弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 被告人Aの上告趣意について。
 被告人が上告趣意として本件の経過を詳細に述べているのは、原判決の事実認定
に誤りがあることを主張する趣旨と解せられる。しかし事実誤認の主張は適法な上
告理由となり得ないものである。
 所論の中には、被告人がその所為を適法な行為であると信ずる旨の主張も見えて
いるが、その理由なきことは間宮弁護人の上告趣意第一点について後に述べるとこ
ろによつておのずから明らかであろう。
 弁護人間宮三男也の上告趣意第一点について。
 論旨は結局、被告人はその所為について違法の認識を欠いていたから犯罪の不成
立を来たすという主張に帰する。然し乍ら、原判決に証拠として採用されている第
一審証人B、同C及びDの各証言記載並に農林事務官E作成の被害物件調書(記録
三丁以下)によれば、本件斜里郡a町字bcd番地e事業区f班イ小班六町歩につ
いては、被告人に対し、国有地解放の許可はなかつたものであり、而も昭和二一年
三月以降被告人は再三北海道庁網走支庁宛斜里町役場を通じ右国有地解放許可願書
を提出したけれども、その都度その願書は却下され、且つ又当時斜里営林区署係官
から被告人が入地した本件土地の開墾竝に立木の伐採を禁止する旨の注意を受けた
ことがわかる。そうして森林法八四条二号、五号の犯罪の成立に必要な犯意ありと
いうには、被告人が保安林なることを認識し乍らその森林の樹木を許可なく伐採し
或ひはその伐採した樹木を原料として木炭を製造する事実を認識すれば足り、同法
九三条二項の犯罪は、保安林なることを認識し乍ら許可なく之を開墾するの事実を
認識すれば、同罪の成立に必要な犯意ありというべきである。してみれば被告人が
本件各犯罪について犯意があつたこと明らかであるから、原判決が被告人の所為を
有罪としたことには、所論のような違法はない。尤も被告人が所論のとおり、本件
土地において製造した木炭の供出に対し、報奨物資の割当を受け、且つ又本件土地
の開墾について開墾助成金又はその地上の住宅建築について資材の交付を受けたと
いう事実は原判決も認めているけれども、それは解放予定地である本件保安林内に
おいて被告人が事実上木炭を製造供出し住宅を建築し、土地を開墾したことに対す
る報奨であり、資材の交付であり、また助成金であつてこれ等の事実があるからと
いつて被告人の本件所為について犯意がなかつたものと做す理由とは為し難く、況
んや被告人の本件所為を適法ならしむるものではない。要するに論旨は原判決の認
定しなかつた事実に基いてその事実認定を攻撃するか、又は刑罰法規の不知を以つ
て犯意を阻却すると做すかの主張であるから採用し難い。
 同弁護人の上告趣意第二点について。
 論旨は量刑不当の主張であつて適法な上告理由とならない。
 よつて旧刑訴法四四六条に従い主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。
 検察官 橋本乾三関与
  昭和二五年二月二一日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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