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平成16年(行ケ)第197号 審決取消請求事件
平成16年10月14日口頭弁論終結
    判決
   原       告 応研株式会社
訴訟代理人弁理士   堀   城 之
訴訟復代理人弁理士  永 岡 儀 雄
同    角 田 さやか
  被       告特許庁長官小 川  洋
指定代理人      半 田 正 人
  同 小 池   隆
  同 井 出 英一郎
  同 涌 井 幸 一
  同 宮 下 正 之
     主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
    事実及び理由
第1 当事者の求める裁判
1 原告
(1) 特許庁が不服2003-12036号事件について平成16年4月1日に
した審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
 原告は,平成14年6月3日,「福祉大臣」の文字(標準文字)を書してな
る商標(以下「本願商標」という。)について,指定商品及び指定役務を第9類
「財務会計処理用コンピュータソフトウェア(記録されたもの),その他の電子計
算機(中央処理装置及び電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路,磁気ディ
スク,磁気テープその他の周辺機器を含む。),財務会計処理用電子計算機用プロ
グラムを記憶させたCD-ROMその他の記憶媒体,財務会計処理用電子式卓上計
算機,財務会計処理用ワードプロセッサ」及び第42類「電子計算機の用途に応じ
て的確に操作するためには高度の専門知識・技術又は経験を必要とする機械の性
能・操作方法等に関する紹介及び説明,電子計算機の財務会計プログラムの設計・
作成又は保守」(いずれも平成15年4月1日付け手続補正書による補正後のも
の)として,商標登録出願したが,平成15年5月27日,拒絶査定を受けたの
で,同年6月26日,これに対する不服の審判を請求した。特許庁は,これを不服
2003-12036号事件として審理した結果,平成16年4月1日,「本件審
判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同月13日,その謄本を原告に送達
した。
2 審決の理由
 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願商標をその指定商品につ
いて使用した場合,「福祉に関する行政事務を管理する大臣」の名称又は厚生労働
大臣の別称の如く,需要者を誤信させるおそれがあるというべきであるから,これ
を商標として採択,使用することは,国家行政への信頼を損ねるおそれがあり,社
会公共の利益に反するものであって,本願商標は,商標法4条1項7号に該当する
というものである。
第3 原告主張の取消事由の要点
 本願商標が商標法4条1項7号に該当するとした審決の判断は誤りであるか
ら,審決は,取り消されるべきである。
1 取消事由1(事実の誤認)
 審決は,法律の存在及び条文中の文言をもって,「「福祉」の文字(語)
は,国の行政機関の達成すべき任務の一をさすキーワード的存在」であると判断し
ている。しかし,「福祉」という文言が法律中に存在しているとしても,需要者
は,そのような法律や条文の存在すら知らないのが通常であるし,まして本願商標
に関係する需要者は,経理担当者であって,法律を扱う部門の者ではないから,法
律・条文中の文言の存在をもって,国の行政機関の達成すべき任務の一をさすキ-
ワ-ド的存在とするのは事実誤認である。
 また,審決は,「一般に○○大臣と名称の末尾に「大臣」の文字を付したも
のは,国の行政機関の長の名称を表わしたものと理解される場合が少なからずある
ものといえること」と認定しているが,その根拠となるべき証拠を明示しておら
ず,違法な審決というべきである。
2 取消事由2(誤信のおそれに関する判断の誤り)
(1) 需要者の誤認
 審決は,商標法4条1項7号の主体的判断基準である需要者を国民一般と
とらえた上で,本願商標の使用は「「福祉に関する行政事務を管理する大臣」の名
称又は厚生労働大臣の別称の如く,需要者を誤信させる」と判断している。
 しかし,本願商標は,指定商品との関係から社会福祉業向け会計ソフトで
あると想起させる。社会福祉業向け会計は特殊であるため,一般会計と明らかに消
費者が異なり,社会福祉法人,その経理部長・担当者という高度な知識・判断力を
有する者が需要者となる。いかなる商標が公序良俗に反するかは,一国におけるそ
の時代に応じた社会通念に従って,取引の実情を通じて判断すべき相対的な概念で
あるところ,本願商標の指定商品は一般消費者が手にするものではなく,上記のよ
うな高度の判断力を有する専門業者が需要者となるものであるから,これらの需要
者は,本願商標が「福祉に関する行政事務を管理する大臣」又は厚生労働大臣と関
わりがあるものと誤信することはないし,大臣が財務会計に関係するソフトウェア
を販売していないことを知っており,「福祉大臣」が存在しないことも熟知してい
るのである。したがって,本願商標の需要者を主婦や子供等を含む国民一般とした
審決の上記判断は誤りである。
(2) 不明確な認定判断
 審決は,「需要者を誤信させるおそれが少なからずあるというべきであ
る」と判断している。しかし,このような「少なからず」といった不明確な認定判
断をもって商標登録を拒絶すべきではない。
(3) 公共の利益の誤認
 原告は,既に本願商標を日本経済新聞等の広告に使用し,原告の販売店に
おいて本願商標を付した指定商品を販売するために使用しており,本願商標は,需
要者に広く認識されている。したがって,本願商標の登録を認めないとするなら
ば,何人もこれを使用できることになり,取引秩序が乱され,結果として需要者の
利益,ひいては公共の利益をも害することになるのであって,この点において,審
決は公共の利益についての判断を誤ったものである。
(4) 商品との関係での誤信のおそれの不存在
 商標法4条1項7号の適用においては,商品との関係も考慮すべきである
ところ,福祉六法をみても,本願商標に係る商品・役務であるソフトウェアの開
発・製造・販売について全く定められていないのであるから,当該商品・役務に
「福祉大臣」の商標を使用しても需要者を誤信させるおそれはない。
(5) 判断基準時の誤認
 審決は,「中央省庁等改革による中央省庁等の再編成により,一部省庁の
分離,統廃合及び名称の変更がなされる場合があること」として,将来,省庁名が
変更される可能性も含めて,本願商標の商標法4条1項7号該当性を判断してい
る。
 しかし,本願商標が公序良俗に反するか否かは,査定時・審決時に現存し
ている大臣名を基準に判断すべきであって,査定時・審決時に現存しない大臣名を
判断の基礎とすべきではないから,将来の可能性を含めて判断した審決は,判断基
準時を誤ったものである。
3 取消事由3(過去の登録例についての判断の誤り)
 審決は「請求人は,過去の登録例を挙げて本願商標の登録適格性を主張して
いるが,それらの事例は商標の具体的構成において本願商標とは事案を異にするも
のであり,それら事例をもって現在における本願商標の登録の適否を判断する基準
とするのは必ずしも適切でなく,また,本件については前記認定を相当とするもの
であるから,その主張は採用することができない。」と判断している。
 しかし,商標の類否判断と異なり,「大臣」という語を含む単純な構成につ
いて,同時期に異なる結論が出るのは極めて不合理である。すなわち,過去の49
件の登録例は,いずれもその商標を構成する文字の一部に「大臣」を含むという点
で,本願商標と共通の性質を有するものであるから,本願商標の登録の適否を判断
する基準となるべきであり,これらを判断の基礎として考慮することなしに,本願
商標の登録を拒絶することは,著しく公平性を欠いているというべきである。
第4 被告の反論の要点
1 取消事由1(事実の誤認)について
現代の高齢化社会においては,「年金」「医療」の語と同様に,「福祉」の
語が国の行政機関の達成すべき任務の一をさすキーワード的存在であることは,社
会の一般的な常識として知られているところであるし,法律中の「福祉」の文言の
存在や,「福祉」に関する法令が多数存在することからも,「福祉」の重要性が認
められるのであって,「キーワード的存在」とした審決の認定に誤りはない。
 また,審決は,「大臣」の文字の意味について,広辞苑及び法律を引用して
事実を説示し,その事実から一般の人々に理解されるところを述べているのであ
り,証拠が明示されていないとの原告の主張は失当である。
2 取消事由2(誤信のおそれに関する判断の誤り)について
(1) 需要者の誤認について
 出願された商標が公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがあるかどうか
は,国民一般が抱く普通の感情を標準として判断すべきである。
 我が国に福祉省という名称の省庁がなく,「福祉大臣」が存在しないとし
ても,「福祉」が厚生労働省の所掌する行政事務との関係で特別関連性が強いもの
であることなどからすると,「福祉大臣」の文字からは,「福祉」に関する行政事
務を管理する大臣である「厚生労働大臣」が連想され,当該文字があたかも「厚生
労働大臣」の別称の如く認識されるのである。このように,「厚生労働大臣」と本
願商標とは,「福祉に関する大臣」という認識において一致する密接な関連性のあ
る大臣名称といえるものである。また,福祉政策の推進並びにその行政事務を所掌
している大臣の名称は,わが国においては,「厚生労働大臣」であるが,国によっ
ては,これを「福祉大臣」と称していることも少なくない。
 このように,「福祉大臣」は,あたかも「厚生労働大臣」の別称の如く認
識されるものであること,及び諸外国の大臣名称として新聞等でその名称が使用さ
れていることなどから,公的な名称としての認識に近いものがあるというべきであ
る。
 したがって,「福祉大臣」の語は,国民にとって社会的に公共性のあるも
のとして認識されるような大臣名称であるから,このような名称の使用等が公共の
秩序を乱すことはいうまでもなく,さらに,社会公共の利益に反するものというべ
きである。また,国民にとって社会的に公共性のあるものとして認識される公的な
大臣名称を商標として登録することは,指定商品及び指定役務について独占使用
権,排他権を付与することになり,国民の行政への信頼を損ねるとともに,商標法
の趣旨・目的に照らして,社会的妥当性を欠き不当であるとの感情を抱かせるもの
であって,国民の感情を害する商標ともいうべきである。
 なお,本願商標の指定商品及び指定役務中には,例えば一般のコンピュー
タソフトウェア(記録されたもの),電子計算機なども含まれるものであるから,
これらの取引者,需要者が原告の主張するような特別の者に限られるということは
ない。
(2) 不明確な認定判断について
 「少なからず」の語義は一般的な国語辞典からも明らかであり,また,取
引者,需要者の認識において,一方の認識が全てであるということは必ずしもあり
得ないのであるから,原告指摘のように不明確な認定判断であるということにはな
らない。
(3) 公共の利益の誤認について
 原告は,本願商標が既に出願人によって使用されていることなどを理由
に,本願商標の登録が認められないことの不都合をいう。
 しかし,本願商標が商標法4条1項7号に該当する商標である以上,既に
出願人によって使用されているからといって,登録され得ないのは止むを得ないこ
とである。
(4) 商品との関係での誤信のおそれの不存在について
 商標法4条1項7号は,社会における一般の人に,出願商標それ自体がど
のように認識されるのかということが重要であるところ,本願商標にあっては,そ
の構成文字から審決のとおりに認定判断されるのであって,この認定判断は商品と
の関係を考慮する,しないによって左右される性質のものではない。
(5) 判断基準時の誤認について
 審決は,省庁再編により将来「福祉大臣」が存在する可能性を問題にして
判断したものではなく,中央省庁等の再編成により,厚生省が厚生労働省となった
事実を踏まえ,審決時での現状としての事情を述べたものである。名称変更後の間
もない審決時において,大臣名を正確に了知し得ない場合もあることから,本願商
標が「福祉に関する大臣」の名称,すなわち「福祉に関する行政事務を管理する大
臣」の名称又は厚生労働大臣の別称の如く,需要者,取引者を誤信させるおそれが
少なからずあると判断したものである。
3 取消事由3(過去の登録例についての判断の誤り)について
 原告が挙げる登録例のほとんどは,その構成から見て,国の行政事務に関連
があるとは到底理解されないものであるから,本願商標とは事案を異にするもので
ある。また,「大臣」の語を含む商標の登録例があるからといって,そのことを理
由に,本願商標が有する反社会性・反公益性を無視して,公序良俗に反するおそれ
がないと判断すべきではなく,商標法4条1項7号の判断は,過去の登録例に拘束
されるものではないから,過去の登録例をもって,審決が著しく公平性を欠き,誤
っているということはできない。
第5 当裁判所の判断
1 本願商標の構成中「福祉」の文字は,「公的扶助やサービスによる生活の安
定,充足」(広辞苑第5版,乙1号証)を意味する語として,また,「大臣」の文
字は,「国務大臣または各省大臣の称」(広辞苑第5版,乙2号証)を意味する語
として,一般的に理解されていることは明らかである。
2 そして,「福祉」は,福祉国家,福祉政策,福祉行政などという言葉に象徴
されるように,国や公共団体が取り組むべき重要な行政課題の一つとして,国民の
生活と密接な関係を持ち,国民の関心事として一般によく知られている言葉であ
り,その具体的な施策の推進及び行政事務は,厚生労働省(平成13年1月の中央
省庁等の再編成前は厚生省)が所掌し,その長である厚生労働大臣が統括している
ところである(厚生労働省設置法4条1項,国家行政組織法10条)。したがっ
て,「福祉」という語は,児童福祉,老人福祉,身体障害者福祉など国民の生活の
安定,充足に係わる公共性を含んだ言葉として,公共的な意味合いを認識させるも
のということができる。
 また,「大臣」は,内閣総理大臣を初め,現在,国の行政機関として設けら
れた「総務省,法務省,外務省,財務省,文部科学省,厚生労働省,農林水産省,
経済産業省,国土交通省,環境省」(国家行政組織法別表第1)の各省の長とし
て,各省の所掌する行政事務を統括する(国家行政組織法10条)者の名称に用い
られているものであり,総務大臣,法務大臣などそれぞれの省名を冠して示される
公的な名称として,広く知られているものである。そして,各省大臣は,各省の所
掌事務に関して,団体又は個人に対し,各種事業等の許認可等を行い,それらの許
認可等は,商品の販売者や役務の提供者において,各省大臣による審査を経た,公
的な基準,規格等を満たした商品あるいは役務であることを示すものとして,「〇
〇大臣認定」,「〇〇大臣認可」,「〇〇大臣指定」などのように,当該商品の品
質や役務の質の優位性を表わすために表示されていることは,しばしば見られると
ころである(乙3ないし39号証)。このように,「大臣」は,国の行政機関の長
を意味する言葉として,広く一般国民に知られているだけでなく,実際の取引社会
において,しばしば一定の商品や役務について行政機関による公的な基
準,規格等を満たしていることを示す表示としても用いられ,これに対する国民の
信頼も大きいものがあるということができる。
3 ところで,我が国には,福祉省という名称の行政機関はなく,福祉大臣とい
う大臣も存在していない。
 しかし,前記のとおり,公共的な意味合いを持つ「福祉」の語と公的名称と
して用いられる「大臣」の語とを組み合わせてなる「福祉大臣」という語は,福祉
に関する大臣,すなわち福祉に関する行政分野を担当ないし統括する大臣という観
念を想起させるものであり,このことに加え,諸外国においては,国の行政機関と
して「福祉大臣」,「社会福祉大臣」,「労働福祉大臣」などの名称の大臣が存在
しており,我が国の新聞記事においてもその名称が使用されて報道され(乙42な
いし56号証),それらの名称が国民の目に接することもあることや,前記のとお
り,「福祉」という言葉が国の施策に関係する意味を持つものとして知られている
ことなどを考えると,「福祉大臣」という語は,一般的に,国の行政組織上の公的
な名称という認識を抱かせるものということができる。
 また,我が国の行政組織については,平成13年1月,中央省庁等改革基本
法の定める方針等に基づき,従前の各省庁を整理統合し,新たに内閣府を設けると
ともに10省に編成し直され,それまでとは違った新しい名称の省(例えば,財務
省,経済産業省,国土交通省など)も誕生したが,大規模な再編成であったことな
どに照らすと,その再編成から3年余を経たとしても,必ずしも国民一般の間で再
編成後の各省庁の名称,事務分掌等が正確に認識されているとは限らないのであっ
て,「福祉大臣」という語から,福祉に関する行政機関の長たる大臣,あるいは,
福祉に関する行政事務を統括する厚生労働大臣を連想することは十分考えられる。
 そうすると,本願商標である「福祉大臣」の語は,あたかも「福祉に関する
大臣」という国の行政機関の長を示す公的な名称として,あるいは福祉行政を担当
する厚生労働大臣の別称を意味するものとして,一般的に認識される可能性のある
ものということができ,前記のとおり,取引社会において,大臣名称が一定の商品
や役務について公的な基準,規格等を満たしていることを示す表示として用いられ
ていることなどに照らすと,「福祉大臣」の文字よりなる本願商標をその指定商品
及び指定役務について使用した場合には,その需要者,取引者に対し,それらが福
祉に関する行政分野を統括する大臣の名称であるかのように,あるいは厚生労働大
臣と関わりがあるかのように,誤信させるおそれがあるというべきであり,その登
録を認め,指定商品及び指定役務について独占使用権,排他権を付与することは,
国民の行政に対する信頼を損ねるとともに,取引秩序を乱すおそれがあり,社会公
共の利益に反するというべきである。
 商標法4条1項7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商
標」には,上記のように,当該商標を使用することにより,国民の行政への信頼を
損ねるなど,社会公共の利益に反することになるものも含まれると解すべきである
から,本願商標は,商標法4条1項7号に該当するものとして,商標登録を受ける
ことができないものといわざるを得ない。
4 原告が主張する取消事由1ないし3について検討する。
(1) 取消事由1(事実の誤認)について
 現在,我が国において,福祉の問題が,国民の日常の生活に関わる切実な
問題として,重要な行政課題の一つとなっていることは,国民一般の共通の認識で
ある。このことは,具体的な法律の存在や個々の条文を知っているか否かに係わり
のない,一般的な常識に類することであり,「福祉」の語が「国の行政機関の達成
すべき任務の一をさすキーワード的存在」であるとした審決の認定に誤りはない。
 また,前記のとおり,「大臣」の文字が「国務大臣または各省大臣の称」
を意味する語として一般的に理解されていることは明らかであり,審決は,広辞苑
の記載等を引用して,「名称の末尾に「大臣」の文字を付したものは,国の行政機
関の長の名称を表わしたものと理解される場合が少なからずあるものといえる」と
認定したものであって,原告主張の違法はない。
(2) 取消事由2(誤信のおそれに関する判断の誤り)について
ア 原告は,本願商標は,指定商品との関係から社会福祉業向け会計ソフト
であり,需要者が国民一般であるとした審決の判断は誤りである旨主張する。
 しかし,本願商標の指定商品及び指定役務は,前記第2(当事者間に争
いのない事実)の1記載のとおりであり,原告が主張するような社会福祉業向け会
計ソフトに限定されているものではないから,原告の主張は前提において失当であ
る。
 また,現在,社会の広い階層,年齢にわたり,あらゆる事務の処理につ
いてコンピュータが利用されていることを考えると,本願商標に接すべき需要者,
取引者が原告の主張するような狭い範囲の者であるといえないことは明らかであ
る。
イ 原告は,審決が「需要者を誤信させるおそれが少なからずあるというべ
きである」と説示したことをとらえて,「少なからず」というのは不明確な認定判
断であると主張する。
 しかし,審決の上記説示が,誤信させるおそれがあること及びそのおそ
れが決して少ないものではないことを説示したものであることは明らかであり,こ
れをもって不明確な認定判断というのは当たらない。
ウ 原告は,既に本願商標が使用され,需要者に広く認識されており,本願
商標の登録を認めないとすると,取引秩序が乱され,需要者の利益,ひいては公共
の利益をも害することになると主張する。
 しかし,本願商標は,前記のとおり,商標法4条1項7号に該当するも
のであるから,その商標登録ができないのはやむを得ないことであり,たとえその
商標が既に使用されているとしても,だからといって,本願商標が商標法4条1項
7号に該当しなくなるわけでないことはいうまでもない。また,本願商標の登録が
認められないと,すなわち原告が指定商品及び指定役務について本願商標の独占使
用権,排他権を取得しないと,取引秩序が乱されるとか,公共の利益を害すること
になるといえないことも明らかであって,原告の上記主張は採用の限りでない。
エ 原告は,福祉六法をみても,本願商標に係る商品・役務であるソフトウ
ェアの開発・製造・販売について定められていないから,当該商品・役務に「福祉
大臣」の商標を使用しても需要者を誤信させるおそれはないと主張する。
 しかし,前記のとおり,本願商標が商標法4条1項7号に該当するの
は,「福祉大臣」という語が,あたかも国の行政機関の長を示す公的な名称とし
て,あるいは福祉行政を担当する厚生労働大臣の別称を意味するものとして,一般
的に認識される可能性のあるものであることから,これを指定商品及び指定役務に
使用することにより,厚生労働大臣などと関わりがあるかのように誤信させるおそ
れがあり,国民の行政に対する信頼を損ねるおそれがあることなどによるものであ
って,厚生労働大臣が本願商標に係る商品等を開発・製造・販売していることによ
るものではない。したがって,厚生労働大臣がそれらの開発・製造・販売をしてい
ないことを理由に,需要者を誤信させるおそれがないとする原告の上記主張は失当
である。
オ 原告は,審決が,将来の省庁名の変更の可能性を含めて,商標法4条1
項7号該当性を判断していると主張する。
 しかし,審決は,「「福祉に関する行政事務を管理する大臣」の名称又
は厚生労働大臣の別称の如く,需要者を誤信させるおそれが少なからずあるという
べきであるから」(審決書3頁25~27行)と説示しているのであり,審決時を
前提に「誤信のおそれ」を判断したものであって,将来,「福祉省」ないし「福祉
大臣」が存在することになる可能性を含めて判断しているものでないことは明らか
である。原告の主張は,審決を正解しないで非難するものであり,失当である。
(3) 取消事由3(過去の登録例についての判断の誤り)について
 原告は,商標を構成する文字の一部に「大臣」を含む登録例が49件あ
り,これらを判断の基礎として考慮することなしに,本願商標の登録を拒絶するこ
とは,著しく公平性を欠いていると主張する。
 「大臣」という語を含む商標登録の例が存在することは,原告が主張する
とおりであるが(甲9号証),商標登録の適否は,当該商標の全体の構成に基づい
て個々の商標ごとに個別的に検討,判断されるべきものであり,本願商標が商標法
4条1項7号に該当するか否かについての判断が,他の登録例に拘束されるべき理
由はない。また,登録された商標が,事後に,審決あるいは判決によって無効とさ
れることもあり得るのであるから,原告主張のような登録例があることをもって,
本願商標の登録を拒絶することが著しく公平性を欠くことになるということもでき
ない。したがって,原告の上記主張は採用できない。
5 以上のとおりであるから,本願商標が商標法4条1項7号に該当するとした
審決の判断に誤りはない。
 原告が主張する取消事由は,いずれも理由がなく,その他,審決に,これを
取り消すべき誤りがあるとは認められない。
 よって,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行
政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
    東京高等裁判所知的財産第3部
  
           裁判長裁判官 佐  藤  久  夫
 
              裁判官 設  樂  隆  一
              裁判官 若  林  辰  繁
  

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