弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1被告は,別紙認容金額等一覧表1及び同表2の「原
告」欄記載の各原告に対し,上記各表の「認容額」欄
記載の各金員及びこれに対する同表1記載の各原告に
ついては平成15年6月26日から,同表2記載の各
原告については平成16年5月7日から,各支払済み
まで年5分の割合による金員を支払え。
2上記原告らのその余の請求及び上記原告ら以外の原
告らの請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は,別紙認容金額等一覧表1及び同表2の
「原告」欄記載の原告らと被告との間に生じた部分は
これを5分し,その2を上記原告らの負担とし,その
余を被告の負担とし,上記原告ら以外の原告らと被告
との間に生じた部分は全部当該原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告らに対し,別紙被害一覧表損害額合計欄記載の各金額及びこれ
らに対する平成15年(ワ)第5830号事件原告らについては平成15年6月
26日から,平成16年(ワ)第4420号事件原告らについては平成16年5
月7日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,平成13年4月に営業を停止した大和都市管財株式会社(以下「大
和都市管財」という。)から平成10年1月以降に抵当証券を購入した原告ら
が,同社は,平成9年12月当時,既に抵当証券業を適確に遂行するに足りる
財産的基礎及び人的構成を欠いている状態にあり,かつ,貸借対照表の重要事
項について虚偽の記載をしていたから,抵当証券業の規制等に関する法律(昭
和62年法律第114号。以下「抵当証券業規制法」という。)に基づき同社
に対する監督権限を有していた大蔵省近畿財務局長(以下,省庁名及び官職名
は,いずれも当時のものである。以下「近畿財務局長」という。)には,大和
都市管財の抵当証券業者としての登録の更新を拒否すべき義務があったにもか
かわらず(同法8条2項,6条1項7号,同項柱書),この義務に反して平成
9年12月21日付けで違法に更新の登録(同法8条1項)を行い(以下「本
件更新登録」という。),原告らは上記違法行為によりそれ以降に同社から購
入した抵当証券相当額の損害等を被った等と主張して,国家賠償法1条1項の
規定に基づき,近畿財務局長の属する行政主体である被告にその賠償を請求し
た事案である。
1抵当証券業規制法の制定に至る経緯(本判決第2において記載する事実はす
べて当事者間に争いがないか,掲記の書証によって容易に認定することができ
る。以下,書証は特に断らない限り枝番を含む。)
(1)抵当証券の概要
抵当証券とは,抵当証券法(昭和6年法律第15号。平成11年法律第4
3号による改正前のもの。以下同じ。)に基づき,抵当権と被担保債権とを
一枚の証書に表章した,法務局が発行する講学上の有価証券であり,抵当権
付き債権の譲渡は裏書交付により行われ,その行使には証券の所持を要する。
すなわち,抵当証券法は,土地,建物又は地上権を目的とする抵当権を有
する者は,申請書に当該抵当権が債権の全部の弁済を担保するに足りること
を証明する書面を添付して(同法施行細則(昭和6年司法省令第22号)2
1条の2。なお,実務上は,抵当証券交付申請の日に近接した時点を価格時
点とする不動産鑑定士作成の鑑定評価書又は固定資産評価証明書によってい
る。この規定は,昭和26年から28年ころにかけて,不当に過大評価した
不動産に抵当権を設定して抵当証券の交付を受けて販売した詐欺事件が続発
したことに伴い,昭和29年法務省令第17号によって追加されたものであ
る。),その登記を管轄する登記所に抵当証券の交付を申請することができ
るものとし(同法1条1項),抵当証券は,抵当証券発行の特約がないとき
など一定の事由がある場合には発行することができず(2条),登記官は,
同法2条所定の事由があったり,申請書が方式に適合しない場合などには申
請を却下するが(5条1項),申請を受理した場合には,抵当権設定者,第
三取得者及び債務者等に抵当証券の交付につき異議があれば一定期間内に申
し立てるべき旨を催告し(6条1項),期間内に異議の申立てがなかったり,
異議を理由なしとする裁判が確定した場合には直ちに抵当証券を交付するこ
とを要する(11条)ものとされている。異議申立て制度は,抵当証券がそ
の作成前に既に存在する権利を証券に化体させる有因・非設権証券であって,
本来,原因となった債権又は抵当権に付着する瑕疵がそのまま証券の効力に
影響を及ぼすことから,その瑕疵の存在の主張を制限することにより,抵当
証券の流通性を確保するために設けられた制度と解されている。
そして,同法によれば,抵当証券が発行された場合には,抵当権及び債権
の処分は抵当証券をもってしなければその効力を有さず(14条),抵当証
券の譲渡は被裏書人の氏名又は商号,裏書人の署名,住所及び年月日の記載
のある裏書によって行い(15条,手形法13条1項),抵当証券の所持人
は元本の弁済期後1か月以内に債務者に対して支払の請求をしなければなら
ず,支払がされなかった場合には公証人又は執行官にその証明を求めた(2
7条)上,弁済期より3か月以内に抵当権の目的である不動産等の競売を申
し立てなければならない(30条)。また,抵当証券法は,抵当証券の記載
事項として,証券の番号,登記所の表示,証券作成の年月日のほか,抵当権
の目的物である不動産等,抵当権設定者及び第三取得者の住所及び氏名,抵
当権の順位及び登記の年月日,債権額等,並びに債務者の氏名及び住所等を
定める(12条,4条)。
同法は,いわゆる昭和恐慌で資金繰りに行き詰まった地方銀行を救済する
ため,その不動産担保債権を証券化し,日本勧業銀行等で買い取らせること
を主に想定して立法されたものである。
しかし,①債務を完済した場合でも抵当証券がないと抵当権の抹消登記
手続ができないことや債務者の氏名・住所・債権額等が券面に記載されてい
ることから,抵当証券の流通を債務者が望まない,②抵当証券記載事項に
変更があった場合には抵当権の変更登記手続が必要であるが,抵当証券が多
数の投資家に散逸していると事務処理上極めて煩瑣である,③抵当証券を
分割して小口化すると発行手数料が高額となる,などの理由から,抵当証券
法施行後も,数十年にわたって抵当証券の取引量はわずかであった(なお,
抵当証券は,証券取引法に列挙されている有価証券には該当しない。)。
他方,抵当証券業者が,抵当証券の共有持分を被担保債権元本額に持分率
を乗じた金額で販売するため,抵当証券(原券)の預かり証として購入者に
発行する一種の証拠証券をモーゲージ証書といい,抵当証券(原券)とは額
面のみならず金利や償還期限が異なっているが,これは,抵当証券(原券)
を分割したり,多数の小口購入者にこれを逐一裏書譲渡することなく抵当証
券を販売するための方策として昭和50年代ころから普及し始めたものであ
る。すなわち,抵当証券業者は,抵当証券(原券)を顧客に販売するに際し,
その共有持分権を譲渡しているとの法律構成を採用することにより,原券を
分割することも,現実に顧客に引渡すこともなく自ら保管しつつ,一定期間
後に買い戻す旨の約款の下で小口のモーゲージ証書を原券の代わりに顧客に
発行するという販売方法を主流とするようになっていった。この方法により,
①顧客は,抵当権付き債権を行使する手間を抵当証券業者に代行させた上,
抵当証券上の弁済期にかかわらず1年から5年の期間経過後に償還を受ける
ことが可能となり,かつ小口であっても他の金融商品に比べて高めの金利を
享受することができ(なお,抵当証券は当初からいわゆる自由金利,かつ,
確定利回りの金融商品であった。),②抵当証券業者は元利金取立てをす
るごとに抵当証券を回収する必要がないなど小口販売の取引コストや事務負
担の縮減が可能になり,③債務者も多数の債権者から権利を行使される事
態を防ぎつつ,超長期の融資を受けることができる,というメリットがあっ
たため,昭和58年以降抵当証券会社が次々に設立され,昭和60年には計
3878億円余りの抵当証券が発行されるまでになった(よって,顧客は,
原則として抵当証券(原券)を所持せず,記名式裏書によるその譲渡も受け
ておらず,白地式裏書がされていると解する余地があるにすぎない(抵当証
券業者は,抵当証券は占有改定により顧客に譲渡されている上,いつでも裏
書が可能なように顧客を管理しているので,その譲渡に際しても原券への記
名式裏書は不要である旨説明するのが通常であった。)が,本判決では,特
に断りのない限り,このような顧客をも「抵当証券購入者」又は「購入者」
と呼称することとする。)。
【甲16,22,23,32,33,35,41,244,乙79】
(2)抵当証券業規制法の制定までの議論等
抵当証券がモーゲージ証書の方式で活発に取引されるようになると,悪質
な抵当証券業者が出現し,抵当証券が存在しないにもかかわらず抵当証券の
販売と称して金銭の受入れを行う行為(以下「カラ売り」という。)や,抵
当証券上の債権額を上回る額の抵当証券の販売を約して金銭の受入れを行う
行為(以下「二重売り」という。)といった詐欺的商法を行うようになり,
それによる被害も度々発生するようになった。こうした状況を受け,法務省
と大蔵省とは,昭和61年10月,学識経験者等を構成員とする抵当証券研
究会(座長・Y5学習院大学教授)を設置し,抵当証券取引の経済的意義や
購入者保護の問題等,抵当証券をめぐる諸問題の検討を行った。同研究会は,
その当時行われていた抵当証券取引の性格について,抵当証券会社が元利金
の支払保証や買戻し約定を行っている現状を踏まえ,投資家は,債務者の弁
済能力や抵当物件の換価価値に加え,抵当証券会社の信頼性や財務基盤を相
当程度重視して取引を行っていること,抵当証券取引は制度的には直接金融
を前提としているが,上記のような取引方法や販売した抵当証券を貸借対照
表上負債とする会計処理が行われていることを勘案すれば間接金融的な実態
もみられること等を指摘した上,購入者保護を図る上での問題点は,①販
売した抵当証券について抵当証券会社が自ら保護預かりを行い,その代わり
に購入者にモーゲージ証書を交付するという当時の販売方法が悪質業者によ
るカラ売りや二重売りの温床となっていること,②不動産鑑定評価の際に
担保が過大評価される危険性があること,③実際の取引では抵当証券法が
予定している被裏書人の記載が省略され,抵当証券の現実の引渡しも行われ
ていないことが多いため,抵当証券上の権利が購入者に移転しているのか否
かについて疑義があること,④抵当証券会社が債務者の返済能力等につい
て十分に審査せずに融資を行い,抵当証券会社と債務者とが共に倒産する可
能性があること等にあるとの認識の下に,あるべき方策を論議した。
同研究会は,昭和62年6月に「抵当証券取引について」と題する報告書
をとりまとめた。上記報告書は,当時の抵当証券取引の問題点として上記①
ないし④と同様の認識を示した上,大口取引の拡大を始めとした今後の抵当
証券取引の発展の可能性を阻害しないよう留意しつつ,当面は当時主流とな
っていた個人投資家向けの小口取引を念頭に,できるだけ早く購入者保護の
ための方策を具体化することが必要であり,その内容としては,抵当証券取
引の改善を図り,抵当証券の購入者の保護を図るために,抵当証券業者に対
する何らかの開業規制の導入,抵当証券の保管を行う信頼ある第三者機関の
設置,抵当証券業者に対する一定の行為規制の導入が適当であるとしつつ,
①開業規制について,適正かつ誠実に抵当証券業を営もうとする者に対し
て営業の自由をできる限り尊重し,必要最小限の規制とすべきであることを
勘案すれば登録制の採用が望ましく,登録拒否要件としては,抵当証券業者
を法人に限定するほか,抵当証券購入者が抵当証券業者の行う貸付けや抵当
物件に関する審査能力に依存していることやほとんどの抵当証券業者が元利
金の支払保証や元利金の買戻し約定を付していることに照らし,悪質業者の
みならず財務基盤や人的構成等の面で抵当証券業務を適確に遂行する能力を
有しない業者の参入を規制することが必要である,②抵当証券の保管機関
について,購入者名義によって適正に抵当証券の保管を行うとともに,保管
を依頼された抵当証券とモーゲージ証書とを照合し,カラ売りや二重売りが
行われていないことを確認の上で購入者に保管証を交付し,かつ,抵当証券
業者がその正常な業務運営に支障を来した場合には,元利金返済の受領の代
行等をするといった役割を果たすことを検討すべきである,③行為規制に
ついて,事実に相違する表示,登録業者であることにより政府が当該抵当証
券業者を推薦し,又はその業務について保証をしているかのように人を誤認
させるような表示,及び抵当証券が登記所から発行されていること又は抵当
証券が保管機関に保管されることにより,抵当証券の価値や債務の弁済が政
府や保管機関によって保証されているかのように人を誤認させるような表示
を禁止するような規制を行うとともに,購入者の自己責任を問う前提として
抵当証券業者の情報開示を行わせるべく,抵当証券業者に対し,購入者の求
めに応じ,その業務や財産の状況を記載した書類及び販売した抵当証券等を
縦覧させることを義務付け,また,抵当証券業者が登録後も適正な業務運営
を行っていることを確認し,購入者保護の実効を期すため,抵当証券業者に
対し,業務に関する帳簿書類の作成及び保存,毎営業年度の営業報告書の作
成及び提出を義務付けるとともに,行政当局に報告や資料の提出を命じたり,
立入検査を行う権限を付与し,抵当証券業者の業務の運営に購入者の利益を
害するような事実があるときは,業務改善命令,業務停止,登録取消しとい
った措置を講じられるようにすることが適当である,と指摘した上,これら
の措置を盛り込んだ抵当証券業を規制する法律が速やかに制定されるべきで
ある,と結論した。上記報告書を基に,行政当局は抵当証券業規制法の立案
作業を行った。
【甲16,22】
2抵当証券業規制法の規定等
抵当証券業規制法は,抵当証券業の規制等に関する法律施行令(昭和63年
政令第196号。以下「法施行令」という。),抵当証券業の規制等に関する
法律施行規則(昭和63年大蔵省令第35号。以下「法施行規則」という。)
とともに昭和63年11月1日から施行された。
抵当証券業規制法(平成9年法律第102号による改正前のもの。以下同
じ。)は,抵当証券業を営む者について登録制度を実施し,その事業に対し必
要な規制を行うことにより,その業務の適正な運営を確保し,もって抵当証券
の購入者の保護を図ることをその目的として規定している(1条)。
抵当証券業規制法は,抵当証券業(抵当証券の販売で業として行うものをい
う(2条1項)。)は,大蔵大臣の登録を受けた法人でなければ営んではなら
ないとし(3条),当該法人の登録及び監督に関する大蔵大臣の権限は,当該
法人の主たる営業所を管轄する財務局長又は財務支局長(以下「財務局長等」
という。)に委任されている(45条,法施行令5条)。
抵当証券業規制法は,登録申請は,財務局長等に対し,商号又は名称,営業
所又は事務所の名称及び所在地,資本又は出資の額,役員等の氏名及び住所並
びに業務の種類及び方法等の記載された登録申請書を,役員等の履歴書,前事
業年度の貸借対照表等,抵当証券業務に関する組織図,融資業務経験者の業務
経歴書及び同法6条1項各号の登録拒否事由に該当しないことを誓約する書面
等とともに提出して行うものとし(4条,法施行規則(平成9年大蔵省令第8
3号による改正前のもの。特に断らない限り以下同じ。)4条1項),財務局
長等は,6条1項所定の登録拒否事由がない限り,その商号又は名称等を抵当
証券業者登録簿に登録しなければならないとしている(5条)。また,同法は,
登録の有効期間は登録の日から起算して3年とし(7条),登録の有効期間の
満了後引き続き当該登録に係る抵当証券業を営もうとする者は,有効期間の更
新の登録(以下「更新登録」という。)を受けなければならないとしている
(8条1項)。更新登録を受けようとする者が提出すべき更新登録申請書及び
添付書類の内容は,登録時と同様である(8条2項,4条1項,2項,法施行
規則4条1項)が,その申請書は,申請者が現に受けている登録の有効期間満
了の日の2か月前までに財務局長等に提出しなければならない(法施行規則6
条1項)。
抵当証券業規制法は,登録申請者が登録拒否事由のいずれかに該当するとき,
又は登録申請書若しくはその添付書類のうちに重要な事項について虚偽の記載
があり,若しくは重要な事実の記載が欠けているときは,その登録を拒否しな
ければならないと規定し(6条1項柱書),登録拒否事由には,資本又は出資
の額が抵当証券の購入者を保護するため必要かつ適当と認められる金額として
政令で定める金額(法施行令3条により1億円とされている。)に満たない法
人であること(同項2号),役員又は営業所若しくは事務所の業務を統括する
使用人等のうちに同法,出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法
律(以下「出資法」という。)又は貸金業の規制等に関する法律等に違反した
者がある法人であること(同項6号ニ),抵当証券業を適確に遂行するに足り
る財産的基礎及び人的構成を有しない法人であること(同項7号)等を挙げて
いる。これらの規定は,更新登録についても準用されている(8条2項)。
さらに,昭和63年8月31日付け蔵銀第1760号「抵当証券業者の業務
運営に関する基本事項について」と題する大蔵省銀行局長通達(以下「基本事
項通達」という。)第1の1.,(3),イ,(ロ)は,抵当証券業規制法6条1項
7号にいう「財産的基礎」について,A.貸借対照表において資産の合計額か
ら負債の合計額を控除した額が資本の額以上であること,又はB.貸借対照表
等に記載された売渡抵当証券又はこれに相当する勘定科目の金額の支払を金融
機関が保証することを内容とする契約書の写しの提出があることのいずれかの
要件を満たせば財産的基礎を有する法人として取り扱うものとしており,同号
にいう「人的構成」については,A.役員又は重要な使用人のうちに,抵当証
券業に関し相応の知識を有する者がおり,かつ,B.融資業務を担当する組織
において融資業務経験者(融資業務に3年以上従事した者をいう。以下同
じ。)が2名以上在籍していれば人的構成を有する法人として取り扱うものと
定め,更新登録に当たっての審査も登録に準じた取扱いをするものとしていた
(なお,平成10年6月,基本事項通達が廃止されたことに伴い,同年大蔵省
令第89号によって法施行規則5条の2が新設され,財産的基礎や人的構成に
つき,基本事項通達と同様の審査基準が定められた。すなわち,同条1項1号
は,財産的基礎につき,イ4条1項5号に規定する貸借対照表又はこれに代
わる書面(以下「貸借対照表等」という。)において,資産の合計額から負債
の合計額を控除した額が資本又は出資の額以上であること,ロ貸借対照表等
に記載された売渡抵当証券又はこれに相当する勘定科目の金額についてその支
払を金融機関が保証することを内容とする契約書の写しの提出があること,の
いずれかに該当するかどうかを審査し,いずれにも該当しない場合に財産的基
礎を欠くものと,同項2号は,人的構成につき,イ抵当証券業に関し十分な
知識を有する役員又は重要な使用人が2名以上(うち1名は常勤の役員とす
る。)在籍していること,ロ融資業務を行う部署に融資業務に3年以上従事
した者が2名以上在籍していること,のいずれにも該当するかどうかを審査し
(抵当証券発行特約付き融資(以下「特約付き融資」という。)を行わない法
人にあってはイに限る。),いずれかに該当しない場合に人的構成を欠くもの
と各定められた。)。
抵当証券業規制法は,抵当証券業者は,その行う抵当証券業に関して広告を
するときは,抵当証券業者の資力及び信用に関する事項,抵当証券に記載され
た債権の元本及び利息の支払の確実性又は保証に関する事項,抵当証券業者に
対する推薦に関する事項等について,著しく事実に相違する表示をし,又は著
しく人を誤認させるような表示をしてはならないこと(14条,法施行規則1
0条),抵当証券の販売に係る契約締結の前に抵当証券の販売に係る契約の内
容及び履行に関する事項(抵当証券の販売に係る元本及び利息の支払保証に関
する定めの内容,抵当証券の買戻しの定めに関する内容等)等を記載した書面
を顧客に交付すること(15条,法施行規則11条及び12条)や,契約締結
後にも遅滞なく抵当証券の番号,登記所の表示,証券作成の年月日,債権の元
本及びその弁済期その他当該契約の内容を明らかにする書面を購入者に交付す
ること(16条),抵当証券業者の業務及び財産の状況を記載した書面(事業
報告書(21条))並びに販売を行った抵当証券に関する書類(当該販売を行
った抵当証券の写し)を営業所又は事務所ごとに(事業報告書については財務
局長等に提出した日から起算して3年を経過するまでの間,抵当証券の写しに
ついては当該抵当証券に記載された弁済期までの間)備え置き,顧客の求めに
応じて閲覧させることを抵当証券業者に義務付け(17条,平成10年大蔵省
令第89号による改正前の法施行規則14条1項),抵当証券業者に対し,原
則として販売を行った抵当証券を自ら保管することを禁止するとともに(18
条1項),抵当証券業者又はその代表者若しくは代理人,使用人その他の従業
者に対し,その行う抵当証券業に関し,抵当証券の販売に係る契約の締結又は
解除に関し,偽計を用い,又は暴行若しくは脅迫をすること等をしてはならな
い(19条1号)旨規定する。
また,抵当証券業規制法は,抵当証券業者に対し,その業務に関する帳簿書
類(特約付き融資に関する状況を記録した書面,抵当証券の販売に係る元本及
び利息の支払の状況を記録した書面を含む。)を作成し,これを抵当証券の販
売又は買戻しの日から少なくとも5年間保存すること(20条,法施行規則1
6条),事業年度ごとに事業報告書を作成しこれを財務局長等へ提出すること
(21条)をそれぞれ義務付けた上,財務局長等は,抵当証券業者に対し,そ
の業務若しくは財産に関して報告若しくは資料の提出を命じ,又は職員に抵当
証券業者の営業所若しくは事務所に立入り,その業務若しくは財産の状況若し
くは帳簿書類その他の物件を検査させ,若しくは関係者に質問させることがで
きる(22条1項)が,立入検査の権限は,犯罪捜査のために認められたもの
と解してはならないとされている(同条3項)。さらに,財務局長等は,抵当
証券業者の業務の運営に関し,抵当証券の購入者の利益を害する事実があると
認めるときは,購入者の保護のために必要な限度において,当該抵当証券業者
に対し,業務の方法の変更その他業務の運営の改善に必要な措置をとるべきこ
とを命ずる(業務改善命令)ことができるとされ(23条),抵当証券業者が
不正の手段により登録又は更新の登録を受けたり,業務改善命令等に違反した
場合等には,財務局長等は当該抵当証券業者の登録の取消し又は6か月以内の
期間を定めてその業務の全部若しくは一部の停止を命ずる(業務停止命令)こ
とができ(24条),登録の取消し又は業務停止命令については,その旨を公
告することとされている(26条)。
加えて,抵当証券業規制法は,大蔵大臣は,一定の要件を満たす法人が28
条1項各号に規定する業務(抵当証券業者の販売に係る抵当証券の保管に関す
ること,その保管に係る抵当証券に記載された債権の元本及び利息の弁済の受
領に関すること並びに抵当証券に関する取引の健全な発展を図るための調査及
び研究を行うこと)の全部(以下「保管等事業」という。)を適正かつ確実に
行うことができると認められるときは,当該法人を保管等事業を行う者として
指定することができるとし(27条1項),当該法人は,抵当証券の保管をす
るときは,当該抵当証券の保管を証する書面(保管証)を発行しなければなら
ず,これに購入者の商号,名称若しくは氏名,抵当証券業者の商号若しくは名
称及び住所,抵当証券に記載された事項のうち証券の番号,登記所の表示,並
びに債権の元本及びその弁済期等を記載しなければならないとしている(30
条,法施行規則23条1項)。そして,大蔵大臣は,昭和63年8月13日,
保管等事業を行う者として,財団法人抵当証券保管機構(以下「抵当証券保管
機構」という。)を指定した(昭和63年大蔵省告示第117号)。抵当証券
保管機構は,抵当証券業者から抵当証券を保管する際,同機構名義の記名式裏
書を受ける取扱いとしている。
また,抵当証券業規制法は,抵当証券業者は,抵当証券の購入者の保護を図
るとともに,抵当証券業の健全な発展に資することを目的として,抵当証券業
者を会員とし,その名称中に抵当証券業協会という文字を用いる民法34条の
規定による法人を設立することができるとし(38条1項。この規定により設
立された社団法人抵当証券業協会を,以下単に「抵当証券業協会」という。),
抵当証券業協会は,その目的を達成するため,①抵当証券業を営むに当たり,
法令の規定を遵守させるための会員に対する指導,勧告その他の業務,②会
員の営む抵当証券業に関し,契約の内容の適正化その他抵当証券の購入者の保
護を図るため必要な指導,勧告その他の業務,③会員の営む抵当証券業の業
務に対する抵当証券の購入者等からの苦情の解決,及び④抵当証券の購入者
に対する広報その他抵当証券業協会の目的を達成するため必要な業務を行うも
のとし(40条),大蔵大臣は,同法第2章(登録),第3章(業務)及び第
4章(監督)の規定の円滑な実施を図るため,大蔵省令で定めるところにより,
これらの規定に基づく資料の提出,届出その他必要な事項について,抵当証券
業協会に協力させることができるとしている(42条)。
そして,抵当証券業規制法は,3条の登録を受けないで抵当証券業を営んだ
者,不正の手段により同条の登録又は8条1項の更新登録を受けた者及び19
条の規定に違反して同条1号の行為をした者等は3年以下の懲役若しくは30
0万円以下の罰金に処し,又はこれを併科するとし(48条各号),(更新)
登録申請書(4条1項,8条2項)又はその添付書類(4条2項,8条2項)
に虚偽の記載をして提出した者,17条の規定に違反して書類を備え置かず,
若しくは顧客の求めに応じて閲覧させず,又は虚偽の記載のある書類を備え置
き,若しくは顧客に閲覧させた者,22条1項等の規定による報告若しくは資
料の提出をせず,若しくは虚偽の報告若しくは虚偽の資料の提出をし,これら
の規定による検査を拒み,妨げ,若しくは忌避し,又はこれらの規定による質
問に対して答弁をせず,若しくは虚偽の答弁をした者,及び業務改善命令に違
反した者等は30万円以下の罰金に処するとしている(52条各号)。
なお,抵当証券業規制法が予定する典型的な抵当証券業とは,抵当証券業者
が,事業会社に対し特約付き融資を行うとともにその事業会社が保有する不動
産に抵当権を設定し,その抵当権について法務局から抵当証券の交付を受けて
これを顧客に販売する一方,事業を行うことにより収益を得た事業会社が抵当
証券業者に利息と元金とを返済し,抵当証券業者が,その利息の一部を顧客に
支払うと同時に,返済された元金によって抵当証券購入代金を償還するという
ものである。そして,前記のように,抵当証券業者は,モーゲージ証書の方式
で顧客に小口化された抵当証券の共有持分権を販売し,その際,裏書人として
の立場で元利金の支払を顧客に保証するのが一般的であり,融資先から受領す
る利息額と顧客に支払う利息額との差額が保証料に当たることになる。
【甲37,205,乙8】
3抵当証券業規制法の国会審議における議論等
抵当証券業の規制等に関する法律案(第109回国会内閣提出第9号)を国
会に提出するに当たり,内閣は,「最近における抵当証券業の状況にかんがみ,
抵当証券の購入者の保護を図るため,抵当証券業を営む者について登録制度を
実施し,その事業に対し必要な規制を行うことにより,その業務の適正な運営
を確保する必要がある。」との理由を付した。
上記国会(昭和62年)における同法案の提案理由,目的及び背景等につい
て,大蔵大臣は,近年,国民の金融資産の増大や金利自由化の進展に伴う金利
選好の高まり等を背景として抵当証券取引が急速に発展している一方,悪質業
者による抵当証券のカラ売り,二重売り等によって多数の購入者に被害が生じ
てきている実情を踏まえ,悪質業者の参入を防ぎ,業務が適正に運営されるよ
うに最小限度の規制を加えて抵当証券の購入者の保護を図ることにある旨説明
していた。衆参両院の大蔵委員会では,①抵当証券取引の現状(大蔵省銀行
局長より,取扱業者が100社程度,販売残高は1兆円程度であり,他の投資
物件に比べてリスクがあるものの小口でかつ金利がやや高めであるために普及
し,個人事業主や中小企業にとって銀行融資を保管する形の新たな長期の資金
調達手段を提供するものとしても役に立っているが,一部悪徳業者による被害
が昭和61年春ころから目立ち始めている旨,警察庁刑事局保安部経済調査官
より,これまでに抵当証券に係る詐欺事案として日証抵当証券事件等6事件を
検挙し,被害者数は約2000人,被害総額は約26億円に上った旨各答弁),
②投資家の自己責任の問題(大蔵省銀行局長より,自己責任の問題は非常に
重要な課題であり,今回の法案にも,購入者の抵当証券に対する知識を充実さ
せるべく,抵当証券業協会を設立して購入者等に対する広報を担わせることが
盛り込まれている旨,大蔵大臣より,抵当証券のような金利の高い商品につい
ては多少のリスクがあることは当然であり,市場経済の中から取引が自然に生
まれること自体は肯定的に捉えられるが,今回の法案は自由経済の中で起こっ
てきた不正や詐欺について規制を行い,十分な知識を有していない購入者の保
護を与える趣旨のものである旨各答弁),③モーゲージ証書による販売方法
と法案との関連(大蔵省銀行局長より,モーゲージ証書による販売方式は,契
約自由の原則から違法性はないと考えられ,今回の法案は,モーゲージ証書を
用いた販売方式をそのまま受け入れて投資家保護の観点から法整備を行ったも
のであるが,今後は抵当証券保管機構で抵当証券を預かって保管証により対応
関係を明らかにしていくことから投資家保護の点で欠けるところはないと考え
る旨,内閣法制局第三部長より,モーゲージ証書の法的性質は抵当証券の売買
の事実,元利金の取立委任を受けている事実及び買戻特約等の存在を明らかに
する証拠証券であって有価証券ではなく,抵当証券業規制法の施行後は同法1
6条所定の契約時交付書面がこれを兼ねることが多いと思われる旨各答弁),
④登録制を導入した趣旨(大蔵省銀行局長より,営業の自由をできるだけ尊
重し,制度の効率性を維持しつつ立法目的を達成するために必要最小限の規制
をする趣旨であるが,開業規制,行為規制や抵当証券保管機構の設置によるカ
ラ売り,二重売りの防止等により十分に購入者の保護を図り得る旨答弁),⑤
登録の有効期間(大蔵省銀行局長より,登録を更新させて一定期間ごとに定
期的に登録拒否要件に該当するか否かの確認を行うために設けたものであり,
その期間については,有効期間の安定性,行政側の事務負担等,確認を受ける
事業者の立場等を総合勘案して3年とした旨答弁),⑥不動産鑑定士による
鑑定の過大評価の問題(国土庁土地局地価調査課長より,社団法人日本不動産
鑑定協会と緊密に連絡を取りつつ,抵当証券に係る不動産鑑定評価に遺漏のな
いように不動産鑑定士に対する更なる指導の徹底を図っていきたい旨,法務省
民事局第三課長より,登記官は鑑定の内容について実質審査はできないが,国
土庁や不動産鑑定協会等と十分協議して,できるだけ正確な鑑定が出るように
その手続を検討していきたい旨各答弁),⑦登録業者であるという安心感に
より購入者保護がかえって後退する可能性(大蔵大臣より,登録拒否や立入検
査権限等により対応するが,抵当証券発行額決定時の鑑定評価のあり方等につ
いては抵当証券法による規制が維持されるのみで,今回の法案の対象ではない
旨答弁),⑧登録拒否事由のうち「財産的基礎及び人的構成を有しない法
人」の意義(大蔵省銀行局長より,その趣旨は,抵当証券業者が抵当証券を投
資家に販売する際に多くの場合保証をしていることから,その保証の基礎には
十分な財産的基盤がなければならないこと,多くの場合抵当証券は3年ないし
5年という期間で投資家が所有しており,その間に抵当証券業者について経営
上問題が起こるということがあると投資家保護の上で問題が生じること,抵当
証券業者が投資家に販売する抵当権付き債権が非常に信用のない債権である場
合には仮に抵当権がついていても投資家保護の上で問題が生ずるおそれがある
ことなどを考慮して定められたものであり,その具体的な中身については今後
詰めるべき問題であるが,財産的基礎については開業の際の自己資本額及び純
資産額(開業の際に資本金が十分あっても3年後に純資産額が減っていた場合
は問題である),人的構成については債務者の返済能力や担保評価を適正に判
断することができる人材が何人いるか等の基準を考えており,後者の審査につ
いては役員等の履歴書,住民票等を添付書類として提出させ,これらを参考に,
対象者の人権や行政権限の範囲にも留意しつつ,問題のある人物が抵当証券業
者に入り込まないよう監視していく旨答弁),⑨登録を拒否される業者が出
た場合における購入者保護の方策(大蔵省銀行局長より,今回の法案が成立し
た後も半年間は登録がなくても抵当証券業者は営業可能とされているが,仮に
抵当証券業者が登録を拒否されても当該業者との間においては抵当証券は私法
上有効である上,業者が倒産した場合にも抵当証券保管機構に取立て等を委任
したり,場合によっては他の業者が当該抵当証券を引き受けることもあり得る
ところであり,これらの措置を念頭に置きながら投資家の保護を図っていく旨
答弁)等の点が議論され,委員からは,抵当証券保管機構が発行した保管証と
抵当証券業者の発行するモーゲージ証書とが時間的間隔を置かずに購入者に交
付されることが事件,事故の防止のために重要である,倒産した抵当証券会社
から白地式裏書による抵当証券の譲渡を受けていた者は破産実務上一般債権者
としかみなされておらず,当局としても抵当証券業者に対し,抵当証券の記名
式裏書を行うよう強く指導すべきである等の指摘がされた。上記法案は第10
9回国会において衆議院で,第111回国会において参議院でそれぞれ審議の
上全会一致で可決され,同国会において成立した。
【乙7】
4本件の経緯(当事者間に争いがないか,掲記の書証等によって容易に認定す
ることができる。)
以下,本判決においては,次の略語を用いる。
国家賠償法:国賠法
宅地建物取引業法:宅建業法
ナイス・ミドル・スポーツ倶楽部株式会社:ナイスミドル
ナイス函館カントリークラブ株式会社:ナイス函館
株式会社美祢カントリークラブ:美祢カントリークラブ
ベストライフ通商株式会社:ベストライフ通商
北海道泊別観光株式会社:北海道泊別観光
株式会社リステム化学研究所:リステム化学研究所
北海道函館観光株式会社(ナイス函館の前身):北海道函館観光
(1)大和都市管財の概要
大和都市管財は,Y1(昭和11年9月に大分県で出生し,昭和33年4
月から大分,福岡両県庁で勤務し,昭和45年9月に退職。昭和46年10
月に相互住宅開発株式会社に入社し,それ以降不動産の仲介・販売業に従事
していた。)が昭和55年12月,休眠状態であった株式会社伏見屋の株式
全部をY6から買い取ってその代表取締役に就任し,「新都市計画株式会
社」に商号変更して不動産の仲介・販売業を手がけ,昭和60年2月にはそ
の商号を「大和都市抵当証券株式会社」に変更して同年4月から抵当証券の
取扱いを開始し,昭和62年7月に現商号に変更した会社であって,大阪市
に本店を有していた。同社は,全11社で構成される大和都市管財グループ
の中核を成していた(その内訳は別紙1のとおりである。以下,大和都市管
財を除く前記グループ所属会社の全部又は一部を指して「グループ会社」と
総称することがある。)。Y1は,同グループにおける経営の中心人物であ
り,平成13年まで一貫して大和都市管財の代表取締役の地位にあったほか,
平成9年12月までに,以下のとおりグループ会社の役員を歴任していた。
昭和56年3月新都市住宅株式会社(ベストライフ通商の前身)代表
取締役
(同年9月退任)
昭和58年11月大和フード株式会社(ベストライフ通商の前身)代表
取締役
(昭和62年9月退任)
昭和62年8月ナイスミドル取締役
(平成6年10月退任)
昭和63年9月ベストライフ通商代表取締役
(平成元年10月退任)
平成4年4月リステム化学研究所取締役
(平成6年6月退任)
平成5年9月北海道函館観光取締役
(平成6年6月退任)
平成5年10月北海道泊別観光取締役
(同年12月退任)
また,大和都市管財及び主要なグループ会社の平成9年4月ころにおける
役員構成は別紙2のとおりであり,同じく平成13年3月26日時点におけ
る株主構成及び役員構成等は別紙3のとおりである。なお,大和都市管財及
びグループ会社は,いずれも株式を譲渡するについてその取締役会の承認を
受けなければならない,いわゆる閉鎖会社であった。
【甲1,10,90の2,106,110,乙6,45】
(2)大和都市管財の経営状態等
大和都市管財は,近畿財務局長に対して抵当証券業の登録を申請し,近畿
財務局長は,昭和63年12月,大和都市管財を抵当証券業者登録簿に登録
した。同社は,グループ各社に対してのみ特約付き融資を行い(別表1。こ
れらの貸付先各社に,かつて特約付き融資がされていたが平成13年4月ま
でに全額が償還されていた北海道泊別観光を加えて,以下「グループ6社」
と総称する。),グループ6社が所有する物件について,法務局から抵当証
券(原券)の発行を受け,その共有持分権をモーゲージ証書の形式で顧客に
販売していた(平成9年4月30日現在における大和都市管財の特約付き融
資の概要は,別表2のとおりであり,いずれも,弁済期までは利払のみがさ
れ,元本は弁済期に一括して返済する約定となっていた。以下,担保物件の
名称については省略されたもの(括弧内)を用いる。)。
グループ6社の経営状態は,その決算書上,平成7年以降は一貫して債務
超過の状態にあったが,同一期間において大和都市管財が販売していたこれ
ら各社を債務者とするモーゲージ証書の利率は,四半期末販売平均約定利率
がおおむね4パーセント台となっていて,定期預金その他の金融商品の利率
はもとより,全抵当証券業者の四半期末顧客向け平均約定利率を上回ってい
た。平成6年3月期から平成12年3月期までにおける大和都市管財の貸借
対照表及び損益計算書は,別紙4のとおりである。なお,同社は,金融機関
等の親会社のない,いわゆる独立系の抵当証券業者であった。
【甲90,186,乙3,13,80,141,弁論の全趣旨】
(3)近畿財務局による検査(平成6年)
近畿財務局は,平成6年9月9日から,大和都市管財に対する立入検査を
実施した(以下「平成6年検査」という。なお,近畿財務局における検査事
務年度は,7月から翌年6月までである。)。
平成6年検査において,近畿財務局は,大和都市管財が顧客に年6ないし
8パーセントの割引率で1年後に買い戻す約定で行っていた金融商品(大和
都市管財を貸主,ナイスミドルを借主とする極度額25億円の金銭消費貸借
契約(限度貸付契約書)を締結し,元利金弁済のためナイスミドルが大和都
市管財に対して約束手形を振り出し,大和都市管財が裏書保証するとともに
ナイスミドルがバンクオブアメリカに有する譲渡性預金債権に担保権を設定
し,限度貸付契約書に定められた事項が確実に実行されることを目的にY7
弁護士との間で業務委託契約を締結した上,大和都市管財,Y7弁護士及び
購入者の三者間において手形の売買及び保管に関する確認証(公正証書)を
交わして約束手形自体は弁護士が保管し,手形保管証を購入者に交付すると
いうもの。以下「手形商品」という。)の販売が出資法に違反するおそれが
ある旨指摘してその中止を口頭で指導したが,同社は,弁護士等と相談し,
違法性はないことを十分検討した上で販売している旨回答した。
また,近畿財務局は,大和都市管財とグループ会社との間において,特約
付き融資の利率を年9.0パーセントないし10.0パーセントから年6.
5パーセントに減少させる旨の抵当証券発行特約付金銭消費貸借利率変更合
意書(以下「本件合意書」という。)が作成されているものの,その作成日
付が当初の融資契約書の作成日付より以前となっているものがあることを突
き止め,同社総務部長のY8に対しその説明を求めた。
加えて,近畿財務局は,大和都市管財が融資審査体制を確立していないこ
とについて,同社に対しその改善を指導した。これに対し,同社は,文書に
よる審査経過は残していないが,不動産鑑定士の鑑定を基にして幹部会議を
開き,融資の審査を行っている旨弁解した。
【甲5,7,乙22,弁論の全趣旨】
(4)大和都市管財に対する更新登録(平成6年)
近畿財務局長(Y9。(5)及び(8)において同じ。)は,平成6年検査の最
中である平成6年12月21日,大和都市管財の更新登録を認めた。
(5)検査結果通知の発出(平成6年)
近畿財務局長は,平成7年5月26日,大和都市管財に対して検査結果の
通知(近財金3秘第22号。以下「平成6年検査結果通知」という。)を発
出し,同通知書において概要下記のような指摘をするとともに,グループ会
社の経営見通しの正確な把握,少なくとも今後5か年度分の大和都市管財の
収支見込等を踏まえた経営健全化計画及び財源計画の策定,融資審査体制の
整備等を求め,その回答期限を同年6月26日と定めた。【甲5,6】

①特約付き融資は,すべて大和都市管財グループの5社に対して行われ
ているが,その経営状況はいずれも多額の累積赤字を抱えるなど極めて
悪化している状況にある。このようなグループ各社の経営状況にもかか
わらず,その状況を追認した上で更なる特約付き融資を繰り返し,当該
融資に係る抵当証券を積極的に販売している結果,大和都市管財の資産
内容は著しく不健全となるなど,その経営状況は誠に憂慮すべきである。
現状では,大和都市管財の経営そのものが立ちゆかなくなる危険性が極
めて高く,抵当証券購入者の保護の観点から問題がある。
②大和都市管財は,その融資について,申込者の返済能力や事業計画を
判断するための資料や担保価値を調査するための資料等,審査に必要な
資料の収集・検討を行っておらず,審査をほとんど行わないままこれを
実行しており,これまでの当局からの指摘にもかかわらず,あらかじめ
定めた審査手続等に基づき審査を行った後に融資を実行するという融資
の審査方法や審査体制に関するルールが依然として確立されていない。
③大和都市管財においては,抵当証券購入代金受入口座が専用口座にな
っていないために,抵当証券購入者から受け入れた購入代金が他の資金
と混同して取り扱われており,募金途上において抵当証券購入者から受
け入れた購入代金が払込期日前にもかかわらず事務管理費等の諸経費の
支払のために払い出されているなど,抵当証券購入者の保護の上で不適
切な資金管理が行われている。
(6)平成6年検査結果通知に対する大和都市管財の回答
大和都市管財は,平成7年7月7日,近畿財務局に対し,同社の責務はグ
ループ各社の救済にあるとし,「景気回復の政策は,必ず大きな成果をもた
らすものであると信ずる。従って,今こそ関連会社に対する,活性化の為の
事業融資を行い,その事業の完遂を,全力を挙げて当社が支援を行っていく
とすれば,赤字は黒字に転化し,経営は好転をし,更に当社の経営も,盤石
の体制を確立することが出来ると確信している。」などと述べるとともに,
融資の審査については,「当社は常に公示価格,路線価格,周辺の実勢価格
を充分審査の上,事前に鑑定士の鑑定を基にして幹部会議を開き,融資の審
査を行っている。」,「鑑定士の鑑定評価証明が,当社の審査内容とほぼ一
致した場合のみ,融資の実行を行っている。いわば審査の事跡は鑑定評価証
明書そのものであると考える。」などとする内容の回答書,及び担保物件ご
との利用方針を示した表(以下「本件物件明細表」という。)を提出した。
近畿財務局は,同日,大和都市管財に対し,経営健全化計画及び財源計画の
具体的な回答を提出するよう重ねて指示したが,大和都市管財は,その最終
的な回答期限である同月28日までに回答を提出しなかった。【甲5】
(7)近畿財務局の行政処分方針案(平成7年)
近畿財務局は,平成7年8月1日,大和都市管財に対する,概要下記のよ
うな行政処分方針案をまとめた。【乙12】

①経緯等
大和都市管財の融資先は同族会社であるベストライフ通商外の計5社
であるが,役員の状況等から融資先と経営,財務は一体となっており,
融資先の資金はすべて大和都市管財により賄われている。また,同業他
社が事業を縮小・撤退している状況の下,同社は高金利により顧客を勧
誘し,積極的な抵当証券の販売を行っており,同社の抵当証券販売残高
は平成5年以降においても2.7倍に急増していた。ところが,平成6
年8月下旬,同社が多数の大口顧客の抵当証券モーゲージを中途解約さ
せ,詐欺まがい商品に乗り換えさせている旨の情報が入ったことから,
同年9月,投資家保護のため急きょ同社に対する立入検査を実施した。
立入検査では,同社自身の財務状況のほか,手形商品を乗換え用に売買
していることを契機として,グループ会社の財務状況等に関しても資料
提出を命じ,ヒアリングや資料徴求等を行った。
②検査により把握した問題点等
大和都市管財は,抵当証券販売により調達した資金のほぼ全額をグル
ープ会社5社の運営資金として融資しているが,各社とも経営内容は悪
く,赤字決算を余儀なくされており,累積欠損金はグループ全体で約7
2億円に達している。また,グループ会社は銀行取引等を有しないため,
その資金繰りは,大和都市管財を通じて抵当証券販売代金等を充当する
ほかないが,同社の抵当証券発行額が限度一杯に達したことから,平成
6年8月以降,同社は手形売買の形式をとりつつ米国銀行に対する預金
債権で元本保証を行っているように見せかけた手形商品の発売を開始し,
抵当証券の購入者を同商品に乗り換えさせた(平成7年3月末現在1
24億円)。
③当局のこれまでの対応
大和都市管財本体の財務状況は表面上悪くないが,グループ会社の財
務状況が深刻である上,大和都市管財は独立系の抵当証券会社で金融機
関からの支援を期待することができないことから,グループ会社が倒産
等の事態となれば,大和都市管財の倒産等の事態をも招きかねないため,
検査結果の示達に当たってグループ会社を含めた経営健全化計画の策定
等を厳しく指導したが,同社からは具体的な改善計画についての回答は
されず,平成7年7月24日,同社の公認会計士から,具体的な計画の
作成は難しい旨の内々の連絡があった。
④今後の対応
大和都市管財の経営状況は,グループ会社の経営悪化から時間の経過
とともに累積欠損金が拡大しているにもかかわらず,検査結果通知書を
通じた改善指導によっては同社の経営改善を期待することができないこ
となどから,以下のとおり,同社に対して行政処分を進めることとする。
8月1日業務改善命令についての弁明の機会の付与の通知
8月17日弁明書の提出期限
8月21日業務改善命令発出
9月4日業務改善命令に対する回答期限
〔それでもなお,経営改善化計画の提出等が行われない場合〕
9月6日業務停止命令(6か月)についての弁明の機会の付与の
通知
9月22日弁明書の提出期限
9月26日業務停止命令,官報掲載
(8)近畿財務局長による弁明の機会付与通知(平成7年)
近畿財務局長は,前記方針に基づき,平成7年8月1日,大和都市管財に
対し,その経営状況からみて抵当証券購入者が被害を被る蓋然性が高く,購
入者の利益を害する事実があるとして,業務改善命令発出のための弁明の機
会付与に係る通知(近財金3秘第95号)をし,その中で,予定する処分の
内容は,①グループ各社の今後の経営見通しを正確に把握し,大和都市管
財の経営健全化計画(少なくとも5か年度分)を作成,提出した上で,その
内容を確実に実施すること,②毎月の収入及び支出を算出し,今後の毎月
の買戻しに対する財源計画(少なくとも5か年度分)を作成,提出した上で,
その内容を確実に実施すること,③融資決定前に行うべき審査の方法や手
続等に関するルールを確立し,当該ルールに基づく審査を経て融資決定を行
うという融資審査体制を確立すること,などであり,①及び②の実施に当た
っては,ア新たに施設整備を行うことにより収入を得ることを予定してい
るグループ会社については,当該施設に係る整備予定地の位置,現況,都市
計画法上の区域の区分等及び開発許可状況について分かる資料を提出すると
ともに,地方自治体等の許可が必要な施設整備については,現時点で許可が
されている場合に限り当該施設に係る収入を見込むこと,イ不動産の売却
や賃貸による収入を見込む場合には,過年度の実績や近隣の複数の類似物件
の価格,賃料や需要の実態等客観的な資料に基づき算出すること,ウ飲食
物や製品等の売上収入を見込む場合には,過年度の実績等客観的な資料に基
づき算出すること,エゴルフ場の利用収入を見込む場合には,過年度の実
績や近隣又は競合関係にある複数の類似のゴルフ場の料金や利用者数の実態
等客観的な資料に基づき算出すること,オゴルフ場の会員権収入の見込み
については,近隣や競合関係にある複数の類似ゴルフ場の価格や販売件数の
実態や最近のゴルフ会員権の相場の状況等客観的な資料に基づき算出するこ
と,といった指示に基づくべきことを示した。
これに対し,大和都市管財は,同月15日,近畿財務局に対し,業務改善
命令発出に関する弁明書を提出し,①抵当証券購入者の利益を害する事実
はないが,業務の改善について不備があれば当局の指導を得たい,②満期
が到来する抵当証券はすべて再販売していく方針であり,業容を縮小する意
向はなく,グループ会社についてもゴルフ会員権の販売等によって収支改善
を図っていく,③グループ会社から貸付金の回収等を図ることは更にその
経営内容を悪化させるおそれがあり,むしろ景気の回復を待って所有不動産
の事業化による積極的な事業展開を図りたい旨述べるとともに,平成8年度
から平成10年度までに特約付き融資先であるグループ会社の事業としてゴ
ルフ場3コースの会員権を合計430億円相当で販売することなどを内容と
する収支計画(以下「平成7年収支計画」という。)を提出した。
【乙18】
(9)近畿財務局長による業務改善命令(平成7年)
近畿財務局は,平成7年8月21日,Y1が反発を強め,行政不服審査請
求の申立てや弁護士等からの働きかけがあることを予測しつつも,既定方針
どおり,大和都市管財に対する業務改善命令(近財金3秘第99号)を発出
する方針を固めた(通常,業務改善命令の発出は,非公表の形で行われてい
た。原告らは,同日発出された業務改善命令が,Y1の恫喝に屈する形で即
時撤回された旨,被告は,Y1から資金繰りについての弁明があったため,
同命令の発出は見合わされた旨各主張する。このときに撤回されたか又は留
保された業務改善命令を,以下「平成7年業務改善命令」という。)。【乙
18,弁論の全趣旨】
(10)那須グリーンコースに係る抵当証券の追加発行等
大和都市管財は,平成7年10月,那須ゴルフ場を担保とする130億円
の抵当証券交付申請をしたが,宇都宮地方法務局那須出張所の登記官は,同
申請に添付された鑑定書を社団法人日本不動産鑑定協会に諮った上,鑑定評
価が高すぎるとして,同年11月8日,100億円に減額して交付した。
大和都市管財は,平成8年4月,近畿財務局に対し,那須グリーンコース
のゴルフ会員権を,ナイスミドルの事業として平成8年度から平成10年度
までに324億円(登録料及び預託金の合計額。以下同じ。)で販売するこ
となどを内容とする経営健全化計画(以下「平成8年経営健全化計画」とい
う。)を提出した。
ところが,同出張所の登記官は,同年6月6日,大和都市管財の申請に応
じ,那須ゴルフ場を担保とする55億円の抵当証券の追加発行を許可した。
その後,法務本省は,抵当証券等に係る鑑定評価の適正化のために社団法人
日本不動産鑑定協会が自主的に定めた民間機構である法務鑑定委員会を開催
し,那須ゴルフ場には55億円もの担保余力がないことを指摘したため,近
畿財務局は,大和都市管財に対し,追加発行分の抵当証券の販売を自粛する
よう指導したところ,同社はこれに反発して執拗に抗議したが,最終的には
自粛指導に応じた。
大和都市管財は,同年12月20日,近畿財務局に対し,那須グリーンコ
ースのゴルフ会員権販売計画の実行予定時期を遅らせ,平成8年度の販売予
定額については6億4000万円とした上で,平成9年度から平成11年度
までに合計315億4000万円相当で販売する旨の経営健全化計画の修正
案を提出した。
【甲7,乙9,37】
(11)大蔵本省における内部検討資料
大蔵省銀行局中小金融課金融会社室(以下「本省金融会社室」という。)
の担当官は,平成8年8月ころ,大和都市管財に関する監督の経緯をまとめ
た資料(4枚紙のものであり,1枚目の左肩に「大和都市管財㈱について」
との表題が枠で囲まれて記載されている。以下「本件内部資料」という。な
お,その趣旨,使用目的等については争いがある。)を作成した。本件内部
資料の概要は,下記のとおりである。【甲7】

大和都市管財㈱について
①会社の概要
大和都市管財は,昭和63年12月に近畿財務局で登録を受けた独立
系の抵当証券会社であり,その融資先は同族会社であるベストライフ通
商外5社であるが,役員の状況等からみて,融資先と抵当証券会社とが
一体となった極めて特異な状況(実質上の自己融資)となっている。ま
た,大和都市管財は,バブル経済崩壊後低迷を続ける抵当証券業界(平
成8年7月末現在の全業者の抵当証券販売残高は3兆5505億円であ
り,前年比20パーセント減である。)にあって年々抵当証券の販売残
高を伸ばしており(かなりの高利率を付けて販売している。),業界に
おいても上位(133社中15位)にランクされている。
②グループ全体の経営状況
大和都市管財は,金融機関等との取引はなく,抵当証券販売による調
達資金のほぼ全額をグループ会社の運営資金として融資している。しか
し,グループ会社の経営内容は悪く,各社とも赤字決算を余儀なくされ
ており,多額の累積赤字を抱えている。大和都市管財グループの連結決
算状況は,約63億円の欠損の状態にあり,同グループ全体の経営状態
は極めて厳しい。
また,資金繰りについては,大和都市管財が,抵当証券や新商品(乗
換え商品)の販売によって調達した資金によって手当てする以外には,
Y1からの個人借入金しかなく,長期借入金勘定に91億円(平成7年
3月期)が計上されている。この借入れの資金源は,Y1が17名のス
ポンサーから調達しているものとしているが,詳細は不明である。今の
ところ大和都市管財を中心に,グループ会社間でどうにか資金を回転さ
せてはいるが,特約付き融資の元本償還を迎える平成9年以降,資金繰
りが厳しくなることが予想される。
③出資法違反の疑いのある金融商品の販売について
大和都市管財は,平成6年8月下旬以降,多数の抵当証券購入者に対
し,中途解約を勧めるとともに,手形商品の購入を勧めていたことが判
明した(中途解約された抵当証券については,新たに別の顧客に販売さ
れている。)。手形商品についてY1から聴取したところによれば,大
和都市管財を貸主,ナイスミドルを借主とする極度額25億円の金銭消
費貸借契約を締結し,ナイスミドルが大和都市管財に対して25億円以
内で約束手形を振り出し交付するとともに,大和都市管財は,ナイスミ
ドルがバンクオブアメリカに有する譲渡性預金債権に担保権を設定し,
これらの事項が確実に実行されることを目的にY7弁護士(元社民党代
議士)との間に業務委託契約を締結し,大和都市管財が約束手形を投資
家に裏書譲渡するが,当該約束手形は弁護士名義の金融機関貸金庫に保
管し,投資家に対しては弁護士が手形保管証を交付するというものであ
る。手形商品に対しては,不特定多数の者に対して販売が行われ,かつ,
販売の際あたかも元本保証しているかのように購入者に説明してきてい
ることから,出資法違反の疑いもある旨大和都市管財に対し口頭で指摘
してきたほか,平成7年4月,法務省刑事局及び大阪地方検察庁(以下
「大阪地検」という。)に対し,出資法違反等の観点から早急に検討す
るよう要請した。Y1によれば,上記新商品の販売残高は124億円,
購入者数約500人とのことであった。
なお,大阪地検は,アメリカ司法当局に対して預金債権の有無につき
照会を行った結果,平成8年4月18日,バンクオブアメリカに平成7
年6月末現在で約80億円の残高があったことが確認されたとして,被
害届の出ていない現段階において詐欺罪で直ちに捜査に入ることは考え
ていない旨回答してきた。
④抵当証券販売の状況について
大和都市管財の経営状況は,抵当証券購入者が被害を被る蓋然性が高
く,購入者の利益を害する事実があると認められたことから,平成7年
8月1日付けをもって業務改善命令(経営健全化計画の作成・実施,抵
当証券買戻しについての財源計画の作成・実施等)発出のための弁明の
機会の付与通知を行い,同月21日付けで業務改善命令書を交付しよう
としたが,同社はその受領を拒否するとともに,同和関連団体に属して
いる旨を告げたため,近畿財務局長は業務改善命令を撤回してしまった
(その後,近畿財務局では業務改善命令を交付していない。)。
⑤那須ゴルフ場を担保とした抵当証券の発行について
平成7年11月,大和都市管財は,新たに那須ゴルフ場に抵当権を設
定し,ナイスミドルへ新たに130億円の特約付き融資を実行し,法務
局へは当初130億円の抵当証券の発行を申請したが,法務局は法務鑑
定委員会に諮った上,鑑定評価が高すぎるとして申請を受理しなかった。
その後,同社は100億円の発行を再度申請し,同額の抵当証券が交付
された。法務局における審査の過程で,法務省民事局に対してY10衆
議院議員(旧福岡2区・社民党)より,早期の交付要請があった。
平成8年6月,大和都市管財は,那須ゴルフ場について,200億円
の価値があるとして再度抵当証券の発行を申請したところ,法務局の担
当者が交代し,過去の経緯を承知しないことから,申請された55億円
満額の抵当証券を発行してしまった。これが,当該抵当証券のモーゲー
ジ証書を販売しようとした同年8月になって法務本省の確認するところ
となり,同月7日に当局に対して第一報があった。法務省は,法務鑑定
委員会に対し,那須ゴルフ場の再評価を行わせることにし,当局に対し
て「不動産担保評価に疑義がある。」との連絡をするとともに,再評価
が出るまで当該抵当証券のモーゲージ証書の販売を差し控えさせるよう
協力依頼があった。同月22日に再鑑定の結果が判明し,法務省より那
須ゴルフ場の評価額は120億円であったとの口頭による連絡があった。
これを受け,近畿財務局は,大蔵本省から指示があったとした上で,購
入者に不利益となる抵当証券モーゲージ証書の販売を自粛するよう指導
したところである。
⑥那須ゴルフ場を担保とした抵当証券の抵当証券業規制法における問題

130億円の価値しかない土地を200億円の価値があるものとして
抵当証券の発行を受けたもの(平成8年8月15日,民主党・Y11氏
からY12参事官に,「何故,大蔵省が止めているのか」と圧力があっ
た。)。元本割れの抵当証券を販売することは,「購入者の利益を害す
る事実があると認められ」(抵当証券業規制法23条),業務改善命令
を出すことができる。
業務改善命令に従わないときは登録取消し(同法24条)及び罰則規
定の適用がある。元本割れの抵当証券を故意に「安全確実」などと銘打
って販売したとき(偽計による販売(同法19条))も同様である。
(12)本省金融会社室に対する通報
本省金融会社室は,平成8年8月2日,不可解な販売をしている抵当証券
会社がある,として善処を求める一般人(リース会社の法人調査関係者)か
らの通報に接した。それによると,①D社という会社が顧客に対して,当
社の1000万円の手形を1年預かってくれたら1070万円で買い取る,
といったような商売をしている,②自分の父親がこの商品を勧められ,抵
当証券から乗り換えさせられた,③同社の抵当証券については,原債権が
子会社しかなく,解約しないよう一筆入れるとただでさえ高い金利を1パー
セント上乗せし,社員がグループ会社と兼職していてそのゴルフ会員権を販
売するなど,金融機関としておかしいとしか考えられない営業内容である,
④同社では1週間に3回も帝国ホテルで会議との名目で会食したこともあ
るそうであり,金遣いが荒いが,儲からなくても次々抵当証券を発行すれば
金が入るので,それを使っているのではないかとさえ考えられる,というこ
とであった。【甲12】
(13)近畿財務局に対する警察からの照会
大阪府警察本部(以下「大阪府警」という。)の生活経済課Y13課長補
佐(以下「Y13補佐」という。)は,平成8年9月24日,近畿財務局で
抵当証券を管轄する理財部金融第3課(以下「金融第3課」という。)を訪
問し,大和都市管財の顧客が抵当証券の満期時に手形商品に切替えてくれと
勧誘され困っているというクレームが警察庁生活安全局に入っているため,
手形商品に違法性がないか捜査するよう文書で指示があった,上司が指示を
受けた内容では,当局が改善命令を出したと聞いているとした上,近畿財務
局にも顧客からの同様のクレームがあるか,行政の方で困っていることはな
いか,との問い合わせをしたが,同課のY14上席調査官(以下「Y14検
査官」という。)らは,登録の有無,信用等の照会は時々あるが,クレーム
といったものは特にない旨の回答をした。なお,この会話の要旨は連絡記録
表に記載され,大蔵本省にファックスで送信されたが,本省金融会社室の担
当官は,当該ファックスの,クレームといったものは特にない,との回答が
記載された箇所に「明らかに嘘」との書き込みをした。【甲12】
(14)平成8年経営健全化計画の初年度実績
大和都市管財は,平成9年4月,近畿財務局に対し,平成8年12月31
日時点のグループ全体の決算書類(グループ全体で約147億6282万円
の債務超過となっているもの)を提出した。近畿財務局は,平成9年4月か
ら同年6月までの間に,平成8年経営健全化計画の初年度実績を確認するた
めの業況ヒアリングを数回行ったが,前記計画の初年度実績は大幅な未達で
あった。【乙37ないし40】
(15)近畿財務局による検査(平成9年)
近畿財務局は,平成9年6月19日から,大和都市管財に対する立入検査
(以下「平成9年検査」という。)を実施した。
平成9年検査において,近畿財務局は,Y8を通じて任意で融資先である
グループ会社の総勘定元帳の提出を受け,ナイスミドルの総勘定元帳に,大
和都市管財からの55億円の特約付き融資((10)記載のもの。)を受け入れ
た旨の記載がないことを発見したが,その後,大和都市管財及び融資先グル
ープ会社から,融資先グループ会社の総勘定元帳を検証することは了解して
いないなどの抗議を受けたことから,それらの帳簿を返還した。また,大和
都市管財側は,上記記載漏れは会計士の過誤であり,55億円の貸付けは小
切手によって現に行われている旨弁明した。
(16)近畿財務局長による弁明の機会付与通知(平成9年)
近畿財務局長(Y12。(18)において同じ。)は,平成9年10月21日,
大和都市管財に対し,①前回検査で指摘したところであるが,融資審査体
制は依然として未整備で,融資決定前に行うべき審査の方法や手続を定め,
当該手続等に基づき融資決定を行うなど特約付き融資に関する審査体制の確
立を図る必要がある,②グループ6社はいずれも経営状況が極めて悪く,
結果的に大和都市管財の経営が困難となる可能性があるから,グループ各社
の今後の経営見通しを正確に把握し,大和都市管財の経営健全化計画を作成
するとともに,今後の抵当証券買戻しに係る資金の確保を図る必要がある,
③ナイスミドルの総勘定元帳には抵当証券借入金55億円の計上がないこ
とから融資の実行が疑われる内容となっており,銀行の預金口座を通して資
金の授受を行うなど,今後は経理処理の明確化を図る必要がある,などと記
載した平成9年検査に係る検査結果の通知(近財金3秘第40号。以下「平
成9年検査結果通知」という。)を発出するとともに,①融資審査体制の
確立,②経営状況改善のための経営健全化計画(平成9年度から13年度
までの5か年度。ただし,9年度は9年11月,10年度から13年度まで
は各年度の5月末までに裏付け資料を添付して提出する。)の作成・実施,
③抵当証券買戻し資金の確保を求める業務改善命令の発出のための弁明の
機会付与に係る通知(近財金3秘第39号)をした。
大和都市管財は,近畿財務局に対し,平成9年10月28日付けでその代
表取締役Y1名義の弁明書を提出した。その概要は,①融資審査体制の確
立につき,大和都市管財は,特約付き融資については従来より極めて厳重な
審査を行ってきており,特に不動産鑑定士による鑑定評価を中心として取締
役会において徹底議論を行い融資の可否を決めてきたが,今後は融資手続や
体制についても成文化していく,②経営状況の改善につき,ナイスミドル,
ナイス函館,北海道泊別観光及び美祢カントリークラブについては,それぞ
れゴルフ会員権販売を行うことにより十分な資金の確保と経営の健全化を確
実に実施し,ベストライフ通商及びリステム化学研究所には,近々遊休地の
最適利用や売却なども念頭に置きながら改善措置を講じるよう申し入れる,
③抵当証券買戻し資金の確保につき,大和都市管財の最も重要な課題であ
り,今後予定される買戻しについても逐次万全に遂行できるものと確信して
いる,との趣旨のものであった。
【甲13,15】
(17)業務改善命令(平成9年)の決裁
近畿財務局は,平成9年10月29日,概要下記のような検討の下に,大
和都市管財に対する業務改善命令の発令を決裁した。【乙22】

1.大和都市管財の状況
①概要
大和都市管財は,低迷を続ける抵当証券業界にあって年々販売残高を
伸ばしており,平成9年3月末現在の抵当証券販売残高479億円(業
界127社中15位),販売件数約2万件,購入者数約1万人となって
いる。
②グループ会社への融資
大和都市管財の融資先はグループ6社(5社の社長はY1の長男,1
社はY1の友人)であり,融資先と融資している抵当証券業者とが一体
となった極めて特異な状況(実質上の自己融資)となっている。大和都
市管財自体は利益を計上(平成9年3月期当期利益1700万円)して
いるものの,グループ6社はいずれも多額の債務超過となっており,グ
ループ全体の経営は極めて厳しい状況(平成8年12月末グループ連結
債務超過額105億円)にある。なお,大和都市管財には,Y1個人か
らの長期借入金81億円(平成9年3月末)があるが,その資金源は不
明である。
③手形商品
大和都市管財は,平成6年8月以降,多数の抵当証券購入者に対し,
中途解約を進めるとともに,手形商品の購入を勧めている(平成9年3
月末の販売残高約150億円,購入者800から900人)。この商品
は不特定多数の者に販売が行われ,かつ,元本保証しているかのように
説明している模様であり,出資法違反の疑いがある。
④那須ゴルフ場を担保とした抵当証券の発行
大和都市管財は,平成7年11月,ナイスミドルの保有する那須ゴル
フ場に抵当権を設定したが,130億円の抵当証券の発行申請に対して
100億円の抵当証券しか交付されなかったものの,平成8年6月に同
じゴルフ場を担保に55億円の抵当証券の追加発行を申請したところ,
法務局は担当者が代わったこともあって申請どおりの抵当証券を発行し
てしまい,近畿財務局が大和都市管財に対して追加分の販売を自粛する
よう指導している。また,この55億円の追加融資については,ナイス
ミドル側の帳簿に記載がないことから,架空融資の疑いもある。
2.行政対応の経緯
①近畿財務局は,平成7年4月13日,手形商品について大阪地検に情
報提供を行うなどし,同年8月21日には業務改善命令書を交付しよう
としたが,大和都市管財はその受取りを拒否した。
②近畿財務局は,平成7年12月以降,大和都市管財の経営状況につい
て逐次ヒアリングを実施しており(平成9年5月までに7回実施),平
成8年4月には同社から経営健全化計画が提出されている。
③近畿財務局は,平成9年6月19日,平成9年検査に着手し,グルー
プ6社の預金残高証明書,大和都市管財グループ全体の平成9年3月末
の連結決算書を大和都市管財に対して提出するよう求めており,預金残
高証明書については提出されたものの,連結決算書については公認会計
士の病気を理由に提出されなかった。
3.業務改善命令の発出
①発出の必要性
グループ6社が破綻した場合,大和都市管財も破綻することが予想さ
れ,また担保となっている不動産からの回収も一部にとどまると予想さ
れることから,抵当証券の購入者に多大の被害が発生することが予想さ
れる。したがって,その被害を最小限に抑えるとともに,被害の拡大を
防止することが,購入者保護の観点から極めて重要と考えられる。また,
大和都市管財が破綻した場合,国会でこれまでの監督の経緯について厳
しく追及されるほか,被害者から国家賠償請求訴訟を提起される可能性
は否定することができないことから,行政当局としてできる限りの措置
を行っておくことが必要である。
②抵当証券業者に対する検査・監督のあり方
基本的には,抵当証券業規制法は,営業の自由をできる限り尊重し,
規制を必要最小限にとどめるとの観点から登録制を採用し,主として二
重売り・カラ売り等不適切な販売等を規制し,抵当証券の購入者保護を
図ろうとするものである。したがって,立入検査においても,業務上の
行為規制(広告規制,情報開示等)が遵守されているかどうかを検査す
ることに主眼がある。こうした法令の趣旨及び検査体制の現状(限られ
た人員)を踏まえれば,一般的に各抵当証券業者について,免許制をと
る銀行等と同様の経営の実態把握を行うことは,今後においても適当と
は考えられないが,行政当局として個別に購入者保護を損なう恐れのあ
る経営状況を把握した場合には,法令に照らして適切な対応を行うこと
は当然である。
③大和都市管財の状況
平成9年検査の結果等によれば,以下の点が指摘できる。
ア大和都市管財は,グループ6社に対する融資に当たり,従前からの
指摘にもかかわらず借入申込書,財務内容,資金使途等を示す書面を
徴求しておらず,役員会議議事録にも融資に係る記載がないなど,融
資審査体制が未整備である。
イ平成8年12月末の大和都市管財グループ全体の連結決算では,グ
ループ6社はいずれも債務超過となっており,かつ,平成8年経営健
全化計画の達成状況は,初年度(平成8年度)が大幅な未達となって
おり,結果的に同社の経営が行き詰まる可能性がある。
④購入者利益との関係
業務改善命令は,抵当証券の購入者の利益を害する事実があると認め
るときに発出することができるとされており,大和都市管財の状況がこ
れに該当するか検討する必要がある。
まず,融資の審査体制が不備であることについては,抵当証券は基本
的に債務者から元利の弁済が確実に行われること及び担保価値が十分に
あることが期待されている商品であり,抵当証券業者において,担保を
含めた融資の審査体制が不備であることは抵当証券の購入者の利益を害
する事実に該当するおそれがあると認められる。また,グループ6社の
経営状況が極めて悪いことから,大和都市管財の経営が行き詰まる可能
性が極めて高い状況にあるところ,抵当証券については融資先が元利の
負担者であり,抵当権が設定されている不動産により元利が回収される
べきものであることから,抵当証券業者の破綻は購入者保護の観点から
問題とならないとの考え方もできるが,抵当証券業者は融資先から元利
を受領し,抵当証券の購入者に支払をするという業務を適確に遂行する
役割を担っており,抵当証券業者が破綻した場合には,抵当証券保管機
構はあるものの,円滑な元利金の受領弁済が受けられなくなることから,
購入者の利益を害することになると考えられる。
なお,抵当証券業者は,購入者に対し抵当証券の元利を保証し,さら
に一定期間(1ないし5年)後に買い戻すという約定で販売するのが通
常であるが,抵当証券保管機構が元利の弁済受領等業務を行う場合には,
元金の弁済は抵当証券原券の弁済期日(通常1ないし30年後)となっ
てしまうことからも,抵当証券業者の経営破綻は購入者利益を害するこ
ととなる。また,同社に対し平成7年業務改善命令を発出しようとした
際には,融資先の関連企業が資金繰りが窮しかねないほど経営状況が悪
化しており,かつ,好転する要素が現状では見いだせない状況にあるこ
とから,結果的に抵当証券業者の経営が行き詰まる危険性が極めて高い
場合には,購入者に被害が生じる蓋然性が高いから,「購入者の利益を
害する事実」があると認められ,業務改善命令を発出することができる,
との考え方で(内閣)法制局の了解を得ている。
また,「2年前には業務改善命令の発出を見合わせたにもかかわらず,
今回はなぜ発出することとしたのか」と問われた場合,「当時は大和都
市管財の自主的な経営改善努力に期待する余地があったが,現状をみる
と,業務運営体制の不備は何ら改善されておらず,また,自主的な経営
健全化計画も初年度より大幅未達となっており,もはや同社自身による
積極的な対応を期待することができないことから,法令に基づく命令に
より同社の対応を求めることとした。」と説明してはどうかと考える。
⑤業務改善命令の内容
業務改善命令の内容については,その根拠条文で与えられている裁量
の範囲や,抵当証券業規制法上,業務改善命令に違反した場合には,登
録の取消し又は業務停止命令の対象となることから,命令先が具体的に
何をすべきか不明確であり,また,明らかに実行不可能なものは,業務
改善命令として不適切である。
なお,大和都市管財の融資先はいずれも債務超過であり抵当証券の元
利弁済が滞る危険性が高いことから,直接的に債務超過先に対する抵当
証券の販売自粛又は買戻し等を求めることも考えられるが,直ちに経営
破綻又は命令違反となりかねないという問題がある。
また,大和都市管財の抵当証券の担保不動産は,地価下落の影響を受
けるとともに,ゴルフ場のほか墓地公園予定地等も含まれ流動性に乏し
いことから,最終的に換価処分した場合に大幅な元本割れを生じる可能
性が高い。したがって,購入者保護の観点から,同社に対し,各融資の
担保物件について処分価格で再評価を行わせ,それぞれの担保価値に見
合った額まで抵当証券の販売額を抑制するよう求めることも考えられる。
しかしながら,地価下落等による担保割れは全抵当証券業者に共通の問
題であり,本来抵当証券とはこうしたリスクを内在しているとも考えら
れることのほか,この場合も直ちに経営破綻又は命令違反となる可能性
がある。
⑥弁明書の検討
大和都市管財は,平成9年10月28日に弁明書を提出してきたが,
その内容は不十分であり,既定方針どおり業務改善命令を発出すること
とする。なお,業務改善命令の発出がマスコミ報道のきっかけとならな
いよう非公表とするとともに,行政内部における情報管理の徹底を図る
こととしたい。
4.業務改善命令のスケジュール
平成9年10月21日業務改善命令についての弁明の機会の付与
同月28日弁明書の提出期限
同月31日業務改善命令発出
同年11月14日業務改善命令に対する回答期限
なお,相手方が来局できないときは,郵便により送付することとし,
その場合の回答期限は同年11月18日とする。
(18)近畿財務局長による業務改善命令(平成9年)
近畿財務局長は,平成9年10月31日,近財金3第49号をもって,同
社に対し,概要下記のような業務改善命令を発した(以下「平成9年業務改
善命令」という。)。

1.命令事項
①融資審査体制の確立
特約付き融資に関する審査体制の確立を図ること。このため,融資決
定前に行うべき審査の方法や手続を定め,当該手続等に基づき融資を行
うこと。
②経営状況の改善
大和都市管財の経営状況の改善を図ること。このため,特約付き融資
先のグループ6社の今後の経営見通しを正確に把握した上,平成9年度
から平成13年度までの5か年度について,各年度ごとの大和都市管財
の経営健全化計画を作成,実施し,その内容を確実に実施するとともに,
平成10年度から平成13年度までについては,各年度の5月末までに
計画の見直しを行うこと。
③抵当証券買戻し資金の確保
今後の抵当証券の買戻しに係る資金の確保を図ること。
④②記載の経営健全化計画については,平成9年度については同年11
月18日までに,平成10年度から平成13年度までは各年度の5月末
までに,裏付けとなる資料を添付して書面で提出すること(注:なお,
いかなる資料が必要かについての具体的な指示はない。)。
2.処分の理由
平成9年検査の結果によれば,大和都市管財の特約付き融資に係る審査
体制が不備であり,グループ各社はいずれも経営状況が極めて悪い上,グ
ループ各社を含む大和都市管財の経営健全化計画は,初年度(平成8年
度)より大幅未達となっていることから,結果的に同社の経営が困難とな
る可能性がある。このような同社の業務運営体制及び経営状況により,同
社の抵当証券の購入者は被害を被る蓋然性が高く,抵当証券の購入者の利
益を害する事実があると認められるため。
【甲17,乙22】
(19)告発文書の送付
大和都市管財の営業社員を名乗る人物は,平成9年秋,「近畿財務局の反
社会的行為と罪について」と題する書面(以下「本件告発文書」という。)
を,大蔵本省等に送付した。同書面には,①同年10月31日付けの朝日
新聞に大和都市管財による手形商品の販売を問題視する記事が出されたため,
その後同社はチケット制会員権をより有利な商品として販売しているが,年
12枚配布されるプレー券を換金すると実質的には年6.41パーセントの
利息が付く金融商品にほかならず,出資法違反の疑いがあること,②この
ままでは抵当証券等を購入していた顧客が皆ゴルフ会員権に乗り換えさせら
れてしまい,担保不動産による支払も不可能になるおそれがあること,③
近畿財務局による大和都市管財への処分を期待していたが,同社が上記のよ
うなゴルフ会員権販売による経営立て直しを目指しているにもかかわらず,
12月に予定されている更新登録が認められそうであるため,マスコミや大
蔵本省による近畿財務局への指導を期待していることなどが記載されていた。
【甲14】
(20)本件更新登録に至る経緯
大和都市管財は,平成9年10月20日,近畿財務局長に対し,抵当証券
業の更新の登録を申請した。提出された申請書には,代表取締役であるY1
及び取締役であるY16が,いずれも昭和60年3月12日より一般融資業
務及び特約付き融資を担当している融資業務経験者として記載され,抵当証
券業務に関する組織図として,代表者及び役員の下に,庶務・支払を担当す
る総務部門(9名),特約付き融資・一般融資を担当する融資部門(16
名),並びに,いずれも抵当証券の販売を担当する,販売部門(12名),
東京支社(13名),名古屋支社(6名)及び横浜支店(5名)が並列的に
置かれている旨の組織図が添付されていた。また,上記申請書に添付された
平成9年3月末日決算(直前の事業年度)に係る同社の貸借対照表(以下
「本件貸借対照表」という。)上は,資産の合計額が約57,338,90
3千円,負債の合計額が約56,759,423千円となっており,その差
額である純資産額は約579,480千円で,資本金額450,000千円
を上回っていた(上記申請書とその添付書類を併せて,以下「本件申請書
等」という。)。
同社は,同年11月18日,近畿財務局に対し,改めて那須グリーンコー
スのチケット制会員権を販売することなどを柱とする経営健全化計画(以下
「平成9年経営健全化計画」という。)を提出した。近畿財務局長は,同年
12月11日,同計画を受理し,同月22日付けで,大和都市管財に対し,
近財金3第507号をもって登録番号:近畿財務局長(4)第16号,登録年月
日:同月21日,有効期間:同月21日から平成12年12月20日までと
する更新登録をした旨通知した(本件更新登録)。金融第3課Y17課長
(以下「Y17課長」という。)は,平成9年12月22日,大和都市管財
に対し,平成9年業務改善命令に係る各事項の確実な実施を求めるとする
「抵当証券業務の適正な運営の確保について」と題する通知(事務連絡金3
第260号)を発した。【甲18,19,乙45,46】
(21)大和都市管財における抵当証券取引約款等
本件更新登録後における大和都市管財の「抵当証券取引約款」は,おおむ
ね下記のとおりであり,その内容は,抵当証券業協会が平成6年4月28日
付けでまとめた「標準的販売約款」と主要部分において共通である。

1条(約款の趣旨)
この約款は,大和都市管財から購入する抵当証券の売買,元金及び利
息の支払並びに保管方法等について取り決めたものであり,顧客は,こ
の約款及び抵当証券保管機構の業務規定に従って取引を行う。
2条(買戻特約付売買)
顧客は,抵当証券を,あらかじめ定めた一定期日(買戻日)に一定の
条件で大和都市管財に買い戻す条件で買い付けるものとする。
3条(買付方法)
抵当証券の買付けは,顧客が所定の申込書に必要事項を記入,捺印し
大和都市管財に提出するとともに,当該抵当証券の買付代金を同社に払
い込むことにより行う。
顧客は,買い付けた抵当証券について,単独でこれを取得する場合と
他の顧客と抵当証券を共有し買付金額の割合に応じた共有持分を取得す
る場合とがある。顧客が抵当証券の共有持分を買い付けた場合には,顧
客相互間で共有関係が成立するものとし,大和都市管財がその代理人と
なる。顧客は,抵当証券の共有持分に基づいてその買付けに係る抵当証
券の分割を請求することはできない。
4条(取引を証する書面)
大和都市管財は,顧客の買付けに係る抵当証券の取引を証する書面と
して,抵当証券取引証書を交付する。
5条(抵当証券の保管)
顧客の買付けに係る抵当証券は,大和都市管財を通じて必ず抵当証券
保管機構に預託される。同社は,抵当証券保管機構から発行された抵当
証券保管証を,前条の抵当証券取引証書とともに顧客に交付する。抵当
証券保管機構に保管された抵当証券は,顧客との取引の継続中は引出し
ができない。
6条(事務の委任)
顧客が買い付けた抵当証券に係る以下の事務は,顧客から大和都市管
財に対し委任されたものとする。
①債務者から元金及び利息を取り立て,受領し,抵当証券取引証書に
記載された約定に従って顧客に支払うこと。
②債務者から元金及び利息を受領した事実を記録し,管理すること。
③債権の保全上必要とされる追加担保の設定,債権の保全されている
範囲内での担保の変更,又は債務者若しくは担保提供者の変更,及び
これらに伴う登記その他の手続をすること。
④③記載の手続をとるため,法令の定める場合に抵当証券を抵当証券
保管機構から一時引き出すこと。
⑤抵当証券の裏面の被裏書人欄に顧客の氏名を記載することに代え,
抵当証券保管機構宛てに記名式裏書をすること。
⑥その他取引上の必要に応じて顧客の大和都市管財に対する権利を害
しない範囲内で顧客に属する権利を行使し,義務を履行すること。
7条(元利金の支払保証)
顧客の買付けに係る抵当証券について,債務者が債務を履行しなかっ
た場合でも,大和都市管財は,抵当証券取引証書に記載された約定の元
金及び利息を顧客に支払う。
8条(利息の計算)

9条(満期買戻)
顧客の買付けに係る抵当証券は,抵当証券取引証に記載された買戻日
(満期日)に,大和都市管財が元金及び約定の利息を顧客に支払って買
い戻す。
顧客が取引の継続を希望する場合には,顧客に支払うべき元金をもっ
て,新たに抵当証券を買い付けて取引を継続することができる。
10条(満期前買戻し)

11条(解約による買戻し)
顧客は,大和都市管財に事前に連絡することにより,抵当証券取引証
に記載された満期日より前に抵当証券の解約を行うことができる。この
場合において,顧客は,やむを得ない事情に基づく正当な解約理由を証
する書面のコピーの提出又は当該書面の呈示をしなければならない。
中途解約の場合,大和都市管財はその解約日に当該抵当証券を買い戻
すこととし,同社が定める解約手数料(元金に対し年2.0パーセン
ト)を元金及び約定の利息から控除して顧客に支払う。
12条(譲渡,質入の禁止)
この取引によって顧客が取得する抵当証券その他一切の権利及び抵当
証券取引証書並びに抵当証券保管証は,第三者に譲渡し又は質入等の担
保に供することができない。
13条(抵当証券の閲覧)
顧客は,あらかじめ申し出ることにより,買付けに係る抵当証券の写
しを大和都市管財の営業所で閲覧することができる。
14条以下略
また,大和都市管財が本件更新登録後に配布していた「信頼のDTK抵当
証券のご案内」と題するパンフレットには,同社の社名,本社所在地,抵当
証券業者登録番号に加え,抵当証券保管機構の業者登録番号(第147号),
抵当証券業協会会員番号(第02-016号),資本金(4億5千万円),
主な株主(代表取締役Y1,取締役Y8外),業務内容(抵当証券に関
連する金銭の貸付け及びその他の金銭の貸付け並びに抵当証券の管理,保有,
販売及び売買の仲介)等が記載され,抵当証券の仕組みが図解され,上記抵
当証券取引約款が添付されていたほか,以下の説明が付されていた。
「抵当証券とは,抵当証券法に基づいて土地,建物,地上権を担保として法
務局(登記所)が交付する有価証券です。土地建物などの評価は不動産鑑定
士による厳正な鑑定を受けております。
当社は投資家の皆様に元利金支払いの保証をいたします。
お客様は予め申し出ることにより,ご購入された抵当証券の写及び当社の
業務,財産の状況を記載した書類を当社の営業所で閲覧することができます。
抵当証券業者登録簿は,近畿財務局にてご覧になれます。
抵当証券業協会の会員の名簿は,抵当証券業協会にてご覧になれます。
グンと有利な確定利付の貯蓄商品です。
■期間は「1年満期」「2年満期」「3年満期」「5年満
期」
■お申込単位は30万円または50万円の整数倍又は,その組み
合わせ(例えば30+50=80万円)
■お申込は抵当証券申込書に必要事項をご記入の上,当社にご
提出いただき,抵当証券買付日当日までに買付代金
を払込んでいただきます。
■抵当証券はお客様がご購入される抵当証券の原券は,法律に基
づき財団法人抵当証券保管機構が同機構の業務規定
にしたがって保管します。お客様には当社の発行す
る「抵当証券取引証」と(財)抵当証券保管機構の
発行する「保管証」をお渡しします。
■利息のお支払いは6か月ごとに年利息額の半額から税金を差し引いて
ご指定の口座にお振り込みいたします。
■元本の償還は償還日に元本と最終利息をご指定の口座へ振込みま
すのでお手許の「抵当証券取引証・保管証」を当社
へご返却いただきます。
■中途解約はご希望の場合はいつでも当社が買取りいたします。
その場合は一定の買取手数料を申し受けます。(別
紙明細)
■税金はお利息に対する税金は一律20%(国税15%,地
方税5%)の源泉分離課税です。お支払いの都度,
お利息金額の20%を源泉徴収させていただきます。
したがって,確定申告の必要はございません。
※当社とのお取引にかかわる振込料はお客様にご負担いただきます。」
【甲39,40】
(22)近畿財務局による検査(平成12年)等
近畿財務局は,平成12年10月12日から,大和都市管財への立入検査
を実施し(以下「平成12年検査」という。),近畿財務局長(Y18)は,
同年12月20日付け近財金1第1038号をもって,引き続き審査を継続
することを理由に,大和都市管財の申請に係る更新登録を非公開のまま保留
した。
近畿財務局長は,平成13年4月16日,近財金1秘第5号をもって,大
和都市管財には抵当証券業規制法8条2項,6条1項7号に該当する事由が
あるとして同社に対する更新登録を拒否するとともに,同日,近財金1第8
9号をもって,大和都市管財は債務超過の状況にあり,会社整理開始原因が
存在するとして,商法381条2項に基づいて大阪地方裁判所に対し概要下
記のとおりの会社整理通告を行った。

①大和都市管財の特約付き融資先は,同社と経営・財務面で一体となり,
同社社長の実質支配会社であるグループの5社のみであるが,同5社は
いずれも債務超過の状態にあり,融資実行以降の地価の下落等を勘案す
れば,担保となっているゴルフ場,レジャー施設,商業ビル等も大幅な
担保割れの状態にあると推察される。
②大和都市管財は,平成12年3月期の貸借対照表において,少なくと
もグループ会社2社に対する51億2500万円の貸付けが資金の交付
を伴っていないにもかかわらず同額の負債が計上されておらず,実質的
に破綻しているグループ会社1社に対する債務保証についても少なくと
も5億2000万円の債務保証損失引当金の計上が必要と認められるに
もかかわらずその計上がされていないところ,これらを計上すると,大
和都市管財の資産の合計額から負債の合計額を控除した額は,その資本
の額を大幅に下回ることになる。
③大和都市管財の平成12年3月末における総資産486億円のうちグ
ループの5社に対する特約付き融資が473億円に上り,大和都市管財
の唯一の収入源もグループ各社からの受取利息であるが,平成9年経営
健全化計画の実施状況は,地価の下落や景気の低迷によりグループ各社
の事業展開がいずれも頓挫したために大幅な未達にとどまっており,大
和都市管財は,抵当権付き債権一部譲渡(抵当証券の発行を受けること
なく,抵当権付き債権を細分化して顧客に販売するという,大和都市管
財が独自に開発した金融商品。以下同じ。)等の販売を通じて辛うじて
資金調達を行っている。
④大和都市管財の資産内容はこのように極めて憂慮すべき状況にあった
ところ,近畿財務局長が平成13年4月16日付けで財産的基礎の欠如
を理由に同社の更新登録を拒否したため,同社は信用力の低下により破
綻する可能性が極めて高く,同社の近畿財務局の検査・監督に対する対
応が一貫して非協力的であったことなどに照らすと,抵当証券購入者の
保護を図る観点から同社の財産を極力保全しておくことが望ましい。
なお,上記通告書における「大和都市管財㈱と関係会社の一体性」との項
目には,概要以下のような記載がある。
平成9年経営健全化計画について近畿財務局がヒアリングする過程や
平成12年検査の過程において,大和都市管財を通じて特約付き融資先
であるグループ会社の内容を検証したところ,①グループ会社の株主
構成は,Y1とその親族等で占められており,グループ会社各社の役員
についてもY1の家族や大和都市管財の職員,元役職員が就任している
など,資本的,人的関係が極めて強いものとなっており,グループ会社
各社はY1による実質支配会社であると認められる。
大和都市管財及びそのグループ会社は,ともに金融機関からの借入れ
がなく,その資金繰りについては,大和都市管財が抵当証券の販売や抵
当権付き債権の一部譲渡等により調達した資金で賄っているほか,グル
ープ会社においては,自らが行う事業収入(ゴルフ会員権販売,飲食店,
不動産賃貸など)及び大和都市管財からの資金供給により賄っている。
グループ会社の資産・負債の大部分は大和都市管財を含むグループ会社
各社間の貸借となっており,日常的にも頻繁に資金貸借が行われている。
大和都市管財の会計とグループ各社との会計は「関係会社勘定」により
密接に関連している。
また,平成12年検査において,①特約付き融資及び抵当権付き融
資のすべての事案について,融資先であるグループ会社から借入申込書
が徴求されておらず,融資禀議書すら作成されないまま巨額の融資が実
行されていること,②特約付き融資の約定金利の変更に際して作成さ
れた「抵当証券発行特約付金銭消費貸借利率変更合意書」の一部や抵当
権付き融資に係る「弁済期日延長合意書」の一部には,債務者であるグ
ループ会社の会社名や印章が混同して使用されていることが認められる。
同じく,上記通告書「大和都市管財㈱及び関係会社に対する財産保全等の
必要性」との項目には,以下のような記載がある。
抵当証券購入者は,抵当証券業者に対する元利金保証履行の請求権を
有しているが,本来的には,原債務者に対する債権,抵当権を有してい
る。したがって,抵当証券業者が破綻したとしても,原債務者に対する
債権の担保が十分であれば抵当証券購入者の利益は保護されることにな
るが,大和都市管財の特約付き融資の担保物件は,バブル崩壊による地
価の下落のため大幅に目減りしていると推察されることから,抵当証券
購入者の保護を図る観点から大和都市管財の財産を極力保全しておくこ
とが強く求められる。
仮に,本通告に基づく会社整理の開始が認められない場合には,大和
都市管財の経営危機の表面化から,抵当証券購入者等会社債権者自身に
よる破産申立て等の法的な手続が行われることになろうが,大和都市管
財はY1によるワンマン経営で,同人の指示で資金をグループ会社やY
1との間で自由に動かすことが可能であることや,近畿財務局の検査・
監督に対する姿勢も終始非協力的であるという同社の属性,特質を勘案
すると,それまでの間に会社財産の不当な処分等や同社関係者間のみの
偏頗な弁済等が行われる可能性が高く,抵当証券購入者の被害が一層拡
大するという極めて深刻な問題が生ずるおそれがある。
また,大和都市管財の整理の実効性は,グループ会社の財産状況及び
業務状況に大きく依存しているが,グループ会社は大和都市管財と資本
的,人的さらには経営の実態からみて一体の会社であり,Y1の実質的
支配会社であることから,同人によるグループ会社財産の不当な処分等
がされる可能性が高いため,グループ会社の財産保全を行わなければ,
結果として大和都市管財の整理が困難になることが考えられる。
【甲1,2,乙57,58,弁論の全趣旨】
(23)大和都市管財に対する会社整理手続開始決定
大阪地方裁判所は,上記会社整理通告を受け,平成13年4月16日,大
和都市管財について会社整理手続開始決定(同裁判所平成13年(ヒ)第3
039号会社整理事件)及び管理人による管理命令を発し,管理人にY19
弁護士を選任したため,大和都市管財は営業を停止した。同日現在における
同社からの抵当証券の購入者は約9300人,同販売残高は約434億円で
あった。同管理人が把握した,平成13年3月現在における大和都市管財の
グループ会社に対する貸付残高は以下のとおりである。
ナイスミドル約280億円
ナイス函館約80億円
美祢カントリークラブ約110億円
ベストライフ通商約108億円
北海道泊別観光約10億円
リステム化学研究所約32億円
その他約10億円
【甲63,乙2】
(24)Y1に対する破産宣告
Y1は,平成13年7月25日,大和都市管財から破産の申立てを受け,
同年8月21日午後5時,大阪地方裁判所において破産宣告を受けた(同裁
判所平成13年(フ)第6252号破産事件)。平成14年1月22日時点
において,破産管財人が把握し回収した同人の資産は不動産,預金等で,そ
の評価額の合計は約1192万円であった。【甲110】
(25)大和都市管財に対する民事再生手続
大阪地方裁判所は,平成14年4月1日,大和都市管財に対する民事再生
手続開始決定を行い(同裁判所平成14年(再)第29号民事再生事件。同
事件に係る手続を以下「本件再生手続」という。),同社の管理人は,本件
再生手続における同社の管財人(以下「Y19管財人」という。)へとその
地位が移行した。Y19管財人が平成14年7月25日現在でまとめた再生
会社大和都市管財の非常貸借対照表は別紙5のとおりであり,その資産額が
約31億円であるのに対し,資本欠損額は約893億円である。
Y19管財人は,①大和都市管財グループ全体では多数かつ多様な金融
商品購入者が混在していること,②大和都市管財からの抵当証券や抵当権
付き債権一部譲渡の購入者は,自ら担保不動産の内容を確認選択したわけで
はなく,殊にモーゲージ証書の場合,購入後に大和都市管財の従業員が機械
的な割付作業を行って各購入者ごとの担保物件を決定していたこと,③グ
ループ会社が販売していた「GFPシュアーファンド」「那須グリーンチケ
ット」等の金融商品についても,実際に販売を担当していたのは大和都市管
財の従業員であり,購入者の多くも大和都市管財から商品を購入したと認識
していたこと,などを踏まえ,その所持する金融商品が債務者とするグルー
プ会社の資力や担保権の有無・内容によって各債権者が大和都市管財以外か
ら受ける弁済ないし配当に格差が生じることは法的に是認せざるを得ないと
しても,可能な限り債権者間の衡平を図るとともに,大和都市管財グループ
の資産はできる限り大和都市管財(本体)に集中させた上で同社から一元的
に配当を実施することが適当と判断し,具体的な処理方針としては,①抵
当証券の担保不動産については,抵当証券保管機構において抵当権の実行及
び抵当証券購入者への支払を実施するとともに,グループ会社が運営するゴ
ルフ場は営業譲渡し,それに伴う担保権消滅請求手続による配当等の抵当証
券購入者への支払も抵当証券保管機構が行う,②大和都市管財については,
弁済原資の拡充を図るとともに,債権者間の衡平が図られるような再生計画
を立案し,それに従った弁済の完了後に清算する,③抵当証券購入者は,
抵当証券保管機構から,担保物件についての抵当権の実行又は担保権消滅に
伴う配当等を原資とした支払を受けるとともに,大和都市管財の再生手続に
参加して弁済を受ける,などと定めた。このような方針に基づき,Y19管
財人は,平成14年8月1日,一般条項を概要下記のとおりとする再生計画
案を本件再生手続において提出し,同計画案はそのころ可決・認可された。

①権利の変更
(1)本再生計画認可決定確定時において,一般再生債権のうち,利息,
遅延損害金,再生手続参加費用の各請求権については,その権利者か
ら全額免除を受ける。
(2)後記②(1)ア及び同(2)アの債権については,その各再生債権者が後
記②(1)ア及び同(2)ア所定の弁済を受けたとき,一般再生債権の残元
本につき,その権利者から免除を受ける。
(3)後記②(1)イ及び同ウの債権並びに後記②(2)イの債権については,
その各再生債権者が後記②(3)により残余財産の換価金につき按分弁済
を受けたとき,一般再生債権の残元本につき,その権利者から免除を
受ける。ただし,後記②(1)イただし書及び同(2)イただし書に該当す
る各債権については,その各再生債権者が後記②(1)イただし書及び同
(2)イただし書に定める弁済を受けたとき,一般再生債権の残元本につ
き,その権利者から免除を受ける。
②弁済の方法
(1)再生会社は,一般再生債権につき,本再生計画案認可決定確定の日
から1か月以内に,各確定再生債権元本に対する次の割合(以下「弁
済率」という。)による金員を,その権利者に対して支払う。ただし,
平成14年8月31日が経過するまでに本件各抵当証券に基づく競売
(民事再生法に基づく担保権消滅の場合を含む。以下同じ。)が実施
されたことにより当該抵当証券により受ける配当額(弁済金の交付を
含む。額は,抵当証券保管機構が受ける額とする。以下同じ。)が確
定しなかったモーゲージ証書に係る債権を除く。
アモーゲージ証書に係る債権のうち,当該抵当証券に基づく競売に
より受けることが確定した配当額の当該抵当権の被担保債権の元本
額に占める割合(以下「競売配当率」という。)が7パーセント以
上のものにつき弁済率1パーセント
イモーゲージ証書に係る債権のうち,競売配当率が7パーセント未
満のものにつき弁済率2パーセント
ただし,競売配当率が6パーセントを超えるときは,8パーセン
トからその競売配当率を控除した率をもって弁済率とする。
ウ上記以外の一般再生債権につき弁済率2パーセント
(2)再生会社は,平成14年8月31日が経過するまでに当該抵当証券
に基づく競売により受ける配当額が確定しなかったモーゲージ証書に
係る債権につき,当該抵当証券に基づく競売により受ける配当額が確
定した日から4か月以内に,次の弁済率による金員を,その権利者に
対し支払う。ただし,本再生計画認可決定確定の日から3年を経過し
た日において,当該抵当証券に基づく競売により受ける配当額が確定
しないものについては,本再生計画における弁済との関係では,その
日に競売配当率が0パーセントと確定したものとみなす。
アモーゲージ証書に係る債権のうち,競売配当率が7パーセント以
上のものにつき弁済率1パーセント
イモーゲージ証書に係る債権のうち,競売配当率が7パーセント未
満のものにつき弁済率2パーセント
ただし,競売配当率が6パーセントを超えるときは,8パーセン
トからその競売配当率を控除した率をもって弁済率とする。
(3)再生会社は,解散後速やかに清算手続を行い,残余財産の換価金を,
上記(1)イ及びウ並びに(2)イの各債権(ただし,上記①(3)ただし書に
より残元本の免除を受けた債権を除く。)につき,その権利者に対し,
本再生計画認可決定確定の日から10年以内に,確定再生債権元本額
に応じて按分弁済する。ただし,本文に規定する按分弁済率が6パー
セントを超える場合を除き,上記(1)イ及び(2)イの各債権については,
8パーセントから競売配当率及び上記(1)又は(2)による弁済率を控除
した率をもって限度とする。
【甲62,63】
(26)担保物件の処分価格等
抵当証券の担保物件は,抵当証券保管機構の申立てによる不動産競売等に
よって売却された。各物件ごとの処分価格等は別表3のとおりである。【甲
111,262ないし264,弁論の全趣旨】
(27)本件再生手続における配当結果
本件再生手続においては,最終的に同社に対する一般再生債権者数は約1
万1900名,確定一般再生債権総額は約918億9800万円となった。
これに対し,債権者に対する配当原資はおおむね次のとおりであり,その合
計は約59億3400万円にとどまった。
不動産処分代金19億7200万円
グループ会社からの配当金24億4900万円
Y1ほか個人破産事件等からの配当金等1億9000万円
抵当証券保管機構からの交付金1億4100万円
その他11億8200万円
Y19管財人は,平成18年7月19日,上記手続において一般再生債権
に対する最終弁済を行い,モーゲージ証書に係る債権のうち競売配当率が7
パーセント未満のもの及びモーゲージ証書に係る債権以外の一般再生債権に
対し,各債権額の2.856パーセントの配当をした。よって,同管財人に
よる一般再生債権者に対する最終的な弁済率は,上記最終弁済を受領した者
について4.856パーセント,その他の者については1パーセントであっ
た。【甲63,265】
5大和都市管財事件管財人グループによる資産状況に係る報告
Y19管財人及びグループ会社の管財人らは,平成14年8月,本件再生手
続の第1回債権者集会において,同社に対する債権者に報告書を提出した。そ
のうち,第2章「管理命令の発令」第6節「資産状況の解明」と題する部分の
概要は下記のとおりである。【甲63,弁論の全趣旨】

①不明朗な会計処理
大和都市管財グループは,金融商品購入者に対する利払を怠ることはな
く,利払に関する限り完璧なまでに処理がされていたが(そのため,大和
都市管財に対する会社整理開始決定は,債権者にとっては正に寝耳に水で
あった。),それ以外の経理処理はずさん極まりないものであった。
大和都市管財グループ内部における貸借は多数存在しているが,金融商
品と無関係な融資については,資金移動はされているものの,取締役会議
事録はおろか,金銭消費貸借契約書すら作成されておらず,貸借関係のあ
る会社間で帳簿の突き合わせを行っても数字が合わない状態であった。ま
た,大和都市管財グループは,多くのグループ会社を用いて,会社によっ
て決算時期をずらせるなどして,複雑かつ不明朗な会計処理を行っていた。
②資料の解析
このような不明朗な経理処理を解明するため,監査法人のスタッフ,近
畿財務局からの職員の全面的な協力を得ることにより資料の解析作業を進
め,200を超える預貯金口座のすべてについて一つ一つ突き合わせを行
うといった地道な作業の積み重ねによって,約10か月のうちに使途不明
金が約30億円となるところまで資金の流れを解明することができた。
③関係人からの事情聴取
Y1を始めとする大和都市管財グループの中枢を担っていた人物は,当
初から調査に非協力的であり,資料によって解明された事実以外は説明し
なかったため,これらの者からの事情聴取によって得られた新たな有力情
報はほとんどなかった。
④不動産鑑定
不動産鑑定は平成13年11月には完了したが,これにより,大和都市
管財グループが保有していた不動産の価格は,設定された抵当権の被担保
債権額を軒並み大幅に下回り,しかも,物件によってその評価額が被担保
債権額を下回る割合に大幅な差異が生じることが判明した。
6刑事判決の認定
(1)Y2に対する刑事判決
Y1の長男であるY2は,昭和63年1月以降,ナイスミドル,ベストラ
イフ通商,ナイス函館,北海道泊別観光,リステム化学研究所,美祢カント
リークラブ等の代表取締役に順次就任していたが,Y1,Y8,Y16らと
共に,大和都市管財の信用状態を偽って顧客に抵当証券等の金融商品を販売
したとして詐欺罪で起訴され,平成14年12月16日,大阪地方裁判所に
おいて懲役2年4月の実刑判決を受けた(同人らに係る詐欺被告事件を,以
下「本件刑事事件」という。)。同裁判所は,上記判決の中で,概要以下の
とおり認定した。
①大和都市管財の前身である大和都市抵当証券株式会社には元手となる資
金が乏しかったことから,Y1は,かねて新都市計画株式会社の債権者で
あった大二産業株式会社の経営者に依頼し,同社に対して大和都市抵当証
券株式会社が融資を行った形を装うとともに,更に別の知人に依頼し,同
人が所有する不動産に抵当権を設定してもらうことにより,昭和60年4
月15日,奈良地方法務局生駒出張所において,同不動産に係る2億24
40万円の抵当証券の交付を受けてその抵当証券の販売を開始した。この
ように,Y1が行った抵当証券商法は,その開始時点において,抵当証券
の交付を受ける基礎となる融資が仮装のものであり,実際には債務者から
の受取利息が生じないものであった。
②このような抵当証券商法は,昭和62年7月に同社の商号が大和都市管
財に変更された後も変わらず,Y1は,自己が経営していた会社所有の物
件等について抵当証券の交付を受けることとし,せいぜい親子会社間にお
ける名目的な資金移動にすぎず,受取利息等の収益を上げるに足りる融資
の実体がないにもかかわらず,専ら抵当証券の交付を受けてこれを販売す
る目的で,債権者を大和都市管財,債務者をそのグループ会社とする融資
の外形を整え,付加価値を見込むなどして高額の鑑定評価を得て抵当証券
の交付を受け,これを継続的に顧客に販売した。このため,抵当証券販売
主体である大和都市管財において,抵当証券顧客に対する利払資金等の原
資となるべき受取利息収入が現実に発生しないまま,抵当証券販売残高が
増大し,これに伴って利払負担も拡大していった。
③Y1は,平成7年1月,ナイスミドル名義で,美祢カントリークラブを
約27億円で買収し,美祢ゴルフ場について,積算価格を基調とする不動
産鑑定評価を得て,同年3月,大和都市管財の美祢カントリークラブに対
する融資を仮装して,取得価格を超える110億円の抵当証券の交付を受
けてその販売を開始した。
④大和都市管財は,近畿財務局から担保の十分性に関する疑義を示される
などして,不動産取得価格を上回る高額な抵当証券の交付を受けることも
困難となり,かつ,抵当権の設定対象にする不動産を取得する資金的余裕
もなくなったこともあって,平成8年11月に東京味わいビル敷地につい
て7億8000万円の抵当証券の交付を受けたのを最後に抵当証券の交付
を受けられなくなった。そこで,同社は,グループ会社が所有し,既に抵
当証券の交付を受けていた不動産等を利用して,抵当証券のように法務局
の審査がない方法で金融商品を作り出すことを考え,これらの不動産を担
保とする大和都市管財からグループ会社への融資の外形を整え,大和都市
管財がグループ会社に対して有する抵当権付き債権を,大和都市管財の保
証を付けて,顧客に対して一部譲渡するという仕組みの抵当権付き債権一
部譲渡と称する金融商品を考案し,平成9年12月ころからその販売を開
始した。しかし,その融資は仮装であって融資金の現実的運用を伴うもの
ではなく,顧客から受け入れた資金の多くを既存の顧客に対する利払や販
売管理費その他の経費等の支払に充当している状況にあった。
⑤この結果,大和都市管財グループ全11社の連結ベースでの財政状態は,
有形固定資産等を簿価で評価しても,平成10年度で約263億円,平成
11年度で約305億円の債務超過の状態であった。また,平成10年度
末には,大和都市管財グループの現金預金残高が年間の利払額を下回る状
況に陥っていた。
⑥Y2は,「DTK抵当証券」の販売と称し,大和都市管財が買戻し特約
付きで販売する抵当証券の共有持分権の買付代金名下に金員を詐取しよう
と企て,Y1らと共謀の上,平成11年11月25日ころから平成12年
3月28日ころまでの間,前後82回にわたり,68名の顧客に対し,真
実は,大和都市管財グループはかねてより経営が悪化して顧客から金融商
品の代金等として受け入れた資金の多くを大和都市管財グループの経費等
の支払に充当しており,顧客から新たな資金の受入れが得られないときは
直ちに資金繰りができなくなって破綻を余儀なくされる状況にあった上,
前記買付代金名下に受け入れた金員についても,その多くを大和都市管財
グループの経費等に充てるつもりであって,約定どおりの利息の支払及び
買戻しに応じられる目処がないにもかかわらず,このような情を秘匿し,
「DTK抵当証券は,大和都市管財が約定どおりの元利金を保証する,有
利な安全・確実・高利回りの金融商品です。大和都市管財は,顧客から預
かったお金を優良な企業等に融資して利益を上げています。」などと虚構
の事実を申し向け,同人らをしてその旨誤信させ,よって,同人らから合
計4億4469万8525円を詐取した。
【甲3】
(2)Y1に対する刑事判決
Y1は,本件刑事事件において,大和都市管財には,原油輸入の貿易事業
や奈良市a町の霊園事業など,巨額の収益を上げる計画があり,顧客らに対
する利払・償還の見込みはあったとして,公判において無罪を主張した。し
かし,大阪地方裁判所は,平成16年3月25日,上記計画には具体性がな
く,監督官庁に繰り返し提出された経営健全化計画にもかかわらず何ら経営
状態が改善されていなかったことなどに照らしてY1の主張を排斥し,(1)と
ほぼ同様の認定の下に(ただし,抵当証券に係る詐取金額は,平成11年1
1月25日ころから平成13年4月上旬ころまでの前後406回にわたる2
07名に対する総額18億0509万8370円と認定された。)懲役12
年の有罪判決をしたため,Y1は大阪高等裁判所に控訴した。大阪高等裁判
所も,大和都市管財は平成11年3月末日の時点において単体でもグループ
全体としても支払不能の状態にあり,かつ,Y1は大和都市管財グループ全
体の実質的経営者としてそのことを熟知していたのであるから,同人が,前
記時点以降もY8らと共謀の上,情を知らない営業担当者らに指示して,大
和都市管財グループに約定の利息を支払う能力がなく,また,大和都市管財
に約定期日に抵当証券を買い戻す能力がないのに,これらがあるように装い,
顧客らをしてそのように誤信させ,抵当証券を買い取らせたことは詐欺に当
たるなどとして,平成17年1月29日,Y1の控訴を棄却する判決をした。
【甲106,186】
7その他
本件の経緯に関するその余の事実,及びこれらに対応する当事者双方の主張
の要旨は,別表4のとおりである。
第3争点に関する当事者の主張
1争点
本件における主要な争点は,以下のとおりである。
(1)争点1
原告らは,近畿財務局長の大和都市管財に対する本件更新登録について国
賠法上の違法をおよそ問い得るか。問い得るとする場合,その判断基準は何
か。
(2)争点2
本件更新登録時において,大和都市管財は更新登録拒否事由である財産的
基礎の欠如(抵当証券業規制法6条1項7号)の要件を満たしていたか。
(3)争点3
本件更新登録時において,大和都市管財は更新登録拒否事由である人的構
成の欠如(抵当証券業規制法6条1項7号)の要件を満たしていたか。
(4)争点4
本件申請書等の重要事項に虚偽記載(抵当証券業規制法6条1項柱書)が
あったか。
(5)争点5
本件更新登録時において,近畿財務局長は大和都市管財に更新登録拒否事
由があるとしてこれを拒否すべき職務上の注意義務を原告らに負っていたか。
(6)争点6
近畿財務局長には本件更新登録を行うについて故意又は過失があったか。
(7)争点7
遅くとも平成9年12月までに近畿財務局長が大和都市管財に対して業務
停止命令又は登録抹消を行わなかったことは国賠法上違法か。
(8)争点8
近畿財務局長は平成7年8月21日に大和都市管財への平成7年業務改善
命令を違法に撤回することで原告らに損害を与えたか。
(9)争点9
近畿財務局長による違法行為によって原告らはいかなる損害を被ったか。
2争点1(原告らは,近畿財務局長の大和都市管財に対する本件更新登録につ
いて国賠法上の違法をおよそ問い得るか。問い得るとする場合,その判断基準
は何か。)
(原告ら)
(1)概要
裁判例から抽出した国賠法上の違法性が認められるための4要素(①立
法が保護しようとする法益が侵害される危険の存在,②行政庁の予見可能
性,③行政庁の権限行使による回避可能性,④行政庁の権限行使以外に
結果回避手段を持たないという意味での補充性)に照らせば,近畿財務局長
が大和都市管財の平成9年における更新登録申請を拒否しなかったことは違
法である(相関関係説)。また,抵当証券業規制法の立法趣旨には個別の抵
当証券購入者の利益保護が含まれる(1条参照)こと等にかんがみれば,抵
当証券業者に対しては銀行に対する監督に準じた監督が必要であるから,近
畿財務局長には個別の国民に対しても規制権限の違法な不行使を行わないよ
うにすべき職務上の注意義務があり,これに違反した場合,被告は国賠法1
条1項に基づく責任を負う。以下詳述する。
(2)総論
国賠法の要件の解釈は,憲法の趣旨や国家賠償制度の歴史的意義を踏まえ
たものでなければならない。国賠法1条1項は,国が賠償責任を負う要件と
して,その公務員の故意又は過失による違法行為の存在を挙げている。ここ
にいう違法とは,個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背すること
であり,権利又は法益を侵害された当該個別国民に対する関係において,そ
の損害につき国に賠償責任を負わせるのが妥当か否かという観点から,①
公権力の行使の根拠となる行為規範たる法条の立法趣旨,及び②侵害行為
の態様・程度・原因,被侵害利益の種類・性質・程度その他の事情の総合に
よって違法の有無が判断されるべきである。
これを本件についていえば,財務局長等は,(更新)登録申請者が抵当証
券業を適確に遂行するに足りる財産的基礎及び人的構成を有しない法人に該
当するとき,又は(更新)登録申請書等のうちに重要な事項について虚偽の
記載があるときなど所定の場合には,(更新)登録を拒否すべき抵当証券業
規制法上の作為義務を負い,(更新)登録を拒否しない場合(すなわち,こ
のような所定のときに該当しない場合)には,(更新)登録をしなければな
らない。これは,財務局長等の義務である以前に,報告若しくは資料の徴収
又は立入検査若しくは質問,そして,業務改善命令,業務停止命令,登録取
消し・抹消等の抵当証券業者に対する監督と並んで,財務局長等に委任され
た,抵当証券業規制法による権限である(同法5条,6条1項,8条2項,
45条,法施行令6条)。そして,同法の目的(1条)にかんがみれば,同
法による権限とは,抵当証券購入者の保護を図るための,抵当証券業者の事
業に対する必要な規制についてのものである。そうすると,本件において,
抵当証券購入者である原告らとの関係で違法の評価を受ける契機は,近畿財
務局長の規制権限不行使の点にある。
ところで,具体的な事例において公務員が職務上の法的義務に違反して規
制権限を行使しなかったことが国賠法上も違法となる要件は,判例上,その
権限を定めた法令の趣旨,目的や,その権限の性質等に照らし,具体的事情
の下において,その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠く
と認められるときとされているが,これは,具体的には,職務上の法的義務
の根拠法令が,専ら公益や,国家賠償を請求する者が主張する利益と全く異
なる利益を目的とするものではないことを前提に,①立法が保護しようと
する法益が侵害される危険の存在,②行政庁の予見可能性,③行政庁の
権限行使による回避可能性,及び④行政庁の権限行使以外に結果回避手段
がないという補充性が認められる場合である(最高裁平成元年(オ)第12
60号平成7年6月23日第二小法廷判決・民集49巻6号1600頁ほか
参照)。そして,(3)及び(4)で詳述するように,本件更新登録の根拠法令で
ある抵当証券業規制法の趣旨は,抵当証券購入者の保護にある。
よって,近畿財務局長による本件更新登録が原告らに対する関係で国賠法
上も違法となるのは,①抵当証券業規制法の保護法益への顕著な侵害とし
て多額の抵当証券につき償還不能が発生する危険性,②大和都市管財の破
綻についての予見可能性及び③平成9年12月に近畿財務局長が大和都市
管財の更新登録を拒否することによって①の危険性が容易に阻止できる可能
性がそれぞれ存在し,かつ,④原告らが大和都市管財の財務状況やモーゲ
ージ証書取引の危険性について事前に知り得ず,近畿財務局長の権限行使が
ないまま民事裁判その他の手段によったのでは危険を十分に防止することが
できない場合であり,争点2以下で主張するとおり,本件では上記いずれの
要件も優に満たされていた。
これに対し,被告は,原告らが主張するような4要件は法令に定められて
おらず,こうした要件を問題にすることは公務員の職務上の法的義務の内容
を不明確にするし,上記4要件が前提とするいわゆる裁量権収縮論は最高裁
判所の採用するものではないなどと主張する。しかしながら,本件更新登録
(又はこれを拒否しなかったこと)は,それだけで抵当証券業規制法違反の
行為であり,近畿財務局長の職務上の法的義務違背であるが,これにとどま
らず,上記4要件が存在することによって,近畿財務局長は原告らに対して
負う職務上の法的義務に違背することにもなり,国賠法1条1項所定の違法
の評価を受けると解すべきであるし,行政庁の規制権限の不行使を違法とし
た判例は,具体的事情の考慮により,その不行使が許容される限度を逸脱し
て著しく合理性を欠くと認められるときは国賠法の違法を肯定するところ,
そこで検討されている具体的事情は,上記4要件に収れんされるか,少なく
ともこれらと大差ないものであるから,被告の上記主張は失当である。
また,本件更新登録を作為と構成したとしても,前記のとおり,抵当証券
業規制法が抵当証券購入者の保護を直接その目的としていることからすれば,
本件更新登録が著しく合理性を欠く場合には国賠法1条1項の適用上違法と
なるが,ここにいう「著しく合理性を欠く場合」とは,規制権限不行使が個
々の国民に対する関係でも違法となるための上記4要件が満たされた場合に
等しい。よって,本件更新登録を作為と考えるにせよ,不作為と考えるにせ
よ,それが著しく合理性を欠いていたことは明らかというべきである。
(3)抵当証券業規制法の趣旨及び保護法益
抵当証券業規制法は,抵当証券業者によるカラ売り(抵当証券原券の発行
さえない場合のほか,抵当証券の発行こそしているが融資が架空である場合,
融資も抵当証券の発行もあるが債務や抵当権が消滅した後も抵当証券原券の
有効な存在を仮装している場合がある。)や二重売り,自己融資及びこれら
の帰結としての当該業者の経済的破綻により,大量かつ多額の消費者被害が
発生したことを受けて,抵当証券購入者等の利益保護のために制定されたも
のであり(1条),上記利益は一般的抽象的な公益ではなく,当該抵当証券
業者からの不特定多数の抵当証券購入者の個別利益の集積とみるべきもので
ある。また,同法は,適正かつ誠実に抵当証券業を営もうとする者に対して
は営業の自由をできるかぎり尊重し,必要最小限の開業規制として登録制を
採用しつつ,悪質業者に対しては,適切な行為規制と不正な行為に対する行
政当局の速やかな対応によって対処し,購入者保護を図ることを立法趣旨と
している。そして,抵当証券法が抵当証券原券の裏書・交付のない譲渡の効
力を否定しているにもかかわらず,抵当証券業規制法がこれに触れることな
く預かり証(モーゲージ証書)形式による販売商法(ペーパー商法)を容認
した結果,構造的に譲渡の実体を伴っておらず,抵当証券原券の内容を表章
せず,担保不動産の価値も債務者の信用状況も事実上全く開示されないまま
での抵当証券取引が広く行われることになったのであるから,抵当証券会社
の信用性は購入者の保護にとって最も重要な要素となったのであって,監督
官庁は,同法によって与えられた規制・監督権限を厳格に行使すべき義務が
生じていたものというべきである。
これに対し,被告は,抵当証券業規制法が規定する登録制度や更新登録拒
否制度は,抵当証券購入者保護に資するものではあるが,それを超え,登録
又は更新登録を受けた抵当証券業者の信頼性を一般的に保証し,ひいては当
該業者の不正な行為により個々の取引関係者が被る具体的な損害の防止,救
済を直接の目的としているわけではないから,更新登録が同法所定の基準に
適合しない場合であっても,当該業者との個々の取引関係者に対する関係に
おいて直ちに国賠法1条1項にいう違法の問題は生じない旨主張する。
しかしながら,公務員の規制権限を定めた行政法規が,規制対象となる業
者の信頼性を一般的に保証し,ひいては,当該業者の不正な行為により個々
の取引関係者が被る具体的な損害の防止,救済を直接的な目的とすることな
ど字義通りにはあり得ないはずであるのに,規制権限の不行使の違法が争点
となった多くの裁判例は,それぞれ具体的事情を考慮して国賠法1条1項の
違法,過失の有無を判断しているから,被告の上記主張は失当である。
そして,抵当証券取引においては情報開示が不十分であり,監督官庁によ
る監督が抵当証券購入者の利益保護のため重要であること,抵当証券が間接
金融的機能を有していること等に照らせば,抵当証券業規制法が規定する抵
当証券業者への監督行政,更新登録行政は抵当証券購入者の命運を制するほ
どの影響力があるから,その行使が個別国民とは無関係であるとすることは,
現行憲法下の国家賠償の制度趣旨に反する。また,元来,金融業者間におけ
る流通を予定していた抵当証券法下において,抵当証券を小口化・細分化す
るモーゲージ証書形式による抵当証券業者の消費者向け営業は,抵当証券業
規制法による登録を経ることで初めて出資法に反しなくなるのであるから,
被告のように抵当証券業者の営業の自由を所与の前提にして抵当証券業規制
法を解釈するのは誤りである。
これに対し,被告は,抵当証券業規制法は,抵当証券原券につき,証券の
番号や登記所の表示,債権の元本と弁済期を開示すること,抵当証券業者の
財務状況記載書面を閲覧させることを各業者に義務付けているから,情報開
示はされている旨主張する。しかしながら,抵当証券原券や抵当証券業者の
財務状況に係る情報開示はモーゲージ証書の購入後に行われても意味がない
上,債務者名や物件の固有の土地の地番等は開示されず,財務状況の閲覧に
ついても制裁や監視はないため,同法による情報開示義務は骨抜きにされた
ものでしかないから,被告の主張は失当である。
(4)宅建業法との比較
上述のとおり,抵当証券業規制法の規制の対象は抵当証券業者であるが,
その目的は個々の抵当証券購入者の保護にある。この点は,同法と宅建業法
を比較することで一層明らかになる。
すなわち,第1に,抵当証券業規制法は,その成立時における国会質疑で
も明らかなとおり,これまでの抵当証券業者の破綻を契機に,一挙に,突然,
多数かつ多額の被害者が生じたという事実を受け,このような被害を防止し,
直接に抵当証券購入者を保護する趣旨で立法された。同法の目的は,1条に
おいて,業務の適正な運用を確保するのは抵当証券購入者の保護を図るため
である旨宣明されており,現実にもモーゲージ証書が購入者から転売される
ことはない(取引約款上処分できないことになっている上,そのための市場
も存在しない。)から,その保護対象は抵当証券の流通促進などではあり得
ず,個々の購入者の権利(モーゲージ証書の経済的価値)の集合そのもので
ある。これに対し,宅建業法は不動産の流通促進を図る業界の主導で作られ
た法律であって,宅建業者は不動産の売買と仲介を業とし,取引関係者の被
害は不動産売買などの個別取引の相手方のみに生じる。宅建業法は,1条で,
同法は,宅地建物取引業を営む者について免許制度を実施し,その事業に対
し必要な規制を行うことにより,その業務の適正な運営と宅地及び建物の取
引の公正とを確保するとともに,宅地建物取引業の健全な発達を促進し,も
って購入者等の利益の保護と宅地及び建物の流通の円滑化とを図ることを目
的とする,としている。よって,同法は,登記に公信力がないことを前提に,
内容が不明確のまま契約が締結されることを避け,法律行為の無効や取消の
主張などを防止することによって,宅地建物の円滑な流通を図ることを規制
の直接の目的とし(最高裁昭和61年(オ)第1152号平成元年11月2
4日第二小法廷判決・民集43巻10号1169頁(以下「最高裁平成元年
判決」という。)はこのことを強調する。),もって抵当証券購入者等の利
益の保護を図るとしているのであるから,購入者の保護は反射的な利益であ
ることが明示されている。
この点,被告は,抵当証券業規制法の目的を,参入規制により,抵当証券
業者の業務の適正な運営を確保し,それを通じて抵当証券購入者一般を保護
するという点にある旨主張する。しかし,宅建業法においては,宅地建物業
者の業務の適正な運営の確保は,宅地建物の円滑な流通実現のための手段で
あるのに対し,被告による抵当証券業規制法の解釈では,抵当証券業者の業
務の適正な運営の確保自体が行政の規制の自己目的となってしまい,妥当で
はない。
第2に,抵当証券業規制法23条は,業務改善命令の要件として,抵当証
券購入者の利益を害する事実があると認めるときを挙げ,登録の要件として,
法人であること及び資本金額の下限を定め,さらに,一般的な前科のほか出
資法関係の前科に関しては特別に罰金刑についても登録拒否事由にするばか
りでなく,抵当証券業を適確に遂行するに足りる財産的基礎及び人的構成を
有しない場合を拒否事由とする一般的要件まで定めているのに対し,宅建業
法における免許基準は,過去に宅建業法に違反して免許取消しがされたこと
などのほか,暴力団員を排除し,また,免許の申請前5年以内に宅地建物取
引業に関し不正又は著しく不当な行為をした者,宅地建物取引業に関し不正
又は不誠実な行為をするおそれが明らかな者等を除外するのみであって,抵
当証券業における規制の方が一般的かつ包括的といえ,それだけ抵当証券購
入者の保護を意識しているものというべきである。
これに対し,被告は,抵当証券業規制法における登録制と宅建業法におけ
る免許制の違いを主張するが,上記のとおり,両法における開業規制の強度
を具体的に検討すると登録制が免許制より緩やかとはいえず,国会審議にお
いても,大蔵省の担当者は,登録制下でも不適当な抵当証券業者の行為につ
いては抵当証券業規制法により十分な規制を行っている旨の答弁をしていた
のであるから,被告の主張は失当である。
第3に,抵当証券業規制法がモーゲージ証書による抵当証券業を認めたこ
とにより,特約付き融資の債権者と債務者とが分離され,抵当証券の信用問
題は抵当証券業者の信用問題に転化している。また,抵当証券購入者への利
払や元本の償還は,正に抵当証券業者の財務及び債権管理能力に依存してい
る。これらのことから,抵当証券購入者の権利の内容は,抵当証券業者の行
う貸付けに関する審査能力や抵当物件の価値を判断する能力等に依存してい
る。これに対し,宅建業法では,問題は取引対象物たる不動産の所有権に関
連するものであり,当該不動産業者からの取引関係者の権利全体が一律に問
題となることはない。
第4に,抵当証券業規制法は,抵当証券購入者を保護するための規定を置
いていない。これに対し,宅建業法は,免許の基準(5条)において宅建業
者の資力そのものに関連する事項は要件としていないなど,業者の財産的基
盤の欠如等に関する直接の規定はなく,営業保証金及び弁済業務補償金の供
託や手付金等保証事業などに関するシステムをおくことで,取引者を保護し
ている。これは,前記のとおり,宅建業法により保護されるべきは,不動産
取引の取引者の保護という一律のものではなく,当該宅建業者から,それぞ
れ別個の不動産に関して,それぞれ異なる法律関係に入る者につき,当該個
々の取引関係が保護されれば足りるからである。
第5に,抵当証券業者が破綻した場合,抵当証券購入者は一律に大幅な権
利侵害を受けるのであり,抵当証券購入者の権利の内容は,本件でいえば,
近畿財務局が,大和都市管財の財産的基礎と融資審査能力を十分に審査し,
行政上の措置を執るか否かにより決まる。すなわち,いったん抵当証券業者
と取引関係に入った者は,償還期までの長期間,自らは何らの行動もし得ず,
近畿財務局の行政的取り締まりによりその権利内容が決まる。これに対し,
宅建業法は,基本的には,不動産業の不適格者を排除して,将来の被害を防
止するとの意味しかない。
このように,抵当証券業規制法は,抵当証券購入者の多数・多額の被害を
防止するために,抵当証券購入者等の利益の保護を直接の目的として制定さ
れているというべきである。また,そもそも,最高裁平成元年判決は,宅建
業者と取引をした個別国民が損害賠償請求を行ったことに対する個別判断で
あって,本件のように,抵当証券業者の存立自体で集団的に生じた被害を救
済するか否かの問題とは質的にも異なるものである。したがって,最高裁平
成元年判決の趣旨は本件には妥当しない。
(被告)
(1)概要
公権力の行使に当たる公務員の行為が国賠法1条1項の適用上違法と評価
されるためには,その公務員が,損害賠償を求めている当該国民に対する関
係で個別具体的な職務上の法的義務を負担し,かつ,当該行為が上記義務に
違反してされた場合でなければならず,その法的義務の発生根拠となるべき
保護利益は,その法規によって保護が予定されているものでなければならな
い(職務行為基準説)。そして,抵当証券業規制法の立法経緯,宅建業法及
び最高裁平成元年判決との比較,銀行法との比較(免許制か登録制か,監督
官庁の検査権限の相違等)等からみて,抵当証券業規制法が規定する更新登
録制度は,抵当証券業者の個々の取引関係者が被る具体的な損害の防止,救
済を直接の目的とするものではないから,更新登録が同法所定の基準に適合
しない場合であっても,当該業者との個々の取引関係者に対する関係におい
て直ちに国賠法1条1項にいう違法な行為に当たるものではない。そして,
本件においても,近畿財務局長は,本件更新登録時において,個々の国民に
対して抵当証券業規制法に基づき抵当証券業者に対する違法な更新登録を行
わない法的義務を負っていたとはいえない。以下詳述する。
(2)総論
国賠法1条1項は,公権力の行使を前提として,その違法を要件とするも
のであるところ,同項にいう違法とは,国又は公共団体の公権力の行使に当
たる公務員が,個別の国民に対して負担する職務上の注意義務に違反して当
該行為を行うことである(最高裁昭和53年(オ)第1240号昭和60年
11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁参照)。よって,
同項の違法の要件を満たすかどうかは,このような行為規範としての法的義
務の内容を特定した上,その義務違反の有無について判断されなければなら
ない。
すなわち,公権力の行使に当たる公務員の行為が国賠法1条1項の適用上
違法と評価されるためには,その公務員が,損害賠償を求めている当該国民
に対する関係で個別具体的な職務上の法的義務を負担し,かつ,当該行為が
上記義務に違反してされた場合でなければならず,その法的義務の発生根拠
となるべき保護利益は,当該法規によって保護が予定されているものでなけ
ればならない(最高裁平成元年(オ)第931号平成5年3月11日第一小
法廷判決・民集47巻4号2863頁,同平成7年(行ツ)第116号平成
11年1月21日第一小法廷判決・裁判集民事191号127頁参照)。し
たがって,公務員の規制権限を定める行政法規が単なる内部的な職務上の義
務を定めているなど,直接個別の国民の権利・利益の保護を目的としていな
い場合には,その規制権限を有する公務員が個別の国民との関係で権限行使
の義務を負うことはなく,その法規に基づく行政権限等の行使・不行使が違
法となる余地はない(最高裁平成元年(オ)第825号平成2年2月20日
第三小法廷判決・判例時報1380号94頁参照)。
そして,ある行為をする公務員が,個別の国民に対して,いかなる職務上
の法的義務を負担しているのか,あるいは職務上の義務が個別の国民に対す
る関係で職務上の法的義務となるかどうかの判断は,その基礎となる法律の
制度趣旨,目的を検討した上でされるべきものである(最高裁平成元年判決
参照)。そうすると,同項の違法が認められるためには,当該公務員に与え
られた規制権限を定めた法規の趣旨・目的を検討し,同規制権限の目的が個
別の国民の利益を保護する趣旨であることが確定された上で,当該規制権限
の行使又は不行使の時点において,当該法規によって課せられた当該個別の
国民に対する職務上の法的義務に違背して当該行為が行われたことを要する
というべきである。
これに対し,原告らは,本件は近畿財務局長の規制権限の不行使に当たる
として,その違法性の判断基準につき,①危険の存在,②予見可能性,
③回避可能性,④補充性といった要件を定立し,本件ではこれらを満た
しているとして,近畿財務局長には更新登録を拒否すべき義務があったとも
主張する。しかし,更新登録は作為であるから規制権限の不行使とは別の問
題である上,上記のような見解は,法令に定められていない要件を行政処分
の要件とするものであり,公務員の職務上の法的義務の内容を不明確にする
ものであって,採り得ない。また,原告らの挙げる4要件は,行政庁の規制
権限不行使の違法に関するいわゆる裁量権収縮論の要件とされていたもので
あるが,裁量権収縮論は最高裁判所の採用するところではない(最高裁平成
元年(オ)第1260号平成7年6月23日第二小法廷判決・民集49巻6
号1600頁参照)。
(3)抵当証券業規制法の趣旨及び保護法益
抵当証券業は,元来,何らの規制もなく自由に行われていたが,悪質業者
による抵当証券の裏付けのないカラ売りや二重売り等の被害が発生し,昭和
61年秋以降,抵当証券業者が詐欺罪等で検挙される事態が生じたため,悪
質業者の参入を防止するとともに,業として行われる抵当証券取引の改善を
図り,抵当証券購入者の保護の実効を期するべく抵当証券業規制法が成立し,
昭和63年11月に施行された。
抵当証券業規制法は,登録制を採用し(3条),一定の事由がある業者に
ついてのみ登録を拒否して抵当証券業への参入を排除し,それ以外の者につ
いては登録を行うことを条件に参入を自由に認めることとしている。これは,
元来何らの開業規制もなかった抵当証券業について,営業の自由をできる限
り尊重しつつ,必要最小限の開業規制を設けて抵当証券の購入者一般の保護
を図る趣旨で定められたものであり,原告らが主張するように,抵当証券法
の裏書交付や開示による取引安全システムを後退させる代償として採用され
たものではない。
また,抵当証券は,抵当証券法に基づき発行される債権と抵当権とを表章
した有価証券であり,その取引においては,一般的に抵当証券業者が1通の
抵当証券の権利を分割して小口化し,購入者に対しては抵当証券の代わりに
モーゲージ証書を交付することによって,多数の購入者にその共有持分権を
販売するという方法が採られており,抵当証券業者は,抵当証券法上の制度
としては債務者の元利金支払の代行及び購入者に対する裏書人としての償還
義務を負っているにすぎないが,そのビジネスモデルの上では購入者に対し
て元利金の支払を保証しており,直接金融と間接金融の中間領域に位置する
金融取引であるといえる。しかしながら,担保物件の価値が低下すれば,担
保物件の競売代金によって返済される金額は減少することになるし,元利金
の支払を保証している抵当証券業者からの返済についても,その経営状態や
財務状況に左右されるから,抵当証券は,特約付き融資先の返済能力に係る
リスク,抵当権の目的たる不動産等の価値の下落に係るリスク,一般にモー
ゲージ証書の買戻しを約定し,元利金の返済を保証している抵当証券業者の
支払能力に係るリスクを有し,預金保険法のようなセーフティネットも存在
しない商品である一方,一般に,元本保証された安全なものとの国民的なコ
ンセンサスがある銀行預金と比較して高めの金利が設定されている。抵当証
券業規制法は,このような抵当証券の商品としての性格を前提に規制を行っ
ているのであって,抵当証券に係るリスクをなくし,抵当証券購入者が必ず
元利金の全額の支払を受けることができるような規制を行うことまで予定し
ているものでもない。
さらに,抵当証券業規制法は,抵当証券業者が登録後も適正な業務運営を
行っていることを確認し,抵当証券購入者保護の実効を期するとの観点から,
行政当局の報告徴求及び立入検査,業務改善命令,登録の取消し及び業務停
止命令といった監督処分権限の規定も設けている。しかし,これらの権限も,
免許制が採用されている銀行等に対する規制権限と比較して,限定的なもの
となっている。すなわち,抵当証券業規制法においては,報告徴求権限及び
立入検査権限は,子会社等に対するものも認める銀行法と異なり,抵当証券
業者それ自体に対するものしか認められていない(22条1項)。また,業
務改善命令,業務停止命令等についても,比較的広範な要件裁量を認める銀
行法と異なり,業務改善命令を発出し得るのは抵当証券購入者の利益を害す
る事実があると認めるときに,業務停止命令を発出し得るのは24条1項各
号の事由に該当するときにそれぞれ限られている(23条,24条)。
抵当証券業規制法の上記のような仕組みを前提とすると,同法上の登録制
度を始めとする開業規制の目的は,どのような業者がどこにどれだけ存在し
ているのかを的確に把握し,また,悪質業者のみならず財務基盤や人的構成
等の面で抵当証券業務を適確に遂行する能力を有しない業者の参入を規制す
ることによって,抵当証券業者に対する行為規制(第3章),行政当局によ
る監督権限(第4章)の規定と相まって,抵当証券業者の業務の適正な運営
を確保し,それを通じて抵当証券購入者保護の実効性を高めるためのものに
すぎず,これを超えて,登録を受けた抵当証券業者の信頼性等を一般的に保
証し,ひいては当該業者の不正な行為により個々の抵当証券購入者が被る具
体的な損害の防止,救済を図ることを制度の直接的な目的とするものではな
いと解すべきである(最高裁平成元年判決参照)。このことは,抵当証券業
規制法の条文全体をみても,そのほとんどが業者に対する規制内容について
の定めであり,購入者保護に関する規定は,わずかに抵当証券業協会による
苦情処理の定め(40条3号,41条)に限られていることからも明らかで
ある。このように,抵当証券業規制法上は,抵当証券業協会による自主的な
購入者保護の活動を期待しながらも,被告が行うべきは,抵当証券業者につ
いての規制であり,そのような規制を通じた購入者保護一般とされているも
のと解されるのである。
これに対し,原告らは,抵当証券取引においては情報開示が不十分であっ
て,購入者は専ら抵当証券業者の信用に依存していることや,抵当証券取引
が間接金融としての機能を営んでいること等を根拠に,抵当証券業者に対す
る監督は銀行に対する監督に準ずるものと解すべきである旨主張する。しか
しながら,抵当証券業規制法は,抵当証券購入者の保護と自己責任原則との
調和の観点から,抵当証券取引の前後において顧客に契約の内容等を明らか
にする書面を交付すること(15条,16条),顧客の求めに応じて抵当証
券業者の財産状況等及び抵当証券に関する書類を閲覧させること(17条,
法施行規則14条2項)等を義務付けているものである上,抵当証券購入者
が元利金の全額の返済を受けられるかどうかは債務者の弁済能力や担保権の
価値等にもよることが明らかである。また,銀行業は,預金の受入れにより,
金銭の保管,利殖,決済,資金の仲介等の役割を担い,国民が経済活動を営
む上で必要な基本サービスを提供しているために,銀行法においては,資本
金20億円以上,3営業年度を経過するまでの間に当期利益が見込まれるこ
となど,極めて厳格な要件に基づく営業免許制度(講学上の許可),兼業規
制や自己資本比率規制等の行為・財務規制,子会社をも対象とした広範な報
告徴求権や立入検査権といった強力な監督規制などが規定されているのに対
し,抵当証券業は,抵当証券の販売(販売の代理又は媒介)を業とするもの
にすぎず,銀行業に比肩し得るような高い公共性を有するものではないため
に,営業の自由をできる限り尊重し,必要最小限の規制とすべく登録制が採
用され,経営の全般にわたる監督の規定は設けられておらず,規制の対象も
専ら抵当証券業者本体であるなど抵当証券業規制法上の監督権限は限定的な
ものである上,預金と抵当証券とではリスクを異にすることも前記のとおり
である。したがって,原告らの前記主張はいずれも失当である。
また,原告らは,抵当証券業規制法23条が,業務改善命令を発する要件
において「抵当証券の購入者の利益」を害する事実がある場合とされている
ことをもって,同法の行為規制及び監督に係る規定が直接に個別の抵当証券
購入者の利益保護を目的としているかのように主張する。しかし,業務改善
命令によって保護されるべき「抵当証券の購入者の利益」が,購入者一般の
利益であるのか,個別具体的な購入者の利益であるのかは,同法の趣旨・目
的や構造,保護法益の性質等を考慮して決定されるべきものであるところ,
被侵害利益が財産の場合には,当事者が注意を払うことにより防止し得る余
地が大きく,本来その守備範囲に属し,行政庁の権限行使に対する期待可能
性はより厳しく吟味されるべきものと解されているから,上記文言は購入者
一般の利益と解釈されるべきである。
(4)宅建業法との比較
原告らは,最高裁平成元年判決は,宅建業法の主目的が宅地建物取引業の
健全な発達の促進であり,購入者の保護は反射的利益であることを前提とし
ていたのに対し,抵当証券業規制法は抵当証券購入者の保護を直接の目的と
しているから,本件に最高裁平成元年判決の趣旨は及ばない旨主張する。し
かしながら,同判決の前提となる事実関係当時の宅建業法(昭和55年法律
第56号による改正前のもの。)1条は,「この法律は,宅地建物取引業を
営む者について免許制度を実施し,その事業に対し必要な規制を行うことに
より,その業務の適正な運営と宅地及び建物との取引の公正とを確保し,も
つて購入者等の利益の保護と宅地及び建物の流通の円滑化とを図ることを目
的とする。」と規定しており,抵当証券業規制法1条とほぼ同一の構造を有
しているところ,同判決は,上記規定を前提にしつつ,免許制度が免許を付
与した業者の人格・資質を一般的に保証したり,個々の取引関係者が被る具
体的な損害の防止,救済を制度の直接的な目的とするものではないことを根
拠に,知事による免許の更新等が宅建業法所定の免許基準に適合しない場合
であっても,個々の取引関係者に対する関係で直ちに国賠法1条1項にいう
違法な行為とはいえない旨の判示をしたのである。そして,更新登録制度を
含む抵当証券業規制法による開業規制の目的は,悪質業者等の参入を規制す
ることにより抵当証券業者の業務の適正な運営を確保し,それを通じて抵当
証券購入者一般を保護する点にあり,この点で宅建業法3条の免許制度と異
ならないから,本件にも上記判決の趣旨は妥当する。
また,原告らは,宅建業による被害は,個々の取引において発生するのに
対し,抵当証券業による被害は,抵当証券業者の破綻を契機に,一挙に,突
然,多数かつ多額の被害者を生じさせるから,両者は異なると主張する。し
かし,抵当証券業者の行う取引も個々の抵当証券購入者との個々の取引であ
るし,大規模な宅建業者により,多数かつ多額の被害者が生じる事態も起こ
り得るのであって,両者の相違は本質的なものではない。
さらに,原告らは,宅建業法における監督権限が抵当証券業規制法のそれ
よりも弱いから,同法は抵当証券購入者(取引関係者)をより厚く保護して
いる旨主張するようである。しかし,最高裁平成元年判決は,免許の付与又
は更新の制度と業務停止処分又は免許取消処分の制度とを区別した上で異な
る判断方法を採っているから,監督に関する制度を比較することでは,開業
規制が個々の抵当証券購入者(取引関係者)を直接保護する制度であるか否
かについて異なった結論を導き出すことはできない。
3争点2(本件更新登録時において,大和都市管財は更新登録拒否事由である
財産的基礎の欠如(抵当証券業規制法6条1項7号)の要件を満たしていた
か。)
(原告ら)
(1)概要
抵当証券業規制法がモーゲージ証書形式の抵当証券販売を容認しているこ
とから,抵当証券業者は,抵当証券原券とは異なる期限を定めているモーゲ
ージ証書の償還期限内に抵当証券購入者に確実に償還すべき義務を負ってお
り,しかも,購入者は中途解約も可能とされているのが一般であるから,抵
当証券業者は,いつでも償還に応ずる資金準備又は資金調達が可能でなけれ
ばならず,そのためには財産的基礎の確立が必要である。こうしたことから,
同法8条2項,6条1項7号において,財産的基礎の欠如が(更新)登録拒
否事由とされているところ,財産的基礎の欠如とは,基本事項通達第1の1,
(3),イ,(ロ),Aにおいて,「資本欠損」とされている。
「資本欠損」は会計上の概念であり,企業をみる者によって判断が異なる
場合もあろうが,大和都市管財に限ってみれば,以下に述べるように,平成
9年当時の公正な会計慣行に従った会計処理を行ったとき,その時点で資本
欠損状態に陥っていたことはだれの目にも明らかであった。
(2)財産的基礎の欠如の意義
上述のように,基本事項通達第1の1,(3),イ,(ロ),Aにおいて,大和
都市管財が抵当証券業規制法6条1項7号にいう「抵当証券業を適確に遂行
するに足りる財産的基礎・・・を有しない法人」でないとするためには,同
社が資本欠損でないこと,すなわち貸借対照表上資産の合計額から負債の合
計額を控除した額が資本の額以上であることが必要である(大和都市管財が
金融機関の保証を受けておらず,同第1の1,(3),イ,(ロ),Bの適用を受
けないことは明らかである。)。そして,資本欠損か否かは,まず,更新登
録申請書に添付された貸借対照表等の資産の部の合計額が負債の部の合計額
と資本金額を控除した金額を下回るか否かにより判断されるが,その判断に
おいては,貸借対照表が公正妥当な会計慣行に従って作成され,会社の財務
状況を正確に反映していることが当然の前提となるから,貸借対照表が会社
の実態を正確に反映しているか否かを審査することが必要となる。
(3)大和都市管財の概括的な財務状況
大和都市管財は,本件貸借対照表上において,その財務状況を
自己資本額約5億7900万円
うち資本金約4億5000万円
剰余金約1億2900万円
と表示していた。
他方,平成9年12月時点で近畿財務局が入手していた大和都市管財の財
産的基礎に関する資料(その内訳は別表5のとおり。以下「本件基礎資料」
と総称する。)を概括的に検討しただけでも,平成9年3月期において,①
グループ6社に対する特約付き融資額のうち担保割れの部分が総額で少な
くとも約344億6800万円に上ること,②グループ6社の財務状況が
著しい債務超過の状況にあり,帳簿価額ベースでの債務の合計額が平成9年
3月時点で約149億円に達していたこと,③グループ6社の財務状況が
時間の経過とともに悪化し続ける傾向にあったこと,が明らかであり,加え
て,大和都市管財が近畿財務局に提出していた経営健全化計画の実績も大幅
未達であることが確認されていた。
そして,実際にも近畿財務局は,①グループ6社がいずれも債務超過に
陥っており,さしたる実業もなく,大和都市管財に対する利払の可能性がな
いことを認識し,②平成8年12月末時点における連結財務諸表を入手し
ており,③Y1からそのスポンサーに関する合理的な説明を受けることが
できず,④大和都市管財が現金預金の交付を伴わない形でグループ会社に
対する貸付金及びグループ会社からの利息を計上していたことを把握してい
たのである。
(4)平成9年3月時点における貸倒引当金の設定の不可欠性
このような財務状況を踏まえ,平成9年3月期における大和都市管財の資
産(約573億円)のうち98.29パーセント(約563億円)を占める
特約付き融資額をいかに評価するかがまず問題となる。
ア特約付き融資に対する貸倒引当金の設定の不可欠性
貸借対照表に計上される貸付債権の評価に関する一般に公正妥当と認め
られる会計慣行上,債権の貸借対照表価額は,債権金額又は取得価額から
正常な貸倒見積額(回収不能見込額)を控除した金額とされており(企業
会計原則・貸借対照表項目C,商法285条の2第2項参照),この回収
不能見込額は,貸借対照表上「貸倒引当金」として表示される。
そして,平成9年当時にも通用力のあった企業会計原則・注解18は,
貸倒引当金を設定すべき基準として,①将来の特定の費用又は損失であ
ること,②その発生が当期以前の事象に起因すること,③発生の可能
性が高いこと,④金額を合理的に見積もることができること,を挙げて
いた。しかるところ,本件では,①将来において貸付債権の貸倒損失と
いう費用又は損失が発生する可能性がある,という意味で費用又は損失の
特定がされており,②貸倒損失の発生原因(財務状況の悪化)が過去か
ら始まり評価時点においても存在しており,③債務者が著しい債務超過
状態にあること,時間の経過とともに財政状態が一層悪化し,経営健全化
計画に実現可能性が認められないこと,担保資産の価値下落が著しく回復
の可能性が認められないことなどから勘案すると,債務者がいずれ財務的
に破綻する可能性は高いと考えられ,④債務超過に陥った債務者が所有
する資産をすべて換金して債務の弁済に充て,弁済し切れない部分につい
て貸倒損失が発生すると考えれば,合理的な費用又は損失の見積計算は可
能であるから,平成9年当時の大和都市管財の貸付金については,上記①
ないし④の要件のすべてを満たしていた。
ところで,一般に,貸倒見積額は合理的かつ客観的基準に基づいて算出
されなければならず(日本公認会計士協会監査委員会報告(以下「監査委
員会報告」という。)第5号参照),その具体的な方法としては,①期
末残高に一定率を乗じ,又は個々の勘定ごとに主として年齢調べをして,
貸倒見積額を総括的に見積もる方法,②債務者ごとに個別的に債権の取
立見込みを実地に調査して算出する方法などがあり,実務上はこれらのう
ちいくつかを組み合わせた方法を採用している企業が多いが,大和都市管
財は,上記①のうち期末の債権残高に平成10年政令第105号による改
正前の法人税法施行令97条1項3号が定める繰入率(以下「法定繰入
率」という。)である1000分の3を乗ずるという算定基準(以下「本
件基準」という。)を採用し,平成9年3月期の貸借対照表上,貸倒引当
金として2億1000万円(抵当証券貸付金563億5960万円に手形
割引高150億0700万円を加えた714億2960万円の1000分
の3)のみを計上していた。
しかしながら,監査委員会報告第5号が定める方法(以下「5号取扱
い」という。)も,税法基準(法人税法・同法施行令やこれに関連する通
達等の定める無税引当のための規定等を参照して貸倒引当金の額を算出す
る基準をいう。以下同じ。)で算出し計上した貸倒引当金が適正な貸倒見
込額に照らして明らかに不足している場合には除外事項としなければなら
ない,としているとおり,法定繰入率は,通常の事業環境下での社会的な
経験率として一定の繰入率を債権残高に乗ずる方法を採用しており,その
繰入率は,公平な税負担のため貸倒引当金の設定による費用計上を容易に
は認めないという趣旨から,現実の貸倒率よりも低めに設定されている。
しかるところ,グループ6社は,
平成6年3月期約73億円の資本欠損
平成7年3月期約105億円の資本欠損
平成8年3月期約112億円の資本欠損
平成9年3月期約158億円の資本欠損
というように,その債務超過額が年を追うごとに加速度的に増えていくよ
うな会社である上,担保物件の著しい価値下落を招いていたから,その貸
倒引当金の設定を本件基準によって行うことはできず,こうした債務者に
対する債権額については,その財務状況を踏まえ,前記のとおり,これら
各社が回収不能見込額算定時点(通常は決算期末)において清算したと仮
定した場合にいくら回収可能かという観点から回収不能見込額を個別に積
み上げる方法で算定するのが通常である(監査委員会報告第22号参照。
以下この方法を「22号取扱い」という。)。なお,実際の延滞額によっ
て算定する方法もあるが,本件のように利息の支払以上に借入金が増加し
続けている場合には,いわゆる「追い貸し」の状態になっており,期日ま
でに利息の支払がなかったかどうかという観点から貸倒引当金を設定する
方法では,債権の適正な回収不能額を算定することはできない。
この点につき,被告は,平成9年当時には,銀行等の金融機関について
さえ貸倒引当金についての明確な基準はなかったから,グループ6社が著
しい債務超過状況にあったとしても,それらに対する大和都市管財の債権
について貸倒引当金の設定は必要でなかった旨主張する。しかし,基本事
項通達が基準として定める「資本欠損」は会計学上明確に定義された概念
であるし,平成9年当時も現在も変わらない企業会計原則・注解18の示
す貸倒引当金を設定すべき基準に照らしても,グループ6社に対する大和
都市管財の特約付き融資については貸倒引当金の設定が必要であったこと
は前記のとおりであり,平成9年当時は22号取扱いも参照することがで
きたのであって,より具体的な基準が本件更新登録後に公表されたからと
いって,それまでは本件の場合に貸倒引当金を計上することが一般に公正
妥当と認められる企業会計の基準に照らし不必要であったと解する余地は
ない。また,金融機関と一般事業会社との間においても,貸倒引当金の設
定についての企業会計原則上の基準は何ら異なるところはなく,金融機関
について資産の健全性が要求されるからといって,貸倒引当金の設定がこ
れに直接寄与するわけではないから,金融機関における貸倒引当金の設定
がより厳密であるべきということにはならない。そもそも,被告主張のよ
うに,融資先が破綻する可能性が高い状態というのでは足りず,破綻が断
定することができる状態(貸倒損失)になるまで貸倒引当金を設定するこ
とができないというのでは,利害関係人を保護するという公正な会計慣行
の目的が全く達成することができない上,「資本欠損」の有無という優れ
て会計的な判断とは別に,行政庁が不利益処分を課すほどの客観的かつ明
確な根拠が必要であるとの規範を定立するのは二重の基準を持ち込むもの
で不当というべきである。加えて,平成11年に制定された「金融商品に
係る会計基準」等もその明確さの程度は22号取扱いと大差なく,その実
際の運用に当たり,会計慣行を勘案してその時の状況に応じて最も合理的
な方法で回収不能見込額の見積りを行う必要がある点では同様である(両
基準の相異は,債権の分類方法が設けられたことや,キャッシュ・フロー
見積法が新たに規定化されたこと,一般債権について貸倒実績率によるべ
きことを明確化したこと等にあるのであって,大和都市管財のグループ6
社に対する特約付き融資については,金融商品会計基準においても貸倒懸
念債権又は破産更生債権に区分され,財務内容評価法,すなわち債権額か
ら担保の処分見込額及び清算配当等により回収が可能と認められる金額を
減額する方法が採られることになる。)。よって,被告の前記主張は失当
である。
また,被告は,22号取扱いは,議決権比率に照らすと本件には直接適
用することができない旨主張する。しかしながら,22号取扱いが子会社
・関係会社での取扱いを問題とするのは株式の評価をも問題とするからで
あり,本件のような債権評価においては資本関係は本質的な問題ではない。
のみならず,当時から近畿財務局も認識していたとおり,主要株主がY1
及びその親族であること,経理担当者が同一であったことなど,大和都市
管財はグループ6社と実質的に一体の会社であったから,本件で22号取
扱いをしんしゃくすることはむしろ非常に有意義かつ実態に即していると
いうべきである。また,被告は,融資先が事業を継続しながら借入金を返
済する可能性も考慮すべきとも主張するが,本件においてグループ6社の
事業継続は債務超過を悪化させる要因にしかならないことは明白であった
から,被告の前記主張もまた失当である。
さらに,被告は,22号取扱いのうち個別的方法によれば本件において
貸倒引当金の設定は不要とも主張する。しかしながら,個別的方法は返済
期限未到来部分の回収可能性を考慮しない欠陥を有する補充的な方法であ
って,大和都市管財の総資産の95パーセントを占めるグループ6社への
貸付金の評価に用いるには適切でないし,グループ6社は大和都市管財に
対する利息を払っていないか,同社からの「追い貸し」によって払ってい
たことにかんがみれば,これら融資先に対する債権は実質的に滞留してい
たとみるべきであるから,仮に個別的方法によるとしても本件基準による
ことは許されず,更なる貸倒引当金の設定が必要であったというべきであ
る。
加えて,被告は,平成12年3月期の決算において多額の貸倒引当金の
積み増しをしている上場企業があることは,同年に一斉に適用された金融
商品会計基準が平成9年当時における会計基準と異なることの証左である
旨主張するが,2千社を超える上場企業の中でそのような企業が数社存在
するからといって,上記会計基準の適用前には貸倒引当金の設定が会計慣
行として成熟していなかったことの根拠とはなり得ないから,被告の上記
主張もまた失当である。
したがって,本件でも,グループ6社の資産負債の状況に基づいてその
資産の換金可能額を算定し,これを抵当権設定による債務の弁済順位を考
慮しながら各債務の弁済に充てたと仮定し,その際の弁済不能額をもって
回収不能見込額とする方法で貸倒引当金を算定すべきである。この方法に
よる場合には,①融資先企業の評価時点における貸借対照表,②融資
先企業の所有資産の換金可能額,③融資先企業に帰属する債務の網羅的
情報,④担保の設定状況等債務の弁済順位の把握及び⑤債務保証の有
無等の情報が必要となる。回収不能見込額の算定方法を算式に示せば,
1-(資産合計/負債合計)=回収不能見込率
貸付額×回収不能見込率=回収不能見込額
となり,上記算式にいう資産合計及び負債合計は,貸借対照表上の金額か
ら,担保物件の処分により回収可能と見込まれる金額をそれぞれ控除した
ものを使用する。
イ平成9年3月時点におけるグループ6社からの回収不能見込額
グループ6社の決算書については,以下の決算期のものを用いて回収不
能見込額を試算することとする。
北海道泊別観光平成8年9月期
ベストライフ通商平成8年6月期
ナイス函館平成8年8月期
ナイスミドル平成9年6月期
リステム化学研究所平成9年3月期
美祢カントリークラブ平成9年3月期
なお,近畿財務局は平成9年検査において大和都市管財だけでなく融資
先の総勘定元帳まで入手して調査しているから,ナイスミドルについても
平成8年3月28日にされた同社に対する大和都市管財による特約付き融
資額55億円(以下「本件貸付金」という。)が修正計上された平成9年
6月期の決算書や,税務申告書の添付資料として外部に提出している勘定
科目内訳明細書(主に大和都市管財及びグループ会社間の貸借の分析に必
要である。)の任意提出を受けることは可能であったと解される。
グループ6社の決算書のうち,①ナイスミドルは,創業費として計上
した繰延資産8億7000万円を,②ナイス函館及び美祢カントリーク
ラブは,ゴルフ場の取得に伴って計上した営業権(前者につき1億円,後
者につき7億2700万円)をいずれも一切償却していなかったため,こ
れらを商法の規定に従い5年で償却したものとして修正する必要がある。
次いで,グループ6社の換金可能価値を計算するため,①ナイスミド
ルが100パーセント保有している北海道泊別観光,美祢カントリークラ
ブ(平成8年度,9年度において,ナイスミドルに対する貸倒引当金繰入
を行わない前提でようやく約1億円の利益を計上していたにすぎない。)
及びナイス函館の株式を,これら各社が債務超過を悪化させている状況に
あることに照らして全額評価減し,②ナイスミドルがゴルフ会員募集権
等として計上した繰延資産52億7100万円を,当該ゴルフ場の収益力
や鑑定評価に照らし換金性がないものとして全額償却し,③グループ6
社が別紙6のとおり又貸しした貸付金について,貸付けの各段階において,
抵当権が設定されている債務は担保資産の換金額で弁済され,弁済し切れ
ない債務は残存資産により同順位で弁済されるという仮定のもとに,換金
可能価額でみた債務超過額を劣後負債の各債務額の金額で按分する方法に
基づき回収不能見込額を算定する。また,担保物件については,原則とし
て帳簿価額(ただし,支払利息配賦額については原則として除いた価額)
により評価し,抵当証券保管機構が「保管抵当証券明細表」(甲90)に
おいて平成9年4月ころ時点で時価評価を行ったデータがあるものについ
てのみ,これによって評価することとする。
以上に従って算定された大和都市管財のグループ6社に対する貸付金の
うちの回収不能見込額は,別紙7のとおり87億7400万円となる。
これに対し,被告は,グループ6社は平成9年当時営業を継続していた
から,これを一律に清算する前提で資産評価することは実態にそぐわない
旨主張するが,グループ6社の過去の業績から判断して,その後の事業継
続による追加的な資産獲得は到底見込める状態ではなかったから,被告の
上記主張は失当である。
また,被告は,特約付き融資先に係る担保物件については不動産鑑定士
による鑑定評価が行われていたから,これによらずに一方的に取得価格を
用いて評価することにはおよそ合理性がない旨主張するが,貸倒引当金設
定に際して必要なのは,その計算基準時点で物件を処分した場合の換価可
能額であって抵当証券発行時の評価額とは別であるし,大和都市管財の破
綻後に管理人団によって処分された担保物件の現実の処分価額は総額で4
2億7000万円にすぎず,被告の主張する不動産鑑定評価額の総額であ
る919億1800万円を大幅に下回っていることなどに照らすと,被告
の主張こそ不合理である。
加えて,被告は,グループ6社の貸借対照表に記載された土地勘定及び
建物勘定に特約付き融資の担保物件以外のものが含まれていた場合,貸倒
引当金の要設定額は原告らの計算よりも縮小する旨の主張もするが,原告
らの計算では一般債権に対する弁済額は考慮に入れられていないし,一般
債権への弁済に充てられる金額が増えれば,結果として特約付き融資に対
する弁済額が減少し,回収不能額が増えることになるから,被告の上記主
張は誤解に基づくものというほかはない。
さらに,被告は,原告らが大和都市管財のY1からの借入金をナイス函
館からの借入金として計算していることを論難するが,大和都市管財が平
成7年ころからグループ会社との間で資金移動を行う際にいったんY1に
資金移動する仕訳を始めたのは,大和都市管財が集めた資金がグループ内
を循環している事実を隠ぺいするための仮装工作にすぎないことは,借入
先等に係るY1の弁解の不自然さからみて明らかであり,近畿財務局もY
1のこのような弁解を信用していなかったものである上,仮に,Y1が外
部のスポンサーから借入れを行っていたと想定した場合,原告らの試算
(Y1を経由して大和都市管財からナイス函館に返済されることを想定し
ている。)よりもナイス函館に返済することのできる額が減少することに
なり,かえって貸倒引当金要設定額が増大することになるから,被告の上
記主張もまた失当である。
ウ平成9年3月時点におけるグループ6社に対する貸倒引当金要設定額
以上のとおり,①時価が不明な不動産について,会計基準を逸脱しな
いものとして帳簿価額(不動産市況が悪化していく経済状況の下では時価
を上回る可能性が高い。)をそのまま換金可能額とし,②ナイスミドル
及びナイス函館の資産に計上されている「コース勘定」の内容が不明であ
るために帳簿価額(経験則からいってゴルフコースが取得原価で売却でき
る可能性はほとんどない。)をそのまま換金可能額とし,③グループ6
社の償却資産(建物,建物付属設備,構築物等)について,ほとんど減価
償却が行われていないにもかかわらず,取得価額で売却できるとの前提で
これをそのまま換金可能額とし,④グループ6社に対する特約付き融資
とその担保不動産との結びつきが不明であるため,勘定内訳不明の不動産
についてはその貸借対照表計上額すべてを担保資産と仮定した上で優先弁
済額を算定したにもかかわらず,別紙8【ケースA】のとおり,大和都市
管財は平成9年3月の時点で計上済みの2億1000万円に加えて更に8
5億6400万円の貸倒引当金を設定する必要があったものと算定される。
よって,同社は当時,少なくとも84億円以上の資本欠損であり,かつ,
少なくとも80億円の債務超過という財務状況にあったものというべきで
ある。
仮に,勘定科目内訳明細書を用いない場合,不動産の内訳が分からない
ので,貸付先の不動産すべてが特約付き融資の担保に供されていると仮定
して計算することになり,貸倒引当金要設定額を減額する方向で働くこと
になるが,その場合でも,別紙8【ケースB】のとおり,貸倒引当金要設
定額はなお47億5200万円存在し,平成9年3月における大和都市管
財の財務状況は,46億2300万円の資本欠損ということになる。
さらに,仮に近畿財務局がグループ会社間の貸借を分析することができ
なかったとしても,本件貸借対照表上,少なくとも約6億5358万円が
回収不能と見込まれ,その全額につき追加して貸倒引当金の個別引当が必
要であり,少なくとも約5億2410万円の資本欠損となる(甲164)。
エ担保の十分性の欠如
抵当証券保管機構作成の「保管抵当証券明細表」(甲90・同機構が平
成9年4月30日付けで大蔵本省に送付したもの。)には,担保物件の一
部について,①抵当証券交付申請書添付の鑑定評価額(又は交付額から
予想される評価額),②抵当証券保管機構が行った評価額,及び両者の
かい離額(①-②)が明記されている。
かい離額,減額割合を列挙すると,下記のとおりとなる。

索引No.9四条畷市山林▲332百万円▲50.3%
同10a区駐車場▲235百万円▲31.3%
同13新高駐車場▲503百万円▲40.9%
同17a町駐車場▲736百万円▲61.3%
同20a区共同住宅▲947百万円▲61.0%
同23上野西共同住宅▲262百万円▲32.7%
同24寺内共同住宅▲333百万円▲51.2%
同25西宮市共同住宅▲639百万円▲62.3%
同26大阪味わいビル敷地▲120百万円▲53.3%
▲4107百万円(▲49.0%)
このように,抵当証券保管機構が再評価した全物件について,再評価額
(②)が鑑定評価額(①)を下回り,そのかい離額合計は41億0700
万円,平均減額割合はほぼ5割に達することが明らかとなっている。また,
本件更新登録当時(平成9年12月)においては,地価の大幅な下落傾向
は公知の事実であった。現に,近畿財務局は,平成7年ころ,大和都市管
財に対し,担保不動産の鑑定価格を見直して抵当証券の販売高を抑制する
ことを指導しており(乙16),平成9年検査時において,「D社の抵当
証券の担保不動産は,・・・最終的に換価処分した場合に大幅な元本割れ
を生じる可能性が極めて高い。」(乙44)とまで認識していたのである。
これに対し,被告は「保管抵当証券明細表」は時価評価の根拠としては
不十分である旨主張するが,情報に制約のある原告らとは異なり,監督権
限を有する近畿財務局は上記明細表に限らず容易に時価評価を行い得たは
ずであるから,被告の前記主張は失当である。
また,被告は,平成9年当時における評価額が担保不動産の取得価格を
下回っているなどとは断定することができないし,抵当証券発行時におけ
る不動産鑑定評価額を明確な根拠なく排除することはできない旨の主張も
するが,担保不動産の取得時期はほとんどが平成3年以降であること,地
価の下落傾向は遅くとも平成6年の段階では社会的常識となっていたこと,
不動産鑑定評価額は抵当証券発行後の地価変動を制度上織り込んでおらず,
収益還元法を採用していないなど鑑定評価に大きな疑問があること(例え
ば,那須ゴルフ場については,修正後の鑑定評価額が192億1900万
円,交付された抵当証券が100億円であったが,収益還元法では評価額
は約10数億円程度にしかならない。近畿財務局自身,平成12年検査で
はゴルフ場につき収益還元法による検討を行う必要に言及している(甲1
35の2)。)は一見して明らかであることに照らし,失当である。
以上の資料・事実からだけでも,担保不動産の時価が抵当証券交付申請
書添付の鑑定評価額(又は交付額から予想される評価額)と大きくかい離
しており,約563億円の特約付き融資の回収が危ぶまれることは明らか
であったから,これにつき貸倒引当金を設定すべきであった。
オリステム化学研究所に対する貸倒引当金設定の必要性
リステム化学研究所は,大和都市管財の資金運用会社として,産業廃棄
物関連事業を行うために平成4年に設立されたが,実際の収益は上がらず,
失敗に終わっていたことが既に明らかになっていた。リステム化学研究所
は大和都市管財からの借入れで物件を取得して不動産賃貸等による収益を
上げるのみであり,この唯一の収益も平成9年3月期で1億6231万円
にとどまっている一方,支払利息だけでも損益計算書上は年間2億093
7万円(平成9年3月期)を費やしていた。通常であれば,このような会
社経営が健全なはずはなく,完全に破綻しているといえる状態であること
は平成9年度には明らかであった。
そして,リステム化学研究所への抵当証券貸付額と対応する担保資産の
評価額及び帳簿価額は以下の表のとおりであり,担保資産からは債権額の
6割程度しか回収することができない状態にあることが,既に明確になっ
ていた。
(単位:百万円)
抵当証券担保資産帳簿価額B評価額評価損劣後弁済
貸付額A(=優先弁済額)CB-CA-C
1,240a区共同住宅603637
640上野西共同住宅538102
520寺内共同住宅317203
820西宮市共同住宅386434
3,220合計2,2681,8444241,376
また,平成9年度におけるリステム化学研究所の帳簿上の純資産額は1
63百万円の債務超過であったが,上記のとおり資産価値(C)が帳簿価
額(B)を下回っているため,担保資産について評価損(B-C)を考慮
した上で純資産を把握すると,587百万円(=163百万円+424百
万円)の債務超過となる。平成9年度のリステム化学研究所の負債総額は
3,372百万円であり,これは大和都市管財からの借入金3,329百
万円とその他負債43百万円から構成されるが,大和都市管財からの借入
金のうち1,844百万円は担保資産から優先的に弁済されるとしても,
残りの1,485百万円及びその他負債43百万円には一部債務超過額相
当が弁済不能となる。これを同順位で振り分けるとすれば,大和都市管財
からの借入金は9億6400万円の弁済不能となり,これについて貸倒引
当金を設定する必要があった。
これに対し,被告は,平成9年当時はリステム化学研究所には利払の延
滞がなく,その賃料収入も堅調であったことなどから,実質的に破綻して
いたとまでは認定することができない旨主張するが,同社に対する特約付
き融資の利率は年6.5パーセントから数次にわたって最終的に年4.8
75パーセントへと大幅に減免されていた上,その賃料収入も巨額の資金
を投入した結果ようやく得られたものであって,かつ,リステム化学研究
所は据え置かれた元本を10年後に一括返済すればよい状況であったにも
かかわらず,追加借入れを行わなければ利息も満足に支払えない状況にあ
ったから,被告の上記主張は失当である。
さらに,被告は,平成9年3月期においてリステム化学研究所はグルー
プ会社に対する長期貸付金からの受取利息7100万円を計上していた旨
主張する。しかしながら,上記受取利息の実態は大和都市管財が顧客から
集めた資金が同社グループ内を環流していたものにすぎず,融資・利息の
実在性は疑わしいし,その存在を前提としても4000万円の販管費によ
ってリステム化学研究所は平成9年3月期も引き続き1800万円の経常
損失を計上しているのであるから,いずれにせよ被告の上記主張は失当で
ある。
また,被告は,原告らが担保物件の評価額を帳簿価額としていることを
非難するが,バブル崩壊による時価の下落傾向にかんがみれば,帳簿価額
すなわち取得原価による評価が時価を下回ることはおよそあり得ないから,
被告の前記主張もまた失当である。
(5)本件貸付金の架空計上
本件貸借対照表には,本件貸付金が資産として記載されていた。しかしな
がら,①平成9年検査の時点で,那須ゴルフ場を担保とする本件貸付金が
ナイスミドルの総勘定元帳に記帳されていなかったこと,②55億円もの
融資を行って,経理上の記載漏れがあるなどとは常識に反する上,本件貸付
金は,そもそも大和都市管財が,法務局に対し,同社とナイスミドルとの平
成8年3月28日付け55億円の特約付き融資に基づき抵当証券の追加交付
を申請し,法務局からこれをいったん交付されたものの,近畿財務局の行政
指導によりその販売の自粛に追い込まれた案件に係るものであったこと(真
実本件貸付金が存在したならば,大和都市管財は55億円を融資したにもか
かわらず顧客から資金を集めることができないという窮地に陥っていたこと
になるが,そうだとすれば,たとい仕訳漏れがあったとしても,大和都市管
財の経理を担当していたY3公認会計士(以下「Y3会計士」という。)を
始め,大和都市管財関係者がこれを見落とすはずがない。),③本件貸付
金は平成8年3月28日に実行されたことになっているにもかかわらず,大
和都市管財の平成8年3月期の貸借対照表にも,平成8年経営健全化計画中
の「抵当証券貸付残高及び支払利息の内訳」の表にも,ナイスミドルの平成
8年6月期の貸借対照表にも計上されていないこと(大和都市管財の平成8
年3月期の貸借対照表においては,特約付き融資額が前年度比155億円増
加すべきところ100億円しか増加しておらず,大和都市管財の決算書自体
にも55億円が記帳されていない。また,ナイスミドルの平成8年6月期の
貸借対照表の長期借入金も,前年度比100億円しか増加しておらず,同月
期の貸借対照表増減比較表には,長期借入金の増減理由として那須グリーン
コース抵当証券借入金の増加と明記されている。),④本件貸付金に係る
利息(初回は平成8年3月末日の316万円余である。)が実際に支払われ
ていたとも思われないこと,⑤大和都市管財が,借方を抵当証券貸付金,
貸方を同額の長期借入金とする仕訳(以下「本件仕訳」という。)を行って
いたところ,これは資金移動を伴うとは認められないような極めて不自然な
仕訳であること,⑥大和都市管財に55億円もの資金余力があるはずがな
く,むしろ抵当証券発行による資金集めを疑うべき財務状況であったこと,
⑦平成8年経営健全化計画にもナイスミドルにそのような資金需要がある
ことは何ら触れられていなかったことからみて,本件貸付金は架空のもので
あったことが明らかであり,これを資産から除外する必要があった。そして,
本件貸付金を資産から除外すれば,それだけで大和都市管財が本件更新登録
時において債務超過の状態となっていた。
なお,大和都市管財は,本件貸付金に係る融資実行日は平成8年4月1日
であったと弁明していたが,そうであれば,通常は契約書の差し替えか日付
記載の変更が必要となり,少なくとも借入日から同年3月末日までの日割計
算による初回利息を支払う約定が削除されるはずであるのに,本件貸付金に
係る契約書には何らの訂正も削除もなかったから,同社の上記説明は信用し
難いものであった。
これに対し,被告は,本件貸付金が架空であると認定されたとしても,相
手勘定の長期借入金も架空となるため財産的基礎には影響を及ぼさないが,
平成12年検査においては同時に約56億9300万円の未収利息の計上を
否定したために簿外債務が顕在化したのであって,両者は事情が異なる旨主
張する。しかしながら,簿外債務(貸す債務)と架空融資とは,いずれも計
上されている債権について資金の交付を伴っていないという同一の事象を表
と裏から説明したにすぎないものであり,そのいずれと呼称するかによって
結論が異なるものではない。そもそも,近畿財務局は,平成13年4月16
日の会社整理通告書においては,「6社に対する当社の抵当証券発行特約付
融資などの利息支払いが確認できない状況」(甲2)と記載しており,その
趣旨につき,被告は,本訴においても当初は「文字どおり,利息の支払いが
「確認できない状況」というにとどまり,同期において利息の支払いが一切
なかったということまでを積極的に認定したものではない」(被告第5準備
書面)などと反論していたにもかかわらず,本訴の後半に至って平成12年
検査において近畿財務局は大和都市管財の抵当証券受取利息に係る売上げ計
上を否定した(すなわち,利息の支払が一切なかったということを積極的に
認定した)旨の主張に変更したものであり,極めて不合理である(なお,被
告が調書(乙58)を証拠として提出した際に添付資料から除外したため,
原告らが独自に入手した平成12年検査に係る検査結果通知書には,被告の
当初主張とは矛盾する,大和都市管財の受取利息は収益として認識すること
ができない旨の記載がある。)。したがって,被告の上記主張は失当である。
(6)美祢カントリークラブ,ナイスミドル及びベストライフ通商に対する計2
17億8000万円の各特約付き融資の架空計上
本件貸付金と同様に,以下の特約付き融資(以下併せて「本件3融資」と
いう。)についても,融資時の会計処理が「(借方)抵当証券貸付金/(貸
方)長期借入金」とされており,大和都市管財からの資金の交付が伴ってお
らず,大和都市管財からも交付を裏付ける客観的資料の提出や合理的な説明
はなかった。
平成7年2月7日美祢カントリークラブに対する110億円
同年9月28日ナイスミドルに対する100億円
平成8年11月1日ベストライフ通商に対する7億8000万円
そのため,平成12年検査において,近畿財務局のY20主任検査官(以
下「Y20検査官」という。)は,「今回検査における指摘事項の要約につ
いて」及び「三段表の指摘事項」(以下,両者を併せて「Y20要約」とい
う。)の中で,本件3融資につき,「その原因となる関連会社に対する当社
からの資金の交付が確認できないことから,金銭消費貸借契約書の記載内容
が事実と異なることとなり,当該契約は無効の疑いであり,法第19条違反
の疑いがある。この場合,同契約を成因として発行された抵当証券(原券)
及び売渡抵当証券については効力を有しないものとなる。」と指摘した(甲
135の2)。これに対し,大和都市管財は,「融資実行は,現金,振込,
手形保証にて行っている。金銭消費貸借契約における金銭の貸付は,手形を
含めて行える。従って,原契約は有効であり,存在している。」(甲135
の2)と回答したが,これを裏付けるための客観的資料を何ら提出していな
いから,上記回答が合理的説明たり得ないことは明らかである。
そして,本件3融資を資産から除外(又は同額の貸す債務を認定)すれば,
それだけで大和都市管財は本件更新登録時において債務超過の状態となって
いたのである。
(7)抵当証券受取利息の架空計上
平成9年において,既にグループ6社はすべて3又は4期以上連続して大
幅な債務超過で,回復の傾向は全く見られず,その営業もさしたる実業を伴
っていなかった上,利払に見合う収益を上げようともしていなかった。また,
平成6年10月以降,平成9年検査の直前まで,大和都市管財が抵当証券受
取利息を計上する際の会計処理の相手勘定は現金預金ではなく,資金的裏付
けのない長期借入金勘定であった。現に,大阪府警の捜査でも,平成8年3
月期の同社の抵当証券受取利息・割引料収入約47億円のうち実際に確認す
ることができたのは約3億円,同じく平成9年3月期には同収入約50億円
のうち実際に確認することができたのは約3億円にとどまった(甲106)。
さらに,ナイスミドルの総勘定元帳上も,大和都市管財に対する利息(平成
7年9月30日に約3億円,平成8年3月31日に約6億円)の支払は,こ
れと相前後してされたナイス函館からの同額の短期借入金を充てたことにな
っていたが,ナイス函館が約9億円のキャッシュインフローをたった半年で
稼ぎ出す事業を行っていないことは明らかであった。そして,大和都市管財
の融資先がいずれも同社と一体の会社であってY1の統轄下にあること,リ
ステム化学研究所に対する貸付利率が減免されたこと等にかんがみれば,こ
のようなグループ会社からの大和都市管財の抵当証券貸付利息の授受はいず
れも会計帳簿上の仮装にすぎないことが明らかである。
よって,少なくとも,大和都市管財の平成8年3月期及び平成9年3月期
に長期借入金勘定を相手方として計上された特約付き融資に係る受取利息合
計69億5962万3529円については,これを否認すべきであったから,
同社は平成9年3月期において優に資本欠損に陥っていたものというべきで
ある。
(被告)
(1)基本事項通達の内容
抵当証券業規制法6条1項7号にいう「財産的基礎」の意味内容について
は,本件更新登録時において同法自体にも法施行令・法施行規則にも規定は
設けられておらず,解釈にゆだねられており,これを明らかにするために基
本事項通達第1の1,(3),イ,(ロ),Aが定められた。すなわち,基本事項
通達は,抵当証券業規制法6条1項7号の「抵当証券業を適確に遂行するに
足りる財産的基礎」を有する法人として取り扱われるのは,A.法施行規則
4条1項5号に規定する貸借対照表等において,資産の合計額から負債の合
計額を控除した額が資本又は出資の額以上であること,B.貸借対照表等に
記載された売渡抵当証券又はこれに相当する勘定科目の金額の支払を金融機
関が保証することを内容とする契約書の写しの提出があることのいずれかの
要件に該当する場合をいうものとしていた。これは,財産的基礎という要件
は,多義的・抽象的なものであり,その要件該当性については,専門的判断
を要するものであるから,抵当証券業規制法は,その判断を財務局長等にゆ
だねているというべきところ,前記要件に関する財務局長等の認定・判断が,
当該判断の時期や地域ごとに異なっているのでは,決定に恣意が介入するお
それがあり,業者の予測可能性にも反することになるから,あらかじめ,財
務局長等の裁量権行使の基準(審査基準)を定めたものと解すべきである。
(2)基本事項通達所定要件の充足
大和都市管財は,平成9年10月に,近畿財務局に対して更新登録の申請
をしたが,本件貸借対照表において,その資産の部の合計額が573億38
90万3336円,負債の部の合計額が567億5942万3307円であ
り,前者から後者を控除した純資産額(5億7948万0029円)が資本
の額である4億5000万円を上回っており,検査の結果等によってもこれ
を否定すべき事情は認められなかったから,大和都市管財は基本事項通達に
定める財産的基礎の基準を充足していた。
(3)貸倒引当金の計上が不可能であったこと
原告らは,本件更新登録時において,グループ各社は債務超過状態にあっ
たから,大和都市管財は企業会計原則に照らして相当額の貸倒引当処理が不
可避であり,その財産的基礎がなかったと主張する。
しかし,平成9年当時の会計実務の実情等に照らせば,以下のとおり,近
畿財務局長が,本件更新登録に当たり,大和都市管財の決算について,客観
的かつ明確な根拠をもって貸倒引当金を算定することができなかったのは明
らかである。
ア平成9年当時の会計実務の実情等
貸倒引当金については,平成9年当時,商法285条の4第2項が「金
銭債権ニ付キ取立不能ノ虞アルトキハ取立ツルコト能ハサル見込額ヲ控除
スルコトヲ要ス」と規定していた(ただし,平成15年4月に同条は削除
され,同法施行規則30条に同様の定めが設けられた。)ものの,どのよ
うな場合に取立不能のおそれがあるのか,取立不能の見込額をどのように
算定するのか等に関して法令上直接の定めはなく,同法32条2項におい
て「商業帳簿ノ作成ニ関スル規定ノ解釈ニ付テハ公正ナル会計慣行ヲ斟酌
スヘシ」とされ,「公正ナル会計慣行」にゆだねられていた。また,一般
に公正妥当と認められる会計慣行とされている企業会計原則・注解18に
おいても,「将来の特定の費用又は損失であって,その発生が当期以前の
事象に起因し,発生の可能性が高く,かつ,その金額を合理的に見積るこ
とができる場合には,当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失とし
て引当金に繰入れ」るとされているにとどまり,日本公認会計士協会監査
委員会が作成した5号取扱いに係る解説においても,
a総括的に見積もる方法
イ期末残高に一定率を乗ずる方法
ロ個々の勘定ごとに主として年齢調べによって算出する方法
(注)税法規定による貸倒引当金は,上記イの方法に属するものと考
えられる
b個別的に見積もる方法
個別的に債務者ごとに債権の取立見込を実地に調査して貸倒見積額を
算出し,かつ個別的に管理する方法
(注)税法の債権償却特別勘定はこの方法に属するものである
などと,本件基準を含む種々の算定方法が概括的に例示された上,「貸倒
見積残高算出の方法として示されているところは単なる例示にすぎず,こ
のいずれかによるべきものであることを要求しているものではない。重要
なのは,期末における債権に対する将来の貸倒見積額をいかに適正に算出
するかにあるのであり,種々の方法が考えられよう。」などと記載され,
いかなる場合にどの算定方法を用いるのかについては定められておらず,
具体的な算定基準も明示されていなかった。すなわち,平成9年3月当時
は,それぞれの企業が,本件基準を含めさまざまな方法により貸倒引当金
を計上している実情にあり,いかなる算定基準を採用するかについては,
それぞれの企業に任されており,貸倒引当金を算定する統一的な基準は存
在していなかった。
このように,公正なる会計慣行といっても多義的であるところ,平成9
年当時は貸倒引当金について行政当局が公権的にこれを算定して私企業に
対し不利益処分をするに足るだけの明確な基準は熟成されておらず,抵当
証券業者のみならず,預金者保護等の観点からより資産の健全性が強く要
請される銀行等の金融機関を含めた検査一般において,行政当局が個々の
企業の作成した貸借対照表について企業会計原則等に基づく引当の適切性
を検証し要追加引当額を見積もるという運用はされていなかった。
この状況は抵当証券業者についても同様であって,平成9年3月当時,
抵当証券業協会が定め,抵当証券業者の経理処理の実務指針となっていた
統一経理基準(平成7年2月に日本公認会計士協会抵当証券部会の協力を
得て,抵当証券業協会の税務・会計委員会幹事会,専門部会等で検討を重
ね,平成6年12月21日の第65回理事会で決議された内容に基づき編
集されたものであり,企業会計原則及び法人税法等を参考にした各抵当証
券会社の社内における会計処理基準であるとされている。)は,貸倒引当
金について,前記の企業会計原則・注解18の文言を引用した上,具体的
な基準については,「各社の所定の社内処理基準(計上基準)に基づいて,
個々の債権の回収可能性を吟味し,適正な貸倒引当金を設定する」と規定
するのみで,貸倒引当金の具体的な算定基準は定められていなかった(乙
61)。
しかるところ,それまで我が国が資産を計上する基準として採用してい
た取得原価主義の下では,バブル崩壊に伴い発生した株式等の含み損や,
デリバティブ取引の普及に伴って発生した含み損益等を財務諸表上適切に
反映することはできず,企業の実態と財務諸表との間にかい離が生じるに
至ったため,国内外の投資家に対し,企業の実態に関する情報を提供し,
投資参加を促すとともに,企業経営者に対しても企業の実態に即した経営
判断を可能とするべく,時価主義に基づく新たな会計基準が求められるよ
うになり,平成8年7月以降,企業会計審議会特別部会金融商品委員会に
おいて,貸倒引当金額の算定方法を含むさまざまな問題について議論がさ
れるようになって,貸倒引当金額の算定方法についても,「破綻する前で
も問題のある債権には貸倒引当金を設定すべき」である(乙115の1・
同年11月15日第3回委員会),「貸出金の償却・引当金の基準につい
ては,貸出金の減損を早期に認識できる基準が必要である」(乙115の
2)との議論がされたが,銀行等の金融機関の場合でさえ,行政当局にお
いて企業会計原則等に基づく引当の適切性を検証する環境が整備され,こ
のような検証をする運用がされるようになったのは,自己資本比率という
客観的な基準を用い,自己資本比率に係る区分に応じて行政当局が業務改
善命令等の措置を適時に講じていくという早期是正措置制度(銀行法26
条2項)が導入された平成10年4月以降である(乙62)。また,早期
是正措置制度の導入に先立って,貸倒償却及び貸倒引当金の計上基準につ
いて検討していた日本公認会計士協会が,銀行等監査特別委員会報告第4
号「銀行等金融機関の資産の自己査定に係る内部統制の検証並びに貸倒償
却及び貸倒引当金の監査に関する実務指針」(以下「4号実務指針」とい
う。)を公表し,その中で,貸倒引当金の算定について,債務者の財政状
態及び経営成績を考慮して,債権の区分を正常先債権,要注意先債権,破
綻懸念先債権,実質破綻先債権及び破綻先債権の5区分とし,それぞれに
ついて過去の貸倒実績率,担保の処分見込額,保証による回収見込額等を
基礎として貸倒見積高を算出する考え方を示した(乙65)のも平成9年
4月である。さらに,金融監督庁が,検査官による銀行等の金融機関の検
査の手引書である「金融検査マニュアル」を策定すべく,法律家,公認会
計士,金融実務家らをメンバーとする「金融検査マニュアル検討会」を設
置したのは平成10年8月であり,金融監督庁検査部長が,同検討会のま
とめた「最終とりまとめ」(平成11年4月)を踏まえ,「預金等受入金
融機関に係る検査マニュアルについて」と題する通達により,検査官によ
る銀行等の金融機関の検査の手引書である「金融検査マニュアル」を発出
し,引当の適切性に関する検査の手法を示したのは同年7月である。
抵当証券業者を含む一般企業等については,銀行等の金融機関に対する
4号実務指針を受けて,一般事業会社にも適用することができるものとし
て平成11年1月に企業会計審議会が「金融商品に係る会計基準・同注解
(金融商品に係る会計基準の設定に関する意見書)」(乙70)を公表し,
「金融機関の貸付金については,債務者の財政状態及び経営成績の悪化に
対し適切な貸倒引当金の設定を行う観点から,平成9年4月1日以降開始
する事業年度以降,会計実務上,債務者の財政状態及び経営成績を考慮し
た分類に基づき,過去の貸倒実績率,担保の処分見込額,保証による回収
見込額等を基礎として貸倒見積高が算定されているところである。このよ
うな状況の下において,債権一般に関して,債務者の財政状態及び経営成
績が悪化し,当初の契約条件に従って元本の回収又は利息の受取りができ
ない等債務者に問題が生じている場合に,貸倒見積高を適切に算定するた
めの会計基準を整備する必要がある。本基準では,債務者の財政状態及び
経営成績等に応じて,債権を,①経営状態に重大な問題が生じていない
債務者に対する債権(一般債権),②経営破綻の状態には至っていない
が,債務の弁済に重大な問題が生じているか又は生じる可能性の高い債務
者に対する債権(貸倒懸念先債権)及び③経営破綻又は実質的に経営破
綻に陥っている債務者に対する債権(破産更生債権等)とに区分し,その
区分ごとに貸倒見積高の算定方法を示すこととした」との考え方が示され
た。これを受け,日本公認会計士協会は,平成12年1月31日,会計制
度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針(中間報告)」
(乙71)を公表し,その中で,債務者の財政状態及び経営成績を考慮し
た分類に基づき貸倒見積高を算定する具体的な基準が示されたのであり,
これらが適用されるようになったのは同年4月1日以後開始する事業年度
からである。これにより,監査委員会報告第5号は廃止され,統一経理基
準も改正されて,個別の債権の元本の回収可能性を重視して貸倒見積高を
算定していた旧来の基準に代わり,債務者の財政状態及び経営成績の悪化
を考慮してより適切な貸倒引当金の設定を行う観点から債権の分類方法が
設けられ,一般債権において本件基準ではなく貸倒実績率等合理的な基準
によるべきことが明確になったほか,貸倒懸念債権については個々の債権
の実態に最も適する算定方法としてキャッシュ・フロー見積法が新たに規
定されたのである。ここに至り,破綻懸念がある融資先に対する債権につ
いて通常債権よりも多額の貸倒引当金を必要的に計上すべきものとする
「金融商品に係る会計基準・同注解」及び「金融商品会計に関する実務指
針」が抵当証券業者が用いるべき唯一の公正なる会計慣行として貸倒引当
金を算定する客観的かつ明確な統一的基準となり,税法基準は公正なる会
計慣行ではなくなったのである。
そして,新旧両基準の間には,異なる結論を導くほどの差異があった。
現に,例えば日本長期信用銀行は,平成9年当時,多額の破綻懸念先債権
を抱えていたにもかかわらず,税法基準に基づく貸倒引当金の計上が容認
されていたが,平成10年3月期決算において,4号実務指針が公正なる
会計慣行となった結果,多額の引当,償却の必要性が生じ,最終的に破綻
に至っている(乙153)。また,株式会社アプラス(平成12年3月期
の財務諸表について,監査法人の監査を受けて適正意見を得ていた。)は,
平成13年3月期の有価証券報告書において,同連結会計年度から「金融
商品に係る会計基準」を適用する旨記載し,当該年度から数百億円の単位
で貸倒引当金の積増しを行っている。また,ダイヤモンド抵当証券株式会
社(平成11年3月期の財務諸表について,同様に監査法人の監査を受け
て適正意見を得ていた。)も,平成12年3月期の有価証券報告書におい
て,貸倒引当金については,「金融商品に係る会計基準(中間報告)」の
公表に伴い,同期から上記報告における資産の自己査定基準に基づき計上
する方法に変更した旨記載し,やはり数百億円の単位で貸倒引当金の積み
増しを行っていたが,平成11年3月期においては,貸借対照表の流動資
産の部に計上されている債権(抵当証券特約付貸付金,営業貸付金(その
他),その他貸付金,未収益金)の額約211,077百万円に対する貸
倒引当金は894百万円であり,貸倒引当金の債権に対する比率は約0.
42パーセントであって,法定繰入率(金融保険業0.3パーセント)と
大差のない水準であったのである。
以上の経緯からも明らかなように,平成9年当時は,貸倒引当金につい
て,行政当局が公権的にこれを算定して不利益処分,まして,営業の資格
そのものを剥奪するような不利益処分をするに足るだけの明確かつ客観的
な基準がいまだ熟しておらず,監査委員会報告第5号が,「我国における
会計慣行とりわけ税法基準を採用している会社が大多数である」と指摘し
ているとおり(甲89の2,乙60),税法基準が,公正なる会計慣行に
合致するものとして広く採用されていた。このことは,財務の健全性が一
般企業よりも強く要請される預金取扱金融機関においてすら,平成9年3
月当時は,貸出債権の償却,引当が税法基準に基づいて行われており,税
法基準を超える引当計上は各金融機関の自主的判断にゆだねられ,例外的
にしか行われていなかったこと(乙151)からも明らかである。しかる
ところ,税法基準は,法人税法基本通達に基づいて貸倒引当金額を算定す
るものであって基準として明確であり,破綻懸念がある融資先に対する債
権についても通常債権より多額の貸倒引当金を必要的に計上することを求
めておらず,本件更新登録当時,大和都市管財は,後記のとおり少なくと
も本件基準による貸倒引当金の設定によれば資本欠損に至らなかった。
しかも,平成9年当時,ナイスミドル,美祢カントリークラブ,ナイス
函館はそれぞれゴルフコースを営業し,ベストライフ通商は「サンクス」
「あじわい」などの飲食店や不動産賃貸業を営み,リステム化学研究所は,
産業廃棄物関連事業や不動産賃貸業を営んで,それぞれ事業収入を得てい
た。このように,大和都市管財の融資先グループ会社のうち5社は,いず
れも営業を継続し,事業収入を得ていたのであり,廃業の予定はなかった。
また,これら各社は平成9年3月期に直近する決算期においていずれも当
期損失を計上し,累積損失も合計約108億円にのぼっていた上,そのよ
うな経営状況が続けば将来的に破綻する懸念はあったものの,大和都市管
財に支払う利息の延滞も認められず,平成9年11月18日のヒアリング
においても,Y3会計士が中心となって,ナイスミドル等の経営するゴル
フ場の会員権販売の拡充,那須グリーンコースのホテル建設等による各ゴ
ルフ場の収益の向上,那須グリーンリゾート計画,ナイス大原カントリー
リゾート計画,ファッションホテル購入による融資先グループ会社所有不
動産の利用向上など,債務超過解消に向けた新たな事業計画を説明してい
たのであって,経営の改善の見込みがないと断定することができる状況で
はなかった。
以上の次第であるから,仮に,大和都市管財の平成9年3月期決算にお
いて,融資先に係るグループ会社5社に対する特約付き融資につき本件基
準を超える貸倒引当金を計上していないことが公正なる会計慣行に合致し
ていないとしても,近畿財務局が,本件更新登録に当たり,大和都市管財
が行っていた本件基準に基づく貸倒引当金額を否定し,別の算定基準を一
方的に採用して,貸倒引当金の追加計上額を算定することはできなかった
のである。
これに対し,原告らは,22号取扱い(なお,「金融商品会計に関する
実務指針(中間報告)」の公表に伴い,現在ではこの取扱いは廃止されて
いる。)によって大和都市管財の回収不能見込額を算定すべきであった旨
主張する。
しかしながら,22号取扱いは会計上の子会社(ある会社が他の会社の
議決権の過半数を実質的に所有している場合の当該他の会社をいう。)又
は関係会社(会社が他の会社の議決権の100分の20以上,100分の
50以下を実質的に所有し,かつ,当該会社が人事,資金,技術,取引等
の関係を通じて当該他の会社の財務及び営業の方針に対して重要な影響を
与えることができる場合における当該他の会社をいう。)における株式及
び債権の評価に適用されるものであるところ,グループ6社は大和都市管
財にとって上記のような意味での子会社や関係会社には該当しないし,近
畿財務局が,大和都市管財の主要株主がY1及びその親族であるといった
程度の理由で,本件に本来適用されない22号取扱いを参考にして一方的
に事実上営業活動を停止させる効果を持つ更新登録拒否をすることができ
ないことは明らかである。加えて,22号取扱いにおいては綜合的方法と
並んで個別的方法(債権のうち取引条件,契約条件等に違反し,かつ,現
実に回収されていない額について貸倒引当金を設定する方法)も認められ
ており,両方法の間に特段の優劣はないところ,本件更新登録時において
大和都市管財には上記いずれの観点からみても債権の滞留はなく,このよ
うな意味での回収不能額は存在しなかった(少なくとも,近畿財務局は現
実に債権の滞留があったと認識してはいなかった。)から,個別的方法に
よれば大和都市管財の場合は貸倒引当金は不要とも解し得た(原告らは,
個別的方法は金額的に必ずしも重要性がない場合等に用いられる補充的な
方法であると主張するが,何らの根拠もない。)。さらに,22号取扱い
は,別の算定基準に基づく貸倒引当金を排除する趣旨であるとも考えられ
なかった。また,平成9年当時,大和都市管財の融資先であるグループ会
社はいずれも債務超過の状況にはあったものの,過去に大和都市管財への
利払を延滞したことはなく,現に事業を継続していたのであって,破綻懸
念があるとはいえても,実質的に破綻しているとか,経営改善の見込みが
ないと直ちに断定することができる状況にはなかったことは上述のとおり
であり,事業を継続しながら自助努力により借入金を返済する可能性や,
今後業況が好転する可能性を考慮することなく,その即時清算を仮定して
貸倒引当金を算定することは不可能であった。
したがって,原告らの前記主張は失当であるから,原告らが22号取扱
いを本件に直接適用した上で行った数々の試算は,その前提を欠き,無意
味である。
さらに,原告らは,財産的基礎の有無に係るメルクマールである「資本
欠損」の有無は極めて会計的な判断であるのに,これとは別に,行政庁が
「不利益処分を課すほどの客観的かつ明確な根拠」との規範を新たに定立
するのは二重の基準を持ち込むもので不当であるとの旨の主張をする。し
かしながら,「資本欠損」か否かは「公正ナル会計慣行」に従って判断さ
れるとしても,例えば貸倒見積残高算出一つをとっても種々の算定方法が
考えられるように,いずれの算定方法も「公正ナル会計慣行」として評価
され得る場合に,行政当局がこれらのうちのいずれか一つの算定方法を一
方的に採用して不利益処分を課すには,当該方法によることに客観的かつ
明確な根拠が必要であり,貸倒引当金について複数の考え方が成り立ち得
る場合には,結局,申請者の採用する算定方法を採用せざるを得ないもの
というべきであるから,原告らの上記主張は失当である。
また,原告らは,被告が上記のとおり平成9年当時大和都市管財の融資
先が実質的に破綻しているなどの状況になかったと指摘したのに対し,貸
倒引当金は融資先の破綻が確定するまで設定することができないというも
のではないし,融資先が債務超過に陥っているような場合には,貸倒れを
回避することができる具体的かつ明らかな要因が存在しない限り貸倒引当
金の設定が求められる旨反論する。しかしながら,被告は,融資先の破綻
等がなければ貸倒引当金を計上し得ないと主張しているのではなく,そう
した事情がなければ融資先の清算を前提とする原告らのような貸倒引当金
の算定方法を採り得ないと主張しているにすぎないから,原告らの上記反
論は被告の主張を正解しないものというほかない。
加えて,原告らは,会計原則は一般性を備えた根本原則であるから,算
式のような明確な基準を要求することは的はずれである旨主張する。しか
しながら,前記のとおり,平成9年当時は,企業会計原則・注解18が存
在していたとはいえ,貸倒引当金の算定方法について「金融商品に係る会
計基準」のように統一的な基準がなく,それぞれの企業が税法基準を含め
さまざまな方法により貸倒引当金を計上していたのであり,そもそもどの
ような場合に「(費用又は損失の)発生の可能性が高く」といえるのか,
どのような場合に「その金額を合理的に見積もることができる」といえる
のか明らかでなかったばかりか,具体的な引当金額をどのように算定する
のかについて,行政当局が客観的かつ明確な根拠をもって採用することが
できる特定の算定方法が存在しなかったことは上述のとおりであり,まし
て事業を継続しており破綻状態にあるとまで断定することができない大和
都市管財の融資先グループ会社について,同社が個別に貸倒引当金を計上
しなければならないと断定することはできなかったから,原告らの上記主
張は失当である。
さらに,原告らは,金融商品会計基準は22号取扱いと比較してそれほ
ど明確とはなっておらず,本件における貸倒引当金の計算方法に具体的な
影響を与える規定上の差異はない旨主張する。しかしながら,原告らの上
記主張もまた以下のとおり失当である。すなわち,金融商品会計基準は,
債権を債務者の財政状態及び経営成績等に応じて一般債権,貸倒懸念債権
及び破産更生債権等に区分した上,①一般債権については,債権全体又
は同種・同類の債権ごとに,債権の状況に応じて求めた過去の貸倒実績率
等合理的な基準により算定する方法を用いることとし,②貸倒懸念債権
については,債権の状況に応じて,債権額から担保の処分見込額及び保証
による回収見込額を減額し,その残額について債務者の財政状態及び経営
成績を考慮して貸倒見積高を算定する方法か,債権の元本の回収及び利息
の受取りに係るキャッシュフローを合理的に見積もることができる債権に
あってはDCF法(債権の元本及び利息について元本の回収及び利息の受
取りが見込まれる時から当期末までの期間にわたり当初の約定利子率で割
り引いた金額の総額と債権の帳簿価額との差額を貸倒見積高とする方法)
を用いることとし,③破産更生債権等については,債権額から担保の処
分見込額及び保証による回収見込額を減額し,その残高を貸倒見込額とす
る方法を用いると規定しており,上記にいう貸倒懸念債権(経営破綻の状
態には至っていないが,債務の弁済に重大な問題が生じているか又は生じ
る可能性の高い債務者に対する債権)について,会計制度委員会報告第1
4号(金融商品会計に関する実務指針(中間報告))は,「債務の弁済に
重大な問題が生じているとは,現に債務の弁済がおおむね1年以上延滞し
ている場合のほか,弁済期間の延長又は弁済の一時棚上げ及び元金又は利
息の一部を免除するなど債務者に対し弁済条件の大幅な緩和を行っている
場合が含まれる。」,「債務の弁済に重大な問題が生じる可能性が高いと
は,業況が低調ないし不安定,又は財務内容に問題があり,過去の経営成
績又は経営改善計画の実現可能性を考慮しても債務の一部を条件どおりに
弁済できない可能性の高いことをいう。」,「財務内容に問題があるとは,
現に債務超過である場合のみならず,債務者が有する債権の回収可能性や
資産の含み損を考慮すると実質的に債務超過の状態に陥っている状況を含
む。」として,どのような場合に貸倒懸念債権に該当するのか具体的かつ
詳細に規定している。他方,5号取扱いは,債務者の財政状態,経営成績
等に応じて債権を区分することなく,考え得る数種の貸倒見積高算出方法
を例示するとして,総括的方法,個別的方法などを掲げるにすぎず,債務
者の経営内容に重大な問題が生じているか否かにより債権を区分するよう
な明確な規定も存在しなかったし,本件基準など「種々の方法」を容認し
ていた。以上のとおり,金融商品に係る会計基準は,5号取扱いよりも詳
細,具体的かつ明確である。また,金融商品に係る会計基準は,貸倒懸念
債権は,債権額から担保の処分見込額及び保証による回収見込額を減額し,
その残高について債務者の財政状態及び経営成績を考慮して債権額の何割
かを貸倒見積高として算定するものとしており,精算を前提とした回収不
能見込額をすべて貸倒引当金額とするわけではないから,原告らが主張す
るような融資先の清算を前提とする算定基準とは異なるのである。
また,原告らは,大和都市管財の担保不動産の時価が本件更新登録時に
おいて鑑定評価額を下回っていたことからも貸倒引当金の設定が必要であ
ったとし,具体的には,抵当証券保管機構が作成した保管抵当証券明細表
(甲81の6)における時価評価額及び帳簿価格を基礎とした上で,帳簿
価格を採用したものについては,バブル崩壊後の不動産価格の下落傾向の
下では平成9年当時の時価が帳簿価格を上回ることはないとの前提に立っ
て各担保物件の換価可能価値を算定する。しかしながら,不動産取引にお
いては相場より低い価格で取引が行われることもあり得ること,地価は平
成3年ころまでは上昇傾向にあったところ,担保物件の中には昭和60年
代のバブル期以前に購入した物件もあること,個々の不動産にはその種類,
所在地の実情,収益状況,地理的要因等の固有の事情があることなどから,
これら担保不動産の平成9年当時の評価額がその取得価格を下回っている
とは断定することができない上,保管抵当証券明細表は路線価,公示価格
等による机上の時価評価にすぎないから,上記明細表や一般的な地価の下
落傾向のみを根拠に,抵当証券を発行する際に添付された不動産鑑定士に
よる(いずれも被担保債権額を上回る)鑑定評価書を近畿財務局が否定す
るのは不可能であった。よって,仮に融資先の清算を前提とする貸倒引当
金の算定基準を採用したとしても,近畿財務局が不動産鑑定士による当該
鑑定額を覆し,別の評価額を用いて回収不能見込額を認定することはでき
なかったから,原告らの前記主張も失当である。
イ税法基準
平成9年当時は,法人税法52条1項により税務上損金に算入すること
ができる貸倒引当金の限度額は,大和都市管財のような金融業者について
は,同法施行令97条1項3号により,貸金の帳簿価額の合計額に100
0分の3の法定繰入率を乗じた金額とされていた。
これに対し,原告らは,法定繰入率は現実の貸倒率より低く設定されて
おり,大和都市管財の自己融資に対する貸倒引当金の水準としては実態を
反映していないことが明らかである旨主張する。しかしながら,5号取扱
いの解説にもあるとおり,税法基準により算出される貸倒引当金は,実際
に発生する貸倒損失よりも過大に設定される傾向にあるが,一種の社会的
に認められた経験率として合理性を有するものとされ,企業会計の基準に
準拠する取扱いとされていたことが明らかであるから,原告らの上記主張
は失当である。
しかるところ,大和都市管財は,同年3月期の貸借対照表において,少
なくとも,貸金の帳簿価額の合計額714億2960万円(受取手形割引
高150億7000万円を含む。)に1000分の3の法定繰入率を乗じ
た金額である2億1000万円(1000万円未満切捨て)を貸倒引当金
として計上していたから(乙3の7),同社の貸借対照表には企業会計の
基準に反する点はなかった。
ウ原告らによる貸倒引当金の計算の不当性
原告らは,本件更新登録時に大和都市管財が見積もるべきであったとす
る貸倒引当金の額の算定に当たり,営業を継続中の融資先について,営業
譲渡等の可能性を考慮することなくその営業権(商号又は商標の浸透,有
利な立地条件,経営者の資質,従業員の熟練度,取引先との有利な関係,
金融機関との緊密な関係など他企業にみられない特殊な利点によって得ら
れる超過収益力としての経済的事実)を無価値として全額償却したり,グ
ループ6社の保有する不動産の評価額を,抵当証券発行時における不動産
鑑定士による鑑定評価額を無視し,不動産市況全体が下落傾向にあること
のみをもって抵当証券保管機構による評価額や各不動産の取得価格に一方
的に依拠して算出したり(前記のとおり,グループ会社が保有する担保物
件の中には,昭和60年代等のバブル期以前に購入したものも含まれてお
り,個々の不動産の中には,その種類や所在地の実情等,それぞれに固有
の事情があるから,行政当局が単なる一般的な傾向を根拠に不動産鑑定士
の鑑定評価を否定することは到底不可能であった。),ベストライフ通商
が平成8年10月に新たに土地を取得した事実を無視していたり(財産的
基礎の有無を判断するに当たり審査される計算書類は,更新登録申請の日
を含む事業年度の前事業年度の計算書類である。),ナイスミドルが所有
する株式(平成8年3月期以降に当期利益を計上し,同社が27億500
0万円で取得した美祢カントリークラブのものも含まれる。)を安易に無
価値と評価したり,大和都市管財のY1からの81億4700万円の借入
金の出所についてナイス函館である旨根拠なく断定するなど,その計算に
は不合理な点が多く,少なくとも,近畿財務局長において,原告らの主張
するような貸倒引当金を算定して,大和都市管財の財産的基礎に関する審
査を行うことは不可能であったというべきである。
加えて,別紙8【ケースA】の計算については,平成9年検査において
大和都市管財を通じて近畿財務局が融資先各社の決算書の提出を受けたの
が同年7月8日であり,その時点ではナイスミドルの同年6月期の決算作
業は終了しておらず,同期の貸借対照表の提出を受けることは不可能であ
ることを看過している点においても失当というべきである。同様に,【ケ
ースB】の計算については,原告らが①大和都市管財の融資先の保有不
動産すべてが特約付き融資の担保に供されていることを所与の前提として
いること(融資先が担保に供されていない不動産を所有している場合,そ
れらの物件については一般債権の弁済の対象となる財産となるために回収
見込額が大きくなり,貸倒引当金要設定額は小さくなる。),②担保物
件の帳簿価額の合計額がそれらの評価額の合計額を上回ることを前提とし
ていること(含み益のある資産であった場合,原告らの計算はその根拠を
失う。)などの点でも失当というほかはない。
エリステム化学研究所に対する貸倒引当金の設定が不要であること
原告らは,リステム化学研究所は平成9年度には完全に破綻していた旨
主張する。しかし,同社は,平成9年3月期に収益としてグループ会社に
対する長期貸付金8億2600万円に対する受取利息約7132万円も計
上しており,不動産賃貸等による収益約1億6231万円と受取利息約7
132万円との合計額2億3363万円は支払利息約2億0937万円を
上回っていた(甲77の5)。さらに,近畿財務局が,平成9年5月20
日に大和都市管財に対しヒアリングを実施したところでも,リステム化学
研究所について,産業廃棄物のリサイクル事業も本格化する見込みである
旨の説明があり,平成9年経営健全化計画(最終提出は同年12月1日)
及びこれに伴うヒアリングにおいても,賃貸収入が堅調であることに加え,
産業廃棄物セラミック化処理事業も本格化する見込みで有望であるとされ
ていた。また,同社の売上高の推移をみても,設立当初の平成5年3月期
には約1621万円,平成6年3月期には約1944万円にすぎなかった
が,平成7年3月期にはこれが約1億6291万円と飛躍的な伸びを見せ,
その後も平成8年3月期,平成9年3月期と同水準を維持していた(甲7
7)。さらに,同社の当期損失の推移をみても,平成5年3月期に当期利
益を計上した後,平成6年3月期には約3318万円,平成7年3月期に
は約7088万円の当期損失をいずれも計上したものの,その後,当期損
失額は,平成8年3月期には約5082万円,平成9年3月期には約18
60万円と大幅に縮小し,改善傾向を示していた。よって,リステム化学
研究所は,本件更新登録当時,完全に破綻しているなどと断定することが
できる状況にはおよそなかった。さらに,リステム化学研究所に係る担保
物件の不動産鑑定評価額は,いずれも被担保債権額を上回っていた。した
がって,平成9年当時,リステム化学研究所に係る貸倒引当金を算定する
ことはおよそ不可能であったことは明らかである。
これに対し,原告らは,大和都市管財のリステム化学研究所に対する特
約付き融資の貸付利率が年6.5パーセントから最終的に年4.875パ
ーセントに減免されたことをもって,同研究所の利払が延滞していた根拠
であると主張する。しかしながら,貸付利率の減免は,融資先企業の業況
に応じ,取引関係等を考慮してされるもので,直ちに融資先の利払が延滞
していることを意味しないし,年4.875パーセントへの減免というの
は平成8年経営健全化計画上の数値であって,平成10年3月期及び平成
11年3月期において,実際に大和都市管財に支払われている利息の利率
は年6パーセントであって,上記減免は実施されていない。よって,原告
らの上記主張は失当である。
(4)本件貸付金の計上が財産的基礎と無関係であること
仮に本件貸付金が仮装のものであるとしても,そのことは直ちに大和都市
管財の財産的基礎に影響を与えるものではない。すなわち,大和都市管財に
おいては,本件貸付金について,大和都市管財がY1から55億円を借り入
れ,これをそのままナイスミドルに貸し付けたことを示す本件仕訳がされて
いたところ,仮に,大和都市管財がY1から55億円を借り入れ,これをそ
のままナイスミドルに貸し付けたという事実がなかった場合,本件仕訳を消
去すべきこととなるが,それは,本件貸借対照表から55億円の特約付き融
資という資産を控除するとともに,長期借入金という負債も同額控除すべき
ことを意味するから,結局,大和都市管財の資産の合計額から負債の合計額
を控除した額には変動がないことに帰する。仮に,本件貸付金が架空である
ために本件貸付金から発生する抵当証券受取利息の計上も否定すべきとする
場合には,55億円の長期借入金から発生する支払利息の計上も否定すべき
こととなるが,本件貸付金から発生する抵当証券受取利息が年7パーセント
であるのに対し(甲51,乙82),55億円の長期借入金から発生する支
払利息は年8パーセントであるから(乙84),大和都市管財の資産は,む
しろ増加することになる。
他方,近畿財務局は,平成12年検査において,会社整理通告書記載のと
おり,大和都市管財の抵当権付き債権約51億2500万円(その内訳は,
別表6から平成11年4月1日付けで計上された合計20億1890万円,
平成11年4月13日付けで計上された12億円,及び,平成11年5月2
8日付けで計上された20億円の総計から,平成12年3月31日付けで消
去された9370万円を控除した額。以下同じ。)につき資金の交付が伴っ
ていないことを認定したが,同社がこれを
(借方)抵当権付債権/(貸方)関係会社
という仕訳で計上した上で顧客に売却していたことなどのため,上記仕訳を
消去することができなかったことから,大和都市管財がグループ会社に対す
る抵当権付き債権を取得すると同時にグループ会社に対しては資金を交付す
る義務(簿外負債)を負ったと解したものである。さらに,金融商品に係る
会計基準注解(注9)及び金融商品会計に関する実務指針119によれば,
契約上の利払日を6か月から1年程度経過しても支払を受けていない未収利
息については当期損失として処理し,それ以後の未払利息についても計上し
てはならないことが明確に定められていることを根拠に,大和都市管財側の
説明や特別上申書(乙138,以下「本件上申書」という。)の記載などか
ら,同社の受取利息の未収は少なくとも平成10年8月(総勘定元帳におい
て関係会社を相手方勘定として抵当権付き債権が最初に計上された時期)か
ら平成12年10月の検査時点まで継続していたものと認定し,同社の融資
先が赤字決算の連続で大幅に債務超過になっていた点を捉え,上記期間にお
ける未収利息計約56億9300万円(その内訳は別表7のとおり。)の借
方(資産)への計上を否定し,これによって上記簿外負債が顕在化したもの
として大和都市管財の財産的基礎を否定したのであって,平成9年検査にお
ける判断とは事情が異なる(原告らは,簿外負債の認定と架空融資の認定と
は全く同一の事象を表と裏から表現したにすぎない旨主張するが,前記のと
おり,貸す債務を負担している以上,諾成的消費貸借としては成立している
ため債権の計上を架空とは認定することができないのであって,原告らの主
張は根本的に誤っている。)。
(5)本件3融資の存否について
検査に係る財務局等としての最終結論は,検査当局における十分な審査を
経た上で,財務局長等名の検査結果通知の形式で被検査金融機関に通知され
るものであり,主任検査官の認識がそのまま財務局等としての最終結論にな
るものではない。Y20要約は,大和都市管財側の説明が二転三転していた
平成12年検査の中途段階である同年11月14日付けで作成されたもので
あって,検査過程の一時点における主任検査官の認識を示したものにすぎな
いのに対し,平成12年検査に係る検査結果の通知(以下「平成12年検査
結果通知」という。)は平成13年4月9日付けであって,近畿財務局は,
Y20要約の後,約5か月もの慎重な検討を経て最終的な結論に至っている
のである。そして,平成12年検査結果通知には,本件3融資を架空と認定
したとは全く記載されていない。したがって,Y20要約の記載内容をもっ
て近畿財務局が最終的に本件3融資を架空と認定したかのような原告らの主
張は,その前提において失当である。
(6)抵当証券受取利息の存否について
グループ6社がすべて大幅かつ継続した債務超過に陥っており,その営業
もさしたる実業をしていない状況であること,平成8年3月期及び平成9年
3月期における大和都市管財の抵当証券受取利息計上時の会計処理の際,そ
の相手方勘定が現金預金ではなく長期借入金であったことのみから,更新登
録拒否という重大な結果を伴う受取利息の仮装の認定を行うことはできない
というべきである。
4争点3(本件更新登録時において,大和都市管財は更新登録拒否事由である
人的構成の欠如(抵当証券業規制法6条1項7号)の要件を満たしていた
か。)
(原告ら)
(1)総論
抵当証券業者が収益性のある融資をして収益を上げるためには,反社会的
企業への融資をせず(融資の公共性),返済能力ある先へ融資をし(融資の
安全性),十分な担保を徴求する(担保の十分性)ことが必要であり,この
ような融資を実現するためには,これらの条件を備えているか否かを見抜く
能力のある融資審査担当者を確保して融資審査に当たらせる枠組みが必要で
ある。抵当証券業規制法制定時における国会審議においても,政府委員は,
人的構成は,財産的基礎と並んで,抵当証券購入者の権利を保護するために
非常に重要である旨答弁していた。
基本事項通達は,抵当証券業規制法6条1項7号にいう「抵当証券業を適
確に遂行するに足りる・・・人的構成を有しない法人」でないとするために
は,①役員又は重要な使用人のうちに,抵当証券業に関し相応の知識を有
する者がいること,及び②融資業務を担当する組織において融資業務経験
者が2名以上在籍していること,が必要としているが,以下のとおり,大和
都市管財は本件更新登録当時,このいずれの要件をも充足していなかった。
したがって,本件更新登録時において,大和都市管財には,同法6条1項7
号にいう「人的構成」が欠如していたことは明らかである。
これに対し,被告は,営業の自由をできる限り尊重するために,審査基準
は明確で客観的かつ画一的であるべきであると主張する。しかしながら,営
業の自由は絶対不可侵ではなく,公共の福祉の観点から制約を受けるもので
あり,抵当証券業は過去に大量被害の出ている業種であるから,抵当証券業
規制法による購入者保護を目的とした規制は合理的なものとして憲法上許容
されることは明らかである上,抵当証券業者は100社程度しかなかったか
ら,大量処理の必要から画一的基準が必要な場合にも当たらず,むしろ実質
的な調査等が要請されるものというべきである。したがって,被告の上記主
張は失当である。
(2)抵当証券に関し相応の知識を有する者の在籍
抵当証券業に関する相応の知識を有するといえるためには,購入者保護の
ために遵守すべき抵当証券業者としての法的義務等に関する知識や,こうし
た知識を適切に実用する能力を有することが条件となり,具体的には,①
モーゲージ証書による取引約款において抵当証券業者側に課される償還義務
の履行確保,②貸出先の返済能力や担保価値等につき適切な評価をした上
での融資,③貸出債権と償還債務の適切な管理等,及び④関係法令・通
達・契約についての知識が不可欠である。しかし,大和都市管財の融資は,
期間中は金利のみの支払を受け,元本は全額10年後に一括して返済を受け
る形式で行われており,抵当証券購入者の償還資金の財源が返済金にほとん
ど頼ることのできないハイリスクなものであったこと,リスクの分散を顧慮
せず,同社グループに属する赤字企業にのみ巨額融資をし,返還請求や督促
を全く行わず,担保評価も極めて甘かったことなどに照らし,同社には,抵
当証券業の新規登録以来,このような意味での知識を有する者が在籍した事
実がなかったことは明らかである。
これに対し,被告は,大和都市管財においては,Y1とY8とが1年以上
の業務経験者及び抵当証券業協会の研修修了者という内部基準をいずれも満
たしていた旨主張する。しかしながら,上記内部基準のうち1年以上の業務
経験に係る部分は,「抵当証券業に1年程度以上適正に従事した者がいるこ
と」から「抵当証券業に関し相応の知識を有する」者の存在の要件が推認さ
れるとするのみであるところ,Y1は,平成7年業務改善命令を撤回させた
ことを始め,近畿財務局とのやり取りにおけるその無知・無理解・乱暴な発
言からもうかがわれるとおり,監督官庁の指導に全く従わず,かえってこれ
を恫喝するような人物であって,抵当証券業に関する相応の知識や経験が欠
けていたことは明らかであった上,上記のような同社の融資方法に照らせば,
Y8を始めとした同社の役員や主な従業員のすべてが失格であったというべ
きであるから,上記のような推認が働く余地はなかった。また,抵当証券業
協会の研修についても,貸金業と抵当証券販売業を兼ねる抵当証券業者の業
務の難易度からすると,研修を受けたことは上記と同様に相応の知識保有者
たることを推認ないし推定させるにすぎないというべきである。さらに,審
査基準は抵当証券業規制法の立法目的である購入者保護を実現するためのも
のであり,抵当証券業者についても抵当証券についても何も知らされていな
い購入者にとって,頼りなのは情報が集中していて近畿財務局長が任務を遂
行している被告だけであることに照らすと,具体的事情に基づいて実質的な
審査をすることが審査基準上も予定されていると解すべきである上,審査基
準の形式的充足のみを要求することは,審査基準によって立法目的を書き換
えるに等しく,不当というべきである。しかも,被告によれば,近畿財務局
は相応の知識を有する者の在籍要件については「役員等の履歴書」の記載,
研修の修了については何の裏付けもないヒアリング調書の記載によって判断
したというのであるから,その監督が安直にすぎたことは明白である。
また,被告は,大和都市管財の融資態様やY1の言動は「抵当証券業に関
し相応の知識」を有しているか否かとは無関係である上,赤字会社への融資
も経営判断の範ちゅうであるなどと主張する。しかしながら,経済的に一体
でかつ慢性的な赤字会社6社に融資を集中させたり,全貸出先の全融資案件
が10年後元金一括返済のものであったり,監督官庁を恫喝したりすること
は,明らかに抵当証券業者として相応の知識を有している者のすることでは
なく,本件のような特別背任罪同様の違法融資についていわゆる経営判断の
法理を適用する余地もない。
(3)融資業務担当組織における融資業務経験者の在籍
融資業務経験者の在籍が必要とされる理由は,抵当証券業者の経営陣にい
かに抵当証券業務に係る知識等についての自覚があっても,融資の現場にお
いて経験者により抵当証券購入者への償還を確実にする貸出が選別・実行さ
れていなければ,償還を不安にするおそれがあることに求められる。
そして,抵当証券業務が実質的には間接金融に近似するものである以上,
ここにいう融資業務とは,融資先の業況,財務内容,収益見込み等の審査を
行った上で金銭消費貸借契約を締結する業務を意味し(この点は,本件更新
登録後に制定された内閣府令及びこれを具体化するガイドラインにも明示さ
れた。),抵当証券業規制法制定時の国会審議において,政府委員も,「人
的な構成の方は,債務者の例えば返済能力あるいは担保評価,こういうもの
を十分にやれる,適正に判断できる人材,抵当証券業者がそういう人たちを
持っているということが重要な課題でございます」と述べ,融資審査の重要
性を説明していた。
また,融資業務を担当する組織があるとは,融資をすべきか否か,どの程
度の金額であれば返済可能かといった判断を行うことのできる融資審査体制
の存在を意味しているものと解すべきである。すなわち,人的構成は,それ
自体では融資の安全性を実現することにはならず,この人的構成を活かした
融資審査体制が確立・機能して初めて実現するものであり,融資審査体制と
して,融資稟議・融資審査手続,融資審査基準及び融資決裁権限の明確化等
が確立していることが必要なのである。この点につき,通常の金融機関であ
れば,融資先ごと,融資案件ごとにファイルされた資料が存在し,融資目的
に関する調査書,資金の必要性を記載した融資経過,融資額,担保物件の謄
本,担保評価書,融資先の決算書,納税証明書,禀議書などがまとめられて
いるはずである。
しかるところ,大和都市管財においては,このような書面が形式面で整っ
ていなかったことは明白である。加えて,同社は,Y1らが,多額の抵当証
券の発行が可能な不動産を取得し,これをグループ会社に保有させ,当該グ
ループ会社に当該不動産を過大に評価させて多額の融資をした形式をとって
モーゲージ証書を発行し,これを売りさばいてきた詐欺会社であったから,
融資を担当する部署も持たず,まともな融資審査体制もあり得なかった。現
に,近畿財務局も,遅くとも平成7年8月の段階で,大和都市管財には融資
基準や融資についてのルールがないことを把握しており,同社に対して繰り
返し融資審査体制の確立を求めていた。また,このような会社に何年在籍し
たとしても,普通の金融会社における融資業務・抵当証券業務で得られる実
務経験は得ることができないのも明らかであって,大和都市管財が本件更新
登録に際して融資業務経験者として挙げていた2名のうち,上記のとおりY
1が適正な融資を行ってこなかったことは明白である上,Y16に至っては
いかなる意味においても融資業務を担当していたことはなかったから,その
いずれもが適格性を欠いていたのである。
これに対し,被告は,Y1らは大和都市管財の業務に3年以上従事してい
たから審査基準を満たしていた旨主張するが,同社に融資審査体制が欠如し
ていた以上,大和都市管財が審査基準を形式的にも充足していたとはいえな
い上,融資に関する能力がどの程度のものか調査判断しないというような形
骸化した審査基準は,購入者の保護という立法趣旨を没却するもので不当と
いうべきである。しかも,被告によれば,近畿財務局は,融資業務経験者の
在籍要件については,同社が提出した「抵当証券業務に関する組織図」や
「融資業務経験者の業務経歴書」等の記載によって判断したというのである
から,その監督が安直にすぎたことは明白である。
また,被告は,融資審査体制の確立は人的構成の要件ではない旨主張する。
しかしながら,融資の安全性・収益性を見極めることのできる人材が融資審
査の過程において能力を発揮するためには,融資審査体制の整備が不可欠で
あるというべきである。
(被告)
(1)総論
本件更新登録時において,抵当証券業規制法6条1項7号の「抵当証券業
を適確に遂行するに足りる・・・人的構成を有しない法人」に該当するかど
うかの具体的な審査基準は,基本事項通達において定められていた。そして,
登録に当たっての審査に関し,基本事項通達は,人的基礎に関し,A.役員
又は重要な使用人のうちに,抵当証券業に関し相応の知識を有するものがい
ること,B.融資業務を担当する組織において融資業務経験者が2名以上在
籍していること,のいずれの要件にも該当する場合(なお,特約付き融資を
行わない法人にあっては,上記Bの要件を要しない。)は,人的構成を有す
る法人として取り扱うものと定め,更新登録に当たっての審査に関しても,
登録に準じた取扱いをするものとしていた。しかるところ,大蔵省銀行局は,
上記Aの要件の審査に当たって,「抵当証券業に1年以上適正に従事した者
がいること」又は「抵当証券業協会が実施する抵当証券業に関する研修を修
了した者がいること」のいずれかに該当する法人は,上記Aの基準を満たす
ものとして取り扱うこととし,役員又は重要な使用人が抵当証券業に関しど
の程度の知識を有するかを調査判断しないという考え方を,上記Bの要件の
審査に当たっては,「法人としての融資に係る最終的な意思決定に至る一連
の過程の中で融資業務に3年以上従事した者が2名以上在籍する」ことに該
当する法人は上記Bの基準を満たすものとして取り扱うこととし,融資業務
経験者の融資に関する能力が具体的にどの程度のものかを調査判断しないと
の考え方を審査実務を行う各財務局に示し,近畿財務局も,これらを審査の
内部的な基準としていた。
これは,人的構成という要件は,多義的・抽象的なものであり,その要件
該当性については専門的判断を要するものであるから,抵当証券業規制法は,
その判断を財務局長等にゆだねているものというべきところ,前記要件に関
する財務局長等の認定・判断が,当該判断の時期や地域ごとの判断にゆだね
られたのでは,決定に恣意が介入するおそれがあり,業者の予測可能性にも
反することになるから,あらかじめ,財務局長等の裁量権行使の基準(審査
基準)を定めたものと解すべきである。
なお,抵当証券業規制法が国会で審議された際,政府委員の答弁において,
融資審査等の業務を適正に行うに足りる人材の在籍の有無,人数の観点から
審査基準を設けることを検討している旨が述べられていたことなどに照らす
と,上記のような審査基準は,抵当証券業規制法の立法趣旨を適正に具体化
したものということができる。
(2)基本事項通達所定要件の充足
本件更新登録の申請に際して大和都市管財が提出した「役員等の履歴書」
によれば,同社には抵当証券業に関し相応の知識を有する者として代表取締
役のY1及び取締役総務部長のY8がおり,近畿財務局は,平成9年10月
下旬ころに行われた同社からのヒアリングにおいて,これら両名が抵当証券
業協会の実施する抵当証券業に関する研修を修了したとの報告を受けていた
(なお,この点は,抵当証券業協会基礎研修終了者名簿(乙111)により
裏付けられる。)。同様に,大和都市管財が提出した「抵当証券業務に関す
る組織図」によれば,同社には16名の従業員を擁する融資部門が設けられ
ており,「融資業務経験者の業務経歴書」によれば,昭和60年3月以降,
Y1及びY16が融資業務を担当している旨の記載があった。そして,平成
9年検査の結果及びそれまでに近畿財務局が把握していた事実に照らしても,
大和都市管財から提出された本件申請書等の記載を覆すような事情は認めら
れなかった。よって,大和都市管財は,基本事項通達に定める人的構成の基
準を充足していた。
これに対し,原告らは,近畿財務局とのやり取りから看取されるY1の無
知・無理解な発言,大和都市管財の融資商品の異常性やグループ会社への無
謀融資・空融資にかんがみれば,同社は人的構成の基準を満たしていなかっ
た旨主張するが,前記のとおり,基本事項通達は,担当者の理解力等まで含
めて人的構成の有無を実質的に審査すべきものとはしていない上,原告らが
主張する大和都市管財の融資態様等は,同社が「抵当証券業に関し相応の知
識」を有していたか否かとは無関係であるから,原告らの前記主張はいずれ
も失当である。
また,原告らは,大和都市管財にはその新規登録以降継続して融資審査体
制が確立されていなかった旨主張するが,前記のとおり,抵当証券業規制法
及び基本事項通達は,このような融資審査体制の確立を人的構成の要件とは
していないから,原告らの主張は独自の見解に基づくものというほかはない。
5争点4(本件申請書等の重要事項に虚偽記載(抵当証券業規制法6条1項柱
書)があったか。)
(原告ら)
(1)総論
抵当証券業規制法は,申請書及び申請書添付書類の重要な事項に虚偽の記
載があった場合,更新登録拒否事由になると規定する(8条2項で引用する
6条1項柱書)が,この規定は,独立の更新登録拒否事由を明らかにしたも
のである。近畿財務局が使用していたチェックシート(乙46の2)におい
ても,更新登録の審査において,財産的基礎及び人的構成の存在と,提出書
類に虚偽のものがないこととが並列に記載されて調査事項となっているから,
近畿財務局も,虚偽記載は法律上も独立の登録拒否事由であると解していた
ことが明らかである。そして,ここにいう虚偽記載とは,基本的には,記載
された書面の内容とそれに対応する実体が異なることであり,その概念は書
面の種類によって異なる。すなわち,例えば人的構成に関する添付書類に虚
偽の記載があるとは,履歴書の内容が異なるなど,単純に記載内容と対応す
る客観的事実とが異なることであるのに対し,財務諸表については,その記
載内容は必然的に一定の会計概念により評価された結果が含まれるものであ
るから(会計事象を適正に記録し,会社の状況について真実な報告をする財
務諸表とするための基準が企業会計原則である。),その記載から読み取れ
る企業の財務内容と実際の財務内容とが異なる場合をいう。
抵当証券業規制法が虚偽記載を独立の更新登録拒否事由としたのは,抵当
証券業の登録又は更新登録を得ようとする者がこの登録(更新)を取得する
ために,実態は(更新)登録要件を欠くにもかかわらず,虚偽の資料を添付
して,(更新)登録申請をする可能性があることを同法自体が懸念し,同法
の趣旨である購入者保護の観点から,虚偽資料を提出して不正に登録を得よ
うとするような業者は,それ自体で,抵当証券をもって広く一般から金員を
集める事業にふさわしくないと判断したためである。この手続面の違法性に
着目し,重要性を確認したのが,虚偽記載,虚偽文書の(更新)登録拒否規
定である。
さらに,同法24条1項2号は,不正の手段により更新登録を受けたとき
には登録の取消事由に当たるとしており,虚偽記載の書類による更新登録が
仮にされてしまった場合,正にこの規定で取り消されることになる。したが
って,(更新)登録審査時に,虚偽記載及び記載欠落(以下「虚偽記載等」
と総称する。)が発覚せずに登録がされたとしても,これらの者に対し「不
正の手段を用いた」との手続的,形式的な要件で,登録を取り消さなければ
ならないこととなるのであり,いわば,これらの規定は,監督官庁の監督権
限の行使を前提として,事後的に不適格業者を排除し,業務の適確遂行・健
全遂行を図るための規定であるということができる。
事業を営むに当たって許認可等を受けることが義務付けられ,事業主体の
財産的基礎の充足等を要件とする各種事業における規制の仕組み及びその内
容を通覧すると,許認可等の要件として,抵当証券業規制法と同様に,「財
産的基礎」の充足を明記しているものとして銀行法,保険業法,投資信託及
び投資法人に関する法律,証券取引法,商品取引所法,割賦販売法がある。
これらの法律においては,財産的基礎の欠如のみならず,虚偽記載等が,い
ずれも許認可等拒否事由として定められ,これらの拒否事由が存在する場合
における拒否義務の規定が置かれている。また,各業法において報告書・資
料の提出命令や,立入検査等の監督権限規定が置かれ,監督官庁の監督権限
行使に実効を期すための手段が担保されている。そして,検査の実効性を更
に担保するため,いわゆる検査忌避に関する規定が置かれ,虚偽記載等に対
する制裁として上記各法においては刑事罰(懲役や罰金)で臨むとされてい
る。抵当証券業規制法においても,虚偽記載等に対しては刑事罰(52条)
のみならず,更新登録拒否(8条2項,6条)及び登録取消し(24条1項
2号)が予定されている。
こうした規制の仕組み,規制の内容からすれば,監督官庁において,登録
申請等の書類につき単に形式的なもののみならず,許認可等拒否事由の有無
につき実質的な審査権限の行使が期待されていることは明らかである。国会
においても,申請書添付の資料である融資業務経験などの経歴書の内容に虚
偽があることが更新登録拒否の事由となることを前提にする議論がされてい
る。
この点につき,被告は,虚偽記載等に対する罰則の存在により申請書類の
真正が担保されることから,(更新)登録においては提出された資料のみを
審査する形式的審査で足りるかのごとき主張をする。しかしながら,前記の
とおり,(更新)登録申請書又はその添付書類における「虚偽」とは書類の
記載と実際上の事実とがそごすることをいうのであって,その有無を書面上
の記載だけから形式的に審査するのは論理矛盾である上,形式的審査にとど
まるのであれば,監督官庁による虚偽記載の事実の発見はほとんど不可能で
あって,発見される可能性の低い虚偽記載についての罰則の存在は形骸化し,
申請書類の真正を担保する効果は期待することができないことになる。そも
そも,抵当証券業規制法が虚偽記載を独立の更新登録拒否事由としているこ
とから,提出された財務諸表などの表面的な記載のみならず,その内容の真
実性の確認が財務局長等に要求されていることが明らかになる,というのが
同法の正しい解釈であって,(更新)登録の審査が形式的審査であることを
前提に虚偽記載の形式的審査を導く被告の主張は本末転倒というべきである。
したがって,被告の前記主張は失当である。
ところで,抵当証券業規制法においては,「抵当証券業を適確に遂行する
に足りる財産的基礎が存在しない」ことを更新登録拒否事由として規定する
とともに,「登録申請書若しくはその添付書類のうちに重要な事項について
の虚偽の記載があり,若しくは重要な事実の記載が欠けている」ときも更新
登録拒否事由に該当する旨規定しているが,これらの規定の相互の関係につ
いては,以下のとおり解すべきである。すなわち,同法において,「財産的
基礎」は,他の業法においてと同様,業務の適確遂行,健全遂行の充足条件
として課せられているものであり,これらの条件は許認可等の基準条件であ
って,申請者は,これらの条件を積極的に充足することを適式・真正に申請
することが求められる。一方,申請者の中には,表面上,業務適確遂行条件,
業務健全遂行条件を充足しているかのごとく装い,典型的には粉飾決算等の
虚偽の申請書類を提出し,不正に許認可等を得ようとする者が現れることが
想定される。このため,(更新)登録申請に対する調査・検査の結果,虚偽
記載等の事実が判明すれば(更新)登録拒否事由となる(6条1項柱書,8
条2項)のである。
また,同法においては,こうした虚偽記載等の申請書類を提出した者につ
き,たまたま申請時においてはこうした虚偽記載等が発覚せずに既に登録が
されたとしても,調査の結果,虚偽記載等の事実が判明すれば,これらの者
に対し,「不正の手段により,第3条の登録又は第8条1項の有効期間の更
新の登録を受けたとき。」に該当し,登録の取消事由となる(24条1項2
号)。このように「虚偽記載」の規定は監督官庁の監督権限の行使を前提と
して,実体的にも手続的にもまた事前事後においても,不適格業者を排除し,
業務の適確遂行,健全遂行を図るための要となる重要な規定である。
上記のとおり,虚偽記載とは,財務諸表については,企業会計原則を基準
として読み取れる財務諸表の内容と実体とが異なることをいうものと解され
るが,以下のとおり,本件更新登録に係る申請に際し大和都市管財が提出し
た財務諸表には実体と異なる記載がされていた。また,同じく同社が提出し
た添付書類である「抵当証券業務に関する組織図」にも事実と異なる記載が
あった。よって,同社には抵当証券業規制法6条1項柱書所定の登録拒否事
由があったことが明らかである。
(2)特約付き融資額の過大計上
本件貸借対照表には,平成8年3月28日におけるナイスミドルに対する
55億円の特約付き融資(本件貸付金)や本件3融資が記載されていたほか,
その他の特約付き融資額についても,回収不能見込額をほとんど織り込まな
い額が記載されていた。そして,貸借対照表は財産的基礎の判断基準である
資本欠損の有無を判定する最も重要な添付書類であるから,存在しない特約
付き融資を存在するものとして貸借対照表に記載していれば,添付書類のう
ちの重要な事項に虚偽があった場合に該当する。なお,大和都市管財は,本
件更新登録時までに本件貸付金は返却されたとの会計処理をしているが,本
件申請書等として提出されたのは平成9年3月時点での同社の決算資料であ
るから,その後の出納は虚偽性の存否とは無関係である上,架空融資を資産
として計上した貸借対照表を提出すること自体が抵当証券業者としての不適
格性を裏付けるものであり,かつ,55億円の返済も虚偽であるから,上記
のような経緯は虚偽性についての認定を左右しない。
しかるところ,争点2で詳述したとおり,本件貸付金や本件3融資は架空
のものであり,また,真実大和都市管財が有する特約付き融資額は,約10
0億円存在する回収不能見込額を控除した金額とすべきであったから,本件
更新登録時における貸借対照表の債権額は過大計上であったことが明らかで
ある。
(3)特約付き融資先からの収受利息の架空計上
本件申請書等の一部である平成9年3月期の損益計算書(以下「本件損益
計算書」という。)には,特約付き融資の債務者からの利息を収受した旨が
記載されていた。
しかるところ,現在判明している限り,大和都市管財の平成8年3月期の
抵当証券受取利息・割引料収入約47億円のうち収入を確認することができ
るのはわずか約3億円にすぎず,平成9年3月期もおおむね同様であったか
ら,本件損益計算書に記載された受取利息額は過大計上であったことが明ら
かである。
(4)抵当証券業務に関する組織図についての虚偽記載
被告によれば,本件更新登録に際して大和都市管財が提出した「抵当証券
業務に関する組織図」には,「融資を担当する組織」として同社に「融資部
門」が設けられ,特約付き融資等を担当する16名の従業員が配置されてい
る旨の記載があったとのことであるが,近畿財務局は大和都市管財に融資審
査体制がないことを再三指摘していたのであるから,これが虚偽記載である
ことは明らかである。
(被告)
抵当証券業規制法は,登録申請の際に当該申請者に対する報告徴求や立入検
査を認める規定を置いていないことからも明らかなように,登録申請書やその
添付書類について実質的審査を前提としていない。むしろ,同法は,4条2項,
8条2項では,6条1項各号の(更新)登録拒否事由に該当しないことを誓約
する書面の提出を義務付けるとともに,(更新)登録申請書又はその添付書類
のうち重要な事項について虚偽の記載があった場合等につき,登録の取消し等
(24条1項2号)や刑事罰(52条1号,53条)の規定を設けており,こ
れによって,登録申請者が提出した貸借対照表等の記載の真実性を担保しよう
としているのである。
そもそも,争点5で後述するとおり,抵当証券業規制法が財産的基礎につい
て形式的に審査することで足りるとしていると解される以上,同法が,財産的
基礎を含む虚偽記載・記載欠落の判断においては実体的な審査を要求している
と解することは論理的な一貫性を欠く。なぜなら,同法6条1項柱書の趣旨は,
一般的に(更新)登録申請書又はその添付書類の記載の真実性を担保し,もっ
て(更新)登録の審査の実効性を確保することにあるのに対し,同項各号は,
これが認められれば直ちに(更新)登録の拒否が義務付けられるという強力な
効果を発生させる特定の事由を挙げているところ,このような抵当証券業規制
法の趣旨や審査対象の性質からすれば,前者について後者以上の審査を要求し
ているとは解されない上,仮に前者につき実体的な審査を要求しているとすれ
ば,後者につき形式的な審査で足りるとしたことが無意味となるからである。
このように解したとしても,虚偽記載等の対象は(更新)登録拒否事由に限定
されているわけではないから,同法が虚偽記載等を独立の(更新)登録拒否事
由としている点にはなお独自の意義を認め得る。むしろ,同法6条1項柱書の
主な目的は,虚偽記載等に対する制裁を定めることによって,誓約書面の義務
付け(4条2項,8条2項),刑事罰(52条1号,53条)と相まって(更
新)登録申請書又はその添付書類の記載の真実性を担保し,もって(更新)登
録の審査の実効性を確保することにあると解すべきである。
また,基本事項通達も,「財産的基礎」の有無については,同通達の定める
資料に依拠して審査すれば足りるとしており,登録申請者が提出した貸借対照
表に係る経理処理の適切性等を逐一調査することまでは求めていない。
このような判断の枠組みは,更新登録申請書や添付書類に虚偽記載があるか
否かの判断にも妥当し,財務局長等は,貸借対照表等の記載によって貸借対照
表に公正な会計慣行に明らかに反する記載がされていることが判明した場合や,
立入検査等により,公正な会計慣行に明らかに反していると認めるに足りる事
情を別途把握している場合であって,貸借対照表等の記載又は立入検査等によ
り別途把握した事実をもって,当該貸借対照表の記載を公正な会計慣行に適合
する記載に修正することができるときは,その修正を行うべきであり,公正な
会計慣行に適合する記載に修正した貸借対照表と提出された貸借対照表とを比
較対照し,両者の記載が異なっているときは「虚偽の記載」に該当し,前者に
存在する記載が後者に存在しないときは「記載が欠けている」に該当すると解
すべきである。また,抵当証券業規制法6条1項が,(更新)「登録申請書若
しくはその添付書類のうちに重要な事項についての虚偽の記載があり,若しく
は重要な事実の記載が欠けているときは,その登録を拒否しなければならな
い」旨定めている趣旨は,(更新)登録申請書及びその添付書類が,登録拒否
要件該当性を判断する資料となるものであり,虚偽記載等によって更新登録要
件の有無を適正に判断することができなくなることを防止することにあるから,
ここにいう「重要な事項」及び「重要な事実」とは,同項各号所定の(更新)
登録拒否要件該当性の判断に影響を与えるような事項,事実をいうものと解さ
れる。
これを本件についてみると,近畿財務局長は,本件更新登録の審査時までに
把握していた事実に照らして,大和都市管財の本件貸付金や抵当証券受取利息
が仮装であるとは認定し得なかった上,争点2で主張したとおり,平成9年当
時,行政当局が本件基準に基づく貸倒引当金を否定して,貸倒引当金の追加計
上を認定することはできなかったのである。加えて,近畿財務局が大和都市管
財に指摘していた融資審査体制の未整備とは,融資に当たっての審査方法や手
続に関する不備であり,同社の融資部門に人員が何人配置されているのかを問
題にしていたわけではない(逆に言えば,融資部門が設けられ,特約付き融資
等を担当する16名の従業員が配置されているとの記載は,必ずしも融資審査
体制が整備されていることを意味するものではない。)から,上記指摘をもっ
て大和都市管財の提出した「抵当証券業務に関する組織図」の虚偽記載を認識
していた証とすることもできない。
これに対し,原告らは,抵当証券業規制法6条1項柱書の趣旨は,虚偽資料
を提出するような申請者を抵当証券業者としてふさわしくないとして排除する
点にある旨主張する。しかしながら,仮に虚偽記載が適格性の問題であるなら
ば,同項柱書ではなく,最低資本金や役員の適格性等と同様,同項各号の一つ
として規定されるのが条文の構造に合致するものというべきである。加えて,
同項柱書は,虚偽記載とともに,登録申請書等についての重要事実の記載欠落
をも登録拒否事由として規定しているところ,記載欠落については,その文言
(「重要な事実の記載が欠けているときは」)や罰則の定めがないことからみ
て過失によるものも含まれると解されるから,同項柱書は,抵当証券業者の適
格性という人的要素よりは,登録申請書類の正確性・真実性という物的要素に
主眼があるものと解するのが相当である。よって,原告らの主張は失当である。
仮に,原告らが主張するような実体的審査義務が例外的に生ずる場合がある
としても,本件更新登録時において,近畿財務局が本件更新登録の際の添付書
類に虚偽記載又は記載欠落があることを認識し,又は認識し得べき特段の事情
はなかったから,本件更新登録時はこのような場合には当たらなかった。
したがって,本件申請書等の重要事項に虚偽記載があったとは認められない。
6争点5(本件更新登録時において,近畿財務局長は大和都市管財に更新登録
拒否事由があるとしてこれを拒否すべき職務上の注意義務を原告らに負ってい
たか。)
(原告ら)
(1)概要
前記のとおり,本件更新登録時において,大和都市管財の更新登録を拒否
すべき事由があった。そして,近畿財務局長には同社の財務状況等について
実質的審査権限があったから,①大和都市管財に原告ら抵当証券購入者を
害する危険が現在していた以上,②その権限を適切に行使することを通じ
てこのような危険を予見すべきであり,③近畿財務局長が同社の更新登録
を拒否すればその危険は容易に回避することができ,④近畿財務局長が更
新登録を拒否することによってしか被害は防ぎ得なかったから,近畿財務局
長が大和都市管財の更新登録を拒否せずに本件更新登録を行ったことは,原
告らに対する職務上の義務違反を構成する。また,近畿財務局長が安易に本
件更新登録を行った背景には,ともかく更新登録せざるを得なかった実質的
理由があったものと推察される。以下詳述する。
(2)近畿財務局長の実質的審査権限の存在
(更新)登録拒否に当たっては,資本欠損等の拒否事由の有無について審
査・認定することが当然の前提となる。もっとも,抵当証券業規制法も基本
事項通達も,上記審査・認定の方法に関しては明文の規定を置いていないこ
とから,同法の趣旨・目的,行政法全体としての統一性・整合性,及び条理
にかんがみて,その審査権限及び審査義務の範囲を決すべきこととなる。そ
して,①財務局長等には,報告若しくは資料の徴収又は立入検査若しくは
質問等に係る権限が委任されていること(抵当証券業規制法45条,法施行
令6条),②抵当証券業規制法が,(更新)登録申請書又はその添付書類
のうちの重要事項・重要事実についての虚偽記載・不記載を(更新)登録拒
否事由としていること,③(更新)登録申請書添付書類の記載を確認する
形式的審査だけでは虚偽記載・不記載はおよそ判明せず,同法1条の目的は
達せられないこと,④更新登録の申請は更新期限の2か月以上前に行わな
ければならないこと(法施行規則6条1項),⑤近畿財務局自身,平成9
年業務改善命令発出の可否の検討において,一般的に各抵当証券業者につい
て銀行等と同様の経営の実態把握を行うことは今後とも適当ではないとしつ
つ,大和都市管財については,行政当局として個別に購入者保護を損なうお
それのある経営状況を把握した場合には,法令に照らして適切な対応を行う
べきものと判断していること(乙22),⑥実際に行われている抵当証券
業(モーゲージ証書形式の抵当証券販売)は預金取引に類似しており(間接
金融機能),不特定多数の購入者への償還の問題が事業継続中連続(抵当証
券業者が預金返還・利息支払義務と同様の義務を負担)し,他方で抵当証券
についての情報開示がされておらず,証券取引法上の「有価証券」に比して
情報開示において拙劣であるから,預金業務を行う金融機関に対する監督に
準ずる規制・監督が必要であること,⑦我が国の抵当証券についての保護
法制が他の金融商品や海外におけるモーゲージに比して著しく脆弱であり,
財務局長等による監督にはより一層の厳格性が求められること,などに徴す
れば,財務局長等は,抵当証券業規制法又は基本事項通達に基づいて,(更
新)登録申請書添付書類の記載の適切性等を調査する実質的審査権限を有す
ることは明らかというべきである。
そして,その一環として貸借対照表における抵当証券発行特約付き貸付金
の計上の正確性を検証することは,当然に,担保不動産の実勢価値の調査を
包含するものというべきである(モーゲージ証書形式による抵当証券購入者
には担保不動産の内容が開示されず,抵当証券原券(その弁済期は発行の1
0年ないし20年後である場合が通常である。)についてさえ担保不動産の
評価の適正が制度的に確保されるのはその発行時のみであることからすると,
この理は一層明らかである。)。
また,財務局長等は,このような審査に際して,抵当証券保管機構や抵当
証券業協会等に任意で協力を求めることができる上,抵当証券購入者の保護
を損なうようなおそれのある経営状況を認識し,又は認識し得べき特段の事
情があった場合には,このような協力要請をすべき義務を負うのである。こ
の点,被告は,抵当証券業協会からの協力は,抵当証券業規制法22条1項
の規定による抵当証券業者の監督の一環として行われる報告又は資料の提出
の場合に限られる旨主張するが,更新登録に際しての審査では,それまでの
監督の事跡が考慮されるべきことは当然である。さらに,被告は,抵当証券
業協会以外の関係機関に協力を求めるについては同法に明文の規定がない旨
主張するが,抵当証券購入者の保護を損なうようなおそれのある経営状況を
認識したような場合には,近畿財務局にはこうした機関に対する任意的な協
力要請をすべき義務を負うというべきである。
そして,財産的基礎,すなわち資本欠損の有無は,まず,(更新)登録申
請書に添付された貸借対照表等の資産の部の合計額から負債の部の合計額を
控除した額が資本金額を下回るか否かにより判断されるが,その判断は貸借
対照表が一般に公正妥当と認められる会計慣行に従って作成され,申請者の
財務状況を正確に反映していることが当然の前提である(実質的審査)。も
っとも,ヒアリングやサンプリング調査等によって会計帳簿の正確性等を検
証し,対象となる抵当証券業者の実態が財務諸表に一応正確に反映されてい
るとの心証が財務局長等において得られるならば,それで審査を終えてよい。
しかしながら,立入検査の結果や内部告発等によって,財務局長等が,抵当
証券購入者の保護を損なうおそれのある経営状況を認識し,又は認識し得べ
き特段の事情があった場合には,財務局長等は,財産的基礎の判断において,
(更新)登録申請書又はその添付書類によって形式的に審査を行い,判断す
るだけでは足りず,当該事業の内容,取引態様,事業主体の組織構成,資産
構成等に踏み込み,独自に,又は抵当証券保管機構,抵当証券業協会,法務
局等の関係機関に協力させて,(更新)登録拒否事由に係る事実・資料を収
集し,さらに,当該業者に(更新)登録拒否事由がないことを基礎付ける資
料の提出や説明を求めてこれらを審査すべき義務が生ずるものというべきで
ある。そして,抵当証券業者の法令違反の程度が大きいほど,また,抵当証
券購入者の利益を害する危険性の程度が大きいほど,実質的審査権限を行使
する必要性は増大するものといわなければならない(比例原則)。
そして,財務局長等による実質的審査権限の不行使は,当該権限を定めた
法令の趣旨,目的や,当該権限の性質等に照らし,具体的事情の下において
当該権限の不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認めら
れるときは,国賠法1条1項の適用上も,個別の国民に対して負う職務上の
法的義務の違反になるものというべきである(最高裁平成13年(受)第1
759号平成16年4月27日第三小法廷判決,最高裁平成元年判決参照)。
また,上記実質的審査権限の行使によっても,当該業者の非協力等により
財産的基礎及び人的構成の有無を基礎付ける客観的かつ明確な根拠資料が収
集できない場合,財務局長等は(更新)登録拒否事由の有無を判断しなけれ
ばならないのであって,裁判におけると同様,経験則,論理則の適用を通じ
て更新登録要件の合理的認定を行うべきであるが,なおその有無が不明な場
合は,当該(更新)登録拒否事由があるとの判断・認定をすべきである。な
ぜなら,①抵当証券業規制法の趣旨,目的は抵当証券購入者の保護を図る
ことにあり,②(更新)登録はこれを求める当該抵当証券業者の申請に係
る法律効果であり,③(更新)登録は抵当証券業規制法による抵当証券業
を営むことの一般的な禁止を特定の場合((更新)登録拒否事由に該当しな
い場合)に解除し,適法に抵当証券業を営むことができるようにする行政行
為(講学上の許可)であると解され,④(更新)登録申請に当たって申請
者に(更新)登録拒否事由に該当しないことを基礎付ける書類・資料の添付
が要求されている(同法4条2項,8条2項,法施行規則4条)のは,(更
新)登録拒否事由に該当しない場合であることを(更新)登録申請者たる抵
当証券業者に証明させる趣旨である,からである。現に,近畿財務局も,そ
のY20要約において,「本日に至るまで検査官は合理的な説明や客観的資
料の提出を受けていない。」「今回提出を求めている回答の中で,・・・②
貴社が検査官の主張に対し認めなかったもののうち,合理的な説明や客観
的資料の提出がなかったことにより,検査官の了解が得られなかったもの。
③回答のなかったもの。以上の事項については,後日,局長名による「検
査結果通知書」において正式な文書による指摘を行うこととなるので留意さ
れたい。」といった指摘をした上,大和都市管財の回答を踏まえ,同社の
「平成12年3月期における貸借対照表において,資産の合計額から負債の
合計額を控除した額が資本の額を下回ることになると見込まれる」(甲13
6)などとして,抵当証券業規制法8条2項,6条1項7号該当を理由とし
てその更新登録を拒否するに至っているのであり,これは,上記のような合
理的認定を前提とした対応である。
これに対し,被告は,客観的かつ明確な根拠がなければ財産的基礎,人的
構成を有しないとは判断することができない旨主張する。しかしながら,行
政権の行使の恣意専断を防止するためには,法律に基づくべきこと(法治行
政原理),裁量権の濫用が許されないこと(行政事件訴訟法30条)によれ
ば十分であり,これとは別に客観的かつ明確な根拠が必要とされる理由はな
いから,被告の前記主張は失当である。
また,被告は,抵当証券業規制法が定める更新登録時の審査は,財務局長
等が把握していた事実に照らして,虚偽記載又は記載欠落があることを認識
していたなどの特段の事情のない限り形式的審査で足りると主張し,その根
拠として,①実質的審査をすべき場合は,免許制・許可制等,登録制より
強度の規制をしている場合であること,②抵当証券業規制法の制定過程に
おいて,財産的基礎について実体的にみていくことを予定している旨の議論
がされていないこと,③支払不能という,資本欠損より実質的判断を要す
る概念が規定されている著作権等管理事業法ですら形式的審査で足りるとさ
れていることなどを挙げる。
しかしながら,そもそも,財務局長等が,申請者が財産的基礎を欠くこと,
申請書に虚偽記載又は記載欠落があることを認識し,又は認識し得る場合に
は,実態を等閑して形式的審査にとどまったのでは職務上通常尽くすべき注
意義務を尽くしたとはいえない。また,①については,例えば証券会社に対
する法規制は,登録制から免許制へ,再び登録制へと推移しているにもかか
わらず,その間,証券会社の財産的基礎の審査の重要性につき何らの変動も
ないことからすれば,単に許可制・免許制を採用している場合は実質的審査
を要する,それ以外は形式的審査で足りる,と断ずることはできないし,抵
当証券業協会が平成17年6月24日に解散するなど,抵当証券自体が重大
な問題を有し,市場から見放されるに至った金融商品であったことにかんが
みれば,その取引について尊重すべき営業の自由などあり得ない。また,②
については,抵当証券業規制法は登録制を採用したものの,モーゲージ証書
による抵当証券販売によって多数の抵当証券購入者被害が発生したこと,有
価証券等の元利保証や買戻しの約定を行っている特殊性を考慮して,財産的
基礎の要件として証券会社と同じく100パーセントの資産比率を採用して
いること,抵当証券業規制法の制定時(昭和62年)に,既に他の法令にお
いて「財産的基礎」の語が財産的基礎の有無について実質的な判断を伴うも
のとして使用されていることからすれば,被告の主張は失当である。さらに,
③についても,業務の適正な運営,抵当証券購入者の保護を図るという抵当
証券業規制法の趣旨からすれば,抵当証券業者の財産的基礎の有無は著作権
の管理を遂行する法人の財務状況の適否と同列に論じられないし,著作権等
管理事業法においても,報告徴収及び立入検査,業務改善命令の規定(同法
19条,20条)が存在することからすれば,同法における財産的基礎の審
査が形式的審査で足りるとする被告の主張自体が首肯し難い。したがって,
被告の前記主張はいずれも失当である。
さらに,被告は,近畿財務局長には大和都市管財の融資先に対する調査権
限は抵当証券業規制法によっては与えられていなかった旨主張する。しかし
ながら,近畿財務局長が調査対象である大和都市管財に対し,その融資先か
ら決算書等の提出を受けるよう要求することは十分に可能なはずであるし,
本件では,グループ6社の株式の主要部分がY1の一族によって保有され,
これら各社が大和都市管財から極めて多額の借入れを行っていた上,経理担
当者や顧問税理士も大和都市管財と同一であるといった事情があったから,
大和都市管財に対してこれら資料の提出を要求することは一層容易なはずで
あった。そもそも,近畿財務局の上級官庁である本省金融会社室は,大和都
市管財グループの場合,大和都市管財単体のみならずその全体に対して調査
権限が及ぶとの見解を有し,その権限を行使するよう近畿財務局に指示して
いたのであるから,近畿財務局において権限がないとの判断はできなかった
はずである上,平成6年検査ではグループ会社の帳簿をすべて提出させて業
務停止を前提とした業務改善命令を発出することができるほどの資料を揃え,
平成12年検査でもナイスミドルに対する100億円の融資に関して資金交
付を確認することができないなどと指摘している以上,これらの機会にもグ
ループ会社の帳簿を提出させていたことは明らかであり,平成9年検査にお
いてのみ同様の検査が行えないはずはない。したがって,被告の前記主張も
また失当である。
しかるところ,本件更新登録に際しては,①本件貸付金についてナイス
ミドルの帳簿に記載されていないとか,グループ会社に対する貸付けのほと
んどが相手勘定を現金預金勘定とせず,長期借入金として処理するという極
めて特異な会計処理をしているなど,その決算書や会計帳簿に信用性が乏し
く,合計272億8000万円の特約付き融資について資金の交付を伴って
いないことが疑われ,②計563億円の特約付き融資につき,平成8年1
2月31日を基準日とする大和都市管財グループの連結決算書において,グ
ループ全体で約112億円の当期未処理損失,約147億円の債務超過とな
っている上,「グループ各社とも,銀行取引がほとんどなく,D社が抵当証
券及び手形商品によって調達した資金等によって,資金繰りを行っている」
(乙22)と近畿財務局が認識しているとおり,大和都市管財に対する利息
の支払が仮にあるとしてもこれに同社からの資金を充てており実質上の延滞
状況であるなど,その回収可能性が危ぶまれ,③抵当証券受取利息の相手
勘定さえもが長期借入金であり,大和都市管財の受取利息の受領も疑われる,
という状況が認められていた。したがって,近畿財務局長は,財務諸表の正
確性を更に検証すべく,大和都市管財に対し,上記①ないし③をそれぞれ裏
付ける合理的な説明や資料の提出を求める義務があったというべきである。
そして,客観的事実に照らすと,大和都市管財がこれに対して合理的な説明
や資料を提出することはあり得なかったから,近畿財務局長は,大和都市管
財に対して,①資産として計上されているグループ会社に対する合計27
2億8000万円の特約付き融資が実在しないこと,②563億円の特約
付き融資について回収可能性がなく,したがって担保不動産の時価を調査し
た上で貸倒引当金を設定すべきこと,又は③受取利息が実在しないことを
認定し,同社を資本欠損と判断・認定すべきであったのである。
(3)大和都市管財による抵当証券購入者の利益に対する現実的危険性
抵当証券には,預金や保険と異なり,取扱業者が破綻した際に顧客保護を
図るべき保護基金や補償制度は何ら設けられていない。しかるところ,大和
都市管財は,開始時点より一貫して収益を上げるに足る融資の実体がないにもか
かわらず,融資の外形を整えて抵当証券の交付を受け,これを資金集めの手段と
し,同資金を用いて大和都市管財と密接不可分又は実質的一体であるグループ会
社において取得した物件について,付加価値を見込むなどした高額の不動産鑑定
評価を得て,これを前提に当該物件を担保とした抵当証券の交付が見込まれる金
額相当額を大和都市管財からグループ会社に対して融資した外形を整えて更に抵
当証券の交付を受け,これを販売するという,融資実体欠缺・過大鑑定評価の連
鎖による抵当証券商法を行っていた。そして,この商法は,付加価値を見込むな
どした不動産鑑定評価と実体価格との著しいかい離から,ゴルフ場等の取得物件
が抵当証券の利払に見合う収益を上げることができないままに推移し,結局,抵
当証券販売主体である大和都市管財において,抵当証券顧客に対する利払資金等
の原資となるべき受取利息収入が現実に発生しないまま(受取利息の欠缺),抵
当証券販売残高,したがって大和都市管財グループ全体の負債又は債務超過額が
拡大し,これに伴って利払負担も拡大し(債務超過の拡大),利払や元本償還等
の負債や経費の支払を,融資先の収益によってではなく,新たな利子負担を伴う
抵当証券や手形商品等の新たな金融商品の販売によって流入する金員を利払等の
名目で大和都市管財に環流することによって賄うという状況(自転車操業状態)
を結果し,雪だるま式に拡大する負債の利払に,いずれ金融商品の販売が追いつ
かなくなることは必定という構造を有していた。
本件更新登録当時には,大和都市管財の抵当証券販売残高は479億円に達し
ていたところ,グループ会社の経営状態,財務状態は深刻であり,大和都市管財
グループ全体としての債務超過額は少なくとも約150億円に達していた。一方,
抵当証券等の金融商品の年間利払額は40億円近くに達し,現金預金残高(手元
資金)が年間の利払額を下回る状況となるのも目前であった。それにもかかわら
ず,大半の事業が計画のみで実行に至らず,ゴルフ会員権販売等のように一応実
行された事業も見るべき収益がなく,有効な資金運用方法は全く確立されず,経
営改善の目処もなかった。
加えて,抵当証券の元利金を担保すべき不動産も,抵当証券発行の前提となっ
た不動産鑑定価格と,競売などの換価を前提とした管財人委託鑑定価格との間の
大きな格差に顕れているとおり,元利金のごく一部しか賄えない状況にあった。
すなわち,大和都市管財は,その抵当証券商法及び存立を維持するためには,
利払や元本償還等の負債や経費の支払を,収益によってではなく,新たな利子負
担を伴う抵当証券や手形商品等の新たな金融商品の販売によって賄うしかなかっ
たのであり,本件更新登録当時も,既に抵当証券の取引があり,利払等を遅滞な
く約定どおりにすることを通じて大和都市管財を信用していた顧客を抵当証券か
ら手形商品等の新たな金融商品に乗り換えさせ,これによって完売状態であった
抵当証券の販売枠を空け,その空き枠を利用して新規顧客に対し,各営業担当者
に対して周知徹底されていた「DTK抵当証券は,大和都市管財が約定どおりの
元利金を保証する,有利な安全・確実・好利率の金融商品です。大和都市管財は,
顧客から預かったお金を収益性のある企業等に融資して利益を上げています。」
という旨の宣伝又は勧誘により,抵当証券等の販売を行っていた。
このように,大和都市管財は,本件更新登録時において,顧客から新たな資金
の受入れが得られないときには直ちに資金繰りができなくなって破綻を余儀なく
される状況にあり,したがって,その販売に係る抵当証券について,約定どおり
の利息の支払及び買戻しに応じられる目処がないのに,このような事情を秘匿し,
抵当証券が安全かつ高利回りであるとの虚構の事実を申し向け,顧客からの新た
な資金を獲得するため,更なる「DTK抵当証券」販売に邁進し,大和都市管財
が買戻特約付きで販売するモーゲージ証書の買付代金名下に金員を詐取する被害
を大量かつ広範に拡大するであろうことは明確であって,抵当証券購入者に対す
る喫緊の危険を生じさせていた。
(4)大和都市管財が抵当証券購入者を害する危険の予見可能性
以下に詳述するとおり,近畿財務局長は,本件更新登録当時において,大
和都市管財に前記(3)記載のような危険性が現に存していることを予見してい
たか,又は予見可能であったことが明らかである。
ア本件の経緯
本件更新登録に至る経緯は,別表4(原告らの主張)記載のとおりであ
る。これによれば,近畿財務局長は,①平成元年の段階で,大和都市管
財に抵当証券業者として多くの不備不適事項があることを把握し,②平
成3年にも,a町土地の担保価値過大評価その他の不備不適事項について
その改善を指導し(大和都市管財はこれに従わなかった。),③平成4
年には,融資先のグループ会社からの返済が滞っていることを明瞭に把握
し,④平成6年には,抵当証券保管機構より,大和都市管財による抵当
証券の過大発行や,同社の抵当証券について高額中途解約申出がある等の
事実につき報告を受けるとともに,71億2000万円もの抵当証券の交
付を受けて資金をつぎ込んだナイス大原カントリークラブが6億8980
万円もの営業損失を計上しており,その収益を特約付き融資の返済原資と
することなど到底不可能な事実,a区土地が遊休地であって将来的にも相
応の利益を生ずる可能性が低い事実,ナイス函館カントリークラブの売上
げが2億1630万円にすぎず,支払利息にも遠く及ばない事実,グルー
プ会社に対する貸付金の金利が年8ないし12パーセントに上る事実,本
件合意書に矛盾点のある事実(エ(ウ)で後述する。),グループ会社の売
上高合計が6億3662万5000円しかなく,大和都市管財の抵当証券
受取利息17億5415万円の支払は到底賄えない事実,ゴルフ場はすべ
て営業損失を計上している事実,平成6年に大和都市管財が特約付き融資
で貸し付けた166億1000万円のうち80億円余りが収益事業に利用
されずに大和都市管財グループ内で貸付金として環流され,その利息が帳
簿上は営業外収益として計上されるとともに,その元利金が特約付き融資
の支払原資となっている事実,等を立入検査により把握し,⑤平成7年
には,グループ会社の今後5か年度分の経営健全化計画や財源計画の策定,
審査体制の整備等を指示するとともに,これに対する回答が不十分である
として平成7年業務改善命令を発出し(9で後述する。),その際,「役
員の状況等から融資先と抵当証券会社の経営,財務が一体となっている」
こと,グループ会社の経営悪化によって大和都市管財の経営が行き詰まる
危険性が極めて高いこと,大和都市管財に特約付き融資の合理性を担保す
る融資審査体制が全く欠如していること,担保不動産の価値が著しく下落
していること,を認識しており,⑥平成9年には,グループ会社が遊休
地を抱え,毎期支払利息とほぼ同額の損失を計上するなどさしたる実業が
ないまま多額の債務超過に陥っているにもかかわらず,大和都市管財が,
融資審査体制が未整備なために事業計画の採算を度外視し,資金源も明ら
かにしないまま資金使途や返済可能性も考慮せずに融資を続けていること,
したがって,同社は,利ざやではなく資金集めを目的とした抵当証券販売
を行うために融資の外形を整えているにすぎず,その黒字も表面上のもの
であって,担保不動産も地価下落の影響を受けるとともにゴルフ場・墓地
公園予定地等が含まれ流動性に乏しいため大幅な元本割れを生じさせる可
能性が高いこと,等の認識に基づいて平成9年業務改善命令を発出し,⑦
平成9年経営健全化計画にも大幅な未達が繰り返されるなどその実現性
が乏しく,実際にはグループ会社の利払は仮装であるか又は新たな利子負
担を伴う金融商品の販売により顧客から集めた資金の環流によって行って
いること,したがってグループ会社からの利息には架空計上の部分がある
ことを認識していた。また,平成7年8月28日には木津信抵当証券株式
会社(以下「木津信抵当証券」という。)外1社が,同年11月13日に
は不動産抵当證券株式会社(以下「不動産抵当證券」という。)がそれぞ
れ業務改善命令を出された後に相次いで破綻しており,その都度一挙に大
量の被害が発生していた上,本件更新登録直前の平成9年11月21日に
は山一抵当証券株式会社が破綻していた。
以上によれば,近畿財務局長は,本件更新登録時において,大和都市管
財につき,業務全般をY1が統括しているグループ会社に対する実質上の
自己融資であることに基づく帳簿上の操作の可能性や超大口集中融資の病
理性,その抵当証券商法の構造的危険性(融資実体・受取利息の欠缺,専
ら資金集めを目的とする抵当証券販売),自転車操業状態(膨大な債務超
過,利払額の手元資金超過,経営改善の目処の欠如),担保の不十分性等
をいずれも認識していたものというほかはなく,独立系の大和都市管財が
新たな資金の受入れが得られなくなれば直ちに破綻する可能性,及び破綻
した場合に予想される損害が大量かつ広範なものとなることは容易に予見
できたはずである。
これに対し,被告は,近畿財務局が,平成6年検査以降,大和都市管財
グループの財務情報を徴求していたのは,購入者保護の観点から,同社の
経営健全化計画や,毎月の資金繰りの見直し等を踏まえた財源計画の策定
を求めたことに基づくものであって,グループ会社間の資金移動や帳簿操
作に疑問を持ったからではない旨主張する。しかしながら,仮にそうであ
れば,近畿財務局は,抵当証券受取利息の相手勘定や特約付き融資の相手
勘定がいずれも「長期借入金」であることについて何ら疑問を持たなかっ
たことになるから,不自然というべきである。
仮に,特段の事情がある場合に限り近畿財務局長に実質的審査義務が生
ずるという被告の主張を前提としても,近畿財務局長は,平成9年検査の
時点で,大和都市管財が破綻した場合,国会でこれまでの監督の経緯につ
いて厳しく追及されるほか,被害者から国家賠償請求訴訟を提起される可
能性もあるため,できる限りの措置を行っておく必要があるとして平成9
年業務改善命令の発出に踏み切ったのであるから,大和都市管財の財産的
基礎等について実質的審査義務を負っていたことは明らかである。
さらに,被告は,近畿財務局は平成9年当時,大和都市管財の決算書類
の作成や帳簿処理はY3会計士の指導を受けて行われていたから,同社の
会計処理が実際にはY1の意のままであるとの認識はなかった旨主張する
が,日常的な帳簿処理は格別,破綻か粉飾かという極限的な状況下におい
ては,近畿財務局としてもY3会計士の指導が適正か否かにも当然注意し
たであろうから,被告の前記主張は失当である。
イ貸倒引当金設定の必要性の認識が容易であったこと
近畿財務局は金融検査の専門家集団であるところ,金融検査の中心的課
題は受検金融機関の資産(通常,その5割以上が貸出金であり,大和都市
管財においては約98パーセントを占めていた。)がどのくらい痛んでい
るかを正確に把握することであり,検査官は資産査定に関する経験も能力
も有している上,公認会計士等の「専門検査官」との緊密な連携が可能で
ある(甲269)。よって,近畿財務局長は,本件更新登録時点において,
争点2記載の原告らの主張(3)のような判断過程を経て,本件基礎資料に基
づき,大和都市管財が貸倒引当金設定の必要から単体で多額の資本欠損を
抱え,かつ,債務超過の状態にあったことを容易に分析することができた。
この点につき,被告は,近畿財務局は本件基礎資料のうち多くを本件更
新登録時までに入手していなかった旨主張するが,グループ6社の株主や
経営陣はいずれもY1の関係者で占められており,経理担当者も共通であ
ったから,近畿財務局にとって大和都市管財を通して融資先から情報提供
を受けることは容易なはずであったし,近畿財務局としては平成9年当時
積極的に大和都市管財の財務状況について資料を収集すべきであったから,
自ら資料収集を怠ったという事実を基に原告らの貸倒引当金計算を論難す
るのは本末転倒である。
また,被告は,近畿財務局が担保物件についてその時価情報を収集する
ことはできなかったし,その義務もなかった旨主張する。しかしながら,
近畿財務局のY20検査官が,平成12年検査において,「担保不動産の
評価見直しを行い,担保時価の正確な把握を行う必要がある。」「美祢カ
ントリークラブについては,不動産鑑定士による鑑定書を徴取しているが,
原価法による鑑定手法のみとなっており,評価の正確性を確保する面から,
収益還元法による検証を行う必要がある。」などと指摘しているとおり,
不動産鑑定士の鑑定書にまで疑問を呈して積極的に時価評価すべき旨述べ
ているのである。
仮に,近畿財務局長が本件更新登録時点において本件基礎資料の全部を
入手できなかったことがやむを得なかったとしても,少なくともグループ
6社の決算書さえ揃うならば,別紙9のような大和都市管財の財産的基礎
のトレンド分析を行うことは極めて容易であり,これに基づいて勘定明細
の提出を受ければ,平成9年以前から大和都市管財が資本欠損であったこ
とは十分に認識可能であった。例えば,ナイスミドルの財務状況は,その
貸借対照表・損益計算書(甲73)によれば,
売上げ支払利息割引料債務超過額
平成7年6月期約3億7000万円約19億円約29億円
平成8年6月期約4億8000万円約27億円約56億円
であり,倒産状態にあることはだれの目から見ても明らかであって,これ
らの決算書類は,当時の近畿財務局が入手済みであった。そして,売上げ
以上の支払利息割引料を数期にわたり負担しているということは,その原
資は大和都市管財からの借入れしかあり得ず,しかも会計処理の外形から
して資金移動が伴っていないことが推知される「長期借入金」勘定による
処理がされているから,実質的には延滞債権であることを優に認定するこ
とができるところ,近畿財務局自身が作成した平成12年検査結果通知
(甲136)や会社整理通告書(甲2)において,グループ6社の債務超
過が拡大し,利払を確認することができない実質的な延滞状況にあること
を根拠に,各社に対する債権について貸倒引当金を設定すべきと主張して
いることからも明らかなとおり,平成9年当時においても貸倒引当金の設
定は必要不可欠であった。
現に,平成9年9月5日を基準日とする検査において,関東財務局は,
不動産抵当證券を債務超過と認定するに当たり(クで詳述する。),①
同社の融資先で関連会社であるソーケン開発株式会社(以下「ソーケン開
発」という。)に対する債権は,全貸付金の92パーセントを占める重要
な資産であるが,②ソーケン開発は債務超過で経営不振に陥っていたと
ころ(ただし,休眠会社ではない。),③ソーケン開発から不動産抵当
證券に対しては資金移動を伴った利息の支払があったが,その支払原資は
不動産抵当證券からの貸付金によって賄われていたから,表面的な延滞回
避であって実質的には延滞債権であり,その回収には重大な懸念が生じて
いるとした上,④多額の担保不足も認定した上で回収不能見込額を算定
して貸倒引当金を独自に設定し,不動産抵当證券を債務超過と認定したも
のである。このように,金融商品会計基準が導入されていない平成9年当
時であっても,破綻懸念先の貸付金について個別引当により貸倒引当金を
設定すべきとする会計処理は一般に公正妥当な会計基準として認められて
おり,しかも,公権力が私企業に不利益を課するに十分な明確な基準とし
て存在していたことは明白である。そして,①大口貸付先が関連会社で
あり,②同社が債務超過で経営不振に陥っており,③利払が実質的に
延滞しており,かつ,④担保不動産のみでは回収することができないと
いう,関東財務局が貸倒引当金設定の前提として挙げた要件は,平成9年
当時の大和都市管財もすべて満たしていたことは既に述べたところから明
らかである。
さらに,近畿財務局が大和都市管財の顧問税理士から提出を受けていた
平成8年12月現在の連結貸借対照表(乙39及び40。グループ全体で
の当期未処理損失額が約112億円,債務超過額が約147億円に上って
いた。)に加えて大和都市管財の決算書及び勘定科目内訳明細書から分析
しただけでも(この場合,大和都市管財からの貸付金が又貸しされている
部分についての回収可能性を考慮することができず,資産の償却未計上も
修正することができないなど,回収不能見込額の算定が甘くなる。),別
紙10のとおり少なくとも大和都市管財に平成8年12月現在で11億3
400万円以上の資本欠損があり,6億8400万円以上の債務超過があ
るものと推定することができたはずである。
また,近畿財務局は,リステム化学研究所に対する特約付き融資の利率
が当初の9パーセントから6.5パーセント,次いで4.875パーセン
トに減免された物件(a区共同住宅)があったことを把握していたから,
このような金利減免から同社に利払の延滞があったであろうことは容易に
認識し得たものというべきであり,こうした事情から,リステム化学研究
所が実質的に破綻していたことは容易に想定し得たはずである。
そして,上記各試算に基づく債務超過額は,大和都市管財の資本金額4
億5000万円と比較しても莫大であることにかんがみると,仮に近畿財
務局長がこのような事実を看過して漫然と本件更新登録を行ったのであれ
ば,その職務上の義務違反の程度は甚だしいものというほかはない。
ウ本件貸付金の架空性を容易に認識することができたこと
平成9年までに,近畿財務局も大蔵本省も大和都市管財をいわゆる「個
別事案」として問題視しており,平成9年検査においては特にグループ会
社まで含めた財務状況を把握することが最重要課題とされていた。中でも,
特約付き融資に架空のものがあるのではないかということが検査前から問
題となっており,そのような疑いがあることが近畿財務局と大蔵本省のそ
れぞれの担当者の間で共通の認識となっていた。そこで,平成9年検査で
は,グループ会社の帳簿等まで抵当証券業規制法に基づいて徴求すること
ができるか否かについて,近畿財務局から事前に大蔵本省に問い合わせが
あり,本省金融会社室のY4課長補佐(以下「Y4補佐」という。)が,
同室のY21室長(以下「Y21室長」という。)の了解も受けて論点整
理ペーパーを作成し,①大和都市管財及びグループ会社はY1がコント
ロールしている一体の会社であること,②平成7年業務改善命令の指示
事項中でもその徴求をしていたこと,の2点を,Y17課長に対してこれ
が可能であることの論拠として示していた(なお,平成12年検査におい
てもグループ会社の資料をも対象とした報告徴求命令が大和都市管財に対
して発せられている。)。殊に,本件貸付金については,Y4補佐の部下
の係長も架空融資ではないかとの疑いを有していた。このような事前準備
のもとに平成9年検査が行われ,任意に提出されたナイスミドルの総勘定
元帳を調査した結果,那須ゴルフ場を担保とする本件貸付金に係る特約付
き融資の記載がないこと,大和都市管財においても本件貸付金の相手勘定
が長期借入金勘定となっており,資金移動を確認することができない会計
処理であること,が近畿財務局に把握されたのである。この点につき,Y
3会計士は,大和都市管財がナイスミドルに小切手で55億円を渡してい
たが知らなかった旨の弁明をしていたが,そうであればナイスミドルの当
座預金口座には55億円が入金されるのであるから,それが記帳漏れにな
るのは余りに不自然というべきであり,他にはY3会計士及びナイスミド
ルから,本件貸付金は記入漏れであった旨の弁明書が提出されただけであ
る。しかも,本件貸付金は,ナイスミドルの平成8年6月期の総勘定元帳
に計上されていないだけでなく,同社の同月期決算書「貸借対照表増減比
較」(甲4)の中にも,「那須グリーンコース抵当証券借入金の増加1
0,000,000千円」(本件貸付金が含まれていない金額)との記載
があったのであるから,本件貸付金がナイスミドルの総勘定元帳に計上さ
れていなかった理由は単なる計上漏れとは考えられない。しかるところ,
近畿財務局は,事前に抵当証券業規制法上の調査権限の根拠を大蔵本省と
の間で確認していたにもかかわらず,大和都市管財側から猛烈な抗議を受
けたため,グループ会社の会計帳簿をコピーも含めて大和都市管財に返却
してしまい,その結果としてナイスミドルに55億円の入金がなかった事
実を確認する機会を逸している。しかしながら,本来近畿財務局に会計帳
簿を返却すべき義務がなかったことは前記のとおりであり,むしろ,後記
(7)のような事情に照らすと,近畿財務局は大和都市管財の更新登録拒否事
由を知りながらあえて隠ぺいしたものとしか考えられない。
仮に,グループ会社の会計帳簿にまで法的に調査権限が及ぶか否かの議
論を措くとしても,平成9年検査で近畿財務局が返却した会計帳簿は任意
に提出されたものであり,その入手は適法に行われたのであるから,仮に
返却するにしてもコピーを取ることは何ら問題がなかったはずであるし,
コピーを含めて返却するにしても,近畿財務局には更に本件貸付金の実在
性について調査する義務が生じることは明らかというべきである。そして,
大和都市管財もナイスミドルもY1が支配する会社であるから,契約書や
担保設定などの形式を整えることは容易であり,これらが揃っていること
のみことをもってはその実在性は確認することができない。その上,ナイ
スミドルには55億円もの資金需要はないはずであり,直前に提出された
平成8年経営健全化計画でも,そのような融資は計画されていなかったの
である。これらの事情に照らすと,大和都市管財からの合理的な反対の証
明がない限り,架空融資の認定は当然であった。現実には,近畿財務局は
平成9年検査結果通知において,本件貸付金には「架空融資の疑い」があ
る旨の記載しかされていないが,公文書にそのような記載をすることは,
これを記載した行政側に余程の確信がなければ不可能と解されるから,架
空融資は事実上認定することができるが,ナイスミドルの会計帳簿を返却
したことなどのために,なお証明まではできない状況に自ら身を置いたも
のと捉えざるを得ない。
これに対し,被告は,55億円を大和都市管財がY1から小切手で借り
入れ,これをそのままナイスミドルに渡したものと事後的に推認され,そ
うであれば大和都市管財の当座預金口座を調査しなかったことは結論に影
響しないなどと主張するが,そもそも本件貸付金が架空であるとの疑いは,
ナイスミドル側に55億円の借入金の計上がないことに端を発したことで
あるから,被告の上記主張は議論のすり替えにすぎない。
さらに,被告は,ナイスミドルの貸借対照表等は総勘定元帳に基づいて
作成されるから,総勘定元帳に本件貸付金の仕訳の記載がない以上,貸借
対照表に記載がされないのは当然である旨の主張もする。しかしながら,
仮にナイスミドルに対する55億円の資金交付が存在したのであれば,同
社の決算書を作成する段階で必ずその出所が不明であることが明るみにな
り,決算が合わなくなるはずであるから,55億円の資金交付がなかった
からこそ,この点のそごが発生せず,本件貸付金の総勘定元帳への記帳漏
れが発覚しないまま,本件貸付金が反映されていない貸借対照表等が作成
されたものと解すべきであって,被告の主張は失当である。
また,以下のとおり,近畿財務局は,平成12年の更新登録拒否時の判
断経過を平成9年に当てはめれば,同様に本件貸付金が仮装であること,
ひいては大和都市管財が資本欠損である事実を認定することができたもの
というべきである。
すなわち,平成12年検査において,近畿財務局は,大和都市管財の関
係会社勘定(その趣旨は必ずしも明らかではないが,グループ会社及びY
1との貸借関係を管理する仮の勘定である。)において,前期末に残高が
全くないにもかかわらず期首に巨額のマイナス残高が理由不明のまま計上
され,期末にはこれがすべて振替処理により理由不明のまま消去されると
いう,一般的な会計処理と著しくかい離した処理が行われていることを把
握した。そこで,近畿財務局は,大和都市管財に対し,原始帳簿,通帳,
当座預金照合表,手形の耳などの提出を命じて調査した上で,ナイスミド
ル及びベストライフ通商に対する融資合計51億2500万円(平成11
年4月1日付けで計上された合計20億1890万円,平成11年4月1
3日付けで計上された12億円,及び,平成11年5月28日付けで計上
された20億円の総計から,平成12年3月31日付けで消去された93
70万円を控除した額)について,貸付けに当たり資金の交付を伴ってお
らず,融資先に対し資金を交付すべき同額の簿外負債があるものと認定し
たのである。
他方,平成9年検査において,近畿財務局は,前記のとおり,本件貸付
金がナイスミドルの総勘定元帳及び大和都市管財の平成8年3月期の貸借
対照表のいずれにも記載がなく,「(借方)抵当証券貸付金55億円/
(貸方)長期借入金55億円」という不自然な仕訳(本件仕訳)がされ
ていることを把握した。本来であれば,貸付けは,「(借方)抵当証券貸
付金/(貸方)現金預金」と仕訳され,資金移動があることが見て取れる
現金預金勘定が用いられるのが通常であり,関係会社勘定と長期借入金勘
定とは,両者とも相手勘定を現金預金としておらず,資金の交付を伴わな
い特異な会計処理を行って帳簿上貸付金を発生させるものとして同質のも
のである。
そうすると,平成12年検査における架空融資との指摘は,平成9年検
査で判明した本件仕訳に対してもそのまま妥当するというべきであり,近
畿財務局は,本件仕訳につき,大和都市管財がナイスミドルに55億円の
小切手を渡していた旨のY3会計士の弁解を踏まえ,大和都市管財の当座
預金からの55億円の払出しの有無を確認すべきであった。しかるところ,
近畿財務局は,前記のとおり,大和都市管財の総勘定元帳の調査,ナイス
ミドルの総勘定元帳の調査,大和都市管財及びナイスミドルからの聞き取
り調査,Y3会計事務所及びナイスミドル作成に係る報告書の調査しか行
わず,資金の移動を示す原始帳簿である預金通帳等の調査(平成12年検
査では実施された。)や,大和都市管財の当座取引の内容を示す当座預金
照合表等との突き合わせ作業(抵当証券業規制法22条に基づく権限によ
れば可能である。)などを怠り,必要もないのにナイスミドル等の会計帳
簿を返却してしまった上,大和都市管財からの合理的な説明がないにもか
かわらず,本件貸付金の交付がないという事実を認定することをしなかっ
たのである。
これに対し,被告は,近畿財務局が平成12年度の更新登録拒否の際,
少なくともナイスミドル及びベストライフ通商に対する51億2500万
円の貸付けに資金の交付を伴っていない旨認定した論拠は,①大和都市
管財の平成12年3月期の総勘定元帳における関係会社勘定の記載,②
大和都市管財から合理的な説明がなかったこと,③ナイスミドルに対す
る平成11年4月13日付け融資額12億円及び同年5月28日付け融資
額20億円について大和都市管財の預貯金口座からの出金は認められなか
ったこと,④平成12年検査において大和都市管財の真実の現金出納を
記した現金出納簿が発見されたことなどであると主張する。
しかしながら,もし第三者による貸付けを考慮するのであれば(平成1
2年検査に係る文書の提出がないため,同年検査において大和都市管財が
いかなる抗弁をしたかは明らかではないが,常識的には,平成9年検査の
時と同様,中間省略的な資金移動があった旨主張したはずである。),上
記①ないし④の事実のみによっては,なお融資の架空性を認定することが
できないから,被告の主張を前提にしても,近畿財務局は,平成12年度
の更新登録拒否の際には,本件更新登録時と異なり,大和都市管財以外の
第三者(具体的にはY1)からの資金により貸付けがされた可能性を考慮
していない(すなわち,Y1にスポンサーがいるという大和都市管財の弁
解を信用できない旨断じていた。)はずである。そして,近畿財務局は,
平成9年当時においても,Y1に対するスポンサーの存在など信用してい
なかったのである(乙28)。また,①は,相手勘定を現金預金等の資金
を伴う勘定としていない点で架空融資性(資金の交付がないこと)を推認
させるものの,それ自体が架空融資性を認定する根拠となるものではない
し,②は,大和都市管財以外の第三者振出しの小切手を直接グループ会社
に渡した可能性があれば,51億2500万円はすべて「(借方)抵当権
付債権/(貸方)関係会社」と会計処理されるため,第三者から小切手を
振り出してもらって,それをグループ会社に貸し付けた可能性を否定し切
れず,④については,通常,億を超える資金を現金でやりとりすることは
考えられず,銀行送金又は小切手の振出しで行うものであるから,現金勘
定ではなく預金勘定が問題となるべきものである。このように,被告の主
張する①,②及び④の理由はいずれも後付けにすぎず,決定的に重要なの
は③の点のみであったことが明らかである。そして,平成9年検査でも,
大和都市管財の預貯金口座からの出金を示す証拠は示されなかったのであ
るから,近畿財務局は,平成9年当時も平成12年当時と同様の認定が可
能であったはずである。
また,被告は,長期借入金勘定と関係会社勘定とは同一の勘定ではない
とも主張する。しかし,被告自身,少なくとも関係会社勘定が長期借入金
を包含する性質を持つ勘定であることは認めている。また,長期借入金勘
定は相手勘定が現金預金勘定であるのが本来の姿であるところ,平成10
年3月期ないし平成12年3月期の各長期借入金勘定は,その相手方勘定
がおおむね現金預金勘定となっているのに対し,平成9年3月期の長期借
入金勘定は,その相手勘定として特約付き融資額が計上され,抵当証券受
取利息が毎月計上されるなど,異常な中間省略的処理がされている。そし
て,関係会社勘定も,平成11年3月期及び平成12年3月期ともに,抵
当権付債権や抵当証券受取利息を相手勘定として計上されるという特異な
中間省略的内容となっており,これが平成9年3月期の長期借入金勘定と
同様であるのは前記のとおりである。このように,平成9年3月期の長期
借入金勘定の特異な性質は,平成11年3月期及び平成12年3月期の関
係会社勘定に引き継がれており,関係会社勘定においても,大和都市管財
の預貯金口座や現金勘定に資金移動がなくても,同社がグループ会社から
債務者たるグループ会社への資金移動について合理的に説明することがで
きるのであれば大和都市管財への資金交付も認められることは,平成9年
検査と同様のはずである。また,近畿財務局のY20検査官も,平成12
年検査において,「総勘定元帳における長期借入金勘定及び関係会社勘定
については,その勘定の存在理由が不明となっているほか,現金及び預金
の実際の動きとは不符合となっている。」と指摘しており,両勘定に特段
の差異を認めていない。したがって,両勘定が同質ではないとする被告の
主張は失当である。
エ受取利息の計上が容易に否認できたこと
近畿財務局は,平成12年検査において,①大和都市管財の受取利息
の未収が平成10年8月から平成12年にわたっていたこと,②グルー
プ会社の平成12年当時の状況が赤字決算の連続による大幅債務超過にあ
ったことから,未収利息を借方(資産)に計上することはできないものと
判断していた。これは,裏を返せば売上げとしての受取利息の計上を否認
することであるが,平成9年検査当時も状況は同様であった。すなわち,
近畿財務局長は,以下の(ア)ないし(キ)の事実を本件更新登録前に認識し
又は認識し得たから,①グループ会社からの受取利息が未収であるか,
又は②大和都市管財の融資が融資先の資金需要とは無関係に行われてお
り,抵当証券購入者から集めた資金がそのままそれら購入者に対する利息
の支払に充てられているとの疑いを持つのが当然であって,大和都市管財
に対して預貯金口座の写しを徴求するなどして客観的な裏付けを取りさえ
すれば,少なくとも平成8年3月期以降において大和都市管財に対するグ
ループ会社の支払利息が上記①又は②のような実態にあることを把握する
のは容易であった。しかも,平成9年検査では,正にグループ会社から大
和都市管財に対して利払が現実にされているか否かが重要な検査項目とさ
れていた。そして,グループ会社は,いずれも本件更新登録時までに3な
いし4期以上連続して大幅な債務超過,資本欠損で回復の傾向は全くみら
れない状況であったから,近畿財務局は,大和都市管財のそれらグループ
会社からの平成8年3月期,同9年3月期の受取利息を計上することがで
きないと判断するに足りる事実を優に認識していたというべきである。
(ア)自己融資であったこと
大和都市管財の融資先はグループ会社のみであり,実質的に自己融資
である上,大和都市管財グループの業務全般をY1が一体として統括し
ていたが,このような場合にはリスクを分散することができないために
融資先の財務状況の悪化が大和都市管財の財務状況の悪化に直結しやす
く,帳簿上の操作も行われやすいという弊害があり,抵当証券業規制法
が制定された契機の一つも,このような自己融資の事案が抵当証券購入
者に多大な被害をもたらした点にあった。
そして,近畿財務局は,平成6年検査結果通知や同年8月1日付け弁
明の機会付与通知等にも明らかなとおり,大和都市管財が正にこのよう
なケースに該当し,グループ各社の債務超過額が平成3年以降増加する
一途であることや,大和都市管財グループに親会社やメインバンクが存
在しなかったことなどから,グループ各社からの大和都市管財への返済
も帳簿上の仮装であったり,(実際に返済があったとしても)単に顧客
から新たな利子負担を伴う金融商品の販売によって集められ,大和都市
管財を通じてグループ会社に融資された資金が環流されているにすぎな
い可能性があることを本件更新登録に先立って認識していた。しかると
ころ,大和都市管財グループ全体では,主要事業である4カ所のゴルフ
場すら営業損失を出すなど毎期損失が計上され,融資先であるグループ
会社に債務超過額が累積する状態であるにもかかわらず,大和都市管財
のみは各融資先から毎期合計数十億円の受取利息を計上して資産超過で
ある,という不自然な状況が続いていた。しかも,多少会計の心得があ
れば,大和都市管財単体の黒字を会計書類上作り出すために,グループ
会社に赤字を計上する経理操作はだれしも考えつくことである。
よって,近畿財務局長には,大和都市管財の帳簿だけからグループ会
社からの利息返済を安易に認定することなく,帳簿に対応する現金の移
動を確認することができるか,その返済原資がどこから調達されたのか
等を厳正に検査すべきであった。
(イ)遊休地が存在したこと
大和都市管財は,昭和62年から63年にかけて,ベストライフ通商
に対し,a町土地を担保に30億円もの融資を実行したとして同額の抵
当証券を販売したが(鑑定評価額60億0300万円),平成3年検査
時点においても,いまだ同土地が遊休地のままで何らの利益を生んでい
ないことが明らかになったため,担保不動産の再鑑定が実施され,その
結果,a町土地の再評価額は21億円しかなかったことが判明していた。
このことから,大和都市管財のベストライフ通商に対する融資は,一般
的な融資において当然されるべき,収益性と担保の十分性,回収可能性
の査定が実施されておらず,貸付先が利払に見合う収益を上げていない
のみならず上げようともしていないという,およそ経済的合理性に即し
た金銭貸借といえるものではなかったこと,ひいては,大和都市管財の
グループ会社に対する融資が,資金集めのための形式にすぎないという
実態を認識し得た。
これに対し,被告は,a町土地等が順次事業の用に供され,又は売却
により含み損を解消する予定であるとの報告を受けていたのであるから,
これら物件が将来にわたって収益を生まないものと認識していたわけで
はない旨反論する。しかしながら,近畿財務局は,大和都市管財の提出
する経営健全化計画が過去の実績を無視したものであることを認識して
いたから,被告の主張は失当である。
(ウ)本件合意書に矛盾があること
本件合意書は,平成6年検査への対策として,グループ各社の赤字を
見かけ上減らすために後日作成されたものであるが,大和都市管財が近
畿財務局に提出した「平成6年8月末現在の大和都市管財の貸付金の概
要」(乙13)における金利(年利9ないし10パーセント)と明白に
矛盾し,明らかに不合理である。近畿財務局は,その作成日付の矛盾に
ついてのY8の説明を端緒として,本件合意書が虚偽の内容を記載した
文書であること,ひいては大和都市管財とグループ会社間の融資及び返
済自体が名目上のもので実体を伴わないものであることを認識し得たの
であるから,大和都市管財の資金移動の実態について一層疑いをもって
調査すべき義務があった。
これに対し,被告は,経済取引上,貸付金利を過去にさかのぼって減
免することは珍しくないと主張するが,本件合意書による利率変更の規
模(年8パーセントから12パーセントの金利を軒並み6.5パーセン
トに減免し,抵当証券販売利率との利ざやを1パーセント程度に縮減す
るもの)は常識的な範囲を超えており,むしろ,特約付き融資しか収入
のない大和都市管財がその金利をこのように大幅かつ一律に減額したこ
とを把握すれば,大和都市管財とグループ会社との間の融資が実在せず,
大和都市管財が顧客から集めた資金がグループ会社から環流しているだ
けではないかとの疑いを持つのが当然である。
また,被告は,過去にさかのぼって金利を引き下げるとは,平成6年
3月末日の利息の支払に当たり,毎月末日払いの貸付金については当月
初日にさかのぼって,半期末払いの貸付金については初日にさかのぼっ
て利率を引き下げたものと理解できる旨主張するが,上記のとおり,大
和都市管財は平成6年8月末時点の金利としては変更前のものを記載し
ていたのであるから,金利の変更は同年9月以降の事実であると解する
ほかはなく,被告の主張は誤りである。
(エ)異常な会計処理がされていたこと
大和都市管財においては,遅くとも平成6年10月以降,抵当証券会
社の収益の根幹であるべき受取利息が,同社に支払われずに,直接Y1
への長期借入金の返済のためであるとして長期借入金勘定にて処理され
ており,一見して資金的裏付けのない受取利息の計上であることが判明
していた。この異常な会計処理は,グループ会社から大和都市管財への
資金移動のチェックを攪乱するためにろうした大和都市管財の工作と考
えられるが,結局,仮勘定ないし未収利息として計上している趣旨と解
すべきであり,貸付先である各グループ会社に対する未収利息債権の計
上と考えるべきであるから,その資産計上が認められないことは平成1
2年検査におけると同様である。百歩譲ってこの会計処理を前提に,受
取利息を長期借入金の返済に充てたという意味に解したとしても,大和
都市管財には,グループ各社から大和都市管財への資金移動の代わりに,
大和都市管財の方でグループ各社からY1への資金移動について合理的
客観的な資料提出や説明をする責任が生じ(抵当証券会社にとって抵当
証券受取利息は収入の源泉のはずであるから,これを右から左へ長期借
入金の返済に充てることは不自然である。),これらの説明がない限り,
受取利息の仮装を認定するのが合理的である。
(オ)受取利息が実質延滞状態であったこと
近畿財務局は,グループ会社にいずれも銀行取引がほとんどなく,大
和都市管財が抵当証券及び手形商品によって調達した資金等によって資
金繰りを行っていたことは認識していたところ(乙22),例えばナイ
スミドルは平成7年6月期において約3億7000万円の売上げしかな
いのに約19億円の支払利息割引料の支払を強いられており,現実の資
金移動を伴う利払を行うためには大和都市管財からの借入れで賄うほか
ないような状況であることは認識していたのであって,そのような債権
は実質的には延滞債権というほかはない。また,ナイスミドルの総勘定
元帳上,大和都市管財に対する利息(平成7年9月30日に約3億円,
平成8年3月31日に約6億円)の支払はこれと相前後してされたナイ
ス函館からの同額の短期借入金を充てたことになっていたものの,ナイ
ス函館が約9億円のキャッシュインフローをたった半年で稼ぎ出す事業
を行っていなかったのは前記のとおりである。そして,平成12年検査
では同様の債権について資金移動についての調査が行われ,大和都市管
財はその弁明ができなかったために受取利息の架空性を認定されていた
のであるから,平成9年検査においても当然に受取利息についてその資
金移動を確認すべきであった。加えて,本件貸付金が架空融資と認定さ
れれば,それが虚偽記載により更新登録拒否事由に該当することになる
のみならず,ナイスミドルに55億円の資金が渡っていなければ,営業
利益のないナイスミドルには抵当証券受取利息の支払原資がないはずで
あるから,ナイスミドルに対する大和都市管財の債権が延滞状態である
ことも優に認定することができたものである。
(カ)Y1の資金調達力に疑問があったこと
①平成7年2月7日付け美祢カントリークラブへの110億円,②
同年9月28日付けナイスミドルへの100億円,③平成8年4月
1日付けナイスミドルへの55億円,④同年11月1日付けベストラ
イフ通商への7億8000万円の各特約付き融資の原資については,近
畿財務局が平成9年7月8日に入手していた大和都市管財の抵当証券貸
付金勘定2枚分,長期借入金勘定9枚分(甲152)によればY1から
の長期借入金であることは会計帳簿上明らかであるが(甲137,13
8,乙91),このような規模の融資(わずか2年の間に合計272億
8000万円)を同人が行うことができるという点についての裏付けは
なく,スポンサーについての同人の説明も,永年の不動産取引で培った
人脈であるとしか申し上げられない(平成7年12月6日のヒアリン
グ)という曖昧なものであって,利息についても,大和都市管財からは
利息を収受していないが,借入先には利息を支払っている(巨額の利息
をY1が個人として負担していることになる。)と述べたり(同月26
日のヒアリング),一転して年8パーセントの利息を大和都市管財から
受け取っている旨述べる(平成9年7月30日の調査)など,むしろ帳
簿の信ぴょう性自体に強い疑問を生じさせるはずのものである。
そもそも,近畿財務局は,平成7年8月1日の業務改善命令に係る弁
明の機会付与の通知においても,大和都市管財が抵当証券販売代金で大
部分の資金繰りをしていることを指摘していることから明らかなように,
それまではY1から大和都市管財へ多額の融資があるとは認識していな
かったのである。
(キ)審査の形跡がないこと
一般に,借入申込みをする事業会社が事業計画を立てたり,資金使途
目的の実行予定を策定したりし,そのための資金需要額を決定し,融資
申込書に事業計画の妥当性,返済能力を証する資料を添付して抵当証券
業者に融資申込みをするが,大和都市管財の場合,資金申込業者となる
べき者からの事業計画はおろか資金使途についての計画文書や返済可能
性を明らかにする資料が何ら提出されていないし,求められもしていな
い。近畿財務局長は,大和都市管財が,融資先からの借入申込書も,返
済能力や事業計画の妥当性を判断するための必要資料も徴求せず,取締
役会の議事録にも審査した事実の記載がないことを把握し,同社に対し,
融資審査体制を確立する必要があることを検査の都度指摘してきたが,
大和都市管財が平成7年7月7日に行った回答は,「審査の事跡は鑑定
評価書そのものであると考える。」というものであった(すなわち,物
件購入の目的は,抵当証券販売による資金集めにあり,事業計画の採算
は度外視されていた。)。
オ本件3融資の架空性を容易に認識することができたこと
前記のように,ナイスミドルに対する本件貸付金が架空である(との疑
いがある)ことが判明したのであるから,平成9年検査において,特約付
き融資の他の貸付金についても架空融資である疑いが濃厚になっていた。
このため,近畿財務局は,他の特約付き融資についても資金の交付を伴っ
ているのか否かについて,大和都市管財側に合理的説明を求め,客観的資
料の提出を求めるべきであった。
しかるところ,本件3融資は,本件貸付金と同様,いずれもその融資時
の会計処理が
「(借方)抵当証券貸付金/(貸方)長期借入金」
となっており,一見して資金の交付を伴っていないことが分かる極めて特
異な会計処理であることから,この時点で架空融資である疑いが極めて濃
厚であった。
そして,平成12年検査において,近畿財務局は,本件3融資について,
大和都市管財から融資先グループ会社に対する資金の交付を確認すること
ができない状況にあることを把握,指摘していたことは前記のとおりであ
る。これに対し,大和都市管財からは手形等によって貸付けを実行した旨
の回答があったものの,同社からは裏付け資料として要求した手形の耳が
提出されなかった上,同様の指摘・回答の過程を辿った約51億円の抵当
権付き債権一部譲渡について,同社の回答は合理的でないと判断した近畿
財務局が,更に進んで架空融資と認定し,これが平成13年4月16日の
更新登録拒否事由となっていることに照らすと,平成12年検査において,
近畿財務局が本件3融資を架空であると認定しないはずがない。本件3融
資の架空融資性の認定が平成12年検査結果通知(甲136)の記載から
漏れ,同月16日の更新登録拒否事由となっていないのは,本件更新登録
の違法性を近畿財務局自らが認めることになることを回避し,平成10年
以降に発生した抵当権付き債権一部譲渡のみを問題にすることとしたため
である。
よって,平成9年検査時においても,近畿財務局は,平成12年検査時
におけると同じく,本件3融資に関し,資金の交付を伴っているかについ
て原資帳票類で確認するために大和都市管財に対して合理的説明を求め,
客観的資料の提出を求めるべきであった。このような過程を辿りさえすれ
ば,近畿財務局は,平成12年検査時と同様に,平成9年検査において本
件3融資の架空性を容易に認定することができたものというべきである。
カ人的構成の欠如を近畿財務局が把握していたこと
近畿財務局は,既に平成6年検査において,大和都市管財が融資審査体
制を確立していないことを把握した上でその改善を重ねて指導し,平成7
年5月26日には特約付き融資について融資基準がないことを指摘した
(乙14)のに対し,大和都市管財側が審査基準がないからルールに欠け
ているとはいえない,融資の審査については不動産鑑定士の鑑定を基にし
て幹部会議を開いて行っているなどと主張したため,同年8月1日付けの
弁明の機会の付与に係る通知書(乙12)においても,審査体制の確立の
具体的内容と実施時期を書面で提出するよう命じているが,これに対する
大和都市管財からの回答はなかった。そうすると,平成7年8月の段階に
おいて,近畿財務局は少なくとも大和都市管財には融資基準がないことを
把握していたにもかかわらず,大和都市管財が主張する幹部会議なるもの
が融資業務を担当する組織といえるか否か,そこで行われているとされる
融資審査の内容等について確認をしていなかったことになる。また,平成
7年業務改善命令においても融資審査体制の確立を求める旨の内容が記載
されているところ,その発出がされたか否かの問題を措くとしても,この
点についての回答自体が大和都市管財側からされないままになっているこ
とは記録上明らかである。さらに,近畿財務局は,平成9年10月の段階
においても,大和都市管財が依然として融資先から借入申込書,財務内容,
資金使途などを示す書面を徴取しておらず,役員会議事録にも融資に係る
記載がないなど,融資審査体制が未整備でその是正が必要であると判断し
ていた(乙22)が,平成9年経営健全化計画にも,融資審査体制につい
ては「融資審査体制の確立命令に従い,万全の体制を確立します。」とあ
るだけで,具体的な記載は一切なかったにもかかわらず,近畿財務局が同
年12月11日に平成9年経営健全化計画の受理を決裁した際には,融資
審査体制の確立について検討された形跡すらない。
これに対し,被告は,大和都市管財は基本事項通達が定めた人的構成に
関する審査基準に適合していた旨主張する。しかしながら,近畿財務局は,
①業務経験に関しては「役員等の履歴書」,②研修修了者の有無につ
いては大和都市管財からの裏付けのないヒアリング調書,③融資実務経
験に関しては「抵当証券業務に関する組織図」や「融資業務経験者の業務
経歴書」等を調査するだけで審査基準適合性を判断している上,近畿財務
局自体が融資審査体制の不備をそれまでにも再三指摘していたことなどに
かんがみれば,いずれにせよ大和都市管財に対しては実質的審査が必要で
あったから,被告の前記主張は失当である。
したがって,近畿財務局は,本件更新登録時において大和都市管財には
人的構成が欠如していることを認識していたか,容易に認識し得たものと
解するほかはない。
キ危険及び予見可能性の存在を裏付けるその他の事情
下記の事情に照らしても,大和都市管財が原告ら抵当証券購入者の利益
を害する危険が現在し,かつ,これを近畿財務局長が予見し,又は予見し
得べきことは裏付けられる。
(ア)平成7年8月以降の各経営健全化計画の非現実性
ナイスミドル(ナイス大原カントリークラブ),美祢カントリークラ
ブ及びナイス函館のいずれについても,平成7年収支計画の提出時点で
多額のゴルフ会員権を販売済みであったから,その販売は完全に頭打ち
の状況にあり,上記各ゴルフ場に係る会員権の販売を骨子とする経営健
全化計画の実現可能性が極めて低いことは明白であった。現に,同年1
2月の段階で,本来同年4月から予定していたナイス大原カントリーク
ラブ及び美祢カントリークラブのゴルフ会員権販売が不景気の影響で行
われなかったことを大和都市管財自身が認めていた。
さらに,平成8年経営健全化計画も,以前の計画の単なる焼き直しで
あって,上記各ゴルフ場に那須グリーンコースを加えた4ゴルフ場の会
員権を814億9500万円で販売するとしていたが,低迷していた当
時のゴルフ会員権相場からみて,これが無謀なことは明白であった上,
想定しているゴルフ会員権価格が高すぎるなど空想的であって,合理性,
実現可能性を疎明するための資料も全く提出されていないことなどに照
らすと,その実現可能性は極めて低かった。現に,平成8年12月のヒ
アリングで,大和都市管財側は,那須グリーンコースの販売実績は「3
90万円で80名,500万円で15名程度にとどまって」おり,ゴル
フ場の経営についても「トータルでは収支トントン,といった状況であ
る」との説明しかできなかった。
また,大和都市管財が平成8年12月のヒアリング(乙37)におい
て提出した那須グリーンコース会員権販売に係る修正計画は,平成8年
度にわずか6億4000万円(計画の7パーセント)しか販売すること
ができなかった同ゴルフ場のゴルフ会員権を,その後の3年間で315
億円も販売するという,当時の経済状況から考え難いものであった。
このように,平成8年末までの段階で,ゴルフ会員権の販売計画が何
度も繰り返し,若干形を変えただけで経営改善の柱としてY1から説明
され,しかも惨めな結果に終わっていることが近畿財務局にも明白にな
っていたにもかかわらず,平成9年経営健全化計画は,相変わらずゴル
フ会員権販売を中核としており,従前のゴルフ会員権の販売時期を繰り
延べたり,実質は3年後又は6年後に元本の償還義務を負い(入会金部
分はない。),それまで年6パーセントの利払までして資金を集めるた
めの金融商品にすぎないチケット制会員権の販売を柱とするものであっ
て,このような方法による経営改善が不可能であることは,近畿財務局
には容易に把握することができたはずである。
また,平成7年収支計画は,抵当証券は買い戻して同額を販売するこ
とが前提となっており,金利負担も販売経費も減らない計算であること,
顧客に対する利払金額だけで平成8年度に29億円,平成9年度に38
億円を要するというものであり,グループ会社の営業活動からは賄えな
いことが明白であること,手形商法の引当となっていたはずの海外預金
が解約されていたことが判明していたことに照らしても,その実現可能
性は疑問であった。
さらに,平成8年12月のヒアリングにおいて,大和都市管財が新規
事業として準備中としていたファッションホテル経営,パチンコチェー
ン経営についても,現実に事業展開できる状況か否かに加えて実現した
ときの収益性に審査が集中することになるはずであるにもかかわらず,
例えば後者については全国50店舗のチェーンを30億円で買収予定で
締結寸前と言われていながら,その後立ち消えになっており,近畿財務
局からも何らの追及もない。しかも,上記ヒアリングでは,ゴルフ練習
場として予定し,平成6年検査結果通知に対する回答においても平成9
年度からの収益予想をしていたa町土地について,奈良市に公園墓地と
して20億円で売却する予定となっていたが,その後平成9年11月を
目処とした奈良市との第3セクター方式による霊園墓地開発に変更とな
り,100億円もの利益が上がる計画になり,平成9年経営健全化計画
では地方自治体の許可が下りないまま,利益の見込額が30億円程度に
縮小している(乙41)など,大和都市管財の説明はその場しのぎで一
貫しておらず,近畿財務局としては計画の実現性を確認することができ
る契約書・協定書などの提出などを求めるのが当然であり,平成9年検
査中の同年8月27日には,抵当証券保管機構も,近畿財務局に申入書
(甲93の1)を送付して,a町土地につき「担保物件は,墓地予定地
(一部産業廃棄物処理場?)ということではあるが,現況がどうなって
いるのか実態を把握する必要がある。」と申し入れていたが,近畿財務
局は,この申入れを無視したのである。Y17課長は,那須グリーンコ
ースのリゾートホテルの建築状況について現地に確認に行っている程で
あるから,地理的により近いa町土地の開発状況を確認していないはず
がないのであって,抵当証券保管機構の上記申入れを拒否したのは,Y
1の説明が虚偽であることを知っていたからと考えられる。
リステム化学研究所の廃棄物リサイクル事業についても,平成9年5
月のヒアリングにおいて,大和都市管財は奈良市との間で独占的契約を
結んでいる旨述べている(乙40)が,公共団体が私企業と独占的契約
を結ぶとの話自体信じ難いから,その計画を知らされた時点で近畿財務
局はその真実性を否定すべきであった上,同年11月のヒアリングでは,
Y1の回答は「奈良市との間にゴミのリサイクル事業の話は進んでおり,
現在奈良市と協議中」と後退しており(乙41),計画の虚偽性は一層
明白であった。
加えて,近畿財務局は,平成8年1月の段階で,大和都市管財のグル
ープ会社の赤字が毎年約40億円ずつ増加していくものと予想していた
(乙30)。殊に,近畿財務局は,平成9年7月8日には大和都市管財
の総勘定元帳(甲137,138,乙91)を入手しており,これによ
って同社の資金の流れが,Y1がグループ会社に融資し,グループ会社
から同人が抵当証券受取利息を受領するという,大和都市管財が単なる
資金の通過点にすぎない異常なものであることを認識したはずであるの
に,その後に受理した平成9年経営健全化計画においても,資金移動の
実在性の検証がされておらず,従来は付されていた大和都市管財グルー
プの資金収支予測までが抜け落ちていた。
よって,近畿財務局は,大和都市管財が提出した各経営健全化計画等
の達成状況について厳正な姿勢で監視する必要があった。しかるところ,
近畿財務局は,平成9年経営健全化計画が上記のとおり極めて非現実的
なものであることを認識していたにもかかわらず,改めてわざわざ修正
の機会を与えて計画の再提出を求め,しかも修正された計画は平成13
年度までに大和都市管財グループの債務超過を解消することができない
ものであったにもかかわらず,客観的合理的裏付け資料が存在せず,そ
の裏付けの要請すら行わないまま,「当否を予測できない」(乙44)
というだけの理由付けで当該計画を受理しており,平成6年度検査や平
成12年度検査における近畿財務局の認識ともかけ離れている。この点
につき,近畿財務局は,前回の計画と異なる点として①ナイス大原の
ゴルフ会員権及びチケット制会員権の販売計画への盛込み,②那須グ
リーンコースとナイス大原ゴルフコースにつき,リゾートマンションや
コテージを中心としたレジャースポーツ施設を建設,③北海道泊別観
光の売却,④ベストライフ通商による高収益物件購入の促進,の4つ
を上げているが(乙44),①は上述のとおりこれまで完全に失敗して
きたゴルフ会員権の販売計画の焼き直しであり,その主力となるチケッ
ト制会員権は預託金に加えて金利の負担を伴うものであること,②は①
のゴルフ会員権販売計画が成功することを前提としてその一部を建設費
に充てるなどの点で根拠はないことは明白であり,③については売却先,
金額の算定根拠,担保権抹消のための資金の調達などが考慮された形跡
がなく,④は裏付けとなる資金や前提となる地方公共団体の許可の有無
が不明である上,年利15パーセントという好利回り物件の資料,仲介
業者,利回りの根拠等は何ら揃っておらず,全く意味のない評価である。
また,上記計画では,新規事業に収益のほとんどを依存している上,新
規の抵当証券を発行しない限り資金繰りを維持することができず,これ
までの繰り返しにすぎないこととなる。さらに,近畿財務局は,上記計
画の裏付け資料としては,平成9年業務改善命令の内容を根拠なく縮小
して,「グループ6社を含む貸借対照表と説明書面」(乙44)のみし
か要求していないが,これは大和都市管財が提出できない資料を無視し
ようとした意図的な処理と解するほかはない。
(イ)会計監査人の不選任又は会計監査の不実施
大和都市管財は,遅くとも平成6年3月末には負債総額が200億円
を超えていたから,遅くとも平成7年3月末からは監査法人又は公認会
計士を会計監査人に選任して会計監査を受けなければならなかった(商
法特例法2条,3条)。ところが,大和都市管財は,その破綻まで一度
も会計監査人による会計監査を受けたことがなかった。
よって,近畿財務局は,このように商法上の義務に違反して会計監査
を受けていない大和都市管財の提出する決算書,特に財産的基礎の判断
資料となる貸借対照表の適正性及び表示の正確性に疑問があることを当
然に認識していたか,認識し得べきであった。
これに対し,被告は,抵当証券業規制法による監督は商法特例法上の
会計監査とは別個の制度であり,大和都市管財には監査報告書の近畿財
務局への提出義務がなかった旨主張する。しかしながら,監査報告書が
株主以外の第三者に必ず開示されるというわけではないにしても,大和
都市管財が会計監査を受けているか否かといった程度の事実は近畿財務
局において通常把握可能と思われるし,被告が主張するように,近畿財
務局は大和都市管財から提出される財務諸表の正確性を逐一検証する権
限がなく,かつ同社に対する会計監査の結果も利用しないというのでは,
財産的基礎の欠如や財務諸表の虚偽記載を更新登録拒否事由とした基本
事項通達の実効性は失われるから,このような解釈は誤りである。
(ウ)大和都市管財及びグループ会社の一体性
大和都市管財及びグループ会社の法人格・代表者・資本構成は形式的
なもので,実質的にはY1のワンマン経営であり,いわば「Y1商店」
ともいうべき実態であった。すなわち,グループ会社は,すべてY1が
新規に設立し,又は買収した会社であり,Y1の長男Y2のほか,大和
都市管財の従業員等が役員に就き,資本構成上も,Y1,Y2又はその
両者によって株式の大部分が所有され,譲渡制限が付されているか,Y
2の所有する会社の子会社となっているが,実質的にはすべてY1が資
金面の手当てをしており,これら会社間の資金移動はすべてY1が取り
仕切っていた。いずれの会社においても取締役会は開かれたことがなく,
いずれの代表者もY1の指示で各社の代表者に就任し,経営判断等もY
1の指示に従い,最終的意思決定も同人によって行われていたのである。
このような設立等の経緯や資金的・人的関係等からみて,グループ会社
は実質的にはY1によって経営され,その業務全般を統括されていたも
のであって,大和都市管財を中心とする密接不可分な企業グループを形
成していたのである。もっとも,特約付き融資の債務者会社の代表者に
Y1自らが就任すると債権者である大和都市管財の代表者と債務者会社
の代表者とが同一になり,実質的な自己取引になることが明らかになる
などの不都合があるから,Y1はY2等をグループ会社の代表者として
就任させていた。
このように,大和都市管財のグループ会社が別個の法人格を得ている
のは,Y1が資金集めをしやすくするためであり,Y1,大和都市管財
及びグループ会社間で利害の対立はなかったから,近畿財務局が大和都
市管財に対しグループ会社から帳簿等関係書類を徴求して提出するよう
求めた場合,グループ会社が大和都市管財に対して固有の利害を主張し
て書類の提出を拒むことはないのであり,グループ会社が書類の提出を
拒むとすれば,それは大和都市管財が困るからであって,グループ会社
の利害が原因なのではない。そして,平成4年にa町土地の過大評価が
問題となった際,Y1が近畿財務局とのヒアリングを重ね,乗換え用と
して仙台市の遊休地(a区土地)を担保とした抵当証券の交付を認めさ
せるまでa町土地に係る担保割れ特約付き融資の償還に応じなかったと
いう一件があったが,この過程で,近畿財務局としても,大和都市管財
とグループ会社との利害が一致していることなどを認識し,大和都市管
財グループがY1のワンマン企業であることを認識したと考えられる。
現に,その後近畿財務局が大和都市管財グループの経営改善を指導する
際は,終始,同グループがY1のワンマン企業であることを前提にヒア
リングが実施されており,例えば,近畿財務局はY1自身から,本来は
グループ会社の業務であるゴルフ会員権の販売計画やその見込みを聴取
しているのである。
(エ)抵当証券保管機構による情報提供等
抵当証券保管機構は,抵当証券会社の親会社である銀行から出向して
いる職員で構成され,悪質業者による抵当証券業界の信用失墜を防ぐべ
く,継続的に真剣な取組みをしており,抵当証券業者に関し業者状況表
(甲81の2),原券持込状況一覧表(甲81の4),保管抵当証券明
細表(甲81の6)等を作成していた。そして,抵当証券保管機構は,
抵当証券業者の監督官庁である大蔵本省及び近畿財務局に対し,平成元
年以降,大和都市管財に関する最新の情報をおおむね1年に1回程度情
報提供し,面談し,あるいは行政指導を促す等していた。とりわけ,同
機構は,平成8年の時点で,抵当証券業協会とともに,大和都市管財に
対し「非常に問題のある会社」との認識を持つに至ったが,平成7年8
月21日以降,Y17課長が逃げ腰でやる気のない対応をしていたため,
大蔵本省に対して積極的に情報提供をするようになった。
すなわち,平成5年のうちに,抵当証券保管機構は大和都市管財の特
約付き融資の相手方がそのグループ会社であることを把握し,バブル崩
壊後,同業他社が事業を縮小・撤退している状況の中で大和都市管財が
高金利で顧客を勧誘し積極的な抵当証券販売を行っており,平成元年か
ら倍々ゲームで販売残高を急増させてきた経緯を注視し,平成6年2月,
函館ゴルフ場について再鑑定評価書が提出されたことで10億円の抵当
証券が追加発行されたことについては「常識的に考えてもおかしい。」
と特記し,こうした情報を近畿財務局に報告した。殊に,平成6年8月
26日には,不自然な中途解約の申出に敏感に反応し,その後,抵当証
券業協会からの情報で手形商品(甲12の1によれば,大和都市管財は
これを元本保証商品として販売していたものであることが明らかであ
る。)が原因であることを把握して,大和都市管財が出資法違反の資金
集めを行っている旨近畿財務局に報告し,これが平成6年検査の端緒と
なった。
近畿財務局は,平成7年8月に平成7年業務改善命令を撤回してから
は大和都市管財に対して完全に腰砕けになったが,抵当証券保管機構に
とっては,何故近畿財務局が大和都市管財に対する監督権限行使を後退
させるのか理解できず,平成8年5月1日に本省金融会社室にY4補佐
が着任した後,同補佐に同月31日現在の業者状況表を交付した上,同
補佐から大和都市管財の担保不動産の簡易鑑定を依頼され,争点2(3)ウ
で主張したとおり,合計9口の担保不動産に対する特約付き融資の合計
額が63億9200万円であるのに対し,簡易鑑定評価額合計が39億
8000万円しかないとの結果をY4補佐に交付した。同補佐は,この
結果を近畿財務局に伝え,Y17課長に対し,抵当証券保管機構が簡易
鑑定で協力すると言っているので,大和都市管財の財務状況を把握する
に当たって是非担保の状況も調べるように指示したが,Y17課長が抵
当証券保管機構に対して他の物件の簡易鑑定を依頼することはなかった。
さらに,抵当証券保管機構は,平成8年7月に大和都市管財から本件
貸付金に係る抵当証券の保管依頼があった際にも,評価額に疑問がある
として大蔵本省と協議の上で主体的に保管依頼を取り下げさせており,
大和都市管財の抵当証券販売が資金集め目的であって購入者を害すると
の危機感を持つに至ったこと,及び近畿財務局が頼りにならなくなった
ことを示している。
また,抵当証券保管機構は,平成9年11月に大和都市管財の抵当証
券20億円の原券弁済期が,翌年2月には10億円の原券弁済期が到来
することなどから,①弁済期に抵当証券原券を返還するよう念のため
近畿財務局から大和都市管財に指導してもらうとともに,②墓地予定
地のまま放置され何ら収益を生んでいないa町土地については,一部産
業廃棄物処理場との疑念もあるので現況を調査した上,再鑑定が必要と
なる場合には現行の21億円の評価額を前提とした16.8億円の販売
枠管理を修正する必要性について,平成9年8月に近畿財務局と協議す
る予定であったものの,Y17課長は,①につき,平成8年経営健全化
計画で,貸付元本の返済期日が来たものは貸付金の回収を図り,新たな
抵当証券発行は行わない旨大和都市管財に約束させていたにもかかわら
ず,それすら指導できないという腰砕けの対応であり,②についても,
個別の業者の販売枠についてまで近畿財務局が立ち入る立場ではないが,
抵当証券保管機構が言うように過去に販売枠について指導したというの
であれば,現状は16.8億円の販売枠管理で良いのではないか,と前
例すら無視して完全に後退した内容しか述べなかった。このため,梯子
を外されかねないという危機感と怒りとを覚えた抵当証券保管機構は,
当日の近畿財務局の対応をそのまま書面化して,販売枠管理の言質を取
った覚書(甲92の6の2)を作成し,平成9年9月30日,大蔵本省
に直接送りつけたのである。この一連の経緯には,大和都市管財に係る
問題を隠ぺいすることに汲々とするだけの近畿財務局と,同社による購
入者被害の発生による抵当証券業界の信用失墜を慮る抵当証券保管機構
との姿勢の違いが鮮明に現れている。
(オ)内部告発等の存在
平成9年秋,「近畿財務局の反社会的行為と罪について」と題する本
件告発文書(甲14)が大蔵本省に送付された。その内容は,大和都市
管財が新たにチケット制会員権という金融商品を販売しているという内
容もさることながら,大和都市管財の一社員として,社員しか知り得な
いような生々しい内情を暴露しつつ,以下のとおり,監督官庁である近
畿財務局が見て見ぬふりをしていることに対する失望感に満ちたショッ
キングな内容が含まれていた。すなわち,「・・・期待していたのが財
務局の処罰ですが,改善計画も受け取ったそうです。金融に詳しい知人
からは『12月20日に登録の更新があるから,あれだけ問題になった
ら更新されないやろ。そうすれば,自主廃業かな。社長もぱくられるや
ろ。』と言っていましたので,それに少し期待していたのですが,まだ
財務局は何も言ってこないようなので,このままいくような気がします。
社長が弁護士に電話していたのや,財務局に電話をしているのを聞くと,
改善計画のポイントは『ゴルフ会員権をどんどん売って経営を立て直
す』ということです。つまり,あくどいことをやると宣言しているので
す。それでも財務局が何も処罰をしないのはどうしてでしょうか。見て
見ぬふりをしているのでしょうか。山一証券問題でも大蔵の責任が問わ
れていますが,これはもっとひどいように思えます。マスコミや大蔵省
の人たちの力で近財をしっかりと指導していただけないでしょうか。」
というものであり,大和都市管財の社員の目からみても同社とその監督
官庁である近畿財務局が共犯関係にあると思えるまでに近畿財務局が何
もしないことで被害が拡大しているのである。
また,平成6年当時から,近畿財務局には大和都市管財の販売する手
形商品等について購入者から同社が解約に応じない等の苦情相談が寄せ
られており,当然,近畿財務局もそのような相談があることを認識して
いたはずである。
ク平成9年における不動産抵当證券に対する立入検査の結果及びその後の
対応との異同
不動産抵当證券は,大和都市管財と並んで大蔵省銀行局幹部への報告事
項となっており(大蔵本省では当時前者がF社,後者がD社と暗号で呼ば
れ,報告事項であることは近畿財務局も認識していた。),ソーケン開発
(代表者の妻が経営していた。)に融資をして抵当証券を発行している独
立系の抵当証券業者であって,財務状況が悪化していたため,平成7年に
は関東財務局が業務改善命令を発出していた。もっとも,担保割れの貸付
金があるという点では両社とも共通していたが,不動産抵当證券における
抵当証券の発行規模は数十億円であり,購入者も大和都市管財より少ない
上,関東財務局の調査によってその財務状況はよく把握されていた。また,
不動産抵当證券は,抵当証券以外の金融商品は販売していなかった。
大蔵本省は,登録が取り消された後に悪質な業者が財産隠しをするおそ
れがあるので,商法の会社整理の規定を行使することができないか検討す
るため,平成8年末ころ,Y4補佐や関東財務局の担当官らを東京地方裁
判所民事第8部に相談に行かせていた。同部は,こうした条項は適用した
ことがないので少し勉強させてくれという対応であり,Y4補佐らは,関
東財務局で調べ直した不動産抵当證券の融資先である関係会社全体の財務
状況の資料を持参するなどした。
平成9年10月31日付けの関東財務局の不動産抵当證券に対する検査
結果通知(甲207)の「1財務内容について」の項には,「大口融資
先であるソーケン開発㈱が債務超過となっていること及び同社の事業が不
振であることから貸付金の利払いが実質的に延滞となっており,さらに,
多額の担保不足が認められるため,同社への貸付金及び仮払金等の債権回
収には重大な懸念が生じている。このため,回収不能見込額を考慮した貴
社の財務内容は,実質的に債務超過となっているものと認められ,規制法
に定められる財産的基礎を欠いている状態にある。」「貸出先ソーケン開
発㈱の経営不振から,・・・2回に渡りソーケン開発㈱への支払い利息の
資金として仮払金処理し,表面的な延滞回避と認められ,実質的な延滞貸
付金となっている。」「直前決算(9年9月期)における純資産額(資産
計-負債計)は516,098千円,純資産比率103.2パーセントと
法第6条第1項第7号に定める財産的基礎を表面上は満たしているが,次
のとおり回収に懸念のある資産が認められるため,実質的には財産的基礎
を欠いている。・・・8年9月30日現在におけるソーケン開発㈱への貸
付金4853百万円について担保不足が約14億円認められる。」などと
記載されていた。すなわち,抵当証券は,抵当権付き債権の売買を仲介す
るのではなく,抵当証券会社がこれを保証すること,すなわち,抵当証券
会社の信用を前提に,これを店頭に備え付けの財務諸表を購入者にみても
らって買うものであるという建前で抵当証券業規制法は作られており,抵
当証券会社を監督する側は,購入者保護の観点から,業者から提出される
決算書を鵜呑みにするのではなく,実質的にチェックしなければならない
ものであるところ,現にそうした観点で関東財務局は不動産抵当證券の監
督を行い,同社グループ全体の財務内容に関して貸倒引当金(回収不能見
込額)を認定し,同社が実質的に債務超過となっているから,抵当証券業
規制法に定める財産的基礎を欠いていると判断したものである。
しかも,不動産抵当證券の貸付金残高が約50億円であったのに対して,
大和都市管財はその10倍の約563億円であったこと,不動産抵当證券
と異なり,大和都市管財は手形商品など出資法違反の商品を扱っていたこ
となどに照らすと,不動産抵当證券以上に大和都市管財の財務状況は悪化
しており,その購入者保護には重大な懸念が生じていたのである。
(5)回避可能性
抵当証券業規制法によれば,財務局長等による(更新)登録拒否によって,
当該抵当証券業者は抵当証券業を営むことができなくなり,それ以降の抵当
証券販売及びこれによる被害は適切かつ容易に封じられるし,(更新)登録
拒否は拒否事由があるか否かについての認定・判断だけの問題であって,そ
の行使にはさしたる障碍もない(回避可能性)。この理は,大和都市管財に
おいても異なるところはなかった。
(6)補充性
抵当証券の商品構造上,抵当証券購入者は,当該抵当証券が表章する抵当
権付き債権の資産価値又は安全性や,支払を保証する抵当証券業者の信用性
についての情報を把握することができないか又は著しく困難である一方,こ
のような情報が集中し,監督規制権限を有しているのは財務局長等を措いて
他にはないこと(補充性)が明らかである。
すなわち,①抵当証券業規制法が抵当証券購入者保護をその目的として
掲げていること,②現実の抵当証券取引が,抵当証券法の予定する取引態
様とは異なり,実質的には預かり証にすぎないモーゲージ証書による販売と
いう形式で行われ,顧客も抵当証券が表章する抵当権付き債権ではなく抵当
証券業者による償還を当てにしており,抵当証券業規制法や標準的販売約款
もこのような実態を前提としているため,抵当証券購入者が抵当証券原券の
記載内容を事前に閲覧する動機付けに乏しいこと,③このような実態から,
抵当証券業自体が,抵当証券業者が不特定多数の一般国民から返還約束の上
で抵当証券購入代金名下で金を預かり,これを企業等に貸し出すという金融
仲介機能を営む間接金融に近い存在となっていることに照らすと,抵当証券
業規制法による監督官庁の監督権限の範囲と程度は,銀行に対するそれに準
じるものと解すべきであり,現に,抵当証券業者の監督部署も,旧大蔵省証
券局ではなく銀行局(本省金融会社室)内に置かれていた。
また,モーゲージ証書形式による抵当証券業者の業務及び財産の状況は一
般の顧客に対する情報開示が不十分であり(モーゲージ証書(抵当証券取引
証)には抵当権設定物件の表示はない。),商品の安全性(債務者・担保の
内容・抵当証券会社と債務者との関係等)について調べる方法は事実上なか
った上,特に大和都市管財については,そのグループ全体の財務状況を把握
することができたのは近畿財務局を措いて他にはなかった。
その上,登記官には抵当証券発行に際して債権の健全性や担保の充分性を
審査する権限はなく(抵当証券法5ないし11条),抵当証券保管機構や法
務局が過剰発行部分や価格下落部分について補償などをすることもないから,
抵当証券の分別保管を徹底したとしてもそれだけでは顧客保護は図り得ない
にもかかわらず,抵当証券業者が破綻した場合にもその顧客には保険制度・
保護基金等のセーフティネットは何ら用意されておらず,顧客が保有する抵
当証券が偶々表章していた担保物件の価値によってその損失幅が大きく左右
されるなどの危険性があったから,大和都市管財に対する登録,監督行政を
通じて財務局長等が果たすべき役割には大なるものがあった。
ところで,消費者行政の場面では,行政の補充性(悪質業者に対しては,
まず第一に取引相手が十分に注意して対処すべきであり,その不十分な点を
行政が補充すれば足りるという原則)は基本的に否定されるべきであるが,
仮に行政の補充性が妥当するとしても,原告らの被った被害に関して規制権
限を行使し得るのが被告以外になかった以上は,権限行使の果断性が一層強
く要請されるべきである。
すなわち,各種の消費者保護規定が,消費者が十分に注意して取引を行う
ことができないことを前提としていることからも明らかなとおり,行政の補
充性は消費者問題では意味がない(抵当証券業規制法1条の目的規定も,国
及び地方公共団体に対して消費者保護のための施策を行うべき義務を明定し
ている消費者保護基本法(昭和43年法律第78号,ただし,平成16年法
律第70号による改正前のもの。)2条,3条との関連の下に解釈されるべ
きことはいうまでもない。)。しかも,本件においては,原告らの大半が,
国・財務局・法務局の監督等が厳格かつ適切にされていることを信頼し,し
たがって近畿財務局登録業者の商品であるDTK抵当証券が安全確実な元金
保証商品であると捉えつつ,老後の生活資金等の安全な運用を志向して被害
を被ったのであり,原告らは正に行政の監督・規制権限が適切に行使されて
いるものと信頼して行動していたのであるから,行政の補充性を根拠として
被告が責任を免れようとすることは,明らかな矛盾挙動であり許されない。
仮に補充性をいうとしても,悪質業者により違法な営業状態が継続してい
る場合には,既発生の被害者に対する弁済が専ら新規被害者の獲得によって
行われる蓋然性があることは,消費者問題領域におけるいわば古典的な手口
ですらある。また,行政指導によって違反是正が可能で行政目的を達成する
ことができることを理由に規制権限行使の慎重さを過度に強調することは,
逆に安易な行政指導でお茶を濁し,実際には被害拡大を促進するにすぎない
おそれもあり,端的に果断な規制権限行使が要請されるというべきである。
(7)本件更新登録をせざるを得なかった実質的理由
争点8で詳述するとおり,近畿財務局長は,平成7年8月21日,大和都
市管財に対して業務改善命令を発出したが,その命令交付の場でY1が断固
とした受取拒否の姿勢を示した上,同和団体の背景をちらつかせて恫喝した
ために,近畿財務局長は当該命令の発出を事実上撤回してしまった(以下
「本件命令撤回事件」という。)。このことは,近畿財務局が大和都市管財
に対する規制監督官庁としての責任を放棄し,大和都市管財の抵当証券業規
制法違反の事実を自ら黙認したに等しく,前代未聞ともいうべき著しい不正
事件である。しかも,この不祥事は近畿財務局長の判断で行われたことであ
るから,近畿財務局,及びこの事実上の撤回を黙認した大蔵本省においては,
徹底的に隠ぺいし,もみ消しにしなければならない秘密事となった。しかる
ところ,仮に,平成9年12月の段階で更新登録を拒否して会社整理通告を
するとすれば,当時のY12近畿財務局長(平成6年7月から平成7年6月
まで大蔵省銀行局総務課長の任にあり,その当時,大和都市管財については
「潰してもいい。」などと発言していた。)は,行政の汚点である本件命令
撤回事件を明らかにせざるを得なくなる。よって,本件更新登録の背景には,
大和都市管財の破綻を先送りして,本件命令撤回事件の失態を隠ぺいし,近
畿財務局と大蔵省幹部の保身を図らなければならない事情があったのである。
近畿財務局が,本件命令撤回事件以降,大和都市管財に対するそれまでの
厳しい監督方針を一変させて,何とかしてその破綻の表面化の先送りを図る
ようになり,近畿財務局自ら大和都市管財の資金繰り表(乙26。以下「本
件資金繰り表」という。)を作成したり,同社が平成8年4月12日に提出
した平成8年経営健全化計画(その内容に新味がないことは,平成7年8月
15日に同社から提出された平成7年収支計画を被告が書証として提出して
いないことからも容易に推認することができる。)を,同社から自主的に提
出されたものであるなどとして高く評価し,同時に従前の計画の進捗状況に
ついては不問に付したこと,平成9年検査実施の直前になって,グループ会
社についても調査対象とすべきであるなどと近畿財務局に強く指示していた
本省金融会社室のY4補佐を理由も告げずに大和都市管財の担当から外した
上,本件訴訟を提起した後に,当時の金融庁金融会社室長が3度もY4補佐
の職場を訪れ,大蔵本省に残された本件命令撤回事件の理由と経緯が記録さ
れている唯一の公文書である本件内部資料について,個人的な手控えという
ことにしておいてくれと要請していたこと,近畿財務局が平成13年4月1
6日に大阪地方裁判所に対してした会社整理通告書でも本件命令撤回事件の
存在は触れておらず,平成14年の国会審議において金融庁が野党国会議員
の質問に対し本件命令撤回事件の存在を否認し,徹底的に隠ぺいしようとし
ていたこと,平成7年業務改善命令発出の大きな理由の一つとされていた手
形商品について,平成8年3月期の決算書でその残高が前年度に比べて30
億円も増加して154億2300万円となっているにもかかわらず,違法性
の指摘や発行をやめさせるための指導を平成7年8月以降は一切行わず,か
えって大阪府警からの問い合わせに対して手形商品に関するクレームはない
旨虚偽の報告をして捜査を妨害していること,近畿財務局が平成12年検査
結果通知では大和都市管財に対して貸倒引当金の問題を指摘しながら,同様
の状態であった平成9年にも貸倒引当金を認定することができたはずである
旨非難されるのをおそれ,平成13年4月16日付け更新登録拒否事由にお
いては個別引当による貸倒損の計上を見送ったことなども,このような事情
をうかがわせるに足りるものである。
さらに,Y1は,平成9年ころ,当時のY22大蔵大臣の紹介で,大蔵省
出身,当時当選4回のY23国会議員(以下「Y23議員」という。)の知
遇を得ており,Y23議員に対して,近畿財務局の大和都市管財に対する検
査について,同局幹部からの情報収集等を依頼していた。Y23議員は,平
成9年6月に近畿財務局の大和都市管財に対する立入検査等が始まった直後
から,近畿財務局長を始めとする同局幹部に電話で10回近くにわたり接触
をしていた。なお,Y23議員は,ヤミ献金を受領しては,献金者のために
役所等に国会議員の地位を利用して圧力を掛けることを常習としていたが,
平成12年11月から平成13年3月まで,大和都市管財のグループ会社か
ら同議員に対して合計98万円がヤミ献金されていることが判明している
(刑事立件されたが不起訴となり,Y23議員はその後立件された同様のヤ
ミ献金事案である日本マンパワー事件で実刑判決を受けた。)。
近畿財務局が,平成9年10月31日に大和都市管財に対する平成9年業
務改善命令が発出されていたにもかかわらず,平成9年経営健全化計画の合
理性や実現可能性,これまでの計画が大幅未達であることの原因分析とその
克服の方法,具体的な資金繰りの計算等を具体的な資料によって疎明するこ
とを求めないまま,平成9年業務改善命令に付された回答期限である11月
18日を大幅に経過した12月12日になって最終的に提出された計画につ
いて,①チケット制会員権(元本償還義務に加えて高利の利息を支払う約
定になっている。)等を販売計画に盛り込んでいる点,②リゾートマンシ
ョンやコテージを中心としたレジャースポーツ施設を建設するとしている点
(既に挫折が明らかとなっていたゴルフ会員権の販売が好調となり,それに
よって得た資金を充てることが計画の前提となっている。),③北海道泊
別観光を売却するとしている点(売却先や担保抹消の方法について何らの記
載もない。)及び④ベストライフ通商が高収益物件購入を促進するとして
いる点(具体的物件名は不明であり,資金繰りも明らかではない。)を,前
回までの計画と異なり累積損失の解消を図る姿勢がうかがわれるとして安易
に高く評価するなど,近畿財務局の対応が平成12年検査における同社の経
営健全化計画に対する対応(計画の合理性・実現可能性が具体的な資料によ
って疎明されていることを要求していた。)やそれ以前の計画に対する対応
(平成7年業務改善命令のように,積算方法等の根拠を具体的資料によって
示すことを求めていた。)と比較して余りに肯定的なものとなり,たやすく
平成9年経営健全化計画を受理し,本件更新登録を行ったことも,上記のよ
うな事情によるものである。
これに対し,被告は,平成8年経営健全化計画が大和都市管財から自主的
に提出されたことを評価の理由としているが,Y1のそれまでの対応から,
同人が自主的にこのような計画を提出することはあり得ない。むしろ,同年
5月2日付けの調書(乙31)にはその内容を当局が指示した旨の記載があ
り,大和都市管財側が「時間を掛ければ作れるが時間的な余裕がない」と述
べていること,同年3月6日付けヒアリングメモ(甲161)において,近
畿財務局が大和都市管財に対し,「資金調達と資金運用を具体的に数字にま
とめていただき」たいとの依頼をしていることからみて,近畿財務局の指導
を受けて作成されたものであることが明らかである。そもそも,平成8年経
営健全化計画の内容は,キ(ア)で述べたとおりの非現実的なものであって,
本来受理すべきようなものではなかった。それにもかかわらず受理した目
的は,再度業務改善命令を発出せよとの大蔵本省からの指示を回避するため
に,経営健全化計画を提出させたという明確な指導の外形を作出することに
あったのである。
また,被告は,平成9年経営健全化計画は前向きな内容となっており,そ
れが実現不可能であるとは断定することができないから受理した旨主張する。
しかしながら,前記のとおり,合理性と実現可能性について疎明があったと
認められない限り,近畿財務局としても計画そのものの受理が不可能であっ
たはずであり,現に平成9年業務改善命令でも不完全ながら資料による裏付
けが求められていたにもかかわらず,近畿財務局はこの点を殊更無視して受
理しているから,まず結論ありきであったことは明白である。
(被告)
(1)概要
財務局長等は,(更新)登録申請者が財産的基礎を欠いていることを認識
しながら漫然と(更新)登録をしたなどの特段の事情がない限り,その(更
新)登録が国賠法上違法との評価を受ける余地はない。そして,仮に,本件
更新登録時において大和都市管財に更新登録拒否事由が客観的には存在して
いたとしても,近畿財務局長にはその実質的な審査権限はなかった上,近畿
財務局長が当時有していた資料から合理的に判断して,大和都市管財に更新
登録拒否事由があったことまでは認識することができなかった。また,近畿
財務局長は,平成9年当時の会計実務に照らし,貸倒引当金の算出等を明確
な基準によって行うこともできなかった。したがって,近畿財務局長は,本
件更新登録当時,原告らの主張するような手法で更新登録拒否を行うことは
不可能であった(抵当証券業規制法5条1項柱書参照)から,本件において
上記のような特段の事情があったとはいえず,本件更新登録には国賠法上の
違法はない。また,原告らのいう,とにかく本件更新登録をしなければなら
なかった実質的理由など存在しない。以下詳述する。
(2)基本事項通達の合理性
ア近畿財務局長に実質的審査権限がないこと
抵当証券業規制法6条1項7号にいう「財産的基礎」については,当該
事業の内容,取引態様,事業主体の組織構成,資産構成等に踏み込んで,
その有無を逐一調査することは要求されていない。すなわち,抵当証券業
規制法は,財産的基礎の審査に当たり,貸借対照表が公正な会計慣行にの
っとり作成されたものであるか否か,すなわち貸借対照表に係る経理処理
の適切性を逐一調査することまでは求めておらず,むしろ,商人の作成す
る貸借対照表が公正な会計慣行にのっとって作成されるべきことは商法
(32条2項等)に規定され,それが同法の罰則(498条1項19号)
によって担保されているほか,抵当証券業規制法においても,(更新)登
録申請書の添付書類の一つとして同法6条1項各号の(更新)登録拒否事
由に該当しないことを誓約する書面の提出を義務付け(4条2項,8条2
項),(更新)登録申請書又はその添付書類に虚偽の記載をして提出した
場合につき罰金刑を定め(52条1号,53条),同法により罰金刑に処
せられた者及び不正の手段により(更新)登録を受けたことが判明し登録
を取り消された者は3年を経過しなければ抵当証券業者の登録が拒否され
ること(6条1項4,5号)等の規定によって,(更新)登録申請書及び
その添付書類の真実性を担保していることにかんがみると,貸借対照表等
それ自体の記載に基づいて,貸借対照表上の計数である資産の合計額から
負債の合計額を控除した額と資本の額を比較することにより,資本欠損の
有無を判断すれば足りるものと解される。
この点,原告らは,(更新)登録申請の方法については抵当証券業規制
法の明文はないが,条理に基づきこれを実質的審査と解すべきである旨主
張する。しかしながら,行政作用に関する法,特に国民の権利を制限した
り義務を課する内容のものについては,国民の予測可能性を担保したり,
行政権力の発動について国民代表議会で定立された法律の根拠が要求され
ることなどから,成文法中心主義が採用されており,行政法の規律対象の
絶え間ない変遷に伴って法律相互間に矛盾・不統一が生じたような例外的
な場合に条理が補足的に用いられているにすぎず,国民の権利や自由に対
する法益侵害的な行政権力を成文法に根拠なく安易に発動することは許さ
れないから,原告らの主張は失当である。
もっとも,通常考え難い極めて例外的な事例であろうと思われるが,仮
に,貸借対照表等の記載によって貸借対照表に公正な会計慣行に明らかに
反する記載がされていることが判明した場合において(例えば,貸倒引当
金については,一般的に,提出された貸借対照表等の記載だけでは,公正
な会計慣行に反する計上がされているか否かを判断することは極めて困難
である。),貸借対照表等の記載により行政当局が公権的に貸借対照表の
記載を修正することが可能であるときは,すなわち,客観的かつ明確な根
拠をもって置き換えるべき内容を特定することができるのであれば,財産
的基礎の有無を逐一調査するまでもなくその有無を判断することができる
上,上記商法総則規定ないし抵当証券業規制法の各規定が遵守されていな
いことが明らかであることから,当該記載を公正な会計慣行に適合する記
載に修正した上で,資本欠損の有無を判断することが必要かつ合理的であ
る。
また,財務局長等が,立入検査等により別途把握した事実に照らして,
貸借対照表に公正な会計慣行に明らかに反する記載がされていることを認
識した場合において,当該立入検査等により把握した事実をもって行政当
局が公権的に貸借対照表の記載を修正することが可能であるときは,すな
わち,客観的かつ明確な根拠をもって置き換えるべき内容を特定すること
ができるのであれば,上記と同様の理由で,当該記載を公正な会計慣行に
適合する記載に修正した上で,資本欠損の有無を判断することが必要かつ
合理的である。
加えて,仮に立入検査等で把握した事実関係から,(更新)登録拒否事
由に該当するか否か真偽不明である場合であっても,抵当証券業規制法5
条が「大蔵大臣は,第3条の登録の申請があったときは,次条第1項の規
定によりその登録を拒否する場合を除くほか,次に掲げる事項を抵当証券
業者登録簿に登録しなければならない」と規定している以上,財務局長等
が(更新)登録拒否事由に該当すると認定することができなければ,(更
新)登録拒否をすることができないことは法文上からも明らかである(他
方,例えば,タクシー業務適正化特別措置法7条1項は,「申請者が次の
各号の一に該当していると認められるとき,又は該当していないことが明
らかでないときは,その登録を拒否しなければならない。」と規定してい
る。)。
これに対し,原告らは,更新登録申請は現に受けている登録の有効期間
満了の日の2月前までに申請しなければならない旨規定されていること
(抵当証券業規制法8条1項,法施行規則6条1項)を根拠に,財務局長
等には実質的審査義務がある旨主張する。しかしながら,この規定が定め
られたのは,①更新登録を受けようとする抵当証券業者が申請書類を提
出する場合において,当該抵当証券業者の主たる営業所等の所在地を管轄
する財務事務所等があるときには,当該財務事務所等を経由して提出しな
ければならないこと(法施行規則25条),②抵当証券業規制法の施行
に際して,現に抵当証券業を営んでいる法人は,同法施行後6月間は登録
を受けずに引き続き抵当証券業を行うことができるとの経過措置規定が置
かれ(附則(昭和62年12月15日法律第114号)2条1項),経過
措置期間後も引き続き抵当証券業を行いたい場合はその間に登録を受けな
ければならないとされたが,相当多数の抵当証券業者が一時期に集中して
登録申請をすることが予想され,これらの登録業者の更新登録申請につい
ても一時期に集中することが予想されたことから,行政処理を円滑に実施
するため2月前に更新登録の申請をさせる必要があること,などが勘案さ
れたものである。したがって,原告らの主張は単なる憶測にすぎず失当で
ある。
さらに,原告らは,大和都市管財の財務状況を把握するためには,融資
先であるグループ会社まで調査対象として,大和都市管財の資産のほとん
どを占める特約付き融資の実態を把握する必要がある旨主張する。しかし
ながら,抵当証券業規制法上,近畿財務局は,抵当証券業者に対して報告
徴求権限や検査権限を行使し得るのみであり,債務者や関連会社に対する
同様の権限はないから,原告らの上記主張は立法論にすぎないというべき
である。
本件更新登録に際しては,そもそも,提出された貸借対照表等の表示上,
貸借対照表に公正な会計慣行に反することが明らかな記載がされていると
は認められず,また,近畿財務局が,立入検査等により,提出された貸借
対照表に公正な会計慣行に明らかに反する記載がされていると認めるに足
りる事情を別途把握していたということもなかった。そして,本件更新登
録が,基本事項通達に照らし,財産的基礎及び人的構成のいずれの要件を
も満たしていたことは既に述べたとおりである。
ところで,行政行為に裁量が認められている場合には,当該行政庁が行
為に当たり,付与された裁量を逸脱・濫用したと認められる場合にのみ違
法と判断されるが(行政事件訴訟法30条参照),行政庁がいわゆる要件
裁量を行使するについては,統一的な取扱いの確保と同時に,国民に対す
る処分の予測可能性を提供するという見地から,上級行政機関において,
通達などによってあらかじめ裁量権行使の内部基準を設定することがある
(行政手続法5条参照)。この場合,下部行政機関の公務員がこれにのっ
とって行政行為を行った場合には,当該通達が明白に不合理なものでない
限り,当該公務員はこれに従う職務上の義務があるから,当該通達等の基
準に適合しているとの判断を職務上の義務に反して漫然と誤った場合でな
い限り,当該決定が違法となることはないと解すべきである(最高裁昭和
60年(行ツ)第133号平成4年10月29日第一小法廷判決・民集4
6巻7号1174頁参照)。この場合の裁判所の審査は,まず当該通達等
の審査基準に明白に不合理な点があるか否かについて,次いで基準適合性
の判断に際し漫然と職務上の義務に反した誤りがあるか否かについてされ
るべきであり,そのいずれもが積極と解されない限り,当該処分は違法に
はならない。そこで,以下,基本事項通達の審査基準の合理性について検
討する。
イ基本事項通達の合理性・財産的基礎
抵当証券業規制法において,(更新)登録拒否事由としての財産的基礎
の規定が置かれたのは,抵当証券取引においては,証券会社や割賦販売業
者と異なり,ほとんどの業者が元利金の支払保証を行っているほか,1年
から5年の期間経過後に買戻しを行う約定の下に抵当証券の販売を行って
いるという実態にかんがみ,抵当証券業者の販売業務が継続的・安定的に
遂行されるべく,抵当証券業者の財務基盤の面から抵当証券業への参入を
規制する必要があると考えられたことによる。基本事項通達は,同法のこ
のような趣旨を踏まえつつ,営業の自由をできる限り尊重し必要最小限の
開業規制とすべく登録制が採用されたこと,業者の純資産比率の観点から
規制を設けている他の法令との均衡などを勘案して,原則として純資産比
率が100パーセント以上であることを要するという審査基準(基本事項
通達第1の(3),イ,(ロ),A)を定めたものである。抵当証券業規制法の
法案審議がされた第111回国会参議院大蔵委員会においても,財産的基
礎の具体的な審査基準を行政当局が定めることを前提に,抵当証券業者の
純資産の観点から審査基準を設けることを検討している旨の答弁がされて
おり,上記Aの基準は,このような国会における論議にも沿うものである。
そして,基本事項通達は,上記基準該当性は(更新)登録申請者単体に
ついて審査判断するものとしていた。すなわち,抵当証券業規制法4条2
項,8条2項,法施行規則4条1項5号が提出を義務付けているのは(更
新)登録申請者の単体の貸借対照表等であるところ,基本事項通達の上記
Aの基準は,同号を引用し,(更新)登録申請者単体について,資産の合
計額から負債の合計額を控除した額が資本又は出資の額以上であるかどう
か審査するとしていた。これは,抵当証券業規制法6条1項柱書が,「登
録申請者が次の各号のいずれかに該当するとき・・・」とした上,同項7
号が「抵当証券業を適確に遂行するに足りる財産的基礎・・・を有しない
法人」と定めていることに照らしてもごく自然なことであって,合理性が
ある。
また,基本事項通達は,上記基準について,資産の合計額から負債の合
計額を控除した額が資本の額以上であるかどうかは,同法4条,法施行規
則4条によって提出が義務付けられた(更新)登録申請書及びその添付書
類である貸借対照表その他の書類の記載により審査することとしていた。
これは,法施行規則4条1項5号の貸借対照表等に,(更新)登録申請者
の資産の合計額,負債の合計額,資本の額等が表示されることに根拠を有
するもので,合理性がある。また,いずれも財産的基礎を実体的に判断す
るものとされている証券取引法(同法28条1項,31条1号)及び割賦
販売法(同法11条,15条1項4号)の各関連規定と比較しても,①
抵当証券業規制法は,抵当証券業について,登録制という弱い規制をする
にとどめていること(証券取引法は証券業につき免許制,割賦販売法は前
払式割賦販売業につき許可制を採用している。),②抵当証券業規制法
の制定時の審議において,財産的基礎について実体的に審査することを予
定しているなどの議論は一切されていないこと(免許制を導入した証券取
引法の昭和40年改正,許可制を導入した割賦販売法の昭和43年改正に
おける国会審議では,政府委員が免許又は許可の要件となる業者の財産的
基礎については実体的に審査する旨説明している。),③抵当証券業規
制法及び法施行規則は,財産的基礎の審査に用いる貸借対照表の数値の真
実性を確認するに足りる資料の提出を何ら要求していないこと(証券取引
法においては「証券業の免許に当り検討する事項について」(昭和42年
3月23日付け蔵証第685号大蔵省証券局長通達)及び予備審査制度に
ついて定める証券会社に関する省令1条の2第2項で,割賦販売法におい
ては同法施行規則で,いずれも申請に当たり実体審査に必要な説明資料を
提出すべきことが定められている。),④著作権等管理事業法施行規則
5条2号は,著作権等管理事業を行う法人の財産的基礎に関する基準の1
つとして「支払不能に陥っていないこと」という実体的審査になじむ文言
を用いているが,実務上はなお登録申請書に添付された貸借対照表や誓約
書等に対する形式的審査で足りるとされていることからしても,抵当証券
業規制法は,当該事業の内容,取引態様,事業主体の組織構成,資産構成
等に踏み込んで財産的基礎の有無を実体的に審査することを予定していな
いと解すべきである。ただし,極めて例外的に,貸借対照表等の記載又は
財務局長等が実施した立入検査等により別途把握した事実をもって,貸借
対照表に公正な会計慣行に明らかに反する記載がされていることが判明し
た場合において,財務局長等が客観的かつ明確な根拠をもって貸借対照表
の記載を修正することが可能であるときは,当該記載を公正な会計慣行に
適合する記載に修正した上で,資本欠損の有無を判断することが必要かつ
合理的である。このような登録審査のあり方こそ,一定の欠格事由に該当
する場合を除くほかは登録をしなければならない旨規定する抵当証券業規
制法5条1項及び平等な処分を確保するために明確性・客観性を重視して
審査基準を設定した基本事項通達の合理的解釈というべきである。
この点,原告らは,(更新)登録申請者のみならず他の法人の財務状況
を含めた連結財務諸表等についても審査の対象とすべきである旨主張する。
しかし,前記のとおり,財産的基礎が(更新)登録拒否事由とされたのは,
抵当証券業者のほとんどが元利金の支払保証を行っているほか,1年から
5年の期間経過後に買戻しを行う約定の下に抵当証券の販売を行っている
実態にかんがみ,抵当証券業者の財務基盤の面から抵当証券業への参入を
規制する必要があると考えられたことによるが,このような保証債務を履
行して買戻しを行うのは抵当証券業者自体であるし,抵当証券業規制法6
条1項等の規定の文理や同法制定時の国会における審議に照らしても,原
告らの主張には根拠がない。
また,原告らは,財務局長等は,預金や保険と比べて契約者保護制度の
設けられていない抵当証券購入者の保護を図る見地から,財産的基礎の審
査について,(更新)登録申請書の添付書類として提出された貸借対照表
等だけでなく,当該貸借対照表等の経理処理の適切性等までを逐一調査す
べき法的義務を負うかのように主張している。しかし,預金・保険と抵当
証券とは商品の特性及び経済的機能等が異なっていること,抵当証券は販
売済みのものについては自社保管が禁止される(抵当証券業規制法18条
1項)など,抵当証券業者が破綻した場合にも購入者資産が毀損されない
制度となっていること,前記のように,同法が定める更新登録制度は,個
々の購入者の保護を直接の目的とするものではなく,抵当証券業者の営業
の自由をできるだけ尊重する趣旨から設けられたことに照らすと,抵当証
券購入者の利益保護のみを強調する原告らの主張は一面的である。また,
同法は,財産的基礎の審査に当たり,貸借対照表が公正な会計慣行にのっ
とり作成されたものであるか否かを逐一調査することまでは求めておらず
(前記のように,同法4条2項,8条2項,法施行規則4条1項も,貸借
対照表等の経理処理や担保不動産時価の適切性を裏付ける資料の提出は要
求していない。),むしろ,商人の作成する貸借対照表が公正な会計慣行
にのっとって作成されるべきことは商法(32条2項等)に規定され,そ
れが同法の罰則(498条1項19号)によって担保されているほか,抵
当証券業規制法も,(更新)登録申請書の添付書類の一つとして同法6条
1項各号の(更新)登録拒否事由に該当しないことを誓約する書面の提出
を義務付けた上(4条2項,8条2項),(更新)登録申請書又はその添
付書類のうち重要な事項についての虚偽の記載がある場合に(更新)登録
拒否事由に該当するものとし(6条1項柱書,8条2項),(更新)登録
申請書又はその添付書類に虚偽の記載をして提出した場合につき罰金刑を
定める(52条1号,53条)こと等によって提出書類の記載の真実性を
担保しようとしているのである。よって,財務局長等は,立入検査等によ
り,別途,提出された貸借対照表等の表示が事実と異なると認めるに足り
る事情を把握しているなどの場合は格別,基本的には,当該貸借対照表等
を資料として,その記載に基づいて審査を行い,財産的基礎の有無を判断
すれば,職務上要求される注意義務は尽くしたものというべきである。な
お,同法22条は立入検査等の権限を定めているが,同条の規定が同法の
登録の章(第2章)ではなく監督の章(第4章)に置かれていることから
も明らかなように,立入検査等の権限は,(更新)登録に関する審査権限
とは別個の権限であり,いかなる場合にいかなる事項について立入検査権
限を行使するかなどについては,財務局長等の専門的な裁量にゆだねられ
ている。また,新規に抵当証券業の登録を受けようとする者は,いまだ抵
当証券業者ではないから,「抵当証券業者に対し」て認められた立入検査
等の権限の対象外とされている(同法2条2項,22条)。以上にかんが
みれば,財務局長等は,立入検査等によって把握した事実を更新登録拒否
事由の審査に活用することはできるが,更新登録拒否事由の審査に当たり,
必ず立入検査等の権限を行使し,更新登録申請者が作成した貸借対照表等
につき,その経理処理の適切性等を逐一調査すべき法的義務はないことが
明らかである。このように,財務局長等に立入検査や報告徴求命令等の権
限が定められていることは,実質的審査義務の根拠となり得ないものとい
うべきである。また,抵当証券業規制法6条1項は,虚偽記載等に対する
制裁を定めることによって,登録申請書又はその添付書類のすべての記載
事項について真実性を担保した上で,同項各号に掲記された事由の有無を
審査することとしているのであり,法施行規則4条1項5号は,(更新)
登録申請書の添付書類として提出された貸借対照表等における経理処理の
適切性等を裏付ける資料の提出までは何ら要求していないから,法令自体,
当該貸借対照表等の経理処理の適正性等までを逐一調査することは予定し
ていないことが明らかである。
さらに,原告らは,抵当証券購入者の保護を損なうおそれのある経営状
況を認識し,又は認識し得べき特段の事情があった場合(業務改善命令と
ほぼ同様の要件である。)には実質的審査義務が発生するとも主張するが,
このような解釈には法文上の根拠を欠き,いかなる場合に行政当局に実質
的審査義務が発生するのか不明確である上,抵当証券購入者の保護を損な
うおそれがある抵当証券業者に対しては本来業務改善命令を発出すべきも
のであるから,原告らの主張は参入規制と監督・検査とを混同するもので
あって採り得ない。
なお,近畿財務局は,平成12年検査において,「金融商品に係る会計
基準」,「金融商品会計に関する実務指針(中間報告)」の適用開始前で
はあったが,既に銀行等の金融機関について引当の適切性を検証する運用
が開始されており,「金融商品に係る会計基準」,「金融商品会計に関す
る実務指針(中間報告)」が公表済みであったなど引当の適切性について
の認識の高まりを背景に,大和都市管財の特約付き融資先の経営が平成9
年当時にも増して一層悪化していたこと等も踏まえ,大和都市管財の平成
12年3月期の財務状況につき,貸倒引当金の追加計上額を試算し,その
適切性を検証することを試みた。しかしながら,同社の特約付き融資の額
は,いずれも抵当証券の交付を受ける際に徴された担保物件の鑑定評価額
の範囲内であり(抵当証券法施行細則21条の2参照),担保物件の評価
の見直しを求めたものの大和都市管財及びグループ会社の協力が得られず,
担保物件の時価を合理的に見積ることができなかったこと,「金融商品に
係る会計基準」等の強制適用が開始される前であり,仮に担保物件の評価
の見直しをし得たとしても,債権額のうち担保物件の評価額を超過する部
分についていくらを引き当てるかの明確な算定基準がなかったことなどか
ら,結局,同検査においても,貸倒引当金の追加計上を認定することはで
きなかった(他方,大和都市管財が保証人となっていた北海道泊別観光に
ついては,平成5年にナイスミドルが買収して以降,いずれの期も売上げ
が皆無であった上,大和都市管財が提出していた累次の経営健全化計画に
おいても,ゴルフ場の開発に着手すらしないまま売却する予定であるとさ
れ,事業計画自体策定されておらず,大和都市管財においても事業を休止
していることを認めていたことから,実質的に破綻している状態にあると
認められ,事業の継続を前提とした返済可能額を考慮するまでもなく抵当
権付き債権の担保物件の処分見込額を超える部分について支払可能性がな
かった。そのため,抵当権付き債権一部譲渡として販売した債権額のうち
担保物件の鑑定評価額を超過する金額すべてについて,保証人である大和
都市管財が保証債務を履行しなければならなくなり,その履行に伴う北海
道泊別観光に対する求償権も回収不能になることが明らかであるとして,
その超過額(抵当権付債権額10億円から,抵当権の設定された不動産鑑
定士による鑑定評価額4億8000万円を控除した5億2000万円)を
債務保証損失引当金として計上する必要がある旨認定することができたの
である。)。このように,平成12年当時でさえ,近畿財務局において貸
倒引当金を算定し得なかったことにかんがみれば,仮に,平成9年当時,
近畿財務局が本件更新登録時において大和都市管財の財産的基礎について
実質的審査を行い,かつ,同社の抵当証券発行特約付き債権について貸倒
引当金を算定しようとしたとしても,これが困難であったことは明らかで
ある。
ウ基本事項通達の合理性・人的構成
抵当証券業規制法において,(更新)登録拒否事由として抵当証券業を
適確に遂行するに足りる人的構成を有しない法人が規定されたのは,抵当
証券購入者の権利の内容は,最終的には抵当証券上の債権や抵当権の内容
にかかっており,これは,結局は,抵当証券業者の行う貸付けに関する審
査能力や抵当証券の対象となる物件の価値を判断する能力等に依存してい
ることにかんがみ,抵当証券業者の人的構成の面から抵当証券業への参入
を規制する必要があると考えられたことによるものである。
基本事項通達は,上記のような抵当証券業規制法の趣旨を踏まえつつ,
他方で,営業の自由をできるだけ尊重しながら必要最小限の開業規制を設
ける趣旨で登録制が採用された経緯や,同法が(更新)登録申請書の添付
書類として担当者が具体的にどの程度の知識等を有しているのかを裏付け
る資料の提出を義務付けていないことも勘案して,A.役員又は重要な使
用人のうちに,抵当証券業に関し相応の知識を有する者がいること,B.
融資業務を担当する組織において融資業務経験者が2名以上在籍している
ことを求めるという明確かつ客観的な審査基準を設けたものであり,上記
Bの基準は,政府委員が,抵当証券業規制法の法案審議がされた第111
回国会参議院大蔵委員会において,人的構成の具体的な審査基準を行政当
局が定めることを前提に,融資審査業務等を適正に行うに足る人材の在籍
の有無,人数の観点から審査基準を設けることを検討している旨答弁して
いた経緯にも沿うものである。これらにかんがみれば,基本事項通達の審
査基準には合理性があるものというべきであり,平成10年6月の基本事
項通達廃止以降,法施行規則において,同通達と同様の審査基準が設けら
れていることからも,そのことが裏付けられる。
そして,大蔵省銀行局は,上記Aの審査に当たっては,「抵当証券業に
1年以上適正に従事した者がいること」又は「抵当証券業協会が実施する
抵当証券業に関する研修を修了した者がいること」のいずれかに該当する
法人は上記Aの基準を満たすものとして取り扱うこととし,役員又は重要
な使用人が抵当証券業に関しどの程度の知識を有するかを調査判断しない
という考え方を,上記Bの審査に当たっては,「法人としての融資に係る
最終的な意思決定に至る一連の過程の中で融資業務に3年以上従事した者
が2名以上在籍する」ことに該当する法人は上記Bの基準を満たすものと
して取り扱うこととし,融資業務経験者の融資に関する能力が具体的にど
の程度のものかを調査判断しないとの考え方を審査実務を行う各財務局に
示し,近畿財務局もこれを審査の内部的な基準としていた。上記の考え方
が,上記Aの基準について「抵当証券業に1年程度以上適正に従事した者
がいること」と定めているのは,1年程度以上抵当証券業に従事した者で
あれば,相応の知識を有すると推認されることによるものである。また,
「抵当証券業協会が実施する抵当証券業に関する研修を修了した者がいる
こと」と定めているのは,同協会が,抵当証券業規制法その他の法令の規
定を遵守させるための会員に対する指導,勧告等を一つの業務としている
(同法40条1号)など抵当証券業に関し専門的知識を有していることに
かんがみ,同協会が行う研修には十分な効果を期待することができること
によるものである。また,同じく上記Bの基準について「融資業務に3年
以上従事した者(融資業務経験者)」と定められているのは,公認会計士
試験が,2次試験(専門科目)合格後3次試験(財務監査,分析その他の
実務試験)を受験するまでの間,最低3年(実務補習1年+実務従事2
年)を必要としていることなどの例を参考にしたものである。
この点,原告らは,上記Bの基準に関し,融資審査担当者の能力・資質
や融資審査そのものの質などにわたり実質的な審査をすべきである旨主張
する。しかし,そもそも,融資審査担当者の能力・資質や融資審査そのも
のの質などを開業の拒否を一義的に決し得るほど明確かつ客観的に評価す
ることは困難であるし,抵当証券業規制法4条2項,8条2項,法施行規
則4条1項7号は,抵当証券業者の融資業務経験者の状況を確認するため
の資料として(更新)登録申請書に組織図,業務経歴書を添付することを
義務付けているものの,担当者が具体的にどの程度の知識等を有している
のかを裏付ける資料の提出は義務付けていない。むしろ,抵当証券業規制
法は,(更新)登録申請書に,同法6条1項各号の(更新)登録拒否事由
に該当しないことを誓約する書面の添付を義務付ける(同法4条2項,8
条2項)とともに,(更新)登録申請書又はその添付書類のうちに重要な
事項について虚偽の記載があるときは(更新)登録拒否事由に該当すると
し(同法6条1項柱書,8条2項),(更新)登録申請書又はその添付書
類に虚偽の記載をして提出した者に対して刑事罰を科して(同法52条1
号,53条),(更新)登録の申請における提出書類の記載の真実性を担
保することとしているのである。さらに,上記のとおり,抵当証券は各種
のリスクを本来的に内在させる商品であることや抵当証券業規制法が登録
制を採用した趣旨にかんがみれば,立入検査等,抵当証券業規制法で定め
る権限の範囲内で行い得る行為により,提出書類に記載された内容が事実
に反することを認識していたというような特段の事情がない限り,提出書
類の記載が真実であることを前提として,当該記載を基礎に,融資業務に
従事した経験を有する人材の在籍の有無,人数という要素に着目し,融資
業務を担当する組織に融資業務経験者が全く在籍しなかったり,1名しか
在籍しない業者についてのみ参入を排除するような審査基準を設けること
にも合理性があるというべきである。
なお,近畿財務局は,平成6年及び平成9年の各検査結果通知において
大和都市管財の融資審査体制の不備を指摘したが,近畿財務局は,当該指
摘によって融資決定前に行うべき審査や手続等に関するルールを確立し,
当該ルールに基づく審査を経て融資決定を行うこと,また,融資審査手続
の記録を保存しておくこと等を求めたのであって,同社の融資審査の内容
が不適切であるとの趣旨で当該指摘を行ったものでないことはもちろん,
同社の融資業務に従事する者の融資業務経験を否定する趣旨で行ったもの
でないことも明らかである。
(3)大和都市管財が抵当証券購入者を害する危険の予見可能性
ア本件の経緯
本件更新登録に至る経緯は,別表4(被告の主張)記載のとおりである。
近畿財務局は,平成9年検査の結果,大和都市管財グループ全体の経営状
況が極めて厳しいこと(平成8年12月末グループ連結債務超過額105
億円,平成8年グループ合計売上高67億円),平成8年経営健全化計画
の計画初年度(平成8年度)の実績も大幅未達となっており,将来的に大
和都市管財の経営が行き詰まる可能性があること,大和都市管財の特約付
き融資に係る担保不動産についても,一般論として全般的な地価下落傾向
の影響や,ゴルフ場や墓地公園予定地等の流動性の乏しい物件が含まれる
ことからして,最終的に換価処分した場合に大幅な元本割れを生じる可能
性が高いことを把握していたものの,同時に,同グループが約64億円の
預金残高を有していた事実も明らかにしており,したがって,大和都市管
財について直ちに資金繰りに窮するような状態にあるとは認識していなか
った。また,平成9年当時,大和都市管財の決算書類の作成や帳簿処理は
顧問を務めるY3会計士の指導下で行われており,近畿財務局に対する説
明も同会計士が担当していたところ,本件更新登録時までに,近畿財務局
にはY1が同会計士に不正な会計処理を指示しているとの情報はなかった
上,同社の会計処理がY1の意のままであるとの認識も,グループ会社が
大和都市管財に利払をする可能性がないことの認識もなかった。加えて,
近畿財務局は,スポンサーに関するY1の説明に疑問を持って対応してい
たが,同人個人に対しては検査権限が及ばず,任意にその預金通帳等を確
認して裏付けを取ることも,同人の非協力的な対応から極めて困難であっ
た。
こうしたことから,近畿財務局は,本件更新登録当時,大和都市管財が,
顧客から新たな資金の受入れが得られなければ直ちに資金繰りができなく
なり,破綻を余儀なくされる状況にあるとは予見し得なかった。
イ貸倒引当金設定の必要性の認識が容易ではなかったこと
近畿財務局は,平成9年検査において大和都市管財から任意に協力を得
てグループ6社関係の資料の入手に努めていたが,抵当証券業規制法にお
いて抵当証券業者の融資先には行政当局の検査権限が及ばないという権限
の限界や,そもそもこの時点では存在していないなどの理由から,平成9
年12月時点に保有していた資料は別表5に○で記載したものにとどまり,
本件基礎資料のうちとりわけ重要な①ナイスミドルの平成9年6月期の
貸借対照表,②保管抵当証券明細表,③抵当権設定に係る担保物件購
入価格一覧表,④グループ6社の決算書の勘定科目内訳明細書を保有し
ていなかった。また,原券持込状況一覧表(甲90の4)も入手していな
かった。
近畿財務局は,当時手持ちの資料に基づき,本件更新登録の時点におい
て,大和都市管財グループ全体では債務超過額が拡大していたこと,抵当
証券の担保物件中に遊休地があること,融資先の経営するゴルフ場の営業
損益の状況,那須ゴルフ場の鑑定評価額が担保価値上限を上回る可能性が
極めて高いこと等は認識していた。
しかし同時に,平成9年経営健全化計画は累積損失の解消に前向きな計
画となっており,これが実行されればグループ会社の収益が改善されるこ
とも予想されたため,近畿財務局は,本件更新登録時,大和都市管財の抵
当証券について,利息の支払及び買戻しに応じる目処がないとは予見し得
なかった。
よって,近畿財務局は,本件更新登録当時において,グループ6社が即
時に清算することを仮定して貸倒引当金を算定し,大和都市管財の財産的
基礎がないと認定することは到底できなかった。
これに対し,原告らは,本件刑事事件の判決が,大和都市管財の会社整
理通告後の犯罪捜査に基づく検察官の立証等によって認定した事実を基に,
大和都市管財の抵当証券販売の勧誘実態について主張する。しかし,原告
らは,近畿財務局が本件更新登録当時,上記判決が認定した事実を認識し
得たとする具体的根拠を何ら明らかにしていないから,原告らの主張は失
当である。
また,原告らは,当時,大和都市管財は,抵当証券の元利金を担保すべ
き不動産も,元利金のごく一部しか賄えない状況にあったとも主張するが,
同社の会社整理通告後における担保物件の競売を前提とした鑑定価格をも
って,本件更新登録時,近畿財務局が担保の不十分性を認識していたと主
張するのであれば,時点及び処分方法の相違を全く無視しており,その前
提を欠くというべきである。加えて,近畿財務局は,平成9年当時におい
ては,那須ゴルフ場について,鑑定評価額が担保価値上限を上回る可能性
が極めて高いことは連絡を受けていたが,抵当証券保管機構から保管抵当
証券明細表等の資料を入手してはいなかった上,そもそも,前述のとおり,
財務局長等には,抵当証券業者の更新登録に当たり貸借対照表の前提とな
る経理処理の適切性を逐一調査すべき法的義務はなく,抵当証券の担保と
なっている物件の時価評価額についても適正であるかどうかを調査する義
務はなく,仮に調査しようとしてもそのために必要なグループ会社からの
任意の協力は期待することができなかったのであるから,原告らの上記主
張は失当である。
ウ本件貸付金の架空性は容易に認識することができなかったこと
以下のとおり,近畿財務局は,大和都市管財側の説明を覆した上,それ
を理由に不利益処分を課す程度に客観的かつ明確な根拠をもって本件貸付
金を仮装であると認定することはできなかった。
本来,抵当証券業規制法22条に基づく検査権限の対象は抵当証券業者
に限られる。しかしながら,近畿財務局は,平成8年4月12日に大和都
市管財からゴルフ会員権販売を中心とする事業によってグループ会社の累
積損失を減少させることを内容とする平成8年経営健全化計画の提出を受
け,その後ヒアリング等を通じてその進捗状況を注視していたものの,グ
ループ会社の財務状況が悪化の一途をたどっており,ゴルフ会員権販売計
画も初年度から大幅な未達であったことから,業務改善命令を発出するこ
とも視野に入れ,大和都市管財グループ全体の財務状況,資金繰りの状況
を確認するため,平成9年6月19日から同年9月29日までの間,大和
都市管財に対して立入検査を実施した(平成9年検査)。平成9年検査の
初日において,近畿財務局の検査官は,大和都市管財に対し,大和都市管
財及び融資先グループ会社の決算書及び総勘定元帳を提出するよう求めた
ところ,同社総務部長であるY8を通じて,ナイスミドルを含む融資先の
決算書及び総勘定元帳の任意提出を受けることができた。そこで,検査官
がこれらを検証した結果,本件貸付金は,大和都市管財の仕訳伝票及び平
成9年3月期の総勘定元帳には計上されており,同社及びナイスミドルの
双方が記名押印した金銭消費貸借契約証書も確認されたが,ナイスミドル
の平成8年6月期の総勘定元帳にはこれに対応する長期借入金が計上され
ていないことが判明した。ここにおいて,本件貸付金の実行が疑われる状
況となったのである。近畿財務局のY14検査官が同年7月1日か2日こ
ろに大和都市管財及びナイスミドルの経理を担当していたY3会計士にこ
の点を指摘したところ,同月8日,Y1は,近畿財務局において,本件貸
付金は「経理上の計上ミスである。」などと弁明し,同席したY3会計士
も,「大和都市管財がナイスミドルに55億円の小切手を渡していたが,
この件に関しては私は知らなかった。」などと発言した。
Y14検査官は,これらの弁明は,本件貸付金がナイスミドルの総勘定
元帳に記載されていない理由や55億円の支払方法の説明として不合理な
ものとはいえなかった上,本件貸付金に係る金銭消費貸借契約書が確認さ
れていたこと等から,本件貸付金が実行されなかったと認めることはでき
ないと判断したのである。
なお,Y14検査官は,公認会計士が55億円の本件貸付金の存在を知
らないということがあり得るのか疑問を有していたが,特にこの点を重ね
てY3会計士に確認することはしていない。しかしながら,Y14検査官
は,ナイスミドルの総勘定元帳を実際に作成していたのはY3会計事務所
の女性職員であると認識していたことから,Y3会計士自身が計上漏れに
ついて知らないとしてもそれ以上の疑念を持ち得なかったのであり,その
こと自体は何ら不合理とはいえない。また,仮にこの点についてY3会計
士を追及したとしても,Y3会計士が,(本件貸付金の存在については知
っていたが)ナイスミドルの総勘定元帳に計上されていなかったことを知
らなかったとの旨の弁明をされる可能性が高く,そのような弁明がっされ
れば,これを不合理として虚偽と認定することは困難といわざるを得ない
上,そもそも,Y3会計士の認識を追及することで本件貸付金の実行がな
かったとの認定につながったともいい難いから,上記の点をY14検査官
の職務上の義務違反とすることはできない。
また,ナイスミドルの総勘定元帳については,7月8日,Y1から検証
については了解していないなどの抗議があり,近畿財務局は,融資先に対
する検査権限がないため,その返還を余儀なくされた。その後,大和都市
管財から近畿財務局に対し,改めて,本件貸付金には実体があり,Y3会
計事務所の過誤によるナイスミドル側の計上漏れであって,その計上漏れ
は平成9年検査(同年6月19日着手)に先立つ平成8年9月1日の時点
で判明し,ナイスミドルにおいても記帳済みである旨の同会計事務所及び
ナイスミドル作成の報告書が提出された(ナイスミドルの平成8年6月期
における勘定科目内訳明細書では大和都市管財からの長期借入金が約17
9億円であったのに対し,平成9年6月期における勘定科目内訳明細書で
は55億円増加して約234億円となっていたが,この間,大和都市管財
からナイスミドルに対してはいかなる融資も実行されていない。)。そし
て,平成9年4月15日に大和都市管財から提出されていた平成8年12
月31日現在の連結決算と題する書面にも本件貸付金が計上されていた
(上記書面には,ナイスミドルの長期借入金として234億8680円が
計上されていたところ,大和都市管財は,平成9年6月10日に提出した
近畿財務局の質問に対する回答において,ナイスミドルの支払利息の内訳
を説明する中で,上記の長期借入金のうち,大和都市管財からの抵当証券
借入金は234億3400万円であるとしていたが,この金額は,平成8
年12月31日現在の同社からナイスミドルに対する本件貸付金を含めた
貸付金の合計額と一致する。)。
このように,本件貸付金は,大和都市管財の決算書類には計上されてい
た上,その資金の移動方法についても,小切手というあり得る方法であっ
たことに加え,ナイスミドルの総勘定元帳に計上がなかったのは経理上の
ミスであるとの説明を覆すこともできず,また,このような判断をしたこ
とが不合理であるともいえない。このことは,平成9年検査結果通知(甲
13)において,「55億円の融資の実行が疑われる内容となっており」
との表現にとどめられていることなどからも明らかである。
これに対し,原告らは,本件貸付金が,ナイスミドルの平成8年6月期
の総勘定元帳に計上されていないだけでなく,ナイスミドルの同月期決算
書の「貸借対照表増減比較」(甲4)の中にも,「那須グリーンコース抵
当証券借入金の増加10,000,000千円」(本件貸付金が含まれ
ていない金額)との記載があったのであるから,本件貸付金がナイスミド
ルの総勘定元帳に計上されていなかった理由は単なる計上漏れとは考えら
れず,当該融資の架空性は認定することができた旨主張する。しかしなが
ら,貸借対照表は総勘定元帳に基づいて作成されるのであるから,本件貸
付金の総勘定元帳への計上漏れがあれば,貸借対照表においても当該融資
が計上されないのは会計処理上当然であって,このことは本件貸付金の架
空性を認定する根拠とはなり得ない。
また,原告らは,本件貸付金に係る金銭消費貸借契約書(甲51)記載
の契約締結日は平成8年3月28日であったが,大和都市管財の平成8年
3月期の貸借対照表には当該融資に係る抵当証券貸付金が計上されておら
ず(乙3の5,6),近畿財務局の検査官も平成9年検査においてこのこ
とを把握していたから,近畿財務局は本件貸付金の架空性を認識すること
ができた旨主張する。この点について,Y14検査官は当時はその矛盾に
気付いておらず,大和都市管財に対して説明を求めたこともない。しかし
ながら,仮に同検査官がこの点を追及していたとしても,本件貸付金が大
和都市管財の平成8年3月期の貸借対照表に計上されていないのは,大和
都市管財におけるその経理処理が同年4月1日に行われた(乙90,9
1)からにすぎず,実際に,本件貸借対照表や本件損益計算書には,本件
貸付金や,それから発生する受取利息が計上されており(乙3の7),大
和都市管財が同年6月18日現在で作成した特約付融資明細表にも当該融
資の記載があること(乙75),本件貸付金に係る金銭消費貸借契約書に
記載された契約締結日・融資実行日と経理処理との間に認められる4日程
度の差異は,経理処理が現実の融資実行日について行われることからみれ
ばそれほど不自然ではないこと,に照らすと,いずれも本件貸付金の実在
性を否定する根拠としては薄弱というべきである。なお,原告らは,本件
貸付金の実行日が平成8年4月1日になったのであれば,金銭消費貸借契
約書の差替え,日付記載の変更,借入日から平成8年3月末日までの日割
計算による利息支払約定文言の削除等が行われるはずであり,このような
変更,訂正を行わないまま本件貸付金を実行するとは信じ難いと主張する
が,金銭消費貸借契約書は,融資の金額や利息の約定に関する証拠書面に
すぎず,当事者間の合意があり,後に利息の支払金額を巡って紛争が生じ
る可能性がないのであれば,わずか4日間の差異のために契約書自体を差
し替えたり,日付の記載を変更したり,日割計算による利息支払約定文言
を削除しないことも十分考えられるから,原告らの上記主張は失当である。
加えて,原告らは,平成8年経営健全化計画中の「抵当証券貸付残高及
び支払利息の内訳」表においては本件貸付金が計上されていなかった(乙
9)ところ,近畿財務局の検査官は平成9年検査において,本件貸付金が
平成8年4月1日付けで計上されているのを確認していたから,近畿財務
局は本件貸付金の架空性を認識することができたはずである旨主張する。
しかしながら,平成8年経営健全化計画は,同年1月1日から平成12年
12月31日までの大和都市管財グループの財務状況等の改善を図る計画
を示したものであり,大和都市管財によれば,平成8年1月時点での残高
をベースにしたものであるから(乙31),本件貸付金の実行日とされる
平成8年4月1日以前に作成されたと考えるのが合理的である上,近畿財
務局が大和都市管財から平成9年4月15日に提出を受けた「平成8年1
2月31日時点連結決算」と題する書面(乙39),同じく同年6月10
日に提出を受けた個別質問事項に対する回答書(乙84)には,本件貸付
金を含むナイスミドルの長期借入金残高約234億円が記載されていた
(乙75,82)から,平成8年経営健全化計画中に本件貸付金について
の記載がないのは,単にその作成時点において当該融資が計画されていな
かったことを示すにすぎないと考えるのが自然であり,やはり本件貸付金
の実在性を否定する根拠とはなり得ない。
さらに,原告らは,近畿財務局が,平成12年検査において,ナイスミ
ドル及びベストライフ通商に対する合計51億2500万円(100万円
以下切捨て。)の抵当権付き債権(抵当権付債権一部譲渡商品に係る貸付
債権)について,貸付けに当たり資金の交付を伴っていないと認定したこ
とを捉えて,平成9年当時,本件貸付金についても,同様に,融資が実行
されていないと認定し得たはずである,本件仕訳は不自然なものであって,
真に資金移動を伴った貸付けであるかを検証しない限り,資金移動を伴わ
ないものと認定せざるを得ないなどと主張する。
しかし,平成9年3月期においては,大和都市管財は,本件貸付金につ
いて,外形上,融資が実行されたことを示す仕訳,すなわち,大和都市管
財が,Y1から55億円を借り入れ,これをそのままナイスミドルに貸し
付けたことを示す本件仕訳(現金預金勘定を省略したいわゆる中間省略仕
訳であり,大和都市管財がY1から借入れを行ったことを示す長期借入金
勘定が使用されていた。)を行っていた(なお,乙90及び乙91の記載
を形式的に見ると,大和都市管財がナイスミドルから長期借入金として5
5億円を借り入れ,これを大和都市管財がナイスミドルに特約付き融資と
して貸し付けたことになるが,このような取引は不自然である上,大和都
市管財の借入先は同社の平成9年3月期の決算書添附の「借入金及び支払
利子の内訳書」と題する勘定科目内訳明細書(乙93)に記載されている
とおりY1のみであったこと,平成9年6月10日に近畿財務局が大和都
市管財から提出を受けた個別質問事項に対する回答書(乙84)にも,大
和都市管財の借入金の借入先はY1のみであることが記載されていたこと
などから,乙91の摘要欄の「ナイスミドルスポーツ倶楽部㈱」の記載は,
Y1の誤りであると合理的に推認することが可能であった。)。そして,
中間省略仕訳は,資金の移動がないことを意味するものではない上,会計
実務上もこうした中間省略仕訳は散見されるのであって,一般的な会計処
理と著しくかい離した処理であるということはできない(仮に中間省略仕
訳が架空融資を強く疑わせるのであれば,架空融資が露見しないよう,中
間省略仕訳を避けるのが合理的であり,Y3会計士がそのような判断をし
なかったこと自体,中間省略仕訳から架空融資を認定することができない
ことを意味している。)。加えて,平成9年検査においては,Y3会計士
から同社がナイスミドルに55億円の小切手を交付して貸し付けた旨の現
実的な説明があったのみならず,ナイスミドルも融資が実行されている旨
自認していたのであり,このような状況下において,これらを否定して融
資が実行されていないとまで認定し得るような資料はなかった。
他方,主任検査官をY20検査官とする平成12年検査においては,検
査官が大和都市管財本社ビル10階事務室のキャビネット上に,処分され
ずに放置されていた現金出納帳の一部のコピーを偶然発見し,これをきっ
かけに,同社から過去分までさかのぼって現金出納帳の提出を受けること
ができた(同社はそれまで,現金出納帳は存在しない旨回答していた。)。
そして,同社のY16は,当該現金出納帳が真実の資金移動を記載した帳
簿であると説明した上,その記載が,小口現金の有高や既に提出を受けて
いた預金通帳の記載と合致していたことから,当該現金出納帳は,真実の
資金移動を記載した帳簿であると認められた。そこで,検査官は,既に提
出を受けていた総勘定元帳,預金通帳と上記現金出納帳の記載の突き合わ
せ作業を開始したところ,大和都市管財が平成9年12月以降,抵当権付
き債権一部譲渡という新たな金融商品を販売していたこと,「関係会社」
という趣旨不明の勘定で,前期末に残高が全くないにもかかわらず,期首
に巨額のマイナス残高が理由不明のまま計上され,期末にはこれがすべて
振替処理により理由不明のまま消去されるといった,一般的な会計処理と
著しくかい離した処理を行っていたこと,抵当証券受取利息,特約付き融
資の一部及び抵当権付き債権の一部について,それぞれ
(借方)関係会社/(貸方)抵当証券受取利息
(借方)抵当証券貸付金/(貸方)関係会社
(借方)抵当権付債権/(貸方)関係会社
という仕訳によって経理処理を行っており,いずれも資金の移動を確認す
ることができなかったこと(例えば,資金を現金で交付したのであれば現
金勘定を,預貯金口座から出金して交付したのであれば預金勘定を相手勘
定として計上されるのが本来である。)が判明した。そこで,検査官は,
平成12年10月20日ころから,Y1,Y16らを近畿財務局に呼んで
ヒアリングを実施し,事実関係や指摘事項についての認識を整理,確認し,
その中で,Y1らに対し,関係会社勘定の趣旨を尋ねたり,資金の移動を
証明する資料の提出を求めたが,関係会社勘定の趣旨については合理的な
説明が得られず,資金の移動を証明する資料の提出も受けることができな
かった(なお,大和都市管財を中間省略してY1からグループ会社への融
資が行われた旨の説明もなく,他にこれをうかがわせるような事情もなか
った。)。そのため,Y20検査官は,同年11月14日,Y1らに対し,
Y20要約を手交し,その回答を求めた(甲135の2,乙146)。検
査官は,Y20要約の中で,特約付き融資の実行,抵当権付き債権一部譲
渡の融資の実行,特約付き融資から発生する受取利息の受領に際し資金の
交付が伴っていない疑いを指摘し,大和都市管財に対し回答を求めた。こ
れに対し,大和都市管財は,同月24日,「融資実行は,現金,振込み,
手形保証にて行っている。金銭消費貸借契約における金銭の貸付は,手形
を含めて行える。」「金銭消費貸借契約に記載されている金銭の貸渡と借
受は,現金,小切手,振込,手形で行われる。」などと回答し,手形の交
付による融資実行を主張した。大和都市管財からは,これ以上合理的な説
明はなく,手形の交付を裏付ける客観的な資料が提出されることもなかっ
たが,手形交付による融資実行はあり得ることであった上,手形の受取人
であるグループ会社に対しては調査権限が及ばず,大和都市管財グループ
の非協力的な検査対応からは,グループ会社の会計帳簿や預貯金口座を任
意で調査することも期待することができなかったため,近畿財務局は,手
形交付による融資実行との主張を覆して,資金の移動がないことを認定す
ることはできなかった。一方,大和都市管財は,受取利息について,当初
利息はすべて受け取っていると回答していたが,検査官から,現金出納帳
や預金通帳の記載上資金移動を確認することができないことを追及される
と回答を二転三転させ,最終的に,現金,預金,貸付金の相殺によって受
領している旨主張し,受取利息の一部及び貸付金の一部について,資金の
交付がないことを自認した。しかし,貸付金の貸付債務と受取利息とを相
殺したのであれば資金の交付がなかったとしても利息の受領を必ずしも否
定することができない上,どの貸付金をどの利息との相殺に供したのか不
明であったことから,Y20検査官は,大和都市管財に対し,利息との相
殺に供された貸付金明細の提出を求めた。その結果,大和都市管財は,平
成13年3月21日,本件上申書のとおり,平成7年4月以降に入金予定
であった利息(総額約153億円)が未収となっており,抵当権付き債権
約118億円と未収利息債権とが相殺されている旨主張した。以上のよう
に,平成12年検査においては,現金出納帳の発見があったからこそ,大
和都市管財は,現金で利息を受け取ったとの従前の説明を維持することが
できず,苦し紛れに相殺の弁解を出し,その結果,受取利息及び貸付金の
双方について資金の移動がないことを自認することとなったのである。
また,原告らは,当座預金により55億円の払出しがされたか否かをチ
ェックすべきであり,それがない限りは資金移動を伴わないものと認定す
るほかないし,近畿財務局がそうした調査を行わなかったのは,職務上通
常尽くすべき注意義務を尽くしておらず,違法である旨主張する。しかし
ながら,立入検査においては高度の専門性が要求されるため,調査対象,
調査範囲,調査方法が広範な裁量にゆだねられており,当座預金口座を調
査すべきかどうかも裁量の範囲内であって,当座預金口座を調査すべき法
的義務が発生するわけではないから,近畿財務局が大和都市管財に対し,
当座預金照合表や預金通帳の提出を求めなかったとしても,職務上通常尽
くすべき注意義務を尽くしていないとして違法となる余地はない。この点
を措くとしても,そもそも本件仕訳に使用されている貸方が借方の抵当証
券貸付金につき同社が小切手を振り出したことを示す当座預金勘定ではな
く長期借入金勘定であったことやY3会計士の上記説明に照らせば,当該
小切手の振出人はY1個人であり,これを借り入れた大和都市管財がその
ままナイスミドルに貸し付けたものであって,大和都市管財の当座預金の
口座を介してはいないものと推認されるから,たとい同社の預金通帳等を
検証したとしても,当該貸付けが資金移動を伴うものか否かを確認するこ
とは不可能であった。もとより,抵当証券業規制法に基づく検査権限は,
大和都市管財と法人格を異にするY1やナイスミドルに対しては及ばない
上,Y1の非協力的な対応に照らすと,同人らの預金通帳等を任意で検証
することはいずれにせよ極めて困難であったから,そのような検証をしよ
うとしていないことは何ら問題とはならない。したがって,原告らの上記
主張は失当である。
加えて,原告らは,Y1の資金源に関する説明や長期借入金の金利に関
する説明には何らの具体性も合理性もないから,これを大和都市管財の資
金源と認めることはできない旨の主張もする。この点につき,前記のとお
り,本件貸付金の原資はY1からの長期借入金であったが,同人が55億
円をどのように調達したかについて同人は明らかにせず,また同人に対し
ては抵当証券業規制法の調査権限が及ばないことから,近畿財務局にとっ
ても明らかではなかった。しかしながら,このことから長期借入金が存在
せず,本件貸付金の実行がなかったと認定することは,客観的かつ明確な
根拠のないまま営業の資格そのものを剥奪するという重大な不利益処分を
課すことになるのであって,予測可能性・法的安定性を害し,相手方に無
用の不利益を及ぼすとともに,取付け騒ぎ等を誘発するなどして抵当証券
購入者等の関係者にも不利益を及ぼすおそれがあるから,そのような認定
は不可能であった。
さらに,原告らは,関係会社勘定と長期借入金勘定とは同質のものであ
ることを前提に,平成12年検査における指摘は,平成9年検査で判明し
た,特約付き融資の計上を長期借入金勘定を相手勘定として処理している
点にも当てはまるとも主張する。しかし,
(借方)抵当証券貸付金/(貸方)長期借入金
という仕訳における長期借入金勘定は大和都市管財が借入れを行ったとい
う根拠があって初めて用いることができる勘定であるのに対し,
(借方)抵当権付債権/(貸方)関係会社
という仕訳における関係会社勘定は,長期借入金に限らず,広く関係会社
に対する債権債務を表す勘定であるから,両者は性格を異にしている。そ
して,平成9年検査においては,長期借入金がそのまま特約付き融資にな
っているとの仕訳に関しては,Y3会計士から上記貸付金は大和都市管財
からナイスミドルに小切手を交付して貸し付けたものである旨の説明があ
り,上記小切手の振出人はY1と推認されたのに対し,平成12年検査の
場合は,一般的な会計処理と著しくかい離した処理が行われていた上,こ
の仕訳の趣旨につき大和都市管財が合理的な説明をしなかった(相手勘定
が関係会社であったため,Y1からの借入による資金交付を主張すること
が困難であった)という違いがあった。また,平成12年検査で判明した
「(借方)抵当権付債権/(貸方)関係会社」との仕訳における抵当権付
き債権の債務者(融資先)と「関係会社」とは,総勘定元帳の関係会社勘
定と抵当権付債権勘定とを併せ考えると,平成11年4月13日付け抵当
権付債権12億円及び同年5月28日付け抵当権付債権20億円の相手科
目の欄に「120関係会社1ナイスミドル」と記載されていることに照
らし,いずれもナイスミドルを意味するものと認められるから,仮に上記
仕訳を本件仕訳と同様に理解すれば,上記仕訳は,ナイスミドル(関係会
社)から借り入れた資金をそのままナイスミドル(融資先)に渡したとい
う不合理な取引を意味することになり,このような理解が不当であること
は論をまたない(「1ナイスミドル」との部分は内訳を示すもの(内訳小
科目)と認められる。)
また,原告らは,
(借方)関係会社/(貸方)抵当証券受取利息
という処理における「関係会社」が利息を収受すべき当該貸付先だとして
も,もし大和都市管財が当該貸付先に債務を負っているなら,当該債務を
利息の返済に充てることもできる(代物弁済)から,このような可能性が
ないということを検証しなければ,「関係会社」の借方計上をもって「未
収利息を計上した」と即断することはできない旨主張する。
しかしながら,まず,借方に「関係会社」を,貸方に「抵当券証券受取
利息」を計上した会計処理が行われているのであるから,大和都市管財に
おいては,文字どおり「関係会社」に対する未収の受取利息を認識し,こ
れを収益に計上する会計処理を行ったものと判断するのが通常の合理的な
見方であって,原告らの主張は根拠のない論難にすぎない。また,本件上
申書に記載されているとおり,平成12年検査において,大和都市管財は,
抵当権付き債権と同時に発生したグループ会社に資金を交付する債務と未
収利息債権との相殺を主張していたが,別表6のとおり,平成10年8月
31日以降の大和都市管財の未収利息債権は,
ナイスミドルに対して21億4343万9601円
美祢カントリークラブに対して13億1999万9999円
ナイス函館に対して9億5999万9999円
ベストライフ通商に対して8億7249万3069円
リステム化学研究所に対して3億8639万9999円
北海道泊別観光に対して1139万9999円
の合計56億9373万2666円であったのに対し,大和都市管財が関
係会社に対して負担していた未払金債務(関係会社勘定の貸方に計上され
ていた債務)は,別表7のとおり
ナイスミドルに対して44億円
ベストライフ通商に対して10億8000万円
の合計54億8000万円であって,美祢カントリークラブ,ナイス函館,
リステム化学研究所,北海道泊別観光の4社に対する未収利息債権26億
7779万9996円については,相殺すべき債務が存せず,相殺(代物
弁済)は不可能であったし,本件上申書においても,未収利息債権がグル
ープ6社に対するものであったのに対し,関係会社に対する債務は,
NMSC(ナイスミドルのことと認められる。)
BL(ベストライフ通商のことと認められる。)
HTK(北海道泊別観光のことと認められる。)
の3社にとどまっており,リステム化学研究所,美祢カントリークラブ,
ナイス函館に対する未収利息債権については,相殺すべき債務が存せず,
相殺(代物弁済)は不可能であった。このように,大和都市管財側の「相
殺」(代物弁済)の主張は,相殺しようとする債権・債務を有する相手方
会社が一致しておらず,相殺適状になかった上,そもそも平成8年3月期
から平成10年3月期の総勘定元帳において,受取利息は長期借入金勘定
の中で処理されており,平成12年3月期の決算書上は消滅していたから,
大和都市管財の相殺(代物弁済)の主張は,このような決算書上存在しな
い受取利息(未収利息)を自働債権とする点でも不合理であった。さらに,
抵当権付債権と同時に発生した,グループ会社に資金を交付する債務(関
係会社勘定の貸方に計上)は平成9年12月以降のものであるところ,大
和都市管財側が主張するように,平成8年3月期や同9年3月期の受取利
息(未収利息)を自働債権として相殺するということになると,こうした
受取利息(未収利息)を期を越して留保していたことになるが,実際には
両期とも決算書上未収利息金は確認することができなかった。このように,
大和都市管財の相殺の主張は明らかに不合理であり,到底是認することが
できるものではなかった。加えて,大和都市管財は,平成12年検査の開
始当初は,利息をすべて収受していたと述べ,相殺の主張をしていなかっ
たものであり,また,どの未収利息債権とどの債務をいつ相殺処理したの
かといった具体的な説明も一切なかったことから,近畿財務局は,相殺の
主張を否定するに至ったのである。したがって,原告らの上記主張は当た
らない。
以上要するに,平成12年検査において近畿財務局は,①大和都市管
財の平成12年3月期の総勘定元帳の関係会社勘定の記載,②同社から
合理的な説明がなかったこと,から直ちに資金交付を否認したわけではな
く,③平成12年検査の初期段階において,大和都市管財の真実の現金
出納を記した現金出納簿が発見されたこと,④ナイスミドルに対する平
成11年4月13日付け抵当権付き債権12億円及び同年5月28日付け
抵当権付き債権20億円の各貸付けについて大和都市管財の預貯金口座や
現金出納簿からの出金が認められず,同社も本件上申書において資金の交
付がなかったことを自認していたこと,及び⑤平成11年4月1日付け
でナイスミドル及びベストライフ通商に対する抵当権付き債権合計20億
1890万円(ナイスミドルに対する抵当権付き債権14億円,2億円,
10億円及び7億3900万円並びにベストライフ通商に対する抵当権付
き債権5億2290万円の合計額から,「会長」と付記されて処理されて
いる1000万円,100万円,3200万円及び18億円を控除した同
日現在の残高)が,(借方)抵当権付債権/(貸方)関係会社(未払金の
意味)という仕訳により理由不明のまま期初振替されていたこと,の諸事
情に照らし,上記ナイスミドル及びベストライフ通商に対する抵当権付き
債権合計51億2520万円(12億円,20億円,20億1890万円
の合計額から,平成12年3月31日付けで消去されていた9370万円
を控除した残額)について,貸付けに当たり資金の交付を伴っておらず,
融資先に対し資金を交付すべき同額の簿外負債があると認定し得たのであ
る(なお,大和都市管財は,契約日以降の随時融資を行っている旨主張し
ていたから,資金の交付を伴っていないとしても諾成的消費貸借が成立す
る余地があった上,金銭消費貸借契約自体を無効とすれば,既に顧客に販
売している抵当権付き債権や,これに附従する抵当権も無効になってしま
い,顧客の保護にならないため,金銭消費貸借契約自体を無効であるとま
では認定することができなかった。)。
これに対し,原告らは,平成12年検査においても大和都市管財以外の
第三者(具体的にはY1)の資金による貸付けを考慮すれば,融資の架空
性を認定することができなかったはずである旨主張する。しかしながら,
本件貸付金については,大和都市管財からナイスミドルに小切手を交付し
て貸付けを行った旨の説明があったこと,大和都市管財が自ら小切手を振
り出した場合には長期借入金勘定が用いられることはないのに実際にはこ
れが使用されていたことから,第三者からの資金貸付けを考慮する必要が
出てくるが,平成12年検査においては,大和都市管財を中間省略してY
1から関係会社への融資が行われたことを推察させるような事実はなかっ
たから(平成12年3月期の関係会社勘定の記載でも,Y1を意味する勘
定科目が用いられていたわけではなく,大和都市管財からもその旨の説明
はなかった。),そのことを客観的証拠をもって否定する必要性は認めら
れなかった上,他方で上記①ないし⑤の事情があったから,第三者からの
資金交付の可能性を考慮するまでもなく資金交付自体がなかったものと認
定することができたのであって,原告らの上記主張は失当である。
エ受取利息の計上が容易には否認できなかったこと
近畿財務局は,個々の貸付けの原資を特定するには至らなかったものの,
以下に詳述するとおり,大和都市管財には抵当証券の販売代金以外にも融
資先からの受取利息,Y1からの借入金,顧客に対する商品の販売代金等
の形で貸付けの原資はあると認識しており,同社において顧客の抵当証券
購入資金がそのまま利息等として顧客に環流しているだけとの認識はなか
ったし,平成9年当時,大和都市管財の受取利息が仮装であるとも認識し
ていなかった(なお,仮に近畿財務局が,大和都市管財の受取利息に疑義
を抱き,同社の預金通帳を検証したとしても,その受取利息の入金等がす
べて預貯金口座を通じてされているとの前提がなければ,受取利息が仮装
かどうかは直ちには判断することができない。)。
これに対し,原告らは,本件合意書の記載に矛盾があったことをもって
利息の仮装性の根拠として主張する。この点につき,近畿財務局は,Y2
4検査官(以下「Y24検査官」という。)を主任検査官とする平成6年
検査において,大和都市管財の平成6年3月期の損益計算書(乙3の4)
を調査した結果,同計算書において計上されている抵当証券受取利息(1
7億5414万9579円)と抵当証券貸付金の金額及び約定利率から概
算した同期に同社が受領すべき利息(約20億円)との間にそごがあった
ために同社のY8に対して説明を求めたところ,Y8は,融資先のグルー
プ会社との合意により利率を引き下げた旨説明し,その資料として本件合
意書を提出したが,うち1通については利率変更の日付が特約付き融資の
融資日付よりも前であり,1通については利率変更の日付が融資日付と同
一であり,1通については融資日付のわずか4日後であって,本件合意書
の日付に疑問が生じたことから,平成7年4月14日,大和都市管財に対
してヒアリングを実施し,Y8から,特約付き融資の相手方が弁済困難な
ために日付を過去にさかのぼって利率を変更した旨の説明を受け,本件合
意書のうち1通の利率変更日が契約日よりも前の日付になっていた点につ
いても,後日,大和都市管財から合理的な説明を受けた(Y24検査官は
その内容について記憶していないが,近畿財務局が平成9年に作成した同
社の特約付き融資明細(乙82)では,日付に矛盾が生じていた同明細No.
18の融資については正しい変更日(平成5年10月14日)が記載されて
いることを確認することができる。)というのが本件合意書に係る検査に
関する経緯である。そして,経済取引上一般に,融資先企業の業況,融資
先との取引関係,市中金利の変動等の事情に応じて貸付金利を減免するの
は珍しいことではなく,むしろグループ会社である融資先の財務状況の改
善に協力していた証左とみることができる上(本件合意書によって貸付利
率が当初の半分程度に減免されたとしても,大和都市管財の平成6年3月
期決算において当期利益は赤字とはなっていない。),近畿財務局が提出
を受けた本件合意書の記載内容を総合すると,大和都市管財は平成6年3
月末日の利息の受取りに当たり,毎月末日払いの貸付金については当月初
日(平成6年3月1日)付けで,9月末日,3月末日の半期末払いの貸付
金については下半期初日(平成5年10月1日)付けで利率を引き下げた
ものと認められ,Y8の説明とも矛盾しない。また,本件合意書のうち利
率変更の日付が特約付き融資の融資日付と同一であるものは,金銭消費貸
借契約の融資日付(平成5年12月21日)が下半期の途中であったため
に利率変更日と融資日付が同一となり,利率変更の日付が融資日付よりも
前であるものは,過去にさかのぼって利率変更日を記載するに当たり,当
該融資が下半期の途中(平成5年10月14日)で行われたことを看過し,
誤って下半期の初日にさかのぼって利率変更日を記載してしまったものと
合理的に推測することができる。したがって,本件合意書の記載から直ち
に,大和都市管財の損益計算書に現に計上されている抵当証券受取利息が
仮装と疑うべきであるとする原告らの主張は,その論理に飛躍がある。
また,原告らは,大和都市管財が特約付き融資の貸付利率を年8ないし
12パーセントから年6.5パーセントに引き下げたことをもって,近畿
財務局は同社の抵当証券受取利息が架空であると認定すべきであった旨主
張する。しかしながら,上記のとおり,一般的に,経済取引上,融資先と
の取引関係等に照らし,経営判断から貸付金利を減免することは珍しいこ
とではない上,貸付利率を変更した特約付き融資は,融資実行日が古いも
のほど元の貸付利率が高いのであり,バブル期以降の金利下落傾向に合わ
せて貸付利率を変更することはそれなりの合理的判断であると考えられる。
また,大和都市管財が利ざやを年1パーセント程度に縮小するような貸付
利率の変更を行った点についても,その融資先がグループ会社であること
や,大和都市管財が貸付利率の変更を行った平成6年3月期以降も黒字を
計上していたことに照らせば,同社が自らの利益を大幅に削って融資先の
財務状態の改善に協力したとしても,通常の経営判断を逸脱した常識的に
考えられないほどのものであったとまでは認められない。したがって,原
告らの主張は失当である。
加えて,原告らは,Y1がわずか2年足らずの間に大和都市管財に貸し
付けたという272億8000万円もの長期借入金は出所不明であり認め
られるものではないから,これを原資とする特約付き融資を,グループ会
社の大和都市管財に対する支払利息の原資と考えることはできなかったは
ずである旨主張する。しかしながら,ウで述べたとおり,大和都市管財が
Y1から借り入れた長期借入金は,同社の総勘定元帳上
(借方)抵当証券貸付金/(貸方)長期借入金
と記帳され,本件貸付金を除けば融資先の総勘定元帳においてもこれに対
応する記帳を確認することができたこと,本件貸付金に関するY3会計士
の説明に照らせば,他の特約付き融資についてもY1が振り出した小切手
を融資先に交付しているものと考えられたこと,貸付金が多額であるから
といって帳簿の信用性に疑問が生ずることにはならない上,272億80
00万円という金額は累計であって,一時点の金額としては最大で平成7
年2月の145億円であり,本件更新登録直前には47億円まで減少して
いること,近畿財務局は,資金調達先についてのY1の説明に疑問をもっ
て対応してはいたが,同人個人に対して検査権限が及ばないことなどから,
近畿財務局は,大和都市管財がY1から借り入れた長期借入金を架空であ
るとは認定することができなかったのである。なお,本件貸付金を架空と
認定することができなかったことはウで述べたとおりであるが,仮にこれ
を架空と認定することができたとしても,近畿財務局はナイスミドルの資
金繰りを含めた財務状況のすべてを把握していたものではなく,同社に対
しては抵当証券業規制法上の調査権限が及ばなかったから,55億円の資
金が欠けることによってどのような影響が出ているのか検証することもで
きなかったのであって,本件貸付金が架空であるという事実だけから,ナ
イスミドルから大和都市管財が収受した他の貸付けに対する利息の架空性
を認定することも困難であった。
また,原告らは,平成9年検査において判明した抵当証券受取利息の仕
訳が不自然であること自体から,受取利息が架空であることを認定するこ
とができたはずである旨の主張もする。この点につき,近畿財務局は,大
和都市管財の平成7年3月期,平成8年3月期,平成9年3月期の総勘定
元帳を検証し,融資先のグループ会社からの抵当証券受取利息が
(借方)長期借入金/(貸方)抵当証券受取利息
という仕訳によって処理されていることを確認した(甲137,138,
148の8,乙108)。この仕訳は,本来
(借方)現金又は預金/(貸方)抵当証券受取利息
(借方)長期借入金/(貸方)現金又は預金
という2つの仕訳から成り立っているが,借方と貸方の現金勘定又は預金
勘定を相殺して,上記のような1つの仕訳にまとめた中間省略仕訳と考え
られるのであり,融資先のグループ会社が大和都市管財に抵当証券受取利
息を支払うとともに,大和都市管財が当該受取利息を長期借入金の返済に
充てたことを意味するところ,大和都市管財の借入先はY1だけであった
こと(乙27,28,84,93),抵当証券受取利息は,平成6年8月
まで現金勘定を介してY1に対する長期借入金の返済に充てられていたこ
と(甲137,148の7),中間省略仕訳によって会計処理がされてい
た本件貸付金に関してY3会計士が小切手による資金交付を主張していた
ことから,抵当証券受取利息は,現金又は小切手により,Y1に資金交付
され,長期借入金の返済に充てられていたと合理的に推認することができ
たのである。また,この場合,大和都市管財の当座預金口座には入金がな
いのであるから,近畿財務局が当該口座を調査しても,抵当証券受取利息
の架空性を認定することはできない上,グループ会社やY1個人に対して
抵当証券業規制法上の調査権限が及ばないことも既に述べたとおりである。
加えて,グループ会社からの抵当証券受取利息がそのままY1の長期借入
金の返済に充てられたとしても,抵当証券業者がその収益の根幹である抵
当証券受取利息をどのように使用するかは資金繰りの問題にすぎず,大和
都市管財が抵当証券受取利息を長期借入金の返済に充てていたとしても不
自然ではないし,同社の場合,特約付き融資の原資以外にもY1からの長
期借入金が存在し,それらは大和都市管財が抵当証券に係る利息を融資先
から収受するまでに抵当証券購入者に対して元利金を支払うためのつなぎ
融資と考えられるから,Y1への長期借入金の返済に充てられた抵当証券
受取利息は,若干の時間差はあるものの,実質的にみれば抵当証券購入者
に対する元利金の支払に充てられるものと評価することができる。したが
って,近畿財務局は,抵当証券受取利息の仕訳自体からその架空性を認定
することは到底できなかったのである。
さらに,原告らは,大和都市管財が毎期受取利息を計上し,貸借対照表
上黒字である反面,グループ会社は,主力事業であるゴルフ場で営業損失
を出し,奈良市a町や仙台市a区に事業化されていない遊休地を抱え,融
資の利息額がほとんどそのままグループ会社の当期の損失に計上されて損
失が累積している状態にあり,だれがみても不自然な状況であった旨主張
する。この点につき,近畿財務局は,平成6年検査以降継続して行ってき
たヒアリング結果や平成9年検査の際に収集した資料等から,大和都市管
財グループ全体の累積損失額が平成6年検査の時点で約73億円であった
のに対し,平成8年12月31日時点では約113億円に拡大しているこ
と(乙40),グループ会社が保有する4ゴルフ場が平成8年内に合計で
約3050万円の営業損失を計上していること,グループ会社が利益を上
げておらず,その財務状況が悪化していること(例えば,平成8年6月期
のベストライフ通商は,営業損失を約3375万円出している上,約2億
7803万円の利息を支払っており,最終的には約2億7782万円の当
期損失を計上していた(甲72の12)。)を認識していた。しかしなが
ら,同時に,近畿財務局は,平成7年12月末日時点の大和都市管財の手
元資金が約113億円であること(乙26の2),平成8年1月末日時点
の大和都市管財グループ全体の現預金残高が約96億円であり(乙30),
平成8年12月31日時点で約78億円である(乙39)との報告を受け
ており,平成9年検査においては,平成9年6月18日時点の大和都市管
財グループの現預金残高が約64億円であることを把握していた。これら
のことから,近畿財務局は,大和都市管財グループ全体では現預金を潤沢
に有しており,中途解約の急激な増加がない限り,当面,抵当証券の買戻
しに対応することができる資金を有しているとの認識を有していたもので
ある。また,会社の資金繰り方法は,事業活動に伴う収益にのみよるもの
ではなく,借入金や預貯金等などによるものも多く,本件の場合,グルー
プ会社が大和都市管財に支払う利息の原資は,事業活動に伴う収益に限ら
ず,他のグループ会社に対する貸付金からの受取利息,事業活動によって
得た預託金(ゴルフ会員権等の販売代金収入),大和都市管財や他のグル
ープ会社からの借入金,手形商品販売による借入金,現預金の取崩しなど,
利息の原資となる収入源は多数あったのである。特に,ゴルフ場の預託金
は,一般的には最終的に会員に返還するものであるが,通常は預託期間中
の返還請求は認められずその期間も10年以上とされることが多い上,返
還も各会員の返還請求に応じて行われ,全額を一時期に返還するものでも
ないから,その資金を借入金の返済や運転資金に流用することは一般的に
行われているものであるところ,近畿財務局は,平成9年経営健全化計画
によって,那須グリーンコースの平成9年8月及び9月の会員権販売実績
が約83億円あること(乙44)等を把握していた。また,ベストライフ
通商は,飲食店経営,ビル賃貸業などの事業を展開しており,事業収入も
あったから,a町土地やa区土地が事業化されていなかったとしても,大
和都市管財に対して利息を支払えなかった根拠には全くなり得ない。他方
で,近畿財務局は,グループ会社に対しては抵当証券業規制法の権限が及
ばないことから,グループ会社の資金繰りを含めた資金の流れの全容を把
握することはできなかった。このような理由で,近畿財務局は,たといグ
ループ会社が利息支払額に見合う収益を上げていなくても,帳簿上利息の
支払が記載されている以上,資金繰りには窮しておらず,大和都市管財に
対して利息を支払っていると認識していた。また,近畿財務局が,仮に本
件更新登録時点において大和都市管財のグループ会社が利息を支払えるほ
ど収益を上げていないことを把握し,受取利息の架空性に疑いを持ったと
しても,グループ会社やY1に対しては抵当証券業規制法上の調査権限が
及ばないことなどに照らすと,近畿財務局において,どの受取利息が架空
であり,どの受取利息が架空でないのか,客観的かつ明確な根拠を示して
特定することは困難だったのであり,受取利息の架空性を認定することは
到底できなかった。したがって,原告らの上記主張は失当である。
この点につき,原告らは,仮にグループ会社が大和都市管財に利息を支
払っていたとしても,近畿財務局は,それが抵当証券や手形商品の販売に
よって購入者から得た資金が大和都市管財に環流しているにすぎないこと
を認識していたから,受取利息の仮装を認定すべきであったとも主張する。
しかしながら,グループ会社が資金繰りをする中で,特約付き融資や手形
商品から得た資金の一部を大和都市管財に対する支払利息の原資にしてい
たとしても,実際に利息が支払われているのであれば架空ということには
ならない上,グループ会社にはそれぞれ事業収入があり,大和都市管財に
対する支払利息のすべてが購入者から得た資金で賄われていると認定する
ことはできなかったから,グループ会社が利息額に見合う収益を上げてお
らず,銀行からの借入金もほとんどなかったからといって,近畿財務局は,
大和都市管財が購入者から得た資金が同社に環流しているにすぎないと判
断することはできないのであって,原告らの上記主張は失当である。
加えて,原告らは,大和都市管財によるグループ会社に対する貸付けが
自己融資であったことも利息収入が仮装であったことの根拠とする。原告
らが主張する「自己融資」の意義は必ずしも明らかではないが,確かに,
近畿財務局は,本件更新登録時までに,大和都市管財の特約付き融資の対
象がグループ6社に限られていたこと,うちベストライフ通商の社長はY
1の友人であるY6であり,それ以外の5社の社長は長男であるY2であ
ること,グループ6社の株主構成の大部分をY1やY2が占めていたこと,
グループ6社には銀行取引がほとんどなく,大和都市管財からの融資で資
金繰りをしていたこと,Y1の大和都市管財に対する貸付金がグループ会
社に対する融資に充てられていたこと,大和都市管財が本件合意書によっ
てグループ会社に対する貸付利率を引き下げ,その財務状況の改善に協力
していたこと,ヒアリングにおいてY1が融資先のゴルフ会員権販売計画
やその代金の運用方針,新規事業計画等を説明していたことを把握してお
り,これらのことから,大和都市管財の役員とグループ会社の役員との間
に人的つながりがあること,大和都市管財とグループ会社との間に資金的
な協力関係があること,Y1がグループ会社に対してある程度影響力を有
していることを認識していた(平成7年業務改善命令発出のために作成し
た調書(乙18)や,平成9年業務改善命令発出のために作成した調書
(乙22)に,大和都市管財と融資先のグループ会社とが「一体」となっ
ている旨の表現が用いられているのも,このような意味においてであ
る。)。しかしながら,大和都市管財とグループ会社とはお互いに株式を
保有しておらず,資本的なつながりは全くなかった上,役員構成も一致し
ておらず,Y1は本件更新登録ころにはグループ会社の取締役にもなって
いなかったこと,大和都市管財とその融資先のグループ会社とは業種,本
店所在地,事務所等も異なること,債権者企業の社長が債務者の業況や経
営方針を熟知していることは特に不思議ではないこと,平成9年7月8日,
近畿財務局がY1,Y2及びY6からグループ会社の総勘定元帳の返還を
求められた際,Y2が「融資の際にも見せたことのない元帳を持っていっ
た。」などと,Y6が「財務局に言う筋合いではないことは判っている。
私が文句を言いたいのは,D社のY1社長に対してである。社長がたとえ
了解のうえ見せたとしても,私は,社長を怒りたい。当社にとっては,当
社の資料が対外的に出ても,これはマイナスになることはあってもプラス
になることはない。自分は自分で商売をしている。」などと,それぞれが
Y1の言いなりにはならず,大和都市管財から独立した経営判断を行って
いる企業であることをうかがわせる発言をしていた。このようなことから,
そもそも,近畿財務局は,Y1がグループ会社を意のままに支配している
とか,グループ会社がY1の意向に逆らうことがないなどと認定・判断す
ることはできなかった。したがって,近畿財務局が大和都市管財とグルー
プ会社との一体性を認識することができたことを前提に,帳簿操作が容易
であると判断することができたはずであるとする原告らの主張は,その前
提において失当である。加えて,大和都市管財やグループ会社はそれぞれ
相当数の従業員を雇用し,大阪のみならず東京,名古屋等においても営業
活動を行っていた企業であるから,いかに両者が一体であっても,帳簿作
成担当者が帳簿操作に荷担しなければ帳簿操作は不可能であり,そのよう
な事実を近畿財務局が認識していたとする根拠も全く不明である。特に,
大和都市管財グループ各社は,Y3会計士の指導を受けて決算書類の作成
や帳簿処理を行っていたのであり,公認会計士が監査及び会計の専門家と
して公正かつ誠実に業務を行うものとされ(公認会計士法1条,1条の
2),そのチェックを経た帳簿や決算書類は正確かつ適正なものと信頼す
るのが通常であることに照らせば,近畿財務局が,Y3会計士が帳簿操作
に荷担していると想定することができなかったことには無理からぬ点があ
ったというべきである。
また,原告らは,平成9年検査において,近畿財務局が大和都市管財か
ら提出を受けたナイスミドルの平成8年6月期の総勘定元帳に,ナイス函
館からの短期借入金が平成7年9月30日付けで約3億円,平成8年3月
31日付けで約6億円それぞれ計上され(相手勘定は現金勘定),それぞ
れ同日付で同額の大和都市管財に対する支払利息割引料が借方に計上され
(相手勘定は現金勘定)ていたこと(甲149,150),ナイス函館が
半年間で約9億円のキャッシュインフローを稼ぎ出す事業をしていないこ
とから,近畿財務局は,大和都市管財に対する支払利息が帳簿操作によっ
て仮装されていることを容易に認定することができた旨主張する。しかし
ながら,ナイスミドルの平成8年6月期の総勘定元帳から認められる事実
は,ナイスミドルがナイス函館から借り入れた現金を大和都市管財への利
息支払に充てたということであり,ナイスミドルとナイス函館はいずれも
大和都市管財のグループ会社であるから資金を融通し合うことも自然であ
るし,ナイス函館の資金源も事業収入だけではないから,同社が約9億円
のキャッシュインフローを半年間で稼ぎ出していないこと自体が帳簿操作
を疑わせるものともいえない。したがって,原告らの上記主張も失当であ
る。
オ本件3融資の架空性は容易には認定することができなかったこと
原告らは,相手勘定が長期借入金である本件3融資について,これらに
ついても資金の交付を確認することができなかったのであるから,平成1
2年検査の時と同様,本件更新登録時において近畿財務局はこれらを架空
のものと認識することができたはずである旨主張する。しかしながら,ウ
で述べたとおり,単に架空融資を認定するだけでは何ら大和都市管財の財
産的基礎に影響しない上,本件3融資に係る抵当証券貸付金については,
本件貸付金と異なり,融資先の総勘定元帳に計上されていなかったという
事情もなく,Y1が振り出した小切手による融資が行われたと合理的に推
認することができることも同様であるから,本件貸付金以上にその架空性
を認定することは困難であった。のみならず,平成12年検査の中途にお
いてY20検査官が本件3融資について架空ではないかとの指摘をY20
要約において大和都市管財にした事実はあったものの,これは「疑い」の
レベルのものも含んだ主任検査官の認識を示したものであって近畿財務局
の最終結論ではなく,実際,近畿財務局は,大和都市管財から手形による
貸付けである旨弁解され,検査権限の限界からその弁解を否定するに至ら
ず,最終的に平成12年検査結果通知では本件3融資を架空のものとまで
は認定していない。よって,原告らの主張はその前提において失当である。
カ危険及び予見可能性の存在を裏付けるその他の事情の不存在
(ア)各経営健全化計画が非現実的とまでは断定することができなかった
こと
平成9年検査において大和都市管財グループが全体で約64億円の預
金残高を有している事実が明らかになったこと,遊休地も順次事業の用
に供され,又は売却により含み損を解消する予定であり,またゴルフ場
の施設整備による売上増加やチケット制会員権販売による収入の増加が
見込まれるとの説明を大和都市管財から受けていたことなどもあって,
近畿財務局は,大和都市管財グループの事業計画の実現可能性がないと
か,グループ6社が実質的に破綻しているなどと断定することができる
状況にはなく,大和都市管財グループが延命のためにひたすら資金集め
に奔走するような自転車操業状態にあるとも認識していなかった。現に,
平成9年経営健全化計画によれば,那須グリーンコースの同年8月及び
9月のチケット制会員権の販売実績は約83億円あったし,北海道泊別
観光の売却やベストライフ通商による高収益物件購入の促進等,収益の
確保や含み損の解消を図る計画へ転換されていたから,これら計画の実
現可能性が極めて低いことは明白であったとまではいえない。
(イ)会計監査人の不選任又は会計検査の不実施
本件更新登録当時,商法特例法の会計監査制度と財務局長等による抵
当証券業規制法に基づく抵当証券業者の監督とは別個の法制度とされ,
抵当証券業規制法には抵当証券業者の会計監査についての規定は何ら置
かれておらず,平成10年3月31日付け大蔵省大臣官房金融検査部長
通達により,銀行法等に基づく検査において商法特例法に基づく会計監
査人等の外部監査人の監査結果を活用するとの運用方針が示され,こう
した流れを受けて平成14年2月,法施行規則が同年内閣府令第5号に
よって改正されて初めて,抵当証券業者の監督行政においても商法特例
法の会計監査制度等を活用する観点から,(更新)登録申請書の添付書
類として,同法13条1項に基づく会計監査人の監査報告書等の写しを
提出することなどが新たに義務付けられたものである(前記改正後の法
施行規則4条1項6号イないしハ)。加えて,近畿財務局において大和
都市管財グループ各社がいずれも商法特例法に基づく会計監査を受けて
いないことを把握したのは平成12年9月であるから,近畿財務局長が
これを知りながら放置していたかのように論難する原告らの主張は失当
である。また,一般的に,公認会計士等は,融資先の再建計画や担保の
状況等も勘案するなど,融資先の債務超過のみをもって貸倒引当金の計
上を求めるかどうか判断することはない上,前述のとおり,大和都市管
財が,平成9年3月期決算において,本件基準により貸倒引当金を計上
したことは「公正ナル会計慣行」に合致したものであったから,当時仮
に公認会計士等が大和都市管財の会計監査を行ったとしても,必ずしも
貸倒引当金を計上させるとか,貸倒引当金の計上を拒んだとして不適法
意見を表明するとは限らない。
キ平成9年における不動産抵当證券に対する立入検査の結果及びその後の
対応との異同
平成9年6月当時,大和都市管財と同様に独立系の抵当証券業者である
不動産抵当證券は,経営状態が悪く,資金ショートのおそれがあったこと
から,既に平成7年11月13日付けで業務改善命令を受けており,破綻
懸念のある状態であった。同社は,関東財務局の監督を受けており,関東
財務局は,平成9年9月5日から同社に対して立入検査を実施した。その
結果,同社の貸付先は7社で,総貸付残高50億8400万円のうち,関
連会社であるソーケン開発に対するものが46億9600万円を占めてい
ることが判明した。そして,ソーケン開発の業務内容は宅地分譲が主体で
あったが,宅地分譲等の開発及び販売が事業計画どおり進捗しておらず業
況が悪化しており,平成8年9月期の決算において5億円を超える累積損
失を計上し,4億円を超える債務超過となっていた。また,関東財務局の
検査官が不動産抵当證券の総勘定元帳を確認したところ,不動産抵当證券
が,ソーケン開発からの受取利息相当額を仮払金としてあらかじめソーケ
ン開発に支払い,利息の支払約定日に同社から利息の支払を受けることに
より,利息支払の延滞を回避する処理が行われていることが認められ,不
動産抵当證券においても,仮払金の支払目的がソーケン開発の利息支払資
金の捻出であることを認めており,ソーケン開発の利息の支払は実質的に
延滞していると認められた。さらに,ソーケン開発は,資金繰りの目途が
ついておらず,今後の経営計画も立っていない状況にあり,不動産抵当證
券においても,ソーケン開発の経営改善見込みがないことを認めていた。
以上により,関東財務局は,ソーケン開発の業況が悪く,ソーケン開発が,
赤字経営,債務超過に陥っていた上,利息の支払も実質的に延滞しており,
経営改善の見込みもないと認定して,実質的に破綻していると認定するこ
とができたのである。
さらに,関東財務局は,ソーケン開発に対する債権に係る回収不能見込
額を算定することとした。回収不能見込額は,同社に対する債権額から担
保物件の処分可能見込額を差し引くことで算定することとなるところ,関
東財務局は,とりあえず,路線価のある地域については直近の路線価に単
純に面積を乗じて算出し,路線価のない地域や建物については,抵当証券
発行時の不動産鑑定士による鑑定価格等を用いて概算した。その結果,平
成9年8月31日時点の回収不能見込額は14億3200万円と算定され,
不動産抵当證券においてもこの回収不能見込額を認めたため,同額を回収
不能見込額として認定した。以上の立入検査の結果を受けて,関東財務局
は,不動産抵当證券に対する検査結果の通知(甲207)において,「回
収不能見込額を考慮した貴社の財務内容は,実質的に債務超過となってい
るものと認められ,抵当証券業規制法に定める財産的基礎を欠いている状
態にある」と指摘したのである。
他方,大和都市管財の場合も,融資先のグループ会社が債務超過に陥っ
ていることは平成9年当時のソーケン開発と同様であったが,大和都市管
財の場合は,仮払金処理による資金移動はなく,受取利息の資金をあらか
じめ支払っているという状況は認められなかった。また,大和都市管財の
場合,融資先グループ会社からの個々の受取利息の原資は明らかではなく,
大和都市管財からの特約付き融資の一部が受取利息の原資となっていたと
しても,受取利息の実質的延滞を認定することは困難であった。しかも,
大和都市管財は,同グループ全体の現預金残高が約64億円存在した上,
平成9年経営健全化計画を作成して融資先であるグループ会社の業務改善
を志向していたのであり,業務改善の見込みがある旨強く主張していた。
したがって,関東財務局が平成9年に不動産抵当證券に対する立入検査
の結果回収不能見込額を認定していることは,近畿財務局が大和都市管財
に対する平成9年検査において貸倒引当金を追加計上することができたこ
とを示すものではない。
(4)補充性
原告らが主張するような下記の理由は,財務局長等による抵当証券業者に
対する規制権限行使の必要性を基礎付ける理由とはいえない。
ア抵当証券業と間接金融とが類似するとの点について
預金と抵当証券とは,その経済的機能,リスクや監督のあり方等を異に
しており,両者を同列に論じて抵当証券会社に対して銀行等に準じた監督
をすべきとの原告らの主張は,以下のとおり失当である。
すなわち,預金は,①金銭の保管,利殖,決済,資金の仲介等の役割
を担い,国民が経済活動を営む上で必要な基本サービスを提供しているの
みならず,銀行預金の取扱残高はおおむね抵当証券の販売残高の100倍
を優に超える規模で推移しているなど,経済社会において果たしている役
割は抵当証券と比べて格段の差があり,②預金保険制度等のセーフティ
ネットがある一方で利率が低く抑えられている等,抵当証券等他の金融商
品に比してローリスク・ローリターンであるのに対し,抵当証券は,①
昭和50年代の金利部分自由化を背景として確定・高利回りの金融商品と
して脚光を浴びるようになり,個人事業主や中小企業に対して,社債類似
の新しい長期資金の調達手段を提供するようになってはいるが,その取扱
残高は預金に比して格段に少なく,②支払がされない場合には抵当証券
に化体された抵当権を実行して担保物件を競売に付し,不足部分について
のみ抵当証券の裏書人に対して償還請求することができるにすぎず,抵当
証券業者による元利金の支払保証や抵当証券の買戻しの定めも任意的であ
る一方,自由金利商品であって金融債や貸付信託に比して高めに金利設定
される等ハイリスク・ハイリターンであり,金融商品としての性質自体に
大きな差異がある。
また,銀行法が,資本金が20億円以上であること,3営業年度を経過
するまでの間に当期利益が見込まれることなど,開業規制につき厳格な要
件の下での免許制を採用し(同法4条,同法施行令3条,同法施行規則1
条の8第3項),銀行に対し兼業禁止(同法12条)・大口信用供与等規
制(同法13条)・自己資本比率規制(同法14条の2)・利益準備金の
積立て(同法18条)等の行為・財務規制を課し,監督官庁に子会社をも
対象とした広範な報告徴求権(同法24条),立入検査権(同法25条),
業務停止命令権(同法26条)及び免許取消権限(同法27条)などの強
力な監督権限を付与しているのに対し,抵当証券業規制法は開業規制に登
録制(3条)を採用し,行為規制についても広告規制(14条),書面交
付(15条・16条),抵当証券の保管の禁止(18条1項),一定の禁
止行為(19条)など主として抵当証券の販売に係る規制が設けられてい
るのみで,財務規制については登録又は更新登録の際の財産的基礎及び最
低資本金制度以外には存在せず,監督官庁の監督権限も財産的基礎や人的
構成の欠如を理由とする登録取消しの制度がないなど,銀行法に比べてよ
り限定的である。
イ抵当証券取引における情報開示について
抵当証券業規制法は,それが基礎とした抵当証券研究会の報告書「抵当
証券取引について」にあるとおり,抵当証券には預金その他の金融商品と
比べてある程度のリスクがあり,高めの金利設定がされているという点を
勘案して,購入者の自己責任の原則をより重視すべきとの観点から立法さ
れており,自己責任の基礎を形成するため,情報開示についても書面交付
義務(15条,16条)や抵当証券業者の業務及び財務状況等並びに抵当
証券に関する書類の閲覧請求権(16条,17条)を規定しているから,
監督官庁に対し情報不開示を理由に抵当証券業者への銀行等に準ずる監督
を求める原告らの主張は失当である。そもそも,いかなる情報に基づき,
いかなる抵当証券業者から,いついかなる金融商品を購入するか(購入し
ないか)は,個々の投資家の判断で行われるべきものであり,抵当証券が
ハイリスク・ハイリターンの金融商品であることや,平成7年から平成9
年にかけて抵当証券業者の破綻が続いていたことなどからすると,購入者
の自己責任の原則を無視することは許されない。
(5)本件更新登録をせざるを得なかった実質的理由の不存在
政治的圧力の存在等に関する原告らの主張は,すべて否認する。これらの
点に関する原告らの主張は,何らの根拠に基づかない邪推にすぎない。平成
9年経営健全化計画については,近畿財務局のヒアリングに対し同社が顧問
であるY3会計士による説明や追加資料の提出に応じるなど協力的であった
のに対し,平成7年及び平成12年に同社が提出した同様の計画については,
同社からその内容について十分な説明がされる見込みがなかったことから,
近畿財務局は,それらの計画の作成に当たって具体的な資料を提出するよう
同社に求めたのである。また,平成9年経営健全化計画では,従来のゴルフ
会員権販売のみに依存した計画から,チケット制会員権販売やゴルフ場関連
施設の整備のほか,北海道泊別観光の売却やベストライフ通商による高収益
物件購入の促進など収益の確保や含み損の解消を図る計画へ転換されていた
から,上記計画の破綻が明白になっていたともいえない。したがって,平成
9年における近畿財務局の判断がその前後と比較して極端に異なるとか,手
心を加えたという事実がないことは明らかである。
7争点6(近畿財務局長には本件更新登録を行うについて故意又は過失があっ
たか。)
(原告ら)
国賠法1条1項でいう過失とは,担当者の交代や経験の長短・深浅及びその
他の個別事情に左右される個別公務員の個々の具体的な心理面におけるいわゆ
る具体的過失ではなく,公務員が職務上要求される標準的な注意義務に違反し
たといういわゆる抽象的過失である。そして,規制権限の不行使が国賠法1条
1項の適用上違法の評価を受ける場合には,既に,同権限を行使しない公務員
において,少なくともその不行使により個別の国民が損害を受けることについ
ての予見可能性及び回避可能性が認められているのであり,過失が上記のよう
に公務員が職務上要求される標準的な注意義務の違反であることからすれば,
規制権限の不行使において,過失判断は違法性判断に包摂されているものと解
すべきである。
しかるところ,本件において,近畿財務局長は,前記のとおり,立入検査等
によって大和都市管財グループ全体の財務内容が債務超過であり,その営業内
容が自己に融資する構造であっておよそ収益を期待することができるものでな
いことについて詳細に知悉しており,平成9年10月31日には,大和都市管
財に対し,このままではその経営が困難になり抵当証券購入者が損害を被る蓋
然性が高いとして平成9年業務改善命令を発出していた。よって,近畿財務局
長は,本件更新登録時,大和都市管財が,財産的基礎も人的構成も欠き,また,
更新登録申請書又はその添付書類のうちに重要な事項についての虚偽記載が認
められ,抵当証券業者としての適格性を備えていない事実を明確に知り,その
結果,不特定多数の抵当証券購入者に対する大規模な消費者被害発生の蓋然性
を予見していたものというべきであり,それにもかかわらず漫然と本件更新登
録を行ったことについて少なくとも過失があったものというべきである。
(被告)
そもそも,権利侵害があれば原則として違法性が肯定される一般の不法行為
の場合と異なり,権利侵害を予定している場合が多い公権力の行使については,
権利侵害があっても直ちに違法とされることはなく職務上の義務違反が問題と
されるところ,そのような公権力行使の特殊性は,故意・過失についても妥当
する。すなわち,国賠法1条1項に基づく国家賠償の要件としての故意・過失
は,単なる権利侵害の予見ないし予見可能性を問題にするのではなく,「違法
に他人に損害を生ぜしめるという結果」について予見ないし予見可能性が問題
とされるべきである。そして,国賠法1条1項の違法は,公務員が個別の国民
に対して負う職務上の法的義務違反であるから,国賠法1条1項の故意・過失
は,むしろそのような違法性の認識ないし認識可能性というべきである。
したがって,行政処分の根拠となった政令・省令等が違法であったとしても,
それが明白でない限り,当該公務員の過失は否定されるべきであり(最高裁昭
和63年(行ツ)第41号平成3年7月9日第三小法廷判決・民集45巻6号
1049頁参照),この理は通達に従った処分についても同様に当てはまるが
(同平成14年(受)第687号平成16年1月15日第一小法廷判決・民集
58巻1号226頁参照),本件更新登録は抵当証券業規制法の規定及びこれ
を具体化した基本事項通達にのっとって行われたものであり,前記のとおり,
基本事項通達に明白に不合理な点があったとはいえないから,仮に同通達が違
法であったとしても,近畿財務局長には過失はなかった。
また,本件更新登録時においても,大和都市管財は単体では資産超過の状態
にあり,利益も計上していたこと(なお,近畿財務局長は大和都市管財の特約
付き融資先がグループ会社であることは把握していたが,抵当証券業規制法は
このような融資を禁じるものではない。),平成9年経営健全化計画において
は,新事業の展開等による新たな利益計上や含み損失の解消に前向きな計画が
策定されており,本件更新登録時において,近畿財務局には,大和都市管財の
融資先が実質的に破綻しているとか,経営改善の見込みがないなどと断定する
ことはできず,上記融資先が即時に清算されることを仮定して貸倒引当金を算
定することもできなかったこと,抵当証券業規制法は,行政当局に対し,抵当
証券業者の融資先に対する検査権限を付与していないから,近畿財務局に大和
都市管財の融資先が保有する書類や資料等に依拠して貸倒引当金を計上すべき
義務はなかったし,担保不動産の評価額についても,大和都市管財による不動
産鑑定評価額の信用性を否定すべき根拠を有してはいなかったこと,近畿財務
局は,平成9年以前からY1に対するヒアリングを度々実施するなどして実態
把握に努めていたものの,スポンサーからの資金援助を得て大和都市管財に多
額の貸付けを行っている旨の同人の説明が虚偽であると認定することはできな
かったことなどに照らすと,本件更新登録の時点で,近畿財務局は,具体的に
大和都市管財が破綻して購入者に損害を与えることまでは認識し得ず,むしろ
平成9年経営健全化計画が軌道に乗って購入者の利益を害さないことを期待し,
そのための監督を行っていたのであって,近畿財務局長が原告らの損害発生を
予見していなかったこともまた明らかであり,この点においても近畿財務局長
に故意・過失が認められないことは明らかである。
8争点7(遅くとも平成9年12月までに近畿財務局長が大和都市管財に対し
て業務停止命令又は登録抹消を行わなかったことは国賠法上違法か。)
(原告ら)
(1)規制権限の存在
近畿財務局長は,抵当証券業規制法及び法施行令に基づき,大阪市に本店を有
する抵当証券業者である大和都市管財に対して,登録と拒否,更新登録と拒否の
ほか,業務若しくは財産に関して報告若しくは資料提出を命じること,職員をし
て立入検査・質問をさせること,業務の方法の変更その他業務の運営の改善に必
要な措置を執るべきことを命ずること(業務改善命令),業務の全部若しくは一
部の停止を命ずること(業務停止命令),登録を取り消し若しくは抹消すること
(登録取消し,登録抹消)又は業務停止命令・登録取消しの公告といった監督・
規制権限を有していた(同法20ないし26条,法施行令6条)。
(2)規制権限不行使の違法
近畿財務局長が,遅くとも平成9年12月までに,大和都市管財に対して,業
務の全部若しくは一部の停止を命じるとともにこれを公告(業務停止命令とその
公告)するか,登録を取り消してこれを公告し登録を抹消(登録取消しとその公
告,登録抹消)しなかったことが,許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠
くのであれば,このような権限不行使は,原告らとの関係において,国賠法1条
1項の適用上違法となる。
しかるところ,遅くとも平成9年12月までには,大和都市管財による抵当証
券購入者への危険が発生しており,近畿財務局長がこのような危険について予見
可能であったこと,及び,同月までに近畿財務局長が本件更新登録を拒否しない
のであれば,業務停止命令とその公告か,登録取消しとその公告又は登録抹消を
待たなければ購入者の被害発生を防止することができなかったことは,いずれも
争点5で詳述したとおりである。また,近畿財務局長は,平成9年業務改善命令
を発出しながら,これに対する大和都市管財の回答が不十分であったことにかん
がみ,遅くとも同年12月には上記命令違反を原因事実として,業務停止命令と
その公告,登録取消しとその公告又は登録抹消をすることができ,これによって
容易に同社の営業を止め,購入者の被害発生を有効適切かつ容易に防止すること
ができた。
したがって,近畿財務局長が,遅くとも平成9年12月までに,大和都市管財
に対して業務停止命令及びその公告,登録取消し及びその公告,又は登録抹消を
行わなかったことは違法というべきである。
(被告)
原告らが主張する登録の取消し及び業務停止の各処分の要件は,抵当証券業
規制法24条1項が定めているところ,原告らの主張は,大和都市管財が平成
9年12月までに同項各号のいずれに該当したかの主張を欠いており,主張自
体失当である(なお,同法6条1項7号(抵当証券業を適確に遂行するに足り
る財産的基礎及び人的構成を有しない法人)に該当することとなったときは,
上記各規制権限行使の要件とはなっていない。)。
加えて,平成9年経営健全化計画の実効性について,近畿財務局が本件更新
登録時においてその当否を予測することは困難であり,近畿財務局は経営健全
化計画の見直し時期にその進捗状況をその都度把握していく前提でこれを受理
したのであるから,上記命令違反を原因事実として大和都市管財の登録取消し
又は業務停止命令に及ぶことは想定することができなかった。
したがって,近畿財務局長が原告ら主張に係る処分を大和都市管財に対して
行わなかったことは違法とはいえない。
9争点8(近畿財務局長は平成7年8月21日に大和都市管財への平成7年業
務改善命令を違法に撤回することで原告らに損害を与えたか。)
(原告ら)
近畿財務局長は,大和都市管財がグループ会社と財布を一つにしている一体
会社であるという内情,収益を生まない赤字グループ会社の実情,担保物件の
実情,ゴルフ会員権の実情などを詳しく調査し,大和都市管財が抵当証券業規
制法における業務改善命令の要件を満たしていることを内閣法制局に確認し,
大蔵本省の了解を取り付け,業務停止命令などその後のスケジュールも具体的
に確定した上で,平成7年8月21日付けで,同社に対する業務改善命令書を
作成し,同日,来局したY1に対して担当官からこれを交付することによって
同命令を発出した。しかし,目前に那須ゴルフ場の購入とこれによる大量のモ
ーゲージ証書販売を控えていたY1が,近畿財務局とのそれまでのやり取り,
特に同月1日の弁明の機会付与の通知に現実的な内容を要求する別紙が付けら
れていた事実から,これに答えられる経営健全化計画の提出が不可能であるこ
とを認識していたため,Y3会計士やY8を伴わずに同日単身近畿財務局を訪
れ(Y8ですら,後になって平成7年業務改善命令は撤回された旨Y1から聞
いたと供述しており,最後までY1から真相を伝えられていなかった。),同
和団体役員の名刺を示した上で,「組織をあげてたたかう」「団体を使って行
動する」「局長に会わせろ」等と脅迫的な言動をもって恫喝したところ,近畿
財務局長は,Y1が属する同和団体から差別者の烙印を押しつけられ,組織を
挙げて糾弾されることを恐れ,直後に事実上平成7年業務改善命令を撤回した
(本件命令撤回事件)。このことは,当日近畿財務局の担当官が作成した連絡
記録票(乙20)の記載から明らかである。なお,Y1は,上記のとおり,平
成7年業務改善命令の内容については事前に告知されている弁明の機会付与の
通知書によって認識していたから,上記命令は同人に了知可能な状態で交付さ
れているものと解すべきであって,少なくともY1の面前で読み上げ始められ
た時点で既に発出され,効力を生じていたものと解すべきである。
これに対し,被告は,上記命令発出当日,Y1が「金はある」,「必要なら
資料は出す」,「行政指導には従う」などと発言したことから,大和都市管財
の資金繰りについてより調査する必要が生じたために上記命令の発出を留保す
る必要が生じたのであって,同和団体を恐れたわけではない旨主張する。しか
しながら,歴史的にみて同和団体は,被差別部落の代表者として活動してきた
一面を有しつつ,他面で行政と癒着し,あるいは行政に対して組織的な圧力を
掛けて利権を得てきたものであって,平成7年当時は,まだ個々の国家公務員
も,同和団体による組織的な恫喝・糾弾・攻撃を恐れていた上,Y1も,昭和
36年から昭和45年まで福岡県庁に勤務していた元公務員であったから,同
和団体の実態や影響力,そして行政がこれを極度に恐れていたことを熟知して
いた。また,大蔵本省に対しては,大和都市管財に関連して,旧社会党のY1
0議員や民主党のY11議員から電話による圧力が掛かっていたが,同様の電
話は近畿財務局にもあったものと推測されるところ,両名とも部落解放同盟と
関連を有する国会議員であったから,近畿財務局がY1の背後に同和団体があ
るのではないかと恐怖心から警戒していたものと思われる。加えて,それまで
にも大和都市管財に対する行政指導が繰り返されていたにもかかわらず同社に
よる抵当証券商法の拡大を防止することができなかったからこそ平成7年業務
改善命令という行政処分に至ったという経緯に加え,Y1が当日その発言を裏
付けるに足りる資料を何ら提出しなかったこと,上記命令を交付する任に当た
った金融第3課Y26課長(以下「Y26課長」という。)も発令を留保する
可能性は事前に想定していなかったこと,上記命令は大和都市管財の財産的基
礎の確保を主眼とし,融資先の収益性向上に重点が置かれていた一方で,手元
資金の額などの資金繰りは何ら考慮していなかったこと,近畿財務局が本件命
令撤回事件後に作成したという本件資金繰り表(乙26)は,その具体的な作
成経過が不明である上,営業利益のない融資先からの受取利息についてその実
在性を所与のものとしている点や,手形商品の償還金,固定経費・利払等の経
費,人件費・広告費等,那須ゴルフ場の購入資金(130億円)等を考慮に入
れていない点などで不合理というほかなく,明らかにY1による「50億円の
金がある」との発言に合わせた試算結果として作出されたものであること,本
件命令撤回事件の真相が詳述された本件内部資料(大和都市管財が申請した那
須ゴルフ場を担保とする55億円相当の抵当証券の追加発行分について,法務
鑑定委員会による再鑑定を受けて,その販売を同社に自粛させるよう近畿財務
局に対して指導した際,大蔵本省幹部にその経緯を説明するため,本省金融会
社室のY27係長(抵当証券担当)がY4補佐の下で平成8年8月ころに作成
した公文書である。)について,平成15年8月に当時の金融庁金融会社室長
が「単なる手控えということにしておいてくれ」とY4補佐に要請に来たこと
に照らすと,被告の主張は本件命令撤回事件を隠ぺいする意図に出たものでし
かなく,失当である。
仮に,上記命令が執行されていれば,このころ同様に業務改善命令を受けた
木津信抵当証券等と同じく,大和都市管財も早晩破綻した蓋然性が高い。また,
近畿財務局長は,本件命令撤回事件以降,グループ会社の経営悪化の問題を,
資金繰りの問題に矮小化してその後の対応を後退させた。したがって,本件命
令撤回事件がなければ,少なくとも本件更新登録は行われなかったはずである
から,原告らが被害を受けることもなかったのは明らかである。
(被告)
一般に行政処分は,相手方に告知されたときにその効力を発生するものと解
されており(最高裁昭和45年(行ツ)第93号昭和50年6月27日第二小
法廷判決・民集29巻6号867頁参照),その方法には書面の手交,口頭に
よる伝達,公告等があり得る。しかるところ,近畿財務局は,平成7年8月2
1日付け業務改善命令書を準備してはいたが,同日,Y1に対してその内容を
最後まで読み上げてもいなければ,同命令書を交付もしていないのであるから,
業務改善命令の告知があったとはいえず,同命令の効力が生じていない。なぜ
なら,同日,Y26課長が業務改善命令書を読み上げ始めたところ,Y1から,
近畿財務局の行政指導には従う,必要な資料も提出する,利息が払えないよう
な状況ではない旨の強い弁明を受けたため,最後まで読み上げることができず,
提出された資料を受けて再度命令発出の当否を検討することとしたからである。
また,業務改善命令の内容は,一般的に弁明の機会付与の通知後の事態の変化
等を反映させるため,必ずしも弁明の機会付与の通知書における命令内容と同
一のものとは限らないから,Y1が弁明の機会付与の通知の内容を認識してい
たからといって,平成7年業務改善命令の内容を了知していたことにはならな
い。そして,平成7年当時,近畿財務局が大和都市管財の業務の運営について
抵当証券の購入者の利益を害する事実があると認めたのは,融資先であるグル
ープ会社の財務状況が悪化していたことのみによるのではなく,大和都市管財
に後ろ盾となる金融機関が存在しない中で,同社から何ら具体的な収支見込み
が示されなかったこと等を勘案し,いつ大和都市管財本体の資金繰りが窮する
ことにもなりかねないとの認識を有していたからであるところ,そのような認
識は客観的に十分な資料・根拠に基づくものではなかったため,Y1から資金
繰り等についての弁明がされたことにより,抵当証券購入者の利益を害する事
実の前提が否定される可能性があると考え,再度,上司にその判断を仰いだY
26課長の対応はやむを得ないものというべきである。また,業務改善命令は
抵当証券業者にとって不利益処分であるから,その前提となる事実が明確に認
められない限り不利益処分を科すべきではなく,仮に処分の前提となる事実が
ない抵当証券業者に対して業務改善命令を発出すれば,当該業者を破綻の危険
にさらし,結果的に抵当証券購入者の利益を害することにもなりかねないので
ある。
なお,同日,近畿財務局長はこの方針を了承したが,その後の資金繰り調査
で大和都市管財の資金繰りに問題があるとは認められず,業務改善命令の前提
となる抵当証券購入者の利益を害する事実があると直ちに認めることは困難で
あると判断されたことから,同年11月,近畿財務局は,同社の資金繰り,融
資先グループ会社の経営状況等につき更なる実態把握に努めるとともに経営健
全化について指導するという対応に変更することとし,上記命令は内部的に廃
案決裁に準じた取扱いをされた。
これに対し,原告らは,Y1が同和関連団体に属していると告げられたこと
が,業務改善命令発出を見合わせた理由であると主張する。しかしながら,原
告らが依拠する本件内部資料は,近畿財務局でのやり取りを直接経験していな
い本省金融会社室の係長が作成したものであって,大蔵本省の認識を公式に確
認するものではない。実際問題として,行政機関において,金融機関の代表者
が同和団体に属することを示されたというだけで業務改善命令の発出を差し控
えるということは考え難く,それを大蔵本省が認識していながら放置するとい
うことはなおさら考え難い。仮に,Y1が同和団体に属するという話をしたこ
とが理由で平成7年業務改善命令を発出しなかったとすれば,その後も監督処
分ができないのが自然であろうと思われるし,Y1も味を占めて,ことあるご
とに同和団体に属することを持ち出すというのが自然であるところ,平成7年
業務改善命令の発出を見合わせた後では,かなり強い抗議がされたような場合
でも同和団体の話が持ち出された形跡はない。また,同和団体に関する記載が
本件内部資料にしかなく,かつ,調査の結果Y1が同和団体に属していると名
乗っただけであると判明した事実を記載した書類が見当たらないという事実は,
近畿財務局及び大蔵本省にとってY1が同和団体に属するかどうかは重要な問
題ではなかったことを示しているのであり,このことは,同和団体に属すると
告げた事実と平成7年業務改善命令の発出を見合わせた事実とが無関係である
ことを示している。したがって,原告らの主張は失当である。
さらに,原告らは,本件資金繰り表は利息の実在性を検証せず,手形商品の
償還について考慮に入れていないなどの点で問題である旨主張する。しかしな
がら,前記のとおり,近畿財務局は平成7年9月ころの段階で,特約付き融資
やその利息の支払が仮装されているものであるとか,資金が環流しているとい
うような事実は把握していなかった上,現金で授受しているとされていた利息
についてもその実在性を検証する客観的な資料はなく,本件資金繰り表はその
段階で得ている資料でとりあえず試算したものにすぎない。また,手形商品に
せよ抵当証券にせよ,償還時期に全額を払い戻すとは限らないし,手形商品に
ついては,近畿財務局は,ナイスミドルがバンクオブアメリカに有する譲渡性
預金が大和都市管財のナイスミドルに対する融資の担保とされているとの説明
を受けていたものであるから,手形商品に対する償還を考慮に入れなくても,
抵当証券の販売に関する大和都市管財の資金繰りを試算するに当たっては問題
がなかったのである。
10争点9(近畿財務局長による違法行為によって原告らはいかなる損害を被っ
たか。)
(原告ら)
近畿財務局長の違法な職務執行の結果,原告らは別紙被害一覧表記載のとおり,
以下のような損害を被った。
(1)財産的損害
原告らは,平成10年1月以降,別紙被害一覧表記載のとおり,大和都市管
財の販売するモーゲージ証書を購入し,その購入額相当の損害を被った。原告ら
は,上記購入額相当損害額のうち一律に5割を請求する(別紙被害一覧表②欄)。
原告番号A番台の原告ら(以下「大阪原告団」と総称する。)は,原告A2を
除いて,平成10年1月以降に新規資金を投入して抵当証券を購入した者である。
原告番号C番台の原告ら(以下「名古屋原告団」と総称する。)は,全員が同月
以降に新規資金を投入したことによる抵当証券購入者である。これに対し,原告
番号B番台の原告ら(以下「東京原告団」と総称する。)は,新規資金の投入に
よる購入者と一部又は全部の投入資金が大和都市管財の他の金融商品からの乗換
えにより調達された購入者とが混在しており,前者の内訳は別表8-1(平成1
5年(ワ)第5830号事件)及び同8-2(平成16年(ワ)第4420号事
件)各記載のとおりである。
他の金融商品からの乗換えにより抵当証券を購入した者であっても,抵当証券
の保有によって現実に損害を生じていることは明らかである上,本件更新登録が
なければ平成10年1月以降に抵当証券を購入することもなく,その場合,基本
的には償還を受けているはずである(大和都市管財の営業方針としては,償還を
防いで乗換えを勧める営業が行われていたが,これが奏功するか否かは不明であ
る。)。もっとも,本件更新登録がされなければ大和都市管財は破綻していたこ
とが予想され,その場合にも損害が生じていたであろう可能性は抽象的には否定
することができないが,平成9年12月に同社に対する更新登録を拒否しておけ
ば現在よりもはるかに少ない被害で済んだであろうことは明白であり,いずれに
せよ,そのような事情は現実に生じている損害の発生を阻害する要因として被告
において主張立証すべきである。
また,大和都市管財においては,顧客が抵当証券の購入代金を支払った後に,
特定の抵当証券を各顧客に適当に割り付ける作業をその事務員が行っていたが,
破綻前後の混乱が原因で,名古屋原告団の一部について上記作業が未了となって
いる。しかしながら,弁済金領収書内訳一覧(甲A389号証)のとおり,この
ような原告らも既に抵当証券の購入代金を支出済みである以上,当該出資額が損
害額である。
ところで,原告らは,原告ら訴訟代理人を含む大和都市管財被害者弁護団との
間で委任契約(以下「本件委任契約」という。)を締結した者らである。大和都
市管財は,抵当証券以外に,抵当権付き一部債権譲渡,那須グリーンチケット,
GFPシュアーファンドなど複数の金融商品を,グループ会社の名義を用いて詐
欺的に販売していたが,モーゲージ証書取引の実質は買戻し約束を付した預かり
証取引にすぎず,GFPシュアーファンド等の金融商品と本質的には同じである
から,本件委任契約においては,原告らを含む被害者に対し,大和都市管財,グ
ループ会社,抵当証券保管機構,役員その他からの配当金や損害賠償による回収
金について,購入時期の前後,担保物件の有無,金融商品の差異にかかわらず,
被害額に応じた一律の按分配当を行った。本件のようなモーゲージ証書形式の抵
当証券売買では,抵当証券上の権利が移転しないのに移転するかのような取引約
款が存在し,現在も取引の根拠にされているところ,このような抵当証券取引は,
抵当証券会社・抵当証券保管機構・購入者の関係では,抵当証券が債務者や不動
産の明細が開示されないまま移転したものとみなされ(購入者は,このような関
係者以外からは抵当権付き債権者とはみなされない。),抵当証券会社の破綻後,
債務者や物件の明細との関連が強調され,抵当証券保管機構の弁済受領業務が始
まってから初めて,購入者が抵当証券上の権利者として取り扱われる関係になっ
ているが,購入者は,購入時に対象不動産が何かは分からないのが通常であるこ
とから,これまでの十数件の抵当証券被害においては,抵当証券業規制法の施行
の前後を問わず,破産裁判所の判断によって,抵当証券ごとの競売等による解決
を拒否し,購入者を一般債権者と解釈した上,一団の土地又は全物件を処分して
均一配当を可能にしてきた経緯があり,本件再生手続もほぼこれに近い解決方法
がとられたのである。
そのうち,抵当証券に係る担保物件からの回収についても,東京都に所在する
一部物件についてこそ被担保債権額の50パーセントを超える配当を得たものの,
それ以外はすべて50パーセント以下であり,最も購入者・購入額の多いゴルフ
場では約0.45パーセントから約4.61パーセントという極めて低率な配当
にとどまっており,平均で6.5749パーセントの配当にしかすぎない。また,
大和都市管財被害者弁護団が,同社役員の責任追及又は配当で受領した金額は1
億1625万円,同社従業員の責任追及で受領した金額は5215万円,元弁護
士・鑑定士の責任追及で受領した金額は4124万円であり,同弁護団の被害額
全体からすると,役員・従業員からの回収で0.27957パーセント,元弁護
士・鑑定士からの回収で0.06889パーセントにすぎない。
その結果として,原告らを含む被害者は,大和都市管財被害者弁護団から,平
成15年1月の第1回配当で被害額の1.9848パーセント,平成16年6月
の第2回配当で被害額の3.85049パーセント,平成18年10月の第3回
(最終)配当で被害額の2.90110パーセント,合計でも8.73639パ
ーセントの支払を受けたにとどまる。そして,本訴請求債権は別紙被害一覧表記
載の金額の半額を基本にして弁護士費用を加算したものであるから,上記各配当
の存在によっても請求金額が影響を受けることはない。
精神的損害(2)
原告らは,大和都市管財が近畿財務局長の適正かつ厳格な監督を受け,同社が
販売する抵当証券が適正かつ安全なものであると信用して,老後資金,生活資金
の貯えとして同社から抵当証券を購入したにもかかわらず,近畿財務局長は平成
6年ころから大和都市管財グループが大幅な債務超過にあり,抵当証券購入者が
被害を受ける蓋然性が高いことを認識しながら,十分な指導監督を行わなかった
だけでなく,平成7年業務改善命令を撤回し,平成9年12月22日には抵当証
券業の更新登録を拒否すべきであったのに,これを怠って本件更新登録を行い,
大和都市管財の抵当証券被害を放置し,原告らの命の次に大切な老後資金・生活
資金の大半を喪失させてしまったものである。また,被害者の多くが高齢者であ
り,大和都市管財の金融商品を購入するために投入した資金が水泡に帰し,年金
以外に今後収入を得るのが困難なことからすれば,被害者の悲嘆は図り知れず,
精神的うつ状態となって健康を損なった者,自殺を図った者もおり,その訴えは
切実である。また,被害者は単に大和都市管財の詐欺により財産的被害を被った
だけでなく,「欲をかいて損をした」「自己責任」などの第三者,傍観者からの
心ない批判,視線にもさらされ,二重の被害を受けている。さらに,本訴に先立
つ調停において,被告は何ら救済案を提示しないばかりでなく,大和都市管財に
対する監督内容についても一切説明をせず,本訴においても責任逃れの応答に終
始し,被告の監督行政を信用して大和都市管財の抵当証券を購入した原告らは,
三度目の被害を受ける結果となった。
このように,原告らの精神的な苦痛は極めて甚大であり,原告各人につき金1
0万円の慰謝料を請求する(別紙被害一覧表③欄)。
(3)弁護士費用
原告らは,包括的な被害救済を求めて民事調停を提起したが,被告は誠実な対
応を行わず,民事調停は不成立に終わった。そのため,原告らは,代理人弁護士
に委任して本件訴訟を提起せざるを得なかった。弁護士費用として,(1)及び
(2)記載に係る各損害の合計額の1割相当も,相当因果関係のある損害に含まれる
(別紙被害一覧表④欄)。
(4)原告らの被害実態及びその特徴
東京原告団のうち,大学(中退を含む)以上の学歴を有する者は全体の2
5パーセント,大和都市管財から抵当証券を購入した時の年齢は40歳以上
が約91パーセント,60歳以上が約48パーセントであり,預貯金など元
利金が保証されているもの以外の金融商品を購入した経験のある者は全体の
51パーセントである。また,購入動機について,国・財務局・法務局の監
督を信頼したことを明示するのは全体の約24パーセントであるが,老後資
金や元本保証を挙げる者も,抵当証券を安全確実と考えたこと,ひいては国
の監督を信頼していたものと考えれば,抵当証券の制度に対する信頼を挙げ
た者は全体の約73パーセントに及ぶ。また,平成10年以降に初めて大和
都市管財から抵当証券を購入したとする者が全体の約71パーセントを占め
ている。大和都市管財を知ったきっかけは,新聞広告等の媒体によるものが
約84パーセントである。
大阪原告団のうち,大学(中退を含む)以上の学歴を有する者は全体の2
1パーセント,大和都市管財から抵当証券を購入した時の年齢は40歳以上
が約95パーセント,60歳以上が約51パーセントであり,預貯金など元
利金が保証されているもの以外の金融商品を購入した経験のある者は全体の
約51パーセントである。また,購入目的については,預金と同様のものと
勧誘され,そのように信用して購入した者が圧倒的多数である。また,平成
10年以降に初めて大和都市管財から抵当証券を購入したとする者が全体の
約85パーセントを占めている。大和都市管財を知ったきっかけは,新聞広
告等の媒体によるものが約66パーセントである。
名古屋原告団のうち,大学(中退を含む)以上の学歴を有する者は全体の
26パーセント,大和都市管財から抵当証券を購入した時の年齢は40歳以
上が約75パーセント,60歳以上が約37パーセントであり,預貯金など
元利金が保証されているもの以外の金融商品を購入した経験のある者は全体
の56パーセントである。また,購入動機について,国・財務局・法務局の
監督を信頼したことを明示するのは全体の31パーセントであるが,老後資
金や元本保証を挙げる者も,抵当証券を安全確実と考えたこと,ひいては国
の監督を信頼していたものと考えれば,抵当証券の制度に対する信頼を挙げ
た者は全体の約72パーセントに及ぶ。また,平成10年以降に初めて大和
都市管財から抵当証券を購入したとする者が全体の94パーセントを占めて
いる。大和都市管財を知ったきっかけは,新聞広告等の媒体によるものが約
85パーセントである。
このように,大和都市管財を知ったきっかけは,大多数が新聞広告等(財
務局・法務局の信用を全面に押し出した内容となっている。)を目にしたこ
とによるものであり,抵当証券の購入に当たっては,広告に掲載された大和
都市管財の事務所宛てに電話又は資料取寄せの請求をしたところ,営業社員
の訪問により勧誘を受け購入に至っている。勧誘に当たっては,財務局の監
督,法務局による抵当証券発行が強調され,購入者のほぼ全員が,財務局・
法務局の監督・関与が大和都市管財が販売する抵当証券に対する信頼につな
がったと述べている。また,大和都市管財の販売する抵当証券は当時の預貯
金の金利等と比較すれば高金利ではあったが,年3ないし5パーセント程度
であり,投機的取引と思われるものではなかった上,高齢の購入者の大多数
は,低金利時代において,自らの老後生活を自らの力で乗り切るため,少し
でも有利な貯蓄方法を選択しようとした結果として大和都市管財の抵当証券
を購入したものであり,何ら批判されるような落ち度はない。
(被告)
仮に被告に損害賠償責任が生じるとしても,以下のとおり,原告らが主張す
る損害額を認定することはできない。
(1)財産的損害
ア本件更新登録がされなかった場合における原告らの予想損害額を原告ら
において控除すべきことについて
多くの原告らは,本件更新登録以前から大和都市管財の抵当証券を購入
し,その償還期限が平成10年以降に到来したのを機に,再度抵当証券を
購入している(いわゆる乗換え)ところ,このような原告らは,仮に本件
更新登録がされなかったとしても,その時点で保有していた抵当証券につ
いて,満額の償還を受けられないという損失を被ったはずである。また,
乗換えによる購入はしていなくとも本件更新登録の時点で抵当証券を保有
していたと認められる原告らは,仮に本件更新登録がされなかったとして
も,当該抵当証券について同様に相当程度の財産的損失を被ったと考えら
れる。そして,上記のような原告らは,本件更新登録が拒否されたとして
も,本件におけると同様の精神的苦痛を受け,本件とそれほど変わらない
弁護士費用の支出を余儀なくされたであろうと推測することができる。し
たがって,原告らの損害額の算定に当たっては,まず,本件更新登録時点
で抵当証券を保有していた原告らとそうでない原告らとに区分し,保有し
ていた原告らについては,平成9年12月に本件更新登録を拒絶した場合
に回収可能であったと見込まれる額と,平成13年の更新登録拒否により
現実に回収可能であった額との差額のみを本件更新登録と相当因果関係の
ある損害額とすべきであり,弁護士費用及び慰謝料については相当因果関
係が認められないというべきである。しかるところ,原告らは,原告らが
本件更新登録時において保有していた抵当証券の購入額を明らかにしてい
ないから,損害認定に必要な主張立証を尽くしていたとはいえないという
べきである。
この点,原告らは,大阪原告団については,原告A2を除き,本件更新
登録以後に新規に投入した資金で大和都市管財から抵当証券を購入した旨
主張する。しかしながら,甲A218号証の2によれば,同号証添付の別
紙一覧表に「新規」「追加」と記載がある原告らについても,過去に大和
都市管財と取引があるにもかかわらず「新規」に区分されている場合や,
「追加」に該当する抵当証券購入時に過去の満期償還金と新規資金とを併
せて出捐している場合があるため,それらの原告らが本件更新登録後に新
たに全額について金銭を出捐して抵当証券を取得した者である(すなわち,
乗換購入に係る取得金額はない)旨100パーセント保証することはでき
ないというのであり,現に,東京原告団は,甲A637号証の2添付の別
紙一覧表に「追加」とある者についても乗換えを行った者がいることを自
認しているのである。同様に,甲A388号証の2の別紙一覧表の区分か
らも,名古屋原告団の主張する抵当証券取得額のうちに乗換えに係る部分
がないとの立証もされていない。また,原告らのいう乗換えと「新規」な
いし「追加」との区分の基準が「新たな抵当証券の購入がそれまでに購入
していた金融商品の償還と同時にされたものか否か」によるものであると
すれば,本件更新登録時に購入済みであった抵当証券の償還を受けた後,
しばらく期間を置いてから再度抵当証券を購入した場合も「新規」ないし
「追加」に区分されることになってしまい,本件更新登録との間に相当因
果関係を欠く損害が含まれることになるから,上記のような基準は失当で
ある。
加えて,原告らは,乗換えによる購入をした者であっても,抵当証券を
保有していたことにより現実に損害を生じた旨主張するが,不法行為にお
ける損害は,不法行為がなかったとした場合の利益状態と,不法行為の結
果としての利益状態との差額であって,抵当証券を保有していたという事
実から直ちに損害が肯定されるものではない。
さらに,原告らは,乗換えによる購入をした者であっても,本件更新登
録がなければ購入はしておらず,その場合,基本的には償還を受けている
はずであって,本件更新登録がされなかった場合に生じたであろう損害に
ついては被告に立証責任がある旨主張する。しかしながら,本件更新登録
がなければ,原告らの主張によればその時点で大和都市管財が破綻してい
たことは明らかであり,償還を受けているはずとの想定は成り立たない上,
損害の発生や金額,行為と損害との因果関係は賠償を求める権利の発生原
因事実であるから,賠償を求める者において主張立証すべきであり,本件
においては,平成9年12月時点で大和都市管財に係る抵当証券業規制法
上の更新登録が拒否されていれば損害額が少なくて済んだという事情が認
められて初めて相当因果関係のある損害の存在が肯定されるのであり,そ
のような事情は原告らが主張立証責任を負うべきものである。
また,原告らは,平成9年以降の被害の急拡大に照らせば,平成9年1
2月に更新登録を拒否しておけば,現在より損害額は大幅に少額であった
ことは明白である旨主張する。しかしながら,平成9年3月期における大
和都市管財の貸借対照表によれば,同期における売渡抵当証券額は約47
9億円であるのに対し,平成12年3月期における同社の貸借対照表によ
れば,同期における売渡抵当証券額は約470億円とむしろ減少している
のであって,少なくとも抵当目的物からの優先弁済による回収額という点
では平成9年当時と平成13年当時とで大きな違いがあるとは考え難い。
結局,平成9年以降の被害の急拡大とは抵当証券以外の商品に係るもので
あり,その多寡は抵当証券購入者にとっては一般債権者として弁済を受け
得る額に影響を与えるにすぎないのであって,大和都市管財グループの資
産のほとんどが不動産であることにかんがみればその影響は極めて小さい
と推測されるから,原告らの上記主張は失当である。
イ担保不動産の換価により配当されるべきであった金額及び倒産処理手続
によって配当されるべき金額(回収可能額)を控除すべきことについて
原告らの財産的損害額は,抵当証券の購入金額から担保不動産の換価に
より優先的に弁済を受け得る金額を控除し,更にその残額について一般債
権者として倒産手続において配当されるべき金額を控除した金額になるこ
とは明らかである。しかるところ,本件においては,各原告について,そ
の保有していた抵当証券の抵当不動産から優先弁済を受け得た金額を明ら
かにする必要があると解されるにもかかわらず,原告らがこの点に係る主
張立証を尽くしているとはいえない。
この点,原告らは,合計でも8.73639パーセントの被害回復しか
されていないところ,本件委任契約に基づけば,これだけが控除すべき回
復額である旨主張する。しかしながら,本件委任契約は,原告らに現実に
生じた損害の填補を行うというより,大和都市管財グループからの配当及
び関係者に対する責任追及を通じて基本的に平等に救済を受けることを前
提としている上,実際の大和都市管財の再生手続においても,抵当証券保
有者が優先弁済を受け得る融資先のグループ各社が所有していたと思われ
る不動産の処分代金19億7200万円が主要な配当原資の一つとされ,
金融商品の性格を問わず平等に弁済がされているようである。そうすると,
原告らが主張する回復率は,抵当証券購入者が担保不動産の換価により優
先的に弁済を受け得たにもかかわらず,それを放棄して他の商品の購入者
に弁済額を分配した結果というべきであるから,原告らが換価により本来
弁済を受けられたはずの金額と実際の配当により得た利益との差額を被告
が賠償する法的根拠はないというべきである。現に,大和都市管財が販売
した抵当証券の中には,担保不動産の換価代金から57パーセントを超え
る回収ができたものも存するのである(甲262号証の1)。また,原告
らは,本件委任契約に基づいて,回収額の中から原告代理人らに対して手
数料及び報酬を支払っているが,原告らは本件訴訟において別途弁護士費
用を請求しているから,手数料及び報酬を回収額から控除することも相当
ではない。
ウ本件更新登録以降に受領した利息を控除すべきことについて
原告らは,本件更新登録以降も,購入した抵当証券に係る高利の利息を
受領しているところ,本件更新登録がされなければ,それ以降の利息を受
領することはできなかったはずであるから,本件の損害額を算定するに当
たっては,本件更新登録以降に受領した利息は,損益相殺として損害額か
ら控除されるべきである。なお,損益相殺は,過失相殺後にされるべきで
あることは当然である。
(2)精神的損害
財産権が侵害された場合には,その財産的損害が賠償されれば,特段の事
情のない限り精神的損害も回復すると解されるところ,本件において特段の
事情は認められないから,原告らが求めている慰謝料の請求は失当である。
(3)弁護士費用
原告らは,請求額の1割の弁護士費用を請求しているが,原告らは,原告
ら代理人との委任契約において,報酬については回収額の3パーセントとす
ることについて合意しているから,本件と相当因果関係のある弁護士費用は
認定損害額の3パーセントとすべきである。
(4)過失相殺
抵当証券は,特約付き融資先の返済能力に係るリスク,抵当権の目的であ
る不動産等の価値下落に係るリスク,一般に抵当証券の買戻しを約定し,元
利金の返済を保証している抵当証券業者の支払能力に係るリスクを有する一
方,銀行預金等と比較して高めの金利が設定されているという,いわゆるハ
イリスク・ハイリターンの商品である。しかも,本件更新登録以前において,
既に抵当証券業者を含めた金融機関が複数破綻している状況であった上,抵
当証券業規制法では抵当証券業者及び購入した抵当証券に係る情報開示につ
いての定めがあり,これに基づいて顧客は抵当証券業者の財務状況等を閲覧
することができ,抵当証券の購入者も担保物件の明細及び債務者の住所氏名
を知ることができた。加えて,抵当証券取引証・保管証の裏面をみれば,抵
当証券業協会の苦情相談窓口の電話番号が明記してあり,抵当証券の購入者
は,抵当証券について疑義があれば,そこに電話することによって回答を得
られることも容易に知ることができた。したがって,大和都市管財の抵当証
券についても,原告らが大和都市管財の社員の説明を鵜呑みにすることなく,
自ら慎重に検討した上で高リスクを考慮してその購入を控え,又は購入した
抵当証券の中途解約を行うか若しくは(購入時期によっては)満期償還を受
けたとすれば,損害を回避することができたのである(現に,平成7年8月
末の木津信抵当証券等の破綻以降,大和都市管財に対する中途解約や満期償
還の件数が急増していたことがうかがわれる。)。
しかるところ,リスクのある金融商品に関しては,たといそれを販売した
業者が購入者に対して不法行為責任を負うとされる場合にも,リスクを確認
しなかった,又はリスクがあることを承知で取引に入ったことを理由に購入
者側に4割から5割の過失相殺を認めた下級審の判決があることに照らせば,
本件において被告は自ら違法な勧誘等を行って抵当証券を販売したものでは
なく,抵当証券業者の監督をしていたにすぎないことにかんがみ,そのよう
な監督者と購入者の過失割合の判断に当たっては購入者の過失をより大きく
考慮するのが相当であるから,少なくとも5割以上の過失相殺がされるべき
である。
第4争点に対する判断
1争点1(原告らは,近畿財務局長の大和都市管財に対する本件更新登録につ
いて国賠法上の違法をおよそ問い得るか。問い得るとする場合,その判断基準
は何か。)について
(1)いわゆる職務行為基準説について
国賠法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が職務
を行うについて故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは国又
は公共団体が賠償責任を負う旨定めるが,上記の違法性は,公権力の行使に
当たる公務員の行為(不作為を含む。)によって国民が被ったとする損害を
填補する責任をだれに負わせるのが公平かという見地に立って総合判断した
上で決すべきものである。したがって,違法な行政処分を理由とする国家賠
償請求における違法性の存否も,当該行政処分に係る法的要件の存否に限ら
ず,条理を含むそれ以外の諸種の要素をも考慮の対象とした上で,究極的に
は,公務員が当該行政処分を行ったことによって国民に損害を加えたことが
法の許容するところであるかどうか,という見地からする行為規範違反性の
判断に帰着すると解される。具体的には,当該行政処分の法的要件が充足さ
れていなかったことのみならず,当該行政処分に係る権限を定めた法令の趣
旨,目的やその権限の性質,当該行政処分自体及びそれに至る過程において
行政庁の有する裁量の有無及びその広狭,侵害行為の態様及びその原因,並
びに侵害されたとする利益の種類,性質(殊に,被侵害者において当該不利
益を回避することができたであろう可能性の高低)及びその侵害の程度等に
照らし,当該行政処分を行う公務員が,それによって損害を受けたと主張す
る個別の国民との関係で,当該行政処分を行ってはならないという職務上の
注意義務を負っていたにもかかわらず,その義務に違反して当該行政処分を
行ったと評価することができる場合に,初めて当該行政処分の国賠法上の違
法性が肯定できるというべきである。
(2)更新登録の国賠法上の位置付け
本件において,原告らは,平成9年当時,大和都市管財は,抵当証券業規
制法6条1項7号所定の財産的基礎及び人的構成を欠き,かつ,本件貸借対
照表等に虚偽の記載をしていたから,近畿財務局長は同社の申請に係る更新
登録を拒否しなければならなかったにもかかわらず,違法に本件更新登録を
行った旨主張している。しかるところ,抵当証券業規制法は,抵当証券業は
大蔵大臣の登録を受けた法人でなければ営んではならないとする(3条)一
方で,同条の登録を受けようとする者が登録申請書等を大蔵大臣から委任を
受けた財務局長等に提出(4条)した場合においては,財務局長等は,同法
6条1項柱書及び各号の規定による登録拒否事由があると認められるのであ
れば当該申請者の登録を拒否しなければならないが,そうでない限り当該登
録申請者を抵当証券業者登録簿に登録しなければならないとしており(5条
1項),これらの規定は,更新登録にも準用されている(8条2項)。同法
の上記のような定めに照らせば,財務局長等による更新登録及びその拒否は,
当該抵当証券業者が引き続き適法に抵当証券業を営むことができるか否かを
決することになるから,これらが行政処分に当たることは明らかであり,こ
の処分を通じて,財務局長等は,抵当証券業者及び抵当証券業の登録申請者
に対し,抵当証券業への参入の許否を決する規制権限を行使しているもので
ある。そして,更新登録及びその拒否は,いずれも抵当証券業者の更新登録
申請に対する応答としてされるものであり,財務局長等は当該申請に対して
更新登録をするかこれを拒否するかを選択した上でいずれかの処分をするほ
かないのであるから,両者は表裏一体の関係にあるが,更新登録を行うとい
う財務局長等の判断は,当該登録申請者には更新登録拒否事由がないとの判
断を当然に包含するのであって,抵当証券業への参入を拒否する方向での規
制権限を行使しないという実質を有するものであるから,これを財務局長等
の作為(更新登録)と捉えるにせよ不作為(更新登録拒否の拒絶)と捉える
にせよ,抵当証券業への参入に対する規制権限の不行使という性格を有する
ことは否定することができない。しかるところ,国又は公共団体の公務員に
よる規制権限の不行使は,その権限を定めた法令の趣旨,目的や,その権限
の性質等に照らし,具体的事情の下において,その不行使が許容される限度
を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは,その不行使により被害
を受けた者との関係において,国賠法1条1項の適用上違法となるものと解
される(最高裁昭和61年(オ)第1152号平成元年11月24日第二小
法廷判決・民集43巻10号1169頁,最高裁平成元年(オ)第1260
号同7年6月23日第二小法廷判決・民集49巻6号1600頁,最高裁平
成13年(オ)第1194号,第1196号,同年(受)第1172号,第
1174号同16年10月15日第二小法廷判決・民集58巻7号1802
頁参照)。したがって,更新登録に係る財務局長等の規制権限の不行使につ
いても,その権限を定めた法令の趣旨,目的や,その権限の性質等に照らし,
具体的事情の下において,その不行使(更新登録を行うこと)が許容される
限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは,職務上通常尽くす
べき注意義務を尽くすことなく漫然と更新登録をしたものとして,これによ
り被害を受けた者との関係において,国賠法1条1項の適用上違法となると
解すべきである。そこで,以下において,本件更新登録が上記のような意味
における国賠法上の違法性を備えているか否かを具体的にいかなる枠組みで
判断すべきか検討することとする。
(3)本件更新登録に係る近畿財務局長の職務上の注意義務違反の判断基準
ア抵当証券業規制法の趣旨及び目的並びに更新登録の性質
前記のとおり,抵当証券業規制法は,抵当証券業を営む者について登録
制度を実施し,その事業に対し必要な規制を行うことにより,その業務の
適正な運営を確保し,もって抵当証券の購入者の保護を図ることを目的と
し(1条),悪質業者や抵当証券業務を適確に遂行する能力を有していな
い業者の参入を規制するために登録制度を設けている(第2章)。そして,
(更新)登録拒否事由は6条1項各号に列挙されているところ,いずれも
原則として登録申請書及び添付書類のみから客観的に判断し得る事由であ
るから,これらは,財務局長等による参入規制権限の行使に対する抵当証
券業者や抵当証券業を営もうとする者の予測可能性を担保しつつ,悪質業
者や財務基盤等の十分ではない企業の抵当証券業への参入を可及的に排除
しようとする趣旨のものと解される。殊に,同法が定める監督権限は,既
に登録されている抵当証券業者のみを対象としていることが規定上明らか
である点に照らすと,財務局長等が最初に申請者の登録を認めるか否かを
判断するに当たっては,当該申請者の登録申請書及び添付書類のみをその
資料とせざるを得ないことが明らかである。以上に加えて抵当証券業の規
制等に関する法律案の国会における審議経過を併せ考えると,前記のとお
り,抵当証券業規制法は,モーゲージ証書を用いた販売方式を含む抵当証
券の販売業(抵当証券業)が営業の自由の保障の下にあることを前提に,
抵当証券業者の営業の自由を可能な限り尊重し,制度の効率性を維持しつ
つ,その業務の適正な運営を確保し,もって抵当証券の購入者の保護を図
るという立法目的を達成するために必要最小限の規制を行う趣旨から,開
業規制として登録制を採用したものであると解される。そして,同法6条
1項7号の登録拒否事由(抵当証券業を適確に遂行するに足りる財産的基
礎及び人的構成を有しない法人)は,抵当証券業者が抵当証券を投資家に
販売する際に多くの場合保証をしている実情にかんがみ,抵当証券の購入
者の保護の観点から,抵当証券業者の財産的及び人的基盤を確保する趣旨
に出たものであり,当該事由の該当性の有無については,会計学上の概念
である資本欠損の有無等という客観的,外形的な基準によりみていくこと
を予定しているものと解される。
また,同法は,登録を受けた抵当証券業者に対し,一定の類型の行為を
禁止するとともに,抵当証券業者の情報開示を行わせるべく行為規制を定
め(第3章),上記のような開業規制・行為規制を実効あるものとするた
めに財務局長等に対して立入検査,業務改善命令,業務停止命令及び登録
取消し等の権限を付与し(第4章),これらの規制権限をさらに罰則によ
って担保している(第8章)。しかるところ,同法第3章が定める行為規
制は,登録制度の潜脱を防止するためのものとみられる規定(12条(標
識の表示),13条(名義貸しの禁止)),カラ売りや二重売り等,同法
施行前に典型的にみられ,同法制定の契機となった詐欺的商法を直接防止
するための規定(18条(抵当証券の保管の禁止等))のほかは,抵当証
券を購入し,又は購入しようとする者に対する情報開示のための規定(1
5条(契約締結前の書面の交付),16条(契約締結時の書面の交付),
17条(書類の閲覧))及び抵当証券を購入し,又は解除しようとする者
が瑕疵のない意思に基づいてこれを行うことを確保するための規定(14
条(広告の規制),19条(禁止行為))で占められている。これらの規
定内容等に加え,既に摘示したとおり,同法の制定に向けた議論の中で購
入者の自己責任を問う前提として情報開示に関する規定を整備すべきであ
る旨の見解が主流となっていたことも併せ考えると,同法が定める抵当証
券業者に対する行為規制は,抵当証券業者から交付されるモーゲージ証書
に法務局から発行された抵当証券の裏付けが存在することを最低限確保し,
実効ある登録制度によって問題のある業者を可及的に排除した上で,個々
の顧客が抵当証券を購入するか否かを自己の自由な判断と責任において決
する機会を保障することを通じてこれを保護することを目指したものであ
って,金融商品としての抵当証券が本来的に内包するリスクを財務局長等
による行為規制を通じて減少させることをその直接の目的としているとま
では解し難い。また,同法第4章が定める監督権限は,財務局長等が,抵
当証券業者の業務に関する資料を収集し(20条(業務に関する帳簿書
類),21条(事業報告書の提出),22条(立入検査等)),抵当証券
業者の更新登録申請書及びその添付書類がある場合にはこれも参考にしつ
つ,更に可能であれば任意に当該業者から資料の提出を受けた上で,当該
抵当証券業者が①事後的に6条1項各号に列記された登録拒否事由の一
部,すなわち,資本若しくは出資の額が1億円を下回るとき(2号),他
の抵当証券業者と誤認されるおそれのある商号若しくは名称等を用いよう
としているとき(3号),抵当証券業規制法若しくは出資法により罰金の
刑に処せられたとき(5号)若しくは役員や重要な使用人のうちに破産者
で復権を得ないもの,禁錮以上の刑に処せられた者その他一定の要件に該
当する者がいるとき(6号),に該当することとなったとき,②不正の
手段により登録若しくは登録更新を受けたとき,又は③抵当証券業規制
法若しくは同法に基づく命令若しくはこれらに基づく処分に違反したとき
は,登録取消し又は6月以内の業務停止を命ずることができるとしている
(24条1項)。他方,同法は,6条1項7号の登録拒否事由(抵当証券
業を適確に遂行するに足りる財産的基礎及び人的構成を有しない法人)に
ついて,24条1項の登録の取消し又は業務の全部若しくは一部停止の要
件として規定していない。その趣旨については,抵当証券業者の財務内容
や人的構成は業務の遂行過程で常時変動し得るものであることにかんがみ,
行政側の事務負担や確認を受ける事業者の立場等をもしんしゃくして,登
録の有効期間を通じて抵当証券業を適確に遂行するに足りる財産的基礎及
び人的構成が確保されていることまで要求せず,原則として更新の登録の
際にその具備の有無を審査すれば足りるものとし,ただ,登録の有効期間
中であっても,財産的基礎又は人的構成を欠くことにより抵当証券の購入
者の利益を害するに至っていると認められるときは,23条の規定に基づ
く業務改善命令をすることができるものとし,もって抵当証券の購入者の
保護を図ろうとしたものであると解される(実質的にみても,財産的基礎
や人的構成が欠けたときに直ちに業務停止等の措置を講じるべきこととす
れば,当該業者がその時点で破綻することにより,それまでに当該業者か
ら抵当証券を購入した者の利益をかえって害することになりかねない。)。
このような抵当証券業規制法による規制の仕組みに照らすと,同法の定
める登録制度は,その目的は抵当証券の購入者の保護にあるものの,その
ために抵当証券業者や抵当証券業を営もうとする者の営業の自由を過度に
犠牲にすることまでは志向していないものと解されるから,登録主体であ
る財務局長等が,抵当証券の購入者に対し,当該抵当証券を販売すべき抵
当証券業者の財務基盤や企業としての誠実性・廉潔性につき,その欠如が
外形的に明らかでない場合にまでその存在を一般的に保証するとの趣旨は
有していないものと解される。そして,抵当証券業者の財産的基礎及び人
的構成については,同法は,抵当証券業者が抵当証券を投資家に販売する
際に多くの場合保証をしている実情にかんがみ,抵当証券業者の財産的及
び人的基盤を確保することによって抵当証券の購入者の保護を図る趣旨か
ら,その欠缺を抵当証券業の登録及び更新登録の拒否事由として規定して
いるものの,その該当性の有無については会計学上の概念である資本欠損
の有無等という客観的,外形的な基準によりみていくことを予定している
上,登録の有効期間中を通じて抵当証券業を適確に遂行するに足りる財産
的基礎及び人的構成が確保されていることまで要求せず,ただ,登録の有
効期間中であっても,財産的基礎又は人的構成を欠くことにより抵当証券
の購入者の利益を害するに至っていると認められるときは,購入者の保護
のため必要な限度において監督処分としての業務改善命令をすることがで
きるものとするにとどめていることが明らかであり,財務局長等がその指
導,監督等により抵当証券業者についてその抵当証券業を営んでいる全期
間を通じて抵当証券業を適確に遂行するに足りる財産的基礎及び人的構成
の確保を図っていくことは,同法のおよそ想定するところではないという
べきである。
イ更新登録自体及びそれに至る過程において近畿財務局長の有する裁量の
有無及びその広狭
前記のとおり,抵当証券業規制法8条1項,6条1項が定める更新登録
拒否事由は,いずれも客観的かつ外形的な基準によって判定することが可
能である。しかしながら,基準自体がいかに明確であっても,これに当て
はめるべき事実の認定が常に容易であるとは限らず,例えば,財産的基礎
の要件の判断については,これを基本事項通達の定めるように会計学上の
概念である資本欠損の有無でみるとしても,資産の合計額から負債の合計
額を控除して純資産額を算出する過程において必然的に会計学的な判断が
必要となることに照らし,その認定(後記のように「公正ナル会計慣行」
に照らして判断すべきであるが,その内容は必ずしも一義的に明確ではな
い。),並びにその認定に当たって必要とされる資料の範囲の確定及びそ
の調査方法については財務局長等の専門技術的判断に基づく合理的裁量に
ゆだねざるを得ないものと考えられる(もっとも,基本事項通達は,財産
的基礎を具備しているとは,当該業者が「貸借対照表において」資産の合
計額から負債の合計額を控除した額が資本の額以上であることを指すとし
ており,これが常に登録申請者の提出する貸借対照表上の計算で足りると
いう趣旨であればその内容は常に一義的に明確であることになるが,被告
も財務局長等が立入検査等により別途把握した事実をもって更新登録申請
者から提出された貸借対照表の記載を否認する可能性を認めており,後述
のとおり,被告の上記解釈はこの限度で正当と認められる。)。現に,抵
当証券業規制法は,抵当証券業者に対し,その業務若しくは財産に関して
報告若しくは資料の提出を命じ,又は当該職員に,抵当証券業者の営業所
若しくは事務所に立ち入り,その業務若しくは財産の状況若しくは帳簿書
類その他の物件を検査させ,若しくは関係者に質問させることができる
(22条1項)とするものの,その具体的な方法については同法はもとよ
り法施行令・法施行規則にも規定がないし,財務局長等がこれとは別に,
任意に上記規定の対象とならない資料の提出を受けることも当然適法と解
される。また,財務局長等による監督権限の行使は,その対象となる抵当
証券業者にとっては不利益処分となり得る上,その内容によっては既存の
一般取引者の利害にも必然的に影響を与えるから,行政法の一般原則に従
い,必要かつ合理的と認められる限度で行使される必要があり,その適合
性についての判断も,第一次的には財務局長等によって行われる必要があ
る。加えて,証拠(乙142ないし145,証人Y26,同Y28,同Y
17,同Y14,同Y4)によれば,近畿財務局において,平成9年ころ,
大和都市管財を含む管轄下の抵当証券業者に対する日常的な監督業務を担
当していた金融第3課では,課長,上席調査官,担当調査官及び課員の4
名が,他のいわゆるノンバンク等の監督と掛け持ちでその任に当たってお
り,同課を大蔵本省において指導していた本省金融会社室では,主に,抵
当証券業を担当する係長と自治省からの出向者である課長補佐の2名が,
必要に応じて上司に相談・報告しつつ,近畿財務局に対して主に法的な観
点から助言を与えたり,時に個別の指示を出すなどの体制で臨んでいたも
のと認められるところ,そのような限られた人的体制をその所管事務の一
つにすぎない大和都市管財の監督のみに当てることは到底不可能であるか
ら,同社に対する監督権限行使の適切性は,このような人的・物的制約と
いう文脈の中で検討される必要があるというべきである。
したがって,登録拒否事由については,その要件を具備しているか否か
に係る財務局長等の判断それ自体について裁量が認められる余地はほとん
どないといえるものの,更新登録時までに財務局長等がその認定の用に供
するために収集した資料の範囲や資料の収集方法が相当であったか否かに
ついては,裁判所は,財務局長等がその選択や時期等について専門技術的
判断に基づく裁量権を有することを前提に,監督対象である抵当証券業者
の正当な利益をも考慮に入れ,かつ,財務局長等による監督権限の行使に
人的・物的制約等が伴うことをも念頭に置いて判断することが必要という
べきである。
ウ侵害行為の態様及びその原因
本件更新登録は,更新登録申請者である大和都市管財に対してされたも
のであるが,原告らは,それによって同社が抵当証券業を登録業者として
適法に業務を継続することを許されたために,同社から抵当証券を購入し
たところ,同社がその後に破綻した結果,購入額相当の損害等を被った旨
主張している。このように,原告らが主張する近畿財務局長による侵害行
為とは,大和都市管財による抵当証券の販売行為を介していわば間接的に
財産的損害を発生させたというものであって,原告らの主張によっても,
原告らに財産的損害をもたらした第一次的な責任が大和都市管財にあるこ
とは明らかであり,このような財産的損害は,現行法秩序の下においては,
債務不履行,不法行為などといった民事的方法により填補されるべきこと
が予定されているものというべきである。このことに加えて,既に説示し
た抵当証券業者の財産的基礎及び人的構成に係る抵当証券業規制法の規制
の趣旨,内容,性質をも併せ考えると,近畿財務局長は,購入者の利益を
保護する目的を有する同法の下で与えられた監督権限や登録制度等の適正
な運用を通じ,大和都市管財から抵当証券を購入する者が負担するリスク
を同法の許容する範囲内にとどめるように努力すべき責務を有していたと
解されるものの,上記のような責務を果たすに際して近畿財務局長が大和
都市管財から抵当証券を購入する個々の国民との関係において負っていた
職務上の注意義務の程度を高度なものと観念することができないのは明ら
かというべきである。
しかしながら,仮に,当該抵当証券業者が架空融資に係る抵当証券の発
行を繰り返した上,後の抵当証券の販売代金でもってそれに先行する抵当
証券の利息ないし償還金の支払を行うなどの詐欺的商法を組織的かつ継続
的に行っている場合など,近い将来においてそうした商法が行き詰まって
破綻する危険性が切迫しているような場合には,今後当該業者から抵当証
券を購入する者は中途解約等によってその危険性を回避する間もなく損害
を被る可能性が非常に高く,その保護を図る必要性が飛躍的に高まるとい
うことができるから,財務局長等において上記のような具体的危険性を示
す有力な徴表の存在を把握し,又は把握し得たような場合には,財務局長
等に更新登録に係る規制権限を付与した抵当証券業規制法の趣旨,目的に
照らしても,財務局長等には,更新登録後に抵当証券を購入すべき個々の
国民との関係において,更新登録申請の適否を所与の人的,物的制約の下
において同法によって与えられた権限を適切に行使して審査し,その結果
として当該業者に更新登録拒否事由を認定することができる場合には,当
該業者の更新登録を拒否すべき職務上の注意義務が発生するというべきで
ある。
エ原告らが侵害されたとする利益の種類,性質(殊に,原告らにおいて当
該不利益を回避することができたであろう可能性の高低)及びその侵害の
程度
原告らは,本訴において,主に平成10年以降に大和都市管財から購入
した抵当証券の購入相当額を損害として主張しているところ,これが財産
的利益に対する侵害であることは明らかである(原告らは,上記購入相当
額に加えて慰謝料各10万円をも請求しているが,原告らが受けたとする
精神的苦痛は,被告の大和都市管財に対する監督が不十分であったために
証券被害にあったことに起因するものと解されるから,少なくとも財産的
利益に密接に関連するものと評価することができる。)。そして,本件の
ように行政庁の権限の行使ないし不行使が問題となる場合において,一般
的には,行政庁の権限行使(又はその不行使)によって被った損害が財産
的利益に対するものであれば,生命や健康といった利益と異なり,その利
益の帰属主体が十分な注意を払うことによってその危険の発現を防止し得
る余地が大きいものと解され,これを行う第一次的な責任はその帰属主体
が負担するものというべきであるから,財産的利益の帰属主体が有する行
政庁に対する適切な権限行使への期待については,それが正当なものとい
えるか否かを慎重に検討することが必要となるというべきである。
もっとも,抵当証券業規制法は,抵当証券業者が破綻した場合には,そ
の債権の元本及び利息の弁済の受領を抵当証券保管機構に行わせることに
よって抵当証券購入者を事務的負担から解放しようとしている(28条1
項2号)ものの,その他に購入者を保護するための基金等の制度は何ら設
けていない上,抵当証券は預金保険制度の対象とならないことはもとより,
証券取引法に定める有価証券にも当たらないことから,投資者保護基金の
支払対象ともならない。また,抵当証券が表章する抵当権の担保としての
安全性の確保は,事実上抵当証券発行時において法務局に提出される不動
産鑑定士による鑑定評価書に依存しており(抵当証券法施行細則21条の
2),抵当目的物の担保価値をその後に再審査することにつき,抵当証券
法にも抵当証券業規制法にも特段の規定はない。加えて,同法が「顧客」
と「購入者」とを書き分けていることから推して,同法17条,平成10
年大蔵省令第89号による改正前の法施行規則14条1項によって事業報
告書の閲覧の機会を与えられている「顧客」には抵当証券をこれから購入
しようとする者も含まれることが明らかであるが,同法17条に規定する
「販売を行った抵当証券に関する書類」とは,法施行規則14条2項によ
って「当該販売を行った抵当証券の写し」とされているところ,両規定に
共通の「販売を行った」との文言(証拠(乙10)によれば,基本事項通
達第2,3.(3)は,「販売を行った」時期は,抵当証券の販売に係る購入
者が受け取る初回の利息の計算の始期をいうものとして取り扱う,として
いることが認められる。)に加え,抵当証券の券面に記載された前記各事
項には債務者等のプライバシーに関わるものがあること(既に説示したよ
うに,抵当証券法の施行後も抵当証券が長期にわたりほとんど流通しなか
ったことの一因は,債務者のプライバシーに対する懸念にあったのであ
る。)からみて,これを閲覧することができるのは購入者に限られている
ものと解されるから,抵当証券が表章する抵当権付き債権の債務者や抵当
目的物については,その購入に先立って知る機会は制度的に保障されてい
ないものと解するほかはない(甲41,195の7)。また,抵当証券の
購入者が,抵当証券(原券)の写しをその購入後に実際に閲覧したとして
も,それによって判明するのは債務者の住所及び氏名,抵当目的物の所在
等にすぎず,これらの記載のみから,小口の債権者を含む個々の購入者が
実際に被担保債権の収益性や回収可能性を確認するよう期待することは,
その手間や費用の点で非現実的というべきである。よって,抵当証券購入
者は,その償還財源としては,いずれもその購入前には知る機会が制度上
与えられておらず,購入後も抵当証券の券面の記載を通じてこれを推知す
る手掛かりが与えられるにすぎない①抵当証券が表章する債権に係る債
務者の資力及び②抵当証券が表章する抵当権の現時点における価値のほ
かは,③抵当証券の裏書人として担保責任を負う抵当証券業者の資力を
専らあてにするほかはなく,そのようなリスクを取る反面として比較的高
利の利息を享受することができるというのが,抵当証券業規制法の予定す
るリスクとリターンのバランスということができる。そうであるとすれば,
抵当証券を購入しようとする者は,一般的に,抵当証券業者が特約付き融
資を審査する十分な能力を持っており,万一融資先による債務不履行が生
じ,抵当権の目的物にも担保割れが発生した場合であっても,当該抵当証
券業者が元利金の支払を保証すると約束していることに対する高い期待を
有しているものと推認することができる。また,抵当証券業規制法も,広
告の規制(14条)を通じて抵当証券業者の資力及び信用に関する事項,
抵当証券に記載された債権の元本及び利息の支払の確実性又は保証に関す
る事項,抵当証券業者に対する推薦に関する事項等について,著しく事実
に相違する表示をし,又は著しく人を誤認させるような表示をしてはなら
ないとすることにより,一般公衆が抵当証券の安全性について誤った期待
を持つ可能性は排除しつつ,抵当証券の表章する抵当権付き債権自体の確
実性については,債務者や抵当権設定者のプライバシーに配慮し,ひいて
は抵当証券業者の営業の自由を過度に阻害しないようにするため,その開
示について慎重な姿勢をとる一方,抵当証券業者の資力や信用性について
は,登録制度に加えて情報開示の体制を整えることで,抵当証券の購入予
定者が抵当証券業者の資力や能力に対して有する前記のような強い期待を
前提にして,これに可及的に法的な裏付けを与えようとしているものと解
される。
加えて,モーゲージ証書の形式による抵当証券の販売を行っていた抵当
証券業者の大部分(大和都市管財を含む。)は,その購入者に対して元利
金の支払を保証しており(証拠(甲39,47,205)によれば,抵当
証券業協会は,抵当証券業者による元本保証及びその旨の表示が許容され
ることは抵当証券業者の営業政策上非常に重要であると認識していたこと,
同協会が定めた標準的販売約款7条にも元利金保証の条項があることが認
められる。),また多くの場合は中途解約にも応じていたのであって(前
掲標準的販売約款13条にもその旨の規定がある。),顧客にとっては抵
当証券の債務者の信用や抵当不動産の担保価値と並んで,又はそれ以上に
抵当証券業者自身の財産的信用や融資審査能力が重視されていると解すべ
きである。
そうすると,抵当証券業規制法の定める購入者保護制度の中でも,顧客
に対して事業報告書(その様式は法施行規則別紙様式第10号のとおりで
あり,①業務開始年月日,②当期の業務概要,③株主総会等の決議
事項の要旨,④役員及び使用人の状況,⑤営業所又は事務所の状況,
⑥抵当証券業の現況,⑦貸借対照表,⑧損益計算書,⑨利益金処
分及び⑩損失金処理の各事項について各期ごとに記載すべきものと定め
られている。)の閲覧の機会を保障する仕組み(同法17条,平成10年
大蔵省令第89号による改正前の法施行規則14条1項)は重要な地位を
占めるものというべく,この保障が不十分である場合には,同法が購入者
の自己責任を問う前提として整備している情報開示制度の根幹が揺らぐこ
とになるというべきである。なぜなら,仮に抵当証券業者が備え置いてい
る事業報告書の内容に,当該業者の財産的基礎や人的構成等をその実体以
上に良く見せるような記載がされていた場合,当該事業報告書を事前に閲
覧した上で抵当証券の購入を決断した慎重な顧客が,そうでない顧客より
も将来において財産を失う危険をより大きく負いかねないという背理を生
じ,これは,同法が許容する以上のリスクを顧客の側に負担させるととも
に,同法が予定するリスクとリターンのバランスを破綻させるというべき
だからである。もとより,財務局長等は,登録業者の財務基盤等を顧客に
対して一般的に保証する立場にないのと同じく,その事業報告書の正確性
についても保証するものではないし,通常はその内容に不備がないものと
解してよいものと思われるから,抵当証券業者に不正確な事業報告書を備
え付けさせていたことのみをもって直ちにその職務上の注意義務違反を認
めることができないのは明らかである。しかしながら,事業報告書の閲覧
の機会の保障が購入者保護制度に占める重要性に照らすと,事業報告書に
上記のような虚偽記載等が含まれていた場合には,顧客に自己責任を問う
ために抵当証券業規制法が予定している制度的前提は既に崩れているので
あるから,当該抵当証券業者から抵当証券を購入し,その後に当該抵当証
券業者が破綻したことによって損害を被った個々の購入者は,当該抵当証
券業者の事業報告書を現実に閲覧したか否かにかかわらず,具体的事情の
下ではなお救済の対象となり得るものと解される。実質的にみても,顧客
が,自分より専門的知識があると目される他の顧客による商品購入行動に
触発されて同様の商品を購入することはしばしば経験されるのであって
(甲215参照),抵当証券についても,そうした購入行動の連鎖を通じ
て当該抵当証券業者の信用が形成されていくものと解されることにかんが
みれば,個々の購入者が抵当証券の購入に先立って事業報告書を現実には
閲覧していなかったとしても,それをもってその購入と事業報告書上の記
載との因果関係が直ちに切断されると解することはできない。
したがって,抵当証券業規制法の下では,抵当証券を購入し,又は購入
しようとした者に対し,同法が予定している情報開示がされている場合に
は,抵当証券の自由金利による利得と,抵当証券業者がその後に破綻する
ことによって損失が生じる可能性とを勘案する機会を与えられた上で当該
抵当証券を購入するか否かの判断を行った顧客自身が,その最終的な結果
に対して責任を負うべきであるということができるが,情報開示の程度が
同法が予定する水準にまで達しておらず,上記のような判断を顧客に求め
るための制度的前提が欠けていると解される場合には,単に当該顧客の受
けた被害が財産的損害にとどまることのみをもってしては,財務局長等は
その権限行使の結果につき責任を免れるものではないと解すべきである。
殊に,証拠(乙22)によれば,遅くとも平成9年10月の段階で,近畿
財務局においても,抵当証券業規制法の下において,債務者及び担保につ
いて抵当証券の購入前に情報開示が保証されていないことが,クーリング
オフ制度が存在しないことや,債務者の経営が悪化し又は担保割れが生じ
ている抵当証券が販売されていることと並んで制度上の問題として意識さ
れていたことが認められ,近畿財務局のこうした認識を背景とすれば,少
なくとも,抵当証券の潜在的な購入者を同法が制度的に許容している範囲
を超えるリスクにさらすことに対しては,近畿財務局長は,その監督権限
を適時かつ適切に行使することが期待されていたというべきである。
オ小括
以上によれば,財務局長等は,更新登録の可否を決するに当たっては,
原則として更新登録申請書及びその添付書類の記載に照らして登録拒否事
由の有無を判断すれば,結果的にその判断が誤っていたとしても,直ちに
個々の抵当証券購入者との関係で職務上の注意義務違反に問われることは
ないというべきである。しかしながら,財務局長等が慎重な審査を怠って
安易に更新登録を行い,それが更新登録に係る財務局長等の権限を定めた
抵当証券業規制法の趣旨,目的や当該権限の性質等に照らし,具体的事情
の下で許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと判断される場合に
は,当該更新登録は財務局長等の職務上の注意義務違反の結果と捉えられ
るから,これによって抵当証券業の継続を認められた抵当証券業者から抵
当証券を購入した者が,後に当該抵当証券業者に係る登録拒否事由が顕在
化したことによって損害を被ったときは,財務局長等の帰属主体である被
告は,当該損害を賠償すべき国賠法上の義務を負うものと解すべきである。
そして,財務局長等による当該更新登録が著しく合理性を欠くといえる場
合とは,例えば,①当該抵当証券業者が破綻する危険性が切迫している
ことを示す具体的な徴表を財務局長等において把握し,②当該抵当証券
業者が提出していた事業報告書の内容も真実と異なるために潜在的購入者
においてその危険性を認識することができる現実的可能性がなく,③抵
当証券業規制法において与えられた権限をその人的物的制約の下で適切に
行使すれば更新登録拒否事由の存在を容易に認定することができたにもか
かわらず,④財務局長等が当該事由の存在を看過して漫然と更新登録を
行ったような場合をいうものと解すべきである。
(4)被告の主張について
これに対し,被告は,抵当証券業規制法は,免許制が採用されている銀行
等に対するものと比較すると,抵当証券業者の営業の自由を可及的に尊重す
るため,登録制を始めとする必要最小限の規制しか認めておらず,その目的
もあくまで抵当証券業者の業務の適正な運営を確保することにあるのであっ
て,登録を受けた抵当証券業者の不正な行為により個々の抵当証券購入者が
被る具体的な損害の防止,救済を図ることを制度の直接的な目的とするもの
ではない旨主張する。
しかしながら,仮に被告の前記主張が,抵当証券業規制法上,個々の抵当
証券購入者の利益は抵当証券業者の業務の適正な運営が確保される結果とし
てもたらされる反射的利益にとどまり,同法により財務局長等に認められた
権限の行使ないし不行使については,それら個々の国民に対する関係におい
て職務上の義務違反を問われる余地はないとの趣旨であれば,既に説示した
とおり,同法は,抵当証券の購入者の保護を図ることをも目的として明記し
ている上(1条),抵当証券の購入者の保護の観点から,同法6条1項7号
の登録拒否事由(抵当証券業を適確に遂行するに足りる財産的基礎及び人的
構成を有しない法人)を定めたものと解されるのであって,登録更新に係る
財務局長等の規制権限を付与した同法の趣旨及び目的が抵当証券の購入者の
保護を図ることにあることは明らかであり,当該規制権限の行使によって保
護される抵当証券の購入者の利益が被告の主張するような反射的利益にとど
まるものでないことはいうまでもないから,被告の上記主張は,その前提に
おいて失当というほかない。
もっとも,前記のとおり,抵当証券業規制法は,モーゲージ証書を用いた
販売方式を含む抵当証券の販売業(抵当証券業)が営業の自由の保障の下に
あることを前提に,抵当証券業者の営業の自由を可能な限り尊重し,制度の
効率性を維持しつつ,その業務の適正な運営を確保し,もって抵当証券の購
入者の保護を図るという立法目的を達成するために必要最小限の規制を行う
趣旨から,開業規制として登録制を採用したものであり,同法6条1項7号
の登録拒否事由についても,その該当性の有無を会計学上の概念である資本
欠損の有無等という客観的,外形的な基準によりみていくことを予定してい
るものと解されるのであって,同法の定める規制権限が,銀行経営の健全性
及び適切性を確保する見地から,大蔵大臣に対して銀行経営に対する広範な
監督・規制権限を認め,取締役の兼職制限(24条1項),取締役又は監査
役の解任権限(27条)等まで定める平成10年法律第131号による改正
前の銀行法等におけるよりも限定的であることは被告の主張するとおりであ
る。そして,このような規制権限の内容及び性質等からすれば,抵当証券業
規制法は,更新登録に係る規制権限の行使によって保護される抵当証券の購
入者の利益については,これを当該抵当証券業者から抵当証券を購入し又は
購入するであろう者個々人の個別具体的利益として保護しているものと解す
るのは困難であり,これを専ら一般的公益の中に吸収解消させて保護する趣
旨のものであると解するのが素直である。
しかしながら,前記のとおり,国賠法の定める損害賠償制度は,公権力の
行使に当たる公務員の行為によって国民が被った損害の公平な分担という理
念に立脚する制度として規定されているのであって,当該公務員の行為が法
令に基づく規制権限の不行使である場合において,その権限を定めた法令の
趣旨,目的が国民の利益を一般的公益の中に吸収解消させて保護するものに
すぎず,また,当該権限の内容,性質が規制の客体の有する営業の自由を可
能な限り尊重する観点からの必要最小限度の客観的,外形的な規制にとどま
るものであるとしても,具体的事情の下において,当該規制権限の不行使が
許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められ,その不行使によ
り国民の受けた被害を当該国民のみに負担させるのが損害賠償制度の根幹を
成す損害の公平な分担の見地からもはや許容し得ないようなときには,当該
規制権限の不作為は,当該損害を受けた者との関係において,国賠法1条1
項の適用上違法となるものと解すべきである。
したがって,被告の前記主張は,採用することができない。
また,被告は,預金等と異なり,抵当証券は特約付き融資先の返済能力に
係るリスク,抵当権の目的たる不動産等の価値の下落に係るリスク,一般的
に元利金の返済を保証している抵当証券業者の支払能力に係るリスクを有し,
元本保証された安全なものとの国民的なコンセンサスがある銀行預金とは異
なるのであって,抵当証券業規制法の規制が抵当証券の有するこのようなリ
スクを織り込んでいると解されることも,個々の抵当証券購入者の具体的な
損害の防止が同法の保護法益でないことの根拠として主張する。しかしなが
ら,抵当証券が上記のようなリスクを内包する商品であることを抵当証券業
規制法が当然の前提としているからといって,抵当証券の購入によって個々
の国民が損害を被る可能性につき,同法上の権限を行使する公務員の帰属主
体である被告が一切関知しないことまでが前提とされているとはいえず,現
に,同法は,登録制度や情報開示制度,監督権限等を通じ,主に抵当証券業
者に対して規制を及ぼすことで,被告が挙示するリスクのうち抵当証券業者
の支払能力に係るものについては,最低資本金に関する規制や,基本事項通
達と相まって,(更新)登録時において純資産比率が100パーセントを下
回る抵当証券業者を排除するという限度で制御しようとしているものと解さ
れる上,同法が織り込んでいるリスク以上のリスクに顧客がさらされている
場合には,同法上の規制権限を有する財務局長等には可能な範囲でその権限
を適切に行使することによりその解消を図ることが期待されているというべ
きである。現に,証拠(乙22,32ないし36,92)によれば,近畿財
務局も,抵当証券が本来的に有するリスク以上のリスクを購入者に負わせる
のは妥当ではないとの認識を背景として,平成8年から平成9年にかけて,
ナイスミドルが那須ゴルフ場を担保にして追加発行を受けた55億円分の抵
当証券が,法務鑑定委員会の評価によりその発行時から担保不足となること
が判明したことを理由に,当該抵当証券の販売自粛を求める行政指導を大和
都市管財に対して繰り返し行っていたことが認められるところである。
もっとも,抵当証券の内包するリスクが当該抵当証券を販売する抵当証券
業者の詐欺的商法に起因するものである場合など同法が織り込んでいるリス
クを超えたリスクに顧客がさらされ,当該リスクが顕在化した結果,当該抵
当証券の購入者が損害を被ったような場合であっても,前記のとおり,この
ような損害は,現行法秩序の下においては,本来的に債務不履行,不法行為
などといった民事的方法により填補されるべきことが予定されているものと
いうべきである。
しかしながら,このようなリスクを内包した商品の取引について営業の自
由ないし取引の自由を尊重しつつ取引の相手方を一定の限度で当該リスクか
ら保護することを目的として公権力に対し規制権限を付与することも,もと
より憲法の許容するところであって,法令によりこのような規制の仕組みが
設けられた以上は,当該規制権限の行使の任に当たる公務員は,当該権限を
法令の趣旨,目的に照らして適切に行使する責務を負うのであり,公務員に
よる当該規制権限の不行使が,その権限を定めた法令の趣旨,目的や,その
権限の性質等に照らし,具体的事情の下において,許容される限度を逸脱し
て著しく合理性を欠くに至った場合には,その不行使により被害を受けた者
との関係において,その者の被った損害の全部又は一部を国又は公共団体に
おいて填補する責めに任ずるのが,損害の公平な分担の理念に立脚する国賠
法1条1項の趣旨に沿うものというべきである。
以上のとおりであるから,被告の前記主張は,採用することができない。
さらに,被告は,知事による宅建業法の免許の更新等が同法所定の免許基
準に適合しない場合であっても,個々の取引関係者に対する関係で直ちに国
賠法1条1項にいう違法な行為とはいえない旨判示した最高裁平成元年判決
の趣旨は本件にも妥当する旨主張する。しかしながら,前記判決も,宅建業
法の免許の更新が一切国賠法上の違法の問題を生じ得ないと断定しているわ
けではないことはその判示から明らかである上,同判決で問題となった他人
物売買によるリスクは不動産登記簿を閲覧することによって顧客の側で比較
的容易に回避することができるのに対し,既にみたところから明らかなよう
に,抵当証券の購入者にとって,抵当証券に係るリスクの大小を正確に判断
することは,抵当証券業規制法の予定する情報開示制度が正常に機能してい
る場合においてすら相当の困難が伴うこと,宅建業法が免許制を導入した当
時においては同法の目的には購入者の利益保護は掲げられておらず,免許制
の導入当初の目的は宅地建物の取引の公正を確保することなどにあったとみ
ざるを得ないのに対し,抵当証券業規制法の採用した登録制がその当初から
抵当証券の購入者の保護を最終的な目的としていることは疑いようがないこ
となどに照らすと,本件は,いずれにせよ,最高裁平成元年判決とは事案を
異にすると解すべきである。
(5)争点1のまとめ
以上によれば,本件更新登録の国賠法上の違法性については,前記で説示
した枠組みに照らしてみていく必要があることになるから,以下,争点2な
いし4に対する判断において,本件更新登録がその法的要件を充足していた
か否かをまず検討することとする。
2争点2(本件更新登録時において,大和都市管財には更新登録拒否事由であ
る財産的基礎の欠如(抵当証券業規制法6条1項7号)の要件を満たしていた
か。)について
(1)財産的基礎の意義
既に説示したように,抵当証券業規制法6条1項7号にいう「財産的基
礎」の意義について,基本事項通達は,A.貸借対照表において資産の合計
額から負債の合計額を控除した額が資本の額以上であること,又はB.貸借
対照表等に記載された売渡抵当証券又はこれに相当する勘定科目の金額の支
払を金融機関が保証することを内容とする契約書の写しの提出があることの
いずれかの要件を満たすことをいうとしている。そして,抵当証券業の規制
等に関する法律案の国会における審議経過及び証拠(乙11)によれば,基
本事項通達における上記A.の定めは,割賦販売法における割賦販売業者の
拒否要件等として,純資産額が資本又は出資の額の100分の90に相当す
る額に満たない法人との定めがあるところ,抵当証券業者の場合は割賦販売
業者等と異なり,そのほとんどが元利金の支払保証を行っているほか,1年
から5年の期間経過後に買戻しを行う約定の下に抵当証券の販売を行ってい
る実態や,それまでに多数の抵当証券購入者が被害に遭ってきた事実にかん
がみれば累積欠損の状態を容認することはできないが,他方,不必要な参入
制限とならないよう登録制を採用した経緯からは免許制等を採用した他の法
制におけるより厳しい基準を設けることには無理があると解されることから,
免許制である証券会社において純資産額が資本の額に満たない場合には監督
上必要な事項を命ずることができるとされていることを参考に,これと同じ
く純資産比率100パーセントという基準を採用したものと認められる。そ
して,抵当証券業規制法が,抵当証券業を営み又は営もうとする者に対して
営業の自由をできる限り尊重しつつ,抵当証券の購入者の保護の観点からす
る警察目的による必要最小限の規制を行うべきことを勘案して登録制を採用
した前述のような趣旨に加え,同法6条1項各号列記事由のうち7号以外に
掲げる事由がいずれも形式的判断になじむものばかりであることとの均衡等
に照らしても,同法は,6条1項7号の事由についても,会計学上の概念で
ある資本欠損の有無等という客観的,外形的な基準によりみていくことを予
定しているものと解され,財産的基礎について上記のような外形的基準によ
って判断することには一般的な合理性があるというべきである。
そして,争点1に対する判断において説示したとおり,本件更新登録が国
賠法上違法であるか否かを検討するには,その前提として,まず本件更新登
録が作用法上の根拠を有していたか否かを判断する必要があるが,この判断
は,本件更新登録が抵当証券業規制法上の処分要件を満たすか否かを,当時
客観的に存在したすべての事情を基礎として行う必要があるというべきであ
る。
なお,証拠(乙58)及び弁論の全趣旨によれば,大和都市管財が本件更
新登録時において基本事項通達における上記B.の要件を満たしていないこ
とは明らかであるから,以下においては,同社がA.の要件に該当するか否
かのみを検討することとする。
(2)平成9年3月末時点における「公正ナル会計慣行」
ア総論
前記のとおり,本件申請書等の一部である本件貸借対照表は,資産の部
の合計額を573億3890万3336円,負債の部の合計額を567億
5942万3307円と各記載していた。しかしながら,本件において原
告らは,大和都市管財の資産の大部分はグループ会社に対する抵当証券発
行特約付き債権であって,グループ会社が債務超過の状態にあったことな
どに照らすと企業会計原則の上で相当額の貸倒引当金の設定が必要であっ
たにもかかわらず,同社は本件基準によって貸金の帳簿価額の合計額に1
000分の3の法定繰入率を乗じた額のみを貸倒引当金として計上してい
たものであるところ,本来必要な貸倒引当金設定額を前提に計算すれば,
同社は現実には資本欠損の状態にあり,基本事項通達A.の要件を満たし
ていなかった旨主張している。しかるところ,貸倒引当金については,平
成14年法律第44号による改正前の商法が,その285条の4第2項に
おいて,金銭債権については取立不能見込額を控除しなければならないと
定めるのみで,その具体的な算定方法については明文の規定を置かず,た
だ平成17年法律第87号による改正前の同法32条2項(昭和49年法
律第21号により新設)において,商業帳簿の作成に関する規定の解釈に
ついては「公正ナル会計慣行」をしんしゃくすべき旨定めていた。そして,
同項は,公認会計士監査を会計監査人の制度として商法に導入するに当た
り,その監査基準が証券取引法と商法とで一致していない場合には,一方
において適法であることが他方において違法となるなどの不都合が生じる
ため,監査基準の準拠となる商業帳簿に関する規定の解釈を両法の間で一
致させる必要があるために置かれた規定と解されており,このような趣旨
からすれば,「斟酌スヘシ」とは,「公正ナル会計慣行」が存在する場合
には,特段の事情のない限り,必ずこれに従わなければならないとの意に
解すべきである。したがって,本件でも,平成9年3月末当時における大
和都市管財の抵当証券発行特約付き債権に係る貸倒引当金の要設定額に関
する基準として,何が「公正ナル会計慣行」に当たるのかがまず問題とな
る。
そこで検討するに,前記のとおり,大和都市管財は株式の譲渡について
取締役会の承認を要する,いわゆる閉鎖会社であったが,証拠(乙3の4
ないし10)によれば,同社は,平成6年3月期以降継続的にその貸借対
照表の負債の部に計上した金額の合計額が200億円以上であったから,
平成13年法律第128号による改正前の株式会社の監査等に関する商法
の特例に関する法律2条柱書,2号に基づき会計監査人の監査を受けなけ
ればならない立場にあった。そして,平成15年法律第67号による改正
前の同法4条1項によれば,上記監査に係る会計監査人は公認会計士(外
国公認会計士を含む。)又は監査法人でなければならないところ,証拠
(乙59)のとおり,公認会計士が公認会計士法に基づいて財務諸表の監
査を行う場合においては企業会計原則に従わなければならないとされてい
ることなどに照らすと,同社に適用すべきであった「公正ナル会計慣行」
は,一般的には企業会計原則・同注解に準拠したものであることを要した
ものというべきである(なお,同社が公認会計士による会計監査を受けて
いなかったことは当事者間に争いがないが,その事実は,同社に本来適用
されるべき「公正ナル会計慣行」の内容を左右するものではない。)。
しかるところ,証拠(甲89,乙59ないし61,64,65,68な
いし71)及び弁論の全趣旨によれば,①平成9年3月末当時における
企業会計原則を中心とした「公正ナル会計慣行」の内容,及び②その後
の「公正ナル会計慣行」の展開に関し,それぞれ以下の事実が認められる。
イ平成9年3月末当時の「公正ナル会計慣行」
企業会計原則の第三「貸借対照表原則」の四(貸借対照表科目の分類),
(一)「資産」,Dは,「受取手形,売掛金その他の債権に対する貸倒引当
金は,原則として,その債権が属する科目ごとに債権金額又は取得価額か
ら控除する形式で記載する。」とし,同原則・注解18は,「将来の特定
の費用又は損失であって,その発生が当期以前の事象に起因し,発生の可
能性が高く,かつ,その金額を合理的に見積ることができる場合には,当
期の負担に属する金額を当期の費用又は損失として引当金に繰入れ,当該
引当金の残高を貸借対照表の負債の部又は資産の部に記載するものとする。
製品保証引当金,売上割戻引当金,返品調整引当金,賞与引当金,工事補
償引当金,退職給与引当金,修繕引当金,特別修繕引当金,債務保証損失
引当金,損害補償損失引当金,貸倒引当金等がこれに該当する。発生の可
能性の低い偶発事象に係る費用又は損失については,引当金を計上するこ
とはできない。」としていた。
そして,5号取扱いは,企業が貸倒引当金を計上していないときは,貸
倒見積高がないと明らかに認められる場合を除き除外事項(不適正意見)
とする,企業が一定の算定基準を有していない場合,又は不明確な場合に
は,一般に公正妥当と認められている企業会計の基準に従って処理されて
いるとは認められないので除外事項(不適正意見)とする,企業が一定の
算定基準を有していたとしても,その基準が合理的かつ客観的でないと認
められるとき,又は明らかに不足あるいは超過していると認められるとき
は,除外事項(不適正意見)とする,ただし,企業が貸倒見積高の算定基
準として税法基準を採用しているときは,これによって計上した貸倒引当
金が企業の実態に応じて計上すべき貸倒見積高に対して明らかに不足して
いると認められる場合を除いては除外事項(不適正意見)としないことが
できるとしていた。また,5号取扱いの解説は,貸倒見積高算出の方法と
して示されているところは単なる例示にすぎず,このいずれかによるべき
ものであることを要求しているものではなく,重要なのは,期末における
債権に対する将来の貸倒見積額をいかに適正に算出するかの点であり,種
々の方法が考えられるところ,税法基準を採用している場合にはこれを継
続して適用すべきとの要請は,我が国の会計慣行とりわけ税法基準を多く
の企業が採用しているという実情を踏まえたものであり,一般的にいえば
貸倒見積高算定の基準として税法基準を採用している場合には,この基準
によって算出した金額は適正な見積高を超過する傾向にあるが,税の確定
決算主義の立場等を考慮して,税法基準によって算出した貸倒見積高を計
上している場合でも一定の条件の下に一般に認められた企業会計の基準に
準拠しているものとして取り扱うことができる旨を定めたものであるとし,
また,考え得る数種の貸倒見積高算出方法を,
「a総括的に見積る方法
イ期末残高に一定率を乗ずる方法
ロ個々の勘定ごとに主として年齢調べによって算出する方法
(注)税法規定による貸倒引当金は右記イの方法に属するものと考え
られる。
b個別的に見積る方法
個別的に債務者ごとに債権の取立見込を実地に調査して貸倒見積額
を算出しかつ個別的に管理する方法
(注)税法の債権償却特別勘定はこの方法に属するものである。
実務上は,右記の方法のうちいくつかを組合せた方法を採用している
企業が多く見られるようである。」
と例示していた。ところで,上記にいう債権償却特別勘定とは,平成10
年法律第24号による法人税法の改正に伴って廃止される前の法人税法基
本通達9-6-4(その内容は当裁判所に顕著である。以下単に「通達9
-6-4」という。)以下において定められていたところ,通達9-6-
4は,概要,①債務者につき債務超過の状態が相当期間継続し,事業好
転の見通しがないこと,当該債務者が天災事故,経済事情の急変等により
多大の損失を被ったことその他これらに類する事由が生じたため,当該貸
金等の額の相当部分(おおむね50パーセント以上)の金額につき回収の
見込みがないと認められるに至った場合,②貸金等の額のうち担保物の
処分によって得られると見込まれる金額以外の金額につき回収することが
できないことが明らかとなった場合において,その担保物の処分に日時を
要すると認められるとき等について,それぞれその回収の見込みがないと
認められる部分の金額又は回収することができないことが明らかになった
金額以下の金額を,当該事実の発生した日を含む事業年度の終了の日まで
に所轄税務署長に対して認定申請を行うことなどを条件に,当該事業年度
において損金経理により債権償却特別勘定に繰り入れることができるとす
るものであった(なお,法人税法基本通達9-6-5及び同9-6-6は,
法的整理が行われたなど一定の事実が発生した場合には,所轄税務署長に
対する認定申請を経ることなく,損金経理のみで当該事実の発生した日を
含む事業年度の終了の日までに債権償却特別勘定への繰入れを認めるとい
うものであった。)。法人税法33条2項かっこ書が金銭債権について評
価損の計上を禁止していることから,この規定と企業の実態との間で現実
的な調整を図り,一定の場合に部分貸倒れによる無税引当の余地を認める
ために,このような通達が策定されたものと解される。
なお,統一経理基準は,貸倒引当金について,「各社の所定の社内処理
基準(計上基準)に基づいて,個々の債権の回収可能性を吟味し,適正な
貸倒引当金を設定する。」と定めていた。
他方,22号取扱いは,子会社(ある会社が他の会社の議決権の過半数
を実質的に所有している場合の当該他の会社をいう。)又は関係会社(会
社が他の会社の議決権の100分の20以上,100分の50以下を実質
的に所有し,かつ,当該会社が人事,資金,技術,取引等の関係を通じて
当該他の会社の財務及び営業の方針に対して重要な影響を与えることがで
きる場合における当該他の会社をいう。)に対する債権の評価の取扱いに
係る処理基準として,子会社又は関係会社の資産状態が著しく悪化し,こ
れらに対する債権について回収不能のおそれがある場合には,通常の貸倒
引当金のほか回収不能と見込まれる部分に対し貸倒引当金を設定しなけれ
ばならない旨定め,監査上の取扱いとしては,債務超過の場合には,回収
不能のおそれがあるか否かの検討を行わなければならないこと,回収不能
見込額の検討に当たっては財務の流動性,担保資産,債務保証等の有無及
び資金事情等を十分に考慮しなければならないことを定めており,その解
説において,回収見込額の計算方法としては,当該債務者の換価可能総資
産額を同じく総負債額で除したものを1から減じて得られた数値を債権金
額に乗じて求める方法(綜合的方法),②債権のうち取引条件,契約条
件等に違反して現実に回収されていない債権をもって回収不能額とみる方
法(個別的方法)の2つが考えられるとしていた。
ウその後の「公正ナル会計慣行」の展開
いわゆるバブル崩壊後に相次いで金融機関が破綻した事態を受けて金融
機関経営の健全性を確保するため,金融機関等の経営の健全性確保のため
の関係法律の整備に関する法律(平成8年法律第94号)に基づく銀行法
等の改正が行われ,平成10年4月から,自己資本の充実の状況に応じて,
経営改善計画の作成・実施命令,個別措置の実施命令,業務の停止命令等
の必要な措置(早期是正措置)が導入されることになった。それに先立ち,
まず金融機関が自らの責任において企業会計原則に基づいて適正な償却・
引当を行うことにより資産内容の実態をできる限り客観的に反映した財務
諸表を作成することが必要とされ,平成8年9月30日,大蔵省銀行局長
の私的研究会として「早期是正措置に関する検討会」が発足した。同検討
会は,早期是正措置の具体的内容の骨格と,適正な財務諸表の作成に当た
っての基本的考え方や実務指針等について検討を重ね,同年12月26日
に「中間とりまとめ」を公表した。その中で,適正な償却・引当を行うた
めの資産の自己査定のガイドラインの原案が示されていたところ,これに
よれば,検査実務における資産査定の手法を基に,原則として,「正常先
債権」については従来のⅠ分類,「要注意先債権」については従来のⅡ分
類,「破綻懸念先債権」については担保等で保全されている部分を除き従
来のⅢ分類,「実質破綻先債権」については担保等で保全されている部分
を除き従来のⅣ分類とすることとなっていた。そして,ここにいう従来の
ⅠないしⅣ分類とは,Ⅰ分類をⅡ,Ⅲ及びⅣ分類以外の資産,Ⅱ分類を債
権確保の諸条件が満足に充たされないため,あるいは信用上疑義が存する
等の理由により,その回収について通常の度合を超える危険を含むと認め
られる債権その他の資産,Ⅲ分類を最終の回収又は価値について重大な懸
念が存し,したがって損失の発生が見込まれるが,その損失額を確定し得
ない資産,Ⅳ分類を回収不可能又は無価値と判定される資産,とするもの
であるが,このような分類方法自体は,大蔵省大臣官房金融検査部管理課
長の昭和56年6月30日付け事務連絡「資産査定上の調整事項につい
て」において示されていた資産査定に係る分類と同一のものであった。な
お,「中間取りまとめ」においては,各金融機関が適正な償却・引当の実
施を行っていくためには,有税償却・引当を円滑に進めていく環境整備も
必要であり,有税償却・引当を行った場合の前払税金等の取扱いを定める
税効果会計について今後検討することが望ましい,とされていた。
そして,日本公認会計士協会は,平成9年4月25日に4号実務指針
(平成9年4月1日以後開始する事業年度に係る監査から適用する,とさ
れていた。)を公表したが,その中で,銀行及び信用金庫等の金融機関に
係る貸倒償却又は貸倒引当金の計上については,
①正常先債権(業況が良好であり,かつ財務内容にも特段の問題がない
と認められる債務者に対する債権)
債権額で貸借対照表に計上し,貸倒実績率に基づき貸倒引当金を計上
する。貸倒実績率は,正常先債権や要注意先債権という分類ごとに算定
し,その方法は種々考えられるが,例えば,ある期間の期首の該当する
分類の債権残高を分母とし,その分母の額のうち期間内に毀損した額を
分子として計算する方法がある。
②要注意先債権(貸出条件に問題のある債務者,履行状況に問題のある
債務者,赤字決算等で業況が低調ないし不安定な債務者に対する債権)
債権額で貸借対照表に計上し,貸倒実績率に基づき貸倒引当金を計上
する。
③破綻懸念先債権(現状,経営破綻の状況にはないが,経営難の状態に
あり,今後,経営破綻に陥る危険性が大きいと認められる債務者に対す
る債権)
債権額から担保の処分見込額及び保証による回収が可能と認められる
額を減算し,残額のうち必要額を貸借対照表に貸倒引当金として計上す
る。破綻懸念先債権の回収見込額を検討するに当たっては,債務者の支
払能力を総合的に判断する必要があり,債務者の経営状態,担保・保証
の有無と担保価値,債務超過の程度,延滞の期間,事業活動の状況,完
成途上のプロジェクトの完成見通し,金融機関及び親会社の支援状況,
再建計画の実現可能性,今後の収益及び資金繰りの見通しその他債権回
収に関係のある一切の定量的・定性的要因を検討しているか確かめる必
要がある。金融機関は,これらの要因を勘案した具体的な回収見込額の
算出方法を定めておく必要があり,その方法としては,例えば,売却可
能な市場を有する債権については売却可能額を回収可能額とする方法や,
債権額から清算価値を差し引いた差額に倒産確率を乗じて回収不能額を
算出する方法等が考えられる。
④実質破綻先債権(法的,形式的な経営破綻の事実は発生していないも
のの,深刻な経営難の状態にあり,再建の見込みが立たない状況にある
と認められるなど,実質的に経営破綻に陥っている債務者に対する債
権)
債権額から担保の処分可能見込額及び保証による回収が可能と認めら
れる額を減算し,残額を貸倒償却するか又は貸倒引当金として貸借対照
表に計上する。
⑤破綻先債権(破産,清算,会社整理,会社更生,和議,手形交換所に
おける取引停止処分等の事由により経営破綻に陥っている債務者に対す
る債権)
債権額から担保の処分可能見込額及び保証による回収が可能と認めら
れる額を減算し,残額を貸倒償却するか又は貸倒引当金として貸借対照
表に計上する。
という監査上の取扱いに準拠している場合には,監査上妥当なものとして
取り扱うものとされていた。
さらに,金融監督庁は,検査官が金融機関を検査する際のマニュアルを
整備するため,検査部のプロジェクトチームとして,平成10年8月25
日に法律家,公認会計士,金融実務家からなる金融検査マニュアル検討会
を設置し,平成11年4月8日,①従来の当局指導型から自己管理型へ
の転換を進めるため,検査を金融機関自身の内部管理と会計監査人による
厳正な外部監査を前提として,内部管理・外部監査体制の適切性を検証す
るプロセス・チェックを中心とすること,②従来の資産査定中心の検査
から,リスク管理重視の検査への転換を図ることを軸とした「最終取りま
とめ」を公表した。その中で,信用リスク(信用供与先の財務状態の悪化
等により,資産(オフバランス資産を含む。)の価値が減少ないし消滅し,
金融機関が損失を被るリスク)に関しては,自己査定に係る検査につき,
旧大蔵省大臣官房金融検査部の「資産査定について」の通達をベースとし
つつ,債務者区分を判定する場合の判断基準の明確化(特に関連ノンバン
クを含む金融支援先の査定方法の明確化)等を図るとともに,償却・引当
てに係る検査についても,償却・引当基準の一層の明確化を図るとともに,
貸倒引当率等の算定方法の適切性,償却・引当額の水準の適切性について
検査を行うことなどを柱とする「最終取りまとめ」を示した。
これを受けて,「金融検査マニュアル」が,金検第177号平成11年
7月1日付け金融監督庁検査部長通達「預金等受入金融機関に係る検査マ
ニュアルについて」において示され,同日以降を検査実施日とする検査に
ついて適用された。同マニュアル(平成15年2月時点のもの。以下同
じ。)は,「破綻懸念先」とは,現状,事業を継続しているが,実質債務
超過の状態に陥っており,業況が著しく低調で貸出金が延滞状態にあるな
ど元本及び利息の最終の回収について重大な懸念があり,したがって損失
の発生の可能性が高い状況で,今後,経営破綻に陥る可能性が大きいと認
められる債務者をいうが,金融機関等の支援を前提として経営改善計画等
が策定されている債務者については,①経営改善計画等の計画期間が原
則としておおむね5年以内であり,かつ,計画の実現可能性が高いこと,
②計画期間終了後の当該債務者の債務者区分が原則として正常先となる
計画であること,③金融機関等の支援の内容が金利減免,融資残高維持
等にとどまり,債権放棄,現金贈与等の債務者に対する資金提供を伴うも
のではないこと,等の要件をすべて満たしている場合には,経営改善計画
等が合理的でその実現可能性が高いものとして,当該債務者を要注意先と
判断して差し支えないこと,「実質破綻先」とは,事業を形式的には継続
しているが,財務内容において多額の不良資産を内包し,あるいは債務者
の返済能力に比して明らかに過大な借入金が残存し,実質的に大幅な債務
超過の状態に相当期間陥っており,事業好転の見通しがない状況で,元金
又は利息等について実質的に長期間延滞している債務者をいい,金融機関
等の支援を前提として経営改善計画等が策定されている債務者のうち,同
計画等の進捗状況が計画を大幅に下回っており,今後も急激な業績の回復
が見込めず,経営改善計画等の見直しが行われていない場合で,今後,経
営破綻に陥る可能性が確実と認められる債務者については実質破綻先と判
断して差し支えないこと,実質的に長期間延滞しているとは,原則として
実質的に6か月以上延滞しており,一過性の延滞とは認められないものと
いうこと,等を定めていた。また,同マニュアルは,貸倒引当金について
は,発生の可能性が高い将来の損失額を合理的に見積もって計上するもの
とし,正常先及び要注意先に対する債権について計上する「一般貸倒引当
金」と破綻懸念先,実質破綻先及び破綻先に対する債権について計上する
「個別貸倒引当金」とに分けた上で,一般貸倒引当金については債権額に
予想損失率(貸倒償却等毀損額を債権額で除して得られた貸倒実績率等に
よることとされている。)を乗じて予想損失額を算定するが,要管理先の
大口債務者については,債権の元本の回収及び利息の受取に係るキャッシ
ュ・フローを合理的に見積もり,これを当初の約定利子率で割り引いた金
額と債権の帳簿価額との差額を貸倒引当金とする方法(DCF法)による
のが望ましいこと,個別貸倒引当金については個別債務者ごとに破綻懸念
先に対する債権の合理的と認められる今後の一定期間における予想損失額
(破綻懸念先)又はⅢ分類若しくはⅣ分類とされた債権額全額(実質破綻
先又は破綻先)を貸倒引当金とすること,等を定めていた。
しかるところ,金融機関等以外の企業(抵当証券会社を含む。)につい
ては,企業会計審議会が,平成11年1月22日,金融商品に係る会計基
準の設定に関する意見書を公表し,金融商品に係る資産の評価基準として
企業会計原則に優先して適用される基準と位置付けられる「金融商品に係
る会計基準」を示した。同会計基準は,貸倒見積高の算定について,債務
者の財政状態及び経営成績等に応じて,債権を①一般債権(経営状態に
重大な問題が生じていない債務者に対する債権),②貸倒懸念債権(経
営破綻の状態には至っていないが,債務の弁済に重大な問題が生じている
か又は生じる可能性の高い債務者に対する債権)及び③破綻更生債権等
(経営破綻又は実質的に経営破綻に陥っている債務者に対する債権)に区
分した上,①一般債権については,債権の状況に応じて求めた過去の貸
倒実績率等の合理的な基準により,②貸倒懸念債権については,債権額
から担保の処分見込額及び保証による回収見込額を減額し,その残額につ
いて債務者の財政状態及び経営成績を考慮する方法又はDCF法により,
③破綻更生債権等については債権額から担保の処分見込額及び保証によ
る回収見込額を減額することにより,それぞれ貸倒見積額を算定する,と
していた。
そして,日本公認会計士協会は,平成12年1月31日,「金融商品に
係る会計基準」を実務に適用する場合の具体的な指針として,「金融商品
に関する実務指針(中間報告)」を公表した。同中間報告は,債権の区分
に関しては,一般事業会社がすべての取引先の財務状況を把握することは
困難であるため債権区分を厳密に行うことは難しく,また,その必要度が
低い場合も多いことから,必ずしも一般債権,貸倒懸念債権,破産更生債
権等の区分を,金融機関の資産の自己査定における債権区分と厳密に対応
させる必要はないが,貸金業においては,金融機関に準じた債権管理が要
求されるため,ある程度厳密な債権区分を行わなければならないこと,一
般事業会社の連結子会社並びに持分法適用の子会社及び関連会社について
は,まず当該会社が保有する債権を区分してその貸倒見積高の算定をした
上で,その財務状況の把握と債務弁済能力の検討を行い,その上で当該子
会社又は関連会社に対する債権の区分の判定を行うべきことなどを定めて
いる。
エ小括
したがって,平成9年3月末ころにおいては,貸倒見積高の具体的な算
定方法は会計慣行にゆだねられており,企業会計原則・注解18以上に明
確かつ具体的な基準が一般的に通用力のある文書等の形式で存在していた
とはいえないが,その会計慣行は,一般的にいえば,所定の基準に従い個
別の債権の元本の回収可能性を吟味して貸倒見積高を算定する,というも
のであり,その具体的現れとしては,我が国の税法が商法上の計算書類を
課税所得の算定の基礎とするいわゆる確定決算主義を採用し,その課税所
得算定のために通達を含め比較的詳細な規定を置いている一方で,他に詳
細な基準が存在しなかったこともあり,多くの企業が税法基準を採用して
いたものと認められる。これは,決算内容に負担を及ぼすことになる有税
償却・引当を企業に強制する結果となるのは妥当でないから,原則として
無税償却・引当が可能な場合にのみ,決算経理としてもその範囲で貸倒引
当金を設定すれば足りるという観点から,当時において「公正ナル会計慣
行」として広く許容されていたものと解される。もっとも,税法基準によ
って算定した貸倒引当金が企業の実態に応じて計上すべき貸倒見積高に対
して明らかに不足していると認められる場合には,個別的にその回収可能
性を評価した上で貸倒見積額を設定することが要請され(5号取扱い参
照),また,22号取扱いは,少なくとも子会社や関係会社に対する債権
について回収不能のおそれがある場合には,各企業が自ら回収不能見込額
を計算して貸倒引当金に計上すべきことが「公正ナル会計慣行」の一内容
として特に要請されていたことを示すものと考えられる。
そして,ウで認定したところに照らすと,税法基準と「金融商品に係る
会計基準」等による基準(以下「新基準」という。)との主要な差異は,
①債権額に一定の率を乗じて貸倒引当金を算定する場合,税法基準が法
定繰入率を用いるのに対し,新基準が貸倒実績率を用いる点,②新基準
が,貸倒懸念先債権という中間的区分を創設した上,この場合に債務者の
財政状態や経営成績を個別に考慮する方法のほかDCF法によることを認
めた点,③新基準が回収不能見込額をそのまま貸倒引当金額に反映する
のに対し,通達9-6-4に従った場合には回収不能見込額が当該債権の
おおむね50パーセント以上に達しない限り貸倒引当金の設定を必要とし
ない点,④新基準が,担保や保証からの回収見込額を貸倒引当金の計算
に当たって考慮することを明確にした点,⑤新基準が,一般事業会社の
連結子会社並びに持分法適用の子会社及び関連会社について,まず当該子
会社等が保有する債権を区分してその貸倒見積高の算定をした上で,その
財務状況の把握と債務弁済能力の検討を行い,その上で当該子会社等に対
する債権の区分の判定を行うべきことを明確にした点,にあるものという
べきである。また,税法基準において設定が要求される貸倒引当金の額は,
「中間とりまとめ」が税効果会計(貸倒引当金について有税での引当を行
うが,現実に貸倒損失が生じた場合に発生すべき払戻し税額を繰延資産と
して別途計上するという会計方法であることは当裁判所に顕著である。)
を導入する必要性について述べているところなどから推して,いわゆる不
良債権に関しては,一般に,4号実務指針等が債権の区分に応じて設定を
求める貸倒引当金よりもその範囲が狭かったことは明らかである。
これに対し,原告らは,大和都市管財の貸倒引当金を算定するに当たっ
ては,22号取扱いに基づき,グループ6社が平成9年3月期末時点で清
算したと仮定して,その時点における大和都市管財の回収不能見込額を貸
倒引当金額とすべき旨主張する。確かに,22号取扱いの趣旨は,債務者
が子会社や関係会社であればその財務内容の把握が比較的容易であること
を重視し,このような場合には回収不能見込額を個別に計算すべきとする
点にあると解され,こうした観点からすれば,グループ会社を実質的に統
括するY1が代表取締役を務める大和都市管財の各グループ会社に対する
債権について,22号取扱いに準じてその貸倒引当金を回収不能見込額に
応じて可能な限り正確に積み上げて算定していくことには一定の合理性が
あると考えられる。しかしながら,22号取扱いがあくまで税法基準の例
外として位置付けられることなどに照らすと,たといグループ会社がいず
れも大和都市管財と人的資本的に密接な関連性を有するにせよ,平成9年
当時の企業会計基準において子会社や関係会社に該当しない以上,これを
大和都市管財の特約付き融資に係る貸倒引当金の判断にそのまま当てはめ
なければ「公正ナル会計慣行」に該当しないとまで解するのは困難という
べきである。
したがって,平成9年3月末ころの時点においては,①税法基準によ
る貸倒引当金が企業の実態に応じて計上すべき貸倒見積高に対して明らか
に不足していると認められる場合,及び②子会社や関係会社に対する債
権の場合を除き,税法基準によって貸倒引当金を算定していれば「公正ナ
ル会計慣行」に合致している旨評価されていたと解される。
(3)5号取扱い等にいう税法基準の意義
そこで次に,平成9年3月末ころに金融機関以外の企業(抵当証券会社を
含む。)による貸倒引当金の設定基準として妥当していた税法基準の具体的
内容が問題となる。既に説示したところに照らすと,税法基準の下では,法
人税法で損金算入が認められる限度額において企業会計の費用又は損失を経
理処理すれば足り,法人税法上容認される損金算入限度額を超えてまで費用
として処理する必要がないとするものであることは明らかであるが,更に進
んで,証拠(乙153)によれば,少なくとも金融機関については,税法基
準とは,貸付金のうち,通達9-6-4等によって税法上無税引当の要件を
満たす部分についてはその全額に対して貸倒引当金を設定する義務があるも
のとして理解する考え方(以下「義務的税法基準」という。)も存在してい
たことがうかがわれる。しかしながら,金融機関においてすら,「公正ナル
会計慣行」に合致する税法基準とは義務的税法基準のみであるとする考え方
が平成9年当時において唯一のものであったとまで認めるに足りる証拠はな
い(大阪高裁平成15年(ネ)第3332号平成16年5月25日判決・判例
時報1863号115頁以下参照)。まして,金融機関以外の企業について
もこれと同様の会計慣行が成立していたと解することは直ちにはできず,例
えば,既に説示したように,法定繰入率が一般的には実際の貸倒実績率を超
過する傾向にあったことに照らすと,少なくとも,正常先又は要注意先に該
当するような債務者に対する債権について,法定繰入率の全額を常に決算経
理上引当を行うべき義務が「公正ナル会計慣行」として排他的な通用力を有
していたとは解し難い。
そして,既にみたように,5号取扱いが,貸倒引当金について総括的に見
積もる方法と個別的に見積もる方法とを併記し,実務上はこれらを併用する
例が多いとしていることに照らすと,少なくとも一般事業会社については,
義務的税法基準だけが「公正ナル会計慣行」として認められていたとまでは
いえず,本件基準も,それによることが明らかに不合理と認められるような
特段の事情がない限り,税法基準の一類型として許容されていたものという
べきである。
なお,証拠(甲154)によれば,近畿財務局が平成9年7月当時用いて
いた事業報告書補足資料に係る書式は,「貸倒引当金明細」の欄において,
貸倒引当金の内訳が,「うち税法基準」と「うち債特勘定」とに分けられて
いることが認められるところ,ここにいう「債特勘定」が通達9-6-4に
いう債権償却特別勘定を指すことは優に推認することができるから,近畿財
務局も,貸倒引当金のうちに債権償却特別勘定に係る部分が含まれているこ
とは予定していたものと解されるが,この事実だけから,近畿財務局が,通
達9-6-4に該当する債権にはすべて貸倒引当金を設定すべきであると解
していたとまで読み取ることはできず,かえって,近畿財務局が,当時から
税法基準を本件基準と同視しており,債権償却特別勘定についてはこれとは
別個の貸倒引当金制度とみていたことがうかがわれるところである。また,
証拠(乙116の2)によれば,ダイヤモンド抵当証券株式会社(株式会社
三菱銀行等を母体として昭和58年6月に設立された抵当証券会社で,平成
9年3月末現在の資本金は15億4000万円である。)は,平成12年3
月31日に終了する事業年度(第17期)に係る有価証券報告書の「重要な
会計方針」の「3.引当金の計上基準」において,第16期の貸倒引当金に
ついて「債権の貸倒れによる損失に備えるため,過去の一定期間における貸
倒実績から算出した貸倒実績率に基づき計算された額に加えて,個別の債権
について回収不能見込額を計上しております。(追加情報)平成10年度の
税制改正に伴い,当期から法人税法に規定する法定繰入率に変えて,当社の
過去の一定期間に於ける貸倒実績から算出した実績繰入率による繰入限度額
に変更いたしました。この変更による営業利益,経常利益及び税引前当期純
損失への影響は軽微です。」と記載していたことが認められ,この記載等か
ら,第15期(平成10年3月31日に終了する事業年度)まで,同社は,
法定繰入率に加え,個別の債権についても必要な場合には回収不能見込額を
計算し,これを貸倒引当金として計上するとの会計方針を採用していたこと
がうかがわれるが,このことも,上記のような会計方針でなければ「公正ナ
ル会計慣行」に合致しないとまで認定することができる根拠とはならない。
したがって,本件基準によることが明らかに不合理といえるような特段の
事情がない限り,本件基準によって貸倒引当金を算定することが「公正ナル
会計慣行」に反するとはいえないというべきである。
もっとも,前記のとおり,平成9年3月末ころの時点においても,税法基
準によって算定した貸倒引当金が企業の実態に応じて計上すべき貸倒見積高
に対して明らかに不足していると認められる場合には,個別的にその回収可
能性を評価した上で貸倒見積額を設定することが「公正ナル会計慣行」とし
て要請されていたところ,原告らは,平成9年3月当時において,グループ
6社はいずれも債務超過であった上,収益が改善する見込みがなく,実質的
に破綻状態にあったから,本件基準による貸倒引当金が大和都市管財の実態
に応じて計上すべき貸倒見積高に対して明らかに不足していると認められる
場合に該当していたのであり,関東財務局が不動産抵当證券のソーケン開発
に対する特約付き融資について設定したと同様に,大和都市管財のグループ
6社に対する特約付き融資についても貸倒引当金を個別に設定すべきであっ
た旨主張する。
そこで検討するに,証拠(甲207,乙154,証人Y4,同Y21)に
よれば,関東財務局は,平成9年10月31日,不動産抵当證券に対する検
査結果通知において,同社に対するソーケン開発(不動産抵当證券の代表者
の妻が経営する宅地分譲等を行う開発業者で,同社による特約付き融資残高
の約92パーセントを占めていた。)からの利払が,平成8年11月以降,
あらかじめ不動産抵当證券から仮払金として支払われた受取利息相当額を払
い戻す形で行われていた事実を捉え,実質的に利払を延滞している状態であ
ると判断した上,ソーケン開発が4億円超の債務超過に陥っており,不動産
市況の低迷により宅地分譲等の開発及び販売が事業計画どおり進捗していな
い(もっとも,休眠状態とまではいえない)状態にあることなどに照らして,
同社が実質的な破綻状態であると認定し,同社に対する特約付き融資につい
て,抵当物件によって担保されていない部分の価額を路線価又は不動産鑑定
評価書の数値を用いて算定した上で,これと同額の貸倒引当金を設定し,こ
れによって不動産抵当證券の資本欠損を認定したことが認められる(関東財
務局が用いた上記のような方法は,事業報告書補足資料(甲154)におい
て近畿財務局も財産的基礎の状況を判断するに当たって重視していたものと
認められる実質純資産比率(〔(資産-回収不能見込額+貸倒引当金)-負
債〕/資本金)をみていくものであって,新基準と類似するものと解され
る。)。そして,被告によれば,財務局長等名の検査結果通知の形式で被検
査金融機関に通知されるのは,検査当局における十分な審査を経た上でされ
た,検査に係る財務局等としての最終結論である。そうすると,大口を占め
る特約付き融資先の実質的な破綻を認定することができる場合には,本件基
準による貸倒引当金が抵当証券会社の実態に応じて計上すべき貸倒見積高に
対して明らかに不足していると認められる場合に該当するとして,上記融資
先に対する債権のうち抵当物件によって担保されていない部分の価額を個別
に評価した上,これについて貸倒引当金を設定することが,平成9年10月
当時,関東財務局が想定していた「公正ナル会計慣行」であったと推認する
ことができる。そして,このような評価方法は,5号取扱いにいう「個別的
に見積る方法」に該当するものとしてももとより適法なものと解される上,
近畿財務局管轄下の地域において,これと異なる会計慣行が存在したと認め
るに足りる証拠もない。
したがって,大和都市管財の特約付き融資の融資先は平成9年当時におい
てはグループ6社に限られていたから,少なくとも,これらのうちの相当数
が実質的に破綻していたと認定すべきなのであれば,税法基準によって算定
した貸倒引当金が企業の実態に応じて計上すべき貸倒見積高に対して明らか
に不足していると認められる場合に該当し,本件基準によることが明らかに
不合理と認められる特段の事情があるものとして,そうした実質破綻先各社
に対する特約付き融資のうち抵当目的物によって担保されていない部分の価
額を評価した上,これについて貸倒引当金の設定を考慮すべきこととなる。
そこで,以下においては,平成9年3月末当時において,大和都市管財の
特約付き融資の債務者であったグループ6社の経営状態をその帳簿上の記載
を前提にして検討し,これら各社が実質的に破綻していたといえるか否かを
まず検討した上で,これを基に,本件基準によって設定された貸倒引当金の
合理性を検証することとする。
(4)平成9年3月末時点までにおけるグループ6社の経営状態
証拠(甲4,8,48,51,54ないし58,63,72ないし77,
90,91,106,107,118,149ないし151,164,乙9,
12,16,28,30,37,38,41ないし44,47)によれば,
平成9年3月末当時におけるグループ6社の経営状況に関し,以下のような
事実を認めることができる。なお,〔〕内は,平成9年4月以降に生起した
事実に係る部分であるが,便宜上併せて認定することとする。
アナイスミドル(資本金1億5000万円)
ナイスミドルの第5期(平成3年7月1日から平成4年6月30日まで
の事業年度)ないし第9期(平成7年7月1日から平成8年6月30日ま
での事業年度)における決算報告書上の金額の推移は,以下のとおりであ
る。
第5期売上総利益2790万0000円
販売費・一般管理費3億5412万8073円
営業損失▲3億2622万8073円
営業外収益3億3384万3564円
経常利益761万5491円
当期利益206万9291円
当期未処理利益2099万4031円
第6期売上総利益1780万0000円
販売費・一般管理費3億3553万3263円
営業損失▲3億1773万3263円
営業外収益3億4244万1392円
営業外費用1659万6666円
経常利益811万1463円
当期利益241万0963円
当期未処理利益2340万4994円
第7期売上総利益5112万1911円
販売費・一般管理費7億4091万9565円
営業損失▲6億8979万7654円
営業外収益2億1082万0742円
営業外費用5億2151万8254円
経常損失▲10億0049万5166円
当期損失▲10億0131万5166円
当期未処理損失▲9億7791万0172円
第8期売上総利益3億2032万0339円
販売費・一般管理費7億9445万5127円
営業損失▲4億7413万4788円
営業外収益2億9553万1346円
営業外費用19億1639万1013円
経常損失▲20億9499万4455円
当期損失▲21億0443万0155円
当期未処理損失▲30億8234万0327円
第9期売上総利益4億2965万0088円
販売費・一般管理費11億6221万0211円
営業損失▲7億3256万0123円
営業外収益8億3173万1612円
営業外費用28億0057万5405円
経常損失▲27億0140万3916円
当期損失▲27億0262万9516円
当期未処理損失▲57億8496万9843円
以上のように,ナイスミドルは,第5期から第9期まで一貫して営業損
失を計上していた(同社が多額の営業損失を計上していた理由は販売費・
一般管理費の割合の高さにあるが,これは,同社がゴルフ場運営のスタッ
フだけでなく,手形商品を始めとする金融商品の営業員等多数の本社スタ
ッフを抱え,その給与等の固定費が多額であったという構造的要因による
ものである。)。加えて,第7期以降は,大和都市管財からの特約付き融
資に対する利息の支払等のために営業外費用も急増し,同社に対する毎期
の利払額だけで同一期における売上高を超えるなど,経常収支の上でも巨
額の赤字を計上するに至っており,第9期における累積債務は,同期にお
けるナイスミドルの売上総利益の13倍以上にも達していた。また,同社
の営業外収益は,累積債務を抱えるグループ会社に対する融資に係る受取
利息によるものが過半を占めており,これは安定的な収入を期待すること
ができるようなものではなかった。
ナイスミドルは,独自に開発したナイス大原カントリークラブ(平成6
年4月仮オープン,同年7月正式オープン)に加え,平成7年9月に買収
した那須グリーンコースの2つのゴルフ場の経営を営業の柱としていた。
このうちナイス大原カントリークラブについては,その買収費用・造成費
用に約130億円を要していたものの,平成2年6月期までに約67億円
強のゴルフ会員権預託金を集めて以降,会員権販売の頭打ち傾向が顕著と
なっており,平成6年6月期においても預託金の額は約71億円強にとど
まっていた。他方,那須グリーンコースは,買収当時の会員数が80名程
度(預託金額合計約2億5000万円)であったためにゴルフ会員権販売
の余地があるものと期待され,大和都市管財も平成7年12月6日のヒア
リングにおいて平成8年4月から同ゴルフ場とナイス函館カントリークラ
ブの会員権をタイアップした共通会員権として東京地区で大々的に販売し,
同年6月までの3か月で約100億円を売り上げるとの構想を説明してい
たが,実際には,大和都市管財本体の営業員も投入して販売に当たらせた
にもかかわらず,同年12月までに販売した会員権は390万円(那須グ
リーンコース単独分)のもの80口,500万円(上記タイアップ分)の
もの15口程度にとどまっていた。大和都市管財は,ゴルフ会員権業界の
低迷に加え,営業社員がゴルフ会員権販売に慣れていなかったことが理由
であるとして,平成8年12月20日に従来の会員権販売計画の修正版を
近畿財務局に提出したが,これによると,平成8年度内に販売するゴルフ
会員権の売上目標額は当初の90億円から6億4000万円へと大幅に縮
小される一方で,平成10年度までとしていた販売計画期間を平成11年
度まで延長し,総額ではほぼ従前と同様,会員権登録料と預託金とで販売
口数5400口・計321億8000万円を売り上げるとしていた。しか
しながら,その後も那須グリーンコースのゴルフ会員権の販売は低調に推
移したため,ナイスミドルは,会員権の金額を1口300万円に下げる等
の措置を講じたが,売上げはほとんど伸びていなかった。〔そこで,当時
ナイスミドルの代表取締役であったY2が中心となり,平成9年8月ころ,
登録料部分を無料とした那須グリーンコースの会員権に年間24枚の利用
券を付した上,顧客が希望すれば,グループ会社の一つでそれまで休眠会
社であったグレート・ジャーニィ株式会社を窓口に,大和都市管財グルー
プが利用券を額面の70パーセントで買い取る(これは,ナイスミドルが
直接顧客から買い取ることにすると,出資法違反となるおそれがあるため
である。)という実質的に金融商品の性格を有するチケット制会員権「那
須グリーンチケット」の販売を開始し,同年9月までに約83億円の販売
実績を上げた(ただし,相当部分が手形商品からの乗換えによるものであ
った。)。大和都市管財は,チケット制会員権をその後の売上げの柱とす
ることにし,平成9年経営健全化計画においては,那須グリーンコースに
ついては平成9年10月以降,平成10年3月までに約2000口(登録
料計約3400万円,預託金計約82億6000万円),ナイス大原カン
トリークラブについては平成10年1月から3月までに900口(登録料
計4億6000万円,預託金計36億9000万円)の各売上げを見込み,
これによって集めた資金を年10パーセント程度の収益が上がるとする外
債投資や,平成10年5月に完成予定の那須グリーンコースのリゾートホ
テル建設資金15億円等に充てることになっていた。しかしながら,チケ
ット制会員権は,実質的には顧客からの高利による借入れにほかならない
ものであって収益面での寄与は乏しい上,その金融商品としての複雑な性
格からみても,乗換え勧誘の対象となるような,確実な利払を受けたこと
で大和都市管財を信頼している既存の顧客以外には販売することができる
現実的可能性が少ないものであった。加えて,那須グリーンコースのリゾ
ートホテルは,その経営自体で利益が出る見込みはなく,それによって那
須グリーンコースの集客力を高めようとするものにすぎなかった上,余資
運用の計画にも具体性がなかった。なお,平成9年経営健全化計画では,
那須グリーンコースやナイス大原カントリークラブの各隣接地に平成10
年度にリゾートマンションやコテージ,レジャー施設等を着工(総工費計
109億円程度)し,その利用権としてのリゾート会員権を販売するとい
う計画を盛り込んでおり,平成11年度から平成13年度までに那須グリ
ーンリゾート計画で販売利益約64億円,平成11年度にナイス大原カン
トリークラブリゾート計画で同約11億円を見込んでいたが,その工費の
原資は基本的にチケット制会員権の売上げに依拠していたところ,その販
売見通しが明るくないことは前記のとおりであった。〕
したがって,ナイスミドルは,平成9年3月末の時点において,その事
業を形式的には継続しているが,その返済能力に比して明らかに過大な借
入金を残存させており,大幅な債務超過の状態に相当期間陥っている上,
容易に事業が好転する見込みもなく,独力では特約付き融資の元本を返済
することができる可能性がなかったというべきである。
イナイス函館(資本金2000万円)
ナイス函館の第5期(平成4年9月1日から平成5年8月31日までの
事業年度)ないし第8期(平成7年9月1日から平成8年8月31日まで
の事業年度)における決算報告書上の金額の推移は,以下のとおりである。
第5期売上総利益2億2284万6057円
販売費・一般管理費8億2480万6897円
営業損失▲6億0196万0840円
営業外収益1850万6870円
営業外費用3億0719万1604円
経常損失▲8億9064万5574円
当期損失▲8億9116万4296円
当期未処理損失▲25億9938万3421円
第6期売上総利益1億9001万2499円
販売費・一般管理費4億3949万2541円
営業損失▲2億4948万0042円
営業外収益3億6000万9383円
営業外費用3億0335万6993円
経常損失▲1億9282万7652円
当期損失▲24億6798万9539円
当期未処理損失▲50億6737万2960円
第7期売上総利益2億1047万8691円
販売費・一般管理費3億6032万3023円
営業損失▲1億4984万4332円
営業外収益3億1665万6998円
営業外費用5億6408万4157円
経常損失▲3億9727万1491円
当期損失▲3億9749万4258円
当期未処理損失▲54億6486万7218円
第8期売上総利益1億9704万3400円
販売費・一般管理費3億5209万6432円
営業損失▲1億5505万3032円
営業外収益34億6955万2196円
営業外費用9億9658万1406円
経常利益23億1791万7758円
当期利益23億1768万7758円
当期未処理損失▲31億4717万9460円
以上のように,ナイス函館は,第5期から第8期までに4期連続して営
業損失を計上しており,この間,一貫して売上総利益の約11.7倍から
約26.6倍に上る累積債務を抱えている状態にあった。また,営業外収
支も,大和都市管財に対する特約付き融資計80億円に対する利息の支払
(いずれの期においても,その金額だけで同期における売上高を上回って
いる。)等のため第8期を除いて大幅な赤字であった。また,第8期に同
社が計上している約35億円の営業外収入は,同期に同社が28億円余の
雑収入を計上したことに起因するものであるところ,これは,ベストライ
フ通商が保有していたナイス函館に対する債権(大和都市管財が北海道函
館観光を買収する際,同社に対してその親会社が有していた債権をベスト
ライフ通商が買取った形とし,事実上行使しない扱いをしていたものであ
る。)を放棄する処理をし,これによる計算上の利益を雑収入として計上
したものにすぎず,実質的な収益面に変化が生じたことによるものではな
かった。なお,ナイス函館が営業外収入として計上していた受取利息は,
同社が大和都市管財から受けた特約付き融資額をナイスミドルやベストラ
イフ通商等のグループ会社(いずれも債務超過の状態にあった。)へと更
に融資したことによるものであり,今後ともその収受を期待することがで
きるようなものではなかった。
ナイス函館は,平成5年9月に大和都市管財に約22億円で買収された
際,既に65億円余りのゴルフ会員権預託金を会員から集めており,更に
ゴルフ会員権を販売する余地に乏しかった。また,ナイス函館のゴルフコ
ースは,積雪のため11月末ころから翌年4月始めころまでの間はゴルフ
場として営業することができず,敷地内にあるスキー場及びペアリフト1
台も平成6年以降は休止していた(なお,同社は,平成8年冬季にスノー
ボード専用ゲレンデとして再オープンさせたが,大幅な赤字のため,1期
のみで営業を休止した。)。
大和都市管財は,平成8年2月29日の近畿財務局によるヒアリングに
おいては,ナイス函館は平成10年度に単年度黒字に転換する見込みであ
ると述べていたが,これを裏付けるに足りる根拠はなかった。
〔現に,平成9年経営健全化計画は,ナイス函館について,北海道におけ
る厳しい経済環境を踏まえ,収益面では依然として苦しい状況にあるとし
ており,会員権の販売計画も策定できておらず,ただ旅行会社とのタイア
ップによる来場客の増加や,航空運賃の自由化による北海道外からの集客
に期待するとしているのみであった。結果として,平成9年経営健全化計
画においてすら,ナイス函館の収益予想は,平成13年度までに営業損失
は解消することができず,平成10年度から平成13年度までの経常損失
は3億円から4億円と予想されており,債務超過額も平成13年度までに
約48億円に拡大するとされていた。〕
したがって,ナイス函館は,平成9年3月末の時点において,その事業
を形式的には継続しているが,その返済能力に比して明らかに過大な借入
金を残存させており,大幅な債務超過の状態に相当期間陥っている上,容
易に事業が好転する見込みもなく,独力では特約付き融資の元本を返済す
ることができる可能性がなかったというべきである。
ウ美祢カントリークラブ(資本金5000万円)
美祢カントリークラブの第7期(平成6年4月1日から平成7年3月3
1日までの事業年度)ないし第9期(平成8年4月1日から平成9年3月
31日までの事業年度)における決算報告書上の金額の推移は,以下のと
おりである。
第7期売上総利益7億8870万7456円
販売費・一般管理費7億9316万4502円
営業損失▲445万7046円
営業外収益1億3952万2430円
営業外費用1億3680万5209円
経常損失▲173万9825円
特別利益2578万6784円
当期利益2257万8973円
当期未処理損失▲4億2437万6030円
第8期売上総利益6億8318万1662円
販売費・一般管理費6億9625万1193円
営業損失▲1306万9531円
営業外収益8億4328万6006円
営業外費用8億0001万4845円
経常利益3020万1630円
特別損失29万3001円
当期利益2960万7048円
当期未処理損失▲3億9476万8982円
第9期売上総利益7億0616万6507円
販売費・一般管理費7億0376万5937円
営業利益240万0570円
営業外収益8億3874万5553円
営業外費用7億1572万2044円
経常利益1億2542万4079円
特別損失257万7487円
当期利益1億2269万6592円
当期未処理損失▲2億7207万2390円
以上のように,美祢カントリークラブは,第7期から第9期まで3期連
続して当期利益を計上しているものの,営業利益は第7期及び第8期が赤
字,第9期が約240万円の黒字にとどまっており,その当期利益は,第
7期が退職給与引当金戻入による2578万円(特別利益),第8期が累
積債務を抱えるグループ会社及びY1に対する貸付金からの受取利息と為
替差益による雑収入の合計約8億円(営業外収益),第9期が同じくグル
ープ会社及びY1に対する貸付金からの受取利息約8億3200万円(営
業外収益)に負うところが大きく,安定的な収入を期待することができる
ようなものではなかった。これに対し,特約付き融資110億円について
は,利息が減免されない限り毎期1年当たり7億円以上の利息が確実に発
生することが予想され,その額は,同社が現実的に期待することができる
営業利益の規模を確実に凌駕していた。
美祢カントリークラブは,昭和52年4月に開場した山口県下では名門
とされるゴルフ場であるが,不況や山口県西部地区でのゴルフ場乱立等の
影響で,入場者数も平成4年を境に減少傾向にあった。
また,美祢カントリークラブは,平成7年1月にナイスミドルに約27
億5000万円で買収された際,既に63億円余りのゴルフ会員権預託金
を旧来の会員から集めており,更にゴルフ会員権を販売する余地に乏しか
った。実際にも,当初は平成7年4月からゴルフ会員権を販売する予定と
なっていたものの,不景気等を理由に販売開始が延期され,平成7年収支
計画では平成8年度からゴルフ会員権販売を行い,同年度において会員権
登録料7億7500万円,会員権預託金47億5000万円の収入を得る
との計画になっていたが,平成8年経営健全化計画では平成9年度から5
00万円の会員権を1000名,350万円の会員権を150名に販売し,
会員権登録料13億2000万円,会員権預託金42億0500万円の売
上げを見込む旨再度変更が行われるなど,販売開始予定時期が特段の合理
的理由なく順次繰り下げられていた。
〔平成9年5月20日の近畿財務局からのヒアリングでは,大和都市管財
自身,早くとも平成10年又は平成11年からの販売開始を予想する旨説
明している状況であり,平成8年度に4億円を投じてクラブハウス改修等
の環境整備を行ったとするにもかかわらず,その効果が客観的に表われて
いるとは到底いえなかった。平成9年経営健全化計画では,平成10年1
月から3月までに900口,平成10年4月以降の1年間で500口のゴ
ルフ会員権を販売し,この1年3か月間に会員権登録料6億2580万円,
会員権預託金51億5000万円の売上げを予定し,余資運用益の計上も
見込むことで,平成9年度には債務超過額が解消される予定とされていた
が,大和都市管財が平成10年6月5日に近畿財務局に提出した平成9年
経営健全化計画の見直し案によれば,平成10年1月からの会員権販売は
結局実施されなかったことが明らかになっており,グループ会社に対する
融資からの受取利息による営業外収益を除くと,平成9年度の美祢カント
リークラブの経常収支は2億6100万円強の赤字となっていた。〕
したがって,美祢カントリークラブは,平成9年3月末の時点において,
その事業を形式的には継続しているが,その返済能力に比して明らかに過
大な借入金を残存させており,大幅な債務超過の状態に相当期間陥ってい
る上,容易に事業が好転する見込みもなく,独力では特約付き融資の元本
を返済することができる可能性がなかったというべきである。
エベストライフ通商(資本金2000万円)
ベストライフ通商の第9期(平成3年7月1日から平成4年6月30日
までの事業年度)ないし第13期(平成7年7月1日から平成8年6月3
0日までの事業年度)における決算報告書上の金額の推移は,以下のとお
りである。
第9期売上総利益1億0519万9050円
販売費・一般管理費1億3453万4169円
営業損失▲2933万5119円
営業外収益864万9522円
営業外費用5万3695円
当期損失▲2073万9292円
当期未処理損失▲8億0802万2434円
第10期売上総利益1億1025万7677円
販売費・一般管理費1億0774万5976円
営業利益251万1701円
営業外収益497万4383円
営業外費用146万6999円
経常利益601万9085円
特別利益16万7500円
当期利益618万6585円
当期未処理損失▲8億0183万5849円
第11期売上総利益1億8249万6614円
販売費・一般管理費1億6540万6181円
営業利益1709万0433円
営業外収益3005万2149円
営業外費用2億4675万2846円
当期損失▲1億9961万0264円
当期未処理損失▲10億0144万6113円
第12期売上総利益1億8532万7368円
販売費・一般管理費1億5902万3546円
営業利益2630万3822円
営業外収益2459万3201円
営業外費用2億2573万8570円
当期損失▲1億7484万1547円
当期未処理損失▲11億7628万7660円
第13期売上総利益1億4868万6006円
販売費・一般管理費1億8243万5859円
営業損失▲3374万9853円
営業外収益3409万3990円
営業外費用2億7815万9729円
当期損失▲2億7781万5592円
当期未処理損失▲14億5410万3252円
以上のように,ベストライフ通商は,第9期から第13期までの間に3
期において営業利益を計上しているものの,既に第9期において累積債務
が同期の売上高の約2.5倍に達していた上,第11期以降は営業外費用
として多額の支払利息を計上するようになったため,3期連続して売上総
利益を超える当期損失を計上しており,第13期における累積債務は,同
期における同社の売上総利益の約10倍に達していた。また,平成7年収
支計画によれば,同社は平成7年度以降,継続して美祢カントリークラブ
から多額の借入れを行い,これによってようやく特約付き融資の元本返済
を含む資金繰りを行い得ることになっているなど,その財務体質は著しく
脆弱であった。そして,大和都市管財も,平成7年7月7日のヒアリング
では,ベストライフ通商が地を這うような状況であるため,貸付金利をぎ
りぎりまで引き下げている旨近畿財務局に説明していた。
平成7年収支計画に記載されていたベストライフ通商の事業のうち,そ
の時点で実現していたものは賃貸及び既設店舗からの収入のみであり,そ
の他は構想段階にすぎなかった。まず,賃貸収入のうち,大和都市管財や
ナイスミドルに対してその本社事務所を賃貸したり,ナイス函館に什器備
品をリースするものについては,実質的にはグループ内で計算書類上収益
を移転するにすぎないものであり,唯一グループ外からの賃料収入がある
大阪駅前第1ビルも,特約付き融資の担保物件となっており,その利払だ
けで賃料収入を上回ることがあらかじめ前提とされていた。また,既設店
舗である「あじわい」及び「サンクス」(なお,後者はベストライフ通商
が独自に営業する食料品等のスーパーマーケットであったが,売上げは伸
びていなかった。)については,両店併せて年間800万円弱の収益を見
込んでいたものの,特約付き融資の利払だけで年間2200万円強の負担
が生じることになっており,大阪駅前第1ビルと同様,経常収支の段階で
赤字になることは必至であった。加えて,ゴルフ練習場事業計画は,a町
土地で平成9年度から事業化することにより毎期3億円余りの営業利益が
出る予定となっていたが,開発許可が取得された後も未利用地のまま放置
され,計画の具体化に向けた動きはなかった。また,四条畷市山林・a区
土地・a町駐車場・新高駐車場の各不動産については,特約付き融資の担
保物件となっていたものの,平成7年収支計画ではその利用計画が具体化
されておらず,利払負担(及び公租公課)が生じるだけの土地として取り
扱われていた。他方,計画店舗である「あじわいビル」等については数年
内に事業化する方向で具体的な取組みがあったものの,平成7年収支計画
どおりに特約付き融資の利払を超える収益を上げられるだけの具体的な根
拠はなかった(平成8年に「大阪味わいビル」(地上5階地下1階建て・
営業店舗数6軒)が建設されたが,営業収支は赤字であった。)。
さらに,平成8年経営健全化計画では,平成11年度からa町土地上の
ゴルフ練習場が事業を開始し,初年度から3億1000万円以上の営業利
益を上げることを前提に,ベストライフ通商が平成12年度から経常黒字
に転ずるものとされていたが,平成8年12月20日のヒアリングでは,
リストラ策としてa町土地を奈良市に公園墓地として20億円で売却する
との予定が大和都市管財から示されるなど,その方針は一定せず,ひいて
はその計画の真摯さに疑問を生じさせるような状況であった。さらに,同
日のヒアリングでは,a区土地等を売却する予定や,他方で東京の新橋駅
前付近の更地(東京味わいビル敷地)を新たな特約付き融資により取得し,
ビルを建設した上で消費者金融等のテナントを募集する予定などが示され
たが,前者は大和都市管財の説明によっても特約付き融資の返済原資に充
てることで支払利息軽減につながるものの売却損の発生によって収支への
影響は中立というものにすぎず,後者は特約付き融資の残高を漸次減らし
ていくというそれまでの方針に反するものである上,ベストライフ通商が
新ビルの建設により新たな支払負担(元本7億8000万円・年利6パー
セント・15年償還)を賄うに足りる収益を上げることができるという具
体的な根拠は示されなかった。
〔大和都市管財は,平成9年5月20日のヒアリングにおいて,a町土地
をナイスミドルと奈良市との第3セクター方式で開発する方針を示し,1
聖地(4分の1坪)当たり30万円前後での売却を見込むことにより13
0億円強の収入を期待することができ,平成9年11月を目処に奈良市か
ら開発許可の正式な決定が出る旨説明したが,平成9年経営健全化計画で
もなお予定にとどまっており,その実行可能性を裏付ける資料は提出され
ていなかった。現実には,Y1がA寺の住職とa町土地を同寺の境内とし
てそこに境内墓地としての霊園を建設するための覚書を交わしたのは平成
11年12月30日であり,それも,同所にレストランとして建築確認を
取得した建物を一部改装の上,その和室部分にA寺を事実上移転させると
いう脱法行為によって,周辺住民への十分な説明のないまま既成事実を先
行させて霊園開発を進めていくという計画であり,しかも,前記住職には
a町土地が廃棄物投棄場跡地である事実(道路工事で発生するアスファル
トのガラ等が埋め立てられていた。)を知らせてはいなかったというもの
であって,その実現可能性は極めて乏しいものであったことが認められ
る。〕こうした経緯から推して,平成9年の時点では,a町土地の利用計
画は,なお単なる構想の域を出ないものであったことが推認される。〔な
お,「サンクス」は,平成11年ころ以降はベストライフ通商の倉庫兼食
材の集配業務のみを行っていたにすぎなかった。〕
〔大和都市管財は,平成9年経営健全化計画提出の最終段階において,ベ
ストライフ通商に対して160億円の特約付き融資を新たに行うなどして
200億円相当の中古ファッションホテルを順次購入し,平成10年度中
に7億円,平成11年度中に18億円,平成12年度以降20億円の収益
を見込むとの内容を盛り込んだが,これは同社の債務超過を平成13年度
までに計画上解消させる必要上,Y1がY3会計士の持論であった高収益
物件の購入というアイディアを一時的に借用したものにすぎず,現実には
それ以降新規の特約付き融資も,中古ファッションホテルの購入も実行さ
れなかった。〕
したがって,ベストライフ通商は,平成9年3月末の時点において,そ
の事業を形式的には継続しているが,その返済能力に比して明らかに過大
な借入金を残存させており,大幅な債務超過の状態に相当期間陥っている
上,容易に事業が好転する見込みもなく,独力では特約付き融資の元本を
返済することができる可能性がなかったというべきである。
オリステム化学研究所(資本金1000万円)
リステム化学研究所の第1期(平成4年4月16日から平成5年3月3
1日までの事業年度)ないし第5期(平成8年4月1日から平成9年3月
31日までの事業年度)における決算報告書上の金額の推移は,以下のと
おりである。
第1期売上総利益1621万3160円
販売費・一般管理費1603万9925円
営業利益17万3235円
営業外収益5517円
当期利益17万8752円
次期繰越利益17万8752円
第2期売上総利益1944万4791円
販売費・一般管理費3021万0463円
営業損失▲1076万5672円
営業外収益12万2693円
営業外費用2243万2282円
経常損失▲3307万5261円
当期損失▲3318万2561円
当期未処理損失▲3300万3809円
第3期売上総利益1億6291万5222円
販売費・一般管理費4950万5304円
営業利益1億1340万9918円
営業外収益5358万2572円
営業外費用2億3783万6457円
経常損失▲7084万3967円
当期損失▲7088万6685円
当期未処理損失▲1億0389万0494円
第4期売上総利益1億6762万4506円
販売費・一般管理費4268万3544円
営業利益1億2494万0962円
営業外収益4915万8574円
営業外費用2億2485万8836円
経常損失▲5075万9300円
当期損失▲5082万9300円
当期未処理損失▲1億5471万9794円
第5期売上総利益1億6016万9069円
販売費・一般管理費4066万3686円
営業利益1億1950万5383円
営業外収益7132万5201円
営業外費用2億0937万0795円
経常損失▲1854万0211円
当期損失▲1860万7568円
当期未処理損失▲1億7332万7362円
以上のように,リステム化学研究所は,第1期から第5期までの間に,
第2期を除いて営業利益を計上しているものの,第2期以降,大和都市管
財に対する特約付き融資計27億円に対する利息の支払(同期以降のいず
れの期においても,その金額だけで各期の売上高を上回っている。)のた
めに第5期まで4期連続して経常損失を計上しており,第5期においては,
累積債務が同期の売上総利益を超えている状態であった。また,その営業
利益は,大部分が不動産賃貸収入によるもので,その収益は将来的にもほ
ぼ一定と見込まれていた(現に,平成9年経営健全化計画においても,平
成13年度までその収益水準に増減がないことが前提とされていた。)。
よって,リステム化学研究所の累積債務を解消することができるか否か
は,同社が本来の業務としていた産業廃棄物処理事業の成否にかかってい
たところ,平成7年収支計画では,これによって平成7年度から年500
0万円の収入を得る計画となっており,平成8年経営健全化計画において
も平成7年収支計画と同じく平成8年度から年5000万円の収入を得る
計画となっていたものの,この計画には具体的な裏付けがなく,その後も
現実化しなかった。現実には,リステム化学研究所の産業廃棄物事業とは,
主として焼却灰等をブロック加工するためのトーマスセラミックと称する
薬品を奈良市に販売することなどでわずかな収入を得ているというにすぎ
ないものであった。
〔大和都市管財は,平成9年5月20日のヒアリングにおいて,奈良市と
の間で廃棄物リサイクル事業に係る独占的契約を締結しており,今後2年
の間に10億円の利益が見込める旨の説明をしていたにもかかわらず,平
成9年経営健全化計画の提出に際しても,廃棄物リサイクル事業について
はなお奈良市と協議中であり,平成10年2月に同市と契約し,同年度以
降は有望な事業となる旨の説明をするにとどまっており,同計画上で平成
12年度以降毎期2億円の利益を計上する予定となっていたことについて
も,奈良市との間にそのような契約が可能であることについての裏付けを
何ら提出しなかった。結局,本件全証拠によっても,そのような契約が存
在していたものと認めるには足りない。〕
なお,リステム化学研究所は,第5期において7100万円余りの営業
外収入を上げているが,これはいずれも債務超過の状態にあるグループ会
社に対する長期貸付金8億2600万円に係る受取利息であり,将来にお
いて確実にその収受を期待することができるようなものではなかった。
したがって,リステム化学研究所は,平成9年3月末の時点において,
その事業を形式的には継続しているが,その返済能力に比して明らかに過
大な借入金を残存させており,大幅な債務超過の状態に相当期間陥ってい
る上,容易に事業が好転する見込みもなく,独力では特約付き融資の元本
を返済することができる可能性がなかったというべきである。
カ北海道泊別観光(資本金2000万円)
北海道泊別観光の第5期(平成4年10月1日から平成5年9月30日
までの事業年度)ないし第8期(平成7年10月1日から平成8年9月3
0日までの事業年度)における決算報告書上の金額の推移は,以下のとお
りである。
第5期売上総利益0円
販売費・一般管理費301万7086円
営業損失▲301万7086円
営業外収益2万8119円
営業外費用6060万6646円
経常損失▲6359万5613円
当期損失▲6359万5613円
当期未処理損失▲2億1605万5384円
第6期売上総利益0円
販売費・一般管理費589万0623円
営業損失▲589万0623円
営業外収益19万2497円
営業外費用3162万5507円
経常損失▲3732万3633円
当期損失▲3747万3526円
当期未処理損失▲2億5352万8910円
第7期売上総利益0円
販売費・一般管理費237万2381円
営業損失▲237万2381円
営業外収益479万8735円
営業外費用4184万5291円
経常損失▲3941万8937円
当期損失▲3961万3181円
当期未処理損失▲2億9314万2091円
第8期売上総利益0円
販売費・一般管理費240万4777円
営業損失▲240万4777円
営業外収益679万8207円
営業外費用4895万5286円
経常損失▲4456万1856円
当期損失▲4497万3656円
当期未処理損失▲3億3811万5747円
以上のように,北海道泊別観光は,第5期から第8期の間に何らの営業
利益を上げていない休眠会社であって,大和都市管財からの特約付き融資
(1億9000万円)を始めとする長期借入金の支払利息は,北海道泊別
観光の営業外収益(債務超過のグループ会社に対する貸付金からの受取利
息)を大きく上回っており,その累積債務は毎期拡大していった。そもそ
も,同社は,大和都市管財がナイス函館を買収した際に併せて取得した会
社で,a町ゴルフ場用地を保有していたものの,何らの開発も行わないま
ま放置していたものであり,大和都市管財は,平成7年7月7日に近畿財
務局に提出した計画においては,「クシロカントリー」の名称でゴルフ場
及びレジャー・スポーツ施設の開発を行う予定を示していたが,実際には,
毎年開発工事の着手時期及び完了時期の変更(延期)届を北海道知事に提
出し続けている状況で,計画が実現に向けて動き出すことはなく,平成7
年収支計画によれば,同社は各期ごとに1300万円をナイスミドルから
継続的に借り入れることなどを通じて,租税を中心とする販売費・一般管
理費及び抵当証券支払利息を賄うものとされており,平成8年経営健全化
計画でも,平成12年末まで北海道泊別観光には営業利益・営業外収益と
もに一切生じないものとされていた。
〔なお,平成9年経営健全化計画では,平成12年度を目処に同社を10
億円で売却するべく売却先を物色中とされ,北海道泊別観光については自
力再建の方針は完全に放棄されていた。〕
したがって,北海道泊別観光は,平成9年3月末の時点において事実上
事業を行っておらず,利息についても実質的に長期間延滞しているなど,
事実上休眠状態にあったというべきである。
キ大阪府警による大和都市管財グループに係るキャッシュフロー調査
大阪府警は,Y1らに対する詐欺被疑事件の捜査の過程において,公認
会計士の協力を得て,大和都市管財グループの平成8年3月期から平成1
3年3月期までの連結キャッシュフロー計算書を作成又は入手して分析し
た(根拠資料は,大和都市管財及びグループ各社の総勘定元帳及び確定申
告書であり,これらの資料から,実際の取引に基づいた資金の収入,支出
をそのまま表す直接法を用いた。この分析の結果を,以下「本件キャッシ
ュフロー調査」という。)。
このうち,平成8年3月期及び平成9年3月期における連結キャッシュ
フロー計算書(別表9)の概要は以下のとおりである(なお,営業活動に
よるキャッシュフローとはゴルフ場の売上げ,預金利息等の大和都市管財
グループ外からの収入から売上原価・人件費・顧客に対する抵当証券支払
利息・手形割引料等を控除したもの,投資活動によるキャッシュフローと
は不動産や設備に対する投資,財務活動によるキャッシュフローとは抵当
証券等の金融商品の販売額から償還額等を控除したもの,関係会社との取
引によるキャッシュフローとはグループ会社間の貸借の不一致や決算期の
相違による貸借の不一致によるものである。)。
すなわち,平成8年3月期においては,
営業活動によるキャッシュフロー▲4,490百万円
投資活動によるキャッシュフロー▲10,551百万円
財務活動によるキャッシュフロー14,630百万円
関係会社との取引によるキャッシュフロー▲1,912百万円
同じく平成9年3月期においては,
営業活動によるキャッシュフロー▲5,214百万円
投資活動によるキャッシュフロー▲1,557百万円
財務活動によるキャッシュフロー3,653百万円
関係会社との取引によるキャッシュフロー▲1,741百万円
であり,同グループが保有していた現預金は,平成8年3月期首に約13
2億円であったものが,平成9年3月期首には約109億円,同期末には
約60億円に減少していた。
クグループ6社の経営状態
以上によれば,グループ6社は,その帳簿上の記載を前提とした場合,
平成9年3月末の時点において,いずれも累積債務を抱えていた上,その
事業の継続によって独力でこれを解消させる見込みもなかったこと,特に
北海道泊別観光は既に事実上休眠状態にあったことが認められる。そして,
グループ6社は,いずれも営業利益を上回る抵当証券支払利息を負担して
いた上,銀行取引がほとんどなかったことから,利息の支払原資は,グル
ープ会社間において融通し合うほか,最終的には大和都市管財からの融資
を仰ぐ以外にその調達先がなく,証拠(証人Y14)によれば,平成9年
検査の当時において,近畿財務局も同様の認識であったことが認められる。
もっとも,キ記載のとおり,大和都市管財は,平成9年3月期末におい
て,その財務活動によって顧客からのキャッシュインフローを得ていた上,
グループ全体ではなお約60億円の現預金を所持していたから,これらの
資金をグループ会社に融資することによって,既に事実上休眠状態にあっ
た北海道泊別観光を除く各社については,その営業活動を当分の間継続さ
せること自体はなお可能であったといわざるを得ない。そして,既に説示
したところに照らせば,大和都市管財がグループ各社に対する融資を停止
すればそれら各社が即座に破綻することは確実であったから,このことを
考慮して,回収可能性をかえりみることなく更なる追加融資を行うか否か
は,最終的に大和都市管財グループを統括するY1の経営判断に属するこ
とであったということもできる。
しかしながら,既に説示したように,関東財務局は,平成9年10月,
ソーケン開発が不動産抵当證券からあらかじめ収受した仮払金を払い戻す
形で利払を行っていた事実を基に,事実上の利払の延滞であるとした上で
ソーケン開発の破綻を認定していたところ,証拠(証人Y4,同Y21)
によれば,不動産抵当證券と大和都市管財とが抵当証券会社のうちに2社
しかない大蔵省銀行局長に対する報告案件であって,本省金融会社室にお
いても特に関心を払い,法律上の問題等について財務局からの相談に逐次
応じていたと認められることからすると,両社の融資先の破綻を認定する
に当たり,異なる基準が採用されたとは解し難いから,大和都市管財の融
資先についても,追加融資によってその事業に当分の間延命する可能性が
存在したというだけでは,当該融資先会社の破綻を認定する妨げとはなら
なかったと推認することができる。
そして,大和都市管財のグループ6社に対する特約付き融資の元本及び
その弁済期は,①ナイスミドル(合計179億3400万円)が,平成
13年4月10日に5億2400万円,平成14年に計42億8000万
円,平成15年に計28億4000万円,平成16年4月21日に2億9
000万円,平成22年9月28日に100億円であり,②ナイス函館
(合計80億円)が,平成15年9月27日に70億円,平成16年1月
10日に10億円であり,③美祢カントリークラブ(110億円)が,
平成22年2月7日であり,④ベストライフ通商(合計105億173
0万円)が,平成9年11月2日に20億円,平成10年2月17日に1
0億円,平成11年2月28日に計3億4660万円,平成13年4月1
0日に8億9070万円,平成15年中に計53億2000万円,平成1
6年5月6日に1億8000万円,平成23年10月31日に7億800
0万円であり,⑤リステム化学研究所(合計32億2000万円)が,
平成15年12月21日に12億4000万円,平成16年4月4日に1
9億8000万円であり,⑥北海道泊別観光(1億9000万円)が,
平成15年12月24日であったところ(甲53,別表2),その金額や
弁済期からみても,平成9年3月の段階におけるグループ6社の上記のよ
うな経営状態に照らし,その貸倒引当金を本件基準で見積もることはもは
や明らかに不合理というほかない。
したがって,グループ6社については,平成9年3月の段階において,
いずれも実質的な破綻状態にあったと認定することができ,これら各社に
対する特約付き融資について,税法基準の下においても税法基準によって
算定した貸倒引当金が企業の実態に応じて計上すべき貸倒見積高に対して
明らかに不足していると認められる場合に該当し,個別にその回収可能性
を評価した上で貸倒引当金を設定する必要があったというべきである。
ケ特約付き融資に係る貸倒引当金の要設定額
(ア)担保物件に係る不動産鑑定評価の合理性
そこで,次に,グループ6社に対する特約付き融資の回収可能性を債
権ごとに個別に検討することとする。回収可能性を検討するには,その
前提として,特約付き融資の担保となっている物件の評価を行うことが
必要であるところ,証拠(乙88)によれば,グループ6社に対する特
約付き融資は,いずれも大和都市管財が各法務局に対して抵当証券の発
行申請を行った直近の時期において,その融資額を2割以上程度上回る
額の不動産鑑定評価書が存在していたことが明らかである(こうした鑑
定書は,前記のとおり,いずれも抵当証券法施行細則21条の2によっ
て発行申請に際しての必要書類として要求されていたものである。)。
よって,平成9年3月ころの時点における各担保物件に対する不動産鑑
定評価の合理性を検証する必要があることになるところ,証拠(乙88
の11,13,14及び20)によれば,このうち,ナイス函館,美祢
カントリークラブに対する特約付き融資の担保物件のすべて,ナイスミ
ドルに対する特約付き融資の担保物件の大部分を占めるゴルフ場につい
ては,大和都市管財が抵当証券の発行申請に際して法務局に提出した不
動産鑑定評価書は,美祢ゴルフ場に係るものを除き,現実に当該ゴルフ
場を建設した際に要した費用を積算してその評価額とするいわゆる原価
法を採用していたこと(これは,那須ゴルフ場に係る不動産鑑定評価書
(乙88の13)によれば,取引事例比較法は,同一需給圏内にゴルフ
場の取引事例が乏しいために適用することができず,収益還元法につい
ては,預託金会員制ゴルフ場の場合,新設費用の大半を会員からの預託
金で賄い,株式会社としての自己資本は少額で済ますのが一般的である
ため自己資本に対する収益性が低くなる結果,原価法による積算価格と
のかい離が極めて大きく調整が困難となるからであるとされている。),
これに対し,収益還元法を適切に適用すれば評価額が大幅に下落する可
能性があったことが認められ,現に,別表3のとおり,平成13年の大
和都市管財グループの破綻以降に各ゴルフ場を処分した際の処分額は被
担保債権総額の約13パーセント(大原ゴルフ場の一部)ないし約0.
5パーセント(函館ゴルフ場のうち一番抵当権の部分)にすぎなかった
ものである。しかしながら,同時に,証拠(乙146,証人Y20)及
び弁論の全趣旨によれば,平成12年検査において近畿財務局は,大和
都市管財の特約付き融資に係る担保物件の大部分を占める各ゴルフ場に
ついて予算を確保した上で独自に不動産鑑定評価を行うことも検討した
ものの,ゴルフ場の収益還元価格を把握するには入場客数や売上収益等
の情報を大和都市管財から入手する必要がある一方で,同社の任意の協
力はおよそ望めない状況であったことなどから,最終的にこれを断念し
たことが認められ,大和都市管財によるこのような対応は,平成9年検
査当時においても変わるところがなかったであろう事実は優に推認する
ことができる。もっとも,原告らは,原告らが依頼した不動産鑑定士の
作成に係る各ゴルフ場の不動産調査報告書(甲165ないし167,1
69)を提出するが,これらはいずれも大和都市管財が抵当証券発行申
請に添付した不動産鑑定評価書と価格時点を共通にしているため,平成
9年当時の評価ではない上,実際にはいずれのゴルフ場も前記時点にお
いては預託金会員制を採用していたのに,美祢ゴルフ場に係るものを除
き,算定の便宜上これをパブリック制と仮定した上で,当該ゴルフ場の
過去の入場者実績やそのビジター料金等を参考にして仮定上の収益を計
算してそれらの収益価格を算出しているものであって,大和都市管財が
提出した上記不動産鑑定評価書の評価額が結果的に高額に過ぎたことを
推認させるものであるとはいえても,上記調査報告書の評価額に依拠し
てその平成9年3月時点における担保価値を判断することは困難という
べきである。そして,原告らも,別紙8の計算では各ゴルフ場の担保価
値を上記各不動産調査報告書ではなくナイスミドル,ナイス函館及び美
祢カントリークラブの平成9年3月期又はその直近の時期における貸借
対照表上に記載された各ゴルフ場の帳簿価額を基礎に算出しているが,
遊休地であれば格別,現に営業を行っているゴルフ場について,その帳
簿価額を根拠に評価額を割り出すことは適当とは解されず,他に証拠上
各ゴルフ場の平成9年3月時点における価値を合理的に算出する方法は
見いだせない。そうすると,企業会計原則・注解18にいう「金額を合
理的に見積もることができること」の要件を欠くことに帰するから,ゴ
ルフ場を担保物件とする特約付き融資については,その貸倒引当金の要
設定額を個別に判断することは困難といわざるを得ない。また,原告ら
による別紙8の計算によっても,ナイスミドルに対するそのゴルフ場を
担保物件としない2件の特約付き融資のうち,広尾ガーデンヒルズに係
るものについては担保割れが生じておらず,a区駐車場に係るものにつ
いても約1000万円の無担保部分が生じているだけであって,この程
度のかい離は誤差の範囲にとどまる可能性もあるから,結局,ナイスミ
ドル,ナイス函館及び美祢カントリークラブに対する特約付き融資につ
いては,その債権額のうち抵当物件によって担保されていない部分を検
証する実益を認めることができない。
これに対し,北海道泊別観光,ベストライフ通商及びリステム化学研
究所については,その担保物件の中にゴルフ場が含まれておらず,平成
9年3月ころにおけるその価額をより合理的に算定することが可能であ
ると考えられる。そこで,以下,北海道泊別観光に対する1億9000
万円の債権,ベストライフ通商に対する総額105億1730万円の各
債権及びリステム化学研究所に対する総額32億2000万円の各債権
について,個別に回収不能見込額を判断する。
(イ)北海道泊別観光に対する特約付き融資の回収不能見込額
しかるところ,まず,原告らによる別紙8及び同10の各計算によっ
ても,大和都市管財の北海道泊別観光に対する特約付き融資については
回収不能見込額が存在せず(これは,特約付き融資の額が1億9000
万円であるのに対し,原告らがその担保であるa町ゴルフ場用地の価格
として,平成8年9月期における北海道泊別観光の貸借対照表に記載さ
れた土地の価額である約8億7300万円(甲75の4)を用いたため
である。),これによって同社に対する特約付き融資に係る貸倒引当金
の要設定額を認定することはできない。なお,証拠(甲63)によれば,
同社が平成13年4月に民事再生法に基づく保全管理命令を受けた後,
上記担保土地について大和都市管財管理人グループが不動産鑑定評価を
改めて依頼したところ,正常価格1200万円,特定価格720万円と
の結果であったことが認められるが,同時に,証拠(甲63,乙88の
19)によれば,北海道泊別観光は,a町ゴルフ場用地について平成3
年2月5日に北海道知事より北海道自然環境等保全条例に基づく特定開
発行為(ゴルフ場,スキー場,テニス場の建設及び宅地の造成)の許可
を得ていたところ,平成12年5月に施行された改正都市計画法により,
上記土地について開発のために新たに同法による許可が必要になったこ
と,大和都市管財は,上記土地に係る抵当証券交付申請書に添付する目
的で平成5年12月16日を価格時点とする評価額4億8010万円と
の不動産鑑定評価書を得ていたところ,上記評価額は,総合レジャー施
設予定地としての適性,特定開発行為の許認可の取得,地方公共団体に
よる水利施設や道路整備の進行等を付加価値として考慮し,標準価格の
2倍とする評価手法が取られていたこと,が認められる。以上によれば,
平成5年12月ころに2億4000万円程度であったa町ゴルフ場用地
の適正価格は,平成12年5月の都市計画法改正により開発許可が新た
に必要となったことなどからその後大幅に下落し,平成13年ころにお
いては1200万円程度となったことが認められるものの,これだけで
は,平成9年当時の上記土地の価格が融資額1億9000万円を下回っ
ていたと断定することはできず,仮にそのように推認したとしても,上
記土地の評価額と1億9000万円との差額を合理的に算定することは
できない。
これに対し,原告らは,ベストライフ通商及びリステム化学研究所に
ついては,別紙8記載のとおり,それぞれ回収不能見込額が生じるとし
ているので,以下その合理性を検証する。
(ウ)ベストライフ通商に対する特約付き融資の回収不能見込額
まず,ベストライフ通商については,別紙8において原告らが同社の
純資産額に施している修正のうち,少なくとも,同社が他のグループ会
社に対して有している債権の回収可能割合を債務者の清算価値によって
計算し,これによって得られたとする回収不能額約3億6900万円を
帳簿上の資産額から控除するとしている点については,22号取扱いに
よれば許容される可能性があるが,税法基準が一般的であった平成9年
当時において,22号取扱いが同取扱いにいう子会社又は関係会社に該
当しない融資先の回収不能見込金額を計算するに当たって一般的に用い
るべき方法であったと認めるに足りる証拠はないから,本件においては,
上記方法のような帳簿価額の修正を行うことはできない(すなわち,グ
ループ会社に対する債権も簿価で評価すべきこととなる。)。
そして,原告らが別紙7及び同8【ケースA】の計算においてベスト
ライフ通商の純資産額に対して行った,同社が保有する不動産の帳簿価
格の評価減に伴う修正は,平成9年までに抵当証券保管機構による再評
価が行われていた各土地(四条畷市山林,新高駐車場,a町駐車場及び
大阪味わいビル敷地)については,帳簿価額に代えて同機構による再評
価額を採用し(これにより,同社の債務超過額は計約10億5300万
円増加することになる。),その余の不動産のうち,遊休資産として帳
簿価額に支払利息配賦額が含まれている土地でa町土地以外のもの(a
区土地並びに神戸市a区b町c,上野市a及び京都府相楽郡a町bに各
所在の土地)については,帳簿価額から支払利息配賦額を控除した(し
たがって,取得価額に近接する)価額を採用し(これにより,同社の債
務超過額は計約14億9100万円増加することになる。),a町土地
及び大阪駅前第1ビルについては帳簿価額をそのまま採用し,個別のた
な卸不動産の平成8年6月期末における帳簿価額は,平成10年6月期
(第15期)における勘定科目内訳明細書添付の「たな卸不動産明細
書」(甲72の14)の内訳比率から推定する,というものであるとこ
ろ,証拠(甲54,72の14,90の6,111,263,264,
乙88の4,133,149,証人Y4)によれば,ベストライフ通商
が上記各不動産を取得した時期は昭和60年7月から平成6年4月にか
けてであったこと,抵当証券保管機構が行った再評価(Y4補佐がその
内容をY17課長に伝え,他の不動産についても簡易鑑定による再評価
をするよう促したことが認められること,甲90の6右肩に(H.9.
4.30分に添付)との記載があることから推して,その価格時点は平
成9年4月ころと推認される。)は路線価や公示地価を基にしたいわゆ
る簡易鑑定であるが,銀行からの出向者がその職員の多くを占める同機
構の不動産担保評価の手法には一般的に信頼性があると推認することが
できるところ,同機構の再評価によって帳簿価額より価格が下落してい
たとされた4筆の土地はいずれも大阪圏の市街地に所在しており(四条
畷市山林も,住宅都市整備公団(当時)によって田原ニュータウンとし
て開発され,平成6年ころまでに順次換地を受けており,平成13年こ
ろの現状は6区画約500坪の宅地であった。),大阪圏の商業地にお
ける公示地価は,これらの土地のうち3筆が購入された平成5年度から
平成8年度までの間に約5割,残り1筆が購入された平成6年度から平
成8年度までの間に約3割下落しているから,このことからも上記再評
価の結果には不合理な点はないと解されること,いかに法的整理手続中
の売却という特殊事情や約5年の時期の違いがあるとはいえ,原告らに
よって帳簿価額から減額修正された上記各不動産のうち,大和都市管財
グループの破綻以降に抵当証券保管機構を通じて処分がされたものの処
分価格は,別表3のとおり新高駐車場が2億0010万円,a町駐車場
が1億4100万円,大阪味わいビル敷地が約2453万円であったと
認められ,a区土地の処分価格は1235万円程度と推認されるところ,
これらはいずれも原告らによる前記修正後の各土地の評価額を最小でも
約70パーセント(a町駐車場),最大で約99パーセント(a区土
地)下回っていることなどに照らすと,原告らの行った上記各修正がベ
ストライフ通商の平成8年6月末当時の総資産額を不当に低く評価して
いると認めることはできず,むしろその減価は控えめですらあったと解
することができる。
もっとも,大阪駅前第1ビルについては,証拠上遊休地であるとは認
められず,かつ,抵当証券保管機構による簡易鑑定の対象ともなってい
ないことから,ここでは,関東財務局の例にならい,帳簿価額ではなく,
証拠(乙88の7)上認められる平成5年6月15日を価格時点とする
鑑定評価額である23億1152万3200円(24億5000万円か
ら敷金債務1億3847万6800円を控除した残額)を採用すること
とする。
これらの数値を基に別紙7及び同8に準拠して計算すれば,平成8年
6月期における同社の弁済不能見込額は約36億8600万円(債務超
過額約14億3400万円と所有不動産の価値下落に伴う修正額約22
億5200万円(約25億4400万円(原告らの計算による不動産価
値下落分の総額)-約2億9200万円(原告らの計算による大阪駅前
第1ビルに係る価値下落分))の和)となる。
なお,上記計算は,平成8年6月期のベストライフ通商の決算書を用
いているため,同年10月に同社が取得した東京味わいビル敷地が考慮
に入れられていないが,平成9年3月の時点では,同年6月期の同社の
貸借対照表の内容は判明していないから,平成8年7月以降に生起した
事実のうち上記土地を取得した事実のみを考慮に入れるのは妥当ではな
い。もっとも,証拠(甲72の14)によれば,東京味わいビル敷地の
取得価格は9億円を超えていたことが認められ,これと上記土地を担保
とする特約付き融資7億8000万円との差額が一般財産の引当になっ
た可能性はあるが,他方で,平成9年6月期末においてベストライフ通
商の債務が期首よりも22億円以上増加していることを併せ考えると,
平成9年3月末の時点におけるベストライフ通商に対する特約付き融資
の貸倒引当金を仮に試算し得たとしても,平成8年6月期の決算書を基
礎として計算した場合よりも増加するであろうことは優に推認すること
ができる。
したがって,大和都市管財のベストライフ通商に対する特約付き融資
に係る債権105億1730万円のうち,平成8年11月に実行された
7億8000万円を除く約97億3730万円について,抵当物件によ
って担保されていたと評価し得るのは,以下のとおり,別紙7の同社に
係る「優先弁済額」欄に記載された約86億2100万円に大阪駅前第
1ビルに係る債権が全額担保されていたと仮定することによる修正額約
2億9200万円を加えた約89億1300万円にとどまることになる
から,その差額である約8億2430万円が無担保というべきこととな
る。
9,737,300,000-(8,621,000,000+292,000,000)=824,300,000
そして,仮に,原告らのように,上記債権について一般債権としての
回収可能見込額を考慮するとしても,別紙7の3頁記載の方法を参照し
て計算すれば(ただし,上記のとおり,ベストライフ通商の借入金額等
のうち「換価可能純資産」を「-3,686」,「DTK劣後弁済額」を「8
24」にそれぞれ修正するとともに,「DTK劣後弁済額」が原告らの計
算より約4億3200万円(1,254百万円-824百万円=430百万円)減
少することに伴い,「劣後負債合計」を「4,629」(5,059百万円-430百
万円=4,629百万円)に修正する必要が生じる。),以下のとおり,上記
無担保部分のうち約79.6パーセントに該当する約6億5614万円
が回収不能見込額となるから,これと同額の貸倒引当金を設定すべきこ
ととなる。
3,686÷4,629≒0.796
824,300,000×0.796=656,142,800≒656,140,000
他方,証拠(甲2,75の8,207,乙146,154)によれば,
近畿財務局が平成13年4月に大和都市管財の財産的基礎を否認した際
には,北海道泊別観光の実質的破綻を認定した上,同社に対する大和都
市管財の抵当権付き債権10億円のうち,担保物件の鑑定評価額である
4億8000万円を超える5億8000万円については,平成12年9
月期の貸借対照表上北海道泊別観光は他に一般財産(長期貸付金約9億
円,現金・預金約15万円)を保有していたにもかかわらず,そこから
の返済可能性を考慮することなく,その全額について債務保証損失引当
金の計上が必要であるとしていたこと,関東財務局が平成9年10月に
不動産抵当證券のソーケン開発に対する債権につき貸倒引当金を算定し
た際にも,担保物件のうち簡易鑑定の行える不動産についてはこれを行
い,これが行えない不動産については不動産鑑定評価をそのまま用いた
上,一般債権としての回収可能見込額は考慮しなかったこと,が認めら
れるところ,ここでもそうした手法にならうとすれば,平成9年までに
抵当証券保管機構による再評価が行われていた各土地(四条畷市山林,
新高駐車場,a町駐車場及び大阪味わいビル敷地)についてその評価額
を採用し(別紙7の1頁の上記各土地に係る評価額(Aの符号が付され
ているもの)を合計すると約16億2200万円となる。),これらの
土地を担保とする特約付き融資の債権額合計26億4000万円との差
額である10億1800万円が無担保となり,これと同額の貸倒引当金
を設定すべきこととなる。
以上によれば,ベストライフ通商に対する特約付き融資については,
平成9年3月末の時点において,少なくとも6億5600万円程度の貸
倒引当金を追加的に設定すべきであったと認めることができる。
(エ)リステム化学研究所に対する特約付き融資の回収不能見込額
次いで,リステム化学研究所についても,原告らが別紙8において行
っている帳簿価額の修正のうち,貸付金回収不能見込額については前記
と同様の理由で認めることができないので,この点を除いて別紙7及び
同8の計算に従い,平成9年3月期における同社の弁済不能見込額は約
5億8700万円(債務超過額約1億6300万円と所有不動産の価値
下落に伴う修正額約4億2400万円の和)となる。そして,原告らが
別紙7及び同8【ケースA】の計算においてリステム化学研究所の純資
産額に対して行った,同社が保有する不動産の帳簿価格の評価減に伴う
修正は,平成9年までに抵当証券保管機構による再評価が行われていた
物件(リステム化学研究所に対する特約付き融資に係る担保物件のすべ
てである。)について,帳簿価額に代えて同機構による再評価額を採用
したものであって,抵当証券保管機構による簡易鑑定が一般的に信頼可
能であると推認することができること,これらの担保物件がいずれも大
阪圏の市街地にあることはいずれもベストライフ通商の場合と同様であ
る上,別表3のとおり,大和都市管財グループの破綻以降に抵当証券保
管機構を通じて処分がされたものの処分価格は,a区共同住宅が2億3
560万円,上野西共同住宅が1億8100万円,寺内共同住宅が1億
7680万円,西宮市共同住宅が2億2008万円であったところ,こ
れらはいずれも原告らによる前記修正後の各物件の評価額を最小でも約
43パーセント(西宮市共同住宅),最大で約66パーセント(上野西
共同住宅)下回っていることなどに照らすと,この点に関しても,原告
らの行った上記各修正がリステム化学研究所の平成9年3月末当時の担
保物件の価格を不当に低く評価していると認めることはできない。
したがって,大和都市管財のリステム化学研究所に対する債権額計3
2億2000万円については,別紙7の同社に係る「優先弁済額」欄に
記載されたとおり,抵当物件によって担保されていたと評価し得るのは
約18億4400万円にとどまることになるから,その差額である約1
3億7600万円が無担保というべきこととなる。そして,仮に原告ら
のように,上記債権について一般債権としての回収可能見込額を考慮す
るとしても,別紙7の3頁記載の方法を参照して計算すれば(ただし,
上記のとおり,リステム化学研究所の借入金額等のうち「換価可能純資
産」を「-587]と修正する。),以下のとおり,上記無担保部分のうち
約38.4パーセントに該当する約5億2838万円が回収不能見込額
となるから,これと同額の貸倒引当金を設定すべきこととなる。
587÷1,528≒0.384
1,376,000,000×0.384=528,380,000
他方,ソーケン開発の場合と同様に,担保物件のうち簡易鑑定の行え
る不動産についてはこれを行い,一般債権としての回収可能見込額は考
慮しないという,新基準に準拠した手法にここでもならうとすれば,リ
ステム化学研究所に対する特約付き融資に係る無担保部分である約13
億7600万円について,そのままこれと同額の貸倒引当金を設定すべ
きこととなる。
そうすると,リステム化学研究所に対する特約付き融資については,
平成9年3月末の時点において,少なくとも5億2800万円程度の貸
倒引当金を追加的に設定すべきであったと認めることができる。
(オ)貸倒引当金要設定額の計算
原告らは,別紙8の計算において,個別の貸倒引当金を積み増すに当
たり,大和都市管財が本件貸借対照表において既に計上していた2億1
000万円の貸倒引当金全額を積み増し分から控除しているが,ベスト
ライフ通商及びリステム化学研究所に対する特約付き融資についてのみ
個別に回収不能見込額を評価するのであれば,大和都市管財がグループ
各社に対して有するその他の債権については依然として本件基準に基づ
く貸倒引当金の設定が必要と解されるから,積み増し分から控除する必
要がある金額は,上記両社に対する法定繰入率に係る貸倒引当金に限ら
れると解されるところ,その額は以下の計算のとおり,4121万19
00円である。
(10,517,300,000+3,220,000,000)×0.003=41,211,900
以上によれば,税法基準の下においても,大和都市管財は,設定済み
の2億1000万円の貸倒引当金に加えて,以下のとおり,少なくとも
更に11億4200万円程度の貸倒引当金を設定すべきであったことが
認められる。
(656,000,000+528,000,000)-41,211,900=1,142,788,100
そして,上記金額を本件貸借対照表における大和都市管財の資産の部
に記載のある貸倒引当金2億1000万円に加算すると,同社の貸倒引
当金は合計で13億5200万円となり,資産合計は以下の計算のとお
り559億9190万3336円となる。
57,338,903,336-1,352,000,000=55,986,903,336
しかるところ,上記資産合計から同社の負債合計567億5942万
3307円を控除して得られる同社の純資産額は,以下の計算のとおり
-7億7251万9971円となる。
55,861,903,336-56,759,423,307=-772,519,971
(カ)小括
したがって,同社は平成9年3月末時点の貸借対照表において,以下
のとおり,3億2250万円以上の債務超過となるから,同社は,同時
点で優に資本欠損に陥っていたことが認められるというべきである。
-772,519,971+450,000,000=-322,519,971
コ被告の主張について
被告は,グループ会社が保有する不動産の評価額は,抵当証券発行申請
時に不動産鑑定士が提出した不動産鑑定評価額を無視すべきではないと主
張する。しかしながら,不動産鑑定評価額に一般的な合理性を肯定すると
しても,それらの評価時点はいずれも抵当証券発行申請時に近接する時点
であって,平成8年6月末ないし平成9年3月末の時点ではその後の地価
下落の影響を受けざるを得ない。特に,証拠(甲49,50,54,乙2
2,88の1)によれば,ベストライフ通商の有する不動産のうち,a町
土地については,同社が昭和62年9月に約6ないし8億円程度で購入し
たものであり,大和都市管財は当初昭和62年8月26日を価格時点とす
る60億0300万円との不動産鑑定評価書(「熟成度の高い墓地見込
地」としての評価を行い,他に特段の条件はないとするもの)を基に同物
件につき30億円の抵当証券の発行を受けてこれを販売していたが,後に
平成5年12月17日を価格時点とする21億円との不動産鑑定評価書が
新たに提出され,この金額は前記計算における同物件の帳簿価格30億5
000万円を9億5000万円も下回っていること(しかも,新鑑定評価
書(乙88の1)によっても,修正後の不動産鑑定価格がa町土地が産業
廃棄物処理場跡地であるとの事実を織り込んだ評価であると認めるには足
りず,現実にも,証拠(甲63)によって認められるとおり,a町土地は
ベストライフ通商の破産手続において評価額を上回る産業廃棄物の除去費
用が見込まれ換価性がないことを理由に破産財団から放棄されたのであっ
て,このことに照らすと,21億円という上記修正後の評価ですら,平成
8年6月末当時のa町土地の時価を著しく上回る蓋然性が高いものという
べきである。),近畿財務局も,平成5年ころ,a町土地には30億円の
価値があるとは思われないとして,これを担保とした抵当証券の販売額を
15億円程度まで減額するよう大和都市管財に指導していた上,平成9年
10月の段階では,大和都市管財の各担保不動産は,地価下落の影響を受
けるとともに,ゴルフ場のほか墓地公園予定地等も含まれ流動性に乏しい
ため,最終的に換価処分した場合に大幅な元本割れを生じる可能性が高い
ものと危惧していたことがそれぞれ認められるから,被告の前記主張は採
用することができない。
加えて,被告は,グループ会社の保有する不動産の時価が帳簿価額を超
える(すなわち,含み益がある)可能性を考慮していない点で原告らの計
算方法は妥当ではないとも主張するが,帳簿価額を時価として採用した担
保物件の評価についてそのような可能性が存在することを裏付けるに足り
る証拠は被告からは何ら提出されていない上,前記認定に照らすと,かえ
って,ベストライフ通商やリステム化学研究所を含むグループ会社がその
保有不動産について平成8年6月又は平成9年3月の時点で既に含み損を
有していたと推認することが可能というべきである。
また,被告は,原告らの計算方法は会計上の子会社及び関係会社におけ
る株式及び債権の評価にのみ適用される22号取扱いに基づいており,大
和都市管財グループの主要株主がY1及びその親族で占められているとい
った程度の理由でこのような取扱いを本件でも適用するのは妥当ではない
旨主張する。しかしながら,新基準のように実質破綻先債権について一般
財産からの回収可能性を考慮しないのであれば,債務者が清算したと仮定
して計算を行う必要はなく,現に関東財務局は不動産抵当證券に対する貸
倒引当金を算定するに当たって,近畿財務局は大和都市管財に対する債務
保証損失引当金を算定するに当たって,それぞれ無担保債権額をそのまま
引当金額としているところ,原告らは無担保部分について更に一般財産か
らの回収可能性を考慮しているからこそ,融資先の清算を仮定した上での
計算の必要が生じるのであって,本件において融資先グループ会社の清算
を仮定することは,貸倒引当金額を増額する方向には何ら作用していない。
また,そもそも,既に説示したところから明らかなように,22号取扱い
に独自性があるとすれば,会計上の子会社や関係会社に対する債権の評価
について,債権者と債務者との間に緊密な関係があることなどを考慮し,
場合によっては税法基準以上の貸倒引当金の設定を要求する点に認められ
るのであって,債務者が評価時点で清算したものと仮定し,当該債務者の
総資産額を総負債額で除したものを1から減じて得られた数値を当該債務
者に対する債権の回収不能見込割合として用いるという方法自体には特段
目新しい点はなく,債務者が子会社等に該当するか否かにかかわらず,通
達9-6-4(債権償却特別勘定)の下で債権回収不能見込額を算定する
際にも同様の方法によって行うのが通常と解される上,ベストライフ通商
やリステム化学研究所を始めとするグループ各社が平成9年3月末時点に
おいて事業継続による独力での債務超過解消の見込みがなかったこと(し
たがって,これら各社が清算せずに事業を継続したと考えた場合,むしろ
回収不能見込割合の拡大が懸念されること)も既に説示したとおりである。
さらに,被告は,ベストライフ通商の清算価値を計算するに当たり,同
社が平成8年10月に新たに土地を取得した事実を無視してはならない旨
主張する。しかしながら,ベストライフ通商の経営状態に照らすと,前記
のとおり,原告らが主張するように,同社の清算基準時を遅らせれば遅ら
せるほど同社に対する債権の回収不能見込割合は増大するものと推認する
ことができるから,この点に関する被告の主張も採用しない。
加えて,被告は,大和都市管財の融資先の保有不動産すべてが特約付き
融資の担保に供されていることを前提としていることについて,融資先が
担保に供されていない不動産を所有している場合,それらの物件について
は一般債権の弁済の対象となる財産となるために回収見込額が大きくなり,
貸倒引当金要設定額は小さくなるから,不合理であると批判する。この点
につき,ベストライフ通商に関してみると,原告らは,別紙7の1頁記載
とおり,附属設備及び構築物(平成8年6月期の貸借対照表における資産
としての計上額は約4億4500万円)が担保物件か否か不明確であった
ために帳簿価額で担保物件の評価額に加えていたものであるところ,仮に
これが担保物件でないとすれば,原告らの主張するとおり,大和都市管財
に対する優先弁済額が減少する結果,回収不能見込額が増額され,貸倒引
当金の要設定額もむしろ増加することが予想される。他方,リステム化学
研究所に関しては,同じく別紙7の1頁における計算上,仮に同社が特約
付き融資の担保物件以外の不動産を所有していたとすれば,大和都市管財
に対する優先弁済額には変化がない一方で,一般債権への引当となる財産
が増加することから,回収不能見込額が減少する結果,貸倒引当金の要設
定額が減少ないし消滅する可能性が生じる。しかしながら,証拠(甲56,
63,77)によれば,リステム化学研究所の貸借対照表上の建物勘定,
土地勘定は,平成5年3月期においては計上されていなかったものが,平
成6年3月期に建物勘定が約2億4300万円,土地勘定が約6億770
0万円それぞれ計上され,平成7年3月期には建物勘定が約6億3600
万円,土地勘定が約16億3200万円に増額され,以後はその破綻に至
るまで両勘定の数値に変化がないところ,平成6年3月期と平成7年3月
期は,同社がその帳簿上大和都市管財からの特約付き融資を受けて4件の
共同住宅を順次取得した時期に当たること,大和都市管財事件管財人グル
ープが平成14年8月に提出した報告書にも,リステム化学研究所が所有
していた不動産としては上記4件の共同住宅に係る記載しかないこと,本
件刑事事件に際して大阪府警が作成した「抵当権設定にかかる担保物件購
入価格一覧表」によれば,リステム化学研究所が平成7年3月期に購入し
た上野西共同住宅,寺内共同住宅及び西宮市共同住宅の購入価格はその売
買契約書によればそれぞれ4億0150万円,4億5690万円及び4億
0150万円の合計12億5990万円であって,同期における同社の土
地勘定及び建物勘定の増額分の合計13億4800万円とほぼ見合うこと
(帳簿価額は,売主に支払った売買代金に登記手数料や仲介手数料等が加
算された金額となるはずであるから,売買契約書上の金額との間に900
0万円弱のかい離額があること自体は何ら不自然ではない。),がそれぞ
れ認められ,これらの事実及び弁論の全趣旨を総合すれば,リステム化学
研究所は,特約付き融資の担保物件である4件の共同住宅のほかに不動産
を所有していなかったことは優に推認することができる。したがって,こ
の点に関する被告の主張も結局は失当というべきである。
また,被告は,平成12年検査において,「金融商品会計に関する実務
指針(中間報告)」中の「個別引当法」を参考に大和都市管財の貸倒見積
高を合理的に算定しようと試みたが,担保不動産の大半を占めるゴルフ場
の正確な時価の把握が困難であり,また債権額のうち担保時価を超過する
部分についていくらを引き当てるのかについて明確な算定基準がなかった
から,休眠会社であるとの断定が可能であった北海道泊別観光を除いて,
貸倒引当金を算定することができなかった旨の主張もする。しかしながら,
既に説示したように,平成12年検査において近畿財務局は大和都市管財
の抵当証券受取利息を否認することなどを通じて同社に50億円を超える
簿外債務があると確実に認定することができ,それだけで同社が財産的基
礎を欠くものと優に判断することができた上,ゴルフ場の収益還元価格を
把握するには入場客数や売上収益等の情報を大和都市管財から入手する必
要があるものの,同社の任意の協力はおよそ望めなかったところ,こうし
た状況下で予算を確保して同社が抱える膨大な担保不動産につき不動産鑑
定評価を行う理由も必要も乏しかったことは明らかであるから,平成12
年検査で近畿財務局が貸倒引当金の追加設定を行わなかったことから,直
ちに平成12年の時点においてすら貸倒引当金の設定基準が明確ではなか
ったと推認することはできない(ゴルフ場の評価が困難であるのは被告の
主張するとおりであるが,担保物件のうちにゴルフ場を保有しないベスト
ライフ通商やリステム化学研究所に対する貸倒見積高は上記のとおり算定
することが可能であり,特に後者については,簡易鑑定によることも容易
であった。)。また,既に説示したとおり,既に平成9年10月において,
関東財務局長はなお休眠会社とはいえなかったソーケン開発についてその
破綻を認定した上で貸倒引当金を現に算定しているのであるから,このこ
とからしても,被告の主張はその事実的前提を欠くといわざるを得ない。
なお,更新登録申請者に係る財産的基礎の判断に当たって財務局長等が貸
倒引当金を検証する目的は,追加設定すべき貸倒引当金額が,単独で,又
は他の要因と相まって申請者の資本欠損を生じさせ得る程度に達するか否
かを判断する点にあると解されるところ,被告が主張するように,平成9
年当時に妥当していた税法基準を中心とする貸倒引当金の算定方法は必ず
しも一義的に明確とはいえなかったが,近畿財務局長が算定すべきであっ
た貸倒引当金の積み増し額は,それが「公正ナル会計慣行」の範囲内にあ
るといえれば足りるのであって,上記慣行に準拠して算定される貸倒引当
金の上限額と一致しているとの確証が得られない限りその算定が不可能で
あると解するまでの必要はなかったというべきであり,現に関東財務局長
が不動産抵当證券に対して貸倒引当金の算定を行った際の手法(簡易鑑定
ができる物件についてはそれにより,これが不可能な物件については不動
産抵当證券が提出した不動産鑑定評価書の評価額をそのまま採用する,と
いうもの)に照らしても,そのことは明らかというべきである。
なお,被告は,約14億円という回収不能見込額に係る関東財務局長の
計算結果については不動産抵当證券も認めていた点が本件とは異なる旨主
張するが,それを裏付けるに足りる客観的証拠は存在しない上,そもそも,
被検査者が回収不能見込額,ひいては貸倒引当金の要追加設定額を認めて
いたことと,その算定が「公正ナル会計慣行」に従って行われたこととは
一応別個の問題であることからすると(被検査者が同意していたとしても,
不公正な会計手法により計算した貸倒引当金に基づいて行った処分はなお
違法の問題を生じ得る。),被検査者による同意の存否は検査結果の通知
の適否に直接的には影響を与えないものというべきである。
サ原告らの主張について
原告らは,ナイスミドルが創業費として計上した繰延資産やナイス函館
・美祢カントリークラブが計上した営業権を全額償却したり,ナイスミド
ルの子会社である北海道泊別観光・美祢カントリークラブ・ナイス函館の
株式を全額評価減するなどの措置を講じるべきである旨主張するが,ナイ
スミドル,ナイス函館及び美祢カントリークラブに対する特約付き融資に
係る担保物件の全部又は大部分を占めるゴルフ場の担保価値については,
その合理的評価が困難であることは既に説示したとおりである上,平成9
年3月ころに妥当していた「公正ナル会計慣行」に照らし,貸倒引当金の
設定に当たり一般的に原告らが主張するような詳細な認定を行う必要があ
ったと認めるに足りる証拠はない(22号取扱いによれば許容された余地
はあるが,既に説示したとおり,本件において,22号取扱いを必ず適用
又は準用しなければ「公正ナル会計慣行」に反したとはいえない。)から,
原告らの上記主張は採用しない。
シ小括
以上によれば,本件貸借対照表上,平成9年3月末ころに「公正ナル会
計慣行」として妥当していたと解される税法基準の下においても,少なく
とも約11億4200万円以上の貸倒引当金を追加して設定することが要
求されていたものと解され,これによれば大和都市管財には資本欠損が生
じることになるから,同社は平成9年12月の本件更新登録時点において,
客観的には抵当証券業規制法8条2項,6条1項7号の財産的基礎の要件
を欠いていたことが明らかである。
(5)本件貸付金の資産計上
ア本件貸付金に関する事実関係
証拠(甲7,13,51,68,118,135,151,乙3,9,
22,32ないし36,88の13,乙90ないし92,145,証人Y
14,同Y20)によれば,本件貸付金に関し,以下の事実を認めること
ができる。
(ア)本件貸付金に関し発行された抵当証券の帰すう
本件貸付金については,平成8年3月28日付け金銭消費貸借抵当証
券発行特約付抵当権設定契約証書(以下「本件貸付金証書」という。)
が存在し,これによれば,債務者兼抵当権設定者ナイスミドルが,債権
者兼抵当権者大和都市管財から,同日付けで元本の一括弁済期を平成2
2年9月28日等と定めて55億円を借り入れ,その担保として那須ゴ
ルフ場に抵当権を設定するとともに,これにつき抵当証券の発行を承諾
するとされていた。そして,これに基づき,平成8年5月24日受付第
4558号をもって上記ゴルフ場に本件貸付金に係る抵当権が設定され,
大和都市管財は,同年6月6日,宇都宮法務局那須出張所の登記官から
抵当証券55億円相当分の追加発行を受けた。しかしながら,那須ゴル
フ場については,従前に大和都市管財が192億9190万円の不動産
鑑定評価を得た上で130億円分の抵当証券の交付申請を行っていたも
のの,宇都宮地方法務局那須出張所において法務鑑定委員会に諮った上
で平成7年11月にこれを100億円に減額させて交付した経緯があっ
た。法務本省は,大和都市管財が追加発行分の前記抵当証券を販売しよ
うとした平成8年8月に至って上記追加発行の事実を把握し,法務鑑定
委員会に対して再度担保評価についての意見を求めるとともに,同月7
日,大蔵本省に通報し,再評価が出るまで当該抵当証券に係るモーゲー
ジ証書の販売を自粛させるよう協力依頼を行った。これを受け,近畿財
務局が同月13日,大和都市管財に対して抵当証券原券の抵当証券保管
機構への持込みを自粛するよう行政指導を行ったところ,同社は同日中
に原券を同機構に持ち込んだ上で,販売自体は当面自粛すると述べた。
同月22日,法務鑑定委員会において上記ゴルフ場の担保価値が120
億円と評価されたことを受けて,近畿財務局は,本省金融会社室の指示
で,同月23日,担保掛け目を8割としても追加発行分の抵当証券55
億円は担保割れとなるとして改めてその原券を抵当証券保管機構から任
意に取下げるよう大和都市管財に指導した。Y1はこれに強く反発した
ものの,最終的にその販売自粛の継続には応じた。
(イ)本件貸付金に係るその後の経緯
大和都市管財の総勘定元帳には,平成8年4月1日の欄に,摘要欄を
いずれも「ナイスミドルスポーツ倶楽部㈱」として,
(借方)抵当証券貸付金5,500,000/(貸方)長期借入金5,500,000
との仕訳(本件仕訳)が記載され,他にも「長期借入金/受取利息」等,
本件仕訳と同様,現金預金勘定を相手方としないために資金の移動を確
認することができない仕訳が多く認められた。
そこで,Y14検査官は,Y8に対し,任意でグループ会社の会計帳
簿の提出をするようしょうようし,Y8は,Y1らに諮った上でこれを
提出した。しかるところ,近畿財務局は,このようにして提出を受けた
会計帳簿を用いて上記のような仕訳を更に調査したところ,本件貸付金
がナイスミドルの平成8年6月期の総勘定元帳には計上されていなかっ
たため,平成9年7月1日ころ,この点をY3会計士に確認した。これ
に対し,Y1,Y6,Y2,Y7弁護士,Y3会計士らは,同月8日,
近畿財務局はグループ会社の帳簿を調査した際,グループ会社側の承諾
を得ておらず,抵当証券業規制法に根拠を有しない違法な調査に当たる
として抗議するとともに,本件貸付金についてはナイスミドルの側にお
ける経理上のミスにすぎない旨弁明し,Y3会計士は,本件貸付金につ
いては大和都市管財がナイスミドルに55億円の小切手を渡していたが
自分は知らなかった,ナイスミドルで臨時株主総会を開いてでも確定決
算を変更しようと思っている旨説明した(近畿財務局は,その前日,グ
ループ会社の会計帳簿をコピーを含めて返還していた。)。
その後,大和都市管財側から近畿財務局に対し,同年10月22日付
けY3会計士のナイスミドルに対する報告書(ナイスミドルの総勘定元
帳に本件貸付金の計上がないとの指摘を受けていることに関して,自身
の会計事務所の不注意による仕訳漏れが生じ,記帳漏れになったことを
詫びるとともに,計上漏れについては平成8年9月1日の時点で判明し,
ナイスミドルにおいても記帳済みであるとの趣旨のもの)及び平成9年
10月28日付けナイスミドルの大和都市管財に対する報告書(本件貸
付金の計上がないとの指摘を受けていることに関して,経理事務処理を
Y3会計事務所に一任していたために記帳漏れに気づくのが遅れたこと
を詫びる趣旨のもの)が提出された。
本件貸付金証書に基づく抵当権については,平成9年12月12日受
付第12931号をもって,同年11月28日弁済を原因としてその抹
消登記がされた。しかしながら,Y20検査官は,平成12年検査の過
程で大和都市管財の預貯金通帳や現金出納簿等を調査した上,平成12
年11月14日,大和都市管財に対して交付したY20要約の中におい
て,本件貸付金の弁済については弁済を確認することができる資料の提
示がなく,当該弁済が行われていない疑いがあると指摘していた。
(ウ)大和都市管財関係者の認識等
本件貸付金証書は,55億円分の抵当証券を大和都市管財が販売する
ことができるように便宜的に作成されたものであり,これに見合った資
金をこのころ大和都市管財からナイスミドルに移動した事実はなかった。
当時,ナイスミドルの代表取締役であったY2は,同社が55億円の資
金を必要とした事情は全くなかったことから,本件貸付金証書は仮装の
ものであって,単に抵当証券を追加発行するための形式を整えるにすぎ
ないものであると認識していたが,Y8がナイスミドルの代表取締役印
を本件貸付金証書に押印することを許した。
また,平成9年検査において,近畿財務局から,ナイスミドルの総勘
定元帳に本件貸付金に関する記載がないことを指摘された後,Y1は,
大和都市管財の社長室にY2,Y6,Y3会計士,Y8らを集めて対策
を協議した。その際,Y6がY1に対し,「何で金を移動させんのや。
形だけでも移動させんとあかんやろう。」などと注意したのに対し,Y
1は「別にかまへんやないか。」などと答えていた。
イ本件貸付金に係る資金移動の有無が本件貸借対照表に与える影響
前記アの認定に照らすと,本件貸付金は,大和都市管財が抵当証券の発
行を受けてこれを顧客に販売し,資金集めを行うためにその存在を仮装さ
れたものにすぎず,同社からナイスミドルに対する資金の移動を伴ってい
ないことは明らかであるから,大和都市管財のナイスミドルに対する消費
貸借債権としては客観的に存在していなかったというべきである。
しかしながら,たとい本件貸付金が資金の移動を伴っていないとしても,
いわゆる諾成的消費貸借契約に基づく債権であると構成することはなお可
能であり,この場合,その相手方である長期借入金もまた資金の移動を伴
わない諾成的消費貸借契約に基づく債務と解することが可能であるから,
結果的に総勘定元帳の帳尻は合い,本件貸借対照表の記載には直接影響を
与えないこととなる(すなわち,大和都市管財がナイスミドルに対し「5
5億円を貸す債務」があると認定するにしても,大和都市管財は同時に長
期借入金の貸付先に対して「55億円の交付を請求する債権」を取得する
ものと解される。)。また,資金移動の裏付けがないことを捉えて,原告
らが主張するとおり本件貸付金が架空であると解するにしても,本件仕訳
ごと,本件貸付金に対応する長期借入金についても消去される結果(けだ
し,本件貸付金が存在しないのであれば,その調達のために大和都市管財
が他からこれに対応する長期借入れを行うこともない。),本件貸借対照
表に係る資産の部と負債の部のそれぞれから55億円が減額されるだけで
あって,いずれにせよ,同社の純資産額には影響がないものというべきで
ある(なお,被告が主張するように本件仕訳が①(借方)現金預金/
(貸方)長期借入金及び②(借方)抵当証券貸付金/(貸方)現金預金
の2つの仕訳のうち,現金預金の部分を省いた中間省略仕訳であると解し,
かつ,②の仕訳のみを消去したとしても,55億円の抵当証券発行特約付
き債権に代えて同額の現金預金が資産の部に計上される結果となるから,
やはり大和都市管財の純資産額は影響を受けないものと解される。)。
ウ小括
したがって,本件貸付金につき資金の移動がないと認められる点は原告
らの主張するとおりであるが,この事実そのものは,本件申請書等に係る
虚偽記載(抵当証券業規制法6条1項柱書)の有無等の判断に影響を与え
るか否かは格別,それ自体で平成9年3月末時点における大和都市管財の
財産的基礎に影響を及ぼすことはないというべきである。
(6)本件3融資の資産計上
ア本件3融資に係る資金移動の有無と本件貸借対照表との関係
本件3融資につき資金移動がないと認められても,本件貸付金における
ように,そのことが本件貸借対照表上の純資産額に影響しないのであれば,
この点を判断する実益はないことになる(現に,被告はそのように主張す
る。)。しかしながら,本件貸付金を表章した抵当証券の販売が近畿財務
局からの行政指導によって断念させられたのと異なり,大和都市管財は,
本件3融資に係る抵当証券の発行を受けて顧客に販売している。そうする
と,平成12年検査における抵当権付き債権一部譲渡に係る仕訳と同じく,
本件3融資に関しては貸付けに係る仕訳とそれに対応する長期借入金に係
る仕訳の双方を単純に消去することはもはやできないというべきであるか
ら,仮に本件3融資のいずれかについて対応する資金移動がないのであれ
ば,同額の簿外債務が大和都市管財に生じることにより本件貸借対照表が
影響を受け,大和都市管財の純資産額が縮減することになると解される。
イ本件3融資に関する事実関係
そこで検討するに,証拠(甲12,52,53,55,56,63,6
8,73,76,90の6,109,118,135の2,136ないし
138,148,乙27,89,91,93,146,証人Y20)及び
弁論の全趣旨によれば,本件3融資に関し,以下の事実を認めることがで
きる。
(ア)帳簿上の記載等
大和都市管財の総勘定元帳には,平成7年2月7日の欄に,摘要欄を
「美祢カントリークラブ」として,
(借方)抵当貸付11,000,000/(貸方)長期借入金11,000,000
同じく同年9月28日の欄に,摘要欄を「ナイスミドルスポーツ倶楽
部㈱」として,
(借方)抵当貸付10,000,000/(貸方)長期借入金10,000,000
同じく平成8年11月1日の欄に,摘要欄を「ベストライフ通商」と
して,
(借方)抵当貸付780,000/(貸方)長期借入金780,000
との仕訳(本件仕訳)がそれぞれ記載され,大和都市管財による長期借
入金の調達先としては総勘定元帳(及び平成9年3月期の決算書)には
Y1のみが記載されていた。前記のように,こうした仕訳からは現金の
移動は帳簿上確認することができず,帳簿上は,大和都市管財がY1か
ら特約付き融資の原資を借り入れ,それをそのままグループ会社に貸し
付けたと理解するほかはないが,Y1は,その資金の調達先につき,永
年の不動産取引で培った17名のスポンサーであるとする以外にその詳
細を近畿財務局に明かそうとしなかった。実際には,Y1にそのような
巨額の資金調達力はなかった。
(イ)本件3融資に係る事実経緯
ナイスミドルは,平成7年1月24日,国際グリーン株式会社から,
同社が保有していた美祢カントリークラブの株式1000株を27億5
000万円で買収し,同社を子会社とした。大和都市管財は,同年2月
7日付けで,美祢カントリークラブに対して弁済期を平成22年2月7
日として110億円を貸し付ける旨の「(抵当証券発行特約付)金銭消
費貸借抵当権設定契約書」を作成し,これを基に,美祢ゴルフ場に同月
8日山口地方法務局美祢出張所受付第830号をもって債務者を美祢カ
ントリークラブ,抵当権者を大和都市管財とする上記金銭消費貸借契約
に係る抵当権設定登記をし,同年3月6日には上記抵当権付き債権につ
いて抵当証券の発行を受けた。しかしながら,美祢カントリークラブに
は特段の資金需要はなく,他方,Y1は,ナイスミドルに他のゴルフ場
を買収するとともに海外向けに投資するための資金(後述するファンド
購入等のためのものと推認される。)を集めることを企図していたため,
上記消費貸借契約に関連して大和都市管財から流出した資金の大部分は,
帳簿上は最終的にナイスミドルに移動した(美祢カントリークラブの平
成8年3月期の決算書には,ナイスミドルに対する約78億2000万
円の貸付金が,ナイスミドルの平成7年6月期の決算書には,美祢カン
トリークラブからの約16億5000万円の短期借入金が,同じく平成
8年6月期の決算書には美祢カントリークラブからの約79億3000
万円の短期借入金がそれぞれ記載されている。)。
ところで,Y1は,平成6年夏ころ,Y29から,いずれも国際金融
ブローカーを自称する「Y30」「Y31」と名乗る人物の紹介を受け,
同人らから,バンクオブアメリカを窓口として譲渡性預金やファンドを
購入することにより,年20ないし40パーセントの利益を上げること
ができるという投資案件の説明を受けてこれを実行に移すこととし,そ
のための資金を数十億円単位で調達するため,ゴルフ場の修理やホテル
の建設など外注需要が発生するナイスミドルを振出人とする手形商品を
考案し,同年8月ころからその販売を開始した。ナイスミドルは,それ
によって得られた資金75億円を3回(平成6年8月,同年9月及び同
年11月)に分けて各25億円ずつ,バンクオブアメリカの同社名義の
口座にドル建てで送金していたが,Y1は,平成7年夏ころ,上記ブロ
ーカーらに騙されているのではないかと考えるようになり,自ら渡米す
るとともにニューヨーク在住の弁護士に依頼し,上記75億円を回収し
た。
Y1は,平成7年9月,上記回収資金等を利用して,ナイスミドルの
名義で,株式会社西洋環境開発(以下「西洋環境開発」という。)が子
会社である株式会社那須グリーンコース倶楽部(以下「那須グリーンコ
ース倶楽部」という。)を通じて当時所有していた那須ゴルフ場を13
0億円で買収する商談を進め,同月28日,債権者兼抵当権者を大和都
市管財,債務者をナイスミドルとし,前者が後者に130億円を貸し付
けるとともに,那須ゴルフ場に那須グリーンコース倶楽部が抵当権を設
定する旨の「金銭消費貸借抵当証券発行特約付抵当権設定契約証書」を
作成した。上記証書に基づき,同年10月2日宇都宮地方法務局那須出
張所受付第9633号をもって上記債権に係る抵当権が設定されたが,
前記のとおり,宇都宮地方法務局那須出張所が法務鑑定委員会に諮った
上で抵当証券の発行を100億円までに制限したため,同年11月2日
受付第10731号をもって錯誤を原因として債権額が100億円に訂
正され,同年11月8日に上記抵当権に係る抵当証券が発行された。そ
の間,西洋環境開発との間で細部についても詰めが済んだことから,同
年10月26日,那須グリーンコース倶楽部とナイスミドルとの間で,
前者のゴルフ事業に属する営業の一切を後者に譲渡する旨の営業譲渡契
約が締結された。同年11月10日宇都宮地方法務局那須出張所受付第
10946号,同第10947号をもって那須ゴルフ場についてナイス
ミドルに対する所有権移転登記がされ,そのころ,Y2は,Y1の指示
で額面130億円の銀行保証小切手の交付を受け,西洋環境開発の担当
者にこれを手交した。
ベストライフ通商は,平成8年10月22日,コスモリアルエステー
ト株式会社から東京味わいビル敷地を9億0070万5000円で購入
した。大和都市管財は,ベストライフ通商に対し,上記土地を担保にし
て7億8000万円を弁済期を平成23年10月31日として貸し付け
る旨の平成8年11月1日付け金銭消費貸借契約書を作成し,これを基
に,上記土地に平成8年11月1日東京法務局港出張所受付第2529
3号をもって上記債権に係る抵当権を設定し,同月26日に上記抵当権
に係る抵当証券の発行を受けた。ベストライフ通商は,平成11年8月
にその隣接地を買収し,これらの土地の上に地上8階地下1階の「東京
味わいビル」を建設し,平成12年末ころに営業店舗数7軒で飲食店営
業を開始した。
なお,本件3融資については,本件貸付金と異なり,融資先各社の総
勘定元帳においてもこれに対応する記帳が存在しなかったと認めるに足
りる証拠はない。
(ウ)平成12年検査における指摘とそれに対する回答
Y20検査官は,平成12年検査の過程で大和都市管財の預貯金通帳
や現金出納簿等を調査した上,平成12年11月14日,大和都市管財
に対して交付したY20要約の中において,本件3融資については資金
の交付を証する資料の提示がなく,本件3融資は無効の疑いがあると指
摘していた。これに対し,大和都市管財は回答書を提出し,Y20検査
官の上記指摘を否認した上,「融資実行は,現金,振込,手形保証にて
行っている。金銭消費貸借契約における金銭の貸付は,手形を含めて行
える。従って,原契約は有効であり,存在している。」と主張した。大
和都市管財からは手形の耳は提出されなかったが,近畿財務局は,大和
都市管財が販売していたグループ会社に対する抵当権付き債権一部譲渡
という金融商品についても資金移動がないことが確認され,これに伴っ
て約50億円の簿外負債の存在を認定することができたことなどから,
本件3融資についてはそれ以上の追及はせず,平成12年検査結果通知
にも本件3融資に係る具体的な記載は含まれていなかった。
ウ小括
以上によれば,本件3融資が帳簿上Y1からの長期借入金を原資として
いる旨記載されていた点は真実とは異なること,本件3融資が帳簿上実行
されたとされる時日に実際に大和都市管財から融資先に対する資金の移動
が実施されていなかったことが明らかである。そして,前記イの認定に照
らせば,少なくとも平成7年に行われた2件の融資については,①いず
れもこれに対応するグループ会社に対する資金移動がされていないか,又
はせいぜい抵当証券が販売された後にこれによって集められた資金の全部
又は一部が移動したにすぎない可能性や,②実際に資金の移動があった
としても,それが融資先の資金需要とは無関係に,専ら又は主として融資
元である大和都市管財が抵当証券を発行する目的で行われ,担保余力に着
目して選定された融資先への資金の移動後に,直ちに当該融資先から真の
資金需要先へと資金の又貸しがされるか,又は資金が大和都市管財に還流
した可能性,はそれぞれ否定することができない(特に,那須ゴルフ場の
買収原資については,海外からの回収資金と美祢カントリークラブを利用
した迂回融資のみで賄われ,ナイスミドルに対する融資が完全に架空であ
った可能性もある。これに対し,平成8年に行われたベストライフ通商に
対する融資については,同社に資金需要の存在がうかがわれるところでも
あり,当該融資が完全に架空であったことをうかがわせるような事情は見
当たらない。)。しかしながら,①については,既に説示したように,諾
成的消費貸借による債権債務も一応有効なものと解する以上,本件3融資
が行われたとされる日時以降,平成9年3月末までに現実の資金移動が行
われたのであれば,結果的に大和都市管財の融資先に対する債務は履行さ
れたことになり,本件貸借対照表上の純資産額には影響が及ばないことに
なるところ,このような事後的な資金移動がなかったとまで認めるに足り
る証拠はない(前記のとおり,Y20検査官としては,大和都市管財の更
新登録を拒否するとの結論を導くに当たり,本件3融資の架空性を認定す
る必要はなかった。)。加えて,前掲証拠によれば,本件3融資のうち,
Y1は美祢カントリークラブに対する融資について,Y2はナイスミドル
に対する融資について,いずれも大和都市管財から各グループ会社への資
金移動自体は存在していた旨捜査機関に対して供述していることが認めら
れ,この供述を覆すに足りる証拠もない(なお,証拠(甲106)によれ
ば,Y1らに対する本件刑事事件の第1審判決は,本件3融資のうち美祢
カントリークラブに対する融資を仮装と認定しているが,同判決の判示全
体からは,そこにいう仮装とは上記②の趣旨をいうものとも解される。)。
また,②についても,法的には特約付き融資の相手方が融資された資金を
更に別の債務者に貸し付けることが許されないわけではないと解されるか
ら,これをもって直ちに大和都市管財から特約付き融資先への資金移動の
事実自体を否認することはできないものと解される。
したがって,本件3融資については,これらがいずれも資金の事後的な
移動までも全く伴わないものであると認めるに足りる証拠はないことに帰
するから,これと同額の簿外債務を認定することもできず,本件貸借対照
表には影響が生じないというべきである。
(7)抵当証券受取利息の資産計上
ア抵当証券受取利息の未収が本件貸借対照表に与える影響
特約付き融資に対する利息が未収であったとしても,いわゆる発生主義
の下では,このような利息といえども未収収益として当期の損益計算に計
上するとともに貸借対照表の資産の部に計上しなければならないのが原則
である(企業会計原則・注解5(4)(乙59))。この原則を貫くのであれ
ば,抵当証券受取利息が未収であるか否かは,当該事業年度における貸借
対照表上の純資産額には影響を及ぼさないことになるが,証拠(乙61)
によれば,平成13年2月に改定される前の統一経理基準は,当該事業年
度の未収収益の計上・不計上基準については,「各社が社内処理基準(計
上基準)を作成した上で,適切に対応する。例えば,「法人税法基本通達
2-1-25(相当期間未収が継続した場合等の貸付金利子の帰属時期の
特例)」などを参考にする。」と定めており,法人税法基本通達2-1-
25(以下「通達2-1-25」という。)の概要は,下記のとおりであ
ったことが認められる。

法人の有する貸付金について次のいずれかの事実が生じた場合には,
当該貸付金から生ずる利子の額のうち,当該事業年度に係るものは当該
事業年度の益金額に算入しないことができる。
①債務者が債務超過に陥っていること,その他相当の理由により,そ
の支払を督促したにもかかわらず,直近1年以内において利子の支払
が全額未収となっており,かつ直近1年以内に最近発生利子以外の利
子について支払を受けた額が零又は極めて少額であること。
②債務者につき会社更生法の規定による更生手続又は商法の規定によ
る会社の整理その他これに類する法律上の整理手続が開始されたこと。
③貸付金の元本自体の回収が危ぶまれること。
④当該貸付金の額の全部又は相当部分について相当期間(おおむね2
年以上)棚上げされることとなったこと。
なお,この取扱いにより益金の額に算入しなかった利子の額について
は,その後これにつき実際に支払を受けた日の属する事業年度の益金の
額に算入する。
しかるところ,平成9年3月末の時点において,大和都市管財のグルー
プ6社に対する特約付き融資について元本自体の回収が危ぶまれる状態で
あることは既に(4)で説示したところから明らかであるから,通達2-1-
25によれば,少なくとも平成9年3月期における大和都市管財の抵当証
券受取利息については,法人税法上は当該事業年度の益金額に算入しない
ことが可能と解される。そして,前掲証拠によれば,上記改定前の計上基
準は平成12年3月31日以前に開始される決算期において適用すべきも
のとされているところ,証拠(甲136,乙146,証人Y20)によれ
ば,近畿財務局長は,平成12年検査において,平成10年8月以降平成
12年3月までにおける大和都市管財の受取利息について,「税法上の基
準」を適用し(通達2-1-25のうち上記①の趣旨と思われる。),収
益として認識することができないことを理由に,その計上を否認したもの
と認められる(なお,証拠(乙61)によれば,平成13年2月に改訂さ
れた後の統一経理基準のうち未収収益の計上・不計上基準に係る部分は,
「金融商品に係る会計基準注解(注9)及び金融商品会計に関する実務指
針(中間報告)第119項に基づき,各社が社内処理基準(計上基準)を
作成した上で,適切に対応する。」というものであって,通達2-1-2
5を始めとする税法関連規定への言及は削除されていることが認められ
る。)から,近畿財務局としても,平成9年3月末の時点においては,当
然,通達2-1-25の適用があるべき未収収益を不計上とすることが
「公正ナル会計慣行」に合致していると解していたものと推認することが
でき,近畿財務局による上記解釈は正当と考えられる。なお,被告は,平
成12年検査における未収利息債権の借方計上否認は,「金融商品に係る
会計基準」における未収利息の処理の考え方等ともおおむね整合するもの
であったと主張するが,被告が自認するように平成12年検査当時もなお
「金融商品に係る会計基準」の強制適用前の時期であり,近畿財務局が未
収利息債権の否認について適用すべき「公正ナル会計慣行」としては通達
2-1-25を用いるほかなかったと解されることは,平成9年検査と平
成12年検査との間で差異はない。
したがって,大和都市管財の平成9年3月期における抵当証券受取利息
については,現金又は預金による同事業年度内における収受が認められな
い場合には,その総勘定元帳における
(借方)長期借入金/(貸方)抵当証券受取利息
との仕訳が一括して消去されることになる結果,同額の長期借入金の消滅
が否認され,本件貸借対照表の純資産額が影響を受けることになると解さ
れる。
そこで,以下においては,平成9年3月期において,大和都市管財が,
グループ6社に対する特約付き融資につき,その利息を現に収受していた
と認められるか否かを検討することとする。
イ平成9年3月期における大和都市管財の抵当証券受取利息収受に関する
事実関係について
証拠(甲2,5,50,52,57,58,107,109,135,
137,138,148ないし152,乙9,18,22,27,28,
30,39,40,44,84,90,91,93,106,108,1
41,145,146,証人Y24,同Y14,同Y20)及び弁論の全
趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。
(ア)抵当証券受取利息に係る大和都市管財グループの会計処理
大和都市管財の平成4年3月期から平成9年3月期までの総勘定元帳
上の抵当証券受取利息に係る会計処理は,下記のとおりである。

平成4年3月期
ベストライフ通商,ナイスミドルからの抵当証券受取利息合計4
億6353万2547円は,すべて現金を相手科目として計上され
ている。
平成5年3月期
ベストライフ通商,ナイスミドルからの抵当証券受取利息合計7
億2612万9506円のうち,ベストライフ通商からの1781
万4000円及びナイスミドルからの4007万5040円が未収
入金を相手方として計上されているほかは,すべて現金又は普通預
金を相手科目として計上されている。
平成6年3月期
ベストライフ通商,ナイスミドル,北海道函館観光,北海道泊別
観光,リステム化学研究所からの抵当証券受取利息合計17億54
14万9579円は,すべて現金又は普通預金を相手科目として計
上されている。
平成7年3月期
グループ6社からの抵当証券受取利息合計23億7887万87
88円のうち,平成6年4月から7月までのベストライフ通商から
の受取利息の一部合計8461万5176円については現金を相手
科目としているが,同年8月におけるベストライフ通商からの受取
利息の一部2150万0577円は長期借入金を相手科目として計
上されている。また,平成6年4月から8月までのグループ6社か
らのその余の受取利息合計8億5058万8173円は,いったん
未収入金を相手科目として計上された後,平成7年3月に相手科目
が長期借入金へと一括して振り替えられている。また,グループ6
社からの受取利息のうち平成6年9月以降に発生した合計14億2
217万4862円については,すべて長期借入金を相手科目とし
て計上されている。
平成8年3月期
グループ6社からの抵当証券受取利息合計32億3925万10
78円のうち,ベストライフ通商からの受取利息の一部を除く平成
7年4月から同年8月までのグループ6社からの受取利息12億0
802万9267円は,いったん未収入金を相手科目として計上さ
れた後,相手科目が長期借入金へと一括して振り替えられている。
また,同期におけるその余の受取利息は,当初から長期借入金を相
手科目として計上されている。
平成9年3月期
グループ6社からの抵当証券受取利息合計37億2037万24
51円は,各社について当初から長期借入金を相手科目として計上
されているものと,平成8年12月末に未収入金を相手科目として
計上されているものとに大別されるが,後者についても平成9年3
月に相手科目が長期借入金へと一括して振り替えられている。
(イ)近畿財務局の立入検査と大和都市管財側の説明
平成6年検査(同年9月9日開始)において,Y24検査官らは,検
査基準日における大和都市管財の本店及び東京支店における現金の帳簿
残高と実際の現金残高の照合,確認を行おうとしたが,大和都市管財か
らは,税理士が定期的に伝票から帳簿を整理しており,現金の入出金に
ついては日次では把握・管理しておらず,正確な残高を証明することが
できる資料もない旨の説明があり,実際に伝票が積み重なっている状態
であった。そのため,Y24検査官らは,手元の小口現金残高・伝票・
預金通帳について,これらと総勘定元帳の記載とを照合する方法での確
認は行ったものの,現金の入出金を帳簿残高と照合・確認することはで
きなかった。そして,当時,大和都市管財は,その帳簿上,前記のよう
なグループ6社からの抵当証券受取利息の支払に加え,Y1個人からの
借入れ,グループ会社に対する特約付き融資の多くは預金勘定ではなく
現金勘定で処理していたところ,現金による資金授受については伝票以
外に客観的な資料がないので,これを実際に確認することができなかっ
た。
次いで,平成9年検査(同年6月19日開始)において,Y14検査
官らは,大和都市管財の総勘定元帳を調査し,前記のように,借方に長
期借入金,貸方に抵当証券受取利息が記載されているというような,資
金移動の確認ができない仕訳を多数発見した。しかしながら,上記の資
金移動について,預貯金口座を通してこれが行われているとの確証はな
く,平成6年検査の際にも資金移動については主に現金勘定が用いられ
ていた事実が判明しているとして,Y14検査官らは,大和都市管財の
当座預金口座における資金の移動状況について,当座預金照合表等を通
じて検証することはしなかった。
これに対し,平成12年検査(同年10月12日開始)において,Y
20検査官らは,初日の現物検査で大和都市管財の本社屋内において現
金出納簿のコピーを発見したところ,その残高と手元小口現金有高とが
一致し,通帳の記載ともそごがなかった上,Y16からもこれが真実の
出納簿であることの確認を得られた。そこで,Y20検査官らは,同出
納簿につき平成4年度以降分の提出を求めた。そして,同検査官らが,
総勘定元帳と預金通帳・現金出納簿との照合を進めたところ,抵当証券
受取利息については,平成10年3月期から平成12年3月期までの3
期合計で決算書上は約91億5700万円が計上されていたものの,当
座預金の記載等から実際に確認された受入額は約8億2700万円にと
どまっていた(例えば,平成10年3月期におけるナイスミドルからの
抵当証券受取利息の合計額は約12億9000万円であったが,大和都
市管財から提出された当座預金照合表には約6億2593万円分の入金
の記載しかなく,平成11年3月期以降の分については預金通帳自体が
提出されなかった。)。Y20検査官が,Y20要約においてこの点を
指摘したところ,大和都市管財は,抵当証券受取利息はすべて収受して
いたとの当初の説明を翻し,一部を現金・預金で受領し,残りは貸付金
との相殺で処理している旨主張するに至った。
(ウ)本件キャッシュフロー調査
本件キャッシュフロー調査の過程において,大和都市管財の損益計算
書上の平成8年3月期における抵当証券受取利息・割引料収入合計約4
7億円のうち収入を確認することができたのは約3億円,同じく平成9
年3月期における抵当証券受取利息・割引料収入合計約50億円のうち
収入を確認することができたのは約3億円であった。
(エ)Y3会計士らの捜査機関に対する供述等から認められる事実
Y3会計士は,平成元年にナイスミドルの顧問税理士に就任したのを
皮切りに,平成5年ころから平成12年ころまで,大和都市管財グルー
プの顧問税理士を務めた。同会計士の捜査機関に対する供述等によれば,
大和都市管財グループの会計処理は以下のとおりであった。
大和都市管財グループは,実質的に大和都市管財の社長でありグルー
プ内で「会長」と呼称されていたY1が実質的に統括しており,グルー
プ会社の代表者は,いずれもY1の指示に従って行動していた。大和都
市管財から抵当証券購入者に対する利息やグループ会社に発生する経費
は,Y1の指示により,大和都市管財やグループ会社名義の預貯金口座
等に一時的にプールしている資金から支払われており,これによって生
じた資金不足は別の金融商品を販売して得られた資金等によって穴埋め
されていた。もっとも,抵当証券の発行を受けるためには,大和都市管
財がグループ会社に融資をした形式をとる必要があった上,大和都市管
財が抵当証券業者として登録を受け続けられるようにするには,同社だ
けは常に黒字の形にしておく必要があったことから,同社は,グループ
会社から融資に対する利払を受け,これと顧客らに対する支払利息との
差額を収益としているとの外形を整えていた。このため,大和都市管財
が抵当証券購入者に対して行う過大な利払は,帳簿上はそのままグルー
プ会社の負担に付け替えられ,グループ会社の財務内容を圧迫していた。
しかるところ,Y1は,資金集めには手腕を発揮するものの,集めた資
金によって地道に収益を上げることには余り関心を示さなかったため,
グループ会社が取得した資産の中には,a町土地のように放置されたり,
大和都市管財グループの事務所や駐車場として利用され,グループ外か
らの収入をもたらさないものが多くあった。結果的に,平成6年9月こ
ろ,大和都市管財グループ全体で70億円以上の債務超過に陥っている
ことが確認された。グループ各社の資金繰りは一層苦しくなっていき,
大和都市管財に対する抵当証券の利払や償還のため資金が必要となった
グループ会社に対し,大和都市管財が金融商品の販売を通じて集めた資
金等が適宜融通されていたが,会計処理上の整合性を保つため,グルー
プ会社の1社に対して大和都市管財が特約付き融資を行い,同社から更
に真の資金需要先へと融資する方法をとることがあった。ナイス函館に
対する特約付き融資はその典型であり,同社から,特に資金繰りの苦し
かったナイスミドルやベストライフ通商に順次融資が行われ,帳簿上,
ナイス函館は大和都市管財に抵当証券に係る利息を支払い,他方で融資
先のグループ各社から利息を受け取っていることになっていた。
また,大和都市管財の取締役として昭和60年ころから同グループの
資金管理を担当し,大和都市管財の預貯金通帳や社印(一時期まではこ
れらに加えてグループ各社の代表取締役印)を管理し,大和都市管財が
顧客から集めた資金について,Y1の指示を受けて,同社従業員の人件
費,業者への支払経費,顧客に対する利息及び償還金等の支払に充てた
ほか,グループ会社が従業員の人件費,ゴルフ場の管理費用等の支払を
行うための資金の手当ても行っていたY16の捜査機関に対する供述等
によれば,大和都市管財とグループ会社との資金のやり取りは,概要以
下のとおりであった。
平成7年ころから,グループ会社からの利払が滞っているにもかかわ
らず更に大和都市管財からこれらの会社に資金援助を行っている実態を
隠すため,Y3会計士から助言を受け,Y16は,大和都市管財とグル
ープ会社の間で資金を移動させる際に仲立ちとしてY1勘定を入れるよ
うにし,大和都市管財の銀行別入出金台帳にも,資金の移動先としてグ
ループ会社名に代えてY1と記載し,グループ会社から資金を大和都市
管財に移動する際にも,同様にY1勘定を通して行うようになった。グ
ループ会社は,いずれもさして収益の上がる事業をしていなかったため,
大和都市管財に対して特約付き融資に係る利息が現実に支払われること
はほとんどなく,グループ会社にゴルフ会員権の販売収入等,グループ
外部に対する売上げがあった場合に,Y1勘定を通じて適宜大和都市管
財に環流させるとの形式をとっていた。
なお,Y1は,捜査機関に対し,大和都市管財からナイスミドルに対
してナイス大原カントリークラブの造成費用に充てるために抵当証券の
販売代金を移動させる際,ナイスミドルの代表者であった実子Y2に特
段知らせることなくこれを行ったこと,並びに,特約付き融資のうちナ
イス函館に対する平成6年の10億円,及び北海道泊別観光に対する1
億9000万円については,いずれも各融資先からナイスミドルへ資金
を移動させたことをそれぞれ認めている。
ウ抵当証券受取利息の存否
前記イで認定した事実に,既に認定した事実を総合すると,①大和都
市管財は,担保を有するグループ会社に対する融資について抵当証券の発
行を受けて外部に販売し,顧客に対して約定どおりの利払を現に行い,そ
の主要な原資は同社が融資先から受ける抵当証券受取利息であるとの外形
を帳簿上整えていたが,実際には,抵当証券上の記載どおりの融資の実体
はなく,これに対する大和都市管財からの資金交付が約定どおり行われる
こともなく,大和都市管財グループの資金はグループ会社のものも含めて
Y1が一元的に管理し,顧客に対する利払やグループ会社を通じた不動産
購入等により資金が必要な場合には,その都度グループ内の余剰資金をも
ってこれに充てる体制をとっていたこと,②大和都市管財グループは全
体として恒常的にグループ外への支出がグループ外からの収入を上回って
おり,市場金利を超える高利の金融商品の販売等を通じて資金の獲得に努
めていたものの,その保有する現預金の額も次第に減少していったため,
担保余力があると見込まれるグループ会社に対してその資金需要とは無関
係に名目的な融資を行って顧客に抵当証券を販売した上,上記融資先から
真の需要先に対して当該資金を転貸するという方法を用いたり,又はグル
ープ各社間で必要な資金を融通し合うか若しくは少なくとも帳簿上融通し
合ったことにして資金繰りがついている旨の外形を取り繕っていたこと,
③大和都市管財は,平成6年検査のころまでは,総勘定元帳の記載上で
現金勘定を多用し,かつ,実際には作成されていた現金出納帳の存在を近
畿財務局に対して秘匿することで上記のような詐欺的な運営の発覚を免れ
ていたこと,④同社は,遅くとも平成7年ころ以降,現金勘定による上
記のような隠ぺい方法に加えて,グループ会社に対して不動産購入等の資
金を移動する際,実際には大和都市管財又は他のグループ会社名義の預貯
金口座からの資金を移し替えているにもかかわらず,帳簿上,Y1からの
長期借入金を示すY1勘定を介在させることで,あたかもY1が外部のス
ポンサーから調達した長期資金を大和都市管財に貸し付け,これを同社が
グループ会社に更に貸し付けるとともに,グループ会社から大和都市管財
に対して支払われる抵当証券受取利息等も直接Y1に対する借入金の返済
に充てられているとの外形を作出し,債務超過に陥っている融資先に手元
資金で追い貸しする不自然さを緩和すると同時に,帳簿上容易に資金の移
動の存否を確認することができないように工作していたこと,⑤グルー
プ会社から大和都市管財に対する資金移動には口座振替が使用されること
が多かったが,グループ会社の営業活動によるキャッシュフローは構造的
に赤字であったため,平成10年3月期以降でみれば,現実にグループ会
社から大和都市管財に資金が環流された額は抵当証券受取利息として帳簿
上記載されていた額の1割以下であったこと,⑥大阪府警が公認会計士
の協力を得て大和都市管財グループの決算書・確定申告書を精査した結果
でも,平成9年3月期に大和都市管財が収受すべき抵当証券受取利息・割
引料収入約50億円のうち,現に確認することができたのは約3億円にと
どまったこと,が認められる。
したがって,グループ会社から大和都市管財に対して約定どおり利払が
されていた旨の大和都市管財の総勘定元帳の記載は仮装のものであって,
実際には,大和都市管財グループの資金は,その名目上の所在がどの会社
の名義の預貯金口座であるにせよ,Y1が一元的に管理し,個々の会社の
資金需要に応じて使用していたところ,大和都市管財グループにおいて,
グループ外からの収入としては抵当証券等の販売を行っている大和都市管
財本体の財務収入が突出しており,軒並み営業赤字か,わずかな営業黒字
を出していたにすぎないグループ会社にはグループ外からの収入が乏しか
ったため,抵当証券購入者に対する利払等に充てるためにグループ会社か
ら大和都市管財本体に実際に還流したと認められる資金は,帳簿上の抵当
証券支払利息相当額の1割以下であったことが明らかである。
以上によれば,どのように保守的に見積もったとしても,大和都市管財
が本件損益計算書において収受したと記載する抵当証券受取利息合計37
億2037万2451円のうち,少なくとも30億円については,同事業
年度内におけるその現実の収受がないものと推認され,これを覆すに足り
る証拠はないというべきである。
エ被告の主張について
被告は,グループ6社がすべて大幅かつ継続した債務超過に陥っており,
その営業もさしたる実業をしていない状況であること,平成9年3月期に
おける大和都市管財の抵当証券受取利息計上時の会計処理の際,その相手
方勘定が現金預金ではなく長期借入金であったことのみから,抵当証券受
取利息の収益としての計上が仮装であることを認定することはできない旨
主張する。しかしながら,被告が指摘する理由に加えて,上記①ないし⑥
に列記した点を総合すれば,Y1勘定を始めとする大和都市管財グループ
の会計帳簿の記載に信ぴょう性は認められず,グループ会社から大和都市
管財への実際の資金移動は帳簿上の記載に比して著しく少額であったこと
自体は明らかである(もっとも,本件更新登録の時点において,近畿財務
局が上記①ないし⑥のような事情を認識し得たか否かは別論であり,この
問題は争点5に対する判断で検討する。)。
オ小括
以上によれば,本件貸借対照表上,負債の部において少なくとも30億
円以上の長期借入金を増加させることが,平成9年3月当時の「公正ナル
会計慣行」として要求されていたものというべきであり,上記修正を行う
と,大和都市管財は優に債務超過となって資本欠損に陥ることになるから,
同社は平成9年12月の本件更新登録時点において,抵当証券業規制法8
条2項,6条1項7号の財産的基礎の要件を欠いていたと解するのが相当
である。
(8)争点2のまとめ
以上みたところに照らすと,本件貸借対照表については,①大和都市管
財における帳簿の正確性を前提とした場合,その資産の部において,貸倒引
当金を最も少なく見積もっても約11億4200万円追加して設定する必要
があり,②帳簿の仮装を認定するのであれば,その負債の部において,長
期借入金を最も少なく見積もっても30億円増加させる旨の修正を行う必要
があった。これらを前提とすれば,本件貸借対照表上,同社が債務超過に陥
っていたことは明らかである。
したがって,本件更新登録時において,大和都市管財には,抵当証券業規
制法8条2項,6条1項所定の更新登録に係る要件のうち,同項7号にいう
財産的基礎の要件を欠いていたというべきである(前記(2)において説示した
とおり,同号にいう財産的基礎の有無については,同法は,会計学上の概念
である資本欠損の有無等という客観的,外形的な基準によりみていくことを
予定していると解されることからすれば,前記認定のとおり,大和都市管財
は,本件更新登録時の直近の事業年度における貸借対照表において大幅な債
務超過に陥っていたと認められる以上,基本事項通達の定めが財産的基礎の
唯一の客観的規範内容であると解することができるか否かにかかわらず,財
産的基礎の要件を欠くことが明らかというべきである。)。
3争点3(本件更新登録時において,大和都市管財には更新登録拒否事由であ
る人的構成の欠如(抵当証券業規制法6条1項7号)の要件を満たしていた
か。)について
(1)人的構成の意義
既に説示したように,抵当証券業規制法6条1項7号にいう「抵当証券業
を適確に遂行するに足りる・・・人的構成」の意義について,基本事項通達
は,A.役員又は重要な使用人のうちに,抵当証券業に関し相応の知識を有
する者がいること,及びB.融資業務を担当する組織において融資業務経験
者が2名以上在籍していること,の要件を満たす(ただし,特約付き融資を
行わない法人にあっては,B.の要件を要しない。)ことをいうとしている。
そして,証拠(乙11)によれば,基本事項通達における上記A.の定めは,
具体的には,①抵当証券業に1年程度以上適正に従事した者がいること,
又は②抵当証券業協会が実施する抵当証券業に関する研修を修了した者が
いること,のいずれかの基準を満たすことをいうとされ,これは,1年程度
以上抵当証券業に従事した者であれば抵当証券業に関し相応の知識を有する
と推認されることに加え,抵当証券業協会で研修を実施させ,その修了者を
相応の知識を有する者と認定することは,抵当証券業規制法における抵当証
券業協会設立の趣旨にも沿うことなどを理由とするものであること,上記B.
の定めは,具体的には,法人としての融資に係る最終的な意思決定に至る一
連の過程の中で融資業務に3年以上従事した者(融資業務経験者)が2名以
上在籍するか否かにより判断することとされ,これは,公認会計士試験や不
動産鑑定士試験において,2次試験(専門科目)合格後,3次試験(実務試
験)を受験するまでの間に最低3年を必要としていることを参考にした結果
であること,がいずれも認められる。
そして,抵当証券業規制法が,適正かつ誠実に抵当証券業を営もうとする
者に対して営業の自由をできる限り尊重しつつ,購入者一般の保護のために
必要最小限の規制を行うべきことを勘案して登録制を採用したと解されるこ
とに加え,同法において,抵当証券業協会は,抵当証券の購入者の保護を図
るとともに,抵当証券業の健全な発展に資することを目的とし,抵当証券業
者を会員として設立される民法上の公益法人とされ(38条1項),抵当証
券業を営むに当たり,抵当証券業規制法その他の法令の規定を遵守させるた
めの会員に対する指導,勧告その他の業務を行うものと規定されていること
(40条1号),同法6条1項各号列記事由のうち7号以外が掲げる事由が
いずれも形式的判断になじむものばかりであること,同号にいう財産的基礎
についても客観的,外形的基準により判断することが予定されているのも既
に説示したとおりであること,に照らし,人的構成を上記のような外形的基
準によって判断することには一般的な合理性があるというべきである(証拠
(乙7)によれば,抵当証券業の規制等に関する法律案の参議院大蔵委員会
における審議過程で,委員からの質問に対し,大蔵省銀行局長が,人的構成
の意義について,「債務者の例えば返済能力あるいは担保評価,こういうも
のを充分にやれる,適正に判断できる人材,抵当証券業者がそういう人たち
を持っているということが重要な課題でございますので,そういう人たちを
一定の考え方のもとに何人いるかというような判断も具体的には必要であろ
うかというふうに考えておる次第でございます。」と答弁し,人的構成の有
無については一定の外形基準を定める意向を表明しているものと認められる
ことも,このような解釈に沿うものである。)。なお,大和都市管財が特約
付き融資を行わない法人でないことは明らかであるから,以下においては,
同社が本件更新登録時において上記A.及び同B.の双方の要件に該当する
か否かを検討することとする。
(2)本件更新登録時における大和都市管財の人的構成の有無
証拠(甲10,54,56,109,乙45,46,111)によれば,
抵当証券業協会の基礎研修終了者名簿にY1及びY8(同人は,宅地建物取
引主任の資格も有していた。)の名があり,それぞれ平成元年4月28日付
けで研修証書が発行されているほか,本件更新登録の段階で同社の従業員の
中に同様の基礎研修を履修した者が29名程度いたこと,Y1は,平成7年
ころから大和都市管財が顧客に配布していた「抵当証券Q&A」なる小冊子
を自ら主体的に作成したものであるところ,その内容は,少なくとも抵当証
券(Q1),抵当証券業規制法の下での登録制度(Q2),抵当証券保管機
構(Q3),抵当証券の発行手続(Q4)その他の抵当証券に係る一般的な
事項自体についてはおおむね誤りがないこと,Y8は,昭和59年ころ,Y
1に命じられて大阪法務局や司法書士の下を訪れ,抵当証券の発行手続等に
ついて教示を受けたのを皮切りに,昭和60年から抵当証券業務に実際に携
わってきたこと,本件申請書等に添付された「融資業務経験者の業務経歴
書」には,Y1が昭和60年3月12日から大和都市管財の代表取締役とし
て,Y16が平成元年5月30日から同社の監査役,同年9月25日から同
社の取締役として,それぞれ一般融資業務及び特約付き融資を担当している
旨が,同じく「抵当証券業務に関する組織図」には,融資部門に16名の職
員が配置されている旨が各記載されていたこと,Y16は,大和都市管財グ
ループが顧客から集めた資金の出納業務を昭和60年ころから担当しており,
平成7年ころ以降は大和都市管財だけでも14の金融機関の口座を管理し,
Y1の指示を受けてグループ会社と大和都市管財との資金移動や必要経費の
支払を行い,これを銀行別入出金台帳に記帳するなどの業務を行っていたこ
とが認められる。
したがって,大和都市管財は,本件更新登録の時点において,A.抵当証
券業について相応の知識を有する者として少なくとも同社役員であるY1及
びY8がおり,B.融資部門を統括する役員であり,かつ,3年以上融資業
務の経験のある者としてY1及びY16がいたものと認められるから,基本
事項通達上の人的構成の要件を満たしていたのは明らかである。
(3)原告らの主張について
これに対し,原告らは,大和都市管財の融資は元本10年後一括返済の約
定でグループに属する赤字企業のみを対象にした巨額のものであるなどハイ
リスクであり,担保評価も極めて甘かったことなどからみて,同社には抵当
証券業について相応の知識を有する者がいなかったことは明らかである旨主
張する。しかしながら,抵当証券業者が「抵当証券業を適確に遂行するに足
りる・・・人的構成」を有しているか否かは,当該業者が現に抵当証券業を
適確に遂行しているか否かとは別個に判断すべきであって,後者については
原則として業務改善命令等を始めとする行為規制ないし監督権限の行使によ
って対処すべきとするのが抵当証券業規制法の趣旨と解される。
また,原告らは,Y1は近畿財務局の指導に全く従わず,かえってこれを
恫喝するような人物であったことから,抵当証券業について相応の知識を有
していたとは考えられない旨主張する。しかしながら,前記のとおり,相応
の知識を有していたか否かという外形的基準に照らすと,Y1が抵当証券に
ついて相応の知識を有していたこと自体は認められるのであり,同人がこれ
を悪用していたことは,前記のとおり,それが行為規制等の対象になること
は格別,大和都市管財についてその人的構成を否定する直接的な根拠とはな
らないというほかない。
さらに,原告らは,抵当証券業務が間接金融に近似するものである以上,
その融資業務も融資先の財務内容や担保評価等の審査を行った上で行う必要
があり,そういった判断を適切に行うことができる融資審査体制が確立して
いるべきところ,近畿財務局自身,同社に対して繰り返し融資審査体制の確
立を求めていた旨主張する。しかしながら,既にみたような人的構成の意義
や趣旨等に照らすと,原告らの主張するような融資審査体制を確立すること
が,登録要件である人的構成の規範的内容を成しているとまで認めることは
できず,このような体制が整っていない抵当証券業者に対して,財務局長等
がより慎重にその更新登録要件を審査すべき契機とはなり得ても,その欠落
という事実のみをもって更新登録を拒否することは,購入者の保護のために
必要最小限の規制を行う趣旨で登録制を採用した上,外形的基準を基調とし
て更新登録要件を判断すべきものとした抵当証券業規制法の趣旨に反すると
いわざるを得ない。
もっとも,大和都市管財グループは実質的にY1が1人で統括していたこ
とは既に説示したとおりであり(証拠(甲2,証人Y26)によれば,近畿
財務局も平成7年当時から一貫してそのような認識を有していたものと認め
られる。),融資業務についても,Y1が自ら融資先や融資額を決定し,Y
16はその指示の下に実際の出納業務を行っていたにすぎないことは優に推
認することができる。しかしながら,平成17年法律第87号による改正前
の商法254条の3は,取締役に対し,法令等を遵守して会社のために忠実
にその職務を遂行すべきとするいわゆる忠実義務を課し,同じく260条は,
取締役会に対し,代表取締役の職務を監督し,重要な業務執行事項を決定す
る権限を与えているところ,Y16は大和都市管財において融資業務を担当
する取締役であったのであるから,Y1が違法又は著しく不当な融資を専行
しようとする際には,これを制止すべき法的義務を前記各規定によって負っ
ていたのであって,そうであるからこそ,その従属的地位にもかかわらず,
本件刑事事件において懲役3年の実刑判決を受けたことが認められるのであ
る(甲106)。そうすると,本件更新登録時において,大和都市管財に,
同社の融資業務に係る意思決定に少なくとも法令上影響を及ぼし得る役員と
して2名以上の者が存在していた事実自体は否定することができないのであ
って,既に説示したような人的構成要件の趣旨に照らすと,融資業務に係る
意思決定に2名以上の者が実質的に関与し,相互に牽制し合っていたと認め
得ることまでがその要件となっていたとまでは解し難い。
(4)争点3のまとめ
以上によれば,本件更新登録時点において,大和都市管財に抵当証券業規
制法8条2項,6条1項7号に規定する人的構成が欠けていたとまで認める
に足りる証拠はないというべきである。
4争点4(本件申請書等の重要事項に虚偽記載(抵当証券業規制法6条1項柱
書)があったか。)について
(1)抵当証券業規制法6条1項柱書後段の趣旨について
抵当証券業規制法6条1項柱書は,大蔵大臣(前記のとおり,法施行令5
条1項によって財務局長等に権限が委任されている。以下同じ。)は,登録
申請者が次の各号のいずれかに該当するとき,又は登録申請書若しくはその
添付書類のうちに重要な事項について虚偽の記載があり,若しくは重要な事
実の記載が欠けているときは,その登録を拒否しなければならないと規定し,
同項各号列記事由は,法人でない者(1号),資本又は出資の額が抵当証券
の購入者を保護するため必要かつ適当と認められる金額として政令で定める
金額に満たない法人(2号),他の抵当証券業者が現に用いている商号若し
くは名称と同一の商号若しくは名称又は他の抵当証券業者と誤認されるおそ
れのある商号若しくは名称を用いようとする法人(3号),24条1項の規
定により3条の登録を取り消され,その取消しの日から3年を経過しない法
人(4号),抵当証券業規制法,出資法又は貸金業の規制等に関する法律の
規定により罰金の刑に処せられ,その刑の執行を終わり,又は執行を受ける
ことがなくなった日から3年を経過しない法人(5号),役員又は政令で定
める使用人のうちに①禁治産者若しくは準禁治産者(イ),②破産者で
復権を経ない者(ロ),③禁錮以上の刑に処せられ,その刑の執行を受け
終わり,若しくはその執行を受けることがなくなった日から3年を経過しな
い者(ハ),④抵当証券業規制法,出資法若しくは貸金業の規制等に関す
る法律の規定に違反し,若しくは刑法204条,206条,208条,平成
13年法律第138号による改正前の208条の2,222条若しくは24
7条の罪若しくは暴力行為等処罰に関する法律の罪を犯し,罰金の刑に処せ
られ,その刑の執行を受け終わり,若しくはその刑の執行を受けることがな
くなった日から3年を経過しない者(ニ),又は⑤抵当証券業者が抵当証
券業規制法24条1項の規定により同法3条の登録を取り消された場合にお
いて,その処分のあった日前30日以内にその抵当証券業者の役員であった
者で,その処分の日から3年を経過しないもの,のいずれかに該当する者の
ある法人(6号),及び,抵当証券業を適確に遂行するに足りる財産的基礎
及び人的構成を有しない法人(7号)をそれぞれ登録拒否事由として定めて
いる。そして,同法8条2項は,6条の規定を更新登録について準用してい
る。
また,同法24条1項は,大蔵大臣は,抵当証券業者が①6条1項2号,
3号,5号若しくは6号に該当することとなったとき,②不正の手段によ
り3条の登録若しくは8条1項の更新登録を受けたとき,又は③抵当証券
業規制法若しくは同法に基づく命令,若しくはこれらに基づく処分に違反し
たとき,のいずれかに該当するときは,3条の登録を取り消し,又は6か月
以内の期間を定めてその業務の全部若しくは一部の停止を命ずることができ
る旨規定している。
さらに,同法48条は,①3条の登録を受けないで抵当証券業を営んだ
者(1号),②不正の手段により3条の登録若しくは8条1項の更新登録
を受けた者(2号)又は③13条の規定に違反して,他人に抵当証券業を
営ませた者(3号)等は3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処
し,又はこれを併科するとし,52条は,①4条1項(8条2項において
準用する場合を含む。)の登録申請書又は4条2項(8条2項において準用
する場合を含む。)の書類に虚偽の記載をして提出した者(1号),②9
条1項の規定による届出をせず,若しくは虚偽の届出をした者(2号),③
12条1項の規定に違反して,法施行規則で定める様式の標識を掲示しな
かった者(3号)等は30万円以下の罰金に処するとしている。
上記のように,抵当証券業規制法6条1項が,各号列記事由とは別に,同
項柱書において「登録申請書若しくはその添付書類のうちに重要な事項につ
いて虚偽の記載があ・・・るとき」を独立した登録拒否事由として掲げてい
ること,上記規定への違反と不正の手段による登録とで刑事罰に格段の差異
を設け,後者については無登録営業等と同列の違法性を認めているのに対し,
前者についての罰則は同法に規定する各種の行為規制に係る規定に形式的に
違反した場合と同じである上,前者は後者と異なり登録取消事由ともなって
いないことからすると,抵当証券業規制法6条1項柱書後段の趣旨が,被告
の主張するように,登録拒否事由があるにもかかわらずこれを秘して登録を
得ようとする行為を禁圧することによって同項各号列記事由の審査の正確性
を担保することのみにあるとは解し難い。けだし,(更新)登録を申請する
者に同項各号列記事由が存在するのであれば,それだけで(更新)登録を拒
否すべきものであり,それに加えて虚偽記載による登録拒否事由を重ねて規
定する理由はなく,罰則のみを規定すれば足りるはずである上,仮に,当該
申請に係る業者が虚偽記載によって(更新)登録を受けた(すなわち,虚偽
記載がない真実に即した登録申請書や添付書類であれば当然に同項各号列記
事由の存在が明らかとなり,(更新)登録を受ける余地がなかった)といえ
る場合には,当該業者による営業は実質的に無登録営業と同視し得るために
不正の手段による(更新)登録を受けた場合に該当し,登録取消しの対象に
なるとともに単純な虚偽記載に対するよりもはるかに重い罰則規定が適用さ
れるのであるから,同項各号列記事由の審査の適正を確保するという目的に
とどまるのであれば,あえて登録申請書又はその添付書類に虚偽記載がある
ことをこれらと別個の登録拒否事由として規定したり,不正の手段による登
録と区別した上で,より軽微な形式犯として処罰する規定を置く意義には乏
しいからである。
他方,抵当証券業規制法6条1項柱書は,虚偽記載と並んで「重要な事実
の記載が欠けているとき」(以下「記載欠落」ということがある。)をも登
録拒否事由としているところ,このような記載欠落については同法52条1
号所定の処罰規定の適用もないことは,同法の文言上明らかであることから
すると,虚偽記載に係る登録拒否事由の趣旨が,原告らの主張するように,
虚偽資料を提出して不正に登録を得ようとするような業者はそれ自体で抵当
証券をもって広く一般から金員を集める事業にふさわしくないとした点にあ
ると解することも困難である。
しかるところ,同法52条1号の形式犯としての性格を重視すれば,登録
拒否事由としての虚偽記載及び記載欠落(虚偽記載等)を規定した同法の目
的は,登録申請書及びその添付資料の記載の正確性・十分性を確保すること
それ自体にあると解すべきである。すなわち,抵当証券業規制法6条1項柱
書後段の趣旨は,上記のように,登録申請書及びその添付書類の記載の正確
性を確保することにあり,このことを通じて,登録審査の実効性を担保する
のみならず,当該申請業者に関する資料を可及的に充実させ,その潜在的な
問題点を事前に財務局長等が知ることにより,登録後における当該業者に対
する行為規制ないし監督権限の行使を実効あるものとすることにもその主眼
があるものと解される。
そうであるとすれば,同法6条1項柱書にいう「重要な事項」及び「重要
な事実」とは,登録審査のみならず,登録後の監督権限の行使に影響があっ
たり,当該抵当証券業者に係る財務の健全性について顧客を誤信させるおそ
れがある事項を広く含むと解すべきであり,他方,そのようなおそれもない
ような軽微な虚偽記載ないし記載欠落は,52条1号による処罰の対象とは
なり得ても,登録拒否事由にまではならないと解される。
(2)虚偽記載の意義
抵当証券業規制法6条1項柱書後段の前記のような趣旨に照らすと,「登
録申請書若しくはその添付書類のうちに重要な事項について虚偽の記載があ
・・・るとき」とは,(更新)登録拒否事由の有無に影響を与える場合のみ
ならず,(更新)登録申請者が(更新)登録申請書又はその添付書類に事実
と異なる記載をすることによって,(更新)登録後の当該業者に対する財務
局長等による監督の態様に影響を与え得るような場合を含むと解すべきであ
る。このように解することで,財務局長等は,(更新)登録申請者が提出し
た(更新)登録申請書及びその添付書類の記載内容を一応前提として,そこ
からうかがわれる当該業者の潜在的な問題点の有無を適確に把握し,問題点
がある業者に対しては当該分野に係る監督を重点的に行うことを通じ,限ら
れた人的物的体制をより一層効率的に活用することのできる可能性が高まる
上,(更新)登録申請書及びその添付書類の記載が不十分である場合には,
同項柱書の存在がその補正を財務局長等において当該申請者に促す事実上の
契機ともなると考えられる(同法,法施行令及び法施行規則には,(更新)
登録申請書の補正等に関する手続的な規定は見当たらない。)。もっとも,
虚偽記載が,同時に同項各号列記の(更新)登録拒否事由を隠ぺいする目的
でされた場合(すなわち,「不正の手段」に当たる場合)についても,これ
が同時に(更新)登録拒否事由としての虚偽記載にも当たることは当然であ
る。また,以上述べた同項柱書後段の趣旨からすれば,虚偽記載であるか否
かは,その記載自体から客観的に判断することを要し,かつ,それで足りる
ものと解すべきであり,これを貸借対照表等の計算書類についていえば,
「重要な事項」についての記載が「公正ナル会計慣行」に従って記載すべき
内容と客観的に異なっていれば虚偽記載に該当するものと解すべきである。
(3)本件申請書等における虚偽記載の存否
本件についてこれをみるに,争点2に対する判断において既に説示したと
おり,少なくとも本件貸借対照表及び本件損益計算書は,特約付き融資に係
る受取利息を過大に計上し,このことによって長期借入金を実際よりも少な
く表示している点において事実と異なっており,これはそれだけで大和都市
管財の財産的基礎の欠如を結果として招来するものである。しかも,証拠
(甲55)によれば,大和都市管財の経営陣は,遅くとも平成9年末の時点
において,既に同グループが自転車操業状態に陥っており,累積債務解消の
見込みがないことを知っていたものと認められ,これと争点2で摘示したY
3会計士やY16の供述とを総合すれば,大和都市管財が組織的に行った故
意による抵当証券受取利息の過大計上であることは明らかである。
また,争点2で検討したとおり,本件貸借対照表は,実際には存在しない
ナイスミドルに対する本件貸付金を故意に資産として計上しているところ,
これは既にみたように純資産額に影響を与えるものではないが,その計上に
よって大和都市管財の抵当証券貸付金が約508億円から約563億円へと
約1割,同じく同社の長期借入金が約26億円から約81億円へと3倍近く
それぞれ増加しているから,損益計算書上,本件貸付金に基づく抵当証券受
取利息が今後とも安定的に発生し,同社の収益の改善又は同社に対するキャ
ッシュフローの増加に対する誤った期待を抱かせる可能性,同社(ひいては
Y1)が,独立系であるにもかかわらず,その長期資金の調達能力にも特段
の問題がないという誤った評価を受ける可能性をいずれも否定することがで
きないから,本件申請書等における本件貸付金の計上は,客観的にみて,近
畿財務局長による監督権限の行使の態様に影響を及ぼす事項に係る虚偽記載
に該当すると解される。
さらに,貸倒引当金についても,争点2に対する判断において説示したと
おり,本件貸借対照表の資産の部において少なくとも11億円以上の追加設
定が必要であったことが明らかであるから,客観的にみて,平成9年3月の
時点における「公正ナル会計慣行」に従って計上すべきであった貸倒引当金
の額と比較して本件貸借対照表における貸倒引当金の計上は過少であったと
いうことができる。そして,その額にもかんがみると,大和都市管財による
本件貸借対照表への貸倒引当金の過少計上は,重要な事項についての虚偽記
載に該当すると解される。
したがって,少なくとも上記の3点において,本件申請書等には重要な事
項に関し虚偽記載が含まれていたものと解すべきである。
(4)被告の主張について
これに対し,被告は,(更新)登録申請書等に虚偽記載等があるか否かは,
当該申請書等の記載自体,又は立入検査等によって別途に財務局長等が把握
した事実によって,その存在が明らかといえるか否かによって判断すべきで
ある旨主張する。しかしながら,仮にその趣旨が,(更新)登録申請書等に
虚偽記載等があるか否か自体については財務局長等が(更新)登録時に把握
していた事実のみを基礎資料として判断すべきということであれば,前記の
とおり,(更新)登録申請書等に虚偽記載等があるか否かは,(更新)登録
申請書等の記載を含め,客観的に存在する全事情を基礎として判断するとす
るのが,抵当証券業規制法6条1項柱書の前記のような趣旨からも,「重要
な事項について虚偽の記載があり,若しくは重要な事実の記載が欠けている
ときは,その登録を拒否しなければならない」というその文言にかんがみて
も自然であるから,採用することができない。
また,被告は,同項柱書の主な目的は,虚偽記載による制裁を定めること
によって(更新)登録申請書又はその添付書類の記載の真実性を担保し,も
って(更新)登録の審査の実効性を確保する点にあるとし,「重要な事項」
及び「重要な事実」とは,同項各号所定の(更新)登録拒否要件該当性の判
断に影響を与えるような事項,事実をいうと主張する。確かに,同項柱書の
趣旨が(更新)登録申請書等の記載の真実性や充分性を担保する点にもある
のは既に説示したとおりであるが,その目的が(更新)登録審査の正確性を
担保するにとどまるとの見地から,同項各号所定の(更新)登録拒否要件該
当性の判断に影響が及ばないような事項に係る虚偽記載は同項柱書の登録拒
否事由に当たらないと解するのであれば,あえて独立の登録拒否事由として
同項柱書を定める実益に乏しいこと,虚偽記載による制裁を規定するために
これを登録拒否事由とする必然性はないことは,いずれも既に説示したとお
りである。
(5)原告らの主張について
他方,原告らは,大和都市管財に融資審査体制が確立していなかったこと
が明らかであるにもかかわらず,本件更新登録に際して大和都市管財が提出
した「抵当証券業務に関する組織図」に存在した,同社の「融資部門」に特
約付き融資等を担当する16名の従業員が配置されている旨の記載が虚偽記
載に当たる旨主張する。しかしながら,大和都市管財に融資審査体制が確立
していなかったといういわば規範的な問題と,特約付き融資等を担当する従
業員が配置されていたか否かという事実上の問題とは別個の問題であって,
前者が証明されれば後者が証明されるという関係にはなく,現に,本件全証
拠によっても,事実として大和都市管財の融資部門に従業員が配置されてい
なかったと認めるに足りる証拠はない。
(6)争点4のまとめ
以上によれば,本件申請書等には,①本件貸借対照表及びこれに対応す
る損益計算書において抵当証券受取利息を過大に計上している点,②本件
貸借対照表において本件貸付金を資産の部に,これと同額の長期借入金を負
債の部にそれぞれ計上している点,及び③本件貸借対照表の資産の部にお
いて貸倒引当金を少なくとも11億円以上過少に計上している点で,その添
付書類のうちの重要な事実について虚偽の記載があるというべきである。
5争点5(本件更新登録時において,近畿財務局長は大和都市管財に更新登録
拒否事由があるとしてこれを拒否すべき職務上の注意義務を原告らに負ってい
たか。)について
(1)本件更新登録の抵当証券業規制法6条1項適合性
争点2ないし4で検討したところに照らすと,本件更新登録は,抵当証券
業規制法6条1項7号所定の財産的基礎,及び同項柱書所定の虚偽記載,の
各点で処分要件を欠いていたものというべきこととなる。
しかしながら,既に争点1で説示したとおり,財務局長等による違法な更
新登録が,これによって損害を受けたとする国民との関係で国賠法上も違法
となるのは,財務局長等が個々の国民に対して負う職務上の注意義務に違反
して更新登録を行った場合,すなわち,財務局長等が当該更新登録を行った
ことが,更新登録に係る財務局長等の権限を定めた抵当証券業規制法の趣旨,
目的に照らし,具体的事情の下で著しく合理性を欠くと認められる場合であ
り,具体的には,それまでに監督権限の行使等を通じて収集した資料を勘案
すると,抵当証券業者が破綻する危険性が切迫している合理的な疑いが生じ
ていると容易に判断することができる状況の下において,財務局長等が,抵
当証券業規制法により認められた立入検査等の監督権限を,その合理的裁量
に基づいて当該抵当証券業者に対して適時にかつ適切に行使せず,又は登録
更新の許否の判断に当たり通常必要とされている程度の審査を怠るなどして,
当該人的物的制約の下で容易に認定することのできた更新登録拒否事由の存
在を看過し,漫然と更新登録を行ったような場合に限られる。
もっとも,抵当証券業規制法が虚偽記載を登録拒否事由とする趣旨が,争
点4で説示したような財務局長等による十全な登録審査や監督権限の行使等
を確保するという点にある以上,仮に,虚偽記載のみが登録拒否事由であっ
た場合には,財務局長等がその存在を看過して更新登録を行ったとしても,
そのことが直ちに個々の国民との関係で財務局長等の職務上の注意義務違反
を構成するとは考え難い。なぜなら,(更新)登録申請書等に虚偽記載があ
る場合に(更新)登録を拒否するのは,第一義的には登録審査権限及び監督
権限の十全な行使を担保するためであるとすれば,たとい虚偽記載を理由と
して更新登録拒否がされていれば当該抵当証券業者から抵当証券を購入する
ことなく損害を免れたはずの者があったとしても,当該抵当証券業者に他の
更新登録拒否事由が存在しない以上,損害不発生という結果は抵当証券業規
制法が購入者保護のために予定する制度によるものではないと解されるから
である。これに対し,財産的基礎という登録拒否事由は,最低資本金制度と
並び,抵当証券業者が一定の財産を保有することを確保することを通じて,
直接的に購入者の保護を図ることを目的とした規定であることは明らかであ
り,既に説示したように,基本事項通達が「財産的基礎」の具体的内容とし
て純資産比率100分の100という基準を採用した理由も,割賦販売法に
おける割賦販売業者の拒否要件等として純資産額が資本又は出資の額の10
0分の90に相当する額に満たない法人との定めがあるところ,抵当証券業
者の場合はそのほとんどが元利金の支払保証を行っているほか,1年から5
年の期間経過後に買戻しを行う約定の下に抵当証券の販売を行っている実態
や,それまでに多数の抵当証券購入者が被害に遭ってきた事実にかんがみれ
ば,資本欠損の状態を容認することはできない,という点にあったのである。
そこで,以下においては,本件貸付金の架空性等に係る点は,それが財産
的基礎の判断に影響を与えるか否かという観点から検討していくこととする。
(2)実質的審査権限の有無
ところで,財務局長等が更新登録に係る申請を審査する際に要求される慎
重さの程度については,財務局長等が有する審査権限の範囲とも関連すると
ころ,原告らは,財務局長等は更新登録申請について実質的審査権限を有し,
立入検査や内部告発等によって,抵当証券購入者の利益を損なうおそれのあ
る経営状況を認識したような場合には,財産的基礎の判断において,更新登
録申請書及びその添付書類のみならず,申請者の事業内容,取引態様,事業
主体の組織構成,資産構成等に踏み込み,独自に,又は抵当証券保管機構等
の関係機関に協力させて,更新登録拒否事由に係る事実・資料を収集し,さ
らに,当該申請者に更新登録拒否事由がないことを基礎付ける資料の提出を
求めてこれらを審査すべき義務が生じる旨主張するのに対し,被告は,財務
局長等は原則として更新登録申請書及びその添付書類の記載のみから更新登
録拒否事由の有無を判断すれば足り,例外的に,立入検査等により別途把握
した事実に照らして添付書類等に公正な会計慣行に明らかに反する記載がさ
れていることを認識し,かつ,公権的にその記載を修正することが可能な場
合等にのみ,当該記載を公正な会計慣行に適合する記載に修正した上で更新
登録拒否事由の有無を判断することが可能となるにすぎない旨主張する。
そこで検討するに,既に摘示したとおり,抵当証券業規制法は,営業の自
由を可及的に尊重するとの見地から登録制を採用した上,6条1項で登録拒
否事由を限定的に列挙し,これらの事由がない場合には登録を義務付けてい
る(5条)。このような開業規制は,例えば,免許制を採用する銀行法が,
免許を付与する上で,その申請者が「銀行の業務を健全かつ効率的に遂行す
るに足りる財産的基礎を有し,かつ,申請者の当該業務に係る収支の見込み
が良好であること」(同法4条2号1号)等の基準に適合するかどうかを審
査しなければならないとしているのと比較して,営業を許可するか否かにつ
いての監督官庁の裁量を狭く捉えていることは明らかである。加えて,既に
説示したように,抵当証券業規制法が列挙する登録拒否事由はいずれも外形
的な判断になじむ事項であるから,登録許否の審査において財務局長等が考
慮すべき事項の範囲は自ずから限定され,その用に供すべき資料が登録申請
書及びその添付書類のみで十分であることも多いと考えられる(特に,最初
の登録申請時においてはそのように解するほかないことは既に説示したとお
りである。)。しかしながら,これも既に説示したとおり,外形的判断にな
じむ事項であるからといって,これに当てはめるべき事実の認定自体も申請
書等のみから常に形式的に行い得るとは限らず,争点2でみたとおり,殊に,
会計的事象に係る判断が必要となる財産的基礎(6条1項7号)については,
これを基本事項通達の定めるように会計学上の概念である資本欠損の有無と
いう客観的外形的基準でみるとしても,その認定に困難が伴う場合があるこ
とは同法も当然に予定していると解される。また,抵当証券業規制法の定め
る監督権限(第4章)が,開業規制(第2章)及び行為規制(第3章)の双
方の実効性を担保するためのものであって,その業務又は財産に関する抵当
証券業者への立入検査・報告徴求・資料提出要求・検査・質問等の各権限
(22条1項)が登録審査の充実をもその目的としていること,抵当証券業
者の業務の運営に関し抵当証券の購入者の利益を害する事実があると認めて
発する業務改善命令(23条)の対象が行為規制違反の点に限られないこと
は,いずれも明らかというべきである(立入検査等の権限を定めた同法22
条の規定が同法の登録の章ではなく監督の章に置かれているからといって,
当該権限が登録に関する権限の適切な行使を担保することを目的とするもの
でないと解するのは困難であり,当該規定が登録の章及び業務の章に続いて
監督の章に置かれていること及び「この法律の施行に必要な限度において,
抵当証券業者に対し,その業務若しくは財産に関して報告若しくは資料の提
出を命じ,」という規定の文理からしても,当該権限が抵当証券業者の開業
及び業務に関する同法の規制の実効性を担保することを目的として規定され
たものと解するのが素直というべきである。また,抵当証券業者が財産的基
礎を欠くことにより抵当証券の購入者の利益を害するに至っていると認めら
れるときに業務改善命令をすることができると解されることは既に説示した
とおりであり,証拠(甲206)によれば,関東財務局長は,不動産抵当證
券に対し,抵当証券の買戻しに係る資金の確保のみを命ずる業務改善命令を
発出していたことが認められる。)。
もとより,抵当証券業規制法が財務局長等に付与している監督権限は,例
えば銀行法が子会社への立入検査権限(25条2項)まで規定していること
と比較すれば狭いものであることは明らかであるが,このことは,財務局長
等が,具体的事情の下で登録許否の判断を行うに当たり,上記のように限定
された監督権限すら行使する必要がないと解する根拠とはなり得ず,抵当証
券業規制法にも,その更新登録に当たり,財務局長等は,更新登録申請書及
びその添付書類の記載に加え,監督権限の行使により入手した資料を基礎に
した審査を行いさえすれば,当該監督権限の行使がいかに不十分,不適切な
ものであったとしても,国賠法上免責されるとの結論を正当化するような規
定は見当たらない。かえって,財団法人大蔵財務協会が発行している抵当証
券業規制法の手引き書においては,登録制であっても,適切な行為規制と不
正な行為に対する監督官庁の速やかな対応によって,悪質業者に対する対処
は十分可能であり,購入者保護を図ることができる旨解説されており(甲1
6),抵当証券業の規制等に関する法律案の国会審議においても同様の説明
が政府委員からされていた経緯が存することは,既に摘示したとおりである。
確かに,財務局長等の監督権限の内容が限定されていることから,更新登
録拒否事由の存否に係る判断に必要な資料が収集し切れない場合が生じるこ
とは容易に想定されるが,そのような事案においては,財務局長等は,その
専門的技術的知識に基づき,経験則や論理法則を駆使するなど合理的な手法
を用いて可能な範囲で事実を認定した上,それに基づいて更新登録拒否事由
の有無を判断することが求められるというべきであり,抵当証券業規制法が
抵当証券業者の営業の自由を尊重する観点から開業規制につき登録制を採用
した上でその登録拒否要件を客観的,外形的基準を基調とするものにとどめ,
また,財務局長等の監督権限を限定的に規定しているとしても,そのことか
ら財務局長等の更新登録の許否に当たっての上記のような判断を不要とする
趣旨を読み取ることは困難であり,抵当証券業の規制等に関する法律案の国
会における審議経過からもそのような立法政策を看取することはできない。
現に,証拠(甲135,乙138,146,証人Y20)及び弁論の全趣旨
によれば,平成12年検査において,近畿財務局長は,①現金出納帳及び
預金通帳等の記載からは,大和都市管財が販売した抵当権付き債権一部譲渡
のうち,グループ会社から大和都市管財への利息の支払も,大和都市管財か
らグループ会社への融資の実行も確認することができないものがあること,
②大和都市管財は,その総勘定元帳の記載上,グループ会社への融資やグ
ループ会社からの利息収受について,趣旨が不明である「関係会社」という
勘定を用いて処理しており,仕訳の外形自体も資金の交付があったことを示
すものではなく,同社からも上記仕訳について合理的な説明がなかったこと,
③大和都市管財は,当初は利息は現実に収受し,融資も手形等で行ってい
る旨主張していたものの,その後は主張を二転三転させ,平成13年に至り,
利息に未収のものがある事実を自認した上で未収利息債権と貸付債務との相
殺処理を主張する本件上申書を提出したこと,等の事情を総合して,抵当権
付き債権一部譲渡に係る資金交付を否認し,未収利息についても資産性を否
定することで簿外債務の存在を認定したが,同社が手形貸付等の形式により
融資を行った可能性を否定することのできる客観的な証拠は保持していなか
ったことが認められるところ,大和都市管財が従前の主張と同様,本件上申
書についても撤回する可能性は否定することができず,その場合には,手形
や小切手等による融資の可能性を否定し切れなかったはずであるから,近畿
財務局長が上記判断に至ったのは,大和都市管財が融資の実在性や利息の収
受の存否につき追及を受け,その説明を不自然に変遷させた事実や,同社の
説明が不十分であった事実自体から,その主張が全体として信用することが
できないと合理的に判断したことに負う部分も大きいと解されるのである。
これに対し,被告は,①実質的審査をすべき場合は,免許制・許可制等,
登録制より強度の規制をしている場合である,②抵当証券業規制法の制定
過程において,財産的基礎について実体的にみていくことを予定している旨
の議論がされていない,③支払不能という,資本欠損より実質的判断を要
する概念が規定されている著作権等管理事業法ですら形式的審査で足りると
されている,などとして,抵当証券業規制法の下における更新登録に際して
は財務局長等には実質的審査を行う義務はない旨主張する。
しかしながら,①につき,確かに,通常,開業規制としての免許制は,一
般的に当該業務を行うことを禁止した上で,厳格な免許基準をすべて備えた
者の申請があった場合にのみ,個別にその禁止を解除するという,事前規制
としては強度のものに当たり,開業規制としての登録制はより緩やかな事前
審査要件を採用するのが通例であるといえるが,そのことから,更新登録に
おいても同様に緩やかな審査要件で足りるということには当然にはならない。
すなわち,登録制と免許制との主要な差異は,前者が後者よりも開業規制が
緩やかであるという点よりも,前者が,厳格な開業規制への適合を事前にか
つ一律に求めるのではなく,事後的にその具備がないことが明らかになった
者を業務から排除することで足りるとするなど,いわば規制を後倒しにする
点にあるともいえるのであって,抵当証券業規制法において,当初の登録時
には登録申請書及びその添付書類から形式的に判断するほかなかった財産的
基礎について,更新登録時には当該業者に対する監督処分から得られた情報
等も適宜しんしゃくして審査することができることは,正に登録制のそうし
た作用の表れにほかならないということもできる。加えて,平成10年法律
第107号による改正前の証券取引法28条1項,31条1号が,証券業を
免許制とし,その審査基準の一つとして財産的基礎の具備を挙げていたこと,
その判断に際しては資産の額面のみならずその内容も検討すべきとされてい
たことは被告の主張するとおりであるが,登録制を復活させた前記改正後の
証券取引法28条の4も,登録拒否事由の柱として,証券会社が負担してい
る各種のリスクが現実化した場合でも,これに起因する損失に耐えられるだ
けの流動性のある自己資本の保持を義務付ける趣旨で自己資本規制比率を採
用しており(同条1項4号,52条1項,証券会社の自己資本規制に関する
内閣府令),その内容は,資本金,準備金その他の前記内閣府令で定めるも
のの合計額から固定資産その他の前記内閣府令で定めるものの額の合計額を
控除した額の,保有する有価証券の価格の変動その他の理由により発生し得
る危険に対応する額として前記内閣府令で定めるものの合計額に対する比率
(自己資本規制比率)が120パーセント以上でなければならないとするも
のであって,上記の「保有する有価証券の価格の変動その他の理由により発
生し得る危険に対応する額」とは,市場リスク相当額,取引先リスク相当額
及び基礎的リスク相当額(上記内閣府令4条1項)を指すところ,市場リス
ク相当額を算定するだけでも,証券会社は極めて詳細な計算を行った上,そ
の計算方式を選択するに際してまで金融庁長官の個別の承認(例えば,上記
内閣府令9条所定の金利感応度の分析の承認)が必要とされ,自己資本規制
比率が140パーセントを下回った場合には,営業日ごとに,市場リスク相
当額及び取引先リスク相当額の内訳を記載した書類並びに当日の日計表を添
付した自己資本規制比率に関する届出書を作成し,遅滞なく金融庁長官に提
出しなければならない(証券取引法52条1項,証券会社の自己資本規制に
関する内閣府令19条)など,個別具体的な審査が予定されているのであっ
て,こうした規制をみれば,かえって,登録制であるからといって当然に形
式的審査が予定されているなどとはいい得ないことが明らかである。また,
そもそも,法文上は免許制を採用していても,宅建業法のように,その開業
規制が抵当証券業規制法よりも更に形式的審査になじむと解されるものもあ
る。こうしたことからすると,抵当証券業規制法が開業規制の手段として登
録制を採用しているということだけから,更新登録拒否事由の有無は更新登
録申請書及びその添付書類のみを審査すれば足りるとの結論が導き出せるわ
けではない。そして,既に説示したところから明らかなように,個々の登録
拒否事由に係るその該当性判断の難易や,同法が財務局長等に監督権限を付
与した趣旨等も参しゃくし,具体的事情の下で登録拒否事由の存在を合理的
に疑わせるに足りる事情があり,かつ,その有無についての判断を(更新)
登録申請書及びその添付書類のみで行うことが著しく困難である場合には,
財務局長等には報告徴求命令等の監督権限を適時かつ適切に行使する職務上
の法的義務が生じ得るというべきである。
次に,②についても,財産的基礎の判断に当たっては,前述のとおり,原
則として財務局長等は(更新)登録申請書及びその添付書類を審査すれば足
りると考えられ,それを超えた審査を行う義務が生じるのは例外的な場合に
限定されることからすると,抵当証券業規制法の制定時において財産的基礎
を実体的にみていくことを予定した議論がされていないとしても特段異とす
るには足りず,このことをもって,常に上記の程度を越えた審査が不要であ
ることの証左であるとみることもできない。
さらに,③についても,著作権等管理事業法(平成12年法律第131
号)は,著作権及び著作隣接権を管理する事業を行う者について登録制度を
実施し,管理委託契約約款及び使用料規程の届出及び公示を義務付ける等そ
の業務の適正な運営を確保するための措置を講ずることにより,著作権及び
著作隣接権の管理を委託する者を保護するとともに,著作物,実演,レコー
ド,放送及び有線放送の利用を円滑にし,もって文化の発展に寄与すること
を目的とする(1条)法律であって,抵当証券業規制法とはその目的や規制
対象,監督権限の所在等が全く異なる上,同法における登録を受けることな
く著作権等管理事業を行った者に対する罰則も100万円以下の罰金にすぎ
ない(同法29条1号)など,抵当証券業規制法における登録制度に比して
その違法性が格段に小さいと解されることに照らすと,著作権等管理事業法
において登録拒否事由である財産的基礎(同法6条1項6号,同法施行規則
5条)の有無の判断は常に形式的審査によれば足りると解釈されているとし
ても(もっとも,これを裏付けるべき客観的な証拠はない。),抵当証券業
規制法における登録拒否事由の有無に係る審査基準を,これと同一に解すべ
き必然性はない。
他方,原告らは,更新登録拒否事由の存否が不明である場合には,その存
在を認定すべきである旨主張する。しかしながら,抵当証券業規制法は,も
ともと規制がなく自由に行われていた抵当証券業について開業規制を及ぼす
ために導入され,営業の自由を可及的に尊重すべく登録制が採用されたとい
う経緯や,「その登録を拒否する場合を除くほか,次に掲げる事項を抵当証
券業者登録簿に登録しなければならない。」(5条柱書)という法文上の文
言に照らし,登録拒否事由が存在することの立証責任自体は,登録申請者に
対する関係では,財務局長等にあると解するのが自然である。
したがって,財務局長等は,更新登録申請書及びその添付書類の記載,並
びに立入検査等によって別途把握した事実に照らし,当該抵当証券業者の更
新登録を拒否すべきことが明らかである場合はもちろん,そうでない場合に
も,財務局長等がそれまでに監督権限の行使等を通じて収集した資料に基づ
き,当該抵当証券業者が破綻する危険性が切迫している徴候を把握した場合
には,抵当証券業規制法の下で認められた立入検査等の監督権限を,その合
理的裁量に基づいて当該抵当証券業者に対して適時にかつ適切に行使し,必
要に応じてその専門的知見に基づく合理的推認等の手法をも用いて事実を認
定した上,通常必要とされる程度の慎重さをもって更新登録の可否を判断す
べき職務上の注意義務を,当該抵当証券業者からその更新登録後に抵当証券
を購入した個々の国民に対して負っていると解されるのであって,財務局長
等がその人的物的制約の下で適時にかつ適切に監督権限を行使しさえすれば,
更新登録拒否事由の存在を容易に認定することができたにもかかわらず,漫
然と更新登録を認めた場合には,その権限行使の態様が著しく合理性を欠く
ものと判断され,国賠法上も違法の評価を受けるというべきである。
そして,争点1で概観したような登録更新に係る財務局長等の規制権限を
定めた抵当証券業規制法の趣旨,目的及びその権限の性質等に照らすと,財
務局長等が看過した更新登録拒否事由が抵当証券業規制法6条1項7号所定
の財産的基礎の欠如である場合には,財務局長等による更新登録が著しく合
理性を欠くか否かは,①財務局長等が更新登録に先立って知り,又は監督
権限の適時かつ適切な行使によれば容易に知り得た情報に照らして,当該抵
当業者が破綻する危険性がどの程度切迫していたといえるか,②財務局長
等による監督権限の行使に係る方法・時期等の選択における合理性の有無及
びその逸脱の程度,③更新登録によって惹起された損害の規模及び性質
(特に,被害者においてその回避を図ることを合理的に期待することができ
たか否か),並びに④財務局長等による監督権限等の適切な行使と更新登
録拒否事由の存在の認識可能性を,更新登録の前後の経緯等に照らして総合
的に判断して決すべきものと解される。
(3)本件更新登録前後の事実関係
そこで,本件更新登録がされた前後ころの具体的事情について検討するこ
ととする。掲記の証拠等によれば,本件更新登録前後の事実関係は以下のと
おりと認めることができる(既に認定済みのものも含む。)。なお,〔〕内
は,本件更新登録時までに被告が把握し,又は当然容易に把握し得たとまで
は証拠上認められない事実関係である。
ア平成6年検査まで
(ア)大和都市管財の前身の発足
Y1は,「新都市計画株式会社」の代表取締役として不動産の仲介・
販売業を営んでいた〔が,経営規模を拡大すべく,高校の後輩を通じて
知り合った行政書士で,不動産全般について知識が豊富なため知恵袋と
していたY6に資金調達の方法を相談したところ,同人から,他人に資
金を貸し付けて,他人の不動産に抵当権を設定すれば,それに基づいて
抵当証券の発行を受け,これを販売して資金を集めることができるとの
助言を受けた。そこで,Y1は,昭和50年ころからY1の下で働いて
いたY8に対し抵当証券について研究するよう命じ,同人は,大阪法務
局や司法書士の下を訪れ,その発行手続について教示を受けるなどし
た〕。Y1は,昭和60年2月には前記会社の商号を「大和都市抵当証
券株式会社」へと変更し,抵当証券業に乗り出すことを決めた。【甲4
8,49,54】
(イ)Y1による抵当証券業の開始
大和都市抵当証券株式会社は,昭和60年3月15日付けで,自らを
債権者,大二産業株式会社を債務者とした約2億円の金銭消費貸借契約
書を作成した上,これを被担保債権としてY32の所有する奈良県生駒
市a町所在の山林に抵当権を設定し,同年4月15日に総額2億244
0万円の抵当証券の発行を受け,これを販売した。〔しかしながら,大
二産業株式会社は金融会社として新都市計画株式会社が物件を押さえる
ための手付金数千万円を貸し付けていた債権者であり,Y32も同社の
取引先であった。Y1は,融資金を返済するためであるなどとして取引
先の協力を取り付けた上,自己資金を用いることなく実体のない抵当証
券の発行を受け,これをすべて販売して資金を調達し,その償還債務を
負担することとなったものの,当初からの計画どおり,大二産業株式会
社に対し,旧商号時代の融資金を返済することができたのである。〕
【甲49,54】
(ウ)グループ会社に対する特約付き融資の開始
Y1は,昭和60年7月6日付けで,大和都市抵当証券株式会社が,
自らが実権を握っていた「総合都市開発株式会社」に対して金銭を貸し
付けたとして,同人と,これも同人が統括していた「大和フード株式会
社」が共有していた四條畷市山林に抵当権を設定し,同年8月1日に総
額1億5420万円の抵当証券の発行を受けた。〔しかしながら,当時
既に総合都市開発株式会社は不動産売買業をほとんど行っていない休眠
会社となっており,資金需要はなかった。〕Y1は,同年9月,大和フ
ード株式会社をベストライフ通商へと商号変更した上,Y6をその代表
取締役に就任させ,同社が所有する物件を担保とした抵当証券の発行を
受けて販売することを繰り返したが,四条畷市山林にしても,同年12
月に1590万円の抵当証券の発行を受けた神戸市a区b町cの土地に
しても,大和都市管財グループが破綻する平成13年まで全く運用され
ずにそのままの状態で放置されて〔おり,毎年Y8が草刈りに出向い
て〕いた。また,サンクス外は,店舗付きマンションの1階部分にあっ
たスーパーマーケット(同名のコンビニエンス・ストアのフランチャイ
ズ店ではない。)を買い取って営業を継続していたもので〔その売上げ
は伸びず〕,本社ビルは,大和都市管財及びナイスミドルの本社事務所
等として利用していただけで,直接収益を上げるための物件ではなかっ
た。【甲49,54,63,乙1の5】
(エ)カラ融資の横行と抵当証券業規制法制定の機運の高まり
昭和61年10月から昭和62年3月にかけて,債権債務がないのに
あったようにみせかけて金銭消費貸借証書を作成し,抵当証券の交付を
受けた(カラ融資)という公正証書原本等不実記載や,抵当権の裏付け
のないモーゲージ証書を販売した(カラ売り)という詐欺等の被疑事実
で警察の摘発を受ける抵当証券業者(純金ペーパー商法で摘発された豊
田商事事件の残党が多いとされている。)が続出するようになり,抵当
証券に対する法規制を行う必要性が広く認識されるようになった。なお,
抵当証券業規制法施行以前にみられた悪質な抵当証券業者の行為として,
カラ売り,二重売りと並んでカラ融資があり,その典型的な手法は,ダ
ミーの別会社を作り,融資を実行した外形を整えるというものであった
ことは,平成3年5月に日本経済新聞社から発行された「抵当証券の実
際」と題する書籍(その著者であるY33は,大蔵省理財局次長等を経
て,日本抵当証券株式会社の社長や会長を歴任した人物であり,同人は,
抵当証券業規制法の制定作業にも主体的に関与していた。)の中でも紹
介されていた。こうした中で,抵当証券の購入者保護策等を検討してき
た大蔵・法務両省の抵当証券研究会は,昭和62年6月11日に「抵当
証券取引について」と題する報告書を発表し,抵当証券業を規制するた
めの法律を早期に制定するよう提言した。【甲22,34,205,証
人Y4】
(オ)ナイスミドルの設立
〔Y1は,昭和62年ころ,知人から,ゴルフ場を造成してゴルフ会員
権を販売し,150億円前後の資金を得たが,ゴルフ会員権は,その時
価が上がる限り,償還期日に預託金の返還を要求する会員はいないため,
これを返還する必要が事実上なくなるという話を聞き,自らもゴルフ場
の経営に参画しようと思い立った。そこで,〕Y1は,昭和62年7月,
大和都市抵当証券株式会社の商号を大和都市管財に変更するとともに,
実際にゴルフ場の経営を行う会社として,昭和62年8月にナイスミド
ルを設立した。Y1は,同社の代表取締役に長男であるY2(昭和37
年3月に出生し,昭和60年3月に関西大学工学部を卒業し,一時アル
バイトなどをしていたが,同年5月に大和都市抵当証券株式会社に就職
した。〔就職時の月収は約20万円,ナイスミドルの代表取締役に就任
したころの月収は約30万円で,後者の原資は大和都市管財からの融資
金であった。〕),監査役にY2の妻Y34を昭和63年1月から就任
させた。【甲49,116,乙1の1,1の2】
(カ)a町土地の購入
Y1は,昭和62年9月,かつて雇い主であったY29から紹介を受
け,1万8700坪の面積を有する平坦な雑種地であるa町土地を,個
人経営の産業廃棄物業者である松谷建材から〔約8億円で〕ベストライ
フ通商に購入させた。〔Y1は,a町土地を購入するに当たり,6ホー
ルのミニゴルフ場にすることを念頭に置いていたが,購入後にミニゴル
フ場の建設費用を建設業者に見積もらせたところ,約10億円を要する
とのことであったため,その建設を断念した。〕Y1は,a町土地の購
入に先立ち,当該物件につき,その地目が山林であるにもかかわらず,
境内地及び墓地に転換可能な熟成度の高い墓地見込地としての不動産鑑
定評価を依頼し,60億0300万円(価格時点:同年8月26日)と
の評価額を得て,これを基に,大和都市管財からベストライフ通商に対
して同年11月2日に弁済期を昭和72年(平成9年)11月2日,利
率を年12パーセントとして20億円を貸し付けたとしてa町土地に抵
当権を設定し,昭和62年12月10日に同額の抵当証券の発行を受け,
さらに,昭和63年2月17日にも弁済期を昭和73年(平成10年)
2月17日,利率を年12パーセントとして10億円を貸し付けたとし
て,同様に昭和63年3月18日に同額の抵当証券の発行を受けた。も
っとも,〔大和都市管財グループが破綻する平成13年まで,〕a町土
地について墓地開発の許可が下りることはなく,ほとんど利用されない
まま放置されていた。近畿財務局は,遅くとも平成7年ころまでに,a
町土地を含む大和都市管財の複数の担保物件が未利用の状態にあること
を実地調査によって把握し,本省金融会社室にも報告していた。【甲4
9,53,54,65,106,証人Y4】
(キ)大和都市管財の抵当証券業者登録簿への登録
大和都市管財は,昭和63年11月1日の抵当証券業規制法の施行に
伴い,同年12月21日,近畿財務局長によって抵当証券業者登録簿に
登録された。
(ク)ゴルフ場建設への着手
Y1は,a町土地を担保に発行した抵当証券で集めた資金等を元手に
平成元年ころからゴルフ場建設を希望していた市町村を探し,岡山県英
田郡a町をゴルフ場建設予定地と定めてその用地取得に乗り出し,〔平
成2年までに約20億円を費やし,〕ナイスミドル名義でその買収を終
えた。また,同人は,同じころ,ベストライフ通商名義によりa区土地
を〔約20億円で〕買収するとともに,「杜の都株式会社」を設立し
〔て,同土地に係るゴルフ場開発の許可申請業者に擬し〕た。〔しかし
ながら,a区土地については,緑地保全地域に指定されていたために宮
城県からゴルフ場の開発許可が下りず,Y1は保守系の複数の仙台市議
会議員に働きかけを依頼したものの,結局状況は打開できなかった。〕
【甲48,50,53】
(ケ)信用照会電話の多発
抵当証券保管機構に対し,平成3年10月以降,大和都市管財の信用
状況についての照会の電話が多発するようになった。【甲81の2】
(コ)ナイス大原カントリークラブのオープン
ナイスミドルは,ナイス大原カントリークラブのオープンに先立って
そのゴルフ会員権を販売し,平成3年6月期までに70億円余りの預託
金を集めたが,それ以降は,バブル崩壊の影響でゴルフ会員権はほとん
ど売れない状態となった。〔そのため,ナイスミドルではナイス大原カ
ントリークラブの造成費用の調達に苦慮するようになった。〕しかしな
がら,抵当証券法施行令(平成3年政令第340号)が平成4年4月1
日から施行され,その附則により,郡部の不動産を担保にして抵当証券
を交付申請することも可能になったことから,大和都市管財は,〔ナイ
スミドルに資金を融資した外形をとり,〕工事(平成6年6月までに造
成費用として約100億円以上を要した。)の進捗状況に応じて,大原
ゴルフ場を担保に,平成4年11月16日付けで18億円,平成5年2
月19日付けで24億8000万円,同年6月17日付けで9億円(利
率はいずれも年10パーセント),同年11月4日付けで19億400
0万円(利率は年9パーセント)の各抵当証券の発行を受け,順次これ
を販売した(なお,上記ゴルフ場については,平成5年10月1日付け
の不動産鑑定評価書で,101億9500万円との評価(価格時点:同
年9月30日)がされていた。)。その結果,ナイスミドルは,平成6
年6月期までに貸借対照表上において80億円以上の長期借入金を負担
するに至ったが,抵当証券の販売を通じて獲得した資金を投入してナイ
ス大原カントリークラブの造成工事を続け,平成6年4月に仮オープン,
同年7月に正式オープンにこぎ着けた。【甲50,53,54,57,
乙88の11】
(サ)a町土地に係る評価書の不備の指摘
近畿財務局は,平成4年度に実施した大和都市管財に対する立入検査
(検査基準日:平成4年12月3日。以下「平成4年検査」という。)
の結果,a町土地に係る不動産鑑定評価書は,適正価格把握参考のため
の墓地見込地としての評価(墓地とすることについて行政の許可を得た
ことを前提とする評価)であり,抵当証券交付申請書添付のための鑑定
評価としては到底約60億円には及ばないとみられるとして,平成5年
初めころ,当該評価書の不備を指摘した。この指摘を受けて,大和都市
管財が宅地見込地(ゴルフ練習場敷地)としての適正価格について上記
物件の再鑑定を依頼した結果,平成5年12月20日,21億円との評
価(価格時点:同月17日)が出された。これを受けて,抵当証券保管
機構と近畿財務局,大蔵本省とが協議し,大和都市管財によるa町土地
を担保とするモーゲージ証書の販売総額が21億円の8割に当たる16
億8000万円を超える場合には,抵当証券保管機構が保管証の交付を
拒否するとともに,大蔵省側にもその旨を連絡するとの手順が確認され
た。近畿財務局も,上記金額を超える部分のモーゲージ証書の販売中止
を大和都市管財に指導した。Y1は,近畿財務局の担当者に掛け合い,
a区土地について乗換え用の抵当証券を発行すればよい旨の言質を得て,
上記土地(一部は地上権)の評価(価格時点:同年3月18日)を22
億1353万円とする平成5年3月23日付け不動産鑑定評価書と,同
年4月23日付けの大和都市管財からベストライフ通商に対する弁済期
を平成15年4月23日,利率を年10パーセントとする15億400
0万円の金銭消費貸借抵当権設定契約書とを作成した上,平成5年5月
27日付けで同額の抵当証券の発行を受けて販売した。〔このころ,大
和都市管財からベストライフ通商に上記金額が移動した事実はなかっ
た。〕なお,a区土地は虫食い状態となっており,〔大和都市管財グル
ープには更に用地買収を進める資金的余裕もなかったことから,〕結局
そのまま放置された。【甲5,50,58,90,93の1,乙17,
88の1,88の6,141,144,証人Y24,同Y17,弁論の
全趣旨】
(シ)北海道函館観光等の買収
大和都市管財グループは,平成5年9月,〔Y16の実兄の仲介
で,〕ナイスミドルを通じて,京都東山観光株式会社から,函館市内の
トモエカントリークラブ(函館ゴルフ場。後にナイス函館カントリーク
ラブと改称した。)を所有する北海道函館観光と,釧路市郊外にa町ゴ
ルフ場用地(平成3年2月5日付けで北海道知事による特定開発行為
(ゴルフ場,スキー場,テニス場の建設及び宅地の造成)の許可が下り
ていた。)を所有する北海道泊別観光とを各法人ごと〔計約27億円
で〕買収した(北海道函館観光は,平成6年1月にナイス函館へと商号
を変更した。)。買収の時点で,ナイス函館は65億円余りの預託金を
会員から集めており,第5期(平成5年8月期)の決算報告書において,
既に当期損失約9億円,債務超過額約25億8000万円という経営状
態であった。しかるところ,大和都市管財は,函館ゴルフ場について,
その評価額(価格時点:平成5年9月15日)を101億4820万円
とする不動産鑑定評価を得た上,同年9月27日付けで北海道函館観光
に対し,弁済期を平成15年9月27日,利率を年10パーセントとし
て70億円を貸し付ける旨の金銭消費貸借抵当権設定契約書を作成し,
これを基に,函館ゴルフ場を担保として,平成5年10月18日付けで
同額の抵当証券の発行を受け,さらに,再鑑定評価書を得た上で,平成
6年1月10日付けで同社に対し,弁済期を平成16年1月10日,利
率を年9パーセントとして10億円を貸し付ける旨の金銭消費貸借抵当
権設定契約書を作成し,同様に平成6年2月1日付けで同額の抵当証券
の発行を受けてそれぞれ販売した。〔抵当証券の販売によって得られた
資金は,Y1の指示により,適宜資金を必要とするグループ会社へと回
されていたが,帳簿上の整合性を保つため,大和都市管財から北海道函
館観光へ,同社からベストライフ通商やナイスミドルへと転貸された形
式を装っていた。〕また,大和都市管財は,北海道泊別観光が保有する
a町ゴルフ場用地につき,その評価額(価格時点:平成5年12月16
日)を4億8010万円とする不動産鑑定評価(ゴルフ場予定地である
ことを付加価値として評価に見込んだもの。)を得た上,同年12月2
4日付けで,同社に対し,弁済期を平成15年12月24日,利率を年
9パーセントとして3億8000万円を貸し付ける旨の金銭消費貸借抵
当権設定契約書を作成して同額の抵当証券の交付申請をしたが,釧路地
方法務局から,開発許可を得た事実を評価の要素とすることはできない
旨告げられたため,抵当証券の申請額を1億9000万円に減額するこ
とを余儀なくされ,平成6年3月2日釧路地方法務局受付第4849号
をもって錯誤を原因とする債権額1億9000万円の更正登記を経た上,
同月28日,これと同額の抵当証券の発行を受けて販売した。〔Y1が
北海道函館観光を買収したのは,手元資金から買収額約27億円さえ支
払えば,預託金の償還時期まではまだ間があり,償還時期が来ても金額
にして3分の1程度しか返還を求められないであろうと予測し,その間
に函館ゴルフ場を担保に抵当証券を発行して集めた資金を消費者金融事
業で運用して収益を上げることを目論んだからであったが,金融事業へ
の進出は準備不足のために結局実現しなかった。〕【甲48,50,5
2,58,71,90の1,乙1の3,88の14,88の19】
(ス)手形商品の販売開始
〔Y1は,平成6年夏ころ,Y29から,いずれも国際金融ブローカー
を自称する「Y30」「Y31」と名乗る人物の紹介を受け,同人らよ
り,バンクオブアメリカを窓口として譲渡性預金やファンドを購入する
ことで,年20ないし40パーセントの利益を上げることができるとい
う投資案件の説明を受けた。Y1は,Y29やY30を大和都市管財の
会議室に呼び寄せるとともに,Y2,Y8,Y6,Y3会計士らを集め
て意見を求めた。Y3会計士は,そんなうまい話があるはずがないなど
と反対したが,他の幹部らが特に異を唱えなかったため,Y1はこの投
資案件を実行に移すこととした。上記投資案件用の資金を数十億円単位
で調達するため,〕Y1は,Y29を通じて知り合ったY7弁護士の助
言を受けて,ゴルフ場の修理やホテルの建設など外注需要が発生するナ
イスミドルを振出人とする約束手形を大和都市管財が裏書保証し,利息
分(当初は年利8パーセント)を割引いた形式で顧客に販売するという
手形商品を考案し,同年8月からその販売を開始した。手形商品は,既
に大和都市管財からモーゲージ証書を購入している顧客に対して乗換え
用商品として売り込まれ,中途解約されたモーゲージ証書は,更に別の
顧客へと販売された(抵当証券保管機構は,同月26日には約25億円
分に相当する大和都市管財発行に係るモーゲージ証書の中途解約申出を
受けた。)。ナイスミドルは,手形商品の販売によって得た資金を3回
(平成6年8月,同年9月及び同年11月)に分けて各25億円ずつ,
合計75億円をバンクオブアメリカの同社名義の口座に米ドル建てで送
金した。なお,大蔵省国際金融局金融業務課は,平成8年10月3日,
大和都市管財がナイスミドルの名義でアメリカ国内において7500万
米ドル(1米ドル115円換算で86億2500万円)の預金をする旨
申請している事実を把握したとして,これを本省金融会社室に連絡した。
【甲5,12の4,48,52,58,90の1,106,153,乙
141,証人Y24,同Y4】
(セ)特約付き融資の急増
大和都市管財は,平成5年4月から平成6年6月までの間に,上記記
載のものに加え,以下の物件についてそれぞれ抵当証券の発行を受けて
販売した(債権金額の単位は百万円)。
証券作成日債務者名債権金額年利担保物件概要
5年4月15日ベストライフ98010新高駐車場
5年7月7日同上184010大阪駅前第1ビル
5年8月27日同上96010a町駐車場
6年1月13日リステム化学12409a区共同住宅
6年4月28日同上6408上野西共同住宅
同同上5208寺内共同住宅
6年5月11日同上8208西宮市共同住宅
6年5月30日ベストライフ1808大阪味わいビル敷地
6年6月1日ナイスミドル2908広尾ガーデンヒルズ
うち,a町駐車場は大和都市管財グループの駐車場として使用されて
いたもの,広尾ガーデンヒルズは同グループで福利厚生施設として使用
されていたものであって,いずれも収益を期待することができる物件で
はなかった。【甲8,81の4,81の6,乙16】
(ソ)平成6年検査の端緒
近畿財務局は,抵当証券業界全体が伸び悩む中で,大和都市管財が,
上記のように高金利による抵当証券の販売残高を急増させている上(抵
当証券保管機構が記録していた同社に対する抵当証券保管証の発行残高
は,平成5年3月には89億3500万円であったのに対し,平成6年
3月には248億7900万円に達していた。),平成6年8月11日,
抵当証券業協会から,大和都市管財が詐欺まがいの商品を販売して大口
のモーゲージ証書購入者に乗換えを勧めている旨の情報を入手したこと
から,同年10ないし12月に実施を予定していた検査日程を前倒しし
て,同年9月9日から同社の立入検査に着手した。【甲90の1,乙1
2,22,141,証人Y24】
イ平成6年検査
(ア)平成6年検査の着眼点
近畿財務局は,平成6年検査の着眼点を,①モーゲージ証書の中途
解約手続等の検証を通じた手形商品の実態把握,②大和都市管財の資
金繰り状況の把握,③融資先であるグループ会社を含めた財務状況の
把握,④前回検査(検査基準日:平成4年12月3日)における指摘
事項の改善状況の把握,に置いた(他方,それ以前の検査は,行為規制
や融資審査体制に関するものが中心であり,融資先の経営状況までは特
段関心が払われていなかった。)。【甲5,乙141,証人Y24】
(イ)平成6年検査の着手
Y24検査官外4名は,平成6年9月9日,大和都市管財に対する立
入検査を開始した(Y24検査官を含む3名が本店に,2名が東京支店
に赴いた。)。Y24検査官らは,同日冒頭より現物調査を実施し,通
常の手順に従い,検査基準日(立入検査開始日の前日であるため,平成
6年検査においては同月8日。以下同じ。)における大和都市管財の資
産と負債の帳簿上の金額を確認するとともに,大和都市管財の本店及び
東京支店における現物(小口現金,小切手等)の帳簿残高と実際の残高
とを照合して確認しようとした。しかしながら,大和都市管財側は,同
社では税理士が定期的に伝票から帳簿を整理しており,現金の入出金に
ついては日次では管理しておらず,正確な残高を証明することができる
資料もない旨の説明があり,実際に,伝票が積み重なっている状況が現
認された。そのため,Y24検査官らは,手元の小口現金残高について
の確認は行ったものの,帳簿残高との照合までは行うことができなかっ
た。もっとも,Y24検査官らは,現物検査において,金庫から手形商
品のスキーム図を発見して入手したほか,登録標識が店内に掲示されて
いること(抵当証券業規制法12条1項によれば,抵当証券業者は,こ
れを「公衆の見やすい場所」に掲示しなければならない。),パンフレ
ットに同封されている「抵当証券の御案内」と題する書面に,「法務局
による厳正な鑑定評価に基づいた確実な担保」との不適切な表現がある
こと(同法14条,法施行規則10条6号によれば,抵当証券業者は,
その行う抵当証券業に係る広告に際し,抵当証券に記載された抵当権の
目的等に関する事項について著しく人を誤認させるような表示をしては
ならない。),などを把握した。Y24検査官らが立入検査で大和都市
管財の本店に入ったのは9月9日(現物検査),13日及び14日(一
般検査)の3日間であり,その後は確保した資料の分析,同社役員から
のヒアリング,関係資料の追加徴求等により検証を進めた。【甲12の
1,乙141,145,証人Y24】
(ウ)Y1による抗議
Y1は,手形商品についてY7弁護士から話を聞こうとしたY24検
査官に対して,「何の権限があって弁護士に話を聞くんだ。」と電話で
抗議したほか,東京支店で行った現物検査についても,女性社員の机を
開けたなどとして抗議を行った。【乙141,証人Y24】
(エ)手形商品についての検査
Y24検査官らは,平成6年検査の着眼点の1つである手形商品につ
いて,Y1からヒアリングを行うとともに,その契約関係書類のひな形
を入手した。Y1は,手形商品について説明した上,手形商品は,弁護
士等専門家の意見を踏まえて検討した結果,出資法には抵触しないと判
断している旨主張した。近畿財務局では,大和都市管財が手形商品の購
入者に元本が保証されているかのように思わせていたことから,出資法
2条(預り金の禁止)に違反する疑いがあるとの認識を深め,当時の金
融第3課Y35課長(以下「Y35課長」という。)が手形商品に関す
るヒアリング結果をファックス送信して本省金融会社室に意見照会した
ところ,同室でも,手形商品が出資法2条に違反するとの見解であった。
もっとも,出資法に関する大蔵省の権限に関しては,大蔵省設置法4条
に「預り金となるべき金銭の受入れについての情報の収集に関するこ
と」と規定されているのみであり,現に行われている出資法違反の疑い
のある個別,具体的事実の解明あるいは取締りは捜査当局の所掌と解さ
れていたことなどから,Y24検査官は,平成6年10月11日,大和
都市管財に対し,手形商品は出資法に違反する疑いがある旨の注意喚起
を行った。Y24検査官は,同月21日にもY1,Y7弁護士等に対す
るヒアリングを行って同様の注意喚起をしたところ,Y7弁護士は,手
形商品の合法性を主張し,疑いというだけで規制するのは妥当ではない
などと反論した(同日のヒアリング内容について近畿財務局が作成した
連絡記録票は,後に朝日新聞の記者が入手するところとなった。)。結
局,大和都市管財が手形商品の販売を直ちに中止することはなく,抵当
証券保管機構は,同年12月7日,大和都市管財の営業員から勧められ
て抵当証券から手形商品に全額乗り換えたものの心配になったという顧
客からの相談の電話を受けたほか,平成7年2月13日には,同社のモ
ーゲージ証書に関し約9億円の中途解約の申出を受け,「不自然な大口
の中途解約は合計で100億円を突破した。」と業者状況表に記録して
いた。同年3月末における大和都市管財の貸借対照表上の受取手形割引
高(簿外保証債務)は,約125億円に達していた。
本省金融会社室は,同年4月7日,法務省刑事局に対し,近畿財務局
は,同月13日,大阪地検に対し,それぞれ手形商品についての情報提
供を行い,出資法違反か否かの検討を依頼した(大阪地検は,アメリカ
司法当局に対し,大和都市管財が手形商品の担保としている預金債権の
有無について照会を行い,その結果を踏まえ,平成8年4月18日,大
蔵省側に対し,「バンクオブアメリカに平成7年6月末現在で約80億
円の残高があったことが確認された。被害届の出ていない段階で詐欺を
被疑事実として直ちに捜査に入ることは考えていない。」旨の回答を行
った。)。
なお,Y24検査官らは,手形商品に関連して,モーゲージ証書の解
約手続を検証したが,乗換えに際して解約手数料を徴求するなどの購入
者に不利益を与える行為を大和都市管財が行っていた事実は確認するこ
とができなかった。
【甲5,7,12の5,90の1,153,171の2,乙3の5,4,
12,22,141,証人Y24】
(オ)資金繰りについての検査
Y24検査官らは,平成6年検査の着眼点の1つである大和都市管財
の資金繰りを検証するため,手元の小口現金・伝票・預金通帳と総勘定
元帳の記載とを照合する作業を行ったものの,前記のとおり,現金の入
出金を帳簿残高と照合・確認することはできなかった。そして,当時,
大和都市管財においては,前記のようなグループ6社からの抵当証券受
取利息に加え,後述するY1個人からの借入れ,グループ会社に対する
特約付き融資の多くは預金勘