弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     当審における被告人Aに対する未決勾留日数中一二〇日を本刑に算入す
る。
     当審における訴訟費用は被告人B、同Cの負担とする。
         理    由
 被告人Aの弁護人奥田福敏の上告趣意第一点について。
 所論は、先ず、原判決の適用した明治三八年法律六六号一条所定の法定刑の長期
の点は暫く措きその短期は、刑法一四八条、一四九条所定の法定刑の短期に比し極
端といえる程の酷刑で、憲法三六条に違反するという。しかし、前記法律六六号の
法定刑は、所論のとおり重懲役は九年以上十一年以下、軽懲役は六年以上八年以下
の現行刑法の懲役刑に該当し、現行刑法一四八条所定の内国において流通する内国
発行の貨幣等を偽造する罪の法定刑は、三年以上一五年以下の有期懲役又は無期懲
役であり、同一四九条所定の内国において流通する外国発行の貨幣等を偽造する罪
の法定刑は、二年以上一五年以下の有期懲役刑である。従つて右現行刑法の法定刑
は、無期の場合を除き長期においても短期においても幅広く定められたものであり、
右法律六六号の法定刑は、その中間において幅狭く定められたに過ぎないものであ
ることを知ることができる。だから所論のように前者の短期が長いことの一事をと
らえて、両者の法定刑が著しく均衡を失するものということはできない。のみなら
ず、法定刑の短期は、法条の適用上必ずしもこれに拘束されるものではなく、事案
に比し重いと認められるときは酌量減軽の方法によりこれを減軽適用することがで
きるものであつて、現に原判決は本件において所論法条の所定刑中軽懲役を選択し
た上刑法六六条を適用して酌量減軽を行い刑法施行法二一条に従い旧刑法の加減例
六九条一項七〇条一項に則り同法九〇条を適用して二等を減じ短期を重禁錮一年六
月として結局被告人を懲役一年六月に処しているのである。されば、所論違憲の主
張は、その前提を欠き採用できない。次に、所論は、憲法三七条違反をいうが、同
条にいわゆる公平な裁判所の裁判とは所論のごときものを指すものでないことは、
当裁判所大法廷屡次の判例とするところであるから、これまた採用できない。
 同第二点について。
 原判決が、明治三八年法律六六号一条所定の法定刑の減軽方法は刑法施行法二一
条により旧刑法の加減例の規定に従うべきものと判断したこと、並びに、所論大審
院判決(明治四三年(れ)一三六五号同年八月一六日同院休暇部宣告、同院刑事判
決録一六輯一七巻一四五七頁以下)が、刑法施行法二一条は、一般に他の法令の刑
を加重減軽する場合に関する規定ではなく、他の法令において特別に刑の加重減軽
を規定した場合、すなわち、他の法令中に刑の加重減軽につき特別の規定を設けた
場合に関するものである旨判示したことは、いずれも所論のとおりである。そして、
右法律六六号は、その中に刑の加重減軽につき特別の規定を設けていないから、原
判決は、右大審院の判例と相反する判断をしたものといわなければならない。しか
し、その後大審院は、刑法施行後における犯罪につき酌量減軽をなすべき場合には、
刑法施行法二一条にいわゆる他の法律の罪を犯したときでも刑法六六条を適用し、
ただその加減例については刑法施行法二一条により旧刑法九〇条七〇条等を適用す
べき旨判示しているのである(昭和二年(れ)一二四四号同年一〇月二五日大審院
第一刑事部判決、同院刑事判例集六巻三九六頁以下)。当裁判所は、所論大審院判
例を変更して原判決を維持するを相当とする。されば、所論は採ることができない。
 同第三点について。
 所論は、違憲をいうが、その実質は単なる法令違反の主張に帰し、刑訴四〇五条
の上告理由に当らない。そして、原判決は、所論法条の所定刑中軽き軽懲役を選択
した上更らに酌量減軽を行つたものであつて、(仮りに所論のごとく重懲役につき
酌量減軽を行うべきものとしても、所論刑法一四八条所定の無期刑を選択して刑法
所定の加減例によつて酌量減軽をしたときは勿論、その有期懲役又は同一四九条所
定の有期懲役につき刑法所定の加減例により酌量減軽をしたときでも、処断刑の範
囲は少くともその長期において重懲役につき旧刑法の加減例により二等を減じた場
合よりも被告人に不利益となることは明らかである。)、その減軽方法に関する原
判決の判示は、正当である。されば、本件につき刑訴四一一条を適用すべきものと
も認められない。
 被告人B、同Cの弁護人岡田実五郎の上告趣意について。
 所論は、違憲をいうが、所論明治三八年法律六六号一条は、刑法八条により何人
を問わず等しく適用されるものであることが明らかであるから、所論違憲の主張は、
その前提を欠き、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
 よつて、刑訴四〇八条、一八一条(被告人B、同Cに対し)、刑法二一条(被告
人Aに対し)により、裁判官全員一致で、主文のとおり判決する。
  昭和三〇年七月七日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    入   江   俊   郎

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