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平成12年(行ケ)第155号 審決取消請求事件
平成12年8月22日口頭弁論終結
         判      決
    原      告    シーティーシー・ラボラトリーシステムズ株式
会社
    代表者代表取締役    【A】
    訴訟代理人弁護士    菊池 武
    被      告    特許庁長官 【B】
    指定代理人    【C】
    同           【D】
      主      文
     原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
     事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
 特許庁が平成8年審判第13362号事件について平成12年3月27日に
した審決を取り消す。
   訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
 主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実 
1 特許庁における手続の経緯
  原告は、指定商品を商標法施行令(平成3年政令第299号による改正前の
もの)別表第11類の「電気機械器具、電気通信機械器具、電子応用機械器具(医
療機械器具に属するものを除く)電気材料」として、「ISIS」及び「アイシ
ス」の文字を上下二段に横書きしてなる商標(以下「本願商標」という。別紙参
照)について、平成3年5月31日に商標登録出願(平成3年商標登録願第556
99号)をしたところ、平成8年5月15日に拒絶査定を受けたので、同年8月6
日に拒絶査定不服の審判を請求した。
 特許庁は、同請求を平成8年審判第13362号事件として審理した結果、
平成12年3月27日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、同
年4月12日、その謄本を原告に送達した。
2 審決の理由
  別紙審決書の写しのとおり、本願商標は、商標登録第1649253号商標
(別紙審決書の写しの引用商標欄記載のとおりの商標。以下「引用商標」とい
う。)に類似する商標であって指定商品が同一又は類似するものであるから、商標
法4条1項11号に該当すると認定判断した。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
  審決は、引用商標の称呼、外観を誤認し、また、本願商標の外観を誤認した
結果、本願商標と引用商標の称呼及び外観が異なることを看過したものであって、
この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、違法として取り消
されるべきである。
1 全体観察と分離観察について
  商標の類否判断に当たっては、文字・図形・記号等が組み合わされた商標の
場合、原則として、これらの各部分を総括した全体を識別標識として観察すべきで
あり、決して構成要素の各部分のみを摘出比較すべきではない。もちろん、分離観
察も、全体観察に対する修正として必要な場合はあるけれども、これは例外的なも
のである。ところが、審決は、いきなり分離観察を全面的に採用して認定判断した
ものであって、商標の類否判断の基本を忘れたものである。
2 称呼について
  引用商標は、分離観察して、「ISIS」の部分に着目すれば、この部分か
ら「アイシス」の称呼をも生ずるけれども、このような分離観察はすべきではな
い。
  引用商標においては、図形と「航海の神」の文字とが、相まって、「航海の
神イシス」の観念を強く印象付け、この部分を除く観察を困難にしているからであ
る。このように、引用商標においては、全体観察のみがなされるべきであり、そう
すれば、引用商標は「イシス」と称呼されるだけであって、「アイシス」と称呼さ
れることはない。
  したがって、本願商標と引用商標は、称呼において非類似である。
3 外観について
  本願商標については、原則である全体観察により、「ISIS」を片仮名
「アイシス」と切り離さずに観察すべきである。したがって、本願商標と引用商標
は、外観においても非類似である。
4 本願商標は、元来ソフトウエアの名称であって、「IntegratedScientific
Informationsystem」の頭文字をとったことに由来しており、取引界において知ら
れている。実際問題として、引用商標の権利者の商品と本願商標に係る商品とが誤
認混同を生ずるような事例は全くなく、本願商標の登録によって問題が発生する心
配は皆無である。
第4 被告の反論の要点
1 全体観察と分離観察について
  商標の分離観察は、全体観察に対する修正として、特に結合商標の類否判断
において必要である。すなわち、各構成部分がそれを分離して観察することが取引
上不自然と思われるほど不可分的に結合していない商標については、分離観察をし
て、その部分が有する外観、称呼又は観念により類否判断することが認められる。
審決も、全体観察を欠いたものではなく、引用商標について適切な全体観察の結論
を引き出すための手段として必要であることから商標の要部を抽出して、本願商標
と引用商標を対比して類否を判断したにすぎない。
2 称呼について
  引用商標は、図形と文字とを分離して観察することが取引上不自然と思われ
るほど不可分的に結合しているものではないから、分離観察をすることが認められ
る。そして、引用商標において、「ISIS」は、中央部に見やすく、かつ、
「I」と「S」とを繰り返すだけの記憶しやすい綴り字からなっており、独立して
看者の注意を引くように構成されているものであるから、引用商標からは、「IS
IS」の文字から生ずる称呼「アイシス」の称呼も生ずる。
3 外観について
  本願商標も、結合商標であって、全体観察だけで類否判断すべきではない。
分離観察した場合、本願商標と引用商標の外観は相紛らわしい。
第5 当裁判所の判断
1 全体観察と分離観察について
  一般に、簡易、迅速を尊ぶ取引の実際においては、商標は、各構成部分がそ
れを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほどにまで不可分的に
結合していない限り、常に必ずその構成部分全体の名称によつて称呼、観念される
というわけではなく、しばしば、その一部だけによって簡略に称呼、観念され、そ
の結果、一個の商標から二個以上の称呼、観念の生ずることがあるのは、経験則の
教えるところである(最高裁判所第1小法廷昭和38年12月5日判決・民集17
巻12号1621頁参照)。
 そうである以上、商標については、各構成要素に上記のような不可分的結合
が認められない限り、全体観察に対する修正として、より正確には、全体観察を実
態に即して行うための必須の手法として、分離観察が必要となるものというべきで
ある。
2称呼について
(1) 本件全証拠によっても、本願商標ないし引用商標に係る指定商品の一般の
取引者・需要者が、引用商標の上部の図形、中央部の「ISIS」の文字、下部の
「航海の神・イシス」文字の結合によって特定の事柄を認識し、これを分離した場
合にはそれを認識できなくなるという事実を認めることはできない。弁論の全趣旨
によれば、英語の「ISIS」は、「アイシス」に似た発音で読まれ、古代エジプ
ト神話の豊饒の女神ないし最高の女神(イシスないしアイシス)を指すことが認め
られるけれども、上記女神が、本願商標ないし引用商標に係る指定商品の一般の取
引者・需要者から親しまれていると認めるに足りる証拠はなく、また、上記女神
と、引用商標の上部の図形や下部の「航海の神・イシス」の文字との関係について
も、これを的確に認定できる証拠はないから、英語の「ISIS」が上記女神を意
味することは、前記認定を左右するものではない。
 また、引用商標において「ISIS」の文字と「航海の神・イシス」の文
字は、長さも不揃いであり、「ISIS」と「イシス」の両文字は場所もずれてい
るから、「イシス」が「ISIS」の読みを限定的に特定したものと解することも
できない。
 そうである以上、引用商標において、「ISIS」の部分は、これを分離
して観察することが取引上不自然であると思われるほどにまで不可分的に結合して
いるものということはできない。したがって、引用商標においては、中央部の「I
SIS」の文字部分をとらえ、これをもって取引に当たる場合も少なくないものと
いうべきである。そして、「ISIS」の文字からは「アイシス」の称呼をも生ず
るから、引用商標から「アイシス」の称呼が生ずるとした審決の認定判断に誤りは
ない。
(2) 原告は、引用商標について、図形と「航海の神」の文字とが相まって、
「航海の神イシス」の観念を強く印象付けていると主張する。しかし、本件全証拠
によっても、引用商標の上部の図形や「航海の神」ないし「航海の神・イシス」
が、本願商標ないし引用商標に係る指定商品の一般の取引者・需要者から親しまれ
ていると認めることはできないから、上記需要者が、引用商標の図形と「航海の
神」の文字とから、「航海の神イシス」の観念を強く印象付けられるということは
できない。原告の主張は、採用することができない。
3外観について
  本願商標の構成からすれば、これに接した一般の取引者・需要者が、本願商
標下段の「アイシス」の文字について、上段の「ISIS」の文字の振り仮名表記
程度の付記的なものと解する可能性が十分にある。このように解した取引者・需要
者は、本願商標について、「振り仮名」と認識した「アイシス」ではなく「ISI
S」こそがその本体であると理解することになる。一方、引用商標において、中央
部の「ISIS」の文字部分をとらえ、これをもって取引に当たる場合も少なくな
いことは、前認定のとおりである。したがって、本願商標と引用商標が外観におい
て近似するとした審決の認定判断に誤りはない。
4 そうすると、本願商標と引用商標は、称呼を共通にし、外観も近似するもの
であるから、全体として類似の商標というべきである。
5 原告は、引用商標の権利者の商品と本願商標に係る商品とが誤認混同を生ず
るような事例は全くなく、本願商標の登録によって問題が発生する心配は皆無であ
ると主張する。しかし、商標権は、設定された後に、譲渡や通常使用権等の設定を
始めとする事情の変更もあり得るものであるから、現在において引用商標の権利者
の商品と本願商標に係る商品とが誤認混同を生ずるような事例がないとしても、そ
のことをもって、本願商標が商標法4条1項11号に該当しないことの根拠とする
ことはできない。
6 以上のとおりであるから、原告主張の取消事由は理由がなく、その他審決に
はこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
第6 よって、本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴
訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
   東京高等裁判所第6民事部
       裁判長裁判官 山  下  和  明
        
          裁判官  山  田  知  司
 
          裁判官 宍  戸 充
別紙本願商標

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