弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
「特許庁が、昭和六三年一〇月二〇日、同庁昭和五五年審判第二〇四五三号事件に
ついてした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決
二 被告
主文同旨の判決
第二 請求の原因
一 特許庁における手続の経緯
 被告は、別紙(一)に示すとおりの構成よりなり、指定商品を第三二類「食肉、
卵、食用水産物、野菜、果実、加工食料品(他の類に属するものを除く。)とする
登録第一二四二三一五号商標(昭和四八年一月二七日商標登録出願、昭和五一年一
二月一六日設定登録、昭和六一年六月二四日更新登録出願)(以下「本件商標」と
いう。)の商標権者であるところ、原告は、昭和五五年一一月八日、本件商標につ
きその商標登録無効の審判を請求した。特許庁は、右事件を同庁昭和五五年審判第
二〇四五三号事件として審理した結果、昭和六三年一〇月二〇日、「本件審判の請
求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は
同年一一月一六日原告に送達された。
二 本件審決の理由の要点
1 本件商標の構成、その指定商品及び本件商標登録出願日、設定登録並びに更新
登録出願日は、前項記載のとおりである。
2 請求人(原告)が本件商標の登録無効の理由として引用する登録第五〇五八九
一号商標(以下「引用商標」という。)(別紙(二))は、「小僧」の漢字を縦書
きしてなり、旧第四五類「他類に属しない食料品及び加味品」を指定商品として、
昭和三一年一〇月二九日に登録出願され、昭和三二年七月二五日に登録された商標
であつて、該商標権は現に有効に存続しているものである。
3 無効審判請求の理由
(一) 本件商標は、小僧が下駄を履き、お辞儀をしている状態を示す図形からな
るものであるから、これよりは直ちに「小僧、番頭さん」を想起することは、需要
者、取引者の容易に認めるところである。しかも、出願人は株式会社小僧寿し本部
であるところ、一般に商人がその氏名または商号の一部をとつて商標の構成の一要
素とすることは、我が国の商取引の実情に照らしても、しばしば行われることより
すれば、本件商標についても、出願人である小僧寿し本部と該図形との関連におい
て、即、「小僧」なる称呼を生ずるものであることは疑う余地のないところであ
る。
(二) 引用商標である「小僧」からは、「コゾウ」の称呼及び「小僧」の観念を
生ずることは明らかであり、また、その指定商品も、旧商品区分第四五類は、「他
類に属せざる食料品及び加味品」として、「肉類、卵、鰹節、昆布、味噌、漬物」
等を含むものであるから、現行の商品区分第三二類のうち「食肉、卵、食用水産
物、加工食料品」において全く同じ商品に該当する。
(三) 図形から生ずる意味がどのようなものであるかは、その図形が指定商品の
需要者、取引者の間で簡易迅速に行われる商取引上、どのように理解されるかによ
つて決めるべきものであることよりすれば、その指定商品である「食肉、卵、食用
水産物、果実」などの食料品との関連から考察して、本件商標よりは直ちに「小
僧」と理解し判断するといえるから、本件商標と引用商標とは、「小僧」の観念及
び「コゾウ」の称呼において類似し、これがため、本件商標を使用すれば、商品の
出所の誤認混同を生じ、競争秩序が乱れ、登録商標の出所表示機能を信頼する一般
需要者、そして、請求人(原告)である株式会社入船の利益を害することが明らか
である。
(四) 前記のごとく、本件商標は、称呼及び観念において引用商標と類似するも
のであるから、本件商標の登録は商標法第四条第一項第一一号に該当し、同法第四
六条の規定により無効とせられるべきものである。
4 被請求人(被告)の主張
(一) 本件商標と引用商標の外観構成を対比すると、本件商標は、丁髷頭にねじ
り鉢巻きをしめ、胸には晒を巻き、着物の上に絆纒及び前掛けをして、高下駄を履
いている人物が、前掛けの前で両手を揃え、お辞儀をしている姿を正面より描いて
なる図形商標であるのに対し、引用商標は、「小僧」の漢字を楷書体で縦書きして
なる文字商標であるから、両者は、その構成を全く異にし、外観上非類似であるこ
とは明白である。次に、称呼及び観念についてみると、本件商標は、前記のとおり
の極めて複雑な構成の図形からなるものであつて、格別の呼称、観念を生じ得ない
ものであるのに対し、引用商標「小僧」は、「幼少の僧、雛僧、商店に使役される
少年の称、青少年を卑しめていう語」の語義を有し、「コゾウ」の称呼を生ずるも
のであるから、両商標は、その称呼、観念において対比すべくもなく、非類似のも
のといわざるを得ない。
(二) しかして、「小僧」とは、前記の語義を有するものであるが、本件商標の
図形の該人物が幼年の僧、雛僧でないことは論ずるまでもない。また、該人物の丁
髷が成年男子のものであること、商店に使役される少年、すなわち丁稚は絆纒を着
用しないことが通例であること、商家の者が営業上、高下駄を履くことはないこと
等からすれば、該人物が商店に使役される少年であると理解することは到底できな
い。更に、幼年の僧でも商店に使役される少年でもない該人物が、殊更卑しめられ
て小僧と指称される理由は全く見い出すことができない。してみれば、いかなる意
味においても「小僧」を描いたものとはいえない本件商標からは、「コゾウ」(小
僧)の称呼、観念は生じ得ないといわなければならない。
(三) 請求人(原告)は、本件商標が被請求人(被告)である株式会社小僧寿し
本部の所有であることを理由に、本件商標から、その商号の略称ともいえる「小僧
寿し」の称呼、観念が生ずると主張するが、図形のみからなる本件商標について、
この主張は妥当でなく、「小僧」の称呼、観念が生ずることはない。
5 本件審決の判断
(一) 本件商標と引用商標の類否についてみると、本件商標は、別紙(一)に示
す構成の図形からなるのに対し、引用商標は、別紙(二)に示すとおり「小僧」の
文字を普通に書してなるものである。
(二) したがつて、本件商標は、丁髷頭にねじり鉢巻きをしめ、胸に晒を巻き、
着物の上に絆てんをはおり前掛けをして高下駄を履いている人物が、前掛けの前で
両手を揃え、お辞儀をしている姿を正面より描いた図形のみからなるものであるか
ら、
商家で働く人物であることは肯定し得るものであるとしても、これを以て、直ちに
小僧とか丁稚という特定の称呼、観念が生ずるとはいい難いものである。
(三) 一方、引用商標である「小僧」の文字(語)からは、その文字に照応して
「コゾウ」の称呼を生ずることは明らかであるが、その観念において、①年少の
僧、②商店で使われている年少の男店員、③年少の男子をあなどつていう語などの
語義を有することは日常一般に認識されているところであり、辞典(広辞苑)など
にも記載されていることは、乙第一号証の二(本訴乙第二号証)からもこれを認め
ることができる。
(四) 小僧の文字(語)が、右のようにその時々、その使用する目的によつて、
前記①②③という異なる観念が生ずるという多義的意味合いを有する文字(語)で
あることからすれば、「小僧」の文字(語)からは、必ずしも商家で働く丁稚の一
種である「小僧」のみを観念するとはいえないというべきであり、また、この多義
的な意味合いを有する「小僧」という概念の中で描かれるさまざまな図形の中で、
本件商標のごとき図形のみがこれを代表する図形として特定しているものとも認め
られない。そうとすれば、「小僧」「コゾウ」という特定の観念、称呼を生ずるも
のとは認め難い図形よりなる本件商標と、「コゾウ」の呼称を生ずることは明らか
であるとしても、多義的な意味合い有する「小僧」の文字(語)よりなる引用商標
とは、外観はもとより、観念及び称呼のいずれの点からも共通する部分を見出し得
ず、非類似の商標といわざるを得ない。
(五) したがつて、本件商標は、商標法第四条第一項第一一号に該当しないか
ら、同法第四六条第一項第一号の規定により、その登録を無効にすることができな
い。
三 本件審決を取り消すべき事由
 本件審決の理由の要点1ないし4の摘示は認める、同5(一)は認める、同
(二)のうち本件商標から直ちに小僧とか丁稚との特定の称呼、観念が生じないと
の点は争い、その余は認める。同(三)は認める。同(四)及び(五)は争う。本
件審決は、本件商標からは「小僧」、「コゾウ」という特定の観念及び称呼が生じ
ないとの誤つた認定をしたために、本件商標と引用商標との類似性を否定するとい
う誤つた結論を導いた点において、違法であるから取り消されるべきである。
 本件審決は、図形商標である本件商標の段階的発展性を看過したために、本件商
標からは、「小僧」、「コゾウ」という特定の観念及び称呼が生ずるものとは認め
難いとの誤つた認定判断をしたものである。すなわち、登録商標の類似範囲は時の
経過とともに変遷するものであり、その商標の登録時に固定されるものではないか
ら、その登録無効審判請求事件において、出願に係る商標が他人の登録商標と類似
するか否かの判断は、これに対する審決がなされる時期における事情を基準として
なされるべきものである。そして、図形商標は、出願登録された当初の段階におい
ては、一般取引者、需要者の間に周知性がなく、未だ見慣れないものであるため
に、そこから、特定の観念、称呼が生ずるとはいえない場合があるとしても、当該
図形商標を商品に付してその出所を継続的に大規模に宣伝することによつて、一般
取引者、需要者は、次第にその図形商標とその商標権者の販売に係る商品及び出所
との結び付きを直感するようになり、段階的発展的に、その図形商標から直ちに特
定の観念と称呼を生ずるようになることは日常一般に経験するところである。これ
を本件商標についてみると、本件商標は、本件審決当時には、それ自体単独で使用
されてはおらず、全国的な多数のチエーン店において、商品名と出所名とを表示す
るところのほとんど同じ「小僧寿し」なる文字を常に本件商標の周辺に配した態様
において使用されている(甲第五号証ないし第一六号証)。「お持ち帰り寿司」の
包装紙にも、本件商標と右同様の文字が印刷されている。もつとも、被告は本件商
標の登録査定時においては、本件商標と「小僧寿し」の文字を合わせ使用していた
ものではないが、その後次第に本件商標を右のような態様で使用し始め、現在に至
つている。このようなことから、年月が経過するに従つて、一般取引者、需要者
は、図形商標である本件商標から、直ちに「小僧寿し」を観念し、また、本件商標
を「コゾウズシ」と称呼するようになり、すでに本件商標の使用開始から十数年を
経た今日においては、本件商標と右の「小僧寿し」なる商品名、出所名とは一体と
なつて観念され、称呼されるに至つている。また、本件商標権者である被告自身に
おいても、本件商標を「株式会社小僧寿し本部」の商品たる「小僧寿し」の商標と
して全国的大規模に使用することを意図し、少なくとも「小僧」を表す図形を用い
て商品を象徴せしめようとの意図のもとに本件商標を使用していることは、被告代
表者の著書からも十分窺え知ることができる。被告代表者自身、その著書(甲第四
号証)において、本件商標を使用した理由について、「その図形を見ただけでもお
年寄りにも子供さんにも小僧寿しだとわかる上、風がわりな絵であり、名前である
ことから覚え易く、忘れにくく、『小僧』という名が庶民に親しみやすいからであ
る。」とはつきり述べている。そして、本件商標は、右のような著者の意図どお
り、現在ではすでに一般世間においても、本件商標を「小僧寿し」として観念し、
称呼するに至つている。このように、本件商標が、「小僧寿し」として観念され、
称呼されることは明らかであるところ、「小僧寿し」のうち、「寿し」の部分は、
単に商品名を表示する普通名詞であつて自他商品識別力はなく、自他商品識別の機
能をもつ部分は「小僧」の部分にある。したがつて、この「小僧」の部分から「コ
ゾウ」の称呼を生ずることになるのである。
 一方、引用商標からは、本件審決の認定したとおり「小僧」の文字に相応して
「コゾウ」の称呼が生ずるものである。したがつて、本件商標は、「小僧」の観念
と、「コゾウ」の称呼を共通にすることから、引用商標と類似する商標であるとい
うべきである。なお、本件審決は、本件商標である図形の意味や引用商標である
「小僧」の意味を詮索しているが、両商標の類比判断の基準時を本件審決時と解す
る以上、本件商標の登録から十数年を経た本件審決時点においては、取引者及び一
般需要者が、本件商標から「小僧寿し」を直感して、「小僧」を観念し、かつ「コ
ゾウ」と称呼するという現実の事実があることからして、本件審決における右の点
の詮索には何ら重要性はないというべきである。
第三 請求の原因に対する認否及び被告の主張
一 請求の原因一、二の事実は認める。
二 同三の主張は争う。本件審決の認定及び判断は、正当であり、何ら違法の点は
ない。
1 原告は、本件商標と引用商標との類比判断は本件審決時を基準としてなされる
べきである旨主張するが、商標登録の無効を求める無効審判請求事件においては、
当該商標の登録査定が誤つているか否かが審理、判断されるものであるから、その
判断の基準時は当該商標の登録時であることは明らかである。したがつて、本件審
決に本件商標登録後の事情等を考慮してその称呼及び観念を認定したことが窺えな
いとしても、本件審決は、本件商標の登録時において理解される本件商標の構成に
基づいて引用商標との対比判断をしたうえで、本件商標は、引用商標とは、外観は
もとより、称呼及び観念のいずれにおいても共通性のない非類似の商標であり、商
標法第四条第一項第一一号の規定に該当しない旨認定判断したものであるから、本
件審決の右の認定判断は正当であつて何ら誤りはない。
2 原告は、本件商標から、「小僧寿し」の称呼及び観念が生ずる理由をるる主張
するが、いずれも失当である。すなわち、まず、本件商標は、原告の指摘する他の
標章(「小僧寿し」の表示)と常に同時に使用するものとして商標登録出願された
ものではなく、また、本件商標の登録時において特定の他の標章と常に同時に使用
されることが明らかなものでもないから、事前に予測し得ない当該「他の標章」を
考慮に入れて、本件商標が「小僧寿し」なる標章と常に同時に使用されることを前
提として、本件商標の観念及び称呼についての認定判断をすべきでないことは明白
である。したがつて、被告及びその傘下のチエーン店がその店舗の看板に、たまた
まその著名な略称である「小僧寿し」の文字を本件商標と同一の標章とともに表示
しているからといつて、本件商標から「小僧寿し」及び「コゾウズシ」の観念や称
呼が生ずるものでないことは明らかである。また、一般に、標章それ自体からは伺
い知れない商標採択の意図により、その商標の観念や称呼が定まるものではないか
ら、被告代表者における本件商標の採択の意図がどのようなものであれ、それによ
つて本件商標の観念や称呼の認定が左右されることはないものである。更に、本件
商標の設定登録後に、本件商標と同一の標章が被告及びその傘下のチエーン店舗の
看板に盛大に使用された結果、現在では被告及びその傘下のチエーン店舗が使用す
る表示として著名となつているとしても、本件商標である図形商標自体が、「小僧
寿し」「コゾウズシ」として観念、称呼されている事実はない。結局、本件商標
は、本件審決が認定したように「丁髷頭にねじり鉢巻きをしめ、胸には晒を巻き、
着物の上に絆纒及び前掛けをして高下駄を履いている人物が、前掛けの前で両手を
揃え、お辞儀をしている姿を正面より描いた図形からなるもの」であるから、その
構成から看取される意義を直ちに簡明、適切な言葉で端的に言い尽くせるものでは
ない。したがつて、本件審決からは、格別の観念、称呼は生じ難いものであるか
ら、これと同旨の認定判断をした本件審決には何ら誤りはない。
3 他方、引用商標からは、その文字に対応して「コゾウ」の称呼が生ずること
は、被告も争わないが、「小僧」の文字(語)は、本件審決の指摘したとおり異な
る観念を生じさせる多義的な意味合いをもつものであつて、必ずしも商家で働く丁
稚の一種である「小僧」のみを観念させるものとはいい得ないのである。したがつ
て、本件商標と引用商標とは、外観はもとより、観念及び称呼のいずれの点からも
共通する部分を見出し得ない非類似の商標というべきであるから、本件審決の認定
判断は正当であり、本件審決には何ら違法な点はない。
第四 証拠関係(省略)
       理   由
一 請求の原因一及び二(特許庁における手続の経緯及び本件審決の理由の要点)
の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告の主張する審決取消事由の存否について判断する。
1 まず、商標法第四条第一項第一一号の規定に該当することを理由とする商標登
録無効審判請求における判断の基準時について、検討する。商標登録出願に対する
登録査定に当たり、同号の登録要件の存否は、同査定時を基準として判断するので
あるから(同条第三項)、登録無効事由の存否、すなわち右の登録要件の定めに違
反して誤つて登録査定がなされたか否かを判断する商標登録無効請求審判手続にお
いても、その判断の基準時を登録査定時とすべきは当然である。原告の主張は既に
その前提において失当であり、採用することができない。
2 次に、本件登録査定時を基準として、本件商標について、商標法第四条第一項
第一一号に規定する登録要件の存否、すなわち本件商標と引用商標の類否につい
て、検討する。
(一) 原告も、被告が本件商標の登録査定当時において、本件商標と「小僧寿
し」なる文字を合わせ使用していたとの事実まで主張するものではなく、また、そ
のような事実を認めるに足りる証拠もないのであるから、商標の観念、称呼につ
き、原告主張のように、商標自体の構成のほか、文字との併用など使用態様を考慮
に入れることが仮に許されると解しても、本件においては、本件商標の構成自体か
らこの点を判断すれば足りるものというべきである。
(二) そこで、本件商標の構成自体からいかなる観念、称呼が生ずるかについて
検討する。
 別紙(一)の構成の本件商標が「丁髷頭にねじり鉢巻をしめ、胸に晒を巻き、着
物の上に絆てんをはおり前掛けをして高下駄を履いている人物が、前掛けの前で両
手を揃え、お辞儀をしている姿を正面より描いた図形のみからなるものであるか
ら、商家で働く人物であることを示すことは肯定し得る」との趣旨の本件審決の認
定判断は原告も争わないところであり、本件商標の構成自体からみて、右認定判断
が正当であることを窺うことができるから、本件商標に接する需要者は、本件商標
が「商家に働く人物」を示していると認識するものということができる。
 他方、引用商標が別紙(二)のとおりの構成であり、「コゾウ」の称呼を生じ、
その観念において、本件審決の理由の要点5(三)に摘示された辞典(広辞苑)に
記載されている三つの語義を有することが日常一般に認識されていることは、当事
者間に争いがない。しかして、本件商標に接した多くの需要者が前記のような認識
の域を越え、本件商標に示された人物が「年少の男性」又は「見習中の男性」であ
るとの明確な印象を一見していだくとすれば、本件商標は、まずその観念におい
て、引用商標の「小僧」が有する第二の語義から生ずる観念、すなわち「商店で使
われている年少の男店員」と相通ずるものがあることは全く否定し去ることはでき
ないが、全く先入観なく本件商標に接した需要者が、本件商標に示された人物につ
いて、一義的に右のような明確な印象を一見していだくものと認めることは、本件
商標の外観に照らし、甚だ困難であるといわざるを得ない。
(三) そうであれば、本件商標から引用商標の有する前記のような観念、称呼が
生ずるものと認めることはできず、また、両商標は明らかにその外観を異にする。
したがつて、本件商標と引用商標とは、いずれの点からも共通する部分を見出し得
ないところの非類似の商標であるから、本件商標は、商標法第四条第一項第一一号
の規定に違反して登録されたものではないとした本件審決の認定判断は正当であ
る。
三 以上のとおりであるから、その主張の点に認定判断を誤つた違法があることを
理由に、本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほか
ない。
 よつて、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法第
七条及び民事訴訟法第八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 松野嘉貞 舟橋定之 小野洋一)
別紙
<12873-001>

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