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裁判例


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       主   文
原判決中控訴人P1に関する部分を取り消す。
名古屋地方裁判所が同庁昭和四一年(ヨ)第一二九号地位保全等仮処分事件につき
昭和四一年三月一一日付でなした仮処分決定のうち、控訴人P1の申請を一部認容し
た部分は、これを認可する。
その余の控訴人らの控訴を棄却する。
訴訟費用は第一、二審を通じ、控訴人P1と被控訴人の間に生じた部分は被控訴人の
負担とし、その余の控訴人らと被控訴人の間に生じた部分は同控訴人らの負担とす
る。
第一、二項および前項に限り、仮に執行することができる。
       事   実
 控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人の本件異議申立を却下する。名古屋
地方裁判所が同庁昭和四一年(ヨ)第一二九号地位保全等仮処分事件につき昭和四
一年三月三一日付でなした仮処分決定を認可する。訴訟費用は第一、二審とも被控
訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。控
訴費用は控訴人らの負担とする。」との判決を求めた。なお原審申請人P2および同
P3は当審において本件仮処分申請を取り下げた。
 当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、援用および書証の認否は、次に附加す
るほかは原判決事実摘示(原審のなした更正決定による更正部分を含む)のとおり
であるから、ここにこれを引用する。
一、控訴代理人の陳述
(一) 三六協定の拘束力について
 八時間労働制の本旨よりみるときは、労働基準法第三六条に基づき労使間に協定
されるいわゆる三六協定は、使用者に対し労働者を八時間以上就労させることを正
当化し免責する効果を有するにすぎず、労働者に時間外勤務に服する義務を負わせ
るものではないと解すべきである。
 したがつて全検分会が昭和四〇年一一月一三日時間外労働を拒否したことは何ら
就労義務違反ではない。しかも、本件三六協定は次に述べるとおり無効である。
(二) 本件三六協定の効力について
 昭和四〇年一一月一三日当時施行されていた三六協定(時間外協定)は次の理由
により無効であるから、この点においても右同日の時間外労働拒否は争議行為に該
当しない。
(1) 右三六協定は昭和四〇年六月六日締結され、同年四月六日に遡つて適用さ
れているものであるが、その締結当事者は被控訴人名古屋支部と全日本港湾労働組
合(全港湾)名古屋支部である。しかし右締結当時全港湾名古屋支部組合員は被控
訴人名古屋支部の全従業員の過半数を占めていなかつた(全日検名古屋支部組合員
も同様に過半数を占めていなかつた)から、右協定は労働基準法第三六条所定の要
件を充たさない無効なものである。
(2) 労働基準法施行規則第一六条第一項は「使用者は、法第三六条の協定をす
る場合には、時間外又は休日の労働をさせる必要のある具体的事由、業務の種類、
労働者の数並びに延長すべき時間又は労働させるべき休日について、協定しなけれ
ばならない」と定め、昭和二二年九月一三日発基第一七号によれば「本条は通常予
想せられる臨時の必要の場合の協定で八時間制又は週休制の例外であるから協定は
できる限り具体的な事由に基づいて締結するよう指導すること」とされている。し
かるに本件三六協定には「時間外及休日労働が今日港湾の実状であり常態であるこ
とに鑑み、検数及その他の業務がその必要を生じた時は労働基準法第三二条及第三
五条の規定に拘らず時間外及休日労働に従事する。」との定めがあるのみであつ
て、右規則第一六条第一項の要求する各事項に関する定めが甚だ不十分であり、特
に「延長すべき時間又は労働させるべき休日」については全く定めを欠いている。
 右規則第一六条第一項は八時間労働制の例外を定める三六協定を有効ならしめる
強行規定であると解すべきであるから、右条項所定事項についての定めを欠く本件
三六協定は無効である。
(三) いわゆる政治ストの正当性について
(1) 昭和四〇年一一月一三日の全検分会の時間外労働拒否はストライキではな
いこと、前述のとおりであるが、かりにストライキに該当し、かつ被控訴人のいわ
ゆる政治ストであるとしても、政治ストは正当な争議行為である。
(2) 広義の政治ストの正当性
 広義の政治スト、すなわち経済的要求と密接な関係を有する政治的要求をかかげ
るストライキ、あるいは経済的要求に付随して政治的要求をかかげるストライキが
正当であることは、ひろく肯認されている。
 もともと政治と経済は不可分に関連し、政治的要求と経済的要求を分離すること
はできないのであり、労働組合の政治的活動もまたその本来の組合活動と密接不可
分の関係にある。このことは憲法第二八条、労働組合法第二条、第九条により法認
されている。したがつて労働組合がその団体行動を通じてかかる広義の政治活動を
行なうことは当然法の許容するところであり、労働組合の団体行動のうち最も効果
の大きなストライキの場合に限つて、かかる政治活動を否定する根拠は全く存しな
い。
(3) 狭義の政治ストの正当性
 狭義の政治スト、すなわち経済的要求と密接な関連を有しない政治的要求をかか
げるストライキ、あるいは政治的要求の貫徹を唯一または主要な目的とするストラ
イキは、これを一回的な抗議スト、デモ・ストと持続的な闘争スト、貫徹ストに分
けて議論されるのが通例である。前記時間外労働拒否は、ストライキに該当すると
しても、一一月一三日一回限りのデモ・ストであるから、以下これについて検討す
る。
 労働組合と政治活動との不可分性、総資本と国家権力との一体性、労働組合の圧
力団体性などを根拠として、いわゆる政治的抗議(デモ)ストは憲法第二八条の保
障する団体行動権の範囲に含まれると説く学説が存する反面、かかるストライキは
労使対抗性を欠くとの理由で争議行為としての正当性を否定する学説の存すること
も否定し難い。しかし、かかる争議行為も市民としての立場に立つ憲法第二一条の
保障する表現の自由の行使であると解することができる。このように解しても、使
用者に損害を与えるという点で民事法上の責任を問いうるようにみえるが、労働者
の要求や意見を強力に表明し、これを世論に訴える目的で短時間の集団的職場放棄
を行なう場合には、特に使用者に対する加害の意思がなく、またその手段が不当で
なく、実際上被害も大でないならば、これによつて債務不履行ないし不法行為とし
ての責任を負わせるべきではないと解すべきである。しかも、右の損害は通常は賃
金カツトにより償われると考えられるから、右のような集団的職場放棄につきそれ
以上の責任を追究すべきではない。
(四) 一一月一三日の時間外労働拒否の正当性について
(1) 昭和四〇年六月二二日佐藤内閣は日韓基本条約および関係文書に署名し
た。
 米国政府および同国駐日大使館の強力な支援のもとに締結されたこの条約は、同
条約第三条、第四条に示されているように、国連協力の名のもとに我が国を米国を
中心とする米、日、韓共同軍事体制に組み込み、朝鮮民主主義人民共和国を否認す
る従来の態度を固定化し、更に経済協力の名のもとに我が国の朝鮮に対する帝国主
義的侵略の道を開くものであつた。それはベトナム侵略戦争を国際化し、アジア全
域における米国帝国主義の侵略政策の最も重要な部分を形成するものであつた。し
たがつて労働者階級をはじめ多くの国民は、この条約が我が国の平和と独立をおび
やかすものであり、また朝鮮への経済的侵略の過程で企業再編成と合理化、労働条
件の低下に拍車をかけ、その生活をおびやかすものとして受け取り、この条約の批
准に反対する強力な運動をくり広げた。
 しかし、このような国民の声をよそに、同年一一月六日衆議院日韓特別委員会は
「委員長」という意味不明の発言だけで質疑打切りから採決までのすべてを可決す
るという暴挙を敢てし、更に一一月一二日未明の衆議院本会議では、違法な議事日
程の変更、国会史上空前の議長発議による上程、違法な委員会報告および討論の省
略という違法づくめで、僅か四五秒で日韓案件を強行可決した。それはまさに、議
会制民主主義の危機であつた。この間一一月四日以後連日のように国会へのデモや
緊急請願が行なわれ、全国的規模で日韓条約粉砕統一行動がとられ、一三日には全
国で三〇〇万人が参加する統一行動が行なわれるに至つたのである。
 前記時間外労働拒否は、右のとおり日韓条約の案件が衆議院で強行採決された直
後に行われたものであり、我が国の平和と独立を危うくし労働条件の切下げを招来
する日韓条約に反対し、自民党の強行採決という議会制民主主義の破壊に抗議する
意思を表明したものであつた。参加した労働者の一人ひとりが、直接自分たちの労
働条件につながるものと理解していた。
(2) 愛知県下でも、右の全国的統一行動と歩調を合わせ、先ず一一月一二日、
国労ストの拠点となつていた豊橋駅に五〇〇〇人が動員されて、その支援により予
定どおりのストライキが行なわれた。そして翌一三日には多くの職場でスト、集会
などの抗議運動が行なわれ、同日夜は「安保破棄・平和と民主主義を守る愛知県民
会議」主催の県民集会が名古屋市テレビ塔北の広場で行なわれ、五万人の労働者、
市民が参集して、日韓条約および衆議院の強行採決に対する抗議と怒りを表明し
た。この集会には、全検分会だけではなく、殆んどの職場の労働者が皆時間外就労
を拒否して参加したのである。
(3) 全検分会は職場集会を何度も開き、日韓条約の本質およびその労働者に与
える影響について討議すると共に、分会が直面している具体的な諸要求、すなわち
冬期一時金要求および不当処分反対要求についても討議を重ねた。右の各要求は全
検分会員にとり最も切実な要求であり、冬期一時金要求に対する団交拒否ならびに
相次ぐ不当処分に対する問答無用の態度に顕れた被控訴人の露骨な対全港湾政策に
対し、分会の意思を行動によつて示す必要があることが確認された。右の各要求は
日韓条約問題と並んで本件時間外就労拒否の重要な目的であり、分会執行委員会で
も職場集会の討論でも、むしろ日韓条約反対よりも多くの時間がさかれていた。
(4) 以上によつて明らかなように、前記時間外就労拒否は冬期一時金獲得、不
当処分反対、日韓条約反対の三要求を、どれ一本が欠けてもならない柱として行な
われたものであり、日韓条約反対の要求もまた労働条件の切下げに対する闘いとし
て意識されていた。したがつて右就労拒否がかりに争議行為に該るとしても、それ
はさきに分類した広義の政治ストに該当し、またその態様は単なる労務提供の拒否
にすぎず、とがめられるべき何ものもない。
 したがつて右就労拒否は正当な争議行為として労働組合法第一条第二項、第七
条、第八条の保護を受けるべきこと、論をまたない。
(五) 集団的労働関係に対する就業規則の不適用について
(1) 被控訴人は、控訴人らが全港湾東海地方名古屋支部全検分会の執行委員と
して、昭和四〇年一一月一三日勤務時間中に分会執行委員会を開催し、同日午後五
時以降分会員に対し時間外勤務拒否を指導し、更に翌一四日分会員に対し就労拒否
を指導し、これにより分会員に就労拒否を行なわせ、もつて被控訴人の業務を妨害
したものであるとし、右の事実は就業規則第三九条第五号、第七号に該当すると主
張する。
 しかし、控訴人らの右各行為はいずれも労働組合の活動としてなされたものであ
り、分会の行為そのものであるから、これら組合の団体行動を組成する控訴人らの
行為を捉え、これに対して就業規則を適用し、実質的な懲戒である解雇をすること
は許されない。
(2) 第一に、組合意思に基づいて行なわれる組合活動の主体は当該組合であつ
て、個々の組合員ではない。もちろん組合活動は組合員の行為を除外しては考えら
れないが、組合員の行為は組合の団結意思の下に統合され、団体自身の行なう団体
活動を組成し、その構成部分となるにすぎない。被控訴人の主張する執行委員会の
開催も就労拒否も、全検分会が団体活動として行なつたものであつて、控訴人らが
組合から離れて独自に行なつたものではない。
(3) 第二に、組合が主体となつて争議行為をするときは、組合員が団体行動を
逸脱して損害を与えた場合を除き、責任を負う者は組合自身であつて、個々の組合
員は責任を負わない。
 正当でない争議行為がなされた場合であつても、それが、組合意思の実現として
なされる限り、その主体は組合であり、これに因つて生ずる責任も労働組合自体が
負うべきである。団体活動を組成する各組合員の個々の行為は団体の行為に包摂さ
れ、個人的活動としての評価を受けないのであるから、正当でない争議行為がなさ
れたことを理由として組合員個人に対して責任を追求することはできない。正当で
ない争議行為によつて損害を受けた使用者は、それが不法行為に該れば争議行為の
主体たる組合に対して損害賠償の請求をなしうるにすぎず、組合員の行為が団体的
意思を離れて組合活動の枠からはみ出し、団体行動と評価されないときにのみ、当
該組合員について責任が発生することがあるにとどまるのである。
(4) したがつて、組合の争議行為が正当なものでないときは組合員が個人的責
任を負う、との理論は失当である。争議が正当でないとする消極的価値判断によつ
て、当該争議行為が団体のものではなく、単なる個人的行為の集積にすぎなくな
る、と言う性質のものでないことは、団体行動の性格からして明らかである。民法
上も法人の行為が不法行為に該当するときは法人自体が損害賠償責任を負い、法人
の構成員は責任を負わない。ただ、法人の目的の範囲外の行為をした機関個人は責
任を負担することがあるにすぎない。
 しかし、この場合においても不法行為責任としての損害賠償責任を負うに止まる
のであつて、懲戒責任などありえない。かような民法の規定からしてみても、正当
でない争議行為は個人的行為として有責だとする考えが誤りであることは明らかで
ある。
(5) もつとも、行為の当・不当とは無関係に、争議行為には団体的側面と個人
的側面とがあり、個人的側面を取り上げて個人責任を追求することが可能であると
する考え方があり、民法上法人が不法行為をしたときは機関個人にも責任を認める
学説がないわけではない。しかし、かかる二面性を認める学説は被害者保護の要請
に基づくのであり、その認める責任はあくまでも民法上の不法行為責任であつて、
債務不履行責任でも懲戒責任でもない。
(イ) 債務不履行責任にあつては、被害者保護の要請は不法行為責任におけるほ
ど強くなく、したがつて団体責任のほかに個人責任を認めてはいない。そこでは行
為の二面性が論ぜられることはないのである。
 労働組合は労働協約が締結されている場合のほか使用者と契約関係にあることは
ないから、債務不履行責任の生ずる余地がない。ただ争議が協約上の平和義務違反
等となることはありえようが、それは損害賠償または協約の解約という効果を発生
させることがあるにとどまる。しかも、組合員個人は前述のとおりいかなる責任を
も負わない。
(ロ) 懲戒は就業規則により定立されるのが一般であり、個別的労働関係にある
労働者の、労働契約上の債務の履行を規律する経営秩序規律違反に対する制裁であ
る。それは労働力の消費過程において多数の労働力を秩序あらしめ、これを組織的
に統合して生産の実を挙げることに最大の役割がある。したがつて懲戒の根拠たる
経営秩序規範に基づく義務は、労働契約上の労働力提供義務に伴うものであるとい
うことができる。そうとすれば、右経営規律違反に伴う法律的効果は、労働力の不
提供という債務不履行に伴う法的効果以上に出ることができないというべきである
から、懲戒責任を二面性の理論から組合員個人に及ぼすことも法的に不可能であ
る。
 争議行為が組合による労働力の掌握、換言すれば「個別的労働関係における労働
者の労務提供義務からの解放」である以上、正常な労働関係を前提とする経営秩序
規律を争議状態にある労働者に適用し、その違反を追求することがそもそもできな
いのである。
 組合員が個人として責任を負う場合がないわけではない。組合員の行為が組合の
決議や指令に違反し、団体活動から著るしく逸脱していて、右の行為が団体行為を
組成するものと認められないときには、労働契約、就業規則の要件事実を充足する
限りにおいて責任が生ずることがある。
 本件控訴人らの行為はすべて組合活動としてなしたものであつて、懲戒は問題に
する余地がないと言わねばならない。
(六) 本件解雇は不当労働行為である。
(1) 全港湾に対する資本の組織破壊攻撃は、従来一貫して強力に続けられて来
た。全港湾名古屋支部が昭和四〇年の春から夏にかけて行なつた大争議に際して
は、水上ピケに対して往来妨害罪が適用され、組合員六名が逮捕されるという刑事
弾圧があり、更に右大争議の終了後、資本の全港湾組合員に対する強力な脱退強
要、差別扱いが、あらゆる職場で連日のように繰り返された。そしてこれらの攻撃
の中で多数の不当解雇が発生し、地労委、地裁に係属したものだけでも八件にもの
ぼつている。
(2) 控訴人らの属する全検分会は全港湾名古屋支部の中心的存在であつたた
め、最も強力な攻撃を受けた。特に昭和三九年秋の「新機構」導入に伴つて、攻撃
は一段と強まつた。
(イ) 昭和三九年九月、被控訴人は係長に対し「配置」の任務を命じた。この
「配置」は労働者の利害に重大な関係を有し、労働者を生かすも殺すも配置次第と
さえ言われる程のものであつたため、当時組合員で係長であつた控訴人P1、同P
4らは組合員としてこの任務に応ずることができないとして、これを拒否した。これ
に対して被控訴人は同控訴人らに対し昭和四〇年一月一二日「反省」という業務命
令を出し、調査室に閉じ込めるという報復手段をとつた。以来被控訴人は同控訴人
らに対し仕事を与えず(いわゆる乾し上げ)、更に同年一〇月末以降は一応仕事を
与えたが、新入従業員にさせるような仕事を与えるという差別を本件解雇時まで続
けた。
(ロ) 被控訴人は昭和三九年一〇月頃からいわゆる「新機構」を実施したが、こ
れに伴つて全検分会員の殆んどを海上作業へ配転するという差別扱いをし、更にこ
れと呼応して分会脱退工作を続けたが、昭和四〇年一二月に至り、右脱退工作は頂
点に達し、連日一人の組合員に対し二、三人がかりで「全港湾をやめるか、首にな
るか」「来年初めには大量の首切りが出る」等と脅し、脱退を強要し、ためにこの
過程で多くの組合員が脱退を余儀なくされた。
(ハ) また、支部あるいは分会が時間外就労拒否の指令を出すと、被控訴人はそ
れに牴触する業務命令を出し、組合員に対し「どちらを守るか」という形で攻撃を
かけることもしばしばであつた。更に、慣行としてのチエツク・オフを一方的に中
止したり、また現在でも分会と被控訴人の間には労働協約(支部細目協定という)
が存在していない状況であり、これらの点およびその他のあらゆる点で企業内労組
である全日検労働組合名古屋との間に著るしい差別が存在している。
(3) 本件解雇はまさにこのような全港湾に対する激しい組織破壊攻撃のただ中
で発生したものであつて、分会の執行部八名を職場から排除することにより分会を
徹底的に弱体化させるねらいをもつたものであると言わざるをえない。
(七) 解雇相当事由の不存在または解雇権の乱用
 すでに主張したとおり、被控訴人の主張する本件解雇事由はいずれも労働組合法
第七条第一号所定の正当な行為であつて、本件解雇は不当労働行為として無効であ
るが、この点を別としても、これらの解雇事由は、本件解雇に至るまでの労使関係
の実情、控訴人らが本件各行動に至つた経緯、これにより被控訴人の業務の阻害さ
れた程度等を考慮するときは、そのいずれをとつてみても、また全部を総合して
も、未だ本件解雇を相当ならしめる事由とはなりえない。更にまた、このような事
由により、労働者にとつて刑罰にもまさる極刑ともいうべき解雇を行なうことは、
権利の乱用として許されない。
二、被控訴代理人の陳述
(一) 本件三六協定の効力に関する控訴人らの主張について
(1) 本件三六協定の締結当時全検分会の組合員は被控訴人名古屋支部の労働者
の過半数を占めていなかつた旨の控訴人ら主張事実は、これを否認する。
 そもそも控訴人らは原審において本件三六協定が有効に成立していることを前提
とした立論をしていたのであるから、当審に至りこれと矛盾するその無効原因を主
張することは許されない。
 のみならず、控訴人らの右主張は時機に後れて提出した攻撃または防禦の方法で
あるから、排斥されるべきである。
(2) 控訴人らは、本件三六協定が労働基準法施行規則第一六条第一項所定の事
項に関する定めを欠いていると主張する。しかし、右条項所定の第一の要件たる時
間外又は休日労働を必要とする具体的事由については、本件協定書に「時間外及休
日労働が今日港湾の実状であり」としているから、被控訴人名古屋支部の業務が右
の実状のため時間外および休日の労働を必要とする旨を記載したものと解しうる。
 第二の要件たる業務の種類については、「検数及その他の業務」と記載されてい
るから、少なくとも控訴人らが従事していた検数業務については、その記載がなさ
れている。
 第三の要件たる労働者の数については、協定の当事者が被控訴人名古屋支部であ
る関係上、協定書に記載がなくてもおのずから明らかな事項であると解しうる。
 第四の要件たる延長すべき時間又は労働させるべき休日につき、本件協定書は記
載を欠いているが、本件三六協定と同時に同一当事者間において締結され、かつ届
出のなされた「昭和四〇年度賃金協定書」において、一箇月の時間外勤務を五〇時
間と定め、それに満たない者に対してその不足時間に応ずる時間外保障手当を支給
することが協定されているので、結局、時間外労働の「延長すべき時間」に関する
定めは右賃金協定書にその定めがあり、これと本件協定書とを一体として観察する
ときは、前記条項所定の要件は全部充足されているというべきである。
(3) 控訴人らは、前記規則第一六条第一項が強行規定であり、同条項所定の要
件を欠く三六協定は無効であると主張するが、右の主張は理由がない。すなわち、
(イ) 労働基準法第三六条は、使用者が、同条本文所定の要件を充たす限り、同
法第三二条および第三五条の規定にかかわらず、時間外労働および休日労働をさせ
ても、同法第一一九条による刑罰の制裁を受けないことを定めた免罰規定である。
(ロ) 同法第三六条の定める要件は、労働者の過半数を代表する者と書面による
協定を結ぶこと、および協定を行政管庁へ届け出ること、の二点のみであり、規則
一六条一項所定の如き協定内容には言及していない。
(ハ) 実定法上刑罰は原則として法律をもつて規定すべく、これを命令に委任す
ることは例外的に認められるにすぎない。しかるに法第三六条は前記のとおり協定
すべき具体的事項につき規定を設けず、また規則に委任する旨の規定も設けていな
い。
(ニ) したがつて規則第一六条第一項に違反しても罰則の適用がないというほか
なく、したがつて右規定を強行規定と解する法的根拠はない。
(二) 本件解雇が全検分会の組織破壊をめざす不当労働行為である旨の控訴人ら
の主張について
(1) 控訴人らの主張する昭和四〇年の春から夏にかけての争議は港運業者と全
港湾名古屋支部との間のものであつて、検数業者である被控訴人とは無関係であつ
た。また控訴人らは被控訴人が不当解雇をしたと主張するが、被控訴人は昭和四〇
年中にP5、P6、P7、P8、P9およびP10の六名を解雇したのは事実である。しか
し右六名はいずれも組合の役員ではなく、組合活動家とも認められず、解雇事由も
全く個人的事由によるものであつて、組合活動に基因するものではない。しかも右
P6およびP9は地位保全仮処分を申請したが、いずれも仮処分申請を取り下げ、P
10については解雇後話し合いにより依願退職ということで解決され、他の三名の地
位保全仮処分申請については名古屋地方裁判所により昭和四三年一〇月二一日申請
却下の判決がなされた。
(2) 控訴人らは被控訴人の「新機構組織」の実施が全検分会に対する組織破壊
攻撃である如くに主張するが、右は事実に反する。
 被控訴人名古屋支部の業務部門は昭和三九年秋までは五業務課と一作業課により
構成され、業務各課は四、五名の課員が貨物別に注文取り、アフターケア等主とし
て対得意先関係の渉外業務を行ない、約二〇〇名の検数作業員はすべて作業課に配
属され、同課では業務各課からの連絡に基づき検数作業員を作業場に配置し、検数
作業を行なわせていた。その結果業務各課は対得意先関係の折衝および事故処理を
するのに精一杯であり、十分な作業計画および作業管理をなしえず、また作業課は
多数の検数員を抱えて毎日の作業員の配置だけに追われ、十分な技術管理を行なえ
なかつたので、得意先の評判は悪化し、事故による補償金額も増大し、被控訴人名
古屋支部の事業の継続が危ぶまれるに至つた。昭和三九年秋の「新機構組織」の実
施は右の状態を打開するために行なわれたものである。
(イ) 「新機構組織」は、得意先別の作業課を新設すること、および各作業課に
約四〇名宛の検数作業員を専属させることを主たる内容とするが、「新機構組織」
による係長の職務の一として「主席の配員」が加えられた。ところが当時係長であ
つた控訴人P1および同P4は右の点を捉え、労働組合員である係長が同じく労働組
合員である主席の作業配置をすることはできないと係長業務を拒否した。そこで被
控訴人は右両名を業務命令に違反したかどで係長から一般職へ降格する旨の懲戒処
分に付したのである。同控訴人らは右業務命令が組合に対する支配介入であり、し
たがつて該命令違反を理由とする右懲戒処分は無効であると主張して業務命令等効
力停止および地位保全等の各仮処分を申請したが、名古屋地方裁判所は昭和四〇年
一〇月一八日右両名の主張を排斥して右各仮処分申請を却下した。
(ロ) 控訴人らは「新機構」の実施に伴い被控訴人が全検分会組合員の殆んどを
海上作業へ配転して差別扱いをした旨主張する。右の主張は被控訴人が倉庫配置作
業員を二〇%削減して他の職場へ配置換えしたことを指称すると思われるが、この
ことは組合と協議の上その承認を得て実施したことであるから、右の主張は失当で
ある。
 被控訴人が全検分会員に対し脱退工作を行なつたとの控訴人ら主張事実は、これ
を否認する。
(ハ) 控訴人ら主張の(六)(1)(ハ)の事実中、全検分会がしばしば残業拒
否ストを行なつたこと、被控訴人が現在組合費のチエツク・オフを中止しているこ
と、および全検分会との間に支部細目協定が成立していないことは認めるが、その
余の事実は否認する。
 被控訴人が一方的に組合費のチエツク・オフを一時中止したことは事実である
が、昭和四〇年六月六日付確認書に基づきチエツク・オフを復活することが取りき
められた。しかるに全検分会は何故かその実施上必要な組合員名簿を提出しないた
め、被控訴人としてはチエツク・オフの実行をなしえないのである。
 しかも、組合は自分の手で組合費を集めるのが原則であり、使用者が給料のうち
から組合のために組合費を差引き徴収することは組合に対する便宜供与であり、こ
れを中止することが組合組織に対する攻撃となるということは理論上ありえない。
 次に控訴人らは被控訴人と全検分会との間に支部細目協定すなわち労働協約が存
在しないと主張するが、本件解雇当時被控訴人名古屋支部と全検分会との間には昭
和四〇年六月六日付確認書に基づき締結された支部細目協定が存在している。
(3) 以上のとおりであるから、控訴人らの主張は事実に立脚しない独断である
と言うほかない。
(三) 解雇権濫用の主張について
(1) 控訴人らは、本件解雇は(イ)本件解雇に至るまでの労使関係の実情、
(ロ)控訴人らが解雇理由に示された行動に至つた経過、(ハ)被控訴人の業務が
阻害された程度、のいずれの点からみても権利の濫用であると主張するが、右
(イ)については前記主張のとおりである。
(2) 右(ロ)の点に関し、特に控訴人らの一一月一四日の一斉就労拒否は無責
任極まる職場放棄である。すなわち、P11係長もP12課長も同日遅刻した控訴人P
13を無届欠勤扱いとしたことはなく、同控訴人の配置札を配置未決定のところにか
け替えたにすぎないにもかかわらず、無欠扱いにされたものと速断し、否むしろ殊
更に無欠扱いにされたと揚言し、控訴人P3、同P14、同P15、同P4が意を通じて
これに同調して被控訴人に対する不信反感の空気を煽り、遂に一斉就労拒否を指揮
するに至つたものである。その結果同日の就労拒否者は九四名に達し、内六二名は
控訴人らの指導により現業所から引き揚げて配置にさえつかず、他の三二名はすで
に就労中であつたが、控訴人らがボートを傭つて本船へ乗りつけ作業を中止して直
ちに引揚げるよう指示し、そのボートで連れ帰つてしまつた。かかる就労拒否がか
りにストライキに該るとしても、その実行にはおのずから節度があるべきである。
チームワークによつて行なわれる港湾荷役作業において、作業中共同作業に従事中
の被控訴人側検数作業員が、交替要員の到着も待たず突如作業を放棄して離船する
ことは無責任極まる職場放棄であり、これに因り被控訴人の社会的、経済的信用の
失墜することは測り知れないものがある。控訴人らの行動は被控訴人がつぶれても
構わないという意識からでたものではないかと思料されるのである。
(3) 右(ハ)の点に関しては、
(イ) 一一月一三日の時間外就労拒否により四二名が就労しなかつたが、そのう
ち一八名は主席検数員であつて、他の同業者に派遣を依頼することができないた
め、被控訴人は管理職者を主席検数員として各本船に派遣した(あらかじめ時間外
就労拒否の通告を受けていたので)が、右一八名の大部分の者は派遣された管理職
者に事務連絡することなく本船を引揚げたため、作業に著るしい支障を来たした。
 また、主席検数員以外の検数員(ハツチ検数員)で就労しなかつた者は二四名い
たが、そのうち他の検数業者に依頼することにより事なきをえた(依頼検数または
ダブリ検数という)のは五名で、他の一九名の職場のうち、一部は全日検労組員ま
たは非組合員たる従業員により穴埋めをしたものの、大部分は六名の検数員を必要
とするところを三名の検数員がかけもちして検数作業を行なう等、混乱を免れなか
つた。
(ロ) 一一月一四日の就労拒否および職場離脱により就労しなかつた検数員は九
四名に達し、内主席検数員は三〇名に及んだ。日曜日の突然の出来事であつたた
め、休んでいる管理職者も呼び出して本船等に派遣したが、数名の手当は遂につか
ず、検数を放棄した本船もあつた。
 同日就労しなかつたハツチ検数員は六四名で、内一三名はダブリ検数により事な
きを得たが、残り五一名の職場は著るしく混乱し、ハツチ検数員がいないため検数
を放棄した本船は八隻、検数をせず船積をした本船および荷降しをした本船は各二
隻に及び、倉庫関係等一二箇所の荷物は得意先の従業員に依頼して検数の形だけを
つけた次第で、被控訴人は同日の業務を著るしく阻害された上、後日得意先から苦
情あるいは抗議を持ち込まれた。
(4) 以上のとおり、控訴人らが権利濫用として主張するところはいずれも理由
がなく、かえつて、経営者を常に労働者の敵と規定し、それとの闘争によつてのみ
労働組合の団結を維持しようとする控訴人らの組合指導の姿勢をあらわにするもの
である。被控訴人はその形態こそ公益法人であるが、多くの(本件事件当時全国で
約三〇〇〇名)従業員を抱え、得意先からの検数依頼による事業収入を唯一の財源
として企業を維持している実態からみて、株式会社の形態をとる他企業となんら異
なるところはない。本件解雇は、被控訴人名古屋支部において、内に対しては経営
秩序を正すことによる労働能率の維持向上をはかり、外に対しては得意先に対する
信用回復のための取引関係の維持向上をはかるため、経営の必要上やむを得ず行な
われたものであつて、解雇権の濫用と目されるべきものではない。
三、証拠 (省略)
       理   由
一、本件解雇の意思表示の成立等について
(一) 被控訴人が名古屋市その他全国数都市に支部を置き貨物の検数、検量およ
び貨物事故の調査、立会等の業務を行なう社団法人であること、昭和四〇年一一月
当時において、控訴人らは被控訴人の従業員であり、また全日本港湾労働組合(以
下全港湾と略称する)の組合員であつて、かつ全港湾東海地方名古屋支部全検分会
(以下単に分会または全検分会と略称する)の執行委員であり、控訴人P4は全港湾
名古屋支部の副委員長、同P1は全検分会の分会長、同P16は同副分会長、同P15は
分会書記長の任にあつたものであること、被控訴人が控訴人らに対しそれぞれ昭和
四一年一月七日付内容証明郵便をもつて、控訴人らにつき被控訴人就業規則第三九
条第五号所定の「協会業務の正常な運営を妨げたとき」および同条第七号所定の
「前各号の一に準ずる事由があるとき」に該当する事実が存したことを理由とし
て、同日付で解雇する旨の意思表示をしたこと、ならびに被控訴人が右就業規則の
条項に該当すると主張するところは、控訴人らが分会執行委員として、(イ)昭和
四〇年一一月一三日勤務時間中に被控訴人の許諾なく分会執行委員会を開催し、
(ロ)同日午後五時以後分会員に対し時間外就労拒否を指導し、(ハ)同年同月一
四日分会員に対し全面的就労拒否を指導して就労を拒否させ、もつて被控訴人の業
務を妨害したというにあることは、いずれも当事者間に争いがなく、また弁論の全
趣旨によれば右各内容証明郵便はいずれも右発送後間もなく控訴人らに到達したこ
とを認めることができる。
(二) なお、成立に争いのない疏乙第三号証の三、原審における控訴人本人尋問
の結果により成立を認めうる疏甲第二六号証ならびに当審における控訴人P1および
同P4各本人尋問の結果によれば、全港湾は港湾労働者が個人加盟する、いわゆる産
業別単一労働組合であつて、その下部組織として東海地方名古屋支部、更にその下
部組織として全検分会が組織されていること、ならびに分会は名古屋、四日市、P
14の各港で勤務する被控訴人名古屋支部の従業員中課長以上の職制の地位にある者
を除くその余の従業員で組織され、組合員の団結の力により全港湾の宣言綱領を実
現し、労働者の政治的、社会的、経済的、文化的地位の向上をはかることを目的と
し、経費は組合費およびその他の雑収入をもつてまかなうこと等を定めた規約を設
け、更に右規約においては分会に分会長、副分会長および書記長各一名と執行委員
若干名を置き、分会長は分会を統轄し代表すること、右役員をもつて執行機関たる
執行委員会を構成すること、最高意思決定機関として毎年一回定期大会を開く大会
を設け、組合員五名につき一名の割合で選出される代議員および右役員で構成する
こと、役員および代議員は組合員の直接無記名投票によつて選出されること、各会
議の議決は多数決によること、分会が同盟罷業を行なおうとするときは組合員の直
接無記名投票の二分の一以上の賛成できめること等が定められ、労働組合法上団体
交渉権および争議権を有する労働組合としての適格を具え、従前より分会員独自の
労働条件等に関し被控訴人と団体交渉を行なつていた事実を認めることができ、原
審における控訴人P17本人尋問の結果により成立を認めうる疏甲第二〇号証中右の
認定に反し全検分会は全港湾名古屋支部の指令を実施する権限を有するにすぎない
旨の記載部分は措信し難い。
二、全検分会執行委員会の開催について
(一) 昭和四〇年一一月一三日分会執行委員会が開催されたことは当事者間に争
いがなく、成立に争いのない疏甲第三号証の三、四、同第四号証の一、疏乙第一号
証の一、二、同第三号証の一ないし三、同第四号証の一ないし五、原審における控
訴人P17本人尋問の結果により成立を認めうる疏甲第三号証の五、同第一四、第一
五号証、原審証人P18の証言、原審における控訴人P17、当審における控訴人P1各
本人尋問の結果を総合すれば、次の諸事実を一応認めることができる。成立に争い
のない疏乙第二六号証の一および右証人P18の証言中以下の認定に反する部分は措
信し難い。
(1) 昭和四〇年一一月当時施行されていた被控訴人の就業規則および就業規則
附属規定により、従業員が休務しようとするときはその理由の如何を問わず原則と
して前日午後五時迄に所定の様式により届出で、所属長の許可を受けなければなら
ず、右の手続を怠つた場合はこれを無届として取扱うこと(規則二一条)、就業時
間中に組合運動、政治運動、示威運動、集会その他被控訴人の業務に関係のない事
由で就業しないときは、これを欠勤、遅刻または早退として取扱うが、労働組合と
協定した場合は、不当労働行為となるものを除きその協定によること(同二三
条)、無届で欠勤または休務した場合は一日につき月額制基準内賃金(本給、家族
手当、役付手当)の二五分の一を減額し、理由を付して届出て欠勤または休務した
場合には右賃金の五〇分の一を減額すること(附属規定七条)、ならびに正当の理
由なしに屡々遅刻、早退、欠勤をした者は懲戒処分として減給または譴責に処する
こと(規則六一条二号)と定められている。
(2) ところで全港湾本部は全港湾東海地方本部に対し昭和四〇年一一月八日
「一三日の抗議行動は時間外拒否を厳重に行ない、時間外のないところでは一時間
の職場内にくい込む抗議集会を行なえ。」との指令を発し、同地方本部は全港湾東
海地方名古屋支部に対し同年同月一二日電報で「日韓強行採決の暴挙に対し厳重抗
議するとともに、既定方針どおり戦え。」との指示を発し、更に同支部は全検部会
(全検分会と、訴外日本貨物検数協会の従業員が組織する日検分会との合同部会)
に対し同日「冬季一時金要求貫徹、不当処分反対、日韓条約反対のため、全港湾中
央指令にもとづき、左記のとおり指令する。記。一一月一三日全組合員は残業を拒
否し、県民会議の統一行動に参加せよ。」との指令を発した。
(3) そこで全検分会の分会長である控訴人P1は同年同月一三日の就業時間中に
分会執行委員会を招集し右指令に対する対策を討議・決定する必要を生じたので、
全検分会分会長P1名義で被控訴人名古屋支部長(理事)P19宛「控訴人P4、同P
14、同P13、原審申請人P2、同P3および申請外P20は同月一三日一日間組合業務
のため欠勤する旨の同月一二日付届書を作成し、同日午後三時頃これを被控訴人名
古屋支部総務課に持参・提出したところ、後刻同課課長心得P18の命を受けた同課
P21係長から電話で「一三日は業務多忙の上運動会等のため出勤扱いにして休暇を
与えた者が数名居り、執行委員会を開催することを認めることはできないから、他
の日と振替えるように」との趣旨の指示を受けたが、他日を期し得ないことを理由
として直ちに右の指示を拒否した。これに対し被控訴人は右六名は一三日欠勤する
ときは業務拒否扱いとする旨を通告した。
 なお、控訴人P1、同P16および同P2は同月一三日は運動会等のための特別有給
休暇を与えられており、また控訴人P15は同月九日頃同月一三日を年次有給休暇と
することを届出ていた。
(4) 昭和三三年九月二五日被控訴人と全日本検数労働組合との間に締結された
「就業時間中の組合活動に関する取扱」と題する協定により、執行委員会は原則と
して月三回を超えない範囲で行ない、事前に被控訴人側担当職と協議の上、できる
限り作業に支障のない時期および方法をとることとし、前日までに支部長に願い出
るものとすること、ならびに右の場合は待機扱いとするが、各支部において一人一
個月の回数を協議の上定めうること(執行委員会のほか、拡大執行委員会、評議員
会、代議員会、上部団体および関連団体の会議等への出席も待機扱いとされること
による)等がとりきめられたが、右協定は被控訴人が昭和三五年八月三一日一方的
に破棄するところとなり、全検分会を含めて被控訴人と団体交渉権を有する各労働
組合は、同年一一月二二日右協定が同年一一月末日限り失効することを確認したた
め、全検分会と被控訴人との間においては同年一二月一日以降は右の問題に関して
は無協約状態となり、前記就業規則の規定のみが適用されることとなつた。しか
し、その後前記欠勤届の拒否までの間、分会長による分会役員の組合義務のための
欠勤届が拒否された事例はなく、僅かに被控訴人の要請により欠勤日を変更したこ
とおよび欠勤者を一名減じたことが各一例あつたにすぎない。
(二) 右の諸事実によれば、労使間に被控訴人の主張するように就業時間中の組
合活動についてできるだけ被控訴人の業務に支障を来たさない時期、方法をもつて
行なう旨の慣行が存したことはないというべきである。また分会役員が分会長の招
集に応じ上部団体からの指令を討議するため執行委員会を開催するのは正当な組合
活動というべきであつて、被控訴人が業務の遂行上右開催期日における組合役員の
欠勤を承認できないときはこれを拒否し就業規則に従つて無届欠勤とすれば足るの
であつて、かかる一回限りの無届欠勤は就業規則上減給または譴責の理由ともなし
えず、まして被控訴人の主張する解雇の理由とはなしえないことが明らかである。
(三) なお、被控訴人は前記執行委員会は日韓条約粉砕のための時間外就労拒否
のストライキを決定、実行することを目的として開催された旨主張するが、前記認
定のとおり分会執行委員会は単なる上意下達機関にすぎないものではなく、分会大
会の意思決定に従い分会員の労働権、生活権を擁護するために設置された執行機関
であるから、執行委員会においては先ず上部団体の指令の内容が正当であるか否
か、指令に応ずることが分会員の意思に合致すると認められるか否かを検討すべき
であつて、指令の内容が違法、不当であり、または分会員の総意に合致しないと認
めるときは、これを拒否する義務を負うものと解すべきである。したがつて、上部
団体より受けた指令の内容が如何に違法であるとしても、これを討議するために執
行委員会を招集し、これに応じて出席し、執行委員会の定足数を充足してこれを開
催すること自体はなんら違法なことではないと言わなければならない。
 したがつて控訴人らが前記執行委員会を開催したことが解雇事由にあたる旨の被
控訴人の主張は理由がない。
三、時間外就労拒否について
(一) 控訴人P1を除くその余の控訴人らが昭和四〇年一一月一三日就業時間中に
開催された分会執行委員会に出席したことは当事者間に争いがなく、前記疏甲第三
号証の三ないし五、同第一四、第一五号証、疏乙第二六号証の一、成立に争いのな
い疏甲第三号証の一、二、同第二七、第二九号証、疏乙第一号証の三(控訴人らは
原審記録中の同号証の写を当審において正当な写と差替えることに異議を申し立て
るが、民事訴訟法上控訴審裁判所は一審判決の判断の当否を逐一判断するものでは
なく、当事者双方の一、二審を通ずる弁論に対しあらためて判断を示すのであるか
ら、右の差替えにより控訴人はなんらの不利益をも受けるものではなく、右の異議
は理由がない)、同第五、第六号証、同第七号証の一、二、同第八、第一三、第一
七、第二七号証、同第二九号証の四、五、同第三三、第四一、第四二号証、弁論の
全趣旨により成立を認めうる疏甲第二四号証、原審証人P22、同P18、同P23、当
審証人P24の各証言および原審における控訴人P17、当審における控訴人P1各本人
尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すると、次の諸事実を一応認めることができる。
(1) 昭和四〇年六月当時控訴人名古屋支部従業員の一部は全検分会の組合員で
あり、他の一部は申請外全日検労働組合名古屋の組合員であり、更に他の一部はい
ずれの組合にも属しておらず、右いずれの組合員数も過半数に達していなかつた
が、右二組合の組合員数を合算すると優に過半数を占めていたところ、被控訴人は
同年五月二四日右全日検労組名古屋の代表者たる執行委員長P25と、また同年六月
六日全検分会組合員の代表者たる全港湾名古屋支部執行委員長P26と、それぞれ同
年四月一日付書面による時間外労働・休日労働に関する協定を締結すると同時に、
同年五月二四日付書面による賃金協定および昭和四〇年度賃金協定に関する覚書を
締結、交換した上、同年六月九日所轄労働基準監督署長に対し労働基準法第三六条
に基づく協定(三六協定)の届出をした。
 右時間外労働・休日労働に関する協定書には、同条に基づく協定である旨の前文
に続き「時間外および休日労働が今日港湾の実状であり常態であることに鑑み、検
数およびその他の業務がその必要を生じたときは同法第三二条、第三五条の各規定
にかかわらず、時間外および休日労働に従事する。ただし従業員の健康および著し
く福祉を害するものについては、この限りでない」旨ならびに該協定の有効期間を
昭和四一年三月三一日までと定める旨の記載が存し、右賃金協定書には一箇月の時
間外勤務時間を五〇時間とし、それに満たない者に対して不足時間に応じ時間外保
障手当を支給する旨、および時間外労働に対する報酬額に関する規定が設けられ、
また右覚書には各支部において時間外労働協定を締結した後は理由なく時間外勤務
を拒否することができない旨、および理由なく時間外勤務を拒否することが屡々に
及んだ場合には時間外保障手当の支給を停止することができる旨が記載されてい
る。
(2) 同年一一月一三日午前中に開催された前記執行委員には控訴人P1を除く控
訴人ら全員が出席し前記指令につき討議した結果、右指令に従い同日午後五時以後
の時間外就労予定者は同時刻以後の残業を拒否すること、ならびに全分会員は同時
刻集合の上午後六時名古屋市東別院広場で開かれる愛知県民会議主催の日韓条約批
准阻止中央集会および引続き行なわれるデモに参加することを闘争方針として決定
し、組合員(前記四日市、P14の各港勤務者を除く)の投票を求めた結果投票者の
八九・六%の賛成を得たので、組合掲示板に前記全港湾名古屋支部よりの指令を記
載した掲示と並べて日韓条約粉砕のスト権が確立した旨を掲示し、控訴人P15およ
び同P16は同日前記P18課長心得に対し「時間外及び休日労働に関する協定破棄通
告書(一三日午後五時以降一四日始業時まで)」を提出したが、同人から理由を付
してほしいと要請されたので、更に全港湾名古屋支部執行委員長名義の「冬季一時
金要求、不当処分撤回、日韓条約批准反対」の三要求を理由として記載した時間外
拒否通告書を提出し、また控訴人P1を除く控訴人らは手分けをして各分会員にスト
指令のビラを配布した上、同日午後五時過ぎ、参集した組合員を指揮して名古屋市
内のデモに参加した。
(3) その結果同日時間外就労をすべき者五九名中四二名が時間外就労を拒否し
たので、被控訴人は急拠管理職者を動員し、主席検数員一八名およびハツチ検数員
数名分の穴埋めをし、ハツチ検数員五名分については相手方(被控訴人が荷主から
検数の依頼を受けたときは船主。船主から検数の依頼を受けたときは荷主。)の依
頼する他の検数業者にその検数を依頼し(通称ダブリ検数)、その他のハツチ検数
員の不足分は「かけもち」や非組合員の協力を得て急場をしのいだが、作業上混乱
を生じ、後日得意先から抗議を受け、信用を失墜した。
(4) 分会執行委員会は右時間外就労拒否(残業スト)の目的として前記のとお
り冬季一時金、不当解雇撤回、日韓条約粉砕の三要求の貫徹を掲げたが、当時冬季
一時金については全港湾本部へ申し入れをしただけで、未だ被控訴人の回答を得て
いなかつたから、闘争に突入する段階に至つていなかつたものであり、不当解雇反
対の闘争はすでに繰返されていて、右の時点においてあらためて争議に持ち込む必
要性はなく、前記のとおり全港湾本部からの指令は日韓条約粉砕のみを目的とし、
分会内部でのスト賛否投票も同一目的についてのみ実施され、時間外就労拒否の主
要目的は名古屋市内で開催される日韓条約批准阻止のための統一行動に参加するこ
とにあつたと認められ、分会幹部による前記時間外就労拒否通告書の提出も被控訴
人の職制に促されて右三要求を記載したにとどまるから、これをもつて被控訴人に
三事項につき要求または抗議をしたものと認めることはできず、その他本件全疏明
によつても分会が当日被控訴人に対し右三事項につき(冬季一時金、不当解雇反対
のみならず、日韓条約粉砕についても)要求または抗議をした事実を認めえない。
したがつて右時間外就労拒否闘争は専ら政府および国会に対し日韓条約批准反対の
意思を表明し、これを阻止するための示威に参加することを目的としてなされたも
のと認めるほかない。
(二) 三六協定の拘束力について
 控訴人らは労働基準法第三六条に基づき労使間に締結される協定は本来使用者に
対し免責的効果を付与するのみであつて、労働者に対し時間外就労を義務づける拘
束力を有するものではない旨主張する。しかし、本件においては労使間に前記各協
定が締結されたほか前記覚書が交換され、従業員は昭和四〇年度においては右各協
定に基づく時間外就労の義務を負うことを承認したのであるから、右の主張は採用
の限りでない。
(三) 本件三六協定の効力について
 前記認定のとおり一事業場たる被控訴人名古屋支部の労働者が二個の労働組合の
組合員と未組織労働者とに三分され、各組合の組合員数がいずれも全労働者の過半
数を占めるに至つていないが、両組合の組合員数を合算すれば過半数を占める場合
において、使用者が各組合の代表者と相次いで同一期間内に適用すべき同一内容の
時間外労働に関する協定を締結したときは、労働基準法第三六条所定の協定に関す
る労働者側当事者に関する要件を充足したものと解すべきである。
 また同条所定の協定は必ずしも一個の協定書により締結される必要はなく、数個
の協定書を合一して労働基準法施行規則第一六条所定の要件を充足するときは、右
各法条に基づく有効な協定が存すると解するのを相当とするところ、前記認定の時
間外労働・休日労働に関する協定および賃金協定中の各協定条項を併せてみるとき
は、右規則第一六条所定要件中労働者数に関する事項を除きその余の要件を充足し
ていると解することができ、右規則中労働者数に関する事項については、右各協定
の趣旨上右各協定が被控訴人名古屋支部の全従業員に効力を及ぼすものとして締結
されたことは明らかであり、その数は各協定当事者において了知していたものと認
めるべきであるから、右各協定書が労働者数に関する記載のみを欠くことを理由と
してそのいわゆる三六協定としての効力を否定すべきものと解すべきではない。
(四) 政治ストの効力について
 前記認定のとおり、本件時間外就労拒否闘争は名を冬季一時金獲得、不当解雇反
対および日韓条約粉砕に藉りながら、実は日韓条約反対の意思を政府、国会に対し
て表明することのみを目的とした争議行為であると認められる。憲法第二八条およ
び労働組合法の諸条項は、使用者対被用者という関係に立つ者の間において経済上
の弱者である労働者の地位を向上させることを目的として労働基本権を保障してお
り、また現実の政治・経済・社会機構のもとにおいて労働者がその経済的地位の向
上を図るにあたつては、単に対使用者との交渉においてのみこれを求めても十分に
目的を達成し難いことがあるから、労働組合が右の目的をより十分に達成するため
の手段として、その目的達成に必要な政治活動や社会運動を行なうことを妨げられ
るものではない。しかしながら、右は使用者に対する関係においては労働契約上の
義務と相対的に判断することを要し、使用者によつては如何ともなし難い政治的要
求を掲げて争議行為、特に就労拒否をすることは、少なくとも使用者に対する関係
において右諸規定の保障する争議行為としての正当性の限界をこえるものと言わざ
るを得ない(最高裁昭和四一年一〇月二六日判決、刑集二〇巻八号九一三頁参
照)。この点に関する控訴人らの主張は当裁判所の採用し難いところである。また
控訴人らは一時的政治ストは憲法第二一条の保障する表現の自由の行使として正当
性を有する旨主張するが、同条は労働者が政治的見解を表明するために使用者に損
害を及ぼす手段を用いることまでをも保障した規定であると解する余地はない。
(五) 違法争議に対する組合役員の責任について
 労働争議が労働組合法の保障を受けえない違法なものであるときは、これに参加
した組合員の組合活動としての正当性は否定され、参画した組合員は執行機関を構
成する役員であると否とを問わず、違法な行動につき民事上の責任を追及されるべ
きである。この点は民法上、法人が意思表示をする場合はもちろん、理事が不法行
為をする場合とも場合を異にするから、控訴人らの民法を論拠とする法人責任論お
よび機関責任論は妥当でない。
 前記認定のとおり、控訴人P1を除くその余の控訴人らは違法な時間外就労拒否を
決議し、執行し、指揮したものであつて、積極的に不法行為を共謀し率先して遂行
したのであるから、被控訴人に対し個人として就業規則上の責任を負うべく、しか
もその情状は他の一般組合員に比して重いと言わなければならない。
四、一一月一四日の就労拒否について
(一) 前記疏甲第二〇号証、成立に争いのない疏甲第二七号証、疏乙第九、第一
〇、第一三、第一五、第一六号証、同第一八ないし第二五号証、同第二七、第二八
号証、同第二九号証の一ないし五、同第四二号証、原審証人P22、同P18、同P
11、同P23、同P27、当審証人P24の各証言ならびに原審における控訴人P13、当
審における同P4各本人尋問の結果の一部によれば、次の諸事実を一応認めることが
できる。
(1) 昭和四〇年一一月一一日名古屋港停泊中の甲春丸のラフツマン(いかだ
師)勤務を命ぜられていた全検分会組合員P28は、指定出勤時刻である午前七時三
〇分を二〇分経過しても業務部現業所に出勤しなかつたので、これ以上待てば八時
発の通船に乗り遅れると判断した同人の上司は急拠他の作業員を甲春丸に派遣する
措置をとり、七時五五分頃出勤した右P28に対しては他に振り替える職場がないた
め、同人を無届欠勤扱いとした。
 右の処置は港湾労働の特殊性からみても、また本件労使間の就業規則、昭和四〇
年度賃金協定ならびに全検分会、全日検名古屋および被控訴人名古屋支部の各幹部
(分会からは控訴人P4がほか一名と共に出席した)が昭和三九年七月八日東京にお
いて同年度名古屋支部細目協定を締結する際遅刻に対する取扱につき口頭で合意し
た内容にも適合するものであつた。当時被控訴人大阪支部においてはその地域的特
殊性を考慮し、早朝出勤者に対しては一時間以内の遅刻は欠勤扱いとしない旨の支
部細目協定が締結されていたが、被控訴人名古屋支部においては、かかる合意は右
昭和三九年七月八日の合意および昭和四〇年七月一日締結された名古屋支部細目協
定においては成立せず、遅刻か欠勤かは具体的状況に応じ現業所の管理職者が認定
する取扱いが行なわれており、全検分会が右取扱の不当を主張して被控訴人に団体
交渉を求めたこともなかつた。
(2) 控訴人P13は、昭和四〇年一一月一四日(日曜日)は諏訪春丸の検数補助
作業員として配置されていたが、同日指定出勤時刻である午前七時三〇分を五分経
過しても現業所に出勤せず、諏訪春丸に向う通船は七時四〇分に発進することとな
つていたため、海上第三課係長P11は作業計画を変更し急拠他の作業員を同控訴人
の代替要員として配置につかせた上、同控訴人を他の配置につかせるか欠勤扱いと
するかにつき上司の認定を待つため、現業所内の配置板上諏訪春丸の配置要員とし
て掲げられていた同控訴人の名札を配置未決定者の名札を掲げる場所に掛け替え
た。
(3) 七時三七分頃出勤し、配置板上自己の名札が掛け替えられているのを認め
た控訴人P13は、すでに無届欠勤と認定されたものと早合点し、P11係長に対し
「おれはどうなるんだ。今日仕事をさせん気か。」と詰め寄つたので、同係長は配
置を変更した理由を説明した上、欠勤扱いになるかどうかはこれから配置状況を調
べた上返事をするから待機室で待つよう指示した。しかし同控訴人は「そんな馬鹿
な、仕事につけろ。五分位遅れて無欠(無届欠勤)だなんて誰が決めた。今直ぐ説
明しろ。」と大声でどなり、同係長からその態度を注意されると益々激昂し、「馬
鹿野郎、早く仕事につけろ。」「畜生、仕事につけなかつたらただでは置かん
ぞ。」とわめき、更に原審申請人P2を伴いP12配置調整課長の許へ行き、こもごも
「俺はたつた六分しか遅刻していないのに仕事につけないとは何事だ。」「P13さ
んを仕事につけない理由を云え。」等と大声を発した。騒ぎを聞いて控訴人P14、
同P15および原審申請人P3も、他の分会組合員らと共に右P12、P11両名および制
止に入つたP29指導課長に対し口ぐちに抗議と面罵を反覆し、更に控訴人P15は配
置板前において、集つた組合員らに対し「就労する意思のある者を遅刻したからと
云つて仕事につけないとは何事だ。協会が説明しないうちは仕事に行けるか。皆そ
うだろう。」と演説し、他方控訴人P16および前記P2、P3らは待機室で作業準備
中の従業員を多数連れ出して「こんなことで仕事に行けるか。仕事に行くな。」等
と煽動したため、現業所内は全く混乱状態となり、業務は完全に中断された。
(4) 控訴人P4は同日七時四五分の指定出勤時刻に遅刻し七時五三分頃現業所に
出勤し、自己の配置板上の名札が予め配置された高武丸からはずされて配置未決定
の場所に掛け替えられているのを確認した上、右の混乱状態を見て直ちに前記の他
の役員らに同調したのみならず、「こんなことで仕事ができるか。全員仕事を放棄
して引揚げだ。馬鹿らしくて仕事に行けるか。」とあじり、前記各控訴人らと共に
居合せた約六〇名の分会組合員に引揚げを指図し、P29課長の制止に対し「何を。
生意気言うな。文句があつたらお前らだけで勝手に仕事をしろ。」と放言し、スト
ライキの通告もせず大挙して現業所を引払つて職場を放棄した。更に右控訴人らは
同日午前八時三〇分頃から手分けをしてすでに沿岸倉庫等および海上において就労
中の分会組合員に対し作業の放棄を指令して各職場から引揚げさせた上、右の経過
を分会長である控訴人P1(同控訴人は同日特別休暇のため出勤していなかつた)お
よび全港湾名古屋支部に報告した。
(5) 右の報告を受けた全港湾名古屋支部執行委員長は急拠執行委員を招集して
同日午後二時頃執行委員会を開催し、同委員会の決議に基づき、全検分会に対し翌
一五日始業時までの就労拒否を指令した。
(6) 右の結果、一四日就労拒否または職場放棄をした分会員は九四名に及び、
内主席検数員は三〇名、ハツチ検数員は六四名であつた。被控訴人は分会員が現業
所を引揚げるや直ちに管理職者(日曜日のため在宅していた者もいた)を呼び集め
主席検数員として各船舶および倉庫に派遣したが、数名の不足を埋めえず、ために
検数をしない船舶もあつた。また被控訴人は不足したハツチ検数員の内一三名は前
記ダブリ検数の依頼により急場をしのいだが、その余の手当をなしえなかつたため
検数作業は著しく混乱し、検数を放棄した船舶は多数に及び、また倉庫等陸上の検
数は得意先の従業員に依頼して形式上検数を済ませる等、被控訴人の同日の業務は
著しく阻害されたのみならず、被控訴人は依頼主から強硬な抗議を受けて信用を失
なつた。
(二) 原審における控訴人P17本人尋問の結果により成立を認めうる疏甲第一七
号証、原審における同控訴人おうび同P13、当審における控訴人P4各本人尋問の結
果中上記認定ならびに前記証人P27の「控訴人P4、同P16および同P13等分会執行
委員らは一たん現業所から引揚げた後五分位してから現業所に戻つて業務部次長
(部長は空席)たる同証人に対し控訴人P13を無欠扱いにした理由を質問したが、
未だ報告を受けていない旨の返答を受けると同次長を難詰した上再び現業所を立ち
去つた」旨の証言に反する部分は、いずれも前掲各疏明資料と対比して措信し難
い。
(三) およそ労働争議行為は労働組合と使用者との間の団体交渉が行詰つたとき
に、これを打開し自己の主張を有利に展開させるために許される補充的な手段であ
り、労働組合がなんら要求もせず団体交渉も申し入れず突如争議行為を行なう如き
は、たとえ上部団体の指令に基づき、かつあらかじめ組合員によるスト権確立のた
めの投票がなされている場合であつても、信義誠実の原則に反し争議権の濫用であ
つて、正当な争議行為と認めることはできないと解すべきである。前記就労拒否お
よび職場放棄は前記認定のとおり控訴人P13の遅刻に端を発し、未だ無欠と認定さ
れていないのに無欠の認定をしたとしてその理由を執拗に問責した挙句、居合せた
組合役員らが意を通じて突如組合員に対し就労拒否をあおり、これを指揮したもの
であつて、しかも事前に遅刻と欠勤の関係につき分会が被控訴人と団体交渉をした
ことは一度もなかつたのであるから、かかる一斉就労拒否および職場放棄は争議権
を濫用した違法な集団行動であつて、これをあおり、指揮した控訴人P1を除くその
余の控訴人らは被控訴人に対しその責任を免れることができないと言うべきであ
る。
(四) 集団的労働行為につき就業規則を適用すべきでない旨の控訴人らの主張が
理由のないことは、前記時間外就労拒否につき判断したとおりである。
五、控訴人らの責任等について
(一) 控訴人P1について
(1) 以上認定したとおり、同控訴人が全検分会の分会長として本件分会執行委
員会を招集したことは違法ではなく、また同控訴人は本件時間外就労拒否の決議か
ら実行に至るまでの各段階ならびに本件一斉就労拒否および職場放棄の発端から職
場放棄に至る各段階にすべて欠席し、一二日は特別休暇のため自己の時間外就労を
拒否したこともなく、他に同控訴人が右各争議行為を企画・指導した事実を認める
に足る疏明はないから、同控訴人に対する本件解雇はその前提事実を欠き、理由が
ないというべきである。
 もつとも前記疏甲第二〇号証によれば同控訴人は全港湾名古屋支部の常任執行委
員を兼ねていたことを一応認めうるから、同控訴人が前記一一月一二日の同支部の
時間外就労拒否指令および同月一四日のストライキ指令に各参画したことを推認し
うるが、右一二日の行為は本件解雇理由とされていないものであり、また一四日の
争議行為に参画した分会役員らは海上勤務者に職場を放棄させた(前掲各疏明によ
れば、当日右分会役員らはボートをチヤーターして各船舶を廻り、就労中の分会員
をボートに乗せて引揚げたことが一応認められる)時点においてすでに二四時間ス
トをきめていたと推認され、支部のスト指令はこれに事後承認を与える形式のもの
であつたと認められるから、同控訴人が右指令の決議に参画したとしてもそのため
特に被控訴人の業務阻害の程度が増大したものとは認め難い。
(2) したがつて同控訴人はなお被控訴人の従業員たる地位を保有するものであ
るところ、同控訴人の昭和四一年一月当時の平均賃金月額が金五万〇〇七〇円であ
ることは当事者間に争いがなく、右賃金の毎月の支払期が二八日であることは被控
訴人の明らかに争わないところであり、被控訴人が同年一月八日以降右賃金を支払
つたことについては主張も疏明もない。そして原審における控訴人P17本人尋問の
結果により成立を認めうる疏甲第七号証および弁論の全趣旨によれば、本件仮処分
決定のなされた昭和四一年三月一一日当時において控訴人P1の右従業員たる地位を
保全しかつ同年一月八日以降毎月右支払期に金四万円に限り仮に支払を受ける必要
があつたこと、ならびに右の必要性は現在も継続していることを一応認めることが
できる。
(二) その余の控訴人らについて
(1) 前掲疏乙第一号証の一によれば被控訴人の就業規則第三九条本文は「従業
員が下記の各号の一に該当する場合は、三〇日前に予告するか又は平均賃金の三〇
日分以上を支給して即時解雇する。」と定め、同条第五号は「協会に対し非協力的
な言動、画策をなし協会業務の正常な運営を妨げ、又は妨げんとしたとき」と規定
していることが一応明らかであるところ、右控訴人らの前記三、四、において認定
した諸行為は右条項に該当することが明らかであり、また成立に争いのない疏甲第
二号証の一、二、四、六、同疏乙第二号証の一、同号証の三ないし五および同号証
の八ならびに弁論の全趣旨によれば、被控訴人は同控訴人らに対する本件各解雇通
告書に各平均賃金三〇日分の予告手当額を記載し、これを直ちに受取られたいと催
告したが、右控訴人らがその受領を拒絶したため、昭和四一年一月一四日右各予告
手当を弁済供託したことが一応明らかである。
六、本件解雇の不当労働行為性について
(一) 控訴人らは本件解雇は被控訴人が全検分会の組織破壊を目的としてなした
不当労働行為である旨主張するので、以下本判決事実摘示中控訴代理人主張の
(六)に記載した各頭書記号の順序に従つて判断する。
(二) 右(1)の主張について
 控訴人ら主張の刑事事件が被控訴人に対する争議中に発生したことを認めるに足
る疏明はなく、また右事件が本件解雇に影響を与えたことを認めるに足る疏明もな
い。
 成立に争いのない疏甲第三六、第三七号証によれば被控訴人名古屋支部長は昭和
四〇年一月中旬頃従業員寮に入寮中の従業員のうち被控訴人に対し積極的に批判的
態度を示し寮舎を毀損する等の行動に出た者の父兄に対し、その挙動を報告し共産
党を非難し再考を促すよう求めた書簡を郵送したことを一応認めうるが、右書簡に
よつても被控訴人が分会からの脱退を強要し分会員を差別扱いしたことは認められ
ず、また本件全疏明によつても控訴人らが共産党に属することを認めえない。また
当審における控訴人P1、同P4各本人尋問の結果によれば昭和三九年から昭和四〇
年にかけて全検分会から一〇〇名以上の者が脱退したことを一応認めうるが、前掲
各証拠および成立に争いのない疏乙第三九号証によれば右期間中分会は激しい争議
行為を反覆遂行し、ために各組合員は就業規則および賃金協定に基づき相当額に及
ぶ賃金カツトを受けたことが一応認められることを勘案するときは、疏甲第六号証
および右各本人尋問の結果中被控訴人の職制が分会組合員に脱退を強要した旨、お
よび右の脱退が職制の強要に因るものである旨の各記載・供述はにわかに措信し難
い。
 次に成立に争いのない疏乙第四七号証、同第四八号証の一、二、同第四九ないし
第五一号証および当裁判所に顕著な事実を総合すると、被控訴人は昭和四〇年四月
から同年九月までの間に合計六名の分会員を解雇したが、内一名は勤務態度不良お
よび店童(給仕)としての雇傭関係の終了を理由とするものであり、他の一名は異
常に欠勤の多いことを理由とするものであり、その余の四名は業務妨害、配置命令
拒否等を理由とするものであり、右四名は解雇権濫用および不当労働行為を理由と
して右各解雇の無効を主張し名古屋地方裁判所に仮処分を申請したが、右一名は申
請を取下げ、他の三名に対しては申請却下の判決がなされたことが認められ、結局
被控訴人が不当解雇を反覆した旨の控訴人らの主張事実は疏明がないことに帰着す
る。
(三) (2)の本文前段について
 本件全疏明によつても全検分会が全港湾名古屋支部の中心的存在であつたことを
認めえない。前掲疏甲第二〇号証によれば昭和四〇年度において同支部の組合三役
中全検分会から選出されていた者は副執行委員長一名のみであつたことが一応明ら
かである。
(四) (2)の本文後段および(イ)について
(1) 前掲各疏明および成立に争いのない疏乙第四四、第四五号証によれば、次
の事実が一応認められる。
(イ) 被控訴人名古屋支部は昭和三九年度に至り能率向上を主目的とする業務部
門の機構改革を計画し、同年一二月一六日からこれを全面的に実施し、控訴人P1、
同P4ほか一名に対し右新機構に基づく係長の辞令を交付したところ、右三名がその
業務を拒否したので、懲戒処分として右三名を降格の処分に付した。
(ロ) 右三名は、右新機構上係長に対し主席検数員以下の作業員の配置を定める
ことが命ぜられている点を捉え、かかる業務命令は右三名を管理職者とし組合員た
る地位を奪うものであるから不当労働行為であつて無効であり、右懲戒処分も不当
労働行為であつて無効である旨主張し、名古屋地方裁判所に対し右業務命令および
懲戒処分等の効力を停止する仮処分を申請したが、同裁判所は昭和四〇年一〇月一
八日右の各主張を排斥して申請却下の判決を言渡し、同判決は控訴不提起により確
定した。
(2) 当審における控訴人P1本人尋問の結果によれば、右三名は右業務命令の拒
否後一箇月間「反省業務」として図書室勤務を命ぜられ、また右仮処分申請事件の
継続中正規の業務を与えられなかつたことが一応認められるが、右懲戒処分が正当
であり、かつ訴訟が係属中であつたことを考慮すれば、これらの処遇が不当である
とは認め難い。
(3) 前掲疏乙第四二号証によれば、控訴人P4は昭和四〇年一一月一四日は正規
の検数作業員として配置を命じられていたことが一応認められる。
(五) (2)の(ロ)について
(1) 当審における控訴人P1本人尋問の結果によつても沿岸作業には管理職者が
少なく、海上作業には管理職者が比較的多いことを認めうるにすぎないから、沿岸
作業から海上作業へ配置替えすることが差別待遇となるとは認められない。
(2) また右本人尋問の結果によれば昭和四〇年一二月頃沿岸作業中の一部分会
員が上司から脱退の勧告を受けたことを一応認めうるが、右勧告が脅迫的なもので
あつたとは認め難い。
(六) (2)の(ハ)について
(1) 海上検数は船舶の荷役と同時に行なわれるものであり、特に船舶が常時出
入する名古屋港においては予期外の時間外就労を必要とすることは十分考えられる
ところであるから、時間外就労拒否争議の決定後に被控訴人が右争議と同一日時に
多数の者に時間外就労を命じなければならないことはありうるであろう。その必要
がないのに被控訴人がスト破りの目的で業務命令を発したことを認めるに足る疏明
はない。
(2) チエツク・オフは本来労働組合が自ら組合員から徴収すべき組合費を使用
者が代つて取立てるのであるから、いわば恩恵的措置であり、これを中止すること
が組合組織を破壊することに通ずるとは考えられない。
(3) 前記認定のとおり、被控訴人と全検分会との間には昭和四〇年度賃金協定
に伴い名古屋支部細目協定(疏甲第二八号証)が締結されている。
 その他本件全疏明によつても被控訴人が全検分会と全日検労組名古屋とを著しく
差別して待遇したことを認めえない。
(七) (3)について
 前掲各疏明によれば控訴人らはいずれも組合役員歴を有することを一応認めうる
が、全検分会に控訴人ら以外に人材がなく、したがつて控訴人らが被控訴人の従業
員たる地位を失えば分会が徹底的に弱体化すること、および被控訴人がこれらの事
実を知り、かつかかる結果の発生を期待して本件解雇処分をしたことを認めるに足
る疏明はない。
(八) 以上判断したところを総合しても、本件解雇が全検分会の組織を破壊する
目的でなされたものと認めることはできず、また控訴人P1を除くその余の控訴人ら
に対する本件各解雇が同控訴人らの正当な組合活動を理由とする不当労働行為に該
らないことは、前記三、および四、の各項において認定・判断したところにより、
おのずから明らかである。
七、控訴人らのその余の主張について
 本件解雇に至るまでの実情、本件各行動の経緯、およびこれに因り被控訴人の業
務が阻害された程度は、いずれも上記認定のとおりであり、右いずれの点からみて
も本件解雇(控訴人P1に対するものを除く)は相当であるということができる。特
に本件一一月一四日の行動のように未だ無欠扱いと認定されていないのに無欠扱い
にされたものときめつけ、係長の説明に耳も藉さず上司らを罵倒して事務所を混乱
に陥し入れ、団体交渉もせぬまま組合員を指揮して就労拒否・職場放棄をさせる如
きは常識上信じ難いほどのことであり、かかる秩序破壊者を解雇することは企業防
衛上まことにやむをえないものというべく、控訴人らの主張するような解雇権の濫
用はとうてい認め難いところである。
八、結論
 してみると控訴人らの本件仮処分申請中控訴人P1の申請は前記認定の限度におい
て理由があり、本件仮処分決定中同控訴人の申請を右の限度で認容した部分はこれ
を認可すべきであり、原判決中これを取消して同控訴人の申請を却下した部分は失
当であるが、本件仮処分申請中その余の控訴人らの申請はいずれも理由がないから
これを却下すべきであり、原判決中右と結論を同じくし本件仮処分決定のうち同控
訴人らに関する部分を取り消して同控訴人らの申請を却下した部分は結局相当であ
る。
 よつて、原判決中控訴人P1に対する部分を取り消して本件仮処分決定中同控訴人
の申請を一部認容した部分を認可し、その余の控訴人らの控訴はこれを棄却すべき
ものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条、第九二条、第九
三条に従い、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決す
る。
 なお控訴人らは被控訴人の本件異議申立を却下するとの判決を求める旨申し立て
るが、民事訴訟法上仮処分決定に対する異議申立は判決手続により審理した上原決
定を取り消しまたは変更すべきことを求める訴訟上の申し立てであつて、訴の性質
を有するものではないから、その却下を求める意味はない。したがつて本件控訴の
趣旨は結局原判決を取り消し本件仮処分決定の認可を求めることにあるものと解す
る。よつて本判決主文においては特に控訴人らの右の申し立てに対する判断を示さ
ないこととする。
(裁判官 福島逸雄 広瀬友信 大和勇美)

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