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平成25年6月28日判決言渡
平成23年(行ウ)第770号事業所税更正処分取消等請求事件
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1処分行政庁が原告に対して平成23年2月25日付けでした,平成19年1
月1日から同年12月31日までの事業年度,平成20年1月1日から同年1
2月31日までの事業年度及び平成21年1月1日から同年12月31日ま
での事業年度の事業所税に係る各更正処分及び各過少申告加算金賦課決定処
分をいずれも取り消す。
2処分行政庁が原告に対して平成23年2月25日付けでした平成21年1
月1日から同年12月31日までの事業年度の事業所税に係る更正請求に対
する更正しない旨の通知処分を取り消す。
第2事案の概要
原告は,平成19年1月1日から同年12月31日までの事業年度(以下「平
成19年度」という。),平成20年1月1日から同年12月31日までの事
業年度(以下「平成20年度」という。)及び平成21年1月1日から同年1
2月31日までの事業年度(以下「平成21年度」という。)の事業所税に係
る各納付申告を行い,また,平成21年度の事業所税については更正の請求(以
下「本件更正請求」という。)を行ったところ,処分行政庁から,平成23年
2月25日付けで,いずれも,原告が貸しビル等において営む「レンタル収納
スペース」事業が事業所税の課税客体となることを理由として,上記各事業年
度の事業所税に係る各更正処分及び過少申告加算金の各賦課決定処分(以下こ
れらの処分を合わせて「本件各更正処分等」という。)を受けるとともに,本
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件更正請求に係る平成21年度の事業所税を更正しない旨の通知処分(以下
「本件通知処分」という。)を受けた。
本件は,原告が,被告に対し,本件各更正処分等及び本件通知処分は違法で
あると主張して,これらの取消しを求める事案である。
1関係法令等の定め
(1)地方税法
ア701条の30指定都市等は,都市環境の整備及び改善に関する事業
に要する費用に充てるため,事業所税を課するものとする。
イ701条の31第1項事業所税について,次の各号に掲げる用語の意
義は,それぞれ当該各号に定めるところによる。
一(略)
二資産割事業所床面積を課税標準として課する事業所税をいう。
三従業者割従業者給与総額を課税標準として課する事業所税をいう。
四事業所床面積事業所用家屋の床面積として政令で定める床面積を
いう。
五従業者給与総額事務所又は事業所(以下(中略)「事業所等」とい
う。)の従業者(中略)に対して支払われる俸給,給料,賃金及び賞与
並びにこれらの性質を有する給与(中略)の総額(中略)をいう。
六事業所用家屋家屋(中略)の全部又は一部で現に事業所等の用に供
するものをいう。
七・八(略)
ウ701条の32第1項事業所税は,事業所等において法人又は個人の
行う事業に対し,当該事業所等所在の指定都市等において,当該事業を行
う者に資産割額及び従業者割額の合算額によつて課する。
エ701条の41第1項次の表の各号の上欄に掲げる施設に係る事業
所等において行う事業に対して課する資産割又は従業者割の課税標準と
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なるべき事業所床面積又は従業者給与総額の算定については,当該資産割
又は従業者割につき,それぞれ当該各号の中欄又は下欄に割合が定められ
ている場合には,当該施設に係る事業所等に係る事業所床面積又は従業者
給与総額(中略)から当該施設に係る事業所床面積又は従業者給与総額に
それぞれ当該各号の中欄又は下欄に掲げる割合を乗じて得た面積又は金
額を控除するものとする。
施設資産割に係る
割合
従業者割に
係る割合
14倉庫業法(昭和31年法律第121号)第7条第1項
に規定する倉庫業者(中略)がその本来の事業の用に供する
倉庫(第11号及び第18号に掲げるものを除く。)
4分の3
(2)地方税法施行令56条の16
法701条の31第1項第4号に規定する政令で定める床面積は,事業所
用家屋の延べ面積とする。ただし,事業所用家屋である家屋(中略)に専ら
事業所等(法701条の31第1項第5号に規定する事業所等をいう。以下
本章において同じ。)の用に供する部分(以下本条において「事業所部分」
という。)に係る共同の用に供する部分がある場合には,次の各号に掲げる
面積の合計面積とする。
一当該事業所部分の延べ面積
二当該各共同の用に供する部分の延べ面積に,当該事業所部分の延べ面積
の当該家屋の共同の用に供する部分以外の部分で当該各共同の用に供す
る部分に係るものの延べ面積に対する割合を乗じて得た面積
(3)東京都都税条例
ア1条東京都都税(以下都税という。)及びその賦課徴収については,法
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令その他に別に定があるものの外,この条例の定めるところによる。
イ188条の12第1項事業所税は,都市環境の整備及び改善に関する
事業に要する費用に充てるため,事務所又は事業所(中略)において法人
又は個人の行う事業に対し,当該事業を行う者に資産割額及び従業者割額
の合計額によつて課する。
2前提事実(争いがないか,文中記載の証拠等により容易に認められる事実)
(1)原告は,コンテナ・トランクルームの製造,販売及び賃貸業等を目的とす
る株式会社である。原告は,オフィスビル等の居室に造作を設置してこれを
細分化し,「レンタル収納スペース」として顧客に使用させる事業(以下「本
件事業」という。)を行っている。
(2)原告は,東京都港都税事務所長に対し,平成20年3月3日付けで,平成
19年度の事業所税に係る納付申告を行い,平成21年3月3日付けで,平
成20年度の事業所税に係る納付申告をした。
また,原告は,処分行政庁に対し,平成22年3月1日付けで,平成21
年度の事業所税に係る納付申告をした。そして,原告は,平成23年2月2
2日付けで,処分行政庁に対し,平成21年度の事業所税に係る納付申告の
うち,原告が東京都新宿区α×番32号所在の家屋において営む本件事業が
事業所税の課税客体とならないにもかかわらず,上記家屋の床面積を課税標
準となる床面積に含めて過大に申告していたとして,本件更正請求をした。
(3)処分行政庁は,原告から提出された事業所税の申告書の内容と,原告が本
件事業を営んでいるビルの所有者の貸付申告(地方税法701条の52第2
項)との間に差異があったことから,調査を行い,平成23年2月25日付
けで,本件事業が事業所税の課税客体となるにもかかわらず,原告が納付申
告をせず,課税標準となる事業所床面積が過少であったことを理由として,
本件各更正処分等をした。(弁論の全趣旨)
本件各更正処分等の内容は,別紙本件各更正処分等目録記載のとおりであ
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る。(甲3の1ないし3,乙2)
また,処分行政庁は,同日付けで,本件更正請求に係る課税標準額及び税
額について,更正の請求理由が認められないとして,本件通知処分をした。
(4)原告は,本件各更正処分等及び本件通知処分を不服として,平成23年4
月8日付けで,東京都知事に対する審査請求をしたが,東京都知事は,同年
8月17日付けで上記審査請求を棄却する旨の裁決をし,同裁決書は,同月
19日に原告に到達した。
(5)原告は,平成23年12月28日,本件訴えを提起した。
3争点
本件事業が事業所税の課税客体となるか否か
4当事者の主張
(原告の主張)
(1)本件事業に事業所税を賦課することの不当性
ア事業所税は,人口及び企業が集中する都市において,当該都市から何ら
かの便益を受けるといった受益関係が認められ,これに対する都市環境の
整備及び改善に関する当該都市の事業を必要とされる原因を作出した者
につき,事業の作用として人や車両が参集する直接的な原因となる本体的
な事業を課税客体とするものである。
しかるに,本件事業は,都市環境に相応の負荷を加えるというより,む
しろ停滞するオフィスビル所有者の貸しビル事業を再生させて,限られた
都市部のスペースを有効利用するという都市環境の整備及び改善を図る
事業であり,当該都市から何らかの便益を受けるという受益関係も小さい。
また,レンタル収納スペースの使用者の平均入室数をみても,1か月に
1,2回立ち入る程度であり,当該場所をオフィス施設として使用する場
合などと比較しても,本件事業は,人や車両が参集する直接的な原因とな
るものではないし,都市環境に負荷を加えるものではない。
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イ事業所税導入時の税制調査会答申の趣旨及び立法担当者の説明によれ
ば,極めて収益性の薄いものは非課税とすべきとされているところ,本件
事業は,事業所税の減免措置が設けられている倉庫業法上の倉庫業と同様
に,極めて収益性の薄い事業である。
ウ以上の点からすれば,本件事業に事業所税を賦課することは,不当であ
り,非課税・免除とすべきである。
(2)課税要件の不明確性
地方税法は,701条の32第1項において,「事業所税は,事業所等に
おいて法人又は個人の行う事業に対し,当該事業所等所在の指定都市等にお
いて,当該事業を行う者に資産割額及び従業者割額の合算額によつて課す
る。」と規定しているが,事業所等(事務所又は事業所)とは何か,事業と
は何か,事業所税の納税義務者が誰かについて明らかにしていない。したが
って,このような不明確な根拠法令に基づいて原告に事業所税を課すことは,
租税法律主義(憲法84条)ないし課税要件明確主義に反し,違法である。
(3)本件事業は,「事業所等」で行う「事業」に当たらないこと
事業所税の課税要件である「事業」(地方税法701条の32第1項)と
は,「資本を基礎として,利益を得る目的で継続的に行う行為の結合体及び
一定の技能,知識に基づいて利益を得る目的で継続的に行う業務であって,
事業用家屋を当該業務のために現実的かつ直接的に使用する業務」と解すべ
きであり,「事業用家屋を当該業務のために現実的かつ直接的に使用する」
とは,事業用家屋において人的役務の提供があることを意味する。
このことは,単なる場所の賃貸借であり物的設備の提供を行うのみである
不動産賃貸業が事業所税の対象とならないのに対し,物の保管行為という人
的役務の提供を行う倉庫業法上の倉庫業が事業所税の対象となる(ただし,
4分の3の減免措置がある。)こと,所得税法上,不動産所得と事業所得の
区別の基準について,その所得がほとんど又は専ら不動産等を利用に供する
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ことにより生ずるものである場合には不動産所得,不動産等の使用のほかに
役務の提供が加わり,これらが一体となった給付の対価という性格をもつ場
合には事業所得と解されていることからも裏付けられる。
これを本件事業についてみると,原告と使用者との使用契約によれば,使
用者は,自己の収納物を自己の責任において管理・保管し,善良な管理者の
注意をもってレンタル収納スペースを使用し,同スペース内を管理しなけれ
ばならないのに対し,原告は,レンタル収納スペースが存在する施設に人員
を配置しておらず,詰所等の原告専用のスペースも設置されておらず,巡回
業者に委託して月に2,3回施設のうち共有部分を巡回させているにすぎな
いのであって,原告による人的役務の提供はなく,原告はレンタル収納スペ
ースの利用権を提供しているにすぎないから,原告自らがレンタル収納スペ
ースを業務のために現実的かつ直接的に使用するものではない。
したがって,本件事業は,事業所税の課税要件である「事業」には当たら
ない。
また,事業所税の課税要件である「事業所等」とは,上記の「事業」の意
義からして,「自己の所有に属するものであると否とを問わず,事業の必要
から設けられた人的及び物的設備であって,そこで現実的かつ直接的に継続
して事業が行われる場所」と解すべきである。そして,上記のとおり,原告
のレンタル収納スペース事業において人的役務の提供は行われず,レンタル
収納スペースが存在する場所には事業の必要から設けられた人的設備はな
いことからして,そこで現実的かつ直接的に継続して事業が行われる場所と
評価することはできない。したがって,レンタル収納スペースが存在する場
所が事業所税の課税要件である「事業所等」に当たらないことは明らかであ
る。
(4)よって,本件事業が事業所税の課税客体であることを前提とした本件各更
正処分等及び本件通知処分は,違法である。
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(被告の主張)
(1)本件事業が,「事業所等」で行う「事業」に当たること
ア地方税法701条の32第1項によれば,事業所税の課税客体は,「事
業所等において法人又は個人の行う事業」であり,ここにいう「事業」と
は,「資本を基礎として,利益を得る目的で継続的に行う行為の結合体及
び一定の技能,知識に基づいて利益を得る目的で継続的に行う業務」であ
るところ,原告の行う本件事業がこれに当たることは明らかである。
そして,「事業所等」とは,「それが自己の所有に属するものであるか
否かにかかわらず,事業の必要から設けられた人的及び物的設備であって,
そこで継続して事業が行われる場所」と解すべきところ,原告のレンタル
収納スペースは,原告が建物所有者から賃借した建物の一部に,原告が物
品の収納に特化した造作を施し,物品の収納に使用目的を限った小規模区
画ごとに,契約に基づく個別利用のため当該スペースを使用者に提供した
ものであり,そこでは原告の運営するレンタル収納スペース業務が実際に
提供されているから,当該スペースは,原告の本件事業の必要から設けら
れた人的及び物的設備で,原告の事業活動として一体的に管理・運営され
ているものであり,そこで継続して事業が行われる場所であることから,
「事業所等」に当たる。
したがって,本件事業は,地方税法701条の32第1項の課税客体で
ある「事業所等において法人又は個人の行う事業」に該当する。
イなお,不動産貸付業を行なう貸ビル業者は,これを借りて事業を行う者
のために物的設備の利用権を提供しているのであるから,賃貸の対象とな
る賃貸スペースは,貸ビル業者の「事業所等」に当たらないのに対し,賃
借人たるテナントは,通常,賃借した部分において,自らの事業の必要か
ら設けた人的及び物的設備をその事業活動として一体的に管理・運営し,
そこで継続して事業を行うことから,賃借人の使用部分は,賃借人の「事
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業所等」に当たる。不動産をその所有者から一括で借り上げた事業者(サ
ブリーサー)が第三者への転貸を行うサブリース事業についても,建物所
有者が直接賃貸する形態において所有者が行う貸ビル事業をサブリーサ
ーが代行するものにすぎないから,貸ビル業者と同様に考えることができ
る。
他方,寄託契約に基づき,対価を得て契約の相手方の物品を保管・管理
する倉庫業で用いられている倉庫は,通常倉庫業という事業の必要から設
けられた人的及び物的設備で,倉庫業者の事業活動として一体的に管理・
運営されているものであり,そこで継続して事業が行われる場所であるこ
とから,倉庫業者の「事業所等」に当たる。
(2)納税義務者の判定基準
ア事業所税の納税義務者は,これまでの行政実例等により示されてきた,
①当該事業の収支の結果を自己に帰属せしめている者,②当該事業を行っ
ている事業所等の使用,管理等の状態を把握している者,③当該事業を行
っている事業所等の管理運営の責任を負っている者という各基準を総合
的に勘案して判断される。
また,同一の事業所等をめぐって事業所税の課税要件の定める事業が重
畳的に存在する観を呈する場合には,「事業を担う人や車両が参集し,事
業の作用として人や車両が参集する直接的な原因となる本体的な事業」に
該当するかという観点も考慮して判断される。
イ上記の基準等から本件事業についてみると,原告は,本件事業の実施主
体として本件事業の収支の結果を自己に帰属せしめている者として上記
①に該当する。
また,原告は,建物の所有者から建物を賃借し,それを収納スペースに
細分化し,使用者に対して一時的に転貸しており,こうした形態が継続し
ていくことが予定されていること,原告は,看板の設置やホームページ上
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での広告宣伝活動等を行うことにより,主体的に使用者の募集を行ってい
ること,原告は,使用者によるレンタル収納スペースの利用について細か
い制限を加えており,禁止収納物を収納しているおそれがあると原告が判
断すれば,収納物の処分も可能という,原告の広範かつ詳細な施設・設備
の管理権限が認められる契約内容になっていることからすれば,本件事業
を行っている事業所等の使用,管理等の状態を把握している者として上記
②に該当する。
さらに,原告は,使用者が建物及びレンタル収納スペースを使用する際
の一定の規則を定めることにより建物及びレンタル収納スペース内にお
ける秩序を維持又は管理していること,原告は,使用者から預託された保
証金を保管及び返還する義務を負い,損害保険を付保して収納物に生じた
損害を補償するものとされており,物品の保管場所を提供する者としての
業務を行っていること,定期的に専門スタッフが建物を巡回,清掃し,建
物の管理業務を行っていることからすれば,本件事業を行っている事業所
等の管理運営の責任を負っている者として上記③に該当する。
そして,本件事業については,同一の事業所等をめぐって事業所税の課
税要件の定める事業が重畳的に存在する観を呈するが,原告が建物をレン
タル収納スペースとするための造作を行うこと,原告が使用者を募集する
こと,原告が専門スタッフに建物を巡回・清掃させることなどにより,本
件事業は,人や車両が参集する直接的な原因を作出している本体的な事業
であるといえる。
したがって,本件事業を行う原告は,事業所税の納税義務者に当たる。
(3)よって,本件事業は,事業所税の課税客体とされるべきであり,原告はそ
の納税義務者であるから,本件各更正処分等及び本件通知処分は適法である。
第3当裁判所の判断
1認定事実
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文中記載の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1)本件事業は,原告において,オフィスビル等の所有者から空室となってい
る居室を賃借し,その内部に仕切り,扉等の加工,造作を施し,ロッカー様
の細分化された多数の収納空間(レンタル収納スペース)を設けた上,個別
の収納空間を顧客に貸し付けて,顧客から対価を得ることをその内容とする
ものである。(甲8,20,乙13,16)
(2)原告と顧客との間で締結される使用契約約款には,次のような定めがある。
(甲11)
ア原告が提供するレンタル収納スペースの使用サービス及びこれに付随
するサービス(以下「本件サービス」という。)は,原告が使用者に対し
物品類を収納することができるスペースを一時使用のために提供するも
のであって,原告が使用者から収納物を預かるものでも,使用者の収納物
を保管するものでもない。したがって,収納物の管理責任者及び直接占有
者は使用者自身となる(第3条)。
イ原告は使用者に対して,レンタル収納スペースを使用者が物品類を収納
する一時使用目的にて賃貸し,使用者はこれを借り受ける(第4条)。
ウ使用者は原告に対し,毎月定められた使用料,管理費その他定められた
料金を支払うものとする(第7条)。
エ使用者は,貴重品類,食料品,危険物,禁制品,廃棄物,動植物その他
レンタル収納スペースに収納することがふさわしくないと原告が定める
ものをレンタル収納スペースに収納することができない(第13条)。
オ使用者は,自己の収納物を自己の責任において管理,保管することはも
ちろんのこと原告又は第三者に損害を与えることがないよう十分に注意
を払い,善良な管理者の注意をもってレンタル収納スペースを使用する責
任がある。使用者は,使用者自身又は関係者等の責に帰すべき事由により,
原告又は第三者に与えた損害については,その全額を賠償する責任を負う
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ものとする(第14条)。
カ原告は,原告の故意又は重過失により使用者に損害が生じた場合は,法
律上の賠償責任を負う。ただし,原告の責任は,1事故・1室当たり使用
料の12か月分に相当する金額を限度とする(第16条)。
キ本件サービスには,原告と原告が適当と認めた保険会社との間の契約に
より,レンタル収納スペース内に収納された物品類の火災・盗難による損
害を補償するための損害保険が付保されており,使用者に対する補償は,
保険会社の規約に基づいて行われる(第18条)。
クレンタル収納スペースによっては,原告は,使用者に対し,本件サービ
スを利用するための錠,鍵,電子カードキーの貸与若しくは暗証番号を発
行する。鍵等が貸与・発行されないレンタル収納スペースに関しては,使
用者が錠,鍵を買い取り若しくは自己で用意し本件サービスを利用するも
のとする(第19条)。
ケ使用者は,本件サービスの利用に際し,レンタル収納スペースを住居,
事務所その他物品類の収納目的以外で使用すること,レンタル収納スペー
スの改造,釘打ち,シール貼りその他現況を変化させること等を行っては
ならない(第20条)。
コ原告又は原告の指定する業者は,本件サービス並びに施設・設備の維持
管理のため点検,補修,工事等を行う場合又は使用者が禁止収納物を収納
しているおそれがある場合,その他原告がレンタル収納スペースに立ち入
る必要が生じた場合は,開錠又は施錠を破壊しレンタル収納スペース内に
立ち入り,収納物の移動・処分を含め必要な措置を講ずることがある(第
21条)。
(3)使用者は,24時間いつでも,原告から貸与を受けた電子カードキーを用
いるなどして入口ドアを解錠してレンタル収納スペースのある建物内に入
り,さらに原告から貸与を受けた鍵を用いるなどして自分が借りている収納
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スペースの扉を解錠して収納物を搬入,搬出することができる。
原告は,レンタル収納スペースのある建物に管理人を置いておらず,詰所
等の原告専用のスペースも設置していないが,警備会社に委託して,入口ド
アにセキュリティーシステムを設けており,また,業者に委託して,1か月
に3回程度の割合で,定期的にレンタル収納スペースのある建物の同スペー
スを除く共用部分を巡回,清掃している。(甲18,20,乙14,弁論の
全趣旨)
(4)原告は,レンタル収納スペースのある建物の外壁に原告の事務所の連絡先
等が書かれた看板を設置するなどして広告を行い,個人や法人の利用者を募
集している。レンタル収納スペースの典型的な利用方法としては,例えば,
家財や家族が増えて自宅マンションが手狭になった使用者が,物置や押入れ
代わりにレンタル収納スペースを借りて家財道具等を収納するという利用
方法等が想定されている。(甲7,9,乙17,18)
2争点について
(1)事業所税の課税客体と納税義務者
事業所税は,都市環境の整備及び改善に関する事業に要する費用に充てる
ために課される目的税であり(法701条の30,東京都都税条例188条
の12第1項),大都市地域においては,事業所等が集中し,人口集中を招
いていることにより,諸般の都市環境の整備及び改善のための財政需要が生
じているとの実態に鑑み,大都市の行政サービスと企業の事業活動との間の
受益関係に着目して,特別の税負担を求めるものである。そして,事業に係
る事業所税は,企業の事業活動をいわゆる外形標準でとらえて課す税であり,
「事業所等」において法人又は個人の行う「事業」を課税客体,当該事業を
行う者を納税義務者とし,また,上記受益の度合いに人的又は物的に対応す
るものと考えられる従業者給与総額及び事業所床面積を課税標準としたも
のである(甲4,10,乙11)。
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以上のような事業に係る事業所税の趣旨及び目的に照らすと,「事業所
等」とは,それが自己の所有に属するものであるか否かにかかわらず,事業
の必要から設けられた人的及び物的設備であって,そこで継続して事業が行
われる場所をいい,上記の人的設備とは,当該事業に対し役務を提供し事業
活動に従事する自然人をいうと解するのが相当である。
なお,事業所税が,事業を担う人や車両が参集し,又は当該事業の作用と
して人や車両が参集することにより,都市環境への負荷が生じることに注目
して課するものであることに照らすと,建物の所有者が他の者にこれを賃貸
し,これを借り受けた者が更に別の者に転貸し,その者が建物において事業
を営む場合のように,同一の建物をめぐって上記の課税要件の定める「事業」
が重畳的に存在する観を呈する場合は,そのうち,事業を担う人や車両が参
集し,事業の作用として人や車両が参集する直接的な原因となる本体的な事
業と認められるものに限り,事業に係る事業所税の課税客体となり,当該事
業を行う者だけが事業に係る事業所税の納税義務者となると解するのが相
当である。
(2)本件事業の性格と課税要件該当性
ア前記1(2)で認定したとおり,本件事業において,原告は,顧客との間
で,建物の居室に設けられたレンタル収納スペースに関する使用契約を締
結し,顧客は一定の空間を使用するのであるが,本件事業は,一般的な不
動産賃貸業とは異なり,顧客に対して単に居室の一部分の利用権を提供す
るだけではない。
すなわち,本件事業は,通常はオフィスビルなどとして使用される建物
の居室の本来の用途のまま,その一部の空間を賃借人に使用させるもので
はなく,原告が,建物の居室の内部に造作を施し,収納のために細分化さ
れた多数の区画又はロッカーとそれに接する通路を設けることにより,多
数の顧客が物品を安全に保管し,かつ,日常的に簡単に出し入れすること
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ができるようにして,多数の顧客の個別的な物品の保管に最適化された空
間を作り出した上,これを多数の顧客に使用させ,もって比較的小規模の
物品収納需要に応えることを目的としたものである(甲6ないし9,乙1
3)。このように,本件事業は,建物の居室の通常の使用とは相当程度異
なる利便性(すなわち物品の保管機能)を顧客に提供する点に,事業とし
ての特質があり,それが故に,一定の収益性が見込まれるものである。
また,本件事業において,契約上,原告は顧客の物品を保管する義務を
負わず,顧客が細分化された空間において物品を保管することになるので
はあるが,①顧客は,住居,事務所その他物品類の収納目的以外で使用す
ることを禁止され,②顧客は,貴重品類,食料品,危険物,禁制品,廃棄
物,動植物その他原告が定めるものを収納することを禁止され,③顧客が
禁止収納物を収納しているおそれがある場合,原告は,顧客の承諾を得る
ことなく,収納空間に立ち入り,収納物の移動や処分をすることができる
とされている。これらの点は,一般的な不動産賃貸借契約と異なり,賃借
人の使用収益権能を強度に制限する一方,本件事業を行なう原告の管理権
能を高めるものであり,それを通じて,レンタル収納スペース全体におけ
る物品保管機能を高めることを目的としたものであるということができ
る。また,本件事業において,原告は,顧客が収納した物品類の火災・盗
難による損害を賠償するために損害保険を付保して,収納物に生じた損害
について補償することとされており,保管の目的を阻害する事象により顧
客が損害を被る場合への対応策が含まれていることも,上記の目的に適う
ものといえる。
以上のとおり,本件事業は,原告が建物の居室に特殊な造作を施して物
品の保管を可能にする物的設備を備えることにより,顧客に対し,建物の
居室の通常の使用とは相当程度異なる利便性を提供する点において,この
事業固有の特質を有するものであり,また,賃借人たる顧客の使用収益権
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能を強く制限し,賃貸人たる原告の管理権能を強化することを通じて,物
品の保管機能を高めている点においても,単に不動産の利用権を提供する
ものにとどまらない内容を有する事業であるということができる。
イそして,前記1(3)で認定したとおり,原告は,本件事業に供する居室
に常駐の管理人は置かないものの,警備会社に委託して,複数の顧客の居
室への入退室の管理を行ない,顧客以外の者が居室に侵入することを排除
しており,また,業者に委託して,1か月に3回程度の割合で,担当者が
定期的に居室を巡回,清掃しているところ,これらの管理行為は,上記ア
で指摘したレンタル収納スペース全体の物品保管機能を高めることを目
的として,居室において,顧客に対して人的な役務の提供を行っているも
のということができる。そうすると,当該居室は,単なる物的設備ではな
く,本件事業に対し役務を提供し事業活動に従事する人的設備をも備えて
いるということができる。また,本件事業においては,多数の顧客が居室
に出入りすることをその特質としている(原告の主張によっても月間70
ないし500名程度の入退室がある)のであるから,当該居室は,本件事
業の作用として,人が参集する場所であるということもできる。
ウ以上の諸点を勘案すると,本件事業を行うためにレンタル収納スペース
が設けられている居室は,事業の必要から設けられた人的及び物的設備で
あって,そこで継続して事業が行われる場所であるということができるか
ら,「事業所等」に該当すると解される。
エ他方,本件事業によるレンタル収納スペースを使用する顧客としては,
①前記1(4)で認定したとおり,物置や押入れ代わりに家財道具等を保管
する個人のほか,②自己の事業のために商品等を保管する事業者が想定さ
れる。このうち,前者は,「事業」に当たらないから,事業所税の納税義
務者となることはない。また,後者については,当該顧客がその収納空間
において行う事業と原告が行う本件事業とが重畳的に存在する観を呈す
-17-
ることになるところ,居室を多数の区画等に分けてその1つを顧客に使用
させるという本件事業の特性上,居室において当該顧客が行なう事業の範
囲は,居室の極めて限られた部分となることに照らせば,事業を担う人や
車両が参集し,又は事業の作用として人や車両が参集する直接的な原因と
なるのが本件事業であることは,明らかである。
また,原告に対して建物の居室を賃貸している所有者は,その事業規模
等によっては,不動産賃貸業たる事業を行っていると認められる場合があ
り,その場合は,所有者が行う当該事業と原告が行う本件事業とが,重畳
的に存在する観を呈することになるところ,所有者は,居室を原告に賃貸
しているだけであり,居室を「事業所等」の用に供して事業を行っている
のではないから,事業所税の納税義務者となることはない。
オ以上によれば,本件事業の事業所等の用に供されている居室については,
本件事業を行う原告が,事業所税の納税義務者となると解される。
(3)原告の主張について
ア原告は,事業所税の課税要件である「事業」は,「事業用家屋を当該業
務のために現実的かつ直接的に使用する業務」でなければならず,また,
「事業所等」も同様に解すべきであると主張した上,本件事業において,
原告は顧客に対してレンタル収納スペースの利用権を提供しているにす
ぎず,原告自らがレンタル収納スペースを業務のため現実的かつ直接的に
使用するものではないし,原告による人的役務の提供はないから,本件事
業は「事業」に当たらず,レンタル収納スペースが存在する場所は「事業
所等」に当たらないと主張する。
しかしながら,上記(1)で指摘したような事業所税が設けられた趣旨か
らすれば,「事業」や「事業所等」について上記のように限定して解釈す
べき理由はないし,その点を措くとしても,本件事業において,原告は,
顧客に対してレンタル収納スペースの利用権を提供しているのみならず,
-18-
レンタル収納スペースが設けられた居室において,その物品保管機能を高
めることを目的として,一定の管理行為を行うことにより,顧客に対して
人的な役務の提供を行っていると評価すべきことは,前記(2)ア及びイで
判示したとおりである。したがって,原告の上記主張は採用することがで
きない。
イ原告は,事業所税の法源においては,「事業所等」の意義が極めて不明
確であるから,租税法律主義に違反し,そのような法令に基づく課税は違
法であると主張する。しかしながら,「事業所等」の要件の意義は上記(1)
のとおり解釈することができるであって,必ずしも不明確とはいえないか
ら,原告の上記主張はその前提において失当である。
ウ原告は,本件事業は都市環境に負荷を与えるものではないから,本件事
業に事業所税を賦課することは不当であると主張する。しかしながら,原
告の主張によっても,本件事業の各事業所においては月間70ないし50
0名程度の顧客の入退室があるというのであり,また,車を使った搬入も
想定していることがうかがわれること(乙18)からすると,本件事業が
都市環境に負荷を与えるものではないとする原告の主張は,当を得ない。
また,原告は,本件事業は収益性が低く,倉庫法上の倉庫が事業所税に
つき減免を受けることと均衡を欠くから,非課税・免除とすべきであると
主張する。しかしながら,仮に本件事業の収益性が低いものであるとして
も,本件事業が,地方税法等の規定により非課税とされる事業には当たら
ず,また,課税標準につき減免を受ける事業にも当たらない以上,これら
の規定を適用せずに行なった処分が直ちに違法となるとはいえず,事業所
税の趣旨目的との関係において立法政策の当不当が問題となるにすぎな
い。したがって,原告の上記主張は採用することはできない。
3本件各更正処分等及び本件通知処分の適法性
証拠(甲3の1ないし3,乙2)及び弁論の全趣旨に照らすと,原告が東京
-19-
都内において営む本件事業に係る事業所用家屋の床面積の合計に基づいて算
定される課税標準は,平成19年度については別紙本件各更正処分等目録1
(1),平成20年度については同目録2(1),平成21年度については同目録3
(1)各記載のとおりであると認められる。
そうすると,上記の課税標準に基づいて地方税法701条の58第1項の規
定を適用してされた別紙本件各更正処分等目録記載の内容の各更正処分及び
同法701条の61第1項の規定を適用してされた同目録記載の内容の過少
申告加算金の各賦課決定処分は,いずれも適法である。
また,上記2で述べたとおり,原告が東京都新宿区α×番32号所在の家屋
において営む本件事業は,事業所税の課税客体とされるべきであるから,上記
家屋の床面積を課税標準となる床面積に含めて申告したことが過大申告であ
るとしてされた本件更正請求に対し,平成23年法律第115号による改正前
の地方税法20条の9の3第3項の規定に基づいて更正をすべき理由がない
ものとした本件通知処分は,適法である。
第4結論
よって,原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主
文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第38部
裁判長裁判官谷口豊
裁判官中丸隆
-20-
裁判官坂田大吾
-21-
別紙本件各更正処分等目録
1平成19年度
(1)課税標準2万9381.01平方メートル
(2)税額1762万8600円
(3)既に納付の確定した税額128万8900円
(4)差引税額1633万9700円
(5)過少申告加算金238万6400円
2平成20年度
(1)課税標準3万7507.02平方メートル
(2)税額2250万4200円
(3)既に納付の確定した税額99万5800円
(4)差引税額2150万8400円
(5)過少申告加算金317万6400円
3平成21年度
(1)課税標準3万8166.23平方メートル
(2)税額2289万9700円
(3)既に納付の確定した税額66万7200円
(4)差引税額2223万2500円
(5)過少申告加算金330万1400円

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