弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を禁錮3年に処する。
この裁判確定の日から5年間その刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,平成30年1月30日午後4時5分頃,普通乗用自動車を運転し,岡
山県赤磐市ab番地c付近道路を同市d方面から同市e方面に向け時速約50ない
し60キロメートルで進行中,進路前方を進行中のA(当時56歳)運転の普通貨
物自動車との接近を認めて減速するに当たり,ハンドル及びブレーキ等を的確に操
作して減速すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り,減速しようとし
て,ブレーキペダルと間違えてアクセルペダルを踏み込んだ過失により,その頃,
自車を急加速させて,同市af番地先の緩やかに左方に湾曲した道路に至って対向
車線に進出させ,折から対向進行してきたB(当時42歳)運転の普通乗用自動車
右側部に自車右側部を衝突させた上,自車を走行車線に進出させて,その進路前方
を進行中の前記A運転車両右後部に自車左前部を衝突させ,その衝突により前記A
運転車両を左方に進行させて横転させながら同道路左側の路外に設置された燃料タ
ンクに衝突させ,さらに,その衝突により同車を回転させるなどさせて同道路左側
に設けられた歩道上に滑走させ,折から同歩道上を歩行していたC(当時9歳),
D(当時10歳),E(当時11歳),F(当時9歳)及びG(当時9歳)に同車
を順次衝突させて同人らを同歩道下の畑に転落させるなどした上,同車を同歩道上
に設置された標識柱に衝突させるとともに,自車を右前方の対向車線に進出させ,
折から対向進行してきて減速中のH(当時27歳)運転の普通乗用自動車右前部に
自車右前部を衝突させた上,その衝突により前記H運転車両を押し戻してその後方
に停車していたI(当時51歳)運転の普通貨物自動車前部に前記H運転車両後部
を衝突させ,よって,別表記載のとおり,前記B及び同人運転車両の同乗者J等9
名に別表受傷状況欄記載の各傷害を,前記Cに脳挫傷等の傷害をそれぞれ負わせ,
同日午後4時10分頃,前記歩道付近において,同人を同傷害により死亡させた。
(証拠の標目)
(省略)
(法令の適用)
被告人の判示所為は各被害者ごとにいずれも自動車の運転により人を死傷させる
行為等の処罰に関する法律第5条本文に該当するが,これは1個の行為が10個の
罪名に触れる場合であるから,刑法54条1項前段,10条により1罪として犯情
の最も重い被害者Cに対する過失運転致死罪の刑で処断することとし,所定刑中禁
錮刑を選択し,その所定刑期の範囲内で被告人を禁錮3年に処し,情状により同法
25条1項を適用してこの裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予するこ
ととし,訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項本文により全部これを被告
人に負担させることとする。
(量刑の理由)
本件は,被告人が,自動車を運転して道路を直進中,自車が前方を進行していた
車両に接近したため減速させようとした際に,ブレーキペダルと間違えてアクセル
ペダルを踏み込んで加速させた結果,対向車両等3台に順次衝突させ,そのうち1
台を後続車に衝突させ,他の1台を横転させた上で滑走させて歩道を通行していた
小学生5名に衝突させ,うち1名を死亡させ,小学生や車両運転者等9名に重軽傷
を負わせたという過失運転致死傷の事案である。
その過失の内容は,ブレーキペダルとアクセルペダルを踏み間違えたものである
が,これらを誤って踏み込んだ場合に生じる危険性に照らしてその適切な操作が運
転者に強く要請されることからすると,自動車運転者としての基本的な注意義務に
対する違反である。誤操作であるとはいえ,その後被告人が衝突までアクセルペダ
ルを4秒以上にわたって強く踏み込み約100mにわたり加速したことは,踏み間
違えて減速していない状況からして,誤操作に気付かず,同乗者の言葉も聞こえな
いほどに狼狽し,減速しないことへの焦りがあったとしても,瞬時に的確にペダル
を操作し減速すべき注意義務があったことを踏まえれば,相応の注意義務違反があ
ったというべきである。しかし,本件も直前の事故においても交通法規軽視の態度
はうかがえないことも併せ考慮すれば,被告人に対する非難の程度は過失運転致死
傷罪の中でも特に高いものとはいえない。
本件は,1名の被害者が死亡し,9名の被害者が負傷したという,まれに見る大
規模な死傷交通事故である。死亡した被害者は,小学生で充実した人生を歩み始め
たさなか,何の落ち度もなく突如としてその生涯を閉ざされ,その無念さは察する
に余りあるし,愛する家族を奪われた親族らの落胆や悲痛も著しい。傷害を負った
歩行中の小学生4名は,重軽傷を負うとともに,集団下校中に突然事故に巻き込ま
れて大切な家族や友人を失った。傷害を負った車両運転者等には,事故当時の記憶
を失った者や恐怖心から自動車の運転ができなくなった者もいる。そうすると,傷
害を負った被害者らは,身体上の苦痛を受けたにとどまらず,計り知れない精神上
の苦痛を受けたというべきである。被害はまことに重大であり,被害者や遺族の多
くが厳しい処罰感情を有していることも至極当然のことといえる。
以上によれば,本件の法益侵害の程度は大きいとはいえるが,被告人に対する非
難の程度をみると特に高いものとまではいえない。上記過失内容等の犯情に照らせ
ば,本件は,執行猶予をも視野に入れて検討すべき事案である。
その上で,被害者のうち一部の者と示談が成立し,他の被害者に対しても対人対
物賠償無制限の保険により相応の被害弁償が見込まれること,被告人自身も本件後
に直接又は弁護人等を通じて各被害者への謝罪やその申入れをしてきたこと,被告
人が今後二度と自動車を運転しない旨誓約した上で反省の弁を述べていること,被
告人に同種事案も含めて前科が全くなく,考慮すべき交通違反歴もないことから,
被告人に対しては,直ちに矯正施設に収容するよりも,社会内において家族の協力
の下で被害者らに対する慰謝の措置をとらせるのが相当であるから,執行猶予が可
能な範囲で最も重い禁錮刑に処した上で,その刑の執行を猶予することとした。
(求刑:禁錮4年の実刑)
平成30年7月13日
岡山地方裁判所第2刑事部
裁判長裁判官御山真理子
裁判官岡本康博
裁判官古川翔
(別表)
番号被害者(当時の年齢)
受傷状況
傷病名治療期間
1B(42歳)外傷性頚部症候群等全治約8日間
2J(11歳)外傷性頚部症候群等全治約8日間
3A(56歳)頭部打撲傷等加療約1週間
4H(27歳)頚部捻挫等加療約7日間
5I(51歳)頚部捻挫等
加療約2週間の
見込み
6F(9歳)開放性上顎骨骨折全治約2か月間
7D(10歳)右大腿骨骨幹部骨折等
加療約90日間の
見込み
8E(11歳)腰臀部打撲皮下血腫等全治約1か月間
9G(9歳)左大腿部打撲等全治約2日間

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