弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役7年に処する。
未決勾留日数中60日をその刑に算入する。
理由
【罪となるべき事実】
双極性障害と診断されて通院し,無職で生活保護を受給しながら妻及び実子2名
と同居していた被告人は,第三子出産のため妻が入院した平成29年8月6日以降,
自宅に残る当時3歳の長男及び1歳の二男の監護をひとりで担当していた。
被告人は,そのような折の同月13日午後1時頃,自宅である滋賀県草津市所在
のアパートの一室において,発達の遅れがある長男(当時3歳)が,被告人の就寝
中に冷蔵庫から食品を取り出して散らかすという日頃よくあるいたずらをしていた
のを認めるや,それなのに笑っている上記長男の様子が腹立たしいなどととらえ,
同人の顔面を平手で叩いた上,抱え持った同人の身体を,さほど厚みのない寝室の
敷布団の上に放り投げ,横たわった同人の頭部及び腰部等を複数回蹴りつけたり足
裏で踏みつけたりするなどの暴行を加え,よって,同日午後2時頃,同所において,
同人を頭部及び顔面への外力に基づく外傷性脳腫脹により死亡させたものである。
【量刑の理由】
1実子に対する傷害致死の犯行であって,未だ3歳の,いたいけな息子に対し,
大柄な父親が暴行を加えて死亡させている。凶器等の使用はないが,傷つきやす
い未熟な身体に暴行を加えていることが指摘できるし,暴行の態様も,平手で叩
くにとどまらず,判示のとおり幼子の頭部等に対し,立っている姿勢から足で打
撃等を加えるものであったことが指摘できる。危険性が高い行為態様との評価を
すべきであって,このような行為の選択は通常あり得ず,よもや躾の範ちゅうな
どとは認められず,厳しい非難を免れない。いら立ちを晴らそうとしたと認めら
れる動機の点も,身勝手なものとの評価が妥当する。
また,被告人は,犯行当日も子どもらの食事の世話をするなどし,判示のとお
りに監護に携わる姿勢を示していたものであって,被害者に対する加害に終始し
ていたものではないが,以前にも被害者の頭部を鈍器で殴るなどの振る舞いをし
て妻にたしなめられており,それでもいら立つ機会には暴力を振るうことを繰り
返す傾向を保持し,この現れとして本件に及んだと認められる。
そうすると,本件は,同様の類型の犯罪の中でも,重い評価を受ける部類の事
案であると認められる。
2非難を抑えることのできる事情の検討として,判示の精神疾患の影響を吟味し
たが,明確な記憶に基づいている被告人の公判供述と,これと整合する被害者の
受傷状況等の関係証拠の内容によれば,犯行時の被告人の状況認識に不確かなと
ころはないと認められる。また,暴行の機会や対象の人物,対象の部位のほか,
差し当たり敷布団の上に被害者を放り投げるなどの抑制が及んだ行為のいきさつ
などに照らし,不合理な経過で見境のない行為が行われたものともいえない。犯
行直後に携帯電話機で妻に連絡を取っている場面などにも,精神面の不具合が強
かった痕跡は見当たらない。精神疾患の影響が大きく働き,よって犯行が行われ
たものとはいえず,この点で酌量に値するものがあるとはいえない。
3被害者の発達の遅れが被告人の心理を圧迫し,余裕を失わせた可能性も吟味し
たが,被告人は前々からこの養育上の問題に向き合っていたと認められ,公的機
関や保育所から支援が差し伸べられてもいたから,唐突に窮地に陥ったとはいえ
ない。寝起きの状態であったという本件時,この点の問題が被告人を追い詰める
ことになったとは考えられず,むしろ,支援を受けることを是としなかった被告
人自身の見通しの甘さや,そのような被告人が妻の入院によりひとり家庭に残さ
れ,幼子二人の世話をしなければならなくなったことなどの事情の介在が,本件
につながったと考えられる。特に,この事情の介在が,被告人の持病の症状と相
まって感情を高ぶらせ,衝動的に犯行に及ぶことになった側面もあるから,非難
を抑える観点で考慮したが,既に述べた犯行時の様子等に照らし,非難を大きく
抑えることのできる位置付けとするには至らなかった。
4そこで,検察官の科刑意見にいうほどの評価ではないものの,被告人は,以上
のとおりの吟味の結果相応の,厳しい刑事責任の評価を受けるべきものと判断し
た。被告人には前科もなく,罪を認めて反省の弁を述べていることなどの,審理
に現れた事情については十分検討したが,当裁判所は,被告人が,その手で息子
の命を失わせたことを含めて自身のことを深く見つめ直し,よって今後の人生に
おける転機が得られるものとなるよう願う趣旨も込めて,主文の刑罰を科するの
が相当と判断した次第である。
(求刑・懲役10年)
平成30年5月17日
大津地方裁判所刑事部
裁判長裁判官伊藤寛樹
裁判官加藤靖之
裁判官平井美衣瑠

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