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裁判例


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       主   文
一 原判決を取り消す。
二 控訴人が日本国籍を有することを確認する。
三 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
       事実及び理由
第一 当事者の求める裁判
一 控訴人
 主文と同旨。
二 被控訴人
 控訴棄却の判決。
第二 事案の概要
事案の概要は、次のとおり付け加えるほかは、原判決の「事実及び理由」中「第二
 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決三頁九行目の末尾に続けて「控訴人は、日本人母の子として出生したこ
とにより、日本国籍を取得した。」を加える。
2 同四頁七行目の「a項」を「(a)項」に、同行目の「済州島」を「済洲島」
にそれぞれ改める。
3 同八頁一一行目の「発行」を「発効」に改める。
4 同一五頁六行目の末尾に続けて「朝鮮人父と日本人母が平和条約発効前に婚姻
した後、婚姻前の出生子を父が認知した認知準正子について、第三〇六九号通達発
出の前後によらず、認知により当然に朝鮮人父の戸籍に入籍するものとされていた
としても、この場合は、子は嫡出子の身分を取得するのであるから、控訴人とは事
案を異にする。」を加える。
第三 当裁判所の判断
一 朝鮮人である父が、内地人である母の子を認知した場合、右認知が新国籍法
(昭和二五年法律第一四七号)施行前にされたときは、子は、朝鮮人父の庶子とな
り、朝鮮人父の家に入る(父の朝鮮戸籍に入籍する)べきものであるから、平和条
約の発効に伴って、当然に日本国籍を喪失すると解するのが相当である。この点に
関する一般的理由は、原判決一七頁一一行目の「a項」を「(a)項」に改め、同
二一頁七行目の「受けたのであるから、」の次及び同頁一〇行目の「そうする
と、」の次にいずれも「新国籍法の施行による影響を考慮しない限り、」を加える
ほかは、原判決「事実及び理由」中の「第三 争点に対する判断」の一から三まで
の理由説示と同じであるから、これを引用する。
二 しかし、右認知が新国籍法施行後にされたものである場合は、子は朝鮮戸籍に
入籍すべきものではなく、したがって、平和条約の発効に伴い日本国籍を喪失する
こともないと解するのが相当である。
 すなわち、引用に係る原判決理由説示のとおり、日本国憲法及び新民法の施行後
も、朝鮮人父に認知された日本人母の子は、共通法三条一項の「一ノ地域ノ法令ニ
依リ其ノ地域ノ家ニ人ル者ハ他ノ地域ノ家ヲ去ル」という
規定に従い、また、他方で、同法三条二項の「一ノ地域ノ法令ニ依リ家ヲ去ルコト
ヲ得サル者ハ他ノ地域ノ家ニ人ルコトヲ得ス」という除外規定に該当しない者とし
て、朝鮮戸籍に登載されるとともに、内地戸籍から除籍されるべき者であったと考
えざるを得ない。しかし、共通法の右の規定は、双方の地域に家の制度が存在する
ことを前提とする規定であるから、日本国憲法及び新民法の施行により内地におい
て家の制度が廃止された後は、内地においては右規定中の「家ニ入ル」あるいは
「家ヲ去ル」という要件の有無をそのとおりには適用することはできないことにな
った。したがって、共通法三条一項及び二項の規定の解釈適用については、新民法
その他の関係法令の規定を考慮して、とりわけ、日本国憲法を始めとする新しい法
律思想に相反することのないよう注意して、全体の法秩序に沿うよう合理的にこれ
を行わざるを得なくなったのである。そして、新民法及び当時の戸籍法では、父が
子を認知しても子は当然には父の戸籍に入らないものとされたのであるが、他方で
この場合にも子が父の戸籍に入り得る場合の規定をおいているのであり、少なくと
も子が父の戸籍に入ること自体を禁止する規定はなかったのであるから、朝鮮人父
に認知された内地人母の子は、共通法三条二項の規定する「法令ニ依リ家ヲ去ルコ
トヲ得サル者」には該当しないと考えることができるというべきであろう。また、
旧国籍法二三条では、父に認知された子は父の国籍を取得し我が国の国籍を失うこ
ととされていたから、地域籍が国籍に準じる性質を持つものであることを考える
と、旧国籍法の右の規定も、この場合の子が家を去ることを得ざる者に該当せず、
朝鮮戸籍に入るべき者になると解することについて、有力な手がかりを与えるもの
ということができる。
 しかし、昭和二五年七月一日に新国籍法が施行され、子は、外国人である父のし
た認知によっても、日本国籍を失わないことになったのである。旧国籍法二三条
は、前記のとおり父子国籍同一主義を採用していたのであるが、旧国籍法の右規定
は、もともとわが国在来の家族制度に沿うものであり、日本国憲法の個人の尊厳、
国籍離脱の自由の原則等の理念とは相容れないものであったため、これを廃止し、
前記のとおり認知によっても子は当然には我が国の国籍を失わないものとされたも
のと考えられる。そして、内地籍あるいは朝鮮籍という地域籍は、観
念的には日本国籍を持つ者の本籍の帰属地域に係る問題であり、当時の法制下にお
いては国籍とは直接的な関わりはなかったのであるが、その実質は国籍に準じる性
格を持つものと考えて良いと思われる。とりわけ、我が国は、昭和二〇年八月に、
我が国の主権が朝鮮等を含まない領土に局限されること等の条項を含むポツダム宣
言を受諾したのであるが、これにより、我が国の法律の形式的枠組みは別として、
朝鮮は実質的には我が国の一地域としての性格を失い、事実上我が国の主権が及ば
ないいわば外国に準じる面を持つことがより一層明らかになったということができ
る。そうだとすると、新国籍法施行後にもなお、朝鮮人父の認知という一方的意思
表示により、内地人母との間の子が朝鮮人父の朝鮮戸籍に入る(そして結果的に日
本国籍を失う。)と解することは、新国籍法の趣旨に沿わないものといわざるを得
ない。そして、前記のとおり、共通法三条の解釈については、国籍法の規定が重要
な手がかりとなると考えられるのであるが、旧国籍法の規定が改められて、新国籍
法により、外国人父の認知によっても子は日本国籍を失わないものとされ、右変更
が前記のとおり日本国憲法の理念に基づいてされたものであることを考えると、共
通法三条の解釈適用についても、国籍法の規定が右のように改められたことを軽視
することはできないと考えられる。なお、前記のとおり、新民法及び戸籍法上では
去家を禁止する場合の規定はないのであるが、このことは家の制度が廃止された以
上いわば当然のことということができるのであり、かえって、家の制度が廃止され
たことに伴ってこの種の規定が消滅したものである側面を考慮する必要があると思
われる。このように考えると、新国籍法が施行され、子が外国人父のした認知によ
っては日本国籍を失わないこととされた後は、朝鮮人父に認知された日本人母の子
は、共通法三条二項の関係では、去家が許されない者に当たると解するのが相当で
あると考えられる。そうすると、朝鮮人父に認知された内地戸籍にいた子は、認知
によっても、当然には父の朝鮮戸籍に入るべき者に該当しないことになる。したが
って、平和条約の発効後の国籍問題について、先に引用して判示したような基本的
立場に立つ以上、右の子は、平和条約の発効によっても日本国籍を失わないことに
なる。
三1 被控訴人は、戸籍事務の取扱に言及し、これをもって控訴人が日本国籍
を喪失したとする主張の裏付けとしている。しかし、以下のとおり、戸籍事務の取
扱は前記二の認定判断を妨げるものではなく、かえって、これに沿うと考えられ
る。
 すなわち、昭和二三年一月一日に新民法及び新戸籍法が施行された後に内地、朝
鮮、台湾等の異法地域に属する者の間で認知が行われた場合の内地戸籍の取扱につ
いては、内地人父が朝鮮人母の子を認知した場合は、内地に子の新戸籍を編成する
ものとされ(乙一一)、他方、朝鮮人父が内地人母の子を認知した場合は、身分事
項欄に認知に関する記載をするに止めて除籍しないものとされていた。その後、昭
和二四年一一月一八日付民事甲第二六九四号民事局長通達(乙五)により、右同様
朝鮮人父が内地人母の子を認知した場合には、認知事項の記載と同時に除籍するも
のと改められた。その結果、右通達発出後に内地人母の子を朝鮮人父が認知する届
出がされた場合、子は朝鮮戸籍に入れられるべきこととなり、この時期に認知届出
がされた子は、朝鮮戸籍に入籍すべき事由があった者として、平和条約の発効に伴
い、日本国籍を喪失した取扱がされていることになる。ところが、昭和二五年七月
一日に新国籍法が施行された後、昭和二五年一二月六日付法務府民事局民事甲第三
〇六九号各法務局長各地方法務局長あて法務府民事局長通達(乙六。第三〇六九号
通達)が発出され、従前は、内地人男が朝鮮、台湾に本籍を有する女の出生した子
を認知した場合は、子は内地に新戸籍を編成し、また、朝鮮、台湾に本籍を有する
男が内地人女の出生した子を認知した場合は、子は内地の戸籍から除くとされてい
たが、今後は、これを改め、右各場合の認知によっては、子の戸籍に変動を生じな
いこととされた。その結果、単に、認知者である内地人男又は被認知者である内地
人母の子の各戸籍の身分事項欄に、認知の記載をするに止めることになった。そし
て、右の取扱は、昭和二六年三月九日付民事甲第四二五号民事局長回答(乙一三)
によると、第三〇六九号通達発出の日から実施され、通達発出の日以後に朝鮮又は
台湾に本籍を有する男が内地人女の出生した子を認知したため子の戸籍を除籍した
場合は、当該認知事項中父の本籍氏名及び受付年月日以外の記載(主に「除籍」の
二字が該当する。)を消除し、その戸籍の末尾に回復するものとされた。したがっ
て、昭和二五年一二月六日以降、朝鮮人父が内地人母の子を認知した場合は、身分
事項欄に認知の記載をするにとどまるから、子は内地戸籍にとどまり、したがって
平和条約の発効によって日本国籍を失わない取扱となっている。なお、平和条約の
発効に際して発出された昭和二七年四月一九日付民事甲第四三八号法務府民事局長
通達(乙八)により、もと内地人であった者でも、条約の発効前に朝鮮人又は台湾
人との婚姻、養子縁組等の身分行為により内地の戸籍から除籍せられるべき事由の
生じた者は、朝鮮人又は台湾人であって、条約発効とともに日本の国籍を喪失する
とされたから、前記第二六九四号通達による取扱以前に朝鮮人により内地人母の子
が認知されたことにより内地戸籍にとどまる場合も、内地の戸籍から除籍されるべ
き事由の生じた者として日本国籍を失う者とされた。以上のとおりであり、要する
に、朝鮮人父により認知された日本人母の出生した子は、新民法施行後において、
等しく共通法の適用を受けながら、平和条約の発効により、第三〇六九号通達によ
る戸籍事務取扱開始の時(すなわち昭和二五年一二月六日)より前に認知された場
合は結果的に日本国籍を失い、それ以後に認知された場合は結果的に日本国籍を失
わない取扱となっている。
 控訴人は、第三〇六九号通達の実施時期より若干前に認知されたため、平和条約
の発効に伴い、日本国籍を失った者として扱われているのである。
2 ところで、第三〇六九号通達は、それより前の取扱は旧国籍法五条三号、二三
条等の規定、精神に沿ったものであることを明記した上で、今回これを改めるとし
ており、前記第四二五号回答も、第三〇六九号通達の趣旨について言及し、直接国
籍法の対象となるものではないと申し添えながらも、明確に「朝鮮又は台湾と内地
間における父子の認知に関する従前の取扱を新国籍法の趣旨による取扱に改めた」
と述べているのであるが、これらによれば、第三〇六九号通達は、他に理由がある
としても、新国籍法の施行を念頭に置き、これに沿う取扱をすることをも目的とし
て発出されたものであることが明らかである(被控訴人は、第三〇六九号通達は新
国籍法の施行とは直接関係がない旨主張するが、右判示の限りで採用することがで
きない。)。そして、前記二の認定判断によると、第三〇六九号通達による戸籍事
務取扱の変更は、新国籍法が施行された趣旨に良く沿うものであり、その当否につ
いて問題とすべき点はないと解される。すなわち、戸籍事務においても、新国籍法
施行後は、朝鮮人父に認知された日本人母の子は、朝鮮戸籍に入らないものと取り
扱うのが正当であるとされていたと認められるのである。
 もっとも、第三〇六九号通達による変更後の取扱開始時期は、右通達発出の時と
されたのであるが、右発出の日は、法令の変更等があった日ではなく、ただ通達が
発出された日というに過ぎないのであって、結果的に日本国籍喪失の有無が決定さ
れる基準日となる時としてふさわしくないことはいうまでもない。第三〇六九号通
達は、未だ平和条約が締結されず、朝鮮人等の国籍問題が将来どのような解決をみ
るか明らかでなかった時期に発出されたものであり、通達自体は対象を戸籍の取扱
に限定するものであったから、新国籍法の施行日まで遡及実施しないこととされた
ことは理解できなくはないが、そうであるとしても、法律上特段の意味のない右通
達実施の時をもって、結果的に日本国籍喪失の有無を決める基準時とすることは到
底できないというべきである。
 なお、被控訴人は、婚姻や準正の場合との関係を問題にする。しかし、婚姻ある
いは準正の場合は、関係当事者間に意思の合致がある上、当事者が夫婦又は親子と
して生活関係をともにすることが多いのであるから、妻が夫の、あるいは子が父の
戸籍に移動する実質的関係があるが、認知は一方的にされるものであり、しかも認
知を受けた子は、通常は内地籍にある母と密接な生活関係を維持することになると
考えられるから、両者を同視して比較検討するのは相当でない。
四 以上によると、新国籍法が施行された昭和二五年七月一日から第三〇六九号通
達が発出された同年一二月六日までの間に朝鮮人父に認知された内地人母の子も、
第三〇六九号通達発出後に認知された子と同様に、朝鮮戸籍に入るべき者には該当
せず、したがって、平和条約の発効によって日本国籍を喪失しないと解するのが相
当である。控訴人は右の間に認知された子であり、したがって、日本国籍を喪失し
ていない。
 よって、控訴人の本件請求は理由があり、これを棄却した原判決は相当でないか
ら、これを取り消して、控訴人の請求を認容することとし、訴訟費用の負担につい
て民訴法六七条、六一条を適用して、主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所民事第六部
裁判長裁判官 加藤英継
裁判官 伊東正彦
裁判官 大塚正之

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