弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役1年6月に処する。
この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,東京都文京区ab丁目c番d号に主たる事務所を置き,施設A等を経
営する厚生労働省(以下「厚労省」という。)所管のB協会(以下「B協会」とい
う。)の当時の会長であったものであるが
第1厚労省所管の公益法人等関係団体等が障害者自立支援調査研究プロジェクト
として調査研究事業を実施し,国が同事業に要する経費を障害程度区分認定等
事業費補助金として交付してその補助を行う平成19年度の障害者保健福祉推
進事業に関し,同事業を所管する同省から,概算払いの方法により,不正に上
記補助金の交付を受けようと考え,B協会の当時の副会長であったCのほか,
平成19年3月までB協会の理事長を務めていたD,B協会の当時の事務局次
長Eらと共謀の上,B協会の業務に関し,平成20年2月12日ころ,東京都
千代田区霞が関1丁目2番2号中央合同庁舎第5号館所在の同省社会・援護局
障害保健福祉部企画課において,同課員らを介して厚生労働大臣に対し,平成
19年度の上記補助金の交付申請をするに当たり,真実は,B協会が上記プロ
ジェクトとして総額3130万円の経費を支出する「重度精神障害者の地域生
活を効果的に支援するための調査研究事業」ほか2件の調査研究事業(以下「1
9年度申請事業」という。)を実施する意思はなく,交付を受けた補助金を直
ちに19年度申請事業と無関係のB協会の事業資金等に充てる意図であるの
に,総額3130万円の経費を支出して19年度申請事業を実施するかのよう
に偽り,補助金申請額を3130万円とするB協会会長作成名義の内容虚偽の
交付申請書等を一括して提出し,平成20年3月19日ころ,厚生労働大臣の
権限に属する補助金の交付決定に関する事項についての専決者である同局障害
保健福祉部長らをして,B協会に上記障害程度区分認定等事業費補助金として
総額3130万円を交付する旨決定させた上,同月27日ころ,上記決定に基
づき,同省大臣官房会計課長らをして,東京都台東区ef丁目g番h号所在の
株式会社G銀行i支店に開設されたB協会助成金口会長名義の普通預金口座に
3130万円を振込送金させ,もって偽りその他不正の手段により補助金の交
付を受けた
第2上記第1同様の平成20年度の障害者保健福祉推進事業に関し,同事業を所
管する同省から,概算払いの方法により,不正に障害程度区分認定等事業費補
助金の交付を受けようと考え,Cのほか,B協会常務理事Fらと共謀の上,B
協会の業務に関し,同年11月10日ころ,同部企画課において,同課員らを
介して厚生労働大臣に対し,同年度の上記補助金の交付申請をするに当たり,
真実は,B協会が上記プロジェクトとして1980万円の経費を支出する「旧
精神障害者社会復帰施設の新体系サービスへの移行促進のための調査研究事
業」(以下「20年度申請事業」という。)を実施する意思はなく,交付を受
けた補助金を直ちに上記事業と無関係のB協会の事業資金等に充てる意図であ
るのに,総額1980万円の経費を支出して20年度申請事業を実施するかの
ように偽り,補助金申請額を1980万円とするB協会作成名義の内容虚偽の
交付申請書等を提出し,同月28日ころ,同局障害保健福祉部長らをして,B
協会に上記障害程度区分認定等事業費補助金として総額1980万円を交付す
る旨決定させた上,同年12月12日ころ,上記決定に基づき,同省大臣官房
会計課長らをして,上記普通預金口座に1980万円を振込送金させ,もって
偽りその他不正の手段により補助金の交付を受けた
ものである。
(証拠の標目)
省略
(法令の適用)
被告人の判示各所為はいずれも刑法60条,補助金等に係る予算の執行の適正化
に関する法律29条1項に該当するところ,判示第1については,3件の事業に係
る補助金交付申請行為は各申請書を一括して提出することにより行われたため1個
の行為が3個の罪名に触れる場合であるから刑法54条1項前段,10条により1
罪として犯情の最も重い「重度精神障害者の地域生活を効果的に支援するための調
査研究事業」に係る補助金の交付を受けた罪の刑で処断することとし,判示第1及
び第2の各罪につき各所定刑中いずれも懲役刑を選択し,以上は同法45条前段の併
合罪であるから,同法47条本文,10条により犯情の重い判示第1の罪の刑に法定
の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役1年6月に処し,情状により同法25条
1項を適用してこの裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予することと
し,訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項本文により全部これを被告人に
負担させることとする。
(量刑の理由)
1事案の概要
本件は,B協会の当時の会長であった被告人が,副会長であったCらと共謀の
上,障害者自立支援調査研究プロジェクトとしての調査研究事業を行う意思がな
く,交付を受けた補助金は上記調査研究事業と無関係のB協会の事業資金等に充
てる意思であるにもかかわらず,上記調査研究事業を実施するかのように偽り,
内容虚偽の補助金交付申請書等を提出し,2会計年度にわたり,厚労省から総額
5000万円余りの補助金の交付を受けたという事案である。
2判示各犯行の経緯,犯行態様,補助金の流用状況等についての事実経過
判示各犯行に至る経緯,犯行態様,補助金の流用状況等についての事実経過は,
以下のとおりである。
(1)B協会は,平成2年10月に,全国の精神障害者社会復帰施設相互の連絡・
調整を図る団体として設立され,平成6年12月に社会福祉法人としての認可
を得たものであり,会員である全国各地の精神障害者社会復帰施設からの会費
によって運営されていたが,遅くとも平成17年ころには,厚労省から交付さ
れる補助金を流用することが常態化しており,被告人やCも,そのころ,上記
実態についてB協会事務局員から聞き知ったが,特にこれに異を唱えることは
なかった。
(2)厚労省では,かねてから,精神障害者社会復帰促進センターの指定を受けて
いた財団法人が多額の補助金を受けるなどして運営していたものの,赤字のた
め破綻が懸念されていた施設Aの引受先を探していたところ,平成19年2月
ころ,同省担当者が,当時のB協会の理事長で,その運営に大きな力を有して
いたDに,その引継ぎを勧めた。Dは,施設Aの引受によって生じる新たな経
済的負担は,従前と同様に補助金の流用によって賄おうと考え,厚労省担当者
からも,それに協力する旨伝えられたこともあって,これに応じることにした。
そこで,Dは,同年3月9日ころのB協会の理事会にはかり,同理事会で施設
Aの引継ぎが決定された。
(3)このようななかで,同年4月に,被告人がB協会の会長に,Cが副会長に就
任したが,従前の方針どおり,EらB協会事務局員らは,流用すべき補助金の
交付を受けるべく,Dの指導のもとに,1件の申請につき経費が補助金の限度
額いっぱいの2000万円となるよう架空経費を計上した3件の申請をまとめ
た19年度申請事業の計画書を作成し,その内容について,Dはもとより,被
告人及びCの了解を得た上で,同年5月ころ,厚労省に申請し,同年7月2日
ころ,そのうち2件について,合計2230万円の補助金を交付する旨の内示
があったが,1件については不採択となった。しかしながら,同年9月ころ,
B協会に対し,厚労省担当者から,二次募集に応じるよう示唆があったことか
ら,E及びDにおいて,1500万円の架空経費を計上した計画書を作成し,
被告人らの了解のもとに,これを申請した結果,同年12月14日ころに90
0万円の補助金を交付する旨の内示があった。そこで,被告人らは,平成20
年2月12日ころ,上記内示のあった3件について補助金交付の申請をし,も
って,判示第1の犯行に至った。その後,同年3月27日に,3130万円の
補助金がB協会の口座に振り込まれ,このうち,少なくとも2500万円余り
がB協会の資金繰りなどに流用・費消された。
(4)B協会においては,平成20年4月以後もB協会の資金繰りが苦しかったこ
とから,これを補助金の流用によって乗り切るべく,Dの指導のもとに,19
年度事業の継続申請をすることになったが,同年6月上旬ころ,不採択の通知
を受けた。被告人及びCは,このままでは補助金の流用を当てにしていたB協
会の資金繰りが窮迫することから,常務理事で事務局業務を統括するFととも
に,厚労省担当者から示唆された20年度事業の二次募集に応じることにし,
Fに対し,同事業により交付される補助金の上限である2000万円になるよ
う経費計上した申請書を作成するように指示した。これを受けて,Fは,当初
2000万円の経費計上をした申請書を作成したものの,厚労省担当者からの
示唆を受けてこれを1980万円に減額した上,被告人及びCの了解を得て,
同年11月10日ころ,厚労省に申請し,もって,被告人らは,判示第2の犯
行に至った。その結果,同年12月12日,1980万円の補助金がB協会の
口座に振り込まれ,このうち,少なくとも1500万円余りがB協会の資金繰
りなどに流用・費消された。
3判示各犯行に対する評価
(1)上記2の一連の経過から明らかなように,判示各犯行は,主として,B協会
において,資金繰りの悪化等を補助金の流用によって賄うべく,被告人らB協
会の役員において誰も明確な異議を唱える者もないまま,組織ぐるみで敢行さ
れたばかりか,厚労省担当者においても,そのような不正の補助金の申請が行
われないようにすべき立場にありながら,B協会に施設Aを運営させていきた
いとの思惑から,補助金の不正受給を助長するような行動に終始したものであ
る。これからすれば,判示各犯行は,被告人及び共犯者らはもとより,上記経
緯に関与した厚労省担当者も含めて,自らの属する組織の利益や都合を考える
ばかりで,補助金が国民からの貴重な血税によって賄われること,それゆえに,
法律が本来目指す政策目的実現のために補助金の適正な執行を厳に求めている
ことに全く思いをいたさなかったことにより引き起こされたものというほかは
なく,このような被告人らの判示各犯行の動機は身勝手であり,法軽視の態度
も顕著というべきである。
(2)上記2・(3),(4)のとおり,判示各犯行においては,B協会においては,当
該事業において認められ得る限りの補助金を取得するため,その限度額に合わ
せて架空経費を計上しているばかりか,それを正式に申請する以前から,申請
に係る事業テーマの選定,当該事業が採択される見込みなどについて,厚労省
担当者から適宜情報を得るなどしており,その犯行態様からも,B協会の資金
をできる限り補助金から得ようとする強欲な態度が顕著であるばかりか,内容
においても,厚労省担当者の情報をふまえ,採択されやすいように巧妙に経費
内訳を整えるなどしており,悪質である。
(3)上記2・(3),(4)のとおり,判示各犯行の結果,B協会に対し,合計511
0万円もの多額の補助金が不正に交付されたばかりか,それらのうち少なくと
も4000万円余りがB協会の人件費等の経費に目的外流用されているのであ
って,当該補助金の交付によって期待された本来の政策目的が損なわれ,国民
の貴重な血税が浪費されたその結果は到底軽視できないが,B協会から上記不
正受給に係る補助金が返済される見込みは立っていない。
4被告人の果たした役割,その他の個別的情状
(1)判示各犯行において被告人の果たした役割をみると,判示第1の犯行におい
ては,それを主導したのは,上記2・(2),(3)のとおり,Dであり,その申請
書作成事務を行ったのはEであり,また,判示第2の犯行においても,上記2
・(3)のとおり,申請書作成事務を行ったのはFであり,さらに,判示各犯行を
通じて,厚労省担当者においても,B協会の申請が採択されやすいよう示唆を
与えた続けたものであって,これらが,判示各犯行において大きな役割を果た
したことは否定できない。
しかしながら,被告人は,判示第2の犯行においては,上記2・(4)のとおり,
Fに申請書作成を指示したほか,判示各犯行を通じて,B協会会長として,各
事業申請に賛成したものであり,その果たした役割も,また軽視できないもの
がある。この点,弁護人は,被告人の関与は形式的・受動的なものに過ぎない
旨主張する。しかしながら,B協会においては,会長はその運営のすべてを把
握し,その決定に関わることになっており,現に,本件各事業申請においても,
上記2・(3),(4)のとおり,被告人に報告されているのである。被告人は,B
協会の会長に就任した以上,やはり,不正なことが行われていれば,それに対
し,断固異議を述べることによって,その職責を果たすべきであり,自らも地
域で社会福祉法人の運営に携わっていた被告人であれば,その職責の重要性も
十分認識できたはずである。しかるに,被告人は,上記2・(3),(4)のとおり,
上記報告を受けても漫然とこれに了解し,判示第2の犯行にあっては,Fに対
し,不正申請を慫慂する指示さえ与えているのである。これからすれば,被告
人の関与が形式的・受動的であったということはできない。
(2)他方で,判示各犯行は,被告人のみならず,上記2で掲げたB協会関係者,
さらには厚労省担当者の軽視できない関与により遂行されたものであり,弁護
人が主張するように,そのすべての責任を被告人のみに帰することは,上記関
係者らとの間で均衡を欠くというべきである。
さらに,被告人は,本件により個人的利益を得るなどして私腹を肥やしたも
のではなく,また,公判に至って自己の認識や関与の程度につき捜査段階の供
述を後退させてはいるものの,事実をおおむね認めて,自己の行為を反省し,
B協会の会長を引責辞任したのはもちろん,社会福祉法人の理事や社会福祉施
設の施設長も辞任した上で,現在は,同施設で無給のボランティアとして奉仕
するなどしているほか,自ら200万円を支出して,これを社会福祉法人に寄
付するなどして,贖罪に努めている。さらには,国から本件補助金の返還を求
められた際は,これに応じる意思も表明している。
また,被告人は,本件に至るまで,全く前科がなく,社会福祉法人の理事な
いし社会福祉施設の施設長として,長年精神障害者通所授産施設の運営に尽力
し,地元からも評価される活動を行ってきたものであり,今後も引き続き,地
元で精神障害者福祉の仕事を行っていきたい旨述べて,更生への意欲を新たに
し,被告人の妻も,これに協力する旨述べている。
以上の諸事情は,被告人のために有利に斟酌されるべきである。
5結論
そこで,以上の諸事情を総合考慮して,被告人には,主文掲記の懲役刑を科し
た上で,その執行を猶予し,社会内で更生させるのが相当と考えた。
(求刑懲役1年6月)
平成22年9月16日
大阪地方裁判所第11刑事部
裁判長裁判官岩倉広修
裁判官並河浩二
裁判官佐藤敬弘

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