弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原判決中,上告人が平成10年2月3日付けで被上
告人に対してした重加算税賦課決定処分のうち過少
申告加算税額相当分79万7000円に係る取消請
求に関する部分を破棄し,同部分につき第1審判決
を取り消し,被上告人の上記請求を棄却する。
2上告人のその余の上告を棄却する。
3訴訟の総費用は,これを5分し,その4を上告人の
負担とし,その余を被上告人の負担とする。
理由
第1上告代理人都築弘ほかの上告受理申立て理由第1の4(2)及び第3(ただ
し,排除されたものを除く。)について
1原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)被上告人(大正9年生まれ)は,平成8年に,10年を超えて所有してい
た居住用財産である練馬区所在の土地建物(以下「本件物件」という。)を960
0万円で譲渡するとともに,大田区所在のマンション及びその敷地共有部分を57
80万円で購入して転居した。
(2)被上告人は,本件物件の譲渡に係る所得税の確定申告手続を夫のAに依頼
したところ,Aは,確定申告時期が近づいた同9年2月ころ,雪谷税務署に相談に
行き,税務署職員から上記譲渡に係る税額が国税と地方税とを合わせて800万円
程度であると言われた。それは,以前から,練馬区の区民相談において説明を受け
ていた金額と同程度のものであった。
(3)Aは,納税額について長男に相談したところ,同人からも同旨の説明を受
けたが,計算方法や申告書の記載方法が分からなかったため,長男の妻の母親が確
定申告を依頼しているB税理士に相談することとなり,同月18日,長男の妻と共
に関係書類を持参して同税理士の事務所を訪れた。B税理士は,Aらが持参した書
類等を見ながら自ら計算した上,納税のために預かる金員を全額だまし取ろうと考
えていたが,そのような意図を隠したまま,長男作成のメモに記載された税額であ
る804万円について「大体,そんなものでしょう。」と述べた上,自らメモを作
成しながら,「550万円で税金はあがるでしょう。その他に10万円を手数料と
して事務員に渡してくれ,全部で560万円。」と言った。Aは,どうしてそんな
に安くなるのかと聞いたところ,B税理士は,「私は,長いこと税務署に勤めてい
たから,素人と計算が違う。ちゃんと計算ができるから間違いありませんよ。」と
答えたため,更に質問をすることはなかった。
Aらは,確定申告手続をB税理士に委任することとし,その旨を被上告人に伝
え,翌日,同税理士の事務所を訪れて560万円を同税理士に交付した。
B税理士への確定申告手続の委任に当たり,被上告人及びAらに脱税の意図は認
められず,被上告人らは,専門家である同税理士を信頼して適正な申告をするよう
依頼したものであった。また,被上告人らにおいてB税理士が後記(6)のとおり長
年脱税をしていた事実を知っていたとうかがうこともできない。
(4)B税理士は,被上告人が住所を練馬東税務署管内に移した旨の虚偽の通知
をした上,同年3月5日,練馬東税務署の資産課税部門統括国税調査官(以下「統
括官」という。)に対し,他の2件の確定申告書と共に,被上告人の平成8年分の
所得税について,被上告人を代理して,税理士名欄を空欄とし,被上告人の住所欄
に練馬区内の虚偽の住所を記載し,虚偽の必要経費等を記載した上,課税譲渡所得
金額及び納付すべき税額をいずれも0円とする確定申告書(以下「本件確定申告
書」という。)を提出し,併せて,本件物件を平成2年に1億0600万円で取得
したとの虚偽の記載をした「譲渡内容についてのお尋ね」と題する書面(以下「本
件お尋ね文書」という。)を提出した(以下,この確定申告を「本件確定申告」と
いう。)。
統括官は,本件確定申告書に受理印を押捺し,表面の検算欄及び裏面の分離長期
譲渡所得記載欄外の2か所に自己の印を押捺した上,控えをB税理士に交付した。
統括官は,事績書にB税理士との間で申告相談を実施した旨記載したが,本件物件
の取得価額等については本件お尋ね文書の内容をそのまま転記したのみで,裏付け
資料と対比すべきものとはしなかった。なお,本件確定申告書の記載のみからはB
税理士による虚偽記載が明らかとはならず,被上告人に係る事績書も同税務署に保
存されて残っていた。統括官が賄賂を受け取ったとか,B税理士の依頼により故意
に脱税に加担したという事実は認められない。
(5)B税理士は,本件確定申告書及び本件お尋ね文書につき,Aらにその内容
を説明したり,被上告人の署名押印を求めたりすることもなく,上記のような申告
手続をし,被上告人から預かった550万円を納付せずに取得した。
他方,被上告人及びAらは,確定申告手続をB税理士に依頼した後,平成9年1
0月に東京国税局査察部による調査があるまで,同税理士に対し,確定申告書の控
えや納税に係る領収書等の交付を要求したり,申告について税務署に問い合わせた
りはしなかった。
(6)B税理士は,20年余の税務署勤務の後,昭和40年代に税理士を開業し
たが,始期は分からないものの,平成8年ころまで,賄賂を贈って協力を得た税務
署職員の勤務する税務署の管内に納税者が住所移転した旨の虚偽の通知をし,この
税務署に送付された資産譲渡に伴う事績書等の課税資料を当該税務署職員に抜き取
らせ,譲渡所得の発生の事実が分からないようにした上,資産譲渡に係る所得を申
告しない方法や,架空の又は水増しされた経費を必要経費として計上するなどの方
法で脱税をしてきた。B税理士は,同年暮れころから,従前の税務申告につき不正
申告の疑いを抱かれ,東京国税局査察部の調査を受けるなどし,同9年10月に逮
捕され,同10年7月,贈賄,所得税法違反等の罪により懲役刑の実刑判決を受け
た。
(7)東京国税局査察部は,同9年10月21日,被上告人に対する臨場調査に
着手した。被上告人は,上告人の指導に基づき修正申告をすることとし,同年11
月14日,上告人に対し,租税特別措置法(平成10年法律第23号による改正前
のもの)31条の3,35条1項所定の各特例の適用を前提とする修正申告書を提
出し,併せて,上記各特例の適用を受けようとする旨を記載した書面を提出し,関
係書類を添付書類として提出した(以下,この修正申告を「本件修正申告」とい
う。)。
(8)上告人は,同10年2月3日,本件修正申告により被上告人が新たに納付
すべきこととなった税額分(548万4600円)に対する重加算税を賦課する第
1賦課決定処分を行い,さらに,同月4日,上記各特例の適用を否認した額での増
額更正(以下「本件更正処分」という。)及び本件更正処分により被上告人が新た
に納付すべきこととなった税額分に対する重加算税を賦課する第2賦課決定処分を
行った。
2上記事実関係の下で,原審は,第1賦課決定処分を取り消すべきものである
と判断したが,上告人はこの判断につき国税通則法68条1項の解釈適用を誤った
違法があると主張するので,この点につき判断する。
(1)国税通則法68条1項は,過少申告をした納税者が,その国税の課税標準
等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装し,
その隠ぺいし又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは,その
納税者に対して重加算税を課することとしている。この重加算税の制度は,納税者
が過少申告をするにつき隠ぺい又は仮装という不正手段を用いていた場合に,過少
申告加算税よりも重い行政上の制裁を課すことによって,悪質な納税義務違反の発
生を防止し,もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするもの
である。
同項は,「納税者が・・・隠ぺいし,又は仮装し」と規定し,隠ぺいし,又は仮
装する行為(以下「隠ぺい仮装行為」という。)の主体を納税者としているのであ
って,本来的には,納税者自身による隠ぺい仮装行為の防止を企図したものと解さ
れる。しかし,納税者以外の者が隠ぺい仮装行為を行った場合であっても,それが
納税者本人の行為と同視することができるときには,形式的にそれが納税者自身の
行為でないというだけで重加算税の賦課が許されないとすると,重加算税制度の趣
旨及び目的を没却することになる。そして,納税者が税理士に納税申告の手続を委
任した場合についていえば,納税者において当該税理士が隠ぺい仮装行為を行うこ
と若しくは行ったことを認識し,又は容易に認識することができ,法定申告期限ま
でにその是正や過少申告防止の措置を講ずることができたにもかかわらず,納税者
においてこれを防止せずに隠ぺい仮装行為が行われ,それに基づいて過少申告がさ
れたときには,当該隠ぺい仮装行為を納税者本人の行為と同視することができ,重
加算税を賦課することができると解するのが相当である。他方,当該税理士の選任
又は監督につき納税者に何らかの落ち度があるというだけで,当然に当該税理士に
よる隠ぺい仮装行為を納税者本人の行為と同視することができるとはいえない。
(2)これを本件についてみると,前記事実関係によれば,被上告人は,B税理
士に確定申告手続を委任した際,脱税の意図はなく,専門家である同税理士を信頼
して適正な申告を依頼したものであり,同税理士が脱税を行っていた事実を知って
いたとうかがうこともできないというのである。そして,税理士は,適正な納税申
告の実現につき公共的使命を負っており,それに即した公法的規律を受けているの
であるから,被上告人において,そのような税理士資格を有し,長年税務署に勤務
していたというB税理士が,税法上許容される節税技術,計算方法等に精通してい
ると信じたとしてもやむを得ないところであり,同税理士がそのような専門技能を
駆使することを超えて隠ぺい仮装行為を行うことまでを容易に予測し得たというこ
とはできない。また,B税理士による確定申告後,東京国税局による臨場調査を受
ける以前に,被上告人が本件確定申告書に虚偽の記載がされていることその他同税
理士による隠ぺい仮装行為を認識した事実も認められず,同税理士を信頼して委任
した被上告人において,これを容易に認識し得たというべき事情もうかがわれな
い。
他方,税務署職員や長男から税額を800万円程度と言われながらこれが550
万円で済むとのB税理士の言葉を信じた点や,本件確定申告書の内容をあらかじめ
確認せず,申告書の控えや納付済みの領収証等の確認すらしなかった点など,被上
告人にも落ち度はあるものの,これをもって同税理士による前記隠ぺい仮装行為を
被上告人本人の行為と同視することができる事情に当たるとまでは認められないと
いうべきである。
そうすると,前記事実関係の下においては,B税理士の前記隠ぺい仮装行為をも
って納税者である被上告人本人の行為と同視することはできず,被上告人につき国
税通則法68条1項所定の重加算税賦課の要件を満たすものということはできな
い。これと同旨の原審の判断は是認することができ,論旨は採用することができな
い。
第2同第1の4(3)及び第4(ただし,排除されたものを除く。)について
1前記事実関係の下において,原審は,第1審と同様,第1賦課決定処分のう
ちの過少申告加算税額相当分についても取消しを免れないものと判断した。その理
由の要旨は,次のとおりである。
(1)過少申告加算税も,重加算税と同様,申告という公法上の義務が十分に履
行されなかったことを理由として当該納税者に課される特別の負担なのであるか
ら,国税通則法65条4項所定の「正当な理由」の有無は,当該公法上の義務違反
について納税者に責任を問うのが正当か否かという観点から検討されるべきであ
る。(2)被上告人は,正規の国家資格を有するB税理士を全面的に信頼して
適正な申告手続をするよう依頼したのであり,同税理士のした過少申告が被上告人
の指示に基づくものであるとか同税理士の言動等から不当な申告を行うことが明ら
かにうかがわれたなどの特段の事情も認められないから,その公法上の義務を十分
に履行したものと評価すべきであり,上記「正当な理由」が認められるというべき
である。
被上告人やAらに何ら税務上の素養がなく,被上告人及びAともに高齢であるこ
とにかんがみると,国家資格を有する専門家たる税理士に委任した以上,その事務
のすべてを任せ,先方からの連絡がない以上は,催促がましく連絡を取らないこと
がエチケットにかなうと考えることにも無理からぬ面があり,少なくとも,被上告
人及びAについては,このような態度をとったことをとらえて公法上の義務違反に
対する負担の賦課を正当化することは困難である。
2しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
(1)過少申告加算税は,過少申告による納税義務違反の事実があれば,原則と
してその違反者に対し課されるものであり,これによって,当初から適法に申告し
納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに,過少申告に
よる納税義務違反の発生を防止し,適正な申告納税の実現を図り,もって納税の実
を挙げようとする行政上の措置であり,主観的責任の追及という意味での制裁的な
要素は重加算税に比して少ないものである。
国税通則法65条4項は,修正申告書の提出又は更正に基づき納付すべき税額に
対して課される過少申告加算税につき,その納付すべき税額の計算の基礎となった
事実のうちにその修正申告又は更正前の税額の計算の基礎とされていなかったこと
について正当な理由があると認められるものがある場合には,その事実に対応する
部分についてはこれを課さないこととしているが,過少申告加算税の上記の趣旨に
照らせば,同項にいう「正当な理由があると認められる」場合とは,真に納税者の
責めに帰することのできない客観的な事情があり,上記のような過少申告加算税の
趣旨に照らしても,なお,納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷に
なる場合をいうものと解するのが相当である。
(2)これを本件についてみると,前記事実関係によれば,B税理士が前記のよ
うな態様の隠ぺい仮装行為をして脱税をするなどとは予想し得なかったとしても,
被上告人は,税務署職員や長男から税額は800万円程度と言われながら,これが
550万円で済むとの同税理士の言葉を信じて,それ以上の調査,確認をすること
なく,本件確定申告書の内容をあらかじめ確認せず,確定申告書の控えや納税に係
る領収書等の交付を同税理士に要求したり,申告について税務署に問い合わせたり
はしなかったというのであって,これらの点で被上告人には落ち度が見受けられ,
他方,本件確定申告書を受理した税務署の職員が同税理士による脱税行為に加担し
た事実は認められないというのである。このような事実関係の下においては,真に
納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり,過少申告加算税の趣旨
に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になるもの
とまでは認めることはできず,本件修正申告によりその納付すべき税額の計算の基
礎となった事実が本件確定申告において税額の計算の基礎とされていなかったこと
について,国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があると認めることはでき
ない。
そうすると,これと異なり,第1賦課決定処分のうちの過少申告加算税額相当
分(その額が79万7000円となることは計算上明らかである。)についてまで
取り消すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令
の違反がある。これと同旨をいう限りにおいて論旨は理由があり,原判決のうち上
記判断に係る部分は破棄を免れない。そして,以上に説示したところによれば,当
該部分に関する被上告人の請求には理由がないから,同部分につき第1審判決を取
り消し,同部分に係る請求を棄却すべきである。
第3本件更正処分及び第2賦課決定処分の取消請求に関する上告については,
上告受理申立て理由が上告受理決定において排除されたので,棄却することとす
る。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官島田仁郎裁判官横尾和子裁判官甲斐中辰夫裁判官
泉徳治裁判官才口千晴)

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