弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役一年に処する。
     但し、裁判確定の日から三年間刑の執行を猶予する。
     原審並に当審訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 国選弁護人塩田親雄の主張は被告人の私選弁護人桜井紀の提出控訴趣意書に記載
する通りであるからこれを引用する。
 論旨第一点並に第四点について。
 所論指令にいわゆる発行行為の意義は広くA党機関紙「B」及其後継紙並同類紙
などを一般読者に配布又は交付することをも含む趣旨であるから論旨はこれを採用
し得ない。
 論旨第二点並に第三点について。
 <要旨>原審挙示の証拠を総合すれば被告人は本件「C」がA党機関紙「B」の同
類紙であることを認識していた事実を推定するに足り、所論法務総裁の発行
停止処分は右「C」紙の発行を差し止めることを目的とする行政上の措置に過ぎ
ず、同処分の有無と同類紙たるとの認識とは何ら必然的関連にあるものではない。
所論を採用することが出来ない。
 論旨第五点について。
 昭和二十五年政令第三百二十五号は日本政府がポツダム宣言受諾に伴い発する命
令に関する件に基き連合国最高司令官の指令違反の行為等に適用する罰則を設定し
た政令であるから、本件最高司令官の指令に反する被告人の所為が右政令の規定に
該当する犯罪を構成することは理の当然であり、論旨は理由がない。
 論旨第六点について。
 原審拳示の証拠により被告人の原判示「C」紙の頒布事実を十分に証明するに足
り原判決には所論のような事実誤認は認められない。論旨は理由がない。
 しかし職権をもつて審按すると、本件政令第三百二十五号は昭和二十七年四月二
十八日日本と連合国との間の講和條約発効と同時に昭和二十七年四月十一日法律第
八十一号により与えられた法律と同一の効力を経過的に発生した後同年五月七日法
律第百三十七号により終局的に廃止せられた事実及び被告人の本件所為の内容と憲
法上国民に保障せられる言論出版その他の表現の自由との抵触如何の問題が主権を
回復した我国今後の純粋な憲法間題として再検討すべき状態に到達した事実とに鑑
み被告人の本件被占領中の所為に対する科刑には刑の執行を猶予するを妥当と認め
る。そこで原判決はこの点で量刑不当に帰するので刑事訴訟法第三百九十七条第四
百条但書を適用してこれを破棄し当裁判所において被告事件について次の通り審理
判決する。
 原判決が拳示の証拠により認定した事実に法律を適用すると被告人の原判示所為
は昭和二十五年政令第三百二十五号第一条第二条第一項に該当するところ、同政令
は昭和二十七年四月十一日法律第八十一号により法律と同一の効力を附与せちれた
上昭和二十七年五月七日法律第百三十七号第二条によリ廃止せられたけれども同法
律第三条により廃止前の行為に対する罰則の適用についてはなお従前の例による旨
を定めるから右政令の所定刑中懲役刑を選択して所定刑期範囲内で主文の刑を量定
し前記情状に因り刑法第二十五条を適用して同刑の執行を主文の期間猶予し原審並
に当審訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項により被告人の負担とする。
 そこで主文の通り判決する。
 (裁判長判事 吉村国作 判事 小山市次 判事 沢田哲夫)

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