弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人島秀一の上告理由第一点について。
 論旨は、要するにDとE間の本件土地の貸借関係を有償的使用関係と認むべきに
かかわらず、たかだか使用貸借関係にすぎないとした原審の判断は、経験則に違反
し、判例に背反するという。
 同一所有者に属する土地とその地上の建物のうち建物のみが任意譲渡された場合
は、当該建物の敷地に対する使用権の設定につき明示の契約が存しないときでも、
その設定を特に留保するとか、譲渡の目的が建物収去のためである等その他右使用
権の設定を認め得ない特段の事情がない限り、当然右敷地使用権設定についても合
意があつたものと推認するのが相当である。しかし、この場合の敷地使用権の性格、
内容は当該具体的事案によつて決定さるべきものであつて、一概に、これを地上権
又は賃借権と解しなければならないものではない。
 本件について原審の確定したところによれば、Fはその所有の土地の上に判示の
本宅と本件家屋を所有しており、その妾のEに右本宅を贈与したのであるが、Fの
死亡後、その相続人DはEとの間で右本宅と本件家屋とを交換したものであつて、
右交換の際右当事者間でEが同家屋の敷地たる本件土地を使用するについて何らの
取りきめもなされなかつたが、その理由は、Dは嘗て自分の父の妾であつたEを身
内のもの同様に扱い、Eが本件家屋を所有して使用する限り、特に、本件土地を無
償で使用せるつもりであつたからであるというのであるから、右事実関係のもとに
おいては、DとEとの間には本件土地につきたかだか使用貸借関係があつたにすぎ
ないものであつて、地上権又は賃借権の設定があつたものとは認められないとした
原審の判断は相当である。原判決には所論の違法はなく、また所論の大審院判例違
反も認められない。論旨は採用できない。
 同第二点について。
 論旨は、要するに、一旦正当に成立した建物賃借権、従つて敷地使用権は、賃借
建物の買受けにより混同によつて消滅する理由なく、また買受以前より不利益を受
けることは許されないのに、混同により右建物賃借権は消滅したとした原審判断は、
民法一七九条、判例及び経験則に違反するという。
 しかし、建物賃借人の有する敷地使用権は、敷地所有者に対して建物賃借権より
独立して有する権能ではなく、あくまでも賃借権に従たるものであつて、建物の賃
借権に包摂されている権能にすぎないものであるから、敷地使用権は建物賃借権と
運命をともにするものと解すべきこと当然である。本件の場合原判示によれば、上
告人はEより本件家屋を買受けてその所有権を取得したというのであるから、上告
人の本件家屋階下西半分に対する賃借権は混同により消滅した旨の原審の判断は、
他に特段の事情のない本件においては、是認できる。従つて、右家屋賃借権に附従
するものとしての敷地使用権も亦消滅したものといわなければならない。これと同
旨の原判決には所論違法はなく、所論引用の判例は本件と事案を異にするものであ
る。論旨は採用できない。
 同第三点について。
 本件に顕われた全証拠を検討しても被上告人の本訴請求が権利の濫用であること
を肯認することができる資料はないとした原審の判断は、相当として首肯でき、原
判決には所論違反は認められない。論旨は、原審の認定しない事実を主張し、これ
を前提として原判決を非難するものであつて、採用できない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    岩   田       誠

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