弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役十月に処する。
     但し、本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶与する。
     原審の訴訟費用中、被告人に対する偽証被告事件(昭和二四年(は)第
二〇六号)について、証人A、同B、同C、同D(第一、二回共)に支給した分は
全部被告人の負担とする。
     本件公訴事実中、衆議院議員選挙法違反の点につき、被告人を免訴す
る。
         理    由
 本件各控訴の趣意は末尾に添えた各書面記載のとおりである。
 花井弁護人控訴趣意第五点について。
 しかし、所論C外一名に対する衆議院議員選拳法違反被告事件の被告人Cに対す
る昭和二十四年十月十七日附第三回公判調書(謄本)を見ると、同日水戸地方裁判
所土浦支部の公判廷に同被告事件の証人として出頭したEに対し、裁判長社宣誓の
趣旨を説明し、これを理解することができるものと認めて宣誓させ、偽証の罰及び
刑事訴訟法第百四十六条、同法第百四十七条に規定する証言拒否権を告げたとの皆
の記載があり、又記録に徴すると、被告人は昭和二十四年一月二十三日施行の衆議
院議員選挙に立候補し、自己の当選を得る目的をもつて衆議院議員選挙法違反の罪
を犯した嫌疑によつて同年三月十日水戸地方裁判所土浦支<要旨第一>部に起訴され
たことが明らかであるから、被告人は証言の内容が、自己において右衆議院議員選
挙法違反被告事件の被告人として有罪判決を受ける虞があるとすれば、
刑事訴訟法第百四十六条によつて証言を拒むことのできた筈であるのにも拘らず、
右公判廷において進んで宣誓した上証言をしたのであるから、その証言を目して証
人たる被告人の任意な供述でないというのは当らないものといわなければならな
い。尤も、被告人が右公判廷における証言を拒むと診はあるいは、前記衆議院議員
選挙法違反被告事件における被告人としての自己の供述の信憑力が減殺されるとと
があり得るかも知れたいが、又常に減殺されるものとは限らず、裁判所が別個に、
自由に判断すべき事項であつて、被告人がかかる地位におかれることは採証上、已
むを得ざることというべく右の如く被告人が証人として喚問された場合は自己に対
する前記被告事件の影響から証人として供述を強制されるという一種の心理的圧迫
を受けており、従つて被告人には証言を拒否すべき真の自由意思がなかつたと論ず
るが如きは刑事訴訟法第百四十六条の存在理由を否定することに外ならぬものであ
つて、失当たるを免かれないであろう。されば水戸地方裁判所土浦支部がC外一名
に対する衆議院議員選拳法違反被告事件の証人として被告人を同事件の公判期日に
喚問しもつてその供述を求めたことは、憲法第三十八条に違反して被告人に不利益
な供述を強要したものということはできないから、原判決には何等所論の違法はな
く、論旨は理由がない。
 同第六点及び同弁護人作成名義の上申書と題する書面記載の控訴の趣意二につい
て。
 しかし、偽証罪の規定は宣誓によつて担保された供述の正確性を保持し、よつて
国権の作用、ことに司法裁判権の行使をおやまらざらしめんことを目的として設け
られたのに対し、証憑湮滅罪の規定は具体的個別的な各個の事件について、正確な
国家刑罰権の行使に関する認定を誤らざらしめんことを目的として定められたもの
であるから、互にその構成要件を異にする別個の犯罪であり、従つて、刑法第百四
十六条に所謂証憑の湮滅又は証憑の偽造変造の罪の中には同法第百六十九条の偽証
罪を包含するものではないと解すべきである。そ<要旨第二>れ故、他人の刑事被告
事件に関し、苟くも法律に依り宣誓した上、虚偽の陳述を為した以上、たとえその
証言事項が自己の犯罪事実に関係があるとしても偽証罪の成立を妨げな
いものというべきである。そして、証人において自己の証言によつて自己が有罪判
決を受ける虞があれば証言を拒絶することができることは前説明のとおりであるか
ら、かかる場合、敢えて身の危険をも省みず、宣誓の上尋問に答えて虚偽の陳述を
した以上、証人が偽証罪によつて処罰される危険において自ら防衛手段に出ないこ
とは何人からも期待できたいということを理由として偽証罪の成立を否定するとと
はできたい。従つて、原判決には所論の違法はなく論旨は理由がない。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 下村三郎 判事 高野重秋 判事 真野英一)

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