弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     被上告人B1生コンクリート株式会社に対する本件上告を棄却し、被上
告人B2に対する本件上告を却下する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人塩塚節夫の上告理由第一について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当とし
て是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審
の専権に属する事実認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
 同第二について
 原審が適法に確定したところによれば、(1) 上告人と被上告人B2(以下「被
上告人B2」という。)は、昭和五五年八月五日午後三時ころ、被上告会社の生コ
ンを運搬する作業に従事中、被上告人B2が上告人に対し「おいなんで積まんとや」
といつたのに対し上告人が「無線の入つて積むなと言われとつとさ」と応答したこ
とから右問答が繰り返されるという些細なことから口論となり、被上告人B2が上
告人に対し暴力を加えるような素振りをしたので上告人は「わが用があるんやつた
ら、唐八景でもどこでもゆかんか」といつたところ、被上告人B2は、上告人が力
による解決を挑んだものと思い込み、これに応ずべくその日の勤務を終えて帰宅す
る上告人の後を追つたが、途中で上告人を見失つた、(2) 被上告人B2は、翌八
月六日午前八時ころ、被上告会社の更衣室において上告人を見るや「わいどこに逃
げとつた、駅で待つとつたのに」といい、これに対し、上告人が「わいは大田尾に
行つたとぞ、度胸もないくせに」と答えたところ、被上告人B2は激昂して上告人
に対して原判示の暴行を加えた、というのである。そして原審は、右事実関係に基
づき、本件暴行前日の被上告人B2及び上告人両名の口論が、被上告会社の事業の
執行行為を契機として発生したものであり、本件暴行直前における被上告人B2と
上告人との言葉のやりとりも前日の口論にかかわり合いがあると認められるが、本
件暴行直前の口論の内容は被上告会社の業務にかかわることではなく、前日の喧嘩
闘争が回避されたことにつき互に度胸がない趣旨のことをいつて嘲笑し合い、その
ため被上告人B2が上告人の言辞に激昂して本件暴行に及んだものであり、また、
本件暴行に至つた経緯は、前日の口論が直ちに喧嘩闘争へ移行することなく、当日
いつたん終わつており、翌日になされた被上告人B2の本件暴行は、必ずしも前日
の事業執行行為に端を発した口論から自然の勢いで発展したものではなく、しかも
右前日の口論と本件暴行とは時間的にも場所的にもかなりのへだたりがあることな
どの事情が窺われ、これらの事情にかんがみれば、被上告人B2の上告人に対する
本件暴行は被上告会社の事業の執行と密接な関連を有するものと認めることはでき
ず、被上告人B2の本件暴行は同被上告人が被上告会社の事業の執行につきなされ
たものということはできない、として被上告会社の民法七一五条一項に基づく使用
者責任を否定したものである。原審の右認定判断は、前記事実関係に照らし正当と
して是認することができ、所論引用の判例は本件と事案を異にし、本件に適切では
ない。論旨は、採用することができない。
 なお、右上告理由書には、原判決中の上告人の被上告人B2に対する請求に関す
る部分に対する不服理由と認められるものの記載がなく、右部分については、結局、
上告人は上告の理由を記載した書面を提出しないものというべきである。
 よつて、原判決中、上告人の、被上告会社に対する請求に関する部分についての
本件上告を棄却し、被上告人B2に対する請求に関する部分についての本件上告を
却下することとし、民訴法四〇一条、三九九条ノ三、三九九条、三九八条、九五条、
八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    中   村   治   朗
            裁判官    藤   崎   萬   里
            裁判官    谷   口   正   孝
            裁判官    和   田   誠   一

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