弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 一 被告人本人の上告趣意第一点のその一について。
 所論は、本件には昭和四〇年法律第三三号による改正前の所得税法六九条が適用
されるところ、同条二項の規定では罰金の最高限度額が定まつておらず、刑量の特
定を欠くといい、これを前提として、同条項が憲法三一条に違反する旨主張する。
 しかし、所論改正前の所得税法六九条二項は、同条一項の「免れた又は還付を受
けた所得税額が五百万円をこえるときは、同項の罰金は、五百万円をこえその免れ
た又は還付を受けた所得税額に相当する金額以下となすことができる。」と規定と
しているところ、「五百万円をこえその免れた又は還付を受けた所得税額」は、当
該被告事件の裁判において認定されることによつて特定されるものであるから、罰
金の最高限度額が定まつておらず、刑量が特定されていないということはできない。
それゆえ、違憲の論旨は、前提を欠き、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
 二 同第一点のその二について。
 所論は、重加算税のほかに刑罰を科することは、憲法三九条に違反する旨主張す
る。
 しかし、国税通則法六八条に規定する重加算税は、同法六五条ないし六七条に規
定する各種の加算税を課すべき納税義務違反が課税要件事実を隠ぺいし、または仮
装する方法によつて行なわれた場合に、行政機関の行政手続により違反者に課せら
れるもので、これによつてかかる方法による納税義務違反の発生を防止し、もつて
徴税の実を挙げようとする趣旨に出た行政上の措置であり、違反者の不正行為の反
社会性ないし反道徳性に着目してこれに対する制裁として科せられる刑罰とは趣旨、
性質を異にするものと解すべきであつて、それゆえ、同一の租税逋脱行為について
重加算税のほかに刑罰を科しても憲法三九条に違反するものでないことは、当裁判
所大法廷判決の趣旨とするところである(昭和三三年四月三〇日大法廷判決・民集
一二巻六号九三八頁参照。なお、昭和三六年七月六日第一小法廷判決・刑集一五巻
七号一〇五四頁参照。)。そして、現在これを変更すべきものとは認められないか
ら、所論は、採ることができない。
 三 同第一点のその三について。
 所論は、昭和四〇年法律三三号による改正前の所得税法六九条に規定されている
罰金刑は、甚だ高額であるが、別に重加算税が課せられるとなれば、両者の額を合
算すれば、被告人は著しく過大な金額を国家に納付することになるから、右六九条
は、刑罰は公正な刑罰であることを要求する憲法三一条に違反する旨主張する。
 しかし、憲法三一条が所論のごとき事項を保障する規定であるかどうかは別にし
て、前述のごとく、罰金と重加算税とは、その趣旨、性質を異にするものであり、
そして、所論改正前の所得税法六九条の罰金刑は、同条にその寡額の定めがなく、
情状により比較的軽く量定されることもありうるのであるから、同条の罰金刑の規
定自体が著しく重いということはできない。それゆえ、違憲の論旨は、前提を欠き、
刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
 四 同第二点について。
 所論は、量刑不当の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
 なお、記録を調べても、刑訴法四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて、刑訴法四〇八条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決す
る。
  昭和四五年九月一一日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    色   川   幸 太 郎
            裁判官    村   上   朝   一

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