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平成25年7月19日判決言渡
平成25年(行コ)第117号更正をすべき理由がない旨の通知処分取消請求控訴
事件
主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2豊島税務署長が控訴人に対し平成22年2月3日付けでした控訴人の平成1
9年9月1日から平成20年8月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」
という。)の法人税に係る更正の請求については更正をすべき理由がない旨の
通知処分を取り消す。
第2事案の概要
1控訴人は,家庭用電気製品の売買等を目的とする株式会社であり,本件事業
年度中の平成20年6月以降その発行する株式をA市場第一部に上場してい
るところ,これに先立つ平成14年に,資金の調達等の目的で,その所有する
土地及び建物等を信託財産とする信託契約(以下「本件信託契約」といい,こ
れに係る信託財産を「本件信託財産」という。)を締結した上で,それに基づ
く受益権(以下「本件信託受益権」という。)を総額290億円で第三者に譲
渡すること等を内容とするいわゆる不動産の流動化をし,これについて,法人
税の課税標準である所得の金額の計算上本件信託受益権の譲渡をもって本件
信託財産の譲渡と取り扱った内容の会計処理をして,以後,本件信託契約及び
これに関係する契約を終了させた本件事業年度までの間,この会計処理を前提
とした内容の法人税の各確定申告をしていたが,その後,上記の不動産の流動
化について本件信託財産の譲渡を金融取引として取り扱う会計処理をすべき
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である旨の証券取引等監視委員会の指導を受け,過年度の会計処理の訂正をし
た。
本件は,本件事業年度の法人税について,控訴人が,上記のとおり,その前
提とした会計処理を訂正したことにより,同年度の法人税の確定申告(以下「本
件確定申告」という。)に係る確定申告書の提出により納付すべき税額が過大
となったとして,国税通則法(平成23年法律第114号による改正前のもの。
以下「通則法」という。)23条1項1号に基づき,更正をすべき旨の請求(以
下「本件更正請求」という。)をしたところ,豊島税務署長から更正をすべき
理由がない旨の通知(以下「本件通知処分」という。)を受けたため,その取
消しを求めた事案である。
原審は,本件更正請求において更正の請求をする理由とされたところは,通
則法23条1項1号所定の更正の事由に該当しないから,本件更正請求につい
て更正をすべき理由がないとしてされた本件通知処分は適法なものというべ
きであるとして,控訴人の請求を棄却する旨の判決をした。控訴人は,これを
不服として控訴した。
2関係法令等の定め及び前提事実
関係法令等の定め及び前提事実は,原判決「事実及び理由」欄の「第2事
案の概要等」の2及び3(原判決3頁3行目から10頁3行目まで)に記載の
とおりであるから,これらを引用する。なお,同各項で定める略称等は,以下
においても用いることがある。
3争点及びこれに関する当事者の主張
本件の争点は,本件通知処分の適法性であり,具体的には,控訴人の本件事
業年度の法人税の所得の金額を計算するに当たり,平成14年8月期にされた
本件信託受益権の譲渡について,本件確定申告後に日本公認会計士協会が平成
12年7月31日付けで定めた「特別目的会社を活用した不動産の流動化に係
る譲渡人の会計処理に関する実務指針」(甲6,不動産流動化実務指針)に従
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って金融取引処理に訂正した控訴人の会計処理が,法人税法上相当なものとい
えるか否かであるところ,これに関する当事者の主張は,後記第3において当
審における控訴人の主張を摘示するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第
2事案の概要等」の4の(原告の主張の要点)及び(被告の主張の要点)(原
判決10頁11行目から34頁17行目まで)に記載のとおりであるから,こ
れを引用する。なお,同項で定める略称等は,以下においても用いることがあ
る。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,控訴人の請求は理由がないと判断する。その理由は,次のとお
り補正するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第3当裁判所の判断」(原
判決34頁18行目から43頁10行目まで)に記載のとおりであるから,こ
れを引用する。
(1)原判決35頁11行目から25行目までを次のとおり改める。
「そして,一般に不動産を信託財産とする信託契約に基づく受益権を有償で
譲渡した場合には,有償による資産の譲渡にあたり,これにより収益が生じ
たというべきところ,本件不動産流動化取引の経緯は,前提事実(2)及び(3)
のとおりであり,原告は,平成14年8月23日,Bに代金290億円で本
件信託受益権を譲渡する旨の本件信託受益権譲渡契約を締結し,平成14年
8月期から本件事業年度までの間の原告の各事業年度において,原告につい
ては,本件信託受益権譲渡契約及び本件買戻契約に基づく本件信託受益権の
各譲渡を含む本件不動産流動化取引及びその終了に係る取引により,それら
の取引に関してされた合意により形成された法律関係に従って,本件信託受
益権の譲渡の対価その他の各種の収入があったものとして会計処理をした
ものであって,それらが実質的には他の法人等がその収益として享受するも
のであったことや,上記の各合意の内容と取引の実態との間にそごがあった
こと等をうかがわせる証拠ないし事情は見当たらない。その上で,原告は,
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前提事実(4)アに述べたように,上記のように既に収益として実現済みであ
るその収入したところを,旧法人税法12条1項本文,法人税法22条2項
等の規定に従い,それらを収入する原因となった法律関係に従って,有償に
よる本件信託受益権の譲渡等の取引に係る各事業年度の収益の額に当たる
ものとして,各金額を当該事業年度の益金の額に算入するなどし,各事業年
度の所得の金額を計算して,法人税の確定申告をしたものである。原告が上
記のとおり本件信託受益権譲渡等の取引により収益があったとして会計処
理をし,当該事業年度の益金の額に算入して所得の金額を計算したことが実
体ないし実質を欠くものであったということはできない。」
(2)同37頁17行目の「上記に」から20行目の「相当である」までを次の
とおり改める。
「これを不動産を信託財産とする信託契約に基づく受益権を有償で譲渡した
場合についていうならば,同条2項が,別段の定めがあるものを除き,有償
による資産の譲渡により収益が生じる旨規定しており,一般に不動産を信託
財産とする信託契約に基づく受益権を有償で譲渡した場合には有償による
資産の譲渡にあたり,これにより収益が生じたというべきであることをも踏
まえて判断すべきであって,企業会計上の公正会計基準として有力なもので
あっても,当然に同条4項にいう「一般に公正妥当と認められる会計処理の
基準」に該当するものではないと解するのが相当である」
(3)同38頁4行目の「別紙「関係法令等の定め」3記載」を「別紙「関係法
令等の定め」4記載」と改める。
2控訴理由について
(1)控訴人は,当審においても,法人税法22条4項所定の「一般に公正妥当
と認められる会計処理の基準」(税会計処理基準)は,その時々の企業会計
の考え方に照らして公正妥当であると認められなければならないという意
味で企業会計の立場から公正妥当といえる会計処理の基準を指すのであっ
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て,本来同条2項所定の「別段の定め」をもって対処すべき同法独自の観点
をもって,企業会計の立場から公正妥当といえる会計処理の基準を税会計処
理基準に該当しないと判断する余地はない旨主張し,その理由として,①
法律の解釈において最も尊重されるべきものは条文の文理であるところ,同
法22条4項をその文言に従って素直に解釈すれば,税会計処理基準は純然
たる企業会計固有の立場から公正妥当といえる会計処理の基準を指すもの
と解すべきであり,②①の文言解釈上の帰結は,同条2項が法人税法独自
の考慮から「別段の定め」を置くことを許容し,これによって租税政策上の
観点から生じる不都合に対処すべきとしていることと整合する,③同条4
項の立法の経緯及び趣旨からすれば,同項は,課税所得は税法以前の概念や
原理を前提としているものであり,その計算は適切に運用されている会計慣
行に委ねることの方がより適当と思われる部分が相当多いとの観点から定
められた,納税者たる企業が継続して適用する健全な会計慣行によって計算
する旨の基本規定であって,税会計処理基準の判断については,企業におい
て適切に運用されている会計慣行であるか否かないしは企業が継続して適
用する健全な会計慣行であるか否かという企業会計の観点からの判断が要
求されることは明らかである,④税会計処理基準が租税の公平という同法
独自の観点から判断されるものであるとすれば,同法独自の規制がされるべ
き分野について納税者には何ら具体的な基準を示さずに同法独自の観点か
ら税会計処理基準に該当するか否かが判断されることになり,そのような解
釈は,適切に運用されている企業の会計慣行に委ねた同法22条4項の趣旨
と明らかに矛盾する,⑤憲法84条が定める租税法律主義の下では,租税
法に公権力の恣意や濫用を招くおそれのあるような終局目的ないし価値概
念を内容とする不確定概念を用いることは租税法律主義(課税要件明確主
義)に反し許されないと一般的に解されているところ,被控訴人の主張によ
れば,税会計処理基準は法人税法が企図する公平な所得計算という要請に反
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するか否か,適正公平な税収の確保という観点から弊害があるか否かといっ
た,法人税法の終局目的そのものを内容とする不確定概念となることが明ら
かであって,国民にとって法的安定性及び予測可能性が失われることにな
り,被控訴人の上記主張は,租税法律主義(課税要件明確主義)に反し採用
し難い,⑥法人税は申告納税制度に基づいて納付されるのであり,企業会
計に従った企業利益を基礎として,それに法人税法上必要な修正を行う形で
課税所得が算出されることになっている,被控訴人の上記主張は申告納税制
度の下では成り立ち得ないものである,⑦税会計処理基準は企業会計固有
の立場から判断するという解釈が学説上の多数説である旨主張し,その上
で,不動産流動化実務指針は,10年以上にわたり広く用いられてきたもの
であり,企業会計の観点からみて健全な会計処理の基準といえることに特段
争いはないから,税会計処理基準に該当することは明らかである旨主張す
る。
しかし,控訴人の上記主張についての判断は,上記のとおり補正の上引用
する原判決説示のとおりであり,法人税法22条4項の文言及び趣旨に照ら
せば,同項は,同法における所得の金額の計算に係る規定及び制度を簡素な
ものとすることを旨として設けられた規定であり,法人が収益等の額の計算
に当たって採った会計処理の基準がそこにいう「一般に公正妥当と認められ
る会計処理の基準」(税会計処理基準)に該当するといえるか否かについて
は,上記目的を有する同法固有の観点から判断されるものであって,企業会
計上の公正妥当な会計処理の基準(公正会計基準)とされるものと常に一致
することを規定するものではないと解するのが相当である。上記に関連して
控訴人が主張するところを踏まえ検討するも,同判断に変更を来すものでは
ない。
(2)控訴人は,仮に税会計処理基準が法人税法独自の観点から判断されるもの
であったとしても,不動産流動化実務指針は税会計処理基準に該当する,不
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動産流動化実務指針は,不動産流動化取引における実現主義からの収益の認
識時期についての帰結を明示することを目的として設けられたものであり,
不動産流動化取引の経済的実態からみて,実現主義ないし権利確定主義の観
点から合理的といえる「リスク・経済価値アプローチ」による収益計上の基
準を採用したものであって,最高裁平成5年判決に照らしても実現主義ない
し権利確定主義に沿う会計処理の基準である旨主張する。
しかし,上記主張についての判断は,上記のとおり補正の上引用する原判
決説示のとおりである。不動産流動化実務指針は,不動産等が法的に譲渡さ
れ,かつ,その対価を譲渡人が収入として得ているときであっても,なお,
子会社等を含む譲渡人に残された同指針のいう意味での不動産のリスクの
程度を考慮して,これを金融取引として取り扱うことがあるとしたものであ
るが,法人税法は,適正な課税及び納税義務の履行を確保することを目的と
し,資産又は事業から生ずる収益に係る法律関係を基礎に,それが実質的に
は他の法人等がその収益として享受するものであると認められる場合を除
き,基本的に収入の原因となった法律関係に従って,各事業年度の収益とし
て実現した金額を当該事業年度の益金の額に算入するなどし,当該事業年度
の所得の金額を計算すべきものとしていると解されるのであるから,当該事
業年度の収益等の額の計算に当たり,本件におけるように,信託に係る受益
権が契約により法的に譲渡され,当該契約に定められた対価を現に収入とし
て得た場合において,それが実質的には他の法人等がその収益として享受す
るものであると認められる場合ではなくても,また,同法において他の法人
との関係を考慮することができると定められたときにも当たらないにもか
かわらず,他の法人との関係をも考慮し,リスク・経済価値アプローチによ
り,当該譲渡を有償による信託に係る受益権の譲渡とは認識せず,専ら譲渡
人について,当該譲渡に係る収益の実現があったものとしない取扱いを定め
た同指針は,上記目的を有する同法の公平な所得計算という要請とは別の観
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点に立って定められたものとして,税会計処理基準に該当するものとはいえ
ないといわざるを得ない。上記に関連して控訴人が主張するところを踏まえ
検討するも,同判断に変更を来すものではない。
第4結論
よって,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却するこ
ととして,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第8民事部
裁判長裁判官髙世三郎
裁判官岸日出夫
裁判官廣田泰士

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