弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成14年(ネ)第3419号 特許権侵害差止等請求控訴事件(原審・大阪地方裁
判所平成12年(ワ)第10742号)
判    決
控訴人(1審原告)  フェザー株式会社(以下「原告」という。)
訴訟代理人弁護士   坂 本 倫 子
同          生 沼 寿 彦
被控訴人(1審被告) 株式会社クスノキ(以下「被告」という。)
訴訟代理人弁護士   小 山 雅 男
補佐人弁理士     古 田 剛 啓
主    文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨等
1 原判決を取り消す。
2 被告は、原判決別紙被告製品目録1ないし4記載の各ヘアピースを製造し、
販売し、輸入し、又は販売のために展示をしてはならない。
3 被告は、前項記載の製品及び半製品を廃棄せよ。
4 被告は、原告に対し、300万円及びこれに対する平成12年10月11日
(本件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え
(当審における請求の減縮)。
5 訴訟費用は、1、2審とも被告の負担とする。
6 仮執行宣言
第2 事案の概要
1 本件は、発明の名称を「ヘアピース」とする後記特許発明の特許権者である
原告が、被告に対し、被告の販売するヘアピースは同特許発明の技術的範囲に属す
ると主張して、その製造販売の差止め等と損害賠償を請求した事案である。
 原審は原告の請求をいずれも棄却したので、原告が控訴を提起した。
2 争いのない事実等、争点、争点に関する当事者の主張は、次のとおり付加、
訂正するほかは、原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」1及び2並び
に「第3 争点に関する当事者の主張」1ないし3(ただし、後記(1)で訂正後の数
字)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 6頁1行目の「縺れてしまう」を「もつれてしまう」と、同14行目冒頭
の「2」を「3」と各改める。
(2) 6頁25行目の次に改行の上、次のとおり加える。
「4 当審における当事者の補充主張
〔原告の主張〕
 構成要件Cの「連結部を中心にしてカールさせている」を原告主張のよ
うに解すべきことは、次の点からも明らかである。
(1) 鬘業、美容業等の当業者において、「カール」とは、毛束をカーリン
グパイプなどの中空の円筒に、毛先の方から根元へと巻き付けて形成することを意
味する。
 上記のように中空の円筒を使うのは、カールを形付けるために必要な
熱を全体に行き渡らせるとともに、水分が蒸発しないために色がまだら状になった
り、カールが形付きにくくなる失透現象を防止するためであり、また、毛束を毛先
から根元(連結部)の方向へと巻き付けるのは、パイプにしっかりと毛束を巻き付
けるためには連結部を固定する必要があるためであり、もしこれを連結部から巻く
ときは、パイプ上を一周以上巻き付けた場合に連結部と重なる部分が凹凸になる弊
害が生じるためである。
 このようなカール形成方法からすると、カールの始端(毛先)及び終
端(連結部)は、いずれもカールの円周上に位置することになるのであって、カー
ルの内部である中心点に連結部が位置するようなことは起こり得ず、これらのこと
は、当業者にとって、他に考えられないほど自明の事項である。
(2)本件公報の【発明の実施の形態】においては、連結部を形成する過程
及びねじりを形成する過程が説明されているが、カールを形成する過程は一切説明
されていないところ、このようにカールを作るための特殊な技術が開示されていな
いことも、本件発明における「カール」が、出願時に存在した技術によって当業者
が実施できる「カール」を前提としていることを示すものである。
(3) 他方、本件発明の「カール」が被告主張のようなものだとすると、多
大の時間と手間、費用がかかるばかりか、鋭角部分のある、カールとはいえないよ
うな形状のものになるのみならず、その製造方法も極めて煩雑なものとなる上、連
結部に錘をしてミノ毛をしっかりと固定することもできないため、毛髪が緩み、カ
ールが付かないなど、製品化は到底不可能である。
(4) 本件公報の【発明の効果】における「ねじれた形状の連結部によって
毛束がほぐれて広がり、毛束の毛髪が連結部の周囲を囲むようになる」(4欄15
~17行目)との記載は、ねじり→毛束がほぐれる→毛束が連結部の周囲を囲むよ
うになる、という因果の流れを示しており(なお、構成要件AないしDを個別に見
ると、ねじって(構成要件B)からカール(構成要件C)するかのようにも見える
かもしれないが、実際にはそのような順序の製造方法はあり得ず、カールしてから
ねじるのである。)、カールを「連結部を中心点とした円周状にする」こととは矛
盾する記載である。すなわち、円の中心点に連結部があれば、もともと、ねじりの
有無とは無関係に、毛髪は連結部の周囲を囲んでいるはずであって、ねじりによっ
て「囲む」ようになることはないからである。
(5) 本件発明の「連結部を覆い隠す」という効果は、毛束を連結部を中心
にカールするという構成を採ることによって得られるのではない。仮に、連結部を
カールの円周の中心点にするものを形成した場合、カールは徐々に崩れて広がって
いくから、連結部を覆い隠すという効果を期待することはできない。連結部をねじ
ることによって、カールした複数の毛髪(毛束)が、連結部を中心にしてほぐれた
状態となり、それらの毛髪が重なり合うことによって、初めて持続的に連結部を覆
い隠すという効果が達成できるのである。
〔被告の主張〕
(1) 原告の主張は争う。
(2) 原告は、「連結部を中心点とした円周状」のカールを形成するために
は多大の時間と手間、費用がかかるだけでなく、形もいびつになるなど、到底製品
化は不可能であると主張するが、アルミ部材を用いてカール用パイプを組合わせ用
の中空半円筒に成形することは簡単にできることであるのみならず、原告自身、平
成9年5月1日に特許出願した発明の名称を「ヘア・ピース」とする発明(特願平
9-113912号、特開平10-310923号)に係る明細書(乙16の2~
4、27の2)に、毛束の連結部を中心にカールさせたミノ毛を図示等しているこ
とからしても、その主張の理由がないことは明らかである。」
第3 当裁判所の判断
当裁判所も、被告製品は本件発明の技術的範囲に属さず、原告の本件請求
は、いずれも棄却すべきものと判断する。
 その理由は、次のとおり付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中の
「第4 争点に対する判断」1及び2に記載のとおりであるから、これを引用す
る。
1 7頁5行目の「「カール」とは、」の次に「毛束が」を、同12行目の「被
告製品」の次に「の直径約3~4㎝程度の円周状に巻かれた一方の片側帯状毛束
(片ミノ毛)」を各加える。
2 10頁24行目の次に改行の上、次のとおり加える。
「 なお、本件公報の【図1】(この発明のヘアピースを示す一部省略斜視
図)と【図3】(従来のヘアピースを示す斜視図)とを比較検討すると、カールし
た毛束と連結部との関係につき、従来のヘアピースを示す【図3】では、連結部の
一部が破線で示されていることから、当該部分の毛束が連結部より内側(手前側)
にカールしていることが認められるのに対し、本件発明に係る実施例を示す【図
1】では、上記【図3】の破線部分に対応する部分が実線で示されていることから
して、当該部分の毛束が連結部の外側(向こう側)にカールしていることが認めら
れる(なお、乙16の4の図のうち、従来例のカールを示す6枚目の図は本件公報
の【図3】と同一のものと思われる。)。
 これによると、従来のヘアピースの連結部がカールの外側(ないし円周
上)に位置するのに対し、上記本件発明に係る実施例(本件公報に記載された唯一
の実施例である。)の連結部はカールの内側(ないし中心側)に位置することが明
らかであり、このことは上記のような解釈を裏付けるものといえる。」
3 12頁7行目の次に改行の上、次のとおり加える。
「カ なお、原告は、当審において、構成要件Cを原告主張のように解すべき
理由を補充的に主張しているので、以下に検討する。
(ア) 原告は、鬘業、美容業等の当業者間では、「カール」の用語は、毛
束をカーリングパイプなどの中空の円筒に、毛先の方から根元へと巻き付けて形成
することを意味する旨主張し、甲37ないし40にも原告主張に沿う部分がある
が、仮に、原告主張のとおりであるとしても、本件公報の図面等にそのような形成
方法によっては形成し得ないカールの構成が明示されている以上、本件公報におい
ては、「カール」の用語が、原告主張の当業者における一般的理解とは異なる、よ
り一般的な用語例に従って用いられていると解するほかない。
(イ) また、原告は、本件公報においてカールを形成する過程が一切説明
されていないことから、カールを作るための特殊な技術が開示されていない以上、
出願時に存在した通常の方法によることを前提としていることは明らかであるとも
主張するところ、本件公報には、カールを形成する過程が具体的に説明されていな
いことは原告主張のとおりであり、また、仮に本件発明の出願時点における一般的
なカールの形成方法に係る技術が原告主張のとおりであるとしても、上記のよう
に、その方法によっては形成できない構成を図面で明示しておきながら、その形成
方法を原告主張のような形成方法に限定する理由とすることができないことは明ら
かである。
(ウ) さらに、原告は、被告主張のような構成のカールは、仮に何らかの
方法でこれを形成したとしても、多大の時間と手間、費用がかかるばかりか、形も
いびつになるなど、到底その製品化は不可能である旨主張し、甲37、39、40
にも原告主張に沿う部分がある。しかしながら、コスト的にそれが見合うか否かは
ともかくとして、被告主張のような方法によってもその形成が可能であることは明
らかであるし(乙27の1・3、弁論の全趣旨)、また、原告自身が平成9年5月
1日に特許出願(特願平9-11392号)し、平成10年11月24日に公開
(特開10-310923号)された名称を「ヘア・ピース」とする発明に係る公
開特許公報(乙27の2)には、その図2及び図5に、連結帯1を基端にし、連結
帯1を中心にして、かつ連結帯1を囲む方向にカールした巻き毛2bが図示されて
おり(いずれも、カールを上部から見た平面図で、この平面図のカールした毛束は
被告主張と同様の構成を示している。)、【発明の実施の形態】の項にも、「図1
(a)、図1(b)および図2に示すヘア・ピース」(同公報2欄5~6行。いずれ
も、特許出願の発明に係るヘア・ピースである。)の「巻き毛2bは・・・一方の
中間形成体5の毛髪2を結束部4を中心にカールさせることにより形成される」
(同欄31~33行)と明記されていることからしても、その主張の理由がないこ
とは明らかである。
(エ) 原告は、【発明の効果】の項の「ねじれた形状の連結部によって毛
束がほぐれて広がり、毛束の毛髪が連結部の周囲を囲むようになる」(4欄15~
17行目)との記載につき、被告が主張するように円の中心点に連結部が位置する
のであれば、もともと毛髪は連結部の周囲を囲んでいるはずであって、ねじりによ
って「囲む」ようになることはないのであるから、上記記載は被告の主張とは矛盾
するとも主張しているが、上記記載は、連結部をねじることにより毛束がほぐれて
広がれば、毛束の毛髪が連結部を四周から取り囲むようになることを意味するもの
で(このことは、上記記載に引き続いて「ので、ヘアピースの外観が軽やかにな
る。」と記載されていることからも明らかである。)、毛束を連結部を内側にして
カールすることとは別の状態を示すものにすぎないと解されるから、カールを、そ
の形成する円の中心点に連結部が位置するように形成することと矛盾することはな
い。
(オ) また、原告は、本件発明の「連結部を覆い隠す」という効果は、毛
束を連結部を中心にカールするという構成を採ることによって得られるのではな
く、連結部をねじることによって、カールした複数の毛髪(毛束)が、連結部を中
心にしてほぐれた状態となり、それらの毛髪が重なり合うことによって初めて達成
できるとも主張しているが、毛束を連結部を中心にカールした場合、その構成自体
に連結部を覆い隠す点で一定の効果があることは明らかであり、仮に、連結部をね
じることによって毛束がほぐれた状態になることと相まって、本件発明における連
結部を覆い隠す効果が更に高まるものとしても、それによって、「連結部を中心に
してカールさせている」の意義を前記判示のように解することが妨げられるもので
はない。」
4 12頁11行目の「主張するが、」の次に「原告の主張を前提としても(な
お、被告製品を特定し、立証する責任が原告にあることはいうまでもない。)、」
を加える。
5 その他、原審及び当審における当事者提出の各準備書面記載の主張に照ら
し、原審及び当審で提出、援用された全証拠を改めて精査しても、引用に係る原判
決を含め、当審の認定、判断を覆すほどのものはない。
第4 結論
 以上によれば、原告の被告に対する本件各請求は、その余の争点について判
断するまでもなく、いずれも理由がないものとして棄却すべきところ、これと同旨
の原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。
 よって、主文のとおり判決する。
  (平成15年7月17日口頭弁論終結)
   大阪高等裁判所第8民事部
    裁判長裁判官  竹  原  俊  一
              
          
         裁判官  小  野  洋  一
              
         裁判官  黒  野  功  久

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛