手段を適用した装置を構築したとしても,
引用発明2を適用する限りは,ブレード間隔が固定されるため,少なくとも2枚目
以降の被加工物については,検出した位置にブレードを位置決めすることができず,
本件発明と同様の機能を実現することができないことは明らかである。
(3)まとめ
以上のように,本件審決は,本件発明と引用発明1との本質的な相違点を看過し
ており,その相違点についての判断がなされていない。そして,その相違点は,い
ずれの文献にも記載されておらず,本件発明は進歩性を有する。よって,本件審決
は違法であって,取り消されるべきである。
〔被告の主張〕
(1)本件審決の認定判断に誤りはない。引用発明1に引用発明2及び周知移動
機構を適用したものにおいて,精密加工が必要な半導体ウェーハの切削において,
周知の切削位置検出手段を用いるのは,常識的なことであるし,それぞれのブレー
ドを適宜移動せしめて切削位置に位置付けるのも,当たり前のことである。原告は,
本件審決の判断の遺脱を指摘するが,進歩性欠如の審決判断を論難しているだけで
ある。
(2)よって,本件審決においては,何らの判断の遺脱もなく,取消事由2も理
由がない。
第4当裁判所の判断
1取消事由1(本件発明の認定誤り及び手続上の瑕疵)について
(1)本件発明の認定誤りの有無
ア原告は,本件発明は,切削対象のすべてのストリートを検出するものである
と主張する。
イ特許出願に係る発明の要旨の認定は,特段の事情のない限り,願書に添付し
た明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきであるところ,構成要件X
の「該アライメント手段によって該半導体ウェーハの表面に形成された切削すべき
ストリートが検出され,」の文言は,切削すべきストリートをアライメント手段に
よって検出することを示しているものの,切削すべきストリートの「すべて」をア
ライメント手段によって検出することまで記載されているわけではない。そうする
と,構成要件Xの上記記載からは,切削すべきストリートのうち所定の一部をアラ
イメント手段によって検出するとの解釈も可能である。
そして,構成要件F’の「該被加工物の端部及び中央部に形成され該アライメン
ト手段によって検出されたストリートをX軸方向に2本同時に切削し,」は,端部
及び中央部に形成されたストリートが切削される前提として,その端部及び中央部
に形成されたストリートがアライメント手段によって事前に検出されたものである
ことを示している。上記構成要件について,切削すべきストリートのうち所定の一
部をアライメント手段によって検出するとの解釈に立っても,切削すべきストリー
トのうち,少なくとも,端部及び中央部に形成されたストリートをアライメント手
段によって検出し,この検出された端部及び中央部に形成されたストリートをX軸
方向に2本同時に切削するとの解釈が技術的に成り立つものである。
さらに,構成要件G’の「該アライメント手段によって検出されたストリートを
2本ずつ切削する」点は,構成要件F’で切削した2本のストリートに続いて割り
出し送りをしながら順次ストリートを2本ずつ切削していく前提として,順次切削
していく2本のストリートがアライメント手段によって事前に検出されたものであ
ることを示している。上記構成要件G’について,切削すべきストリートのうち所
定の一部をアライメント手段によって検出するとの解釈に立っても,切削すべきス
トリートのうちアライメント手段によって検出された所定の一部を2本ずつ切削し
ていき,その他アライメント手段によって検出されなかった切削すべきストリート
については,例えば,予め得られたストリート間隔情報等を参考に,検出されたス
トリートの位置情報に基づいて切削するといった解釈が技術的に成り立つ。
このように,切削すべきストリートのすべてを検出するものではないと解釈して
も,本件発明は技術的に成り立つといえるものであり,本件発明の特許請求の記載
の文言から,切削対象のすべてのストリートを検出することが明らかであるとはい
えない。
ウ原告は,本件明細書の記載からも,すべてのストリートを検出することが記
載されている旨主張する。しかし,本件明細書の【図2】は,発明の実施の形態と
して,その1例が記載されているものであり,その記載から,本件発明がすべての
ストリートを検出するものであると認めるに足りない。
エそして,本件審決は,「仮に」ではあるが,「すべての」ストリートを検出
するものであると解釈する場合についても検討しているのであるから,結局,本件
審決における本件発明の認定に関し,審決の結論に及ぼす誤りはない。
(2)手続上の瑕疵の有無
ア原告は,本件発明の認定に係る手続に瑕疵があると主張する。
イ証拠(甲23,24,30)に弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認
められる。
(ア)被告は,本件特許を無効とするとの審決を求め,その理由として,本件発
明は,本件原出願の出願前に頒布された刊行物である引用例1及び2並びに周知例
1ないし12をもとに,特許法29条2項の規定により特許を受けることができな
いものであると主張した。
(イ)平成20年6月24日,本件訂正前の発明に係る本件特許を無効とする旨
の前審決がされたが,原告が訂正審判を請求したため,同年9月29日差戻決定が
され,再度特許庁において審理が行われることになった。
(ウ)被告は,平成20年11月14日,弁駁書とともに甲23及び甲24を提
出した。被告は,上記各証拠を「半導体ウェーハの表面を撮像する撮像手段と,該
半導体ウェーハの表面に形成された切削すべきストリートを検出するアライメント
手段」を備え,「半導体ウェーハが該アライメント手段の直下に位置付けされ,該
アライメント手段によって該半導体ウェーハの表面に形成された切削すべきストリ
ートが検出され」,そのストリートを1つのブレードにより切削するものが,周知
技術であることを示すために,提出したものである。
(エ)平成21年1月22日実施された口頭審理において,原告は,「ウエハの
表面を撮像する撮像手段を有し,アライメント手段によってストリートを検出し,
アライメント手段によって検出されたストリートを1つのブレードによって切削す
ること」が周知であることを認めた上,甲24のアライメント手段はすべてのスト
リートを検出するものであるが,かかる技術が周知とまでは認められない旨陳述し
た。
(オ)本件審決は,本件発明が,切削対象のすべてのストリートを検出するもの
ではないとの前提で,相違点に係る,切削対象のストリートを検出する手段が,甲
23及び甲24に見られるごとく周知であること,すべてのストリートを検出する
点が少なくとも甲24に記載されていることを認定した。
ウ上記認定のとおり,本件審決は,甲24について,公知例としてではなく,
周知技術の認定として用いたものである。周知技術が存在する事実を追加的に主張
することや,その事実を立証する証拠を提出することは,特許を無効にする根拠と
なる事実を変更するものとはいえないから,請求の理由の要旨変更に当たるとはい
えない。
エそうすると,当事者が申し立てない理由についての審理に相当するものとは
認められず,本件は,特許法153条2項に基づく職権による無効理由が通知され
るべき場合には当たらない。また,本件審決は,被告が無効審判手続において主張
した事実及び証拠に基づいて無効理由を構成したことが認められるから,職権審理
の裁量権を発動するまでもない。
オさらに,すべてのストリートを検出するか否かの点は,特許庁での第2回口
頭審理において原被告双方が陳述した事項であって,審判手続において原告が反論
する機会も十分にあったことが窺われる(甲30)。よって,これが不意打ちに当
たるという原告の主張は理由がない。
カ原告の主張は,本件発明が,切削対象のすべてのストリートを検出するもの
であるとの前提で,相違点となる切削対象のすべてのストリートを検出する点が周
知とは認められないことにより,訂正する機会を与えるべきであったとの趣旨と解
されなくもない。
しかし,そもそも,上記のとおり,その前提に誤りがある上,原告は,甲24の
アライメント手段がすべてのストリートを検出するものであることについては認め
ていること(甲30),甲24自体原告が出願した特許出願に係る特許公報である
ことに照らせば,原告は,すべてのストリートを検出する点が,少なくとも,公知
であることも熟知した上で,無効理由を回避するべく訂正請求をしているといえ,
十分といえる防御を既に行っているというべきである。
キしたがって,原告主張の手続の瑕疵があるとは認め難い。
(3)小括
以上のとおり,取消事由1は理由がない。
2取消事由2(相違点の看過及び相違点についての判断の遺脱)について
(1)相違点の看過の有無
ア原告は,本件発明は,引用発明1と異なり,検出結果に応じてブレードの位
置やブレード間隔が変化するという相違点も有しているのに,本件審決は,かかる
相違点を看過したと主張する。
イしかしながら,まず,本件発明の特許請求の範囲には,原告の主張する,検
出結果に応じて各ブレードの位置,ひいてはブレード間隔が変化するという技術事
項は,記載されていないし,本件明細書にそれを裏付けるような記載は特段認めら
れない。原告の上記主張は,本件発明の特許請求の範囲に記載された技術的事項か
ら期待できる作用,効果を述べているにとどまるものである。
しかも,特許庁における第2回口頭審理において,本件発明と引用発明1の相違
点及び一致点は,争いがないとされ,本件審決は,そのとおりの認定をしたもので
ある(甲30)。
ウよって,原告の主張する相違点の看過はない。
(2)相違点の判断の遺脱の成否
ア原告は,本件審決は,上記相違点を看過し,それについての判断もなされて
いないと主張する。
イしかしながら,上記のとおり,そもそも相違点の看過はない上,本件審決は,
原告の主張した当該作用,効果についても検討,判断しており(21頁35行∼2
2頁1行),原告の主張する相違点についての判断の遺脱があるとはいえない。
ウなお,原告は,引用発明2はブレード間隔が変わらないなどと主張する。
しかし,引用例2(甲2)には,「上記スペーサ用リング8の長さLは,例えば,
第1及び第2のダイシングブレード1,2間の間隔Hが切断する半導体ウエハ9の
直径Dの2分の1の長さとなるように各ハブ4や切断刃3,3’の厚み等を考慮し
て設定されている。そのため,切断する半導体ウエハ9の直径Dが変更されると該
半導体ウエハ9の直径の2分の1にダイシングブレード1,2の間隔Hが保たれる
ようなスペーサ用リング8に取り替えて使用される。」(6頁2∼10行)と記載
され,ウェーハの直径が変更されたときはスペーサを取り替えることが記載されて
いるから,引用発明2には,ブレードの間隔を実情に合わせて適宜に調整するとい
った技術思想が十分に示唆されているものである。
そして,製造誤差等は必然の前提であり,それにより被加工物ごとにストリート
位置が異なり得ることは,当業者であれば容易に理解できる程度の事項であるし,
1つのワークに対し個々に制御される2以上のカットホイールを配置するという引
用発明1の技術的特徴を踏まえた上で,引用発明2及び周知検出手段を適用する場
合に,製造誤差等が反映された検出結果に応じてブレードの位置やブレード間隔が
変化し得るようにすることは,特に精密さが求められる半導体ウェーハの加工にお
いては,当業者にとって格別困難なことではない。
(3)小括
以上のとおり,取消事由2は理由がない。
3結論
以上の次第であるから,原告の主張する取消事由はすべて理由がなく,原告の請
求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官滝澤孝臣
裁判官高部眞規子
裁判官杜下弘記

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弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
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採用担当宛