弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件控訴をいずれも棄却する。
2控訴費用は,控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1控訴人ら
()原判決を次のとおり変更する。
被控訴人は,控訴人らに対し,それぞれ39万4061円及びこれに対す
る平成17年12月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
()訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
()仮執行宣言
2被控訴人
主文同旨
第2事案の概要
1本件は,被控訴人(地方自治法上の一部事務組合)を設置した市町村の住民
である控訴人らが,被控訴人の管理者に対し,被控訴人の職員であるAが退職
するに際し,同人がかつて勤務していた愛知県海部郡弥富町(以下「弥富町」
という)の職員としての在職期間を通算して退職手当金の支出命令を発する

ことが違法であると主張して,地方自治法292条,242条の2第1項1号
に基づき,その差止めを求める住民訴訟を提起し,これに勝訴したことから,
同法292条,242条の2第12項に基づき,被控訴人に対し,相当額の弁
護士報酬及びこれに対する遅延損害金(訴状送達の日の翌日である平成17年
12月8日から支払済みまで年5分の割合)の支払を求めた実質的当事者訴訟
である。
原審が,控訴人らそれぞれにつき,上記弁護士報酬は5万円が相当であると
して,同金額及びこれに対する遅延損害金(平成17年12月8日から支払済
みまで年5分の割合)の限度でこれを認容し,その余の請求をいずれも棄却し
たため,控訴人らがこれを不服として控訴した。
2前提事実は,以下に付加訂正するほかは,原判決「事実及び理由」の「第2
事案の概要」の1のとおりであるから,これを引用する。
()原判決1頁26行目の「証拠(甲1ないし5」を「証拠(甲1ないし
1)
5,8,9,11,13ないし16,19ないし22,26,28)並びに
弁論の全趣旨」に改める。
()同3頁1行目の「退職手当金の額を」の次に「被控訴人に」を加える。
()同3頁21行目から23行目にかけての「弥富町の在職期間を通算して
退職手当金の支出命令を発することの差止めを求めて住民監査請求をした
が,同監査委員がこれを棄却(一部却下)したため」を「弥富町の在職期

間を通算して退職手当金の支出命令を発することの差止め等を求めて住民監
査請求をしたが,同監査委員が上記支出命令の差止請求部分は棄却し,その
余の請求部分は却下したため」に,同24行目の「当庁15年」を「当庁平
成15年」にそれぞれ改める。
3本件の争点及び争点に関する当事者の主張は,次項において当審における控
訴人らの主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」の「第2事案の概
要」の2,3のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決6頁5行
目の「Aに違法な退職手当金」を「Aに対する違法な退職手当金」に改め,同
7頁7行目の「ア」を削除し,12行目の「判決」を「控訴審判決」に,16
行目の「被告に対し」を「Aに対し」にそれぞれ改める。


4当審における控訴人らの主張
()本件住民訴訟(名古屋地方裁判所平成××年(行ウ)第××号違法な退
職金支払差止請求事件及びその控訴審である名古屋高等裁判所平成××年
(行コ)第×号)が,地方財務行政の適正な運営を確保することを目的とす
るものであり,控訴人らの個人的な利益に関わりなく提起される民衆訴訟で
あるとしても,本件住民訴訟の趣旨,目的から控訴人らが受ける経済的利益
はすべて算定不能とすることには論理的な飛躍がある。
Aが弥富町職員として在職していた期間を通算した退職手当金2372万
3813円から,これを通算しない場合の退職手当金820万2440円を
差し引いた1552万1373円(本件差額)が客観的かつ明確に算定され
ているのであり,控訴人らが被控訴人に代位して本件住民訴訟を提起し,控
訴人らの勝訴判決が確定したがゆえに,被控訴人は本件差額相当の金員の違
法な支出を免れることができたという関係に立つことから,控訴人らが受け
る経済的利益は算定不能とみるべきではなく,本件差額相当の1552万1
373円をその経済的利益として観念すべきである。
なお,原判決が引用する最高裁昭和53年3月30日第一小法廷判決・民
集32巻2号485頁は,地方自治法242条の2第1項第4号所定の損害
賠償請求訴訟における訴訟物の価格についての判例であり,控訴人らが受け
る経済的利益についてまでその射程が及ぶものではない。
()被控訴人が,Aに対し,退職手当金の支給について,弥富町に勤務し続
ける場合と比較して不利益を被らないような措置を講じることを約束した事
実はない。Aは,被控訴人に採用された当初は,被控訴人から支給される退
職手当金について,弥富町における在職期間が通算されないことを了承して
いた。しかるに,Aは,平成2年6月以降に至り,被控訴人に対し,弥富町
からの退職手当金を被控訴人に納付することを条件にして,弥富町における
在職期間を通算することを強く求め,被控訴人がこれに応じたのが本件の真
相である。したがって,Aの退職時において,本件差額につき損害賠償請求
権が発生することはない。
そうすると,被控訴人は,本件差額相当分の支払義務を確定的に免れ得る
ことになるから,本件住民訴訟において控訴人らが勝訴したことによって生
じた経済的利益は,本件差額相当分という具体的金員の違法な支出を確定的
に差し止め得たという具体的,金銭的なものということになる。
()仮に,原判決のいうとおり,控訴人らが受ける経済的利益が算定不能で
あるとして,控訴人らが支払うべき弁護士報酬額が127万4000円(消
費税相当額は6万3700円)となり,かつ,本件住民訴訟が財務会計行為
の観念的な是正にとどまり,具体的,金銭的なものでないとしても,原判決
の認容額一人当たり5万円は低額に失するものであり,裁量の範囲を逸脱し
ている。
第3当裁判所の判断
当裁判所も,本件住民訴訟の弁護士報酬のうち,被控訴人が控訴人らに支払う
べき相当額は,消費税相当額を含め一人当たり5万円が相当であると判断する。
その理由は,以下のとおり原判決を付加訂正し,当審における控訴人らの主張に
対する判断を付加するほかは,原判決「事実及び理由」の「第3当裁判所の判
断」のとおりであるから,これを引用する。
1原判決の付加訂正
()原判決9頁17行目から18行目にかけての「証拠(甲1,2,乙1,

,」「(,,,
4弁論の全趣旨及び当裁判所に顕著な事実を証拠甲1214
19ないし22,26,28,乙1,4)及び弁論の全趣旨」に,21行目
の「同町長」から22行目の「その際」までを「同町長及びAはこれを承

諾した。被控訴人は,その際,Aの」にそれぞれ改める。
()同10頁3行目の「弥富町を退職し」の次に「被控訴人の指示に基づ
2,
いて」を加え,7行目の「ところが」を「ところで」に改める。
,,,
()同11頁の4行目の次に改行して以下のとおり加える。
「オAは,平成10年4月1日に被控訴人の次長兼主幹に就任し,労働組
合との折衝も担当していたが,平成12年4月1日,被控訴人の前身で
ある「B組合」に「C組合」が統合されるに際し,労働組合が二つに分
裂し,その後,一方の組合と被控訴人との間の労使関係が紛糾するよう
になった。上記事情の下で,上記組合の組合員が原告となって本件住民
訴訟を提起したものであり,本件住民訴訟の背景に上記労働紛争があっ
た」

2当審における控訴人らの主張に対する判断
()控訴人らは,Aが弥富町職員として在職していた期間を通算した退職手
当金2372万3813円から,これを通算しない場合の退職手当金820
万2440円を差し引いた1552万1373円(本件差額)が客観的かつ
明確に算定されているのであり,控訴人らが被控訴人に代位して本件住民訴
訟を提起し,控訴人らの勝訴判決が確定したがゆえに,被控訴人は本件差額
相当の金員の違法な支出を免れることができたという関係に立つことから,
控訴人らが受ける経済的利益は算定不能とみるべきではなく,本件差額相当
の1552万1373円をその経済的利益として観念すべきであると主張す
る。
,(),
しかして本件規程名古屋弁護士会の弁護士報酬等基準規程12条は
報酬金は委任事務処理により確保した経済的利益の額を基準として算定する
旨定めているところ,上記の経済的利益は,依頼者本人の経済的利益を指す
のが原則であるが,本件住民訴訟のように,控訴人らが被控訴人の違法な支
出の差止めを求めて勝訴したような場合は,控訴人らが主張するようにこれ
によって支出を免れた被控訴人の経済的利益を指すと解する余地がないでは
ない。
しかしながら,前記(原判決の第3の3())のとおり,本件住民訴訟の
結果,Aに被控訴人に対する弥富町における在職期間を通算しないことによ
る退職手当金減額分の損害賠償請求権が発生し得ることは否定できないか
ら,本件住民訴訟によって被控訴人が得た利益は財務会計行為の観念的な是
正にとどまり,具体的,金銭的なものではないといわざるを得ず,したがっ
て,被控訴人の経済的利益は算定不能というべきである。
したがって,控訴人らの上記主張は採用できない。
()控訴人らは,Aは退職手当金について弥富町における在職期間が通算さ
れないことを了承していたから,本件差額につきAに損害賠償請求権が発生
することはない旨主張するところ,甲17号証(Dの陳述書)には上記主張
に沿う供述部分が存在する。
しかしながら,上記供述部分は,甲26号証(Eの陳述書,甲28号証

(Aの陳述書)に照らしてたやすく信用できず,他に上記主張事実を認める
に足りる証拠は存在しない。
したがって,控訴人らの上記主張は採用できない。
()控訴人らは,原判決の認容額は低額に失し,裁量の範囲を逸脱している
と主張するが,原判決が摘示した事情(第3の3(),ことに本件支出命
3)
令の違法は被控訴人とAとに関連した実質的理由に基づくものではなく,む
しろ,被控訴人の担当職員個人の事務手続上のわずかな過誤(錯誤)により
,(,
生じたものであることを考慮すると原判決の認容額消費税相当額を含め
控訴人一人当たり5万円)は,被控訴人が地方自治法242条の2第12項
に基づいて控訴人らに支払うべき弁護士報酬の相当額として裁量の範囲内に
あるものというべきである。
第4結論
以上によれば,控訴人らの被控訴人に対する本件請求は,それぞれ5万円(消
費税相当額を含む)及びこれに対する遅延損害金(平成17年12月8日から支
払済みまで年5分の割合)の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がな
,,。
いところこれと結論を同じくする原判決は相当であり本件控訴は理由がない
よって,主文のとおり判決する。
名古屋高等裁判所民事第1部
裁判長裁判官坂本慶一
裁判官林道春
裁判官山崎秀尚

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