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平成11年(行ケ)第393号 審決取消請求事件
     判    決
 原 告   アイコム株式会社
 代表者代表取締役 【A】
 訴訟代理人弁理士 【B】、【C】、【D】
 被 告   株式会社アイコム
 代表者代表取締役 【E】
 訴訟代理人弁理士 【F】、弁護士 西村國彦、本山信二郎
     主    文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
     事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
 「特許庁が平成10年審判第35202号事件について平成11年9月17日に
した審決を取り消す。」との判決。
第2 事案の概要
 1 特許庁における手続の経緯
 被告は、登録第3189080号商標(平成4年9月30日に使用に基づく特例
の適用を主張して登録出願、平成8年8月30日に特例商標として設定登録。本件
商標)の商標権者である。本件商標は別紙に示すとおりの構成から成り、第42類
「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,電子計算機による計算処理その
他の情報の処理,電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守のコンサルティン
グ,電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路・磁気ディスク・磁気テープの貸
与」(本件役務)を指定役務とする。
 原告は、平成10年5月22日、被告を被請求人として、本件商標登録の無効の
審判請求をし、平成10年審判第35202号事件として審理されたが、平成11
年9月17日、「本件審判請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は
同年11月1日原告に送達された。
 2 審決の理由の要点
 (1) 請求人の引用商標
 ① 登録第2269853号商標(引用A商標)は、別紙に示すとおりの構成から成り、
昭和61年5月15日に登録出願、平成2年9月21日に設定登録がなされたものである。
 ② 登録第2698382号商標(引用B商標)は、別紙に示すとおりの構成から成り、
平成2年2月28日に登録出願、同6年10月31日に設定登録がなされたものである。
 ③ 登録第4071826号商標(引用C商標)は、別紙に示すとおりの構成から成り、
平成1年10月27日に登録出願、同9年10月24日に設定登録がなされたものである。
 ④ 登録第2269854号商標(引用D商標)は、別紙に示すとおりの構成から成り、
昭和62年7月20日に登録出願され、平成2年9月21日に設定登録がなされたものであ
る。
 ⑤ 登録第2269852号商標(引用E商標)は、別紙に示すとおりの構成から成り、
昭和61年5月15日に登録出願、平成2年9月21日に設定登録がなされたものである。
 そして、①~⑤の指定商品は、いずれも旧第11類「電気機械器具、電気通信機械
器具、電子応用機械器具(医療機械器具に属するものを除く)電気材料」とするも
のである。
 ⑥ 登録第912916号商標(引用F商標)は、別紙に示すとおりの構成から成り、旧
第11類「電気機械器具、電気通信機械器具、その他本類に属する商品」を指定商品
として、昭和44年6月19日に登録出願、同46年7月29日に設定登録がなされたものであ
る。
 ⑦ 登録第2593221号商標(引用G商標)は、別紙に示すとおりの構成から成り、
旧第11類「電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路、同磁気ディスク、同磁
気テープ、同光ディスク」を指定商品として、平成1年12月20日に登録出願、同5年
10月29日に設定登録がなされたものである。
 (2) 原告(請求人)の主張
 (2)-1 本件商標は、商標法4条1項11号に該当する。
 本件商標と引用A商標~引用D商標、引用F商標とは、その指定役務と指定商品とが
類似するものであって、商標も類似するものである。
 ① 役務と商品の類否に関して
 本件商標に係る役務、例えば「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守」
が提供される場合は、磁気ディスクやCD-ROM等のプログラム記憶媒体を介して提供
されることが一般的である。
 したがって、本件商標の指定役務が提供されるときに用いられるプログラム記憶
媒体と、引用A商標~引用C商標の指定商品中の「電子応用機械器具である電子計算
機(中央処理装置及び電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路、磁気ディス
ク、磁気テープその他の周辺機器)」とは類似するものである。
 また、第9類「プログラムを記憶させた磁気ディスク」と第42類「電子計算機のプ
ログラムの設計・作成又は保守」の役務は、添付した新聞・雑誌の記事等(審判甲
第12号証)に見られるように、商品としての電子応用機械器具若しくは電気通信機
械器具の記事と、役務としての電子計算機のプログラムに関する記事は、共通の新
聞の紙面若しくは共通の雑誌に掲載されることが多い。例えば、コンピュータ技術
者向けの月刊誌である「インターフェース」誌のソフトウエアに関する特集記事が
掲載された別冊付録に、原告の広告記事が掲載されている。
 また、マイクロコンピュータ総合誌なる月刊誌「ASCII」にはアマチュア無線のハ
ムフェアに関する記事が詳細に紹介されている。そこには、原告を始めアマチュア
無線関係の各社の商品等が紹介されている。また、会社人事・機構改革の紹介記事
や役員人事の紹介記事においては、原告である「アイコム株式会社」は「情報・通
信」の分類若しくは「電機」の分類に掲載されている。また、システムハウス関連
や各種ソフトウエアの紹介記事と同一紙面に原告である「アイコム株式会社」の新
商品の紹介記事が掲載されている。
 このようなことからも、商品「電子応用機械器具若しくは電気通信機械器具」
と、役務「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守」は、相互に類似する商
品・役務といえる。
 現に、原告が、旧第11類(新第9類)において出願した、引用G商標は登録されて
いる。すなわち、電子計算機のプログラムを想起する「ソフト」なる用語は、旧第
11類(新第9類)の分野においても、商品として極めて一般的に流通しているもので
あり、旧第11類(新第9類)の「電子応用機械器具」、「電気通信機械器具」と、第
42類の「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守」とは、商品と役務の用途
が一致するなど、明確には分離できない類似する商品・役務であるといわざるをえ
ない。
 すなわち、「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守」なる役務が提供さ
れる場合も、「電子計算機による計算処理その他の情報の処理」なる役務が提供さ
れる場合も、「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守のコンサルティン
グ」なる役務が提供される場合も、「電子計算機用プログラムを記憶させた電子回
路・磁気ディスク・磁気テープの貸与」なる役務が提供される場合も、電子計算機
用プログラムを記憶させた電子回路、同磁気ディスク、同磁気テープ、同光ディス
クを介して提供されることが一般的である。
 したがって、本件商標の指定役務は、引用A商標ないし引用D商標、引用F商標の指
定商品と類似するものである。
 ② 外観・称呼・観念の類否について
 本件商標は、折れ線で区分された前半部分の「AIcom」なる部分からは「アイコ
ム」若しくは「エイアイコム」なる称呼を生ずる。本件商標は、折れ線によって前
半と後半とに分離されているので、本件商標は、外観上その前半が後半より注目さ
れることは明らかである。
 したがって、本件商標からは「アイコム」なる称呼を生ずると認定できる。
 他方、引用A商標~引用D商標、引用F商標からは、いずれも「アイコム」の称呼が
生ずる。
 したがって、本件商標と引用A商標~引用D商標、引用F商標は、称呼上類似する。
 また、本件商標と引用A商標~引用D商標、引用F商標は、外観上類似する。
 したがって、本件商標は引用A商標ないし引用D商標及び引用F商標と類似するもの
である上に、本件商標の指定役務は前記引用各商標の指定商品と類似するものであ
る。
 (2)-2 本件商標は、商標法4条1項10号に該当する。
 引用E商標、引用D商標は、本件商標の出願の日前において既に周知の商標であ
る。
 引用E商標、引用D商標は、添付した新聞・雑誌の記事等(審判甲第10号証)によ
れば、本件商標の出願の日前において既に周知の商標である。
 審判甲第10号証は、いずれも本件商標の出願前の日付であり、電波新聞や日刊
工業新聞に限らず、日本経済新聞や朝日新聞等の一般的な日刊紙にも頻繁に引用E商
標、引用D商標、及び「アイコム株式会社」の関連記事が記載されており、原告の商
号商標である引用E商標、引用D商標は、本件商標の出願前から既に周知であったこ
とを証明している。
 特に、大阪証券取引所の2部上場に当たっては、頻繁に「アイコム株式会社」に
関する記事が掲載され、当業者に限らず広く一般社会に認知されるに至った。ま
た、原告の代表者が日本アマチュア無線機器工業会(JAIA)の会長に選任されたこと
もあって、さらに、広く認知されるに至った。2部上場の後は、審判甲第11号証
に示すように、今日に至るまで、各紙の株式欄には継続して株価が紹介されている
ことはいうまでもない。
 また、審判甲第14号証によれば、1994年(平成6年)1月号から1997年(平成9年)1月
号のアマチュア無線に関する月刊誌「CQHamRadio」、及び1998年(平成10年)3月号
のマイクロコンピュータに関する月刊誌「DOS/Vmagazine」には、原告のアマチュ
ア無線機器に関する広告記事が、引用E商標、引用D商標とともに掲載されている。
また、1997年(平成9年)8月号、及び1998年(平成10年)3月号のマイクロコンピュータ
に関する月刊誌「DOS/Vmagazine」には、原告のアマチュア無線機器に関する広告
やそれらの機器を制御するためのプログラムを記憶させた磁気ディスクの広告記事
が、引用E商標、引用D商標とともに掲載されている。また、1997年(平成9年)9月
号、及び1998年(平成10年)3月号のアマチュア無線に関する月刊誌「CQHamRadio」
には、原告のアマチュア無線機器に関する広告やそれらの機器を制御するためのプ
ログラムを記憶させた磁気ディスクの広告記事が、引用E商標、引用D商標とともに
掲載されている。
 したがって、引用E商標、引用D商標は、本件商標の出願前から現在に到るまで、
需要者の間に広く認識されていることが明らかである。
 そして、本件商標は、これらの周知の商標と類似する商標である。
 (3) 被告の主張
 被告は、要旨次のように答弁した。
 (3)-1 商標法4条1項11号について
 本件商標の指定役務と引用A商標ないし引用D商標及び引用F商標の指定商品は非類
似であり、当該役務と当該商品との間には、いずれも類似関係がないから、出願・
登録の前後関係あるいは商標の類似関係を検討するまでもなく、本件商標が商標法
4条1項11号の規定に該当するものとすることはできない。
 (3)-2 商標法4条1項10号について
 本件商標の指定役務と、原告が掲げる引用D商標及び引用E商標の指定商品は、明
らかに非類似である。したがって、その余の点を検討するまでもなく、本件商標
は、同一類似の商品・役務に対して適用される商標法4条1項10号の規定に該当
しない。
 引用D商標及び引用E商標が周知か否か、被告は不知であり、仮に周知であるとし
ても、指定商品中いかなる商品について周知なのか、原告はこれを示すことがな
く、また、いずれの証拠によっても、周知性を認めることができず、原告主張は、
失当である。
 (4) 審決の判断
 (4)-1 商標法4条1項11号について
 本件商標は、平成4年9月30日に出願されたものであるが、商標法等の一部を改正
する法律(平成3年法律第65号)附則4条2項によれば、この法律の施行の日
(平成4年4月1日)から6月間にした役務に係る商標登録出願については、新法4条
1項(11号及び13号に係る部分に限る。)及び8条1項の規定は、適用しな
い、とされているから、本件商標が、商標法4条1項11号に該当するとする原告
の主張は、無効事由にならない。
 (4)-2 商標法4条1項10号について
 本件商標は、別紙に示すとおり、「AIcom」と「AI&communication」の欧文字を折
れ線によって左右に区切った構成から成るところ、構成中の「AIcom」の文字も独立
して自他役務の識別標識の機能を有し、これより「アイコム」の称呼が生じるもの
である。
 他方、引用E商標は、「アイコム」の文字から成り、また、引用D商標は、別紙に
示すとおり、「ICOM」の「I」の文字の上に「○」を付した態様から成るものであり
(以下、「引用D商標」及び「引用E商標」をまとめて「引用商標」という。)、こ
れより「アイコム」の称呼が生ずるものである。
 したがって、本件商標と引用商標は、外観及び観念の点を考慮しても、「アイコ
ム」の称呼を共通にする類似の商標である。
 しかしながら、原告が提出した審判甲第10号証~審判甲第12号証、審判甲第
14号証及び審判甲第19号証をみると、引用商標が「通信機器」に使用して周知
であると認められるとしても、本件商標の指定役務と「通信機器」は、非類似のも
のである。また、原告は、本件役務と原告の業務に係る「プログラムを記憶させた
磁気ディスク」等との類似性を主張するが、両者は、取引の対象、取引の形態、流
通経路等を異にする非類似のものというのが相当である。
 (4)-3 したがって、本件商標は、商標法4条1項11号及び同10号に違反し
て登録されたものとはいえないから、本件商標の登録は、同法46条1項の規定に
より無効とすることはできない。
第3 原告主張の審決取消事由
 1 審決が本件商標について商標法4条1項10号の該当性を否定したのは誤り
であり、これに基づき本件審判請求を成り立たないとした審決は取り消されるべき
である。
 2 本件商標の指定役務(本件役務)、例えば、「電子計算機のプログラムの設
計・作成」が提供される際には、磁気ディスクやCD-ROM等のプログラム記憶
媒体を介するのが一般である。ところが、このようなプログラム記憶媒体は、引用
商標の指定商品中の「電子応用機械器具である電子計算機(中央処理装置及び電子
計算機用プログラムを記憶させた電子回路、磁気ディスク、磁気テープその他の周
辺機器)」に規定された磁気ディスク、磁気テープ等の商品と類似する。
 上記の商品のほか通信機器を含む引用商標の指定商品と本件役務とは、
 ① 役務の提供と商品の製造、販売が同一事業者によって行われているのが一般
であり(例えば、電子計算機の基本ソフトのバージョンアップ等の役務は、当該商
品である電子計算機を製造販売した事業者と同一の事業者から提供されるのが一般
的である。)、
 ② 役務と商品の用途が一致し(商品としての磁気ディスクも役務の提供に用い
られる媒体としての磁気ディスクも、電子計算機を所定の目的に応じて動かすこと
を目的としているので、両者の用途は一致している。)、
 ③ 役務の提供場所と商品の販売場所とが一致し(商品としての磁気ディスク
は、いわゆるパソコンショップ等の店頭で販売されることが多く、役務の提供に用
いられる媒体としての磁気ディスクも、小型の電子計算機の場合とはパソコンショ
ップ等で販売されることが多いから、販売場所と提供場所とは一致することが多
い。)、
 ④ 需要者の範囲が一致する(電子計算機の利用者は、ハードウェアである電子
計算機の購入と共に、商品としてのプログラムを記憶させた磁気ディスクを購入す
るし、電子計算機のプログラムの設計、作成又は保守のために、必要なプログラム
やデータが記憶された媒体を購入するから、両者の需要者は一致する。)、
ので、取引の対象、取引の形態、流通経路等が一致し、両者は極めて類似性が高
い。
 3 よって、「本件商標の指定役務と「通信機器」は、非類似のものである。原
告は、本件役務と原告の業務に係る「プログラムを記憶させた磁気ディスク」等と
の類似性を主張するが、両者は、取引の対象、取引の形態、流通経路等を異にする
非類似のものというのが相当である。」との審決の判断は誤りである。
第4 審決取消事由に対する被告の反論
 本件商標の出願時においてはもちろん、本件商標の登録時においても本件役務と
原告主張の商品は、明らかに非類似である。
 ① 原告の①の主張の根拠は、引用商標の指定商品の製造販売業者は、その保守
のために役務を提供し、かかる役務は商品の製造販売と同一事業者によって行われ
ているというものであるが、商品を製造販売した者が、該商品の保守のために一定
の役務を提供すれば、それが同一事業者により行われるのは当たり前である。
 ② 原告の②の主張の根拠は、引用商標の指定商品も本件役務の提供に用いられ
る媒体としての磁気ディスクも、用途は一致するというものであるが、ここでいう
一致は、商品の用途と役務の提供に用いられる物の用途の一致ではなく、役務自体
の用途と商品の用途の一致である。
 本件役務の用途は、所定の情報処理等を電子計算機で行うためのプログラムを設
計・作成し又は保守することにある。一方、例えば原告主張の商品としての磁気デ
ィスクの用途は、原告主張のとおり、電子計算機を所定の目的に応じて動かすこと
を目的としているのであって、両者の用途は明らかに次元が異なり、一致するとは
到底いえない。
 ③ 原告は、③の主張において、本件商品の販売場所と本件役務の提供のために
用いられる物品としての磁気ディスクの販売場所を、比較するにすぎない。物品と
しての磁気ディスクが一般に販売されれば、それは役務の提供ではなく、商品の販
売にほかならない。商品としての両者の販売場所が一致するのは当然である。
 ④ 原告の④の主張については、需要者が、電子計算機とそのソフトウェアを購
入するのは当然で、プログラムの設計・作成あるいは保守のための記憶媒体を購入
することも当然である。これらのハードウェア及びソフトウェアは、すべて商品
で、本件役務とは全く関係がない。
第5 当裁判所の判断
 1 原告が審決の取消事由として主張しているのは、本件商標について商標法4
条1項10号の該当性を否定した判断部分の誤りである。審決は、原告が商標法4
条1項10号に該当する引用商標として審判で主張したのが引用E商標、引用D商標
(以下、合わせて「引用商標」)であることを前提にして、本件商標と引用商標と
は「アイコム」の称呼を共通にする類似の商標であり、引用商標が「通信機器」に
使用して周知であるとしても、本件商標の指定役務と引用商標の指定商品「通信機
器」あるいは「プログラムを記憶させた磁気ディスク等」とは非類似のものである
として、商標法4条1項10号の該当性を認めなかったものである。
 ところで、これら引用商標の指定商品は旧第11類「電気機械器具、電気通信機
械器具、電子応用機械器具(医療機械器具に属するものを除く)、電気材料」であ
り、原告は、これら引用商標が、「電子応用機械器具である電子計算機(中央処理
装置及び電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路、磁気ディスク、磁気テー
プその他の周辺機器)」に規定された磁気ディスク、磁気テープ等の商品について
も、本件商標の出願前から周知になっているとして、これらの商品のほか通信機器
を含む引用商標の指定商品と本件役務とは類似するものである旨主張している。
 2 そこで、まず、本件役務と引用商標の指定商品一般との類否について検討す
る。
 本件役務は、「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守」等であるのに対
し、引用商標の指定商品は旧第11類の「電気機械器具、電気通信機械器具、電子
応用機械器具(医療器械器具に属するものを除く)、電気材料」であるところ、旧
別表第11類掲記の機械器具は多種多様なものにわたっており(現行では、第9類
及び第11類に含まれている。)、例えば、「電気機械器具」には、民生用電気機
械器具として電気洗たく機、電気冷蔵庫、電気がま、電気掃除器等があり、また、
「電気通信機械器具」には、放送用機械器具としてラジオ送受信機、テレビジョン
送受信機があり、「電子応用機械器具」には電子計算機がある。そして、これらの
機械器具には電子計算機のプログラムが格納されることが多く、今日において、マ
イコンチップに埋め込まれたプログラムは多くの電化製品に組み込まれて使用され
ていることは、当裁判所に顕著である。この場合において取引の対象、形態等の観
点からみれば、電子計算機のプログラムがこれらの機械器具の部品に相当するもの
ということができる。他方、これら機械器具に収められずに機能する電子計算機の
プログラムも存在するのも事実である(甲第14号証は、被告が提供する役務であ
る「移動体管理配車支援システム」のパンフレットであるが、そこには、パーソナ
ルコンピューター等の電気機械器具等を有機的に関連付ける電子計算機のプログラ
ムの概念図が示されており、全体としてのプログラムは特定の機械器具のみに組み
込まれるものでないことが明らかである。)。そもそも、電子計算機のプログラム
はそれ自体で取引される性質を有し、例えば、原始的ではあるが、プログラムの内
容を印刷して提供することもあり得るし、近時はインターネットを介してプログラ
ムが供給される機会も多くなっているから、プログラムと電気機械器具等の供給が
別個に消費者に提供される可能性も高い。プログラムの提供がその提供者自らの手
によって電気機械器具等に組み込まれることもあり得る。電気機械器具等がパーソ
ナルコンピューターのように汎用性の高い製品であれば、そのためのプログラムは
機械器具との取引上の独立性は高く、プログラムと機械器具とは別個に消費者に供
給される可能性は高まるということができる。さらに、本件役務のうち、「電子計
算機のプログラムの設計・作成又は保守,電子計算機による計算処理その他の情報
の処理,電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守のコンサルティング」が、
一般的には引用商標の指定商品とは別個に提供されるものであることはいうまでも
ない。
 これらの事実関係からすると、本件役務と、引用商標の指定商品とは取引の対
象、形態、流通経路を共通にする場合があり得るとしても、多くの取引の対象、形
態、流通経路について共通するものではないというべきであり、一部共通する場合
のあり得ることをもって、両者が直ちに類似するものであるということはできな
い。
 3 次に、原告は、引用商標(原告が審判請求において商標法4条1項10号の
関係で引用したのは引用E商標、引用D商標であり、原告がここで主張する引用商標
はこの二つのものと理解すべきである。)は、「プログラムを記憶させた磁気ディ
スク等」という商品についても周知になっていることを前提にして、本件役務と引
用商標に関するこれらの商品とは、①役務の提供と商品の製造、販売が同一事業者
によって行われているのが一般であり、②役務と商品の用途が一致し、③役務の提
供場所と商品の販売場所とが一致し、④需要者の範囲が一致する、と主張する。
 なるほど、本件役務には、「電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路・磁気
ディスク・磁気テープの貸与」も含まれているところ、甲第5、第6、第8及び第9
号証によれば、原告が主張するこれら①ないし④の観点からみて、本件役務と「プ
ログラムを記憶させた磁気ディスク等」という商品の間において共通する場合もか
なり存在することは否定することができない。しかしながら、原告主張の「プログ
ラムを記憶させた磁気ディスク等」が流通することを予定している商品であるのに
対し、本件役務のうち磁気ディスク等に関連するものは「電子計算機用プログラム
を記憶させた・・・磁気ディスク・・・の貸与」であって、商品と貸与との相違が
あるし、前記2に説示したところに照らせば、共通しない他の取引態様も多く存在
し得るものであるから、これら共通する態様のある点をもってしても、本件役務
と、引用商標について原告が主張する商品とが類似するものと認めることはできな
い。
 なお、引用商標が、通信機器から独立して、「プログラムを記憶させた磁気ディ
スク等」という商品について商標法4条1項10号で要件とされている「需要者の
間に広く認識されている」ことを認めるべき的確な証拠もない。
 4 付言するに、前示のとおり、今日において、マイコンチップに埋め込まれた
プログラムは多くの電化製品に組み込まれるに至っているところ、電子計算機のプ
ログラムの設計、作成又は保守などを始めとする本件商標の指定役務(本件役務)
が広く旧第11類の電気機械器具等の商品と類似するものとすると、電子計算機の
プログラムを組み込んだ電気冷蔵庫、電子レンジ、電気洗たく機、電気がま、テレ
ビ、ビデオデッキなど多くの家庭用電化製品の商品までもが、本件役務と類似する
おそれが生じ得る。
 本件役務の提供において電子計算機など電子応用機械器具等が使用されることが
あり得るのはさきに説示したとおりであり、この際、電子応用機械器具等の商品の
提供が、本件役務の提供と共に行われる場合も予想される。このような場合には、
電子応用機械器具等の商品における商標の使用に着目して、電子応用機械器具等を
指定商品とする登録商標権の侵害となり得ることが考えられるし、また、具体的な
事案においては、電子計算機のプログラムの設計等の当該役務提供が電子応用機械
器具等の指定商品と類似の範囲に属する役務に該当すると評価されることもあり得
る。しかしながら、これらの点は、本件商標の登録性の有無を判断するに当たって
されるべき本件役務と引用商標の指定商品との類否判断とは別次元の問題であると
いわなければならない。
 したがって、本件役務と、引用商標についての原告主張の商品とは非類似のもの
であるとした審決の判断に誤りはない。
第6 結論
 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がなく、原告の請求は棄却される
べきである。
(平成12年7月27日口頭弁論終結)
 東京高等裁判所第18民事部
     裁判長裁判官   永   井   紀   昭
        裁判官   塩   月   秀   平
        裁判官   橋   本   英   史
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