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裁判例


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       主   文
一、原告の本件確認の訴は却下する。
二、原告その余の請求はいずれも棄却する。
三、訴訟費用は原告の負担とする。
       事   実
第一、当事者双方の求めた裁判
一、原告
(一) 被告は原告に対し、一二三、三四八円及び内金七、三二八円に対する昭和
三九年四月一日より、内金一一、四二〇円に対する昭和四一年四月一日より、内金
一四、一九〇円に対する昭和四二年四月一日より、内金一七、五二〇円に対する昭
和四三年四月一日より、内金二一、一九〇円に対する昭和四四年四月一日より、内
金八五〇円に対する昭和四三年一〇月三一日より、内金八五〇円に対する昭和四四
年五月一四日より、内金五〇、〇〇〇円に対する昭和四四年一〇月二一日より、各
完済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。
(二) 原告は被告に対し、昭和四四年四月一日より昭和四五年三月三一日までの
間に一四日の年次有給休暇請求権のあることを確認する。
(三) 訴訟費用は被告の負担とする。
との裁判並びに仮執行の宣言。
二、被告
主文同旨の裁判
第二、原告の請求原因
一、原告は、昭和三五年四月一日以降、被告が緊急失業対策法(以下「失対法」と
いう。)に基づき事業主体として実施している失業対策事業(以下「失対事業」と
いう。)に継続勤務している。
二、原告の昭和三七年以降における毎年四月一日から翌年三月三一日までの各年度
における就労日数は、別表就労日数欄記載のとおりであつて、いずれも全労働日の
八〇パーセント以上就労した。
三、原告は、前記のとおり失対事業に従事する失業労働者(以下「失対労働者」と
いう。)であるが、次の理由により年次有給休暇(以下「年休」という。)請求権
を有する。
(一) 労働基準法三九条の年休の趣旨
 労働基準法(以下「労基法」という。)三九条の趣旨は、憲法二七条の労働者の
休息権の具体化として、労働者が毎年一定期間生活の保障(有給)のもとに、日常
の労働生活から解放され余暇を与えられることにより心身の疲労を回復し休養をは
かつて健康を保ち、生命を長らえ能力啓発の機会を確保し(年次有給休暇に関する
ILO五二号条約)、もつて幸福で人間らしい生活(憲法二五条二七条)を保障す
ることにより労働力の保全を図ろうとするものである。
 従つて、その解釈運用は、労働者の生命ないし生存権の保障とILO条約や勧告
の理想が日本の現実においては、いかにして実現できるかの観点から考察すべきで
あり失対労働者に対しても当然適用されるべきである。
 有給休暇の目的を個別的使用者のための労働力の維持培養にあると限定する考え
かたは、当該権利がまさに労働者に対して与えられたという権利性をみのがすもの
である。
 右三九条の規定は、いわば過去の労働継続という事実に対し、その労働力により
利益を得た使用者が、その実績に応じて、当該労働者を労働から解放し人間らしい
生活を与えることによつて、長期にわたり生命を保持させる義務を負うものと解す
べきである。
(二) 失対労働者の実態
 通常、失対労働者は、管轄の職業安定所(以下「職安」という。)より失業対策
事業就労適格証又は失業者就労事業紹介対象者手帳(有効期間一年で更新されてい
る。)を交付され、職安から紹介された事業所の労働に従事している。
 職安の紹介は、右適格証の交付により簡易化されており、失対労働者が日々紹介
の手続を経ないで就労現場に直行したり、職安に出頭しても、単に就労現場を指示
した札を手渡されるだけで就労している。
 失対労働者の就労日数は、毎月二三日であり、その雇用は、日々又は一ケ月更新
の形式をとつているが、一〇数年間にわたり同一事業所に雇用されている者も多
い。
 賃金は、日払いであるが、年末には四、五日の就労増が認められ、毎年夏季、年
末には事業主体よりボーナス又は臨時給付(被告主張の生活補給金)が支給され、
又右適格証を職安に返還し、失対事業に従事することをやめる際には、退職金(被
告主張の就職祝金、就職支度金)が支給されている。
 原告の前記就労の実態はまさに右のとおりであつた。
 もつとも、失対労働者は、職安より一ケ月に一ないし二日の「アブレ日」と称す
る日を指定され、その日は、日雇失業保険金の交付を受けている。原告については
被告主張のとおりの失業保険金を受領したが、これは、失対法にいう「失業者」と
いう資格を確保し、かつ、雇用契約の断絶を形式的に行なわんとするものである。
労働省昭和二六年三月三〇日基発第二一一号通達によれば、失対法の改正前におけ
る一一条により、事業主体が職安の紹介した労働者に対し雇い入れを拒否した時
は、右労働者が労基法二一条但書に該当する一ケ月を越えて引き続き就労していた
者である場合は同法二〇条の解雇予告を必要とするとしている。又失対労働者が事
業主体との間で団体交渉権が認められていることは、失対労働者の雇用関係が長期
にわたつて固定化し、かつ、継続している実態をふまえてのものであり、この点に
おいて民間の日雇労働者、臨時工、パートタイマーなどと異なるところはない。
 本来、失対法は、同一事業主体にかかる長期固定化した失対労働者の実現を予期
していなかつたことは推測できるが全国で二〇万人を下らない失対労働者は現実に
は同一事業所で長期的固定的に就労しており、常用労働者と実態上異なるところが
ないのに低賃金のまゝ心身を疲労させている。このような現状を直視すれば、まさ
に失対労働者に対し年休を与える必要がある。
(三) 年休を受くべき労働者の範囲
 年休を受くべき労働者の範囲は、労働時間、休暇、休日を受くべき労働者の範囲
より広く、業種業務のいかんを問わず全労働者に及ぶ。
 すなわち、年休は労基法四〇条、四一条各所定の者にも与えなければならず、労
働時間、休暇、休日に関するような例外規定は存在しない。さらに、同法二一条各
号に該当するものでも、その実態より見て引き続き使用されていると認められ、か
つ、同法三九条一項の要件をみたす場合には、使用者は年休を与えなければならな
いし、見習期間も算入される。
 従つて、年休は「同居の親族のみを使用する事業若しくは事務所又は家事使用
人」を除く一切の事業に働く労働者に対して与えられなければならない。失対労働
者の雇い入れについて職安の紹介が絶対的要件だとしても、これは国より一部又は
全部の補助を受けて行なう失対事業もしくは公共事業の特殊性と失業対策という国
の政策目的からの制約であり、右職安の機能といえども、他の一般民間企業に対す
る斡旋、仲介、紹介(失対法も「紹介」という文言を使用している。)と何ら異な
ることはなく、労基法三九条の適用を免れうる根拠とはならない。職安の紹介があ
つても当該事業主体が雇い入れを拒否できる場合があることは、豊橋市失業対策事
業運営管理規則一四条に明らかであり、被告も自認するところである。
(四) 労基法三九条の「継続して」の意義
 継続勤務とは、地位の如何を問わず、その事業主体に事実上、連続又は長期にわ
たつて使用従属関係が存していることをいう。
 従つて、同一事業主体に提供される労働の事実上の継続性が重視されるべきであ
り、失対労働者のいわゆる「アブレ日」は通常一ないし二日にすぎないから、右継
続性を断絶するものではない。
 そのうえ、勤続年数に応じて休暇日数が増加するという本条の規定の仕方自体か
らみても、具体的に当該労働者のその企業における将来にわたつての労働の継続性
が条件付けられ又は予定されてはいないことは明らかである。
 以上のとおり、失対労働者は、その実態において日雇労働者又は短期労働契約者
と同様であるから、一ケ月継続勤務すれば解雇予告を要する労働者になり、かつ、
一年を超えて継続勤務すれば年休請求権が認められる地位を取得するものと解すべ
きである。
 日雇労働者と失対労働者の異なる点は、まさに職安の紹介が介入するかどうかと
いう一点にしぼられるのである。
四、しかして、失対労働者が年休請求権を有することは、反面、その事業主体にお
いて労働契約上の保護義務の内容として年休を与える義務を負う。
 年休附与義務は、(1)基本的には休暇それ自体の附与義務(2)具体的には賃
金支払義務(年休手当)を内容とするものに区別される。そして年休請求権とは、
右基本的義務の時季指定権をいい、その優先的一次的権利を労働者が行使すること
によつて休暇の形成的効果が発生し、具体的に履行期の定まつた賃金支払義務が発
生する。労働者が時季を指定しないときといえども、使用者は年休附与義務を免れ
るものではなく、使用者は労働者に対し、右行使の時季を聞かなければならず、こ
れを聞かなかつた場合は年度末より当該年度中の年休日数分をさかのぼつた時点で
年休の効果が発生し、右年度末に賃金支払義務の履行期が到来し、具体化するもの
というべきである。
五、原告は、前記就労によつてその翌年度において、別表年休日数欄記載のとおり
の年休請求権を取得したが、これは被告の責に帰すべき事由により履行不能となつ
た。すなわち、原告は、被告の失対事業に従事する失対労働者の代表として、昭和
三九年四月六日付及び同年七月一八日付書面をもつて、被告に対し、それぞれ年休
附与の申し入れをした。その後も、原告は団交を通じてたびたび被告に対し年休附
与を申し入れていた。しかし、被告は右書面による申し入れに対しては、同年六月
一一日付および同年九月五日付書面をもつていずれも原告らに対する年休附与義務
の存在自体を否定し、その後も終始これを拒絶している。原告の右申し入れは、当
日もしくはその翌日に年休附与の時季指定をなした趣旨を含むものであるが、右の
ように被告が明白に年休附与を拒絶する意思表示をしている以上、原告において具
体的に時季を指定するまでもなく、右申し入れをもつて包括的な時季指定の年休請
求の意思表示と解すべきである。ところが、原告は、被告の右拒絶の意思表示によ
り年休を取得できなかつたのであるから、それは被告の責に帰すべき事由によるこ
とが明白である。
 従つて、被告は原告に対し、労働契約上の義務違反として債務不履行の責に任ず
べきである。
六、仮に右主張が認められないとしても、被告は地方公共団体として、失対労働者
もその実態から当然、労基法三九条の適用があるものと解釈し、公正な適用を期す
べきであるのに、これを怠つた過失があり、原告に対し不法行為上の責任を免れな
い。
 被告は、かつて、失対労働者に対する年休附与義務違反により不起訴処分になつ
たとはいえ、送検されたにもかかわらず、右法条の解釈適用につき、労働基準局に
照会するなどなんら法的検討を加えず、労働者の明白な年休請求権を認めなかつた
ことは、被告の明らかな過失というべきである。
七、よつて、原告は被告に対し、債務不履行これが認められないときは不法行為に
基づき、原告に与えた損害として次のとおりの金員につき、その支払いを求める。
(一) 年休分の賃金相当額
 原告の前記就労時における最低賃金日額は、別表賃金欄記載のとおりであるか
ら、年休分の賃金相当額は、右賃金に年休日数を乗じたもので、同表年休賃金相当
額欄記載の金額となる。
(二) 労基法一一四条の附加金
 別表年休賃金相当額欄記載と同一額となる。
(三) 慰藉料
 年休を附与されなかつたことによる原告の精神的苦痛に対する損害は、五万円を
もつて相当とする。
(四) 遅延損害金
 右(一)(二)につき、昭和三九年度以降毎年度末日の翌日である四月一日か
ら、右(三)につき、請求拡張申立書送達の翌日である昭和四四年一〇月二一日か
ら、いずれも支払いずみまで民法所定の年五分の割合による金員。
八、又、原告は被告に対し、前記のとおり被告との労働契約上年休請求権の取得に
より、年休の時期を昭和四三年一〇月二九日と指定のうえ、年休附与の申請書を提
出し、当日就労しなかつた。
 ところが、被告は、右不就労を理由に当日の原告に対する賃金日額八五〇円の支
払いをしなかつた。
 そこで、原告は被告に対し、右賃金八五〇円と労基法一一四条に基づく附加金八
五〇円の合計一、七〇〇円および、賃金八五〇円については昭和四三年一〇月三一
日から、附加金八五〇円については昭和四四年五月一四日から支払いずみまで、民
法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
九、更に、被告は原告の年休請求権を争うので、原告は前記のとおり昭和四四年四
月一日から昭和四五年三月三一日までの間に、一四日の年休請求権があることの確
認を求める。
第三、被告の答弁
一、請求原因一項の事実中、被告との継続的雇用関係は否認し、その余は認める。
 同二項の事実中、原告主張の就労日数およびこれが当該年度における被告の失対
事業施行日数の八〇パーセントをいずれも超えていることは認める。
 同三項の事実中、失対労働者は、原告主張のとおりの適格証によつて職安から紹
介を受けていること、その就労日数は毎月約二三日であり、雇用の形式が日々更新
で、賃金も日払いであること、被告が原告に対し年末、年始には四、五日の就労増
を認め、毎年夏季、年末に臨時の賃金、生活補給金を支給していたこと、失対労働
者はいわゆるアブレ日に日雇失業保険金の交付を受けていることはいずれも認める
が、その余は争う。
 同四項は争う。
 同五項の事実中、原告は、その主張のとおり年休附与の申し入れをし、被告がこ
れを拒絶していることは認めるが、その余は争う。
同六項の事実中、原告主張の被疑事件が不起訴処分(罪とならず)になつたことは
認めるが、その余は争う。
 同七項は争う。原告の最低賃金日額は、昭和三八年度四一六円、昭和四〇年度五
〇六円、昭和四一年度五五六円、昭和四二年度六四一円、昭和四三年度七一〇円で
ある。
 同八項の事実中、原告主張の年休附与申請書が提出され、当日原告が就労しなか
つたことは認めるが、その余は争う。
 同九項は争う。
二、失対労働者である原告には、次のとおり労基法三九条の年休制度の適用はな
い。
(一) 労基法三九条の年休制度は、一定の要件のもとに、労働者に賃金を与えて
休息させることにより、労働力を保全し、明日の勤労へ活力を養う制度であるか
ら、使用者と労働者との間には、当然、労働者が将来にわたつて労務を提供し、使
用者はこれに対し報酬を与えるという継続的契約関係が前提となることが予定され
ている。しかも年休は、ある特定日労働義務が免除され、消滅するとともにその日
の賃金が支払われるものであるから、労働者において将来のある特定日につき、労
働提供義務の存在することが必要である。
 ところで、失対事業は、多数の失業者の発生に対処し、できるだけ多数の失業者
を吸収し、その生活の安定を図ることを目的とするものであるから、失業者に対し
恒久的な就労の場を保障したものではなく、他の恒常的な職場につくまでの一時的
就労の場を与えんとするものである。失対労働者は、職安から失対法一〇条による
日々失業の認定を受けて事業主体に紹介され、始めて当日就労できるものである。
従つて、事業主体は失対労働者との間で、日々雇用契約を締結するものであり、失
対労働者は、将来にわたつて就労義務を負うものではない。失対労働者は、自ら休
息を欲するときに自由に休めるものであるから、休息を与えて保全すべきことを要
する労働力ではない。
 要するに、失対法は、労働の意思と能力があるにも拘らず、その機会を得なかつ
た失業者にその失業した日について就労の機会を与え、賃金収入を得させて生活を
安定させることに目的がある。
 これに反し、労基法三九条は、特定の職場に継続的に就労している労働者を対象
とし、かつ、労働義務のある特定日につき、賃金を支払わせて就労から解放させて
休養を与え、もつて労働力を保全するところに目的がある。
 このように、両者に本質的な相違が存するため、失対労働者に休暇を与えてその
報酬を支払うというような年休の適用を認める余地は全くない。
(二) 次に、労基法三九条は、年休につき労働者の一定期間の継続勤務を要件と
していることが明白である。
 右継続勤務とは、長期契約であれ、日々更新の日雇契約であれ、同一使用者のも
とで継続して労働者としての地位を保有することと解される。
 民間企業の日雇契約に基づく日雇労働者は、日々の更新が全くの形式にすぎず、
実質的には労働関係が継続しているものと認められる場合が多いが、失対労働者の
場合は、形式的にはもちろん実質的にも継続勤務とはいえない。
 原告は被告施行の失対事業に一定期間就労しているけれども、それは、たまた
ま、結果として被告の右事業が一定期間継続し、日々の就労先が被告であつたにと
どまり、継続勤務ではない。
 失対事業は、民間、公共事業がない場合に補完的に実施されるものであつて、事
業の継続性は予定されておらず、右就労は前記のとおり一日、一日断絶したもので
ある。
 失対労働者がある一定日に失対事業に就労した場合、その翌日は、これよりも民
間の恒久的雇用を欲している筈である。(失対事業の事業主体のみに雇われたいと
いう意思の者があるとすれば、それは一般の常用就職へ誠実かつ熱心に求職活動し
ている者とはいえないので、職安が紹介する対象者である失業者でないといわなけ
ればならない。失対法一〇条二項)一般の常用就職先も、民間、公共事業の日雇仕
事もない場合に、やむをえず職安の紹介により失対事業に再度就労するにすぎな
い。この意味において、民間企業の日雇労働者のようにその翌日の就労も当然のこ
ととして予測されているのと異なり、失対労働者の失対事業への就労は日々断絶し
ていることが明らかである。このことは、毎月三日程度のアブレ日および職業相談
のための職安への出頭日の存在によつて明白である。アブレ日には当該労働者は失
業しているのであつて、そのため日雇失業保険金の支給を受けるのであるから、そ
の失業日をはさんだ前後の勤務は到底継続するものとはいえない。
 原告がアブレ日として受領した失業保険金は、昭和三七年度二八日分六、九〇〇
円、昭和三八年度三〇日分八、一〇〇円、昭和三九年度三二日分一〇、〇二〇円、
昭和四〇年度三二日分一〇、五六〇円、昭和四一年度二六日分九、九四〇円であ
る。
 しかも、事業主体と失業者の失対雇用関係の発生は、両当事者の自由な契約意思
に基づくものであることはもちろんであるが、第一次的には国の機関である職安の
紹介行為が不可欠の要件であるから、右当事者の意思のみによつて、右雇用関係の
成立又は将来にわたる契約関係の存続を期待しうるものでもない。
 もつとも、現実には、失対事業に就労する失業者の固定化、定職化が問題とされ
ており、又職安は原則として一ケ月毎の長期紹介方式をとつている。
 しかし、右固定化ないし定職化は、失対労働者が民間、公共事業への紹介を受け
て就労することが事実上少ないということのあらわれにすぎない。
 又、長期紹介方式は、就労者が日々職安に出頭する手間を省くために行なわれて
いるにすぎず、雇用期間を一ケ月とする失対事業への一個の紹介行為ではない。長
期紹介方式といえども、雇用期間は一日である失対事業への多数の紹介を行なうも
のであり、その一つ一つの紹介分は、その紹介された当該日に民間、公共事業への
就労がない場合には、そのまま成立することになるという一種の解除条件付の紹介
とみるべきものである。従つて、長期紹介の方式も職安において、民間、公共事業
への紹介を行なうか否かの判断を行なつているのであるから、日々紹介の性質を失
うものではない。
(三) 更に、失対事業は、雇用状況の変化に応じて容易にその規模を変更し、又
は停止することができる伸縮自在な事業であるから(失対法五条五号)、労基法三
九条三項但書にいう「事業の正常な運営を妨げる場合」等は存在しない。
(四) 被告は失対事業に従事する失対労働者に対し、毎年夏季、年末には生活補
給金を支給しているが、それは、原告主張のようなボーナスではなく、失業者に対
する生活保護の実質を有するものである。
 又、右失対労働者が常時雇用に就職した場合は、被告は就職祝金として二万円を
支給しているほか、請求により国および県から五万円を限度とする就職支度金の貸
付けを受けられる。従つて、右金員は原告主張のような退職金でないことはもちろ
んであり、かつ、昭和三八年度以降の紹介対象者には支給していない。
 更に、右両者はいずれも失対労働者の就労日数によつて差をつけることなく、同
一金額を一律支給している点からも、失対労働者が被告に継続雇用されたものでな
いことが認められるのである。
 なお、原告は、失対労働者も労基法二一条但書に該当し、又団交権を有すること
をもつて継続勤務の根拠としているが、右条文は、民間企業における日雇労働者を
予定しているもので、前記失対事業の本質上失対労働者には適用がなく、又、団交
権を有することは、雇用関係が継続しているか否かの点とは異質の問題であるか
ら、いずれもなんら理由がない。
 又、原告は労基法四〇条四一条を根拠として失対労働者にも年休請求権があると
主張するが、右四〇条は年休規定ではなく、又同法は失対労働者に対する年休を予
定していないため、当然、同法四一条にことさら規定しなかつたものである。
三、原告に年休請求権が存在しないのであるから、これを前提とする原告の損害は
発生する余地がない。
四、仮に原告に年休請求権が認められるとしても、そもそも年休は、具体的に特定
日を指定し、これに対する使用者の承認によつて発生するものであるが、原告は被
告に対しかかる請求をした事実もない。このことは、使用者が労働者から具体的請
求があつた時期に労基法三九条三項但書の事由もなく、これを与えなかつた場合に
はじめて同法違反罪を構成すると考えられていることからも明らかである。そし
て、原告の被告に対する昭和三九年四月六日付および同年七月一八日付書面、その
他の年休請求も「失対労働者にも年休を与えよ」という抽象的一般的要望であり、
特定の日時を指定したものではないから、具体的な年休の権利は発生していない。
従つて、原告になんら損害はなく、又被告の回答は、右要望に対する一般的回答に
すぎないのであつて、もとより原告の年休時季指定を拒絶したものではないから、
債務不履行の責めを負うものではない。
五、又原告は、年休請求権を認めなかつたことは、被告に過失があると主張するけ
れども、失対労働者に年休請求権があるか否かについて、未だ確立された判例、学
説もない現状では、通常公務員として要求される程度の職務上の注意力をもつて、
失対法、労基法三九条の立法趣旨、制度の本質、失対事業の実態等を充分検討した
うえ、叙上の解釈に立つてなした処分が、仮に法令の解釈に誤りがあり違法である
としても、それをもつて故意過失があるとはいえない。
六、なお、原告は年休についての前記被告の一般的回答により、原告自身の意思に
基づき就労し、その賃金の支給を受けているのであるから、賃金相当額の損害が発
生しているものとはいえないと解すべきである。
七、原告の本件確認請求は、原告において、具体的に特定日を指定して年休を請求
していないのであるから、それは将来の不安および事実上ないし経済上の利害関係
があるというにすぎず、確認の利益を欠くので不適法として却下されるべきであ
る。
第四、証拠(省略)
       理   由
一、原告が昭和三五年四月一日から失対法に基づき、被告が事業主体として実施し
ている失対事業に就労していること、昭和三七年から昭和四四年に至る間の原告の
就労日数は原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。
二、そこで先づ失対労働者に労基法三九条の適用があるか否かについて考察する。
(一) 労基法三九条一、二項は、労働者が所定の期間、所定の割合以上出勤して
継続勤務をした場合に、使用者は、その労働者に対し所定日数の有給休暇を与えな
ければならない旨規定している。
 従つて使用者は、同条一、二項の要件を充した労働者に対し、一定日数の労働義
務を免除し、労働者を就労から解放させることを労基法上義務づけられているわけ
であり、反面当該労働者は、使用者から労働義務の免除という特別の意思表示をま
たずして、当然に一定日数の労働義務を免除され使用者に対しその日数の就労から
解放されることを請求する権利を取得することになる。
 そしてこのようにして労働者の取得した一定日数の有給休暇を請求する権利は、
同条三項但書の事由と、この事由による使用者の拒否のない限りは、労働者の時季
指定権の行使により、具体的な年休日として特定されると解される。
(二) ところで同条一項にいう継続勤務とは、事実上の就労の継続を意味するも
のではなく、同一使用者のもとで一定期間被用者の地位を継続すること、すなわち
労働契約の存続(在籍)を意味するものと解される。
 そうだとすると、日雇労働者は、日々労働契約が中断されるわけであるから継続
勤務とは言えないことになる。しかし日雇労働者が契約更新を反覆し、事実上一年
以上に亘つて使用されている場合は、もはや契約の更新は単なる形式にとどまり、
実質上は期限の定めのない労働契約が継続していると認めてよいであろう。
 従つてこのような日雇労働者は同法三九条の継続勤務者と取り扱うべきである。
(三) そこで、このような日雇労働者との対比において、失対労働者を考える
に、当裁判所は、結論として失対労働者には労基法三九条所定の継続勤務の成立す
る余地は全くないものと考える。
 すなわち失対法一〇条一項は、失対事業に使用される労働者は、「職安において
紹介することが困難な技術者、技能者及び監督者その他労働省令の定める労働者を
除いて、職安の紹介する失業者でなければならない」と規定し、同条二項は、右失
業者は「職業安定法所定の就職促進の措置を受け終つた者で、引き続き誠実かつ熱
心に求職活動をしているものでなければならない」と規定している。
 従つて失対労働者は、職安から失業者であるとの認定を受け、かつその紹介によ
り始めて失対労働者となりうることになる。(失対事業への就労のみを希望し、民
間常用への就労を希望しないものは労働の意欲のないもの、すなわち失業者として
の適格を有しないものと認定されるわけであり、他方、失対事業の事業主体は職安
の紹介のない労働者を技術者、監督者等を除いて一切使用することが禁ぜられてい
る。)
 このような失対労働者に対する法規制自体に即して考えると、事業主体と失対労
働者の雇用契約は、職安の日々失業者であるとの認定と紹介が前提となつて始めて
結ばれるのであるから、右雇用契約は日々紹介を前提とする日々雇用であることは
明らかである。
 成立に争いのない乙第二号証、証人aの証言によれば、原告と被告との雇用契約
も、右のようにして結ばれたものであることが認められる。
(四) もつとも証人aの証言によれば、昭和三九年ごろから職安は長期紹介方式
を実施していること、右方式とは、一カ月の就労予定日数を二二日としてあらかじ
め失対事業に一括紹介をなす方式であり、この紹介により、失対労働者は、毎朝職
安に出頭することを要せず、直接紹介先の事業主体に赴くことになること、しか
し、右長期紹介においても、紹介予定日が雨天その他の事由により、失対事業が実
施できないときは、当日屋内の失対事業又は民間雇用があれば、あらためて職安は
これらに紹介することがあり、さらに民間雇用の求人が多いときは、事業主体を通
じて失対労働者を呼び出してあらためて民間雇用を紹介することもあること以上の
事実が認められる。
 従つて右長期紹介は日々紹介の建前をくづすものではなく、一つ一つの紹介分
は、その紹介された当該日に民間雇用への紹介、就労がない場合にはそのまま成立
することになるという一種の解除条件付の紹介とみるのが相当であつて、その本質
は雇用期間を一カ月とする失対事業への一個の紹介ではないから、右長期紹介方式
は、前示認定をくつがえすに足りる資料とはなし難い道理である。
 又失対労働者は、職安から失対事業就労適格証又は紹介対象者手帳の交付を受け
ていることは、当事者間に争いがないが、証人aの証言によれば、右は紹介手続の
便宜上交付されるにすぎず、これら書類の交付により当然に失業者として就労し得
る資格を附与されるものではないことが認められるから、これらの書類の存在もま
た前示認定を左右するに足りない。
 又、被告が原告ら失対労働者に対し、年末年始に四、五日の就労増を認め、夏
季、年末に臨時の金員を支給していることは当事者間に争いがないが、証人bの証
言によれば、右就労増とは年末年始各一日の外に夏季祭りとお盆の計四日間は職安
の紹介を受けて現場に赴き、実際に就労することなく、その日の分の賃金を受取る
という取り扱いを指すものであることが認められ、又臨時の金員の支給は証人aの
証言によれば、賃金の性質を有するものではなく、生活補給金の性質を有するもの
であることが認められるから、右就労増及び臨時の金員は、いずれも失対労働者に
対する恩恵的な措置であつて、失対労働者の権利として認められたものではないと
解するのが相当であるから、これら事実も、前示認定を左右するに足りない。
(五) してみると失対労働者は、いわゆる日々紹介、日々雇用という失対法から
の法規制を受けている点において、通常の日雇労働者とは異なるものであり、たと
え、特定の事業主体に一年以上の長期に亘り就労を継続したとしても、右は就労の
事実上の継続にすぎず、事業主体との雇用契約は一日限りでその都度完全に中断し
ているわけであるから、雇用契約が継続しているとみる余地は全く存しない。
 従つて、失対労働者は、労基法三九条所定の継続勤務の要件に欠けるから、同条
所定の年休請求権を取得することはできない。
 これに反する原告の主張は独自の見解であつて採用の限りではなく、右説示に反
する証人bの証言、原告本人尋問の結果、甲第一一号証の一ないし三、第一二号証
の記載部分はたやすく信用し難い。
三、以上の理由により、失対労働者に対しては、労基法第三九条は適用されないと
解するのが相当である。
 なお原告は被告に対し、昭和四四年四月一日から昭和四五年三月三一日までの間
に、一四日の年休請求権を有することの確認を求めているが原告の主張に即して考
えれば右年休請求権は昭和四四年度の年休の時季指定権をさすことは明らかであ
り、従つて、右請求は過去における法律関係の確認を求めるものにほかならないか
ら不適法というべきである。
四、よつて、原告の本訴請求はその余の判断をするまでもなく昭和四四年度分一四
日の年次有給休暇の確認の訴の部分につき不適法として却下し、その余の請求はい
ずれも失当としてこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八
九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 松本武 角田清 鶴巻克恕)
(別紙)
 原告の就労日数、年休等一覧表
<17930-001>

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